特許異議申立
2025-700319
はんだ組成物および電子基板
- 審判番号
- 2025-700319
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-031866
- 登録番号
- 7554218
- 請求日
- 2025年03月19日
- 審決日
- 2026年01月16日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 阿川 寛樹
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.536-Y (B23K) / P1651.537-Y (B23K) / P1651.113-Y (B23K) / P1651.121-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7554218号発明「はんだ組成物および電子基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7554218号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7554218号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2022-31866号。以下「本願」という。)は、令和 4年 3月 2日を出願日とする出願であって、令和 6年 9月10日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月19日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件は、その後、令和 7年 3月19日に、特許異議申立人である赤松 智信(以下「申立人」という。)により、請求項1~5(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 7年 7月31日付け :取消理由通知書
令和 7年10月 1日 :特許権者による意見書の提出
令和 7年11月 4日 :申立人による上申書の提出
令和 7年12月 9日 :特許権者による上申書の提出
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~5に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明5」といい、総称して、「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書又は図面を「本件明細書等」という。
「【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有するはんだ組成物であって、
前記(C)成分が、(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有し、
前記(C1)成分が、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させてなるアミド化合物であり、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上70質量%以下であり、
前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下であり、
前記(C)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上25質量%以下であり、
前記(C1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上25質量%以下であり、
前記(D)成分の配合量が、前記はんだ組成物100質量%に対して、65質量%以上95質量%以下である、
はんだ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(C1)成分の重量平均分子量Mwが1500以上2300以下であり、数平均分子量Mnが700以上1300以下であり、Mw/Mnの値が1.35以上2以下である、
はんだ組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のはんだ組成物において、
前記(C1)成分が、ヒドロキシステアリン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、ヘキサメチレンジアミンを縮合させてなるアミド化合物である、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のはんだ組成物において、
前記(C1)成分の2種以上を併用する、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。」
第3 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記(4)の甲第1号証(以下「甲1」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべきものであることを主張している。
(1)申立理由1(新規性、進歩性、取消理由として不採用)
本件特許発明1~5は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明1~5は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件、取消理由として不採用)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5の記載は、「(C)チクソ剤」に関して、「(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有し」と特定するものであるが、本件明細書に記載された内容を上記アミド化合物にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件、取消理由として採用)
本件特許発明1~5は、「(C)チクソ剤」に関して、「(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有し」と特定するものであるが、本件明細書をみても、該アミド化合物をどのように製造するのかが明らかではなく、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)証拠方法
甲1:特許第6947998号公報
2 取消理由の概要
令和 7年 7月31日付けで通知した取消理由1は、上記1(3)に示した申立理由3と同旨である。
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の申立理由及び取消理由によっては、本件の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由3、取消理由1(実施可能要件)
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
ア 「【0001】
本発明は、はんだ組成物および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。このはんだ組成物では、印刷性およびはんだ付性とともに、リフロー工程でのプリヒート時におけるダレ(プリヒート時にはんだ組成物の塗布膜の形が崩れること)を抑制する性質(加熱時のダレ性)が求められる。また、近年、微小ランドへの実装が進んでいることから、加熱時のダレ性の更なる向上が求められる。しかしながら、加熱時のダレ性を向上させるために、はんだ組成物の粘度またはチクソ性を高くすると、はんだ組成物の印刷性が低下してしまう傾向にある。このように、印刷性と加熱時のダレ性を両立させることは困難である。
・・・
【0004】
本発明は、印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有し、前記(C)成分が、(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有する、はんだ組成物が提供される。」
イ 「【0010】
本実施形態によれば、印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物により、印刷性を維持しつつ、加熱時のダレ性を向上できるメカニズムは、次の通りであると本発明者らは推察する。
まず、(C1)アミド化合物は、はんだ組成物のチクソ性に寄与するが、アミド化合物の分子量に応じて、チクソ性への寄与度が異なっている。また、チクソ性への寄与度は、はんだ組成物の温度によっても変化する。そして、本実施形態の(C1)成分は、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下となっており、比較的に高分子量の成分が所定量以上含まれている。この比較的に高分子量の成分と、平均的な分子量の成分とが、はんだ組成物の温度によってチクソ性への寄与度を変えている。そして、本実施形態の(C1)成分であれば、印刷時には、印刷性に優れる範囲にチクソ比を調整でき、また、加熱時には、加熱ダレに優れる範囲にチクソ比を調整できる。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。」
ウ 「【0019】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)チクソ剤は、(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有することが必要である。このような(C1)成分であれば、印刷性を維持しつつ、加熱時のダレ性を向上できる。
【0020】
(C1)成分の重量平均分子量Mwが500未満であると、加熱時のダレを抑制できない。他方、(C1)成分の重量平均分子量Mwが2500を超えると、印刷時のダレを抑制できない。
(C1)成分の重量平均分子量Mwは、同様の観点から、700以上2400以下であることが好ましく、1000以上2350以下であることがより好ましく、1500以上2300以下であることが特に好ましい。
【0021】
(C1)成分の数平均分子量Mnが500未満であると、加熱時のダレを抑制できない。他方、(C1)成分の数平均分子量Mnが1500を超えると、印刷時のダレを抑制できない。
(C1)成分の数平均分子量Mnは、同様の観点から、550以上1400以下であることが好ましく、600以上1350以下であることがより好ましく、700以上1300以下であることが特に好ましい。
【0022】
(C1)成分のMw/Mnの値が1.2未満であるか、或いは、2.5超であると、加熱時のダレ、および印刷時のダレの少なくともいずれか一方を抑制できない。
(C1)成分のMw/Mnの値は、同様の観点から、1.3以上2.2以下であることが好ましく、1.35以上2以下であることが特に好ましい。
【0023】
本実施形態においては、(C1)成分の2種以上を併用することが好ましい。このようにすれば、はんだ組成物の性状を更に好ましいものとできる。
【0024】
この(C1)成分は、例えば、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させることで作製できる。
炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸の中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが小さくなる傾向にある。
炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが小さくなる傾向にある。
炭素数2から16のジアミンの中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが小さくなる傾向にある。
【0025】
炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸に対する炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の配合量が多いほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが大きくなる傾向にある。
炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の合計のカルボキシル基の量と、炭素数2から16のジアミンのアミノ基の量は、等しいことが好ましい。これらの量が等しいときには、縮合反応が進行しやすい。
【0026】
縮合反応時の温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、120℃以上210℃以下であることがより好ましく、150℃以上190℃以下であることが特に好ましい。この温度が高いほど、(C1)成分の重量平均分子量Mwが大きくなる傾向にある。
縮合反応にかける時間は、1時間以上15時間以下であることが好ましく、3時間以上11時間以下であることがより好ましく、5時間以上8時間以下であることが特に好ましい。この時間が長いほど、(C1)成分の重量平均分子量Mwが大きくなる傾向にある。
すなわち、(C1)成分の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および、Mw/Mnの値は、(i)(C1)成分の原料の種類および配合量を調整すること、(ii)縮合反応時の温度を調整すること、並びに、(iii)縮合反応にかける時間を調整することなどにより、適宜調整することができる。
【0027】
(C1)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上16質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(C)成分の配合量が前記下限以上であれば、印刷時のダレおよび加熱時のダレを抑制できる。(C)成分の配合量が前記上限以下であれば、チクソ性が高すぎることはなく、印刷不良を抑制できる。
【0028】
(C)成分は、(C1)成分以外のチクソ剤(以下、(C2)成分)を含有していてもよい。(C2)成分としては、硬化ひまし油、(C1)成分以外のアミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上16質量%以下であることがさらに好ましく、6質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(C)成分の配合量が前記下限以上であれば、チクソ性が得られ、印刷時のダレを抑制できる。(C)成分の配合量が前記上限以下であれば、チクソ性が高すぎることはなく、印刷不良を抑制できる。」
エ 「【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:124~134℃、酸価:230~245mgKOH/g)、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:完全水添ロジン(軟化点:79~88℃、酸価:158~173mgKOH/g)、商品名「フォーラルAX」、理化ファインテク社製
((B1)成分)
有機酸A:コハク酸
有機酸B:グルタル酸
有機酸C:ドデカン二酸
有機酸D:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
((B2)成分)
アミン系活性剤:2-フェニルイミダゾリン
((C1)成分)
アミド化合物A:下記調製例1で得られたアミド化合物(重量平均分子量Mwは2000、数平均分子量Mnは1139、Mw/Mnは1.755)
アミド化合物B:下記調製例2で得られたアミド化合物(重量平均分子量Mwは1030、数平均分子量Mnは746、Mw/Mnは1.381)
((C2)成分)
チクソ剤A:ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、商品名「スリパックスZHH」、三菱ケミカル社製、Mw/Mnは1.2未満
チクソ剤B:エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、商品名「スリパックスH」、三菱ケミカル社製、Mw/Mnは1.2未満
チクソ剤C:商品名「ヒマコウ」、ケイエフ・トレーディング社製
(他の成分)
アミン化合物:2-フェニルイミダゾリン
酸化防止剤:商品名「イルガノックス245」、BASF社製
溶剤:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、沸点:272℃)、日本乳化剤社製
((D)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は15~25μm(IPC-J-STD-005Aのタイプ5に相当)、はんだ融点は217~220℃
【0044】
[調製例1]
攪拌器、温度計、および分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸、および炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸を、それぞれ所定量ずつ加え、80~100℃に加温して溶融させた。その後、所定量のヘキサメチレンジアミンを加え、温度150℃~190℃で、窒素雰囲気下にて、5~8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ、酸価5mgKOH/g以下のアミド化合物Aを得た。
【0045】
[調製例2]
使用する炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の種類および配合量を変更するとともに、縮合反応時の温度および時間を変更した以外は、調製例1と同様にして、酸価5mgKOH/g以下のアミド化合物Bを得た。」
オ 「【0047】
[実施例1]
ロジン系樹脂A31質量%、ロジン系樹脂B9質量%、有機酸A0.5質量%、有機酸B0.5質量%、有機酸C1質量%、有機酸D2.5質量%、アミン系活性剤5質量%、溶剤32.5質量%、酸化防止剤2質量%、およびアミド化合物A16質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11質量%、溶剤1.2質量%およびはんだ粉末87.8質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0048】
[実施例2~9]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~3]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0049】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(性状、加熱ダレ、印刷性)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)性状
はんだ組成物に光沢が有るか否かを目視で確認する。その後、はんだ組成物を、へらを用いて容器の中央と側面をかき混ぜ、滑らかさを確認する。そして、下記の基準に従って、性状を評価した。
◎:光沢および滑らかさに問題はない。
〇:光沢に問題ないが、滑らかさに若干問題あり。
△:光沢および滑らかさの少なくともいずれか一方に問題がある。
×:光沢および滑らかさのいずれにも問題がある。
(2)加熱ダレ
試験基板(両面銅張積層板)上に、0.1mmから1.2mmまで0.1mmピッチで配置しているパターン孔を有するメタルマスクを使用して、はんだ組成物を印刷して、温度150℃1分加熱した。加熱後の試験基板を観察し、パターン孔のうち、印刷されたはんだ組成物が一体にならない最小間隔を測定する。複数のパターン孔について、この測定を行い、その平均をとる。そして、下記の基準に従って、加熱ダレを評価した。
◎:最小間隔の平均が、0.2mm以下である。
○:最小間隔の平均が、0.2mm超0.3mm以下である。
△:最小間隔の平均が、0.3mm超0.4mm以下である。
×:最小間隔の平均が、0.4mm以上である。
(3)印刷性
試験基板(FR4基材、ソルダレジスト開口直径75μm)と、この試験基板に対応するパターンを有するメタルマスク(厚さ30μm、メタルマスク開口直径95μm、ピッチサイズ130μm)を使用した。試験基板上に印刷装置(製品名:SP-0601、パナソニック ファクトリー ソリューションズ(株)製)にて、はんだ組成物をメタル硬度90、印刷角度60℃のウレタンスキージで印刷した。
印刷後の試験基板を、金属顕微鏡を用いて観察し、はんだ組成物がCuランド上(9,800箇所)に転写されていない比率(未転写率)と、Cuランドが見えている部分の有無を観察し、以下の基準に従って、印刷性を評価した。
◎:はんだ組成物が、100%転写されている。
○:未転写率が、0.1%未満である。
△:未転写率が、0.1%以上0.5%未満である。
×:未転写率が、0.5%以上であるか、或いは、はんだ組成物が基板上に転写されず、Cuランドが見えている部分がある。
【0050】
【表1】
[図:0001432077000001.jpg]
【0051】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~9)は、QFN端面ぬれ上がり、および、保管時の粘度安定性の全ての結果が良好であることが確認された。なお、実施例1~4のはんだ組成物には、ハロゲン系活性剤が配合されていないので、ノンハロゲンタイプのはんだ組成物である。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプであるにも拘わらず、ぬれ性と保管時の粘度安定性の両方が優れることが確認された。」
(2)実施可能要件についての判断
ア 上記第2のとおり、本件特許発明1は、「(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有し、 前記(C1)成分が、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させてなるアミド化合物」を所定の割合で含む「はんだ組成物」であり、物の発明である。
イ ここで、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、その発明を実施できる程度に明確かつ十分なものであるというためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を作れ、かつ、その物を使用できるものでなければならないと解するのが相当である。
そして、本件特許発明1に係る「はんだ組成物」なる物を、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく作ることができるといえるためには、該「はんだ組成物」に添加する(C1)成分のアミド化合物を、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく作ることができるといえる必要がある。
ウ そこで、本件特許の発明の詳細な説明の記載について検討する。
上記(1)エ、オに示された実施例1~9、比較例1~3をみるに、本件明細書等には、重量平均分子量Mwが2000、数平均分子量Mnが1139、Mw/Mnが1.755であるアミド化合物A、重量平均分子量Mwが1030、数平均分子量Mnが746、Mw/Mnが1.381であるアミド化合物Bの少なくとも一方を、上記(C1)成分として所定量で含むはんだ組成物は、上記(1)アに示したように「印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れる」ものであることが記載されている。
エ そして、上記(1)エによれば、上記アミド化合物Aは、「水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸、および炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸を、それぞれ所定量ずつ加え、80~100℃に加温して溶融させた。その後、所定量のヘキサメチレンジアミンを加え、温度150℃~190℃で、窒素雰囲気下にて、5~8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ」ることで製造されることが記載されている(【0044】)。
ここで、「炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸」としてどのような物質が使用されたのかは明らかにされておらず、「12-ヒドロキシステアリン酸」、「炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸」、「ヘキサメチレンジアミン」の添加量についても「所定量」としか記載されておらず、不明である。また、反応温度や時間についても、「80~100℃」、「150℃~190℃」、「5~8時間」としか記載されておらず、これらのうちからどのような条件を採用して製造されたのかも不明である。
オ さらに、上記アミド化合物Bについては、上記アミド化合物Aの製造条件から「使用する炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の種類および配合量を変更するとともに、縮合反応時の温度および時間を変更し」て製造されることが記載されている(【0045】)が、「炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の種類および配合量」、「縮合反応時の温度および時間」が具体的にどのように変更されたのかは不明である。
カ 上記エ、オの点に関し、特許権者は、「技術常識から、Mw/Mnの値を大きくするためには、分子量分布の幅を大きくしたりする必要があることから、炭素数が異なる2種以上の脂肪族ジカルボン酸を使用すべきと、当業者であれば考えられる」(意見書の第3頁第1~4行)、及び、「試しにアミド化合物を合成して、それを分析し、本願発明における(C1)成分のMn、Mwとの違いを認識できます。また、その数値の違いを調整するよう、本願明細書の段落[0024]~[0026]の記載を参考に、製造条件を変更してみれば、数回の合成実験で、本願発明の(C1)成分が得られる」(意見書の第3頁第6~10行)と主張する。
キ そこで、本件明細書等の記載をみるに、上記(1)ウの「炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸の中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが小さくなる傾向にある。」、「炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが小さくなる傾向にある。」、「炭素数2から16のジアミンの中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが小さくなる傾向にある。」(いずれも【0024】)、「炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸に対する炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の配合量が多いほど、(C1)成分の数平均分子量Mnが大きくなる傾向にある。」(【0025】)といった記載によれば、アミド化合物を製造するための出発原料の炭素数や脂肪族ジカルボン酸の配合量により、生成されるアミド化合物の数平均分子量Mnを制御できることが理解される。
また、「縮合反応時の温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、120℃以上210℃以下であることがより好ましく、150℃以上190℃以下であることが特に好ましい。この温度が高いほど、(C1)成分の重量平均分子量Mwが大きくなる.傾向にある。」(【0026】)、「縮合反応にかける時間は、1時間以上15時間以下であることが好ましく、3時間以上11時間以下であることがより好ましく、5時間以上8時間以下であることが特に好ましい。この時間が長いほど、(C1)成分の重量平均分子量Mwが大きくなる傾向にある。」(【0026】)といった記載によれば、アミド化合物を製造するための縮合反応の温度や時間により、生成するアミド化合物の重量平均分子量Mwを制御できることも理解される。
ク 申立人は、令和7年11月4日に提出した上申書において、本件明細書の【0024】~【0026】に記載された手法は、MwとMnを独立して変化させるものではないため、これらの記載だけに基づいてMw/Mnを調整するのは困難であり、これらの記載に加えて当業者の技術常識を参照しても当業者が容易に(C1)成分を作製できるとはいえないと主張する(第3頁第1行~第4頁第5行)。
ケ しかしながら、ポリマー組成物中において、より重合度を高めた大きい分子量のポリマーの割合を多くすれば、数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwはいずれも上昇するものの、重量平均分子量Mwが、ポリマー組成物中におけるより大きい分子量のポリマーの影響を大きく受け、より大きく上昇することは、数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwの定義からみて明らかである。また、重合反応において、反応温度を高く、反応時間を長くすれば、より重合度が高まり、大きい分子量のポリマーが多く含まれたポリマー組成物を製造できることも、技術常識からみて明らかである。
したがって、少なくとも本件明細書【0026】に記載された、アミド化合物を製造するための縮合反応の温度や時間の調整により、生成するアミド化合物の重量平均分子量Mwを制御することで、所望の「Mw/Mn」を有する(C1)成分のアミド化合物を作製できることは、当業者であれば当然に理解できるものである。
仮に、反応温度や反応時間の調整だけでは所望の「Mw/Mn」が得られないとしても、新たに原料モノマーの追加を行うことや、原料モノマーの種類や組成を変更すること等により調整できることは明らかであるから、いずれにしても、「Mw/Mn」を制御して(C1)成分のアミド化合物を作製することは可能である。
コ してみれば、上記カにおける特許権者の主張は、本件明細書等の記載に整合しており、技術常識を鑑みても妥当なものである。そして、上記キの事項を併せて考慮すれば、(C1)成分のアミド化合物を作るに際しては、基準となるアミド化合物を作成した後、【0024】~【0026】の記載を参照して反応条件や原料化合物を適宜変更する、技術常識に基づいて炭素数が異なる2種以上の脂肪族ジカルボン酸を使用する等の変更を行って、所定の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、Mw/Mnを有するアミド化合物を得るようにすることは、当業者において過度な試行錯誤を要するものとまではいえず、該(C1)成分のアミド化合物が添加された本件特許発明1に係る「はんだ組成物」なる物を作るに際しても、同様に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要するものとまではいえない。
サ また、本件特許発明1に係る「はんだ組成物」は、上記(1)オ等に示されるとおり、「はんだ組成物」として使用できるものであることも明らかである。
シ 本件特許発明1と同様な数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、Mw/Mnに関する特定を有する、本件特許発明2~4に係る「はんだ組成物」、これらのはんだ組成物を用いた本件特許発明5に係る「電子基板」についても同様である。
(3)小括
以上のとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~5について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、申立理由3、取消理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)
(1)本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5の記載は、「(C)チクソ剤」に関して、「(C1)重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物を含有し」と特定するものである。
(2)一方、本件明細書等の記載をみるに、本件特許発明において解決すべき課題(以下、単に「課題」という。)は、「印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板を提供すること」(【0004】)と認められる。
(3)ア 上記1(1)エ、オに示された実施例1~9、比較例1~3をみるに、本件明細書等には、重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であり、はんだ組成物中に、重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるアミド化合物A、Bを用いることで、「印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れる」という上記(2)に示した課題を解決できることが記載されている。
イ また、上記1(1)イに示された【0010】において、はんだ組成物に含有させるアミド化合物に関して、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、Mw/Mnを所定範囲とすることで、はんだ組成物へのチクソ性への寄与度を変え、上記(2)に示した課題の解決に資する旨も説明されている。
ウ 以上によれば、上記(1)の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5の記載は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段が反映されたものであり、発明の詳細な説明に記載された内容を上記アミド化合物にまで拡張ないし一般化できるものといえる。
(4)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由2によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)本件特許発明1について
ア 甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載事項
本願の出願前に公知となった甲1には、「フラックス及びソルダペースト」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
a 「【0002】
はんだ付けに用いられるフラックスは、はんだ付けの対象となる接合対象物の金属表面及びはんだに存在する金属酸化物を化学的に除去し、両者の境界で金属元素の移動を可能にする効能を持つ。このため、フラックスを使用してはんだ付けを行うことで、両者の間に金属間化合物が形成されるようになり、強固な接合が得られる。このようなフラックスには、一般に、樹脂成分、溶剤、活性剤、チキソ剤等が含まれる。
【0003】
ソルダペーストは、はんだ合金の粉末とフラックスとを混合させて得られた複合材料である。ソルダペーストを使用したはんだ付けにおいては、まず、基板にソルダペーストが印刷された後、部品が搭載され、リフロー炉と称される加熱炉で、部品が搭載された基板が加熱される。
【0004】
リフロー炉では、予備加熱の後に、はんだ合金粉末を溶融させるための本加熱が行われる。基板に印刷されたソルダペーストは、予備加熱の際に軟化し、加熱だれを生じる場合がある。加熱だれは、はんだボールやはんだブリッジ等の実装不良の原因となる。
・・・
【0007】
はんだ付けにおいて、基板の面積が大きい場合には、基板内における温度ばらつきを抑制するために、予備加熱の温度を更に高くすることが求められている。しかしながら、例えば、予備加熱の温度を180℃から190℃とする場合、特許文献1に記載のフラックスでは加熱だれを十分に抑制することができない。
【0008】
そこで、本発明は、リフローの際の加熱だれを十分に抑制することができるフラックス及びソルダペーストを提供することを目的とする。」
b 「【0018】
(フラックス)
本実施形態のフラックスは、ロジンと、溶剤と、チキソ剤と、活性剤とを含有する。
【0019】
<ロジン>
ロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン及びトール油ロジン等の原料ロジン、並びに該原料ロジンから得られる誘導体が挙げられる。
・・・
酸変性水添ロジンとしては、アクリル酸変性水添ロジンを用いることが好ましい。
【0020】
前記フラックス中の、ロジンの含有量は、前記フラックスの総量(100質量%)に対して30質量%以上50質量%以下であることが好ましく、35質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上50質量%以下が更に好ましい。
【0021】
<溶剤>
本実施形態のフラックスにおいて、溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。
・・・
【0022】
前記フラックス中の、溶剤の含有量は、前記フラックスの総量(100質量%)に対して30質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
<チキソ剤>
本実施形態のフラックスにおいて、チキソ剤は、一般式(1)で表される化合物及び特定のポリアマイド(PA1)を含む。
【0024】
《一般式(1)で表される化合物》
本実施形態のフラックスでは、下記一般式(1)で表される化合物が用いられる。
【0025】
【化1】
[図:0001432077000002.jpg]
[式中、R11及びR12は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数11~30の炭化水素基を表す。R13は、置換基を有してもよい炭素数4~12の炭化水素基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、炭素数2~6のアルキレン基を表す。mは、1~3の整数である。]
・・・
【0033】
前記フラックス中の、上記一般式(1)で表される化合物の含有量は、フラックスの総量(100質量%)に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0034】
《ポリアマイド(PA1)》
本実施形態のフラックスでは、特定のポリアマイド(PA1)が用いられる。特定のポリアマイド(PA1)は、脂肪族カルボン酸及びヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸からなる群より選択される1種類以上と、アミンとの縮合物である。特定のポリアマイド(PA1)の示差走査熱量測定による吸熱ピークの温度は、120℃以上200℃以下である。
【0035】
特定のポリアマイド(PA1)が由来する前記脂肪族カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記脂肪族カルボン酸としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等が挙げられる。前記脂肪族カルボン酸は、モノカルボン酸又はジカルボン酸であることが好ましく、ジカルボン酸であることがより好ましい。
前記脂肪族カルボン酸の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
前記脂肪族モノカルボン酸の炭素数としては、12~22が好ましく、14~22がより好ましく、16~22が更に好ましい。
前記脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられる。前記脂肪族モノカルボン酸は、パルミチン酸又はステアリン酸であることが好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸の炭素数としては、2~20が好ましく、6~16がより好ましく、8~14が更に好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸等が挙げられる。前記脂肪族ジカルボン酸は、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸又はドデカン二酸であることが好ましく、セバシン酸又はドデカン二酸であることが更に好ましい。
前記脂肪族カルボン酸は、セバシン酸及びドデカン二酸からなる群より選択される1種以上と、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群より選択される1種以上と、を含むものであってもよい。
【0036】
特定のポリアマイド(PA1)が由来する前記ヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記ヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
前記ヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸の炭素数としては、10~25が好ましく、15~21がより好ましい。
前記ヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸としては、例えば、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸(ヒドロキシステアリン酸)、ヒドロキシエイコサン酸、ヒドロキシヘンエイコサン酸等が挙げられる。前記ヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸は、ヒドロキシステアリン酸であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸であることがより好ましい。
【0037】
特定のポリアマイド(PA1)が由来するアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記アミンとしては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミンが挙げられる。前記アミンは、脂肪族アミンであることが好ましい。
前記アミンとしては、例えば、モノアミン、ジアミン、トリアミン、テトラアミン等が挙げられる。前記アミンは、ジアミンであることが好ましい。
前記脂肪族アミンの炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。前記脂肪族アミンの炭素数としては、3~10が好ましく、4~8がより好ましい。
前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
前記アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4-ジアミノジフェニルメタン、ブタン-1,1,4,4-テトラアミン、ピリミジン-2,4,5,6-テトラアミン等が挙げられる。前記アミンは、ヘキサメチレンジアミンであることが好ましい。」
c「【実施例】
【0097】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
<ロジン>
ロジンとして、アクリル酸変性水添ロジン、重合ロジン、水添ロジンを用いた。
【0099】
<チキソ剤>
チキソ剤として、チキソ剤A、チキソ剤B、ビスアマイド、ポリアマイドを用いた。
・・・
【0103】
ポリアマイドとして、次の方法により得られたもの(ポリアマイド(PA1))を用いた。
(ポリアマイド 調製例1)
12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持し、調製例1のポリアマイドを得た。
原料として用いた、ドデカン二酸をXモル、12-ヒドロキシステアリン酸をYモル、ヘキサメチレンジアミンをZモルとする。原料のモル数は、2Z=2X+Yの関係を満たすものであった。
(ポリアマイド 調製例2)
12-ヒドロキシステアリン酸とセバシン酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持し、調製例2のポリアマイドを得た。
原料として用いた、セバシン酸をXモル、12-ヒドロキシステアリン酸をYモル、ヘキサメチレンジアミンをZモルとする。原料のモル数は、2Z=2X+Yの関係を満たすものであった。
・・・
【0106】
<活性剤>
有機酸として、アジピン酸、アゼライン酸、グルタル酸を用いた。
ハロゲン系活性剤として、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオールを用いた。
アミンとして、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールを用いた。
【0107】
<溶剤>
溶剤として、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルを用いた。
【0108】
<フラックスの調製>
(実施例1~15、比較例1~4)
以下の表1~表3に示す組成で、実施例及び比較例の各フラックスを調合した。
なお、表1~表3における各成分の含有量は、フラックスの全質量を100質量%とした場合の質量%であり、空欄は0質量%を意味する。
【0109】
<ソルダペーストの調製>
各例のフラックスと、下記のはんだ合金粉末とをそれぞれ混合してソルダペーストを調合した。
はんだ合金粉末として、Agが3.0質量%、Cuが0.5質量%、残部がSnであるSn-Ag-Cu系のはんだ合金を用いた。
はんだ合金粉末は、JIS Z 3284-1:2014における粉末サイズの分類(表2)において記号4を満たすサイズ(粒度分布)のものを用いた。
調合したソルダペーストは、いずれも、フラックスを11質量%、はんだ合金粉末を89質量%とした。
【0110】
<印刷だれの評価>
ソルダペーストの印刷時のだれを評価した。この結果を表1~表3に示した。
【0111】
測定方法:
得られたソルダペーストについて、JIS Z 3284-3:2014の「印刷時のだれ試験」に記載された方法に従って、印刷だれを評価した。「印刷時のだれ試験」の図6中のI(孔のサイズ 3.0×0.7)に示すパターン孔を配したメタルマスクを用いて、ソルダペーストを印刷して試験板を得た。試験板について、印刷されたソルダペースト全てが一体にならない最小間隔を評価した。
【0112】
<加熱だれの評価>
フラックスと、はんだ合金粉末とをそれぞれ混合して得られたソルダペーストの加熱時のだれを評価した。この結果を表1~表3に示した。
【0113】
測定方法:
得られたソルダペーストについて、JIS Z 3284-3:2014の「加熱時のだれ試験」に記載された方法に従って、加熱だれを評価した。まず、「印刷時のだれ試験」の図6中のI(孔のサイズ 3.0×0.7)に示すパターン孔を配したメタルマスクを用いて、ソルダペーストを印刷して試験板を得た。得られた試験板を、空気循環式加熱炉において200℃に加熱した。加熱後の試験板について、印刷されたソルダペースト全てが一体にならない最小間隔を評価した。
【0114】
<加熱だれ抑制能の評価>
判定基準:
〇:加熱だれの評価値が0.5mm以下であるか、加熱だれの評価値と印刷だれの評価値との差が0.2mm以下である。
×:加熱だれの評価値が0.6mm以上であるか、加熱だれの評価値と印刷だれの評価値との差が0.3mm以上である。
【0115】
【表1】
[図:0001432077000003.jpg]
・・・
【0118】
実施例1に示すように、ロジンとしてアクリル酸変性水添ロジンを含み、チキソ剤としてチキソ剤A及びポリアマイド(調製例1)を含み、活性剤としてアジピン酸、アゼライン酸、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、2-フェニルイミダゾール及び2-フェニル-4-メチルイミダゾールを含み、溶剤としてジエチレングリコールモノヘキシルエーテルを含むフラックスは、加熱だれ抑制能を十分なものとすることができた。」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)に摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、実施例1として記載されたソルダペーストに着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「アクリル酸変性水添ロジンが43質量%、チキソ剤Aが5質量%、12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持して得たポリアマイド調整例1が4.5質量%、アジピン酸が1質量%、アゼライン酸が5質量%、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオールが1質量%、2-フェニルイミダゾールが0.5質量%、2-フェニル-4-メチルイミダゾールが0.5質量%、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルが39.5質量%からなるフラックス11質量%と、Sn-Ag-Cu系はんだ合金粉末89質量%とを混合したソルダペースト。」(以下「甲1発明」という。)
イ 対比
(ア)甲1発明の「フラックス」、「Sn-Ag-Cu系はんだ合金粉末」、「ソルダペースト」は、いずれも、本件特許発明1の「フラックス組成物」、「(D)はんだ粉末」、「はんだ組成物」に相当する。
(イ)甲1発明の「アクリル酸変性水添ロジン」は、本件特許発明1の「(A)ロジン系樹脂」に相当する。
また、甲1発明における「アクリル酸変性水添ロジン」は、フラックス中に43質量%含まれるものであるから、甲1発明は、本件特許発明1の「(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上70質量%以下」に相当する発明特定事項を有していることは明らかである。
(ウ)上記ア(ア)cに示した【0106】をみるに、甲1発明の「アジピン酸」、「アゼライン酸」、「トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール」、「2-フェニルイミダゾール」、「2-フェニル-4-メチルイミダゾール」は、いずれも、本件特許発明1の「(B)活性剤」に相当する。
そして、甲1発明における「アジピン酸」、「アゼライン酸」、「トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール」、「2-フェニルイミダゾール」、「2-フェニル-4-メチルイミダゾール」は、フラックス中に合計で8質量%含まれるものであるから、甲1発明は、本件特許発明1の「(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下」に相当する発明特定事項を有していることは明らかである。
(エ)甲1発明の「チキソ剤」は、本件特許発明1の「(C)チクソ剤」、「(C)成分」に相当する。
また、甲1発明の「12-ヒドロキシステアリン酸」、「ドデカン二酸」、「ヘキサメチレンジアミン」、「ポリアマイド調整例1」は、それぞれ、本件特許発明1の「ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸」、「炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸」、「炭素数2から16のジアミン」、「アミド化合物」に相当する。
そして、甲1発明において「12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持して」「ポリアマイド調整例1」を得ることは、12-ヒドロキシステアリン酸、ドデカン二酸、及び、ヘキサメチレンジアミンを縮合させてアミド化合物を得ていることに他ならない。したがって、甲1発明の「12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持して得たポリアマイド調整例1」は、本件特許発明1の「ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させてなるアミド化合物」、「(C1)」、「(C1)成分」に相当する。
(オ)上記ア(ア)cに示した【0099】、【0103】をみるに、甲1発明の「チキソ剤」は、「チキソ剤A」及び「12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持して得たポリアマイド調整例1」から構成され、これらは、フラックス中に合計で9.5質量%含まれるものである。そして、上記(エ)に示したとおり、甲1発明の「チキソ剤」は、本件特許発明1の「(C)チクソ剤」、「(C)成分」に相当し、甲1発明の「12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持して得たポリアマイド調整例1」は、本件特許発明1の「ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させてなるアミド化合物」、「(C1)」、「(C1)成分」に相当するから、甲1発明は、本件特許発明1の「(C)成分が、(C1)であるアミド化合物を含有し」、「(C)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上25質量%以下」に相当する発明特定事項を有していることは明らかである。
(カ)甲1発明の「12-ヒドロキシステアリン酸とドデカン二酸を加えて約100℃まで加熱し、その後ヘキサメチレンジアミンを加えて約220℃まで加熱して3時間保持して得たポリアマイド調整例1」は、フラックス中に4.5質量%含まれるものであるから、上記(オ)も併せて考慮すれば、甲1発明は、本件特許発明1の「(C1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上25質量%以下」に相当する発明特定事項を有していることは明らかである。
(キ)甲1発明は、「フラックス11質量%と、Sn-Ag-Cu系はんだ合金粉末89質量%を混合したソルダペースト」であるから、本件特許発明1の「(D)成分の配合量が、前記はんだ組成物100質量%に対して、65質量%以上95質量%以下である」に相当する発明特定事項を有していることは明らかである。
(ク)上記(ア)~(キ)より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有するはんだ組成物であって、
前記(C)成分が、(C1)であるアミド化合物を含有し、
前記(C1)成分が、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させてなるアミド化合物であり、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上70質量%以下であり、
前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下であり、
前記(C)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上25質量%以下であり、
前記(C1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上25質量%以下であり、
前記(D)成分の配合量が、前記はんだ組成物100質量%に対して、65質量%以上95質量%以下である、
はんだ組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させてなるアミド化合物」である「(C1)成分」が「重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であるであるのに対し、甲1発明は、当該成分の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び、Mw/Mnの値が不明である点。
ウ 相違点についての検討
上記相違点1について検討する。
(ア)相違点1が実質的な相違点であるかについて
a 甲1には、チキソ剤として添加されるポリアマイドについて、その重量平均分子量及び数平均分子量に着目した記載はなく、甲1発明の「ポリアマイド調整例1」が、上記相違点1に係る「重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下」という発明特定事項を備えているとは認められない。
b この点に関し、申立人は、「甲1号証には調整例1のポリアマイドの数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwについて記載はされていないが、本件特許明細書で「好ましい」とされている縮合条件の範囲である約220℃・3時間の条件で生成されているのであるから、重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下であると考えるべき」と主張する(特許異議申立書の第16頁第13~18行)。
しかし、技術常識からみて、重合体の分子量は、縮合温度や時間といった条件のみならず、縮合に用いる原料の種類や配合量といった事項にも左右されるものであるから、甲1発明における「ポリアマイド調整例1」が、本件明細書に記載された「好ましい」縮合条件で製造されていることのみをもって、本件特許発明1と同程度の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、Mw/Mnの値を有していると認めることはできない。
c したがって、上記相違点1は実質的なものであるから、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(イ)相違点1の容易想到性について
a 上記(ア)aに示したとおり、甲1には、ポリアマイドについて重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnに着目した記載はなく、甲1発明における「ポリアマイド調整例1」を、上記相違点1に係る「重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下」とする発明特定事項を備えようとする動機付けは存在しない。
b 以上によれば、甲1発明における「ポリアマイド調整例1」に、上記相違点1にかかる「重量平均分子量Mwが500以上2500以下であり、数平均分子量Mnが500以上1500以下であり、Mw/Mnの値が1.2以上2.5以下」という発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
エ したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2)本件特許発明2~5について
本件特許の請求項2~5は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明2~5は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものである。
したがって、上記(1)のとおり、本件特許発明1が甲1発明であるとはいえない以上、同様に、本件特許発明2~5は、甲1発明であるとはいえない。
また、上記(1)のとおり、本件特許発明1が甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件特許発明2~5は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1~5は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないものである。
また、本件特許発明1~5は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700319