特許異議申立
2024-700997
ホログラム記録用組成物、ホログラム記録媒体、ホログラム、及びこれを用いた光学装置、光学部品
- 審判番号
- 2024-700997
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-555945
- 登録番号
- 7468544
- 請求日
- 2024年10月10日
- 審決日
- 2025年03月19日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ソニーグループ株式会社
- 【権利者代理人】渡邊 薫
- 【異議申立人】奥村 安記子
- 審判長/審判官
- 審判長 千葉 輝久
- 審判官 伊藤 隆夫
- 審判官 樫本 剛
- 分類
- P1651.113-ZC (G11B) / P1651.121-ZC (G11B) / P1651.536-ZC (G11B) / P1651.537-ZC (G11B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7468544号発明「ホログラム記録用組成物、ホログラム記録媒体、ホログラム、及びこれを用いた光学装置、光学部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7468544号の請求項1~3、6、8~12に係る特許を取り消す。
同請求項4、5、7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7468544号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)10月6日(優先権主張 令和元年11月11日)を国際出願日とする出願であって、令和6年4月8日にその特許権の設定登録がされ、同年4月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年10月10日に特許異議申立人奥村安記子(以下「申立人」という。)により本件特許の全請求項(請求項1~12)に対して特許異議の申立てがされた。
そして、特許権者に対して同年12月17日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
令和7年2月27日に申立人から上申書が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明12」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1~12の記載は次のとおりである。
〔本件発明1〕【請求項1】
ラジカル重合性モノマーと、マトリクス樹脂と、を少なくとも含み、
ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有することになる、ホログラム記録用組成物。
〔本件発明2〕【請求項2】
前記断面観察像をフーリエ変換したときに、パワースペクトラムの原点と異なる波数位置において、周期構造由来ピークが観察される、請求項1記載のホログラム記録用組成物。
〔本件発明3〕【請求項3】
前記周期構造由来ピークが、ベースラインのノイズ波形の3倍以上の高さを有する、請求項2記載のホログラム記録用組成物。
〔本件発明4〕【請求項4】
屈折率変調量Δnが、0.04以上である、請求項1記載のホログラム記録用組成物。
〔本件発明5〕【請求項5】
回折格子構造の明瞭度が、2nm以上である、請求項1記載のホログラム記録用組成物。
〔本件発明6〕【請求項6】
さらに重合禁止剤及び/又はアントラセン系化合物を含む、請求項1記載のホログラム記録用組成物。
〔本件発明7〕【請求項7】
前記ラジカル重合性モノマーが、屈折率の異なる複数のラジカル重合性モノマーである、請求項1記載のホログラム記録用組成物。
〔本件発明8〕【請求項8】
ラジカル重合性モノマーと、マトリクス樹脂と、を少なくとも含み、
ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有することになる、光硬化性樹脂層を有する、ホログラム記録媒体。
〔本件発明9〕【請求項9】
ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有する、ホログラム記録フィルム。
〔本件発明10〕【請求項10】
請求項8記載のホログラム記録媒体を用いて得られた、ホログラム。
〔本件発明11〕【請求項11】
請求項10記載のホログラムを有する光学装置。
〔本件発明12〕【請求項12】
請求項10記載のホログラムを有する光学部品。
第3 特許異議申立理由
特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(理由1:新規性)
本件発明1~12は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(理由2:進歩性)
本件発明1~12は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(理由3:サポート要件、実施可能要件)
本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の請求項1~12の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(理由4:明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~12の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
甲第1号証:国際公開第2018/043593号
甲第2号証:特開2009-104099号公報
甲第3号証:特開2011-39452号公報
甲第4号証:宍戸厚、佐々木宏二、山本里江子、池田富樹、
「ホログラフィーを利用した光学異方性二次元周期構造体
の創製」、高分子学会予稿集、2005年、Vol.54、
No.1、2A03IL、28~30頁
第4 甲号証について
1 甲第1号証について
(1)記載事項
甲第1号証には次の記載がある。なお、以降の下線は当審において付されたものである。
「[請求項1] 少なくとも2種の光重合性モノマーと、光重合開始剤と、バインダー樹脂と、重合禁止剤とを、少なくとも含み、
該少なくとも2種の光重合性モノマーが、単官能モノマーと多官能モノマーとである、ホログラム記録用感光性組成物。」
「[0006] しかしながら、特許文献1~2で提案された技術では、回折特性の更なる向上が図れないおそれがある。
[0007] そこで、本技術は、このような状況に鑑みてなされたものであり、回折特性を更に向上させることが実現できるホログラム記録用感光性組成物、ホログラム記録媒体及びホログラムを提供することを主目的とする。
[0008] 本発明者らは、上述の目的を解決するために鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、回折特性を飛躍的に向上させることに成功し、本技術を完成するに至った。
[0009] すなわち、本技術では、まず、少なくとも2種の光重合性モノマーと、光重合開始剤と、バインダー樹脂と、重合禁止剤とを、少なくとも含み、該少なくとも2種の光重合性モノマーが、単官能モノマーと多官能モノマーとである、ホログラム記録用感光性組成物を提供する。」
「[0025] 本発明者らは、加熱工程なしに高い屈折率変調量(Δn)を得るためには、干渉露光中、明部で重合を促進しつつ、暗部で重合を抑制することが必要であると見出した。そして、ホログラム記録用感光性組成物に含まれる重合禁止剤が干渉露光時に暗重合を抑制することによって、屈折率変調が促進されて、高い回折特性が得られることを突き止めた。」
「[0176] <実施例2~4>
(ホログラム記録用感光性組成物2~4の作製)
実施例2では、増感色素としてローズベンガル(SIGMA ALDRICH社製、「RB」)を用い、実施例3では、バインダー樹脂としてポリ酢酸ビニル(電気化学工業社製、「SN-55T」)及び連鎖移動剤として2-メルカプトベンゾオキサゾール(東京化成工業製、「2-MBO」)を用い、実施例4では、バインダー樹脂としてポリ酢酸ビニル(電気化学工業社製、「SN-55T」)、増感色素としてローズベンガル(SIGMA ALDRICH社製、「RB」)及び連鎖移動剤として2-メルカプトベンゾオキサゾール(東京化成工業製、「2-MBO」)を用いた以外は実施例1と同様な材料を用いて、下記の表1に示した添加量に従って実施例1と同様な方法でホログラム記録用感光性組成物2~4を作製した。」
「[0214] <実施例43>
(ホログラム記録用感光性組成物43の作製)
多官能(2官能)の光重合性モノマーとして、化合物5-5を1.1g、単官能の光重合性モノマーとして、化合物5-1を0.3g、バインダー樹脂として、ポリ酢酸ビニル(電気化学工業社製、「SN-55T」)0.5g、光重合開始剤として、4-イソプロピル-4‘-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(東京化成工業社製、「DI」)0.09g、重合禁止剤としてヒドロキノン(和光純薬社製、「HQ」)0.03g、可塑剤としてセバシン酸ジエチル(和光純薬社製、「SDE」)1g、増感色素)として、ローズベンガル(SIGMA ALDRICH社製、「RB」)0.08g、及び溶媒としてアセトン8gを常温で混合し、ホログラム記録用感光性組成物43を調製した。
[0215] (ホログラム記録媒体43の作製)
ホログラム記録用感光性組成物43を、2.5μm厚のポリビニルアルコールフィルム上にバーコーターで乾燥膜厚が3μmになるように塗布し、次いで、1.0mm厚のガラス基板上に、ホログラム記録用感光性組成物樹脂43から構成される感光層43の薄膜面を圧着して、ホログラム記録媒体43を作製した。
[0216] (ホログラム43の作製)
ホログラム記録媒体43に対し、露光波長532nmの半導体レーザを用い、二光速露光を行った後、UV光を全面に照射することで未硬化モノマーを硬化させ、屈折率分布を媒体43に固定した。二光速露光の条件は、記録媒体上での片光束の光強度を2.6mW/cm2として、30秒間露光を行い、二光束の成す角度が7°となるよう干渉露光を行った。これによりホログラム記録媒体43に屈折率分布を形成し、ホログラム43を作製した。
[0217] (ホログラム43の評価)
作製されたホログラム43の屈折率変調量(Δn)は、上記のKogelnikの理論式を用いて算出したところ、屈折率変調量(Δn)は0.091であった。」
「[0270] <実施例83~88>
(ホログラム記録用感光性組成物81~82の作製)
実施例83及び86では、多官能(2官能)の光重合性モノマーとしてビスフェノキシエタノールフルオレンジメタアクリレート(大阪ガスケミカル社製、「EA-0200」)を用い、単官能の光重合性モノマーとして、N-ビニルカルバゾール(SIGMA-ALDRICH社製、「NVC」)を用い、重合禁止剤として、フェノチアジン(東京化成工業社製、「PT」)を用い、また、実施例84及び87では、多官能(2官能)の光重合性モノマーとしてビスフェノキシエタノールフルオレンジメタアクリレート(大阪ガスケミカル社製、「EA-0200」)を用い、単官能の光重合性モノマーとして、アクリル酸 2(9H-カルバゾール-9-イル)エチル(SIGMA-ALDRICH社製、「EACz」)を用い、重合禁止剤として、フェノチアジン(東京化成工業社製、「PT」)を用い、さらに、実施例85及び88では、多官能(2官能)の光重合性モノマーとしてビスフェノキシエタノールフルオレンジメタアクリレート(大阪ガスケミカル社製、「EA-0200」)を用い、単官能の光重合性モノマーとして、9H-カルバゾール-9-エチルメタクリラート(SIGMA-ALDRICH社製、「EMCz」を用い、重合禁止剤として、フェノチアジン(東京化成工業社製、「PT」)を用いた以外は、実施例43と同様な材料を用いて、下記の表15に示した添加量に従って実施例43と同様な方法でホログラム記録用感光性組成物83~88を作製した。(当審注:上記「81~82」は、「83~88」の誤記と認めた。)
[0271] (ホログラム記録媒体83~88の作製)
作製されたホログラム記録用感光性組成物83~88を用いて、実施例43と同様な方法でホログラム記録媒体83~88を作製した。
[0272] (ホログラム83~88の作製)
作製されたホログラム記録媒体81~82を用い、表14に示した条件で露光を行った以外は実施例43と同様な方法でホログラム81~82を作製した。(当審注:上記「81~82」(2か所)及び「表14」は、それぞれ「83~88」及び「表15」の誤記と認めた。)
[0273] (ホログラム83~88の評価)
作製されたホログラム83~88のそれぞれの屈折率変調量(Δn)を、実施例43と同様な方法で求めた。・・・ホログラム87のΔnは、0.062であり・・・」
「[0294][表15]
[図:0001423524000001.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)の表15における「連鎖移動剤」の「2-MBO」は、[0176]に記載の「2-メルカプトベンゾオキサゾール(東京化成工業製、「2-MBO」)」のことと認められる。
上記(1)から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
〔甲1発明〕
多官能(2官能)の光重合性モノマーとして、ビスフェノキシエタノールフルオレンジメタアクリレート(大阪ガスケミカル社製、「EA-0200」)1.1g、
単官能の光重合性モノマーとして、アクリル酸 2(9H-カルバゾール-9-イル)エチル(SIGMA-ALDRICH社製、「EACz」)0.4g、
重合禁止剤として、フェノチアジン(東京化成工業社製、「PT」)0.005g、
バインダー樹脂として、ポリ酢酸ビニル(電気化学工業社製、「SN-55T」)0.7g、
光重合開始剤として、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(東京化成工業社製、「DI」)0.3g、
可塑剤としてセバシン酸ジエチル(和光純薬社製、「SDE」)1g、
増感色素としてローズベンガル(SIGMA ALDRICH社製、「RB」)0.07g、
連鎖移動剤として2-メルカプトベンゾオキサゾール(東京化成工業製、「2-MBO」)0.02g、及び
溶媒としてアセトン8g
を用いて作製されたホログラム記録用感光性組成物87。
2 甲第2号証について
(1)記載事項
甲第2号証には次の記載がある。
「【0021】
図1は、本発明の体積ホログラム積層体の断面模式図であり、基材1上に部分的に設けられた樹脂層2、さらに前記基材1上および樹脂層2上に隣接してラジカル重合性モノマーおよびカチオン重合性モノマーを含有する体積ホログラム記録材料由来の体積ホログラム層3が積層されたものである(図1(a))。
ここで、上記図1(a)においては、上記基材1と樹脂層2とが隣接している態様について例示したが、本発明の体積ホログラム積層体はこのような対応に限定されるものではなく、例えば基材1と樹脂層2との間にプライマー層8が形成された態様であってもよい(図1(b))。」
「【0034】
本発明に用いられる体積ホログラム記録材料層は、光重合性材料を含有し、コントラストの高いホログラム像を記録することが可能になるという観点から、特にラジカル重合性モノマーとカチオン重合性モノマーとを併用することが好ましく、光ラジカル重合開始剤系、光カチオン重合開始剤系と共に用いられる。」
「【0036】
本発明に用いられるラジカル重合性モノマーは、体積ホログラム層を形成する際に、例えばレーザー照射等によって、光ラジカル重合開始剤系から発生した活性ラジカルの作用により重合する化合物であり、分子中に少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有するものが好ましい。
【0037】
ラジカル重合性モノマーとしては、例えば・・・2-フェノキシエチルアクリレート、・・・が挙げられ、これらを1種または2種以上混合して用いることができる。」
「【0040】
ここで、体積ホログラム層は、例えばレーザー光またはコヒーレンス性の優れた光等によってラジカル重合性化合物を重合させて干渉縞を形成し、ホログラム像を形成するものである。したがって、ラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物は、通常、それぞれにおける屈折率が異なるものが選択されて用いられるとよい。本発明に用いられるラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物との屈折率の大小関係は特に限定されるものではないが、なかでも材料選択性の面からラジカル重合性化合物の平均屈折率が上記カチオン重合性化合物のそれよりも大きいことが好ましく、具体的には、平均屈折率の差が0.02以上であることが好ましい。これは、ラジカル重合性化合物と上記カチオン重合性化合物との平均屈折率の差が上記値より低い場合には、屈折率変調が不十分となり、高精細なホログラム像を形成することが困難となる場合がある。なお、ここでいう平均屈折率とは、カチオン重合性化合物またはラジカル重合性化合物を重合させた後の重合体について測定する屈折率の平均値をいう。また、本発明における平均屈折率は、アッペ屈折計により測定された値を意味するものとする。
【0041】
また、光重合性材料としてラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物とが用いられる場合、本工程における体積ホログラムの記録は、通常、干渉露光した際に干渉縞の光強度の大きい部分にてラジカル重合性化合物を重合させた後、全面にエネルギーを照射することによりカチオン重合性化合物等の未硬化の物質を重合させることによって行われる。このとき、ホログラム像を形成する際のレーザー等と、全面にエネルギー照射されるエネルギーとは、通常、異なる波長のものが用いられることから、本発明に用いられるカチオン重合性化合物は、ホログラム像を形成する際に用いられる光源の波長で重合しない化合物であることが好ましい。また、上記ラジカル重合性化合物の重合が、比較的低粘度の組成物中で行われることが好ましいという点から、本発明に用いられるカチオン重合性化合物は、常温で液状であることが好ましい。」
「【0085】
(実施例1)
(1) 体積ホログラム積層体の作製
基材として、厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラー50T60;東レ(株)製)を用い、上記基材上に重量平均分子量が100,000であるポリメチルメタクリレートのメチルエチルケトン溶媒に溶解された樹脂層形成用途工液を用い、グラビア印刷法によりパターン状に樹脂層を塗布形成し、乾燥膜厚が2μmのパターニングされた樹脂層を形成した。
【0086】
次に、上記樹脂層上に、以下の組成を有する体積ホログラム層形成用塗工液をアプリケータを使用して、乾燥膜厚10μmとなるように直接塗工して体積ホログラム層を形成した。
(体積ホログラム層形成用塗工液)
・ポリ酢酸ビニル(デンカサクノールSN-08H:重合度800;電気化学工業(株)製) ・・・ 35重量部
・1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(デナコールEX-212;ナガセケムテックス(株)製) ・・・ 25重量部
・ジフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート(BPEFA;大阪ガスケミカル(株)製) ・・・ 35重量部
・ジアリールヨードニウム塩(PI2074;ローディア製) ・・・ 4重量部
・2,5-ビス(4-ジエチルアミノベンジリデン)シクロペンタノン ・・・ 1重童部
・メチルイソブチルケトン 100重量部
・1-ブタノール 100重量部
【0087】
(2) エージング工程
得られた体積ホログラム積層体を室温で24時間放置してエージング処理した。エージング処理後、樹脂層をIR分析装置(日本分光(株)製FT/IR-610)により分析したところ、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとジフェノキシエタノールフルオレンジアクリレートが含まれていることが確認された。
【0088】
(3) ホログラム撮影工程
体積ホログラム積層体における体積ホログラム層上にホログラム原版をラミネートし、基材側から532nmレーザー光を80mJ/cm2入射して、体積型ホログラムを記録した。記録後、ホログラム原版を剥離し、厚み50μmのPETフィルムを体積ホログラム層上にラミネートした。
【0089】
(4) 加熱処理-紫外線照射処理工程
ホログラム記録後の体積ホログラム積層体を、100℃で10分間加熱処理した後、紫外線(3,000mJ/cm2)を全面に照射し、ホログラムを固定し、体積ホログラム積層体を得た。
【0090】
図7は、得られた体積ホログラム積層体において、樹脂層が積層されている箇所における縦断面の走査型電子顕微鏡写真(15,000倍)の70%縮小複写物である。図7における1は基材、2は樹脂層、3は体積ホログラム層であり、樹脂層2には間隔116nmで干渉縞が記録され、また、体積ホログラム層3には間隔186nmで干渉縞が記録されていることがわかる。」
「【図7】
[図:0001423524000002.jpg]
」
(2)甲2発明
上記(1)から、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。なお、各構成の末尾括弧内に、対応する記載箇所を付した。
〔甲2発明〕
基材1上に部分的に設けられた樹脂層2、さらに前記基材1上および樹脂層2上に体積ホログラム層3が積層された体積ホログラム積層体における、体積ホログラム層形成用塗工液であって、(【0021】、【0086】)
ジフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート(BPEFA)及びポリ酢酸ビニルを含み、(【0086】)
体積ホログラムの記録は、干渉露光した際に干渉縞の光強度の大きい部分にてラジカル重合性化合物を重合させた後、全面にエネルギーを照射することによりカチオン重合性化合物等の未硬化の物質を重合させることによって行われ、(【0041】)
前記体積ホログラム層形成用塗工液から形成された体積ホログラム層の縦断面の走査型電子顕微鏡写真には間隔186nmで干渉縞が記録されていることがわかる(【0086】、【0090】)
体積ホログラム層形成用塗工液。
3 甲第3号証について
(1)記載事項
甲第3号証には次の記載がある。
「【請求項1】
基板上に誘電体薄膜を積層する積層工程と、レーザ光を照射することにより、記録すべき情報に応じた凹凸を有する微細構造を前記誘電体薄膜の表面に形成する微細構造形成工程と、帯電により、前記誘電体薄膜の表面に形成した微細構造の凹凸を前記基板の表面に転写する転写工程と、該転写後の基板から前記誘電体薄膜を除去する除去工程と、前記誘電体薄膜を除去した後の前記基板を長時間に渡って高温に加熱することにより、該基板の前記凹凸の深さを増大させる長時間高温加熱工程と、帯電により、該長時間高温加熱後の前記基板に、前記凹凸に沿ったドットパターンを形成するドットパターン形成工程と、を備えたことを特徴とする情報記録媒体の製造方法。」
「【0022】
この基板10’の表面粗さは、サブミクロンのオーダの精度で情報を高密度記録するため、1nmから1000nm程度であることが望ましい。この表面粗さは、原子間力顕微鏡により測定される。」
4 甲第4号証について
(1)記載事項
甲第4号証には次の記載がある。
「<緒言>
近年、光の波長程度の周期で屈折率が変化する周期構造体の作成や評価に関する研究が盛んに行われている。中でも光の干渉を用いるホログラフィーは、光の波長程度の周期構造体を簡単に作製する有力なアプローチである。」(28頁1~4行)
「<実験・考察>
得られたフィルムのAFM観察を行った結果を図3に示す。フィルム表面に間隔2.7μmの周期的な凹凸が形成されることが明らかとなった。」(29頁11~14行)
第5 当審の判断
1 理由1(新規性)について
(1)甲1発明に基づく新規性について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
本件発明1のホログラム記録用組成物には、本件明細書の【0149】【表1】(次表)における組成物1~3(ホログラム断面において回折格子構造が観察できたもの)が少なくとも含まれる。
また、本件明細書の【0146】によれば、上記組成物の溶媒にはアセトンが用いられている。
「
[図:0001423524000003.jpg]
」
甲1発明のホログラム記録用感光性組成物87は、組成物3と、ラジカル重合性モノマー(ビスフェノキシエタノールフルオレンジメタアクリレート及びアクリル酸2-(9H-カルバゾール-9-イル)エチル)、マトリクス樹脂(ポリ酢酸ビニル)、増感色素(ローズベンガル)、開始剤(4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート)、連鎖移動剤(2-メルカプトベンゾオキサゾール)、重合禁止剤(フェノチアジン)及び溶媒(アセトン)について、同じ化合物が用いられている。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「ラジカル重合性モノマーと、マトリクス樹脂と、を少なくとも含」む「ホログラム記録用組成物」である点で共通する。
甲1発明のホログラム記録用感光性組成物87は、可塑剤が用いられている点で、本件発明1に含まれる組成物3と共通するが、甲1発明のホログラム記録用感光性組成物87の可塑剤であるセバシン酸ジエチル(和光純薬社製、「SDE」)は、本件発明1に含まれる組成物3の可塑剤(本件明細書の【0147】)である1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、「EX-212L」)と異なるものである。
また、組成比についても、例えば、ラジカル重合性モノマーの「ビスフェノキシエタノールフルオレンジメタアクリレート」を基準(1)とした場合、甲1発明のホログラム記録用感光性組成物87の可塑剤であるセバシン酸ジエチル(和光純薬社製、「SDE」)は、0.91であるのに対し、本件発明1に含まれる組成物3の可塑剤である1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、「EX-212L」)は、0.82であり、両者の組成比は相違する。
ここで、本件明細書の【0107】の「可塑剤は、ホログラム記録用組成物の接着性、柔軟性、硬さ及びその他の物理的特性を調製するために有効である。」との記載によれば、本件実施例の可塑剤と異なる可塑剤を、本件実施例の可塑剤と異なる組成比で用いると、接着性、柔軟性、硬さ及びその他の物理的特性に差異が生じうると認められるから、甲1発明のホログラム記録用感光性組成物87により形成されるホログラムの断面観察像が、本件実施例と同様に「AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有する」とまではいうことができない。
よって、甲1発明は本件発明1の構成を備えたものとはいえないから、本件発明1は、甲第1号証に記載されたものではない。
イ 本件発明2~12について
本件発明2~7は、本件発明1の構成を備えるものであり、上記アのとおり、甲1発明は本件発明1の構成を備えたものとはいえないから、本件発明2~7は甲第1号証に記載されたものではない。
本件発明8、9は、本件発明1と同等の「ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有する」との構成を備えるものであり、甲1発明は、当該構成を備えたものとはいえないから、本件発明8、9は甲第1号証に記載されたものではない。
本件発明10~12は、本件発明8の構成を備えるものであり、上記のとおり、甲8発明は本件発明1の構成を備えたものとはいえないから、本件発明10~12は甲第1号証に記載されたものではない。
(2)甲2発明に基づく新規性について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明を対比する。
本件発明1のホログラム記録用組成物には、本件明細書の【0149】【表1】(上記(1)アを参照。)における組成物1~3(ホログラム断面において回折格子構造が観察できたもの)が少なくとも含まれる。
そうすると、甲2発明の「ジフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート(BPEFA)」、「ポリ酢酸ビニル」、及びこれらを含む「体積ホログラム層形成用塗工液」は、本件発明1の「ラジカル重合性モノマー」、「マトリクス樹脂」、及び「ラジカル重合性モノマーと、マトリクス樹脂と、を少なくとも含」む「ホログラム記録用組成物」にそれぞれ相当する。
そして、甲2発明の前記体積ホログラム層形成用塗工液から形成された体積ホログラム層は、縦断面の走査型電子顕微鏡写真には間隔186nmで干渉縞が記録されていることがわかるものであり、走査型電子顕微鏡は表面形状を測定するものであるから、走査型電子顕微鏡写真における干渉縞は表面凹凸形状である回折格子構造を捉えたものと認められる。また、当該体積ホログラムの形状が「フィルム」状のものにおいても、縦断面が前記体積ホログラム層と同等の構造を有することは明らかである。
ここで、原子間力顕微鏡法(AFM)は、走査型電子顕微鏡と同様に微細な表面凹凸形状を測定可能なものであり、前記間隔186nmの干渉縞に対応する表面凹凸形状は、原子間力顕微鏡法(AFM)でも観察することが可能なものといえる。
また、本件明細書の【0031】の「本実施形態において、「材料密度差」とは、光反応誘起相分離に由来し、光反応によって重合した部分が高密度に、誘起されない部分が低密度になることによって生じた密度差を意味する。」との記載によれば、「材料密度差」は光反応誘起相分離に由来して生じたものである。甲2発明は、体積ホログラムの記録が、干渉露光した際に干渉縞の光強度の大きい部分にてラジカル重合性化合物を重合させた後、全面にエネルギーを照射することによりカチオン重合性化合物等の未硬化の物質を重合させることによって行われるから、甲2発明の体積ホログラム記録材料層も、光反応誘起相分離に由来して生じた材料密度差を有するものであり、本件発明1の「材料密度差がある」に相当する構成を備えるものといえる。
以上から、甲2発明の体積ホログラム記録材料層(ホログラム記録フィルム)は、本件発明1でいう「ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有することになる」に相当する構成を備えるものといえる。
以上から、甲2発明は、本件発明1の全ての構成を備えたものといえるから、本件発明1は甲第2号証に記載されたものである。
イ 本件発明2、3について
甲第2号証の図7(前記3(2)ア参照。)の走査型電子顕微鏡写真における体積ホログラム層の干渉縞は、周期的に配列されているものと認められ、原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときも、断面観察像をフーリエ変換したときに、パワースペクトラムの原点と異なる波数位置において、ベースラインのノイズ波形の3倍以上の高さを有する周期構造由来ピークが観察される程度のものと解される。
したがって、本件発明2、3は甲第2号証に記載されたものである。
ウ 本件発明8について
甲2発明の「体積ホログラム層」は、本件発明8の「ホログラム記録媒体」に相当する。
したがって、本件発明8は甲第2号証に記載されたものである。
エ 本件発明10について
甲第2号証の「体積ホログラム積層体」は、本件発明10の「ホログラム」に相当する。
したがって、本件発明10は甲第2号証に記載されたものである。
2 理由2(進歩性)について
(1)甲2発明に基づく進歩性について
ア 本件発明4について
甲第1号証には、屈折率変調量Δnが0.04以上のホログラム記録用組成物(実施例87等)が記載されているが、仮に、当該構成を甲2発明に適用したとしても、「ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有することになる」構成を備えるか不明である。
また、甲第3、4号証には、屈折率変調量Δnについての記載や示唆は存在しない。
したがって、本件発明4は、当業者が甲第1~4号証に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明5について
回折格子構造の明瞭度が2nm以上であることは、甲第1~4号証のいずれにも記載されていない。
したがって、本件発明5は、当業者が甲第1~4号証に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明6について
甲第1号証の[0025]等には、ホログラム記録用感光性組成物に重合禁止剤を含ませることにより高い回折特性が得られることが記載されており、甲2発明の体積ホログラム層形成用塗工液において、回折特性を高めるとの周知の課題に基づき重合禁止剤を含ませることは、当業者が容易に想到しうることである。
したがって、本件発明6は、当業者が甲2発明及び甲第1号証に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
エ 本件発明7について
甲第1号証には、ラジカル重合性モノマーが、屈折率の異なる複数のラジカル重合性モノマーであること(【0048】等)が記載されているが、仮に、当該構成を甲2発明に適用したとしても、「ホログラム記録フィルムを原子間力顕微鏡法(AFM)によって観察したときの断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有することになる」構成を備えるか不明である。
また、甲第3、4号証には、ラジカル重合性モノマーが、屈折率の異なる複数のラジカル重合性モノマーであることについての記載や示唆は存在しない。
したがって、本件発明7は、当業者が甲第1~4号証に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明9について
ホログラムの形状をフィルム状とすることは、当業者が適用分野等に応じて適宜設計する事項にすぎない。
したがって、本件発明9は、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
カ 本件発明11、12について
ホログラムを光学装置や光学部品に用いることは、周知技術である。
したがって、本件発明11、12は、当業者が甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
3 理由1(新規性)、理由2(進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~3、8、10は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~3、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、本件発明6、9、11、12は、甲2発明、甲第1号証に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6、9、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明4、5、7は、甲第2号証に記載されたものではなく、甲2発明及び甲第1、3、4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
4 理由3(サポート要件、実施可能要件)について
サポート要件、実施可能要件についての特許異議申立理由は、次のとおりである。
ア 本件明細書の表3の結果から明らかなように「回折格子観察の可否」が「可」と評価されるためには、組成物1~3のように、特定の重合禁止剤(フェノチアジン)及び特定のアントラセン系化合物(9,10-ジブトキシアントラセン)の少なくとも一方を用いることが必要であるが、本件発明1、8、9ではこれらの点が特定されておらず、本件発明1、8、9の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。また、発明の詳細な説明は、本件発明1、8、9について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ 本件明細書の【0157】には「AFMで取得した形状像におけるフィルム該当部分において、高低差2nm以上の凹凸による回折格子模様が観察される場合、回折格子の観察ができた「可」とし、高低差2mnm未満の場合の回折格子の観察ができなかった「否」とする。」と記載されているが、本件発明1、8、9ではこの点が特定されておらず、本件発明1、8、9の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。また、発明の詳細な説明は、本件発明1、8、9について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
上記各申立理由について検討する。
(理由アについて)
本件明細書の【0026】の「具体的には、本発明者らが鋭意検討した結果、ホログラムの膜断面のAFM測定を行い、形状像や位相像、誤差信号像、弾性率像などの機械物性を反映した像において、回折格子に対応する周期構造が観察可能であるとき、膜内部における材料密度分布及び材料分離性が良く、回折特性の向上したホログラム記録フィルムが形成されていることを見出した。」との記載によれば、本件発明は、AFMによる観察結果を用いることによってなされたものであり、「回折格子観察の可否」が「可」と評価された実施例の材料は、一例にすぎないから、AFMによる観察結果により発明を特定する本件発明1、8、9は、発明の詳細な説明に記載したものであるし、発明の詳細な説明も当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(理由イについて)
本件明細書の【0026】の「具体的には、本発明者らが鋭意検討した結果、ホログラムの膜断面のAFM測定を行い、形状像や位相像、誤差信号像、弾性率像などの機械物性を反映した像において、回折格子に対応する周期構造が観察可能であるとき、膜内部における材料密度分布及び材料分離性が良く、回折特性の向上したホログラム記録フィルムが形成されていることを見出した。」との記載によれば、本件発明は、AFMによるホログラムの膜断面の観察結果を用いることによってなされたものであり、実施例における凹凸の具体的高低差は、一例にすぎないから、AFMによるホログラムの膜断面の観察結果により発明を特定する本件発明1、8、9は、発明の詳細な説明に記載したものであるし、発明の詳細な説明も当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
以上から、サポート要件、実施可能要件についての特許異議申立理由によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
5 理由4(明確性)について
明確性についての特許異議申立理由は、次のとおりである。
ア 本件明細書には「材料密度差」によりフィルムの切断面に凹凸が生じる理由が全く記載されていないから、本件発明1、8、9における「材料密度差があることを示す回折格子構造」は不明確である。
イ 本件発明1、8、9は、AFMの機種(性能)及び測定条件が特定されていないから、「AFMで観察しうる」ことの技術的意味を当業者が理解できず、当該構成は不明確である。
ウ 本件発明1、8、9は、断面観察像の種類が特定されておらず、形状像以外の断面観察像において「材料密度差があることを示す回折格子構造」が得られるか否かも不明であるから、「断面観察像が、前記AFMで観察しうる材料密度差があることを示す回折格子構造を有する」ことの技術的意味を理解できず、当該構成は不明確である。
エ 【0047】によれば、回折格子構造の明瞭度は断面観察像の形状像により特定されるが、本件発明5では、断面の作製方法(切断条件)が特定されておらず、断面の作製方法(切断条件)によって断面観察像の形状像は大きく異なるから、断面の作製方法(切断条件)が特定されていない断面観察像に係る構成は、技術的意味を理解できず、不明確である。
上記各主張について検討する。
(理由アについて)
本件明細書の【0031】によれば、「材料密度差」とは光反応誘起層分離に由来するものとされており、ホログラムにおいて「材料密度差がある」というのは、光反応誘起層分離がなされたということを特定している。
また、回折格子構造が、光反応誘起層分離がなされた層間の異質性に基づいて生じることは、当業者に推認されうることであるから、「光反応誘起層分離がなされたことを示す回折格子構造」は明確なものである。
そうすると、当該「光反応誘起層分離がなされたこと」に対応する「材料密度差があること」を示す回折格子構造も明確なものといえる。
(理由イについて)
本件明細書の【0156】にはAFMの機種及び測定条件が具体的に例示されており、本件出願時において一般的に用いられるAFMの機種及び測定条件のうち前記具体例と同様にホログラム断面の凹凸が観察可能な程度の機種及び測定条件によるものが、本件発明1、8、9に実質的に含まれると解されるから、請求項1、8、9の記載は、第三者に不測の不利益を生じさせるほど不明確であるとはいえない。
(理由ウについて)
本件明細書の【0026】の「具体的には、本発明者らが鋭意検討した結果、ホログラムの膜断面のAFM測定を行い、形状像や位相像、誤差信号像、弾性率像などの機械物性を反映した像において、回折格子に対応する周期構造が観察可能であるとき、膜内部における材料密度分布及び材料分離性が良く、回折特性の向上したホログラム記録フィルムが形成されていることを見出した。」との記載によれば、本件発明は、ホログラム膜の断面を観察することで特性のよいホログラム記録フィルムが形成されていることを見出したものであり、形状像を一例とする断面観察像を用いることは、技術的意味を当業者が理解できる明確なものである。
(理由エについて)
本件明細書の【0043】には断面の作製方法が具体的に例示されており、本件出願時において一般的に用いられる断面作製方法のうち前記具体例と同様に断面が作製可能な程度の作製方法によるものが、本件発明5に実質的に含まれると認められるから、請求項5の記載は、第三者に不測の不利益を生じさせるほど不明確であるとはいえない。
以上から、明確性についての特許異議申立理由によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
第6 申立人による上申書について
申立人による令和7年2月27日付け上申書には、特許異議申立書の主張を繰り返すもの、及び、特許異議申立書には存在しなかった新たな理由を主張するものが記載されている。
前者については特許異議申立書の主張で足りること、後者については特許異議申立書の特許異議申立期間後の補正が制限されていることに鑑み、当該上申書は採用しない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~3、6、8~12に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
請求項4、5、7に係る発明については、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項4、5、7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項4、5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700997