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特許異議申立

2022-700073

静電チャック

審判番号
2022-700073
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-051448
登録番号
6909448
請求日
2022年01月27日
審決日
2024年01月05日
公報発行日
2024年06月28日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】TOTO株式会社
  • 【権利者代理人】日向寺 雅彦
  • 【権利者代理人】小崎 純一
  • 【権利者代理人】市川 浩
  • 【異議申立人】金 海松
審判長/審判官
  • 審判長 恩田 春香
  • 審判官 河本 充雄
  • 審判官 棚田 一也
分類
P1651.113-ZDA(H01L) / P1651.121-ZDA(H01L) / P1651.161-ZDA(H01L) / P1651.536-ZDA(H01L) / P1651.537-ZDA(H01L) / P1651.841-ZDA(H01L) / P1651.851-ZDA(H01L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6909448号発明「静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6909448号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第6909448号の請求項3~6に係る特許を取り消す。 同請求項1~2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6909448号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年3月23日(優先権主張 平成31年3月28日(以下、「本件特許出願の優先日」という。)に出願され、令和3年7月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。 その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 1月27日:特許異議申立人 金 海松(以下、「申立人金」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 4月27日付け:取消理由通知 同年 7月 5日:特許権者による意見書、訂正請求書の提出 同年 7月13日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知) 同年 8月10日:申立人金による意見書の提出 同年10月19日付け:審尋 同年11月18日:特許権者による回答書の提出 令和5年 3月 1日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 5月 2日:特許権者による意見書の提出 同年 6月30日:特許権者による上申書の提出 同年 7月27日:特許権者による上申書の提出 同年 9月15日付け:審尋 同年10月19日:申立人金による回答書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和4年7月5日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」といい、本件訂正の請求を「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「セラミック誘電体基板と、前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、を備え、-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であることを特徴とする静電チャック。」 と記載されているのを、 「セラミック誘電体基板と、前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、を備え、前記樹脂材料は、シリコーンを含み、-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であることを特徴とする静電チャック。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「樹脂材料を含む接合層」について、当該「樹脂材料」が「シリコーンを含」むことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0038】に記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 前記樹脂材料は、シリコーンを含み、 -60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であることを特徴とする静電チャック。 【請求項2】 前記弾性率γ1は、0.3MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。 【請求項3】 25℃における前記接合層の弾性率γ2に対する前記弾性率γ1の比γ1/γ2は、0.6以上30以下であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。 【請求項4】 前記比γ1/γ2は、0.8以上であることを特徴とする請求項3記載の静電チャック。 【請求項5】 前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸化イットリウムのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の静電チャック。 【請求項6】 前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項5記載の静電チャック。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由 1 訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和4年4月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)取消理由1-1(実施可能要件) 本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)取消理由1-2(サポート要件) 請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 訂正後の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和5年3月1日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 (1)取消理由2-1(実施可能要件) 本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)取消理由2-2(進歩性) 請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び仮の技術常識1~3に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明及び仮の技術常識1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 甲第1号証:特開平4-287344号公報 甲第2号証:特開2012-142413号公報 第5 取消理由通知において採用しなかった申立理由 取消理由通知において採用しなかった理由は、次のとおりである。 1 申立理由1-1(新規性) 本件発明1~6は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由1-2(拡大先願) 本件発明1~6は、その出願の優先日前の他の特許出願であって、その出願の優先日後に出願公開された特願2018-148373号(甲第3号証:特開2020-023088号公報参照)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下、「甲3明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の他の特許出願に係る上記の発明者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記他の特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開平4-287344号公報 甲第2号証:特開2012-142413号公報 甲第3号証:特願2018-148373号(特開2020-23088号公報) なお、甲第1号証、甲第2号証を、以下、「甲1」、「甲2」という。 第6 取消理由1-1及び取消理由2-1(実施可能要件)について 1 本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明の態様は、一般的に、静電チャックに関する。」 (2)「【発明を実施するための形態】 【0024】 以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。 【0025】 図1は、実施形態に係る静電チャックを例示する模式的断面図である。 図1に表したように、静電チャック110は、セラミック誘電体基板11と、ベースプレート50と、接合層60と、を備える。」 (3)「【0037】 接合層60は、樹脂材料を含む。実施形態において、接合層60は、極低温下において柔軟性を保つことが可能に構成される。例えば、接合層60は、シリコーン系、アクリル系、変性シリコーン系、あるいはエポキシ系の高分子材料であって炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、ケイ素(Si)、及び酸素(O)の少なくとも1つを主成分とする高分子材料を含む。 ここで、本願明細書において、「極低温」とは、-60℃以下の低温環境をいう。具体的には、-60℃~-120℃をいう。 【0038】 接合層60は、シリコーンを含むことが好ましい。接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。」 (4)「【0068】 実施形態において、-60℃における接合層60の弾性率γ1は、例えば、0.1MPa以上10MPa以下、好ましくは0.1MPa以上3MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上1MPa以下である。また、弾性率γ1は、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.4MPa以上である。 【0069】 弾性率γ1が0.1MPa以上であれば、極低温の環境下において、接合層60が十分な復元性を有するため、セラミック誘電体基板11とベースプレート50との間に応力が生じた際にも、セラミック誘電体基板11の反りを抑制しやすい。これにより、極低温の環境下における、対象物Wの面内温度均一性の悪化を抑制できる。 【0070】 弾性率γ1が10MPa以下であれば、極低温の環境下において、接合層60が硬くなり過ぎることを抑制できる。これにより、極低温の環境下において、セラミック誘電体基板11にかかる応力を抑制し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制できる。」 (5)「【0078】 図2(a)~図2(c)は、接合層の伸び率及び接合強度の測定方法を表す説明図である。 図3は、接合層の弾性率の算出方法を表す説明図である。 図4は、接合層の伸び率及び接合強度の測定箇所を例示する説明図である。 実施形態において、接合層60の伸び率α及び接合強度βは、図2(a)~図2(c)に示した方法で測定することができる。 【0079】 接合層60の伸び率α及び接合強度βを測定する際には、まず、図2(a)に表したように、静電チャック110から試験片TPを採取する。試験片TPは、静電チャック110をZ軸方向に貫通するように採取される。つまり、試験片TPは、Z軸方向に積層されたベースプレート50、接合層60、及びセラミック誘電体基板11を含むように採取される。試験片TPは、直径30mmの円柱形で採取される。採取方法は、例えばヘリカル加工、ウォータージェット切断加工などである。 【0080】 次に、図2(b)に表したように、試験片TPのセラミック誘電体基板11及びベースプレート50に対し、それぞれX-Y平面に沿う対向する向きに圧力をかける。この例では、セラミック誘電体基板11に対してX軸方向の負の向きに圧力をかけ、ベースプレート50に対してX軸方向の正の向きに圧力をかけている。圧力は、例えばオートグラフにより印加する。接合層60の伸び率α及びせん断応力を測定しながら、試験片TPにかける圧力を大きくしていき、図2(c)に表したように、接合層60を破断させる。 【0081】 上記の方法で測定された伸び率α及びせん断応力の関係は、例えば、図3に示す曲線で表される。図3に表したように、せん断応力は、接合層60が破断するまで大きくなり、接合層60が破断すると小さくなる。すなわち、せん断応力が最大となる時点を接合層60が破断した時点とみなすことができる。 【0082】 伸び率αは、100×(破断したときの接合層60の伸びL1)/(接合層60の厚さT2)で表される。破断したときの接合層60の伸びL1は、破断した時点の、加圧方向(この例では、X軸方向)における接合層60の長さの変化量である。接合層60の厚さT2は、Z軸方向における接合層60の長さである。接合強度βは、接合層60が破断したときのせん断応力の大きさである。すなわち、接合層60が破断したときのせん断応力の大きさから接合強度βを求めることができる。 【0083】 伸び率α及び接合強度βの測定には、例えば、オートグラフ(島津製作所製AGS-X(5kN))を用いることができる。測定条件は、例えば、圧縮速度:0.1~10mm/min、使用ロードセル:5kN、測定温度:25℃、-60℃である。 【0084】 図3に表したように、接合層60の弾性率γは、接合層60が破断するまでの曲線の傾きで表される。換言すれば、弾性率γは、伸び率α及び接合強度βから算出される。具体的には、弾性率γは、(破断したときの接合層60の接合強度β)/(破断したときの接合層60の歪み((破断したときの接合層60の伸びL1)/(接合層60の厚さT2)))で表される。」 (6)「【0088】 図5及び図6は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表すグラフである。 図6は、図5のA部を拡大したグラフである。 図7は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表す表である。 実施例1は、実施形態に係る静電チャック110の一例である。参考例1は、実施例1とは物性が異なる接合層60を有する静電チャックの一例である。 【0089】 図2(a)~図2(c)及び図3に示した測定・算出方法で測定・算出した実施例1及び参考例1の接合層60の伸び率α、接合強度β、及び弾性率γを図5~図7に示す。 【0090】 また、実施例1及び参考例1に対して、剥離/割れ試験を行った結果を図7に示す。剥離/割れ試験では、セラミック誘電体基板11とベースプレート50とを接合層60で接合したサンプルを作製し、サンプルを-60℃に少なくとも3000時間放置した後、室温に戻し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離の有無、及び、セラミック誘電体基板11の割れの有無を評価した。接合層60の剥離の有無は、接合層60の断面を顕微鏡で観察しクラックなどの有無を評価する直接観察と、超音波を当てて接合層60の内部のクラックなどの有無を評価する超音波探傷と、で行った。直接観察及び超音波探傷の少なくともいずれかでクラックが見られたものを剥離「あり」、直接観察及び超音波探傷の両方でクラックが見られなかったものを剥離「なし」と評価した。また、セラミック誘電体基板11の割れの有無は、セラミック誘電体基板11を目視で観察し、割れが見られたものを割れ「あり」、割れが見られなかったものを割れ「なし」と評価した。 ・・・ 【0097】 また、図5~図7に表したように、参考例1において、弾性率γ1は28MPa、弾性率γ2は0.29MPa、弾性率γの比γ1/γ2は96.6である。参考例1においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。 【0098】 これに対し、実施例1において、弾性率γ1は0.63MPa、弾性率γ2は0.44MPa、弾性率γの比γ1/γ2は1.4である。実施例1においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0099】 このように、接合層60の弾性率γ1を0.1MPa以上10MPa以下、または、弾性率γの比γ1/γ2を0.6以上30以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。 ・・・ 【0100】 図8は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表す表である。 実施例2~14は、実施形態に係る静電チャック110の一例である。 実施例1及び参考例1と同様にして測定・算出した実施例2~14の接合層60の伸び率α、接合強度β、及び弾性率γを図8に示す。また、実施例1及び参考例1と同様にして剥離/割れ試験を行った結果を図8に示す。 ・・・ 【0105】 図8に表したように、実施例2~14において、弾性率γ1は0.34MPa以上1.02MPa以下、弾性率γ2は0.19MPa以上0.81MPa以下、弾性率γの比γ1/γ2は0.9以上2.1以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0106】 このように、接合層60の弾性率γ1を0.1MPa以上10MPa以下、または、弾性率γの比γ1/γ2を0.6以上30以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。」 (7)「【図2】 [図:0001411224000001.jpg] 【図3】 [図:0001411224000002.jpg] 」 (8)「【図5】 [図:0001411224000003.jpg] 【図6】 [図:0001411224000004.jpg] 【図7】 [図:0001411224000005.jpg] 【図8】 [図:0001411224000006.jpg] 」 2 本件発明1について (1)上記1(3)における【0037】~【0038】には、「接合層」に含まれる樹脂材料の種類が例示されており、樹脂材料については、シリコーンを含むことが好ましいこと、接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと、これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できることが記載されている。 (2)また、上記1(4)における【0068】には、-60℃における接合層60の弾性率γ1は、0.1MPa以上10MPa以下であることが記載されている。 そして、上記1(5)における【0078】~【0084】には、伸び率α及び接合強度βの測定方法として、積層されたベースプレート50、接合層60、及びセラミック誘電体基板11を含み、直径30mmの円柱形の試験片TPを、オートグラフ(島津製作所製AGS-X(5kN))を用いて、測定条件は、圧縮速度:0.1~10mm/min、使用ロードセル:5kN、測定温度:25℃、-60℃で、図2(a)~図2(c)(上記1(7))に示した方法で接合層60を破断させ、接合強度βは、接合層60が破断したときのせん断応力の大きさから求めることができ、弾性率γは、(破断したときの接合層60の接合強度β)/(破断したときの接合層60の歪み((破断したときの接合層60の伸びL1)/(接合層60の厚さT2)))で表されることが記載されている(以下、上記測定方法で-60℃における弾性率γ1を測定する方法を「本件測定方法」という。)。 (3)さらに、上記1(6)における【0088】~【0106】及び上記1(8)における【図5】~【図8】には、接合層の弾性率γ1について、実施例1~14及び参考例1が示されている。 しかし、発明の詳細な説明及び図面には、実施例1~14及び参考例1の「接合層」の具体的な組成、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。 (4)ここで、上記1(1)の記載によれば、本件発明の技術分野は静電チャックであるところ、静電チャックの当業者(以下、単に「当業者」という。)が、本件発明1の「シリコーンを含み、-60℃における」「接合層の弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」(以下、「本件特性1」という。)である「樹脂材料」を入手しようとすると、 ア 本件特性1を有するシリコーンを含む樹脂材料を自ら製造すれば入手できる。 イ 市販されているシリコーンを含む樹脂材料を購入して、本件測定方法により-60℃における弾性率を測定し、本件特性1を有するものがあれば入手できる。 ウ シリコーンを含む樹脂材料を取り扱っている会社に本件特性1を示して、当該会社から本件特性1を有する樹脂材料の供給を受ければ入手できる。 のいずれかであるといえる。 (5)そこで、まず上記(4)ウから検討する。 なお、特許権者が提出した乙第17号証、乙第18号証を、以下、「乙17」、「乙18」という。 ア 乙18(特開昭63-174060号公報)には、以下の記載がある。 「前記シリコーンゴムとしては、例えば、[SH410]、「SH432」、「SH433」、「SH740」、「SH745U」、「SH746U」、「SH747U」、「SH748U」、「SH35U」、「SH55U」、「SH75U」、「SH52U」、「SH82U」、「SH841U」、「SH851U」、「SH1125U」、「SH1150U」、「SH1603U」、「SH665U」、「SE955U」、「SH502U」、「SRX-440U」(以上、トーレ・シリコーン社製)等を用いることができる。」(6ページ左下欄5~14行) そして、乙18の公開日は、昭和63年7月18日であるから、シリコーンゴム、すなわち、シリコーンを含む樹脂材料である、トーレ・シリコーン社製のSE955Uは、本件特許の出願当時に市販されていたといえる。 イ 次に、乙17(「実験成績証明書」、2023年7月19日作成、TOTO株式会社)には、以下の記載がある。 「 [図:0001411224000007.jpg] [図:0001411224000008.jpg] 」 以上の記載によれば、いずれもφ30mmのセラミック基板及びアルミ合金基板を、乙18の6ページに記載のSE955Uを用いて、メーカー推奨条件にて接着し、得られた接合層の厚さT2が320μmの測定サンプルを、測定装置としてオートグラフ(島津製作所製 AGS-X)を用い、ロードセル:5kN、圧縮速度:0.1~10mm/min、測定温度:-60℃で接合層を破断させ、破断したときの接合層の伸びL1は1.14mm、接合強度βは0.356MPaであり、本件明細書【0084】(上記1(5))の計算式(弾性率γ=(破断したときの接合層60の接合強度β)/(破断したときの接合層60の歪み((破断したときの接合層60の伸びL1)/(接合層60の厚さT2)))にて算出した-60℃での弾性率γ1は0.1MPaであった。 ここで、乙17における弾性率の測定方法は、本件測定方法であるといえるから、SE955Uは本件特性1の下限値である「0.1MPa」を満たすものである。 ウ 上記ア及びイによれば、トーレ・シリコーン社製のSE955Uは、本件特許の出願当時に市販されており、かつ、本件特性1の下限値である「0.1MPa」を満たすものである。 ここで、トーレ・シリコーン社が、シリコーンを含む樹脂材料を取り扱っている会社であることは、その社名からして明らかである。 そうすると、当業者が、シリコーンを含む樹脂材料を取り扱っている会社であるトーレ・シリコーン社に、本件特性1を示すと、トーレ・シリコーン社は、まずは、自社で販売しているシリコーンを含む樹脂材料を本件測定方法により測定し、SE955Uが本件特性1を有するシリコーンを含む樹脂材料であることを確認し、SE955Uを当業者に供給すると、当業者は、本件特性1の下限値である「0.1MPa」を満たすシリコーンを含む樹脂材料を入手することができる。 また、本件特性1の下限値である「0.1MPa」は、-60℃における特性が最も良好なものであるから、本件特性1の下限値である「0.1MPa」を満たすシリコーンを含む樹脂材料を入手することができた当業者は、当該樹脂材料よりも-60℃における弾性率γ1が大きい材料を混ぜるなどして、-60℃における弾性率γ1が0.1MPa超0.63MPa以下のシリコーンを含む樹脂材料を、過度な試行錯誤をすることなく生産でき、かつ使用できるといえる。 したがって、トーレ・シリコーン社から、本件特性1を有するシリコーンを含む樹脂材料であるSE955Uを供給された当業者は、当該SE955Uを用いて本件発明1の「静電チャック」を、過度な試行錯誤をすることなく生産でき、かつ使用できるものである。 (6)申立人金の主張について ア 申立人金は、令和5年10月19日付け回答書(以下、「回答書」という。)の3ページ22~29行において、乙17には、対象特許に開示されている実施例における「接合層」の具体的な組成、「接合層」の製造方法、及び、「接合層」の製造条件については、全く記載されておらず、「接合層の弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについても、全く記載されていない旨主張している。 しかし、上記(1)~(5)の検討によれば、当業者は、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、本件発明1を実施できるといえるものであり、乙17に、対象特許に開示されている実施例における「接合層」の具体的な組成、「接合層」の製造方法、及び、「接合層」の製造条件や、「接合層の弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについて記載されている必要はない。 したがって、申立人金の上記主張は採用できない。 イ 申立人金は、回答書の3ページ30~39行において、乙17において説明されている追試験では、セラミック基板及びアルミ合金基板のいずれについても、直径が30mmの試料片を用いており、これらの直径は、一般的な「静電チャック」の直径よりもはるかに小さいものであり、上記追試験では、このような試験片に対して「SE955U」を接着剤として接着した測定サンプルを用いてせん断試験を行っているが、対象特許で規定される「静電チャック」として「-60℃での弾性率」を有し、「極低温の環境下における、セラミック誘電体基板のベースプレートからの剥離や、セラミック誘電体基板の割れを抑制」できることは、乙17の追試験においては、何一つ説明されていない旨主張している。 しかし、乙17において、セラミック基板及びアルミ合金基板のいずれについても、直径が30mmの試料片を用いているのは、本件測定方法のとおりであり(上記(2))、また、上記(1)~(5)の検討によれば、当業者は、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、本件発明1を実施できるといえるものであり、対象特許で規定される「静電チャック」として「-60℃での弾性率」を有し、「極低温の環境下における、セラミック誘電体基板のベースプレートからの剥離や、セラミック誘電体基板の割れを抑制」できることが、乙17の追試験において説明されている必要はない。 したがって、申立人金の上記主張は採用できない。 ウ 申立人金は、回答書の3ページ40行~最下行において、特許権者は、乙17に記載されている「測定サンプルの準備」において、「接着剤:SE955U」とすることで、「SE955U」自体に接着性があるもののように主張しているが、「SE955U」は、甲第4号証等に示されているように、「SiliconeRubber(シリコーンゴム)」であり、「SE955U」自体に必ずしも接着性があるとは限らない旨主張している。 しかし、乙17の追試験では、セラミック基板及びアルミ合金基板を、SE955Uを用いて、メーカー推奨条件にて接着しているから(上記(5)イ)、SE955U自体に接着性があることは明らかである。 したがって、申立人金の上記主張は採用できない。 エ 申立人金は、回答書の4ページ1~14行において、乙17に記載されている追試験では、「測定サンプルの作成」において「SE955U用プライマー」を用いて、「SE955U」をセラミック基板とアルミ合金基板とに接合させており、当該追試験では、このようにして作成した測定サンプルを用いて接合層の接合強度及び弾性率を測定しているが、測定サンプルが破断したときの接合層の接合強度及び弾性率は、プライマーの種類や接合方法によっても異なり、また、乙17の追試験で用いた「SE955U用プライマー」がどのような材料であるか、対象特許の出願日よりも前に入手可能であったのかどうか、などについては開示されておらず、例えば、シリコーンゴムとして「SE955U」が記載されている、乙17を参照しても不明であるため、「-60℃における接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下である」とするためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となるから、対象特許の出願時に「SE955U」が存在したことが事実であったとしても、「SE955U」を「静電チャック」の「接合層」として適用し、対象特許の「静電チャック」を製造することは容易ではない旨主張している。 しかし、申立人金の「測定サンプルが破断したときの接合層の接合強度及び弾性率は、プライマーの種類や接合方法によっても異なり」との主張は、証拠に基づくものではなく、また、乙17の追試験では、セラミック基板及びアルミ合金基板を、SE955Uを用いて、メーカー推奨条件にて接着している(上記(5)イ)。 そして、上記(1)~(5)の検討によれば、当業者は、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、本件発明1を実施できるといえるものであるから、「-60℃における接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下である」とするために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となるとはいえない。 したがって、申立人金の上記主張は採用できない。 (7)以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されているものである。 3 本件発明2について (1)本件発明2は、本件発明1において、さらに「弾性率γ1は、0.3MPa以上であること」を特定した発明であるから、「弾性率γ1」について、本件発明1の「0.1MPa以上0.63MPa」との範囲を「0.3MPa以上0.63MPa」との範囲に限定するものである。 ここで、上記2(1)~(5)の検討によれば、当業者は、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、本件発明1を実施できるといえるものである。 そうすると、「弾性率γ1」について、本件発明1の「0.1MPa以上0.63MPa」との範囲を「0.3MPa以上0.63MPa」との範囲限定するものである本件発明2も、本件発明1と同様に、当業者が発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて実施できるといえる。 4 本件発明3について (1)本件発明3は、本件発明1又は本件発明2において、さらに「25℃における前記接合層の弾性率γ2に対する前記弾性率γ1の比γ1/γ2は、0.6以上30以下である」を特定した発明であるところ、発明の詳細な説明には、上記「比γ1/γ2」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない そうすると、発明の詳細な説明は、 ア 事項1を備え、かつ、「25℃における前記接合層の弾性率γ2に対する前記弾性率γ1の比γ1/γ2は、0.6以上30以下である」(以下、「事項3」という。)を備える「接合層」 イ 事項1及び事項2を備え、かつ、事項3を備える「接合層」 を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。 また、上記アの「接合層」、及び、上記イの「接合層」を製造する方法が、本件特許の出願当時において技術常識であるとはいえない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明3について、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。 (2)特許権者の主張について ア 特許権者は、意見書10ページ12行~下から2行において以下の主張をしている。なお、特許権者が提出した乙第6号証を、以下、「乙6」という。 乙6の図6には、「1:一般シリコーンゴム」の弾性率は、-25℃よりも高温側ではほぼ一定になることが示されており、つまり、シリコーンでは、流動点温度以上の温度において、弾性率の変化が少ないことは、本件特許の出願当時の技術常識であるため、-60℃における弾性率γ1が決まれば、25℃における弾性率γ2もγ1に対応した所定の範囲内の値に決まります。つまり、-60℃における弾性率γ1が0.1MPa以上(又は0.3MPa以上)0.63MPa以下となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく比γ1/γ2を0.6以上30以下とすることができる。 イ 乙6の記載 乙6(「最近のミラブル型シリコーンゴム」、日本ゴム協会誌、第62巻、第12号、63~73ページ)には以下の記載がある。 「 [図:0001411224000009.jpg] 」(69ページ左欄) ウ 確かに、特許権者が主張するとおり、乙6の図6には、「1:一般シリコーンゴム」の弾性率は、-25℃よりも高温側ではほぼ一定になることが示されている。 しかし、図6の「2:低温用シリコーンゴム」については、流動点の温度は不明であり、また、温度が下がるにつれて弾性率は急激に上がっているから、弾性率が、流動点よりも高温側でほぼ一定になるとはいえない。 そして、図6の「2:低温用シリコーンゴム」の-60℃における弾性率は、10kgf/cm2以上であること、すなわち、0.98MPa以上であることは明らかであるから、「2:低温用シリコーンゴム」は、「シリコーンを含み」、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」の弾性率の温度による変化を示すものではない。 そうすると、「シリコーンを含み」、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」において、-60℃における弾性率γ1が決まれば、25℃における弾性率γ2もγ1に対応した所定の範囲内の値に決まるとはいえない。 したがって、-60℃における弾性率γ1が0.1MPa以上(又は0.3MPa以上)0.63MPa以下となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく比γ1/γ2を0.6以上30以下とすることができるとはいえない。 よって、特許権者の上記主張は採用できない。 5 本件発明4について (1)本件発明4は、本件発明3において、さらに、「前記比γ1/γ2は、0.8以上であること」を特定した発明であるところ、上記4において本件発明3について検討したのと同様に、発明の詳細な説明には、 ア 事項1及び3を備え、かつ、「前記比γ1/γ2は、0.8以上である」(以下、「事項4」という。)「接合層」 イ 事項1~事項3を備え、かつ、事項4を備える「接合層」 を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。 また、上記アの「接合層」、及び、上記イの「接合層」を製造する方法が、本件特許の出願当時において技術常識であるとはいえない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明4について、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。 イ 特許権者の主張について (ア)特許権者は、意見書11ページ9~14行において以下の主張をしている。 上述のように、流動点温度以上の温度において、弾性率の変化が少ないことは、本件特許の出願当時の技術常識であるため、-60℃における弾性率γ1が決まれば、25℃における弾性率γ2もγ1に対応した所定の範囲内の値に決まり、つまり、-60℃における弾性率γ1が0.1MPa以上(または0.3MPa以上)0.63MPa以下となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく比γ1/γ2を0.8以上30以下とすることができる。 (イ)しかし、上記4(2)ウで検討したとおり、-60℃における弾性率γ1が0.1MPa以上(又は0.3MPa以上)0.63MPa以下となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく比γ1/γ2を0.6以上30以下とすることができるとはいえないから、同様に、過度な試行錯誤なく比γ1/γ2を0.8以上30以下とすることができるとはいえない。 したがって、特許権者の上記主張は採用できない。 6 本件発明5、6について 本件発明5、6は、本件発明3~4のいずれかを減縮した発明を含むから、上記3~5で検討した本件発明3~4と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明5、6について、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。 7 小括 以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件発明1及び2についての取消理由1-1及び2-1には理由がない。 一方、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明3~6についての取消理由1-1及び2-1には理由がある。 第7 取消理由1-2(サポート要件)について 1 本件発明が解決しようとする課題 発明の詳細な説明の【0006】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「従来の静電チャックは、例えば-20℃程度の低温の環境下では使用可能であるが、-60℃以下の極低温の環境下では、セラミック誘電体基板とベースプレートとを接合する接合層の柔軟性が低下し、セラミック誘電体基板がベースプレートから剥離したり、例えば表面パターン、形状、厚さ等によってはセラミック誘電体基板が割れて破損したりするおそれがある」ことである(以下、「本件課題」という。)。 2 本件発明1について 発明の詳細な説明には、上記第6 1に摘記したとおりの記載があるところ、上記第6 1(2)の【0027】には、「静電チャック110は、セラミック誘電体基板11と、ベースプレート50と、接合層60と、を備える」と記載されている。 また、上記6 1(3)の【0037】には、「本願明細書において、「極低温」とは、-60℃以下の低温環境をいう」と記載され、同【0038】には、「接合層60は、シリコーンを含むことが好ましい。接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。」と記載されている。 さらに、上記6 1(4)の【0068】には、「実施形態において、-60℃における接合層60の弾性率γ1は、例えば、0.1MPa以上10MPa以下、好ましくは0.1MPa以上3MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上1MPa以下である。」と記載され、同【0069】には、「弾性率γ1が0.1MPa以上であれば、極低温の環境下において、接合層60が十分な復元性を有するため、セラミック誘電体基板11とベースプレート50との間に応力が生じた際にも、セラミック誘電体基板11の反りを抑制しやすい。これにより、極低温の環境下における、対象物Wの面内温度均一性の悪化を抑制できる」と記載され、同【0070】には、「弾性率γ1が10MPa以下であれば、極低温の環境下において、接合層60が硬くなり過ぎることを抑制できる。これにより、極低温の環境下において、セラミック誘電体基板11にかかる応力を抑制し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制できる。」と記載されている。 以上の記載によれば、セラミック誘電体基板11と、ベースプレート50と、接合層60と、を備える静電チャック110において、接合層が、樹脂材料を含み、樹脂材料は、シリコーンを含み、-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であれば、極低温、すなわち、-60℃以下の低温環境下において、接合層60が十分な復元性を有するため、セラミック誘電体基板11とベースプレート50との間に応力が生じた際にも、セラミック誘電体基板11の反りを抑制しやすく、これにより、極低温の環境下における、対象物Wの面内温度均一性の悪化を抑制でき、また、接合層60が硬くなり過ぎることを抑制できる。これにより、極低温の環境下において、セラミック誘電体基板11にかかる応力を抑制し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制できるといえる。 そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。 3 本件発明2~6について 本件発明2~6は、発明の詳細な説明の【0068】、【0074】、【0074】、【0026】、【0027】に記載されているといえ、また、いずれも本件発明1を減縮した発明であるから、上記2で検討した本件発明1と同様の理由により、当業者が上記本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。 4 小括 以上のとおり、本件発明1~6は、発明の詳細に記載されているものである。 したがって、請求項1~6に係る特許についての取消理由1-2には理由がない。 第8 申立理由1-1(新規性)について 1 甲号証の記載、甲号証に記載された発明 (1)甲1(特開平4-287344号公報) ア 本件特許出願の優先日前に公開された甲1には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付加したものである。以下、同様である。)。 「【請求項1】セラミック製静電チャック部材とベース部材を、シリコーン樹脂で接合したことを特徴とする静電チャックの接合構造。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところが、上記有機性接着剤あるいはガラスを用いた接合構造では、-100~200℃の広い温度域で使用する場合、金属からなるベース部材とセラミック製静電チャック部材との熱膨張率の差が大きいことから、セラミック製静電チャック部材表面に歪、割れが生じるという問題点があった。そのため、例えばドライエッチング装置用のベース部材として一般的なアルミニウム等への接合は不可能であり、ベース部材として、セラミック製静電チャック部材に熱膨張率の極めて近い材料を使用しなければならないという不都合があった。 ・・・ 【0007】 【課題を解決するための手段】そこで本発明は、セラミック製静電チャック部材をベース部材に固定する際に、有機溶剤で溶解したペースト状のシリコーン樹脂を用いて接合したものである。 【0008】 【作用】本発明によれば、伸び率が大きく、耐熱性のあるシリコーン樹脂を用いてセラミック製静電チャック部材とベース部材とを接合することにより、両者の熱膨張差を緩和し、かつ平面度を高くできることから、静電チャックの精度、信頼性を高くでき、使用可能温度も広くなる。」 「【0009】 【実施例】以下本発明の実施例を図によって説明する。図1、図2に本発明の静電チャックの接合構造を示す。静電チャック部材1は、アルミナ(Al2O3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)などのセラミックスからなり、内部電極1aを埋設したものである。そして、この静電チャック部材1を、アルミニウムなどの金属からなるベース部材2に載置し、両者の間にシリコーン樹脂からなる接合剤3を介在させて接合してある。 【0010】そして、上記静電チャック部材1の内部電極1aと、半導体ウェハWとの間に電圧4を印加することによって、静電チャック部材1上に半導体ウェハWを吸着させることができる(単極型)。また、図示していないが、静電チャック部材1中に複数の内部電極1aを埋設しておいて、これらの内部電極間に電圧を印加することによって、半導体ウェハWを吸着することもできる(双極型)。 ・・・ 【0012】 【化1】 [図:0001411224000010.jpg] 【0013】 【化2】 [図:0001411224000011.jpg] 【0014】このような、シリコーン樹脂は耐熱性、弾性に優れているが、本発明では特に耐熱温度200℃以上、伸び率80%以上のシリコーン樹脂を用いる。ここで、伸び率とは、シリコーン樹脂のテストピースの両端より引っ張り荷重を加えた時の、破断するまでの伸び率のことである。このように、伸び率が大きいシリコーン樹脂を接合剤3として用いることにより、静電チャック部材1とベース部材2との熱膨張差を吸収しやすくなり、熱膨張差の大きい材質同士を接合することができる。 ・・・ 【0023】ドライエッチング装置用静電チャックは使用温度-100~100℃の範囲で使用される。その加工プロセスにより、半導体ウェハが加熱される熱を外部へ逃がす必要があるため、静電チャック部材を固定するベース部材にはアルミニウムなどの高熱伝導性の金属を用いた。一方、静電チャック部材を構成するセラミックスとして、チタン酸カルシウム(CaTiO3)を用いた。このとき、セラミック製静電チャック部材の熱膨張率が10.4×10-6/℃に対して、ベース部材であるアルミニウムの熱膨張率は23×10-6/℃と差が大きいため、比較例では使用中にセラミックス部分に割れが発生した。これに対し本発明実施例では、シリコーン樹脂からなる接合剤が両者の熱膨張率の差を吸収するため、割れなどが発生することはなく、使用上問題はなかった。 【0024】 【発明の効果】叙上のように本発明によれば、セラミック製静電チャック部材とベース部材をシリコーン樹脂を用いて接合したことによって、シリコーン樹脂は耐熱性に優れ、互いの熱膨張差を吸収できることから、熱膨張率に大きな差のあるベース部材とセラミック製静電チャック部材との接合が可能となり、また広い温度範囲で有効に使用することができる。そのため、特に-100~100℃の温度範囲で使用されるドライエッチング装置に、好適に使用できる静電チャックの接合構造を提供できる。」 「【0074】 (評価) この静電チャック装置の熱サイクル試験を行い、接着剤の剥離の有無について評価した。 熱サイクル試験の方法は次のとおりである。 温度調整用ベース部3の流路21に20℃の水を流しながら、温度調整用基材4の溝32に-100℃の液体窒素を流し、静電チャック部2を-100℃にまで冷却し、静電チャック部2が-100℃になった時点で液体窒素の導入を停止した。その後、静電チャック部2が20℃になるまで放置し、静電チャック部2が20℃になった時点で、再度、温度調整用ベース部3の流路21に20℃の水を流しながら、温度調整用基材4の溝32に-100℃の液体窒素を流し、静電チャック部2を-100℃にまで冷却した。 この「-100℃にまで冷却」及び「20℃にまで放置」という熱サイクルを合計10回繰り返し行った。 また、同時に、この熱サイクル中における静電チャック装置の裏面の結露の有無も確認した。」 イ 甲1に記載された発明 上記アの記載によれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「セラミックスからなる静電チャック部材1を、金属からなるベース部材2に載置し、両者の間にシリコーン樹脂からなる接合剤3を介在させて接合してなる静電チャックの接合構造であって、 前記シリコーン樹脂は、耐熱温度200℃以上、伸び率80%以上であり、 使用温度-100~100℃の範囲で使用されるドライエッチング装置用静電チャック。」 (2)甲2(特開2012-142413号公報) ア 本件特許出願の優先日前に公知となった甲2には、以下の記載がある。 「【請求項1】 一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、この静電チャック部の他の主面側に設けられて前記静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とを備え、 前記静電チャック部と前記温度調整用ベース部との間に温度調整用基材を設け、 この温度調整用基材に、冷却媒体を流動させる流路を形成してなることを特徴とする静電チャック装置。 ・・・ 【請求項5】 前記静電チャック部は、酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体、酸化アルミニウム焼結体、窒化アルミニウム焼結体、酸化イットリウム焼結体のいずれか1つ以上からなり、前記温度調整用基材は、酸化アルミニウム焼結体、窒化アルミニウム焼結体、酸化イットリウム焼結体のいずれか1つからなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の静電チャック装置。」 「【0024】 [第1の実施形態] 図1は、本発明の第1の実施形態の静電チャック装置を示す断面図であり、この静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2を所望の温度に調整する厚みのある円板状の温度調整用ベース部3と、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間に設けられた温度調整用基材4と、静電チャック部2と温度調整用基材4とを接着固定する低温対応有機系接着剤層5と、温度調整用ベース部3と温度調整用基材4とを接着固定する接着剤層6とにより主として構成されている。 【0025】 静電チャック部2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aとされた載置板11と、この載置板11と一体化され該載置板11を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13及び静電吸着用内部電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、支持板12を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加する給電用端子15とにより構成されている。この載置板11の載置面には多数の突起部16が形成され、これらの突起部16が板状試料Wを支える構成になっている。 【0026】 これら載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y2O3)焼結体等の機械的な強度を有し、かつイオン注入プロセス等の半導体製造プロセスにおける耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなるものである。載置板11および支持板12の材料としては、各々の機能が充分に発揮できるものであればよく、特には制限しないが、例えば、載置板11を酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)複合焼結体、支持板12を酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体とした組み合わせ等が好適である。 ・・・ 【0035】 この温度調整用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はなく、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。この温度調整用ベース部3の少なくともイオン注入等の際の雰囲気に曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。 ・・・ 【0042】 接着剤層6は、温度調整用基材4と温度調整用ベース部3とを接着固定する絶縁性を有するもので、耐熱温度が-100℃以上かつ120℃以下の接着剤からなるものである。この接着剤層6の材質としては、上記の温度範囲で耐熱性を有するシリコーン系接着剤、ポリイミド系接着剤、エポキシ系接着剤等が好適であり、中でもシロキサン結合(Si-O-Si)を有する耐熱温度が-50℃以上かつ100℃以下のシリコーン系接着剤が好ましい。 【0043】 このシリコーン系接着剤は、耐熱性、弾性に優れた接着剤であり、例えば、下記の式(1)または式(2)の化学式で表すことができる。 【0044】 【化1】 [図:0001411224000012.jpg] 但し、Rは、Hまたはアルキル基(CnH2n+1-:nは整数)である。 【0045】 【化2】 [図:0001411224000013.jpg] 但し、Rは、Hまたはアルキル基(CnH2n+1-:nは整数)である。 【0046】 このようなシリコーン系接着剤としては、硬化後のヤング率が8MPa以下の接着剤が好ましい。ここで、硬化後のヤング率が8MPaを超えると、接着剤層6に昇温、降温の熱サイクルが負荷された際に、温度調整用基材4と温度調整用ベース部3との熱膨張差を吸収することができず、接着剤層6の耐久性が低下するので、好ましくない。」 イ 甲2に記載された発明 上記アの記載によれば、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2を所望の温度に調整する厚みのある円板状の温度調整用ベース部3と、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間に設けられた温度調整用基材4と、静電チャック部2と温度調整用基材4とを接着固定する低温対応有機系接着剤層5と、温度調整用ベース部3と温度調整用基材4とを接着固定する接着剤層6とにより主として構成されている静電チャック装置1であって、 前記静電チャック部2は、酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体、酸化アルミニウム焼結体、窒化アルミニウム焼結体、酸化イットリウム焼結体のいずれか1つ以上からなり、 前記温度調整用ベース部3は、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材からなり、 前記接着剤層6は、シロキサン結合(Si-O-Si)を有する耐熱温度が-50℃以上かつ100℃以下のシリコーン系接着剤からなり、 シリコーン系接着剤は、硬化後のヤング率が8MPa以下である静電チャック装置1。」 2 甲1発明を主引用発明とする新規性について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「セラミックスからなる静電チャック部材1」は、本件発明1の「セラミック誘電体基板」に相当する。 (イ)甲1発明の「金属からなるベース部材2」は、「セラミックスからなる静電チャック部材1」を「載置」するものであり、「両者の間にシリコーン樹脂からなる接合剤3を介在させて接合して」いるから、「金属からなるベース部材2」は、「セラミックスからなる静電チャック部材1」を支持しているといえる。 したがって、甲1発明の「金属からなるベース部材2」は、本件発明1の「前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレート」に相当する。 (ウ)甲1発明の「静電チャック部材1」と「ベース部材2」「の間に」「介在させて接合してある」「シリコーン樹脂からなる接合剤3」は、本件発明1の「前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層」に相当する。 また、甲1発明の「シリコーン樹脂」は、本件発明1の「シリコーンを含」む「樹脂材料」に相当する。 (エ)甲1発明の「ドライエッチング装置用静電チャック」は、本件発明1の「静電チャック」に相当する。 (オ)以上から、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 前記樹脂材料は、シリコーンを含む、静電チャック。」 <相違点> 相違点1:本件発明1は、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。 イ 相違点1についての判断 甲1発明の「ドライエッチング装置用静電チャック」は、「使用温度-100~100℃の範囲で使用される」ものであり、また、甲1の【0014】には、「シリコーン樹脂は耐熱性、弾性に優れている」と記載されているものの、甲1には、「シリコーン樹脂」の-60℃における弾性率について、何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1発明において、-60℃における「シリコーン樹脂」の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であるとはいえないから、相違点1は実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、甲1発明ではない。 (2)本件発明2~6について 本件発明2~6は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有するものであるから、上記(1)で検討した本件発明1と同様の理由により、甲1発明ではない。 3 甲2発明を主引用発明とする新規性について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の「酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体、酸化アルミニウム焼結体、窒化アルミニウム焼結体、酸化イットリウム焼結体のいずれか1つ以上からな」る「円板状の静電チャック部2」は、本件発明1の「セラミック誘電体基板」に相当する。 (イ)甲2発明の「熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材からな」る「温度調整用ベース部3」は、「接着剤層6」によって「温度調整用基材4」と「接着固定」され、さらに、「温度調整用基材4」は、「低温対応有機系接着剤層5」によって「静電チャック部2」と「接着固定」されているから、「温度調整用ベース部3」は、「静電チャック部2」を支持しているといえる。 したがって、甲2発明の「熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材からな」る「温度調整用ベース部3」は、本件発明1の「前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレート」に相当する。 (ウ)甲2発明の「シロキサン結合(Si-O-Si)を有する耐熱温度が-50℃以上かつ100℃以下のシリコーン系接着剤からなる」「接着剤層6」は、「円板状の静電チャック部2」と「温度調整用ベース部3」との間に設けられているから、本件発明1の「前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層」に相当する。 また、甲2発明の「シロキサン結合(Si-O-Si)を有する耐熱温度が-50℃以上かつ100℃以下のシリコーン系接着剤」は、本件発明1の「シリコーンを含」む「樹脂材料」に相当する。 (エ)甲2発明の「静電チャック装置1」は、本件発明1の「静電チャック」に相当する。 (オ)以上から、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 前記樹脂材料は、シリコーンを含む、静電チャック。」 <相違点> 相違点2:本件発明1は、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下である」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。 イ 相違点2についての判断 甲2発明の「接着剤層6」は、「シロキサン結合(Si-O-Si)を有する耐熱温度が-50℃以上かつ100℃以下のシリコーン系接着剤」からなるものであり、また、甲2の【0043】には、「このシリコーン系接着剤は、耐熱性、弾性に優れた接着剤であり」と記載されているものの、甲2には、「接着剤層6」の-60℃における弾性率について、何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、甲2発明において、-60℃における「接着剤層6」の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であるとはいえないから、相違点2は実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、甲2発明ではない。 (2)本件発明2~6について 本件発明2~6は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有するものであるから、上記(1)で検討した本件発明1と同様の理由により、甲2発明ではない。 4 小括 以上のとおり、本件発明1~6は、甲1発明又は甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由1-1には理由がない。 第9 取消理由2-2(進歩性)について 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は、前記第8 2(1)アで検討したとおりのものであり、また、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は、前記第8 3(1)アで検討したとおりのものであり、以下に各相違点を再掲する。 相違点1:本件発明1は、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。 相違点2:本件発明1は、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。 (2)相違点についての判断 相違点1と相違点2とは同様の内容であるから、まとめて判断する。 前記第8 2(1)イで検討したとおり、甲1発明において、-60℃における「シリコーン樹脂」の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であるとはいえない。 また、前記8 3(1)イで検討したとおり、甲2発明において、-60℃における「接着剤層6」の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であるとはいえない。 そして、本件特許出願の優先日前において、-60℃における「接合層3」又は「接着剤層6」の弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下であることが、技術常識であったともいえない。 そうすると、甲1発明に甲2発明及び技術常識を適用しても、相違点1に係る本件発明1の構成は得られないし、また、甲2発明に甲1発明及び技術常識を適用しても、相違点2に係る本件発明1の構成は得られない。 したがって、本件発明1は、甲1発明(主引用発明)、甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえないし、また、甲2発明(主引用発明)、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たものともいえない。 2 本件発明2~6について 本件発明2~6は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有するものであるから、上記1で検討した本件発明1と同様に、甲1発明(主引用発明)、甲2発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないし、また、甲2発明(主引用発明)、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たものともいえない。 3 小括 以上のとおり、本件発明1~6は、甲1発明(主引用発明)、甲2発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲2発明(主引用発明)、甲1発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、取消理由2-2には理由がない。 第10 申立理由1-2(拡大先願) 1 甲3明細書等(特願2018-148373号(特開2020-23088号公報)) (1)本件特許出願の優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された甲3明細書等には、以下の記載がある。 「【請求項1】 セラミックス部材と、前記セラミックス部材の熱膨張率と異なる熱膨張率を有するベース部材と、前記セラミックス部材と前記ベース部材との間に配置されて前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接着部材と、を備える複合部材において、 前記接着部材は、 -60℃における貯蔵弾性率が、100MPa以下であり、 -60℃におけるせん断接着歪みが、100%以上であり、かつ、 -60℃における伸び率が、40%以上である、 ことを特徴とする複合部材。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 近年、-60℃程度の低温下で、半導体の製造工程の内の一部の工程が行われることがある。このような場合には、静電チャックにも低温下でも良好な物性を維持することが要求される。例えば、静電チャックのセラミックス部材を構成するセラミックスとベース部材を構成する材料(例えば、金属)とは、熱膨張差が大きい。このため、セラミックス部材とベース部材とを接着する接着部材には、接着性のみならず、この熱膨張差を緩和するために低温下でも柔軟性を維持することが要求される。」 「【課題を解決するための手段】 ・・・ 【0010】 本複合部材では、接着部材の-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下である。このように、本複合部材では、接着部材が-60℃においても良好な柔軟性を有している。このため、本複合部材を-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材とベース部材との熱膨張率差により生じる熱応力を、接着部材が変形することにより、緩和することができる。従って、本複合部材では、本複合部材に応力がかかった際に、接着部材が、セラミックス部材と接着部材との界面や、ベース部材と接着部材との界面から剥がれ、または、接着部材自体が破断することを抑制することができる。また、本複合部材では、接着部材が-60℃においても良好な柔軟性を有しているため、セラミックス部材に反り等が生じることにより、セラミックス部材の平面度が低下することを抑制することができる。例えば、本複合部材を、ウェハ等の対象物を保持する静電チャック等の保持装置として用いた場合、静電チャックにおいても、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。このため、対象物の温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材の平面度の低下を抑制することができる。」 「【発明を実施するための形態】 【0026】 A.実施形態: A-1.静電チャック100の構成: ・・・ 【0027】 静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス部材10およびベース部材20を備える。セラミックス部材10とベース部材20とは、セラミックス部材10の下面S2(図2参照)とベース部材20の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。静電チャック100は、さらに、セラミックス部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接着部材30を備える。静電チャック100は、特許請求の範囲における複合部材に相当する。 ・・・ 【0029】 セラミックス部材10の形成材料としては、種々のセラミックスが用いられ得るが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。 ・・・ 【0032】 ベース部材20は、例えばセラミックス部材10と同径の、または、セラミックス部材10より径が大きい略円形平面の板状部材である。ベース部材20の直径は、例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm程度)であり、ベース部材20の厚さは、例えば20mm~40mm程度である。ベース部材20は、セラミックス部材10の熱膨張率と異なる熱膨張率を有しており、例えば、金属や種々の複合材料により形成されている。金属としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)、または、それらの合金が用いられることが好ましい。複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする多孔質セラミックスに、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を溶融して加圧浸透させた複合材料が用いられることが好ましい。複合材料に含まれるアルミニウム合金は、Si(ケイ素)やMg(マグネシウム)を含んでいてもよいし、性質等に影響の無い範囲でその他の元素を含んでいてもよい。 ・・・ 【0040】 A-2-2.接着部材30の組成:次に、接着部材30の組成について説明する。 【0041】 本実施形態において、接着部材30は、ポリオルガノシロキサン(以下、「シリコーン樹脂」ともいう)を含む接着剤組成物(以下、「シリコーン樹脂組成物」ともいう)である。このポリオルガノシロキサンは、両末端にR13SiO1/2単位(以下、「M単位」ともいう)と、m個のR22SiO2/2単位(以下、「第1のD単位」ともいう)と、n個のR3R4SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)とを含んでいる(ここで、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)。このようなポリオルガノシロキサンは、下記一般式(1)で表される。 (R13SiO1/2)2(R22SiO2/2)m(R3R4SiO2/2)n・・・一般式(1) (R1およびR2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、上記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子(Si原子)に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含んでいる。)また、接着剤組成物の柔軟性を高める観点から、ポリオルガノシロキサン構造中に、RSiO3/2単位(T単位)およびSiO4/2単位(Q単位)を含まないことが好ましい。」 「【0090】 A-4-3.評価結果: ・・・ 【0092】 図4には、サンプルS1、S3について、-60℃~200℃での伸び率、引張弾性率、引張強度、せん断接着強度、せん断接着歪み、貯蔵弾性率の測定結果が示されている。サンプルS1では、-60℃での伸び率は113%と、40%以上の値であり、-60℃でのせん断接着歪みは217%と、100%以上の値であった一方、-60℃での貯蔵弾性率は20×102MPaと、100MPaを大きく超える値であった。これに対して、サンプルS3では、-60℃での伸び率は152%と、40%以上の値であり、-60℃でのせん断接着歪みは284%と、100%以上の値であり、かつ、-60℃での貯蔵弾性率も2.8MPaと、100MPa以下の値であった。このように、サンプルS3では、特に、-60℃での貯蔵弾性率の値が、25℃での貯蔵弾性率の値と比較して、大きく上昇することはなかった。これは、接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロキサンが、フェニル基を5.0mol%含んでいるためと考えられた。」 「【図4】 [図:0001411224000014.jpg] 」 (2)甲3明細書等に記載された発明 上記(1)の【請求項1】、【0027】、【0032】、【0040】及び【図4】のサンプルNo.S3によれば、甲3明細書等には、以下の発明(以下、「先願甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「セラミックス部材と、前記セラミックス部材の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する金属からなるベース部材と、前記セラミックス部材と前記ベース部材との間に配置されて前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接着部材と、を備える複合部材において、 前記接着部材は、シリコーン樹脂を含む接着剤組成物であり、-60℃における貯蔵弾性率が2.8MPaであり、-60℃におけるせん断接着歪みが284%であり、かつ、-60℃における伸び率が152%であり、25℃における伸び率が216%である静電チャック。」 2 本件発明1について (1)対比 本件発明1と先願甲3発明とを対比する。 ア 先願甲3発明の「セラミックス部材」は、本件発明1の「セラミック誘電体基板」に相当する。 イ 先願甲3発明の「金属からなるベース部材」は、「接着部材」によって「セラミックス部材」と「接合」されているから、「セラミックス部材」を支持しているといえる。 したがって、先願甲3発明の「金属からなるベース部材」は、本件発明1の「前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレート」に相当する。 ウ 先願甲3発明の「シリコーン樹脂を含む接着剤組成物」は、本件発明1の「シリコーンを含」む「樹脂材料」に相当する。 また、先願甲3発明の「前記セラミックス部材と前記ベース部材との間に配置され」、「シリコーン樹脂を含む接着剤組成物」である「接着部材」は、本件発明1の「前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層」に相当する。 エ 先願甲3発明の「静電チャック」は、本件発明1の「静電チャック」に相当する。 オ 以上から、本件発明1と先願甲3発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 前記樹脂材料は、シリコーンを含む、静電チャック。」 <相違点> 相違点3:本件発明1は、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下」のに対し、先願甲3発明は、「-60℃における貯蔵弾性率が2.8MPa」である点。 (2)相違点3についての判断 先願甲3発明において、相違点3に係る本件発明1の構成が、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合、本件発明1は先願甲3発明と実質同一であるといえる。 そこで検討するに、先願甲3発明の技術分野、すなわち、「静電チャック」の技術分野において、-60℃における「接着部材」の弾性率γ1を0.1MPa以上0.63MPa以下とすることが、本件特許出願の優先日前において周知技術又は慣用技術であることを立証する証拠はない。 したがって、先願甲3発明において、相違点3に係る本件発明1の構成は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。 よって、本件発明1は先願甲3発明と実質同一ではない。 3 本件発明2~6について 本件発明2~6は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有するものであるから、上記2で検討した本件発明1と同様の理由により、先願甲3発明と実質同一ではない。 4 小括 以上のとおり、本件発明1~6は、先願甲3発明と実質同一ではないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1-2には理由がない。 第11 むすび 以上のとおりであるから、請求項3~6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 一方、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700073

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