特許異議申立
2025-700566
粘着剤層付き光学積層フィルム及び画像表示装置
- 審判番号
- 2025-700566
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-007847
- 登録番号
- 7594362
- 請求日
- 2025年05月28日
- 審決日
- 2026年03月31日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人青藍国際特許事務所
- 【権利者代理人】鎌田 耕一
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 【異議申立人】佐々木 香織
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 渡辺 陽子
- 分類
- P1651.113-YAA(C09J) / P1651.121-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7594362号発明「粘着剤層付き光学積層フィルム及び画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7594362号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7594362号の請求項1、2、4~8に係る特許を維持する。
特許第7594362号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、令和2年1月21日(優先権主張 平成31年1月30日)の出願であって、令和6年11月26日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年12月4日に特許掲載公報が発行されたところ、令和7年5月28日に特許異議申立人 寺澤 佳奈美(以下「申立人A」という。)により、同年6月3日に特許異議申立人 佐々木 香織(以下「申立人B」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものであって、その後の手続きは以下のとおりである。
令和7年 8月21日付け 取消理由通知
同年10月20日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
なお、令和7年10月29日付けで、申立人A及びBに対して意見書提出の期間を指定して、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行ったが、当該期間内にいずれの申立人からも意見書の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正内容
令和7年10月20日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項からなる。なお、当審において、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における、
「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記光学フィルムの厚さが80μm以下であり、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、前記保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層である、粘着剤層付き光学積層フィルム。」
との記載を、
「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記光学フィルムの厚さが35μm以下であり、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、前記保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であり、
前記粘着剤層の厚さが40μm以上であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記セパレータの厚さが30μm以上であり、
前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成され、
前記光学フィルムは、偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルムである、粘着剤層付き光学積層フィルム。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4における、
「請求項1~3のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」との記載を、
「請求項1又は2に記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」
と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5における、
「請求項1~4のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」との記載を、
「請求項1、2、4のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」
と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6における、
「請求項1~5のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」との記載を、
「請求項1、2、4、5のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」
と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7における、
「請求項1~6のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」との記載を、
「請求項1、2、4~6のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム」
と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8における、
「請求項1~7のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルムにおける前記セパレータを除く部分を備える画像表示装置。」との記載を、
「請求項1、2、4~7のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルムにおける前記セパレータを除く部分を備える画像表示装置。」
と訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~8について、訂正前の請求項2~8はそれぞれ訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 本件訂正についての検討
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「光学フィルム」をその厚さが「35μm以下」で、「偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルム」に特定し、訂正前の請求項1における「粘着剤層」を「厚さが40μm以上」のものに特定し、訂正前の請求項1における「セパレータ」を「厚さが30μm以上」であり、「ポリエチレンテレフタレートにより構成され」るものに特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第項2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
さらに、願書に添付した明細書には、光学フィルムについて、「光学フィルム3の厚さは・・・さらには35μm以下であってもよい。」(段落0013)、「光学フィルムには、保護フィルムと接合される側から、偏光子保護フィルム・・・偏光子・・・λ/2板・・・及びλ/4板・・・が順に積層された・・・偏光板を使用した。」(段落0107)、「λ/4板(1/4波長板)、λ/2板(1/2波長板)の積層体である位相差フィルム」(段落0108)、「光学フィルム3は・・・偏光フィルム・・・である。」(段落0012)及び「偏光フィルムは・・・偏光子の少なくとも一方の面に偏光子保護フィルムが接合されていてもよい。」(段落0014)と記載され、粘着剤層について、「粘着剤層4の厚さは・・・40μm以上」(段落0067)と記載され、セパレータについて、「セパレータ5の厚さは・・・30μm以上」(段落0077)、「セパレータ5は・・・樹脂フィルムで・・・構成する樹脂は・・・PET等のポリエステル・・・である。」(段落0076)及び「ポリエチレンテレフタレート(PET)」(段落0074)と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合し、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3~7
訂正事項3は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれかを引用する記載であるところ、訂正前の請求項3を引用する態様を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合し、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
訂正事項4~7は、それぞれ訂正前の請求項5~8の記載において、訂正事項3と同様、訂正前の請求項3を引用する態様を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合し、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~8について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される請求項はない。
(5)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
4 訂正の適否についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲を令和7年10月20日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は認められたので、本件特許の請求項1~8に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された以下のとおりのものである(請求項1~8に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明8」という。)。
「【請求項1】
保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記光学フィルムの厚さが35μm以下であり、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、前記保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であり、
前記粘着剤層の厚さが40μm以上であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記セパレータの厚さが30μm以上であり、
前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成され、
前記光学フィルムは、偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルムである、粘着剤層付き光学積層フィルム。
【請求項2】
前記保護フィルムがポリエステルフィルムである請求項1に記載の粘着剤層付き光学積層フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記セパレータの厚さが45μm以上である請求項1又は2に記載の粘着剤層付き光学積層フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層のゲル分率が60%以上である請求項1、2、4のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム。
【請求項6】
前記粘着剤層におけるゾル分の重量平均分子量(Mw)が5万以上である請求項1、2、4、5のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム。
【請求項7】
下記試験により求めた70℃における前記粘着剤層のクリープ量ΔCrが50μm以下である請求項1、2、4~6のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルム。
試験:縦20mm×横20mmの接合面にてステンレス製試験板に貼り付けた粘着剤層に対して、前記試験板を固定した状態で500gfの荷重を鉛直下方に加える。荷重を加え始めてから100秒後及び3600秒後の各時点における前記試験板に対する前記粘着剤層のクリープ量(ずれ量)を測定し、それぞれCr100 及びCr3600 とする。測定したCr100及びCr3600から、式ΔCr=Cr3600-Cr100によりクリープ量ΔCrを求める。
【請求項8】
請求項1、2、4~7のいずれかに記載の粘着剤層付き光学積層フィルムにおける前記セパレータを除く部分を備える画像表示装置。」
第4 特許異議申立ての理由及び当審が通知した取消理由の概要
1 申立人Aが申し立てた理由の要旨は、次のとおりである。なお、甲A1、甲A3は、後記4のとおりである。
(1)新規性、進歩性の欠如
ア 甲A1を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明(本件訂正前の請求項1~8に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)は、甲A1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 甲A3を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1~3、5~8は、甲A3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲A3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)サポート要件違反
本件特許発明は、「保管時に生じうる凹みの程度を抑制できる粘着剤層付き高額積層フィルムの提供」(本件特許明細書の段落0005)を課題としているが、下記ア~キの点で、この課題を解決できることを当業者が認識できないから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法同条同項の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件特許明細書には、課題を解決できるかどうかを確認するために「凹み量」を測定して評価したこと、「凹み量」は、直径5.5mmの鉄球を光学積層フィルムにその保護フィルム側から押し当て、厚さ方向の変位を測定したことが記載されているが(段落0091)、このように測定される「凹み量」と実際の保管中に発生する微小な凹みとの関係性が明らかでないし、また、当該「凹み量」の測定方法は、(i-1)鉄球を固定する両面粘着テープの変形可逆性に基づく測定誤差が含まれるものであり、試験の再現性があるとはいえないし、(i-2)両面粘着テープの変形可逆性を考慮すると、60秒という荷重負荷時間と実際の保管条件との関係性は明らかでないし、(ii)光学積層フィルムの保管態様が「ロールに巻回された状態」では、「枚葉として積層された状態」と異物による圧力が異なり、「枚葉として積層された状態」でも、異物の位置によって光学積層フィルムにかかる圧力が異なるから、(iii)前記測定方法は、現実の保管態様を適切に模擬したものとはいえず、そうすると、前記測定方法による「凹み量」の評価によって、本件特許発明により前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
イ 本件特許明細書の記載では、凹みの原因である異物の材質、大きさ、形状が不明であり、それらが不明の異物により生じる凹みと、前記直径5,5mmの鉄球を用いた測定方法による「凹み量」の相関性を理解することもできないから、当該測定方法による「凹み量」の評価によって、本件特許発明により前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
ウ 本件特許明細書の記載から、本件発明の効果は、粘着剤層のみによりもたらされるものでないことは明らかであり、セパレータの厚さ、引張弾性率及び材料の違いによっても凹み量が左右されると考えられるから、セパレータについての特定がない本件特許発明により、前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
エ 本件特許明細書の実施例はいずれも架橋剤を含んでおり、架橋剤を含まない粘着剤において、本件特許発明の効果は確認されていないから、アクリル系粘着剤組成物に含まれる架橋剤についての特定がない本件特許発明により、前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
オ 本件特許発明の光学フィルムは、その厚さについて「80μm以下」とし、上限値のみが特定されているが、光学フィルムの厚さが薄いとハンドリング性に難があることが知られており、そもそも、0.1μmの偏光子を形成できるのかも確認されていないし、また、本件特許発明の光学フィルムは、偏光子、偏光子保護層、位相差層、及びそれらを積層するために用いられる粘着剤層や接着剤層を含み得ると考えられるが、それらの硬さは同一でなく、個々の層の凹みの程度が異なるから、光学フィルムの厚さの下限値や弾性率が特定されていない本件特許発明により、前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
カ 本件特許発明の光学フィルムは、その厚さについて「80μm以下」と特定されているが、本件特許明細書の実施例及び比較例における光学フィルムの厚みは全て31μmであり、この結果を以て、本願特許発明の光学フィルムの厚さが「80μm以下」である全ての範囲において、前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
キ 本件を基礎とする分割出願(特願2023-130055)に対する令和6年11月25日付けの拒絶理由において、「本願の課題を解決するためには、フィルムの厚みと、引張弾性率の下限値が重要であり、その下限値を示す具体例が、特に引張弾性率について、348MPaと、4089MPaが示されているのみであり、1GPaが下限値であると把握することはできない。」と指摘されているから、本件特許発明1の「保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上」である全ての範囲において、前記課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
(3)明確性要件違反
本件特許発明は、下記ア、イの点で不明確であり、本件特許の出願当時の技術常識を考慮しても理解できないから、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法同条同項の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1において「前記保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上」であると特定されているが、その上限値が特定されておらず不明確である。また、本件特許明細書には、ロールに巻回された状態で保管されることが通常である」(段落0004)と記載されているところ、引張弾性率が高い保護フィルムを用いた場合にロールとすることができるか不明であるものの、本件特許発明1において、枚葉状であることが特定されておらず不明確である。
イ 本件特許発明1において「光学フィルムの厚さは80μm以下」であると特定されているが、当該厚さの範囲には0が含まれ、光学フィルムが存在しないことを意味するから明らかに矛盾し、不明確である。また、本件特許明細書の実施例は、紫外線硬化性樹脂の硬化膜、偏光子と偏光子保護フィルムとの接合に用いられた公知のアクリル系接着剤、偏光子と積層体(b)のλ/2板との接合に用いられた公知のアクリル系接着剤については、光学フィルムの構成に含まれるとみられるところ、それらの厚さは記載されておらず、本件特許発明1における光学フィルムの厚さの特定は不明確である。
2 申立人Bが申し立てた理由の要旨は、次のとおりである。なお、甲B1~甲B5は、後記4のとおりである。
(1)新規性、進歩性の欠如
ア 甲B1を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1~4、6、8は、甲B1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 甲B2を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1、2、4、6、8は、甲B2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲B2に記載された発明及び甲B1、甲B3~甲B5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)サポート要件違反
本件特許発明は、「保管時に生じうる凹みの程度を抑制できる粘着剤層付き高額積層フィルムの提供」(本件特許明細書の段落0005)を課題としているが、本件特許明細書の記載から、本件特許発明1の本件特許発明の「保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、かつ、保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上」である全ての範囲において、前記課題を解決できると当業者が認識できるものではないから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法同条同項の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 当審において令和7年8月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(新規性の欠如)及び理由2(進歩性の欠如)
ア 甲A1を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1、2、4~8は、甲A1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲A1に記載された発明及び甲A1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記1(1)アの申立理由に対応する。)
イ 甲A3を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1~3、5~8は、甲A3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲A3に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記1(1)イの申立理由に対応する。)
ウ 甲B1を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1、2、4~8は、甲B1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲B1に記載された発明及び甲B1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記2(1)アの申立理由に対応する。)
エ 甲B2を主引用例とする新規性、進歩性の欠如
本件特許発明1、2、5~8は、甲B2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、本件特許発明1~8は、甲B2に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記2(1)イの申立理由に対応する。)
(2)理由3(サポート要件違反)
本件特許発明は、「保管時に生じうる凹みの程度を抑制できる粘着剤層付き高額積層フィルムの提供」(本件特許明細書の段落0005)を課題としているが、本件特許明細書の段落0008における本件特許発明の効果の記載、同段落0105~0106における実施例1~12のデータによる裏付け記載からでは、また技術常識を考慮しても、セパレータ側からの圧力を分散させる構成が何ら特定されていない本件特許発明1により、前記課題が解決できると当業者が認識できるものではないから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法同条同項の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(前記1(2)ウの申立理由に対応する。)
4 証拠方法等の一覧
甲A1:特開2017-181789号公報(申立人Aが提出した甲第1号証)
甲A2:特開2013-22901号公報(申立人Aが提出した甲第2号証)
甲A3:特開2017-142293号公報(申立人Aが提出した甲第3号証)
甲A4:特開2013-68942号公報(申立人Aが提出した甲第4号証)
甲B1:特開2017-149129号公報(申立人Bが提出した甲第1号証)
甲B2:国際公開第2017/122732号(申立人Bが提出した甲第2号証)
甲B3:株式会社加工技術研究会プラスチックフィルム・レジン材料総覧発刊企画スタッフ編集企画「プラスチックフィルム・レジン材料総覧2004」株式会社加工技術研究会、2003年12月12日、597、598頁(申立人Bが提出した甲第3号証)
甲B4:特開2007-94396号公報(申立人Bが提出した甲第4号証)
甲B5:特開2006-330390号公報(申立人Bが提出した甲第5号証)
第5 取消理由についての判断
1 理由1(新規性の欠如)及び理由2(進歩性の欠如)について
(1)甲A1を主引用例とする新規性、進歩性の欠如(第4 3(1)アの取消理由、第4 1(1)アの申立理由に対応)
ア 甲A1に記載された事項及び記載された発明
(ア)甲A1に記載された事項
「【0027】
<偏光フィルム>
本発明では、厚み(総厚み)が60μm以下の偏光フィルムを用いる。前記偏光フィルムの厚みは薄型化の観点から55μm以下、さらには50μm以下のものを用いることができる。前記偏光フィルムを用いるシート・トゥ・パネル方式において、離型フィルムの剥離時に、離型フィルムと粘着剤層の界面ではなく、偏光フィルムと表面保護フィルムの界面において剥離が生じやすく、本発明は、当該偏光フィルムへの適用がより好適である。なお、偏光フィルムの構成としては、例えば、(1)偏光子の両側に保護フィルムがこの順に積層されている構成(両保護偏光フィルム)、(2)偏光子の片側にのみ保護フィルムが積層されている構成(片保護偏光フィルム)等が挙げられる。」
「【0054】
粘着剤層の厚さは、特に制限されず、例えば、1~100μm程度である。好ましくは、2~50μm、より好ましくは2~40μmであり、さらに好ましくは、5~35μmである。」
「【0082】
<偏光フィルムの作製>
(偏光子の作製)
吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴に、偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度、浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では、水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
以上により、厚み5μmの偏光子を含む光学フィルム積層体を得た。
【0083】
(保護フィルム)
保護フィルム:厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルムの易接着処理面にコロナ処理を施して用いた。
【0084】
(保護フィルムに適用する接着剤)
N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)40重量部とアクリロイルモルホリン(ACMO)60重量部と光開始剤「IRGACURE 819」(BASF社製)3重量部を混合し、紫外線硬化型接着剤を調製した。
【0085】
<片保護偏光フィルムの作製>
上記光学フィルム積層体の偏光子8の表面に、上記紫外線硬化型接着剤を硬化後の接着剤層の厚みが1μmとなるように塗布しながら、上記保護フィルムを貼合せたのち、活性エネルギー線として、紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。紫外線照射は、ガリウム封入メタルハライドランプ、照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製のLight HAMMER10、バルブ:Vバルブ、ピーク照度:1600mW/cm2、積算照射量1000/mJ/cm2(波長380~440nm)を使用し、紫外線の照度は、Solatell社製のSola-Checkシステムを使用して測定した。次いで、非晶性PET基材を剥離し、薄型偏光子を用いた片保護偏光フィルムAを作製した。得られた片保護偏光フィルムAの光学特性は、単体透過率42.8%、偏光度99.99%であった。得られた片保護偏光フィルムの厚みは46μmである。
【0086】
<粘着剤の調製>
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル100部、アクリル酸3部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.1部および2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.3部を酢酸エチルと共に加えて溶液を調製した。次いで、この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌して、55℃で8時間反応させて、重量平均分子
量220万のアクリル系ポリマーを含有する溶液を得た。さらに、このアクリル系ポリマーを含有する溶液に、酢酸エチルを加えて固形分濃度を30%に調整したアクリル系ポリマー溶液を得た。
【0087】
前記アクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、架橋剤として、0.5部のイソシアネート基を有する化合物を主成分とする架橋剤(日本ポリウレタン(株)製,商品名「コロネートL」)と、シランカップリング剤として、0.075部のγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製,商品名「KMB-403」)とをこの順に配合して、粘着剤溶液を調製した。
【0088】
<表面保護フィルムの積層>
上記片保護偏光フィルムの保護フィルム側には、表面保護フィルムを設けた。表面保護フィルムとして、「日東電工社製、製品名RP207」の厚み38μmまたは75μmのポリエステル系樹脂フィルム(基材フィルム)を用いた。前記表面保護フィルムは、厚さ15μmの粘着剤層(第2粘着剤層に相当する)を有するものである。
【0089】
<離型フィルム付の粘着剤層の形成>
上記粘着剤溶液を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μmまたは50μm)からなる離型フィルム(セパレータ)の表面に、乾燥後の厚みが20μmになるように塗布し、乾燥して、粘着剤層(第1粘着剤層に相当する)を形成した。次いで、表面保護フィルムを有する片保護偏光フィルムAの偏光子の側に、前記粘着剤層を貼り合わせて、本発明の光学フィルム(離型フィルムおよび表面保護フィルムを有する粘着剤層付偏光フィルム)を作製した。」
(イ)甲A1に記載された発明
甲A1の段落0089に記載の離型フィルム付の粘着剤層の形成方法により作製した光学フィルム(離型フィルムおよび表面保護フィルムを有する粘着剤層付偏光フィルム)について、段落0082~0085に記載の片保護偏光フィルムの作製方法、段落0086~0087に記載の粘着剤の調製方法、段落0088に記載の表面保護フィルムの積層方法も参照しつつ整理すると、甲A1には、
「アクリル酸ブチル100部、アクリル酸3部、アクリル酸2-ヒロドキシエチル0.1部および2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.3部を酢酸エチルと共に加えて溶液を調製し、窒素ガスを吹き込みながら撹拌して、55℃で8時間反応させて得た、重量平均分子量220万のアクリル系ポリマー溶液に、酢酸エチルを加えて固形分濃度を30%に調整し、さらに、固形分100部に対して、架橋剤として0.5部のイソシアネート基を有する化合物を主成分とする架橋剤(日本ポリウレタン(株)製、商品名「コロネートL」)と、シランカップリング剤として0.075部のγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名「KMB-403」)とをこの順に配合して粘着剤溶液を調製し、
前記粘着剤溶液を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)からなる離型フィルム(セパレータ)の表面に、乾燥後の厚みが20μmになるように塗布し、乾燥して、第1粘着剤層を形成し、
厚さ38μmのポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP207」)(基材)に厚さ15μmの第2粘着剤層を積層した表面保護フィルムを準備し、
偏光子の表面に紫外線硬化型接着剤を硬化後の接着剤層の厚みが1μmとなるように塗布しながら、保護フィルムを貼合わせたのち、紫外線を照射し、接着剤を硬化させて、厚さ46μmの片保護偏光フィルムAを準備し、
前記片保護偏光フィルムAの保護フィルム側に、前記表面保護フィルムを設け、偏光子の側に、前記第1粘着剤層を貼り合わせて得た、表面保護フィルム/片保護偏光フィルムA/第1粘着剤層/離型フィルム(セパレータ)の構成の光学フィルム」
の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 本件訂正発明1
(ア)対比
甲A1発明の「表面保護フィルム」の基材である「ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP207」)」は、本件訂正発明1の「保護フィルム」に相当し、甲A1発明の「片保護偏光フィルムA」、「第1粘着剤層」及び「離型フィルム(セパレータ)」は、それぞれ、本件訂正発明1の「光学フィルム」、「粘着剤層」及び「セパレータ」に相当する。
甲A1発明の「表面保護フィルム/片保護偏光フィルムA/第1粘着剤層/離型フィルム(セパレータ)の構成」は、本件訂正発明1の「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層される」構成に相当し、甲A1発明の「光学フィルム」は、第1粘着剤層を有するから、本件訂正発明1の「粘着剤層付き光学積層フィルム」に相当する。
甲A1発明の「表面保護フィルム」の基材である「ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP207」)」は、「厚さ38μm」であるから、本件訂正発明1の「保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下」を充足する。
甲A1発明の「第1粘着剤層」は、アクリル系ポリマー溶液に架橋剤、シランカップリング剤を配合した粘着剤溶液を塗布、乾燥して形成されたものであるから、本件訂正発明1の「粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層」に相当する。
甲A1発明の「離型フィルム(セパレータ)」は、「剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)からなる」から、本件訂正発明1の「前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成」に相当し、「前記セパレータの厚さが30μm以上」を充足する。
そうすると、本件訂正発明1と甲A1発明とは、
「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記セパレータの厚さが30μm以上であり、
前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成される、粘着剤層付き光学積層フィルム。」
という点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明1は、保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であるのに対して、甲A1発明は、保護フィルムに相当するポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP207」)の引張弾性率が不明である点
<相違点2>
本件訂正発明1は、光学フィルムの厚さが「35μm以下」であるのに対して、甲A1発明は、光学フィルムに相当する片保護偏光フィルムAの厚さが「46μm」である点
<相違点3>
本件訂正発明1は、粘着剤層の厚さが「40μm以上」であるのに対して、甲A1発明は、粘着剤層に相当する第1粘着剤層の厚さが「20μm」である点
<相違点4>
本件訂正発明1は、光学フィルムが「偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルムである」のに対して、甲A1発明は、光学フィルムに相当する片保護偏光フィルムAが「偏光子の表面に保護フィルムを貼合わせた」「片保護偏光フィルム」である点
(イ)相違点についての判断
a 相違点1について
甲A2には、甲A1発明の「RP207」について、「PETフィルム(日東電工株式会社製、RP207、引張弾性率:4000MPa)」(段落0065)と記載されているところ、甲A1発明の「ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP207」)」は、本件発明1の「保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上である」を充足するものといえる。
したがって、前記相違点1は実質的な相違点ではない。
b 相違点2、4について
甲A1には、「本発明では、厚み(総厚み)が60μm以下の偏光フィルムを用いる。前記偏光フィルムの厚みは薄型化の観点から55μm以下、さらには50μm以下のものを用いることができる。・・・偏光フィルムの構成としては、例えば、(1)偏光子の両側に保護フィルムがこの順に積層されている構成(両保護偏光フィルム)、(2)偏光子の片側にのみ保護フィルムが積層されている構成(片保護偏光フィルム)等が挙げられる。」(段落0027)と記載されている。
そうすると、甲A1発明の片保護偏光フィルムAについて、その構成を両保護偏光フィルムとすることは当業者が適宜になし得た程度の設計事項であるし、偏光フィルムの更なる薄型化のために、その厚さを35μm以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 相違点3について
甲A1には、「粘着剤層の厚さは・・・例えば、1~100μm程度・・・好ましくは、2~50μm、より好ましくは2~40μmであり、さらに好ましくは、5~35μmである。」(段落0054)と記載されているものの、その数値範囲が好適である理由については記載も示唆もされていない。
そして、甲A1発明の第1粘着剤層の厚さは20μmであり、前記数値範囲のうち、最も好ましい数値範囲(5~35μm)に該当するところ、これを敢えて、その数値範囲外の40μm以上とすることが動機付けられるものではないし、そのような技術常識も見当たらない。
(ウ)効果について
本件特許明細書には、発明の効果について、「本発明による粘着剤層付き光学積層フィルムでは、厚さ80μm以下の薄型化された光学フィルムを備えながらも、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率の双方を所定の値以上とすることによって、噛み込んだ異物により生じる圧力を分散させて、当該異物の噛み込みに起因して粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制でき・・・保管時に生じる凹みの程度を抑制できる。」(段落0008)と記載されており、また、実施例、比較例として、その効果を裏付けるデータが記載されている。
一方、甲A1には、保管時に粘着剤層に生じうる凹みの程度を抑制するという課題や効果について記載も示唆もないところ、甲A1発明において、仮に、相違点2、4に加え、相違点3の構成についても当業者が容易に想到し得たとしても、そうして薄型化された光学フィルムによって、保管時に生じる凹みの程度を抑制できると当いう効果は業者が予測できたとはいえないし、そのような技術常識も見当たらない。
(エ)小括
したがって、本件訂正発明1は、甲A1に記載された発明に該当しないし、甲A1に記載された発明及び甲A1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
ウ 本件訂正発明2、4~8
本件訂正発明2、4~8は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲A1に記載された発明に該当しないし、甲A1に記載された発明及び甲A1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
(2)甲A3を主引用例とする新規性、進歩性の欠如(第4 3(1)イの取消理由、第4 1(1)イの申立理由に対応)
(ア)甲A3に記載された事項
「【0018】
<偏光フィルム>
本発明では、厚みが60μm以下の偏光フィルムが用いられる。偏光フィルムの厚みは薄型化の観点から55μm以下であるのが好ましく、さらには50μm以下であるのが好ましい。偏光フィルムとしては、例えば、(1)偏光子の両側に保護フィルムがこの順に積層されている構成(両保護偏光フィルム)、(2)偏光子の片側にのみ保護フィルムが積層されている構成(片保護偏光フィルム)等が挙げられる。」
「【0048】
粘着剤層の厚さは、特に制限されず、例えば、1~100μm程度である。好ましくは、2~50μm、より好ましくは2~40μmであり、さらに好ましくは5~35μmである。」
「【0058】
<偏光フィルム>
(偏光子A0の作製)
吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴に、偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度、浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では、水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
以上により、厚み5μmの偏光子を含む光学フィルム積層体を得た。
【0059】
(保護フィルムの作製)
保護フィルム:厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルムの易接着処理面にコロナ処理を施して用いた。
【0060】
(保護フィルムに適用する接着剤の作製)
N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)40重量部とアクリロイルモルホリン(ACMO)60重量部と光開始剤「IRGACURE 819」(BASF社製)3重量部を混合し、紫外線硬化型接着剤を調製した。
【0061】
(偏光フィルムAの作製)
上記光学フィルム積層体の偏光子A0の片面の表面に、上記紫外線硬化型接着剤を硬化後の接着剤層の厚みが0.5μmとなるように塗布しながら、上記保護フィルムを貼合せたのち、活性エネルギー線として、紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。紫外線照射は、ガリウム封入メタルハライドランプ、照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製のLight HAMMER10、バルブ:Vバルブ、ピーク照度:1600mW/cm2、積算照射量1000/mJ/cm2(波長380~440nm)を使用し、紫外線の照度は、Solatell社製のSola-Checkシステムを使用して測定した。次いで、非晶性PET基材を剥離し、薄型偏光子を用いた偏光フィルムAを作製した。得られた偏光フィルムAの光学特性は、単体透過率42.8%、偏光度99.99%であった。偏光フィルムAの厚みは、45.5μmである。
【0062】
(偏光フィルムBの作製)
上記偏光フィルムAと同様にして、上記の紫外線硬化型接着剤を介して、偏光子A0の両面に上記透明保護フィルムを貼り合わせた。得られた片保護偏光フィルムBの光学特性は、透過率42.8%、偏光度99.99%であった。偏光フィルムBの厚みは、86μmである。
【0063】
<粘着剤層の形成>
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル100部、アクリル酸3部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.1部および2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.3部を酢酸エチルと共に加えて溶液を調製した。次いで、この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌して、55℃で8時間反応させて、重量平均分子量220万のアクリル系ポリマーを含有する溶液を得た。さらに、このアクリル系ポリマーを含有する溶液に、酢酸エチルを加えて固形分濃度を30%に調整したアクリル系ポリマー溶液を得た。
【0064】
前記アクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、架橋剤として、0.5部のイソシアネート基を有する化合物を主成分とする架橋剤(日本ポリウレタン(株)製,商品名「コロネートL」)と、シランカップリング剤として、0.075部のγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製,商品名「KMB-403」)とをこの順に配合して、粘着剤溶液を調製した。上記粘着剤溶液を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)からなる離型フィルム(セパレータ)の表面に、乾燥後の厚みが25μmになるように塗布し、乾燥して、粘着剤層(第1粘着剤層に相当する)を形成した。
【0065】
<粘着剤層付偏光フィルムA1の作製>
次いで、偏光フィルムAの偏光子側に、上記離型フィルム(セパレータ)の剥離処理面に形成した粘着剤層を貼り合わせて、粘着剤層付偏光フィルムを作製した。粘着剤層付偏光フィルムA1の厚みは、45.5+25+38=108.5μmである。
【0066】
<表面保護フィルムの積層>
表面保護フィルムは「日東電工社製、製品名RP301」のポリエステル系樹脂フィルムを用いた。厚みが25μm、38μm、50μm、75μm、100μm、150μmと異なる基材をそれぞれ準備した。粘着剤層(第2粘着剤層に相当する)の厚さは全て21μmである。
【0067】 (実施例1) 実施例1の枚葉状態の光学フィルムは、上記粘着剤層付偏光フィルムA1に、厚み38μmの表面保護フィルムが積層された構成である。 (表面保護フィルムの厚み)/(偏光フィルムの厚み)=38/45.5=0.84(小数点第3位で四捨五入、以下同じである。) きっかけ剥離力=0.3[NN/15mm] きっかけ剥離力は、以下の測定に準ずる。すなわち、得られた枚葉状態の光学フィルムを、15mm×100mm(吸収軸方向が50mm)と100mm×15mm(吸収軸方向が100mm)に裁断し、各々0.5mm厚の無アルカリガラスに貼り合せた。セロハンテープを無アルカリガラスに貼り合わされた光学フィルムの短辺端部に貼り付け、テンシロンを用いて、表面保護フィルムを180°ピール・0.3m/min速度で剥離した。そのときの剥離力のピーク値を「きっかけ剥離力」とした。なお、15mm×100mm(吸収軸方向が50mm)と100mm×15mm(吸収軸方向が100mm)の各々できっかけ剥離力を測定し、その平均値を採用した。きっかけ剥離力は常温で測定する。」
(イ)甲A3に記載された発明
甲A3の段落0067に記載の粘着剤層付偏光フィルムA1に、厚み38μmの表面保護フィルムが積層された構成である枚葉状態の光学フィルムについて、段落0058~0061に記載の偏光フィルムAの作製方法、段落0063~0064に記載の粘着剤層の形成方法、段落0065に記載の粘着剤層付偏光フィルムA1の作製方法、段落0066に記載の表面保護フィルムの積層方法も参照しつつ整理すると、甲A3には、
「アクリル酸ブチル100部、アクリル酸3部、ヒドロキシエチル0.1部および2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.3部を酢酸エチルと共に加えて溶液を調製し、窒素ガスを吹き込みながら撹拌して、55℃で8時間反応させて得た、重量平均分子量220万のアクリル系ポリマー溶液に、酢酸エチルを加えて固形分濃度を30%に調整し、さらに、固形分100部に対して、架橋剤として0.5部のイソシアネート基を有する化合物を主成分とする架橋剤(日本ポリウレタン(株)製、商品名「コロネートL」)と、シランカップリング剤として0.075部のγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名「KMB-403」)とをこの順に配合して粘着剤溶液を調製し、
前記粘着剤溶液を、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)からなる離型フィルム(セパレータ)の表面に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布、乾燥して第1粘着剤層を形成し、
厚さ38μmのポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP301」)(基材)に厚さ21μmの第2粘着剤層を積層した表面保護フィルムを準備し、
偏光子A0の片面の表面に紫外線硬化型接着剤を硬化後の接着剤層の厚みが0.5μmとなるように塗布しながら、保護フィルムを貼合わせたのち、紫外線を照射し、接着剤を硬化させて、厚さ45.5μmの偏光フィルムAを準備し、
前記偏光フィルムAの偏光子側に、前記離型フィルム(セパレータ)の剥離処理面に形成した第1粘着剤層を貼り合わせて作製した粘着剤層付偏光フィルムA1(厚さ108.5μm)に、前記表面保護フィルムを積層して得た、表面保護フィルム/偏光フィルムA/第1粘着剤層/離型フィルム(セパレータ)の構成の光学フィルム」
の発明(以下「甲A3発明」という。)が記載されているといえる。
イ 本件発明1
(ア)対比
甲A3発明の「表面保護フィルム」の基材である「ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP301」)」は、本件訂正発明1の「保護フィルム」に相当し、甲A3発明の「偏光フィルムA」、「第1粘着剤層」及び「離型フィルム(セパレータ)」は、それぞれ、本件訂正発明1の「光学フィルム」、「粘着剤層」及び「セパレータ」に相当する。
甲A3発明の「表面保護フィルム/偏光フィルムA/第1粘着剤層/離型フィルム(セパレータ)の構成」は、本件訂正発明1の「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層される」構成に相当し、甲A3発明の「光学フィルム」は、第1粘着剤層を有するから、本件訂正発明1の「粘着剤層付き光学積層フィルム」に相当する。
甲A3発明の「表面保護フィルム」の「基材」は、「厚さ38μm」であるから、本件訂正発明1の「保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下」を充足する。
甲A3発明の「第1粘着剤層」は、アクリル系ポリマー溶液に架橋剤、シランカップリング剤を配合した粘着剤溶液を塗布、乾燥して形成されたものであるから、本件訂正発明1の「粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層」に相当する。
甲A3発明の「離型フィルム(セパレータ)」は、「剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)からなる」から、本件訂正発明1の「前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成」に相当し、「前記セパレータの厚さが30μm以上」を充足する。
そうすると、本件訂正発明1と甲A3発明とは、
「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記セパレータの厚さが30μm以上であり、
前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成される、粘着剤層付き光学積層フィルム。」
という点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
本件訂正明1は、保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であるのに対して、甲A3発明は、保護フィルムに相当するポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP301」)の引張弾性率が不明である点
<相違点2’>
本件訂正発明1は、光学フィルムの厚さが「35μm以下」であるのに対して、甲A3発明は、光学フィルムに相当する偏光フィルムAの厚さが「45.5μm」である点
<相違点3’>
本件訂正発明1は、粘着剤層の厚さが「40μm以上」であるのに対して、甲A3発明は、粘着剤層に相当する第1粘着剤層の厚さが「25μm」である点
<相違点4’>
本件訂正発明1は、光学フィルムが「偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルムである」のに対して、甲A3発明は、光学フィルムに相当する偏光フィルムAが「偏光子A0の片面の表面に保護フィルムを貼合わせた」「偏光フィルム」である点
(イ)相違点についての判断
a 相違点1’について
甲A4の【0051】には、甲A3発明の「ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP301」)」の弾性率について、「4050N/mm2」(=4.05GPa)であることが記載されているところ、甲A3発明の「ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、製品名「RP301」)」は、本件発明1の「保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上である」を充足するものといえる。
したがって、前記相違点1’は実質的な相違点ではない。
b 相違点2’、4’について
甲A3には、「本発明では、厚みが60μm以下の偏光フィルムが用いられる。偏光フィルムの厚みは薄型化の観点から55μm以下であるのが好ましく、さらには50μm以下であるのが好ましい。偏光フィルムとしては、例えば、(1)偏光子の両側に保護フィルムがこの順に積層されている構成(両保護偏光フィルム)、(2)偏光子の片側にのみ保護フィルムが積層されている構成(片保護偏光フィルム)等が挙げられる。」(段落0018)と記載されている。
そうすると、甲A3発明の偏光フィルムAについて、その構成を両保護偏光フィルムとすることは当業者が適宜になし得た程度の設計事項であるし、偏光フィルムの更なる薄型化のために、その厚さを35μm以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 相違点3’について
甲A3には、「粘着剤層の厚さは・・・例えば、1~100μm程度・・・好ましくは、2~50μm、より好ましくは2~40μmであり、さらに好ましくは、5~35μmである。」(段落0048)と記載されているものの、その数値範囲が好適である理由については記載も示唆もされていない。
そして、甲A3発明の第1粘着剤層の厚さは25μmであり、前記数値範囲のうち、最も好ましい数値範囲(5~35μm)に該当するところ、これを敢えて、その数値範囲外の40μm以上とすることが動機付けられるものではないし、そのような技術常識も見当たらない。
(ウ)効果について
本件特許明細書には、発明の効果について、「本発明による粘着剤層付き光学積層フィルムでは、厚さ80μm以下の薄型化された光学フィルムを備えながらも、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率の双方を所定の値以上とすることによって、噛み込んだ異物により生じる圧力を分散させて、当該異物の噛み込みに起因して粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制でき・・・保管時に生じる凹みの程度を抑制できる。」(段落0008)と記載されており、また、実施例、比較例として、その効果を裏付けるデータが記載されている。
一方、甲A3には、保管時に粘着剤層に生じうる凹みの程度を抑制するという課題や効果について記載も示唆もないところ、甲A3発明において、仮に相違点2’~4’の構成について当業者が容易に想到し得たとしても、そうして薄型化された光学フィルムによって、保管時に生じる凹みの程度を抑制できるとの効果を当業者が予測できたとはいえないし、そのような技術常識も見当たらない。
(エ)小括
したがって、本件訂正発明1は、甲A3に記載された発明に該当しないし、甲A3に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
ウ 本件訂正発明2、4~8
本件訂正発明2、4~8は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲A3に記載された発明に該当しないし、甲A3に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
(3)甲B1を主引用例とする新規性、進歩性の欠如(第4 3(1)ウの取消理由、第4 2(1)アの申立理由に対応)
ア 甲B1に記載された事項及び記載された発明
(ア)甲B1に記載された事項
「【0026】
光学部材の厚みは、好ましくは1μm~500μmであり、より好ましくは3μm~450μmであり、さらに好ましくは5μm~400μmであり、特に好ましくは10μm~300μmである。本発明の表面保護フィルム付光学部材は、光学部材の厚みがこのように薄い場合であっても、剥離ライナーを剥離しようとする際に、光学部材が該剥離ライナーと一緒に表面保護フィルムから剥離され難い、すなわち、光学部材と表面保護フィルムとの界面で剥離が起こり難いという効果を発現し得る。」
「【0226】
≪剥離ライナー≫
剥離ライナーとしては、例えば、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がシリコーン処理された剥離ライナー、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がポリオレフィン系樹脂によりラミネートされた剥離ライナーなどが挙げられる。ライナー基材としてのプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルムなどが挙げられる。ライナー基材としてのプラスチックフィルムとしては、好ましくは、ポリエチレンフィルムである。」
「【0228】
粘着剤層(2)の厚みは、好ましくは1μm~500μmであり、より好ましくは2μm~400μmであり、さらに好ましくは5μm~350μmであり、特に好ましくは10μm~300μmである。粘着剤層(2)の厚みが上記範囲内に調整されることにより、本発明の表面保護フィルム付光学部材は、剥離ライナーを剥離しようとする際に、光学部材が該剥離ライナーと一緒に表面保護フィルムから剥離され難い、すなわち、光学部材と表面保護フィルムとの界面で剥離が起こり難いという効果をより発現し得る。」
「【0256】
〔製造例1〕:偏光板用粘着剤の製造
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた四つ口フラスコに、ブチルアクリレート(株式会社日本触媒製):99重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製):1重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業株式会社製):0.1重量部、酢酸エチル:100重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行い、重量平均分子量160万のアクリル系ポリマー溶液(50重量%)を調製した。得られたアクリル系ポリマー溶液(50重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製):0.1重量部を加えて混合攪拌を行い、アクリル系粘着剤溶液を調製した。
【0257】
〔製造例2〕:偏光板の製造
(偏光子の作製)
重合度2400、ケン化度99.9%、厚み30μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に浸漬し、膨潤させながら、ポリビニルアルコールフィルムの長さが元長の2.0倍となるように一軸延伸を行った。次いで、ヨウ素とヨウ化カリウムの混合物(重量比=0.5:8)の濃度が0.3重量%の水溶液(染色浴)に浸漬し、ポリビニルアルコールフィルム長さが元長の3.0倍となるように一軸延伸しながらフィルムを染色した。その後、ホウ酸5重量%、ヨウ化カリウム3重量%の水溶液(架橋浴1)中に浸漬しながら、ポリビニルアルコールフィルムの長さが元長の3.7倍となるように延伸した後、60℃のホウ酸4重量%、ヨウ化カリウム5重量%の水溶液(架橋浴2)中で、ポリビニルアルコールフィルムの長さが元長の6倍となるように延伸した。その後、ヨウ化カリウム3重量%の水溶液(ヨウ素含浸浴)でヨウ素イオン含浸処理を行った後、60℃のオーブンで4分間乾燥し、偏光子を得た。得られた偏光子の厚みは12μmであった。
(水系接着剤の調製)
アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%、アセトアセチル化度:5モル%)を30℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度4%に調整して水系接着剤を得た。
(偏光板の製造)
厚み25μmのトリアセチルセルロース(TAC)に、上記水系接着剤を乾燥後の接着剤層の厚みが80nmとなるように塗工し、接着剤層付偏光子保護フィルムを得た。次いで、23℃の温度条件下で、上記偏光子の両面に、上記接着剤層付偏光子保護フィルムをロール機で貼り合せ、その後、55℃で6分間乾燥し、偏光板を作製した。上記偏光子と上記接着剤層付偏光子保護フィルムの貼り合わせは、上記偏光子と上記接着剤層付偏光子保護フィルムの接着剤層とが接するように行った。このようにして偏光板を製造した。」
「【0258】
〔製造例3〕:剥離ライナーの製造
製造例1で製造した偏光板用粘着剤を、一方の面にシリコーン処理を施した厚み38μmのポリエステル樹脂からなる基材のシリコーン処理面、及び、厚み50μmのポリエステル樹脂からなる基材のシリコーン処理面に、それぞれ塗布し、乾燥後の厚みが20μmとなるように、乾燥温度150℃、乾燥時間2分の条件でキュアーして乾燥し、粘着剤層を形成した。このようにして、厚み38μmの剥離ライナーと粘着剤層との積層体、及び、厚み50μmの剥離ライナーと粘着剤層との積層体を製造した。
【0259】
〔製造例4〕:剥離ライナーと粘着剤層との積層体が付いた偏光板の製造
製造例2で得られた偏光板の片側に、製造例3で得られた剥離ライナーと粘着剤層との積層体の粘着剤層側を貼りあわせて、剥離ライナーと粘着剤層との積層体が付いた偏光板を作製した。剥離ライナーを除いた粘着剤層付偏光板の厚みは82μmであった。」
「【0266】
〔製造例11〕:セパレーター付表面保護フィルムの製造
得られた各種粘着剤組成物を、ポリエステル樹脂からなる基材「ルミラーS10」(厚み38μm、東レ社製)に、ファウンテンロールで乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、乾燥温度130℃、乾燥時間30秒の条件でキュアーして乾燥した。このようにして、基材上に粘着剤層を作製した。次いで、粘着剤層の表面に、一方の面にシリコーン処理を施した厚み25μmのポリエステル樹脂からなる基材(セパレーター)のシリコーン処理面を貼合せて、セパレーター付表面保護フィルムを得た。」
「【0272】
〔実施例1~15、比較例1~3〕
表1に示す配合部数に沿って製造例11で得られたセパレーター付表面保護フィルムを幅25mm、長さ80mmのサイズにカットし、セパレーターを剥離した。その後、製造例4で得られた剥離ライナーと粘着剤層との積層体が付いた偏光板を幅70mm、長さ100mmにカットし、その剥離ライナーと反対側の面に、表面保護フィルムの粘着剤層面を0.25MPaの圧力でラミネートし、剥離ライナー/粘着剤層/光学部材/表面保護フィルム(粘着剤層/基材層)の構成の表面保護フィルム付光学部材(1)~(15)、(C1)~(C3)を得た。
結果を表1に示した。」
「【0273】
【表1】
[図:0001437377000001.jpg]
」
(イ)甲B1に記載された発明
甲B1の段落0272に記載の表面保護フィルム/光学部材/粘着剤層/剥離ライナーの構成の表面保護フィルム付光学部材について、段落0256に記載の偏光板用粘着剤の製造方法、段落0257に記載の偏光板の製造方法、段落0258に記載の剥離ライナーの製造方法、段落0259に記載の剥離ライナーと粘着剤層との積層体が付いた偏光板の製造方法、段落0266に記載のセパレター付表面保護フィルムの製造方法、段落0272に記載の表面保護フィルムと偏光板とのラミネート方法も参照しつつ整理すると、甲B1には、
「ブチルアクリレート99重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート1重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1重量部、酢酸エチル100重量部を緩やかに撹拌しながら窒素ガスを導入し、55℃で8時間重合反応させて得た重合平均分子量160万のアクリル系ポリマー溶液(50重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、さらにこの溶液100重量部に、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製)0.1重量部を加えて、アクリル系粘着剤溶液を調製し、
厚さ25μmのトリアセチルセルロース(TAC)に、水系接着剤を乾燥後の厚みが80nmとなるように塗工し、それを厚さ12μmの偏光子の両面に貼り合わせ、乾燥して、偏光板を作製し、
前記アクリル系粘着剤溶液を、厚さ50μmのポリエステル樹脂からなる基材(剥離ライナー)のシリコーン処理面に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層(2)を形成して、剥離ライナーと粘着剤層(2)との積層体を製造し、
別のアクリル系粘着剤組成物(Ac1)を、ポリエステル樹脂からなる基材「ルミラーS10」(厚さ38μm、東レ社製)に、乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層(1)を作製し、次いで、粘着剤層の表面に、厚み25μmのポリエステル樹脂からなる基材(セパレーター)のシリコーン処理面を貼り合わせて、セパレーター付表面保護フィルムを作製し、
前記偏光板の片側に、剥離ライナーと粘着剤層(2)との積層体の粘着剤層(2)側を貼り合わせ、セパレーター付表面保護フィルムからセパレーターを剥離し、剥離ライナーと反対側の面に、表面保護フィルムの粘着剤層(1)面をラミネートして得た、表面保護フィルム/偏光板/粘着剤層(2)/剥離ライナーの構成の表面保護フィルム付光学部材」
の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 本件発明1
(ア)対比
甲B1発明の「表面保護フィルム」の基材である「ポリエステル樹脂からなる基材「ルミラーS10」(東レ社製)」は、本件訂正発明1の「保護フィルム」に相当し、甲B1発明の「偏光板」、「粘着剤層(2)」及び「剥離ライナー」は、それぞれ、本件訂正発明1の「光学フィルム」、「粘着剤層」及び「セパレータ」に相当する。
甲B1発明の「表面保護フィルム/偏光板/粘着剤層(2)/剥離ライナー」の構成は、本件訂正発明1の「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層される」構成に相当し、甲B1発明の「表面保護フィルム付光学部材」は、粘着剤層(2)を有するから、本件訂正発明1の「粘着剤層付き光学積層フィルム」に相当する。
甲B1発明の「表面保護フィルム」の基材である「ポリエステル樹脂からなる基材「ルミラーS10」(東レ社製)」は、「厚さ38μm」であるから、本件発明1の「保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下」を充足する。
甲B1発明の「粘着剤層(2)」は、アクリル系ポリマー溶液に架橋剤を配合したアクリル系粘着剤溶液を塗布、乾燥して形成されたものであるから、本件発明1の「粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層」に相当する。
甲B1発明の「剥離ライナー」は、「厚さ50μmのポリエステル樹脂からなる」から、本件訂正発明1の「前記セパレータの厚さが30μm以上」を充足する。
甲B1発明の「偏光板」は、「厚さ25μmのトリアセチルセルロース(TAC)に、水系接着剤を乾燥後の厚みが80nmとなるように塗工し、それを厚さ12μmの偏光子の両面に貼り合わせ、乾燥して、作製」したものであるから、本件訂正発明1の「前記光学フィルムは、偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルム」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲B1発明とは、
「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記セパレータは厚さが30μm以上であり、
前記光学フィルムは、偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光子フィルムである、粘着剤層付き光学積層フィルム」
という点において一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1’’>
本件訂正発明1は、保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であるのに対して、甲B1発明は、保護フィルムの引張弾性率が不明である点
<相違点2’’>
本件訂正発明1は、光学フィルムの厚さが「35μm以下」であるのに対して、甲B1発明は、光学フィルムに相当する偏光板が厚さ12μmの偏光子の両面に厚さ80nmの接着剤層(1)を介して厚さ25μmのトリアセチルセルロース(TAC)を貼り合わせたものであり、その厚さが「62.16(=12+(25+80×10-3)×2)μm」である点
<相違点3’’>
本件訂正発明1は、粘着剤層の厚さが「40μm以上」であるのに対して、甲B1発明は、粘着剤層に相当する粘着剤層(2)の厚さが「20μm」である点
<相違点5>
本件訂正発明1は、セパレータが「ポリエチレンテレフタレート」であるのに対して、甲B1発明は、「ポリエステル樹脂」である点
(イ)相違点についての判断
a 相違点1’’について
甲B3には、甲B1発明の「ルミラー」製品について、ヤング率の代表値が「4GPa」(第597頁(表1))であることが記載されているところ、甲B1発明の「ポリエステル樹脂からなる基材「ルミラーS10」(東レ社製)」は、本件訂正発明1の「保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上である」を充足するものといえる。
したがって、前記相違点1’’は実質的な相違点ではない。
b 相違点2’’及び相違点3’’について
光学部材の厚みについて、甲B1には、「光学部材の厚みは、好ましくは1μm~500μm、より好ましくは3μm~450μmであり、さらに好ましくは5μm~400μmであり特に好ましくは10μm~300μmである。本発明の表面保護フィルム付光学部材は、光学部材の厚みがこのように薄い場合であっても、剥離ライナーを剥離しようとする際に、光学部材が該剥離ライナーと一緒に表面保護フィルムから剥離され難い、すなわち、光学部材と表面保護フィルムとの界面で剥離が起こり難いという効果を発現し得る。」(段落0026)と記載されており、特に好ましい範囲として、10~300μmという広い範囲が示されている。
また、粘着剤層の厚みについて、甲B1には、「粘着剤層(2)の厚みは、好ましくは1μm~500μmであり、より好ましくは2μm~400μmであり、さらに好ましくは5μm~350μmであり、特に好ましくは10μm~300μmである。粘着剤層(2)の厚みが上記範囲内に調整されることにより、本発明の表面保護フィルム付光学部材は、剥離ライナーを剥離しようとする際に、光学部材が該剥離ライナーと一緒に表面保護フィルムから剥離され難い、すなわち、光学部材と表面保護フィルムとの界面で剥離が起こり難いという効果をより発現し得る。」(段落0228)と記載されており、特に好ましい範囲として、10~300μmという広い範囲が示されている。
そして、これらの数値範囲の中で、厚くするとどのようなメリット・デメリットがあり、薄くするとどのようなメリット・デメリットがあるのか何ら説明がされていないところ、光学部材の厚みが62.16μmかつ粘着剤層の厚みが20μmである甲B1発明の表面保護フィルム付光学部材について、光学部材の厚みを35μm以下とし、かつ粘着剤層の厚さを40μm以上とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 相違点5について
甲B1には、「剥離ライナーとしては、例えば、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がシリコーン処理された剥離ライナー・・・などが挙げられ・・・ライナー基材としてのプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム・・・ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム・・・などが挙げられる。」(段落0226)と記載されている。
そして、甲B1発明の剥離ライナーの材質は、ポリエステル樹脂と特定されるのみで、ポリエステル樹脂の種類は具体的に特定されていないものの、ポリエステル樹脂の代表であるポリエチレンテレフタレートフィルムである蓋然性は高いし、そうでないとしても、前記甲B1の段落0226の記載を参酌して、甲B1発明の剥離ライナーをポリエチレンテレフタレートフィルムからなるものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)効果について
本件特許明細書には、発明の効果について、「本発明による粘着剤層付き光学積層フィルムでは、厚さ80μm以下の薄型化された光学フィルムを備えながらも、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率の双方を所定の値以上とすることによって、噛み込んだ異物により生じる圧力を分散させて、当該異物の噛み込みに起因して粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制でき・・・保管時に生じる凹みの程度を抑制できる。」(段落0008)と記載されており、また、実施例、比較例として、その効果を裏付けるデータが記載されている。
一方、甲B1には、保管時に粘着剤層に生じうる凹みの程度を抑制するという課題や効果について記載も示唆もないところ、甲B1発明において、仮に相違点2’’、3’’及び5の構成について当業者が容易に想到し得たとしても、そうして得られた光学フィルムによって、保管時に生じる凹みの程度を抑制できるとの効果を当業者が予測できたとはいえないし、そのような技術常識も見当たらない。
(エ)小括
したがって、本件訂正発明1は、甲B1に記載された発明に該当しないし、甲B1に記載された発明及び甲B1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
ウ 本件訂正発明2、4~8
本件訂正発明2、4~8は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲B1に記載された発明及び甲B1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(4)甲B2を主引用例とする新規性、進歩性の欠如(第4 3(1)エの取消理由、第4 2(1)イの申立理由に対応)
ア 甲B2に記載された事項及び記載された発明
(ア)甲B2に記載された事項
「[0032]<偏光子>
本発明では、厚み10μm以下の偏光子を用いる。偏光子の厚みは薄型化および貫通クラックの発生を抑える観点から8μm以下であるのが好ましく、さらには7μm以下、さらには6μm以下であるのが好ましい。一方、偏光子の厚みは2μm以上、さらには3μm以上であるのが好ましい。このような薄型の偏光子は、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため熱衝撃に対する耐久性に優れる。」
「[0038]一方、前記条件を満足するように構成された偏光子は、構成する高分子(例えばポリビニルアルコール系分子)が高い配向性を示すため、厚み10μm以下であることと相俟って、偏光子の吸収軸方向に直交する方向の引張破断応力が顕著に小さくなる。その結果、例えば、偏光フィルムの製造過程において当該引張破断応力を超える機械的衝撃に晒された際に、ナノスリットが偏光子の吸収軸方向に生じる可能性が極めて高い。よって、本発明は、当該偏光子を採用した片保護偏光フィルム(またはそれを用いた粘着剤層付片保護偏光フィルム)に特に好適である。」
「[0044]保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1~500μm程度である。特に1~300μmが好ましく、5~200μmがより好ましく、さらには、5~150μm、特に、5~80μmの薄型の場合に特に好適である。」
「[0056]<粘着剤層>
本発明の粘着剤層付片保護偏光フィルムにおける粘着剤層は、前記のように、膜厚と貯蔵弾性率が前記式を満足するように制御される。粘着剤層の膜厚は50μm未満である。
リワーク性及び加熱耐久性(加熱時の剥がれ抑制)の観点からは、粘着剤層は柔らかい方が好ましく、粘着剤層の膜厚は、例えば、30μm以下が好ましく、さらには25μm以下が好ましい。なお、粘着剤層の膜厚は、剥がれ抑制の観点から1μm以上であることが好ましく、さらには5μm以上であることが好ましい。さらには、パネル等に貼り合せる時の異物の噛み込み不良を抑制する観点からは、粘着剤層は厚い方が好ましく、例えば、10μm以上、さらには15μm以上が好ましい。」
「[0087]前記セパレータの厚みは、通常5~200μm、好ましくは5~100μm程度である。前記セパレータには、必要に応じて、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉などによる離型および防汚処理や、塗布型、練り込み型、蒸着型などの帯電防止処理もすることもできる。特に、前記セパレータの表面にシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理などの剥離処理を適宜おこなうことにより、前記粘着剤層からの剥離性をより高めることができる。」
「[0118]<粘着剤層の形成>
(アクリル粘着剤A)
≪アクリル系ポリマーの調製≫
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコに、ブチルアクリレート63部およびメチルメタクリレート37部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに、前記モノマー混合物(固形分)100部に対して、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.1部をトルエンと共に仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、フラスコ内の液温を60℃付近に保って7時間重合反応を行った。その後、得られた反応液に、トルエンを加えて、固形分濃度30%に調整した、重量平均分子量10万のアクリル系ポリマーの溶液を調製した。
[0119]≪粘着剤組成物の調製≫
上記アクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、イソシアネート基を有する化合物を主成分とする架橋剤(日本ポリウレタン工業社製,商品名「コロネートL」)1部およびγ-グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製,商品名「KBM-403」)0.2部を配合して、アクリル系粘着剤Aの溶液を調製した。
[0120](アクリル粘着剤B乃至F)
上記のアクリル系粘着剤Aの≪アクリル系ポリマーの調製≫において、モノマー混合物の組成、溶剤を表2に示すように変え、重合条件を調整したこと以外は同様の操作を行って、表2に示す重量平均分子量を有するアクリル系ポリマーの溶液を調製した。次いで、得られたアクリル系ポリマーの溶液に、表2に示すように、架橋剤の種類または配合量を変えたこと以外は、上記≪粘着剤組成物の調製≫と同様の操作を行って、アクリル系粘着剤B乃至Fの溶液を調製した。
[0121](粘着剤層の形成)
次いで、上記アクリル系粘着剤溶液を、シリコーン系剥離剤で処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータフィルム)の表面に、ファウンテンコータで均一に塗工し、155℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥し、セパレータフィルムの表面に粘着剤層を形成した。粘着剤層の膜厚は、粘着剤層付偏光フィルムを作製する際に、表3に示す厚さを設定した。表2には、粘着剤層の貯蔵弾性率、ゲル分率を併せて示す。
[0122]
[表2]
[図:0001437377000002.jpg]
[0123]表2中、
BA:ブチルアクリレート、
AA:アクリル酸、
MMA:メチルメタクリレート、
MA:メチルアクリレート、
HBA:4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
ACMO:N-アクリロイルモルホリン、
トルエン/酢酸エチルは、容量比1/1の混合溶媒、
コロネートL:日本ポリウレタン工業社製,商品名「コロネートL」,トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物、
タケネートD110N:三井化学社製,:商品名「タケネートD110N」,トリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート、
KBM-403:γ-グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製,商品名「KBM-403」)、を示す。
[0124]実施例1~24、比較例1~8
<粘着剤層付偏光フィルムの作製>
表3に示す片保護偏光フィルムの偏光子側に、表3に示す粘着剤により、離型シート(セパレータ)の剥離処理面に形成した、表3に示す膜厚の粘着剤層を貼り合わせて、粘着剤層付片保護偏光フィルムを作製した。」
「[0136]
[表3]
[図:0001437377000003.jpg]
[0137]実施例25
片保護偏光フィルムとして長尺状のものを用いたこと、形成材をマイクログラビアコーターを用いて塗工したこと、上記の離型シート(セパレータ)及び下記の表面保護フィルムとして長尺状のものを用いたこと以外は、実施例10と同様である。これにより、片保護偏光フィルムの偏光子側にセパレータ及び透明保護フィルム側に表面保護フィルムが積層された粘着剤層付片保護偏光フィルム(図1の態様)の巻回体を作製した。なお、粘着剤層付片保護偏光フィルムの巻回体は、粘着剤層付片保護偏光フィルムの連続搬送により切断を進行させるスリット加工によって、32インチ無アルカリガラスの短辺及び長辺に各々対応する幅のものをセットとして準備した。
[0138](ロール・トゥ・パネル用表面保護フィルム)
帯電防止処理層付きポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイルT100G38、三菱樹脂社製、厚さ38μm)の帯電防止処理面とは反対の面にアクリル系粘着剤を厚さが15μmとなるように塗布形成し、表面保護フィルムを得た。
次に、図7に示すようなロール・トゥ・パネル方式の連続製造システムを使用し、粘着剤層付片保護偏光フィルムの巻回体のセットから連続的に供給された粘着剤層付片保護偏光フィルムを0.5mm厚の32インチ無アルカリガラス100枚の両面にクロスニコルの関係になるように連続的に貼り合せた。」
(イ)甲B2に記載された発明
甲B2の段落0137に記載の片保護偏光フィルムの偏光子側にセパレータ及び透明保護フィルム側に表面保護フィルムが積層された粘着剤層付片保護偏光フィルムの券回体について、段落0118~0120、0122(表2)に記載のアクリル系粘着剤Cの調製方法、段落0121、0122(表2)、0123、0136(表3)に記載の粘着剤C層(実施例10)の形成方法、段落0124、0137に記載の粘着剤層付片保護偏光フィルムの作製方法、段落0138に記載のロール・トウ・パネル用表面保護フィルムの製造方法も参照しつつ整理すると、甲B2には、
「ブチルアクリレート100部、アクリル酸3部および4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート0.3部を含有するモノマー混合物に、前記モノマー混合物(固形分)100部に対して、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部をトルエンと共に仕込み、緩やかに撹拌しながら窒素ガスを導入し、60℃付近で7時間重合反応させて重量平均分子量240万のアクリル系ポリマーの溶液を調製し、固形分100部に対して、イソシアネート基を有する化合物を主成分とする架橋剤(ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」)0.2部およびγ-グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KMB-403」)0.2部を配合してアクリル系粘着剤Cの溶液を調製し、
前記アクリル系粘着剤Cの溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の表面に塗工、乾燥して、膜厚10μm、ゲル分率95%の粘着剤C層を形成し、
厚み5μmの光学フィルム積層体の偏光子A0の表面に、紫外線硬化型接着剤を硬化後の厚みが5μmとなるように塗布しながら透明保護フィルム(厚さ40μm)を貼り合わせ、紫外線を照射し接着剤を硬化させ、次いで、非晶性PET基材を剥離し、片保護偏光フィルムA0を作製し、
帯電防止処理層付きポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイルT100G38、三菱樹脂社製、厚さ38μm)の帯電防止処理面とは反対の面にアクリル系粘着剤を厚さが15μmとなるように塗布形成して表面保護フィルムを作製し、
前記片保護偏光フィルムA0の偏光子側に前記セパレータ、透明保護フィルム側に前記表面保護フィルムが積層された、表面保護フィルム/片保護偏光フィルムA0/粘着剤C層/セパレータの構成の粘着剤層付片保護偏光フィルム」
の発明(以下「甲B2発明」という。)が記載されているといえる。
イ 本件発明1
(ア)対比
甲B2発明の「表面保護フィルム」の基材である「帯電防止処理層付きポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイルT100G38、三菱樹脂社製)」は、本件訂正発明1の「保護フィルム」に相当し、甲B2発明の「片保護偏光フィルムA0」、「粘着剤C層」及び「セパレータ」は、それぞれ、本件訂正発明1の「光学フィルム」、「粘着剤層」及び「セパレータ」に相当する。
甲B2発明の「表面保護フィルム/片保護偏光フィルムA0/粘着剤C層/セパレータの構成」は、本件訂正発明1の「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層される」構成に相当し、甲B2発明の「粘着剤層付片保護偏光フィルム」は、粘着剤C層を有するから、本件訂正発明1の「粘着剤層付き光学積層フィルム」に相当する。
甲B2発明の「表面保護フィルム」の基材である「帯電防止処理層付きポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイルT100G38、三菱樹脂社製)」は、「厚さ38μm」であるから、本件訂正発明1の「保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下」を充足する。
甲B2発明の「粘着剤C層」は、アクリル系ポリマーの溶液に架橋剤、シランカップリング剤を配合したアクリル系粘着剤Cの溶液を塗布、乾燥して形成されたものであるから、本件訂正発明1の「粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層」に相当する。
甲B2発明の「セパレータ」は、「ポリエチレンテレフタレートフィルム」であるから、本件訂正発明1の「前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲B2発明とは、
「保護フィルム、光学フィルム、粘着剤層及びセパレータがこの順に積層された粘着剤層付き光学積層フィルムであって、
前記保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であり、
前記セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成される、粘着剤層付き光学積層フィルム。」
という点において一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1’’’>
本件訂正発明1は、保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上であるのに対して、甲B2発明は、保護フィルムの引張弾性率が不明である点
<相違点2’’’>
本件訂正発明1は、光学フィルムの厚さが「35μm以下」であるのに対して、甲B2発明は、光学フィルムに相当する片保護偏光フィルムA0が、厚み5μmの光学フィルム積層体の偏光子A0の表面に、紫外線硬化型接着剤を硬化後の厚みが0.5μmとなるように塗布しながら透明保護フィルム(厚さ40μm)を貼り合わせ、紫外線を照射し接着剤を硬化させたものであり、その厚さが「45.5(=5+0.5+40)μm」である点
<相違点3’’’>
本件訂正発明1は、粘着剤層の厚さが「40μm以上」であるのに対して、甲B2発明は、粘着剤層に相当する粘着剤C層の厚さが「10μm」である点
<相違点4’’’>
本件訂正発明1は、光学フィルムが「偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムが順に接合された偏光フィルムであるか、又は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムが接合された偏光フィルムである」のに対して、甲B2発明は、光学フィルムに相当する片保護偏光フィルムA0が「偏光子A0の表面に、透明保護フィルム(厚さ40μm)を貼り合わせ」たものである点
<相違点6>
本件訂正発明1は、セパレータの厚さが「30μm以上」であるのに対して、甲B2発明は、セパレータの厚さが不明である点
(イ)相違点についての判断
a 相違点1’’’について
テレフタル酸とエチレングリコールの縮合物であるポリエチレンテレフタレートのヤング率が1GPa以上であることは周知であるから、甲B2発明の「帯電防止処理層付きポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件訂正発明1の「保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上である」を充足するものといえる。
したがって、前記相違点1’’’は実質的な相違点ではない。
b 相違点2’’’、4’’’について
甲B2には、「本発明は、当該偏光子を採用した片保護偏光フィルム(またはそれを用いた粘着剤層付片保護偏光フィルム)に特に好適である。」(段落0038)と記載されているものの、甲A1(段落0027)、甲A3(段落0018)に記載されているように、片保護偏光フィルムと両保護偏光フィルムはいずれも周知技術であるから、甲B2発明において、片保護偏光フィルムに代えて、両保護偏光フィルムを採用することは当業者が適宜になし得た設計事項である。
また、甲B2には、「本発明では、厚み10μm以下の偏光子を用いる。偏光子の厚みは薄型化および貫通クラックの発生を抑える観点から8μm以下であるのが好ましく、さらには7μm以下、さらには6μm以下であることが好ましい。一方、偏光子の厚みは2μm以上、さらには3μm以上でるのが好ましい。」(段落0032)、「保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1~500μm程度である。特に1~300μmが好ましく、5~200μmがより好ましく、さらには、5~150μm、特に、5~80μmの薄型の場合に特に好適である。」(段落0044)と記載されており、そうすると、甲B2発明を前記のとおり両保護偏光フィルムとした際、更なる薄型化のために、その厚さを偏光子フィルムとその保護フィルムの合計で30μm以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 相違点3’’’について
甲B2には、「粘着剤層の膜厚は50μm未満である。リワーク性及び加熱耐久性(加熱時の剥がれ抑制)の観点からは、粘着剤層は柔らかい方が好ましく、粘着剤層の膜厚は、例えば、30μm以下が好ましく、さらには25μm以下が好ましい。なお、粘着剤層の膜厚は、剥がれ抑制の観点から1μm以上であることが好ましく、さらには、パネル等に貼り合わせる時の異物の噛み込み不良を抑制する観点からは、粘着剤層は厚い方が好ましく、例えば、10μm以上、さらには15μm以上が好ましい。」(段落0056)と記載されている。
そうすると、甲B2発明の粘着剤C層について、最も好ましい膜厚の範囲は15~25μmとされており、剥がれ抑制等の観点からすると、もともと10μmであった甲B2発明の膜厚を40μm以上とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
d 相違点6について
甲B2には、「セパレータの厚みは、通常5~200μm、好ましくは5~100μm程度である。」(段落0087)と記載されているところ、甲B2発明のセパレータの厚さは、前記好適な範囲内で適宜に調整し得るものである。
(ウ)効果について
本件特許明細書には、発明の効果について、「本発明による粘着剤層付き光学積層フィルムでは、厚さ80μm以下の薄型化された光学フィルムを備えながらも、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率の双方を所定の値以上とすることによって、噛み込んだ異物により生じる圧力を分散させて、当該異物の噛み込みに起因して粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制でき・・・保管時に生じる凹みの程度を抑制できる。」(段落0008)と記載されており、また、実施例、比較例として、その効果を裏付けるデータが記載されている。
一方、甲B2には、甲B2発明の粘着剤C層について、「パネル等に貼り合わせる時の異物の噛み込み不良を抑制する観点からは、粘着剤層は厚い方が好まし」い(段落0056)と記載されているものの、前記(イ)cのとおり、厚みを40μm以上とすることは容易とはいえないし、保管時に粘着剤層に生じうる凹みの程度を抑制するという課題や効果について記載も示唆もない。
そうすると、甲B2発明において、仮に相違点2’’’~4’’’及び6の構成について当業者が容易に想到し得たとしても、そうして得られた光学フィルムによって、保管時に生じる凹みの程度を抑制できるとの効果を当業者が予測できたとはいえないし、そのような技術常識も見当たらない。
(エ)小括
したがって、本件訂正発明1は、甲B2に記載された発明に該当しないし、甲B2に記載された発明及び甲A1、甲A3、甲B2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
ウ 本件訂正発明2、4~8
本件訂正発明2、4~8は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲B2に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
2 理由2(サポート要件違反)(第4 3(2)の取消理由、第4 1(2)ウの申立理由に対応))
(1)本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、本件特許の明細書の段落0005の記載からみて、「保管時に生じうる凹みの程度を抑制できる粘着剤層付き光学積層フィルムの提供」であると認める。
(2)当審における判断
保管時に生じうる凹みについて、本件明細書の段落0004における「前記ロールに巻回された状態で、あるいは枚葉として積層された状態で保管されることが通常である」との記載からすると、前記「噛み込んだ異物」は、複数に重なる光学積層フィルム間、すなわち、一方の保護フィルムと他方のセパレータとの間に存在すると考えられ、当該異物により生じる圧力は、保護フィルム側から粘着剤層に影響するだけでなく、セパレータ側からも粘着剤層に影響し、凹みの要因になり得ると考えられる。それにもかかわらず、本件特許発明(本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された発明)は、セパレータ側からの圧力を分散させる構成について何ら特定されていないものであった。 これに対し、本件訂正発明1は、セパレータについて、「厚さが30μm以上」であり、「セパレータはポリエチレンテレフタレートにより構成され」ることが特定されたものであって、本件特許明細書の実施例1~12及び比較例3の保護フィルムとして使用したPETフィルム(25μm、38μm又は50μm)と同等の厚さ及び引張弾性率を有するものといえるから、異物により生じる圧力がセパレータ側から粘着剤層に影響する場合でも、セパレータにより噛み込んだ異物により生じる圧力を分散させて、当該異物の噛み込みに起因して粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制できると当業者は推認できる。
してみると、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記(1)で示した課題を解決できると認識できるものであるから、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
本件訂正発明1の引用形式で記載された本件訂正発明2、4~8についても同様である。
(3)小括
したがって、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、第4 3(2)の取消理由によって取り消されるべきものでない。
第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 サポート要件違反(前記第4 1(2)ア、イ、エ~キの申立理由及び前記第4 2(2)の申立理由)
申立人Aは、前記第4 1(2)ア、イ、エ~キのとおり主張し、申立人Bは前記第4 2(2)のとおり主張しているところ、それらの主張について検討する。
(1)第4 1(2)ア、イの主張について
本件特許明細書の段落0091には、実施例及び比較例の光学積層フィルム及び粘着剤層について、粘着剤層に生じうる凹みの程度を、直径5.5mmの鉄球を光学積層フィルムにその保護フィルム側から約2MPaの圧力で押し当てて、60秒が経過した時点までの厚さ方向の変位を「凹み量」として測定することで評価したことが記載されており、当該評価方法により、光学積層フィルムをロールに巻回された状態又は枚葉として積層された状態で保管される際、5.5mm程度の異物が存在する態様を模擬し、その異物により生じる粘着剤層の凹みの程度を評価しているものと当業者は理解できるし、鉄という素材や5.5mmという寸法を採用することで、比較的硬く、大きい異物を想定していることや、60秒の経過した時点までの変位を測定すること、厚さ方向の変位が十分に進んだ状態での凹み量を測定していることも理解できる。
そして、本件特許明細書の実施例及び比較例の結果を比較すると、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率が所定の値以上であることで、本件特許明細書の段落0008に記載されたとおり、保管時に生じうる凹みの程度を抑制できるものと当業者は認識できる。
また、実施例及び比較例として、ロールに巻回された状態を模したり、異物の位置をさまざまに変えて測定した態様はないものの、そのような態様においても、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率を所定の値以上とすることによって、異物により生じる圧力を分散させて、粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制できる効果に変更が生じるものではないから、凹み量の程度に差異は生じるとしても、保管時に生じうる凹みの程度を抑制できるものと当業者は認識できる。
してみると、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記第5 2(1)で示した課題を解決できると認識できるものであるから、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、申立人Aによる前記第4 1(2)ア、イの主張は採用できない。
(2)第4 1(2)エの主張について
本件特許明細書には、「アクリル系粘着剤組成物は、架橋剤をさらに含んでいてもよい。架橋剤の使用により、粘着剤層4の凝集力が向上する。」(段落0055)と記載されており、課題解決のために必須の成分ではないことが明示されている。
そして、本件特許明細書の実施例及び比較例は、いずれもアクリル系粘着剤組成物に架橋剤が含むものの、架橋剤を含まない態様においても、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率を所定の値以上とすることによって、異物により生じる圧力を分散させて、粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制できる効果に変更が生じるものではないから、架橋剤を含まない態様において、凝集力の低下に伴い凹み量に程度に差異は生じるとしても、保管時に生じうる凹みの程度を抑制できるものと当業者は認識できる。
してみると、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記第5 2(1)で示した課題を解決できると認識できるものであるから、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、申立人Aによる前記第4 1(2)エの主張は採用できない。
(3)第4 1(2)オ、カの主張について
本件訂正発明1は、「光学積層フィルム」が「光学フィルム」を含むことを特定しており、光学フィルムを構成する偏光子等が形成できない態様を含むものではないから、光学フィルムが所望の特性を発揮し得る最低限の厚みを有することは自明である。
また、本件特許明細書の実施例及び比較例は、光学フィルムやそれを構成する偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムとして、特定の厚さや材質のものを使用しているが、それらの厚さや材質を変えた態様においても、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率を所定の値以上とすることによって、異物により生じる圧力を分散させて、粘着剤層に生じうる凹みの進行を抑制できる効果に変更が生じるものではないから、光学フィルムやそれを構成する偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルムの厚さや材質が任意の態様において、凹み量の程度に差異は生じるとしても、保管時に生じうる凹みの程度を抑制できるものと当業者は認識できる。
してみると、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記第5 2(1)で示した課題を解決できると認識できるものであるから、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、申立人Aによる前記第4 1(2)オ、カの主張は採用できない。
(4)第4 1(2)キの主張及び第4 2(2)の主張について
前記(1)で示したとおり、本件特許明細書の実施例及び比較例の結果を比較すると、保護フィルムの厚さ及び引張弾性率が所定の値以上であることで、本件特許明細書の段落0008に記載されたとおり、保管時に生じうる凹みの程度を抑制できるものと当業者は認識できる。
確かに、実施例1~12の保護フィルムは、厚さが38μm又は50μm、引張弾性率が4089MPa(4.089GPa)であり、その場合の凹み量が31μm又はそれ以下であるのに対して、比較例2の保護フィルムは、厚さが30μm、引張弾性率が348MPa(0.348GPa)、比較例3の保護フィルムは、厚さが25μm、引張弾性率が4589MPa(4.589GPa)であり、それぞれの場合の凹み量が36μm、40μmであるところ、保護フィルムの厚さが30μm~38μm、引張弾性率が1GPa~4.089GPaの範囲において、保管時に生じうる凹み量を実施例1~12と同じく31μm以下に抑制できることを直接的に裏付けるデータが示されているわけではない。
しかしながら、保護フィルムの厚さが30μm~38μm、引張弾性率が1GPa~4.089GPaの範囲において、その場合の凹み量は少なくとも31μm~36μm程度であると推測できるし、そもそも凹み量を抑制できたか否かの判断基準として、凹み量の具体的な数値が定義されるわけではないから、保護フィルムの厚さが30μm以上50μm以下であり、引張弾性率が1GPa以上であれば、少なくとも比較例2、3よりも凹みの程度を抑制できるものと当業者は認識できる。
してみると、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記第5 2(1)で示した課題を解決できると認識できるものであるから、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、申立人Aによる前記第4 1(2)キの主張、及び、申立人Bによる前記第4 2(2)の主張は採用できない。
(5)サポート要件違反のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、4~8は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、第4 1(2)ア、イ、エ~キの取消理由及び第4 2(2)の取消理由によって取り消されるべきものでない。
2 明確性要件違反(第4 1(3)の申立理由)
申立人Aは、前記第4 1(3)のとおり主張しているところ、それらの主張について検討する。
(1)前記第4 1(3)アの主張について
本件訂正発明1は、「前記保護フィルムの引張弾性率が1GPa以上」であると特定する一方、その上限値は明示的に特定していないものの、本件特許明細書には、光学積層フィルムが「ロールに巻回された状態で保管されることが通常である」(段落0004)と記載されており、当該記載からすると、本件訂正発明1の保護フィルムを含めた各層が、ロールに巻回できないような高い引張弾性率を有するものでないことは明らかである。
したがって、申立人Aによる前記第4 1(3)アの主張は採用できない。
(2)前記第4 1(3)イの主張について
本件訂正発明1は、「光学フィルムの厚さは80μm以下」であると特定する一方、その下限値は明示的に特定していない。
しかしながら、前記1(3)で示したとおり、光学フィルムが光学フィルムとしての特性を発揮し得る最低限の厚みを有することは自明である。
また、「光学フィルムの厚さ」が、光学フィルムを構成する偏光子保護フィルム、偏光子、位相差フィルム及びそれらの接合に用いるアクリル系接着剤層の厚さの合計であることも明らかである。
したがって、申立人Aによる前記第4 1(3)イの主張は採用できない。
(3)明確性要件違反のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、4~8は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、第4 1(3)の取消理由によって取り消されるべきものでない。
第7 むすび
前記第5及び第6のとおり、本件訂正発明1、2、4~8に係る特許は、前記第4 1の申立理由、前記第4 2の申立理由、前記第4 3の取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1、2、4~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項3は削除され、請求項3に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700566