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特許異議申立

2017-701222

メタクリル系樹脂組成物及び光学部品

審判番号
2017-701222
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-228161外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年12月21日
審決日
2019年03月26日
公報発行日
2019年06月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6151423号発明「メタクリル系樹脂組成物及び光学部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6151423号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6151423号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6151423号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年11月24日(優先権主張 平成28年8月30日)に出願されたものであって、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ、同年6月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年12月21日に特許異議申立人 高瀬彌平(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の経緯は、以下のとおりである。 平成30年 1月31日    上申書(申立人) 同年 4月23日付け  取消理由通知 同年 6月26日    意見書(乙第1号証を添付)、訂正請求書 同年 7月10日付け  通知書(訂正請求があった旨の通知) 同年 8月10日    意見書(申立人)(甲第18号証を添付) 同年 9月5日付け   訂正拒絶理由通知 同年10月5日     意見書、手続補正書 同年11月 8日    上申書(申立人) 同年11月12日付け  取消理由通知(決定の予告) 平成31年 1月15日    意見書、訂正請求書(特許権者) 同年 1月24日付け  通知書(訂正請求があった旨の通知) 同年 2月25日    意見書(申立人) (甲第19号証、20号証を添付) なお、平成30年6月26日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 申立人の提示した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2014-28956号公報 甲第2号証:特開2014-71251号公報 甲第3号証:特開平9-324016号公報 甲第4号証:特開平9-151218号公報 甲第5号証:特開2015-135355号公報 甲第6号証:特開2001-151814号公報 甲第7号証:特開2005-281589号公報 甲第8号証:特開平8-302145号公報 甲第9号証:田所宏行「高分子のmicrotacticity」、高分子、11巻(1962)、6号、398-408頁 甲第10号証:特公平6-89054号公報 甲第11号証:特開2015-108161号公報 甲第12号証:特開2001-233919号公報 甲第13号証:特開2014-98117号公報 甲第14号証:国際公開第2015/079694号 甲第15号証:特開2013-136774号公報 甲第16号証:特開2008-191426号公報 甲第17号証:特開2014-80525号公報 特許権者が、平成30年6月26日提出の意見書に添付した乙第1号証、申立人が、平成30年8月10日提出の意見書に添付した甲第18号証、及び申立人が、平成31年2月25日提出の意見書に添付した甲第19、20号証は、以下のとおりである。 乙第1号証:特開2010-211977号公報 甲第18号証:国際公開第2013/005634号 甲第19号証:特開2014-80525号公報 甲第20号証:特開2016-93959号公報 以下、「甲第1号証」~「甲第20号証」を、順に、「甲1」~「甲20」ということがある。 第2 平成31年1月15日提出の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について 1 訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 明細書の【発明の名称】に、「メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、及び光学部品」と記載されているのを、「メタクリル系樹脂組成物及び光学部品」に訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の【0001】に、「メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、及び光学部品」と記載されているのを、「メタクリル系樹脂組成物及び光学部品」に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の【0015】に、「[7] [1]~[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学フィルム。」と記載されているのを、「[7] [1]~[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の【0160】に、「得られたペレット状の組成物(2)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は157,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.25であった。」と記載されているのを、「得られたペレット状の組成物(2)における組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量(Mw)は157,000、立体規則性の指標であるS/Hは1.19であった。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の【請求項7】に、「請求項1~6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項1~6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。」に訂正する。 本件訂正前の請求項2ないし8は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-8〕に対して請求されたものである。 2 訂正の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項5について 訂正前の請求項7には「光学フィルム。」とあり、請求項8には「光学フィルムである、請求項7に記載の光学部品。」とあったから、訂正前の請求項7における「光学フィルム。」は、「光学部品。」の誤記であったことは明らかである。 よって、訂正事項5は、誤記の訂正を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項1ないし3は、訂正事項5により訂正された請求項7に、【発明の名称】、【0001】及び【0015】の記載を整合させるためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項4について 本件特許明細書の表1(【0182】)には、樹脂として製造例2の樹脂のみを用いた「比較例1」の樹脂組成物の「S/H」が「1.19」であることが記載されている。ここで、当該「比較例1」の樹脂組成物は、「S/H」のみが、訂正前の請求項1の範囲から外れるものである。 また、表1から、組成物の「S/H」は、大概、樹脂が単独の場合には樹脂の「S/H」と一致し、樹脂が複数の場合は各樹脂成分の「S/H」の加重平均と一致することがみてとれる。 そうすると、製造例2の樹脂の「S/H」の「1.25」は、「1.19」の誤記であったことは明らかである。 よって、訂正事項4は、誤記の訂正を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 よって、上記訂正事項1ないし5は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められたので、特許第6151423号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。また、これらを総称して、「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 【請求項1】 N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、 ビカット軟化温度が120~160℃の範囲にあり、 1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲にあり、 メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。 【請求項2】 GPCによる測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、120,000~200,000である請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物 【請求項3】 前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、 前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項4】 前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、 前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項5】 光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項6】 光弾性係数の絶対値が、1.0×10-12Pa-1以下である、請求項5に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項7】 請求項1~6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含み、表裏面の少なくとも一方の面の少なくとも一部にエンボス部を有する、ことを特徴とする光学部品。 【請求項8】 光学フィルムである、請求項7に記載の光学部品。 第4 当審の判断 1 平成30年11月12日付け取消理由通知書(決定の予告)(以下、「決定の予告」という。)で通知した取消理由について (1)決定の予告において、当審が、請求項1ないし8に係る特許に関し、通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 <取消理由1> 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1ないし6号証に記載された発明並びに甲第1ないし3、8号証の何れかに記載された事項及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <取消理由2> 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由1についての当審の判断 ア 取消理由1は、具体的には、以下のとおりのものである。 (ア)本件発明1~3、5、6は、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7、8は、甲1に記載された発明、並びに、甲1ないし3、甲8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、 (イ)本件発明1、2、4、7、8は、甲2に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、 (ウ)本件発明1、3は、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、 (エ)本件発明1、3は、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、 (オ)本件発明1、3は、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7、8は、甲5に記載された発明、並びに、甲2、3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、 (カ)本件発明1、2、4は、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、 これらの発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (以下、上記(ア)~(カ)に係る取消理由を、順に、「取消理由1-(ア)」等という。) イ 取消理由1-(ア)ないし1-(カ)についての検討 (ア)取消理由1-(ア)について a 甲1には、特許請求の範囲から、以下の発明が記載されていると認められる。 「式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)50~95質量%と、式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)0.1~20質量%と、式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)0.1~49.9質量%とを含有し、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計量が100質量%である、アクリル系熱可塑性樹脂であって、光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下であり、ハロゲン原子の含有率が、当該アクリル系熱可塑性樹脂の質量を基準として0.47質量%未満であり、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上である、アクリル系熱可塑性樹脂。 (式中:R1は、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1~12のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6~14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR1は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。) (式中:R2は、炭素数6~14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6~14のアリール基を表し、同一分子中のR2は同一でも異なっていてもよく、アリール基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。) (式中:R3は、水素原子、炭素数1~12の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1~12のアルキル基、及び炭素数3~12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR3は同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)」(以下、「甲1発明」という。) b 対比・判断 (a)本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)」、及び「式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)」はいずれも、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)」に相当する。 してみると、本件発明1と甲1発明は、 「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-1> 本件発明1は、「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明は、「アクリル系熱可塑性樹脂」である点。 <相違点2-1> 本件発明1では、「ビカット軟化温度が120~160℃の範囲」と特定するのに対し、甲1発明では、アクリル系熱可塑性樹脂の「ガラス転移温度(Tg)が120℃以上」と特定している点。 <相違点3-1> 本件発明1では、「1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲」と特定するのに対し、甲1発明では、このような特定はない点。 <相違点4-1> 本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲1発明では、このような特定はない点。 上記相違点について、検討する。 <相違点4-1>について、 本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。 これに対して、甲1には、脱揮工程により、アクリル系熱可塑性樹脂中の重合溶剤、残存単量体、水分などの揮発分を除去処理すること、残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する残存揮発分量は、アクリル系熱可塑性樹脂100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下であることが記載され(【0088】)、また、多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、またはアルコール系溶剤などを重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、未反応単量体について液-液抽出、固-液抽出するなどの前処理を施すことで重合反応液から分離できること、前処理による単量体分離後の重合反応液を脱揮工程に供すると、得られるアクリル系熱可塑性樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を0.5質量%以下に抑えることができることが記載されている(【0093】)。 さらに、ポリマー溶液と、貧溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出したことが、実施例で具体的に開示されている(【0183】)。 これらの記載からみれば、甲1には、残存単量体、重合溶媒、副反応生物である揮発分については、乳化分散抽出及び脱揮処理により除去することが記載されているといえるものの、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000~15,000程度の低分子量成分の除去については何ら記載がなく、ましてや、これらの成分を含むメタノール可溶分の量を5質量%以下とすることについて、何ら記載がない。 ここで、平成31年1月15日に提出された意見書には、以下の<参考比較例A>が記載されている。 「<参考比較例A> 下記のとおり重合を実施して得られた重合体溶液を用いて、下記のとおり甲1発明に準じてホモジナイザー処理を行い、得られた重合体を用いて本件発明の方法でメタノール可溶分率を求めた。 MMA445.5kg、phMI44.0kg、chMI60.5kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.55kg、mXy450kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と攪拌翼を具備した1.25m3反応器に加え攪拌し、混合単量体溶液を得た。 反応器の内容液に30L/分の速度で窒素によるバブリングを1時間実施し、溶存酸素を除去した。その後ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を130℃に上昇させ、50rpmで攪拌しながら、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.10kgをmXy4.9kgに溶解させた重合開始剤溶液を、1kg/時間の速度で6時間添加することで重合を開始した。 なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で130±2℃で制御した。重合開始から8時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合体溶液を得た。 得られたポリマー溶液と、貧溶媒であるメタノールを1:7の質量比で同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするメタクリル系樹脂を得た。 メタクリル系樹脂5gをクロロホルム100mLに溶解させた後、溶液を滴下漏斗に入れ、攪拌子を用いて攪拌している1Lのメタノール中に約1時間かけて滴下して、再沈殿を行った。全量滴下後、1時間静置した後に、メンブランフィルター(アドバンテック東洋株式会社製 T050A090C)をフィルターとして用いて、吸引濾過を行った。 濾物は60℃で16時間真空乾燥してメタノール不溶分とした。また、濾液はロータリーエバポレーターを、バス温度を40℃として、真空度を初期設定の390Torrから徐々に下げて最終的に30Torrとして、用いて溶媒を除去した後、ナス形フラスコに残存している可溶分を回収し、メタノール可溶分とした。 メタノール不溶分の質量及びメタノール可溶分の質量の各々を秤量し、メタノール可溶分の量の、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量の合計量(100質量%)に対する割合(質量%)(メタノール可溶分率)を算出したところ、メタノール可溶分率は7.4質量%であった。」(20頁18行~21頁17行) 上記<参考比較例A>は単量体を一括投入している点で、甲1の実施例1の追試であるとはいえないものの、当該<参考比較例A>により、重合体溶液を、メタノールを用いて乳化分散抽出した場合、必ずしもメタノール可溶分の量が5質量%以下になるものではないことが認識できる。 また、脱揮工程によって、揮発分以外のメタノール可溶分が除去できないことは明らかである。 してみると、甲1発明の「アクリル系熱可塑性樹脂」が、メタノールによる乳化分散抽出や脱揮されたものであっても、メタノール可溶分の量が、5質量%以下であるとまではいえない。 よって、相違点4-1は、実質的な相違点である。 次に、相違点4-1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。 本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」の量を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。 これに対して、甲1には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。 また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。 よって、相違点4-1に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1-1ないし3-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)本件発明2、3、5~8について 本件発明2、3、5ないし8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5、6も、甲1に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、甲2を併せ考えても、甲2には、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%とすることについて何ら記載はなく、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについても何ら記載されていないから、本件発明7、8は、甲1に記載された発明、並びに、甲1~3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c よって、取消理由1-(ア)は、理由がない。 (イ)取消理由1-(イ)について a 甲2に記載された発明 甲2には、【0123】~【0136】から、以下の発明が記載されていると認められる。 「ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体を含有率90重量%で含み、スチレン-アクリロニトリル共重合体を10重量%の含有率で含み、酸化防止剤を含む樹脂組成物であって、重量平均分子量132000、Tg(ガラス転移温度)が125℃である樹脂組成物。」(以下、「甲2発明」という。) b 対比・判断 (a)本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。 甲2発明の「ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体」を含む「樹脂組成物」は、本件発明1の「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明は、 「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-2> 本件発明1では、「ビカット軟化温度が120~160℃の範囲」と特定するのに対し、甲2発明では、「Tg(ガラス転移温度)が125℃」と特定している点。 <相違点2-2> 本件発明1では、「1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲」と特定するのに対し、甲2発明では、このような特定はない点。 <相違点3-2> 本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲2発明では、このような特定はない点。 上記相違点について検討する。 相違点3-2について、 本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。 これに対して、甲2には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000~15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。 ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。 一方、甲2には、重合にあたり、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート0.05重量部を添加するとともに、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下したことが記載されており(【0130】)、この方法は、重合開始剤の添加開始(0.05重量部を添加)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(0.10重量部を2時間かけて滴下)ものであるといえる。また、甲2には、重合溶液を脱揮することについても記載されている(【0132】)。 ここで、平成31年1月15日に提出された意見書には、以下の<参考比較例C>が記載されている。 「<参考比較例C> MMA140.0kg、chMI100.0kg、トルエン250kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と攪拌翼を具備した1.25m3反応器に加え攪拌し、混合単量体溶液を得た。 次いで、MMA82.5kg、chMI25.0kg、スチレン35.0kg、トルエン200.0kgを計量して、タンク1に加え攪拌し、追添用混合単量体溶液を得た。 さらに、MMA82.5kg、スチレン35.0kg、トルエン50.0kgを計量して、タンク2に加え攪拌し、追添用混合単量体溶液を得た。 反応器の内容液については30L/分の速度で窒素によるバブリングを1時間実施し、タンク1、タンク2にのそれぞれについて内容液に10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。 その後ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を110℃に上昇させ、50rpmで攪拌しながら、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.20kgをトルエン0.8kgに溶解させた重合開始剤溶液を反応器内に添加することで重合を開始するととに、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート2.30kgをトルエン4.70kgに溶解させた重合開始剤溶液を2kg/時間の速度で3.5時間添加した。 また、重合開始後3.5時間の間、タンク1の内容液を一定速度で添加し、さらにその後3.5時間の間、タンク2の内容液を一定速度で添加した。 なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃で制御した。重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。 この重合溶液を予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。 得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m2である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際の装置内温度は280℃、供給量30L/hr、回転数400rpm、真空度30Torrで実施し、脱揮後の重合物はギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出され、水冷後、ペレット化してN-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂を得た。 得られたペレット状の重合物の組成を確認したところ、MMA、chMI、スチレン各単量体由来の構造単位は、それぞれ、60.3質量%、25.5質量%、14.2質量%であった。また、重量平均分子量は102,000であった。 そして、得られた組成物のメタノール可溶分率を評価したところ、6.8質量%であった。」(31頁1行~36行) 上記<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5質量%以下になるものではないことが認識できる。 してみると、本件特許明細書の製造例1-1~1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する製造方法であればまだしも、甲2に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られたメタクリル系樹脂組成物におけるメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。 よって、相違点3-2は、実質的な相違点である。 次に、相違点3-2に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。 本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。 これに対して、甲2には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。 また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。 よって、相違点3-2に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1-2及び2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明並びに甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)本件発明2、4、7、8について 本件発明2、4、7、8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲2に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、4、7、8も、甲2に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c よって、取消理由1-(イ)は、理由がない。 (ウ)取消理由1-(ウ)について a 甲3に記載された発明 甲3には、特許請求の範囲から、以下の発明が記載されていると認められる。 「単量体として、N-置換マレイミド(a)15~50重量%と、メタクリル酸エステル(b)50~85重量%と、共重合可能な他の単量体(c)0~20重量%とからなる単量体成分を共重合してなる耐熱性メタクリル系樹脂であって、黄変度が3.0以下、ビカット軟化点が120℃以上であり、かつ、未反応のN-置換マレイミド(a)の残存率が0.1重量%以下である耐熱性メタクリル系樹脂。」(以下、「甲3発明」という。) b 対比・判断 (a)本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「単量体として、N-置換マレイミド(a)15~50重量%と、メタクリル酸エステル(b)50~85重量%と、共重合可能な他の単量体(c)0~20重量%とからなる単量体成分を共重合してなる耐熱性メタクリル系樹脂」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。 してみると、本件発明1と甲3発明とは、 「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位から成る群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-3> 本件発明1は、「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」であるのに対して、甲3発明は、「メタクリル系樹脂」である点。 <相違点2-3> 本件発明1では、「ビカット軟化温度が120~160℃の範囲」と特定するのに対し、甲3発明では、樹脂の「ビカット軟化点が120℃以上」と特定する点。 <相違点3-3> 本件発明1では、「1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲」と特定するのに対し、甲3発明では、このような特定はない点。 <相違点4-3> 本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲3発明では、このような特定はない点。 上記相違点について検討する。 相違点4-3について、 本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。 これに対して、甲3には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000~15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。 ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。 一方、甲3には、重合にあたり、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを0.09部加えて重合反応を開始し、重合開始1時間後、2時間後、3時間後に、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを、それぞれ、0.08部、0.05部、0.03部を一括投入したことが記載されており(【0080】~【0084】)、この方法は、重合開始剤の添加開始後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくするものであるといえる。また、甲3には、重合反応後の重合液を真空脱気することが記載されている(【0068】)。 ここで、平成31年1月15日に提出された意見書には、以下の事項が記載されている。 「<参考比較例B> MMA194.0kg、phMI6.1kg、chMI42.5kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.21kg、トルエン191.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と攪拌翼を具備した1.25m3の反応器に加え、攪拌し、混合単量体溶液を得た。 次いで、MMA223.0kg、phMI35.6kg、chMI20.4kg、トルエン221.0kgを計量して、タンク1に加え、攪拌し、追添用混合単量体溶液(1)を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを、タンク3にt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをトルエン4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を用意した。 反応器、タンク1、タンク2、タンク3のそれぞれについて、10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。 その後、50rpmで攪拌しながら反応器内温を100℃に上昇させ、開始剤溶液を1.8kg(全開始剤量の36%相当)一括投入することで、重合を開始した。 次いで、重合開始してから1時間後に、タンク1より混合単量体溶液を250kgとタンク3より開始剤溶液1.6kg(全開始剤量の32%相当)とを出来る限り短時間で一括投入し、重合を継続した。 続いて、重合開始してから2時間後に、タンク1より混合単量体溶液を250kgとタンク3より開始剤溶液1.0kg(全開始剤量の20%相当)とを出来る限り短時間で一括投入し、さらに重合を継続した。 続いて、重合開始してから3時間後に、タンク2より単量体溶液58.0kgと開始剤溶液0.6kg(全開始剤量の12%相当)とを出来る限り短時間で一括投入し、さらに重合を継続した。 なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で110±2℃を維持するように制御した。 重合を開始してから7時間後に反応を終了し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。 この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.1質量部のイルガノックス1010を攪拌下に添加した。 その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽とからなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。 得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m2である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで脱揮を実施した。脱揮後の混合物を、ギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷した後、ペレット化して、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂重合物を含む組成物を得た。 得られた組成物を90℃、5時間真空乾燥し、窒素雰囲気下にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。 予め窒素置換されたタンブラー型ミキサーを用いて、重合物(A)100質量部、酸化防止剤としてのアデカスタブPEP36を0.1質量部とからなる混合物を調製した。 露点を-30℃に、且つ温度を80℃に調整した除湿空気を利用し、得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に供給し溶融混練を行った。その際、二軸押出機に附帯する原料ホッパーの下部には、窒素導入ラインを設けて、押出機内に窒素を導入しながら行った。原料ホッパー下での酸素濃度を測定したところ、約1%であった。 運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量20kg/時の条件にて実施した。 溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状の組成物を得た。 得られたペレット状の組成物の組成を確認したところ、MMA、chMI、スチレン各単量体由来の構造単位は、それぞれ、82.1質量%、7.2質量%、10.7質量%であった、また、重量平均分子量は136,000であった。 そして、得られた組成物のメタノール可溶分率を評価したところ、6.8質量%であった。」(26頁17行~28頁4行) 「本件発明においては、本件特許明細書の【0040】に記載したように、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように添加することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制することができるのに対し、甲第3号証の実施例3では、重合時に開始剤を重合系内に添加するに際し、複数回に分けて開始剤を添加する方法であっても、各回で単量体とともに一度に(一括で)添加する方法が採用されているため、上述の未反応モノマー総量に対するラジカル総量の割合が一度(一括で)添加の際に重合系内で急激に高まり、結果として得られたメタクリル系樹脂組成物において本件発明のメタノール可溶分量の範囲を満たすことはできません。」(28頁9行~18行) <参考比較例B>は、原料モノマーがMMA、pHMI、chMIであるのに対して、得られた重合体は、MMA、chMI、スチレン由来の単位を含むから、誤記が含まれていると解されはするものの、上記記載によれば、重合開始剤を複数回に分けて、段階的に減少する量で、一括投入して重合を行い、得られた重合体を脱揮する方法では、未反応モノマーに総量に対するラジカル総量の割合が、重合開始剤添加の際に急激に高まることから、必ずしもメタノール可溶分量が5質量%以下のメタクリル系樹脂組成物が得られるものではないことを認識することはできる。 してみると、本件特許明細書の製造例1-1~1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲3に記載された、重合開始剤を、複数回に分けて、段階的に減少する量で、一括投入する方法によって得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。 よって、相違点4-3は、実質的な相違点である。 次に、相違点4-3に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。 本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。 これに対して、甲3には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。 また、甲1、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。 よって、相違点4-3に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1-3ないし3-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲3に記載された発明、並びに、甲1、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c よって、取消理由1-(ウ)は、理由がない。 (エ)取消理由1-(エ)について a 甲4に記載された発明 甲4には、特許請求の範囲、【0021】、【0024】~【0026】から、以下の発明が記載されていると認められる。 「単量体成分として、N-シクロヘキシルマレイミドを主成分とし、シクロヘキシルアミノ無水コハク酸含量が0.001~1重量%(対N-シクロヘキシルマレイミド)である耐熱性樹脂製造用の原料5~50重量部と、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類95~50重量部との合計100重量部を共重合して得られる、黄色度(YI)が2以下、または溶液での黄色度(YIsol.)が3以下であり、ガラス転移温度が120℃以上である耐熱性樹脂。」(以下、「甲4発明」という。) b 対比・判断 (a)本件発明1について 本件発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「単量体成分として、N-シクロヘキシルマレイミドを主成分とし、シクロヘキシルアミノ無水コハク酸含量が0.001~1重量%(対N-シクロヘキシルマレイミド)である耐熱性樹脂製造用の原料5~50重量部と、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル類95~50重量部との合計100重量部を共重合して得られる」、「耐熱性樹脂」は、本件発明1の、「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4発明は、 「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-4> 本件発明1は、「メタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物」であるのに対して、甲4発明は、「耐熱性樹脂」である点。 <相違点2-4> 本件発明1では、「ビカット軟化温度が120~160℃の範囲」と特定するのに対し、甲4発明では、「ガラス転移温度が120℃以上」と特定している点。 <相違点3-4> 本件発明1では、「1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲」と特定するのに対し、甲4発明では、このような特定はない点。 <相違点4-4> 本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲4発明では、このような特定はない点。 上記相違点について検討する。 相違点4-4について、 本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。 これに対して、甲4には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000~15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。 ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。 一方、甲4には、重合にあたり、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを0.02部加え、続いて3.5時間かけてtert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.108部とトルエン5部の第3混合溶液を滴下したことが記載されており(【0051】~【0055】)、この方法は、重合開始剤の添加開始(0.02部)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(3.5時間かけて0.108部添加)ものであるといえる。また、甲4には、重合液を真空脱揮することが記載されている(【0055】)。 しかしながら、<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5質量%以下になるものではないことが認識できることは、上記(イ)で述べたとおりである。 してみると、本件特許明細書の製造例1-1~1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲4に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られた樹脂のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。 よって、相違点4-4は、実質的な相違点である。 次に、相違点4-4に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。 本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。 これに対して、甲4には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。 また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。 よって、相違点4-4に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1-4ないし3-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲4に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c よって、取消理由1-(エ)は、理由がない。 (オ)取消理由1-(オ)について a 甲5に記載された発明 甲5には、【0105】~【0128】、【0140】、【0141】から、以下の発明が記載されていると認められる。 「メタクリル酸メチル単量体に由来する単位とN-シクロヘキシルマレイミド又は/及びN-フェニルマレイミド単量体に由来する構造単位を有する熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂を構成するメタクリル酸メチル単量体が91ないし70質量部、N-シクロヘキシルマレイミド又は/及びN-フェニルマレイミド単量体がそれぞれ9ないし30質量部であり、組成物におけるo-キシレンの含有量が132ppm以上365ppm以下であり、シクロヘキシル無水コハク酸の含有量が0ppmm又は91ppm以上238ppm以下であり、ガラス転移温度が125ないし150℃のいずれかである熱可塑性樹脂組成物。」(以下、「甲5発明」という。) b 対比・判断 (a)本件発明1について 本件発明1と甲5発明とを対比する。 甲5発明の「メタクリル酸メチル単量体に由来する単位とN-シクロヘキシルマレイミド又は/及びフェニルマレイミド単量体に由来する構造単位を有する熱可塑性樹脂」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である主鎖に環構造を有する構造単位(X) を含むメタクリル系樹脂」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲5発明1は、 「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1-5> 本件発明1では、「ビカット軟化温度が120~160℃の範囲」と特定するのに対し、甲5発明では、「ガラス転移温度が125ないし150℃」と特定する点。 <相違点2-5> 本件発明1では、「1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲」と特定するのに対し、甲5発明では、このような特定はない点。 <相違点3-5> 本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲5発明では、このような特定はない点。 上記相違点について検討する。 相違点3-5について、 本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。 これに対して、甲5には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000~15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。 ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。 一方、甲5には、重合にあたり、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソナノエート0.103質量部を添加するとともに、トルエン21質量部にt-アミルパーオキシイソナノエート0.205質量部を溶解させた溶液を2時間かけて滴下したことが記載されており(【0105】)、この方法は、重合開始剤の添加開始(0.103質量部を添加)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(0.205質量部を2時間かけて添加)するものであるといえる。また、甲5には、重合溶液を脱揮すること、樹脂組成物の、o-キシレン、シクロヘキシル無水コハク酸及びベンジルアルコールの含有量が低減せしめられていることが記載されている(【0105】~【0128】、【0140】、【0141】)。 しかしながら、<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5%以下になるものではないことが認識できることは、上記(イ)で述べたとおりである。 してみると、本件特許明細書の製造例1-1~1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲5に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られた熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえない。 よって、相違点3-5は、実質的な相違点である。 次に、相違点3-5に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。 本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。 これに対して、甲5には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。 また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。 よって、相違点3-5に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1-5、2-5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)本件発明3、7、8について 本件発明3、7、8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲5に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、甲2を併せ考えても、甲2には、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%とすることについて何ら記載はなく、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについても何ら記載されていないから、本件発明7、8は、甲5に記載された発明、並びに、甲2、3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c よって、取消理由1-(オ)は、理由がない。 (カ)取消理由1-(カ)について a 甲6に記載された発明 甲6には、【0070】~【0074】、【0101】、【0104】(特に実施例10)から、以下の発明が記載されていると認められる。 「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルとを重合した重合体を脱アルコール反応させた、ラクトン環構造を19.7重量%で含有し、重量平均分子量120,000、ガラス転移温度135℃である重合体と、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)とを重量比で60/40で含む、ガラス転移温度127℃である透明性耐熱樹脂組成物。」(以下、「甲6発明」という。) b 対比・判断 (a)本件発明1について 本件発明1と甲6発明とを対比する。 甲6発明の「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルとを重合した重合体を脱アルコール反応させた、ラクトン環構造を19.7重量%で含有」する「重合体」は、本件発明1の「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲6発明は、 「N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-6> メタクリル系樹脂組成物について、本件発明1では、「ビカット軟化温度が120~160℃の範囲」と特定するのに対し、甲6発明では、「ガラス転移温度が127℃」と特定する点。 <相違点2-6> 本件発明1では、「1H-NMRを用いて求めた、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位におけるヘテロタクチック部(mr)の積分強度(H)に対するシンジオタクチック部(rr)の積分強度(S)の比(S/H)が1.20~1.50の範囲」と特定するのに対し、甲6発明では、このような特定はない点。 <相違点3-6> 本件発明1では、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」と特定するのに対し、甲6発明では、このような特定はない点。 上記相違点について検討する。 相違点3-6について、 本件発明1における「メタノール可溶分」には、「未反応の単量体成分に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」が含まれる(本件特許明細書【0114】)。 これに対して、甲6には、二量体、三量体等のオリゴマー成分、重量平均分子量が1,000~15,000程度の低分子量成分を除去することについての記載はない。 ここで、本件特許明細書の【0075】には、「重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量成分の生成を抑制できたり、重合時の過熱抑制による重合の安定性を図ったりすることできる。」と記載されている。 一方、甲6には、重合にあたり、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.075部を加えると同時に、単量体と、開始剤0.075部からなる溶液を3時間半かけて滴下しながら溶液重合を行ったことが記載されており(【0070】)、この方法は、開始剤の添加開始(0.075部を添加)後、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を小さくする(0.075部を3時間半かけて滴下)するものであるといえる。また、甲6には、耐熱樹脂中の残存揮発分は、その総量が好ましくは1500ppm以下であること(【0050】)、重合体溶液を脱揮することについても記載されている(【0070】~【0091】)。 しかしながら、<参考比較例C>により、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加して重合を行い、重合溶液を脱揮して得られたメタクリル系樹脂のメタノール可溶分の量は、必ずしも5質量%以下になるものではないことが認識できることは、上記(イ)で述べたとおりである。 してみると、本件特許明細書の製造例1-1~1-6、2、4-1及び4-2のように、重合開始剤の添加速度を、重合開始時から漸減する方法であればまだしも、甲6に記載された、重合開始剤の添加開始時に一部の重合開始剤を一括で添加し、残部を添加開始から定速で添加する製造方法によって得られた重合体のメタノール可溶分の量が、5質量以下であるとまではいえないし、ましてや、当該重合体とアクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)とを含樹脂組成物のメタノール可溶分の量が、5質量%以下であるとまでいうことはできない。 よって、相違点3-6は、実質的な相違点である。 次に、相違点3-6に係る事項が、当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。 本件発明1は、「未反応の単量体に加えて、その二量体、三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量としては1,000~15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有するもの等」の「メタノール可溶分」を5質量%以下に抑制することにより、増産時のようにナーリング加工等の表面賦型での搬送速度が増加しても、型離れ性や型再現性に優れ、耐久性ある凹凸を賦型する、すなわち、加工安定性を高めようとするものである(【0113】、【0114】)。 これに対して、甲6には、樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていない。 また、甲3、8にも、 樹脂組成物中のメタノール可溶分の量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆なく、このような事項が本件特許の優先日前に周知であったともいえない。 よって、相違点3-6に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 以上のとおりであるから、相違点1-6、2-6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (b)本件発明2、4について 本件発明2、4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 そして、本件発明1が、上記(a)で述べたとおり、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、4も、甲6に記載された発明、並びに、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c よって、取消理由1-(カ)は、理由がない。 ウ よって、取消理由1は、理由がない。 (3)取消理由2についての当審の判断 ア 取消理由2は、要するに、本件特許明細書の実施例、比較例をみても、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/Hから一義的に決定できるものであるとはいえず、本件特許明細書全体をみても、技術常識に鑑みても、どのようにして本件発明のS/Hを有するメタクリル系樹脂組成物を製造するかが不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、というものである。 イ これに対して、本件訂正により、【0160】において、製造例2のS/Hが、「1.25」から「1.19」に訂正された。 また、平成31年1月15日に提出された意見書において、本件特許明細書の【0161】において、製造例3のS/Hは、「1.25」ではなく、正しくは「1.15」であったことが主張された。そして、樹脂として製造例3の樹脂のみを用いた「比較例2」の樹脂組成物の「S/H」が「1.15」であることに鑑みれば、この主張は合理的なものである。 ウ そこで、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を、上記訂正された事項及び主張された事項と併せて検討すると、比較例5以外の全ての実施例、比較例において、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/Hの加重平均と一致しているから、これらの記載に接した当業者は、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/H及びその配合割合によって決定すると認識するものといえる。 エ してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでいうことはできず、取消理由2は、理由がない。 (4)小括 以上のとおりであるから、取消理由通知書で通知した取消理由1及び2は、いずれも理由がない。 2 申立書に記載された申立理由について (1)申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。 <申立理由1>本件発明1ないし8は、甲1ないし6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <申立理由2>本件発明1ないし8は、甲1ないし甲6に記載された発明(さらには、甲7ないし甲17に記載された発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <申立理由3>本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <申立理由4>本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由1ないし4について検討する。 ア 申立理由1について 上記1(2)イで述べたとおり、甲1ないし6に記載された発明のいずれも、少なくとも「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」との特定がない点で、本件発明1と相違し、当該相違点は、実質的な相違点である。 してみると、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、甲1ないし甲6に記載された発明ではなく、申立理由1は、理由がない。 イ 申立理由2について 上記1(2)イで述べたとおり、甲1ないし6に記載された発明のいずれも、少なくとも、「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して、5質量%以下である」との特定がない点で本件発明1と相違し、当該相違点に係る事項は、甲1ないし6に記載された発明と、甲3、8並びに周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。 また、甲7、9ないし17に記載された事項を勘案しても、上記相違点に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 してみると、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、甲1ないし甲6に記載された発明(さらには、甲7ないし甲17に記載された発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由2は、理由がない。 ウ 申立理由3について a 申立理由3は、具体的には、比較例1(S/H 1.19)、比較例2(S/H 1.15)は、使用した樹脂から想定されるS/Hと異なるS/Hを示すがその理由が不明であることや、実施例8と比較例5の結果に矛盾があることから、本件特許明細書の実施例(及び比較例)の結果に信憑性がなく、本件発明の課題と課題解決手段との関係も不明であるから、本件発明1ないし8により、本件発明の課題を解決できるものであるか、当業者が認識できないというものである。 b ここで、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 c 本件発明は、メタクリル系樹脂組成物について、ビカット軟化温度、S/H、メタノール可溶分の量についての特定を有するものである。 d そして、本件発明は、長期保管や輸送に伴う、品位の低下を抑制でき、表面賦型性に優れた成形体が得られるメタクリル系樹脂組成物を提供することを課題とするものと認められる(【0013】)。 e 一方、発明の詳細な説明には、同等のガラス転移温度を有していてもより高いビカット軟化温度を有する樹脂又は樹脂組成物が、より良好な賦型再現性を備えることとなるため好ましいこと(【0110】)、S/Hが特定の範囲にあると、量産時のようにナーリング加工等の賦型工程での搬送速度が増加しても、型再現性があり、耐久性ある凹凸が賦型できるため好ましいこと(【0111】)、メタノール可溶分量を特定範囲に抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型の加工安定性を高めることができること(【0114】)が記載されており、表1及び表2をみれば、上記ビカット軟化温度、S/H、メタノール可溶分の量についての特定を満たす樹脂組成物は、賦型性、保存安定性に優れることがみてとれる。 ここで、本件訂正によって、【0160】において、製造例2のS/Hが、「1.25」から「1.19」に訂正された。また、平成31年1月15日に提出された意見書において、本件特許明細書の【0161】において、製造例3のS/Hは、「1.25」ではなく、正しくは「1.15」であったことが主張され、これが合理的であることは上記1(3)イで述べたとおりである。 そして、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を、上記訂正事項及び主張された事項と併せて検討すると、本件特許明細書の実施例(及び比較例)の結果に信憑性がないとはいえないし、本件発明の課題と課題解決手段との関係が不明であるともいえない。 f そうであれば、当業者は、ビカット軟化温度、S/H、メタノール可溶分の量についての特定を有する本件発明のメタクリル系樹脂組成物であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。 g よって、申立理由3は、理由がない。 エ 申立理由4について a 申立理由4は、具体的には、特に、実施例8、比較例1及び2で、S/Hが混合前後で低下しており、どのような場合にS/Hが低下するのか、本件明細書をみても不明であり、自明でもないから、本件特許明細書は、当業者がS/Hを「1.20~1.50」に調製できるように記載されていない、というものである。 b これに対して、本件訂正により、【0160】において、製造例2のS/Hが、「1.25」から「1.19」に訂正されたこと、平成31年1月15日に提出された意見書において、本件特許明細書の【0161】において、製造例3のS/Hは、「1.25」ではなく、正しくは「1.15」であったことが主張され、これが合理的であること、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を、上記訂正された事項及び主張された事項と併せて検討すると、当業者は、メタクリル系樹脂組成物のS/Hは、これを形成するメタクリル系樹脂のS/Hと配合割合によって決定すると認識するものといえることは、上記1(3)イ、ウで述べたとおりである。 c してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に接した当業者が、S/Hが特定の範囲内にあるメタクリル系樹脂組成物を製造することができないとまではいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでいうことはできない。 d よって、申立理由4は、理由がない。 (3)以上のとおりであるから、申立理由1ないし4は、いずれも理由がない。 3 平成31年2月25日に提出された意見書における申立人の主張について 申立人は、平成31年2月25日に提出された意見書において、以下の主張をしている。 ア 樹脂組成物のS/Hが溶融混練においては変化しないとの技術常識がない中で、製造例2のS/Hが「1.19」の誤記であったこと、製造例3のS/Hが正しくは「1.15」であったことの合理的理由は何らない。 イ 製造例2、製造例3、製造例1-3は同様の組成及び重合方法にて合成されているにもかかわらず、S/Hが全く異なるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特定のS/Hを有する樹脂及び樹脂組成物をどのように得るのかについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 ウ 甲1の抽出処理において、抽出効率はホモジナイズ化により極めて高くなっている、換言すれば、メタノールによるメタノール可溶分の抽出は行われているはずであり、特開2008-308565号公報にも記載されるように、オリゴマーであっても、貧溶媒による抽出処理により効率よく抽出されるから、少なくとも「5質量%」という多量のメタノール可溶分が残存することはありえない。 エ 甲1の実施例で得られたメタクリル系樹脂は、十分に大きい分子量及び狭い分子量分布を有しており、「5質量%」という多量のオリゴマーないし低重合度成分が含まれているとは考えられない。 オ 特許権者による<参考比較例A>について、甲1の実施例1では、原料モノマーおよび重合開始剤を連続的に供給すると共に一定流量でポリマー溶液を回収しており、本件記載の「重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成」が生じない重合法となっているが、<参考比較例A>は、全モノマーを一括で初期に仕込み、重合開始剤を等速滴下する重合方法であり、そもそもメタノール可溶分が多くなる処方である。モノマーと重合開始剤を連続的に添加している甲第1号証の実施例1は、本件特許明細書【0040】【0075】に記載のように重合開始剤により発生するラジカル総量の割合が常時一定以下となるのだから、ホモジナイザー処理前でさえ、本件発明のメタノール可溶分量を満たす蓋然性が高いから、これをホモジナイザー処理すれば、メタノール可溶分量はさらに低減しているはずである。 カ メタノール可溶分量が相違するとしても、所定の十分な分子量のポリマーを得る際に、低重合度の成分が極力含まれないようにすることは技術常識であり、甲1において、メタノール可溶分たる低分子量成分を極力低減することは、当業者であれば容易に想到できたことである。 キ 甲18について、100℃にて重合を行っていること、及び重合液をホモジナイザー処理した後更にメタノールに滴下して回収していることから、本件発明は甲18に記載された発明であるか、そうでなくとも、甲18に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 上記主張について検討する。 アについて 確かに、樹脂組成物のS/Hが溶融混練においては変化しないとの技術常識は見出せないが、溶融混練の前後においてS/Hが変化することが技術常識であることを示す証拠もない。 そして、本件特許明細書の表1、2をみても、大半の例において、メタクリル系樹脂組成物のS/Hはこれを形成するメタクリル系樹脂のS/Hの加重平均と一致しているから、製造例2及び3のS/Hが誤記であったとの主張は一応の合理的理由を有するものといえるし、これが誤記でなかったとする格段の理由もない。 よって、主張アは採用できない。 イについて 製造例3は、重合開始剤を定速で添加しており、製造例2及び製造例1-3と同様の製造方法で製造されたものではない。また、確かに、製造例2のS/Hと製造例1-3のS/Hは異なっているものの、本件特許明細書には、重合にも用いる共重合可能な他の単量体の種類並びに含有量、共重合可能な単量体の重合時の添加方法により、共重合体の立体規則性が変わることが記載され(【0111】)、また、実施例、比較例には、本件発明1のS/Hの特定を満たす共重合体を製造することが複数例記載されている。 そうであれば、製造例2のS/Hと製造例1-3のS/Hが異なっていることをもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件発明を実施できる程度に記載されたものではないとまではいえない。 よって、主張イは採用できない。 ウについて 甲1の抽出処理において、抽出効率はホモジナイズ化により極めて高くなっているということを示す証拠は何らなく、甲1のものが少なくとも「5質量%」という多量のメタノール可溶分が残存することはありえないとの主張は何ら根拠がない。また、特開2008-308565号公報は、貧溶媒による再沈殿法については記載があるものの、メタノールを用いた乳化分散抽出については、何ら記載するものではない。 よって、主張ウは採用できない。 エについて 甲1の実施例の分子量及び分子量分布の値をみても、これらの値とメタノール可溶分の具体的な量を直接的に結びつけることはできず、これら実施例において、メタノール可溶分の量が5質量%以下であるとまではいえない。 よって、主張エは採用できない。 オについて 確かに、甲1の実施例1では、原料モノマーおよび重合開始剤を連続的に供給すると共に一定流量でポリマー溶液を回収しており、<参考比較例A>の方法とは異なるものの、このことにより直ちに、甲1の実施例1のモノマーのメタノール可溶分の量が5質量%以下であることが示されるものではない。ここで、本件特許明細書の【0040】及び【0075】をみても、甲1の実施例1の、原料モノマーおよび重合開始剤を連続的に供給すると共に一定流量でポリマー溶液を回収する方法が、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成が生じない重合法であるとの記載も見出せない。 よって、主張オは採用できない。 カについて 仮に、所定の十分な分子量のポリマーを得る際に、低重合度の成分が極力含まれないようにすることは技術常識であったとしても、甲1ないし甲20のいずれをみても、樹脂組成物中のメタノール可溶分の含有量を抑制することにより、ナーリング加工等の表面賦型時の加工安定性を高めることについては記載も示唆もされていないから、甲1において、メタノール可溶分の量を5質量%以下とすることが、当業者が容易に想到できたものであったとはいえない。 よって、主張カは採用できない。 キについて 甲18をみると、実施例で具体的に示された重合温度は100℃である(【0229】~【0244】)。一方、甲8には、S/Hが1.1~1.5であるメタクリル樹脂は、一般的には重合温度を100~180℃の範囲でラジカル重合を実施すると得られることが記載されている(【0012】)ものの、具体的には、150℃又は135℃で重合が行われている(【0039】~【0051】)。そうすると、「100~180℃」の範囲の下限値である「100℃」での重合によっても、「1.1~1.5」のうちの、「1.2~1.5」の範囲に包含されるS/Hを有する樹脂が必ずしも得られるとまではいえない。 よって、仮に甲18において、重合液をホモジナイザー処理した後更にメタノールに滴下して回収しているとしても、本件発明は甲18に記載された発明であるともいえないし、甲18に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 よって、主張キは採用できない。 なお、申立人は、<参考実験例1>及び<参考実験例2>を示し、メタノール可溶分量が「5質量%以下」というものは、ありふれたものである旨主張し、<参考実験例3>を示し、甲2の製造例2記載の市販品原料である「プレキシイミド8813」のメタノール可溶分量は、1.4質量%であって「5質量%以下」である旨主張し、さらに、<参考実験例4>及び「スミペックスEX」についての実験例を示し、本件特許の優先日前より市場で入手可能なメタクリル系樹脂組成物である「ポリイミレックスPML203」及び「スミペックスEX」は、S/H、メタノール可溶分量ともに、本件発明に規定の範囲を満たす旨主張する。 しかしながら、これらの実験例は、具体的な実験過程について全く記載されておらず、これらを直ちに採用できるものではない。 第5 まとめ 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-701222

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