特許異議申立
2024-701213
はんだ組成物および電子基板の製造方法
- 審判番号
- 2024-701213
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-124745
- 登録番号
- 7503604
- 請求日
- 2024年12月19日
- 審決日
- 2025年10月14日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 石川 雄太郎
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.113-YAA(B23K) / P1651.121-YAA(B23K) / P1651.55 -YAA(B23K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の8第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
結論
結 論
特許第7503604号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7503604号の請求項1~6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第7503604号の請求項7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7503604号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2022-124745号。以下「本願」という。)は、令和 4年 8月 4日(優先権主張令和 3年 9月 2日)の出願であって、令和 6年 6月12日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月20日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 6年12月19日に特許異議申立人である赤松 智信(以下「申立人」という。)により、その請求項1~7(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 7年 3月28日付け :取消理由通知書
令和 7年 5月30日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 7年 6月16日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
なお、下記第2のとおり、訂正事項1~6は請求項の削除、訂正事項7は従属請求項を独立請求項に形式的に改めたものであるから、訂正が実質的に一部の請求項の削除のみとみなすことができ、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がない特別の事情があるときに該当するから、申立人に意見書を提出する機会は与えていない。
第2 訂正の請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
令和 7年 5月30日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のはんだ組成物」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)を含有し、
前記(B)成分が、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(C)成分が、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であり、
前記(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であり、
前記(C1)成分および前記(C2)成分の配合量の合計が、前記(C)成分100質量%に対して、85質量%以上である、はんだ組成物」に訂正する。
2 訂正の適否についての当合議体の判断
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1~6について
訂正事項1~6に係る訂正は、訂正前の請求項1~6を単に削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
イ 訂正事項7について
訂正事項2に係る訂正は、請求項7について、本件訂正前は請求項1~6のいずれかを引用するものであったところ、請求項1を引用するものについて、請求項1との引用関係を解消し、独立形式の請求項に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとともに、同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~7について、訂正前の請求項2~7は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~7は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
また、本件訂正について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~7について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)訂正の請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和 7年 5月30日提出で特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~7〕についての訂正を認める。
第3 本件特許発明
令和 6年 5月30日提出の訂正請求書により特許権者が行った請求項1~7についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~7に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明7」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。
「 【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)を含有し、
前記(B)成分が、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(C)成分が、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であり、
前記(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であり、
前記(C1)成分および前記(C2)成分の配合量の合計が、前記(C)成分100質量%に対して、85質量%以上である、はんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、
電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、
リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、
水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程と、を備える、
電子基板の製造方法。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記3の甲第1~7号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1
本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるか、甲1に記載された発明、並びに甲2、甲3、及び甲4に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲3に記載された発明と甲1、甲2、及び4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(本件訂正前の請求項7に係る発明の技術的な内容、及び特許異議申立書の第17頁における申立人の主張(「甲第1号証から甲第4号証に基づいて」容易である旨の主張)を考慮すると、同発明については、甲3を主たる引用文献とする進歩性も主張していると解し得る。)
2 申立理由2
(1)出願人(特許権者)が令和6年5月24日に提出した手続補正書において、本件訂正前の請求項1に記載された「重合ロジン」を「重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)」とした補正は、同日付の意見書によれば、「重合ロジン」から荒川化学工業(株)製の「KR-140」を除こうとするものであるが、「KR-140」は、甲5~7の記載のとおり、軟化点は130~150℃、酸化は130~160mgKOH/gという幅を持つものであるから、その全体のうちの1点のみを除くことは、「KR-140」を除いたことにはならない。
(2)したがって、上記補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
(3)よって、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件訂正前の請求項1及びそれを引用する本件訂正前の請求項2~7に係る特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特許第6646243号公報
甲第2号証:特許第6676244号公報
甲第3号証:特開2020-44562号公報
甲第4号証:特開2003-273518号公報
甲第5号証:主要製品系統図(天然樹脂製品)、荒川化学工業株式会社、2021年9月8日、https://www.arakawachem.co.jp/jp/technology/Product%20List%2020210908.pdf
甲第6号証:特開2020-204023号公報
甲第7号証:特開2017-209690号公報
第5 取消理由の概要
1 当審において、令和 7年 3月28日付けで、上記第4の申立理由1の一部を採用して以下の取消理由1を通知するとともに、同申立理由2に関連して主張された、「補正後の本件発明は」「令和6年3月25日付けの拒絶理由通知を解消していない」(第21頁1~4行)との主張を採用して、職権により、以下の取消理由2を通知した。
(1)取消理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)
上記第4の申立理由1のうち、本件訂正前の請求項1~2、4~5に係る発明に関するものと同様。
(2)取消理由2(本願の審査段階で引用された特開2015-6687号公報(以下、「引用文献1」という。)を主たる引用文献とする新規性)
本件訂正前の請求項1~3、5~6に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第4のいずれの申立理由、及び上記第5のいずれの取消理由によっても、本件特許の請求項7に係る特許を取り消すことができないと判断する。また、請求項1~6が本件訂正によって削除されたことにより、申立人による請求項1~6に係る特許異議の申し立てについては、申し立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 申立理由1(甲3を主たる引用文献とする進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲3の請求項1~4、段落【0001】、【0037】~【0047】の記載を総合勘案し、特に、請求項1~4の記載を前提として、実施例1~2のはんだ組成物を用いた電子基板の製造方法(段落【0037】~【0040】)に注目すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(D)チクソ剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、(A1)「中国重合ロジン140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)若しくは「KR-140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)の重合ロジンを含有し、
前記(B)成分が、活性剤A:グルタル酸、活性剤B:ジグリコール酸、及び活性剤C:エイコサン二酸「SL-20」を含有し、
前記(D)成分が、(D1)チクソ剤A:ポリアマイド「ライトアマイドWH-215」、チクソ剤B:「スリパックスZHH」を含有し、
前記(A1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、48質量%であり、
前記(A1)「中国重合ロジン140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)若しくは「KR-140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)の重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、100質量%であり、
前記活性剤A:グルタル酸、活性剤B:ジグリコール酸、及び活性剤C:エイコサン二酸の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、100質量%であり、
前記(D1)成分の配合量が、前記(D)成分100質量%に対して、100質量%である、はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板に実装する電子基板の製造方法であって、
電子基板の電極上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を搭載する工程と、
レーザー光により前記はんだ組成物を加熱して、前記電子部品と前記電子基板の電極とをはんだ接合する工程と、を備える、
電子基板の製造方法。」
(以下、「甲3発明」という。)
(2)本件特許発明7と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「(A)ロジン系樹脂」、「(B)活性剤」、「(D)チクソ剤」、「(C)溶剤」、「フラックス組成物」、「(E)はんだ粉末」、は、それぞれ、本件特許発明7の「(A)ロジン系樹脂」、「(B)活性剤」、「(C)チクソ剤」、「(D)溶剤」、「フラックス組成物」、「(E)はんだ粉末」に相当する。
イ 甲3発明の「(A1)「中国重合ロジン140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)若しくは「KR-140」」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)の重合ロジン」は、両方とも軟化点が140℃であって、軟化点が138℃ではないから、本件特許発明7の「重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)」に相当する。
ウ 甲3発明の「活性剤A:グルタル酸、活性剤B:ジグリコール酸、及び活性剤C:エイコサン二酸「SL-20」」は、本件特許発明7の「(B1)ジカルボン酸」に相当する。
エ 甲3発明において、「前記(A1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、48質量%であ」ることは、(A1)成分の配合量が(A)成分に対して100質量%である((A)成分が(A1)成分のみからなる)ことを踏まえると、本件特許発明7において、「(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であ」ることに相当する。
オ 甲3発明において、「前記(A1)「中国重合ロジン140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)若しくは「KR-140」(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g)の重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、100質量%であ」ることは、上記イの検討を踏まえると、本件特許発明7において、「前記重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であ」ることに相当する。
カ 甲3発明において、「前記活性剤A:グルタル酸、活性剤B:ジグリコール酸、及び活性剤C:エイコサン二酸の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、100質量%であ」ることは、上記ウの検討を踏まえると、本件特許発明7において、「前記(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であ」ることに相当する。
キ 甲3発明の「はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板に実装する電子基板の製造方法」、「電子基板の電極上に、前記はんだ組成物を塗布する工程」、「前記はんだ組成物上に電子部品を搭載する工程」は、それぞれ、本件特許発明7の「はんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法」、「電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程」、「前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程」に相当する。
ク 甲3発明の「レーザー光により前記はんだ組成物を加熱して、前記電子部品と前記電子基板の電極とをはんだ接合する工程」と、本件特許発明7の「リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程」とは、はんだ接合する工程が実装する工程に相当することを踏まえると、「加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程」という点で共通する。
ケ 以上の検討によれば、本件特許発明7と甲3発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)を含有し、
前記(B)成分が、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であり、
前記(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上である、はんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、
電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、
加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、を備える、
電子基板の製造方法。」の点。
<相違点1>
本件特許発明7では、「前記(C)成分が、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、」「前記(C1)成分および前記(C2)成分の配合量の合計が、前記(C)成分100質量%に対して、85質量%以上である」のに対し、甲3発明では、「前記(D)成分が、(D1)チクソ剤A:ポリアマイド「ライトアマイドWH-215」、チクソ剤B:「スリパックスZHH」を含有し、」「前記(D1)成分の配合量が、前記(D)成分100質量%に対して、100質量%である」点。
<相違点2>
前記電子部品を前記電子基板に実装する工程における加熱が、本件特許発明7では、「リフロー炉により所定条件にて加熱」することであるのに対して、甲3発明では、「レーザー光により」「加熱」することである点。
<相違点3>
本件特許発明7は「水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程」を備えるのに対して、甲3発明はそのような工程を備えることが特定されていない点。
(3)相違点についての検討
ア 事案に鑑み、上記相違点2について検討を行う。
(ア)甲3発明は、「レーザー光により前記はんだ組成物を加熱して、前記電子部品と前記電子基板の電極とをはんだ接合する」ものであり、リフロー炉により所定条件にて加熱して、電子部品を電子基板に実装するものではないから、相違点2は本件特許発明7と甲3発明との実質的な相違点である。
(イ)次に上記相違点2の容易想到性について検討する。
a 甲3の段落【0006】には、甲3発明が解決すべき課題として、レーザーはんだ付けをする場合に、はんだボールの発生を十分に抑制できるレーザーはんだ付け用はんだ組成物、およびそれを用いた電子基板を提供することが記載されており、この記載によると、甲3発明は、レーザーはんだ付けが前提の技術であるから、甲3の記載からは、レーザーはんだ付けに代えて、リフロー炉によるはんだ付けを適用することには阻害要因があるというべきであり、そのように変更する動機付けがあるともいえない。
b また、甲1の段落【0003】~【0004】には、はんだペーストを印刷して、電子部品をプリント基板上に戴置してからリフロー炉へ導入することが記載されており、さらに、甲4の段落【0055】や【0062】には、リフロー炉によってはんだ付けを行うことが記載されている。しかしながら、甲3発明は、レーザーはんだ付けが前提の技術であるから、甲3発明において、甲1や甲4に記載のリフロー炉によるはんだ付けを適用することには阻害要因があるというべきであり、そのように変更する動機付けがあるともいえない。
c よって、甲3発明において、上記相違点2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 次に、上記相違点3について検討を行う。
(ア)甲3には、「フラックス残さは洗浄することなく、電子部品を搭載した配線基板に被覆されたままにしてもよい」(段落【0041】)と記載されており、フラックス残さを洗浄してもよいことは示唆されているものの、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄することは記載されていないから、相違点3は本件特許発明7と甲3発明との実質的な相違点である。
(イ)次に上記相違点3の容易想到性について検討する。
a 甲3には、「フラックス残さは洗浄することなく、電子部品を搭載した配線基板に被覆されたままにしてもよい」(段落【0041】)と記載されており、フラックス残さを洗浄してもよいことは示唆されているものの、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄することは記載されていないから、甲3発明において、特に水系洗浄剤を用いてフラックス残さを洗浄する動機付けがあるとはいえない。また、甲1、甲2、及び甲4にも、甲3発明において、特に水系洗浄剤を用いてフラックス残さを洗浄することを動機付ける記載は見当たらない。
そして、本件特許発明7は、電子基板の製造方法において、請求項7に記載の所定のはんだ組成物を用いてはんだ付けを行うことによって、印刷時のだれ性に優れるとともに、水系洗浄剤で容易にフラックス残さを洗浄できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(段落【0008】、【0029】、【0041】)。
b なお、申立人は特許異議申立書の第17頁において、甲4の段落【0055】や【0062】には、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄することが記載されており、これが周知の事項である旨主張する。
しかしながら、仮に、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄すること自体が周知の事項だとしても、甲3発明のはんだ組成物と甲4の比較例1(段落【0052】~【0058】)及び比較例2(段落【0059】~【0064】)で用いられたはんだペーストとの異同は不明であるところ(なお、実施例1及び2で用いられたはんだペーストについては、請求項3~6、段落【0024】~【0028】、【0042】に記載がある。)、はんだ組成物の種類が異なれば、使用する洗浄剤の種類も異なると解されるから、甲3発明において、甲4に記載に基づいて、、水系洗浄剤を用いてフラックス残さを洗浄することが動機付けられるとはいえない。
仮に、そのようなことが動機付けられるとしても、本件特許発明7が奏する効果については、当業者が予測可能なものとはいえないことは、上記aのとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。
c 以上によれば、甲3発明において、上記相違点3に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲3に記載された発明、並びに甲1、甲2、及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1(甲3を主たる引用文献とする進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1(甲3を主たる引用文献とする進歩性)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1、取消理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲1の段落【0001】~【0004】、【0016】、【0042】、【0043】、【0066】~【0067】、【0070】~【0073】、【0099】、【0101】~【0103】、【0114】、【0130】~【0137】、【0141】~【0145】、【0151】~【0152】の記載を総合勘案すると、特に、段落【0003】、【0004】、【0099】の記載を前提として、表7に記載された実施例3に注目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「はんだ粉末とフラックスを、はんだ粉末:フラックス=89:11(質量比)で混合して作製したはんだペーストであって、
前記はんだ粉末は、As:100ppm、Sb:25ppm、Bi:25ppm、Pb:25ppm、残部Snからなる合金組成を有し(「ppm」は「質量ppm」を表す。)、
前記フラックスは、フラックスの合計量を100質量部としたときに、有機酸としてグルタル酸:3質量部、樹脂成分として重合ロジン:50質量部、チキソ剤としてヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド:5質量部、溶剤としてヘキシルジグリコール:42質量部、を混合したものである、はんだペーストを用いて、リフロー法によって電子部品をプリント基板に接続する方法であって、
プリント基板の電極上に印刷によってはんだペーストを供給し、
上記印刷されたはんだペースト上に電子部品を載置し、
電子部品が載置されたプリント基板をリフロー炉に導入する、
方法。」
(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件特許発明7と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「フラックス」、「はんだ粉末」、「はんだペースト」は、それぞれ、本件特許発明7の「フラックス組成物」、「(E)はんだ粉末」、「はんだ組成物」に相当する。
イ 甲1発明の「樹脂成分として重合ロジン」は、本件特許発明7の「(A)ロジン系樹脂」に相当し、また、本件特許発明7の「重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)」とは「重合ロジン」である限りにおいて共通する。
ウ 甲1発明の「有機酸としてグルタル酸」は、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0012】の、(B1)成分としてグルタル酸等が挙げられる旨の記載を参照すれば、本件特許発明7の「(B1)ジカルボン酸」に相当し、したがって、「(B)活性剤」にも相当する。
エ 甲1発明の「チキソ剤としてヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド」は、本件明細書の段落【0016】の、(C1)成分としてヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:681、水酸基当量:341)等が挙げられる旨の記載を参照すれば、本件特許発明7の「(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤」に相当し、したがって、「(C)チクソ剤」にも相当する。
オ 甲1発明において、「フラックスの合計量を100質量部としたときに」、「樹脂成分として重合ロジン:50質量部」であることは、上記イの検討を踏まえると、本件特許発明7において、「(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であ」ることに相当する。
カ 甲1発明において、「樹脂成分として重合ロジン:50質量部」であることは、樹脂成分としては重合ロジンのみを含むことを意味するところ、上記イの検討を踏まえると、重合ロジン以外のロジン系樹脂は含まないこと、すなわち、重合ロジンがロジン系樹脂の100%であることを意味するから、本件特許発明7において、「重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であ」ることに相当する。
キ 甲1発明において、「有機酸としてグルタル酸:3質量部」であることは、有機酸としてはグルタル酸のみを含むことを意味するところ、芳香族カルボン酸、すなわち(B2)成分が含まれていないため、上記ウの検討を踏まえると、グルタル酸が活性剤の100%であることを意味するから、本件特許発明7の「(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であ」ることに相当する。
ク 甲1発明において「チキソ剤としてヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド:5質量部」であることは、チキソ剤としてはヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミドのみを含むことを意味するところ、グリセロール系のチキソ剤が含まれていないため、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミドがチキソ剤の100%であることを意味するから、上記エの検討を踏まえると、本件特許発明7の「(C1)成分および前記(C2)成分の配合量の合計が、前記(C)成分100質量%に対して、85質量%以上であ」ることに相当する。
ケ 甲1発明の「溶剤としてヘキシルジグリコール」は、本件特許発明7の「(D)溶剤」に相当する。
コ 甲1発明の「プリント基板」、「印刷によってはんだペーストを供給」することは、それぞれ、本件特許発明7の「電子基板」、「はんだ組成物を塗布する」ことに相当する。
サ 甲1発明の「上記印刷されたはんだペースト上に電子部品を載置」することは、本件特許発明7の「前記はんだ組成物上に電子部品を配置する」ことに相当する。
シ 甲1発明の「電子部品が載置されたプリント基板をリフロー炉に導入する」ことは、本件特許発明7の「リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する」ことに相当する。
ス 以上の検討によれば、本件特許発明7と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「 (A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、重合ロジンを含有し、
前記(B)成分が、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(C)成分が、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であり、
前記(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であり、
前記(C1)成分および前記(C2)成分の配合量の合計が、前記(C)成分100質量%に対して、85質量%以上である、はんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、
電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、
リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、
と、を備える、
電子基板の製造方法。」の点。
<相違点4>
「重合ロジン」について、本件特許発明7は「重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)」ものであるのに対して、甲1発明はそのような特定がされていない点。
<相違点5>
本件特許発明7は「水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程」を備えるのに対して、甲1発明はそのような工程を備えることが特定されていない点。
(3)相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず上記相違点5について検討を行う。
(ア)甲1には、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄することは記載されていないから、相違点5は本件特許発明7と甲1発明との実質的な相違点である。
(イ)次に上記相違点5の容易想到性について検討する。
a 甲1には、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄することは記載されていないから、甲1発明において、特に水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄する動機付けがあるとはいえない。また、甲2、甲3、及び甲4にも、甲1発明において、特に水系洗浄剤を用いてフラックス残さを洗浄することを動機付ける記載は見当たらない。
そして、本件特許発明7は、電子基板の製造方法において、請求項7に記載の所定のはんだ組成物を用いてはんだ付けを行うことによって、印刷時のだれ性に優れるとともに、水系洗浄剤で容易にフラックス残さを洗浄できるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(段落【0008】、【0029】、【0041】)。
b なお、申立人は特許異議申立書の第17頁において、甲4の段落【0055】や【0062】には、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄することが記載されており、これが周知の事項である旨主張する。
しかしながら、仮に、水系洗浄剤を用いて電子基板上のフラックス残さを洗浄すること自体が周知の事項だとしても、甲1発明のはんだ組成物と甲4の比較例1(段落【0052】~【0058】)及び比較例2(段落【0059】~【0064】)で用いられたはんだペーストとの異同は不明であるところ(なお、実施例1及び2で用いられたはんだペーストについては、請求項3~6、段落【0024】~【0028】、【0042】に記載がある。)、はんだ組成物の種類が異なれば、使用する洗浄剤の種類も異なると解されるから、甲1発明において、甲4に記載に基づいて、水系洗浄剤を用いてフラックス残さを洗浄することが動機付けられるとはいえない。
仮に、そのようなことが動機付けられるとしても、本件特許発明7が奏する効果については、当業者が予測可能なものとはいえないことは、上記aのとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。
c 以上によれば、甲1発明において、上記相違点5に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点4ついて検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲1に記載された発明、並びに甲2、甲3、及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1、取消理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
一方、上記第2のとおり、本件特許の請求項1~6が本件訂正により削除されたから、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項1~6に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。よって、本件訂正前の請求項1~6に係る発明に対する申立理由1、及び取消理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)については、判断を要しない。
3 申立理由2(新規事項の追加)について
(1)新規事項を追加する補正であるかの検討は次の判断手法による。すなわち、補正が、明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができる(平成18年(行ケ)第10563号)。
(2)ここで、特許権者は、令和 6年 5月24日に提出した手続補正書において、請求項1に記載された「重合ロジン」を「重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)」と括弧書きを追加し、「重合ロジン」から、その一部を除く補正を行った。そして、本件訂正後の本件特許発明7にも、同様の記載が存在する。
(3)上記(2)の補正は、「重合ロジン」から、その一部である「軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジン」を除外するものであると認められる。そして、本件特許発明7における「重合ロジン」は、当該物質の定義に当てはまる物質であれば種類を問わないと解され、上記(2)の補正は、重合ロジンのうち具体的な性質を持つ一部の重合ロジンを除外するものであると解される。そして、除外されるもののみが重合ロジンとして何らかの特有の性質を有するとか、除外後に残ったもののみが重合ロジンとして何らかの特有の性質を有するなど、上記(2)の補正によって、重合ロジン自体の技術的内容を変更するような事情は見当たらない。
(4)よって、上記(2)の補正は,特許請求の範囲に記載された「重合ロジン」の種類を限定するものに過ぎず、これによって新たな技術的事項を導入するものではないから、上記(2)の補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができる。
(5)なお、申立人は、特許異議申立書の第19~20頁において、甲5~7を挙げた上で、荒川化学工業(株)製の「KR-140」には、「軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジン」以外のものも含まれるため、上記(2)の補正は、「KR-140」全体を除くものではなく、「KR-140」のうち一部のみを意図的に除いたものであって、特許権者が、令和6年5月24日に提出した意見書の「重合ロジン」から荒川化学工業(株)製の「KR-140」を除くという記載と矛盾しているし、このような補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができない旨主張する。
しかしながら、「R-140」の軟化点、酸価に関わらず、上記(2)の補正は、特許請求の範囲に記載された「重合ロジン」の種類を限定するものに過ぎず、「KR-140」全体が除かれていないからといって、これによって新たな技術的事項を導入するものではないから、上記(2)の補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるから、当該主張は採用できない。
(6)また、申立人は、特許異議申立書の第20頁において、上記(2)の補正は、「KR-140」のうち一部のみを意図的に除いたものであって、このような特定のもののみ除くことは本件出願当初明細書等の中には記載されていないから、このような補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができない旨主張する。
しかしながら、「R-140」の軟化点、酸価に関わらず、上記(2)の補正は、特許請求の範囲に記載された「重合ロジン」の種類を限定するものに過ぎず、これによって新たな技術的事項を導入するものではないから、上記(2)の補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるから、当該主張は採用できない。
(7)したがって、特許権者が、令和 6年 5月24日に提出した手続補正書でした手続補正は、本件特許に係る願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであるから、申立理由2によっては、本件特許発明7に係る特許を取り消すことはできない。
一方、上記第2のとおり、本件特許の請求項1~6が本件訂正により削除されたから、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項1~6に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。よって、本件訂正前の請求項1~6に係る発明に対する申立理由2については、判断を要しない。
4 取消理由2(引用文献1を主たる引用文献とする新規性)
(1)取消理由2は、本件訂正前の請求項1~3、5~6に係る発明を対象とする取消理由であった。しかし、上記第2のとおり、本件特許の請求項1~6が本件訂正により削除されたから、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項1~3、5~6に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。よって、本件訂正前の請求項1~3、5~6に係る発明に対する取消理由2については、判断を要しない。
第7 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議申立てがされた請求項1~6が削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項1~6に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-701213