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特許拒絶査定不服審判

2017-013582

画像形成方法

審判番号
2017-013582
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-018342外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年09月12日
審決日
2018年08月21日
公報発行日
2018年11月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (G03G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015- 18342「画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 8日出願公開、特開2016-142898〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 本件出願は、平成27年2月2日の出願であって、平成29年1月27日付けで拒絶理由が通知され(発送日 同月31日)、同年4月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月2日付けで拒絶査定がされ(送達日 同月13日)、これに対し同年9月12日付けで拒絶査定不服審判請求及びこれと同時にする手続補正がされ、さらに、当審において平成30年4月13日付けで拒絶理由を通知したところ(発送日 同月17日)、同年6月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願の発明 本願の請求項1ないし9に係る発明は、上記の平成30年6月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 記録媒体上に電子写真方式によって形成された未定着のトナー画像を、定着装置を用いて加熱および加圧によって前記記録媒体に定着させる工程を含む画像形成方法であって、 前記定着装置は、無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを加熱するための加熱ローラを含む、前記定着ベルトを軸支する二以上のローラと、前記定着ベルトを介して前記ローラのうちの一つに対して相対的に付勢されるように配置される加圧ローラとを有する定着装置であって、 前記定着ベルトは、耐熱性樹脂製の基層、弾性材料製の弾性層、および、離型層をこの順で重ねてなり、加熱ローラを含む二以上のローラに軸支される無端状の定着ベルトであって、 前記弾性材料の周波数20Hz、温度20℃雰囲気下での貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である損失正接tanδは、0.01より大きく、0.1以下であり、 前記定着装置の定着速度は、A4版の記録媒体で60枚/分以上である、画像形成方法。」 3.当審で指摘した拒絶理由の概要 当審において平成30年4月24日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の理由2(進歩性)のうち、本願発明に関する部分の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記   (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1 ・引用文献 1及び2 <引用文献等一覧> 1.特開2006-235573号公報 2.特開平11-224006号公報 4.引用発明 (1)引用文献1 当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-235573号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。 ア.「【請求項1】 無端状の定着ベルトを少なくとも二つのローラに張架し、一方のローラである定着ローラに前記定着ベルトを介して加圧する加圧ローラを有し、所定の加熱手段によって加熱された前記定着ベルトと前記加圧ローラとの間に形成されたニップ部で記録紙上のトナー像を定着する定着装置を備えた画像形成装置において、 前記定着ベルトの張力を変更する張力変更手段と、 給紙する記録紙の種類を判別する記録紙判別手段と、 前記記録紙判別手段による判別に対応して前記張力変更手段を作動させるべく制御する制御手段と、 を設けたことを特徴とする画像形成装置。」 イ.「【0036】 定着装置9は、無端状の定着ベルト91を加熱ローラ92と定着ローラ93とに張架し、定着ベルト91を介して定着ローラ93を押圧する加圧ローラ94を有し、定着ベルト91と加圧ローラ94との間に形成されたニップ部で記録紙(転写材)P上のトナー像を加熱・加圧して定着する。」 ウ.「【0041】 定着ベルト91は、無端状に形成され、例えば、基体として厚さ70μmのPI(ポリイミド)等からなる耐熱性の樹脂ベルトを用い、基体の外周面を厚さ200μmの耐熱性のシリコンゴムで被覆し、更に、離型層として厚さ30μmのPFA(パーフルオロアルコキシ)チューブで被覆している。なお、外径寸法は例えば80mmで、幅は例えば340mmである。 【0042】 加熱ローラ92は、定着ベルト91を加熱する加熱手段としてのハロゲンランプ92Aを内蔵し、例えば、アルミニュウム等から形成された肉厚2mmの円筒状の中空回転体92Bの外周面を、耐熱性のPFAチューブ92Cで被覆し、ハードローラとして構成されている。なお、外径寸法は例えば47mmである。」 エ.「【0050】 以上の構成において、不図示の駆動手段によって定着ローラ93を時計方向に回転させると、定着ベルト91及び加熱ローラ92は時計方向に回転し、加圧ローラ94は反時計方向に回転する。また、加熱ローラ92に当接する定着ベルト91はハロゲンランプ92Aにより加熱され、加圧ローラ94もハロゲンランプ94Aによって加熱される。そして、不図示の付勢手段によって加圧ローラ94が定着ローラ93の方向に付勢されているので、定着ローラ93に巻回された定着ベルト91と加圧ローラ94との間のニップ部Nで、給紙された記録紙Pが加熱・加圧されて、記録紙P上のトナー像が定着される。」 オ.上記ア.によると「画像形成装置」は「定着装置」を備え、イ.によると「定着装置9は……記録紙(転写材)P上のトナー像を加熱・加圧して定着する」ところ、「画像形成装置」はその名称からみて「画像形成」を行う装置であり、「記録紙(転写材)P上のトナー像を加熱・加圧して定着する」ことが画像形成の一工程であることは明らかであるから、引用文献1には当該工程を含む「画像形成方法」が記載されているといえる。 カ.例えば引用文献1に【背景技術】として「複写機、プリンタ、ファクシミリ、及びこれらの諸機能を備えた複合機等の電子写真方式の画像形成装置においては、原稿に対応した潜像を感光体に形成し、この潜像にトナーを付与することによって顕像化し、この顕像化されたトナー像を記録紙上に転写し、この後、記録紙上に転写されたトナー像を定着して排紙している。」(段落【0002】)と記載されているように、「トナー像」は一般に「電子写真方式」で形成されるものであるから、引用文献1における「トナー像」が「電子写真方式で形成される」ことは明らかである。 上記の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「電子写真方式で形成される記録紙上のトナー像を定着する定着装置を備えた画像形成装置において、 定着装置9は、無端状の定着ベルト91を加熱ローラ92と定着ローラ93とに張架し、定着ベルト91を介して定着ローラ93を押圧する加圧ローラ94を有し、 加熱ローラ92は、定着ベルト91を加熱する加熱手段としてのハロゲンランプ92Aを内蔵し、 定着ベルト91は、基体として厚さ70μmのPI(ポリイミド)等からなる耐熱性の樹脂ベルトを用い、基体の外周面を厚さ200μmの耐熱性のシリコンゴムで被覆し、更に、離型層として厚さ30μmのPFA(パーフルオロアルコキシ)チューブで被覆されており、 付勢手段によって加圧ローラ94が定着ローラ93の方向に付勢され、 定着装置9は、定着ベルト91と加圧ローラ94との間に形成されたニップ部で記録紙(転写材)P上のトナー像を加熱・加圧して定着する画像形成方法。」 (2)引用文献2 当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平11-224006号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は導電性シームレスベルトに関し、より詳しくは、複写機、ファクシミリ、プリンター等の電子写真方式または静電印刷方式にて画像形成を行う画像形成装置内で、シート材搬送ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、定着ベルト、現像ベルト、感光体基体用ベルト等に使用される導電性シームレスベルトに関する。」 イ.「【0014】すなわち、本発明は、請求項1で、ゴム組成物からなり、体積固有抵抗値が1×104 ~1×1012Ω・cmの範囲にある導電性ベース層を備えた導電性シームレスベルトであって、上記導電性ベース層の23℃、10Hz、伸長歪み4%の測定条件で測定した時の動的弾性率が2.5×108 ~2.0×109 dyn/cm2 の範囲にあり、かつ、損失正接(tanδ)が0.01~0.2の範囲にあることを特徴とする導電性シームレスベルトを提供している。ここで、導電性シームレスベルトは導電性ベース層単体で構成しても、ベルトにより良好な表面性を付与するために導電性ベース層の表面に導電性ベース層とは異なる材質の薄厚の表面層を積層した構成にしてもよい。」 ウ.「【0019】導電性ベース層を構成するゴム組成物に用いるゴム成分としては、従来公知の種々のゴムが使用可能であり、具体的には、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDMゴム)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、エピクロロヒドリンゴム(CHR)、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合ゴム(CHC)、水素化ニトリルゴム(HSM)等が挙げられ、これらのゴムを単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。なお、画像形成装置内はオゾンが発生している場合が多いので、耐オゾン性に優れたEPDMゴムをゴム成分全体当たり10重量%以上含有させるのが好ましい。」 上記の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「ゴム成分としてシリコーンゴムを用いるゴム組成物からなる導電性ベース層を備えた導電性シームレスベルトであって、上記導電性ベース層の23℃、10Hz、伸長歪み4%の測定条件で測定した時の損失正接(tanδ)が0.01~0.2の範囲にあり、 導電性ベース層の表面に導電性ベース層とは異なる材質の薄厚の表面層を積層した構成にし、 画像形成装置内で、定着ベルトに使用される導電性シームレスベルト。」 5.対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 後者の「定着装置」は「電子写真方式で形成されるトナー像を定着する」ものであるから、後者の「定着装置9」が「記録紙(転写材)P上のトナー像を加熱・加圧して定着する」ことは、前者の「記録媒体上に電子写真方式によって形成された未定着のトナー画像を、定着装置を用いて加熱および加圧によって前記記録媒体に定着させる工程」に相当する。 後者の「加熱ローラ92」は、「定着ベルト91を加熱する加熱手段としてのハロゲンランプ92Aを内蔵」するから、前者の「定着ベルトを加熱するための加熱ローラ」に相当する。 後者の「加圧ローラ94」は、「定着ベルト91を介して定着ローラ93を押圧する」ものであり、「付勢手段によって加圧ローラ94が定着ローラ93の方向に付勢されて」いるから、前者の「定着ベルトを介してローラのうちの一つに対して相対的に付勢されるように配置される加圧ローラ」に相当する。 後者の「定着ベルト91」は、「基体として厚さ70μmのPI(ポリイミド)等からなる耐熱性の樹脂ベルトを用い、基体の外周面を厚さ200μmの耐熱性のシリコンゴムで被覆し、更に、離型層として厚さ30μmのPFA(パーフルオロアルコキシ)チューブで被覆し」ているところ、後者の「PI(ポリイミド)等からなる耐熱性の樹脂ベルト」の「基体」は前者の「耐熱性樹脂製の基層」に相当し、後者の「シリコンゴム」は弾性材料であることが明らかであるから前者の「弾性材料製の弾性層」に相当し、後者の「離型層」は前者の「離型層」に相当する。また、この点を踏まえると、後者の「定着ベルト91」は、「耐熱性樹脂製の基層、弾性材料製の弾性層、および、離型層をこの順で重ねてなる」といえる。 後者においては「定着ベルト91を加熱ローラ92と定着ローラ93とに張架」しており、ローラである「加熱ローラ92」及び「定着ローラ93」が軸支されていることは自明であるから、後者の「加熱ローラ92」及び「定着ローラ93」は前者の「定着ベルトを軸支する二以上のローラ」に相当する。また、この点を踏まえると、後者の「定着ベルト91」は、「加熱ローラを含む二以上のローラに軸支される」といえる。 そうすると、両者は、 「記録媒体上に電子写真方式によって形成された未定着のトナー画像を、定着装置を用いて加熱および加圧によって前記記録媒体に定着させる工程を含む画像形成方法であって、 前記定着装置は、無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを加熱するための加熱ローラを含む、前記定着ベルトを軸支する二以上のローラと、前記定着ベルトを介して前記ローラのうちの一つに対して相対的に付勢されるように配置される加圧ローラとを有する定着装置であって、 前記定着ベルトは、耐熱性樹脂製の基層、弾性材料製の弾性層、および、離型層をこの順で重ねてなり、加熱ローラを含む二以上のローラに軸支される無端状の定着ベルトである、画像形成方法。」 の点で一致し、以下の2点で相違する。 [相違点1] 前者においては「弾性材料の周波数20Hz、温度20℃雰囲気下での貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である損失正接tanδが0.1以下である」のに対して、後者においてはその点につき明らかでない点。 [相違点2] 前者においては「定着装置の定着速度は、A4版の記録媒体で60枚/分以上である」のに対して、後者においてはその点につき明らかでない点。 6.判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用発明2は、上記「4.(2)」のとおりであって、その「ゴム成分としてシリコーンゴムを用いるゴム組成物からなる導電性ベース層」は弾性を有する材料であることが明らかであるから、本願発明の「弾性材料製の弾性層」に相当する。 引用発明2においては、「導電性ベース層の23℃、10Hz、伸長歪み4%の測定条件で測定した時の損失正接(tanδ)が0.01~0.2の範囲にあ」る一方、本願発明においては、「弾性材料の周波数20Hz、温度20℃雰囲気下での貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である損失正接tanδは、0.01より大きく、0.1以下であ」るから、両者の損失正接の測定条件は相違している。しかしながら、例えば、当審拒絶理由において技術常識を示す文献として引用した「角村真一他、“シリコーンゴムの構造と物性”,高分子,社団法人高分子学会,昭和63年6月,第37巻,第6号,p.448-451」(特に第450ページ右欄第1行ないし末行及び図5参照)に示されるように、シリコーンゴムのようなシリコーンポリマーにおいては損失正接の周波数依存性は小さいことが従来知られているから、周波数が10Hzの場合と20Hzの場合との損失正接との差違は、本願発明1における損失正接の「0.01より大きく、0.1以下」との数値範囲に比して十分に小さいといえる。また、温度についても、20℃及び23℃はともに通常画像形成が行われる温度域内であってその差は大きいとはいえず、また、通常、画像形成装置には画像形成が行われる温度域内で特性が急変しない材料を用いることが技術常識であるから、温度が23℃の場合と20℃の場合の損失正接の差違も十分に小さいといえる。 そうすると、引用発明2の「導電性ベース層」の損失正接は、「23℃、10Hz、伸長歪み4%の測定条件で測定した時」と「周波数20Hz、温度20℃雰囲気下」で測定した時とで大きく変わることはないといえるから、引用発明2の「導電性ベース層」の「周波数20Hz、温度20℃雰囲気下」での損失正接が「0.01より大きく、0.1以下」の範囲と重複することは明らかである。 引用発明1及び2はともに画像形成の技術分野に係るものであり、また、引用発明2は「長期に亘って良好なシート搬送性能、転写性能、定着性能、現像性能等を得ることができる導電性シームレスベルトを提供すること」(段落【0012】)を課題とするところ、このような良好なシート搬送性能や定着性を得るという課題は画像形成技術において一般的なものであって、引用発明1にも内在する課題であるといえる。 そうすると、引用発明1において上記相違点1に係る引用発明2の発明特定事項を採用して、「シリコンゴム」の周波数20Hz、温度20℃雰囲気下での損失正接を0.01より大きく、0.1以下とすることは当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2について 引用文献1(段落【0051】ないし【0066】)には、引用発明1に係る定着装置を備えた画像形成装置を用い、定着ベルトの張力を変化させて行った実験が記載されており、「通紙速度:300mm/s」(段落【0052】)で通紙した場合に、「普通紙及びコート紙に拘わらず、厚紙の場合には定着ベルトの張力を33Nに設定し、薄紙の場合には定着ベルトの張力を15Nに設定すれば、分離性と定着性の双方が良好になる」(段落【0066】)ことが示されている。ここで、定着速度が通紙速度と等しいことは明らかであり、A4判用紙の縦方向の長さは297mmであるから、「通紙速度:300mm/s」の場合の定着速度はA4判の記録媒体で60枚/分以上であるといえる。 そして、定着速度は、記録媒体に定着される画像の定着性や、記録媒体の搬送性等に応じて当業者が適宜決定することができる設計事項であって、定着性や搬送性等の性能が上がれば定着速度を高くすることができることは当業者にとって明らかな事項であるところ、引用文献2に「長期に亘って良好なシート搬送性能、転写性能、定着性能、現像性能、及び感光体における潜像形成能等を奏する」(段落【0018】)ことが示されていることを踏まえれば、上記「(1)」のように引用発明1に引用発明2を適用すればシート搬送性能や定着性能が良好になることが期待できるから、その性能に応じて定着速度を設定して、引用文献1の上記記載のようにA4判の記録媒体で60枚/分以上とすることは格別困難なことではない。 (3)審判請求人の主張について ア.審判請求人の主張の概要 審判請求人は平成30年6月22日付け意見書において、概略、以下のとおり主張している。 (ア)引用文献2には、導電性ベース層を備えた導電性シームレスベルトを定着ベルトとして使用した実施例はない。定着ベルトは、導電性を有すると定着性に問題が生じるため、導電性ベース層を用いた導電性シームレスベルトは、定着ベルトとしての機能を発揮できない。 (イ)引用文献2には、本願発明のように加熱される定着ベルトにおいて、生じる課題の記載も示唆もなく、印刷速度が高くなることによりさらに生じる課題の記載も示唆もない。 (ウ)引用文献2には、導電性ベース層の損失正接を規定範囲にするとの記載はありますが、実際には、作製した「導電性シームレスベルト」全体について損失正接を測定しており(段落【0040】)、導電性ベース層に表面層を形成したベルト(段落【0036】)を測定している。そして、表面層を含むベルトと表面層を含まないベルトとでは、損失正接の値は大きく異なるため、本願発明の損失正接の値にはならない。 イ.審判請求人の主張についての検討 (ア)の主張について 引用文献2の「発明の実施の形態」の欄には「なお、ここでは実施例1~4の導電性シームレスベルトを中間転写ベルトとして用いた場合について記載したが、かかる実施例1~4の導電性シームレスベルトを寸法調整を行って転写ベルト、定着ベルト、現像ベルトとして使用したが、この場合も良好な結果を得ることができた。」(段落【0045】)と記載されており、実施例についても「導電性シームレスベルト」を「定着ベルト」に使用することが示されている。 また、導電性層を有する定着ベルトが、例えば、特開平10-142972号公報(段落【0050】に「定着ベルト501は、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等の耐熱性、高離型性ゴム材料からなるゴム弾性材Gに、導電性物質Cとして簿片状、繊維状、粉末状など各種形状の金属物、金属酸化物、グラファイト、カーボンブラックやイオン導電物質等を添加したゴム弾性体Dが用いられる。」と記載されている。)、特開2005-17752号公報(段落【0050】に「定着ベルト8の基材と弾性層も導電性とし、給電ブラシ19を定着ベルト8の内面に接触させても良い。」と記載されている。)、及び、特開2009-122577号公報(段落【0056】に「更に、定着ベルト91や加圧ベルト95の弾性層に導電性を持たせ、基体でなく導電層としての弾性層に電圧を掛けてもよい。」と記載されている。)に示されるように、本願の出願前に周知の技術事項であることからすれば、引用発明2のような「導電性ベース層」を有する「導電性シームレスベルト」が定着ベルトに使用可能であることは、当業者にとって自明のことにすぎないというべきである。 (イ)の主張について 引用発明2は上記「4.(2)」のとおりの「定着ベルトに使用される導電性シームレスベルト」に係るものであって、引用文献2には従来技術について「定着領域では、導電性シームレスベルトは一般に定着ベルトと呼ばれ、多くの場合、加熱手段(例えば加熱ロール)と対向する位置で上記転写ベルトと同様に2個以上のプーリーによって張架状態とされてプーリーの駆動によって回転運動し、トナーが転写されたシート材をその上面に担時して搬送してシート材上の転写されたトナーをシート材に定着するようになっている。よって、かかる定着領域においても、長期間良好な定着性能が得られためには、導電性シームレスベルトは、長期に亘って張架状態としても伸びることなく安定した回転運動をすることが要求される。」(段落【0006】)と記載されているから、引用発明2は定着ベルトが加熱ローラ(加熱ロール)によって加熱されるものであることを前提とするといえる。 また、引用文献2には、「定着ベルトにおいては加熱ロールとのニップ量を大きくできず良好な定着性能を得難いという欠点がある。」(段落【0009】)及び「電子写真方式または静電印刷方式にて画像形成を行う画像形成装置内で少なくとも2個以上のプーリーにより張架状態にして回転運動させて、シート材搬送ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、定着ベルト等に使用する導電性シームレスベルトであって、加工性がよく、適度な柔軟性を有するとともに、長期に亘って連続運転しても伸びを生じることなく、しかも、厚み方向のバネ定数も小さく表面の凹凸や剛性ムラもない、長期に亘って良好なシート搬送性能、転写性能、定着性能、現像性能等を得ることができる導電性シームレスベルトを提供することを課題としている。」(段落【0012】)と記載されているから、導電性シームレスベルトを定着ベルトとして使用する場合の課題が示されている。 そして、上記「(1)」のとおり、良好なシート搬送性能や定着性能を得ることは画像形成技術において一般的な課題であって、引用発明1にも内在しており、引用発明1に引用発明2を適用することは当業者が容易になし得たことといえ、上記「(2)」のとおり、定着速度は、記録媒体に定着される画像の定着性や、記録媒体の搬送性等に応じて当業者が適宜決定することができる設計事項であって、定着性や搬送性等の性能が上がれば定着速度を高くすることができることは当業者にとって明らかな事項であるところ、引用文献2に印刷速度が高くなることにより生じる課題について記載されていないとしても、引用発明1に引用発明2を適用すればシート搬送性能や定着性能が良好になることが期待できるから、定着速度をA4判の記録媒体で60枚/分以上とすることは格別困難なことではない。 (ウ)の主張について 引用文献2には実施例について「実施例1~4のゴム成分に対して架橋性モノマーと有機過酸化物からなる架橋剤を適量配合して架橋した架橋ゴム組成物により、動的弾性率を2.5×108 ~2.0×109 dyn/cm2 の範囲内とし、かつ、損失正接(tanδ)を0.01~0.2の範囲内としている導電性シームレスベルトは、転写ズレやトナーの転移不良のない良好画像を形成でき、しかも、長期間伸長状態にしても伸びが生じていない。また、実施例1~4の複写終了後のベルトの表面を目視観察したが、残留トナーはなく、ベルトのクリーニング性も良好であった。」(段落【0044】)と記載されているところ、「ゴム成分に対して架橋性モノマーと有機過酸化物からなる架橋剤を適量配合して架橋した架橋ゴム組成物」が「導電性ベース層」であることは明らかであるから、「転写ズレやトナーの転移不良のない良好画像を形成でき、しかも、長期間伸長状態にしても伸びが生じていない」及び「残留トナーはなく、ベルトのクリーニング性も良好であった」という効果は「導電性ベース層」の損失正接を所定範囲としたことによるものといえる。そして、引用文献2の実施例が「筒状成形物の厚みを0.5mmに調整し、研磨後の表面に静電塗装機でウレタン樹脂を塗布して、厚み0.5μmの表面層を形成して各実施例及び比較例の導電性シームレスベルトを完成させた」(段落【0036】)ものであって、導電性ベース層である筒状成形物の厚みが0.5mmであるのに対して、表面層の厚みは0.5μmと十分に小さくされていることから、引用文献2の上記効果が「導電性ベース層」の損失正接によるものであることは明らかというべきである。 また、上記の導電性ベース層と表面層の厚みに鑑みれば、損失正接は導電性ベース層と、導電性ベース層に表面層を形成した導電性シームレスベルトとで、大きく変わることはないといえるから、実施例記載のものの「導電性ベース層」のみについてみても、損失正接が「0.01より大きく、0.1以下」の範囲と重複することは明らかである。 以上のとおりであるから、上記(ア)ないし(ウ)に係る請求人の主張はいずれも採用することができない。 (4)まとめ 相違点1及び2については上記「(1)ないし(3)」のとおりであって、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1及び2から当業者が予測し得る範囲内のものである。 そうすると、本願発明は、引用発明1及び2から当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。

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2017-013582

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