特許異議申立
2016-700838
混和蒸留酒
- 審判番号
- 2016-700838
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-125302外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年09月08日
- 審決日
- 2017年08月29日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小野 新次郎
- 【権利者代理人】山本 修
- 【異議申立人】大隅 庸平
- 分類
- P1651.113-YAA(C12G) / P1651.121-YAA(C12G) / P1651.537-YAA(C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5878306号発明「混和蒸留酒」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5878306号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第5878306号の請求項1,3及び4に係る特許を維持する。
特許第5878306号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5878306号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は,平成28年2月5日付けでその特許権の設定登録がされた。
そして,平成28年9月8日に特許異議申立人大隅庸平より全請求項に対して特許異議の申立てがされ,その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成28年10月26日 取消理由通知
平成28年12月27日 意見書提出(特許権者)
〃 訂正請求書提出(特許権者)
平成29年 1月27日 訂正拒絶理由通知
平成29年 3月 3日 意見書提出(特許権者)
平成29年 3月29日 取消理由通知(決定の予告)
平成29年 5月25日 意見書提出(特許権者)
〃 訂正請求書提出(特許権者)
平成29年 7月 7日 意見書提出(異議申立人)
なお,平成28年12月27日に提出された訂正請求書による訂正請求については,特許法第120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者が平成29年5月25日に提出した訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また,本件訂正請求書による訂正を以下「本件訂正」という。)における請求の趣旨は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,一群の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり,その内容は,本件訂正請求書によれば,それぞれ次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
パルミチン酸エチルを含有し,さらにリノレン酸エチル,オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,
高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である,混和蒸留酒。」
とあるのを,
「【請求項1】
パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,
高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である,混和蒸留酒。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件特許の特許請求の範囲の請求項3に
「【請求項3】
前記混和蒸留酒が麦焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である,請求項1または2記載の混和蒸留酒。」
とあるのを,
「【請求項3】
前記混和蒸留酒が麦焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。」
と訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許の特許請求の範囲の請求項4に
「【請求項4】
前記混和蒸留酒が芋焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である,請求項1または2記載の混和蒸留酒。」
とあるのを,
「【請求項4】
前記混和蒸留酒が芋焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。」
と訂正する。
(5)訂正事項5
本件特許明細書の【0032】の【表1】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正する。
(6)訂正事項6
本件特許明細書の【0036】の【表2】及び【0037】の【表3】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正する。
(7)訂正事項7
本件特許明細書の【0043】の【表4】及び【0046】の【表6】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正する。
2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1の選択的事項の一つであった「リノレン酸エチル」を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。
(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4はいずれも,訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い,それと整合させるように訂正前の請求項3及び4において訂正前の請求項2を引用することを削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,これらは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。
(4)訂正事項5について
訂正事項5は,本件特許明細書の【0032】の【表1】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正するものであるところ,上記【表1】は,「油性成分中の高級脂肪酸エステル組成」を示すものであり,これは,同【0028】及び【0029】に記載される実施例1で製造した麦焼酎及び芋焼酎に対して,実施例2として同【0030】及び【0031】で示される手順に従って油性成分を回収・分析した結果である。
そして,上記実施例1のような定法に従って製造された麦焼酎及び芋焼酎の油性成分中に,高級脂肪酸エステルとしてリノレン酸エチルがほとんど含まれないことは技術常識であり,また,上記【表1】には,リノレン酸エチル以外に,パルミチン酸エチル,オレイン酸エチル,ステアリン酸エチルが示されているが,これら3つの高級脂肪酸エステル以外に,16.4重量%(芋焼酎由来),18.5重量%(麦焼酎由来)もの含有量となる高級脂肪酸エステルは,リノール酸エチル以外あり得ないことも当業者にとって明らかである。(甲第2,4,16及び19号参照。)
よって,訂正事項5は,誤記の訂正を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。
(5)訂正事項6について
訂正事項6は,本件特許明細書の【0036】の【表2】及び【0037】の【表3】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正するものであるところ,上記【表2】及び【表3】はそれぞれ,「甲乙混和麦焼酎の高級脂肪酸エステル濃度」,「甲乙混和芋焼酎の高級脂肪酸エステル濃度」を示すものであり,これらは,市販の甲乙混和麦焼酎及び甲乙混和芋焼酎の高級脂肪酸エステルの濃度を分析した結果である。
そして,上記「(4)訂正事項5について」で示したように,通常の麦焼酎及び芋焼酎に高級脂肪酸エステルとして含有されるのは,リノレン酸エチルではなく,リノール酸エチルであることは技術常識であり,濃度分析の技術的意義からしても,また,上記訂正事項5で訂正される【表1】との整合からしても,【表2】及び【表3】のリノレン酸エチルが誤りで,正しくはリノール酸エチルであることは当業者にとって明らかである。
よって,訂正事項6は,誤記の訂正を目的とするものである。そして,これらは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。
(6)訂正事項7について
訂正事項7は,本件特許明細書の【0043】の【表4】及び【0046】の【表6】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正するものであるところ,上記【表4】及び【表6】はそれぞれ,「甲乙混和麦焼酎における油性成分添加試験(測定結果)」,「甲乙混和芋焼酎における油性成分添加試験(測定結果)」を示すものであり,これらは,同【0030】~【0032】に示される実施例2で得られた油性成分を,甲乙混和麦焼酎,甲乙混和芋焼酎に添加し濃度を測定した結果である。
そして,上記「(4)訂正事項5について」で示したように,上記実施例2で得られた油性成分中に高級脂肪酸エステルとして含まれるのは,リノレン酸エチルではなく,リノール酸エチルであるから,【表4】及び【表6】のリノレン酸エチルが誤りで,正しくはリノール酸エチルであることは当業者にとって明らかである。
よって,訂正事項7は,誤記の訂正を目的とするものである。そして,これらは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。
(7)訂正事項1~7は,訂正前の請求項1~4からなる一群の請求項に対してなされたものである。
3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求の訂正事項1及び2は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を,同訂正事項3及び4は,同項ただし書第3号に掲げる事項を,また,同訂正事項5~7は,同項ただし書第2号に掲げる事項を,それぞれ目的とするものであり,かつ,同訂正事項1~7は,同条第4項,及び同条第9項で準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから,請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」等という。また,本件発明1,3,4をまとめて「本件発明」という。)は,請求項1~4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,
高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である,混和蒸留酒。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記混和蒸留酒が麦焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。
【請求項4】
前記混和蒸留酒が芋焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対し,平成29年3月29日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
本件特許の請求項1において「リノレン酸エチル」を選択した発明,及び,本件特許の請求項2に係る発明は,課題を解決することができる発明として,発明の詳細な説明に記載されていない。また,これは,本件特許の請求項1,2に係る発明を直接ないし間接に引用する請求項3,4に係る発明についても同様である。
よって,本件特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。
2 取消理由についての判断
上記取消理由について検討するに,上記訂正事項1により請求項1から「リノレン酸エチル」が削除され,また,上記訂正事項2により請求項2が削除された。
そうすると,本件発明は,「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有」することを発明特定事項とするものの,「リノレン酸エチル」を含有することについては発明特定事項としないものである。
そして,「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有」することを発明特定事項とする本件発明は,課題を解決することができる発明として,発明の詳細な説明に記載されている。
よって,本件発明に係る特許は,上記取消理由によって取り消されるべきものであるとすることはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 採用しなかった申立理由の概要
平成29年3月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由の概要は,次のとおりである。(各甲号証については,以下の「甲号証一覧」を参照のこと。)
(1)申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1,2,及び4に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから,また,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない
(2)申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて,本件特許の請求項1,3及び4に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第10号証に記載された発明に基いて,また,本件特許の請求項1~4に係る発明は,日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1で「リノレン酸エチル」を選択した場合の混和蒸留酒,及び,本件特許の請求項2の「リノレン酸エチル」を必ず含む混和蒸留酒について,発明の詳細な説明は,当業者が実施することができる程度に記載されていないから,本件特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(4)申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1,2の「リノレン酸エチル」は,真にリノレン酸エチルを意図してものであるのか,リノール酸エチルを意図したものであるのか明確でないから,本件特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
<甲号証一覧>
甲第1号証 特開2010-207217号公報
甲第2号証 醸造成分・本格焼酎 第2章 製品成分,日本醸造協会雑誌,第72巻,第6号,p.415-432,昭和52年度
甲第3号証 J.Soc.Brew.Japan,1971年,Vol.66,No.2,p.173-175
甲第4号証 焼酎の色,日本醸造協会雑誌,第75巻,第5号,p.371-374,昭和55年度
甲第5号証 朝日新聞,2009年6月11日朝刊,p.15
甲第6号証 J.Brew.Soc.Japan,Vol.80,No.6,p.415-417,1985年
甲第7号証 特開平11-196851号公報
甲第8号証 2005年11月15日付けサントリー株式会社ニュースリリースのウェブページの出力物,http://www.suntory.co.jp/news/2005/9302.html
甲第9号証 本格焼酎製造技術,財団法人日本醸造協会,平成3年12月10日発行,p.236-241
甲第10号証 特開昭58-158174号公報
甲第11号証 日本醸造協会雑誌,第47巻,第7号,p.334-332,昭和27年度
甲第12号証 特開平6-153898号公報
甲第13号証 特開平9-299075号公報
甲第14号証 日経産業新聞,2005年8月25日,018頁
甲第15号証 日本食糧新聞,2001年9月3日,第3面
甲第16号証 本格焼酎・泡盛,第II編,技術者養成研修基礎過程テキスト,日本酒造組合中央会,p.68,平成3年8月
甲第17号証 特開平8-116958号公報
甲第18号証 特開昭58-126779号公報
甲第19号証 旧式しょうちゅうの工業的製造について,日本醸造協会雑誌,第61巻,第8号,p.663-666,昭和41年度
2 当審の判断
(1)申立理由1(新規性)について
甲第1号証記載の発明(以下「甲1発明」という。)及び甲第6号証記載の発明(以下「甲6発明」という。)と,本件発明1とを対比すると,甲1発明及び甲6発明はいずれも,少なくとも,本件発明1の「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である」という事項に相当する事項を備えていない点で,本件発明1と相違する。
そして,甲1発明又は甲6発明をして,上記相違点に係る事項を備えることが自明であるとか技術常識であるという証拠は,特許異議申立人が提示した全甲号証を参酌しても見出せない。
したがって,本件発明1は,甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明とは認められない。また,本件発明4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明とは認められない。
よって,上記申立理由1によって本件発明1及び4に係る特許を取り消されるべきものであるとすることはできない。
なお,特許異議申立人は,特許異議申立書の「ウ 無効理由1」及び「エ 無効理由2-1」や,平成29年7月7日に提出した意見書において,甲第2号証ないし甲第4号証に記載される鑑評会出品酒である本格焼酎の高級脂肪酸エチル含量を根拠に,甲1発明や甲6発明においても上記相違点に係る事項を備える蓋然性が高い旨主張している。
特許異議申立人が述べるように,たしかに甲第2号証ないし甲第4号証には,例えば,パルミテート(パルミチン酸エチル)1.2ppm,オレート(オレイン酸エチル)0.7ppm,リノレート(リノール酸エチル)1.3ppmを含有する米焼酎や,パルミテート5.4ppm,オレート2.0ppm,リノレート1.5ppmを含有する芋焼酎や,パルミテート1.8ppm,オレート0.9ppm,リノレート2.0ppmを含有する芋焼酎が開示されている。
しかしながら,甲第2号証ないし甲第4号証に記載される本格焼酎はいずれも鑑評会出品酒であり,当然に鑑評会への出品に適したある特定の本格焼酎であるところ,上記芋焼酎等の高級脂肪酸エチルの含量は,鑑評会に実際に出品された特定の本格焼酎のものである。そして,この特定の本格焼酎の高級脂肪酸エチルの含量が,一般的な本格焼酎(単式蒸留酒)におけるそれと同程度であるという証拠は,特許異議申立人が提示した全甲号証を参酌しても見出せない。
したがって,甲第2号証ないし甲第4号証を踏まえても,甲第1号証の甲類乙類混和焼酎を作成するのに用いる「一般的な乙類芋焼酎製品A」(【0064】)に,高級脂肪酸エチルが含まれているとは必ずしもいえず,甲1発明が上記相違点に係る事項を備える蓋然性が高いとは認められない。これは,甲6発明についても同様である。
(2)申立理由2(進歩性)について
上記(1)でも示したように,甲6発明は少なくとも,「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である」という事項に相当する事項を備えていない点で,本件発明1と相違する。
そして,特許異議申立人は,上記相違点については,甲6発明と甲第7号証,甲第10号証又は甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に想到し得た旨主張しているので,以下検討する。
ア 甲6発明と甲第7号証記載の技術的事項とに基づく進歩性について
甲第7号証には,呈味成分でもある油性成分を高濃度で安定させた濁り焼酎を提供するために,乙類焼酎から分離された油性成分を5~10分間かけて超音波処理し,処理後の油性成分を焼酎に添加すること,及び,当該油性成分にパルミチン酸エステル,リノール酸エチルなどの高級脂肪酸エステルが含有されることが記載されている。(特許異議申立書の「オ 無効理由2-2」の「○4(○の中に数字の4が入った記号を示す。以下同様)」参照。)
そして,特許異議申立人は,上記記載事項によれば,当業者は,パルミチン酸エチル等を含有する油性成分を添加することにより,乙類焼酎を濃醇にすることをにすることを認識でき,甲第8号証や甲第5号証の記載から,混和蒸留酒に使用される乙類焼酎には原料由来の特有の風味が求められていたといえるから,甲6発明に甲第7号証に記載された濁り焼酎を用いることは,当業者にとって容易である旨主張している。(特許異議申立書の「オ 無効理由2-2」の「○4」~「○7」参照。)
しかしながら,甲第7号証は,上述のように,濁り焼酎に係る事項を示すものである。そして,甲類乙類混和製品において,濁り焼酎を用いることがあることについて,特許異議申立人は何ら証拠を示しておらず,甲6発明の甲類乙類混和製品に,甲第7号証の濁り焼酎に係る上記事項を適用する動機付けは認められない。
さらに,甲第8号証は,「やわらか芋焼酎 はないも」という特定の製品の新発売のニュースリリースに係るものであり,その「原料由来の特有の風味をもつ乙類焼酎とすっきりとした味わいが特長の甲類焼酎をブレンドした“焼酎甲類乙類混和”の人気が高まっています。」という記載は,一般的な甲類乙類混和焼酎の特徴を示したものにすぎず,甲6発明の甲類乙類混和製品において,乙類焼酎の原料由来の特有の風味をさらに向上させるという課題があることを示唆するものとはいえない。したがって,甲第8号証を参酌しても,甲6発明に甲第7号証記載の上記技術的事項を適用する動機付けは認められない。これは,甲第5号証についても同様である。
よって,特許異議申立人の上記主張は採用できず,本件発明1は,甲6発明と甲第7号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。また,本件発明3及び4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲6発明と甲第7号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
イ 甲6発明と甲第10号証記載の技術的事項とに基づく進歩性について
甲第10号証には,風味多様な古酒焼酎を得るために,乙類焼酎からろ過により分離される油性成分を,分解及びエステル化した上で,油性成分を除去した乙類焼酎に添加すること,及び,その添加は,パルミチン酸エチル,ステアリン酸エチル及びオレイン酸エチルを含む画分を2~5%程度の添加量で使用することが記載されている。(特許異議申立書の「カ 無効理由2-3」の「○2」参照)
そして,特許異議申立人は,当業者は,甲第8号証や甲第5号証の記載から,混和蒸留酒に使用される乙類焼酎には風味に富んでいることがことが求められていたことを認識できるから,上記記載事項を踏まえれば,甲6発明に甲第10号証に記載された古酒と同種類の香味を有する焼酎,すなわち,パルミチン酸エチル等を含む焼酎を用いることは,当業者にとって容易である旨主張している。(特許異議申立書の「カ 無効理由2-3」の「○2」~「○4」参照。)
しかしながら,甲第10号証は,上述のように,古酒に係る事項を示すものであり,古酒を離れてパルミチン酸エチル等を含む乙類焼酎一般を示唆するものではない。そして,甲類乙類混和製品において,古酒を用いることがあることについて,特許異議申立人は何ら証拠を示しておらず,甲6発明の甲類乙類混和製品に,甲第10号証の古酒に係る上記事項を適用する動機付けは認められない。
さらに,甲第8号証や甲第5号証を参酌しても,甲6発明に甲第10号証記載の上記技術的事項を適用する動機付けが認められないことは,上記アで示したのと同様である。
よって,特許異議申立人の上記主張は採用できず,本件発明1は,甲6発明と甲第10号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。また,本件発明3及び4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲6発明と甲第10号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
ウ 甲6発明と甲第9号証記載の技術的事項とに基づく進歩性について
甲第9号証には,焼酎製品中には原料に由来する油性物質が含有され,その大部分はパルミチン酸,オレイン酸及びリノール酸の各エチルエステルであること,焼酎中の油性物質は製品に対して悪影響を及ぼす場合もあるが,一方で,幅,丸味を与える効果があり,その除去の程度については,品質設計等を考慮する必要があること,移し替え法では,過度の処理を行っていないため原料特有の風味が残って白濁し,ろ過法ではろ過の程度により除去される油性物質の量が違いが,軽いろ過を採用すると原料の風味が残ること,及び,ろ過法において,完全に油性物質を除去すると,味が荒くなり,焼酎の特性が失われやすくなることが記載されている。(特許異議申立書の「キ 無効理由2-4」の「○2」参照。)
そして,特許異議申立人は,当業者は,上記記載事項によれば,原料風味を残すためには,完全に油性物質を除去するのではなく,移し替え法を採用するか,又は,ろ過の程度を軽くし,パルミチン酸エチル等を含有する油性物質を残せばよいことを理解でき,甲第8号証や甲第5号証の記載から,混和蒸留酒に用いる乙類焼酎として,原料由来の特有の風味を持つ焼酎を使用する動機付けを得る旨主張している。(特許異議申立書の「キ 無効理由2-4」の「○2」~「○4」参照。)
しかしながら,甲第9号証は,上述のように,乙類焼酎の油性成分について知られている知見を示すものであり,実際に甲第9号証に示される油性成分を含む乙類焼酎が一般的であることや,甲類乙類混和製品で用いる乙類焼酎としてそのような油性成分を含む乙類焼酎をそのまま使用することがあることについて,特許異議申立人は何ら証拠を示していない。
さらに,甲第8号証や甲第5号証を参酌しても,甲6発明に甲第9号証記載の上記技術的事項を適用する動機付けが認められないことは,上記アで示したのと同様である。
よって,特許異議申立人の上記主張は採用できず,本件発明1は,甲6発明と甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。また,本件発明3及び4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲6発明と甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
エ 小括
以上より,本件発明1,3及び4は,甲6発明と甲第7号証,甲第10号証又は甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないので,上記申立理由2によってこれらの発明に係る特許は取り消されるべきものであるとすることはできない。
(3)申立理由3(実施可能要件)及び申立理由4(明確性要件)について
申立理由3及び4はいずれも,訂正前の請求項1及び2に記載される「リノレン酸エチル」を記載不備の原因とするものであるが,本件訂正請求の訂正事項1により,本件特許の請求項1から「リノレン酸エチル」が削除され,また,同訂正事項2により,本件特許の請求項2が削除された。
よって,本件発明に係る特許は,上記申立理由3又は4によって取り消されるべきものであるとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから,平成29年3月29日付けで通知した取消理由に記載した取消理由,及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,請求項1,3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1,3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,上記第2のとおり本件訂正が認められることにより,請求項2は削除され,その特許に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,本件特許の請求項2に対しての特許異議の申立ては不適法であって,その補正をすることができないものであるから,特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
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2016-700838