特許異議申立
2024-700791
導電性組成物および生体センサ
- 審判番号
- 2024-700791
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-065943
- 登録番号
- 7450659
- 請求日
- 2024年08月21日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】岡本 寛之
- 【権利者代理人】宇田 新一
- 【異議申立人】永田 怜
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 松本 直子
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7450659号発明「導電性組成物および生体センサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7450659号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
特許第7450659号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年9月11日に出願された特願2017-174132号に係る出願の一部を新たな出願とした特願2022-65943号に係るものであって、令和6年3月7日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年8月21日に特許異議申立人 永田 怜(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、その後当審による同年10月10日付けの手続補正指令(方式)に対し、同年同月26日に手続補正書(方式)が提出されたものである。
以降の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和7年 1月16日付け 取消理由通知
同年 3月19日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 同月26日 訂正請求書を補正対象とする手続補正書
の提出
同年 4月 9日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 5月 1日 意見書の提出(申立人)
同年 6月27日付け 訂正拒絶理由通知
同年 7月30日 手続補正書、意見書の提出
同年10月29日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月26日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
令和8年 1月 7日付け 訂正請求があった旨の通知
申立人から、意見書の提出はなかった。
なお、令和7年3月19日提出の訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求めるものであって、その内容は実質的に以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、」を、「前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、
前記水溶性高分子が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含み、」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、訂正事項1において追加した「前記水溶性高分子が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含み、」の次の行に、「前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し、」を追加する訂正をする。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、「可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1000質量部以下」を、「可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1000質量部未満」に訂正する。
なお、訂正前の請求項1及び2について、請求項2は訂正される請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2という一群の請求項についてするものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「前記水溶性高分子が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含み、」なる事項を付加するもので、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
当該事項については、本件特許明細書の段落【0023】に記載されている。
そうすると、訂正事項1による請求項1についての訂正は、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2についての訂正も同様である。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し、」なる事項を付加するもので、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
当該事項については、本件特許明細書の段落【0036】及び【0037】に記載されている。
そうすると、訂正事項2による請求項1についての訂正は、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2についての訂正も同様である。
(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による請求項1についての訂正は、導電性高分子100質量部に対する可塑剤の割合について、「300質量部以上、1000質量部以下」から「300質量部以上、1000質量部未満」に限定するもので、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
当該限定は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
そうすると、訂正事項2による請求項1についての訂正は、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2についての訂正も同様である。
3 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1及び2に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 むすび
以上のとおり、請求項1及び2についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1及び2を総称して「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
導電性高分子と、
バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)と、
可塑剤と
を含有し、
前記シリコン系化合物は、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物、および、前記アルコキシシラン化合物が縮合されたオリゴマーであり、
前記導電性高分子が、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、および、ポリアニリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、
前記水溶性高分子が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含み、
前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し、
前記可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1000質量部未満であることを特徴とする、導電性組成物。
【請求項2】
配線層と、
生体表面に接触するプローブと、
前記配線層および前記プローブを電気的に接続する接続部とを備え、
前記接続部は、請求項1に記載の導電性組成物から調製されていることを特徴とする、
生体センサ。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要、証拠方法及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和6年8月21日に申立人が提出し、同年10月26日に手続補正書により補正された特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由4(甲第4号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由5(甲第5号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、特許異議申立書の第24ページの「(5)むすび」「ア 特許法第29条第1項第3号について」において、「本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載の発明である。」と記載されているが、特許異議申立書の第22~23ページには、「甲5発明では、導電性高分子100質量部に対する可塑剤の割合が記載されていない点で、本件特許発明1と相違する。・・・そのため、甲5発明において、特許発明1の発明特定事項に想到することは、当業者であれば容易に行い得ることである。」と進歩性のことしか述べられていないため、特許異議申立書の第24ページの前記記載は、「本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載の発明である。」の誤記と解釈し、申立理由5は進歩性のみとした。
(6)申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由は以下のとおり。
「本特許発明は、強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することのできる導電性組成物、および、導電性組成物から調製される接続部を備える生体センサを提供することを課題とするものである。発明の詳細な説明の実施例には、可塑剤として、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールを用いて、強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することのできる導電性組成物を提供できることが記載されている。
一方、特許発明1-2では、可塑剤とのみ限定がなされている。ここで、可塑剤は非常に広い範囲の化合物を含む概念である。
これらを踏まえると、実施例に記載される可塑剤以外の可塑剤を用いた場合に、本特許発明の課題を解決できる導電性組成物、生体センサを製造できることが明らかとはいえない。」
2 証拠方法
(1)申立人の提出した証拠方法
申立人は、特許異議申立書に添付して、以下の証拠を提出している。
甲第1号証:国際公開第2012/043025号
甲第2号証:国際公開第2012/039240号
甲第3号証:特開2011-238471号公報
甲第4号証:特開2015-199802号公報
甲第5号証:特開2006-282941号公報
甲第6号証:特開2013-191294号公報
以下「甲第1号証」等を順に「甲1」等という。
3 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審において令和7年10月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)取消理由3(甲3を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)取消理由4(甲4を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)取消理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
本件特許発明1は、前記可塑剤が、ポリオール化合物を「含有」するという特定であって、前記可塑剤が、ポリオール化合物「(のみ)からなる」という特定にはなっていないため、ポリオール化合物以外の「可塑剤」として、例えば、汎用のフタル酸エステルに代表される本件特許の原出願時の技術常識でいうところの「可塑剤」が含有されることを意味するのか、あるいは本件特許明細書の段落【0036】に例示される特殊な化合物に限定されるのか定かでない。
(6)取消理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の原出願時の技術常識を参酌しても、「可塑剤」として、「ポリオール化合物」が含有されていても、例えば、その含有割合が1質量%で、「可塑剤」として機能するのか定かでない「非プロトン性化合物」の含有割合が99質量%であった場合にまで、本件特許発明の課題を解決し得るとは認めることができない。
第5 当審の判断
以下に述べるとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、当審において通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
1 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)及び申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)について
取消理由1及び申立理由1は、ともに甲1を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明について
甲1には、「(A)水溶性ポリビニル重合体、(B)有機添加剤及び(C)導電性有機高分子化合物を含む導電性接着剤組成物であって、
(B)有機添加剤は水溶性多価アルコール、水溶性ピロリドン類または親水性の非プロトン性溶媒から選ばれる少なくとも一種であり、(C)導電性有機高分子化合物は、ポリアニリン類、ポリピロール類またはポリチオフェン類及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする導電性接着剤組成物。」([請求項1])について記載されているところ、その具体的実施態様である実施例3の導電性接着剤組成物に着目し、当該請求項1の記載にならって整理すると以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)水溶性ポリビニル重合体、(B)有機添加剤及び(C)導電性有機高分子化合物を含む導電性接着剤組成物であって、
(A)水溶性ポリビニル重合体として、ポリビニルアルコール〔シグマアルドリッチ社製、製品名「ポリビニルアルコール」、分子量Mw=9100、Tg(T1):50℃
(B)有機添加剤として、グリセリン〔シグマアルドリッチ社製、製品名「グリセリン」、融点(T2):18℃、沸点(T3):290℃〕
(C)導電性有機高分子化合物は、ポリチオフェン類としてポリ(3,4-エチレンオキサイドチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合物(PEDOT:PSS)〔H.C.Starck社製、製品名「CleviousP VP.AI4083」〕を使用し、
前記成分(A)を50質量部、前記成分(B)を100質量部および前記成分(C)30質量部を精製水200質量部に溶解させて調製した導電性接着剤組成物。」(以下「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「(A)水溶性ポリビニル重合体」である「ポリビニルアルコール〔シグマアルドリッチ社製、製品名「ポリビニルアルコール」、分子量Mw=9100、Tg(T1):50℃」は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂には該当しないし、甲1発明は、シリコン系化合物は含まれていないから、本件特許発明1の「ポリビニルアルコールを含」む「水溶性高分子」である「バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)」である限りにおいて相当する。
また、本件特許明細書の段落【0017】【0018】に、「導電性高分子は、導電性を導電性組成物(さらには、後述する導電性成形体)に付与することができる。導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、ポリアニリン化合物(具体的には、ポリアニリンなど)などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
好ましくは、ポリチオフェン化合物、より好ましくは、(3、4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(以下、PEDOT-PSS)と称することがある。)が挙げられる。」と記載されている。そうすると、甲1発明の「(C)導電性有機高分子化合物」である「ポリチオフェン類」である「ポリ(3,4-エチレンオキサイドチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合物(PEDOT:PSS)」は、本件特許発明1の「導電性高分子」である「ポリチオフェン化合物」に相当する。
ところで、本件特許明細書の段落【0036】には、「可塑剤は、導電性高分子を可塑化させる。可塑剤は、導電性組成物の引張伸度および柔軟性を向上させる。可塑剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、それらの重合体などのポリオール化合物・・・などが挙げられる。」と、グリセリンが「可塑剤」であることが記載されている。そして、「グリセリン」は「ポリオール化合物」である。
そうすると、甲1発明の「(B)有機添加剤」である「グリセリン〔シグマアルドリッチ社製、製品名「グリセリン」、融点(T2):18℃、沸点(T3):290℃〕」は、本件特許発明1の「可塑剤」に相当し、甲1発明は、本件特許発明1の「前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し」なる事項を備えていると認められる。
そして、甲1発明のグリセリンの含有割合は、導電性高分子である「PEDOT:PSS」100質量部に対し、333質量部(=100/30×100)となるから、本件特許発明1の「前記可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1 000質量部未満である」を満たす。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
導電性高分子と、
バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)と、
可塑剤と
を含有し、
前記シリコン系化合物は、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物、および、前記アルコキシシラン化合物が縮合されたオリゴマーであり、
前記導電性高分子が、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、および、ポリアニリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールを含み、
前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し、
前記可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1000質量部未満であることを特徴とする、導電性組成物。
<相違点>
水溶性高分子に含まれるポリビニルアルコールが、本件特許発明1は「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」であるのに対し、甲1発明は「ポリビニルアルコール〔シグマアルドリッチ社製、製品名「ポリビニルアルコール」、分子量Mw=9100、Tg(T1):50℃〕」であり、アセトアセチル基を含有するものか不明である点
(イ)検討
a 新規性
甲1発明の「ポリビニルアルコール〔シグマアルドリッチ社製、製品名「ポリビニルアルコール」、分子量Mw=9100、Tg(T1):50℃〕」がアセトアセチル基を含有する証拠はない。このため、当該相違点は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
b 進歩性
(a)相違点の検討
甲1には、「水酸基を有する水溶性ポリビニル重合体の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール-エチレン共重合体、ポリビニルアルコール-(N-ビニルホルムアミド)共重合体、ポリビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。」([0008])と記載されているにとどまり、ポリビニルアルコールとして「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」を用いることは記載されていない。また、甲2、甲3、甲5及び甲6にもポリビニルアルコールとして「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」を用いることは記載も示唆もされていない。
ところで、甲4には、「【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物。
(A)ポリチオフェン系導電性ポリマー 100重量部
(B)スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂
200~530重量部
(C)ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体 7~230重量部
・・・
【請求項6】
(D)成分として、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂を含むとともに、当該アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂の配合量を、前記(A)成分としてのポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して、0.7~15重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。」と記載され、ポリビニルアルコールとして「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」を用いることが記載されている。しかしながら、その段落【0014】には、「また、本発明の導電性樹脂組成物を構成するにあたり、(D)成分として、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂を含むとともに、当該アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂の配合量を、(A)成分としてのポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して、0.7~15重量部の範囲内の値とすることが好ましい。このように構成することにより、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂と、ポリチオフェン系導電性ポリマーとの相溶性をより一段と向上させることができるばかりか、得られる塗膜における耐摩耗性についても向上させることができる。」と記載されている。すなわち、甲4に記載される「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂と、ポリチオフェン系導電性ポリマーとの相溶性をより一段と向上させる観点から配合されるものである。そうすると、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を含まない甲1発明のポリビニルアルコールを、甲4に記載される「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」に代替する動機付けはない。
(b)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することができる」効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0013】)。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記ア(イ)bで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)取消理由1及び申立理由1のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)及び申立理由2(甲2を主引用文献とする新規性・進歩性)について
取消理由2及び申立理由2は、ともに甲2を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
甲2には、「透明基板上にパターン導電層と少なくとも導電性ポリマーと水酸基含有非導電性ポリマーを含む透明導電層とを有する透明電極の製造方法において、パターン導電層が金属酸化物または金属材料であり、且つ前記水酸基含有非導電性ポリマーが下記一般式(I)及び一般式(II)から選ばれる構造単位を含むポリマー(A)であり、且つ前記透明導電層が、150℃以上300℃以下の温度範囲で加熱処理されて形成されたことを特徴とする透明電極の製造方法。
[化1]
[図:0001436144000001.jpg]
〔式中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、メチル基を表し、Q1、Q2はそれぞれ独立に-C(=O)O-、-C(=O)NRa-を表す。Raは水素原子、アルキル基を表し、A1、A2はそれぞれ独立に置換或いは無置換アルキレン基、-(CH2CHRbO)x-、-(CH2CHRbO)x-CH2CHRb-を表す。Rbは水素原子、アルキル基を示し、xは平均繰り返しユニット数を表す。yは0、1を表す。Zはアルキル基、-C(=O)-Rc、-SO2-Rd、-SiRe3を表す。Rc、Rd、Reはアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基を表す。ポリマー(A)内の一般式(I)の構造単位の構成率をm、一般式(II)の構造単位の構成率をnとすると、m+nの構成率(mol%)は、50≦m+n≦100であり、m/(m+n)≧0.2である。〕」([請求項1])について記載されているところ、その透明導電層を作成するための具体的実施態様である実施例の塗布液E(段落[0093])に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「PEDOT-PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%)(H.C.Starck社製) 1.59g
ポリビニルアルコール PVA-235(クレハ製)固形分2% 水溶液
3.50g
ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.20g
からなる透明導電層を作成するため塗布液。」(以下「甲2塗布液E発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲2塗布液E発明とを対比する。
甲2塗布液E発明の「ポリビニルアルコール PVA-235(クレハ製)固形分2% 水溶液」中の「ポリビニルアルコール」は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂には該当せず、水溶液となっていることからも水溶性であることは明らかであるし、甲2塗布液E発明には、シリコン系化合物が含まれていないから、本件特許発明1の「ポリビニルアルコールを含」む「水溶性高分子」である「バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)」である限りにおいて相当する。
また、甲2塗布液E発明の「PEDOT-PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%)(H.C.Starck社製」中の「PEDOT-PSS」は、甲2の段落[0036]より、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー」であるから、本件特許発明1の「導電性高分子」である「ポリチオフェン化合物」に相当する。
ところで、本件特許明細書の段落【0036】には、可塑剤について、「可塑剤は、導電性高分子を可塑化させる。可塑剤は、導電性組成物の引張伸度および柔軟性を向上させる。可塑剤としては、例えば・・・N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。」と、「ジメチルスルホキシド(DMSO)」が記載されている。このため、甲2塗布液E発明の「ジメチルスルホキシド(DMSO)」は、本件特許発明1の「可塑剤」である限りにおいて相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
導電性高分子と、
バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)と、
可塑剤とを含有し、
前記シリコン系化合物は、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物、および、前記アルコキシシラン化合物が縮合されたオリゴマーであり、
前記導電性高分子が、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、および、ポリアニリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、
水溶性高分子が、ポリビニルアルコールを含む、
導電性組成物。
<相違点2-1>
水溶性高分子に含まれるポリビニルアルコールが、本件特許発明1は「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」であるのに対し、甲2塗布液E発明は「ポリビニルアルコール PVA-235(クレハ製)固形分2% 水溶液」であり、アセトアセチル基を含有するものか不明である点
<相違点2-2>
可塑剤に関し、本件特許発明1は「ポリオール化合物のみを含有し」、「前記可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1000質量部未満である」のに対し、甲2塗布液E発明は「ジメチルスルホキシド(DMSO)」であって、「ポリオール化合物のみを含有」するものではなく、当該可塑剤の割合が定かでない点
(イ)検討
a 新規性
甲2塗布液E発明の「ポリビニルアルコール PVA-235(クレハ製)固形分2% 水溶液」がアセトアセチル基を含有する証拠はない。このため、当該相違点2-1は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲2塗布液E発明ではない。
b 進歩性
(a)相違点の検討
<相違点2-1>について
上記1(2)ア(イ)b(a)で説示したとおり、甲2、甲1、甲3、甲5及び甲6にはポリビニルアルコールとして「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」を用いることは記載も示唆もされていない。
また、上記1(2)ア(イ)b(a)で説示したのと同様、甲4には、「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」を用いることが記載されているものの、当該樹脂を用いる理由は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂と、ポリチオフェン系導電性ポリマーとの相溶性をより一段と向上させる観点から配合されるものであるから、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を含まない甲2塗布液E発明のポリビニルアルコールを、甲4に記載される「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」に代替する動機付けはない。
(b)本件特許発明1の効果
本件特許発明1は、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することができる」効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0013】)。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲2塗布液E発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記ア(イ)bで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2は、甲2塗布液E発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)取消理由2及び申立理由2のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由2及び申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 取消理由3(甲3を主引用文献とする進歩性)及び申立理由3(甲3を主引用文献とする新規性・進歩性)について
取消理由3及び申立理由3は、ともに甲3を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。
(1)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
甲3には、「フィルム基板上に、パターン状に形成された金属材料からなる第1導電層と、導電性ポリマーを含有する第2導電層を有する透明電極の製造方法であって、前記第2導電層が水酸基含有非導電性ポリマーを含有し、かつ、前記第1導電層または前記第2導電層が、支持台表面の導電体または半導体導電体と接触した状態で、前記フィルム基板側からマイクロ波を照射することを特徴とする透明電極の製造方法。」(【請求項1】)について記載されているところ、その第2導電層を形成するための具体的実施態様である実施例の塗布液F(段落【0139】)に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「PEDOT-PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%)(H.C.Starck社製) 1.59g
ポリビニルアルコール PVA-235、クレハ製、固形分2%水溶液)
3.50g
ジメチルスルホキシド 0.10g
エポキシ系架橋剤(デナコールEX-521、ナガセケムテックス(株)
0.5g
からなる導電層を作成するため塗布液。」(以下「甲3塗布液F発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
(ア)対比
甲3塗布液F発明の「ポリビニルアルコール PVA-235、クレハ製、固形分2%水溶液」中の「ポリビニルアルコール」は、シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂には該当せず、水溶液となっていることからも水溶性であることは明らかであるし、甲3塗布液F発明には、シリコン系化合物が含まれていないから、本件特許発明1の「ポリビニルアルコールを含」む「水溶性高分子」である「バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)」である限りにおいて相当する。
また、甲3塗布液F発明の「PEDOT-PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%)(H.C.Starck社製」中の「PEDOT-PSS」は、甲2の段落[0036]より、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー」であるから、本件特許発明1の「導電性高分子」である「ポリチオフェン化合物」に相当する。
そして、本件特許明細書の段落【0036】の記載より、甲3塗布液F発明の「ジメチルスルホキシド(DMSO)」は、本件特許発明1の「可塑剤」に相当すると認められる。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
導電性高分子と、
バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)と、
可塑剤とを含有し、
前記シリコン系化合物は、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物、および、前記アルコキシシラン化合物が縮合されたオリゴマーであり、
前記導電性高分子が、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、および、ポリアニリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、
水溶性高分子が、ポリビニルアルコールを含む、
導電性組成物。
<相違点3-1>
水溶性高分子に含まれるポリビニルアルコールが、本件特許発明1は「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」であるのに対し、甲3塗布液F発明は「ポリビニルアルコール PVA-235(クレハ製)固形分2% 水溶液」であり、アセトアセチル基を含有するものか不明である点
<相違点3-2>
可塑剤に関し、本件特許発明1は「ポリオール化合物のみを含有し」、「前記可塑剤の割合は、前記導電性高分子100質量部に対して、300質量部以上、1000質量部未満である」のに対し、甲3塗布液F発明は「ジメチルスルホキシド(DMSO)」であって、「ポリオール化合物のみを含有」するものではなく、当該可塑剤の割合が定かでない点
(イ)検討
a 新規性
甲3塗布液F発明の「ポリビニルアルコール PVA-235(クレハ製)固形分2% 水溶液」がアセトアセチル基を含有する証拠はない。このため、当該相違点3-1は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲3塗布液F発明ではない。
b 進歩性
(a)相違点の検討
<相違点3-1>について
上記1(2)ア(イ)b(a)で説示したとおり、甲3、甲1、甲2、甲5及び甲6にはポリビニルアルコールとして「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」を用いることは記載も示唆もされていない。
また、上記1(2)ア(イ)b(a)で説示したのと同様、甲4には、「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」を用いることが記載されているものの、当該樹脂を用いる理由は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂と、ポリチオフェン系導電性ポリマーとの相溶性をより一段と向上させる観点から配合されるものであるから、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を含まない甲3塗布液F発明のポリビニルアルコールを、甲4に記載される「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」に代替する動機付けはない。
(b)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することができる」効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0013】)。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3塗布液F発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記ア(イ)bで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2は、甲3塗布液F発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)取消理由3及び申立理由3のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由3及び申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 取消理由4(甲4を主引用文献とする新規性・進歩性)及び申立理由4(甲4を主引用文献とする新規性・進歩性)について
取消理由4及び申立理由4は、ともに甲4を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。
(1)甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明
甲4には、「【請求項1】下記(A)~(C)成分を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物。
(A)ポリチオフェン系導電性ポリマー 100重量部
(B)スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂
200~530重量部
(C)ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体 7~230重量部
・・・
【請求項6】
(D)成分として、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂を含むとともに、当該アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂の配合量を、前記(A)成分としてのポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して、0.7~15重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
(E)成分として、水性ポリエーテルウレタン樹脂を含むとともに、当該水性ポリエーテルウレタン樹脂の配合量を、前記(A)成分としてのポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して、25~170重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
(F)成分として、界面活性剤を含むとともに、当該界面活性剤の配合量を、前記(A)成分としてのポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して、50~370重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項9】
(G)成分として、(A)~(C)成分の溶媒を含むとともに、当該溶媒の配合量を、前記(A)成分としてのポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して、8,000~12,000重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(G)成分としての溶媒が、水およびエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項9のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。」(【特許請求の範囲】)に関する技術が開示されているところ、上記「(B)スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂」を含有しない比較例10の導電性樹脂組成物(【0066】【0067】【表5】)に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホン酸複合体(ヘレウス(株)製、CLEVIOS P HC V4)
100重量部
(C)ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(重量平均分子量は50,000であり、ビニルピロリドン:酢酸ビニルの共重合比(モル換算)は60:40) 20重量部
(D)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂(重量平均分子量は45,000であり、アセチル化度(モル換算)は10%。) 2重量部
(E)水性ポリエーテルウレタン樹脂(重量平均分子量は60,000)
60重量部
(F1)界面活性剤:アセチレングリコール (日信化学(株)製、オルフィン AF-104) 33重量部
(F2)界面活性剤:アルコールアルコキシレート(ビックケミー(株)製、BYK D-800) 67重量部
(G1)溶媒:エチレングリコール 1,000重量部
(G2)溶媒:水 8,267重量部
からなる導電性樹脂組成物(なお、上記における配合量は固形物換算された値である。)。」(以下「甲4比較例10発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
(ア)対比
甲4比較例10発明の「(C)ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(重量平均分子量は50,000であり、ビニルピロリドン:酢酸ビニルの共重合比(モル換算)は60:40)」は、甲4の段落【0035】に「・・・一方、ビニルピロリドンの共重合比が55:45未満の値になると、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体の水溶性が著しく低下し・・・」と記載されており、当該共重合比が「60:40」と「55:45」以上となっているから水溶性である。
甲4比較例10発明の「(D)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂(重量平均分子量は45,000であり、アセチル化度(モル換算)は10%。)」は、甲4の段落【0045】に、「・・・一方、かかるアセチル化度が15%を超えた値となると、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂の水溶性が著しく低下し・・・」と記載されており、当該アセチル化度が10%と15%以下となっていることから、水溶性である。
甲4比較例10発明の「(E)水性ポリエーテルウレタン樹脂 」は、水溶性である。
そして、甲4比較例10発明の上記3つの樹脂は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂には該当せず、また、甲4比較例10発明はシリコン系化合物を含んでいないから、本件特許発明1の「バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)」であって、「前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、前記水溶性高分子が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含」む事項を備えていると認められる。
甲4比較例10発明の「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホン酸複合体」は、本件特許発明1の「導電性高分子」である「ポリチオフェン化合物」に相当する。
また、甲4比較例10発明の溶媒としての「エチレングリコール」は、本件特許明細書の段落【0036】の記載より、本件特許発明1の「可塑剤」に相当すると認められる。そして、「エチレングリコール」は「ポリオール化合物」であるから、甲4比較例10発明は、本件特許発明1の「前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し」なる事項を備えていると認められる。
また、甲4比較例10発明の「重量部」は、本件特許発明1の「質量部」と同義である。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
導電性高分子と、
バインダー樹脂(シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂を除く)と、
可塑剤と
を含有し、
前記シリコン系化合物は、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物、および、前記アルコキシシラン化合物が縮合されたオリゴマーであり、
前記導電性高分子が、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、および、ポリアニリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記バインダー樹脂が、水溶性高分子であり、
前記水溶性高分子が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含み、
前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有する、
導電性組成物。
<相違点4>
導電性高分子100質量部に対する可塑剤の割合が、本件特許発明1は「300質量部以上、1000質量部未満」であるのに対し、甲4比較例10発明は「1000質量部」である点
(イ)検討
a 新規性
上記相違点は数値として異なるものであるから、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲4比較例10発明ではない。
b 進歩性
(a)相違点の検討
甲4比較例10発明は、そもそも甲4に開示される技術の比較例であるから、甲1~3、5、6の記載を検討しても、甲4比較例10発明の「エチレングリコール」の含有量を変更する動機付けはない。
(b)本件特許発明1の効果
本件特許発明1は、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することができる」効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0013】)。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲4比較例10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記ア(イ)bで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2は、甲4比較例10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)取消理由4及び申立理由4のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由4及び申立理由4によっては取り消すことはできない。
5 取消理由5(明確性要件)について
(1)検討
上記第2、第3に示したように、本件訂正により、本件特許発明1の可塑剤が、「ポリオール化合物のみを含有」するものに限定された。
そうすると、本件特許発明1の可塑剤は、ポリオール化合物のみからなるものであって、それ以外の可塑剤、例えば、汎用のフタル酸エステルに代表される本件特許の原出願時の技術常識でいうところの「可塑剤」を含むものでないことが明らかとなった。
そして、そのほかに本件特許発明1及び2に不明確な事項はない。
したがって、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2は明確である。
(2)取消理由5のまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由5によっては取り消すことはできない。
6 取消理由6(サポート要件)及び申立理由6(サポート要件)について
取消理由6及び申立理由6は、いずれもサポート要件に関するものであるため、併せて検討する。
(1)検討
上記第2、第3に示したように、本件訂正により、本件特許発明1の可塑剤が、「ポリオール化合物のみを含有」するものに限定された。
本件特許発明は、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することのできる導電性組成物、および、導電性組成物から調製される接続部を備える生体センサを提供すること」を課題とするものである。そして、発明の詳細な説明の実施例には、可塑剤として、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールである「ポリオール化合物のみ」を用いて、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することのできる導電性組成物を提供」できることが記載されている。
したがって、本件特許発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められる。
(2)取消理由6及び申立理由6のまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由6及び申立理由6によっては取り消すことはできない。
7 申立理由5(甲5を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲5に記載された事項及び甲5に記載された発明
甲5の実施例4に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「導電性高分子:ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)0.5重量%とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量%を含んでなるポリマーの水分散体(BaytronP:バイエルAG製) 100重量部
ポリエチレングリコール:三洋化成工業製 PEG-1000(分子量1000) 1.03重量部
界面活性剤:ライオノール L-950(ライオン製) 1.1重量部
ポリエステル系バインダー樹脂:プラスコート Z-465(互応化学工業製) 8重量部
からなる帯電防止コーティング組成物。」(以下「甲5実施例4発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
(ア)対比
甲5実施例4発明の「導電性高分子:ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)0.5重量%とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量%を含んでなるポリマーの水分散体(BaytronP:バイエルAG製)」は、本件特許発明1の「導電性高分子」である「ポリチオフェン化合物」に相当する。
甲5実施例4発明の「ポリエステル系バインダー樹脂:プラスコート Z-465(互応化学工業製)」は、本件特許発明1の「バインダー樹脂」である限りにおいて相当する。
甲5実施例4発明の「ポリエチレングリコール:三洋化成工業製 PEG-1000(分子量1000)」は、本件特許明細書の段落【0036】の記載より、本件特許発明1の「可塑剤」に相当すると認められる。そして、「ポリエチレングリコール」は「ポリオール化合物」であるから、甲5実施例4発明は、本件特許発明1の「前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有し」なる事項を備えていると認められる。また、甲5実施例4発明は、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)0.5重量部(=0.5重量%×100重量部)とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量部(=0.8重量%×100重量部)」に対して「ポリエチレングリコール:三洋化成工業製 PEG-1000(分子量1000)」を1.03重量部含有しているから、「ポリエチレングリコール:三洋化成工業製 PEG-1000(分子量1000)」は、導電性高分子100質量部に対して、「79.2質量部」(=1.03/(0.5+0.8)×100)含有していると認められる。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
導電性高分子と、
バインダー樹脂と、
可塑剤と
を含有し、
前記導電性高分子が、ポリチオフェン化合物、ポリピロール化合物、および、ポリアニリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記可塑剤が、ポリオール化合物のみを含有する、
導電性組成物。
<相違点5-1>
バインダー樹脂が、本件特許発明1は「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコールを含」む「水溶性高分子」であって、「シリコン系化合物、および、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂」を「除く」ものであって、「前記シリコン系化合物は、2~4個のアルコキシ基がケイ素に結合したアルコキシシラン化合物、および、前記アルコキシシラン化合物が縮合されたオリゴマー」であるのに対し、甲5実施例4発明は「ポリエステル系バインダー樹脂:プラスコート Z-465(互応化学工業製)」である点
<相違点5-2>
導電性高分子100質量部に対する可塑剤の割合が、本件特許発明1は「300質量部以上、1000質量部未満」であるのに対し、甲5実施例4発明は「79.2質量部」である点
(イ)検討
a <相違点5-1>の検討
上記1(2)ア(イ)b(a)で説示したとおり、甲5、甲1~甲3及び甲6にはポリビニルアルコールとして「アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール」を用いることは記載も示唆もされていない。
また、甲4には、「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」を用いることが記載されているものの、当該樹脂を用いる理由は、スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂と、ポリチオフェン系導電性ポリマーとの相溶性をより一段と向上させる観点から配合されるものである。
ところで、甲5実施例4発明の「ポリエステル系バインダー樹脂:プラスコート Z-465(互応化学工業製)」の具体的構造が明らかでない。そうすると、甲5実施例4発明の「ポリエステル系バインダー樹脂:プラスコート Z-465(互応化学工業製)」が「スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂」である場合、甲4に記載される「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」を含有させる動機付けはあるものの、併せて、「スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂」を「除く」とすることはできない。
また、甲5実施例4発明の「ポリエステル系バインダー樹脂:プラスコート Z-465(互応化学工業製)」が「スルホン酸塩基を有する水性ポリエステル樹脂」ではない場合、上記1(2)ア(イ)b(a)で説示したのと同様、甲4に記載される「アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール樹脂」を含有させる動機付けはない。
b 本件特許発明1の効果
本件特許発明1は、「強靱性および柔軟性に優れる導電性成形体を調製することができる」効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0013】)。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲5実施例4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記ア(イ)bで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2は、甲5実施例4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立理由5のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、当審において通知した取消理由通知書(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、ほかに本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700791