特許異議申立
2025-700659
造形システム、造形方法、コンピュータプログラム、記録媒体及び制御装置
- 審判番号
- 2025-700659
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-559622
- 登録番号
- 7604776
- 請求日
- 2025年06月23日
- 審決日
- 2026年03月03日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ニコン
- 【権利者代理人】江上 達夫
- 【権利者代理人】中村 聡延
- 【異議申立人】前田 正夫
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 本庄 亮太郎
- 審判官 鈴木 貴雄
- 分類
- P1651.113-YAA(B23K) / P1651.121-YAA(B23K) / P1651.537-YAA(B23K) / P1651.536-YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7604776号発明「造形システム、造形方法、コンピュータプログラム、記録媒体及び制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7604776号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、12について訂正することを認める。
特許第7604776号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報発行までの経緯
特許第7604776号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月10日(優先権主張 平成29年12月12日)を国際出願日とする国際特許出願であって、令和2年6月9日に国内書面が提出され、令和6年12月16日に特許権の設定登録がされ、同月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許に対する特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和7年6月23日(受付日:同月24日)
特許異議申立人 前田 正夫(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~12に係る特許に対する特許異議の申立て
(申立てのために提出された特許異議申立書を以下単に「申立書」という。)
(2)同年9月10日付け(発送日:同月16日)
取消理由通知書による取消理由の通知(以下「取消理由通知」という。)
(3)同年11月12日(受付日:同月13日)
特許権者 株式会社ニコン(以下単に「特許権者」という。)による、訂正請求書及び意見書の提出
(4)同年12月19日(受付日:同月22日)
特許権者による、上記(3)の訂正請求書を補正の対象とする手続補正書(以下、手続補正書により補正がされた訂正請求書を単に「訂正請求書」といい、当該訂正請求書により請求された訂正を「本件訂正」という。)、及び、上記(3)の意見書を補正の対象とする手続補正書の提出
(5)令和8年2月5日(受付日:同月6日)
申立人による、意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の請求の趣旨及び内容について
特許権者による本件訂正は、請求の趣旨として、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
ア 「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能な変更装置」
と記載されているのを、
「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置」
に訂正し、
イ 「前記制御装置は、異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域の特性と、前記第2の領域の特性との差を低減する制御を行う造形システム。」
と記載されているのを、
「前記制御装置は、異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減する制御を行い、
前記第1の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が1回行われる領域であり、前記第2の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が2回以上行われる領域であり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形システム。」
に訂正する。
請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7及び10~11も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、
「前記特性は、」
と記載されているのを、
「前記造形物の前記サイズは、」
に訂正する。
請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3~5、7及び10~11も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6において、
ア 「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能な変更装置」
と記載されているのを、
「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置」
に訂正し、
イ 「前記造形処理の条件は、前記エネルギビームから前記第1の領域に伝達された熱の拡散特性と、前記エネルギビームから前記第2の領域に伝達された熱の拡散特性とが異なることである」
と記載されているのを、
「前記エネルギビームから前記第1の領域に伝達された熱の拡散特性と、前記エネルギビームから前記第2の領域に伝達された熱の拡散特性とが異なり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」
に訂正する。
請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項10~11も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8において、
ア 「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能な変更装置」
と記載されているのを、
「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置」
に訂正し、
イ 「前記第1の領域は、前記第2の領域よりも、前記照射領域が設定されない前記既存構造物の他の表面に近接した領域を含む」
と記載されているのを、
「前記第1の領域は、前記第2の領域よりも、前記照射領域が設定されない前記既存構造物の他の表面に近接した領域を含み、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」
に訂正する。
請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項10~11も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9において、
ア 「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能な変更装置」
と記載されているのを、
「前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置」
に訂正し、
イ 「前記第2の領域における熱の拡散経路は、前記第1の領域における熱の拡散経路よりも大きい」
と記載されているのを、
「前記第2の領域における熱の拡散経路は、前記第1の領域における熱の拡散経路よりも大きく、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」
に訂正する。
請求項9を直接的又は間接的に引用する請求項10~11も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項12において、
ア 「前記造形工程において、前記変更工程での前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を設定する条件設定工程」
と記載されているのを、
「前記変更工程及び前記造形工程において、前記変更工程での前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を設定する条件設定工程」
に訂正し、
イ 「前記異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域の特性と、前記第2の領域の特性との差を低減する造形方法。」
と記載されているのを、
「前記異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減し、
前記第1の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が1回行われる領域であり、前記第2の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が2回以上行われる領域であり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形方法。」
に訂正する。
2 一群の請求項〔1~11〕について
(1)次のア~エは、それぞれ一群の請求項を形成する。(特許法第120条の5第4項本文)
ア 本件訂正前の請求項1~5、7及び10~11
請求項1~5、7及び10~11について、請求項2~5、7及び10~11がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
イ 本件訂正前の請求項6及び10~11
請求項6及び10~11について、請求項10~11がそれぞれ請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。
ウ 本件訂正前の請求項8及び10~11
請求項8及び10~11について、請求項10~11がそれぞれ請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。
エ 本件訂正前の請求項9~11
請求項9~11について、請求項10~11がそれぞれ請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項5によって記載が訂正される請求項9に連動して訂正されるものである。
(2)上記(1)ア~エの一群の請求項の関係(特許法第120条の5第4項及び特許法施行規則第45条の4)
上記(1)ア~エの一群の請求項は、いずれも請求項10~11を共通に含むから、これらア~エの一群の請求項は、請求項10~11を介して連関している関係にあり、組み合わされて1つの一群の請求項〔1~11〕となる。
(3)一群の請求項についてのまとめ
したがって、本件訂正のうち訂正事項1~5に係る訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~11〕について請求をするものである。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全ての請求項を対象としているので、訂正事項1~6に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
4-1 一群の請求項〔1~11〕について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1のうち、上記1(1)アの点は、「変更装置」が「造形装置が備える変更装置」であることを具体的に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項1の、上記1(1)イのうち、「前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減する制御」と訂正する点は、「特性」が「造形される造形物のサイズ」であることを具体的に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項1の、上記1(1)イのうち、「前記第1の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が1回行われる領域であり、前記第2の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が2回以上行われる領域であり、」と訂正する点は、「第1の領域」と「第2の領域」を、一の層を造形する期間中に造形処理が行われる回数を用いて、具体的に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(エ)訂正事項1の、上記1(1)イのうち、「前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」と訂正する点は、「造形処理の条件」を具体的に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無について
(ア)訂正事項1のうち、上記ア(ア)の点(造形装置が変更装置を備える点)に関して、本件特許の明細書の段落【0040】における「造形材料Mを加工するために、造形装置4は、造形ヘッド41と、駆動系42と、ステージ43とを備える。」との記載、段落【0044】における「駆動系42は、X軸、Y軸及びZ軸の少なくともいずれかに沿って造形ヘッド41を移動させる。造形ヘッド41がX軸及びY軸の少なくとも一方に沿って移動すると、照射領域EAは、ワークW上をX軸及びY軸の少なくとも一方に沿って移動する。」との記載、段落【0193】における「造形装置4bは、駆動系45bを備えているという点で、造形装置4とは異なる。」との記載、及び、段落【0194】における「駆動系45bは、X軸、Y軸及びZ軸の少なくともいずれかに沿ってステージ43を移動させる。・・・ステージ43が移動すると、ステージ43が保持しているワークW(更には、ワークW上の構造層SL)が、造形ヘッド41に対して移動する。つまり、ワークW又は構造層SLの表面の少なくとも一部である造形面CSが、造形ヘッド41から光ELが照射される照射領域EA(つまり、造形ヘッド41から造形材料Mが供給される供給領域MA)に対して移動する。従って、第2変形例では、制御装置7は、駆動系42に加えて又は代えて駆動系45bを制御することで、造形面CSに対する照射領域EAの相対的な移動速度を制御可能である。」との記載から、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)には、「造形装置4又は4b」が、「変更装置」、すなわち、エネルギビームの照射領域とワークとの相対的な位置を変更可能な駆動系42及び/又は駆動系45bを備えていることが開示されているといえる。
(イ)訂正事項1のうち、上記ア(イ)の点(造形物の特性の差の低減がサイズの差の低減である点)に関して、本件特許の明細書の段落【0057】における「続いて、造形動作によって形成される造形物(つまり、各構造層SLを構成する造形物)の特性のばらつきを抑制するためのばらつき抑制制御動作について説明する。」との記載、段落【0058】における「尚、以下の説明では、造形物の特性として、造形物の造形面CSからの高さ(つまり、Z軸方向のサイズ又はZ軸方向の大きさであり、実質的には、造形物の厚み)を用いるものとする。つまり、以下の説明では、造形物の高さのばらつきを抑制するためのばらつき抑制動作について説明する。但し、造形物の特性として、造形物の高さ以外の任意の特性が用いられてもよい。例えば、造形物の特性として、造形物の造形面CSからの高さに加えて又は代えて、造形面CSに沿った造形物のサイズ(つまり、X軸方向及びY軸方向の少なくとも一方のサイズであり、例えば、幅)が用いられてもよい。」との記載、段落【0063】における「尚、本実施形態において、「一の造形物の高さと他の造形物の高さとのばらつきを抑制する」動作は、ばらつき抑制動作が行われない場合と比較して、一の造形物の高さと他の造形物の高さとの差分を小さくする(つまり、差を低減する)動作を含む。「一の造形物の高さと他の造形物の高さとのばらつきを抑制する」動作は、一の造形物の高さと他の造形物の高さとを一致させる(つまり、同一にする)動作を含む。」との記載、及び、段落【0064】における「尚、図5(c)に示すように、領域WA1と領域WA2とに同じサイズの造形物を形成するべき状況下で、領域WA1に形成される造形物のサイズ(ここでは、X軸方向のサイズであり、実質的には幅)w1が、領域WA2に形成される造形物のサイズw2よりも大きくなる可能性もある。つまり、層形成期間中に造形面CS上のある領域に2回以上照射領域EAが設定される場合に造形物のサイズがばらつく可能性がある。このため、上述したように、造形物のサイズ(特に、XY平面に沿ったサイズ)は、第1のばらつき抑制動作によってばらつきを抑制するべき造形物の特性となり得る。」との記載から、本件明細書等には、造形物の特性としてサイズが用いられ、領域WA1である「第2の領域」と領域WA2である「第1の領域」とにおいて、造形物の造形面CSからの高さ及び/又は造形面CSに沿った造形物のサイズ(つまり、X軸方向及びY軸方向の少なくとも一方のサイズであり、例えば、幅)である「造形される造形物のサイズ」のばらつきを抑制する、すなわち「差を低減する」ことが開示されているといえる。
(ウ)訂正事項1のうち、上記ア(ウ)の点(各領域と造形処理の回数の点)に関して、本件特許の明細書の段落【0060】における「具体的には、図5(a)に示すように、造形面CS上にある一つの構造層SLを形成している層形成期間中において、照射領域EAは、造形面CS上での構造層SLのパターンに応じた移動軌跡に沿って、造形面CS上を移動する。ここで、構造層SLのパターンによっては、造形面CS上で照射領域EAの移動軌跡が交差する可能性がある。図5(a)に示す例では、造形面CS上の領域WA1において、照射領域EAの移動軌跡が交差している。照射領域EAの移動軌跡が交差する造形面CS上の領域WA1には、照射領域EAが2回以上設定される。一方で、照射領域EAの移動軌跡と重なる一方で照射領域EAの移動軌跡が交差しない造形面CS上の領域WA2には、照射領域EAが1回だけ設定される。つまり、造形面CSは、層形成期間中に照射領域EAが2回以上設定される領域WA1と、層形成期間中に照射領域EAが1回だけ設定される領域WA2とを含む。」との記載、及び図5の図示内容から、本件明細書等には、造形面CS上にある一つの構造層SLを形成している層形成期間中において、領域WA1である「第2の領域」では、照射領域EAが2回以上設定され、領域WA2である「第1の領域」では、照射領域EAが1回だけ設定されることが開示されているといえる。
(エ)訂正事項1のうち、上記ア(エ)の点(造形処理の条件の点)に関して、本件特許の明細書の段落【0065】における「制御装置7は、供給領域MA(つまり、照射領域EA又は溶融池MP)に対して単位時間当たりに供給される造形材料Mの供給量を制御する(例えば、調整、変更又は設定する、以下同じ)ことで、造形物の高さのばらつきを抑制する第1のばらつき抑制動作を行ってもよい。以下、供給領域MAに対して単位時間当たりに供給される造形材料Mの供給量を、説明の便宜上、“供給レート”と称する。尚、造形材料Mの供給量の単位として重量又は体積を用いてもよい。制御装置7は、供給レートを制御することに加えて又は代えて、照射領域EA(つまり、供給領域MA)を介して単位時間当たりに光ELから造形面CSに伝達される熱量を制御することで、造形物の高さのばらつきを抑制する第1のばらつき抑制動作を行ってもよい。以下、照射領域EAを介して単位時間当たりに光ELから造形面CSに伝達される熱量を、説明の便宜上、“熱伝達レート”と称する。制御装置7は、供給レート及び熱伝達レートの少なくとも一方を制御することに加えて又は代えて、造形面CSに対する照射領域EA(つまり、供給領域MA又は溶融池MP)の相対的な移動速度を制御することで、造形物の高さのばらつきを抑制する第1のばらつき抑制動作を行ってもよい。」との記載、及び、段落【0101】における「ここで、照射領域EAの移動速度が速くなるほど、造形面CS上のある領域部分に照射領域EAが設定されている時間が短くなる。造形面CS上のある領域部分に照射領域EAが設定されている時間が短くなるほど、当該領域部分に対して光ELから伝達される熱量が少なくなる。」との記載、並びに、特許請求の範囲の請求項3~4における「前記エネルギビームから前記対象物のうち前記エネルギビームの照射領域が設定された領域部分への熱の伝達量」及び「前記伝達量」との記載から、本件明細書等には、造形処理の条件として、供給領域MAに対して単位時間当たりに供給される造形材料Mの供給量である“供給レート”、及び、造形面CSに対する照射領域EA(つまり、供給領域MA又は溶融池MP)の相対的な移動速度を含むこと、並びに、照射領域EAを介して単位時間当たりに光ELから造形面CSに伝達される熱量である“熱伝達レート”(段落【0065】)と造形面CS上のある領域部分に照射領域EAが設定されている時間(段落【0101】)との積である、エネルギビームから対象物への熱の伝達量を含むこと、がそれぞれ開示されているといえる。
(オ)したがって、訂正事項1は、上記(ア)~(エ)のとおり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1に記載された事項をより具体的に限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、「前記特性」を「前記造形物のサイズ」に訂正するものであって、上記(1)ア(イ)と同様に、「特性」が「造形される造形物のサイズ」であることを具体的に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記(1)イ(イ)と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、上記(1)ウと同様に、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項3のうち、上記1(3)アの点は、変更装置に関して、上記(1)ア(ア)と同様の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項3のうち、上記1(3)イの点は、造形処理の条件に関して、上記(1)ア(エ)と同様に、「前記造形処理の条件」が「前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」ことを具体的に限定する訂正を含むとともに、「前記造形処理の条件は、」の位置が変更されることで、第1の領域と第2の領域とで伝達された熱の拡散特性が異なる場合に、当該限定された造形処理の条件が異なるように造形装置に設定されることを明確にする訂正を含むことから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同法同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無について
(ア)訂正事項3のうち、上記ア(ア)の点(造形装置が変更装置を備える点)は、上記(1)イ(ア)と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(イ)訂正事項3のうち、上記ア(イ)の点(造形処理の条件の点)に関して、本件明細書等には、上記(1)イ(エ)に示した事項のほか、請求項6に記載の事項に対応すると解される、段落【0116】~【0125】に記載の「(3-3)第3のばらつき抑制動作」として、次の事項が記載されている。すなわち、本件特許の明細書の段落【0116】における「第3のばらつき抑制動作は、表面の少なくとも一部が造形面CSに設定されている既存構造物(例えば、ワークW及び既に形成済みの構造層SLの少なくとも一方)における熱の拡散度合いの違いに起因して熱特性が異なる領域が造形面CSに存在する場合に、造形物の高さのばらつきを抑制するための動作に相当する。」との記載、段落【0117】における「造形面CSには、光ELから熱が伝達される。この熱は、造形面CSを介して既存構造物の内部にも伝達(実質的には、拡散)される。ここで、既存構造物の特性(例えば、構造、材質及び形状の少なくとも一方)によっては、既存構造物における熱の拡散度合い(つまり、拡散のしやすさ又はしにくさを示す指標)が均一であるとは限らない。つまり、光ELから伝達される熱の拡散度合いに関する熱特性が異なる領域が造形面CSに存在する可能性がある。例えば、造形面CS上には、光ELから伝達された熱が相対的に拡散されにくい領域と、光ELから伝達された熱が相対的に拡散されやすい領域とが存在する可能性がある。」との記載、段落【0120】における「そこで、本実施形態では、制御装置7(言い換えれば、制御装置7の制御下にある造形システム1)は、第3のばらつき抑制動作を行うことで、熱の拡散度合いの違いに起因して熱特性が異なる領域に形成される造形物の高さのばらつきを抑制する。」との記載、段落【0121】における「制御装置7は、造形材料Mの供給レートを制御することで、造形物の高さのばらつきを抑制する第3のばらつき抑制動作を行ってもよい。」との記載、段落【0122】における「制御装置7は、供給レートを制御することに加えて又は変えて、熱伝達レートを制御することで、造形物の高さのばらつきを抑制する第3のばらつき抑制動作を行ってもよい。」との記載、及び、段落【0123】における「制御装置7は、供給レート及び熱伝達レートの少なくとも一方を制御することに加えて又は変えて、造形面CSに対する照射領域EAの相対的な移動速度を制御することで、造形物の高さのばらつきを抑制する第3のばらつき抑制動作を行ってもよい。」との記載から、本件明細書等には、光ELから伝達された熱が相対的に拡散されにくい領域と、光ELから伝達された熱が相対的に拡散されやすい領域(段落【0117】)とで、上記(1)イ(エ)に示した造形処理と同様の造形処理の条件である、造形材料の供給レート、エネルギビームから対象物への熱の伝達量及び対象物に対するエネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つ(段落【0121】~【0123】、上記(1)イ(エ))を異ならせることが開示されているといえる。
(ウ)したがって、訂正事項3は、上記(ア)~(イ)のとおり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項3のうち、上記ア(ア)の点(造形装置が変更装置を備える点)は、本件訂正前の請求項1に記載された事項をより具体的に限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(イ)訂正事項3のうち、上記ア(イ)の点(造形処理の条件の点)は、外見上、「前記造形処理の条件は、」の記載位置が変更されているものの、本件訂正後の請求項6には、「第1の領域に伝達された熱の拡散特性」と「第2の領域に伝達された熱の拡散特性」とが異なることで、「造形材料の供給レート」、「熱の伝達量」及び「相対的な移動速度」のうちの少なくとも一つの「造形処理の条件」が異なるように設定されることが特定され、「第1の領域」と「第2の領域」とで「伝達された熱の拡散特性」が異なれば、「造形処理の条件」が異なることに変更はないから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項4のうち、上記1(4)アの点は、変更装置に関して、上記(1)ア(ア)と同様の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項4のうち、上記1(4)イの点は、造形処理の条件に関して、上記(1)ア(エ)と同様の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無について
(ア)訂正事項4のうち、上記ア(ア)の点(造形装置が変更装置を備える点)は、上記(1)イ(ア)と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(イ)訂正事項4のうち、上記ア(イ)の点(造形処理の条件の点)に関して、請求項8の「前記第1の領域は、前記第2の領域よりも、前記照射領域が設定されない前記既存構造物の他の表面に近接した領域を含み」との記載と、本件明細書等の段落【0118】における「例えば、図21(a)に示すように、既存構造物は、造形面CSが設定される表面SF1に加えて、造形面CSが設定されない表面SF2を有する。この場合、造形面CS上のある領域部分と表面SF2との近接度合いに応じて、造形面CS上のある領域部分に伝達された熱の拡散度合いを推定可能である。」との記載との関連性から、訂正事項4を含む請求項8は、本件明細書等における上記(3)イ(イ)に示した「(3-3)第3のばらつき抑制動作」(段落【0116】~【0125】)に対応すると解される。そして、本件明細書等には、「(3-3)第3のばらつき抑制動作」に関して、上記(3)イ(イ)に示した事項が記載されるから、造形面CS上のある領域部分と造形面CSが設定されない表面SF2との近接度合いに応じて(段落【0118】)、上記(3)イ(イ)に示した造形処理と同様の造形処理の条件である、造形材料の供給レート、エネルギビームから対象物への熱の伝達量及び対象物に対するエネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つ(段落【0121】~【0123】、上記(1)イ(エ))を異ならせることが開示されているといえる。
(ウ)したがって、訂正事項4は、上記(ア)~(イ)のとおり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項8に記載された事項をより具体的に限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項5のうち、上記1(5)アの点は、変更装置に関して、上記(1)ア(ア)と同様の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項5のうち、上記1(5)イの点は、造形処理の条件に関して、上記(1)ア(エ)と同様の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無について
(ア)訂正事項5のうち、上記ア(ア)の点(造形装置が変更装置を備える点)は、上記(1)イ(ア)と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(イ)訂正事項5のうち、上記ア(イ)の点(造形処理の条件の点)に関して、請求項9の「前記第2の領域における熱の拡散経路は、前記第1の領域における熱の拡散経路よりも大きく」との記載と、本件明細書等の段落【0118】における「具体的には、図21(a)に示すように、造形面CS上の領域WA5は、造形面CS上の領域WA6よりも表面SF2に近い。このため、領域WA5に伝達された熱の拡散経路(つまり、既存構造物の内部の拡散経路)は、領域WA6に伝達された熱の拡散経路よりも小さく又は少なくなる。従って、造形面CS上のある領域部分と造形面CSが設定されない表面SF2との間の距離が短くなるほど、当該領域部分に伝達された熱が拡散されにくくなる。」との記載との関連性から、訂正事項5を含む請求項9は、本件明細書等における上記(3)イ(イ)に示した「(3-3)第3のばらつき抑制動作」(段落【0116】~【0125】)に対応すると解される。そして、本件明細書等には、「(3-3)第3のばらつき抑制動作」に関して、上記(3)イ(イ)に示した事項が記載されるから、領域WA5に伝達された熱の拡散経路(つまり、既存構造物の内部の拡散経路)は、領域WA6に伝達された熱の拡散経路よりも小さく又は少なくなる(段落【0118】)ことに応じて、上記(3)イ(イ)に示した造形処理と同様の造形処理の条件である、造形材料の供給レート、エネルギビームから対象物への熱の伝達量及び対象物に対するエネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つ(段落【0121】~【0123】、上記(1)イ(エ))を異ならせることが開示されているといえる。
(ウ)したがって、訂正事項5は、上記(ア)~(イ)のとおり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項9に記載された事項をより具体的に限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
4-2 請求項12について
・ 訂正事項6
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項6のうち、上記1(6)アの点は、造形処理の条件を設定する「条件設定工程」に関して、「造形工程」のみならず「変更工程」においても造形処理の条件を設定することを具体的に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項6のうち、上記1(6)イの点は、造形方法に関する訂正であって、造形システムに係る訂正事項1の上記1(1)イの点と、発明のカテゴリーの違いのみで実質的に同様の訂正であるから、上記4-1(1)ア(イ)~(エ)と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項6の、上記ア(ア)~(イ)の点は、上記4-1(1)イ(ア)~(エ)と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、上記4-1(1)ウと同様に、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
5 小括
上記4のとおり、訂正事項1~6に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、12について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1~12に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物にエネルギビームを照射しつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減する制御を行い、
前記第1の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が1回行われる領域であり、前記第2の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が2回以上行われる領域であり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形システム。
【請求項2】
前記造形物の前記サイズは、前記対象物の表面からの前記構造物の高さ及び前記対象物の表面に沿った方向における前記構造物のサイズ、のいずれかを含む
請求項1に記載の造形システム。
【請求項3】
前記造形処理の条件は、前記エネルギビームから前記対象物のうち前記エネルギビームの照射領域が設定された領域部分への熱の伝達量を含む
請求項1又は2に記載の造形システム。
【請求項4】
前記造形処理の条件は、前記第1の領域に前記照射領域が設定された場合における前記伝達量が、前記第2の領域に前記照射領域が設定された場合における前記伝達量よりも少ないことである
請求項3に記載の造形システム。
【請求項5】
前記造形処理の条件は、前記第1の領域の前記エネルギビームから伝達される熱量は、前記第2の領域の前記エネルギビームから伝達される熱量と異なることである
請求項1から4のいずれか一項に記載の造形システム。
【請求項6】
層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物にエネルギビームを照射しつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記エネルギビームから前記第1の領域に伝達された熱の拡散特性と、前記エネルギビームから前記第2の領域に伝達された熱の拡散特性とが異なり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む
造形システム。
【請求項7】
前記造形処理の条件は、前記エネルギビームから前記第1の領域に伝達された熱は、前記エネルギビームから前記第2の領域に伝達された熱よりも拡散されにくいことである
請求項5に記載の造形システム。
【請求項8】
層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物にエネルギビームを照射しつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記エネルギビームの照射領域は、前記構造物が形成される既存構造物の表面の少なくとも一部であり、
前記第1の領域は、前記第2の領域よりも、前記照射領域が設定されない前記既存構造物の他の表面に近接した領域を含み、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む
造形システム。
【請求項9】
層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物にエネルギビームを照射しつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記エネルギビームの照射領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記第2の領域における熱の拡散経路は、前記第1の領域における熱の拡散経路よりも大きく、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む
造形システム。
【請求項10】
前記造形処理の条件は、前記エネルギビームの特性を含む
請求項1から9のいずれか一項記載の造形システム。
【請求項11】
前記エネルギビームの特性は、前記エネルギビームの単位面積当たりの強度又はエネルギ量、前記エネルギビームのフォーカス位置、前記エネルギビームのデフォーカス量及び前記エネルギビームの強度分布の少なくとも一つを含む
請求項10に記載の造形システム。
【請求項12】
層で構成された構造物を形成する造形方法であって、
ワークに対してエネルギビームの照射領域を変更する変更工程と、
前記変更工程に伴い、前記構造物を形成する造形処理の条件で、対象物に前記エネルギビームを照射し、前記対象物に造形材料を供給することで、前記ワークに層で構成された前記構造物を形成する造形工程と、
前記変更工程及び前記造形工程において、前記変更工程での前記ワークに対する前記エネルギビームの照射領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を設定する条件設定工程と
を含み、
前記異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減し、
前記第1の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が1回行われる領域であり、前記第2の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が2回以上行われる領域であり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形方法。」
第4 申立人が主張する申立ての理由の概要
1 申立書における申立ての理由について
申立書に記載の申立ての理由は、以下のとおり整理することができる(いずれも、本件特許の請求項1~12に係る特許を、特許異議の申立ての対象とするものである。)。
(1)申立ての理由1:特許法第29条第1項第3号(新規性、同法第113条第2号)
ア 下記3の甲第1号証に記載された発明に基づく、新規性欠如
イ 下記3の甲第2号証に記載された発明に基づく、新規性欠如
ウ 下記3の甲第3号証に記載された発明に基づく、新規性欠如
(2)申立ての理由2:特許法第29条第2項(進歩性、同法第113条第2号)
ア 下記3の甲第1号証に記載された主引用発明、及び、甲第2号証~甲第10号証に記載された技術的事項・周知技術に基づく、進歩性欠如
イ 下記3の甲第2号証に記載された主引用発明、並びに、甲第1号証及び甲第3号証~甲第10号証に記載された技術的事項・周知技術に基づく、進歩性欠如
ウ 下記3の甲第3号証に記載された主引用発明、並びに、甲第1号証~甲第2号証及び甲第4号証~甲第10号証に記載された技術的事項・周知技術に基づく、進歩性欠如
(3)申立ての理由3:特許法第36条第4項第1号(実施可能要件、同法第113条第4号)
(4)申立ての理由4:特許法第36条第6項第1号(サポート要件、同法第113条第4号)
2 申立人意見書において主張する理由について
申立人が、申立人意見書にて主張する理由は、以下のとおりと整理することができる。
以下の各理由は、申立書に記載のない理由及び証拠を含むといえるが、本件訂正の内容に付随して生じた理由(理由A)、又は、取消理由通知に示した取消理由3(下記第5の3)に対応する理由(理由B)といえるため、下記第6~7において、併せて判断する(審判便覧67-05.4 1.(2))。
(1)理由A:特許法第29条第2項(進歩性)
本件発明1、6、8~9及び12に対し、下記3の甲第3号証に記載された主引用発明、並びに、甲第2号証、甲第8号証、及び、参考資料1~2に記載された技術的事項・周知技術に基づく、進歩性欠如
(2)理由B:特許法第36条第6項第2号(明確性)
本件発明6、10~11
3 証拠方法
申立人による証拠方法は、書証として提出された、甲第1号証~甲第12号証及び参考資料1~2である。
(1)申立書に添付された証拠方法
甲第1号証:Zengxi Pan、ほか5名、”Bead modelling and implementation of adaptive MAT path in wire and arc additive manufacturing”、Robotics and Computer - Integrated Manufacturing、 Volume 39、 June 2016、 pp. 32-42
甲第2号証:YuMing Zhang、ほか3名、”Weld deposition - based rapid prototyping : a preliminary study”、Journal of Materials Processing Technology、Volume 135、Issues 2-3、20 April 2003、pp. 347-357
甲第3号証:特開2017-144458号公報
甲第4号証:特開2017-190505号公報
甲第5号証:特開2016-102257号公報
甲第6号証:特表2016-502589号公報
甲第7号証:特開2016-2565号公報
甲第8号証:特開平11-347761号公報
甲第9号証:特開2014-184659号公報
甲第10号証:特開2015-124395号公報
甲第11号証:(記載省略)
甲第12号証:(記載省略)
(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。)
甲1~甲2に関し、申立人による訳文が提出されている。甲11~甲12は、甲1~甲2の発行日をそれぞれ裏付けるものであるため、記載を省略する。
(2)申立人意見書に添付された証拠方法
参考資料1:特開平8-10946号公報
参考資料2:特開2006-869号公報
(以下「参考資料1」~「参考資料2」をそれぞれ「参考1」~「参考2」という。)
第5 当審からの取消理由通知による取消理由の概要
取消理由通知における、本件訂正前の請求項1~12に係る特許に対する取消理由の要旨は、概略、以下の1~3のとおりである。
1 取消理由1:特許法第29条第2項(進歩性)
本件訂正前の請求項1~12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲3に記載された主引用発明、並びに、甲2、甲4、甲9及び甲10に記載された事項、次の(1)~(4))に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1)請求項1、6、8~9、12:甲3
(2)請求項2 :甲3及び甲2
(3)請求項3~5、7 :甲3、甲2及び甲4
(4)請求項10~11 :甲3、甲2、甲4、甲9及び甲10
2 取消理由2:特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の(1)~(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1~2、8~9、12における「造形処理の条件」
(2)請求項1、3~5、7、10~12における「特性」
3 取消理由3:特許法第36条第6項第2号(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・ 請求項6、10~11における「造形処理の条件」
第6 本件発明1~12に対する取消理由1(進歩性)の検討
当審から通知した取消理由(第5)のうち、まず、甲3に記載された発明を主引用発明とした進歩性(第5の1)について、以下検討する。
1 請求項1について
(1)本件発明1の認定
本件発明1は、上記第3のとおり、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)甲3に記載された発明の認定
ア 甲3に記載された事項
甲3には、図面とともに次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同様。)。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物を造形するために溶融金属を積層する積層装置を制御する積層制御装置、積層制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタの生産手段としてのニーズが高まっており、特に金属材料での適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料による3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
このように造形物を造形するために溶融金属を積層する技術は、従来から知られていた(例えば、特許文献1、2参照)。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
造形物を造形するために溶融金属を積層する技術において、同じ供給量かつ同じ運棒速度で溶融金属を供給した場合、溶融ビード(以下、単に「ビード」という)の高さはビード間に十分な距離をとれば基本的に同じになる。ところが、実際の造形物には中実造形物もあるので、1層ごとの高さが同じであることだけでなく、ビードを並べて形成される面が平坦であることも必要となる。もし面が平坦でないとすると、次の層を積層した際の溶着量不足により溶着高さが低くなるため、積層部分と溶接トーチとの距離が大きくなる。従って、例えばアーク溶接で積層を行う場合、アークが安定しないだけでなく、溶融金属の冷却状態によっては隙間(巣)ができてしまい、造形物の品質にも影響するからである。
【0008】
特許文献1、2の技術は、造形物を造形するために溶融金属を積層する技術において、溶融金属の層の面を平坦にするための方法を何ら提供しない。
【0009】
本発明の目的は、造形物を造形するために溶融金属を積層する積層装置により積層された溶融金属の層の面を平坦にすることにある。」
「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0021】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、制御盤20と、CAD装置30と、軌道決定装置40とを備える。また、軌道決定装置40は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体50に書き込み、制御盤20は、記録媒体50に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0022】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)を備え、制御盤20の制御により各種の作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕の先端に、ワークの溶接作業を行うための溶接トーチ11を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、溶接トーチ11で溶融金属を積層させることにより造形物を形成する。即ち、溶接トーチ11は、造形物を造形するために溶融金属を積層する積層装置の一例である。また、本実施の形態では、金属を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。
【0023】
制御盤20は、溶接ロボット10とは離れて設けられており、溶接ロボット10の動作を制御する。その際、制御盤20は、制御プログラムを動作させることにより、溶接トーチ11の位置及び姿勢、溶接トーチ11による溶接時の溶着量及び運棒速度等を制御する。
【0024】
CAD装置30は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うための装置であり、立体的な造形物の形状を3次元座標で表すCADデータを保持している。
【0025】
軌道決定装置40は、造形物の形状を表すCADデータに基づいて溶接トーチ11の軌道を決定し、この決定した軌道を表す軌道データを含む制御プログラムを記録媒体50に出力する装置である。本実施の形態では、積層制御装置の一例として、軌道決定装置40を設けている。
【0026】
[本実施の形態の概要]
本実施の形態は、このような構成を備えた金属積層造形システム1において、例えば中実造形物を造形する際に、ビードを並べて構成された面を平坦とすることにより、アークを安定化させ、造形物の品質を良好にするものである。そのために、特に金属積層造形システム1の軌道決定装置40が特徴的な処理を行うので、以下ではこの軌道決定装置40について詳細に説明する。」
「【図1】
[図:0001436196000001.jpg]
」
「【0030】
[軌道決定装置の機能構成]
図3は、本実施の形態における軌道決定装置40の機能構成例を示した図である。図示するように、軌道決定装置40は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、軌道データ生成部43と、積層条件調整部44と、制御プログラム出力部45とを備える。
【0031】
CADデータ取得部41は、CAD装置30からCADデータを取得する。本実施の形態では、造形物の形状を表す形状データの一例として、CADデータを用いており、形状データを取得する取得手段の一例として、CADデータ取得部41を設けている。
【0032】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41により取得されたCADデータを複数の層に分割する。
【0033】
軌道データ生成部43は、CADデータ分割部42による分割後の各層のCADデータに基づいて、層ごとに、ビードを並べた場合の上面を平坦にするオーバーラップ率の範囲内にビード間のオーバーラップ率が入るようにビードをオーバーラップさせた溶接トーチ11の軌道を決定し、この軌道を示す軌道データを生成する。本実施の形態では、積層装置を制御する情報であって、溶融金属を積層した複数の層のうちの一の層の上面が平坦となるような、積層装置の軌道を示す情報である制御情報の一例として、軌道データを用いており、制御情報を生成する生成手段の一例として、軌道データ生成部43を設けている。
【0034】
積層条件調整部44は、CADデータ分割部42による分割後の各層のCADデータに基づいて、層ごとに、軌道データ生成部43により決定された軌道のうち、ビード間のオーバーラップ率が範囲外になることが分かる部分について、積層条件を調整する。以下では、積層条件を、溶接トーチ11による溶着量及び溶接トーチ11の運棒速度として説明するが、このうちの何れか1つであってもよいし、他の条件であってもよい。本実施の形態では、積層装置を制御する情報であって、溶融金属を積層した複数の層のうちの一の層の上面が平坦となるような、積層装置が溶融金属を積層する際の積層条件を示す情報である制御情報の一例として、或いは、積層装置による溶融金属の供給量及び積層装置の移動速度の少なくとも何れか一方を示す制御情報の一例として、積層条件を用いている。また、制御情報を生成する生成手段の一例として、積層条件調整部44を設けている。
【0035】
制御プログラム出力部45は、軌道データ生成部43により生成された軌道データと、積層条件調整部44による調整後の積層条件とを含む制御プログラムを記録媒体50に出力する。本実施の形態では、制御情報を出力する出力手段の一例として、制御プログラム出力部45を設けている。」
「【図3】
[図:0001436196000002.jpg]
」
「【0036】
[軌道決定装置の動作]
(概要)
図4は、本実施の形態における軌道決定装置40の動作例を示したフローチャートである。
【0037】
軌道決定装置40の動作が開始すると、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置30からCADデータを取得する(ステップ401)。
【0038】
そして、CADデータ分割部42が、ステップ401で取得されたCADデータを複数の層に分割する(ステップ402)。
【0039】
次に、軌道データ生成部43が、ステップ402で得られた複数の層の層ごとに、CADデータに基づいて、ビードを並べた場合の上面を平坦にするオーバーラップ率の範囲内にビード間のオーバーラップ率が入るようにビードをオーバーラップさせた溶接トーチ11の軌道を決定し、この軌道を示す軌道データを生成する(ステップ403)。
【0040】
次いで、積層条件調整部44が、ステップ402で得られた複数の層の層ごとに、ステップ403で決定された軌道のうち、ビード間のオーバーラップ率が範囲外になることがCADデータに基づいて分かる部分について、積層条件を調整する(ステップ404)。ここで、積層条件としては、溶接トーチ11による溶融金属の溶着量、溶接トーチ11の運棒速度等が考えられる。
【0041】
最後に、制御プログラム出力部45は、ステップ403で生成された軌道データと、ステップ404で調整された後の積層条件とを含む制御プログラムを記録媒体50に出力する(ステップ405)。
【0042】
(作用)
図5(a)~(c)は、このような動作の作用を示した図である。ここでは、ビード12a~12dのうちの隣接するビード間のオーバーラップ率と、ビード12a~12dを並べることで構成される上面の平坦度及びビード12a~12dの高さの平均値である平均高さとの関係を示している。図5(a)は、最も低いオーバーラップ率でビード12a~12dをオーバーラップさせた場合の例であり、上面は平坦となっていない。図5(b)は、最も高いオーバーラップ率でビード12a~12dをオーバーラップさせた場合の例であり、上面は平坦に近いが、平均高さは高くなっている。図5(c)は、図5(a)と図5(b)の中間のオーバーラップ率でビード12a~12dをオーバーラップさせた場合の例であり、上面は平坦となっており、平均高さも適正な高さとなっている。
【0043】
図4のステップ405で出力された制御プログラムを動作させて、ステップ403で生成された軌道データと、ステップ404で調整された積層条件とを溶接ロボット10に指示したとする。すると、溶接ロボット10は、積層されたビードの横にビードを積層する際に、図5(c)に示すように、ビードを隙間なく積層することができ、積層されたビードで構成される上面を平坦とすることができる。」
「【図4】
[図:0001436196000003.jpg]
【図5】
[図:0001436196000004.jpg]
」
「【0045】
(ステップ401の詳細)
ステップ401では、CADデータ取得部41が、ワークのCADデータを取得する。図6(a)は、このようなワークの一例を示したものである。ここでは、ワークとして、菱型の中実形状造形物を例にとるが、任意の他の形状の造形物であってよい。また、ワークのCADデータも、CAD装置30で用いられるCADデータのフォーマットに合っていれば、如何なるCADデータでもよい。
【0046】
(ステップ402の詳細)
ステップ402では、CADデータ分割部42が、CADデータを複数の層に分割する。図6(b)は、図6(a)に示したワーク上にCADデータを分割した状態を示した図である。図では、上下の隣り合う破線に挟まれた部分13a~13eが、CADデータを分割してできた複数の層を示している。本実施の形態では、図5(c)に示したビードの適正な高さを複数の層の各層の高さとして、CADデータを分割するものとする。」
「【図6】
[図:0001436196000005.jpg]
」
「【0047】
(ステップ403の詳細)
ステップ403では、軌道データ生成部43が、ビードを並べた場合の上面を平坦にするオーバーラップ率の範囲内にビード間のオーバーラップ率が入るようにビードをオーバーラップさせた軌道を決定する。このようなオーバーラップ率でビードがオーバーラップするように軌道を決定するためには、ビードの高さの他、ビードを並べた場合のオーバーラップ率と平坦度が必要となる。
【0048】
図7は、ビード12a,12bを並べた場合のオーバーラップ率及び平坦度の算出方法について説明するための図である。尚、ビード12a,12bの大きさは厳密には異なるが、ここでは、説明を簡単にするため、ビード12a,12bの大きさは同じとし、ビード12aとビード12bを区別しない場合は、ビード12と表記するものとする。まず、オーバーラップ率x(%)は、ビード12の幅Lと、ビード12aとビード12bとのオーバーラップ部分の幅ΔLとを用いて、「x=(ΔL/L)×100」により算出される。また、平坦度flは、ビード12の高さの最大値hmaxと、ビード12の高さの最小値hminとを用いて、「fl=|hmax-hmin|」により算出される。ここで、ビード12の幅Lや高さの最大値hmax及び最小値hmin、ビード12aとビード12bとのオーバーラップ部分の幅ΔLとしては、測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算により推定したものを用いるとよい。」
「【図7】
[図:0001436196000006.jpg]
」
「【0054】
つまり、図8は、溶着量vfeがvfe1であり、運棒速度vsがvs1である場合に、平坦度グラフに示された平坦度flとオーバーラップ率との関係と、平均高さグラフに示しされた平均高さhとオーバーラップ率との関係とが測定結果として得られたことを示している。そして、溶着量vfeの複数の条件と運棒速度vsの複数の条件との組み合わせに対するこのような測定結果は、軌道データ生成部43が参照可能な図示しないメモリに記憶される。
【0055】
この状態で、軌道データ生成部43は、まず、平均高さhが所望の範囲内となるオーバーラップ率の範囲が基準以上の長さとなる溶着量及び運棒速度の組み合わせを選択する。例えば、高さh1が所望の範囲内の高さであるとすると、図8の平均高さグラフでは、平均高さh1に対するオーバーラップ率の範囲が長いので、溶着量及び運棒速度の複数の条件の組み合わせの中から、図8の溶着量vfe1及び運棒速度vs1の組み合わせが選択される。尚、ここでの所望の範囲としては、例えば、ステップ402で分割して得られた層の高さを含む短い範囲を用いればよい。次に、軌道データ生成部43は、選択された組み合わせにおいて、平坦度flが最も高く、平均高さhが所望の範囲内となるオーバーラップ率の範囲から特定のオーバーラップ率を選択する。例えば、図8の溶着量vfe1及び運棒速度vs1の組み合わせが選択されると、平坦度flがflmaxとなり、平均高さhがh1となるオーバーラップ率の範囲(破線で挟まれた範囲)から特定のオーバーラップ率が選択される。そして最後に、軌道データ生成部43は、隣接するビードがこの特定のオーバーラップ率でオーバーラップするような軌道を決定し、この決定した軌道を示す軌道データを生成する。」
「【図8】
[図:0001436196000007.jpg]
」
「【0058】
(ステップ404の詳細)
ステップ404では、ステップ403で求めたオーバーラップ率の範囲外となるビード間のオーバーラップ率でオーバーラップしている軌道の部分がある場合に、積層条件調整部44が、その軌道の部分について、溶着量及び運棒速度を調整する。
【0059】
図9(a),(b)は、ビード間のオーバーラップ率が範囲外となる様子を示した図である。図9(a)は、ステップ403で決定した軌道においてビード間のオーバーラップを考慮しない理想的な状態を示している。しかしながら、実際には、このようにはならない。図6(a),(b)に示した菱型の造形物の角の部分等では、ビード間のオーバーラップ率が変化する。図9(b)は、ステップ403で決定した軌道においてオーバーラップ率が変化するときの状態を示している。軌道の部分14aを溶接トーチ11が移動している間は、オーバーラップ率は一定である。そして、軌道の部分14bに溶接トーチ11が到達すると、菱型の幾何学的特徴からオーバーラップ率は変化する。その後、軌道の部分14cを溶接トーチ11が移動するようになると、オーバーラップ率は再び一定となる。」
「【図9】
[図:0001436196000008.jpg]
」
「【0061】
このようにオーバーラップ率が増加することにより、ステップ403で選択された範囲をオーバーラップ率が超えたとすると、積層条件調整部44は、溶着量vfeを小さくしたり、運棒速度vsを高くしたりする。
【0062】
図10(b)は、ステップ403で決定された軌道上をオーバーラップ率及び運棒速度が一定になるように溶接トーチ11を移動させた場合の溶着量の変化を示したグラフである。尚、図10(b)のグラフには、図10(a)のグラフから変化した部分も、両者の違いが分かるように破線で示している。積層条件調整部44は、溶着量を、最初は、ステップ403で選択された溶着量とするが、溶接トーチ11が角部に到達する時刻tcの手前から徐々に減少させる。そして、時刻tcを過ぎると増加させ、やがてステップ403で選択された溶着量とする。」
「【図10】
[図:0001436196000009.jpg]
」
「【0065】
これに対し、図11(b)は、ビード間のオーバーラップ率が、ステップ403で選択されたオーバーラップ率の範囲よりも大きくなればなるほど、溶着量vfeを小さくすることにより、平均高さhの上昇を抑えて上面を平坦にする様子を示す。尚、図11(b)のグラフには、図11(a)のグラフから変化した部分も、両者の違いが分かるように破線で示している。或いは、図示しないが、運棒速度vsを高くすることにより、平均高さhの上昇を抑えて上面を平坦にしてもよい。逆に、ビード間のオーバーラップ率が、ステップ403で選択されたオーバーラップ率の範囲よりも小さくなった場合も、溶着量vfeを大きくしたり、運棒速度vsを低くしたりしてよい。
【0066】
このように、積層条件調整部44は、全層について溶着量及び運棒速度の調整を行っていく。」
「【図11】
[図:0001436196000010.jpg]
」
「【0068】
(ステップ405の詳細)
ステップ405では、制御プログラム出力部45が、軌道データと積層条件とを含む制御プログラムを出力する。具体的には、溶接ロボット10の溶接トーチ11の位置や姿勢を軌道データに従って指示し、溶接ロボット10に溶着量(電流値)や運棒速度を指示する制御プログラムを記録媒体50に出力する。そして、この制御プログラムは、記録媒体50から制御盤20へ読み込まれ、制御盤20では、制御プログラムが動作することにより、溶接ロボット10が溶融金属の積層による造形を行うことになる。
【0069】
[本実施の形態の変形例]
上記では、軌道データ生成部43が、ビードを並べた場合の上面を平坦にするオーバーラップ率の範囲内にビード間のオーバーラップ率が入るようにビードをオーバーラップさせた軌道を決定し、積層条件調整部44が、ビード間のオーバーラップ率が範囲外になる軌道の部分について、積層条件を調整するようにした。しかしながら、軌道データ生成部43が、ビード間のオーバーラップを考慮せずに軌道を決定し、積層条件調整部44が、ビードを並べた場合の上面を平坦にするオーバーラップ率の範囲内にビード間のオーバーラップ率が入るように積層条件を調整するようにしてもよい。この意味で、軌道データ及び積層条件は、積層装置を制御する情報であって、溶融金属を積層した複数の層のうちの一の層の上面が平坦となるような、積層装置の軌道及び積層装置が溶融金属を積層する際の積層条件の少なくとも何れか一方を示す情報である制御情報の一例とも言うことができる。
【0070】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、隣接するビードで構成される面が平坦となるように、溶接トーチ等の溶融金属供給源の軌道を決定するようにした。その際、ビード間のオーバーラップ率を指定の範囲にするために溶融金属の溶着量及び溶融金属を供給するツールの運棒速度を調整するようにした。これにより、溶着量不足による溶着高さの低下が起こり難くなり、積層部分と溶融金属を供給するツールとの距離が長くなることも少なくなった。その結果、安定積層できるだけでなく、造形物をより密に積層できるようになるので、巣等による品質低下も低減できるようになった。」
イ 甲3の記載から理解される事項
上記アから、甲3には、次の事項が記載されているといえる。
(ア)甲3には、ワークの一例として、複数の層13a~13eで構成された造形物(段落【0045】~【0046】、図6(a)(b))を造形する、金属積層造形システム1についての発明が開示されているといえる。そして、当該金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、制御盤20と、CAD装置30と、軌道決定装置40とを備えている(段落【0021】、図1)ことがわかる。また、甲3の段落【0019】~【0070】に記載された実施の形態では、金属積層造形システム1の溶接ロボット10は、造形物を造形するために溶融金属を積層する積層装置の一例としての溶接トーチ11を、腕(アーム)の先端に有し、金属を溶融する熱源としてアークを用いるものが開示される(段落【0022】)。他方、段落【0002】には、背景技術として、「金属材料による3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する」ことが記載され、また、段落【0022】には、「レーザやプラズマを用いてもよい」ことが示唆されている。
(イ)上記(ア)から、甲3に記載の溶接ロボット10が有する溶接トーチ11は、積層装置の一例であって、アークを熱源として金属ワイヤ等を溶融させて溶融金属を積層させることにより、ワークに造形物を造形するものであるといえる。
(ウ)甲3の段落【0023】の記載から、上記(ア)の溶接ロボット10は、制御盤20によって動作が制御されるものである。そして、当該制御盤20は、段落【0023】、【0025】、【0043】及び【0068】の記載を踏まえると、決定した軌道を表す軌道データを含む制御プログラムを動作させることにより、軌道データに従って、溶接ロボット10の腕(アーム)の先端の溶接トーチ11の位置及び姿勢、並びに、溶接トーチ11による溶接時の溶着量vfe及び運棒速度vs等を制御するといえる。
すなわち、溶接ロボット10は、上記(イ)の溶接トーチ11の、ワークとの相対的な位置を変更可能にする、位置変更機能を備えるものであるといえる。
(エ)A 上記(ウ)の軌道データに関して、甲3の段落【0033】及び【0039】には、軌道データ生成部43が、ステップ402で得られた複数の層の層ごとに、CADデータに基づいて、ビードを並べた場合の上面を平坦にするオーバーラップ率の範囲内にビード間のオーバーラップ率が入るようにビードをオーバーラップさせた溶接トーチ11の軌道を決定し、この軌道を示す軌道データを生成することが記載される。
B また、段落【0034】、【0040】~【0043】、【0058】~【0059】、【0061】~【0062】及び【0065】~【0066】の記載から、当該軌道データに基づく積層条件調整部44による積層条件の調整に関して、次のa~dのことが理解される。
a 図6(a)(b)に示した菱型の造形物の角の部分等では、ビード間のオーバーラップ率が変化する、すなわち、図9(b)のように、軌道の直線部分14aを溶接トーチ11が移動している間は、オーバーラップ率は一定であるため、図5(c)のように、上面は平坦となっており、平均高さも適正な高さとなるものの、軌道の鋭角部分14bに溶接トーチ11が到達すると、菱型の幾何学的特徴からオーバーラップ率が変化する(図10(a))ため、図5(b)のように、上面は平坦に近いが、平均高さが高くなってしまうこと。
b そのため、積層条件調整部44は、積層条件としての溶着量を、軌道の直線部分14aでは、ステップ403で選択された溶着量とするが、軌道の鋭角部分14bでは、溶接トーチ11が角部に到達する時刻tcの手前から徐々に減少させ、時刻tcを過ぎると増加させ、軌道の直線部分14cで再びステップ403で選択された溶着量とする、すなわち、ビード間のオーバーラップ率が、ステップ403で選択されたオーバーラップ率の範囲よりも大きくなればなるほど、溶着量vfeを小さくすることにより、平均高さhの上昇を抑えて上面を平坦にすることが可能となる(図10(b)、図11(b))こと。
c ここで、段落【0068】の「溶着量(電流値)」との記載から、軌道の直線部分14a、14cと軌道の鋭角部分14bとでは、異なる溶着量vfeとするために、電流値により調整がされること。
d また、段落【0034】、【0061】及び【0065】~【0066】に記載されるように、当該積層条件調整部44による積層条件の調整は、溶接トーチ11による溶着量vfeの調整のほか、溶接トーチ11の運棒速度vsであってもよいこと。
C そして、段落【0023】、【0035】、【0041】、【0043】及び【0068】の記載から、制御プログラム出力部45は、ステップ403で生成された軌道データと、ステップ404で調整された後の積層条件とを含む制御プログラムを記録媒体50に出力し、上記(ウ)の制御盤20は、当該制御プログラムを動作させることにより、溶接トーチ11による溶接時の溶着量vfe及び溶接トーチ11の運棒速度vsを制御するといえる。
D したがって、上記(ア)に記載の金属積層造形システム1は、溶接ロボット10によるワークに対する溶接トーチ11の軌道データに基づき、一の層において、造形物の、オーバーラップ率が所定の範囲外にある軌道の鋭角部分14bと、軌道の直線部分14bとは異なる造形物の、オーバーラップ率が所定の範囲内にある軌道の直線部分14a、14cと、で異なる溶着量vfeとなる電流値及びワークに対する溶接トーチ11の運棒速度vsによる積層条件を、溶接トーチ11及び位置変更機能を有する溶接ロボット10に設定する、積層条件調整部44及び制御プログラム出力部45を含む軌道決定装置40並びに制御盤20を備えるといえる。
(オ)上記(エ)及び甲3の段落【0055】、【0065】の記載から、軌道決定装置40及び制御盤20は、異なる溶着量vfeとなる電流値及びワークに対する溶接トーチ11の運棒速度vsによる積層条件を設定することにより、軌道の部分14bの平坦度fl及び平均高さhと、軌道の部分14a、14cの平坦度fl及び平均高さhとの差を低減する制御を行うといえる。
(カ)甲3の段落【0042】、【0048】、図5、図7の記載から、上記(ア)に記載の金属積層造形システム1は、ビード12aとビード12bとを幅方向に一部重ねて並べて積層することを前提とするものであって、そのことは、上記(エ)に示した「オーバーラップ率」との用語の定義(x=(ΔL/L)×100)からも明らかである。してみると、軌道の鋭角部分14b及び直線部分14a、14cは、一の層において、造形処理が2回以上行われる領域であるといえる。
(キ)上記(ア)及び(エ)、並びに、甲3の段落【0046】の記載及び図6(b)の図示内容から、アークを熱源として金属ワイヤ等を溶融させて溶融金属を積層させる部分14a~14cは、造形物が形成される既存造形物の表面の少なくとも一部であるといえる。
ウ 甲3に記載された発明
上記ア及びイに示した、甲3に記載された事項を、本件特許の請求項1の記載に合わせて整理すると、甲3には、金属を溶融する熱源としてアークを用いた実施の形態として、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている、といえる(括弧内に、甲3に記載された事項に対応する本件特許の請求項1に係る発明の発明特定事項を示す。)。
「複数の層(層)で構成された造形物(構造物)を造形する金属積層造形システム1(造形システム)であって、
アークを熱源として金属ワイヤ等(造形材料)を溶融させて溶融金属を積層させることにより、ワークに前記造形物を造形する(前記構造物を形成する造形処理を行う)積層装置としての溶接トーチ11を有する溶接ロボット10(造形装置)と、
前記溶接トーチ11と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ溶接ロボット10が備える位置変更機能(変更装置)と、
前記溶接ロボット10が備える位置変更機能(前記変更装置)による前記ワークに対する溶接トーチ11の軌道データ(移動軌跡)に基づき、一の層において、前記造形物(前記構造物)の、オーバーラップ率が所定の範囲外にある軌道の鋭角部分14b(第1の領域)と、前記軌道の鋭角部分14b(前記第1の領域)とは異なる前記造形物(前記構造物)の、オーバーラップ率が所定の範囲内にある軌道の直線部分14a、14c(第2の領域)と、で異なる溶着量vfeとなる電流値及び溶接トーチ11の運棒速度vsによる積層条件(造形処理の条件)を、前記溶接トーチ11を有する溶接ロボット10(前記造形装置)等に設定する、積層条件調整部44及び制御プログラム出力部45を含む軌道決定装置40並びに制御盤20(制御装置)と
を備え、
前記アークを熱源として金属ワイヤ等(造形材料)を溶融させて溶融金属を積層させる部分14a~14cは、前記造形物(前記構造物)が形成される既存造形物(既存構造物)の表面の少なくとも一部であり、
前記軌道決定装置40及び制御盤20(前記制御装置)は、異なる溶着量vfeとなる電流値及び溶接トーチ11の運棒速度vsによる積層条件(前記条件)を設定することにより、前記軌道の鋭角部分14b(前記第1の領域)の平坦度fl及び平均高さh(造形物のサイズ)と、前記軌道の直線部分14a、14c(前記第2の領域)の平坦度fl及び平均高さh(造形物のサイズ)との差を低減する制御を行い、
軌道の鋭角部分14b(第1の領域)及び直線部分14a、14c(第2の領域)は、一の層において、造形処理が2回以上行われる領域であり、
前記積層条件(前記造形処理の条件)は、溶着量vfeとなる電流値及び前記ワーク(前記対象物)に対する溶接トーチ11の運棒速度vsである金属積層造形システム1(造形システム)。」
(3)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、次のアの一致点で一致し、次のイ(ア)~(イ)の相違点1~2で相違する。
ア 一致点
「層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物に熱源から熱を与えつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記熱源からの熱を与える領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記熱源からの熱を与える領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、異なる前記条件を設定することにより、前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減する制御を行い、
前記造形処理の条件は、前記熱源から前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記熱源からの熱を与える領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形システム。」
イ 相違点
(ア)相違点1
対象物に熱源から熱を与えつつ、対象物に造形材料を供給することにより、ワークに構造物を形成する造形処理を行う造形装置に関し、
本件発明1においては、造形装置が「対象物にエネルギビームを照射」しつつ、前記対象物に造形材料を供給するものであり、そのため、造形装置が備える変更装置は、「エネルギビームの照射領域」とワークとの相対的な位置を変更可能なものであり、変更装置による移動軌跡は、ワークに対する「エネルギビームの照射領域」の移動軌跡であり、造形処理の条件の少なくとも1つが、対象物に対する「エネルギビームの照射領域の相対的な速度」であるのに対し、
甲3発明においては、造形装置(溶接ロボット10)が「アークを熱源」として金属ワイヤ等を溶融させて溶融金属を積層させる「溶接トーチ11を有する」ものであり、そのため、造形装置(溶接ロボット10)が備える変更装置(位置変更機能)は、「溶接トーチ11」とワークとの相対的な位置を変更可能なものであり、変更装置(位置変更機能)による移動軌跡(軌道データ)は、ワークに対する「溶接トーチ11」の移動軌跡であり、造形処理の条件(積層条件)の少なくとも1つが、対象物(ワーク)に対する「溶接トーチ11の運棒速度vs」である点。
(イ)相違点2
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明1では、「第1の領域」は、「一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われる領域」であり、「第2の領域」は、「一の層を造形する期間中に造形処理が2回以上行われる領域」であるのに対し、
甲3発明では、「軌道の鋭角部分14b(第1の領域)」及び「軌道の直線部分14a、14c(第2の領域)」は、一の層において、造形処理が2回以上行われる領域である点。
(4)相違点に対する判断
ア 相違点1について
甲3には、上記(2)ウに示した甲3発明のほか、上記(2)イ(ア)に示したように、段落【0002】に背景技術として、「金属材料による3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する」ことが記載され、また、段落【0022】に、「レーザやプラズマを用いてもよい」ことが示唆されている(以下「甲3記載の示唆」という。)。
してみると、甲3発明において、甲3記載の示唆に基づいて、アークを熱源として金属ワイヤ等を溶融させて溶融金属を積層させる溶接トーチ11に代えて、レーザ、すなわち、エネルギビームを熱源として用いて、例えば金属粉体を溶融させて溶融金属を積層させて造形物を造形する積層装置を用い、当該エネルギビームの照射領域を軌道データに基づいて溶接ロボット10が備える位置変更機能によって制御することで、上記相違点1に係る本件発明1のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
甲3発明は、「オーバーラップ率」が所定の範囲内であるか範囲外であるかに応じて、軌道の直線部分14a、14cと鋭角部分14bとを区分けするものである。そして、「オーバーラップ率」との用語の定義(x=(ΔL/L)×100)から明らかなように、甲3発明では、ビード12aとビード12bとを幅方向に一部重ねて並べて積層することを前提とするものであって(段落【0042】、【0048】、図5、図7)、「一の層を造形する期間中に造形処理が2回以上行われる領域」のみを備えるものといえ、「一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われる領域」については想定されていないものであるといえる。
すなわち、仮に、一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われるような領域を想定すると、オーバーラップ率は当然に0になるが、オーバーラップ率が低い場合には、段落【0042】及び図5(a)に示すように、ビードの上面が平坦とならないから、上記の想定は、溶融金属の層の面を平坦にするという甲3発明の目的に反することになる。
そして、甲3発明は、当該「オーバーラップ率」に応じて、積層条件としての、溶着量vfeとなる電流値、及び、ワークに対する溶接トーチ11の運棒速度vsを変更制御するものである以上、仮に、エネルギビームの照射領域の移動軌跡に、「一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われる領域」と、「一の層を造形する期間中に造形処理が2回以上行われる領域」とを有する技術が、本件出願前に公知又は周知であったとしても、甲3発明に「一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われる領域」を設ける動機がないことから、甲3発明を主引用発明として、上記相違点2に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者にとって容易であった、ということはできない。
ウ 申立人意見書について
なお、申立人は、上記相違点2に関して、申立人意見書において、甲3発明に、参考1、参考2、甲2又は甲8に記載される技術を適用することの容易想到性について主張する(上記第4の2(1):理由A、申立人意見書2~10ページ)ことから、以下、併せて検討する。
(ア)参考1について
参考1の、段落【0001】、【0013】、【0017】~【0021】、【0023】の記載、及び、図1、図3の図示内容から、参考1には、次の技術が記載されているといえる。
「溶接トーチ5によるバルブヘッド2の周縁に沿う肉盛周溶接において、
立ち上がり溶接工程S1による拡大部3aを立ち下がり溶接工程S3による縮小部3bで補完する溶接ビード3の領域と、定常溶接工程S2による肉厚が均一な溶接ビード3の領域と、で工程全体を通じて溶接ビード3の肉厚を均一なものとすること。」
しかしながら、参考1に記載された技術は、例えばバルブヘッドの肉盛溶接であって(段落【0001】)、複数の層で構造物を造形するものであるとはいえない。
また、立ち上がり溶接工程S1と立ち下がり溶接工程S3とを設けることを前提として、拡大部3aと縮小部3bとを重ね合わせたものであって、造形処理を行う際の移動軌跡に、拡大部3aと縮小部3bとを有することを前提として、肉厚が均一な溶接ビード3の領域の肉厚と同じになるように、溶接電流値C、溶接材料Mの供給量、回転台4の回転速度を変化させたものであるともいえない。しいていえば、段落【0019】に、立ち下がり溶接工程S3の始点を、立ち上がり溶接工程S1の始点と一致するように、設定時間を調整することが記載されるのみである。
さらに、甲3発明に参考1に記載された技術を適用する動機がないことは、上記イのとおりである。
(イ)参考2について
参考2の、段落【0001】、【0028】、【0031】、【0034】~【0035】、【0037】の記載、及び、図3~図5の図示内容から、参考2には、次の技術が記載されているといえる。
「溶接トーチ8による基材xと取付環材yとの接合のための自動周溶接において、
溶接初期条件で形成される溶接始端部の溶接ビード21aと溶接終端条件で形成される溶接終端部の溶接ビード21cとを重ね合わせた領域と、本溶接条件で形成される本溶接部の溶接ビード21bと、を有し、溶接ビード21aと溶接ビード21cとを重ね合わせた領域にクレータ処理部22bを取付環材y側に偏移させて応力集中を消失させること。」
しかしながら、参考2に記載された技術は、例えば容器の自動周溶接であって(段落【0001】)、複数の層で構造物を造形するものであるとはいえない。
また、参考2に記載された技術は、クレータ処理部22bを取付環材y側に偏移させて応力集中を消失させることを目的とするものであって、図4をみても、溶接ビード21aと溶接ビード21cとを重ね合わせた領域と、本溶接部の溶接ビード21bとで、肉盛サイズを同じにしようとする技術思想を看取することができない。
さらに、甲3発明に参考2に記載された技術を適用する動機がないことは、上記イのとおりである。
(ウ)甲2について
甲2の、353ページ左欄1行~右欄3行の記載、及び、図10の図示内容から、甲2には、次の技術が記載されているといえる。
「トーチがパス1のように始端部から終端部へ向けて移動し、終端部でパス2のように折り返すことにより一の層を堆積する造形方法において、
パス1の始端部から終端部の手前までの造形処理が1回行われる部分と、パス1の終端部の手前から終端部までとパス2とで造形処理が2回行われる部分と、を有し、後続の層に影響しないように、溶接の始端部及び中央部分と、終端部とで、溶接の厚さと幅とを同じにするように、電流値と移動速度とを制御すること。」
しかしながら、甲3発明に甲2に記載された技術を適用する動機がないことは、上記イのとおりである。
(エ)甲8について
甲8の、段落【0023】~【0025】の記載、及び、図3(b)の図示内容から、甲8には、次の技術が記載されているといえる。
「Pn番目のパウダー層に凸部が生じる場合に、レーザ成形ヘッド17がPn番目のパウダー層積層時と同じ位置を移動するようにX、Y、Z軸駆動装置11、12、13を制御して、同じ位置を移動する間、パウダー送給装置22を制御してパウダー24の送給を停止し、凸部の上方を移動する時にだけレーザビーム23を照射することで、Pn番目のパウダー層の高さを均一にすること。」
しかしながら、甲8に記載された技術は、Pn番目のパウダー層に凸部が生じている場合に、Pn番目のパウダー層積層時と同じ位置を移動する間、パウダー送給装置22を制御してパウダー24の送給を停止していることから、当該レーザビームを凸部に再度照射する動作は、本件発明1における「造形処理」、すなわち、エネルギビームを照射しつつ造形材料を供給する処理に相当するとはいえない。してみると、甲8に記載された技術は、本件発明1のような「一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われる領域」と「一の層を造形する期間中に造形処理が2回以上行われる領域」とを有するものと解することができない。
また、甲3発明に甲8に記載された技術を適用する動機がないことは、上記イのとおりである。
(5)請求項1の進歩性についての小括
したがって、本件発明1は、甲3発明、並びに、甲3記載の示唆、参考1、参考2、甲2及び甲8に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 請求項2~5、7について
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明2~5、7についても、上記1と同様の理由により、甲3発明、並びに、甲3記載の示唆、参考1、参考2、甲2及び甲8に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 請求項6について
(1)本件発明6の認定
本件発明6は、上記第3のとおり、訂正特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)甲3発明の認定
甲3には、上記1(2)ウに示した、甲3発明が記載されているといえる。
(3)本件発明6と甲3発明との対比
本件発明6と甲3発明とを対比すると、次のアの一致点で一致し、実質的に相違点1(上記1(3)イ(ア))と同様の相違点3で相違するほか、次のイの相違点4で相違する。
ア 一致点
「層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物に熱源から熱を与えつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記熱源からの熱を与える領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記熱源からの熱を与える領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記造形処理の条件は、前記熱源から前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記熱源からの熱を与える領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形システム。」
イ 相違点4
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明6では、「エネルギビームから伝達された熱の拡散特性」であるのに対し、
甲3発明では、「オーバーラップ率」である点。
(4)相違点に対する判断
ア 相違点3について
上記1(4)アで検討したとおり、甲3発明において、甲3記載の示唆に基づいて、上記相違点3に係る本件発明6のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点4について
甲3発明は、「オーバーラップ率」が所定の範囲内であるか範囲外であるかに応じて、甲3の図9(b)(上記1(2)ア)における、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとを区分けするものであるところ、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで、「熱の拡散特性」が異なることについての記載又は示唆が甲3には認められず、また、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲3の図9(b)における、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで「熱の拡散特性」が異なることが技術常識であることを裏付けるに足る記載も見出せない。
(5)請求項6の進歩性についての小括
したがって、本件発明6は、甲3発明、並びに、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 請求項8について
(1)本件発明8の認定
本件発明8は、上記第3のとおり、訂正特許請求の範囲の請求項8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)甲3発明の認定
甲3には、上記1(2)ウに示した、甲3発明が記載されているといえる。
(3)本件発明8と甲3発明との対比
本件発明8と甲3発明とを対比すると、次のアの一致点で一致し、実質的に相違点1(上記1(3)イ(ア))と同様の相違点5で相違するほか、次のイの相違点6で相違する。
ア 一致点
「層で構成された構造物を造形する造形システムであって、
対象物に熱源から熱を与えつつ、前記対象物に造形材料を供給することにより、ワークに前記構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
前記熱源からの熱を与える領域と前記ワークとの相対的な位置を変更可能であって且つ前記造形装置が備える変更装置と、
前記変更装置による前記ワークに対する前記熱源からの熱を与える領域の移動軌跡に基づき、一の層において、前記構造物の第1の領域と、前記第1の領域とは異なる前記構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、前記造形装置に設定する制御装置と
を備え、
前記熱源からの熱を与える領域は、前記構造物が形成される既存構造物の表面の少なくとも一部であり、
前記造形処理の条件は、前記熱源から前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記熱源からの熱を与える領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む造形システム。」
イ 相違点6
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明8では、「前記第1の領域は、前記第2の領域よりも、前記照射領域が設定されない前記既存構造物の他の表面に近接した領域」であるのに対し、
甲3発明では、「オーバーラップ率」である点。
(4)相違点に対する判断
ア 相違点5について
上記1(4)アで検討したとおり、甲3発明において、甲3記載の示唆に基づいて、上記相違点5に係る本件発明8のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点6について
甲3発明は、「オーバーラップ率」が所定の範囲内であるか範囲外であるかに応じて、甲3の図9(b)(上記1(2)ア)における、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとを区分けするものであるところ、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで、「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」との距離が異なるということができない。すなわち、本件明細書等においては、本件発明8における「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」との近接度合いに関する説明として、段落【0118】には、図21(a)を参照して、「造形面CSが設定されない表面SF2を有する」ことを前提として、「造形面CS上の領域WA5は、造形面CS上の領域WA6よりも表面SF2に近い」ことをもって、段落【0121】~【0123】には、造形処理の条件(供給レート、熱の伝達量及び相対的な移動速度)を制御することが記載される。
他方、甲3発明においても、甲3の図9における造形物の側面は「既存構造物の他の表面」に相当するといえるものの、当該他の表面との距離に応じて積層条件(造形処理の条件)を変更することについては、甲3には開示も示唆もない。また、甲3の図9には、本件明細書等の図21(a)の表面SF2のような位置の表面を有していない(軌道の鋭角部分14bの端部は、面でなく線であると解される。)ことから、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで、「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」との距離が異なるということもできない。
また、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲3の図9(b)における、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで、「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」との距離が異なること、及び、当該距離に応じて造形処理の条件を異ならせて設定することが技術常識であることを裏付けるに足る記載は見出せない。
なお、甲2には、図10の図示内容からみて、上記1(4)ウ(ウ)にて示した甲2に記載された技術としての始端部及び終端部に、本件明細書等の図21(a)の表面SF2のような表面を有しているようにも解されるが、甲3発明に甲2に記載された技術を適用する動機がないことは、上記1(4)イのとおりである。
(5)請求項8の進歩性についての小括
したがって、本件発明8は、甲3発明、並びに、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 請求項9について
(1)本件発明9の認定
本件発明9は、上記第3のとおり、訂正特許請求の範囲の請求項9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)甲3発明の認定
甲3には、上記1(2)ウに示した、甲3発明が記載されているといえる。
(3)本件発明9と甲3発明との対比
本件発明9と甲3発明とを対比すると、実質的に上記3(3)アと同様のの一致点で一致し、実質的に相違点1(上記1(3)イ(ア))と同様の相違点7で相違するほか、次の相違点8で相違する。
・ 相違点8
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明9では、「熱の拡散経路」であるのに対し、
甲3発明では、「オーバーラップ率」である点。
(4)相違点に対する判断
ア 相違点7ついて
上記1(4)アで検討したとおり、甲3発明において、甲3記載の示唆に基づいて、上記相違点7に係る本件発明9のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点8について
甲3発明は、「オーバーラップ率」が所定の範囲内であるか範囲外であるかに応じて、甲3の図9(b)(上記1(2)ア)における、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとを区分けするものであるところ、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで、「熱の拡散経路」の大小が異なることを示す記載又は示唆が甲3には認められず、また、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲3の図9(b)における、軌道の直線部分14a、14cと、軌道の鋭角部分14bとで「熱の拡散経路」の大小が異なることが技術常識であることを裏付けるに足る記載は見出せない。
(5)請求項9の進歩性についての小括
したがって、本件発明9は、甲3発明、並びに、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
6 請求項10~11について
請求項1~9のいずれか一項の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明10~11についても、上記1~5と同様の理由により、甲3発明、並びに、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
7 請求項12について
甲3には、金属積層造形システム1に関する甲3発明と併せて、金属積層造形システム1を用いて造形物を形成する造形方法に関する発明(以下「甲3方法発明」という。)についても記載されているといえる。
本件発明12と甲3方法発明とを対比すると、相違点1~2と同様の点(以下「相違点9」~「相違点10」という。)で相違し、その余の点で一致する。
相違点9に係る本件発明12の構成については、上記1(4)アに示した相違点1に対する理由と同様に、甲3方法発明及び甲3記載の示唆に基づいて、容易に想到し得たといえる。しかしながら、相違点10に係る本件発明12のように構成することについては、上記1(4)イ~ウで相違点2に対して検討したとおり、当業者であっても容易に想到し得た、ということはできない。
したがって、本件発明12は、甲3方法発明、並びに、甲3記載の示唆、参考1、参考2、甲2及び甲8に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
8 取消理由1(進歩性)についてのまとめ
上記1~7のとおり、本件発明1~12は、甲3発明又は甲3方法発明、並びに、甲1~甲2、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
第7 本件発明1~5、7~12に対する取消理由2(サポート要件)についての検討
次に、当審から通知した取消理由(第5)のうち、サポート要件(第5の2)について、以下検討する。
1 「造形処理の条件」について
(1)発明の詳細な説明によれば、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、造形動作によって形成される造形物(つまり、各構造層SLを構成する造形物)の特性のばらつき、すなわち、造形物の造形面CSからの高さや、造形面CSに沿った造形物のサイズのばらつきを抑制することであり、その課題を解決するための手段である「ばらつき抑制動作」として、
ア 供給領域MAに対して単位時間当たりに供給される造形材料Mの供給量である「供給レート」を制御すること、
イ 照射領域EAを介して単位時間当たりに光ELから造形面CSに伝達される熱量である「熱伝達レート」を制御すること、並びに、
ウ 照射領域EAの移動速度を制御するために、造形ヘッド41の移動速度を制御する駆動系42又はステージ43を移動させる駆動系を制御すること
が、それぞれ開示される(上記第2の4の4-1(1)イ(エ)参照)。
(2)そして、本件訂正後の独立請求項である請求項1、6、8~9及び12においては、
「前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」
ことについて、それぞれ記載される。これらの記載は、上記第2の4の4-1(1)イ(エ)に示したように、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(3)したがって、本件発明1~2、8~9及び12は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
2 「第1の領域の特性と、前記第2の領域の特性との差」について
(1)発明の詳細な説明によれば、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、上記1(1)のとおり、造形動作によって形成される造形物(つまり、各構造層SLを構成する造形物)の特性のばらつき、すなわち、造形物の造形面CSからの高さや、造形面CSに沿った造形物のサイズのばらつきを抑制することであり、その課題を解決する手段として、上記1(1)ア~ウに示した「ばらつき抑制動作」が示される。
(2)本件訂正前の請求項1、12には、「領域の特性」と記載されるのみであったところ、本件訂正後の請求項1、12においては、「領域に造形される造形物のサイズ」と記載される。これらの記載は、上記第2の4の4-1(1)イ(イ)に示したように、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(3)したがって、本件発明1及び12、並びに、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明3~5、7及び10~11は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
3 取消理由2(サポート要件)についてのまとめ
上記1~2のとおり、本件発明1~5、7~12は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。
第8 本件発明6、10~11に対する取消理由3(明確性)についての検討
次に、当審から通知した取消理由(第5)のうち、明確性(第5の3)について、以下検討する。
・ 請求項6における「造形処理の条件」について
(1)本件訂正前の請求項6における、「前記造形処理の条件は、前記エネルギビームから前記第1の領域に伝達された熱の拡散特性と、前記エネルギビームから前記第2の領域に伝達された熱の拡散特性とが異なることである」との記載が、請求項6の他の記載と整合するものではなかった。
(2)本件訂正後の請求項6では、
「前記エネルギビームから前記第1の領域に伝達された熱の拡散特性と、前記エネルギビームから前記第2の領域に伝達された熱の拡散特性とが異なり、
前記造形処理の条件は、前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」
と記載される。
(3)なお、申立人は、申立人意見書において、「熱の拡散特性が異なる」ことと「造形処理の条件」とがどのように関連するのか未だに明確でない旨を主張する(上記第4の2(2):理由B、申立人意見書17ページ)。
しかしながら、「熱の拡散特性」、及び、「熱の拡散特性が異なる」ことと「造形処理の条件」との関連性については、特許請求の範囲の記載だけではなく、本件明細書等の段落【0116】~【0125】に「(3-3)第3のばらつき抑制動作」として記載される事項を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として判断すれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、とまでいうことはできない。
(4)したがって、本件発明6、及び、請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明10~11は、明確であるから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
第9 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲1に記載された発明を主引用発明とする新規性・進歩性(第4の1(1)ア及び(2)ア)
(1)甲1に記載された発明
甲1の、32ページ左欄7~11行、同欄18行~右欄9行、同欄19行~33ページ左欄最終行、36ページ右欄11~14行、39ページ左欄22~26行、及び、同欄35行~右欄5行の記載、並びに、図1~2及び図18~図20の図示内容から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「層で構成された構造物をワイヤ・アーク積層造形するロボット・アーク溶接システムであって、
対象物にアークから熱を与えつつ、対象物にワイヤを供給することにより、ワークに構造物を形成する造形処理を行うロボットと、
アークから熱を与える領域とワークとの相対的な位置を変更可能な変更装置と
変更装置によるワークに対するアークから熱を与える領域の溶着パスに基づき、一の層においてワイヤ送り速度と移動速度等を変化させることで、構造物の第1の領域と、第1の領域とは異なる構造物の第2の領域と、で異なる造形処理の条件を、ロボットに設定する制御装置とを備え、
制御装置は、溶着パスの長さに沿って変化するステップオーバー距離に応じて、ワイヤ送り速度と移動速度等とを設定することにより、厚みのばらつきを低減させる制御を行う、ロボット・アーク溶接システム。」
(2)請求項1について
ア 新規性の判断
甲1発明は、アークによって熱を与えることで積層造形するものである。また、甲1発明は、ステップオーバー距離に応じて、ワイヤ送り速度と移動速度とを設定するものであって、当該「ステップオーバー距離」は、甲1の32ページ右欄19行~33ページ左欄最終行の記載及び図2(c)の図示内容によれば、甲3発明における「オーバーラップ率」と同様に、2本の溶着パスの間の距離に関するパラメータである。すなわち、甲1の図18等も踏まえれば、甲1発明は、甲3発明と同様に、その溶着パスが複数本並行して配置されることを前提とするものであるといえる。
してみると、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記第6の1(3)イ(ア)に示した相違点1と同様の点(以下「相違点11」という。)、及び、次の相違点12で相違する。
・ 相違点12
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明1では、「第1の領域」は、「一の層を造形する期間中に造形処理が1回行われる領域」であり、「第2の領域」は、「一の層を造形する期間中に造形処理が2回以上行われる領域」であるのに対し、
甲1発明では、「溶着パスの長さに沿って変化するステップオーバー距離」の大小である点。
したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
イ 進歩性の判断
相違点11に係る本件発明1の構成については、上記第6の1(4)アに示した相違点1に対する理由と同様に、甲1発明及び甲3記載の示唆に基づいて、容易に想到し得たといえる。
しかしながら、相違点12に係る本件発明1のように構成することについては、上記第6の1(4)イ~ウで相違点2に対して検討したのと同様に、甲1発明に公知技術・周知技術を適用する動機がなく、また、甲2、甲3、甲8及び参考1~参考2に開示された技術を参考としても、当業者が容易に想到し得た、ということはできない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲3記載の示唆、参考1、参考2、甲2及び甲8に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)請求項2~5、7について
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明2~5、7についても、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明、並びに、甲3記載の示唆、参考1、参考2、甲2及び甲8に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない
(4)請求項6について
ア 新規性の判断
本件発明6と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記第6の3(3)に示した相違点3と同様の点(以下「相違点13」という。)、及び、次の相違点14で相違する。
・ 相違点14
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明6では、「エネルギビームから伝達された熱の拡散特性」であるのに対し、
甲1発明では、「溶着パスの長さに沿って変化するステップオーバー距離」である点。
したがって、本件発明6は、甲1発明であるとはいえない。
イ 進歩性の判断
相違点13に係る本件発明6の構成については、上記(2)イに示した相違点11に対する理由と同様に、甲1発明及び甲3記載の示唆に基づいて、容易に想到し得たといえる。
しかしながら、相違点14に係る本件発明6のように構成することについては、上記第6の3(4)イの相違点4に対する検討と同様に、甲1には、溶着パスの長さに沿って「熱の拡散特性」が異なることについての記載又は示唆がなく、また、甲2~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲1の例えば図18における溶着パスの長さ方向に沿って「熱の拡散特性」が異なることが技術常識であることを裏付けるに足る記載も見出せない。
したがって、本件発明6は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明、並びに、甲2~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)請求項8について
ア 新規性の判断
本件発明8と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記第6の4(3)に示した相違点5と同様の点(以下「相違点15」という。)、及び、次の相違点16で相違する。
・ 相違点16
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明8では、「前記第1の領域は、前記第2の領域よりも、前記照射領域が設定されない前記既存構造物の他の表面に近接した領域」であるのに対し、
甲1発明では、「溶着パスの長さに沿って変化するステップオーバー距離」である点。
したがって、本件発明8は、甲1発明であるとはいえない。
イ 進歩性の判断
相違点15に係る本件発明8の構成については、上記(2)イに示した相違点11に対する理由と同様に、甲1発明及び甲3記載の示唆に基づいて、容易に想到し得たといえる。
しかしながら、相違点16に係る本件発明8のように構成することについては、上記第6の4(4)イの相違点6に対する検討と同様に、甲1には、溶着パスの長さに沿って「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」との距離が異なることについての記載又は示唆がなく、また、甲2~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲1の例えば図18における溶着パスの長さ方向に沿って「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」との距離が異なることが技術常識であることを裏付けるに足る記載も見出せない。
したがって、本件発明8は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明、並びに、甲2~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)請求項9について
ア 新規性の判断
本件発明9と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記第6の5(3)に示した相違点7と同様の点(以下「相違点17」という。)、及び、次の相違点18で相違する。
・ 相違点18
第1の領域と第2の領域とで異なる点が、
本件発明9では、「熱の拡散経路」であるのに対し、
甲1発明では、「溶着パスの長さに沿って変化するステップオーバー距離」である点。
したがって、本件発明9は、甲1発明であるとはいえない。
イ 進歩性の判断
相違点17に係る本件発明9の構成については、上記(2)イに示した相違点11に対する理由と同様に、甲1発明及び甲3記載の示唆に基づいて、容易に想到し得たといえる。
しかしながら、相違点18に係る本件発明9のように構成することについては、上記第6の5(4)イの相違点8に対する検討と同様に、甲1には、溶着パスの長さに沿って「熱の拡散経路」の大小が異なることについての記載又は示唆がなく、また、甲2~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲1の例えば図18における溶着パスの長さ方向に沿って「熱の拡散経路」の大小が異なることが技術常識であることを裏付けるに足る記載も見出せない。
したがって、本件発明9は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明、並びに、甲2~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)請求項10~11について
請求項1、6、8又は9のいずれか一項の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明10~11についても、上記(2)~(6)と同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明、並びに、甲2~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)請求項12について
ア 新規性の判断
甲1には、ロボット・アーク溶接システムに関する甲1発明と併せて、ロボット・アーク溶接システムを用いて積層造形する方法に関する発明(以下「甲1方法発明」という。)についても記載されているといえる。
本件発明12と甲1方法発明とを対比すると、少なくとも相違点11~12と同様の点(以下「相違点19」~「相違点20」という。)で相違する。
したがって、本件発明12は、甲1方法発明であるとはいえない。
イ 進歩性の判断
相違点19に係る本件発明12の構成については、上記(2)イに示した相違点11に対する理由と同様に、甲1方法発明及び甲3記載の示唆に基づいて、容易に想到し得たといえる。
しかしながら、相違点20に係る本件発明12のように構成することについては、上記(2)イで相違点12に対して検討したとおり、当業者であっても容易に想到し得た、ということはできない。
したがって、本件発明12は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1方法発明、並びに、甲3記載の示唆、参考1、参考2、甲2及び甲8に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(9)甲1に記載された発明を主引用発明とする新規性・進歩性についてのまとめ
上記(1)~(8)のとおり、本件発明1~12は、甲1発明又は甲1方法発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとはいえず、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。
また、本件発明1~12は、甲1発明又は甲1方法発明、並びに、甲2~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
2 甲2に記載された発明を主引用発明とする新規性・進歩性(第4の1(1)イ及び(2)イ)
(1)甲2に記載された発明及び記載事項
ア 甲2の、347ページ要約、348ページ右欄11~15行、351ページ右欄22~24行、353ページ左欄1行~右欄3行、同欄9~19行、354ページ左欄14~15行、同欄24~27行、同ページ右欄33~34行、355ページ左欄14行~右欄2行、同欄13~15行の記載、並びに、図10~図11及び図14~図15の図示内容から、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「層で構成された構造物をアーク積層造形するRPシステムであって、
対象物にアークから熱を与えつつ、溶融物を溶融することにより、ワークに構造物を形成する造形処理を行う造形装置と、
アークから熱を与える領域とワークとの相対的な位置を変更可能な変更装置と、
変更装置によるワークに対するアークから熱を与える領域の軌道に基づき、一の層において、構造物の第1の領域と、第1の領域とは異なる構造物の第2の領域と、で異なるパラメータを、造形装置に設定する制御装置とを備え、
制御装置は、異なるパラメータを設定することにより、第1の領域と第2の領域の厚さ及び幅の差を低減させる制御を行うRPシステム。」
イ また、甲2の347ページの要約及び右欄8~18行には、それぞれ、次の記載がある(注釈を示す符号は除いて、甲2訳文を摘記する。)。
「金属粉末のレーザー焼結は研究されており、現在、実行可能なプロセスとして開発中です。ただし、レーザー焼結には高価な装置と高価な出発材料が必要です。溶接堆積処理を使用すると、より経済的な代替手段が提供される場合があります。
ケンタッキー大学の研究により、ガスメタルアーク溶接を堆積プロセスとして使用するRPのスライス/計画、システム実装、後処理を含む専用の制御技術の開発が可能になりました。」
「一般的に、金属部品の試作は、焼結、レーザ蒸着、ろう付け(はんだ付け)、液滴ベースの製造によって実現されます。
・・・。レーザ堆積法は焼結法よりも堅牢で正確だが、異なる温度の材料を融合および拘束することによって生じる残留応力の蓄積により、最終部品に反り、剥離、表面仕上げの欠陥が生じる可能性がある。」
(2)請求項1について
ア 新規性の判断
甲2発明は、アークによって熱を与えることで積層造形するものである。しかも、甲2には、上記(1)イに示したように、レーザ堆積法を用いることなく、ガスメタルアーク溶接を堆積プロセスとして使用することを前提とした、RPシステムに係る甲2発明について開示されるものである。
してみると、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記第6の1(3)イ(ア)に示した相違点1と同様の、次の相違点21で相違する。
・ 相違点21
本件発明1においては、造形装置が「対象物にエネルギビームを照射」するものであるのに対し、
甲2発明においては、造形装置が「ガスメタルアーク溶接を堆積プロセスとして使用する」ものである点。
したがって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
イ 進歩性の判断
甲3には、上記第6の1(4)アに甲3記載の示唆として示したように、段落【0002】に背景技術として、「金属材料による3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する」ことが記載され、また、段落【0022】に、「レーザやプラズマを用いてもよい」ことが示唆されている。
しかしながら、甲2発明は、上記(1)イに示したように、レーザ堆積法を用いることなく、ガスメタルアーク溶接を堆積プロセスとして使用することを前提とした発明であるから、甲3記載の示唆があったとしても、甲2発明を改良して、相違点21に係る本件発明1の構成とすることには、阻害要因がある。
また、甲1、甲4~甲10及び参考1~参考2を参照しても、甲2発明を改良して、相違点21に係る本件発明1の構成とすることを積極的に肯定することについて、開示も示唆も見出せない。
したがって、本件発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲2発明、甲3記載の示唆、並びに、甲1、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)請求項2~11について
本件発明2~11についても、甲2発明とは、上記相違点21と同様の点で相違するから、上記(2)アと同様に、甲2発明であるとはいえない。また、上記(2)イと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲2発明、甲3記載の示唆、並びに、甲1、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)請求項12について
甲2には、RPシステムに関する甲2発明と併せて、RPシステムを用いてアーク積層造形する方法に関する発明(以下「甲2方法発明」という。)についても記載されているといえる。
しかし、本件発明12についても、甲2方法発明とは、上記相違点21と同様の点で相違するから、上記(2)アと同様に、甲2方法発明であるとはいえない。また、上記(2)イと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲2発明、甲3記載の示唆、並びに、甲1、甲4~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)甲2に記載された発明を主引用発明とする新規性・進歩性についてのまとめ
上記(1)~(4)のとおり、本件発明1~12は、甲2発明又は甲2方法発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとはいえず、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。
また、本件発明1~12は、甲2発明又は甲2方法発明、並びに、甲1、甲3~甲10及び参考1~参考2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
3 甲3に記載された発明を主引用発明とする新規性(第4の1(1)ウ)
本件発明1~11と甲3発明とを対比すると、上記第6の1(3)イに示した相違点1~2、上記第6の3(3)に示した相違点3~4、上記第6の4(3)に示した相違点5~6、又は、上記第6の5(3)に示した相違点7~8のいずれかの点で相違する。また、本件発明12と甲3方法発明とは、上記第6の7に示した相違点9~10の点で相違する。
したがって、本件発明1~11は、甲3発明であるとはいえず、また、本件発明12は、甲3方法発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとはいえず、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。
4 実施可能要件及びサポート要件について
申立書79~82ページのオ-1-2のうちサポート要件、81ページのオ-1-3のサポート要件、及び、82~83ページのオ-3のサポート要件については、上記第7に示したとおりである。以下、その他の申立て理由について検討する。
(1)請求項1~5、7、10~12に対して(申立書77~81ページ、オ-1)
ア オ-1-1:図5(b)において、領域WA2が、WA1を挟んで、左右2か所に設けられるが、異なる造形処理の条件が設定されていない点について
本件訂正により、請求項1、12には、
「前記第1の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が1回行われる領域であり、前記第2の領域は、前記一の層を造形する期間中に前記造形処理が2回以上行われる領域であり、」
との事項が具体的に特定される。そして、発明の詳細な説明の段落【0059】~【0103】には、第1のばらつき抑制動作に関して、領域WA1と領域WA2とで、異なる造形処理の条件が設定されていることが開示されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~5、7、10~12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、また、本件発明1~5、7、10~12は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものである。
イ オ-1-2:造形処理の「条件」及び領域の「特性」について
本件訂正により、請求項1、12には、
「前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減する」ために、
「前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」造形処理の条件を造形装置に設定することが特定された。
そして、発明の詳細な説明には、本件発明1~5、7、10~12に対応する、段落【0059】~【0103】に示される第1のばらつき抑制動作に関する記載、及び、出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく実施することができる程度に記載されたものであるといえる。
(2)請求項4に対して(申立書81~82ページ、オ-2)
・ 第1の領域の熱の伝達量が第2の領域よりも少ないことについて
申立人は、第1の領域に形成される造形物の高さが低いことを仮定して実施不可能であることを主張するが、第1の領域の熱の伝達量を第2の領域よりも少なくすることで、「前記第1の領域に造形される造形物のサイズと、前記第2の領域に造形される造形物のサイズとの差を低減する」ことが可能な場合に、当該制御が行われること(第1の領域を第2の領域よりも熱の伝達量を少なく造形する制御は、第1の領域が第2の領域よりも高さが高い場合に行われること)は、明らかである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明4を過度の試行錯誤を要することなく実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、また、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものである。
(3)請求項6、8~9に対して(申立書82~83ページ、オ-3)
・ 請求項6の「熱の拡散特性」の異なり、請求項8の「照射領域が設定されない既存構造物の他の表面」への近接、及び、請求項9の「熱の拡散経路」の大小に対応する、適切な造形物を形成するための手段についてのサポート要件について
本件訂正により、請求項6、8~9には、造形処理の条件として、
「前記造形材料の供給レート、前記エネルギビームから前記対象物への熱の伝達量及び前記対象物に対する前記エネルギビームの照射領域の相対的な移動速度のうちの少なくとも一つを含む」
ことが特定された。
したがって、本件発明6、8~9は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものである。
(4)実施可能要件及びサポート要件についてのまとめ
上記(1)~(3)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。また、本件発明1~12は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。
第10 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~12に係る特許は、取消理由通知に示した取消理由(上記第5~第8)、又は、申立書に記載された申立ての理由及び申立人意見書に記載された理由(上記第4、第9)によっては、取り消すことはできない。また、本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700659