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特許拒絶査定不服審判

2025-011631

超音波トランスデューサ、超音波探触子、超音波診断装置および超音波トランスデューサの製造方法

審判番号
2025-011631
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-144735
請求日
2025年07月25日
審決日
2026年06月22日
公報発行日
2026年09月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】コニカミノルタ株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人鷲田国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 加々美 一恵
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 萩田 裕介
分類
P18 .121-Z (A61B) / P18 .575-Z (A61B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
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事件の表示

特願2021-144735「超音波トランスデューサ、超音波探触子、超音波診断装置および超音波トランスデューサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 3月16日出願公開、特開2023- 37904〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」という。)は、令和3年9月6日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 7年 1月23日付け 拒絶理由通知書 同年 3月13日 意見書の提出 同年 4月25日付け 拒絶査定 同年 7月25日 審判請求書・手続補正書の提出 以下では、令和7年4月25日付け拒絶査定を「原査定」という。 第2 令和7年7月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和7年7月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。 「【請求項1】 複数の音響部材が積層された積層体と、 シランカップリング剤と、接着剤と、を含む接着層と、 を有し、 前記シランカップリング剤は、一般式(1)で表される構造を有し、 前記積層体は、少なくとも音響整合層と、超音波を送受信する圧電材と、が積層されており、前記接着層は、前記圧電材と前記音響整合層とを接合する、 超音波トランスデューサ。 【化1】 [図:0001439064000001.jpg] (一般式(1)において、R1は独立して、メトキシ基またはエトキシ基であり、R2はメトキシ基、エトキシ基、または水素原子であり、Xは炭素数が連続して4以上である直鎖または分岐鎖を有する有機鎖であり、Aは反応性官能基である。)」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、本願の出願時の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 複数の音響部材が積層された積層体と、 シランカップリング剤と、接着剤と、を含み、前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる接着層と、 を有し、 前記シランカップリング剤は、一般式(1)で表される構造を有する、 超音波トランスデューサ。 【化1】 [図:0001439064000002.jpg] (一般式(1)において、R1は独立して、メトキシ基またはエトキシ基であり、R2はメトキシ基、エトキシ基、または水素原子であり、Xは炭素数が連続して4以上である直鎖または分岐鎖を有する有機鎖であり、Aは反応性官能基である。)」 2 補正の適否 上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「積層体」について、「前記積層体は、少なくとも音響整合層と、超音波を送受信する圧電材と、が積層されて」いると限定し、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「接着層」について、「前記接着層は、前記圧電材と前記音響整合層とを接合」すると限定するとともに、それに合わせて、「前記接着層は、前記圧電材と前記音響整合層とを接合」するとの事項の上位概念であって、当該事項と重複する構成となる、接着層が「前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる」との事項を削除したものである。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献 ア 引用文献1 (ア)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-284192号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。 a 「【0013】図1及び図2に示すように本実施形態の超音波振動子1は、超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2と、超音波を放射する或いは超音波を送受する超音波放射面或いは超音波送受面(単に前面とも記す)に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び前記圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面(前面に対して後面と記す)に金を設けた金電極である後面電極3bと、前記圧電素子2の前面電極3aに第1接着剤4aによって積層される圧電素子2の音響インピーダンスと生体の音響インピーダンスとの間の隔たりをなくすように音の効率を上げるエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂或いはウルテム樹脂等の樹脂層及びアルミナ入り樹脂層で厚さ寸法を、波長(λ)/4で形成した音響整合層5及び前記圧電素子2から放射された超音波を集束させて超音波ビームを出射させる集束手段となる樹脂製の音響レンズ6と、前記圧電素子2の後面電極3bに第2接着剤4bによって積層され、後方側への超音波を減衰させる例えばフェライト入りゴムで形成したバッキング材7と、前記圧電素子2,前面電極3a,後面電極3b,音響整合層5,音響レンズ6及びバッキング材7の一部のそれぞれの表面を覆う耐水性、耐薬品性に優れたパリレン(ポリパラキシリレン)等で形成した保護膜8とで主に構成されている。 【0014】前記第1接着剤4aは、エポキシ系接着剤に一般的にゴム用に最適であると推奨されている、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を1~2%混入したものである。 【0015】このシランカップリング剤を混入した第1接着剤4aを用いて圧電素子2の前面電極3aに音響整合層5を接着固定することにより、前記γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を混入したエポキシ系の接着剤、或いはシランカップリング剤を混入していないエポキシ系の接着剤を用いた接着固定に比べ、音響整合層5が圧電素子2の前面電極3aから部分的に剥離することが改善されて、確実に接着固定される。」 b 「 [図:0001439064000003.jpg] 」 (イ)引用文献1に記載された発明 上記(ア)a~bの記載事項及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2と、圧電素子2の超音波放射面に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面に金を設けた金電極である後面電極3bと、圧電素子2の前面電極3aに第1接着剤4aによって積層される音響整合層5と、音響レンズ6と、圧電素子2の後面電極3bに第2接着剤4bによって積層されるバッキング材7と、を有し、(段落【0013】) 第1接着剤4aは、エポキシ系接着剤にγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を1~2%混入したものであり、(段落【0014】) このシランカップリング剤を混入した第1接着剤4aを用いて圧電素子2の前面電極3aに音響整合層5を接着固定することにより、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を混入したエポキシ系の接着剤、或いはシランカップリング剤を混入していないエポキシ系の接着剤を用いた接着固定に比べ、音響整合層5が圧電素子2の前面電極3aから部分的に剥離することが改善されて、確実に接着固定されるようにした、(段落【0015】) 超音波振動子1。(段落【0013】)」 イ 引用文献2 (ア)引用文献2の記載 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2018/092800号(以下「引用文献2」という。)には次の記載がある。 a 「[0006] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、変性ポリオレフィン系樹脂、多官能エポキシ化合物、硬化促進剤、及びシランカップリング剤を含有する接着剤組成物を用いて形成された接着剤層は、水分遮断性及び接着強度に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。」 b 「[0015]1)接着剤組成物 本発明の接着剤組成物は、下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分 (A)成分:変性ポリオレフィン系樹脂 (B)成分:多官能エポキシ化合物 (C)成分:硬化促進剤 (D)成分:シランカップリング剤 を含有する接着剤組成物であって、上記式(1)で算出されるX値が、1.3以下であることを特徴とする。」 c 「[0046] シランカップリング剤は、一般的には、分子内に有機材料と反応結合する官能基、及び無機材料と反応結合する官能基(ハロゲン原子、アルコキシ基等)を同時に有する有機ケイ素化合物である。シランカップリング剤としては特に限定されず、従来公知のシランカップリング剤を用いることができる。なかでも、より接着力に優れる樹脂組成物が得られる観点から、下記式(2)で示されるシラン化合物が好ましい。 [0047] [化2] [図:0001439064000004.jpg] [0048] 式(2)中、R1は炭素数3以上のアルキレン基を表し、R2は炭素数1~10の1価の炭化水素基を表し、R3は炭素数1~4のアルキル基を表す。Zは反応性基を含有する基を表し、nは0又は1である。 [0049] R1で表されるアルキレン基の炭素数は、3以上であり、3~20が好ましく、4~15がより好ましい。 アルキレン基の炭素数が3以上であることで、架橋反応がより起こり易くなる。 R1で表されるアルキレン基としては、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等が挙げられる。」 (イ)引用文献2に記載された発明 上記(ア)a~cの記載事項を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。 「シランカップリング剤を含有し、水分遮断性及び接着強度に優れる接着剤組成物において、(段落[0006]、[0015]) シランカップリング剤は、従来公知のシランカップリング剤を用いることができ、なかでも、より接着力に優れる樹脂組成物が得られる観点から、下記式(2)で示されるシラン化合物が好ましく、(段落[0046]) 式(2)は、 [図:0001439064000005.jpg] であり、式(2)中、R1は炭素数3以上のアルキレン基を表し、R2は炭素数1~10の1価の炭化水素基を表し、R3は炭素数1~4のアルキル基を表し、Zは反応性基を含有する基を表し、nは0又は1であり、R1で表されるアルキレン基の炭素数は、3以上であり、4~15がより好ましく、アルキレン基の炭素数が3以上であることで、架橋反応がより起こり易くなる点。(段落[0047]、[0048]、[0049])」 ウ 技術常識を示す文献1 本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2021-126785号公報には、次の事項が記載されている。 (ア)「【0033】 接着層は、上述したブロック共重合体や樹脂の他に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤(又は老化防止剤)、シランカップリング剤、テルペン系樹脂以外の粘着付与剤、オイル成分、軟化剤、架橋剤、顔料、水素引抜型開始剤等を挙げることができる。 【0034】 酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。これら酸化防止剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。 【0035】 シランカップリング剤としては、例えば、メルカプト基を含有するメルカプト系シランカップリング剤や、エポキシ基を有するエポキシ系シランカップリング剤、ビニル基を有するビニル系シランカップリング剤等が挙げられる。これらの中でも、本発明の用途ではメルカプト系シランカップリング剤を用いることが好ましい。メルカプト系シランカップリング剤としては、例えば、メルカプトトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、トリエトキシ(2-メルカプトエチル)シラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、4-メルカプトブチルトリメトキシシラン、10-メルカプトデシルトリエトキシシラン、11-メルカプトウンデシルトリメトキシシラン、11-メルカプトウンデシルトリエトキシシランなどが例示できる。」 エ 技術常識を示す文献2 本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2021-8592号公報には、次の事項が記載されている。 (ア)「【0021】 [1.粘着剤組成物] 前記の通り、本発明の粘着剤組成物は、下記成分(A)、(B)、および(C)を含むことを特徴とする。また、例えば、前述のとおり、さらに、前記成分(D)(イソシアネート化合物)を含んでいてもよい。 (A)下記単量体(a1)~(a4)を含む単量体混合物の共重合体であって、重量平均分子量が20万~120万である、共重合体。 (a1)アルキル基の炭素数が3~12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル (a2)アルキル基の炭素数が1~2である(メタ)アクリル酸アルキルエステル (a3)水酸基を有するモノマー (a4)カルボキシ基を有するモノマー (B)金属キレート化合物 (C)シランカップリング剤」 (イ)「【0031】 [1-3.成分(C)] 本発明で用いるシランカップリング剤(成分(C))としては、特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γグリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトブチルトリメトキシシラン、およびγ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。上記シランカップリング剤(C)は、一種類のみ用いてもよいし、二種類以上併用してもよい。なかでも、エポキシ基またはメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤(C)は、例えば、本発明の粘着剤組成物の接着力を向上させる機能を有すると考えられる。シランカップリング剤(C)の含有量は、特に限定されないが、例えば、共重合体(A)100重量%に対して、0.05~2.0重量%であり、好ましくは0.1~1.5重量%である。接着力の観点から、シランカップリング剤(C)の 含有量が前記数値範囲内であることが好ましい。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「超音波振動子1」は、本件補正発明の「超音波トランスデューサ」に相当する。 引用発明において、それぞれ「超音波振動子1」を構成する部材である、「圧電素子2」と「前面電極3a」と「後面電極3b」とからなる部材、「第1接着剤4a」からなる層、「音響整合層5」、「音響レンズ6」、「第2接着剤4b」からなる層及び「バッキング材7」は、本件補正発明の「複数の音響部材」に相当し、積層された当該各部材を合わせて、本件補正発明の「積層体」に相当する。 引用発明において、「エポキシ系接着剤」、「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤」及び「第1接着剤4a」からなる層は、それぞれ、本件補正発明の「接着剤」、「シランカップリング剤」及び「接着層」に相当する。 以上より、引用発明において、「超音波振動子1」は、「平板で略円形状の圧電素子2と、圧電素子2の超音波放射面に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面に金を設けた金電極である後面電極3bと、圧電素子2の前面電極3aに第1接着剤4aによって積層される音響整合層5と、音響レンズ6と、圧電素子2の後面電極3bに第2接着剤4bによって積層されるバッキング材7と、を有し、」「第1接着剤4aは、エポキシ系接着剤にγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を1~2%混入したものであ」ることは、本件補正発明において、「超音波トランスデューサ」は、「複数の音響部材が積層された積層体と、」「シランカップリング剤と、接着剤と、を含む接着層と、」「を有し」ていることに相当する。 イ 引用発明の「音響整合層5」は、本件補正発明の「音響整合層」に相当する。 引用発明において、「超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2」が、超音波を送受信するためのものであることは、明らかである。 また、本願の発明の詳細な説明の段落【0052】には、「また、例えば、金を材料とする電極を含む圧電材と、音響整合層とを接着させる際は、上記官能基はメルカプト基であることが好ましい。」と記載されていることを参酌すれば、本件補正発明の「圧電材」は、圧電材料に加えてそれに設けた電極まで含むものを意味するといえる。よって、引用発明において、「超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2と、圧電素子2の超音波放射面に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面に金を設けた金電極である後面電極3bと」からなる部材は、本件補正発明の「超音波を送受信する圧電材」に相当する。 そうすると、「圧電素子2の前面電極3aに」「音響整合層5」を「積層」するための「第1接着剤4a」からなる層は、本件補正発明の「前記圧電材と前記音響整合層とを接合する」「前記接着層」に相当する。 以上より、引用発明において、「超音波変換素子として圧電特性を有する平板で略円形状の圧電素子2と、圧電素子2の超音波放射面に金をスパッタによって設けた金電極である前面電極3a及び圧電素子2の超音波放射面とは反対側の面に金を設けた金電極である後面電極3bと、圧電素子2の前面電極3aに第1接着剤4aによって積層される音響整合層5と」を有することは、本件補正発明において、「前記積層体は、少なくとも音響整合層と、超音波を送受信する圧電材と、が積層されており、前記接着層は、前記圧電材と前記音響整合層とを接合する」ことに相当する。 ウ γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランは、HS-(CH2)3-Si(OCH3)3の構造を有するものであって、 [図:0001439064000006.jpg] における、「A-X」がγ-メルカプトプロピル基(HS-(CH2)3)であり、「R1」及び「R2」がいずれもメトキシ基(OCH3)であり、「X」は炭素数が連続して3である直鎖を有する有機鎖であるものといえる。 よって、引用発明において、「シランカップリング剤」の「主成分」が「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」であることは、本件補正発明と、「前記シランカップリング剤は、一般式(1)で表される構造を有」するものであり、一般式(1)は、 「【化1】 [図:0001439064000007.jpg] (一般式(1)において、R1は独立して、メトキシ基またはエトキシ基であり、R2はメトキシ基、エトキシ基、または水素原子であり、Xは」「連続」する「炭素」の「直鎖または分岐鎖を有する有機鎖であり、Aは反応性官能基である。)」 である点で共通するといえる。 エ 一致点、相違点 上記ア~ウのとおりであるから、本件補正発明と引用発明とは、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「複数の音響部材が積層された積層体と、 シランカップリング剤と、接着剤と、を含む接着層と、 を有し、 前記シランカップリング剤は、一般式(1)で表される構造を有し、 前記積層体は、少なくとも音響整合層と、超音波を送受信する圧電材と、が積層されており、前記接着層は、前記圧電材と前記音響整合層とを接合する、 超音波トランスデューサ。 【化1】 [図:0001439064000008.jpg] (一般式(1)において、R1は独立して、メトキシ基またはエトキシ基であり、R2はメトキシ基、エトキシ基、または水素原子であり、Xは連続する炭素の直鎖または分岐鎖を有する有機鎖であり、Aは反応性官能基である。)」 (イ)相違点1 シランカップリング剤の一般式(1)における連続する炭素数について、本件補正発明は、「4以上」であるのに対し、引用発明では「3」である点。 (4)判断 ア 相違点1について (ア)接着剤に混ぜるシランカップリング剤において、反応性官能基とSiとの間の有機鎖の長さが異なるものについて、同様にシランカップリング剤として用いることが可能であることは、例えば技術常識を示す文献1、2に示されるように技術常識であるといえる。さらに、より具体的な接着剤に混ぜるシランカップリング剤として、反応性官能基としてメルカプト基を有するシランカップリング剤においても、反応性官能基とSiとの間の有機鎖の長さが3のメルカプトプロピルトリメトキシシランと同様に、メルカプトブチルトリメトキシシラン等の有機鎖の長さが4以上のものを用いることも、技術常識を示す文献1、2に例示されているように知られているものである。 また、引用文献2記載事項は、「より接着力に優れる樹脂組成物」における「シラン化合物」について、「アルキレン基の炭素数が3以上であることで、架橋反応がより起こり易くなる」ものであって、「R1で表されるアルキレン基の炭素数は」「4~15がより好まし」いものであるから、引用文献2記載事項は、接着剤組成物において、より接着力に優れるものとするために、「R1で表されるアルキレン基の炭素数」を「4~15」とすることが示唆されているといえる。 (イ)引用発明と引用文献2記載事項とは、接着強度に優れる接着剤組成物において、シランカップリング剤を含有させるものである点で共通するものである。 また、引用発明は、「エポキシ系接着剤にγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤」を混入させることで、「γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤を混入したエポキシ系の接着剤」「を用いた接着固定に比べ、音響整合層5が圧電素子2の前面電極3aから部分的に剥離することが改善されて、確実に接着固定されるようにした」ものであるから、接着剤に混入させるトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤として、グリシドキシ基を有するものではなく、メルカプト基を有するものを用いることを必須とするものであり、上記技術常識を参照すると、接着剤に混ぜるγ-メルカプトトリメトキシシランにおいて、炭素数が3のものも4以上のものも同等に用いられていることを鑑みると、引用発明において引用文献2記載事項の構成を適用し、「γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン」について、連続する炭素数を3から「4~15」、すなわち4以上にし、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 イ 効果について (ア)接着強度について 接着層にシランカップリング剤を設ける際に、接着剤と共に使用するシランカップリング剤の種類と接着強度等の接着性能との関係は、接着対象物の材質や表面形態、接着剤によるものであることが技術常識である。 そして、本願の発明の詳細な説明、段落【0103】~【0129】における実施例の記載においては、「接着剤」について、「C1163、株式会社テスク製、ガラス転移温度:55℃」を用いたものしか記載されていない。 よって、本願の発明の詳細な説明には、本件補正発明の「Xは炭素数が連続して4以上である直鎖または分岐鎖を有する有機鎖であ」るとの事項に関して、Xの炭素数が連続して4以上であることで接着強度が増すとの効果は、「接着剤」として、「C1163、株式会社テスク製、ガラス転移温度:55℃」を用いた場合においてのみ示されているといえる。 そして、本件補正発明は、「接着剤」として何を用いるかについて限定されていないから、発明の詳細な説明には、「接着剤」として何を用いるか限定されていない本件補正発明に関して、接着強度が増すとの効果が示されているとはいえない。 よって、本件補正発明が、Xの炭素数が連続して3である引用発明に対して、顕著な効果を有するものとはいえない。 仮に、本件補正発明がXの炭素数が連続して3である引用発明に対して有利な効果を有することが明らかであると解釈したとしても、それは本件補正発明において具体的に限定されていないものである接着剤や適用対象の材質に特有の効果ではなく、シランカップリング剤自体の種類の違いによるものといえるから、技術常識を示す文献1、2に記載されているとおり、例えばメルカプトブチルトリメトキシシラン等の、Xの炭素数が連続して4以上であるシランカップリング剤が知られている以上、当該効果も技術常識から当業者が予期し得るものであるといえる。 (イ)消毒時、洗浄時における剥離の抑制について 本願の発明の詳細な説明、段落【0130】~【0158】における実施例の記載においては、「超音波探触子の使用後に行う消毒時に起こる、音響整合層の剥離の有無(耐久性)を確認するための試験」についての記載があるが、当該記載においては、圧電材と4層整合層とを、炭素数4以上のシランカップリング剤1を含む接着剤液A1を用いて接着したものと、シランカップリング剤を含まない接着剤液0を用いて接着したものしか記載されていない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明の上記記載には、Xの炭素数が連続して3であるシランカップリング剤を用いた接着剤に対して、シランカップリング剤におけるXの連続する炭素数を4以上とすることで、消毒時、洗浄時における剥離の抑制の効果が上がることが示されているとはいえない。 よって、本件補正発明が、Xの炭素数が連続して3である引用発明に対して、顕著な効果を有するものとはいえない。 (ウ)小括 以上より、本件補正発明により奏される効果は、引用発明、引用文献2記載事項、及び技術常識から当業者が予期し得るものであり、格別顕著なものではない。 ウ 請求人の主張について (ア)請求人は、令和7年7月25日提出の審判請求書において、 「審査官殿は、 ・・・ B)対象、接着剤層を何ら特定せずに、単に特定のシランカップリング剤を用いたときには接着性が良好になるといった主旨の出願人の主張は、少なくとも請求項に基づいたものでは無いため、採用できない、 と述べている。 上記審査官殿のB)のご指摘に鑑み、出願人は、本願補正後の請求項1及び14において、接着層が、圧電材と音響整合層とを接着するものであることを特定した。 本願補正後の発明は、上記シランカップリング剤を用いた接着剤層を介して、圧電材と音響整合層とが接着されることで、圧電材と音響整合層との接着強度を高めて、音響整合層が消毒液で膨潤することにより生じる湾曲による剥離を抑制することができる(本願[0069][0071])というもので、これらは実施例でも実証されており(本願 表6)、この効果は引用文献1~5に記載も示唆もされていない有利な効果であるといえる。」 と主張しているので、検討する。 上記イ(ア)で示したとおり、接着層にシランカップリング剤を設ける際に、接着剤と共に使用するシランカップリング剤の種類と接着強度等の接着性能との関係は、接着対象物を形成する物質や表面形態、接着剤によるものであることが技術常識である。そして、接着層が、圧電材と音響整合層とを接着するものであることを特定したとしても、圧電材や音響整合層の材質や表面形態を特定することとはならないし、接着剤の種類についても特定されたものとはならないから、審判請求人の上記主張は採用できない。 (イ)また、請求人は、令和7年7月25日提出の審判請求書において、 「審査官殿は、 A)引用文献1も、引用文献2も、シランカップリング剤の技術分野であるため技術分野は共通であり、作用効果についても、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランと、γ-メルカプトブチルトリメトキシシランが、同様の効果を持つシランカップリング剤として選択肢に上げられることが、周知の技術であること鑑みれば、引用文献1のγ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを、炭素数が4以上のアルキレン基を有するシラン化合物に置き換えることは、当業者にとって、想到容易な事項である、 ・・・ と述べている。 ・・・ ここで、審査基準では、「技術分野は、適用される製品等に着目したり、原理、機構、作用、機能等に着目したりすることにより把握される」とされている。 そこで、引用文献1と引用文献2について検討すると、引用文献1は超音波探触子用の接着剤であるのに対して、引用文献2は、封止シートの水蒸気透過性を高めるための接着剤の構成に関するもので適用される製品が異なる。 また、本件の作用機構について、審査官殿も“接着性が良好か否かを問題にする場合、接着される部材自体の特性やその表面処理の状態などが関係する”と述べている。ここで、引用文献1は、音響整合層と圧電素子の電極を接着固定するものである(引用文献1の[0015])のに対し、引用文献2は、有機EL等の素子とガスバリア層等を接着するものであり(引用文献2の[0080][0104][0106])、このような全く異なる接着対象とする引用文献1と引用文献2の作用効果も同様とは言えない。また、シランカップリング剤のアルキレン基の機能について、引用文献2の[0049]に記載の通り、炭素数を3以上とすることにより架橋を促進することができるとされているが、引用文献1には、架橋を促進するという効果は記載されておらず、この点でも引用文献1と引用文献2の作用効果は同様とはいえない。よって、技術分野が引用文献1と引用文献2とで共通とはいえず、上記のように、技術分野も作用効果も異なる引用文献1と引用文献2とを組み合わせる動機づけがあるとは言えない。 また、審査官殿のA)の認定において、審査官殿は、「技術分野を問わず炭素数4~15とすることで強固に接着を行うことが広く普通に用いられた」旨、述べている。 引用文献2はあくまで(A)成分:変性ポリオレフィン系樹脂、(B)成分:多官能エポキシ化合物、及び(C)成分:硬化促進剤を含む場合において、炭素数を3以上とすることにより架橋を促進することができる(引用文献2の請求項1、[0049])と述べているにすぎず、審査官殿の言う「技術分野を問わず炭素数4~15とすることで強固に接着を行うことが広く普通に用いられた」という事情も引用文献2からは読み取れず、論理的に飛躍があり到底受け入れられるものではない。 また、審査官殿のA)の認定において、審査官殿は、「引用文献2において、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランと、γ-メルカプトブチルトリメトキシシランが、同様の効果を持つシランカップリング剤として選択肢に挙げられることが、例示するまでもない周知の技術である」と述べている。 しかしながら、このような封止シートの接着剤の分野では同様の効果を持つとされているシランカップリング剤の中でも、本願における超音波トランスデューサにおける複数の音響部材の積層体を積層することで応力が生じるという状況(本願の[0009])や、消毒液に浸漬されるという状況(本願の[0010])の下で、炭素数が4以上のアルキレン基を有するシラン化合物が特有の効果を発揮するという本願補正後の請求項1及び14に記載された発明は容易想到なものであるとはいえない。」 との主張をしているので、検討する。 引用発明と引用文献2記載事項とは、接着強度に優れる接着剤組成物において、シランカップリング剤を含有させるものである点で共通するものである。そして、接着強度を高める点については、接着対象物の種類にかかわらず接着剤を用いた接着の技術に共通する一般的な課題であるといえるから、引用発明と引用文献2記載事項とにおける接着対象物が異なることをもって、引用発明に引用文献2記載事項を適用する動機がないとはいえない。 さらに、シランカップリング剤において、反応性官能基とSiとの間の有機鎖の長さが異なるものについて、同様にシランカップリング剤として用いることが可能であることは、例えば技術常識を示す文献1、2に示されるように技術常識であり、反応性官能基としてメルカプト基を有するシランカップリング剤においても、反応性官能基とSiとの間の有機鎖の長さが3のメルカプトプロピルトリメトキシシランと同様に、メルカプトブチルトリメトキシシラン等の有機鎖の長さが4以上のものを用いることも、技術常識を示す文献1、2に例示されているように知られているものであること、及び、シランカップリング剤を用いる際に、具体的に何を用いるかは、公知のシランカップリング剤から当業者が適宜選択し得るものであることを考慮すれば、引用発明に引用文献2記載事項を適用する動機が十分にあるといえる。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 (5)小括 以上より、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~18に係る発明は、本願の出願時の特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に示した請求項1の記載により特定されるとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由1は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 具体的には、この出願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると説示している。 引用文献1:特開2003-284192号公報 引用文献2:国際公開第2018/092800号 3 引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、2の記載事項、引用文献1に記載された発明(引用発明)、引用文献2に記載された事項(引用文献2記載事項)及び技術常識は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 (1)本願発明は、上記第2の[理由]2で独立特許要件の検討をした本件補正発明において、「前記積層体は、少なくとも音響整合層と、超音波を送受信する圧電材と、が積層されて」いるとの発明特定事項を削除するとともに、「前記接着層は、前記圧電材と前記音響整合層とを接合」するとの発明特定事項を削除し、当該削除した発明特定事項を上位概念化したものである、接着層が「前記複数の音響部材のうち、任意の2つの前記音響部材を接合させる」との事項を追加したものである。 (2)本願発明と引用発明との対比は、上記第2の[理由]2(3)で示したとおりである。 そして、本願発明は、補正発明から上記(1)で示したとおり、本件補正発明における発明特定事項を削除あるいは上位概念化し、本件補正発明から実質的に拡張したものであるから、上記第2の[理由]2(4)で検討したのと同様の理由により、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2025-011631

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