特許異議申立
2025-700866
接合方法、接合体および流路付きプレート
- 審判番号
- 2025-700866
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-561389
- 登録番号
- 7641120
- 請求日
- 2025年09月04日
- 審決日
- 2026年04月28日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本発條株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
- 【異議申立人】小倉 良則
- 【異議申立人代理人】原田 寛
- 【異議申立人代理人】中村 政美
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 永田 和彦
- 審判官 鈴木 貴雄
- 分類
- P1651.113-YAA(B23K) / P1651.121-YAA(B23K) / P1651.536-YAA(B23K) / P1651.537-YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7641120号発明「接合方法、接合体および流路付きプレート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7641120号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~4〕、5について訂正することを認める。
特許第7641120号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報発行までの経緯
特許第7641120号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)12月13日(優先権主張 平成30年12月21日)を国際出願日とする国際特許出願であって、令和3年4月14日に国内書面が提出され、令和7年2月26日に特許権の設定の登録がされ、同年3月6日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許に対する特許異議の申立て以降の主な経緯は次のとおりである。
(1)令和7年9月4日
特許異議申立人 小倉 良則(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て(申立てのために提出された特許異議申立書を以下単に「申立書」という。)
(2)同年11月19日付け(発送日:同月25日)
取消理由通知書による、本件特許の取消しの理由の通知(以下「取消理由通知」という。)
(3)令和8年1月9日
特許権者 日本発條株式会社(以下単に「特許権者」という。)と合議体との面接審理(同月13日作成の面接記録参照。)
(4)同月23日
特許権者による、訂正の請求(請求された訂正を以下「本件訂正」といい、本件訂正のために提出された訂正請求書を以下単に「訂正請求書」という。)、及び意見書(以下「特許権者意見書」という。)の提出
(5)同年2月3日(発送日:同月6日)
訂正の請求があった旨の通知
(6)同年3月6日
申立人による、意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容について
特許権者による本件訂正は、請求の趣旨として、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記本体部に前記カバーを被せる被覆ステップと、」とあるのを、
「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てが前記カバーと密着するように前記本体部に前記カバーを被せる被覆ステップと、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3において、
「前記本体部と前記カバーとが、拡散接合されてなる」とあるのを、
「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5において、
「前記本体部と前記カバーとが、拡散接合されてなる」とあるのを、
「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~2については、請求項2が請求項1の記載を引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、本件訂正前の請求項3~4については、請求項4が請求項3の記載を引用する関係にあって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~2〕及び〔3~4〕、並びに請求項5について、それぞれ請求をするものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)一群の請求項〔1~2〕に対する訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1における「被覆ステップ」について、本体部にカバーを被せるにあたり、本体部の流路の開口側の接合面の全てがカバーと密着するように被せることを具体的に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件明細書の、段落【0015】には「本体部10は、流路の開口側の面がカバー20と拡散接合によって接合している。」と記載され、段落【0016】には「カバー20は、本体部10の流路形成面を覆っている。」と記載され、段落【0019】には「流路(例えば流路11~13)が形成された本体部10・・・にカバー20を被せる(被覆ステップ)。この際、本体部10の流路の開口が、カバー20によって覆われる。」と記載されており、図1~4を併せて参照すれば、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「被覆ステップ」に関して、拡散接合ステップに先立ち、本体部10の流路11~13の開口側の接合面がカバー20に覆われるように本体部10にカバー20を被せることが開示されていたといえる。
また、上記の点に加え、段落【0005】、【0011】、【0022】、【0037】には、本件特許に係る発明の目的・効果として「本体部とカバーとを確実に接合」することが示され、段落【0017】には、「流路付きプレート1では、媒体流入口(図示せず)から媒体を導入して流路に流通させ、媒体排出口(図示せず)から媒体を排出する。」と記載されることから、「拡散接合ステップ」では、本体部10の流路11~13の開口側の接合面の全てとカバーとが拡散接合されることが開示されているといえ、さらに、段落【0020】には、拡散接合ステップに関し「拡散接合では、密着させた部材同士に対し、部材の融点以下の温度条件において加圧して、・・・接合する。」と記載されることから、本件明細書等には、「拡散接合ステップ」に先立つ「被覆ステップ」では、本体部10の流路11~13の開口側の接合面の全てがカバー20と密着するように覆われることが開示されていたといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1において特定された「被覆ステップ」を、より具体的に限定する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)一群の請求項〔3~4〕に対する訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項3における、カバーと拡散接合されてなる「本体部」について、本体部の流路の開口側の前記接合面の全てとカバーとが、拡散接合されてなることを具体的に限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件明細書の、段落【0014】には「流路付きプレート1は、本体部10とカバー20とが拡散接合によって接合された接合体である。」と記載され、段落【0015】には「本体部10は、流路の開口側の面がカバー20と拡散接合によって接合している。」と記載され、段落【0016】には「カバー20は、本体部10の流路形成面を覆っている。・・・本体部10とカバー20とは、後述する拡散接合によって接合される。」と記載され、段落【0019】には「本体部10の流路の開口が、カバー20によって覆われる。」と記載され、段落【0020】には「続いて、本体部10とカバー用母材200(当審注:図4等から「カバー20」を指すことは明らか。)とを拡散接合により接合する(図4参照:拡散接合ステップ)。」と記載され、段落【0022】には「本体部10とカバー20とを拡散接合によって接合するようにした。」と記載されており、図1~4を併せて参照すれば、本件特許明細書等には、本体部10の流路11~13の開口側の接合面とカバー20とが、拡散接合されてなることが開示されていたといえる。
また、上記の点に加え、段落【0005】、【0011】、【0022】、【0037】には、本件特許に係る発明の目的・効果として「本体部とカバーとを確実に接合」することが示され、段落【0017】には、「流路付きプレート1では、媒体流入口(図示せず)から媒体を導入して流路に流通させ、媒体排出口(図示せず)から媒体を排出する。」と記載されることから、本体部10とカバー20とが拡散接合されてなる状態では、本体部10の流路11~13の開口側の接合面の全てとカバー20とが拡散接合されてなることが開示されているといえる。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項3において特定された、カバーと拡散接合されてなる「本体部」を、より具体的に限定する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)請求項5に対する訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項5における、カバーと拡散接合されてなる「本体部」について、本体部の流路の開口側の前記接合面の全てとカバーとが、拡散接合されてなることを具体的に限定するものであって、一群の請求項〔3~4〕に対する訂正事項2と同様である(上記(2)ア)。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、訂正事項2と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって(上記(2)イ)、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(上記(2)ウ)から、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
4 独立特許要件
本件特許異議の申立ては、請求項1~5を対象としているので、訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5 小括
上記3のとおり、訂正事項1~3に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~4〕、5について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1~5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである(各発明を以下「本件発明1」等という。)。
「 【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーとを接合する接合方法であって、
前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であり、
前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てが前記カバーと密着するように前記本体部に前記カバーを被せる被覆ステップと、
接合温度が500℃以上640℃以下、接合面圧が0.7MPa以上3MPa以下の条件下で拡散接合することによって、前記本体部と前記カバーとを接合する拡散接合ステップと、
を含むことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記本体部の接合面および前記カバーの接合面の面粗度が、各々0より大きくRa0.4以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーと、
を備え、
前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であり、
前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる
ことを特徴とする接合体。
【請求項4】
前記本体部および前記カバーが、6061番のアルミニウム合金からなり、
引張り強さが125MPa以上である
ことを特徴とする請求項3に記載の接合体。
【請求項5】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーと、
を備え、
前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であり、
前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる
ことを特徴とする流路付きプレート。」
第4 申立人が主張する申立ての理由の概要
1 申立書における申立ての理由について
本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対する、申立人による申立ての理由は、概略、以下のとおりと整理することができる。
(1)申立ての理由1:特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号):新規性欠如
・ 請求項1、3、5:甲第1号証に記載された発明による新規性欠如
(2)申立ての理由2:特許法第29条第2項(同法第113条第2号):進歩性欠如
ア 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性欠如
(ア)請求項1、3、5
甲第1号証に記載された発明から容易想到
(イ)請求項2、4
甲第1号証に記載された発明、及び周知の技術的事項から容易想到
イ 甲第2号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性欠如
(ア)請求項1~2
甲第2号証に記載の発明、甲第4号証又は甲第5号証に記載された技術的事項、及び周知の技術的事項から容易想到
(イ)請求項3~5
甲第2号証に記載の発明、及び周知の技術的事項から容易想到
ウ 甲第3号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性欠如
(ア)請求項1~2
甲第3号証に記載の発明、甲第4号証又は甲第5号証に記載された技術的事項、及び周知の技術的事項から容易想到
(イ)請求項3~5
甲第3号証に記載の発明、及び周知の技術的事項から容易想到
(3)申立ての理由3:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号):実施可能要件違反、委任省令要件違反
ア 請求項1~5:平面度(実施可能要件違反、委任省令要件違反)
イ 請求項2:面粗度(実施可能要件違反、委任省令要件違反)
ウ 請求項4:引張り強さ(実施可能要件違反)
(4)申立ての理由4:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号):サポート要件違反
ア 請求項1~3、5:アルミニウムまたはアルミニウム合金
イ 請求項1~5:平面度
ウ 請求項1~2:接合面圧
(5)申立ての理由5:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号):明確性要件違反
ア 請求項1~5:平面度
イ 請求項2:面粗度
2 申立人意見書における理由について
本件訂正後の請求項1~5に係る特許に対して、申立人は申立人意見書において、概略、次の点を主張する。
(1)理由1:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号):実施可能要件違反
ア 請求項1~5:平面度の測定装置・測定方式等が不明であること(上記1(3)アに関連)
イ 請求項3~5:「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる」接合体および流路付きプレートを開示していないこと(本件訂正に伴う事項)
(2)理由2:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号):明確性要件違反
・ 請求項1~2:「密着する」との記載(本件訂正に伴う事項)
(3)理由3:特許法第29条第2項(同法第113条第2号):進歩性欠如
・ 請求項1~5:甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性欠如(本件訂正に伴う事項に対する理由、特許権者意見書での主張に対する反論)
3 証拠方法及び職権で引用した文献
(1)申立人による証拠方法
申立人による証拠方法は、書証として申立書に添付して提出された、次の甲第1号証~甲第9号証である。
甲第1号証:FANG Kun、ほか4名、「Application of Integrated Solid Phase Welding Method to Liquid Cooling Plate」、Electro-Mechanical Engineering、2018年2月、34巻1期、43~45及び64ページ(当審注:原文は中国語であるが、著者名、論文名、刊行物名は英語による翻訳(43ページ)を代替して表記する。)
甲第2号証:Ken Taokaが発表する「Diffusion bonded micro-channel compact pre-cooler for hydrogen station」、[オンライン]、[YouTubeに投稿された動画]、2018年4月25日、H2FCHannover、[検索日2025年8月12日]、
取得先<https://youtu.be/Yu8Twlat3_E?si=y4l6j4kTss8lsiB7>
甲第3号証:特開2009-231611号公報
甲第4号証:小谷啓子、ほか2名、「6063,5005および7N01合金の接合界面の形成相に及ぼす接合温度の影響」、溶接学会論文集、一般社団法人溶接学会、平成8年5月5日発行、14巻2号、389~397ページ
甲第5号証:池澤英晃、ほか3名、「拡散接合用Mg含有3003アルミニウム合金の開発」、日本金属学会誌、公益社団法人日本金属学会、平成17年8月20日発行、69巻8号、739~742ページ
甲第6号証:「JIS B 0621-1984 幾何偏差の定義及び表示」、[オンライン]、[テキスト]、[検索日2025年9月1日]、
取得先<https://kikakurui.com/b0/B0621-1984-01.html>
甲第7号証:特開2015-123493号公報
甲第8号証:特開平7-51867号公報
甲第9号証:「アルミニウムハンドブック(第8版)」、一般社団法人日本アルミニウム協会、2017年2月15日発行、41ページ
(2)特許権者による証拠方法
特許権者による証拠方法は、書証として特許権者意見書に添付して提出された、次の乙第1号証~乙第2号証である。
乙第1号証:日本工業標準調査会、「JIS B 0684-2:2019 製品の幾何学特性仕様(GPS)-平面度-第2部:仕様オペレータ」、一般財団法人 日本規格協会、平成31年2月20日発行、1~24ページ
乙第2号証:「ISO 12781-2:2011 Geometrical product specifications (GPS) -Flatness- Part 2: Specification operators」、国際標準化機構(ISO)、2011年4月1日発行、1~20ページ
(3)当審が職権で引用した文献
取消理由通知において、当審が職権で引用した文献は、次の職権引用文献1である。
職権引用文献1:「第2版 溶接・接合便覧」、丸善株式会社、平成15年2月25日発行、433~436ページ
(以下、甲第1号証~甲第9号証を「甲1」等といい、乙第1号証~乙第2号証を「乙1」等といい、職権引用文献1を「職権1」という。)
第5 取消理由通知の概要
本件特許の本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、取消理由通知(第1の2(2))に記載した本件特許の取消しの理由は、概略、次のとおりである。
1 取消理由1:実施可能要件
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・ 請求項1~5:平面度の測定方法について
2 取消理由2:進歩性欠如
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件訂正後の本件発明1~5に関し、以下の第6~7において、取消理由通知に記載した上記1の取消理由1、及び、上記2の取消理由2について、それぞれ検討する。
第6 本件発明1~5に対する、取消理由通知に記載した取消理由1(実施可能要件:上記第5の1)についての判断
1 取消理由通知の取消理由1の要点
本件特許の優先日(平成30年12月21日)当時には、JIS B0684-2(2019年(平成31年)2月20日)のような、平面度の測定に関する規格が存在するのか不明であり、仮に、申立人が説明するような技術常識や、精密定盤の使用面の平面度の測定に関する技術常識に基づくとすれば、複数の測定方法が存在し、平面度の測定値も異なるから、本件特許の優先日当時のどのような技術常識に基づいて、請求項1、3及び5の平面度を測定するのか不明であるため、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、3及び5に係る発明、並びに、請求項1を引用する請求項2及び請求項3を引用する請求項4に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
2 特許権者意見書及び申立人意見書を踏まえた当審の判断
JIS B0684-2(乙1)は、2019年に発行されたJIS規格であるが、本件特許の優先日より前の2011年に発行されたISO規格であるISO 12781-2(乙2)を基に作成されたものであった。
そして、JIS B0621(甲6)の4.2及び5.2を参酌すれば、平面度の定義が理解される。また、JIS B0684-2(乙1)及びISO 12781-2(乙2)によれば、平面度の測定は、プロービングシステムを用いることが理解され、それらの付属書A及びBには、種々のプロービング方式が開示されるところ、当業者であれば、技術標準として示されるこれらの方式から、最適な測定方式を採用して実施することができると理解される。
なお、申立人は、申立人意見書において、乙2の付属書Bには、異なる測定装置、特殊な測得方式の実施などの影響で測定結果に差異が生じ得る旨が記載される旨、指摘する。しかし、当該記載は、差異が生じ得ることを留意事項として示すにすぎず、平面度の定義自体は、甲6に示されるとおりであって、本件発明1~5において、乙2のいずれの方式を用いても平面度を測定することができないことを示唆する、とまでいうことはできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当該記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく当業者が本件発明1~5を実施することができる程度に記載されたものであるといえるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
第7 本件発明1~5に対する、取消理由通知に記載した取消理由2についての判断
甲1に記載された発明を主引用発明とした場合の、本件発明1~5の進歩性(上記第5の2)について、以下検討する。
1 甲1について
(1)甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。また、申立人が提出した日本語訳文(以下「甲1訳文」という。)を付記するとともに、下線を当審にて付した。
ア 43ページ1~6行
「
[図:0001438293000001.jpg]
」
(甲1訳文)
「要約:本論文では、6063アルミニウム合金製のフィン式幅広チャネル液体冷却板の放熱性能及び溶接信頼性を向上させ、レーダーシステムの電力増幅器モジュールの高集積及び大型化により熱放散が迅速に増加するという放熱要件を満たすため、2種の固相溶接方法(拡散溶接及び撹拌摩擦溶接)を統合して液体冷却板を完成する製造スキームを提案し、統合溶接方法の製造性構造設計要件を明確にし、プロセス製造パスを検証し、統合溶接方法の構造剛性に対する影響をシミュレーション及び分析した。結果から分かるように、統合溶接方法によって液体冷却板の高品質の溶接を実現でき、溶接後に構造剛性が大幅に向上する。ある電力増幅器モジュールは、統合固相溶接方法を使用して、液体冷却チャネルを成功裏に成形し、その溶接品質が設計要件を満たし、1.5MPaの使用圧力下でのチャネル表面変形量が0.015mmのみである。」
イ 43ページ右欄4行~44ページ左欄第4行
「
[図:0001438293000002.jpg]
・・・
[図:0001438293000003.jpg]
」
(甲1訳文)
「従来の液体冷却板は、主に、真空ろう付を使用して封止溶接を実現する[6]。ろう付けの溶接シームの強度が低く、チャネル内にはんだを容易に残留して不要物を形成する。フィン式液体冷却板は、撹拌摩擦溶接を使用して密封のみを実現でき、幅広チャネルの液圧下での変形問題を解決することができない。拡散溶接を使用してフィンの溶接を実現し、構造剛性の問題を解決することができるが、薄肉チャネルに対して、拡散溶接のみを使用して密封箇所に微小な漏れが発生しやすい。したがって、本文では、2種の固相溶接方法を統合する思想を使用して、フィン式幅広チャネル液体冷却板の確実な溶接の問題を解決する。」
ウ 44ページ左欄6~12行
「
[図:0001438293000004.jpg]
・・・
[図:0001438293000005.jpg]
」
(甲1訳文)
「1 構造製造性の設計分析
フィン式液体冷却板は、フィン式ハウジング及び密封カバープレートで構成される。プロセスパスは、まず、密封カバープレートの下面とフィンとの溶接を拡散溶接により実現して、幅広チャネルの構造剛性を保証し、次に、密封カバープレートの側辺とハウジングとの溶接を撹拌摩擦溶接により実現して、チャネルの密封性能を保証することである。
統合固相溶接構造の製造性設計要件を明確にし、統合溶接のプロセスパスを開拓するために、図1に示すように、大量のプロセステストによって典型的な構造の技術要件を決定した。」
エ 44ページ左欄の図1
「
[図:0001438293000006.jpg]
」
(図中の文章の甲1訳文)
「注釈:Hは、カバープレートの厚さであり、hは、カバープレートとボックスとの高度差であり、nは、フィンと段差との高度差であり、δは、カバープレートの側方隙間であり、bは、段差の幅であり、Bは、ボックスの縁部の幅である。
図1 フィン式液体冷却板の特徴寸法」
オ 44ページ左欄13行~右欄19行
「
[図:0001438293000007.jpg]
・・・
[図:0001438293000008.jpg]
」
(甲1訳文)
「拡散溶接は、主に、フィンの確実な溶接を実現するために使用される。拡散溶接に対して影響を与える構造パラメータは、カバープレートの厚さH、カバープレートとボックスとの高度差h、フィンと段差との高度差n及びカバープレートの側方隙間δを含む。
(1)カバープレートの厚さについて、一方では、液体冷却板チャネル内の冷却液には、一般的に一定の圧力が存在するため、カバープレートは、構造剛性を保証するために一定の厚さを有する必要がある。一方では、カバープレートが薄いほど、カバープレートの表面に密着した部材の放熱効果が高くなるため、カバープレートの厚さ寸法の設計は、構造剛性を保証する前提で、できるだけ小さく設計すべきである。
(2)カバープレートとボックスとの高度差について、拡散溶接は、拡散溶接用の圧力を容易に加えるために、カバープレートの表面がボックスの表面よりも高いことが要求される。拡散溶接の押し下げ量が0.3~0.5mmであるため、カバープレートとボックスとの高度差h≧0.3mmである。
(3)フィンと段差との高度差について、フィンとカバープレートとの好適な溶接を保証し、押し下げ過程においてカバープレートの周囲の段差がフィンとカバープレートとの接触を制限することを防止するために、フィンの高度が段差の高度よりも大きいことが要求される必要がある。また、カバープレートが拡散溶接後に緊密に接触することができないことを防止するために、フィンと段差との高度差が(0.1±0.05)mmであることが要求される。
(4)カバープレートの側方隙間について、カバープレートとボックスとは、通常、隙間嵌めを使用し、カバープレートの側方隙間が小さすぎる場合、カバープレートの押し下げ過程において、接触したボックスの縁部が変形することを引き起こし、後続の撹拌摩擦溶接に影響を与えることがあるため、カバープレートの側方隙間δ≧0.1mmであることが要求される。
撹拌摩擦溶接は、主に、密封カバープレートの密封を実現するために使用される。撹拌摩擦溶接に対して影響を与える構造パラメータは、カバープレートの厚さ、カバープレートとボックスとの高度差、カバープレートの側方隙間、段差の幅b及びボックスの縁部の幅Bを含む。
前期研究結果[3]から分かるように、カバープレートとボックスとの高度差h≦0.1mmであり、段差の幅bがカバープレートの厚さHに等しく、カバープレートの側方隙間δ≦0.1mmであることが要求される。
撹拌摩擦溶接技術の発展につれて、特に、軸肩が狭いプローブの適用成熟度の向上につれて、現在の段差の幅b≧75%Hであり、カバープレートの側方隙間をδ≦0.2mmに制御すればよい。ボックスの縁部の幅に対して、撹拌ピンの長さと軸肩の直径との比が約1:3であり、ボックスの縁部の幅が一般的に軸肩の半径よりも大きいことを考慮するため、ボックスの縁部の幅B≧3H/2であることが要求される。
上記2種の固相溶接方法の要件を合わせて、両者のカバープレートとボックスとの高度差に対する要件が統一ではない。したがって、拡散溶接を保証した後、かつ撹拌摩擦溶接の前に、カバープレートとボックスとの高度差が撹拌摩擦溶接の要件を満たすために、該値は、拡散溶接プロセスの押し下げ量に基づいて設計される必要がある。押し下げ量が0.3mmである場合、カバープレートとボックスとの高度差を0.3~0.4mmに制御すべきである。上記検討に基づいて、統合固相溶接方法の液体冷却板の構造寸法に対する要件は、表1に示される。」
カ 44ページ右欄の表1
「
[図:0001438293000009.jpg]
」
(甲1訳文)
「
[図:0001438293000010.jpg]
」
キ 44ページ右欄の図2
「
[図:0001438293000011.jpg]
」
(甲1訳文)
「
[図:0001438293000012.jpg]
」
ク 44ページ右欄下から2行~45ページ左欄11行
「
[図:0001438293000013.jpg]
・・・
[図:0001438293000014.jpg]
」
(甲1訳文)
「2.2 拡散溶接プロセスの制御
拡散溶接プロセスパラメータは、拡散溶接の温度が530℃であり、保温時間が1.5hであり、圧力が2.5MPaであり、真空度が1.33×10-5~1.33×10-4Paである。出炉温度が80℃よりも低い。金属組織写真によれば、拡散溶接シームが好適に接合され、穴、亀裂及び未溶接などの欠陥が見当たらないことが分かる。拡散溶接継手の引張特性に対する測定によれば、継手がいずれも界面で破断し、平均強度が92.4MPaであることが分かり、これにより、拡散溶接継手の強度が母材の強度と同等であることが分かる。
図3は、接合界面での微細組織を示す。200倍の金属組織写真では、元の界面を観察することは困難であるが、1000倍の金属組織写真では、断続的に分布する介在物を観察することができる。該介在物は、界面での酸化膜であり、その寸法がサブマイクロレベルに達し、継手の性能に対する影響が小さい。継手の微細組織によれば、拡散効果が高く、継手に未溶接の欠陥がないことが分かる。」
ケ 44ページ左欄の図3
「
[図:0001438293000015.jpg]
」
(図中の文章の甲1訳文)
「図3 界面での微細組織」
(2)甲1に記載されているといえる事項
上記(1)から、甲1には、次の技術的事項が記載されているといえる。
ア 甲1には、フィン式ハウジング(以下単に「ハウジング」ということがある。)及び密封カバープレート(以下単に「カバープレート」ということがある。)で構成されるフィン式液体冷却板についての発明が記載されており(上記(1)ウ)、当該フィン式液体冷却板は、6063アルミニウム合金からなる(上記(1)ア)。
イ 図1(上記(1)エ)からみて、ハウジングのフィン同士の間隙や、フィンとハウジングの内壁の間隙により、幅広チャネル(上記(1)ウ)が形成されるといえる。また、技術常識から、この幅広チャネルに液体が流通するといえる。
ウ ハウジングのフィンの上面とカバープレートの下面とは、拡散溶接により溶接され、ハウジングのボックスとカバープレートの側辺は、プローブ・撹拌ピンによる撹拌摩擦溶接により溶接される(上記(1)ア~ウ、オ、キ)。
ここで、一般的に「溶接」は対象物を溶融する接合をいうところ、当該「拡散溶接」及び「撹拌摩擦溶接」では、対象物が溶融しないことは明らかであるから(上記(1)ア~ウ、オには、固相溶接方法と記載される。)、当業者であれば、甲1訳文でいう「溶接」は「接合」を意味し、「拡散溶接」及び「撹拌摩擦溶接」は、「拡散接合」及び「撹拌摩擦接合」を意味すると理解できる(以下「溶接」に代えて「接合」と表現する。)。
エ 図2(上記(1)キ)からみて、拡散接合の工程(以下「拡散接合工程」という。)及び撹拌摩擦接合の工程(以下「撹拌摩擦接合工程」という。)の前には、組み立ての工程(以下「組み立て工程」という。)があるといえる。当該組み立て工程は、図1(上記(1)エ)からみて、拡散接合工程の前に、ハウジングのフィンの上面にカバープレートの下面が接触するように、ハウジングにカバープレートを被せる工程であるといえる。
そして、上記(1)オには、拡散接合に対して影響を与える構造パラメータとして、カバープレートの厚さH、カバープレートとボックスとの高度差h、フィンと段差との高度差n及びカバープレートの側方隙間δが示されており、上記(1)オの(1)~(4)には、拡散接合工程での押し下げ過程を適切に行うための拡散接合前における各パラメータの適切な数値範囲が示されている。そのうち、上記(1)オの(3)のフィンと段差との高度差nに関する記載について着目すると、押し下げ過程、すなわち、拡散接合工程の段階で、カバープレートの周囲がハウジングの段差に接触して、フィンとカバープレートとの加圧接触、すなわち、拡散接合が妨げられるのを防ぐため、拡散接合前の段階で、フィンの上面が段差に対して高低差n=(0.1±0.05)mmであることが要求されることがわかる。言い換えれば、フィンの上面は、その全てが、段差の高さを基準として、0.05~0.15mmの範囲に位置することで、フィンとカバープレートとの好適な拡散接合を保証するものであると理解できる。また、密封カバープレートの下面についても、拡散接合工程の段階で、フィンの上面には接触するが、ハウジングの段差に接触しないことが示唆されているから、段差の高さを基準として、0.05~0.15mmの範囲に位置すると解するのが相当である。
他方、上記(1)オの(4)のカバープレートの側方隙間δに関する記載について着目すると、カバープレートとハウジングのボックスとは、通常、隙間嵌めを使用すること、カバープレートの側方隙間が小さすぎる場合、カバープレートの押し下げ過程において、接触したボックスの縁部が変形することを引き起こし、後続の撹拌摩擦接合に影響を与えることがあるため、カバープレートの側方隙間δ≧0.1mmであることが要求されることが示される。してみると、上記ウの撹拌摩擦接合がなされる接合面である、ハウジングのボックスとカバープレートの側辺との間には隙間が設けられているといえる。
なお、上記(1)オの(2)のカバープレートとボックスとの高度差hは、拡散接合工程において、カバープレートを押し下げ量に準じて高度差h≧0.3mmであることが示されるとともに、上記(1)オの後段には、拡散接合(押し下げ量:0.3mm)後になされる撹拌摩擦接合を考慮すると、高度差hを0.3~0.4mmの範囲(すなわち、拡散接合後であって撹拌摩擦接合前の状態で0.0~0.1mm)に制御すべきことが示される(上記(1)カの表1を併せて参照。)。言い換えれば、カバープレートの高さ寸法(すなわち、上面と下面との間の寸法)は、0.1mm以下の範囲での寸法誤差しか許容されないことが理解される。
オ 上記エの拡散溶接は、温度が530℃、圧力が2.5MPaで行われる(上記(1)ク)から、甲1には、フィン式液体冷却板についての発明とともに、フィン式液体冷却板を製造するための拡散接合方法を含む統合接合方法についての発明も実質的に記載されているといえる。
(3)甲1方法発明
上記(1)~(2)に示した事項を、本件特許の請求項1の記載に合わせて整理すると、甲1には、統合接合方法に関する次の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されているといえる。なお、括弧内に甲1方法発明の用語に対応する本件発明1の用語を付記する。
「6063アルミニウム合金(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、液体(媒体)を流通させる幅広チャネル(流路)が形成されるハウジング(本体部)と、6063アルミニウム合金からなり、前記ハウジングの前記幅広チャネルを覆うカバープレート(カバー)とを接合する統合接合方法(接合方法)であって、
前記ハウジングのフィンの上面(接合面)の高さ及び前記カバープレートの下面(接合面)の高さは、前記ハウジングの段差の高さを基準として、それぞれ0.05~0.15mmの範囲に位置し、
前記ハウジングの前記幅広チャネルの開口側のフィンの上面が前記カバープレートの下面と接触し、かつ、前記ハウジングのボックス(接合面)と前記カバープレートの側辺(接合面)との間には隙間が設けられるように、前記ハウジングに前記カバープレートを被せる組み立て工程(被覆ステップ)と、
温度(接合温度)が530℃、圧力(接合面圧)が2.5MPaの条件下で拡散接合することによって、前記ハウジングのフィンの上面と前記密封カバープレートの下面とを接合する拡散接合工程(拡散接合ステップ)と、
前記密封カバープレートの側辺と前記ハウジングのボックスとを接合する撹拌摩擦接合工程と、
を含む統合接合方法(接合方法)。」
(4)甲1装置発明
上記(1)~(2)に示した事項を、本件特許の請求項3、5の記載に合わせて整理すると、甲1には、フィン式液体冷却板に関する次の発明(以下「甲1装置発明」という。)が記載されているといえる。なお、括弧内に甲1装置発明の用語に対応する本件発明3、5の用語を付記する。
「6063アルミニウム合金(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、液体(媒体)を流通させる幅広チャネル(流路)が形成されるハウジング(本体部)と、
6063アルミニウム合金からなり、前記ハウジングの前記幅広チャネルを覆うカバープレート(カバー)と、
を備え、
前記ハウジングのフィンの上面(接合面)の高さ及び前記カバープレートの下面(接合面)の高さは、前記ハウジングの段差の高さを基準として、それぞれ0.05~0.15mmの範囲に位置し、
前記ハウジングの前記幅広チャネルの開口側のフィンの上面と前記カバープレートの下面とが、拡散接合され、前記ハウジングのボックス(接合面)と前記カバープレートの側辺(接合面)とが、撹拌摩擦接合されてなる、
フィン式液体冷却板(接合体、流路付きプレート)。」
2 本件発明1の進歩性について
(1)本件発明1と甲1方法発明との対比
本件発明1と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明における「6063アルミニウム合金」は、本件発明1における「アルミニウムまたはアルミニウム合金」に相当し、以下同様に、「液体」は「媒体」に、「幅広チャネル」は「流路」に、「ハウジング」は「本体部」に、「カバープレート」は「カバー」に、それぞれ相当する。
また、甲1方法発明における「組み立て工程」及び「拡散接合工程」は、本件発明1における「被覆ステップ」及び「拡散接合ステップ」にそれぞれ相当する。そして、甲1方法発明における「統合接合方法」は、「組み立て工程」と「拡散接合工程」と「撹拌摩擦接合工程」とを含むことから、本件発明1における「被覆ステップ」と「拡散接合ステップ」とを含む「接合方法」に相当する。
さらに、甲1方法発明における「ハウジングの幅広チャネルの開口側のフィンの上面」及び「カバープレートの下面」は拡散接合される面であり、「ハウジングのボックス」及び「カバープレートの側辺」は撹拌摩擦接合される面であるから、いずれも、本件発明1における「接合面」に相当する。そして、甲1方法発明における「前記ハウジングの前記幅広チャネルの開口側のフィンの上面が前記カバープレートの下面と接触し、かつ、前記ハウジングのボックスと前記カバープレートの側辺との間には隙間が設けられる」ことと、本件発明1における「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てが前記カバーと密着する」こととは、甲1方法発明において、ハウジングの段差がカバープレートの下面に接触しておらず、かつ、ハウジングのボックスとカバープレートの側辺との間には隙間が設けられ、ハウジングのフィンの上面とカバープレートの下面のみが接触することから、両者は、「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の少なくとも一部が前記カバーと密着する」ことの限りで一致する。
また、甲1方法発明における「温度」及び「圧力」は、本件発明1における「接合温度」及び「接合面圧」に相当する。そして、甲1方法発明における「530℃」との温度は、本件発明1における「500℃以上640℃以下」との接合温度の範囲に包含されるから、両者は一致し、同様に、「2.5MPa」との圧力は、「0.7MPa以上3MPa以下」との接合面圧の範囲に包含されるから、両者は一致する。
(2)本件発明1と甲1方法発明との一致点
上記(1)から、本件発明1と甲1方法発明とは次の点で一致する。
「アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーとを接合する接合方法であって、
前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の少なくとも一部が前記カバーと密着するように前記本体部に前記カバーを被せる被覆ステップと、
接合温度が500℃以上640℃以下、接合面圧が0.7MPa以上3MPa以下の条件下で拡散接合することによって、前記本体部と前記カバーとを接合する拡散接合ステップと、
を含む接合方法。」
(3)本件発明1と甲1方法発明との相違点
他方、本件発明1と甲1方法発明とは次の相違点1~2で相違する。
ア 相違点1
接合面の平面度に関し、
本件発明1においては、「前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であ」るのに対し、
甲1方法発明においては、「前記ハウジングのフィンの上面の高さ及び前記カバープレートの下面の高さは、前記ハウジングの段差の高さを基準として、それぞれ0.05~0.15mmの範囲に位置」するものの、平面度については不明である点。
イ 相違点2
本体部にカバーを被せる被覆ステップに関し、
本件発明1においては、本体部の流路の開口側の「接合面の全て」がカバーと密着するのに対し、
甲1方法発明においては、ハウジングのフィンの上面とカバープレートの下面は接触するものの、ハウジングの段差がカバープレートの下面に接触しておらず、かつ、ハウジングのボックスとカバープレートの側辺との間には隙間が設けられている点。
(4)相違点に対する判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲1方法発明は、上記1(1)ア~イに記載されるように、拡散接合のみで接合すると、1.5MPaもの幅広チャネルの液圧下においても強度が高く十分な剛性が得られるものの、密封箇所に微小な漏れが発生しやすく、撹拌摩擦接合のみで接合すると、密封を実現できるものの、当該液圧下で変形する問題があることから、拡散接合と撹拌摩擦接合の2種の固相接合方法を統合することに至った発明であるといえる。
そして、上記1(2)エに示したように、甲1方法発明においては、拡散接合と撹拌摩擦接合の2種の固相接合を適切に行うために、カバープレートとハウジングのボックスとは隙間嵌めを使用するのであって、カバープレートの側方隙間が小さすぎる場合、カバープレートの押し下げ過程において、接触したボックスの縁部が変形することを引き起こし、後続の撹拌摩擦接合に影響を与えることがあるため、カバープレートの側方隙間δ≧0.1mmであることが要求される。さらに、フィンと段差との高度差についても、拡散接合工程での押し下げ過程において、カバープレートの周囲がハウジングの段差に接触して、フィンとカバープレートとの拡散接合が妨げられるのを防ぐために、拡散接合前の段階で、フィンの上面が段差に対して高低差n=(0.1±0.05)mmの隙間が要求される。
してみると、フィン式液体冷却板を接合する方法として、仮に、拡散接合のみを用いるものであって、拡散接合ステップの前段階である本体部にカバーを被せる被覆ステップにおいて、本体部の流路の開口側の「接合面の全て」をカバーと密着させることが、例えば、甲2~甲9若しくは職権1に記載された事項若しくは発明(後述の第8の2(1)~(9)参照)又は例示するまでもない技術常識からみて、本件特許の出願前(優先日前)に当業者にとって周知の技術であったとしても、甲1方法発明に当該周知の技術を適用することには阻害要因があるといえる。
したがって、甲1方法発明を主引用発明とした場合、甲1方法発明から出発して、上記相違点2に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことである、ということはできない。
(5)申立人の申立人意見書における主張について
ア 申立人は、申立人意見書において、概略、次の旨を主張する。
(ア)甲1に開示される、0.3≦h≦0.4mm、n=0.1±0.05mmとの構造パラメータは、特許権者が主張する「拡散接合後」ではなく、「拡散接合前」の時点の値である。(申立人意見書5~6ページの(A))
(イ)甲1方法発明では、拡散接合工程での押し下げ過程でハウジングのフィンが圧縮又は屈曲され得るといえ、拡散接合のみでは密封箇所に微小な漏れが発生しやすいことも開示される(上記1(1)イ)から、ハウジングの段差の上面とカバープレートの下面とは、拡散接合が発生する可能性がある。(申立人意見書6ページの(A)、8ページの(C))
(ウ)甲1に開示されたn=0.1±0.05mmとの設計条件に基づけば、ハウジングの、段差上面とフィン上面とを含む仮想面の平面度を小さくすべきであることを当然に理解する。(申立人意見書6~7ページの(B))
(エ)甲1に開示されたn=0.1±0.05mmとの設計条件に基づくと、フィン上面が0.1mm(段差上面+0.1mmの高さに対して±0.05mmの範囲内)の平面度を有する点を考慮すれば、接合面の緊密な接触が求められる拡散接合において、フィン上面と拡散接合されるカバープレート下面の平面度を、フィン上面と同程度又はより平坦に制御することは当業者にとって容易に想到し得る事項である。(申立人意見書7ページの(B))
(オ)甲1において、密封性を確保するために最終的に撹拌摩擦接合を行うことが開示されていたとしても、段差の上面とカバープレートの下面とを拡散接合により接合された後さらに撹拌摩擦接合により補強する構成は排除されないから、チャネルの開口側の接合面の全てを拡散接合することに対し、阻害要因は存在しない。そして、接合面の全てを拡散接合して接合体を作製することは、文献を挙げるまでもなく周知の技術である。(申立人意見書7ページの(C))
(カ)甲1には、上記(イ)のとおり、拡散接合のみでは密封箇所に微小な漏れが発生しやすいことが開示される(上記1(1)イ)が、「しやすい」との記載から、単に歩留まりや信頼性が不十分であったものが生じることもあるという程度の意味といえ、いくつかの例では密封面を拡散接合のみで接合することもできが、歩留まりや信頼性を向上させるために予防的に撹拌摩擦接合が行われるものと理解される。そして、本件特許における接合体においても、図6A~図7Dの接合界面には、μmスケールの欠陥が存在するから、微小な漏れが発生しやすい接合体であると考えられる。(申立人意見書8~9ページの(C))
(キ) また、甲1に開示される冷却プレートと本件特許の冷却プレートとは、幾何学的な設定の違いがあり、甲1方法発明で本件特許に開示されたような肉厚冷却プレートを製造する場合、カバーと本体とを拡散接合のみで接合することを容易に想到し得る。(申立人意見書9~10ページの(C))
イ 申立人による上記アの主張について検討する。
(ア)上記ア(ア)及び(エ)の主張については、上記1(2)エに示したように、当審においても申立人と同様の認定・判断である。なお、上記ア(エ)の点は、相違点1(上記(3)ア)に対応する主張であり、取消理由通知の第4の3(3)において判断を示したとおりである。
(イ)他方、上記ア(イ)~(ウ)、(オ)~(キ)の主張については、採用することができない。
上記ア(イ)~(ウ)についてみると、上記(4)に示したように、甲1方法発明においては、フィンと段差との高度差に関し、拡散接合工程での押し下げ過程において、カバープレートの周囲がハウジングの段差に接触して、フィンとカバープレートとの拡散接合が妨げられるのを防ぐために、拡散接合前の段階で、フィンの上面が段差に対して高低差n=(0.1±0.05)mmの隙間が要求される(上記1(2)エ)ものであって、ハウジングの段差の上面とカバープレートの下面との接触を避ける意図が示されるから、両者を拡散接合させることを想定し得ない。
また、拡散接合工程での押し下げ過程でハウジングのフィンが圧縮又は屈曲され得るとの主張に関し、材料力学の一般的な知見からみて、圧縮荷重を受ける物体は、物性値である「ポアソン比」に基づいて、圧縮荷重の方向に圧縮されるとともに直交する方向に延びる変形をすると解されるところ、甲1方法発明においても、カバープレートに作用する圧力は、フィン上部に反作用を与えると同時に、カバープレート自体が、圧縮されるとともにカバープレートの側方隙間δを埋める方向に変形すると解されるから、甲1の0.3mmの押し下げ過程に関する記載をもって、直ちにハウジングの段差の上面とカバープレートの下面とが接触して拡散接合されるとまでいうことはできない。
さらに、上記相違点2は、本体部にカバーを被せる被覆ステップについてであり、上述の意図を考慮すれば、甲1方法発明における、拡散接合工程前の組み立て工程の段階では、少なくとも、ハウジングの段差の上面とカバープレートの下面とは密着しているということはできないし、両者の間には意図的に間隔が設けられているといえるから、両者が密着するようにハウジングにカバープレートを被せることが当業者にとって容易であるともいえない。
上記ア(オ)についても、上記ア(イ)~(ウ)に対する検討のとおりであり、また、上記(4)にて検討したように、甲1方法発明に周知の技術を適用することには阻害要因があるといえ、甲1方法発明から出発して、上記相違点2に係る本件発明1を想到することは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。
上記ア(カ)については、甲1には、拡散接合のみでの接合は、従前の課題のある接合方法であるとして明示されるから、甲1方法発明を、あえて従前の技術のように拡散接合のみで接合するように改変することの動機が見出せない。
上記ア(キ)については、「本件特許に開示されたような肉厚冷却プレートを製造する場合」と、本件特許の記載に基づく主張であるから、いわゆる後知恵であって、他の甲号証との組合せに基づく主張であるともいえないから、採用することができない。
(ウ)以上のとおり、申立人の上記アの主張を参照しても、当業者が、甲1方法発明から出発して、上記相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た、とまでいうことはできない。
(6)本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1方法発明及び甲2~甲9並びに職権1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
3 本件発明2の進歩性について
本件発明2は、請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて含むことから、本件発明2と甲1方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2と同様の点で相違する。
そして、上記相違点2に係る本件発明2の構成を当業者が容易に想到し得ないことは、上記2のとおりである。
したがって、本件発明2は、甲1方法発明及び甲2~甲9並びに職権1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
4 本件発明3の進歩性について
(1)本件発明3と甲1装置発明との一致点
本件発明3(上記第3)と甲1装置発明(上記1(4))とを対比すると、両者は上記2(1)の相当関係と同様の関係が認められ、また、甲1装置発明における「フィン式液体冷却板」は、本件発明3における「接合体」に相当する。
してみると、本件発明3と甲1装置発明とは次の点で一致する。
「アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーと、
を備え、
前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の少なくとも一部と前記カバーとが、拡散接合されてなる
接合体。」
(2)本件発明3と甲1装置発明との相違点
他方、本件発明3と甲1装置発明とは次の相違点3~4で相違する。
ア 相違点3
接合面の平面度に関し、
本件発明3においては、「前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であ」るのに対し、
甲1装置発明においては、「前記ハウジングのフィンの上面の高さ及び前記カバープレートの下面の高さは、前記ハウジングの段差の高さを基準として、それぞれ0.05~0.15mmの範囲に位置」するものの、平面度については不明である点。
イ 相違点4
本体部とカバーとの拡散接合に関し、
本件発明3においては、本体部の流路の開口側の「接合面の全て」とカバーとが、拡散接合されてなるのに対し、
甲1装置発明においては、ハウジングのフィンの上面とカバープレートの下面は拡散接合されてなるものの、ハウジングのボックスとカバープレートの側辺とは、撹拌摩擦接合されてなる点。
(3)相違点に対する判断
事案に鑑み、まず相違点4について検討する。
甲1装置発明は、上記1(1)ア~イに記載されるように、拡散接合のみで接合すると、1.5MPaもの幅広チャネルの液圧下においても強度が高く十分な剛性が得られるものの、密封箇所に微小な漏れが発生しやすく、撹拌摩擦接合のみで接合すると、密封を実現できるものの、当該液圧下で変形する問題があることから、拡散接合と撹拌摩擦接合の2種の固相接合方法を統合して作製された「フィン式液体冷却板」であるといえる。
してみると、フィン式液体冷却板として、仮に、本体部の流路の開口側の「接合面の全て」とカバーとを、拡散接合して作製されることが、例えば、甲2~甲9若しくは職権1に記載された事項若しくは発明(後述の第8の2(1)~(9)参照)又は例示するまでもない技術常識からみて、本件特許の出願前(優先日前)に当業者にとって周知の技術であったとしても、甲1装置発明に当該周知の技術を適用することには阻害要因があるといえる。
また、申立人意見書による申立人の主張(上記2(5)ア)についてみても、上記2(5)イと同様の見解であるから、甲1装置発明を主引用発明とした場合、甲1装置発明から出発して、上記相違点4に係る本件発明3の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことである、ということはできない。
(4)本件発明3についての小括
したがって、本件発明3は、相違点3について検討するまでもなく、甲1装置発明並びに甲2~甲9及び職権1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
5 本件発明4~5の進歩性について
本件発明4は、請求項3の記載を引用するものであり、本件発明3の発明特定事項をすべて含むことから、本件発明4と甲1装置発明とを対比すると、少なくとも上記相違点4と同様の点で相違する。
また、本件発明5は、「流路付きプレート」に係る発明である点で、本件発明3の「接合体」に係る発明と異なるものの、その他の発明特定事項に差異はないから、本件発明5と甲1装置発明とを対比すると、少なくとも上記相違点4と同様の点で相違する。
そして、上記相違点4に係る本件発明4~5の構成を当業者が容易に想到し得ないことは、上記4のとおりである。
したがって、本件発明4~5は、甲1装置発明並びに甲2~甲9及び職権1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
第8 取消理由通知で採用しなかった申立ての理由について
申立人の申立書による申立ての理由(上記第4)のうち、取消理由通知にて採用しなかった理由について、以下検討する。
1 申立ての理由1:甲1に記載された発明による新規性欠如(上記第4の1(1))
本件発明1と甲1方法発明とを対比すると、少なくとも相違点2で相違し、本件発明3又は5と甲1装置発明とを対比すると、少なくとも相違点4でそれぞれ相違し、当該相違点2及び4は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1方法発明であるとはいえず、また、本件発明3又は5は、甲1装置発明であるとはいえない。
したがって、本件発明1、3及び5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するとはいえないから、本件特許の請求項1、3及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 申立ての理由2:甲2又は甲3に記載された発明を主引用発明とした進歩性欠如(上記第4の1(2)イ~ウ)
(1)甲2について
ア 甲2に開示された事項
甲2は、動画であって、申立人が提出した日本語の抄訳(以下「甲2抄訳」という。)に示された、次の事項が開示されるといえる。なお、各見出しの時間は、再生開始からの経過時間を示すものであり、音声での説明の日本語訳と画面キャプチャの日本語訳を示している。
(ア)2分6秒~2分38秒
「拡散接合は原子の拡散を利用します。」
「はじめに部品を作り、それらを積み重ね、拡散接合炉を利用し、力と熱を利用し、それらを炉内に放置すると、金属が自然に拡散し、一体化します。」
「一体となった後は、それは元の材料の強度を維持します。」
「
[図:0001438293000016.jpg]
」
(イ)2分41秒~3分2秒
「
[図:0001438293000017.jpg]
」
(ウ)3分17秒~3分20秒
「
[図:0001438293000018.jpg]
」
(エ)3分21秒~3分29秒
「融点よりもずっとずっと低い温度で、熱であるエネルギーを加えます。」
「
[図:0001438293000019.jpg]
」
(オ)3分30秒~3分32秒
「
[図:0001438293000020.jpg]
」
(カ)3分51秒~4分5秒
「これはアルミニウムの半導体設備部品です。」
「
[図:0001438293000021.jpg]
」
(キ)5分0秒~5分36秒
「拡散接合の利点として、デバイス内の正確な精度を維持できます。」
「
[図:0001438293000022.jpg]
」
(ク)5分37秒~5分41秒
「
[図:0001438293000023.jpg]
」
(ケ)5分42秒~5分51秒
「
[図:0001438293000024.jpg]
」
イ 甲2方法発明
上記アに開示された事項を、本件特許の請求項1の記載に合わせて整理すると、甲2には、接合方法に関する次の発明(以下「甲2方法発明」という。)が記載されているといえる。なお、括弧内に甲2方法発明の用語に対応する本件発明1の用語を付記する。
「5052アルミニウム合金(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、媒体を流通させる流路が形成される下側プレート(本体部)と、5052アルミニウム合金(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、前記下側プレートの前記流路を覆う上側プレート(カバー)とを接合する接合方法であって、
前記下側プレートの前記流路の開口側の接合面の少なくとも一部が前記上側プレートと密着するように前記下側プレートに前記上側プレートを積み重ねるステップ(被せる被覆ステップ)と、
融点よりも低い温度(接合温度)、所定の圧力(接合面圧)の条件下で拡散接合することによって、前記下側プレートと前記上側プレートとを接合する拡散接合ステップと、
を含む接合方法。」
ウ 甲2装置発明
上記アに開示された事項を、本件特許の請求項3、5の記載に合わせて整理すると、甲2には、流路付きプレートに関する次の発明(以下「甲2装置発明」という。)が記載されているといえる。なお、括弧内に甲2装置発明の用語に対応する本件発明3、5の用語を付記する。
「5052アルミニウム合金(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、媒体を流通させる流路が形成される下側プレート(本体部)と、
5052アルミニウム合金(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、前記下側プレートの前記流路を覆う上側プレート(カバー)と、
を備え、
前記下側プレートの前記流路の開口側の接合面の全てと前記上側プレートとが、拡散接合されてなる
流路付きプレート(接合体、流路付きプレート)。」
(2)甲3について
ア 甲3方法発明
甲3の、段落【0004】~【0005】、【0027】~【0036】の記載事項、及び、図3~6の図示内容から、甲3には、接合方法に関する次の発明(以下「甲3方法発明」という。)が記載されているといえる。なお、括弧内に甲3方法発明の用語に対応する本件発明1の用語を付記する。
「アルミニウム等の金属(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、冷却媒体(媒体)を流通させる流路203a(流路)が形成される第3の平板203(本体部)と、アルミニウム等の金属(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、前記第3の平板203の前記流路203aを覆う第2の平板202(カバー)とを接合する接合方法であって、
前記第3の平板203の前記流路203aの開口側の接合面の少なくとも一部が前記第2の平板202と密着するように前記第3の平板203に前記第2の平板202を重ね合わせるステップ(被せる被覆ステップ)と、
所定の加熱(接合温度)、所定の圧力(接合面圧)の条件下で拡散接合することによって、前記第3の平板203と前記第2の平板202とを接合する拡散接合ステップと、
を含む接合方法。」
イ 甲3装置発明
また、甲3の上記アに示した段落の記載事項及び図面の図示内容から、甲3には、シャワープレート200に関する次の発明(以下「甲3装置発明」という。)が記載されているといえる。なお、括弧内に甲3装置発明の用語に対応する本件発明3、5の用語を付記する。
「アルミニウム等の金属(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、冷却媒体(媒体)を流通させる流路203a(流路)が形成される第3の平板203(本体部)と、
アルミニウム等の金属(アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなり、前記第3の平板203の前記流路203aを覆う第2の平板202(カバー)と、
を備え、
前記第3の平板203の前記流路203aの開口側の接合面の全てと前記第2の平板202とが、拡散接合されてなる
シャワープレート200(接合体、流路付きプレート)。」
(3)甲4について(甲4記載の技術的事項)
甲4の、389ページ左欄1~5行、389ページ右欄6行~390ページ左欄1行、393ページ右欄5~10行の記載、並びに、389ページ右欄のTable 1~2及び393ページのFig.9の内容から、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「アルミニウム6063合金からなる丸棒の接合用試片を、接合温度Twが793~893K、接合圧力Pwが4.0MPa(at Tw=793K)~1.0MPa(at Tw=893K)の条件下で拡散接合すると、継手の引張り強さが約40MPa(at Tw=793K)~約160MPa(at Tw≧843K)であること。」
(4)甲5について(甲5記載の技術的事項)
甲5の、739ページ左欄8~14行、739ページ右欄5行~740ページ左欄18行の記載、及び、図1の図示内容から、甲5には、次の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「アルミニウムA3003にMgを添加した合金からなる丸棒状の接合試験片を、2MPaで加圧したまま所定温度まで高周波誘導加熱して拡散接合すると、加熱温度が575℃~600℃の場合、接合部の引張り強さが向上し、接合界面でなく、母材破断に至ること。」
(5)甲6について(甲6記載の技術的事項)
甲6の、「5.2 平面度」の欄には、次の技術的事項(以下「甲6記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「平面度は、平面形体(P)を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる場合の、二平面の間隔(f)で表し(図5)、平面度_mm又は平面度_μmと表示する。」
(6)甲7について(甲7記載の技術的事項)
甲7の、段落【0009】、【0014】~【0018】の記載及び図1~4の図示内容から、甲7には、次の技術的事項(以下「甲7記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「1050や1N30といった純Al又はAC3AやAC8A等の鋳造用Al合金である基材、及び、炭化珪素、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウムまたはジルコニア等のセラミックスである強化材により構成される複合材料からなる第1部材21と第2部材との間に、接合材3を配置して接合することで、接合体10を作製するにあたり、
第1部材21の接合面(下面)211および第2部材22の接合面(上面)221は、その表面粗さRaが0.03~0.60[μm]に加工され、
接合面211及び221の平面度を、50μm以下、より好ましくは20μm以下に調整し、
第1部材21の接合面211と第2部材22の接合面221との間に、箔状のAl-Mg合金である接合材3を配置して、接合面211及び221の垂線方向に圧力Pが印可されながら所定時間にわたり熱処理された後で冷却されることにより、第1部材21および第2部材22が接合材3由来の接合層30を介して固相接合された接合体10を得ること。」
(7)甲8について(甲8記載の技術的事項)
甲8の、段落【0001】~【0004】の記載及び図2~3の図示内容から、甲8には、次の技術的事項(以下「甲8記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「Al合金からなる部材A,Bを固相で拡散接合させるにあたり、
接合しようとする部材A,Bは金属材料であって、その結晶粒径が1μm以下と細かく、接合面が十点平均粗さで0.1~0.2μm以下に仕上げられて清浄であることが要求されること。」
(8)甲9について(甲9記載の技術的事項)
甲9には、41ページの表5.2.1において、次の技術的事項(以下「甲9記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「アルミニウム合金の引張り強さは、それぞれ、
6061-O合金が125N/mm2
6061-T4,T451合金が240N/mm2
6061-T6、T651合金が310N/mm2
6063-O合金が90N/mm2
6063-T4合金が170N/mm2
6063-T6合金が240N/mm2
であること。」
(9)職権1について(職権1記載の技術的事項)
当審が取消理由通知にて職権で引用した職権1には、以下の事項が記載されている。なお、注釈の番号を示す上付き数字の表記は省略する。
ア 434ページ右欄下から2行~435ページ左欄6行
「アルミニウム形:酸化皮膜が非常に安定で、拡散接合中に消失しない。接合部の変形によって清浄面が露出し、わずかな接合箇所が得られる。アルミニウムがこの形に属する。
ただし、アルミニウム合金でも、合金元素(特にMg)の種類によっては鋼、鉄形に近づき、6000系統の合金では接合部の強度を母材なみに近づけることができる。」
イ 435ページ左欄12~19行
「13・2・3 表面処理
一般の金属材料の表面は微細な凹凸と表面被膜に覆われており、これらを接合に好ましい状態に制御するために、接合前あるいは接合中に表面処理が行われる。
接合面の凹凸については、接合面の密着化の観点から、表面粗さをできるだけ小さくするのがよく、機械的あるいは化学的研磨によって、表面粗さを2.5μm以下にすることが望ましい。」
(10)甲2方法発明を主引用発明とする本件発明1の進歩性について(上記第4の1(2)イ)
ア 本件発明1と甲2方法発明との一致点
本件発明1(上記第3)と甲2方法発明(上記(1)イ)とを対比すると、両者は次の点で一致する。
「アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーとを接合する接合方法であって、
前記本体部の前記流路の開口側の接合面の少なくとも一部が前記カバーと密着するように前記本体部に前記カバーを被せる被覆ステップと、
接合温度が融点以下、接合面圧が所定の圧力の条件下で拡散接合することによって、前記本体部と前記カバーとを接合する拡散接合ステップと、
を含む接合方法。」
イ 本件発明1と甲2方法発明との相違点
他方、本件発明1と甲2方法発明とは次の相違点5~7で相違する。
(ア)相違点5
接合面の平面度に関し、
本件発明1においては、「前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であ」るのに対し、
甲2方法発明においては、下側プレートの接合面と上側プレートの接合面の平面度が不明である点。
(イ)相違点6
本体部にカバーを被せる被覆ステップに関し、
本件発明1においては、本体部の流路の開口側の「接合面の全て」がカバーと密着するのに対し、
甲2方法発明においては、下側プレートの流路の開口側の「接合面の少なくとも一部」が上側プレートと密着するといえるものの、「接合面の全て」が密着するか不明である点。
(ウ)相違点7
本体部とカバーとを接合する拡散接合ステップに関し、
本件発明1においては、接合温度が「500℃以上640℃以下」、接合面圧が「0.7MPa以上3MPa以下」の条件下で拡散接合するのに対し、
甲2方法発明においては、接合温度及び接合面圧がそれぞれ、当該数値範囲内であるか不明である点。
ウ 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
甲2には、上記(1)ア(キ)~(ケ)に示される、厚み方向に多数のチャネルを有する熱交換器においては、全長の半分の寸法(同(キ)、約5cm)や、チャネルの大きさ(同(ケ)、250μm四方)が看取されるが、本体部とカバーから作製されたものであるかは不明である。また、甲2方法発明として認定した、流路が形成される下側プレート(本体部)と下側プレートの流路を覆う上側プレート(カバー)とが看取される上記(1)ア(ア)~(オ)や、同(カ)の半導体設備部品では、接合面の平面度はもちろん、その寸法が不明であるため、平面度がどの程度のオーダーの値になり得るかを想定し得ない。
他方、甲7には、上記(6)に示した甲7記載の技術的事項が開示され、具体的には、接合面211及び221の平面度を、50μm以下、より好ましくは20μm以下に調整することが開示される。また、段落【0017】には、接合面の平面度を当該数値範囲とすることに関し、次の記載がある。
「【0017】
接合面の平面度は50μm以下、より好ましくは20μm以下に調整することが好ましい。50μmより大きい場合は、接合時の荷重が不均等にかかり、複合材料が破損する可能性があるためであり、20μm以下であれば接合体の全面にわたって未接合部を発生させることなく接合が可能なためである。」
しかしながら、甲7記載の技術的事項は、その前提が、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、セラミックスからなる強化剤とにより構成される複合材料からなる第1部材21(本体部)と第2部材22(カバー)との固相接合(拡散接合)であって、さらに第1部材21と第2部材22との間に接合材3を配置して接合することで接合体10を作製するものであって、甲2方法発明とは接合させる部材の材料や接合手法の前提が異なるため、甲2方法発明に甲7記載の技術的事項の平面度をそのまま適用することが容易であると結論づけるには、疑義がある。
また、拡散接合において、接合面の平面度を考慮しなければならないことの開示がされるのは、証拠として提示された甲1~甲9のうち甲7のみであって、本件特許の出願前において周知の技術思想であったと断定することもできない。この点に関し、申立人は申立書41~42ページにおいて、甲8の段落【0002】にも接合しようとする面を高精度に仕上げることを指摘するが、当該段落には、十点平均粗さのことが記載されるのみであり、平面度についての記載は認められない。むしろ、拡散接合では、甲1~甲5に示されるように、所定の温度と所定の圧力の条件下で固相接合がなされることが技術常識であるといえる一方、平面度については甲7を除くいずれの文献にも記載や示唆がないところ、拡散接合では、接合対象の2部材の接合面が、接合時に印加される当該圧力により密着することに鑑みれば、接合面の平面度を最適化するまでの必要性が本件特許の出願前において周知であったといえるほど認識されていなかったとも推察される。
なお、甲1においては、上記第7の1(2)エに示したように、拡散接合前の段階で、フィンの上面が段差に対して高低差n=(0.1±0.05)mmであることが要求されることが開示される。しかし、この高低差nは、拡散接合工程の段階で、カバープレートの周囲がハウジングの段差に接触して、フィンとカバープレートとの加圧接触、すなわち、拡散接合が妨げられるのを防ぐためのパラメータであり、当該高低差nの式から副次的に、フィンの上面の全てが、段差の高さを基準として、0.05~0.15mmの範囲に位置する技術が開示されることとなったが、平面度についての技術思想が甲1に開示されているとまではいうことができず、また、甲1方法発明は、拡散接合と撹拌摩擦接合とを併用するとの特殊な加工方法を前提とするものでもあるから、甲2方法発明に、甲1方法発明のフィンの上面高さに関する技術思想を適用することについては、動機があるとはいえない。
そして、本件発明1においては、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0018】~【0022】の記載によれば、平面度、接合温度、接合圧力等を最適化させて拡散接合をすることにより、密着させた本体部とカバーとに塑性変形をできるだけ生じないようにし、また、本体部とカバーとを確実に接合しつつ、流路の異常に伴う流量のばらつき等の品質低下を抑制することができるとの、甲1~甲9に開示された内容からは予測し得ない格別な効果を奏するものと理解される。
してみると、甲2方法発明を主引用発明とした場合、甲2方法発明から出発して、甲1方法発明、甲3方法発明、並びに、甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項を適用したとしても、上記相違点5に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことである、ということはできない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、相違点6~7について検討するまでもなく、甲2方法発明、甲1方法発明、甲3方法発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(11)甲2方法発明を主引用発明とする本件発明2の進歩性について(上記第4の1(2)イ)
本件発明2は、請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて含むことから、本件発明2と甲2方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点5と同様の点で相違する。
そして、上記相違点5に係る本件発明2の構成を当業者が容易に想到し得ないことは、上記(10)のとおりである。
したがって、本件発明2は、甲2方法発明、甲1方法発明、甲3方法発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(12)甲2装置発明を主引用発明とする本件発明3の進歩性について(上記第4の1(2)イ)
ア 本件発明3と甲2装置発明との一致点
本件発明3(上記第3)と甲2装置発明(上記(1)ウ)とを対比すると、両者は次の点で一致する。
「アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーと、
を備え、
前記本体部の前記流路の開口側の接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる
接合体。」
イ 本件発明3と甲2装置発明との相違点
他方、本件発明3と甲2装置発明とは次の相違点8で相違する。
・相違点8
接合面の平面度に関し、
本件発明3においては、「前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であ」るのに対し、
甲2装置発明においては、下側プレートの接合面と上側プレートの接合面の平面度が不明である点。
ウ 相違点に対する判断
相違点8は実質的に相違点5と同様であり、上記(10)ウで検討したとおりである。
エ 小括
したがって、本件発明3は、甲2装置発明、甲1装置発明、甲3装置発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(13)甲2装置発明を主引用発明とする本件発明4~5の進歩性について(上記第4の1(2)イ)
本件発明4は、請求項3の記載を引用するものであり、本件発明3の発明特定事項をすべて含むことから、本件発明4と甲2装置発明とを対比すると、少なくとも上記相違点8と同様の点で相違する。
また、本件発明5は、「流路付きプレート」に係る発明である点で、本件発明3の「接合体」に係る発明と異なるものの、その他の発明特定事項に差異はないから、本件発明5と甲2装置発明とを対比すると、少なくとも上記相違点8と同様の点で相違する。
そして、上記相違点8に係る本件発明4~5の構成を当業者が容易に想到し得ないことは、上記(12)のとおりである。
したがって、本件発明4~5は、甲2装置発明、甲1装置発明、甲3装置発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(14)甲3方法発明を主引用発明とする本件発明1の進歩性について(上記第4の1(2)ウ)
ア 本件発明1と甲3方法発明との一致点
本件発明1(上記第3)と甲3方法発明(上記(2)ア)とを対比すると、両者は次の点で一致する。
「アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーとを接合する接合方法であって、
前記本体部の前記流路の開口側の接合面の少なくとも一部が前記カバーと密着するように前記本体部に前記カバーを被せる被覆ステップと、
接合温度が所定の温度、接合面圧が所定の圧力の条件下で拡散接合することによって、前記本体部と前記カバーとを接合する拡散接合ステップと、
を含む接合方法。」
イ 本件発明1と甲3方法発明との相違点
他方、本件発明1と甲3方法発明とは次の相違点9~11で相違する。
(ア)相違点9
接合面の平面度に関し、
本件発明1においては、「前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であ」るのに対し、
甲3方法発明においては、第3の平板203の接合面と第2の平板202の接合面の平面度が不明である点。
(イ)相違点10
本体部にカバーを被せる被覆ステップに関し、
本件発明1においては、本体部の流路の開口側の「接合面の全て」がカバーと密着するのに対し、
甲3方法発明においては、第3の平板203の流路203aの開口側の「接合面の少なくとも一部」が第2の平板202と密着するといえるものの、「接合面の全て」が密着するか不明である点。
(ウ)相違点11
本体部とカバーとを接合する拡散接合ステップに関し、
本件発明1においては、接合温度が「500℃以上640℃以下」、接合面圧が「0.7MPa以上3MPa以下」の条件下で拡散接合するのに対し、
甲3方法発明においては、接合温度及び接合面圧がそれぞれ、当該数値範囲内であるか不明である点。
ウ 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点9について検討する。
相違点9は、実質的に相違点5と同様であり、上記(10)ウで検討したとおり、甲3方法発明を主引用発明とした場合においても、甲3方法発明から出発して、甲1~甲2方法発明、並びに、甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項を適用して、上記相違点5に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことである、ということはできない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、甲3方法発明、甲1~甲2方法発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(15)甲3方法発明を主引用発明とする本件発明2の進歩性について(上記第4の1(2)ウ)
本件発明2は、請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて含むことから、本件発明2と甲3方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点9と同様の点で相違する。
そして、上記相違点9に係る本件発明2の構成を当業者が容易に想到し得ないことは、上記(14)ウで参照する上記(10)ウのとおりである。
したがって、本件発明2は、甲3方法発明、甲1~甲2方法発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(16)甲3装置発明を主引用発明とする本件発明3の進歩性について(上記第4の1(2)ウ)
ア 本件発明3と甲3装置発明との一致点
本件発明3(上記第3)と甲3装置発明(上記(2)イ)とを対比すると、両者は次の点で一致する。
「アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、媒体を流通させる流路が形成される本体部と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記本体部の前記流路を覆うカバーと、
を備え、
前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる
接合体。」
イ 本件発明3と甲3装置発明との相違点
他方、本件発明3と甲3装置発明とは次の相違点12で相違する。
・相違点12
接合面の平面度に関し、
本件発明3においては、「前記本体部および前記カバーは、接合面の平面度がそれぞれ0.2以下であ」るのに対し、
甲3装置発明においては、第3の平板203の接合面と第2の平板202の接合面の平面度が不明である点。
ウ 相違点に対する判断
相違点12は実質的に相違点9、すなわち相違点5と同様であり、上記(14)ウで参照する上記(10)ウで検討したとおりである。
エ 小括
したがって、本件発明3は、甲3装置発明、甲1~甲2装置発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(17)甲3装置発明を主引用発明とする本件発明4~5の進歩性について(上記第4の1(2)ウ)
本件発明4は、請求項3の記載を引用するものであり、本件発明3の発明特定事項をすべて含むことから、本件発明4と甲3装置発明とを対比すると、少なくとも上記相違点12と同様の点で相違する。
また、本件発明5は、「流路付きプレート」に係る発明である点で、本件発明3の「接合体」に係る発明と異なるものの、その他の発明特定事項に差異はないから、本件発明5と甲3装置発明とを対比すると、少なくとも上記相違点12と同様の点で相違する。
そして、上記相違点12に係る本件発明4~5の構成を当業者が容易に想到し得ないことは、上記(16)のとおりである。
したがって、本件発明4~5は、甲3装置発明、甲1~甲2装置発明並びに甲4~甲9及び職権1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(18)小括
以上のとおり、本件発明1~5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1~甲9及び職権1に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 申立ての理由3:実施可能要件違反・委任省令要件違反(上記第4の1(3)、2(1)イ)
申立人による申立ての理由3及び申立人意見書における理由1のうち、上記第6にて検討した以外の事項について、以下検討する。
(1)請求項1~5:平面度(実施可能要件違反、委任省令要件違反)
ア 平面度の単位について
申立人は、平面度の単位が不明である旨を指摘する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明によれば、段落【0021】には、「また、各部材の接合面の精度として、平面度が0.2以下であることが好ましい。また、接合面の面粗度は、0より大きくRa0.4以下であることが好ましく、Ra0.1以下であることがさらに好ましい。」と記載される。一般的に、面粗度として示される「Ra」すなわち算術平均粗さの単位は「μm」であること(JIS B 0601、JIS B 0031等)、平面度の定義(甲6)及び算術平均粗さの算出方法を踏まえると面粗度Raよりも平面度の方が大きな数値になること、面粗度Raが0.4以下であることを踏まえると、平面度は「0.2mm以下」であると理解することができるから、当業者が本件発明1~5を実施することができない、とまではいえない。
イ 平面度が0である場合を含むこと
申立人は、平面度が「0.2以下」であるとの記載から、平面度が0である場合を含むところ、平面度を0に低減する方法が開示されておらず技術常識でもない旨を指摘する。
しかしながら、本件発明1~5は、平面度の上限が「0.2以下」であることを特定するのであって、平面度を0にすることまでを必須としないから、当業者が本件発明1~5を実施することができない、とまではいえない。
ウ 平面度の技術上の意義
申立人は、本件特許の発明の課題と、平面度の特定との実質的な関係を理解することができない旨を指摘する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0018】~【0022】の記載によれば、平面度、接合温度、接合圧力等を最適化させて拡散接合をすることにより、密着させた本体部とカバーとに塑性変形をできるだけ生じないようにし、また、本体部とカバーとを確実に接合しつつ、流路の異常に伴う流量のばらつき等の品質低下を抑制することができると理解される。
(2)請求項2:面粗度(実施可能要件違反、委任省令要件違反)
ア 面粗度の単位について
申立人は、面粗度Raの単位が不明である旨を指摘する。
しかしながら、面粗度として示される「Ra」すなわち「算術平均粗さ」の単位が「μm」であることは技術常識である(JIS B 0601、JIS B 0031等)から、当業者が本件発明1~5を実施することができない、とまではいえない。
イ 面粗度が0近傍である場合を含むこと
申立人は、面粗度が「0より大きくRa0.4以下」であるとの記載から、面粗度が0近傍である場合を含むところ、面粗度を0近傍に低減する方法が開示されておらず技術常識でもない旨を指摘する。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0021】に「接合面の面粗度は、0より大きくRa0.4以下であることが好ましく、Ra0.1以下であることがさらに好ましい。」と記載されるように、本件発明2は、面粗度を所定値以下にすることが重要なのであって、0近傍にすることまでを必須としないから、当業者が本件発明2を実施することができない、とまではいえない。
ウ 面粗度の技術上の意義
申立人は、本件特許の発明の課題と、面粗度の特定との実質的な関係を理解することができない旨を指摘する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0018】~【0022】の記載によれば、平面度、接合温度、接合圧力に加え、接合面の面粗度を最適化させて拡散接合をすることにより、密着させた本体部とカバーとに塑性変形をできるだけ生じないようにし、また、本体部とカバーとを確実に接合しつつ、流路の異常に伴う流量のばらつき等の品質低下を抑制することができると理解される。
(3)請求項4:引張り強さ(実施可能要件違反)
・ 引張り強さが極めて大きい場合を含むこと
申立人は、「引張り強さが125MPa以上」であるとの記載から、引張り強さが極めて大きい場合を含むところ、引張り強さを際限なく大きくする方法が不明である旨を指摘する。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0022】に「拡散接合することによって、本体部とカバーとを確実に接合しつつ、」と記載されるように、本体部とカバーとの確実な接合のため、引張り強さ所定値以上にすることが重要なのであって、際限なく大きくすることまでを必須としないから、当業者が本件発明4を実施することができない、とまではいえない。
(4)請求項3~5:「前記本体部の前記流路の開口側の前記接合面の全てと前記カバーとが、拡散接合されてなる」接合体および流路付きプレートを作製することができないこと(本件訂正に伴う申立人意見書での指摘事項)
申立人は、図6A~7Dに示された接合体には、接合界面沿いに微小欠陥を有していることが看取され、欠陥の全く存在しない接合界面を作製することは、技術常識でもないことから、本体部の流路の開口側の接合面の「全て」とカバーとが、拡散接合されてなる接合体は作製することができない旨を指摘する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0026】に「図6A~図6Cに示すように、接合界面において、欠陥なく接合されていることがわかる。」と記載されるように、本件特許における接合面の「全て」が接合されるとは、申立人が主張する微小欠陥までも完全に消失することを意味するのではないことが明らかである。そして、当該事項は、発明の詳細な説明を総合してみれば、例えば、図3~図4における4箇所の接合面の全てが、引張試験を実施した際に「接合界面ではなく一方の部材において破断が生じ」る(段落【0031】)ように、拡散接合されてなる状態を意味すると理解でき、そのような拡散接合は、例えば実施例に示される手法を参照すれば当業者であれば実施することができるといえる。
(5)小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、当該記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が本件発明1~5を過度の試行錯誤を要することなく実施することができる程度に記載されたものであるといえるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
4 申立ての理由4:サポート要件違反(上記第4の1(4))
申立人による申立ての理由4について、以下検討する。
(1)請求項1~3、5:アルミニウムまたはアルミニウム合金
申立人は、本件特許に係る発明の課題は「本体部とカバーとを確実に接合しつつ、接合による品質低下を抑制すること」(段落【0005】)であって、その課題を解決する手段として、実施例には6061番のアルミニウム合金に基づく試験結果が開示されるのみであり、また、段落【0028】、図7C、図7Dを踏まえれば、アルミニウム合金がマグネシウム及びケイ素を含まない場合には、課題を解決することができないから、発明の詳細な説明に記載された内容を本件発明1~3、5の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨を主張する。
しかしながら、発明の詳細な説明の上記課題は、従前のろう付による接合についての課題であって、特許請求の範囲に特定される所定の条件下で拡散接合をすることにより上記課題を解決できると理解されるから、実施例に示される6061番のアルミニウム合金に限らず、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる本体部とカバーとを拡散接合した場合にも、上記課題を解決することができると理解できる。
(2)請求項1~5:平面度
申立人は、発明の詳細な説明における実施例において、部材300の接合面の平面度が開示されておらず、平面度が上限値である0.2の場合においても上記課題(段落【0005】)を解決できるか不明であるから、発明の詳細な説明に記載された内容を本件発明1~5の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨を主張する。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0021】には「各部材の接合面の精度として、平面度が0.2以下であることが好ましい。」ことが記載されることから、実施例の欄において具体的な平面度の数値が開示されないことをもって、ただちに発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内ではない、ということはできない。
また申立人は、偏光フィルムの製造法事件の判決を示しつつ、接合面の平面度が0.2以下であることによって奏される効果が、当業者に認識できる程度に記載されているとはいえない旨を主張する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、拡散接合をするにあたり平面度を0.2以下とすれば、(単純な試験片同士の接合でなく)媒体を流通させる流路が形成される本体部と本体部の流路を覆うカバーとの接合であっても、接合面同士が密着し、本体部とカバーとを確実に接合しつつ、接合による品質低下を抑制することができると十分に理解できる。
(3)請求項1~2:接合面圧
申立人は、発明の詳細な説明における実施例において、接合面圧を0.7MPaとし、接合面圧を0.5MPaとした例と比較したことが開示されるが、接合面圧を3MPaとした実施例が開示されず、接合面圧を3MPaとした場合においても上記課題(段落【0005】)を解決できるか不明であるから、発明の詳細な説明に記載された内容を本件発明1~2の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨を主張する。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0020】には「密着させた部材には、塑性変形をできるだけ生じない程度の荷重を加える」ことが記載され、段落【0021】には「接合面圧は、部材の種類にもよるが、3MPa以下であることが好ましい。」ことが記載されることから、接合面圧を3MPaとした実施例が開示されないことをもって、ただちに発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内ではない、ということはできない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化したものとまでいえず、発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内であるといえるから、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
5 申立ての理由5:明確性要件違反(上記第4の1(5)及び2(2))
申立人による申立ての理由5及び申立人意見書の理由2について、以下検討する。
(1)請求項1~5:平面度
ア 平面度の単位について
申立人は、平面度の単位が、mmであるのか、μmであるのか、不明である旨指摘する。
しかしながら、上記3(1)アで検討したとおり、平面度は「0.2mm以下」であると理解することができるから、当該記載が不明確である、とまではいえない。
イ 請求項3、5における平面度について
申立人は、請求項3、5における平面度が、接合前の平面度を意味するのか、接合後の平面度を意味するのか、不明である旨指摘する。
しかしながら、発明の詳細な説明を参酌すれば、平面度について説明される段落【0021】の記載は、各部材を拡散接合させる前の条件として示されることから、接合前の平面度であると理解することができる。
また申立人は、接合前の平面度を意味する場合、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するとも指摘する。
しかしながら、接合前の平面度自体は製造方法を示していると解釈することはできないから、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するとはいえない。
(2)請求項2:面粗度
申立人は、面粗度の単位が不明である旨指摘する。
しかしながら、上記3(2)アで検討したとおり、面粗度として示される「Ra」すなわち「算術平均粗さ」の単位が「μm」であることは技術常識であるから、不明確であるとまではいえない。
(3)請求項1~2:「密着する」との記載(本件訂正に伴う申立人意見書での指摘事項)
申立人は、本件特許の段落【0020】には「拡散接合では、密着させた部材同士に対し、部材の融点以下の温度条件において加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する」と記載されるが、接合面の平面度がそれぞれ0.2mmの本体部とカバーとを重ね合わせた場合に一定の隙間が生じることは明らかであるから、「密着する」との記載は不明確である旨を主張する。
しかしながら、「密着する」との用語は、申立人意見書にも記載のとおり、ある程度の2面間の距離の存在を許容する趣旨であると解釈され、その程度も、発明の詳細な説明を総合してみれば、接合面の平面度がそれぞれ0.2mm以下の本体部にカバーを被せて、続く拡散接合ステップで、全ての接合面が確実に拡散接合される程度の不可避的な隙間については許容されると解するのが相当であるといえるため、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
(4)小括
以上のとおり、請求項1~5の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として判断すれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまでいうことはできないから、本件発明1~5は、明確であるといえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
第9 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~5に係る特許は、当審から通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700866