特許異議申立
2017-701221
メタクリル系樹脂組成物
- 審判番号
- 2017-701221
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-226260外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年12月21日
- 審決日
- 2019年03月15日
- 公報発行日
- 2019年08月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.536-ZDA(C08L) / P1651.113-ZDA(C08L) / P1651.121-ZDA(C08L) / P1651.537-ZDA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6151421号発明「メタクリル系樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6151421号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4、6、7]、[5、8、9]について訂正することを認める。
特許第6151421号の請求項5、8、9に係る特許を取り消す。
特許第6151421号の請求項1、6、7に係る特許を維持する。
特許第6151421号の請求項2ないし4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第6151421号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成28年11月21日(優先権主張 平成28年3月31日)に出願されたものであって、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ、同年6月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年12月21日に特許異議申立人 高瀬彌平(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続は以下のとおりである。
平成30年1月31日 :上申書(申立人) (同年2月1日受付)
平成30年4月16日付け:取消理由通知書 (同年4月23日発送)
平成30年6月22日 :意見書(特許権者)
平成30年8月1日 :上申書(申立人) (同年8月2日受付)
平成30年8月21日付け:取消理由通知書(決定の予告) (同年8月2 4日発送)
平成30年10月23日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
平成30年12月13日 :意見書(申立人)(同年12月17日受付)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は、平成30年10月23日に提出の訂正請求書において、特許請求の範囲及び明細書について、以下のような訂正をすることを請求している。下線は、訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
訂正前の請求項1において、
「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記構造単位(X)が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、」
とあるのを、
「主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてN-置換マレイミド単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を、メタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であり、」
に訂正する。
また、訂正前の請求項1において、
「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、50~90μ秒である」
とあるのを、
「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~69μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~59μ秒である」
に訂正する。
(2) 訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
訂正前の請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
訂正前の請求項4を削除する。
(5) 訂正事項5
訂正前の請求項1における構造単位(X)のラクトン環構造単位に係る部分を別の独立請求項として記載し、訂正前の請求項5に組み入れる訂正する。具体的には、訂正前の請求項5において、
「前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
とあるのを、
「 主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてラクトン構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であり、
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であり、
パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、55~89μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~61μ秒であることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。」
に訂正する。
(6) 訂正事項6
訂正前の請求項6において、引用関係について、
「請求項1~5のいずれかに一項」
とあるのを
「請求項1」
に訂正する。
(7) 訂正事項7
訂正前の請求項6において、請求項1~5を引用していたところ、訂正事項5において独立形式となった請求項5を引用するものについて、次のとおり、新たな請求項8とする。
「光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、請求項5に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
(8) 訂正事項8
訂正前の請求項7は、請求項6を引用していたところ、該請求項6が引用する請求項5が、訂正事項5により独立形式となった新たな請求項5となり、訂正事項7により、請求項6が訂正事項7により新たな請求項8となったため、これを引用する訂正前の請求項7を、次のとおり、新たな請求項8を引用した新たな請求項9とする。
「光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、請求項8に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
(9) 訂正事項9
訂正前の明細書の段落【0019】の
「 すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であり、
パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、50~90μ秒であることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
[2]前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~70μ秒である、[1]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[3]前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~70μ秒である、[1]又は[2]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[4]前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]~[3]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[5]前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、[4]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[6]前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、[4]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[7]光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[8]光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、[7]に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
を
「 すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてN-置換マレイミド単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を、メタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であり、
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であり、
パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~69μ秒である
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~59μ秒である
ことを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
[5]主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてラクトン構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であり、
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であり、
パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、55~89μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~61μ秒である
ことを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
[6]光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、[1]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[7]光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、[6]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[8]光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、[5]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[9]光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、[8]に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
と訂正をする。
ここで、訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は請求項1を直接または間接的に引用するものであって、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項であるから、本件訂正の訂正事項1ないし8は、一群の請求項に対して請求するものである。
また、特許権者は、請求項5、8及び9については、訂正が認められる場合に、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することも求めている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、
ア 構造単位(X)としてN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を選択し、メタクリル系樹脂に含まれる単量体単位及び構造単位の種類、含有量を限定し、
イ パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)の範囲をさらに限定し、
ウ 前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)を新たに限定し、
エ 前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)を新たに限定するものであって、
特許法第120条の5第2項のただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1の上記アは、明細書の段落【0036】に記載があり、上記イないしエは、【0118】、【0167】の表1に記載されており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項に適合する。
(2) 訂正事項2ないし4
訂正事項2ないし4は、請求項を削除するものであって、特許法第120条の5第2項のただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項に適合する。
(3) 訂正事項5
訂正事項5は、
ア 訂正前の請求項1の構造単位(X)をラクトン環構造を選択し、メタクリル系樹脂に含まれる単量体単位及び構造単位の種類、含有量を限定し、
イ パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)の範囲をさらに限定し、
ウ 前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)を新たに限定し、
エ 請求項1を引用しない、独立形式の請求項として記載したものであって、
特許法第120条の5第2項のただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項5のアは、【0068】、【0070】に記載があり、訂正事項5の上記イ及びウは、【0017】、【0119】及び【0167】表1に記載があるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項に適合する。
(4) 訂正事項6、7及び8
訂正事項6は、訂正事項1及び5により、請求項1を独立形式の請求項1と5に分けて訂正したことに伴い、「請求項1~5のいずれか」を引用していた請求項6の記載を、「請求項1」を引用するものとしたものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項7は、訂正事項1及び5により、請求項1を独立形式の請求項1と5に分けて訂正したことに伴い、「請求項1~5のいずれか」を引用していた請求項6の記載のうち、「請求項5」を引用するものを新たな請求項8とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項8は、請求項1および請求項5を引用していた請求項6を上記訂正事項6、7のように書き分けたことにより、同様に、請求項6を引用していた請求項7を、「請求項1」を引用する請求項6を引用する請求項7と、請求項5を引用する請求項8を引用する新たな請求項9とするもの(訂正事項8)に書き分ける訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、これらの訂正事項による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされた訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定にも適合する。
(5) 訂正事項9
訂正事項9は、訂正事項1ないし8における訂正に合わせて、段落【0019】の記載を整合させたものであり、特許法第120条の5第2項のただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項9は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項にも適合する。
(6) 独立特許要件
特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1ないし7の全請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
(7) 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし9による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号または第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
また、訂正後の請求項5、8及び9は、引用関係の解消を目的とする訂正を含み、特許権者より、訂正が認められる場合に、請求項1ないし4、6及び7とは別の訂正単位として扱われることの求めがあるから、訂正後の請求項[1-4、6、7]、[5、8、9]について、請求項ごとに訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は許容されるので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、平成30年10月23日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、順に、「本件発明1」等という。また、これらを合わせて「本件発明」ということもある。)。
「【請求項1】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてN-置換マレイミド単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を、メタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であり、
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であり、
パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~69μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~59μ秒である
ことを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてラクトン構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であり、
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であり、
パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、55~89μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~61μ秒であることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、請求項6に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、請求項5に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項9】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、請求項8に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
第4 当審が通知した取消理由について
1 当審が平成30年8月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
当審が平成30年8月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は次に示すとおりである。
「1.本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」
「第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、本件発明1ないし7に係る特許は、依然として明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであると判断する。
3 判断
(1) ・・・
これらの実施例・比較例の記載から、各製造例及び実施例と同じ条件であれば、特定のSm2の数値を有する樹脂組成物が得られることが理解できるが、それ以外の特定のSm2の範囲の樹脂組成物を製造するために、実施例及び比較例の条件、あるいは樹脂の製造例の条件の何をどのように変更したらよいのかについては、本件特許明細書に具体的な指標となる記載もなく、本件出願時の技術常識でもないから、当業者にも不明である。
・・・
(2)・・・
イ ・・・
そして、本件特許明細書には、Sm2の特定範囲とするための指標の記載がないだけではなく、Sm2が測定される高運動性成分が、樹脂組成物においてどのような成分(樹脂組成物において、どのような要件(構造、モノマー組成、分子量等)により特徴づけられ、画定される成分)であるのか、本件特許発明の効果とどのように関連するのか、他のSr2、Sm1が測定される成分とどのような関係にあるのか、また、Sr2、Sm1が測定される成分は、樹脂組成物においてどのような成分(どのような要件(構造、モノマー組成、分子量等)により特徴づけられ、画定される成分)であり、どのような指標により制御されるのか、Sm2-Sr2、Sm2-Sm1はどのような意味があるのか等についての説明も見当たらないこともあり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、Sm2の特定範囲とすることについて、本件発明1ないし7を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1のSm2について、当業者が本件発明1を実施できる程度に本件特許明細書の記載が明確かつ十分に記載されているとはいえず、その実施に過度の試行錯誤を要するものと認められる。
本件発明2に特定する(Sm2-Sr2)の数値、本件発明3に特定する(Sm2-Sm1)の数値についても同様である。
また、請求項1ないし3を直接または間接的に引用する本件発明4ないし7についても同様の理由が該当する。
したがって、本件の請求項1ないし7に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」
(なお、決定の予告における「第113条第2号」は、「第113条第4号」の誤記である。)
2 当審が平成30年4月16日付けで通知した取消理由の概要
なお、当審が平成30年4月16日付けで通知した取消理由の概要は次に示すとおりである。
「1.本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・・・
よって、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」
第4 当審で通知した取消理由(決定の予告)に対する判断
当審は、以下に述べるように、本件発明1、6及び7に係る特許については、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、同法第113条第4号に該当しないので、取り消すことはできないと判断する。
また、本件発明5、8及び9に係る特許については、依然として明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであると判断する。
そして、請求項2ないし4に係る特許は、これらの請求項が削除されたので、取消理由は解消している。
1 特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は、
「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであること。」
と定めている。
これは、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。
そして、特許法第36条第4項第1号は、上記のように発明の詳細な説明の記載のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明においては、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
そこで、本件発明1、6及び7または本件発明5、8及び9の各一群の発明について、動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)、低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)及びSm2との差(Sm2-Sm1)について、上記の観点から検討する。
2 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、メタクリル系樹脂について、段落【0024】ないし【0088】に説明があり、メタクリル系樹脂組成物について、【0023】、【0089】ないし【0108】に説明がされており、メタクリル系樹脂のうちN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有する樹脂については、【0028】ないし【0055】に、ラクトン環構造単位を有する樹脂については、【0062】ないし【0087】に記載がある。そのうち、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有する樹脂の製造方法、ラクトン環構造単位を有する樹脂の製造方法、メタクリル系樹脂組成物の製造方法については、以下(2)ないし(4)の記載がある。
また、動的粘弾性特性については、段落【0109】ないし【0115】に説明がされ、動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)についても段落【0112】において説明がされている。
そして、メタクリル系樹脂組成物において、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)、低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)、これらの差(Sm2-Sr2)、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)及びSm2との差(Sm2-Sm1)について、以下(1)の記載がある。
(1) 前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)、低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)、これらの差(Sm2-Sr2)、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)及びSm2との差(Sm2-Sm1)について
ア 「【0116】
-パルスNMRを用いた固体の高次構造特性-
本実施形態の主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂組成物における、パルスNMRを用いて、ソリッドエコー法により得られる分散スペクトルを高運動成分と低運動成分との2成分に分離し求めた、高運動性成分の比率(Fm:%)、高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm:μ秒)、低運動性成分の比率(Fr:%)、及び低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr:μ秒)について、以下に説明する。
【0117】
第一に、前述の動的粘弾性測定により求めた損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が50~90μ秒であり、好ましくは50~80μ秒、更に好ましくは55~70μ秒である。
損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が上記範囲にあると、高い品質の延伸フィルムを安定して製造できるため好ましい。
ここで、(TG”max)より40℃高い温度を超えると、損失正接が極大値を示す温度に近付くため、固体状態のメタクリル系樹脂組成物は徐々に溶融流動を開始する。(TG”max)より40℃高い温度における固体の高次構造特性は、溶融流動を開始する直前、又は溶融流動開始直後の特性を示している。本発明者らは、固体状態でフィルム延伸加工を行う際に用いるメタクリル系樹脂組成物において、(TG”max)より40℃高い温度における固体の高次構造特性と延伸特性とに強い相関があることを見出し、本発明を完成させた。
【0118】
第二に、前述の動的粘弾性測定により求めた損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)と、極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)と、の差(Sm2-Sr2)が40~70μ秒であることが好ましく、より好ましくは40~65μ秒、更に好ましくは40~60μ秒である。
極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)と、低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)と、の差(Sm2-Sr2)が上記範囲にあると、更に高い品質の延伸フィルムを安定して製造できるため好ましい。
【0119】
第三に、前述の動的粘弾性測定により求めた損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)と、極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)と、の差(Sm2-Sm1)が30~70μ秒であることが好ましく、より好ましくは30~60μ秒、更に好ましくは30~50μ秒である。
極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)と、極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)と、の差(Sm2-Sm1)が上記範囲にあると、高い品位の延伸フィルムが得られる延伸温度の選択幅が拡大でき、更に、延伸時の微妙な温度変動にも影響されず、高い品質の延伸フィルムを安定に製造できるので好ましい。
【0120】
一般に、パルスNMRは、パルスの応答として得られる自由誘導減衰シグナル(FIDシグナル)を運動性の異なる成分別に分離して解析することができ、高分子の結晶部と非晶部の定量、エラストマーのハード成分とソフト成分の存在比率あるいは架橋度の決定、等に幅広く利用されている。
パルスNMRにおける緩和時間は、磁気緩和を示すものであり、高分子の動きやすさを示す指標として用いることができる。この値が小さいほど、運動性成分の自由度が小さく、この値が大きいほど、運動性成分の自由度が大きいことを示す。
【0121】
本実施形態における高運動性成分及び低運動性成分の存在比率並びにスピン-スピン緩和時間は、上述のFIDシグナルを解析することにより求めることができる。
一般に、FIDシグナルは、測定物質が自由誘導減衰挙動の異なる複数の運動性成分から構成されている場合には、得られる信号は各成分の和となる。そのため、信号強度比から各運動成分の量(相対的プロトン含有量:存在比率)の情報が、信号の傾きから各運動性成分の質(スピン-スピン緩和時間)の情報が得られる。
各運動成分に分離する手法としては、得られたFID信号を、ガウス型関数、ローレンツ型関数、又はワイブル型関数を用いて最小二乗法によって解析し、分子運動性の低いもの(本明細書では、「低運動性成分」と記す)と、分子運動性が高いもの(本明細書では、「高運動性成分」と記す)とに分離し、各成分の存在比率(単位:%)及びスピン-スピン緩和時間(単位:μ秒)を求める。
その際、低運動性成分、高運動性成分に加えて中間成分の3種に分離する方法も採用できるが、本実施形態においては、緩和時間の短い成分にワイブル型関数を、緩和時間の長い成分にローレンツ型関数をそれぞれ適用し、最小二乗法による近似によって低運動性成分と高運動性成分との2つの運動性成分に分離する方法を採用した。
具体的な測定方法として、
・測定装置:Minispec MQ20(ブルカーバイオスピン社製)
・核種:1H
・測定:T2
・測定法:ソリッドエコー法
・積算回数:64回
・繰り返し時間:4秒
【0122】
本発明者らは、高い品質を有し、安定した延伸が可能なメタクリル系樹脂組成物の提供に向け、鋭意検討を重ねた結果、延伸フィルムを調製する際に用いられる延伸温度域にてパルスNMRを用いて固体の高次構造を解析することにより、解析により得られた情報がフィルムの延伸挙動と深い関連性を有していることを見出した。
その結果、損失弾性率の温度分散スペクトルにおける極大値を示す温度に注目し、その付近の温度範囲におけるパルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至ったのである。
パルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御されたメタクリル系樹脂組成物は、その分子量、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布、並びに立体規則性分布等が複合的に作用した結果、得られると推定される。
主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物の、上述の温度範囲における固体の高次構造を制御する具体的な方法としては、用いるメタクリル系樹脂の調製条件、例えば、重合温度、重合溶媒、重合時の単量体濃度、単量体の添加方法等を適宜選択することにより制御することができるが、これに限定されるものではなく、加えて、重合後の重合体を含む溶液から重合体を回収する際の条件(温度、滞留時間、せん断力)、更にはメタクリル系樹脂組成物を調製する際の調製条件(温度、滞留時間、せん断力等)等を組み合わせることもできる。」
イ 「【実施例】
【0132】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0133】
<1.構造単位の解析>
後述の各製造例において特に断りのない限り1H-NMR測定及び13C-NMR測定により、後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂の構造単位を同定し、その存在量を算出した。1H-NMR測定及び13C-NMR測定の測定条件は、以下の通りである。
・測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX-400
・測定溶媒:CDCl3、又は、d6-DMSO
・測定温度:40℃
なお、メタクリル系樹脂の環構造がラクトン環構造である場合には、特開2001-151814号公報記載の方法にて確認し、メタクリル系樹脂の環構造がグルタルイミド環構造である場合には、WO2012/114718号に記載の方法にて確認した。
【0134】
<2.重量平均分子量(Mw)>
後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂、並びに後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続して使用した。カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/分、内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加した。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gのメタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物のテトラヒドロフラン20mL溶液。注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の10種のポリメタクリル酸メチル(PolymerLaboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
上記、検量線用標準サンプルの測定により得られた検量線を基に、メタクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0135】
<3.動的粘弾性特性>
動的粘弾性の温度分散スペクトルの測定方法としては以下に示す方法を用いた。
・測定に用いる試験片の調製
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を用いて、プレス成形法により、長さ50mm、幅10mm、厚さ1mmの試験片を調製した。そして、得られた試験片に温度100℃にて20時間熱処理することで、試験片に同じ熱履歴を与えた。その後、温度23℃、湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置した後、幅及び厚さの寸法を測定し、動的粘弾性の温度分散スペクトルの測定に供した。
・測定装置:PHYSICA MCR301:Anton Paar社製
・温度制御システム:CTD450:Anton Paar社製
・解析ソフト:RheoPlus Anton Paar社製
・測定モード:ねじり測定システム(SRF)
・測定周波数:1Hz
・ひずみ量:0.2%
・ノーマルフォース:-0.3N
・クランプ間距離:38mm
・測定温度範囲:30~190℃
・昇温速度:2℃/分
そして、得られた温度分散スペクトルから、極大値を示す温度(TG”max)を得た。
【0136】
<4:パルスNMRの測定>
分子運動性の測定方法としては以下に示す方法を用いた。
・測定に用いる試験片の調製
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を用いて、厚さ0.2mmのフィルムをプレス成形法により調製し、フィルムを細片状に裁断した後、測定用の試験管に投入した。温度110℃真空下にて5時間処理を行い、試料間にて水分量及び熱履歴に差異が発生しないように前処理を行った。全ての試験片の水分率が500ppm以下となるように、前処理条件を設定した。その後、温度23℃、湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置した後、下記条件で測定に供した。
・測定装置:Minispec MQ20(ブルカーバイオスピン社製)
・核種:1H
・測定:T2
・測定法:ソリッドエコー法
・積算回数:64回
・繰り返し時間:4秒
・測定温度範囲:100~190℃内にて動的粘弾性測定により求まる損失弾性率の極大値を示す温度を基準に選定
・各運動成分に分離する手法:ソリッドエコー法による測定で得られた自由減衰信号(FID信号)を、ガウス型関数、ローレンツ型関数、又はワイブル型関数を用いて最小二乗法によって解析し、低運動性成分と高運動性成分との2成分に分離した。そして、損失弾性率の極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2、単位:μ秒)、極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2、単位:μ秒)、損失弾性率の極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1、単位:μ秒)、極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分の成分分率(Fm2、単位:%)、極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分の成分分率(Fr2、単位:%)を求めた。
【0137】
<5.光弾性係数CR>
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を、真空圧縮成形機を用いてプレスフィルムとすることで、測定用試料とした。
具体的な試料調製条件としては、真空圧縮成形機(神藤金属工業所製 SFV-30型)を用い、260℃、減圧下(約10kPa)、10分間予熱した後、樹脂組成物を、260℃、約10MPaで5分間圧縮し、減圧及びプレス圧を解除した後、冷却用圧縮成形機に移して冷却固化させた。得られたプレスフィルムを、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行った上で、測定用試験片(厚み約150μm、幅6mm)を切り出した。
Polymer Engineering and Science 1999,39,2349-2357に詳細な記載のある複屈折測定装置を用いて、光弾性係数CR(Pa-1)を測定した。
フィルム状の試験片を、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるように配置した。次いで、複屈折測定装置(大塚電子製、RETS-100)のレーザー光経路がフィルムの中心部に位置するように装置を配置し、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら、試験片の複屈折を測定した。
測定より得られた複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σR)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め、光弾性係数(CR)(Pa-1)を計算した。計算には、伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの間のデータを用いた。
CR=|Δn|/σR
ここで、複屈折の絶対値(|Δn|)は、以下に示す値である。
|Δn|=|nx-ny|
(nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0138】
<6.延伸性評価>
後述の実施例及び比較例で得られたメタクリル系樹脂組成物から、押出機先端部に、樹脂濾過用のフィルター(リーフフィルター、長瀬産業社製)と480mm幅のTダイとを設置した50mmφ単軸押出機を用いて、フィルムを調製した。
その際の製膜条件として、押出機設定温度:(TG”max+130)℃、Tダイ設定温度:(TG”max+125)℃、吐出量:8kg/時、ドローダウン比:2.7倍、キャストロール設定温度:(TG”max)℃を採用し、膜厚210μmの未延伸フィルムを得た。なお、キャストロールとしては、剥離性に優れたセラミック表面コート品を用いた。
【0139】
未延伸フィルムの調製に連続して、予熱ロール、1対の延伸ロール、この延伸ロール間に設置(フィルムまでの距離20mmの位置に設置)した赤外線ヒーター(4.2KW、230V)、及び搬送ロールを、この順に備えたロール延伸装置を用いて、未延伸フィルムについて縦延伸を行った。
その際、各ロールの温度としては、評価に用いる樹脂組成物のTG”max(℃)を基準にして、予熱ロール温度:(TG”max+20)℃、低速側延伸ロール温度:(TG”max+40)℃、赤外線ヒーターの出力:60~80%、高速側延伸ロール温度:(TG”max+20)℃、搬送ロール温度:(TG”max)℃とした。また、1対の延伸ロール間の距離は200mmとした。また、この温度条件下にて、高速側・低速側延伸ロールの周速差は2.5倍とした。
【0140】
上述の縦延伸に連続して、インナーリターン式クリップを有するテンター式横延伸機を用いて、縦延伸されたフィルムについて横延伸を行った。
ここで、インナーリターン式クリップとは、駆動チェーンに固定されたクリップが一連の横延伸操作を終え、延伸されたフィルムを離し、テンター装置内部を通って循環し、冷却装置にて冷却されながらターンし、再度テンター装置の入口に戻り、縦延伸後のフィルムを把持する、テンター装置用クリップのことを意味する。
また、テンター装置として、フィルムの入り口側から、予熱部、横延伸部、熱固定部から構成されているものを用いた。
テンター装置の内部の各部の温度は、それぞれ、評価に用いる樹脂組成物のTG”max(℃)を基準として、予熱部:(TG”max+20)℃、延伸部:(TG”max+30)℃、熱固定部:(TG”max+10)℃とした。
上述の条件にて、横延伸にて2.5倍に延伸し、平均厚さ40ミクロンの二軸延伸フィルムを得た。
【0141】
未延伸フィルムに縦延伸及び横延伸を施して二軸延伸フィルムを得るうえで、フィルム延伸性評価として、下記評価(6-1)及び下記評価(6-2)を行った。
【0142】
<評価(6-1)>
横延伸による二軸延伸フィルムを調製する前の段階における縦延伸工程を経た縦延伸フィルムを、長さ1000mmの分サンプリングし、その長手方向の厚みのばらつきを評価した。
具体的には、サンプリングした縦延伸フィルムについて、まず、その幅方向両端部より50mmの部分をトリミングし、トリミング後のフィルムから、幅方向長さ:50mm、長手方向長さ:1000mmの短冊状フィルムを切り出し、この短冊状フィルムの長手方向の厚みを連続厚み計(アンリツ製)を用いて連続測定した。そして、連続測定された厚みの平均(μm)を求めた。
そして、測定された厚みのうちの最大厚み(Dmax)の最小厚み(Dmin)に対する割合(Dmax/Dmin)を計算して、縦延伸フィルムの長手方向の厚みのばらつきを評価した。割合(Dmax/Dmin)が大きいほど、ばらつきが大きいことを意味する。
【0143】
<評価(6-2)>
横延伸による二軸延伸フィルムを調製する段階における横延伸工程での延伸安定性について評価した。
具体的には、テンターによる横延伸時のテンター内走行前のクリップ温度を、テンター装置に付随する冷却装置を用いることで、評価に用いた樹脂組成物の(TG”max-40)℃から(TG”max+20)℃まで、20℃刻みで変動させて、その4つの温度で横延伸を3時間継続した。
そして、得られたフィルムの品質に応じて、4つの温度のどれにおいても、フィルムが破断するような不良現象を起こすことなく、安定した横延伸を継続することができた場合を「◎」と、4つの温度のうち(TG”max-40)℃の温度においてのみ、クリップ近傍でのフィルム破断を生じただけで、他の温度では安定した横延伸を継続することができた場合を「○~◎」と、4つの温度のうち1つにおいてのみ、クリップ近傍でのフィルム破断を生じただけで、他の温度では安定した横延伸を継続することができた場合を「○」と、4つの温度のうち2つ以上において、クリップ近傍でのフィルム破断が生じた場合を「×」と、評価した。
なお、走行中のクリップ温度は、放射温度計を用いて測定した。その際、放射温度計は、放射温度計が備え付けられたクリップを停止させた状態において、接触式温度計で測定した温度と一致するように放射率を公正した上で、温度測定に用いた。また、測定精度を高めるために、クリップ表面に黒スプレー又は黒色耐熱テープを施工した上で、温度測定を行った。」
ウ 「【0144】
[原料]
後述する実施例及び比較例において使用した原料について以下に示す。
[[単量体]]
・メチルメタクリレート:旭化成ケミカルズ株式会社製
・N-フェニルマレイミド(phMI):株式会社日本触媒製
・N-シクロヘキシルマレイミド(chMI):株式会社日本触媒製
・2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA):Combi Blocks社製
[[他の熱可塑性樹脂]]
・スタイラックAS783(AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン樹脂)、旭化成ケミカルズ株式会社製)
[[酸化防止剤]]
・イルガノックス1010(BASF社製)
・アデカスタブPEP36(ADEKA製)
・アデカスタブAO-412S(ADEKA社製)
・トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(和光純薬社製)
【0145】
[製造例1-1]
メチルメタクリレート(以下「MMA」と記す)146.0kg、N-フェニルマレイミド14.6kg(以下「phMI」と記す)、N-シクロヘキシルマレイミド(以下「chMI」と記す)22.0kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.21kg、トルエン(以下「TOL」と記す)147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m3の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA271.2kg、phMI27.1kg、chMI40.9kg、TOL273.0kgを計量して、タンク1に加え撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を95℃に上昇させ、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをTOL4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)~(5)のプロファイルにて添加し重合を行った。
原料溶液温度が100℃に到達したところで、開始剤溶液を
(1)0.0~0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5~3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5~4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5~6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0~7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で100±2℃で制御した。重合開始から30分後、さらにタンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで重合開始から3時間後にタンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
その後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.2質量部のイルガノックス1010を撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m2である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際の装置内温度は280℃、供給量30L/hr、回転数400rpm、真空度30Torrで実施し、脱揮後の重合物はギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出され、水冷後、ペレット化して主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂(1-1)を得た。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂(1-1)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は149,000であった。
【0146】
[製造例1-2]
製造例1-1において、使用する重合溶媒をトルエンからメチルイソブチルケトンに変更し、重合開始剤をt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートから1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンに変更したこと以外は製造例1-1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1-2)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1-2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は187,000であった。
【0147】
[製造例1-3]
製造例1-2において、連鎖移動剤の使用量を0.65kgに変更すること以外は製造例1-2と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1-3)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1-3)は重量平均分子量が115,000であった。
【0148】
[製造例1-4]
製造例1-1において、初期に反応器に投入する混合単量体溶液の組成をMMA176.5kg、phMI6.0kgに、chMI10.3kg、TOL147.0kgに変更し、且つ、追添用混合単量体溶液の組成をMMA327.3kg、phMI11.2kg、chMI19.2kg、及びTOL273kgに変更し、重合開始剤溶液の組成をt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.52kg及びTOL4.48kgに変更した以外は製造例1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1-4)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1-4)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、90.3質量%、4.0質量%、5.7質量%であった。また、重量平均分子量は155,000であった。
【0149】
[製造例1-5]
製造例1-1において、初期に反応器に投入する混合単量体溶液の組成をMMA123.0kg、phMI27.9kgに、chMI41.8kg、TOL147.0kgに変更し、且つ、追添用混合単量体溶液の組成をMMA228.2kg、phMI51.7kg、chMI77.6kg、及びTOL273kgに変更し、重合開始剤溶液の組成をt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.27kg及びTOL4.73kgに変更し、加えて連鎖移動剤の使用量を0.12kgに変更した以外は製造例1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1-5)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1-5)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、63.3質量%、15.8質量%、20.9質量%であった。また、重量平均分子量は139,000であった。
【0150】
[製造例2]
製造例1-1において、使用する重合溶媒をトルエンからメタキシレンに変更し、重合開始剤をt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートから1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンに変更し、更にn-オクチルメルカプタンの添加量を0.13kgに変更し、更に重合温度を124℃に変更したこと以外は製造例1-1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(2)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は150,000であった。
【0151】
[製造例3]
MMA450.7kg、phMI39.8kg、chMI59.7kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタン0.54kg、メタキシレン450kgを計量し、予め窒素置換した1.25m3反応器に加え、これらを撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、反応器に10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した後、温度を95℃に上昇させた。
次いで、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.30kgをメタキシレン3.85kgに溶解させた重合開始剤溶液を、0.8kg/時間の速度で追添することで重合をした。なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で100±2℃で制御した。重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。この重合溶液を用いて、製造例1-1と同様に、濃縮、脱揮、並びに造粒を行いペレット状のN-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂(3)を得た。
得られたメタクリル系樹脂(3)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は145,000であった。
【0152】
[製造例4]
重合温度を124℃に変更した以外は製造例3と同様にして主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。この重合溶液を用いて、製造例1-1と同様に、濃縮、脱揮、並びに造粒を行いペレット状のN-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂(4)を得た。
得られたメタクリル系樹脂(4)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は139,000であった。
【0153】
[製造例5]
撹拌装置、ジャケットによる温度調節装置を付した1m3の反応器に、149.6kgのメタクリル酸メチル、37.4kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、0.04kgトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、149.0kgのメチルイソブチルケトン、n-ドデシルメルカプタン90gを仕込み、原料溶液を調製した。これに窒素を通じつつ、撹拌し、反応器内温を95℃まで昇温した。
別途、重合開始剤として、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.56kgと3.6kgのメチルイソブチルケトンを混合した開始剤溶液を調製した。
原料溶液温度が95℃に到達したところで、開始剤溶液を(1)~(6)のプロファイルにて添加し重合を開始した。
(1)0.0~0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5~1.0時間:フィード速度1.0kg/時
(3)1.0~2.0時間:フィード速度0.8kg/時
(4)2.0~3.0時間:フィード速度0.7kg/時
(5)3.0~4.0時間:フィード速度0.35kg/時
(6)4.0~7.0時間:フィード速度0.27kg/時
開始剤の添加が完了した後、さらに2時間反応させて重合反応を完結させた。
重合反応中、内温は95~100℃で制御した。
得られた重合体溶液に、メチルイソブチルケトンを85kgと環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物170gとを添加し、還流下、約95~100℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた重合体溶液を、多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱したのち、リアベント数1個、フォアベント数4個を有するベント付二軸押出機に導入することにより、脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。
二軸押出機では、樹脂換算で15kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度260℃、回転数100rpm、真空度10~300Torrの条件とした。その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより、触媒失活剤(2-エチルヘキシル酸亜鉛;日本化学産業株式会社製:製品名ニッカオクチックス亜鉛18%)、及びAS樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、アクリロニトリル-スチレン樹脂、製品名:スタイラックAS783)を投入した。
尚、失活剤は、30g/時、AS樹脂は1.65kg/時の供給速度にて添加した。
二軸押出機で溶融混練を行った樹脂を、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、樹脂組成物(5)を得た。
得られた樹脂組成物の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は28.3質量%であった。ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007-297620号公報に記載の方法に従い求めた。また、得られた樹脂組成物の重量平均分子量は148,000であった。
【0154】
[製造例6]
予め内部を窒素にて置換した、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた30リットル反応器に、メタクリル酸メチル8kg、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2kg、トルエン10kg、有機リン化合物としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト2.0gを仕込んだ。
その後、窒素ガスを導入しながら、100℃まで昇温し、重合開始剤として、t-アミルパーオキシイソノナノエート5gを添加すると同時に、t-アミルパーオキシイソノナノエート10gを含むトルエン溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105~110℃で溶液重合を行い、さらに4時間、重合を継続した。
得られた重合体溶液に、環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物30gを添加し、還流下、約90~102℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた共重合体を含む溶液を多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱することと、脱揮用に複数のベント口と下流に複数のサイドフィード口を装備した二軸押出機に導入することにより脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。二軸押出機では、樹脂換算で2kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度260℃、回転数100rpm、真空度10Torr~300Torrの条件にて行った。その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより酸化防止剤(BASF社製イルガノックス1010)、触媒失活剤(2-エチルヘキシル酸亜鉛;日本化学産業株式会社製:製品名ニッカオクチックス亜鉛18%)を投入した。酸化防止剤及び触媒失活剤は重合体に対してともに4g/時の供給速度にて添加し、溶融混練を行い、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、樹脂組成物(6)を得た。
得られた組成物の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は30.7質量%であった。尚、ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007-297620号公報に記載の方法に従い求めた。また、得られた組成物は重量平均分子量が129,000であった。
【0155】
[実施例1]
(メタクリル系樹脂組成物の調製)
製造例1-1にて得られたメタクリル系樹脂(1-1)を90℃、5時間真空乾燥し、窒素雰囲気下にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。
予め窒素置換されたタンブラー型ミキサーを用いて、メタクリル系樹脂(1-1)を100質量部と、アデカスタブPEP36を0.15質量部、並びにアデカスタブAO-412Sを0.05質量部とからなる混合物を調製した。
露点を-30℃に、且つ温度を80℃に調整した除湿空気を利用し、得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に供給し溶融混練を行った。その際、二軸押出機に附帯する原料ポッパーの下部には、窒素導入ラインを設けて、押出機内に窒素を導入しながら行った。原料ホッパー下での酸素濃度を測定したところ、約1容量%であった。
運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量20kg/時の条件にて実施した。
溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物を得た。
重量平均分子量は142,000、TG”maxは133℃、(Sm2)は56μ秒、(Sm2-Sr2)は40μ秒、(Sm2-Sm1)は30μ秒であり、光弾性係数は0.2×10-12Pa-1であった。
【0156】
[実施例2]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1-2で得られたメタクリル系樹脂(1-2)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は162,000、TG”maxは132℃、(Sm2)は60μ秒、(Sm2-Sr2)は44μ秒、(Sm2-Sm1)は36μ秒であり、光弾性係数は0.2×10-12Pa-1 であった。
【0157】
[実施例3]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1-3で得られたメタクリル系樹脂(1-3)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は108,000、TG”maxは132℃、(Sm2)は86μ秒、(Sm2-Sr2)は69μ秒、(Sm2-Sm1)は59μ秒であり、光弾性係数は0.2×10-12Pa-1であった。
【0158】
[実施例4]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1-4で得られたメタクリル系樹脂(1-4)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は141,000、TG”maxは120℃、(Sm2)は75μ秒、(Sm2-Sr2)は55μ秒、(Sm2-Sm1)は45μ秒であり、光弾性係数は0.4×10-12Pa-1であった。
【0159】
[実施例5]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1-5で得られたメタクリル系樹脂(1-5)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は123,000、TG”maxは150℃、(Sm2)は81μ秒、(Sm2-Sr2)は67μ秒、(Sm2-Sm1)は59μ秒であり、光弾性係数は0.4×10-12Pa-1であった。
【0160】
[実施例6]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂を製造例2で得られたメタクリル系樹脂(2)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は143,000、TG”maxは132℃、(Sm2)は79μ秒、(Sm2-Sr2)は62μ秒、(Sm2-Sm1)は53μ秒であり、光弾性係数は0.2×10-12Pa-1であった。
【0161】
[実施例7]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂を製造例3で得られたメタクリル系樹脂(3)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は137,000、TG”maxは133℃、(Sm2)は83μ秒、(Sm2-Sr2)は68μ秒、(Sm2-Sm1)は57μ秒であり、光弾性係数は0.2×10-12Pa-1であった。
【0162】
[比較例1]
製造例1で得られたメタクリル系樹脂に代えて製造例4で得られたメタクリル系樹脂(4)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は131,000、TG”maxは131℃、(Sm2)は102μ秒、(Sm2-Sr2)は84μ秒、(Sm2-Sm1)は74μ秒であり、光弾性係数は0.2×10-12Pa-1であった。
【0163】
[実施例8]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂に代えて製造例5で得られた樹脂組成物(5)を用いた以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は139,000、TG”maxは123℃、(Sm2)は89μ秒、(Sm2-Sr2)は73μ秒、(Sm2-Sm1)は61μ秒であり、光弾性係数は1.5×10-12Pa-1であった。
【0164】
[比較例2]
製造例5で得られたメタクリル系樹脂に代えて製造例6で得られた樹脂組成物(6)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は121,000、TG”maxは126℃、(Sm2)は105μ秒、(Sm2-Sr2)は89μ秒、(Sm2-Sm1)は79μ秒であり、光弾性係数は2.2×10-12Pa-1であった。
【0165】
[比較例3]
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂に代えて、ポリメチルメタクリレート(製品名:デルペット80N、旭化成製)をそのまま利用した。TG”maxは115℃、(Sm2)は107μ秒、(Sm2-Sr2)は85μ秒、(Sm2-Sm1)は81μ秒であり、光弾性係数は5.0×10-12Pa-1であった。
【0166】
[比較例4]
特公昭63-1964号公報に記載の方法に従い、メタクリル酸メチル-無水マレイン酸-スチレン共重合体(共重合体A)を得た。
得られたメタクリル酸メチル-無水マレイン酸-スチレン共重合体は、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%であり、重量平均分子量は121,000であった。
製造例1-1で得られたメタクリル系樹脂に代えて、上記で得られた共重合体Aを用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は119,000、TG”maxは125℃、(Sm2)は95μ秒、(Sm2-Sr2)は74μ秒、(Sm2-Sm1)は70μ秒であり、光弾性係数は2.5×10-12Pa-1であった。
【0167】
【表1】
」
(2) 主鎖に環構造を有する構造単位(X)がN-置換マレイミド単量体由来の構造単位含むメタクリル系樹脂の製造方法について
ア 「【0037】
主鎖にN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられ、好ましくは懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法であり、さらに好ましくは溶液重合法である。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。
本実施形態における製造方法では、ラジカル重合により単量体を重合することが好ましい。
【0038】
以下、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂(以下、「マレイミド共重合体」と記す場合がある)の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
本実施形態においては、単量体の一部を重合開始前に反応器内に仕込み、重合開始剤を添加することによって重合を開始した後に、単量体の残部を供給する方法、いわゆるセミバッチ重合法を好ましく用いることができる。この方法を採用することにより、得られる重合物の分子量分布や組成分布を制御しやすくなる傾向にある。
【0039】
用いる重合溶媒としては、重合により得られるマレイミド共重合体の溶解度を高め、ゲル化防止等の目的から反応液の粘度を適切に保てるものであれば、特に制限はない。
具体的な重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジメチルホルムアミド、2-メチルピロリドン等の極性溶媒;等を用いることができる。
また、重合時における重合生成物の溶解を阻害しない範囲で、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合溶媒として併用してもよい。
【0040】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、生産時に共重合体や使用モノマーの析出等が起こらず、容易に除去できる量であれば、特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、10~200質量部とすることが好ましい。より好ましくは25~200質量部、さらに好ましくは50~200質量部、さらにより好ましくは50~150質量部である。
【0041】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から、50~200℃であることが好ましく、より好ましくは80~200℃である。さらに好ましくは90~150℃、さらにより好ましくは100~140℃、よりさらに好ましくは100~130℃である。
【0042】
また、重合時間については、必要な転化率にて、必要な重合度を得ることができる時間であれば特に限定はないが、生産性等の観点から、0.5~10時間であることが好ましく、より好ましくは1~8時間である。
【0043】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0044】
重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01~1質量部としてよく、好ましくは0.05~0.5質量部の範囲である。
【0045】
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることできる。
【0046】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等のメルカプタン化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、α-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01~1質量部としてよく、好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0047】
溶液重合においては、重合溶液中の溶存酸素濃度を出来る限り低減させておくことが重要であり、例えば、溶存酸素濃度は、10ppm以下の濃度であることが好ましい。溶存酸素濃度は、例えば、溶存酸素計DOメーターB-505(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定することができる。溶存酸素濃度を低下する方法としては、重合溶液中に不活性ガスをバブリングする方法、重合前に重合溶液を含む容器中を不活性ガスで0.2MPa程度まで加圧した後に放圧する操作を繰り返す方法、重合溶液を含む容器中に不活性ガスを通ずる方法等の方法を適宜選択することができる。
【0048】
溶液重合により得られる重合液から重合物を回収する方法としては、特に制限はないが、例えば、重合により得られた重合生成物が溶解しないような炭化水素系溶媒やアルコール系溶媒等の貧溶媒が過剰量存在する中に重合液を添加した後、ホモジナイザーによる処理(乳化分散)を行い、未反応単量体について、液-液抽出、固-液抽出する等の前処理を施すことで、重合液から分離する方法;あるいは、脱揮工程と呼ばれる工程を経由して重合溶媒や未反応の単量体を分離し、重合生成物を回収する方法;等が挙げられる。
【0049】
ここで、脱揮工程とは、重合溶媒、残存単量体、反応副生成物等の揮発分を、加熱・減圧条件下で、除去する工程をいう。
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、管状熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置;神鋼環境ソリューション社製ワイブレン、及びエクセバ、日立製作所製コントラ及び傾斜翼コントラ等の薄膜蒸発機;脱揮性能を発揮するに十分な滞留時間と表面積とを有するベント付き押出機;等を挙げることができる。
これらの中からいずれか2つ以上の装置を組み合わせた脱揮装置を用いた脱揮工程等も利用することができる。
【0050】
脱揮装置での処理温度は、好ましくは150~350℃、より好ましくは170~300℃、さらに好ましくは200~280℃である。この温度が150℃以上であると、残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効である。逆に、この温度が350℃以下であると、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解が起こる恐れが少ない。
脱揮装置内における真空度としては、10~500Torrの範囲としてよく、中でも、10~300Torrの範囲が好ましい。この真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にあり、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施がより容易である。
処理時間としては、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには、短いほど好ましい。
【0051】
脱揮工程を経て回収された重合物は、造粒工程と呼ばれる工程にて、ペレット状に加工されてもよい。
【0052】
造粒工程では、溶融状態の樹脂を多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウォーターカット方式にて、ペレット状に加工する。
【0053】
なお、脱揮装置としてベント付押出機を採用した場合には、脱揮工程と造粒工程とを兼ねてもよい。
【0054】
また、前述の通り、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法の別の例として、懸濁重合法を用いてラジカル重合で製造する場合もある。
懸濁重合法では、重合工程、洗浄工程、脱水工程、乾燥工程を経て、粒子状(ビーズ状)のメタクリル系樹脂を製造することができる。
懸濁重合法としては、水を媒体として用いる水系の懸濁重合法が好適に用いられる。ここでは、より具体的には、撹拌装置を用い、当該撹拌装置中に適宜、原料となる単量体、懸濁剤、必要に応じて重合開始剤、その他の添加剤を供給し、重合反応を行う。重合によりメタクリル系樹脂粒子を含むスラリーを得て、洗浄、脱水、乾燥を経て、メタクリル系樹脂粒子を分離回収する。
重合温度としては、生産性、凝集体の生成量を考慮すると、40~90℃とすることが好ましく、重合時間としては、重合時の発熱を効果的に抑制し、且つ、凝集体の発生を低減する観点から、20~240分が好ましい。
また、残存モノマーの低減化の観点から、上記重合の工程の後に、重合温度よりも高い温度に昇温し、その温度で一定時間保持する工程を施すことも好ましい。このとき保持する温度としては、重合温度より5℃以上高い温度以上、得られるメタクリル系樹脂のガラス転移温度以下の範囲とすることが、重合度が高く、安息角が小さい樹脂粒子が得られやすいため、好ましい。
【0055】
また、前述の通り、本実施形態では、溶液重合法により製造されたメタクリル系樹脂に、有機懸濁重合法や無機懸濁重合法等の懸濁重合法で製造されたメタクリル系樹脂を添加して、メタクリル系樹脂組成物の調製に用いてもよい。」
(3) 主鎖に環構造を有する構造単位(X)がラクトン環構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法について
ア 「【0071】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、重合後に環化反応によりラクトン環構造を形成させる方法が用いられるが、環化反応を促進させる上で、溶媒を使用する溶液重合が好ましい。
【0072】
重合に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0073】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、ゲル化を抑制できる条件であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、50~200質量部とすることが好ましく、より好ましくは100~200質量部である。
【0074】
重合液のゲル化を充分に抑制し、重合後の環化反応を促進するためには、重合後に得られる反応混合物中における生成した重合体の濃度が50質量%以下になるように重合を行うことが好ましく、重合溶媒を反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。
重合溶媒を反応混合物に適宜添加する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0075】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から50~200℃であることが好ましく、より好ましくは80~150℃、更に好ましくは90~130℃である。
【0076】
重合時間としては、目的の転化率が満たされれば、特に制限されないが、生産性等の観点から、0.5~10時間であることが好ましく、より好ましくは1~8時間である。
【0077】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0078】
重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05~1質量部としてよい。
【0079】
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることできる。
【0080】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した連鎖移動剤等が利用できる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の使用量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05~1質量部としてよい。
【0081】
本実施形態におけるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上記重合反応終了後、環化反応を行うことにより得ることができる。そのため、重合反応液から重合溶媒を除去することなく、溶媒を含んだ状態で、ラクトン環化反応に供することが好ましい。
重合により得られた共重合体は、加熱処理されることにより、共重合体の分子鎖中に存在するヒドロキシル基(水酸基)とエステル基との間での環化縮合反応を起こし、ラクトン環構造を形成する。
【0082】
ラクトン環構造形成の加熱処理の際、環化縮合によって副生し得るアルコールを除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた反応装置、脱揮装置を備えた押出機等を用いることもできる。
【0083】
ラクトン環構造形成の際、必要に応じて、環化縮合反応を促進するために、環化縮合触媒を用いて加熱処理してもよい。
環化縮合触媒の具体的な例としては、例えば、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル等のリン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリアルキルエステル;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
環化縮合触媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部であり、より好ましくは0.05~1質量部である。触媒の使用量が0.01質量部以上であると、環化縮合反応の反応率の向上に有効であり、触媒の使用量が3質量部以下であると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して溶融成形が困難になることを防ぐのに有効である。
【0084】
環化縮合触媒の添加時期としては、特に限定されるものではなく、例えば、環化縮合反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、その両方で添加してもよい。
【0085】
溶媒の存在下に環化縮合反応を行う際に、同時に脱揮を行うことも好ましく用いられる。
環化縮合反応と脱揮工程とを同時に行う場合に用いる装置については、特に限定されるものではないが、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものが好ましく、ベント付き二軸押出機がより好ましい。
【0086】
用いるベント付き二軸押出機としては、複数のベント口を有するベント付き押出機が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150~350℃、より好ましくは200~300℃である。反応処理温度が150℃以上であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効であり、反応処理温度が350℃以下であると、得られた重合体の着色や分解を抑制するのに有効ある。
ベント付き押出機を用いる場合の真空度としては、好ましくは10~500Torr、より好ましくは10~300Torrである。真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にある。逆に、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施が比較的容易である。
【0087】
上記の環化縮合反応を行う際に、残存する環化縮合触媒を失活させる目的で、造粒時に有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩を添加することも好ましい。
有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩としては、例えば、カルシウムアセチルアセテート、ステアリン酸カルシウム、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、2-エチルヘキシル酸亜鉛等を用いることができる。
環化縮合反応工程を経た後、メタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機からストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウォーターカット方式にてペレット状に加工する。」
(4) メタクリル系樹脂組成物の製造方法について
ア 「【0089】
(メタクリル系樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の要件を満たす組成物を得ることができれば、特に限定されるものではない。
組成物の調製法として溶融押出法を採用する場合においては、ベント付押出機を用い、残留する揮発成分を出来る限り除去しながらメタクリル系樹脂組成物を調製する方法を採用することが好ましい。
【0090】
また、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物をフィルム用途等に用いる場合には、異物を減少させる目的で、重合反応工程、液-液分離工程、液-固分離工程、脱揮工程、造粒工程、及び、成形工程のいずれか又は複数の工程において、例えば、濾過精度1.5~20μmの焼結フィルター、プリーツフィルター、及び/又はリーフディスク型ポリマーフィルター等を濾過装置に付加して用いて、調製することも好ましい方法である。
【0091】
いずれの方法を選択した場合においても、メタクリル系樹脂組成物を製造する際には、酸素及び水分を可能な限り低減させた上で行うことが好ましい。
例えば、溶液重合での重合溶液中の溶存酸素濃度としては、重合工程においては、300ppm未満の濃度が、押出機等を利用した調製法においては、押出機内の酸素濃度としては、1容量%未満とすることが好ましく、0.8容量%未満とすることがさらに好ましい。
メタクリル系樹脂の水分量としては、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下に調整することが推奨される。
これらの範囲内であれば、本発明の要件を満たす組成物を調製することが比較的容易となり、有利である。
【0092】
例えば、押出機を用いた製造方法を採用した場合、原料であるペレット化されたメタクリル系樹脂は、減圧下又は除湿空気下で加温し、予め十分に乾燥させることで、水分を出来る限り除去して用いることが好ましい。その際、後述する各種酸化防止剤や添加剤を配合する場合においては、これら各種酸化防止剤や添加剤自体も、含まれる水分量を十分に低減してから配合することが好ましい。
さらに、押出機内に酸素が混入することを極力低減し、溶融状態にある組成物の酸化を防止するため、押出機内に不活性ガス、例えば、窒素ガス等を流入させ、ベント付押出機を用い、減圧排気しながら実施することが好ましい。
その際の原料等の乾燥温度としては、40~120℃が好ましく、より好ましくは70~100℃である。
減圧度に関しては、特に制限はなく、減圧度を適宜選択すればよい。
【0093】
押出機を用い、溶融混練され溶融状態となったメタクリル系樹脂組成物は、多孔ダイから溶融押出しされペレット化される。
その際、用いることのできる造粒方式としては、例えば、空中ホットカット方式、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式等が挙げられる。
【0094】
本実施形態のように、高い温度域における損失正接の変化が高度に制御されたメタクリル系樹脂組成物を得ようとするためには、高温下で溶融状態にある組成物をできる限り空気に触れないようにして、素早く冷却固化させることができる造粒方式を採用することが好ましい。
かかる目的のためには、例えば、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式等が好ましいが、生産性及び造粒装置コストの面から、一般的には水冷ストランドカット方式がより好ましい。
その場合には、溶融樹脂温度を可能な範囲で低くし、且つ多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間を極力少なくし、冷却水の温度も可能な範囲で高い温度にて、実施できる条件にて造粒を行うことがより好ましい。
例えば、溶融樹脂温度としては、240~300℃が好ましく、より好ましくは250~290℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間は5秒以内が好ましく、より好ましくは3秒以内であり、冷却水の温度としては、30~80℃が好ましく、より好ましくは40~60℃の範囲である。
【0095】
-他の熱可塑性樹脂-
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を調製する際には、本実施形態の目的を損なわず、複屈折率の調整や可撓性を向上させる目的で、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート類;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-ブチルアクリレート共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;更には、例えば、特開昭59-202213号公報、特開昭63-27516号公報、特開昭51-129449号公報、特開昭52-056150号公報等に記載の、3~4層構造のアクリル系ゴム粒子;特公昭60-17406号公報、特開平8-245854公報に開示されているゴム質重合体;国際公開第2014-002491号に記載の、多段重合で得られるメタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子;等が挙げられる。
この中でも、良好な光学特性と機械的特性とを得る観点からは、スチレン-アクリロニトリル共重合体や、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と相溶し得る組成からなるグラフト部をその表面層に有するゴム含有グラフト共重合体粒子が好ましい。
前述のアクリル系ゴム粒子、メタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子、及びゴム質重合体の平均粒子径としては、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物より得られるフィルムの衝撃強度及び光学特性等を高める観点から、0.03~1μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~0.5μmである。
【0096】
他の熱可塑性樹脂の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量部とした場合に、好ましくは0~50質量部、より好ましくは0~25質量部の範囲であることが好ましい。
【0097】
-酸化防止剤-
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態のメタクリル系樹脂が有する本来のポリマー特性を発揮させる上で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤を添加することが好ましい。
これらは1種でも2種を組み合わせて用いることもできる。
【0098】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリン)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミン)フェノール、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル等が挙げられる。
特に、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルが好ましい。
【0099】
また、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、市販のフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、イルガノックス1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF社製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASF社製)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、BASF社製)、イルガノックス3114(Irganox3114:1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、BASF社製)、イルガノックス3125(Irganox 3125、BASF社製)、アデカスタブAO-60(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ADEKA社製)、アデカスタブAO-80(3、9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルキシオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ADEKA社製)、スミライザーBHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox 1790、サイテック製)、スミライザーGA-80(Sumilizer GA-80、住友化学製)、スミライザーGS(Sumilizer GS:アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、住友化学製)、スミライザーGM(Sumilizer GM:アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル、住友化学製)、ビタミンE(エーザイ製)等が挙げられる。
これらの市販のヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、樹脂への熱安定性付与効果の観点から、イルガノックス1010、アデカスタブAO-60、アデカスタブAO-80、イルガノックス1076、スミライザーGS等が好ましい。
これらは1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0100】
リン系酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト類、ホスホナイト類に分類されるものが挙げられる。
【0101】
ホスファイト類のリン系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0102】
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、例えば、イルガフォス168(Irgafos168:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、BASF製)、イルガフォス12(Irgafos12:トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、BASF製)、イルガフォス38(Irgafos38:ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト、BASF製)、アデカスタブHP-10(ADKSTAB HP-10:2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP24G(ADEKASTAB PEP24G:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36(ADKSTAB PEP36:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36A(ADKSTAB PEP36A:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP-8(ADKSTAB PEP-8:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルホスファイト:株式会社ADEKA製)、スミライザーGP(SumilizerGP:(6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学製)等が挙げられる。
【0103】
ホスホナイト類のリン系酸化防止剤の具体例としては、例えば、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト等が例示できる。
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、HostanoxP-EPQ(P-EPQ:テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト:クラリアントCo.Ltd製)、GSY P101(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト:堺化学製)等が挙げられる。
【0104】
また、硫黄系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2、4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(イルガノックス1726、BASF社製)、イルガノックス1520L、BASF社製)、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソポロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-ドデシルチオ〕プロピオネート〕(アデカスタブAO-412S、ADEKA社製)、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソポロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-ドデシルチオ〕プロピオネート〕(ケミノックスPLS、ケミプロ化成株式会社製)、ジ(トリデシル)3,3’-チオジプロピオネート(AO-503、ADEKA社製)等が挙げられる。
これらの市販の硫黄酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果、多種の酸化防止剤との併用効果の観点、取り扱い性の観点から、アデカスタブAO-412S、ケミノックスPLSが好ましい。
これらの硫黄系酸化防止剤は、1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0105】
酸化防止剤の含有量としては、熱安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトする等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、さらにより好ましくは0.8質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量部、特に好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0106】
-その他の添加剤-
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態の効果を著しく損なわない範囲内で、その他の添加剤を含有させてもよい。
その他の添加剤としては、特に制限はないが、例えば、無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤・離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等の離型剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。」
3 判断
上記1で述べたとおり、特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り(製造し)、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
以下、この観点から検討する。
(1) 本件発明1、6及び7について(N-置換マレイミド単量体由来のを構造単位を有するメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物の場合)
ア 判断
本件発明1は、メタクリル系樹脂組成物について、
「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~69μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~59μ秒である」
と特定している。
まず、Sm2に係る特定についてみるに、発明の詳細な説明には、摘示(1)アには、メタクリル系樹脂組成物において、パルスNMRを用いた固体の高次構造特性と延伸特性が強い相関があるとの説明はあり、測定方法について説明があるが、本件発明1において、「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒である」とのSm2の特定範囲の要件について、メタクリル系樹脂組成物をどのような条件で製造すれば満たされるのか、具体的な説明はない。特に、摘示(1)アの段落【0122】には、
「主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物の、上述の温度範囲における固体の高次構造を制御する具体的な方法としては、用いるメタクリル系樹脂の調製条件、例えば、重合温度、重合溶媒、重合時の単量体濃度、単量体の添加方法等を適宜選択することにより制御することができるが、これに限定されるものではなく、加えて、重合後の重合体を含む溶液から重合体を回収する際の条件(温度、滞留時間、せん断力)、更にはメタクリル系樹脂組成物を調製する際の調製条件(温度、滞留時間、せん断力等)等を組み合わせることもできる。」
との記載があるものの、具体的な調製条件の指標(どの条件をどのように変更したら、Sm2がどのように変化し、本件発明1等で特定する範囲となるのか)が示されているわけではない。
また、発明の詳細な説明の他の記載、特にN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法(摘示(2)ア)には、樹脂の製造方法に係る一般的な条件の記載(重合方法、重合形式、重合溶媒の種類及び量、重合温度の範囲、重合時間、重合開始剤の量及び添加方法、連鎖移動剤の量及び添加方法)があり、メタクリル系樹脂組成物の製造方法(摘示(4)ア)には、組成物の製造方法に係る一般的な条件(組成物の調整法、添加する他の樹脂の種類及び量、酸化防止剤の種類及び量、他の添加剤の種類等)が記載されてはいるが、Sm2などの特定に関連する条件や方法についての示唆はない。
そして、このSm2を特定範囲とするメタクリル系樹脂組成物を製造するための条件が、本件出願の出願時に当技術分野においてよく知られているとの特段の事情もない。
次に、具体的な実施例についてみるに、摘示(1)ウには、N-置換マレイミドを有するメタクリル系樹脂の製造について、製造例1-1ないし1-5、製造例2ないし4において、N-フェニルマレイミドとN-シクロヘキシルマレイミドを併用し、これらの構造単位の合計の割合が9.7質量%、18.7質量%及び36.7質量%で、残りがメチルメタクリレートの構造単位であり、これらの重量平均分子量が115,000、139,000、145,000、150,000、155,000、又は187,000のメタクリル系樹脂が製造されることが記載されている。そして、これらの樹脂を用いたメタクリル系樹脂組成物について、実施例1ないし7及び比較例1として、製造した樹脂のいずれか1種を100質量部に、酸化防止剤であるアデカスタブPEP 0.15質量部とアダカスタブAO-412S 0.05質量部を配合した組成物を製造し、Sm2が測定されている。
ここで、摘示(1)ウの【0145】の製造例1-1は、Sm2の範囲56~86μ秒のうち、下限値の56を示す製造例であるが、反応器に最初に加える単量体の組成、連鎖移動剤及び溶媒の種類と量が記載され、さらに、追添する単量体の組成及び添加方法、重合温度、重合開始剤の種類及び添加方法、反応時間、反応後の重合液の濃縮方法及び脱揮方法などの条件も記載されており、得られたメタクリル酸樹脂の組成、重量平均分子量が明らかにされている。
同様に、Sm2の上限値の86μ秒を示す製造例1-3でも、上記の諸条件について、【0146】、【0147】に記載されている。
また、その他の製造例である、製造例1-2、1-4、1-5、2及び3では、Sm2がそれぞれ60、75、81、79、83μ秒を示す5つの製造例が具体的に記載され、モノマー組成、モノマー添加方法、連鎖移動剤の量、重合温度、溶媒、重合開始剤の種類及び添加方法のいずれかの製造条件が他の例と異なるので、対比可能なものもある。
一方、比較例である製造例4には、Sm2が範囲外の102μ秒の例が記載され、製造条件としては、製造例3から重合温度条件のみを変更した例が示されている。
そうすると、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物について、Sm2を特定の範囲とするための具体的な条件は、発明の詳細な説明の摘示(1)ア、(2)ア、(4)アをみても記載がないが、摘示(1)ウの8つの製造例(7の実施例と1の比較例)をみれば、当業者は、各製造例における製造条件と、一般的な製造条件(摘示(2)ア、(4)ア)を踏まえた上で、各例の製造条件を、一般的な製造条件の範囲内で、かつ各例の条件の近接範囲で変動させることにより、Sm2の範囲56~86μ秒について、実施例以外の数値についても、これらの範囲を満足するメタクリル系樹脂組成物が製造できて、使用できると認識するものと認められる。
そして、Sm2-Sr2、Sm2-Sm1の特定について、Sm2の値が56~86μ秒範囲内であれば、上記製造例によれば、Sm2-Sr2、Sm2-Sm1を満たすから、これらの数値を満たすメタクリル系樹脂についても製造できて、使用できると当業者であれば認識できるものである。
よって、本件発明1、6及び7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、同法第113条第4号に該当しないので、取り消すことはできない。
イ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
申立人は、平成30年12月13日に提出の意見書において、以下の点を主張している。
a 本件特許明細書に記載の製造条件や物性は、漠然と記載されているにすぎず、本件特許明細書の製造例を考慮しても、何ら傾向を読み取ることができず、どの製造条件や物性をどのようにすれば調整できるのか不明である。
b 【0122】にはSm2に関連する製造条件が項目として挙げられているに過ぎず、どの製造条件がどのようにSm2等に関連するのか不明である。
c 重合溶媒や重合温度については、Sm2等の値において、実施例間で異なるか又は逆の結果の場合もあり、実施例の製造条件とSm2等に相関関係が見出すことができない。
d 20重量%のメタクリル酸メチル単量体及びN-置換マレイミド以外の単量体を含む場合に、Sm2等をどのように充足できるのか不明である。
(イ) 上記主張についての判断
上記a、bについては、確かに申立人の主張に一理あるものの、上記cの実施例及び比較例から、製造条件の傾向がまったくつかめないというわけではない。
例えば、実施例2(製造例1-2)と実施例3(製造例1-3)を比較すると、モノマー組成は同じであるものの、連鎖移動剤の量が異なるため、重量平均分子量が異なる。そして、分子量以外の他の条件が同じであれば、Sm2は重量平均分子量が低ければ大きく、高ければ小さくなることが理解できる。両例ともSm1,Sr2の数値はあまり変わらないから、Sm2-Sm1、Sm2-Sr2の数値もSm2の数値によるところが大きく、Sm2の上限値及び下限値を示す場合が、それぞれSm2-Sm1、Sm2-Sr2の上限値と下限値の場合となるから、Sm2の値を満たせばこれらの範囲も満たすものと推認できるものである。
また、重合温度については、実施例7と比較例1を対比することで、重合温度が高ければ結局、分子量が若干低く、Sm2の数値が高くなることが理解できる。
モノマー組成、溶媒、重合開始剤の種類や添加方法については、製造例及び実施例とみても、これらを単独の指標とした場合の明確な傾向は読み取れないものの、各条件を変更をしてもSm2等が範囲内に収まる条件があるであろうことが理解できる。
上記dについては、確かに、他のモノマーを含む場合にSm2等の充足できるかどうかは明らかではないが、少量の他のモノマーを含む場合や、20重量%近く含む場合であってもメタクリル酸メチルやN-置換マレイミドと類似のモノマ-を使用するのであれば、製造例と同じ条件を検討することで、これらの場合の傾向が理解できるので、当業者がその実施に試行錯誤を要するとまではいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(2) 本件発明5、8及び9について(ラクトン環構造単位を有するメタクリル酸系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物の場合)
ア 判断
本件発明5には、メタクリル系樹脂組成物について、
「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、55~89μ秒であり、
前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~61μ秒であることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。」
と特定している。
まず、Sm2に係る特定についてみるに、上記(1)に説明したとおり、発明の詳細な説明には、摘示(1)アには、メタクリル系樹脂組成物において、パルスNMRを用いた固体の高次構造特性と延伸特性が強い相関があるとの説明はあり、測定方法について説明があるが、本件発明5に係るSm2を特定範囲とする要件について、メタクリル系樹脂組成物をどのような条件で製造すれば満たされるのか、具体的な説明はない。
また、本件特許明細書の摘示アの段落【0122】には、
「本発明者らは、高い品質を有し、安定した延伸が可能なメタクリル系樹脂組成物の提供に向け、鋭意検討を重ねた結果、延伸フィルムを調製する際に用いられる延伸温度域にてパルスNMRを用いて固体の高次構造を解析することにより、解析により得られた情報がフィルムの延伸挙動と深い関連性を有していることを見出した。
その結果、損失弾性率の温度分散スペクトルにおける極大値を示す温度に注目し、その付近の温度範囲におけるパルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至ったのである。」
として、本件発明では、「高次構造変化を特定範囲にする」ことに着目することが記載され、
「パルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御されたメタクリル系樹脂組成物は、その分子量、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布、並びに立体規則性分布等が複合的に作用した結果、得られると推定される。」
と、「固体の高次構造変化を特定範囲にする」ためには、複合的に樹脂組成物の特性が関連することが指摘され、さらにその制御については、
「主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物の、上述の温度範囲における固体の高次構造を制御する具体的な方法としては、用いるメタクリル系樹脂の調製条件、例えば、重合温度、重合溶媒、重合時の単量体濃度、単量体の添加方法等を適宜選択することにより制御することができるが、これに限定されるものではなく、加えて、重合後の重合体を含む溶液から重合体を回収する際の条件(温度、滞留時間、せん断力)、更にはメタクリル系樹脂組成物を調製する際の調製条件(温度、滞留時間、せん断力等)等を組み合わせることもできる。」
との記載がある。しかし、固体の高次構造変化を特定範囲にするために、各条件をどのように調整したらよいのか、その具体的な条件の指標(どの条件をどのように変更したら、Sm2がどのように変化し、本件発明5等で特定する範囲となるのか)が示されているわけではない。
また、発明の詳細な説明の他の記載、特に、ラクトン環構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法(摘示(3)ア)、メタクリル系樹脂組成物の製造方法(摘示(4)ア)をみても、当該樹脂及び樹脂組成物の一般的な製造条件が記載されているが、このSm2を特定範囲とするメタクリル系樹脂組成物を製造するための具体的な条件に関する記載はない。
そして、このSm2を特定範囲とするメタクリル系樹脂組成物を製造するための条件が、本件出願の出願時に当技術分野においてよく知られているとの特段の事情もない。
次に、実施例の記載をみるに、ラクトン環構造を有するメタクリル系樹脂を配合したメタクリル系樹脂組成物については、実施例8となる製造例5において、樹脂の重合開始時に、酸化防止剤であるトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを添加し、ラクトン環化した樹脂15kg/時に、AS樹脂を1.65kg/時で配合し、ラクトン環を28.3質量%の割合で含み、重量平均分子量が148,000のメタクリル系樹脂組成物が製造され、Sm2が測定されている(【0153】、【0163】、表1)。そして、樹脂の製造時の条件として、単量体の組成、連鎖移動剤及び溶媒の種類と量が記載され、重合温度、重合開始剤の種類及び添加方法、反応時間、反応後の環化縮合などの条件が開示されている。
一方、比較例となる製造例6では、樹脂の重合開始時にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを添加し、ラクトン環化したメタクリル酸樹脂組成物において、ラクトン環を30.7質量%の割合で含み、重量平均分子量が129,000のメタクリル系樹脂組成物(比較例2)が製造され、Sm2が測定されている(摘示ウの【0154】、【0164】、表1)。この製造例6の樹脂および組成物は、上記製造例5とは、モノマー組成は同じであるが、重合温度、連鎖移動剤の有無、重合開始剤の添加方法、溶媒などの多くの製造条件が異なり、樹脂組成物としてAS樹脂の添加がない点でも異なるものである。
そして、請求項5で特定するラクトン環構造の割合の全範囲にわたり、つまり、上限値及び下限値に近い範囲であっても、Sm2を特定範囲とするメタクリル系樹脂組成物を製造するためにどのような条件とすれば良いのか理解でき、かつ、Sm2の特定する全範囲にわたっても、どのような条件変更をすればよいのか理解できるように、製造例の記載がされていれば別であるが、本件特許明細書のラクトン環構造に係る製造例は、製造例5と製造例6の2例のみであって、製造条件が大きく異なるため、条件をどのように変化させればSm2を特定範囲とするメタクリル系樹脂組成物を製造することができるのか、これらの製造例をみただけでは、当業者であったとしても不明である。さらに、製造方法の一般的な製造条件(摘示(3)ア、(4)ア)を踏まえたとしても、製造例において、Sm2を特定範囲とするメタクリル系樹脂組成物を製造することができる製造条件の変更が、当業者に不明であるとの点は変わるものではない。
また、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂組成物の場合からラクトン環構造単位を有する場合の類推の可否について検討する。
まず、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有する場合は、モノマー自体が環構造を有するものであるが、ラクトン環構造単位を有する場合には、モノマーとしてヒドロキシメチルアクリル酸メチル(MHMA)の重合反応後、これを環化反応させてラクトン環にするものであって、両場合は、重合工程・方法が異なるので、製造条件として、前者から後者が直ちに類推されるというものではない。
さらに、製造例5から製造される実施例8のラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂組成物は、AS樹脂を含む点でも、前者のN-置換マレイミ単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂組成物の場合と異なるから、これらの実施例及び比較例のみからラクトン環構造単位を有する場合の類推ができるのかどうかも明らかでない。
そうすると、本件特許明細書は、本件発明5のSm2が特定範囲とする点について、ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂組成物を製造することができるように記載されておらず、当業者がこの発明を実施できるように、明確かつ十分に記載されているとはいえない。本件発明5のSm2-Sm1の特定する範囲についても同様である。
したがって、本件発明5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求項5を直接又は間接的に引用する本件発明8及び9に係る特許についても同様である。
イ 特許権者の主張について
(ア) 特許権者の主張の概要
特許権者は、平成30年10月23日に提出の意見書において、以下の点を主張している。
a ラクトン環構造を有する場合について、【0153】、【0154】、【0163】、【0164】、表1には、ラクトン環構造を有するメタクリル系樹脂及び製造方法が記載され、Sm2等の測定結果が示されている。
b 本件特許明細書の【0122】には、
「主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物の、上述の温度範囲における固体の高次構造を制御する具体的な方法としては、用いるメタクリル系樹脂の調製条件、例えば、重合温度、重合溶媒、重合時の単量体濃度、単量体の添加方法等を適宜選択することにより制御することができるが、これに限定されるものではなく、加えて、重合後の重合体を含む溶液から重合体を回収する際の条件(温度、滞留時間、せん断力)、更にはメタクリル系樹脂組成物を調製する際の調製条件(温度、滞留時間、せん断力等)等を組み合わせることもできる。」と記載され、さらには、
「パルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御されたメタクリル系樹脂組成物は、その分子量、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布、並びに立体規則性分布等が複合的に作用した結果、得られると推定される。」
との事情も記載されているから、当業者はSm2等に関連する製造条件を理解することができる。
c ラクトン環構造を有するメタクリル系樹脂を用いたメタクリル系樹脂組成物については、実施例8を基にして【0122】に記載されている製造の諸条件を変更することで、実施例の周辺について実施すること、ひいては実施例及びその周辺を含む請求項の範囲について実施することは、当業者が当然行うことであり、過度の試行錯誤にはあたらない。
(イ) 上記主張についての判断
・上記aについて
上記aについて、ラクトン環構造を有する場合については、実施例と比較例は1例ずつであって、その製造条件も大きく異なることは上記アで述べたとおりであり、この2例から製造条件や物性等に関する傾向は読み取れない。
・上記bについて
上記bについて、【0122】の記載をみても、Sm2等に関連する条件が多岐にわたり例示されているだけで、具体的な条件の指標が示されているわけでもないから、製造条件を具体的にどのように変更することにより、Sm2の範囲を55~89μ秒の特定の範囲にするメタクリル系樹脂組成物を製造することができるのかについてまでは、当業者であっても理解することはできない。
また、特許権者が指摘した【0122】のパルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御するに関係するとされる「分子量、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布、並びに立体規則性分布等」については、実施例は分子量以外は測定されておらず、「パルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御されたメタクリル系樹脂組成物は、分子量・・・等が複合的に作用した結果、得られると推定される。」と記載があるように、関連があるのかどうかも推認の域を脱しないから、これをみても特定の範囲のSm2とするメタクリル系樹脂組成物を製造するための調整条件が理解できるものではない。
・上記cについて
上記cについて、実施例8の製造条件をどのように変更したら特定の範囲のSm2とするメタクリル系樹脂組成物を製造することができるのか、具体的な指標がないから、【0122】に記載された多岐にわたる複数の条件について試行錯誤をして変更を加える必要がある。確かに、実施例付近のごく狭い周辺であれば変更することも可能であろうが、実施例とモノマー組成が大きく変更する場合は、基本となる製造条件をどのようにするのか全く不明であり、当業者であっても明らかに過度の試行錯誤を必要とする。
以上のように、特許権者の主張は採用できない。
よって、本件発明5、8及び9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消すべきものである。
(3) まとめ
以上のとおり、本件の請求項1、6及び7に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願明細書に対してされたものではなく、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
一方、本件の請求項5、8及び7に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
請求項2ないし4に係る特許は、これらの請求項が削除されたため、取り消すべき理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人から申立てられた特許異議の申立ての理由は、下記の申立理由1ないし4であり、取消理由通知において採用しなかった申立理由1ないし3につき、本件の請求項1、6及び7に係る発明の特許について、検討する。
また、請求項2ないし4に係る特許は、これらの請求項が削除されたので、特許異議の申立てを却下する。
(1) 申立理由1
本件の請求項1ないし4、6及び7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、本件の請求項1ないし4、6及び7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2) 申立理由2
本件の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1ないし16号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3) 申立理由3
本件の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(4) 申立理由4
本件の請求項1ないし7に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(5) 証拠方法
甲第1号証: 特開2014-28956号公報
甲第2号証: 「固体ポリマーの動的粘弾性評価」、ネットワークポリマー、2011、Vol.32、No.6、p362-366
甲第3号証: 熱分析装置(DSC,TMA)、日本大学理工学部 理工学研究所 材料創造研究センター資料、平成14年
甲第4号証: 九州大学中央分析センターニュース、2012、Vol.31、No.1、p1-8
甲第5号証: 核磁気共鳴吸収(NMR)-固体ゴムのNMRによる研究を中心に-、日本ゴム協会誌、1981、第54巻、第8号、p491-508
甲第6号証: パルスNMRによるメタクリル酸およびそのエステルの塊状重合の研究(2)、防衛大学校2006年度卒業研究
甲第7号証: パルスNMRによる材料評価技術、Ricoh Technical Report、2015年2月、No.40、p136-143
甲第8号証: 特開平8-302145号公報
甲第9号証: 【技術資料】パルスNMR法による高分子材料の分子運動性解析、株式会社 東ソー分析センター 技術リポート、2017年8月1日
甲第10号証: 特許第6151423号公報
甲第11号証: 特許第6114459号公報
甲第12号証: 特開2013-136774号公報
甲第13号証: 特開2007-76323号公報
甲第14号証: 特開2012-163652号公報
甲第15号証: 特開2012-8248号公報
甲第16号証: 特開2008-191426号公報
(以下、甲第1号証を「甲1」といい、甲第2号証ないし甲第16号証についても同様である。なお、甲10、甲11は、同一出願人の特許公報であって、本件特許出願の優先権主張日に公知の文献ではなく、甲9も優先権主張日後に公知となった文献である。)
2 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1) 甲1の記載事項
ア 「【請求項1】
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)50~95質量%と、下記式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)0.1~20質量%と、下記式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)0.1~49.9質量%とを含有し、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計量が100質量%である、アクリル系熱可塑性樹脂であって、
【化1】
(式中:R1は、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6~14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR1は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
【化2】
(式中:R2は、炭素数6~14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6~14のアリール基を表し、同一分子中のR2は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
【化3】
(式中:R3は、水素原子、炭素数1~12の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1~12のアルキル基、及び炭素数3~12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR3は同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下であり、
ハロゲン原子の含有率が、当該アクリル系熱可塑性樹脂の質量を基準として0.47質量%未満である、
アクリル系熱可塑性樹脂。
【請求項2】
N-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)の含有量に対する、N-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)の含有量のモル比が、0より大きく15以下である、請求項1に記載のアクリル系熱可塑性樹脂。
【請求項3】
メタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)がメタクリル酸メチル又はメタクリル酸ベンジル由来の繰り返し単位であり、N-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)がN-フェニルマレイミド由来の繰り返し単位であり、N-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)がN-シクロヘキシルマレイミド由来の繰り返し単位である、請求項1又は2に記載のアクリル系熱可塑性樹脂。
・・・
【請求項8】
下記の条件(iii)を満足する、請求項1~7のいずれか1項に記載のアクリル系熱可塑性樹脂。
(iii)ガラス転移温度(Tg)が120℃以上である。」
イ 「【0046】
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂における、N-置換マレイミド単量体(a)に由来する繰り返し単位(Y1)とN-置換マレイミド単量体(b)に由来する繰り返し単位(Y2)とを合計した含有割合(Y1wt+Y2wt)は、5~50質量%である。Y1wt+Y2wtは、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~35質量%であり、さらに好ましくは10~30質量%、より一層好ましくは15~30質量%である。Y1wt+Y2wtがこれらの範囲内にあるとき、得られるアクリル系熱可塑性樹脂は、十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性について好ましい改良効果が得られる。N-置換マレイミドの繰り返し単位の割合(Y1wt+Y2wt)が50質量%を超えると、重合反応時に単量体成分の反応性が低下して未反応で残存する単量体量が多くなり、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の物性が低下してしまうという問題もある。」
ウ 「【0069】
アクリル系熱可塑性樹脂中に残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計は、アクリル系熱可塑性樹脂(共重合体)100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。残存単量体の合計が、0.5質量%を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱性及び耐候性が低下したりするなど実用に適さない成形体が得られるという問題がある。
【0070】
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法によるPMMA換算の重量平均分子量(Mw)は、3000~1000000であることが望ましい。この重量平均分子量が3000以上であれば高分子として必要な強度が発現できる。また1000000以下であればプレス成形による成形体とすることができる。アクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは4000~800000であり、さらに好ましくは5000~500000であり、より一層好ましくは100000~500000である。」
エ 「【0073】
[重合反応]
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂の重合反応においては、互いに反応性が近しい単量体、及び/又は共重合性が高い単量体を組み合わせることが、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の樹脂組成比を、反応液に仕込む原料組成比に基づいて容易に制御することが可能であることから望ましい。一方、反応性が著しく異なる単量体を組み合わせる場合、a)反応性が低い単量体が十分に反応せず未反応単量体として残存する、b)結果として得られるアクリル系熱可塑性樹脂の樹脂組成比が予測し難いなどの問題が生じ得る。特に、未反応単量体が残存すると、アクリル系熱可塑性樹脂の特性、例えば、透明性、耐候性、が低下するなどの問題もある。」
オ 「【0076】
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、重合温度が0~150℃、重合時間が0.5~24時間であり、好ましくは、重合温度が80~150℃、重合時間が1~12時間である。」
カ 「【0088】
[脱揮工程]
脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分などの揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られたアクリル系熱可塑性樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。残存揮発分量は、アクリル系熱可塑性樹脂100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらにより好ましくは0.3質量%以下である。残存揮発分量とは、前述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する。」
キ 「【0095】
[アクリル系熱可塑性樹脂組成物]
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂を、アクリル系熱可塑性樹脂を構成する重合体以外の種々の添加剤等と混合して、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を構成してもよい。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。」
ク 「【0098】
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂、又はアクリル系熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるフィルム又はシート状の成形体を特性評価した場合に、成形体の光弾性係数(C)の絶対値は、3.0×10-12Pa-1以下である。
【0099】
光弾性係数(C)の絶対値は、2.0×10-12Pa-1以下であることがより好ましく、1.0×10-12Pa-1以下であることがさらに好ましい。」
ケ 「【0132】
本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂、又はアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、光学材料として、例えば、光学フィルム(偏向板保護フィルム及び位相差フィルム等)、ディスプレイ基板、レンズ、ピックアップレンズ、タッチパネルや太陽電池に用いられる透明プラスチック基板等の成形体として好適に用いることができる。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムなどの分野において、導波路、レンズ、レンズアレイ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等に用いることができる。」
コ 「【0148】
[アクリル系熱可塑性樹脂]
メタクリル酸メチル/N-フェニルマレイミド/N-シクロヘキシルマレイミド重合体
[実施例1]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルを備えたSUS製反応器(容量0.5L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度はオイルバスで130℃に制御した。
【0149】
メタクリル酸メチル(MMA)576g、N-フェニルマレイミド(NPheMI)61g、N-シクロヘキシルマレイミド(N-CyMI)83g、メチルイソブチルケトン480gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。パーヘキサC(日油(株)製;濃度75wt%)8.63gをメチルイソブチルケトン91.37gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
【0150】
原料溶液はポンプを用いて8.25ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて500ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0151】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液と、抽出溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=81/8/11wt%
分子量:Mw=22.5×104;Mw/Mn=2.09
Tg:135℃
このものの1H-NMRスペクトルを図1に示す
【0152】
[実施例2]
実施例1において、MMA:576g、N-PheMI:50g、N-CyMI:94gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=79/6/15wt%
分子量:Mw=15.4×104;Mw/Mn=1.75
Tg:135℃
【0153】
[実施例3]
実施例1において、MMA:576g、N-PheMI:83g、N-CyMI:61gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=77/10/12wt%
分子量:Mw=14.3×104;Mw/Mn=1.79
Tg:137℃
【0154】
[実施例4]
実施例1において、MMA:504g、N-PheMI:2.4g、N-CyMI:213.6gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=70/1/29wt%
分子量:Mw=18.7×104;Mw/Mn=1.81
Tg:146℃
【0155】
[実施例5]
実施例1において、MMA:504g、N-PheMI:108g、N-CyMI:108gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=70/13/17wt%
分子量:Mw=19.3×104;Mw/Mn=1.97
Tg:148℃
【0156】
[実施例6]
実施例1において、MMA:576g、N-PheMI:129.6g、N-CyMI:14.4gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=80/16/4wt%
分子量:Mw=21.6×104;Mw/Mn=2.03
Tg:140℃
【0157】
[実施例7]
実施例1において、MMA:648g、N-PheMI:4.8g、N-CyMI:67.2gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=90/2/8wt%分子量:Mw=23.0×104;Mw/Mn=2.07
Tg:130℃
【0158】
[実施例8]
実施例1において、MMA:648g、N-PheMI:67.2g、NCyMI:4.8gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/N-PheMI/N-CyMI=90/8/2wt%分子量:Mw=19.7×104;Mw/Mn=1.88
Tg:130℃」
サ 「【186】
【表1】
」
シ 「【0193】
【表3】
」
(2) 甲1に記載された発明
甲1の摘示アないしシ、特に、摘示アの請求項1、3、8と、摘示キの記載からみて、甲1には、
「下記式(1)で表されるメタクリレート系単量体由来の繰り返し単位(X)50~95質量%と、下記式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)0.1~20質量%と、下記式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)0.1~49.9質量%とを含有し、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計量が100質量%である、アクリル系熱可塑性樹脂であって、
【化1】
(式中:R1は、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6~14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR1は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
【化2】
(式中:R2は、炭素数6~14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6~14のアリール基を表し、同一分子中のR2は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
【化3】
(式中:R3は、水素原子、炭素数1~12の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1~12のアルキル基、及び炭素数3~12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR3は同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)
光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下であり、
ハロゲン原子の含有率が、当該アクリル系熱可塑性樹脂の質量を基準として0.47質量%未満であり、
ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であり、
メタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)がメタクリル酸メチル又はメタクリル酸ベンジル由来の繰り返し単位であり、N-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)がN-フェニルマレイミド由来の繰り返し単位であり、N-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)がN-シクロヘキシルマレイミド由来の繰り返し単位である、
アクリル系熱可塑性樹脂
を含むアクリル系熱可塑性樹脂組成物。」
の発明が記載されている。
ここで、上記発明の第1段落に記載された「下記式(1)で表されるメタクリレート単量体」、「下記式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体」、「下記式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体」は、上記発明の最下段に記載の「メタクリル酸メチル又はメタクリル酸ベンジル」、「N-フェニルマレイミド」、「N-シクロヘキシルマレイミド」にそれぞれ対応するから、これらの記載を整理すると、甲1には以下の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。
「メタクリル酸メチル又はメタクリル酸ベンジル」単量体由来の繰り返し単位(X)50~95質量%と、「N-フェニルマレイミド」単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)0.1~20質量%と、「N-シクロヘキシルマレイミド」単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)0.1~49.9質量%とを含有し、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計量が100質量%である、アクリル系熱可塑性樹脂であって、
光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下であり、
ハロゲン原子の含有率が、当該アクリル系熱可塑性樹脂の質量を基準として0.47質量%未満であり、
ガラス転移温度(Tg)が120℃以上である、
アクリル系熱可塑性樹脂
を含むアクリル系熱可塑性樹脂組成物。」
(3)本件発明1について
ア 対比・判断
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「N-フェニルマレイミド」単量体及び「N-シクロヘキシルマレイミド」単量体は、「N-置換マレイミド単量体」に相当し、甲1発明の「メタクリル酸メチル又はメタクリル酸ベンジル」単量体は、「メタクリル酸メチル」の限りにおいて、本件発明1の「メタクリル酸メチル単量体」に相当する。
また、各単量体由来の構造単位の割合についても、両発明は重複している。
そうすると、本願発明1と甲1発明は、
「主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてN-置換マレイミド単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を、メタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1では、「動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃である」と特定するのに対し、甲1発明では、この特定がない点。
<相違点2>
本件発明1では、「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であり」と特定するのに対し、甲1発明では、この特定がない点。
<相違点3>
本件発明1では、「前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~69μ秒であり、」と特定するのに対し、甲1発明では、この特定がない点。
<相違点4>
本件発明1では、前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~59μ秒である」と特定するのに対し、甲1発明では、この特定がない点。
上記相違点について検討する。
相違点1について検討する。
動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)については、本願特許明細書の実施例等からみて、メタクリル系樹脂の単量体組成に関連し、N-置換マレイミド単量体に由来する構造単位が多ければ、TG”maxの温度も高い傾向にある。そうすると、メタクリル酸メチル単量体とN-置換マレイミド単量体の割合が同じであれば、TG”maxは同程度となる蓋然性が高いといえる。
そして、本件発明1と甲1発明とは、単量体の種類は一致し、その割合については重複するから、この特定事項のTG”maxはついては、相違点とはいえない。
次に、相違点2について検討する。
相違点2のうち、「パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であり」との特定事項について、この数値は、本件特許明細書の記載からみて、メタクリル系樹脂の製造方法やその樹脂を含む樹脂組成物の物性や製造方法に関連しているものと解されるところ、摘示コの甲1発明における実施例の製造方法をみても、本件発明1の具体的な製造方法とは異なっている。すると、この特定事項について、甲1発明が、本件発明1と同一である蓋然性が高いとは認識はできず、本件発明1との実質的な相違点となる。
そして、甲5ないし甲8をみても、具体的な当該特定事項を示唆する記載はなく、他の甲2ないし4、甲12ないし16をみても同様に記載も示唆もないから、これらの証拠をみたとしても、この特定事項につき、当業者が甲1発明において容易になし得たということはできない。
そうすると、他の相違点3、4を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもないから、同法同条第2項の規定に違反するものでもない。
よって、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当ぜず、取り消すべきものではない。
イ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
相違点2について、申立人は、甲1発明の実施例で得られた樹脂は、本願明細書の段落【0122】に記載された分子量、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布、立体規則性などの複合的に作用する要件から検討してみて、公知資料を基いて、この特定要件を満たす蓋然性が高い旨を主張している。
(イ) 上記主張に対する判断
a 分子量について
分子量の検討において、申立人が引用した甲5は、固体ゴムのNMRによる研究に関するものであり(第41頁の表題)、架橋させたシス-ポリイソプレンの150℃でのNMRを用いたスピン-スピン緩和時間T2についての測定において、減衰の早い緩和時間の短い成分(T2S)と緩和時間の長い成分(T2L)からなることが記載されている(第42頁左欄第9~14行)。 そして、「分子鎖の一時的な絡み合い・・・分子量が3万を超えると現れてくる。」、「スピン-スピン緩和時間T2とも室温以上では架橋密度の増加と共に減少」することは、架橋した固体ゴム(シス-ポリイソプレン)に関するものであって、本件発明のメタクリル系樹脂との関連性があるのか不明である。
また、甲6は、パルスNMRによるメタクリル酸およびそのエステルの塊状重合の研究に関するものであり、MMAの塊状重合において、固体状態でのFID(自由誘導減衰)信号からT2を求めたところ、長い緩和時間T2L、短い緩和時間T2S及びその中間の緩和時間T2Mが得られたこと、これらの緩和時間は反応時間と共に減少することが記載されているが、本件発明のメタクリル系樹脂とは異なるものであるから、この文献の知見を適用できるのか不明であり、また、異議申立書第31頁第2~3行に記載の「分子量が大きくなるほど、絡み合い点が増加するため分子運動性が低くなり、スピン-スピン緩和時間が低くなることがわかる。」との点について、文章による明示はない。
b 分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布について
分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布について
、申立人は甲7を引用している。甲7は、パルスNMR法を利用した材料評価技術に関する文献であり、
・分子運動性が高い場合に緩和時間がかかること(第137頁右欄項目1-3)、
・パルスNMR法を利用した緩和時間の測定により、結晶性ポリエステルを用いた例で、樹脂の熱に対する保存安定性の評価、樹脂の硬度の評価ができること(第138頁~143頁)
が記載されている。この文献では、結晶性ポリエステルを酢酸エチルに可溶な成分(分子量の小さな低温溶融成分)と不溶な成分(分子量の大きな非低温溶融成分)に分けて、保存安定性等の検討しているものの、本件発明とは、測定樹脂、パルスNMRの測定温度(40℃)も異なり(第138頁左欄項目1-4)、測定対象が異なっている。また、甲7に、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布に関する具体的な示唆があるわけではない。
c 立体規則性について
立体規則性について、申立人は甲7ないし甲9を引用しているが、甲9はパルスNMR法による高分子材料の分子運動性の解析に関するもので、ポリエチレンのパルスNMR測定に関する結果を示すものであるが、本件の優先権主張日に未公知のものであって、技術常識といえる根拠もなく、甲9に関する内容は採用できない。
そして、甲7には、立体規則性に関する指摘はない。
甲8は、メチルメタクリレート単位が85~99.5重量%、アルキル基の炭素数が1~8であるアルキルアクリレート単位0.5~15重量%とからなるメタクリル樹脂を含む樹脂組成物において、H1-NMRを用いて、メタクリル樹脂のポリメチルメタクリレート連鎖におけるシンジオタクチックな連鎖のα-メチル基のH1強度(S)と、ヘテロタクティック連鎖に由来するα-メチル基のH1強度(H)の比(S/H)が、1.5を超えると流動性が低下することが記載されている(請求項2、【0012】)。
しかしながら、甲7、甲8をみても、立体規則性とSm2が関連することを示唆した記載はなく、また、本件発明に係る樹脂に関連するような一般化した記載もない。
以上のa~cで検討したように、これらの証拠をみても、甲1の実施例で得られた樹脂又は甲1発明が、本件発明1に特定するSm2の範囲になる蓋然性が高いとするための根拠にはならず、申立人の主張は採用できない。
(2)本件発明6、7について
本件発明6、7は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であって、甲1発明に対して、本件発明1と同じ相違点を有しており、相違点2については、同様の判断がされるものである。
そうすると、本件発明1と同様に、本件発明6、7は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもなく、同法同条第2項の規定に違反するものでもないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当ぜず、取り消すべきものではない。
3 申立理由3について
(1) 特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項第1号は、「第2項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。
これは、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであることを意味する。
そこで、本件発明1、5及び6について、この観点から検討する。
(2) 判断
本件発明1、6及び7の課題については、段落【0016】に「そこで、本発明は、複屈折性等の光学特性に優れ、品位に優れた延伸フィルムを安定して製造することが可能な、メタクリル系樹脂組成物を提供することを目的とする。」と記載されているから、「複屈折性等の光学特性に優れ、品位に優れた延伸フィルムを安定して製造することが可能な、メタクリル系樹脂組成物を提供すること」であると認められる。
そして、本件発明1のメタクリル系樹脂組成物に係る発明は、
・ 主鎖に環構造を有する構造単位(X)としてN-置換マレイミド単量体由来の構造単位をメタクリル系樹脂を100質量%として5~40質量%を含み、メタクリル酸メチル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を、メタクリル系樹脂を100質量%として0~20質量%含むメタクリル系樹脂組成物であること(以下、「特定要件ア」という。以下同様。)、
・ 動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(TG”max)が120~160℃であること(特定要件イ)、
・ パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm2)が、56~86μ秒であること(特定要件ウ)、
・ 前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sr2)との差(Sm2-Sr2)が40~69μ秒であること(特定要件エ)、
・ 前記スピン-スピン緩和時間(Sm2)と、パルスNMRを用いてソリッドエコー法により高運動性成分と低運動性成分との2成分に分離して求められる、前記極大値を示す温度(TG”max)における高運動性成分のスピン-スピン緩和時間(Sm1)との差(Sm2-Sm1)が、30~59μ秒であること(特定要件オ)、
を特定するものである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位について、段落【0028】ないし【0036】に説明があり、【0035】にN-置換マレイミド単量体の含有量が、メタクリル系樹脂100質量%として、好ましくは5~40質量%の範囲であることの記載はある。また、この構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法について、摘示第4 2(2)アに記載があり、さらに、メタクリル系樹脂組成物の製造方法について、摘示第4 2(4)アに記載があるが、特定事項イないしオについての説明はないので、これらの記載からは、本件発明の構成によって、課題が解決できることは明らかではない。
さらに、特定要件イないしオに関連した説明のある、段落【0109】ないし【0115】、摘示第4 2(1)アをみても、これらの特定要件がフィルムの延伸性と相関する旨の記載はあるものの、その理由が説明されているわけではなく、これが優先日時点の技術常識というわけではないので、特定要件と課題との具体的な相関関係については不明である。
そこで、実施例について、摘示第4 2(1)ウの記載をみると、7の実施例と1の比較例が開示され、上記特定要件アないしオについて、以下のように記載されている。
上記特定要件アのN-置換マレイミド単量体由来の構造単位の割合について、メタクリル系樹脂を100質量%とした場合に、9.7質量%(4.0質量%+5.7質量%、製造例1-4,実施例5)、18.7質量%(7.9質量%+10.8質量%、製造例1-1、1-2、2、3、実施例1、2、6、7)、36.8質量%(15.8質量%+20.9質量%、製造例1-5,実施例5)の3つの例がある。
上記特定要件イのTG”maxについて、上記3つのN-置換マレイミド単量体由来の構造単位の割合9.7質量%、18.7質量%、36.8質量%の場合に、それぞれ120℃、132又は133℃、150℃を示す実施例が示されている。
上記特定要件ウのSm2について、56~86μ秒の範囲のうち、56、60、75、79、81、83、86μ秒の実施例が示されている。
上記特定要件エのSm2-Sr2について、40~69μ秒の範囲のうち、40、44、55、62、67、68、69μ秒の実施例が示されている。
上記特定要件オのSm2-Sm1について、30~59μの範囲のうち、30、36、45、53、57、59μ秒の実施例が示されている。
そして、7の実施例(実施例1ないし7)について、表1の延伸性の評価において、長手方向の厚みのばらつきが少なく、横延伸工程での延伸安定性について優れることが示され、一方、比較例1では、これらの結果が劣ることが示されている。また、実施例の光弾性係数は0.2×10-12Pa-1又は0.4×10-12Pa-1であり、比較例1とは変わらないものの、比較例3、4の他の樹脂の例よりは優れていることが理解できる。
以上のように、実施例において、各特定要件の数値が偏らずに分布し、実施例の延伸安定性や光弾性係数に係る結果が優れていることをみれば、本件発明1について、複屈折性等の光学特性に優れ、品位に優れた延伸フィルムを安定して製造することが可能な、メタクリル系樹脂組成物を提供するとの課題を解決できることが認識できるものである。
したがって、本件発明1はサポート要件を満たしている。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明6及び7についても同様である。
(3) 申立人の主張及びその判断
申立人の申立書における主張を要約すると、本件発明の課題と構成要件との関係が不明であり、かつ、TG”max、Sm2について広範な範囲が規定されているが、実施例はごく僅かであって、全範囲にわたって課題を解決できるものとはいえないというものである。
しかしながら、訂正により、各要件の範囲も狭くなったこともあって、上記(2)のように判断できるから、申立人の主張は採用できない。
(4) 小括
よって、本件発明1、6及び7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてる特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項5、8及び9に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
請求項1、6及び7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に、請求項1、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2ないし4は削除されたので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、これらの特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-701221