特許異議申立
2025-701023
フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板
- 審判番号
- 2025-701023
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-046600
- 登録番号
- 7672443
- 請求日
- 2025年10月24日
- 審決日
- 2026年02月20日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】▲瀬▼田 千夏
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 阿川 寛樹
- 審判官 富永 泰規
- 分類
- P1651.121-Y (B23K) / P1651.537-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7672443号発明「フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7672443号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7672443号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、令和 5年 3月23日を出願日とする特許出願(特願2023- 46600号。以下「本願」という。)に係るものであって、令和 7年 4月24日にその特許権の設定登録がされ、令和 7年 5月 7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 7年10月24日に、その請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人である瀬田 千夏(システムの制約のため「瀬」と表記したが、正しくは、「頁」が「刀」の下に「貝」。以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、本件特許の請求項1~4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
「【請求項1】
(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物であって、
前記(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、
前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、
前記(B1)成分が、ドデカン二酸を含有し、
前記(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有する、
フラックス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(A1)成分の配合量が、前記(A)成分100質量%に対して、50質量%以上である、
フラックス組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
1 申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれを「甲1」~「甲5」という。下記(3)参照。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1(進歩性)
本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由2(サポート要件)
本件発明1~4については、以下ア~エの点で特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件発明1~4は、アクリル樹脂の割合を特定していないから、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えるものである。
イ 本件発明1~4は、ドデカン二酸の割合を特定していないから、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えるものである。
ウ 本件発明1~4は、マレイン酸ジブチルの割合を特定していないから、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えるものである。
エ 本件発明1~4は、ドデカン二酸とマレイン酸ジブチルとの割合を特定していないから、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えるものである。
(3) 証拠方法
甲1:国際公開第2018/003760号
甲2:特開2018-122323号公報
甲3:国際公開第2020/209077号
甲4:特開2020-163455号公報
甲5:特開2018-008287号公報
第4 当審における判断
1 申立理由1(進歩性)
(1) 甲1に記載された発明
甲1の記載([0024]~[0056]、[0068]~[0074])によれば、特に、[0024]、[0025]、[0050]、[0056]、[0069]、[0070]、[0071]の[表1]、[0074]の[表4]の脚注の記載を前提として、実施例13及び実施例14に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)ベース樹脂として、
(A-1)ロジン系樹脂としてのKE-604(荒川化学工業(株)製 水添酸変性ロジン)を15質量%と、
(A-2)合成樹脂としての、撹拌機、還流管、及び窒素導入管とを備えた500mlの4つ口フラスコにジエチレングリコールモノヘキシルエーテル200gを仕込み、これを110℃に加熱し、またメタクリル酸10質量%、2-エチルヘキシルメタクリレート51質量%、ラウリルアクリレート39質量%を混合したもの300gにアゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(製品名:V-601、和光純薬(株)製)を0.2質量%から5質量%を加えてこれを溶解させ、溶液を作製し、次いで当該溶液を上記4つ口フラスコに1.5時間かけて滴下したものを110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、て得た、重量平均分子量は7,800Mw、酸価は40mgKOH/g、ガラス転移温度は-47℃である合成樹脂を35質量%と、
(B)活性剤として、マロン酸0.5質量%、コハク酸0.5質量%、スベリン酸1.5質量%、ピコリン酸1.0質量%、2-ブロモヘキサン酸1.5質量%と、
(C)チクソ剤として、スリパックスZHH(日本化成(株)製 脂肪酸ビスアマイド)を5質量%と、
(D)溶剤として、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(202℃)35.1質量%及び(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルとしてのマレイン酸ジブチル(233℃)3.9質量%、又は、(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルとしてのマレイン酸ジブチル(233℃)39質量%と、
酸化防止剤として、イルガノックス245(BASFジャパン(株)製 ヒンダードフェノール系酸化防止剤)を1質量%と、
を混練して得たフラックス組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「(A)ベース樹脂」、「(B)活性剤」、「(D)溶剤」は、それぞれ本件発明1の「(A)樹脂」、「(B)活性剤」、「(C)溶剤」に相当するから、甲1発明の「(A)ベース樹脂」、「(B)活性剤」、「(C)チクソ剤」、「(D)溶剤」、「酸化防止剤」を「混練して得たフラックス組成物」は、本件発明1の「(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物」に相当する。
(イ) 甲1発明の「(A-2)合成樹脂」は、その製造方法からみてアクリル樹脂であることが明らかであるから、甲1発明の「(A)ベース樹脂」が「(A-2)合成樹脂」を含有することは、本件発明1の「(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有」することに相当する。
(ウ) 甲1発明の「(B)活性剤」は、「マロン酸0.5質量%、コハク酸0.5質量%、スベリン酸1.5質量%、ピコリン酸1.0質量%、2-ブロモヘキサン酸1.5質量%」であり、いずれも有機酸であることが明らかであるから、本件発明1の「前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有」することに相当する。
(エ) 甲1発明の「(D)溶剤」は、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(202℃)35.1質量%及び(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルとしてのマレイン酸ジブチル(233℃)3.9質量%、又は、(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルとしてのマレイン酸ジブチル(233℃)39質量%」であり、少なくともマレイン酸ジブチルを含有するから、本件発明1の「前記(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有する」ことに相当する。(なお、物質名と併せて記載された温度は、熱重量測定-示唆熱分析装置(製品名:STA7200RV、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用い、TG曲線での減量率が100%になる温度(甲1の[0070])である。)
(オ) 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するフラックス組成物であって、
前記(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、
前記(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、
前記(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有する、
フラックス組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点
フラックス組成物の(B)活性剤成分が含有する(B1)有機酸について、本件発明1では、「前記(B1)成分が、ドデカン二酸を含有」するのに対して、甲1発明では、「マロン酸0.5質量%、コハク酸0.5質量%、スベリン酸1.5質量%、ピコリン酸1.0質量%、2-ブロモヘキサン酸1.5質量%」であって、ドデカン二酸を含有するものではない点
イ 相違点の検討
(ア) 甲2~甲5には、それぞれ、以下の事項が記載されていると認められる。
a 甲2に記載された事項
甲2には、Bi、In及びSbといった酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であっても、はんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することのできるフラックス組成物を提供することを課題(【0008】~【0010】)として、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物(【特許請求の範囲】)において、前記活性剤(B)として、(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことが好ましい(【0035】)ことが記載され、このうち、(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸について、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B-2)における炭素鎖は直鎖であっても分鎖であってもいずれでもよいとされ、特にアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸が好ましく用いられることが示されている(【0037】)。
b 甲3に記載された事項
甲3には、優れた濡れ性が得られ、また、はんだ付け部のボイド(空隙)とウイスカ(結晶成長)とを抑制でき、さらに、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れるフラックスを得ることを課題([0005]~[0009])として、スズ-銀-銅系のはんだ付に用いられるフラックスであり、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物と、炭素数3~36のジカルボン酸と、4級アンモニウムのヨウ素塩とを含有し、前記フラックスの総量に対して、ジカルボン酸の含有割合が6質量%以上25質量%以下であり、ヨウ素の含有割合が200ppm以上3600ppm以下であるフラックス([請求項1])が記載され、炭素数3~36のジカルボン酸が活性剤として添加され([0066])、ドデカン二酸を含むC3~36の飽和脂肪族ジカルボン酸、C3~C36の不飽和脂肪族ジカルボン酸、C3~C36の芳香族ジカルボン酸などが例示され、単独使用または2種以上併用することができること([0067])が記載されている。
c 甲4に記載された事項
甲4には、活性剤、ロジン系樹脂との相溶性に優れ、温度サイクル信頼性に優れ、更に、はんだの濡れ性に優れたフラックスを提供することを課題(【0006】~【0007】)として、飛行時間型質量分析計を用いた質量分析法による数平均分子量が500以上2000未満のアクリル樹脂と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス(【請求項1】)が記載され、フラックスは、活性剤として、有機酸、アミン、有機ハロゲン化合物、アミンハロゲン化水素酸塩のうちの1種又は2種以上を含み(【0034】)、多数列挙される有機酸の一つとして、ドデカン二酸が例示(【0039】)されている。
d 甲5に記載された事項
甲5には、アンダーフィルで接合対象箇所を固着するはんだ付けで使用されるフラックスに関し(【0001】)、はんだ合金の濡れ性を阻害することなく、フラックス残渣の表面の粘着性を抑制し、かつ、ボイドを抑制したフラックスを提供することを課題(【0009】~【0011】)として、熱硬化性の樹脂と、硬化剤と、有機酸と溶剤とを含むフラックス(【0019】)であって、有機酸として、ダイマー酸、または、ダイマー酸と炭素数が12以下のジカルボン酸からなり(【0023】)、炭素数が12以下のジカルボン酸として、ドデカン二酸を添加した実施例(【表1】の実施例7、【0046】)が記載されている。
(イ) 甲1発明と、上記(ア)aに示した甲2に記載された事項に基づいて、上記相違点について検討すると、仮に、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲2に記載される組み合わせの各種のジカルボン酸を用いる動機付けを得たとしても、甲2において、列挙される多くの物質の中から、ドデカン二酸を選択する動機付けがない。
(ウ) 甲1発明と、上記(ア)bに示した甲3に記載された事項に基づいて、上記相違点について検討すると、甲3に記載されるフラックスは、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物、及び、4級アンモニウムのヨウ素塩とを含有するものであって、これらを含有しない甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲3に記載されるC3~36の飽和脂肪族ジカルボン酸を用いる動機付けがない。また、仮に用いる動機付けを得たとしても、甲3において、列挙される多くの物質の中から、ドデカン二酸を選択する動機付けがない。
(エ) 甲1発明と、上記(ア)cに示した甲4に記載された事項に基づいて、上記相違点について検討すると、甲1発明のアクリル樹脂が重量平均分子量は7,800Mwである一方、甲4のアクリル樹脂は飛行時間型質量分析計を用いた質量分析法による数平均分子量が500以上2000未満のアクリル樹脂であって、両者は前提とするアクリル樹脂が異なるから、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲4に記載される有機酸を用いる動機付けがない。また、仮に用いる動機付けを得たとしても、甲4において、多数列挙される有機酸の中から、ドデカン二酸を選択する動機付けもない。
(オ) 甲1発明と、上記(ア)dに示した甲5に記載された事項に基づいて、上記相違点について検討すると、甲1発明のフラックス組成物は、アンダーフィルで接合箇所を固着することを意図するものではないから、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲5に記載されているような有機酸を用いる動機付けがない。また、甲5には、ダイマー酸と併用する炭素数が12以下のジカルボン酸として、一実施例において、ドデカン二酸が記載されるにとどまり、ダイマー酸を含むことを特定しない甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲5に記載されているような有機酸を用いる動機付けはなく、また、一実施例のフラックスの組成からドデカン二酸のみを用いる動機付けもない。
(カ) また、上記(ア)a~dの記載事項から、仮にフラックス組成物に用いられる活性剤に用いられる有機酸として、ドデカン二酸が周知の物質の一つであると認定できるとしても、甲1発明において、(B)活性剤である有機酸を変更しようとする動機付けがないし、仮に(B)活性剤である有機酸を変更するとしても、フラックス組成物に活性剤として用いられる多くの物質の中から、ドデカン二酸を特に選択する動機付けもない。
(キ) ここで、本件発明1において、フラックス組成物の活性剤成分としてドデカン二酸を含有することについて、本件明細書の記載によれば、アクリル樹脂を含有するフラックス組成物において、分子量が小さい有機酸の結晶がフラックス中に析出し、場合によっては、大きな結晶が発生してしまうことにより、目詰まりが発生し、印刷性が低下してしまうのに対して、有機酸としてドデカン二酸を併用することにより、分子量が小さい有機酸が大きな結晶となることを抑制する(【0010】、【0017】)という効果を奏するものといえる。
(ク) そして、本件明細書の実施例(【0037】~【0043】)によれば、有機酸A(ドデカン二酸)を含有する実施例1と有機酸A(ドデカン二酸)を含有しない比較例1とを対比すると、前者の(1)結晶析出についての評価が「○」であるのに対して、後者の評価が「××」であることが【表1】に示されており、上記(キ)の効果が、実施例として裏付けられているといえる。
(ケ) 一方、上記(ア)a~dの記載事項をみても、ドデカン二酸により、分子量が小さい有機酸の結晶がフラックス中に析出し、大きな結晶となることを抑制し、これによって、印刷性が低下するのを抑制するとの効果は記載されておらず、技術常識を踏まえても、当業者が予測することができない顕著な効果であるといえる。
(コ) そうすると、仮にフラックス組成物に用いられる活性剤に用いられる有機酸として、ドデカン二酸が周知の物質の一つであると認定できるとしても、本件発明1は、ドデカン二酸を選択することにより当業者が予測をすることができない顕著な効果を奏するものであるから、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、ドデカン二酸を用いることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(サ) 申立人は、甲1と、甲2、3、5とは、課題の共通性を有しているから、甲1発明における(B1)成分として、甲2~5記載事項の「ドデカン二酸」を適用することは、容易に想到し得るものであると主張する(申立書12~13頁)。
しかしながら、上記(イ)~(カ)で検討したように、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲2~甲5に記載されたドデカン二酸を用いる動機付けがあるとはいえない。仮に用いることができるとしても、上記(キ)~(コ)で検討したように、本件発明1は、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものであるから、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、ドデカン二酸を用いることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(シ) 以上によれば、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、甲2~甲5に記載されたドデカン二酸を用いる動機付けがなく、仮に用いることができるとしても、本件発明1は、ドデカン二酸を用いることにより、当業者が予測をすることができない顕著な効果を奏するものであるから、甲1発明において、(B)活性剤に代えて又は加えて、ドデカン二酸を用いることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものである。そうすると、本件発明2~4と甲1発明とは、少なくとも上記(2)ア(オ)に記載した相違点と同様の相違点において相違するところ、当該相違点については、上記(2)で検討したとおり、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、本件発明2~4は、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり、本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)
(1) 本件発明1~4について
ア 本件明細書の記載(【0004】、【0005】)によれば、本件発明が解決しようとする課題は、フラックス残さの温度サイクル信頼性を向上させるためにアクリル樹脂を用いるフラックス組成物において、併用する有機酸のうち、分子量が小さい有機酸がアクリル樹脂に溶けにくいことから、有機酸が溶けずフラックス中に析出してしまい、はんだ組成物の印刷時に目詰まりなどの悪影響を及ぼすことがあることを背景として、フラックス残さの温度サイクル信頼性が優れ、かつ印刷性が優れるフラックス組成物を提供することであると認められる。
イ 本件明細書の記載(【0009】)によれば、フラックス組成物は、(A)樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するものであり、(A)成分が、(A1)アクリル樹脂を含有し、(B)成分が、(B1)有機酸を含有し、(B1)成分が、ドデカン二酸を含有し、(C)成分が、(C1)マレイン酸ジブチルを含有するものである。
ウ そして、本件明細書の記載(【0010】)によれば、(A)樹脂として、(A1)アクリル樹脂を含有することにより、フラックス残さの温度サイクル信頼性が向上でき、有機酸として併用するドデカン二酸により、分子量が小さい有機酸が大きな結晶となることを抑制でき、(C)溶剤として用いる(C1)マレイン酸ジブチルにより、分子量が小さい有機酸の結晶化を抑制でき、これらによって、大きな結晶が発生することを防止でき、優れた印刷性が確保される。
エ そうすると、本件発明が解決しようとする課題は、フラックス組成物が、(A)樹脂として、(A1)アクリル樹脂を含有すること、(B)活性剤として、(B1)有機酸を含有し、(B1)有機酸として、ドデカン二酸を含有すること、(C)溶剤として、(C1)マレイン酸ジブチルを含有するによって、解決されるものといえる。
オ また、本件明細書及び図面には、上記イ~ウのほかに、請求項1~4における各発明特定事項についても記載されている(【0011】~【0015】、【0029】~【0033】、【0034】~【0036】)。
カ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記エで指摘した発明特定事項を備えた本件発明1~4は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明1~4については、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するものである。
(2) 申立人の主張について
ア 申立人は、アクリル樹脂について、本件明細書の【0004】~【0005】、【0012】、【表1】の記載を踏まえ、本件発明が、アクリル樹脂の割合について一切特定していないことから、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書14~15頁)。
しかしながら、本件明細書の【0012】の上限値と下限値の記載は、「(A1)成分の配合量は、(A)成分100質量%に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、・・・特に好ましい。」と、単に好ましい範囲を例示するものであって、上限値及び下限値の範囲外である場合に、ただちに効果を奏しないことが記載されているとはいえない。
また、同段落には、「(A1)成分の配合量が前記下限以上であれば、フラックス残さの温度サイクル信頼性をさらに向上できる傾向にあり」と記載されており、「(A1)成分の配合量」と「フラックス残さの温度サイクル信頼性」との相関の傾向が示されているにすぎず、フラックス組成物にアクリル樹脂を含有することにより、フラックス残さの温度サイクル信頼性を向上するという効果は、たとえ上限値及び下限値の範囲外であっても、一定程度は奏するものと認められる。
このことは、実施例において、アクリル樹脂の割合が特定の範囲のものしか示されていないとしても変わるものではなく、この判断を左右するものではない。
そうすると、本件発明が、アクリル樹脂の割合について特定していないことをもって、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
イ 申立人は、ドデカン二酸について、本件明細書の【0004】~【0005】、【0010】、【0017】、【表1】の記載を踏まえ、本件発明が、ドデカン二酸の割合について一切特定していないことから、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書15頁~16頁)。
しかしながら、本件明細書の【0017】の上限値と下限値の記載は、「ドデカン二酸の配合量は、(B1)成分100質量%に対して、15質量%以上60質量%以下であることが好ましく、・・・特に好ましい。」と、単に好ましい範囲を例示するものであって、上限値及び下限値の範囲外である場合に、ただちに効果を奏しないことが記載されているとはいえない。
本件明細書の【0010】には、「ドデカン二酸により、分子量が小さい有機酸が大きな結晶となることを抑制できる。・・・このようにして、大きな結晶が発生することを防止でき、優れた印刷性を確保できる。」と記載され、その作用機序については記載されていないものの、ドデカン二酸が存在することにより、なんらかの作用により分子量が小さい有機酸が大きな結晶となることを抑制するものであり、ドデカン二酸の含有量が少ないとしても同様の作用により一定の効果を奏するものと認められる。
このことは、実施例において、ドデカン二酸の割合が特定の範囲のものしか示されていないとしても変わるものではなく、この判断を左右するものではない。
そうすると、本件発明が、ドデカン二酸の割合について特定していないことをもって、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
ウ 申立人は、マレイン酸ジブチルについて、本件明細書の【0004】~【0005】、【0010】、【0020】、【表1】の記載を踏まえ、本件発明が、マレイン酸ジブチルの割合について一切特定していないことから、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書16頁~18頁)。
しかしながら、本件明細書の【0020】の上限値と下限値の記載は、「上記の観点から、(C1)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、・・・特に好ましい。」と、単に好ましい範囲を例示するものであって、上限値及び下限値の範囲外である場合に、ただちに効果を奏しないことが記載されているとはいえない。
本件明細書の同段落には、「本実施形態に用いる(C)溶剤は、(C1)マレイン酸ジブチルを含有することが必要である。この(C1)成分により、分子量が小さい有機酸の結晶化を抑制できる。」と記載され、その作用機序については記載されていないものの、マレイン酸ジブチルが存在することにより、なんらかの作用により分子量が小さい有機酸の結晶化を抑制するものであり、マレイン酸ジブチルの含有量が少ないとしても同様の作用により一定の効果を奏するものと認められる。
このことは、実施例において、マレイン酸ジブチルの割合が特定の範囲のものしか示されていないとしても変わるものではなく、この判断を左右するものではない。
そうすると、本件発明が、マレイン酸ジブチルの割合について特定していないことをもって、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
エ 申立人は、ドデカン二酸とマレイン酸ジブチルとの比率について、本件明細書の【0004】、【0005】、【0010】、【表1】の記載を踏まえ、2つの成分が共同で作用効果を奏する場合、当該効果を奏するために、2つの成分が特定のバランスで含まれる必要があり、いずれか一方のみが過剰である場合には、当該作用効果が得られないとの認識を前提として、本件発明が、ドデカン二酸と(C1)マレイン酸ジブチルとの割合について一切特定していないことから、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書18頁~19頁)。
しかしながら、本件明細書の【0010】の記載によれば、「ドデカン二酸」は、「分子量が小さい有機酸が大きな結晶となることを抑制」し、「マレイン酸ジブチル」は、「分子量が小さい有機酸の結晶化を抑制」するものと認められる。
そうすると、「ドデカン二酸」と「マレイン酸ジブチル」とは、それぞれが異なる作用により、最終的に分子量が小さい有機酸の、「大きな結晶が発生することを防止でき、優れた印刷性を確保」するものであるといえるから、それぞれが存在することにより、それぞれの効果を奏し、結果として、優れた印刷性の確保に一定の効果を奏するものと認められる。
また、上記のとおり、「ドデカン二酸」と「マレイン酸ジブチル」とは、それぞれが異なる作用により優れた印刷性の確保に寄与するものであるから、申立人の主張するように、かならずしも、2つの成分が特定のバランスで含まれることを要するとはいえない。
そうすると、本件発明が、ドデカン二酸とマレイン酸ジブチルとの比率について特定していないことをもって、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
オ よって、申立人の主張は採用できない。
(3) まとめ
したがって、申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701023