特許拒絶査定不服審判
2025-013059
超音波トランスデューサ、超音波探触子、超音波診断装置および超音波トランスデューサの製造方法
- 審判番号
- 2025-013059
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-144737
- 請求日
- 2025年08月20日
- 審決日
- 2026年07月06日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コニカミノルタ株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人鷲田国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 遠藤 直恵
- 分類
- P18 .121-Z (A61B) / P18 .537-Z (A61B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-144737「超音波トランスデューサ、超音波探触子、超音波診断装置および超音波トランスデューサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 3月16日出願公開、特開2023- 37906〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、令和3年9月6日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 7年 1月24日付け 拒絶理由通知書
同年 4月 2日 意見書の提出
同年 6月26日付け 拒絶査定
同年 8月20日 審判請求書の提出
以下では、令和 7年6月26日付け拒絶査定を「原査定」という。
第2 本願発明について
本願の請求項1~16に係る発明は、本願の出願時の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおり特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
複数の音響部材が積層された積層体と、
多官能のシランカップリング剤と、接着剤と、を含み、前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる接着層と、
を有する、
超音波トランスデューサ。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由2(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2003-284192号公報
第4 本願発明の分節
本願発明は、前記第2に記載した請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
ここで、検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成A~構成Cに分説する。(A~Cは、各構成単位毎に分説するために当審にて付した分説番号であり、以下、各構成単位について、該分説番号を用いて「構成A」などということがある。)
「【請求項1】
A 複数の音響部材が積層された積層体と、
B 多官能のシランカップリング剤と、接着剤と、を含み、前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる接着層と、
を有する、
C 超音波トランスデューサ。」
第5 引用文献の記載事項、引用発明及び周知技術
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-284192号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
a 「【0013】図1及び図2に示すように本実施形態の超音波振動子1は、超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2と、超音波を放射する或いは超音波を送受する超音波放射面或いは超音波送受面(単に前面とも記す)に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び前記圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面(前面に対して後面と記す)に金を設けた金電極である後面電極3bと、前記圧電素子2の前面電極3aに第1接着剤4aによって積層される圧電素子2の音響インピーダンスと生体の音響インピーダンスとの間の隔たりをなくすように音の効率を上げるエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂或いはウルテム樹脂等の樹脂層及びアルミナ入り樹脂層で厚さ寸法を、波長(λ)/4で形成した音響整合層5及び前記圧電素子2から放射された超音波を集束させて超音波ビームを出射させる集束手段となる樹脂製の音響レンズ6と、前記圧電素子2の後面電極3bに第2接着剤4bによって積層され、後方側への超音波を減衰させる例えばフェライト入りゴムで形成したバッキング材7と、前記圧電素子2,前面電極3a,後面電極3b,音響整合層5,音響レンズ6及びバッキング材7の一部のそれぞれの表面を覆う耐水性、耐薬品性に優れたパリレン(ポリパラキシリレン)等で形成した保護膜8とで主に構成されている。
【0014】前記第1接着剤4aは、エポキシ系接着剤に一般的にゴム用に最適であると推奨されている、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を1~2%混入したものである。
【0015】このシランカップリング剤を混入した第1接着剤4aを用いて圧電素子2の前面電極3aに音響整合層5を接着固定することにより、前記γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を混入したエポキシ系の接着剤、或いはシランカップリング剤を混入していないエポキシ系の接着剤を用いた接着固定に比べ、音響整合層5が圧電素子2の前面電極3aから部分的に剥離することが改善されて、確実に接着固定される。」
b 「
[図:0001439088000001.jpg]
」
c 「【0018】このように、圧電素子の前面電極と音響整合層とを接着固定する際、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を所定量、混入した接着剤を使用することにより、接着強度を大幅に改善することができる。
【0019】このことによって、音響整合層を圧電素子の前面電極に製造工程中に剥離することなく、確実に接着固定して、感度、帯域の安定した、即ち、超音波特性の良好な超音波振動子の提供を行える。」
(イ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)a~cの記載事項及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2と、圧電素子2の超音波放射面に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面に金を設けた金電極である後面電極3bと、圧電素子2の前面電極3aに第1接着剤4aによって積層される音響整合層5と、音響レンズ6と、圧電素子2の後面電極3bに第2接着剤4bによって積層されるバッキング材7と、を有し、(段落【0013】)
第1接着剤4aは、エポキシ系接着剤にγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を1~2%混入したものであり、(段落【0014】)
このシランカップリング剤を混入した第1接着剤4aを用いて圧電素子2の前面電極3aに音響整合層5を接着固定することにより、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を混入したエポキシ系の接着剤、或いはシランカップリング剤を混入していないエポキシ系の接着剤を用いた接着固定に比べ、音響整合層5が圧電素子2の前面電極3aから部分的に剥離することが改善されて、確実に接着固定される、(段落【0015】)
超音波振動子1。(段落【0013】)」
2 周知技術を示す文献
令和 7年 1月24日付け拒絶理由通知書の<先行技術文献調査結果の記録>において、「信越化学工業株式会社のXー12-1154は、接着層に含有させる多官能シランカップリング剤として周知の材料であることを示す文献」として「特開2021-107523号公報」、「特開2016-45248号公報」及び「特開2017-72796号公報」が例示されている。例示された各公報の記載は、後記(1)~(3)のとおりである。
(1) 特開2021-107523号公報の記載
本願の出願前に頒布された特開2021-107523号公報(以下「周知文献1」という。)には次の記載がある。
ア 「【0094】
<任意成分>
本実施形態の接着剤組成物は、上記(P1)成分及び(A)成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分を含んでいてもよい。任意成分は、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤、重合禁止剤、溶剤成分、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤、界面活性剤等が挙げられる。」
イ 「【0095】
≪シランカップリング剤:(B)成分≫
本実施形態の接着剤組成物は、上記(P1)成分及び(A)成分に加えて、シランカップリング剤(以下、(B)成分ともいう)を含有することが好ましい。(B)成分を用いることにより、基板に対する密着性を向上させることができる。また、モールド基板等の樹脂基板においては、高温でボイドが発生しやすい。(B)成分を用いることにより、樹脂基板においてもボイドの発生を抑制することができる。
シランカップリング剤は、反応性の異なる2種類の官能基を有するシラン化合物である。2種類の官能基は、加水分解性基とそれ以外の官能基であることが好ましい。「加水分解性基」とは、ケイ素原子に直結し、加水分解反応及び/又は縮合反応によってシロキサン結合を生じ得る置換基をいう。加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。前記アルコキシ基及びアシルオキシ基としては、炭素数1~5が好ましく、炭素数1~3がより好ましい。中でも、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、エトキシ基又はメトキシ基がより好ましい。すなわち、シランカップリング剤は、アルコキシシリル基を有する化合物が好ましく、エトキシシリル基又はメトキシシリル基が有する化合物がより好ましい。」
ウ 「【0108】
(B)成分は、ポリマー型シランカップリング剤であってもよい。ポリマー型シランカップリング剤としては、ポリシロキサン型シランカップリング剤、有機ポリマー型シランカップリング剤が挙げられる。」
エ 「【0110】
有機ポリマー型シランカップリング剤は、主鎖が有機構造である有機ポリマーに、加水分解性基及び前記加水分解性基以外の官能基が結合したシランカップリング剤である。有機ポリマーは、特に限定されず、任意の有機ポリマーを用いることができる。有機ポリマー型シランカップリング剤は、加水分解性基としてエトキシ基又はメトキシ基を有するものが好ましい。シリコン基板に用いる場合は、官能基として、エポキシ基、アミノ基、又はイソシアネート基を有するものが好ましい。樹脂基板に用いる場合は、官能基として、エポキシ基を有するものが好ましい。官能基当量(ケイ素原子1個に対する官能基数)としては、例えば、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、2又は3がさらに好ましい。
有機ポリマー型シランカップリング剤の市販品としては、例えば、X-12-972F、X-12-981S、X-12-984S、X-12-1048、X-12-1050、X-12-1154、X-12-1242、X-12-1159L(いずれも信越化学工業製)等が挙げられる。」
オ 「【0130】
本実施形態の接着剤組成物によれば、半導体基板又は電子デバイスと、支持体と、を仮接着する際には、重合性炭素-炭素二重結合により(P1)成分を重合させて架橋させる。これにより、接着剤組成物層が硬化して接着層を形成し、半導体基板又は電子デバイスと、支持体と、が仮接着される。当該接着層は、架橋構造により硬化しているため、耐熱性が高く、高温(例えば、200℃以上)でも弾性率が低下しない。そのため、半導体基板又は電子デバイスの加工時に高温処理を行った場合でも、位置ずれや沈み込み等の不具合が生じにくい。」
カ 「【0132】
(積層体)
本発明の第2の態様にかかる積層体は、支持体、接着層、及び半導体基板若しくは電子デバイスがこの順に積層した積層体であって、前記接着層は、第1の態様にかかる接着剤組成物の硬化体であることを特徴とする。」
キ 「【0137】
<支持体>
支持体は、半導体基板又は電子デバイスを支持する部材である。図1~4の例では、支持体12は、支持基体1と、支持基体1上に設けられた分離層2と、を備えている。本実施形態の積層体において、支持体は、分離層2を有していてもよく、有していなくてもよい。支持体が分離層2を有しない場合、支持基体1が支持体となる。
【0138】
≪支持基体≫
支持基体は、光を透過する特性を有し、半導体基板又は電子部品を支持する部材である。図1~4のように分離層を設ける場合、支持基体は、分離層及び接着層を介して半導体基板又は電子デバイスに貼り合わされる。分離層を設けない場合には、支持基体は、接着層を介して半導体基板又は電子デバイスに貼り合される。そのため、支持基体としては、デバイスの薄化、半導体基板の搬送、半導体基板への実装等の際に、半導体基板の破損又は変形を防ぐために必要な強度を有していることが好ましい。また、支持体が分離層を有する場合、支持基体は、分離層を変質させることができる波長の光を透過するものが好ましい。
支持基体の材料としては、例えば、ガラス、シリコン、アクリル系樹脂等が用いられる。支持基体の形状としては、例えば、矩形、円形等が挙げられるが、これらに限定されない。支持基体としては、さらなる高密度集積化や生産効率の向上のために、円形である支持基体のサイズを大型化したもの、平面視における形状が四角形である大型パネルを用いることもできる。」
ク 「【0170】
≪電子デバイス≫
電子デバイスとしては、特に制限はなく、上記「(接着剤組成物)」で例示したものと同様のものが例示される。電子デバイスは、金属または半導体により構成される部材と、前記部材を封止または絶縁する樹脂と、の複合体であることが好ましい。具体的には、電子デバイスは、封止材層および配線層の少なくとも一方を含み、さらに半導体基板を含むことができる。
図2に示す積層体200では、電子デバイス456は、半導体基板4と封止材層5、および配線層6により構成されている。図3に示す積層体300では、電子デバイス6は、配線層6により構成されている。図4に示す積層体400では、電子デバイス645は、配線層6、半導体基板4および封止材層5により構成されている。」
(2) 特開2016-45248号公報の記載
本願の出願前に頒布された特開2016-45248号公報(以下「周知文献2」という。)には次の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、タッチパネル、集積回路素子、固体撮像素子などの電子部品の平坦化膜、保護膜および層間絶縁膜等の形成に好適な、感光性樹脂組成物に関する。また、硬化膜の製造方法、感光性樹脂組成物を硬化してなる硬化膜、硬化膜を用いた液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、タッチパネルなどの画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス表示装置、液晶表示装置、タッチパネルなどの画像表示装置などには、パターン形成された層間絶縁膜が設けられている。層間絶縁膜の形成には、必要とするパターン形状を得るための工程数が少なく、しかも十分な平坦性が得られるといったことから、感光性樹脂組成物が広く使用されている。」
イ 「【0130】
<密着改良剤>
本発明の第1の態様の感光性樹脂組成物は、密着改良剤を含有してもよい。密着改良剤としてはアルコキシシラン化合物などが挙げられる。
密着改良剤の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形成分100質量部に対し、0.001~15質量部であることが好ましく、0.005~10質量部であることがより好ましい。
密着改良剤は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。2種類以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。」
ウ 「【0153】
ポリマータイプの密着改良剤は、市販品を用いてもよく、例えば、X-12-981S、X-12-984S、X-12-1154、X-12-1048、X-12-972F(ともに信越シリコーン社製)を用いることができる。」
エ 「【0191】
<硬化膜の製造方法>
本発明の硬化膜の製造方法は、以下の(1)~(5)の工程を含むことが好ましい。
(1)本発明の感光性樹脂組成物を基板上に塗布する工程(塗布工程)
(2)塗布された感光性樹脂組成物から溶剤を除去する工程(溶剤除去工程)
(3)溶剤が除去された感光性樹脂組成物を活性光線により露光する工程(露光工程)
(4)露光された感光性樹脂組成物を現像液により現像する工程(露光工程)
(5)現像された感光性樹脂組成物を熱硬化する工程(ポストベーク工程)
以下に各工程を順に説明する。
【0192】
(1)の工程では、本発明の感光性樹脂組成物を基板上に塗布して溶剤を含む湿潤膜とすることが好ましい。
【0193】
(1)の工程では、基板に感光性樹脂組成物を塗布する前に、基板に対してアルカリ洗浄やプラズマ洗浄などの洗浄を行ってもよい。また、洗浄後の基板に対してヘキサメチルジシラザンなどで基板表面を処理してもよい。ヘキサメチルジシラザンで基板表面を処理する方法としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチルジシラザン蒸気中に基板を晒しておく方法等が挙げられる。
基板としては、無機基板、樹脂、樹脂複合材料などが挙げられる。
無機基板としては、例えばガラス、石英、シリコーン、シリコンナイトライド、および、それらのような基板上にモリブデン、チタン、アルミ、銅などを蒸着した複合基板が挙げられる。
樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズアゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アイオノマー樹脂、シアネート樹脂、架橋フマル酸ジエステル、環状ポリオレフィン、芳香族エーテル、マレイミドーオレフィン、セルロース、エピスルフィド化合物等の合成樹脂からなる基板が挙げられる。
これらの基板は、上記の形態のまま用いられる場合は少なく、最終製品の形態によって、例えばTFT(Thin-Film Transistor)素子のような多層積層構造が形成されていてもよい。
基板への感光性樹脂組成物の塗布方法は特に限定されず、例えば、スリットコート法、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法、流延塗布法、スリットアンドスピン法等の方法を用いることができる。
スリットコート法の場合には基板とスリットダイとの相対移動速度を50~120mm/secとすることが好ましい。
感光性樹脂組成物を塗布したときの湿潤膜厚は特に限定されるものではなく、用途に応じた膜厚で塗布することができる。例えば、0.5~10μmが好ましい。
基板に本発明の感光性樹脂組成物を塗布する前に、特開2009-145395号公報に記載されているような、所謂プリウェット法を適用することも可能である。」
(3) 特開2017-72796号公報の記載
本願の出願前に頒布された特開2017-72796号公報(以下「周知文献3」という。)には図面とともに次の記載がある。
ア 「【0007】
本発明の一側面は、軸体と、軸体の外周面上に設けられており、シリコーンゴムを含む弾性層と、弾性層上に設けられており、ポリオール成分及びポリイソシアネート成分を含有する樹脂原料の硬化物を含む被覆層と、を備える現像ローラに関する。かかる現像ローラは、被覆層の外周面が、硫黄系シランカップリング剤由来の構造を含む材料で構成されている。なお、被覆層の外周面とは、被覆層の弾性層側とは反対側の主面を意味する。」
イ 「【0010】
一態様において、樹脂原料は、硫黄系シランカップリング剤を更に含有してよい。この場合、被覆層の弾性層側の主面が硫黄系シランカップリング剤由来の構造を含む材料で構成され易くなり、その結果、弾性層と被覆層との接着性が向上する。すなわち、本態様では、弾性層の外周面への表面処理を行わずとも被覆層との十分な接着性が得られるため、製造プロセスの簡略化、表面処理剤の染み出しによる悪影響の防止等を図ることができる。本態様では、樹脂原料の硬化物を含む材料で被覆層の外周面を構成することで上述の優れた効果を得ることができる。」
ウ 「【0063】
(被覆層4)
第一実施形態において、被覆層4は、樹脂原料の硬化物を含む樹脂材料で構成されている。樹脂原料は、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、硫黄系シランカップリング剤とを含有し、樹脂原料の硬化物は硫黄系シランカップリング剤由来の構造を含む。」
エ 「【0076】
硫黄系シランカップリング剤は、メルカプト型シラン、スルフィド型シラン、チオウレタン型シラン、チオウレア型シラン、多官能メルカプト型シランであってよい。メルカプト型シランとは、分子内にメルカプト基を含むシラン化合物である。メルカプト型シランとしては、例えば、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。スルフィド型シランとは、分子内にスルフィド結合を含むシラン化合物である。スルフィド型シランとしては、例えば、トリエトキシシリルチオプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。多官能メルカプト型シランとは、メルカプト基を複数有するシラン化合物である。多官能メルカプト型シランとしては、X-12-1154(信越化学工業社製)等が挙げられる。」
オ 「【0080】
樹脂原料がこれらの硫黄系シランカップリング剤を含むことにより、被覆層4の外周面を、硫黄系シランカップリング剤由来の構造を含む材料で構成することができる。詳細には、被覆層4の外周面が、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、硫黄系シランカップリング剤と、を含有する樹脂原料の硬化物を含む樹脂材料で構成される。その結果、現像ローラ1の表面の摩擦帯電能を向上することができ、高温高湿環境下における画像濃度の均一性を保持することができる。また、低温低湿環境下における画像ムラの発生を抑制することができる。また、樹脂原料がこれらの硫黄系シランカップリング剤を含む場合、被覆層4の弾性層3側の主面には、硫黄系シランカップリング剤由来の構造を含む材料が存在し易い。このような理由から、第一実施形態では、被覆層4と弾性層3との接着性に優れる傾向がある。」
カ 「【0108】
現像ローラ1の製造方法は、軸体2の外周面上にシリコーンゴムを含む弾性層3を形成する第一の工程と、弾性層3上に塗布された、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分及び硫黄系シランカップリング剤を含有する樹脂原料を硬化させて、樹脂原料の硬化物を含む被覆層4を形成する第二の工程と、を備える。」
(4)信越化学工業株式会社のXー12-1154について
ア 「シランカップリング剤」[online],2017年12月,信越化学工業株式会社,[取得日2026年6月8日],取得先<http://web.archive.org/web/20190819074207/http://www.silicone.jp/catalog/pdf/SilaneCouplingAgents_J.pdf>(以下「周知文献4」という。)は、信越化学工業株式会社のシランカップリング剤の製品を紹介するカタログと認められ、その裏表紙には、以下の記載がある。
[図:0001439088000002.jpg]
上記紙面には「このカタログの記載内容は、2017年12月現在のものです。」との記載があるから、周知文献4は、本願出願前の2017年12月に発行されていたと認められる。
したがって、周知文献4は、本件出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる。
イ 周知文献4の第14頁には次の記載がある。
「
[図:0001439088000003.jpg]
」
ウ 上記イには、その上段に「多官能シランカップリング剤は、モノマータイプに比べ、樹脂との反応点が多く、基体との密着性向上が期待できること」、及び、その製品リスト欄に有機官能基がメルカプトである多官能シランカップリング剤製品として、本願の実施例(段落【0100】)で使用されている「X-12-1154」が記載されている。
(5)周知技術
周知文献4の製品カタログには「X-12-1154」の「多官能シランカップリング剤は、モノマータイプに比べ、樹脂との反応点が多く、基体との密着性向上が期待できること」が記載されているところ、周知文献1~3では、周知文献4の製品カタログに記載された「X-12-1154」の「多官能シランカップリング剤」が慣用されていることが裏付けられている。そうすると、周知文献4の製品カタログによれば、以下の技術的事項は、本件出願前における周知技術であると認められる(以下「周知技術1」という。)。
「接着層に含有させるシランカップリング剤として、モノマータイプに比べ、樹脂との反応点が多く、基体との密着性向上を期待し、有機官能基であるメルカプト基を複数有する多官能シランカップリング剤であるX-12-1154(信越化学工業株式会社)を使用すること。」
第6 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 構成Aについて
引用発明において、それぞれ「超音波振動子1」を構成する部材である、「圧電素子2」と「前面電極3a」と「後面電極3b」とからなる部材、「音響整合層5」、「音響レンズ6」及び「バッキング材7」は、本願発明の「複数の音響部材」に相当し、積層された当該各部材を合わせて、本願発明の「積層体」に相当する。
してみると、引用発明は、本願発明の「複数の音響部材が積層された積層体」「を有する」点を満たす。
2 構成Bについて
引用発明において、「エポキシ系接着剤」、「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤」、及び「第1接着剤4a」層は、それぞれ、本願発明の「接着剤」、「シランカップリング剤」及び「接着層」に相当する。
また、引用発明は「このシランカップリング剤を混入した第1接着剤4aを用いて圧電素子2の前面電極3aに音響整合層5を接着固定する」から、「第1接着剤4a」層は、「圧電素子2」と「前面電極3a」と「後面電極3b」とからなる部材と、「音響整合層5」とを接合しているといえる。
そして、本願発明の「多官能」について、本願明細書【0047】に「シランカップリング剤に含まれる反応性官能基の種類は、特に限定されず、例えば、アクリロイル基、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基、イソシアネート基などである。」等の記載から、当該「官能」基はメルカプト基等の反応性官能基を指すところ、引用発明の「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」は構造式が(CH3O)3SiC3H6SHであり、メルカプト基(-SH)が一つである単官能のシランカップリング剤であるから、引用発明は、本願発明の「シランカップリング剤と、接着剤と、を含み、前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる接着層と」「を有する」点を満たす。
3 構成Cについて
引用発明の「超音波振動子1」は、本願発明の「超音波トランスデューサ」に相当する。
4 一致点、相違点
上記1~3のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、下記(1)の点で一致し、下記(2)の点で相違する。
(1) 一致点
「A 複数の音響部材が積層された積層体と、
B シランカップリング剤と、接着剤と、を含み、前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる接着層と、
を有する、
C 超音波トランスデューサ。」
(2) 相違点1(構成Bについて)
シランカップリング剤について、本願発明は、「多官能のシランカップリング剤」であるのに対し、引用発明では単官能の「シランカップリング剤」である点。
第7 判断
1 相違点について
(1) 相違点1
引用発明(段落【0015】)は、「音響整合層5が圧電素子2の前面電極3aから部分的に剥離することが改善されて、確実に接着固定されるように」するものである。
また、引用文献1の段落【0007】には、「接着強度を改善し、樹脂層が金電極から剥離する等の不具合の発生を防止し、金電極と樹脂層とが確実に一体化して安定した超音波特性の得られる超音波振動子を提供することを目的に」するという課題も記載されている。
そして、第5の2(5)にて説示した周知技術1も、「接着層に含有させるシランカップリング剤」という共通する技術分野において、「樹脂と基体との密着性を向上させる」という、引用発明と同様の課題を解決するものである。
そうすると、引用発明において、シランカップリング剤として「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」という単官能の「シランカップリング剤」、すなわち「モノマータイプ」の「シランカップリング剤」を用いる代わりに、周知技術1である「接着層に含有させるシランカップリング剤として、モノマータイプに比べ、樹脂との反応点が多く、基体との密着性向上を期待し、有機官能基であるメルカプト基を複数有する多官能シランカップリング剤であるX-12-1154(信越化学工業株式会社)を使用すること」は、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 以上より、引用発明及び周知技術1に基づいて、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
2 効果について
(1)接着強度について
上記1(1)にて説示したとおり、周知技術1は「多官能シランカップリング剤であるX-12-1154を使用する」ことにより、「モノマータイプに比べ、樹脂との反応点が多く、基体との密着性を向上させる」ものである。
そして、引用発明の「モノマータイプ」の「シランカップリング剤」である「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」に代えて、「有機官能基であるメルカプト基を複数有する多官能シランカップリング剤であるX-12-1154を使用」することにより、「樹脂との反応点が多く、基体との密着性を向上させ」、基体との接着強度をさらに確実にすることは、当業者が当然予測しうるものである。
また、本願明細書の表1を参酌すると、例えば表面処理液1aと表面処理液2は、シランカップリング剤の種類ばかりでなく、使用されたシランカップリング剤の質量部が異なり、溶媒も異なるから、表2において、接着試験用サンプルNo.1とNo.4の接着性が異なるという結果は、シランカップリング剤の種類(X-12-1154か、M0928か)の違いにのみよるものか否か不明である。
他の表面処理液1b、3a、3bと表面処理液4a、4bについても同様に、表2における接着性の結果が○、×または△であることが、シランカップリング剤が多官能か単官能かであることだけによる結果であるのか否か不明である。
してみると、本願明細書を参酌しても、本願発明の多官能シランカップリング剤により奏される効果が特別顕著であるということを示すものは見いだせない。
(2)歩留まり、耐久性について
引用文献1の段落【0018】-【0019】には、「このように、圧電素子の前面電極と音響整合層とを接着固定する際、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を所定量、混入した接着剤を使用することにより、接着強度を大幅に改善することができる。」「このことによって、音響整合層を圧電素子の前面電極に製造工程中に剥離することなく、確実に接着固定して、感度、帯域の安定した、即ち、超音波特性の良好な超音波振動子の提供を行える。」との記載があるとおり、音響部材間の接着強度を大幅に改善することによって、製造工程中の剥離をなくすことができることが記載されている。
そして、製造工程中に、超音波振動子の切り出しのためのダイシングや、超音波振動子の洗浄を行うことは、技術常識であるから、引用発明において周知技術1を適用することで、音響部材間の接着強度がさらに向上し、ダイシングの歩留まりや洗浄の耐久性がさらに向上することは、当業者が予期しうるものであるといえる。
また、本願明細書の表1を参酌すると、表面処理液1bと表面処理液2は、シランカップリング剤の種類ばかりでなく、使用されたシランカップリング剤の質量部が異なり、溶媒も異なるから、表4において、超音波トランスデューサ1と2の歩留まり及び耐久性の結果が○か×かという結果は、シランカップリング剤が多官能か単官能かであることだけによる結果であるのか否か不明である。
してみると、本願明細書を参酌しても、本願発明の多官能シランカップリング剤により奏される効果が特別顕著であるということを示すものは見いだせない。
(3)したがって、本願発明により奏される効果も、引用発明及び周知技術1から当業者が予測し得るものであり、格別顕著なものではない。
3 請求人の主張について
請求人は、令和 7年 8月20日提出の審判請求書において、進歩性に関する主張内容の肝要な部分は、以下の2点にあるものといえる。すなわち、
「引用文献1では単官能シランカップリング剤であるγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランにより十分な接着強度が得られ、満足する結果が得られたとされている。そのため、引用文献1のγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを本件発明の多官能のシランカップリング剤に変更する動機付けはない。…しかし、十分な接着強度が得られたとされている引用文献1に対し、なぜこれで満足できずさらなる接着性の向上が期待できるシランカップリング剤を探す必要があるのか、その理由が不明である。…本件発明は、ダイシングを行う際や洗浄時などに音響部材の剥離が生じるという課題を見出し、これに耐えうる接着剤を検討する中でシランカップリング剤の選択に着目し、多官能のシランカップリング剤が良好であることを見出したものであるが、ダイシングも洗浄も記載していない引用文献1から、上記の課題あるいは動機付けが生じる理由がない。…。満足される結果が得られているシランカップリング剤をなぜあえて変更しようとするのか、その理由が不明である。」(主張1)、
「本件発明は多官能シランカップリング剤により、ダイシングを行う際や洗浄時などに生じる音響部材の剥離を抑制できるという効果を有する。この効果は、引用文献1から当業者が予測し得ない本件発明の有利な効果である。…、たとえシランカップリング剤に着目したとして、多官能のシランカップリング剤により良好な結果が得られると当業者が考える理由も不明である。」(主張2)と主張しているので、検討する。
(主張1)について、
上記2(2)にて説示したとおり、引用文献1には、超音波トランスデューサ内の音響部材間の接着強度を大幅に改善することによって、製造工程中の音響部材間の剥離をなくして、確実に接着固定して、感度、帯域の安定した、超音波特性の良好な超音波振動子の提供を行うことが記載されているから、超音波特性の良好な超音波振動子を得るために、さらに接着強度を改善しようとすることは、引用発明から十分想定できる範囲内のことである。
そして本願の段落【0100】に記載の実施例において使用されている「X-12-1154」は周知文献1~3に記載のように接着剤に含有させるシランカップリング剤としてよく使われており、周知文献4に記載のように、「X-12-1154」は、引用文献1で使用されている単官能の「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」より、同じ有機官能基であるメルカプト基を複数有する多官能であることにより「樹脂との反応点が多く、基体との密着性」が「向上」するから、引用発明において、より接着性の高い「X-12-1154」を採用することは、当業者であれば当然なし得ることである。
(主張2)について、
上記2(2)にて説示したとおり、引用文献1には、音響部材間の接着強度を大幅に改善することによって、製造工程中の剥離をなくすことができることが記載されているから、製造工程中のダイシングを行う際や洗浄時などに生じる音響部材の剥離をなくすことは、当業者が当然予測できる範囲の効果である。
また、接着剤の接着強度は接着剤自体のみに依存するものではなく、接着対象にも依存することが技術常識であるところ、本願発明は、接着対象である音響部材が特定されておらず、接着強度が増す効果があるといった旨の請求人の主張は本願発明全体で奏される効果とは認められない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の拒絶の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-013059