特許異議申立
2017-701039
鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、電子回路基板および電子制御装置
- 審判番号
- 2017-701039
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-224592外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月08日
- 審決日
- 2018年05月21日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】太田 洋子
- 【異議申立人】大池 聞平
- 分類
- P1652.537-YAA(B23K) / P1652.161-YAA(B23K) / P1652.113-YAA(B23K) / P1652.121-YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条の2、特許法第184条の15第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6125084号発明「鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、電子回路基板および電子制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6125084号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2~5〕について訂正することを認める。
特許第6125084号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6125084号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年3月22日に出願された特願2016-57712号の一部を同年11月17日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月14日に特許権の設定登録がされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月8日付けで請求項1~3に対し、特許異議申立人である大池聞平(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月16日付けで当審から特許権者に対して取消理由が通知され、同年2月28日付けで特許権者から意見書の提出とともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年3月5日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨を通知するとともに相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書の提出はされなかったものである。
第2 本件訂正の適否について
1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は「特許第6125084号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~5について訂正することを認める。」というものである。
2 訂正事項
本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~3のとおりである。なお、下線は特許権者が訂正箇所を示すために付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2の「前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含むこと」を「前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり」を「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり」と訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0058】の「実施例14、15、18、21、22、25から31、参考例1から13、16、17、19、20、23、24」を「実施例14、15、21、22、25から31、参考例1から13、16から20、23、24」と訂正する。
また、段落【0059】【表1】及び【0068】【表3】の「実施例18」を「参考例18」に訂正する。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2,4,5は、請求項4,5が、訂正請求の対象である請求項2を引用し、本件訂正前の請求項3~5は、請求項4,5が、訂正請求の対象である請求項3を引用し、本件訂正前の請求項2,4,5及び請求項3~5は、請求項4,5を共有する関係にあるから、本件訂正前の請求項2~5は、本件訂正前において一群の請求項に該当する。
したがって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
4 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項3に係る本件訂正は、関係する一群の請求項の全てについて行われるものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第4項の規定に適合する。
5 訂正要件の検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無
本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の記載は、「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。」であり、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下」含むことが特定されているところ、訂正事項1に係る本件訂正は、上記Sb及びBiの含有量を「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」のより狭い範囲に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、願書に添付した明細書の段落【0023】には、上記Sbの含有量に関し、「特にSbの含有量を2重量%以上4重量%以下とすると、亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。」と記載され、上記Biの含有量に関しては、段落【0028】に、「Niおよび/またはCoと併用する場合、Biの好ましい含有量は3.1重量%以上4.5重量%以下である。」と記載され、段落【0059】の【表1】には、実施例22,25~31の各鉛フリーはんだ合金粉末におけるBiの含有量が3.2重量%であることが記載されているから、訂正事項1に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
イ 独立特許要件
(ア)本件訂正請求では、請求項1~3に対して特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2に記載されている事項により特定される発明に対して、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の適用はない。
(イ)また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2を引用する請求項4,5に記載されている事項により特定される発明に対しては、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無
訂正事項2に係る本件訂正は、訂正前の請求項3において、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下」含むことが特定されていたところ、上記Sb及びBiの含有量を「Sbを2重量%以上4重量%以下であり、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下」のより狭い範囲に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、前記(1)アと同様の理由により、訂正事項2に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
イ 独立特許要件
(ア)本件訂正請求では、請求項1~3に対して特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項3に記載されている事項により特定される発明に対して、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の適用はない。
(イ)また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項3を引用する請求項4,5に記載されている事項により特定される発明に対しては、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る本件訂正は、訂正事項1,2に係る本件訂正によって、本件訂正後の請求項2~5に係る発明における「粉末状の鉛フリーはんだ合金」のSbの含有量が「3.1重量%以上3.2重量%以下」に限定されたことに伴って、上記Sbの含有量が3.5重量%である「実施例18」を「参考例18」に訂正して、本件訂正後の請求項2~5の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
6 小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法126条第4項~第7項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔2~5〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1~5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項2】
前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のソルダペースト組成物。
【請求項3】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たす粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦2.10 … B
3.6≦ Ag含有量+Sb含有量≦8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 … D
【請求項4】
前記鉛フリーはんだ合金が更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物。
【請求項5】
前記鉛フリーはんだ合金が更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物。」
2 取消理由の内容
本件訂正前の請求項2,3に係る発明について、平成30年1月16日付けで当審から特許権者に対して通知した取消理由の内容は以下のとおりである。
「理由1(拡大先願)
本件特許の請求項2,3に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
理由2(新規性欠如)
本件特許の請求項2,3に係る発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項2,3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
理由1(拡大先願)について
(1)証拠方法
甲第1号証:特願2015-146520号の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲
甲第2号証:国際公開第2017/018167号(特願2015-146520号を優先権主張の基礎として日本語でされた国際特許出願であるPCT/JP2016/070270の国際公開)
(2)当審の判断
ア 甲第1号証に記載された発明のうち、甲第2号証に記載された発明については、特許法第184条の15第2項により読み替える同法第41条3項の規定により、甲第2号証の国際公開日に出願公開されたものとみなして、同法29条の2本文の規定が適用される。
イ そうすると、請求項2,3に係る発明は、甲第1号証の実施例15(甲第2号証の実施例21)に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト(【0062】~【0064】,【0096】,表1)であるから(詳細は、申立書の第10頁第1行~第12頁第7行の記載を参照。ただし、請求項1に係る発明についての記載は除く。)、特許法第29条の2の規定により特許を受けることはできない。
また、申立書には記載がないが、請求項2,3に係る発明は、甲第1号証の実施例16(甲第2号証の実施例24)に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト(【0062】~【0064】,【0096】,表1)でもあるから、同様の理由により特許を受けることはできない。
ウ なお、請求項1に係る発明は、『鉛フリーはんだ合金』の必須の成分元素としてCoを含まないから、取消理由1の対象にはならない。
理由2(新規性欠如),理由3(進歩性欠如)について
(1)証拠方法
甲第3号証:特開2014-37005号公報
甲第4号証:国際公開第2014/163167号
(2)当審の判断
ア 請求項2,3に係る発明は、甲第3号証の実施例52に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト(【0075】~【0077】,【0098】,表2)であるから(詳細は、申立書の第12頁第8行~第14頁第1行の記載を参照。ただし、請求項1に係る発明についての記載は除く。)、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることはできない。
イ また、甲第3号証の実施例52に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト中のはんだ合金のSbの含有量である1.5質量%を、甲第4号証の記載に基づいて5質量%以下の範囲で増加させることは、当業者が容易になし得たことであるから(詳細は、申立書の第14頁第2行~第14頁第20行の記載を参照。ただし、請求項1に係る発明についての記載は除く。)、請求項2,3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
ウ なお、請求項1に係る発明は、『鉛フリーはんだ合金』の必須の成分元素としてCoを含まず、甲第4号証の記載や技術常識を併せてみても、甲第3号証の実施例52に記載されたソルダペースト中のはんだ合金から必須の成分元素であるCoを除く合理的根拠を見い出せないから、請求項1に係る発明は、取消理由2,3の対象にはならない。」
3 当審の判断
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
事案に鑑み、取消理由通知において採用しなかった明確性要件違反の特許異議申立理由から、その存否を検討する。
なお、取消理由通知では、本件発明1に対し、理由1(拡大先願),理由2(新規性欠如),理由3(進歩性欠如)の特許異議申立理由を採用していないが、本件発明1に対するこれらの理由1~3については、便宜のため、次の「(2)取消理由通知に記載した取消理由について」において、本件発明2,3と併せて検討する。
ア 申立人の主張内容
申立人は、本件訂正前の請求項1~3に係る発明に対し、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の「3 申立ての理由」「(4)具体的理由」「カ.理由4:特許法第36条第6項第2項(明確性)」(第15頁第21行~第16頁第18行)において、請求項1の「残部がSnからなる」という記載は不明確であるから、請求項1、及び、これを引用する請求項2に係る発明は明確であるとはいえず、同様の理由により請求項3に係る発明も明確であるとはいえない旨、主張する。
イ 本件発明1について
本件発明1では、「鉛フリーはんだ合金」の成分元素の組成について、5種類の必須の成分元素であるAg,Cu,Sb,Bi,Niそれぞれの含有量の上限値及び下限値を重量%で特定した上で、「残部がSnからなる」ことが特定されているから、「鉛フリーはんだ合金」が、不可避不純物を除けば、Ag,Cu,Sb,Bi,Ni及び残部Snからなる合金であって他の元素を含まないことは、その記載から明らかである。
よって、本件発明1は明確である。
ウ 本件発明2について
本件発明2では、「鉛フリーはんだ合金」の成分元素の組成について、本件発明1を引用した上で、「更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」が特定されているから、本件発明2における「鉛フリーはんだ合金」が、不可避不純物を除けば、Ag,Cu,Sb,Bi,Ni,Co及び残部Snからなる合金であって他の元素を含まないことは、その記載から明らかである。
よって、本件発明2は明確である。
エ 本件発明3について
本件発明3も、本件発明1,2と同様の理由により明確である。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1~3は、いずれも明確であるから、前記アの申立人の主張を採用することはできない。
(2)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 理由1(拡大先願)について
(ア)証拠方法
申立人の提出した甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。他の甲号証に付いても同様。)は、以下のとおりである。
甲1:特願2015-146520号の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲
甲2:国際公開第2017/018167号(特願2015-146520号を優先権主張の基礎として日本語でされた国際特許出願であるPCT/JP2016/070270の国際公開)
(イ)甲1の記載事項
a 甲1に記載された発明のうち、甲2に記載された発明については、特許法第184条の15第2項で準用する同法第41条3項の規定により、甲2の国際公開日に出願公開されたものとみなして、同法29条の2本文の規定が適用されるところ、甲1には、甲2と共通する以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表し(以下同様)、末尾の括弧書きは対応する甲2の記載箇所を表す。
「【0001】
本発明は・・・詳しくは、はんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・に関する。」(甲2の[0001])
「【0011】
本発明の目的は、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40~150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持できるはんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・を提供することにある。」(甲2の[0011])
「【0029】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、3.5質量%以上、好ましくは、3.8質量%以上、より好ましくは、4.0質量%以上であり、4.8質量%以下、好ましくは、4.5質量%以下、より好ましくは、4.2質量%以下である。」(甲2の[0029])
「【0031】
一方、ビスマスの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣り、また、ビスマスの含有割合が上記上限を上回る場合にも、耐熱疲労特性に劣るという不具合がある。」(甲2の[0031])
「【0039】
コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.008質量%を超過し、0.1質量%以下、好ましくは、0.05質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。」(甲2の[0039])
「【0041】
一方、コバルトの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣り、また、コバルトの含有割合が上記上限を上回る場合にも、耐熱疲労特性に劣るという不具合がある。」(甲2の[0041])
「【0062】
フラックスとしては、特に制限されず、公知のはんだフラックスを用いることができる。
【0063】
具体的には、フラックスは、例えば、ベース樹脂(ロジン、アクリル樹脂など)、活性剤(例えば、エチルアミン、プロピルアミンなどアミンのハロゲン化水素酸塩、例えば、乳酸、クエン酸、安息香酸などの有機カルボン酸など)、チクソトロピー剤(硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックスなど)などを主成分とし、また、フラックスを液状にして使用する場合には、さらに有機溶剤を含有することができる。
【0064】
そして、ソルダペーストは・・・はんだ合金からなる粉末と、上記したフラックスとを、公知の方法で混合することにより得ることができる。」(甲2の[0062]~[0064])
「【0075】
実施例1~20および比較例1~18
・はんだ合金の調製
表1に記載の各金属の粉末を、表1に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。
【0076】
また、各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびインジウム(In))の配合割合(質量%)を、はんだ合金の総量から差し引いた残部である。なお、表中には、残部を「Bal.」と表記する。
【0077】
実施例1は、Ag、Cu、Bi、SbおよびCoを、表1に示す割合で配合し、残部をSnとしたはんだ合金である。」(甲2の[0075]~[0077]。なお、甲2では実施例が追加され、[0075]には「実施例1~31」と記載されている。)
「【0082】
実施例15~16は、実施例1の処方に対して、さらに、Niを配合し、また、Niの含有割合を増減させた処方の例である。」(甲2の[0085]。なお、甲1の「実施例15」及び「実施例16」は、それぞれ、甲2の[0085]の「実施例21」及び「実施例24」として記載されている。)
「【0096】
・ソルダペーストの調製
得られたはんだ合金を、粒径が25~38μmとなるように粉末化し、得られたはんだ合金の粉末と、公知のフラックスとを混合して、ソルダペーストを得た。」(甲2の[0103])
また、【0098】の【表1】には、「実施例15」の「配合処方(質量%)」が、Sn:Bal.,Ag:3.0,Cu:0.5,Bi:4.0,Sb:3.5,Co:0.01,Ni:0.05であることが記載され、「実施例16」の「配合処方(質量%)」が、Sn:Bal.,Ag:3.0,Cu:0.5,Bi:4.0,Sb:3.5,Co:0.01,Ni:0.20であることが記載されている。(なお、甲1の【0098】の【表1】における「実施例15」及び「実施例16」は、それぞれ、甲2の[0105]の[表1]の「実施例21」及び「実施例24」に相当する。)
b 前記aの記載によれば、甲1には、はんだ合金を含有するソルダペーストに関し(【0001】)、厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40~150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持できるはんだ合金を含有するソルダペースト(【0011】)として、実施例15及び実施例16の配合処方によって得られたはんだ合金(【0075】~【0077】,【0098】の【表1】)の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有する公知のフラックス(【0062】,【0063】)とを混合したソルダペースト(【0064】,【0096】)が記載されている。
したがって、甲1には、以下のとおり、実施例15に基づいて認定した先願発明1-1と、実施例16に基づいて認定した先願発明1-2が記載されている。
(先願発明1-1)
配合処方が、質量%で、Sn:残部,Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:4.0%,Sb:3.5%,Co:0.01%,Ni:0.05%であるはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト。
(先願発明1-2)
配合処方が、質量%で、Sn:残部,Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:4.0%,Sb:3.5%,Co:0.01%,Ni:0.20%であるはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト。
(ウ)対比・判断
a 本件発明1と先願発明1-1とを対比すると、本件発明1は「粉末状の鉛フリーはんだ合金」の成分元素としてCoを含まないのに対して、先願発明1-1の「はんだ合金の粉末」では「配合処方が」「質量%で」「Co:0.01%」であるから、本件発明1は、先願発明1-1と同一であるとはいえない。
同様の理由により、本件発明1は、先願発明1-2と同一であるとはいえない。
なお、前記(イ)bでは、先願発明1-1,1-2のはんだ合金の粉末中のCoの含有割合を実施例15,16に基づいて「0.01%」と認定したが、前記(イ)aにあるとおり、甲1の【0039】,【0041】には、Coを必須の成分元素として少なくとも0.008質量%を超過する含有割合で添加する必要がある旨の記載がされているから、前記(イ)bにおける先願発明1-1,1-2の認定に替えて、はんだ合金粉末の成分元素としてCoを含まない態様で先願発明を認定することはできない。
b 本件発明2と先願発明1-1とを対比すると、本件発明2の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」は「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下である」のに対して、先願発明1-1の「はんだ合金の粉末」では「配合処方が」「質量%で」「Bi:4.0%」であるから、両者はBiの含有割合が異なっている。
したがって、本件発明2は、先願発明1-1と同一であるとはいえない。
同様の理由により、本件発明2は、先願発明1-2と同一であるとはいえない。
なお、前記(イ)bでは、先願発明1-1,1-2のはんだ合金の粉末中のBiの含有割合を実施例15,16に基づいて「4.0%」と認定したが、前記(イ)aにあるとおり、甲1の【0029】,【0031】には、Biを必須の成分元素として少なくとも3.5質量%以上の含有割合で添加する必要がある旨の記載がされているから、前記(イ)bにおける先願発明1-1,1-2の認定に替えて、Biの含有割合が3.5質量%を下回る態様で先願発明を認定することはできない。
c 本件発明3についても、前記bと同様の理由により、先願発明1-1,先願発明1-2のいずれともBiの含有割合が異なっているから、本件発明3は、先願発明1-1,先願発明1-2のいずれとも同一であるとはいえない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~3は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえない。
イ 理由2(新規性欠如),理由3(進歩性欠如)について
(ア)証拠方法
申立人の提出した甲3,4は、以下のとおりである。
甲3:特開2014-37005号公報
甲4:国際公開第2014/163167号
(イ)甲3の記載事項
a 甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は・・・詳しくは、スズ-銀-銅系のはんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・に関する。」
「【0004】
・・・鉛フリーはんだ合金としては・・・とりわけ、スズ-銀-銅系合金は、強度などに優れるため、広く用いられている。」
「【0008】
一方、このようなはんだ合金としては、耐久性(耐疲労性、とりわけ、耐冷熱疲労性)の向上が要求されている。
【0009】
また、このようなはんだ合金としては、さらに、融点を低く抑えるとともに、耐クラック性、耐侵食性を向上させることや、ボイド(空隙)を抑制することが要求されている。
【0010】
本発明の目的は、低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・を提供することにある。」
「【0032】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、0.8質量%以上、より好ましくは、1.2質量%以上、さらに好ましくは、1.8質量%以上、とりわけ好ましくは、2.2質量%以上であり、例えば、4.8質量%以下、好ましくは、4.2質量%以下、より好ましくは、3.5質量%以下、さらに好ましくは、3.0質量%以下である。
【0033】
ビスマスの含有割合が上記範囲であれば、融点を低く抑えるとともに、優れた強度および耐久性を確保することができる。」
「【0038】
コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.001質量%以上、好ましくは、0.003質量%以上、より好ましくは、0.004質量%以上であり、0.008質量%以下、好ましくは、0.006質量%以下である。」
「【0041】
一方、コバルトの含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣り、さらに、組織の微細化を図ることができず、耐クラック性および強度に劣る。また、コバルトの含有割合が上記上限を超過する場合には、耐久性に劣り、さらに、ボイドの発生を抑制できないという不具合がある。」
「【0075】
フラックスとしては、特に制限されず、公知のはんだフラックスを用いることができる。
【0076】
具体的には、フラックスは、例えば、ベース樹脂(ロジン、アクリル樹脂など)、活性剤(例えば、エチルアミン、プロピルアミンなどアミンのハロゲン化水素酸塩、例えば、乳酸、クエン酸、安息香酸などの有機カルボン酸など)、チクソトロピー剤(硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックスなど)などを主成分とし、また、フラックスを液状にして使用する場合には、さらに有機溶剤を含有することができる。
【0077】
そして、ソルダペーストは・・・はんだ合金からなる粉末と、上記したフラックスとを、公知の方法で混合することにより得ることができる。」
「【0087】
実施例1~54および比較例1~20
・はんだ合金の調製
表1~2に記載の各金属の粉末を、表1~3に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1~3に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co))の配合割合(質量%)を差し引いた残部である。
【0088】
実施例1~3のはんだ合金は、Ag、Cu、In、Bi、NiおよびCoの各金属を表1に示す割合で配合して、残部をSnとしたものである。」
「【0092】
実施例44~54は、実施例2の処方に対して、Inを配合することなく、さらに、Sbを配合した処方であって、Ag、Bi、Sbの配合割合を実施例34~42に準じて増減させた処方の例である。」
「【0098】
・ソルダペーストの調製
得られたはんだ合金を、粒径が25~38μmとなるように粉末化し、得られたはんだ合金の粉末と、公知のフラックスとを混合して、ソルダペーストを得た。」
「【0121】
・・・
<総合評価>
「耐クラック性(はんだ組織の大きさ)」、「ボイド抑制」および「耐浸食性(Cu喰われ)」の各評価に対する評点として、評価“A”を2点、評価“B”を1点、評価“C”を0点とした。また、「耐久性(はんだ寿命)」に対する評点として、評価“A+”を5点、評価“A”を4点、評価“A-”を3点、評価“B”を2点、評価“B-”を1点、評価“C”を0点とした。次いで、各評価項目の評点の合計を算出し、表現の合計に基づいて、各実施例および各比較例のソルダペーストを下記の基準によって総合的に評価した。
【0122】
A+:極めて良好(評点合計が10点以上であり、かつ、評価“B”以下の項目を含まない。)
A:良好(評点合計が8点以上であり、「耐久性(はんだ寿命)」の項目で評価“B”以下を含まず、かつ、評価“B-”以下の項目を含まない。)
A-:概ね良好(評点合計が8点以上であり、かつ、評価“B-”以下の項目を含まない。上記総合評価“A”に該当するものを除く。)
B:実用上許容:(評点合計が6点以上であり、かつ、評価“C”の項目を含まない。)
C:不良(評点合計が6点以下であるか、または、評価“C”の項目を1つでも含む。)」
また、【0101】の【表2】には、「実施例45」の「配合処方(質量%)」が、Ag:3.0,Cu:0.5,In:-,Bi:2.7,Sb:1.5,Ni:0.05,Co:0.005であることが記載され、「実施例52」の「配合処方(質量%)」が、Ag:3.0,Cu:0.5,In:-,Bi:3.5,Sb:1.5,Ni:0.05,Co:0.005であることが記載されている。
さらに、【0123】の【表5】には、「実施例45」の「評点合計総合評価」が「9,A」であり、「実施例52」の「評点合計総合評価」が「8,A」であることが記載されている。
b 前記aの記載によれば、甲3には、鉛フリーはんだ合金であるスズ-銀-銅系のはんだ合金を含有するソルダペーストに関し(【0001】,【0004】)、従来、耐久性(耐疲労性、とりわけ、耐冷熱疲労性)の向上や、融点を低く抑えるとともに、耐クラック性、耐侵食性を向上させ、ボイド(空隙)を抑制することが要求されていることに鑑み(【0008】,【0009】)、低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金を含有するソルダペーストを提供することを目的として(【0010】)、実施例52の配合処方によって得られたはんだ合金(【0087】~【0088】,【0092】,【0101】の【表2】)の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有する公知のフラックス(【0075】,【0076】)とを混合したソルダペースト(【0077】,【0098】)が記載されている。
したがって、甲1には、実施例52に基づいて認定した以下の甲3発明が記載されている。
(甲3発明)
配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snである鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト。
(ウ)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金・・・に関する。」
「[0011] 本発明が解決しようとする課題は、低温が-40℃、高温が125℃というような厳しい温度サイクル特性に長期間耐えられるだけでなく、縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間に耐える事が可能なはんだ合金・・・を開発することである。」
「[0012] 本発明者らは、長期間の温度サイクル後の外部からの力に耐えるには、Sn相に固溶する元素を添加して固溶強化型の合金を作ることが有効なこと、固溶析出強化型の合金を作るにはSbが最適な元素であること、さらにSnマトリックス中のSbの添加は微細なSnSb金属間化合物が形成され、析出分散強化の効果も現すことを見い出し、本発明を完成させた。
[0013] 本発明は、Agが1~4質量%、Cuが0.6~0.8質量%、Sbが1~5質量%、Niが0.01~0.2質量%、残部がSnの鉛フリーはんだ合金である。さらに、Biを1.5~5.5質量%を添加しても良い。さらに、CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001~0.1質量%添加しても良い。」
「[0027] 本発明のはんだ合金では、Biを添加することで、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。・・・
本発明のはんだ合金に添加するBiの量は、1.5~5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3~5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2~5.0質量%である。
[0028] さらに、本発明のはんだ合金では、CoまたはFe、またはその両方を添加することで、本発明のNiの効果を高めることができる。特に、Coは優れた効果を現す。
・・・
本発明に添加するCoまたはFe、その両方を添加する量は、0.001~0.1質量%が好ましい。」
(エ)本件発明1の新規性,進歩性について
a 対比
(a)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、本件発明1の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
(b)甲3発明の「ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックス」は、本件発明1の「樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス」に相当するから、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト」と、本件発明1の「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」は、「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」である点で一致する。
(c)したがって、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有するソルダペースト組成物。
(相違点)
本件発明1では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる」もので、成分元素としてCoを含まないのに対し、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snであ」って、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の成分元素のうち、Ag,Cu,Bi,Sb,Niについては、その含有割合が、本件発明1の対応する成分元素の含有割合の範囲内にある一方、その他の成分元素として0.005重量%のCoを含む点。
b 相違点についての判断
(a)前記a(c)のとおり、本件発明1と甲3発明の相違点は実質的なものであって、本件発明1は甲3発明ではないから、本件発明1は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(b)次に前記相違点について検討すると、前記(イ)aにあるとおり、甲3には、「コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.001質量%以上、好ましくは、0.003質量%以上、より好ましくは、0.004質量%以上であり」(【0038】)、「コバルトの含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣り、さらに、組織の微細化を図ることができず、耐クラック性および強度に劣る。」(【0038】)と記載されるとおり、甲3には、はんだ合金の必須の成分元素としてCoを添加する必要があることが記載されているから、甲3発明において、鉛フリーのはんだ合金の成分元素からCoを除くことは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。
さらに、甲4を参酌しても、前記(ウ)にあるとおり、「本発明のはんだ合金では、CoまたはFe、またはその両方を添加することで、本発明のNiの効果を高めることができる。特に、Coは優れた効果を現す。・・・本発明に添加するCoまたはFe、その両方を添加する量は、0.001~0.1質量%が好ましい。」([0028])と記載されるとおり、Coは添加することが好ましい成分元素として記載されているから、甲4の記載を参酌しても、上記判断は左右されない。
そして、甲3発明において、鉛フリーのはんだ合金の成分元素からCoを除くことが容易になし得たこととはいえない以上、当業者であっても、鉛フリーはんだ合金の成分元素としてCoを含有しない本件発明1の効果を予測することはできない。
したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(オ)本件発明2の新規性,進歩性について
a 対比
(a)本件発明2と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、本件発明2の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
そうすると、甲3発明の「配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snである鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、
本件発明2の「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金」「が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」とは、
「Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、更にCoを0.005重量%含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
(b)甲3発明の「ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックス」は、本件発明2の「樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス」に相当するから、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト」と、本件発明2の「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」は、「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」である点で一致する。
(c)したがって、本件発明2と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、更にCoを0.005重量%含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有するソルダペースト組成物。
(相違点1)
本件発明2では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」における「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下」であるのに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Sb:1.5%」である点。
(相違点2)
本件発明2では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」における「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下である」のに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Bi:3.5%」である点。
b 相違点についての判断
(a)前記a(c)のとおり、本件発明2と甲3発明の相違点1,2は実質的なものであって、本件発明2は甲3発明ではないから、本件発明2は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(b)次に事案に鑑み、相違点2について検討する。
(i)前記(イ)aにあるとおり、甲3には、「ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して・・・例えば、4.8質量%以下、好ましくは、4.2質量%以下、より好ましくは、3.5質量%以下、さらに好ましくは、3.0質量%以下である。」(【0032】),「ビスマスの含有割合が上記範囲であれば、融点を低く抑えるとともに、優れた強度および耐久性を確保することができる。」(【0033】)と記載されるとおり、Biの含有割合の上限については、好ましい順に、「3.0質量%以下」,「3.5質量%以下」,「4.8質量%以下」,「4.2質量%以下」であることが記載されている。
(ii)また、前記(イ)aにあるとおり、甲3には、甲3発明を認定する際に根拠とした「実施例52」(Bi:3.5質量%)と、この「実施例52」とBiの含有割合(Bi:2.7質量%)のみが異なる「実施例45」について、「耐クラック性(はんだ組織の大きさ)」,「ボイド抑制」,「耐浸食性(Cu喰われ)」及び「耐久性(はんだ寿命)」を総合評価した「評点合計総合評価」が、それぞれ「8,A」(実施例52),「9,A」(実施例45)であることが記載されており、かかる記載によれば、Biの含有割合が2.7質量%の「実施例45」の方が、Biの含有割合が3.5質量%の「実施例52」よりも「評点合計総合評価」が優れていることが分かる。
上記(i)(ii)を踏まえると、甲3に接した当業者であれば、甲3発明のBiの含有割合である3.5質量%は、2番目に好ましいとされる「3.5質量%以下」に該当するものであり、これを、例えば「実施例45」の2.7質量%のように、最も好ましいとされる「3.0質量%以下」にすれば、より優れた「評点合計総合評価」が得られることを理解できる。
しかし、甲3に接した当業者であっても、2番目に好ましいとされる「3.5質量%以下」に該当する甲3発明のBiの含有割合である3.5質量%を、敢えて、最も好ましいとされる「3.0質量%以下」とはせずに、同じ「3.5質量%以下」の範囲に属する「3.1重量%以上3.2重量%以下」の範囲とすることに対しては合理的根拠を見いだすことはできず、かかる根拠を裏付ける技術常識も見いだせない。
さらに、甲4を参酌しても、前記(ウ)にあるとおり、「本発明のはんだ合金では、Biを添加することで、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。・・・添加するBiの量は、1.5~5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3~5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2~5.0質量%である。」([0027])と記載されるとおり、最も好ましいBiの含有割合は「3.2~5.0質量%」とされており、甲3発明のBiの含有割合である3.5質量%は、既に甲4で最も好ましいとされる範囲内の値であるから、当業者であっても、この含有割合を敢えて上記範囲外の「3.1重量%以上3.2重量%以下」とすることに対しては合理的根拠を見いだすことはできず、かかる根拠を裏付ける技術常識も見いだせない。
そして、以上のとおり、甲3発明において、Biの含有割合を「3.1重量%以上3.2重量%以下」の範囲とすることが容易になし得たこととはいえない以上、当業者であっても、Biの含有割合が「3.1重量%以上3.2重量%以下」の範囲である本件発明2の効果を予測することはできない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(カ)本件発明3の新規性,進歩性について
a 対比
(a)本件発明3と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、本件発明3の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
そうすると、甲3発明の「配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snである鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、
本件発明2の「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからな」る「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、
「Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、Coを0.005重量%含み残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
(b)甲3発明におけるAg(3.0質量%),Cu(0.5質量%),Sb(1.5質量%),Bi(3.5質量%),Ni(0.05質量%),Co(0.005質量%)それぞれの含有量は、以下のとおり、本件発明3の式(A)~(D)を満たしている。
式(A)について
Ag含有量+(Cu含有量/0.5)
=3.0+(0.5/0.5)
=4.0
であり、1.6≦4.0≦5.9が成立するから式(A)は満たされる。
式(B)について
(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)
=(3.0/3)+(3.5/4.5)
=1.78
であり、0.85≦1.78≦2.10が成立するから式(B)は満たさ
れる。
式(C)について
Ag含有量+Sb含有量
=3.0+1.5
=4.5
であり、3.6≦4.5≦8.9が成立するから式(C)は満たされる。
式(D)について
(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)
=(0.05/0.25)+(0.005/0.25)
=0.22
であり、0<0.22≦1.19が成立するから式(D)は満たされる。
(c)甲3発明の「ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックス」は、本件発明3の「樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス」に相当するから、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト」と、本件発明3の「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」は、「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」である点で一致する。
(d)したがって、本件発明3と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、Coを0.005重量%含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たす粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有するソルダペースト組成物。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦2.10 … B
3.6≦Ag含有量+Sb含有量≦8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 … D
(相違点1’)
本件発明3では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Sbを2重量%以上4重量%以下」含むのに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Sb:1.5%」である点。
(相違点2’)
本件発明3では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Biを3.1重量%以上3.2重量%以下」含むのに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Bi:3.5%」である点。
b 相違点についての判断
(a)前記a(d)のとおり、本件発明3と甲3発明の相違点1’,2’は実質的なものであって、本件発明3は甲3発明ではないから、本件発明3は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(b)次に事案に鑑み、相違点2’について検討すると、相違点2’は、前記(オ)a(c)に記載の相違点2と実質的に同一であり、前記(オ)b(b)に説示した相違点2についての判断は、相違点2’に対しても、そのまま妥当する。
したがって、相違点1’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第4 結論
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-701039