特許異議申立
2025-700548
電気炉への還元鉄装入方法
- 審判番号
- 2025-700548
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-208485
- 登録番号
- 7588942
- 請求日
- 2025年05月23日
- 審決日
- 2026年05月22日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社神戸製鋼所
- 【権利者代理人】安田岡本弁理士法人
- 【異議申立人】国分 信宏
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 富永 泰規
- 審判官 石川 雄太郎
- 分類
- P1651.113-YAA(C21C) / P1651.121-YAA(C21C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7588942号発明「電気炉への還元鉄装入方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7588942号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
特許第7588942号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7588942号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願(特願2021-208485号。以下「本願」という。)は、令和 3年12月22日の出願であって、令和 6年11月15日にその特許権の設定登録がされ、同年11月25日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 7年 5月23日に、その請求項1(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である国分 信宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当合議体は、令和 7年 9月29日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和 7年11月27日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当合議体は、令和 8年 1月 9日付けで申立人に訂正請求があった旨の通知を行ったが、期間内に申立人から意見書の提出はされなかった。
第2 訂正の請求について
1 請求の趣旨及び請求の理由(訂正の内容)
令和 7年11月27日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を前記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。また、本件訂正請求は、特許権全体に対して請求されたものである。
(1) 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記電気炉は、上部が開口された本体を有し、内部には電極が上方から挿入されており、」と記載されているのを、「前記電気炉は、上部が開口された本体を有し、内部には平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の電極が上方から挿入されており、」に訂正する。
(2) 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記還元鉄の比装入速度sとした場合に、前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する」と記載されているのを、「前記還元鉄の比装入速度sとし、前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率とした場合に、前記固相率を0.7未満とするために、前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に対して、「平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の」との記載を追加するものである。
イ この訂正は、訂正前の請求項1における「電極」について、その配置と本数について、「平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の電極」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「訂正前明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は強調のため合議体で付した。)。
(ア) 「【0016】
電気炉1の側面には、排滓口4が形成されている。また、電気炉1には、排滓口4と反対側の側面に溶鋼Mを出鋼する出鋼口5が形成されている。電気炉1は、開蓋状態で装入された還元鉄R等の原料及びフラックスなどを本体2内部で溶解して溶湯M(溶鋼M)として収容可能となっている。
電気炉1には、上方から内部に向かって挿し込まれる複数の電極6が設けられている。本実施形態では、電極6が3本挿入されている。この電極6は、黒鉛電極であって三相交流が供給されており、電極6と内部に装入された還元鉄Rとの間にアークを発生して還元鉄Rが溶解して溶湯Mを形成可能となっている。」
(イ) 「【0044】
図4に、シミュレーションにおける固相率fの算出方法の概要を示す。
図4に示すように、電極6は等間隔に(平面視で略正三角形の頂点に配置されるように)3本配置している。
追加原料Rとして用いるHBI(還元鉄R)の装入位置は、3本配置された電極6に囲まれた領域の中心(電炉1の中心)付近に装入する。」
(ウ) 「【図4】
[図:0001438280000001.jpg]
」
エ 上記ウの記載によれば、訂正前明細書等には、電気炉1に、上方から内部に向かって挿し込まれる複数の電極6について、等間隔に(平面視で略正三角形の頂点に配置されるように)3本配置されることが記載されていると認められるから、この訂正は、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1に対して、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率」との記載を追加する訂正を含むものである。
イ この訂正は、訂正前の請求項1における「固相率」について、その定義を「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるもの」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ 訂正前明細書等には、以下の記載がある。(下線は強調のため合議体で付した。)
(ア) 「【0027】
そのため、還元鉄Rを装入したときの固相率fが、溶鋼Mの流動性を確保するための上限の閾値を上回らないように、還元鉄Rの電気炉1への装入速度を制御することが必要となってくる。
図2の「上から見た図」のように、還元鉄Rの比装入速度s≧0.07t/min/MWとなると、電炉1中心付近の溶湯Mに向かって追加で装入された各還元鉄Rが電炉1内で「密」の状態で配置されて、大きな塊のような状況になることで、元々溶融されにくいものが更に溶融されにくくなり、固相率fが0.7以上(詳細は後述)となり、溶鋼Mの流動性が低下してしまう。
【0028】
一方、図1の「上から見た図」のように、還元鉄Rの比装入速度s<0.07t/min/MWを満たすと、電炉1中心(電極6のピッチサークル)付近の溶湯Mに向かって追加で装入された各還元鉄Rが離れるように配置されることで、還元鉄Rが電炉1内で「粗」の状態で配置されて溶融されやすくなり、固相率fが0.7未満(詳細は後述)となり、溶鋼Mの流動性を確保することができる。」
(イ) 「【0045】
なお、混合物Xは、電気炉1内において、初装原料(スクラップなど)を溶解させた溶鋼Mと、装入した還元鉄Rとが、混ざり合って存在する部分である。
還元鉄Rの比装入速度s(t/min/MW)は、還元鉄Rの装入速度(t/min)を電力(MW)で除した値である。本発明では、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満と規定した。
なお、還元鉄Rの装入速度(t/min)は、単位時間当たりの還元鉄Rの装入量を算出し平均装入速度とした値である。
【0046】
固相率f(0以上1以下)=(b)÷(a)で表わされる。
(a)は、電極6のピッチサークル(PC)の中心と同じ中心で電極6の最外周を通る円Aを底面とする円柱の範囲内において、混合物Xが存在する領域の体積(m3)である。ただし、本実施形態では、円Aの直径:1346mmである。
(b)は、(a)で混合物Xの体積を求めた領域の中で、溶鋼Mの温度が1539℃以下の領域の体積(m3)である。
表6に、本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例を示す。」
(ウ) 「【0051】
繰り返しになるが、還元鉄Rを追加で装入したときの固相率fについて説明する。
上で詳説したように、溶鋼Mの流動性を確保するためには、固相率fを0.7未満にする必要がある。
図2に示すように、本発明では、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満とすることで、固相率fを0.7未満に維持することができる。このようにすることで、溶鋼Mの流動性を確保することができるようになるため、冷鉄源の還元鉄Rを追加で装入することによる電気炉1操業時の作業性の悪化を招くことは無い。」
(エ) 「【図4】
[図:0001438280000002.jpg]
」
エ 上記ウによれば、上記(1)エも踏まえると、訂正前明細書等には、固相率f(0以上1以下)=(b)÷(a)で表わされ、(a)は、電極6のピッチサークル(PC)の中心と同じ中心で3本の電極6の最外周を通る円Aを底面とする円柱の範囲内において、電気炉1内に初装原料(スクラップなど)を溶解させた溶鋼Mと、装入した還元鉄Rとが混ざり合った混合物Xが存在する領域の体積(m3)であり、(b)は、(a)で混合物Xの体積を求めた領域の中で、溶鋼Mの温度が1539℃以下の領域の体積(m3)であることが記載され、また、「電炉1中心(電極6のピッチサークル)」と記載されていることから、電極6のピッチサークルが、電気炉1の中心にあると認められるから、この訂正は、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1に対して、「前記固相率を0.7未満とするために」との記載を追加する訂正を含むものである。
カ この訂正は、訂正前の請求項1における「前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する」ことについて、その目的を、「前記固相率を0.7未満とするために」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
キ 上記ウによれば、訂正前明細書等には、本発明では、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満とすることで、固相率fを0.7未満に維持すること、即ち、固相率fを0.7未満に維持するために、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満とすることが記載されていると認められるから、この訂正は、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1について特許異議の申立てがされているので、請求項1に係る訂正事項1、2について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
前記2のとおり、各訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、結論のとおり、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。下線は、訂正箇所を示す。
【請求項1】
アーク式の電気炉で、還元鉄を含む溶解原料を用いて溶鋼を製造する方法であって、
前記電気炉は、上部が開口された本体を有し、内部には平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の電極が上方から挿入されており、
前記溶解原料は、炭素を含有する還元鉄で形成されたブリケットであり、
前記電気炉内で初装原料を予め溶解させることで形成される溶湯に、前記溶解原料を追加で装入するに際しては、
前記電気炉内への装入開始から装入終了までに装入した前記溶解原料中の前記還元鉄の総装入量である還元鉄装入量を、前記装入開始から前記装入終了までに要した時間で除することで平均装入速度を求め、求められた前記平均装入速度を投入電力で除して得られるものを、前記還元鉄の比装入速度sとし、
前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率とした場合に、
前記固相率を0.7未満とするために、前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する
ことを特徴とする電気炉における原料溶解方法。
第4 特許異議の申立て理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」等という。証拠方法は下記(7)参照。)を提出し、以下の申立理由1~6により、請求項1に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(1) 申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立理由3(新規性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 申立理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5) 申立理由5(新規性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6) 申立理由6(進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲3に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7) 証拠方法
甲1:Mark Lee, David Trotter and Orlando Mazzei, "The production of low phosphorus and nitrogen steels in an EAF using HBI", Scandinavian Journal of Metallurgy, 2001年10月,Vol.30,ISSUE 5, p.286-291
甲2:G. L. Dressel, "Use of DRI in EAFs", Iron & Steelmaker, 1998年11月, vol. 25, No. 11, 1998, p.61-62
甲3:特開昭58-141314号公報
甲4:"MIDREX ACT Achieving Higher Carbon in MIDREX DRI Products", 2017年9月
2 取消理由
当合議体は、上記1の申立理由1~6を採用し、取消理由1~6を通知した。取消理由1~6は、それぞれ、申立理由1~6と同旨である。
第5 当審における判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことができない。
1 取消理由1(新規性)、申立理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)、申立理由2(進歩性):甲1を主たる引用文献とするもの
(1) 甲1に記載された事項
本願の出願前に公知となった甲1は、「The production of low phosphorus and nitrogen steels in an EAF using HBI」(当審訳:HBI(hot briquetted iron:ホットブリケットアイアン)を利用したEAF(an electric arc furnace:電気アーク炉)による低リン・低窒素鋼の製造)とのタイトルの論文であり、以下の事項が記載されている。
ア 「Use of high phosphorus HBI in the EAF at Casima, Venezuela」(第290頁左欄第14行目~第15行目)
(当審訳:ベネズエラのCasimaにおける電気アーク炉による高リンHBI(ホットブリケットアイアン)の利用。)
イ 「The SIDETUR Division of SIVENSA commissioned an EAF based meltshop, CASIMA, in September 1989. It is located in Puerto Ordaz, Venezuela [6]. The 300,000 mtpa shop features an 80-85% HBI practice and has a 75 t UHP furnace, ladle furnace, caster and a fully-automated materials system for charging both furnaces. The steel is cast into billets for use in the SIDETUR rolling mills and for export. About 20% of the steels are specialty grades such as spring and forging steels.」(第290頁左欄第16行目~第25行目)
(当審訳:SIVENSAのSIDETUR部門は、1989年9月に電気アーク炉を基盤とした溶融工場Casimaを設立しました。この工場はベネズエラのプエルト・オルダスに位置しています。この年間300,000トンの工場は、80-85%のHBI使用率を特徴としており、75トンの超高効率(UHP)炉、ラドル炉、鋳造機、および両方の炉に原料を充填するための完全自動化された材料システムを備えています。鋼はビレットに鋳造され、SIDETURの圧延工場で使用されるほか、輸出にも回されます。鋼の約20%は、スプリング鋼や鍛造鋼などの特殊グレードです。)
ウ 「The HBI used is the same as that used in the high phosphorus HBI trials at Sydney Steel Mill. Its chemistry is given in Table 2.」(第290頁左欄第26行目~28行目)
(当審訳:使用されるHBIは、シドニースチールミルでの高リンHBI試験で使用されたものと同じです。その化学組成は表2に示されています。)
エ 「
[図:0001438280000003.jpg]
」(第289頁左欄)
オ 「The furnace is charged with a bucket containing scrap, HBI, and fluxes. Once the bath is molten, the HBI feeding is started with an bath temperature of 1530 ℃. The HBI is fed through the furnace roof 5th hole. The feed rate is of the order of 28 kg/min/MW so as to maintain a bath temperature of 1550℃. A total of 67 t of HBI and 1.5 t lime are charged during the continuous charging phase.」(第290頁左欄第29行目~第30行目)
(当審訳:炉には、スクラップ、HBI、およびフラックスを含むバケットが装入される。浴が溶融すると、浴温1530℃で、HBIの供給が開始される。HBIは炉天井の5番目の穴から供給される。供給速度は、浴温を1550℃に維持するために、28kg/分/MW程度とする。連続装入段階では、合計67tのHBIと1.5tの石灰が装入される。)
カ 「
[図:0001438280000004.jpg]
」(第290頁右欄)
(当審訳:カーボンランスの設計性能―スラグ形成を含めたCASIMAにおける電気アーク炉の操業。高リンスラグのスラグ形成と排出は、加熱過程を通じて達成される。この結果、消費電力が低減され、仕様に適合した鋼中のリン濃度となる。)
(2) 甲1に記載された発明
ア 前記(1)ア、イの記載によれば、甲1には、ベネズエラの溶融工場であるCASIMAにおける電気アーク炉による高リンHBI(ホットブリケットアイアン)の利用について記載されており、HBIの利用率が80~85%であり、超高効率(UHP)炉、ラドル炉、鋳造機、原料を充填するためのシステムを備え、鋼をビレットに鋳造することが記載されている。
イ ここで、上記アの超高効率(UHP)炉は、CASIMAが電気アーク炉を基盤としたものであることから、超高効率な電気アーク炉を示すものと認められる。
ウ また、鋳造機において、鋼をビレットに鋳造していることから、ラドル炉の前段にあるこの超高効率(UHP)炉(超高効率な電気アーク炉)は、溶鋼を製造するものと認められる。なお、前記(1)カの図の説明には、CASIMAにおける電気アーク炉の操業について、仕様に適合した鋼中のリン濃度を得ていることが記載されているから、この点からみても、超高効率(UHP)炉(超高効率な電気アーク炉)は、溶鋼を製造するものと認められる。
エ 次に、前記(1)オの記載によれば、上記アのCASIMAの電気アーク炉の操業方法として、炉にスクラップ、HBI、およびフラックスを含むバケットを装入し、浴が溶融した後に、浴温1530℃でHBIの供給を開始すること、また、供給速度は、浴温を1550℃に維持するために、28kg/分/MW程度とすることが記載されている。ここで、この供給速度は、HBIの供給が開始された後における、浴温を維持するための供給速度であるから、HBIの供給速度を示すことは明らかである。
オ また、前記(1)ウの記載によれば、上記エのHBIは、シドニースチールミルでの高リンHBI試験で使用されたものと同じ高リンHBIである。そして、その化学組成は、前記(1)エの表2に示された化学組成である。
カ そうすると、上記オのHBIは、高リンHBIであり、その化学組成は、表2の記載から、Cを1.87%、脈石成分(P2O5、CaO、MgO、SiO2、Al2O3、TiO2、MnO)の合計を4.22%、Znを0.00%、Sを0.001%、Feを合計で91.98%含有するものである。
キ また、前記(1)カの説明文によれば、図7に示される電気アーク炉の模式図は、CASIMAの電気アーク炉、すなわち、上記エの電気アーク炉であると認められる。そして、図7から電気アーク炉は、上部が開口された本体を有し、内部に3本の電極が上方から挿入されていることが見て取れる。
ク そうすると、上記エの事項を軸に、前記(1)のその他の記載事項を踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「電気アーク炉による高リンHBIを利用した溶鋼の製造方法であって、
前記電気アーク炉は、上部が開口された本体を有し、内部には3本の電極が上方から挿入されており、
前記高リンHBIは、Cを1.87%、脈石成分(P2O5、CaO、MgO、SiO2、Al2O3、TiO2、MnO)の合計を4.22%、Znを0.00%、Sを0.001%、Feを合計で91.98%含有しており、
前記電気アーク炉にスクラップ、前記高リンHBI、およびフラックスを含むバケットを装入し、浴が溶融した後に、浴温1530℃で前記高リンHBIの供給が開始され、
前記高リンHBIの供給速度は、浴温を1550℃に維持するために、28kg/分/MW程度とする
方法。」
(以下「甲1発明」という。)
(3) 対比
ア 本件発明と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「電気アーク炉による」「溶鋼の製造方法」は、本件発明の「アーク式の電気炉で、」「溶鋼を製造する方法」に相当する。
(イ) 甲1発明の「HBI」は、技術常識によれば、高温でブリケットにした還元鉄(要すれば、JIS M 8700参照)であり、溶鋼を製造する原料として電気アーク炉に投入され、溶解されることは明らかである。そうすると、甲1発明の「高リンHBI」は、高温でブリケットにした還元鉄であって、溶鋼を製造する原料として電気アーク炉に投入され、溶解されるものであるから、本件発明の「還元鉄を含む溶解原料」に相当する。また、甲1発明の「高リンHBI」は、その組成によれば少なくともC(炭素)を含有している高温でブリケットにした還元鉄であるから、本件発明の「炭素を含有する還元鉄で形成されたブリケット」に相当する。
(ウ) 甲1発明の「スクラップ、前記高リンHBI、およびフラックスを含むバケット」は、高リンHBIと同様に溶鋼の原料であることは明らかであって、「電気アーク炉に」「装入」するものであり、その後、「浴が溶融した後に、」「前記高リンHBIの供給が開始され」るため、高リンHBIの供給に先行して電気アーク炉に装入される原料であるから、本件発明の「初装原料」に相当する。
(エ) 上記(ウ)を踏まえると、甲1発明の「前記電気アーク炉にスクラップ、前記高リンHBI、およびフラックスを含むバケットを装入し、浴が溶融した後に、」「前記高リンHBIの供給が開始され」ることは、本件発明の「前記電気炉内で初装原料を予め溶解させることで形成される溶湯に、前記溶解原料を追加で装入する」ことに相当する。
(オ) 甲1発明の「高リンHBIの供給速度」は、「浴温を1550℃に維持するため」に設定されていることから、高リンHBIの供給開始から高リンHBIの供給終了まで基本的には一定の速度を維持するようにされるものと推認できる。そうすると、甲1発明の「高リンHBIの供給速度」である「28kg/分/MW程度」という値は、本件発明の「前記電気炉内への装入開始から装入終了までに装入した前記溶解原料中の前記還元鉄の総装入量である還元鉄装入量を、前記装入開始から前記装入終了までに要した時間で除することで平均装入速度を求め、求められた前記平均装入速度を投入電力で除して得られる」「還元鉄の比装入速度s」に相当する値を算出したとしても、同等の値(28kg/分/MW程度)となるといえる。
(カ) 上記(オ)を踏まえると、甲1発明において、「電気アーク炉」への「前記高リンHBIの供給速度は、浴温を1550℃に維持するために、28kg/分/MW程度とする」ことは、単位を換算すると、0.028t/分/MW程度とすることであるから、本件発明において、「前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する」ことに相当する。
(キ) 上記(ア)~(カ)を踏まえると、甲1発明の「電気アーク炉による」「溶鋼の製造方法」は、本件発明の「電気炉における原料溶解方法」にも相当するといえる。
(ク) 上記(ア)~(キ)の検討を踏まえると、本件発明と甲1発明とは、
「アーク式の電気炉で、還元鉄を含む溶解原料を用いて溶鋼を製造する方法であって、
前記電気炉は、上部が開口された本体を有し、内部には3本の電極が上方から挿入されており、
前記溶解原料は、炭素を含有する還元鉄で形成されたブリケットであり、
前記電気炉内で初装原料を予め溶解させることで形成される溶湯に、前記溶解原料を追加で装入するに際しては、
前記電気炉内への装入開始から装入終了までに装入した前記溶解原料中の前記還元鉄の総装入量である還元鉄装入量を、前記装入開始から前記装入終了までに要した時間で除することで平均装入速度を求め、求められた前記平均装入速度を投入電力で除して得られるものを、前記還元鉄の比装入速度sとした場合に、
前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する
電気炉における原料溶解方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明が、3本の電極の配置について、「平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された」と特定するのに対して、甲1発明は、3本の電極の配置が不明である点
<相違点1-2>
本件発明が、還元鉄の比装入速度sが0.07t/min/MW未満となるように前記溶解原料を前記電気炉内に装入することについて、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率とした場合に、前記固相率を0.7未満とするために」行うものであることを特定するのに対して、甲1発明は、浴温を一定の温度に維持するために高リンHBIの供給速度を所定の速度とするものの、本件発明のように定義される「固相率」を「0.7未満とするために」行うものではない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点1-2から検討する。
(ア) 甲1発明は、浴温を一定の温度に維持するために高リンHBIの供給速度を所定の速度とするものであるが、甲1には、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率」と定義すること、及び、この「固相率を0.7未満とするために」還元鉄の比装入速度sを調整することについて、記載されておらず、このことが技術常識であるともいえないから、相違点1-2は実質的な相違点である。
(イ) なお、甲1発明が、浴温を1550℃に維持するものであることから、結果として、本件発明の定義による固相率が0.7未満であるといえるかどうかについて念のために検討しても、甲1発明の浴温がどのように測定されるものであるか不明であるから、浴内において温度分布がどのようになっているかは不明であり、本件発明の固相率の定義における固相率が0.7未満であるとまではいえない。
(ウ) 次に、甲1発明に基づいて当業者が相違点1-2について、容易に想到することができるかについて検討すると、甲1には、固相率に着目して、還元鉄の比装入速度sを調整するという技術思想が記載されておらず、また、本件発明のように固相率を定義することについても記載されておらず、これらのことが技術常識であるとも周知技術であるともいえない。そうすると、甲1発明において、相違点1-2に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
(エ) なお、甲2~甲4のいずれの文献にも、固相率に着目して、還元鉄の比装入速度sを調整するという技術思想が記載されておらず、また、本件発明のように固相率を定義することについて記載されておらず、これらのことが周知慣用技術であるともいえないから、仮に甲2~甲4に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点1-2に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
(オ) よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明とはいえず、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(4) 小括
以上によれば、本件発明は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、甲1を主たる引用文献とする取消理由1(新規性)、申立理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由3(新規性)、申立理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)、申立理由4(進歩性):甲2を主たる引用文献とするもの
(1) 甲2に記載された事項
本願の出願前に公知となった甲2は、「Use of DRI in EAFs(当審訳:電気アーク炉におけるDRIの使用)」についての記事であり、以下の事項が記載されている。(なお、技術常識を踏まえると、甲2におけるDRI、EAFs、HBIは、DRIがdirect reduced iron:直接還元鉄、EAFsがelectric arc furnaces:電気アーク炉、また、HBIがhot briquetted iron:ホットブリケットアイアンを示すものと認められる。以下の当審訳においては、EAFsを「電気アーク炉」、DRIをそのまま技術用語として「DRI」、また、HBIをそのまま技術用語として「HBI」と訳している。)
ア 「Continuous Feeding of DRI to an EAF
Continuous feeding of DRI or HBI is accomplished by moving the materials from a storage silo to the top of the melt shop. A series of bins and belts feed the DRI through a weighing system, down a chute or pipe, and into the furnace proper through a hole in the roof. Many schemes have been tried for locating the feed hole, but generally the hole is located on the section of the roof between the electrode(s) and rear wall.
When using DRI, an EAF operator should maintain a liquid heel ranging from 15 to 30 percent of tap weight. This means the EAF has to run around the clock to prevent freezing of the liquid heel. EAFs using 90 to 100 percent DRI or HBI will need to start continuous feeding quickly after initial arching.
DRI feed rates range from 5 to 35 kg/minute/MW. The DRI feed rate is increased in a series of steps. The maximum feed rate depends on material quality with respect to carbon, gangue and metallization.
The operator wants to maintain a feed rate that stabilizes the liquid bath temperature at about 1570 ℃. When combined with the proper composition of slag, oxygen and carbon, this temperature produces the best slag forming performance in the furnace.」(第61頁中欄第1行~右欄第2行)
(当審訳:DRIの電気アーク炉への連続供給
DRI又はHBIの連続供給は、材料を貯蔵サイロから溶解工場の上部に移動させることで実現されます。一連のビンとベルトがDRIを計量システムを通して、シュートまたはパイプを下り、屋根の穴を通して炉の適切な部分に供給します。供給穴の位置を決定するために多くの方法が試みられましたが、一般的にはその穴は電極と後壁の間の屋根の部分に位置しています。
DRIを使用する際、電気アーク炉のオペレーターは、タップ重量の15%から30%の範囲で液体ヒール(炉内の液体金属の残り)を維持する必要があります。これは、液体ヒールが凝固するのを防ぐために、電気アーク炉が24時間稼働しなければならないことを意味します。90%から100%のDRIまたはHBIを使用する電気アーク炉は、初期アーキングの後に迅速に連続供給を開始する必要があります。
DRIの供給速度は、5kg/分/MWから35kg/分/MWの範囲です。DRIの供給速度は、一連のステップで増加します。最大供給速度は、炭素、ガング(鉱石の不純物)、金属化に関する材料の品質に依存します。
オペレーターは、液体バスの温度を約1570℃に安定させる供給速度を維持したいと考えています。これは、スラグ、酸素、炭素の適切な組成と組み合わさることで、炉内での最良のスラグ形成性能を生み出します。)
イ 「Specific energy (kWh/charge metric ton) is used to calculate the proper DRI or HBI feed rate. Defining the specific energy for each part of a heat is an iterative process that depends on the consistency of DRI composition, slag additions, slag foaming, and furnace power parameters.」(第61頁右欄第3行~第31行)
(当審訳:比エネルギー(kWh/チャージトン)は、適切なDRIまたはHBI供給速度を計算するために使用される。加熱の各部分の比エネルギーを定義することは、DRIの組成、スラグの添加量、スラグのフォーミング、および炉の出カパラメータの一貫性に依存する反復プロセスである。)
ウ 「Perhaps the best way to examine continuous feeding is through the use of an example.
◆Hot heel weight - 40 metric tons
◆Initial charge weight - 15 metric tons
◆Total charge weight - 170 metric tons
◆EAF tap weight - 150 metric tons
◆Maximum power - 91 MW
◆HBI feed rates - 30 to 165 metric tons/hour
First, the initial charge is melted. Feeding of HBI is started at 200 kWh/metric ton as shown in Figure 1. Feeding and power input rates are raised quickly as the specific energy increases. The feed rate is decreased near the end of the melt time to produce an increase in bath temperature. Figure 1 defines the melting practice with respect to feeding rates and energy consumption. Figure 2 defines the power input at various stages during the melt.」(第61頁右欄第10行目~第31行目)
(当審訳:連続供給を検討する最良の方法は、おそらく以下の例を使用することである。
◆ホットヒール重量 - 40トン
◆初期チャージ重量 - 45トン
◆総チャージ重量 - 170トン
◆電気アーク炉タップ重量 - 150トン
◆最大出力 - 91MW
◆HBI供給速度 - 30~165トン/時
はじめに、初期チャージを溶解させる。図1に示すように、HBIの供給は200kWh/チャージトンで開始される。供給速度と投入電力は、比エネルギーが増加するにつれて急速に増加する。供給速度は、溶解時間の終わり近くで低下し、浴温度を上昇させる。図1は、供給速度とエネルギー消費に関する溶解方法を定義している。図2は、溶解中の各段階における投入電力を定義している。)
エ 「
[図:0001438280000005.jpg]
」(第62頁左欄、Figure 1)
(当審訳:図1 エネルギー投入量とHBI供給速度に関する溶解実績を示す (150トン電気アーク炉溶解プロファイル))
オ 「
[図:0001438280000006.jpg]
」(第62頁左欄、Figure 2)
(当審訳:図2 投入電力に対する溶解実績を示す (150トン電気アーク炉の溶解プロファイル))
カ 「Power input depends on good slag forming. Continuously fed DRI is charged into a flat bath, so slag forming is necessary to insulate the arc. Protect the furnace refractory and reduce slag density for DRI penetration of the liquid steel melt.」(第62頁第1行~第6行)
(当審訳:投入電力は良好なスラグ形成に依存します。連続的に供給されるDRIは平坦なバスに充填され、スラグ形成はアークを絶縁するために必要です。DRIが液体鋼の溶融に浸透するために、炉の耐火物を保護し、スラグの密度を減少させます。)
キ 「The power input practice for melting DRI is reversed compared with that for melting scrap. The arc length and corresponding power inputs initially arc kept low until the feed rate is raised as the heat progresses and slag height increases due to foaming. Depending on the EAF power source, AC or DC, an operator must experiment with the arc lengths to minimize both heat times and energy consumption.」(第62頁左欄第7行~第16行)
(当審訳:DRI溶解における投入電力は、スクラップ溶解の場合とは逆になる。アーク長とそれに対応する投入電力は、加熱が進行し、フォーミングによリスラグの高さが増加するにつれて供給速度が上昇するまで、最初は低く抑えられる。電気アーク炉の電源がACかDCかに応じて、オペレーターは加熱時間とエネルギー消費の両方を最小限に抑えるためにアーク長を試行錯誤する必要がある。)
ク 「An operator must observe a large solid clump of DRI or HBI mixed with lime floating around the furnace of the melt shop. The clump is known as a "clinker." Little mass of the clinker is immersed in the liquid steel, and much is exposed above the top of the slag. This is due to the lower apparent density of DRI, 1.4 g/cm3, and HBI 2.5 g/cm3, as compared with liquid steel fed with a density of 6.5 g/cm3.
Melting of the ferroberg mostly is done by thermal radiation, which is an inherently slower melting process as compared with conduction and convection heat transfer processes. The operator needs to cut back the feed rate immediately upon observation of a ferroberg.」(第62頁中欄第8行~第31行)
(当審訳:この式は各ステップでの時間に対して計算される。オペレーターは、この式、実験、および経験に基づいて、溶解中の特定の時点での必要な供給速度と投入電力速度を決定することができる。
材料の供給速度が速すぎると、オペレーターは、石灰と混合したDRIまたはHBIの大きな固体塊が炉内に浮遊しているのを観察することがある。この塊は「フェロベルグ」と呼ばれている。フェロベルグの大部分は溶鋼に浸っておらず、大部分はスラグの表面より上に露出している。これは、密度が6.5g/cm3の溶鋼と比較して、DRIの見かけ密度が1.4g/cm3、HBIの見かけ密度が2.5g/cm3と低いためである。
フェロベルグの溶解は主に熱放射によって行われ、これは伝導伝熱や対流伝熱に比べて本質的に遅い溶解プロセスである。オペレーターは、フェロベルグを観察したらすぐに供給速度を下げる必要がある。)
ケ 「DRI or HBI chemistry may be inconsistent from batch to batch, if the supplies are purchased from different sources on the open market. If the FeO level increases or carbon content decreases the feed rate must be slowed.」(第62頁中欄第47行~右欄第3行)
(当審訳:DRI又はHBIの化学組成は、オープンマーケットの異なる供給元から供給品が購入されている場合、バッチ毎に一貫性がない場合がある。FeOレベルが上昇したり、炭素含有量が減少したりした場合は、供給速度を遅くする必要がある。)
(2) 甲2に記載された発明
ア 前記(1)アによれば、甲2には、電気アーク炉にDRI又はHBIを連続供給する方法において、DRIを使用する際、液体ヒール(炉内の液体金属の残り)を維持する必要があること、DRIの供給速度は、5kg/分/MWから35kg/分/MWの範囲であることが記載されている。なお、前記(1)アで検討したとおり、技術常識を踏まえると、甲2におけるDRI、EAFs、HBIは、DRIがdirect reduced iron:直接還元鉄、EAFsがelectric arc furnaces:電気アーク炉、HBIがhot briquetted iron:ホットブリケットアイアンを示すものである。
イ そして、前記(1)ウ~オには、前記アの電気アーク炉にDRI又はHBIを連続供給する方法について、連続供給を検討する最良の方法の具体的な例として、
◆ホットヒール重量 - 40トン
◆初期チャージ重量 - 45トン
◆総チャージ重量 - 170トン
◆電気アーク炉タップ重量 - 150トン
◆最大出力 - 91MW
◆HBI供給速度 - 30~165トン/時
はじめに、初期チャージを溶解させ、HBIの供給は200kWh/チャージトンで開始され、供給速度と投入電力は、比エネルギーが増加するにつれて急速に増加し、供給速度は、溶解時間の終わり近くで低下し、浴温度を上昇させることを前提として、図1に示されるエネルギー投入量とHBI供給速度に関する溶解実績と、図2に示される投入電力に対する溶解実績に沿った、150トン電気アーク炉において溶解する方法が記載されている。
ウ そこで、上記イの具体的な例の前提を踏まえて、図1及び図2を読み取ると、横軸であるEnergy(エネルギー供給量:kWh)に対して、Feed Rate(供給速度:metric tons/hour、すなわち、ton/hourと表される)及びPower(投入電力:MW)が、以下のような溶解プロファイルであったことが認められる。
エネルギー供給量 供給速度 投入電力
0 0 66
10000 30 66
18000 60 66
22000 100 80
39000 130 80
56000 165 91
92000 100 91
95000 0 91
100000 0 66
エ また、前記(1)アによれば、甲2において、DRI(及びHBI)は、DRIの「最大供給速度は、炭素、ガング(鉱石の不純物)、金属化に関する材料の品質に依存」するとされており、炭素を含有することが前提とされている。また、前記(1)ケの「DRI又はHBIの化学組成は、オープンマーケットの異なる供給元から供給品が購入されている場合、バッチ毎に一貫性がない場合がある。FeOレベルが上昇したり、炭素含有量が減少したりした場合は、供給速度を遅くする必要がある。」との記載からみても、DRI及びその一つの形態であるHBIについて炭素含有量を考慮していることから、甲2において、DRI又はHBIは、炭素を含有することを前提としているといえる。
オ さらに、前記(1)カには、「DRIが液体鋼の溶融に浸透する」ことが記載されており、また、前記(1)クには、炉内に浮遊するフェロベルグが溶鋼に浸っていないことが記載されているから、前記イの電気アーク炉にDRI又はHBIを連続供給する方法によって、溶鋼が製造されていると認められる。
カ そうすると、上記イ、ウで検討した連続供給を検討する最良の方法の具体的な例に着目し、上記ア、エ、オの事項も踏まえると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「電気アーク炉にHBIを連続供給し溶鋼を製造する方法において、
HBIは炭素を含有し、
初期チャージを溶解させ、
HBIの供給は200kWh/チャージトンで開始され、
Energy(エネルギー供給量:kWh)に対して、Feed Rate(供給速度:ton/hour)及びPower(投入電力:MW)が以下の推移となる溶解プロファイルで溶解する方法。
エネルギー供給量 供給速度 投入電力
0 0 66
10000 30 66
18000 60 66
22000 100 80
39000 130 80
56000 165 91
92000 100 91
95000 0 91
100000 0 66」
(3) 対比・判断
ア 本件発明と甲2発明とを対比する。
(ア) 甲2発明の「電気アーク炉」は、本件発明の「アーク式の電気炉」に相当する。
(イ) 甲2発明の「HBI」は、hot briquetted iron:ホットブリケットアイアンを示すものであり、技術常識によれば、高温でブリケットにした還元鉄(要すれば、JIS M 8700参照)であり、溶鋼を製造する原料として電気アーク炉に投入され、溶解されることは明らかである。そうすると、甲2発明の「HBI」は、高温でブリケットにした還元鉄であって、溶鋼を製造する原料として電気アーク炉に投入され、溶解されるものであるから、本件発明の「還元鉄を含む溶解原料」に相当する。そして、甲2発明の「電気アーク炉にHBIを連続供給し溶鋼を製造する方法」は、本件発明の「還元鉄を含む溶解原料を用いて溶鋼を製造する方法」に相当する。
(ウ) また、甲2発明の「HBI」は「炭素を含有」するから、上記(イ)を踏まえると、本件発明の「炭素を含有する還元鉄で形成されたブリケットであ」ることに相当する。
(エ) さらに、甲2発明の「HBI」は、「初期チャージを溶解させ」てから初期チャージに対して追加で「供給」されることから、上記(イ)を踏まえると、甲2発明において、「初期チャージを溶解させ」「HBIの供給」を「開始」することは、本件発明において、「電気炉内で初装原料をあらかじめ溶解させることで形成される溶湯に、溶解原料を追加で装入する」ことに相当する。
(オ) 上記(ア)~(エ)を踏まえると、甲2発明の「電気アーク炉にHBIを連続供給し溶鋼を製造する方法」は、本件発明の「電気炉における原料溶解方法」にも相当するといえる。
(カ) 上記(ア)~(オ)の検討を踏まえると、本件発明と甲2発明とは、
「アーク式の電気炉で、還元鉄を含む溶解原料を用いて溶鋼を製造する方法であって、
前記溶解原料は、炭素を含有する還元鉄で形成されたブリケットであり、
前記電気炉内で初装原料を予め溶解させることで形成される溶湯に、前記溶解原料を追加で装入する
電気炉における原料溶解方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明が、電気炉について「上部が開口された本体を有し、内部には平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の電極が上方から挿入されて」いるのに対して、甲2発明は電気炉の構造が特定されていない点
<相違点2-2>
本件発明が、「前記電気炉内への装入開始から装入終了までに装入した前記溶解原料中の前記還元鉄の総装入量である還元鉄装入量を、前記装入開始から前記装入終了までに要した時間で除することで平均装入速度を求め、求められた前記平均装入速度を投入電力で除して得られるものを、前記還元鉄の比装入速度sとした場合に、
前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する」のに対して、甲2発明は、溶解プロファイルが示されておりこれに合わせてHBIを供給するものの、比装入速度sそのものは不明である点
<相違点2-3>
本件発明は、還元鉄の比装入速度sが0.07t/min/MW未満となるように前記溶解原料を前記電気炉内に装入することについて、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率とした場合に、前記固相率を0.7未満とするために」行うものであることを特定するのに対して、甲2発明は、溶解プロファイルが示されておりこれに合わせてHBIを所定の供給速度で供給するものの、本件発明のように定義される「固相率」を「0.7未満とするために」行うものではない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点2-3から検討する。
(ア) 甲2発明は、溶解プロファイルを特定するものであるが、甲2には、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率」と定義すること、及び、この「固相率を0.7未満とするために」還元鉄の比装入速度sを調整することについて、記載されておらず、このことが技術常識であるともいえないから、相違点2-3は実質的な相違点である。
(イ) なお、甲2発明の溶解プロファイルによって、結果として、本件発明の定義による固相率が0.7未満であるといえるかどうかについて念のために検討しても、甲2発明の溶解プロファイルは、供給速度と投入電力が経時的に変化するものであって、浴内における温度分布がどのように経時的に変化するものであるか不明であり、本件発明の固相率の定義における固相率がどのようになるか不明であるから、当該固相率が0.7未満であるとまではいえない。
(ウ) 次に、甲2発明に基づいて当業者が相違点2-3について、容易に想到することができるかについて検討すると、甲2には、固相率に着目して、還元鉄の比装入速度sを調整するという技術思想が記載されておらず、また、本件発明のように固相率を定義することについても記載されておらず、これらのことが技術常識であるとも周知技術であるともいえない。そうすると、甲2発明において、相違点2-3に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
(エ) また、甲1、甲3、甲4のいずれの文献にも、固相率に着目して、還元鉄の比装入速度sを調整するという技術思想が記載されておらず、また、本件発明のように固相率を定義することについて記載されておらず、これらのことが周知慣用技術であるともいえないから、仮に甲1、甲3、甲4に記載された事項を考慮しても、甲2発明において、相違点2-3に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
(オ) よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明とはいえず、甲2発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(4) 小括
以上によれば、本件発明は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、甲2を主たる引用文献とする取消理由3(新規性)、申立理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由5(新規性)、申立理由5(新規性)、取消理由6(進歩性)及び申立理由6(進歩性):甲3を主たる引用文献とするもの
(1) 甲3に記載された事項
本願の出願前に公知となった甲3には、アーク炉の制御方法(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。
ア 「従来よりアーク炉を用いて還元鉄を溶融させて溶鋼を作りその溶鋼を利用することが行われている。上記のようにして溶鋼を作る場合炉の深部には溶鋼が溜まり、その溶鋼の上側にはスラグの層が一般に形成される。本発明は、上記スラグに向けて還元鉄を逐次装入し、その還元鉄をスラグの層を通して溶鋼に向かわせる過程においてその還元鉄を溶解させてスラグ要素と溶鋼要素に分離させ、これにより前記溶鋼を得るようにする場合における前記アーク炉の制御方法に関するものである。」(第1頁右欄第15行目~第2頁左上欄第5行目)
イ 「第1図及び第2図に於て、アーク炉lは凹状の炉体2とその上部の開口部を塞ぐ様にした炉蓋3とから構成されている。」(第2頁右上欄第20行目~左下欄第2行目)
ウ 「この炉蓋3の中央部分には環状の絶縁材11を介してアーク発生用の複数の電極12が備えさせてある。電極12は夫々示外の電極昇降装置によって上下動させられる様になっている。」(第2頁左下欄第14行目~第18行目)
エ 「次に第1図及び第2図に示されたアーク炉1の操業について説明する。先ず炉体2内への初装入が行なわれる。この初装入には、還元鉄だけでは溶解させにくい為スクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物が使用される。その装入量は炉体2の全装入量の例えば20%位即ち例えば100トンの炉の場合には約20トンにされる。またその初装入がスクラップだけの場合には一般のスクラップ製鋼法と同様のバッチ装入をすればよいが、スクラップと還元鉄の混合の場合には装入物が炉体2の内壁へ付着しないように炉体2の底部の中央部に盛り上げる方がよい。上記のように初装入を行なったならば、炉蓋3を被せたのち電極12に電力を供給してアークを発生させ、前記初装入で装入したスクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物を溶解させる。尚上記初装入は前回の溶鋼を少し残しておくという方法を取ってもよい。
上記のような初装入物が溶解して炉体2の底部に溶融物が出来たならば、電極12への電力の供給を継続してその電極12からアーク14を発生させ続けると共に、投入シュート13から還元鉄15を第2図に示される如く連続的に装入する。上記の様にして装入される還元鉄15としてはその形状がペレット状、小塊状、ブリケット状のものが用いられる。
そして還元鉄の装入とその溶解を連続的に行う炉の操業の定常状態においては、第2図に示されるように炉体2の空間の底部に溶鋼6が溜まりその上にスラグ7が浮いた状態となっている。」(第3頁左上欄第5行目~右上欄第12行目)
オ 「次に上記操業状態において溶鋼6及びスラグ7の温度を変更する操作は次の様に行なう。即ち電極12への投入電力を変更(この操作は例えば前記制御盤28によって行なう。)したり、或は電極12を昇降(この操作は例えば前記電極制御装置29によって行なう。)させて電極12の下端と溶鋼6との間に形成されるアーク14の長さを変更する。次にその操作を第4図に基いて説明する。この第4図は還元鉄15の投入量が毎分1トンである場合の電極12に対する供給電力及びアーク14の長さと溶鋼6及びスラグ7の温度変化の関係を示すグラフである。尚アーク14は炉の内部で発生しているものである為その目視が困難である。したがってアーク14の長さを推定する手段としてはそのアークの長さと一定の関係にある力率(電極12に供給される電力の力率)が一般に用いられ、第4図においても縦軸は力率の値で目盛ってある。(アークの長さと力率との関係は、アークの長さが長くなれば力率が高くなりアークの長さが短かくなれば力率も低くなる関係となっている。)
(1) 先ず、アーク炉1において還元鉄15の投入及び溶解が定常的に行なわれておりしかも溶鋼6及びスラグ7の温度が一定の温度に保たれている場合には、供給電力と力率との関係は溶鋼の0℃/分の温度変化の曲線とスラグの0℃/分の温度変化曲線との交点(A)の状態となっている。
(2) スラグ温度検出器9によりスラグ7の温度が低下したことが検出された為にスラグ7の温度だけを上昇例えば3℃/分させたい場合には、供給電力を上昇させアーク長を長くする。即ち供給電力及び力率を(B)で示される点まで夫々上昇させる。(この時には電極12は第2図において右側に示されるもののように上昇させられて、その電極12と溶鋼6との間で発生するアーク14の長さは長くなる。)この状態で炉を運転することにより溶鋼6の温度はそのままでスラグ7の温度のみが上昇する。そしてスラグ温度検出器9によってスラグ7の温度が所望の温度となったことが検出されたならば、再び電力及び力率をもとの(A)で示される点まで戻す。するとその後は、溶鋼6及びスラグ7を上記の変更された温度状態に保つことが出来る。
(3)スラグ7の温度だけを下降させたい場合には、供給電力を低下させアーク長を短くする。即ち、供給電力及び力率を第4図の例えば(C)で示される点まで下降させる。あとは前記(2)と同様の操作を行えば良い。
(4)溶鋼温度検出器8により溶鋼6の温度が低下したことが検出された為に、溶鋼6の温度のみを上昇させたい場合(例えば2℃/分)には、供給電力を上昇させアーク長を短くする。即ち電力及び力率を(D)で示される様な状態にする。この状態で炉を運転することにより溶鋼の温度のみが2℃/分で上昇する。そして溶鋼温度検出器8によってその溶鋼の温度が所望の温度となったことが検出されたならば再び電力及び力率を(A)で示される状態に戻せば、溶鋼6及びスラグ7をその達成した温度状態に保持することが出来る。
(5)溶鋼6の温度だけを下降させたい場合には、供給電力を低下させアーク長を長くする。即ち、電力及び力率を例えば(E)で示される様な状態にする。そして後は前記(4)と同様の操作を行えば良い。」(第3頁左下欄第13行目~第4頁右上欄第15行目)
カ 「一方、アーク炉lに対する還元鉄の投入量(一定時間当りの投入量)の変更があると、それまでと同様の供給電力量あるいはアーク長での運転ではスラグ7あるいは溶鋼6の温度が変化してしまう。このような場合にその温度の変化を補正して元の温度状態に戻す為には、還元鉄の変更された投入量での供給電力及びアーク長と溶鋼及びスラグの温度変化との関係(例えば第5図に示されるような還元鉄の投入量が毎分1.2トンである場合の上記関係を示すグラフ)に基づいて前記と同様の操作を行なえばよい。」(第4頁左下欄第5行目~第15行目)
キ 「以上のような操作は、アーク炉の種々の定格に基づいて第4図あるいは第5図に示されるような関係を予め算出しておいたり、あるいは実験的にそのような関係を求めておき、それらの関係を予め記憶させたコンピュータその他の制御装置により、温度検出器8,9の検出温度に基づいて前記アーク炉制御盤28あるいは自動電極制御装置29を自動的に制御して行なうことが好ましい。しかし溶鋼およびスラグの温度検出器8,9によってそれら溶鋼6及びスラグ7の温度を検出しながら、前記のように供給電力の調節やアーク長の調節(電極12の昇降)を手動で行なってもよい。」(第4頁左下欄第16行目~右下欄第7行目)
ク 「
[図:0001438280000007.jpg]
」(第5頁左下欄:第1図)
ケ 「
[図:0001438280000008.jpg]
」(第5頁右下欄:第2図)
コ 「
[図:0001438280000009.jpg]
」(第6頁下欄:第4図)
サ 「
[図:0001438280000010.jpg]
」(第7頁上欄:第5図)
(2) 甲3に記載された発明
ア 前記(1)ア及びエによれば、甲3には、第1図及び第2図に示された溶鋼を作るアーク炉1の操業について、先ず炉体2内へ、スクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物が初装入され、初装入を行なったならば、炉蓋3を被せたのち電極12に電力を供給してアークを発生させ、前記初装入で装入したスクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物を溶解させ、初装入物が溶解して炉体2の底部に溶融物が出来たならば、電極用への電力の供給を継続してその電極12からアーク11を発生させ続けると共に、投入シュート13からその形状がベレット状、小塊状、ブリケット状の還元鉄15を連続的に装入し、還元鉄の装入とその溶解を連続的に行う炉の操業が記載されている。
イ また、前記(1)オによれば、操業状態、つまり、上記アの還元鉄を連続的に装入する操業の状態において溶鋼6及びスラグ7の温度を変更する操作は、投入電力を変更したり、アークの長さを変更したりすることにより行うことが記載されており、具体的な操作として以下の(ア)から(エ)の事項が記載されている。
(ア) 前記(1)コの第4図は、還元鉄15の投入量が毎分1トンである場合の電極12に対する供給電力及びアーク14の長さと溶鋼6及びスラグ7の温度変化の関係を示すグラフであること
(イ) アーク炉1において還元鉄15の投入及び溶解が定常的に行なわれておりしかも溶鋼6及びスラグ7の温度が一定の温度に保たれている場合には、供給電力と力率との関係は溶鋼の0℃/分の温度変化の曲線とスラグの0℃/分の温度変化曲線との交点(A)の状態となっていること
(ウ) スラグの温度だけを上昇させる場合には例えば(B)で示される点、スラグの温度だけを下降させる場合には例えば(C)で示される点になるように電力及び力率を調整すること
(エ) 溶鋼の温度だけを上昇させる場合には例えば(D)で示される点、溶鋼の温度だけを下降させる場合には例えば(E)で示される点になるように電力及び力率を調整すること
ウ ここで、上記イ(ウ)の操作は、第4図において溶鋼の温度変化が0℃/分である実線上の条件を選択することである。そして、この溶鋼の温度変化が0℃/分である実線の供給電力の範囲を第4図から読み取ると、28~34.5MWの範囲であり、還元鉄15の投入量が毎分1トンである場合は、この範囲で調整し得るものといえる。
エ 同様に、前記イ(エ)の操作は、第4図においてスラグの温度変化が0℃/分である点線上の条件を選択することである。そして、このスラグの温度変化が0℃/分である点線の力率の供給電力の範囲を第4図から読み取ると、29~36.5MWの範囲であり、還元鉄15の投入量が毎分1トンである場合にはこの範囲で調整し得るものといえる。
オ また、前記(1)オによれば、前記(1)サの第5図は、還元鉄の投入量が毎分1.2トンである場合の上記関係を示すグラフである。上記イ~エと同様に検討すると、還元鉄の投入量が毎分1.2トンである場合には、同グラフから、スラグの温度だけを調整する場合には、供給電力を35~40.5MWの間で、また、溶鋼の温度だけを調整する場合には、供給電力を37~43MWの間で調整し得るものといえる。
カ また、前記アのアーク炉は、前記(1)イ、ウ、クの第1図及びケの第2図によれば、凹状の炉体2とその上部の開口部を塞ぐ様にした炉蓋3とから構成されており、炉蓋3の中央部分にはアーク発生用の複数の電極12が備えさせてあり、前記(1)クの第1図からは、電極12が平面視で略正三角形の頂点に等間隔に3本配置されていることが見て取れる。
キ そうすると、上記ア~オで検討した操業方法に注目して、上記カの事項も踏まえると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。
「溶鋼を作るアーク炉の操業方法であって、
アーク炉は、凹状の炉体とその上部の開口部を塞ぐ様にした炉蓋とから構成されており、炉蓋の中央部分にアーク発生用の3本の電極が、平面視で略正三角形の頂点に等間隔に備えさせてあり、
先ず炉体内へスクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物が初装入され、初装入を行なったならば、炉蓋を被せたのち電極に電力を供給してアークを発生させ、前記初装入で装入したスクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物を溶解させ、
初装入物が溶解して炉体の底部に溶融物が出来たならば、電極用への電力の供給を継続してその電極からアークを発生させ続けると共に、投入シュートからその形状がベレット状、小塊状、ブリケット状の還元鉄を連続的に装入し、還元鉄の装入とその溶解を連続的に行い、
還元鉄の投入量が毎分1トンである場合に、溶湯の温度を一定とする条件として、供給電力を28~34.5MWの間、スラグの温度を一定とする条件として、供給電力を29~36.5MWの間で調整し、
還元鉄の投入量が毎分1.2トンである場合に、溶湯の温度を一定とする条件として、供給電力を35~40.5MWの間、スラグの温度を一定とする条件として、供給電力を37~43MWの間で調整する方法。」(以下「甲3発明」という。)
(3) 対比・判断
ア 本件発明と甲3発明とを対比する。
(ア) 甲3発明の「アーク炉」は、本件発明の「アーク式の電気炉」に相当する。
(イ) 甲3発明の「凹状の炉体」は、「その上部の開口部」を有するものであるから、本件発明の「上部が開口された本体」に相当する。そして、甲3発明の「アーク発生用の3本の電極が、平面視で略正三角形の頂点に等間隔に備えさせてあ」ることは、凹状の炉体の上部の開口部を塞ぐ様にした蓋体の中央部分に備えられており、前記(1)ケの図2から、その複数の電極が炉体の内部に上方から挿入されていることが見て取れるから、本件発明の「内部に」「上方から挿入されて」いる「平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の電極」に相当する。
(ウ) 甲3発明の「投入シュートから」「連続的に装入」する「形状が」「ブリケット状の」ものを含む「還元鉄」は、「装入とその溶解」が「連続的に行」われるものであって、「溶鋼を作る」ための原料であることは明らかであるから、本件発明の「還元鉄で形成されたブリケット」である「還元鉄を含む溶解原料」に相当する。
(エ) 甲3発明の「スクラップ又はスクラップと還元鉄の混合物」である「初装入物」は、溶解して炉体の底部で溶融物となるものであって、「溶鋼を作る」ための原料であることは明らかであるから、本件発明の「初装原料」に相当する。また、甲3発明の「初装入物が溶解して炉体の底部に」「出来た」「溶融物」は、本件発明の「前記電気炉内で初装原料を予め溶解させることで形成される溶湯」に相当する。そして、甲3発明において、「還元鉄を連続的に装入」することは、「初装入物が溶解して炉体の底部に」「出来た」「溶融物」に装入しているから、本件発明において、「初装原料をあらかじめ溶解させることで形成される溶湯に」、「溶解原料を追加で装入する」ことに相当する。
(オ) 甲3発明の「還元鉄の投入量が毎分1トンである場合」、及び、「還元鉄の投入量が毎分1.2トンである場合」のそれぞれについて、時間あたりの還元鉄の投入量(すなわち、投入速度(t/min)を供給電力で除した値)をそれぞれ計算すると、前者の場合は、溶湯の温度を一定とする条件として0.0290(=1/34.5)~0.0357(=1/28)t/min/MW、スラグの温度を一定とする条件として0.0274(=1/36.5)~0.0345(=1/29)t/min/MW、後者の場合は、溶湯の温度を一定とする条件として0.0296(=1.2/40.5)~0.0343(=1.2/35)t/min/MW、スラグの温度を一定とする条件として0.0279(=1.2/43)~0.0324(=1.2/37)t/min/MWとなる。
これらの数値範囲は、いずれの数値範囲もその全体が、0.07t/min/MWよりも小さな値の範囲である。
そうすると、甲3発明の時間あたりの還元鉄の投入量は、還元鉄の装入開始から装入終了までの間のいずれの時点においても、常に0.07t/min/MWよりも小さな値であるから、還元鉄の装入開始から装入終了までの間の平均の還元鉄の投入量(本件発明の「比装入速度s」に相当する。)でみても、本件発明の「還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満」を満たすことが明らかである。
(カ) してみると、本件発明と甲3発明とは、
「アーク式の電気炉で、還元鉄を含む溶解原料を用いて溶鋼を製造する方法であって、
前記電気炉は、上部が開口された本体を有し、内部には平面視で略正三角形の頂点に等間隔に配置された3本の電極が上方から挿入されており、
前記溶解原料は、還元鉄で形成されたブリケットであり、
前記電気炉内で初装原料を予め溶解させることで形成される溶湯に、前記溶解原料を追加で装入するに際しては、
前記電気炉内への装入開始から装入終了までに装入した前記溶解原料中の前記還元鉄の総装入量である還元鉄装入量を、前記装入開始から前記装入終了までに要した時間で除することで平均装入速度を求め、求められた前記平均装入速度を投入電力で除して得られるものを、前記還元鉄の比装入速度sとした場合に、
前記還元鉄の比装入速度sが、0.07t/min/MW未満となるように、前記溶解原料を前記電気炉内に装入する
電気炉における原料溶解方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
本件発明では、還元鉄が「炭素を含有する」ものであるのに対して、甲3発明では、還元鉄はその組成が特定されておらず、「炭素を含有する」ものであるか不明である点
<相違点3-2>
本件発明が、還元鉄の比装入速度sが0.07t/min/MW未満となるように前記溶解原料を前記電気炉内に装入することについて、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率とした場合に、前記固相率を0.7未満とするために」行うものであることを特定するのに対して、甲3発明は、溶湯の温度又はスラグの温度を一定とするために還元鉄の単位時間当たりの投入量に応じて、供給電力を調整するものであるものの、本件発明のように定義される「固相率」を「0.7未満とするために」還元鉄の単位時間当たりの投入量を調整するものではない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点3-2から検討する。
(ア) 甲3発明は、溶湯の温度又はスラグの温度を一定とするために還元鉄の投入量に応じて、供給電力を調整するものであるが、甲3には、「前記電気炉の中心と同じ中心で前記3本の電極の最外周を通る円を底面とする円柱の範囲内において、前記電気炉内に前記初装原料を溶解させた溶鋼と装入した前記還元鉄との混合物が占める第1体積と、該第1体積のうち1539℃以下のものが占める第2体積とを求め、前記第2体積を前記第1体積で除して得られるものを、固相率」と定義すること、及び、この「固相率を0.7未満とするために」還元鉄の比装入速度sを調整することについて、記載されておらず、このことが技術常識であるともいえないから、相違点3-2は実質的な相違点である。
(イ) なお、甲3発明の溶湯の温度又はスラグの温度を一定とするために還元鉄の投入量に応じて、供給電力を調整する方法であって、甲3には、還元鉄の装入とその溶解を連続的に行う炉の操業の定常状態において、底部に溶鋼6が溜まり、その上にスラグが浮いた状態となっており、溶鋼の温度として1580℃前後、スラグの温度として1600℃前後が例示され、溶鋼の温度について溶鋼として利用し得る(固まらない)程度の低温から、熱エネルギーの損失あるいは炉体のない壁面の損傷が過度とならない程度の高温までの範囲で設定され、スラグの温度について還元鉄の溶解能力が衰退しない程度の低温から、熱エネルギーの損失あるいは炉体の内壁面の損傷が過度とならない程度の高温までの範囲で設定されること(第3頁右上欄9行目~左下欄第4行目)が記載されているものの、本件発明の固相率の定義における固相率がどのようになるかは不明であって、当該固相率が0.7未満であるとまではいえない。
(ウ) 次に、甲3発明に基づいて当業者が相違点3-2について、容易に想到することができるかについて検討すると、甲3には、固相率に着目して、還元鉄の比装入速度sを調整するという技術思想が記載されておらず、また、本件発明のように固相率を定義することについても記載されておらず、これらのことが技術常識であるとも周知技術であるともいえない。そうすると、甲3発明において、相違点3-2に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
(エ) また、甲1、甲2、甲4のいずれの文献にも、固相率に着目して、還元鉄の比装入速度sを調整するという技術思想が記載されておらず、また、本件発明のように固相率を定義することについて記載されておらず、これらのことが周知慣用技術であるともいえないから、仮に甲1、甲2、甲4に記載された事項を考慮しても、甲3発明において、相違点3-2に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
(オ) よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲3発明とはいえず、甲3発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(4) 小括
以上によれば、本件発明は、甲3に記載された発明とはいえず、また、甲3に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、甲3を主たる引用文献とする取消理由5(新規性)、申立理由5(新規性)、取消理由6(進歩性)及び申立理由6(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、令和 7年 9月29日付けで通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700548