特許異議申立
2018-700331
封止用シート、及び、当該封止用シートを用いた半導体装置の製造方法
- 審判番号
- 2018-700331
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-160535外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年04月18日
- 審決日
- 2019年03月20日
- 公報発行日
- 2019年06月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】吉田 和隆
- 分類
- P1651.113-ZB (H01L) / P1651.121-ZB (H01L) / P1651.851-ZB (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6216180号発明「封止用シート、及び、当該封止用シートを用いた半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6216180号の請求項1、2に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6216180号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成25年8月1日に特許出願され、平成29年9月29日にその特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 4月18日 :特許異議申立人吉田和隆による特許異議の申
立て
平成30年 6月25日付け:取消理由通知書
平成30年 8月21日 :特許権者による意見書の提出
平成30年 9月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年11月13日付け(平成30年11月15日受付):
特許権者による意見書の提出及び訂正請求
平成30年11月29日付け:手続補正指令書
平成30年12月12日 :特許権者による手続補正書の提出
平成30年12月21日付け:訂正拒絶理由通知書
平成31年 1月29日 :特許権者による意見書の提出
平成31年 2月12日付け:訂正拒絶理由通知書
平成31年 3月 4日 :特許権者による意見書の提出
第2 特許異議の申立ての概要
特許異議申立人吉田和隆(以下「異議申立人」という。)による特許異議の申立ての概要は以下のとおりである。
・本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1ないし2に係る発明は、特許法第36条第6項第1号および同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証に記載の発明(以下「甲1発明」という。)と同一であるか、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載の発明(以下「甲2発明」という。)と同一であるか、甲2発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・請求項2に係る発明は、甲2発明および甲1発明もしくは周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特開2012-059743号公報
甲第2号証:特開2013-135143号公報
第3 訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年12月12日になされた手続補正により補正された、平成30年11月13日付け(平成30年11月15日受付)の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許第6216180号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項1及び訂正事項2を含むものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「電子デバイスの封止」とあるのを、「電子デバイスの封止(アンダーフィルを除く)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「封止」に「使用する熱硬化性の封止用シートであって、」とあるのを、「封止」に「単独で使用する熱硬化性の封止用シートであって、他のシートに積層されることなく使用されるシートであり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
2.訂正の目的の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、電子デバイスの封止が、アンダーフィルを除くものであるという事項を追加する訂正である。
しかし、請求項1に係る発明は「封止用シート」の発明であるところ、封止用シートによる電子デバイスの封止がアンダーフィルであるか否かによって、封止用シート自体の形状や構造や組成等(以下「構造等」という。)が規定されるわけではないため、封止用シートによる電子デバイスの封止が、アンダーフィルを除くものであるという事項を追加したところで、封止用シート自体の構造等が何ら限定されることはない。
そうすると、訂正事項1の訂正の前後において、請求項1に係る発明の「封止用シート」自体の構造等は何ら変わることはないため、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであるということはできない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものとは認められない。
また、訂正事項1が誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号に掲げる何れの事項を目的とするものとも認められない。
なお、特許権者は、平成31年3月4日提出の意見書において、「(2-1-2)しかしながら、アンダーフィルは、半導体チップと半導体チップを搭載している基板との間の間隙を樹脂封止するものであり(例えば、本件特許明細書の段落[0019]、図2の符号24等参照)、半導体チップに形成された電極(バンプ)の高さに相当する程度の薄いものである。つまり、訂正事項1では、アンダーフィルを除くものであるという事項を追加することによって、半導体チップに形成された電極(バンプ)の高さに相当する程度の薄いシートを除いており、封止用シート自体の構造等、特に、厚さを限定している。」との主張をしている。
しかし、半導体チップの外側を封止(以下「オーバーモールド」という。)するための封止用シートであっても、半導体チップのサイズや形状、封止の度合によっては、薄い封止用シートを用いることがあるため、封止用シートを使用して行う電子デバイスの封止について、アンダーフィルを除いたとしても、封止用シートの厚さが薄いものを明確に除いたことにはならない。
また、アンダーフィルを行うための封止用シートであっても、アンダーフィルとオーバーモールドの両方を同時に行うための封止用シートであれば、厚い封止用シートを用いることがあるため、封止用シートを使用して行う電子デバイスの封止について、アンダーフィルを除いたとしても、封止用シートの厚さが薄いもののみが除かれるわけではない。
さらに、アンダーフィルを行うための封止用シートの厚さが半導体チップに形成された電極(バンプ)の高さに相当する程度のものであったとしても、電極(バンプ)の高さは半導体チップに応じて様々であり、かつ、電極(バンプ)は請求項1に係る発明の「封止用シート」の外部に存在するものであるため、請求項1に係る発明の「封止用シート」について、電極(バンプ)の高さに相当する程度の薄いシートを除くことが、どのような厚さのシートを除くことになるのかが定まらない。
したがって、封止用シートを使用して行う電子デバイスの封止について、アンダーフィルを除くことによって、直ちに封止用シートの厚さが限定されたことにはならない。
よって、訂正事項1では、アンダーフィルを除くものであるという事項を追加することによって、封止用シート自体の構造等、特に、厚さを限定しているという、特許権者の主張を採用することはできない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「熱硬化性の封止用シート」は「単独で」使用するものである事項、及び、「熱硬化性の封止用シート」が、「他のシートに積層されることなく使用されるシート」であるという事項を追加する訂正である。
しかし、請求項1に係る発明は「封止用シート」の発明であるところ、封止用シートが単独で使用されるか否か、及び、封止用シートが他のシートに積層されることなく使用されるか否かによって、封止用シート自体の構造等が規定されるわけではないため、封止用シートについて、単独で使用するものである事項、及び、他のシートに積層されることなく使用されるシートである事項を追加したところで、封止用シート自体の構造等が何ら限定されることはない。
そうすると、訂正事項2の訂正の前後において、請求項1に係る発明の「封止用シート」自体の構造等は何ら変わることはないため、訂正事項2の訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであるということはできない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものとは認められない。
また、訂正事項2が誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号に掲げる何れの事項を目的とするものとも認められない。
なお、特許権者は、平成31年3月4日提出の意見書において、「(2-2-2)しかしながら、訂正事項2では、『他のシートに積層されることなく』『単独で』使用するという事項を追加することによって、2層以上の積層された構成を除外しており、封止用シート自体の構造等、特に、積層数を限定している。」との主張をしている。
しかし、「熱硬化性の封止用シート」は「単独で」使用するものである事項、及び、「熱硬化性の封止用シート」が「他のシートに積層されることなく使用されるシート」であるという事項は、請求項1に係る発明の「封止用シート」を使用する際に、他のシートに積層されて使用されるものではないということを意味するものであって、請求項1に係る発明の「封止用シート」自体が積層されて構成されるものではないということを意味するものではないため、請求項1に係る発明の「封止用シート」自体の積層数は何ら限定されていない。
よって、訂正事項2では、「他のシートに積層されることなく」「単独で」使用するという事項を追加することによって、封止用シート自体の構造等、特に、積層数を限定しているという、特許権者の主張を採用することはできない。
3.小活
以上のとおりであるので、本件訂正請求による訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号ないし第4号に掲げる事項を目的としているとはいえない。
したがって、請求項〔1、2〕について訂正を認めない。
第4 本件特許発明
上記「第3」のとおり、請求項〔1、2〕について訂正を認めないので、本件特許の請求項1、2の特許に係る発明は、特許公報に掲載された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)である。
「【請求項1】
電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シートであって、
熱可塑性樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記無機充填剤の含有量が、封止用シート全体に対して78~91重量%であり、
一方の面の表面粗さ(Ra)が、3μm以下であることを特徴とする封止用シート。
【請求項2】
前記一方の面側に、着色剤が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の封止用シート。」
第5 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
本件特許発明1、2に対して、当審が平成30年9月25日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許発明1、2は、引用文献1(特開2012-59743号公報、異議申立人が証拠として提出した甲第1号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件特許発明1、2は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1.引用文献1の記載
平成30年9月25日付け取消理由通知(決定の予告)で引用された引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【0008】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、上記のように、電子部品封止用の熱硬化性樹脂組成物シートとして、70~150℃から選ばれる成形温度(加熱温度)において、その粘度、および寸法が、互いに異なる二枚のシートA,B(もしくは、シートA,Bが積層一体化されたもの)を用いることを想起した。すなわち、実装基板上の電子部品搭載エリアに合わせ、上記エリアよりもやや小さいか、若干大きいシートBを積載し、さらにその上に、上記エリアよりも大きいシートAを積載し、減圧状態のチャンバー内で上記成形温度に加熱すると、シートAの全周の端部が軟化により実装基板に接するまで垂れ下がって、シートAがシートBおよび電子部品を被覆した状態となる(図3(iv)参照)。このとき、上記シートAは、その被覆により、実装基板との間に密閉空間を形成し、その密閉空間内で、シートBは低粘度のゲル状となっている。この状態で、上記シートAの上からプレス板でプレスし、さらにチャンバー内の圧力を開放すると、上記密閉空間内で、シートBが溶融物となって、実装基板と電子部品のギャップに入り込み、電子部品のアンダーフィルがなされるようになる。また、シートAは、上記被覆により、シートBの溶融物の漏れ出しを防ぐ治具の役割を果たしつつ、オーバーモールドとしての役割も果たす。これにより、樹脂組成物の漏れ出しを防ぐ治具を必要とすることなく、簡便にオーバーモールドおよびアンダーフィルが達成できることを見いだし、本発明に到達した。」
イ.「【0032】
上記シートAを構成するエポキシ樹脂組成物中における(d)成分の含有量は、シートAの柔軟性および可撓性ならびに溶融粘度の観点から、上記樹脂組成物の1~10重量%であることが好ましい。なお、上記樹脂組成物には、(a)~(d)成分のほか、必要に応じて、硬化促進剤、難燃剤、カーボンブラックをはじめとする顔料等、他の添加剤を適宜配合することができる。」
ウ.「【0064】
〔無機質充填剤I〕
平均粒径5.8μm、最大粒径24μmの球状溶融シリカ(電気化学工業社製、FB-7SDC)
【0065】
〔無機質充填剤II〕
平均粒径1.5μm、最大粒径5.1μmの球状溶融シリカ(アドマテックス社製、SO-32R)
【0066】
〔無機質充填剤III〕
平均粒径0.5μm、最大粒径1.5μmの球状溶融シリカ(アドマテックス社製、SO-25R)」
エ.「【0070】
〔可撓性付与剤〕
アクリル系共重合体(ブチルアクリレート:アクリロニトリル:グリシジルメタクリレート=85:8:7重量%からなる共重合体。重量平均分子量80万)」
オ.「【0072】
〔樹脂シート1~15の作製〕
上記各成分材料を、下記の表1および表2に示す割合で分散混合し、これに各成分材料の合計量と同量のメチルエチルケトンを加えて、塗工用ワニスを調整した。そして、上記ワニスを、厚み38μmのポリエステルフィルム(三菱樹脂社製、MRF-38)の剥離処理面上に、コンマコーターにより塗工し、乾燥することにより、厚みが50μmの樹脂組成物シートを得た。ついで、別途用意したポリエステルフィルムの剥離処理面を、上記樹脂組成物シートに貼り合わせて巻き取った。その後、ポリエステルフィルムを適宜剥離しながら、ロールラミネーターにより上記樹脂組成物シートを積層することにより、所望の厚みの樹脂組成物シート(樹脂シート1~15)を得た。なお、上記のようにして得られた樹脂組成物シートの粘度を、回転型粘度計(HAKKE社製、レオストレスRS1)を用い、測定温度130℃、ギャップ100μm、回転コーン直径20mm、回転速度10s-1という条件で測定した。この測定結果も、下記の表1および表2に併せて示した。」
カ.「【0073】
【表1】
」
キ.「【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
」
上記アないしキから、引用文献1には、樹脂組成物シートについて、以下の事項が記載されている。
・上記アによれば、シートAは、電子部品封止用の熱硬化性樹脂組成物シートとして用いられ、実装基板上の電子部品搭載エリアに合わせて積載されるシートBの上に積載され、シートBおよび電子部品を被覆した状態となるものである。
・上記キの表3ないし表5の記載によれば、樹脂シート1~7の各樹脂シートは、実施例1~14及び比較例1~9におけるシートAに該当するものである(例えば、表3によれば、樹脂シート2は、実施例1におけるシートAに該当するものである。)。
・上記カの表1の記載によれば、樹脂シート1~7の各樹脂シートは、可撓性付与剤を含むものである。
・上記エによれば、可撓性付与剤は、ブチルアクリレート、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレートからなるアクリル系共重合体である。
・上記カの表1の記載によれば、樹脂シート1~7の各樹脂シートは、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIを含むものであり、樹脂シート1~7の各樹脂シートの組成において、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIは合計で78重量%~89重量%である(例えば、表1の樹脂シート1の組成において、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIは合計で50.7+15.6+11.7=78重量%であり、表1の樹脂シート7の組成において、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIは合計で57.9+17.8+13.3=89重量%である。)。
・上記ウによれば、無機質充填剤Iは、平均粒径5.8μm、最大粒径24μmの球状溶融シリカであり、電気化学工業社製のFB-7SDCである。また、無機質充填剤IIは、平均粒径1.5μm、最大粒径5.1μmの球状溶融シリカである。さらに、無機質充填剤IIIは、平均粒径0.5μm、最大粒径1.5μmの球状溶融シリカである。
・上記オによれば、樹脂シート1~7は、各成分材料を分散混合し、メチルエチルケトンを加えて、塗工用ワニスを調整し、上記ワニスを、ポリエステルフィルムである三菱樹脂社製のMRF-38に剥離処理面上に塗工し、乾燥することにより得るものである。
そうすると、樹脂シート1~7に着目して、上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「電子部品封止用の熱硬化性樹脂組成物シートとして用いられ、実装基板上の電子部品搭載エリアに合わせて積載されるシートBの上に積載され、シートBおよび電子部品を被覆した状態となるシートAに該当する樹脂組成物シートであって、
ブチルアクリレート、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレートからなるアクリル系共重合体である可撓性付与剤と、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIとを含み、
樹脂組成物シートの組成において、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIは合計で78重量%~89重量%であり、
無機質充填剤Iは、平均粒径5.8μm、最大粒径24μmの球状溶融シリカであり、電気化学工業社製のFB-7SDCであり、無機質充填剤IIは、平均粒径1.5μm、最大粒径5.1μmの球状溶融シリカであり、無機質充填剤IIIは、平均粒径0.5μm、最大粒径1.5μmの球状溶融シリカであり、
各成分材料を分散混合し、メチルエチルケトンを加えて、塗工用ワニスを調整し、上記ワニスを、ポリエステルフィルムである三菱樹脂社製のMRF-38に剥離処理面上に塗工し、乾燥することにより得る樹脂組成物シート。」
2.対比・判断
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1の「電子部品」は、本件特許発明1の「電子デバイス」に相当する。
したがって、引用発明1の「電子部品封止用の熱硬化性樹脂組成物シートとして用いられ、実装基板上の電子部品搭載エリアに合わせて積載されるシートBの上に積載され、シートBおよび電子部品を被覆した状態となるシートAに該当する樹脂組成物シート」は、本件特許発明1の「電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シート」に相当する。
b.ブチルアクリレート、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレートからなるアクリル系共重合体が、熱可塑性樹脂であることは技術常識であるから(例えば、特開2011-74125号公報の段落【0100】及び【0107】には、「アクリル系エラストマー」である「アクリロニトリル-ブチルアクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体」が「熱可塑性エラストマー」であることが示されている。)、引用発明1の「ブチルアクリレート、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレートからなるアクリル系共重合体である可撓性付与剤」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。
c.引用発明1の「無機質充填剤I~無機質充填剤III」は、本件特許発明1の「無機充填剤」に相当する。
d.樹脂組成物シートの組成とは、樹脂組成物シートに含まれる成分と、樹脂組成物シートの全体に対する各成分の含有量とを表すものであると解するのが自然であるから、引用発明1の「樹脂組成物シートの組成において、無機質充填剤I~無機質充填剤IIIは合計で78重量%~89重量%」であることは、本件特許発明1の「前記無機充填剤の含有量が、封止用シート全体に対して78~91重量%であり、」に相当する。
e.本件特許発明1の封止用シートは、「一方の面の表面粗さ(Ra)が、3μm以下である」ものであるが、引用発明1には、その旨の特定がされていない。
上記aないしeから、本件特許発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、以下の点で一応相違している。
<一致点>
電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シートであって、
熱可塑性樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記無機充填剤の含有量が、封止用シート全体に対して78~91重量%であることを特徴とする封止用シート。
<相違点>
本件特許発明1の封止用シートは、「一方の面の表面粗さ(Ra)が、3μm以下である」ものであるが、引用発明1には、その旨の特定がされていない。
そこで、上記相違点について検討する。
本件特許明細書の記載(例えば、段落【0035】や段落【0072】を参照)によれば、封止用シートの表面粗さ(Ra)は、無機充填剤の粒子経(平均粒子径、最大粒子経など)や配合量によって調整できるものであるところ、本件特許明細書に記載される「実施例3」について、本件特許明細書の【表1】を参照すると、無機充填剤である「フィラーC」は、「電気化学工業社製のFB-7SDC」であり、「フィラーC」の配合量は「87.9」重量%であり、「実施例3」の封止用シートの表面粗さ(Ra)は、「0.034」μm又は「0.041」μmである。
一方、引用発明1のうちの樹脂シート6及び樹脂シート7について、無機質充填剤を構成する無機質充填剤I~無機質充填剤IIIのうち、無機質充填剤Iは、電気化学工業社製のFB-7SDCであり、無機質充填剤II及び無機質充填剤IIIは無機質充填剤Iよりも平均粒径や最大粒径が小さいものである。また、樹脂シート6及び樹脂シート7の無機質充填剤の配合量は、87重量%(56.6+17.4+13.0)及び89重量%(57.9+17.8+13.3)である。
してみると、引用発明1のうち樹脂シート6及び樹脂シート7は、本件特許明細書に記載される「実施例3」と同一の無機充填剤であるFB-7SDCと、それより小さい粒子径の無機充填剤を用いるものであり、かつ、無機充填剤の配合量(87重量%及び89重量%)が本件特許明細書に記載される「実施例3」の無機充填剤の配合量(87.9重量%)とほぼ同じ値であるから、引用発明1のうち樹脂シート6及び樹脂シート7の表面粗さは、本件特許明細書に記載される「実施例3」の表面粗さである「0.034」μm又は「0.041」μmと同等の値かそれよりも小さい値となり、3μm以下である蓋然性が極めて高い。
また、引用発明1のうち樹脂シート1~5は、本件特許明細書に記載される「実施例3」と同一の無機充填剤であって、平均粒径5.8μm、最大粒径24μmの球状溶融シリカであるFB-7SDCと、それより小さい粒子径の無機充填剤を用いるものであり、無機充填剤の配合量(78重量%~85.1重量%)が本件特許明細書に記載される「実施例3」の無機充填剤の配合量(87.9重量%)よりも少ないものである。
ところで、FB-7SDCは、平均粒径や最大粒径が3μmよりも大きい無機充填剤であるから、配合量が多いほど樹脂シートの表面粗さの値は3μmよりも大きな値に近づくものである。
そして、樹脂シート1~5は、無機充填剤に関して、本件特許明細書に記載される「実施例3」と比較した場合に、本件特許明細書に記載される「実施例3」の無機充填剤であるFB-7SDCの配合量が少なくされ、さらに、FB-7SDCの一部が、FB-7SDCよりも小さい粒子径の無機充填剤(無機質充填剤II及び無機質充填剤III)に変更されているものであるから、FB-7SDCの配合量が少なくされていることにより、「実施例3」の表面粗さである「0.034」μm又は「0.041」μmよりも表面粗さの値が減少し、FB-7SDCの一部が、FB-7SDCよりも小さい粒子径の無機充填剤に変更されていることにより表面粗さの値がさらに減少していることになる。
したがって、引用発明1のうち樹脂シート1~5の表面粗さも、本件特許明細書に記載される「実施例3」の表面粗さである「0.034」μm又は「0.041」μmと同等の値かそれよりも小さい値となり、3μm以下である蓋然性が高い。
したがって、上記相違点は、実質的な相違ではない。
よって、本件特許発明1は、引用発明1と同一である。
また、本件特許発明1の無機充填剤の含有量は、78~91重量%であるのに対し、引用発明1の樹脂組成物シートの無機質充填剤の含有量は、78~89重量%の範囲内の離散的な値であるが、樹脂組成物シートの無機質充填剤の含有量を、離散的な各値に近い値に変更することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。
よって、本件特許発明1のうち、無機充填剤の含有量が、引用発明1の樹脂組成物シートの無機質充填剤の含有量と一致しない部分の発明は、引用発明1に基づいて当業者が容易になし得たものである。
なお、特許権者は、平成30年8月21日提出の意見書(「4-3-1」)において、「本件発明1の『封止用シート』に相当するのは、樹脂シートAと樹脂シートBとが一体化されたシート、又は、二枚のシートA,Bを全体としたシートである。樹脂シートAのみでは、封止用シートとして機能しないため、樹脂シートA(樹脂シート1~樹脂シート7)は、本件発明1の『封止用シート』に相当しない。・・・(中略)・・・以上より、引用発明1の『シートA,Bが積層一体化されたシート(電子部品封止用の熱硬化性樹脂組成物シート)』が、本件発明1の『封止用シート』に相当する、と認定されるべきである。」という旨を主張している。
しかし、本件特許発明1には、「電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シート」が、電子デバイスを封止する際に、具体的にどのように利用されるのか(例えば、単独で利用されるのか、他のシートとともに利用されるのか)を特定する記載はないため、本件特許発明1の「封止用シート」は、電子デバイスを封止する際に利用されるシートであると解するのが自然である。
したがって、引用発明1のシートAが、シートBとともに用いられることで電子部品の封止を行うものであったとしても、引用発明1のシートAは、電子部品封止用の熱硬化性樹脂組成物シートとして用いられるものであり、電子部品を封止する際に利用されるシートであるから、引用発明1の「シートAに該当する樹脂組成物シート」は、本件特許発明1の「電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シート」に相当するものである。
さらに、本件特許明細書には、封止を行うためのシートとして、電子デバイスを埋め込むことで封止するための「封止用シート10」(本件特許発明1の「封止用シート」に対応)だけでなく、「アンダーフィル用の樹脂シート24」を用いることが示されている(段落【0019】及び【0075】参照)。
そして、上記「第6 1.ア」によれば、引用文献1に記載されるシートBは、電子部品のアンダーフィルを行うものであるから、本件特許明細書に記載される「アンダーフィル用の樹脂シート24」と同様の機能を有するものであり、引用文献1に記載されるシートA(引用発明1の「樹脂組成物シート」に対応)は、オーバーモールドとしての役割も果たすものであり、引用文献1の図3(vi)のように、電子部品を埋め込むことで封止するものであるから、本件特許明細書に記載される「封止用シート10」(本件特許発明1の「封止用シート」に対応)と同様の機能を有するものである。
したがって、本件特許発明1の「電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シート」が、電子デバイスを埋め込むことで封止するものであったとしても、引用発明1の「樹脂組成物シート」は、本件特許発明1の「電子デバイスの封止に使用する熱硬化性の封止用シート」に相当するものである。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
また、特許権者は、平成30年8月21日提出の意見書(「4-3-4」)において、「つまり、表面粗さ(Ra)を3μm以下にしたいと考えた場合に、粒子径や配合量によって調整することができるのであり、粒子径や配合量を決めれば必然的に表面粗さが決まるわけではない。無機充填剤の粒子径や配合量以外にも、剥離シートの表面粗さ(Ra)によっても、表面粗さをコントロールできる(例えば、本件特許明細書の段落[0072])。また、本件特許明細書には記載されていないが、表面粗さは製膜条件(製膜前の樹脂組成物の粘度や、溶剤を使用する場合は溶剤の濃度等)によっても影響を受けると考えられる。そのため、封止用シートの表面粗さ(Ra)を3μm以下にするという意図をもって、無機充填剤の粒子径や配合量、剥離シートの表面粗さ(Ra)、製膜条件等を選択しなければ、封止用シートの表面粗さ(Ra)を3μm以下にすることはできない。取消理由通知書では、引用文献1の樹脂シート6、樹脂シート7の無機充填剤の粒子径と配合量が本件発明1の封止用シートと同程度であるから、必然的に、表面粗さが3μm以下になるような認定をしているが、この認定は誤りである。」という旨を主張している。
しかし、本件特許明細書の段落【0072】の「なお、封止用シート10は、適当な溶剤に封止用シート10を形成するための樹脂等を溶解、分散させてワニスを調整し、このワニスを剥離シートに塗工して得ることもできる。ワニスを塗工して封止用シート10を形成する場合、無機充填剤の含有量や粒径をコントロールすることにより、表面粗さを所望のものとすることができる。また、剥離シートの表面粗さ(Ra)を、3μm以下の範囲内とすることにより、剥離シート面側の塗布層(封止用シート10)の表面粗さを所望のものとすることもできる。」との記載は、封止用シート10を、ワニスを剥離シートに塗工して得る場合には、「無機充填剤の含有量や粒径をコントロールする」か、「剥離シートの表面粗さ(Ra)を、3μm以下の範囲内とする」かの、いずれかを行うことにより、封止用シート10の表面粗さを所望のものとすることができるものと解するのが自然である。
ところで、引用発明1の「樹脂組成物シート」は、「各成分材料を分散混合し、メチルエチルケトンを加えて、塗工用ワニスを調整し、上記ワニスを、ポリエステルフィルムである三菱樹脂社製のMRF-38に剥離処理面上に塗工し、乾燥することにより得る」ものであるから、ワニスを剥離シートに塗工して得るものであるといえる。
そして、上述したとおり、引用発明1の「樹脂組成物シート」は、本件特許明細書に記載される「実施例3」の表面粗さである「0.034」μm又は「0.041」μmと同等の値かそれよりも小さい値となるように、無機充填剤の含有量や粒径が選択されているものであるから、表面粗さが3μm以下の範囲内となるように、無機充填剤の含有量や粒径がコントロールされた結果と同じものであり、表面粗さは3μm以下の範囲内となっている蓋然性が高い。
さらに、引用発明1の「樹脂組成物シート」は、「ポリエステルフィルムである三菱樹脂社製のMRF-38に剥離処理面上に塗工」されるものであるから、「三菱樹脂社製のMRF-38」を剥離シートとして用いるものであるといえる。
ところで、本件特許明細書の段落【0100】には「セパレータ(三菱化学社製、製品名「MRF38」、表面粗さ0.038μm)」と記載されており、「MRF38」が、引用発明1の「三菱樹脂社製のMRF-38」と同じものであることは明らかである。
してみると、引用発明1の剥離シートである「三菱樹脂社製のMRF-38」は、表面粗さが0.038μmであり、引用発明1の剥離シートの表面粗さ(Ra)は、3μm以下の範囲内である。
したがって、本件特許明細書の段落【0072】の記載が、「無機充填剤の含有量や粒径をコントロール」し、かつ、「剥離シートの表面粗さ(Ra)を、3μm以下の範囲内とする」ことにより、封止用シート10の表面粗さを所望のものとすることを意味するものであったとしても、引用発明1の「樹脂組成物シート」の表面粗さは3μm以下の範囲内である蓋然性が高い。
また、特許権者も認めているとおり、表面粗さが製膜条件によっても影響を受けることは、本件特許明細書には記載されておらず、引用発明1の「樹脂組成物シート」が、表面粗さが3μm以下の範囲内とはならないような製膜条件で形成されていることが、引用文献1に記載されているものとも認められないため、製膜条件に関する特許権者の上記主張も採用することはできない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成要件を全て含み、さらに、封止用シートの「前記一方の面側に、着色剤が添加されている」との限定を付加したものである。
ここで、上記「第6 1.イ」によれば、引用文献1には、シートAを構成するエポキシ樹脂組成物に「顔料」を適宜配合することも記載されている。
したがって、引用文献1には、引用発明1に、顔料を配合した発明(以下「引用発明2」という。)も記載されている。
そして、引用発明2の「顔料」は、本件特許発明2の「着色剤」に相当し、引用発明2においてシートAに顔料が配合されていることにより、シートAの一方の面側にも当該顔料が添加されることは明らかである。
よって、上記(1)も踏まえると、本件特許発明2は、引用発明2と同一である。
また、本件特許発明2のうち、無機充填剤の含有量が、引用発明2の樹脂組成物シートの無機質充填剤の含有量と一致しない部分の発明は、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700331