特許異議申立
2024-700043
柑橘風味飲料および柑橘風味飲料の香味向上方法
- 審判番号
- 2024-700043
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-208116
- 登録番号
- 7313531
- 請求日
- 2024年01月22日
- 審決日
- 2024年11月29日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】副島 朋子
- 【異議申立人】田中 亜実
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-YAA(C12G) / P1651.121-YAA(C12G) / P1651.537-YAA(C12G) / P1651.536-YAA(C12G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7313531号発明「柑橘風味飲料および柑橘風味飲料の香味向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7313531号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8、10~12、14、15〕、9、13、16、17、18、19について訂正することを認める。
特許第7313531号の請求項1、2、4~17に係る特許を維持する。
特許第7313531号の請求項3、18、19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7313531号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~19に係る特許についての出願は、令和4年12月26日の出願であって、令和5年7月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和6年1月22日に特許異議申立人副島朋子(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされ、同年同月24日に特許異議申立人田中亜実(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされたものである。
以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年2月19日付け:手続補正指令書(方式)(申立人Aに対して)
同年同月 同日付け:手続補正指令書(方式)(申立人Bに対して)
同年同月27日 :特許異議申立書の手続補正書
(方式)(申立人A)
同年同月28日 :特許異議申立書及び証拠説明書の手続補正書
(方式)(申立人B)
同年5月23日付け:取消理由通知
同年7月29日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
同年8月 8日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年9月11日 :意見書(申立人A)
なお、令和6年8月8日付け訂正請求があった旨の通知に対し、申立人Bからは何ら応答がなかった。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
令和6年7月29日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7313531号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕、〔16〕、〔17〕、〔18〕および〔19〕について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
エキス分が0.5~10質量/体積%であり」と記載されているのを、
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10、11、14、15も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
エキス分が0.5~10質量/体積%であり」と記載されているのを、
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり」に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10、12、14、15も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「柑橘果汁の含有量が0~20質量%である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料」と記載されているのを、
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「クエン酸酸度が0.20~0.90g/100mlである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料」と記載されているのを、
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%であり、クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlである、アルコールを含有する柑橘風味飲料」に訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項16に
「エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料の製造方法であって」と記載されているのを、
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料の製造方法であって」に訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項17に
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
エキス分が0.5~10質量/体積%であり」と記載されているのを、
「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項18を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項19を削除する。
なお、訂正事項1~5に係る訂正前の請求項1~15について、請求項3~15は請求項1又は2を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正により対応する訂正後の請求項1~15に訂正される。また、訂正事項6~9はそれぞれいずれも独立形式である請求項16~19を訂正するものである。よって、本件訂正は一群の請求項をなす請求項1~15と、請求項16、請求項17、請求項18、請求項19を訂正の単位として請求されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されていた発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0009]、[0024]及び[0032]等の記載に基づいて「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」及び「柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10、11、14、15の訂正も同様である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に記載されていた発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0009]、[0024]及び[0045]等の記載に基づいて「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」及び「クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10、12、14、15の訂正も同様である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項9が請求項1又は2を引用していたところ、請求項1及び2との引用関係をいずれも解消し、訂正前の請求項2の発明特定事項に基づいて請求項9を独立形式に書き改め、さらに、本件訂正前の請求項9に記載されていた柑橘果汁の含有量「0~20質量%」を、願書に添付した明細書の[0032]の記載に基づいて「0~2.0質量%」に訂正し、加えて、願書に添付した明細書の[0009]及び[0024]等の記載に基づいて「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」という発明特定事項を本件訂正前の請求項9及び2に記載されていた発明特定事項に直列的に付加することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項4は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項13が請求項1又は2を引用していたところ、請求項1及び2との引用関係をいずれも解消し、訂正前の請求項1の発明特定事項に基づいて請求項13を独立形式に書き改め、さらに、本件訂正前の請求項13に記載されていたクエン酸酸度「0.20~0.90g/100ml」を、願書に添付した明細書の[0045]の記載に基づいて「0.30~0.85g/100ml」に訂正し、加えて、願書に添付した明細書の[0009]及び[0024]等の記載に基づいて「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」という発明特定事項を本件訂正前の請求項13及び1に記載されていた発明特定事項に直列的に付加することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項5は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
カ 訂正事項6について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項16に記載されていた発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0012]、[0009]及び[0032]等の記載に基づいて「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、」、「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」及び「柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
キ 訂正事項7について
訂正事項7は、本件訂正前の請求項17に記載されていた発明特定事項に、願書に添付した明細書の[0009]及び[0045]等の記載に基づいて「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」及び「クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ク 訂正事項8及び9について
訂正事項8及び9は、それぞれ請求項18及び19を削除する訂正であるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項8及び9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項8及び9は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~19に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1~15に係る訂正事項1~5、及び訂正前の請求項16、17、18又は19に係る訂正事項6~9については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、特許権者は、訂正が認められる場合には、請求項9、13について、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8、10~12、14、15〕、9、13、16、17、18、19について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明19」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料。
[請求項2]
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料。
[請求項3](削除)
[請求項4]
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記リモニン含有量(ppb)が0.00001~3である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項5]
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記ノミリン含有量(ppb)が0.00001~3である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項6]
前記リモニンの含有量が0.1~10000ppbである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項7]
前記ノミリンの含有量が0.1~10000ppbである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項8]
前記酢酸ネリルの含有量が0.01~3.0ppmである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項9]
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料。
[請求項10]
果実フレーバーを含む、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項11]
炭酸ガスを含む、請求項1に記載の柑橘風味飲料。
[請求項12]
アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、請求項2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項13]
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%であり、クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlである、アルコールを含有する柑橘風味飲料。
[請求項14]
容器詰め飲料である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項15]
レモン風味飲料である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
[請求項16]
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料の製造方法であって、
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を添加して飲料を調製する工程を含む、柑橘風味飲料の製造方法。
[請求項17]
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、
クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料の製造方法であって、
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を添加して飲料を調製する工程を含む、柑橘風味飲料の製造方法。
[請求項18](削除)
[請求項19](削除)」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由
1.申立人A
申立人Aは、令和6年1月22日に特許異議申立書及び証拠方法として下記(4)に示す甲第1号証~甲第7号証(以下、申立人Aが提出した甲第1号証~甲第7号証を、それぞれ「甲1A」~「甲7A」のようにいう。)を提出し、概略、以下の(1)~(3)の特許異議申立理由を主張している。
また、申立人Aは、令和6年9月11日に意見書及び証拠方法として下記(4)に示す甲第8号証(以下、申立人Aが提出した甲第8号証を「甲8A」のようにいう。)を提出し、主張を補充している。
申立理由の番号は当審が仮に付与した。
(1)申立理由1A(甲1Aに基づく新規性欠如)
本件発明1~13、15~19は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(甲2A~甲7A参照)。
(2)申立理由2A(甲1Aに基づく進歩性欠如)
本件発明1~19は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3A(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明16~19についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである(甲8A参照)。
本件特許の実施例では、柑橘風味飲料(レモン風味飲料)を製造するにあたり、並びに、柑橘風味飲料に対するリモニン、ノミリン、又は酢酸ネリルを添加することの効果を調べるにあたり、単離精製されたリモニン、ノミリン、又は酢酸ネリル(すなわち純品)を使用している(段落[0065])。換言すれば、リモニン等の純品を用いずに柑橘果汁を添加してリモニン等の含有量を増強する実験は行っていない。
ここで、レモン果汁等の柑橘果汁にはリモニン等以外の多種の香気成分も含まれるから、リモニン等の含有量を増強するにあたり、リモニン等の純品を用いた場合と、柑橘果汁を用いた場合とでは、その効果は当然異なる。そして、柑橘果汁がリモニン等以外の多種の香気成分も含むことから、柑橘果汁を用いた場合には他の香気成分の影響を排除できず、純品を用いた場合と同じ効果は得られないと考えられる。
そうすると、添加するリモニン等を香料として別途添加されたものに限定していない本件発明16~19は、明細書等に記載されていない発明を含むことになる。
(4)証拠方法
甲1A:特開2000-350571号公報
甲2A:三沢豊,松原良,土井信明,"柑橘類苦味成分リモニンおよびノミリンの定量に関する研究",日本食品工業学会誌,日本食品工業学会,1971年7月,第18巻,第7号,p.326-332
甲3A:GIANNA ALLEGRONE,FLAVIO BELLIARDO,AND PAOLO CABELLA,"Comparison of Volatile Concentrations in Hand-Squeezed Juices of Four Different Lemon Varieties",Journal of Agricultural and Food Chemistry, American Chemical Society,2006年,vol.54,No.5,p.1844-1848
甲4A:宮岡俊輔,"柑橘の香気成分を活かした蒸留酒の製造",日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会・日本醸造学会,2014年9月15日,第109巻,第9号,p.651-656
甲5A:VERSARI ANDREA,NATALI NADIA,RUSSO MARIA TERESA,AND ANTONELLI ANDREA,"Analysis of Some Italian Lemon Liquors (Limoncello)",Journal of Agricultural and Food Chemistry, American Chemical Society,2003年,vol.51,No.17,p.4978-4983
甲6A:P. DUGO,M. RUSSO,L. MONNDELLO,GIACOMO DUGO,S. POSTORINO,and A. CARNACINI,"CHEMICAL AND PHYSICO-CHEMICAL PARAMETERS AND COMPOSITION OF THE AROMATIC FRACTION OF LIMONCELLO",Italian Journal of Food Science,Codon Publications,2000年,vol.12,No.3,p.343-351
甲7A:化学大辞典編集委員会編,"化学大辞典3",初版第2刷,共立出版株式会社,昭和37年6月25日,p.21-22
甲8A:特願2022-208116号の審査において令和5年4月20に提出された意見書
証拠の表記は当審による。
2.申立人B
申立人Bは、証拠方法として下記(3)に示す甲第1号証~甲第5号証(以下、申立人Bが提出した甲第1号証~甲第5号証を、それぞれ「甲1B」~「甲5B」のようにいう。)を提出し、概略、以下の(1)及び(2)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。
(1)申立理由1B(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~19についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2B(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~19についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(以下、理由1B及び理由2Bについて)
ア 実施例による実証について
本件発明の課題は[0006]、解決手段は[0007]に説明されている。しかし、酢酸ネリルを組み合わせることによる苦味軽減効果は従来(例:甲5B)知られておらず、効果を発揮する作用機構は本件明細書に記載されておらず、技術常識に照らしても理解することができないから、本件発明が所望の効果を発揮することは実施例により実証されない限り当業者であっても理解不可能である。
本件明細書の実施例において発明の効果が示されているのは、リモニンの含有量が1~5000ppb、ノミリンの含有量が1~3000ppb、酢酸ネリルの含有量が0.05~3ppmであり、エキス分が4.5質量/体積%であり、アルコール濃度が5~9体積/体積%である、アルコールを含有するレモン果汁含有飲料だけであり、当該飲料以外の本件発明によりカバーされる範囲については発明の効果を把握することができず、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないし、本件特許の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たしていない。
イ リモニン、ノミリン、酢酸ネリルの含有量について
リモニン、ノミリンが、柑橘類加工において問題とされる苦味成分であることは技術常識であり(甲2B、甲3B-2、甲5B)、これら苦味成分の含有量に依存して、飲料の苦味、酸味及び雑味に影響を与え得ることは当業者にとって明らかである。そうすると、リモニン、ノミリンの飲料中の含有量を規定しない本件発明1及び2が、これら成分の含有量に依存せずに課題を解決できることについて、技術常識に照らしても当業者は理解することができない。
また、酢酸ネリルの含有量を規定しない本件発明1及び2が、この有効成分の含有量に依存せず、 かつ、苦味成分であるリモニン、ノミリンの飲料中の含有量に依存せずに課題を解決できることについて、技術常識に照らしても当業者は理解することができない。
よって、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明において効果を奏することが記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。本件発明3~19も同様である。
また、本件明細書は、本件発明1及び2の全範囲について当業者が実施できるように記載されていない。本件発明3~19も同様である。
ウ エキス分について
本件明細書の実施例及び比較例の飲料はすべてエキス分が4.5%であり、本件発明1、2、16~19において規定するエキス分の数値範囲のうち、ただ1点についてしか本件特許発明の課題解決が実証されていない。
また、実施例及び比較例において使用する飲料の材料のうち、エキス分である不揮発性成分に相当するのは果糖ぶどう糖液糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、レモン透明濃縮果汁であり、このうち果糖ぶどう糖液糖はその甘味により酸味や雑味をマスキングする効果があることは技術常識であり、また、レモン果汁は飲料中の含有量に依存して飲料の酸味を強くすることは自明であるから、果糖ぶどう糖液糖やレモン果汁の含有量に応じて、エキス分が0.5~10質量/体積%の範囲で変動した場合に、「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できる」という本件発明の効果([0010]) に重大な影響を及ぼす蓋然性が極めて高いことは明らかである。
以上のことから、 本件発明においてエキス分の含有量を規定していることの技術的意義が不明であり、 寧ろ酸味に対して大きく影響し得る果糖ぶどう糖液糖やレモン果汁の含有量を規定すべきであると考えられるが、少なくとも、エキス分の含有量が4.5%以外である場合にも本件発明の効果を奏することを技術常識からは理解することができない。
よって、本件発明1、2、16~19は、発明の詳細な説明において効果を奏することが記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。本件発明3~15も同様である。
また、本件明細書は、本件発明1、2、16~19の全範囲について当業者が実施できるようには記載されていない。本件発明3~15についても同様である。
エ 果汁について
本件発明は任意に果汁を含んでもよく、柑橘の果汁が種々の成分を含んでいることは技術常識である(甲2B、甲5B、甲4B)から、本件発明に規定するリモニン、ノミリン、酢酸ネリル以外の種々の成分による影響が見込まれる。しかし、本件明細書の実施例は、リモニン、ノミリン、酢酸ネリル以外の成分については何ら検討していないから、ナリンギンをはじめとするさらなる苦味物質や、酸味・雑味に影響する成分を含む場合にも、「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できる」という本発明の効果を奏することは何ら実証されておらず、当業者の技術常識に基づいて理解することができない。
よって、本件発明1~19は、発明の詳細な説明において効果を奏することが記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。
また、リモニン、ノミリン、酢酸ネリルについて、飲料中の含有量のうちレモン果汁由来の量がどのくらいであり、その量をどのように特定したうえで、さらに別途添加して規定の含有量としているのかについて、本件特許明細書には何ら記載されていないし、技術常識に照らしても当業者は理解することができない。よって、本件明細書は、本件発明1~19について当業者が実施できるようには記載されていない。
(3)証拠方法
甲1B:前田久夫,"樹脂吸着法によるカンキツ果汁成分の調節と品質改善",日本食品工業学会誌,日本食品工業学会,1987年7月,第34巻,第7号,p.489-497
甲2B:三沢豊,松原良,土井信明,"柑橘類苦味成分リモニンおよびノミリンの定量に関する研究",日本食品工業学会誌,日本食品工業学会,1971年7月,第18巻,第7号,p.326-332
甲3B-1:兵庫県立農林水産技術総合センター,"ひょうごの農林水産技術 農業編-No.107-",記事表題ページ,[online],2000年1月,兵庫県立農林水産技術総合センター,[2024年1月15日検索],インターネット<URL:https://hyogo-nourinsuisangc.jp/刊行物/no-107/>
甲3B-2:兵庫県立農林水産技術総合センター,"4 ユズ果実の部位別成分が果樹成分に及ぼす影響",ひょうごの農業技術,[online],2000年1月,兵庫県立農林水産技術総合センター,No.107,p.5,[2024年1月15日検索],インターネット<URL:https://hyogo-nourinsuisangc.jp/archive/3-k_seika/hygnogyo/107/107-04.pdf>
甲4B:特開2022-59641号公報
甲5B:福谷敬三,宮本等,"柑橘果実の苦味物質の含量と時期別変化",日本食品工業学会誌,日本食品工業学会,1983年11月,第30巻,第11号,p.642-649
証拠の表記は当審による。
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~19に係る発明についての特許に対して、令和6年5月23日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1.取消理由1-1(甲1Aに基づく新規性欠如)
本件発明1~19は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.取消理由2-1(甲1Aに基づく進歩性欠如)
本件発明1~19は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3.取消理由1-2(甲4Bに基づく新規性欠如)
本件発明1、2、6、9及び11~19は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4Bに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4.取消理由2-2(甲4Bに基づく進歩性欠如)
本件発明1、2、6、9及び11~19は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4Bに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
当審は、取消理由通知に記載した取消理由1-1~取消理由2-2によって本件発明1、2及び4~17についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1.取消理由1-1(甲1Aに基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1Aに基づく進歩性欠如)について
(1)引用文献に記載された事項
ア 甲1Aに記載された事項
甲1Aには以下の事項が記載されている。
(1A-1)「[請求項1] 柑橘類果皮より得たフラベド部を含水アルコール中で破砕した場合に生成する液分を含有していることを特徴とする新鮮な柑橘類香味を有するアルコール含有香味液。
・・・
[請求項6] 請求項1~5のいずれか1項に記載の香味液を含有する新鮮な柑橘類香味を有するアルコール飲料。
[請求項7] 請求項1~5のいずれか1項に記載の香味液と、柑橘類果汁に含水アルコールを混合した果汁原液とを配合して得られる請求項6に記載のアルコール飲料。
[請求項8] 柑橘類がレモンであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の香味液又はアルコール飲料。」
(1A-2)「[0002]
[従来の技術]従来より、柑橘類香味を有するアルコール飲料としてアルコールに糖類、酸味料、柑橘系香料及び柑橘類果汁等を加え、所望により炭酸ガスを含有させて製造した低アルコール飲料が市場に提供され、広く飲用されている。また、焼酎にレモン果皮を数ヶ月間漬け込んで製造する、いわゆるホームメイドリキュールも古くより知られている。しかしながら、これらのアルコール飲料はいずれも柑橘類特有の香味を有するものの、搾りたてのような新鮮な柑橘類の香味に関しては十分でなく、近年ますます多様化し高級化する消費者のニーズを必ずしも満足させ得るものではなかった。
[0003]
[発明が解決しようとする課題]本発明の目的は、新鮮な柑橘類香味を有するアルコール含有香味液及び該香味液を含有する新鮮な柑橘類香味を有するアルコール飲料を提供することにある。」
(1A-3)「[0034]実施例1
アルコール含有レモン香味液(以下、レモン香味液と略記する)とアルコール含有ライム香味液(以下、ライム香味液と略記する)を調製するために、まず果実のフラベドの厚さを測定した。フラベドの平均厚さはレモン果実(カリフォルニア産、ユーレカ種)で2.2mm、ライム果実(メキシカンライム)で1.1mmであった。レモン果皮からフラベド部を2.64mmの厚さ(フラベド100部に対して、フラベド部120部)で剥皮した。また、ライム果皮からフラベド部を1.32mmの厚さ(フラベド100部に対して、フラベド部120部)で剥皮した。次いで各々の該フラベド部を、窒素ガスによる脱酸素条件下、67v/v%アルコール中で、石うす式タイプの回転磨砕機で磨砕した。該磨砕液は、マイナス10℃で一晩置いたのち、遠心分離機で固形分(パルプ及び不溶化した物質)を分離して、レモン香味液とライム香味液を調製した。アルコール含有香味液の配合表を表7に示す。
[0035]
[表7]
[図:0001420310000001.jpg]
」
(1A-4)「[0037]実施例2
実施例1と同様の方法で、レモン香味液とライム香味液を調製した。別途、レモン果実93kgとライム果実65.6kgを、インライン搾汁機で搾汁し、レモン果汁とライム果汁を得た。各々の該果汁に67v/v%アルコールを混合し、マイナス10℃で一晩置いた後、パルプ分及び不溶化したペクチン質等を遠心分離して取り除き、レモン果汁原液とライム果汁原液を調製した。果汁原液の配合表を表8に示す。
[0038]
[表8]
[図:0001420310000002.jpg]
[0039]次に、レモン香味液とレモン果汁原液とを配合してレモンアルコール飲料、またライム香味液とライム果汁原液とを配合してライムアルコール飲料を調製した。アルコール飲料の配合表を表9に示す。
[0040]
[表9]
[図:0001420310000003.jpg]
[0041]調製したアルコール飲料の分析値を表10に示す。
[0042]
[表10]
[図:0001420310000004.jpg]
[0043]得られたレモンアルコール飲料とライムアルコール飲料を官能検査した結果、新鮮な柑橘類香味が豊富で、ほのかな苦味を有し、ボディ感があるというという評価であった。」
(1A-5)「[0044]実施例3
実施例2と同様のアルコール飲料配合に香料を配合し、レモンアルコール飲料とライムアルコール飲料を調製した。香料は、通常の調合香料〔フレーバー〕と弱テルペンレス香料〔フレーバー〕を用い、合計添加量は、1.2kg/1000リットルで配合した。得られたレモンアルコール飲料とライムアルコール飲料を官能検査した結果、新鮮な柑橘類香味が豊富で、ほのかな苦味を有し、ボディ感があるという評価であった。」
イ 甲2Aに記載された事項
甲2Aには以下の事項が記載されている。翻訳文は申立人Aによる。翻訳文のみ示す。
(2A-1)「要約
柑橘類苦味成分であるリモニンとノミリンの分別定量法につき検討した。本法は,試料をクロロホルムで抽出し,その一定量を常法により作製したシリカゲルG薄層上にスポットし,酢酸エチル-n-ヘキサン(9:1)にて展開後,蒸留水を噴霧して検出されるリモニンおよびノミリンのスポット部分をかきとり,アセトンにて溶出し,溶媒留去後エタノールで再溶出し,溶出液にp-dimethylaminobenzaldehyde溶液を加えて発色させ,550mμにて吸光度を測定することにより定量するものである。
TLCの条件,かきとり・溶出,溶出液の定量条件などを細かく検討した結果,満足すべき精度と回収率を得ることができた。」(第332頁左欄16~29行「要約」)
(2A-2)「5. 定量例
本法を用いて果汁,種子などについてリモニンおよびノミリンの定量を行なった。その結果を第5表に示す。」(第332頁左欄6~9行)
(2A-3)第332頁右欄には、「推奨される方法によって決定された種々の材料のリモニン及びノミリンの含有量」と題する表5が記載されており、レモン果汁の2倍濃縮物におけるリモニンの含有量が22.4ppm、ノミリンの含有量が検出限界以下(trace)であったことが記載されている。
ウ 甲3Aに記載された事項
甲3Aには以下の事項が記載されている。翻訳文は申立人Aによる。翻訳文のみ示す。
(3A-1)「イタリアの4品種のレモン(Citrus limon Burm)の新鮮果汁を、ガスクロマトグラフおよびガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)と組み合わせたヘッドスペース固相マイクロ抽出により分析した。最良の結果は、ポリ(ジメチルシロキサン)繊維上の2cm 50/30μmジビニルベンゼン/カルボキセンで、40℃で1時間の均質化時間、30分のサンプリング時間を用いて得られた。合計35種類の揮発性化合物がGC-MSで同定され、それらの相対量が試料に内部標準を加えて算出された。レモン果汁の揮発性成分の組成に違いがあることが確認された。ヴェルデロ・シラクサーノレモン果汁の揮発性化合物の量が最も多く(50.28mg/L)、次いでインタードナート果汁(8.39mg/L)、プリモ・フィオーレ・カーポ・ドランド果汁(5.75mg/L)、フェミネロ・シラクサーノ果汁(2.62mg/L)であった。揮発性化合物は主にモノおよびセスキテルペン炭化水素と酸素を含む分子(アルデヒド、モノテルペンアルコール、モノテルペンエステル)で構成されている。特定の硫黄検出器である硫黄化学発光検出器を搭載したガスクロマトグラフと組み合わせたヘッドスペース固相マイクロ抽出により、レモン果汁中の硫化ジメチルをマイクログラム/リットルレベルで検出・定量した。」(第1844頁上段)
(3A-2)第1846頁には、「4品種のレモン果汁中に検出された揮発性成分量 mg/L」と題する表1が記載されており、ピーク番号29に、酢酸ネリルの含有量(mg/L)が、品種ごとに記載されている。verdello Siracusano、Interdonato、Primo Fiore Capo d'Orlando、Femminello Siracusanoの各果汁中の含有量は、それぞれ0.284、0.281、0.011、0.068と記載されている。
エ 甲4Aに記載された事項
甲4Aには以下の事項が記載されている。
(4A-1)「そこで本稿では,「苦味がなく」「柑橘の特徴香を生かした」酒類を開発するため,柑橘果皮のエタノール浸漬物を減圧蒸留し,柑橘の芳香特性を活かした蒸留酒の製造技術について検討したので紹介したい。」(第651頁右欄5-8行)
(4A-2)「1.柑橘の品種と蒸留酒の成分
愛媛県内で生産されたレモン,日向夏,タロッコ,ひょうかん,甘夏ミカン,南津海の果皮を用いて柑橘の品種と製成した蒸留酒の成分について検討した。
原料の果皮は,果実を採取後ただちに剥皮し,-20℃で凍結保存し使用時に解凍,5mm角に切断・ミキサーBM-HS08(ZOJIRUSHI)で約1分間粉砕したものを使用した。ただし,甘夏ミカン果皮については搾汁工場で剥皮した果皮をボイル後凍結保存したものを用いた。果皮とホワイトリカー(エタノール濃度35%(v/v))を等量混合し,室温で2~3週間抽出後,ロータリーエバポレーターを用いて45℃,55mmHgで30分間減圧蒸留し試作品を得た。エタノールは,第4回改正国税庁所定分析法に準じて酸化法で測定,精油成分はエタノール濃度を20%(v/v)に調整した試料をヘッドスペースGCで定量した。また,リモノイドはMaierらの方法に準じて抽出し、前田らの方法を参考にHPLCで分析した。」(第651頁右欄9-26行)
(4A-3)「第2表は,レモン果皮のホワイトリカー抽出液と市販リキュールのリモノイド最を測定したものである。」(第652頁左欄26-28行)
(4A-4)第652頁右欄の第2表「市販リキュール類のリモノイド含量」には、レモン果皮抽出液のリモニン含量(mg/L)が104.6であること、及びノミリン含量(mg/L)が19.4であることが記載されている。
オ 甲5Aに記載された事項
甲5Aには以下の事項が記載されている。翻訳文は申立人Aによる。翻訳文のみ示す。
(5A-1)「イタリアの市販のリモンチェッロ(レモン果皮を原料とするアルコール飲料)数種の化学組成をクロマトグラフィー技術によって研究した。これらの方法は、リモンチェッロの迅速なモニタリングを可能にし、製品の品質マーカーや不純物の可能性に関する情報を提供した。60種類以上の化合物の定量的データが報告されている。リモンチェッロは、揮発性化合物(テルペン、アルデヒド、アルコール)と不揮発性化合物(ソラレン、クマリン、フェノール類、炭水化物、酸)の存在によって特徴付けられている。サンプルはPCA分析によって2つのセットにグループ化された。第1グループはレモン精油に似た組成を有し、b-ピネン、ミルセン、トランス-a-ベルガモテン、及びb-ビサボレンを多く含み、ネラールとゲラニアールを少量含んでいた。第2グループの組成は、酸化現象の発生及び/又は香料の添加を示唆するものであった。酢酸エチル、アセトアルデヒド、2-メチル-1-プロパノール、グリセロールの存在は、抽出工程後にリモンチェッロを希釈するためのシュガーシロップで、発酵が起こった可能性を示していた。」(第4978頁上段)
(5A-2)「リモンチェッロは、レモンの皮(Citrus limon (L.) Burm. f.)から精油をアルコール抽出したイタリアの代表的なレモン酒である。・・・その製造工程はシンプルで、主に以下の段階を含む。(i) 果実を洗い、皮をむく。(ii) レモンの皮を95%エチルアルコールで2~7日間浸出させる。この段階で、エッセンシャルオイルとその他の果皮の成分が抽出される。(iii) シュガーシロップで希釈し、約32%のエチルアルコールの最終製品を得る。(iv) リモンチェッロを瓶詰めする。」(第4978頁左欄6~18行)
(5A-3)第4980頁には、「リモンチェッロ試料のエタノール(%v/v)と高級アルコール(mg/L)の含有量」と題する表3が記載されており、サンプル1~12におけるエタノールの含有量(%v/v)が、それぞれ32、31、31、31、30、30、29、40、30、27、29、28と記載されている。
(5A-4)第4981頁には、「リモンチェッロ試料の揮発性成分(mg/L)。同定は、GC-MS(MS),文献データとの比較(L)(19),および純粋な標準物質(S)によって行われた。」と題する表4が記載されており、サンプル1~12における酢酸ネリルの含有量(mg/L)が、それぞれ7.7、4.0、4.8、5.8、9.3、1.5、0.5、11.0、2.0、6.2、8.2、27.0と記載されている。
カ 甲6Aに記載された事項
甲6Aには以下の事項が記載されている。翻訳文は申立人Aによる。翻訳文のみ示す。
(6A-1)「要約
近年、レモンを原料とするイタリアのリキュール、リモンチェッロが急速に普及し、大きな人気を博している。そのため、品質と真正性のパラメータを確立するために、この製品の特性評価が必要である。しかし、このリキュールの分析に関するデータを報告した文献はない。そこで、本研究では、リモンチェッロの13のサンプルについて、化学的、物理化学的パラメータと芳香族画分の組成を測定した。化学的および物理化学的パラメータは、サンプルごとにかなり異なっていた。これはおそらく、レモンの品種、植物気候条件、栽培技術の違い、そしてリキュールの製造手順の違いによるものであろう。その結果、レモン果皮に含まれる香気成分は、リキュールの製造中および保存中に、主に水性酸性媒体、高温、紫外線照射によって多くの変化を起こすことがわかった。」(第343~344頁)
(6A-2)「伝統的なリモンチェッロの作り方では、無農薬のレモンの皮1/2~1kgを、95%vol.のアルコール1リットルに1週間から40日間漬け込む。」(第344頁左欄第2段落1~5行)
キ 甲7Aに記載された事項
甲7Aには以下の事項が記載されている。
(7A-1)「くえんさん 枸櫞酸,・・・存在 未熟のダイダイ,レモンに特に多く(6~7%)・・・含まれる.」(第21頁右欄「くえんさん 枸櫞酸」の項7~9行)
(2)甲1Aに記載された発明
甲1Aの請求項1及び8(摘記1A-1)には、「柑橘類果皮より得たフラベド部を含水アルコール中で破砕した場合に生成する液分を含有していることを特徴とする新鮮な柑橘類香味を有するアルコール含有香味液。」及び「柑橘類がレモンであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の香味液又はアルコール飲料。」が記載されており、[0034]~[0035]の実施例1及び[表7](摘記1A-3)には、柑橘類としてレモンを用いた場合のアルコール含有香味液(レモン香味液)の具体例及びその配合表が記載されている。また、甲1Aの請求項6及び7(摘記1A-1)には、「請求項1~5のいずれか1項に記載の香味液を含有する新鮮な柑橘類香味を有するアルコール飲料。」及び「請求項1~5のいずれか1項に記載の香味液と、柑橘類果汁に含水アルコールを混合した果汁原液とを配合して得られる請求項6に記載のアルコール飲料。」が記載されており、[0037]~[0038]の実施例2及び[表8]~[表10](摘記1A-4)には、柑橘類果汁としてレモン果汁を用いた場合の果汁原液(レモン果汁原液)の具体例、レモン香味液とレモン果汁原液を配合したアルコール飲料(レモン飲料)の具体例、及びそれらの配合表とレモン飲料の分析値の表が記載されている。そして、[0043](摘記1A-4)には、実施例2のレモン飲料を官能評価した結果、「新鮮な柑橘類香味が豊富で、ほのかな苦味を有し、ボディ感がある」という評価であったことが記載されている。
そうすると、甲1Aには、実施例1及び実施例2並びにその評価結果に基づいて以下の発明が記載されている。
「レモン果汁30リットルに67v/v%アルコール44リットルを混合し、マイナス10℃で一晩置いた後、パルプ分及び不溶化したペクチン質等を遠心分離して取り除いて調製したレモン果汁原液 70リットル、
レモン果皮から剥皮したフラベド部8kgを、窒素ガスによる脱酸素条件下、67v/v%アルコール48.0リットル中で、石うす式タイプの回転磨砕機で磨砕し、磨砕液をマイナス10℃で一晩置いたのち、遠心分離機で固形分(パルプ及び不溶化した物質)を分離して得たレモン香味液 35L、
67v/v%アルコール51リットル、果糖ぶどう糖液糖17kg、クエン酸0.40kg、及び仕込み水(炭酸水)必要量
を配合して1000Lとしたレモン飲料であって、Brix4.7、pH3.2、アルコール8.2v/v%、ガスボリューム2.7であるレモン飲料。」(以下、「甲1A発明」という。)
「レモン果汁30リットルに67v/v%アルコール44リットルを混合し、マイナス10℃で一晩置いた後、パルプ分及び不溶化したペクチン質等を遠心分離して取り除いて調製したレモン果汁原液 70リットル、
レモン果皮から剥皮したフラベド部8kgを、窒素ガスによる脱酸素条件下、67v/v%アルコール48.0リットル中で、石うす式タイプの回転磨砕機で磨砕し、磨砕液をマイナス10℃で一晩置いたのち、遠心分離機で固形分(パルプ及び不溶化した物質)を分離して得たレモン香味液 35L、
67v/v%アルコール51リットル、果糖ぶどう糖液糖17kg、クエン酸0.40kg、及び仕込み水(炭酸水)必要量
を配合して1000Lとする工程を含む、Brix4.7、pH3.2、アルコール8.2v/v%、ガスボリューム2.7であるレモン飲料を製造する方法。」(以下、「甲1A製法発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1A発明との対比
本件発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明における「アルコール」及び「レモン飲料」は、本件発明1における「アルコール」及び「柑橘風味飲料」に相当し、甲1A発明における「アルコール8.2v/v%」は、本件発明1における「アルコール濃度が0.4~10体積/体積%」と一致する。
そうすると、両者は「アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料。」の点で一致し、
相違点1A:本件発明1は「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
相違点2A:本件発明1は「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
相違点3A:本件発明1は「柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
相違点4A:本件発明1は「エキス分が0.5~10質量/体積%であり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点3Aについて検討する。
イ 相違点3Aについて
甲1Aの[表9](摘記1A-4)に記載のとおり、甲1A発明1000L中には、レモン果汁原液70Lが含まれており、甲1Aの[表8](摘記1A-4)に記載のとおり、レモン果汁原液70Lにはレモン果汁30Lが含まれている。したがって、甲1A発明1000L中には、レモン果汁30Lが含まれており、甲1A発明におけるレモン果汁の濃度は30÷1000×100=3容量%であるが、甲1A発明を構成する成分の大半は水であるから、質量%と容量%の値に大差はない。また、レモン果汁は柑橘果汁である。そうすると、相違点3Aは実質的な相違点である。
また、甲1A発明の課題は「新鮮な柑橘類香味を有するアルコール含有香味液を含有する新鮮な柑橘類香味を有するアルコール飲料を提供すること」(甲1Aの[0003](摘記1A-2))にあるから、「新鮮な柑橘類香味が豊富で、ほのかな苦味を有し、ボディ感がある」(甲1Aの[0043](摘記1A-4))と評価されるレモンアルコール飲料の実施例である甲1A発明において、柑橘類香味に寄与する果汁の含有量を低下させることは、甲1Aの記載から当業者が動機付けられることではなく、他の証拠の記載を参照しても当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、本件発明1が発揮する「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供できる」という効果は、甲1A及び他の証拠の記載から当業者が予測することができない顕著な効果である。
よって、相違点3Aは当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、令和6年9月11日に提出した意見書において、相違点3Aに関し「いちおう相違はするものの相変わらず近い値である。そして、・・・「0~2.0質量%」の臨界的意義は見いだせず、この範囲における格別顕著な効果も見いだせない」と主張している。
しかし、本件明細書の[0076]には実験4として、リモニンと酢酸ネリルとを併用し果汁濃度を変動させたときの評価結果が記載され、[0088]には実験8として、ノミリンと酢酸ネリルとを併用し果汁濃度を変動させたときの評価結果が記載され、これらはいずれも、本件発明1に特定される無果汁ないし低果汁の柑橘風味飲料が、果汁濃度10%又は20%のものと、「爽やかな柑橘感」及び「ボディを感じる果実感」の強さと「尖った酸味」及び「後を引くえぐみ・雑味」の弱さのバランスが同等である、良好な柑橘風味が得られるものであることを示している。また、リモニンと酢酸ネリルの濃度、比率を変動させた実験2、ノミリンと酢酸ネリルの濃度、比率を変動させた実験6、アルコール濃度を変動させた実験3、7、リモニン、ノミリン及び酢酸ネリルを併用した実験9及びリモニンのみ又はノミリンのみを用いた比較実験1、5の記載等を合わせて参酌すると、上記の効果は実験4又は8の特定の実施例に限って得られるわけではないことも理解できる。そして、甲1A及び他の証拠の記載を参照しても、本件発明1の「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供できる」という効果が得られることは記載されていないから、本件発明1は甲1A及び他の証拠の記載から当業者が予測することができない顕著な効果を発揮するものといえる。
よって、申立人Aの主張を採用することはできない。
エ 相違点3Aについてのまとめ
以上まとめると、相違点3Aは実質的な相違点であり、かつ、甲1A発明及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1A、相違点2A及び相違点4Aについて検討するまでもなく、本件発明1は甲1A発明ではなく、かつ、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1A発明との対比
本件発明2と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明における「アルコール」及び「レモン飲料」は、本件発明2における「アルコール」及び「柑橘風味飲料」に相当し、甲1A発明における「ガスボリューム2.7」は、甲1A発明が仕込み水(炭酸水)に由来する炭酸ガスを含むことを意味するから、本件発明2における「炭酸ガスを含む」に相当する。
そうすると、両者は「炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料。」の点で一致し、
相違点5A:本件発明2は「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
相違点6A:本件発明2は「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
相違点7A:本件発明2は「クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
相違点8A:本件発明2は「エキス分が0.5~10質量/体積%であり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点7Aについて検討する。
イ 相違点7Aについて
甲1A発明におけるクエン酸の含有量を、原材料として配合されたクエン酸とレモン果汁由来のクエン酸に分けて計算する。
(ア)原材料として配合されたクエン酸の量
甲1Aの[表9](摘記1A-4)に記載のとおり、甲1A発明1000L中には、クエン酸0.40kgが配合されている。
(イ)レモン果汁由来のクエン酸の量
上記(3)イに記載したとおり、甲1A発明1000Lにはレモン果汁が30L含まれている。ここで、甲7Aの「くえんさん 枸櫞酸」の項(摘記7A-1)には、「存在 ・・・レモンに特に多く(6~7%)」と記載されているから、レモン果汁には6~7%程度のクエン酸が含まれている。そうすると、甲1A発明1000Lに含まれるレモン果汁由来のクエン酸の量は、30×0.06~30×0.07=1.8~2.1kgと計算される。
(ウ)甲1A発明1000Lに含まれるクエン酸の量
上記(ア)及び(イ)の計算をまとめると、甲1A発明1000Lに含まれるクエン酸の量は、0.40+1.8~2.1=2.2~2.5kgと計算される。
(エ)相違点7Aについての判断
上記(ウ)の計算結果をクエン酸酸度(飲料100ml当たりの濃度)に換算すると、0.22~0.25/100mlであるから、相違点7Aは実質的な相違点である。
また、甲1A発明の課題は「新鮮な柑橘類香味を有するアルコール含有香味液を含有する新鮮な柑橘類香味を有するアルコール飲料を提供すること」(甲1Aの[0003](摘記1A-2))にあるから、「新鮮な柑橘類香味が豊富で、ほのかな苦味を有し、ボディ感がある」(甲1Aの[0043](摘記1A-4))と評価されるレモンアルコール飲料の実施例である甲1A発明において、その香味を変化させるクエン酸配合量の増量は、甲1Aの記載から当業者が動機付けられることではなく、他の証拠の記載を参照しても当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、本件発明2が発揮する「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供できる」という効果は、甲1A及び他の証拠の記載から当業者が予測することができない顕著な効果である。
よって、相違点7Aは当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、令和6年9月11日に提出した意見書において、相違点7Aに関し「いちおう相違はするものの相変わらず近い値である。そして、・・・「0.30~0.85g/100ml」の臨界的意義は見いだせず、この範囲における格別顕著な効果も見いだせない」と主張している。
しかし、本件明細書の[0068]~[0077]には実験2~実験4として、リモニンと酢酸ネリルとを併用しクエン酸酸度を0.35~0.85%の間で変動させたときの評価結果が記載され、[0080]~[0088]には実験6~実験8として、ノミリンと酢酸ネリルとを併用しクエン酸酸度を0.35~0.85%の間で変動させたときの評価結果が記載され、これらはいずれも、本件発明2に特定されるクエン酸酸度を有する柑橘風味飲料が、「爽やかな柑橘感」及び「ボディを感じる果実感」の強さと「尖った酸味」及び「後を引くえぐみ・雑味」の弱さのバランスが同等である、良好な柑橘風味が得られるものであることを示している。また、他の実験結果の記載等を合わせて参酌すると、上記の効果は特定の実施例に限って得られるわけではないことも理解できる。そして、甲1A及び他の証拠の記載を参照しても、本件発明2の「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供できる」という効果が得られることは記載されていないから、本件発明2は甲1A及び他の証拠の記載から当業者が予測することができない顕著な効果を発揮するものといえる。
よって、申立人Aの主張を採用することはできない。
エ 相違点7Aについてのまとめ
以上まとめると、相違点7Aは実質的な相違点であり、かつ、甲1A発明及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
オ 本件発明2についてのまとめ
以上のことから、相違点5A、相違点6A及び相違点8Aについて検討するまでもなく、本件発明2は甲1A発明ではなく、かつ、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明4~8、10~12、14及び15について
本件発明4~8、10~12、14及び15は、いずれも請求項1又は2を直接又は間接的に引用し、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1又は2と同様の理由により、本件発明4~8、10~12、14及び15は、いずれも甲1A発明ではなく、かつ、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明9について
上記(3)ア及び(4)アを踏まえて本件発明9と甲1A発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点3A’:本件発明9は「柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
そして、相違点3A’は、実質的に相違点3Aと同じ内容の相違点であるから、相違点3Aと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は甲1A発明ではなく、かつ、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明13について
上記(3)ア及び(4)アを踏まえて本件発明13と甲1A発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点7A’:本件発明13は「クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点
そして、相違点7A’は、実質的に相違点7Aと同じ内容の相違点であるから、相違点7Aと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明13は甲1A発明ではなく、かつ、甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)本件発明16について
上記(3)ア及び(4)アを踏まえて本件発明16と甲1A製法発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点3A”:本件発明16は「柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲1A製法発明はそのように特定されていない点
そして、相違点3A”は、実質的に相違点3Aと同じ内容の相違点であるから、相違点3Aと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16は甲1A製法発明ではなく、かつ、甲1A製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(9)本件発明17について
上記(3)ア及び(4)アを踏まえて本件発明17と甲1A製法発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点7A”:本件発明17は「クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、」と特定するのに対し、甲1A製法発明はそのように特定されていない点
そして、相違点7A”は、実質的に相違点7Aと同じ内容の相違点であるから、相違点7Aと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は甲1A製法発明ではなく、かつ、甲1A製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(10)取消理由1-1(甲1Aに基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1Aに基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1、2及び4~17は、いずれも甲1Aに記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1、2及び4~17は、いずれも甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由1-1(甲1Aに基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1Aに基づく進歩性欠如)により本件発明1、2及び4~17についての特許を取り消すことはできない。
2.取消理由1-2(甲4Bに基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲4Bに基づく進歩性欠如)について
(1)甲4Bに記載された事項
甲4Bには以下の事項が記載されている。
(4B-1)「[発明が解決しようとする課題]
[0006]
本発明は、容器の開封時や喫飲時に感じる疎水性香気成分による香りが増強された容器詰飲料、及び当該容器詰飲料を製造する方法を提供することを目的とする。」
(4B-2)「[0091]
[実施例1~10、比較例1~7]
発泡性アルコール飲料に、レモンの果皮から抽出された疎水性香気成分を各種方法で含有させた容器詰飲料を製造し、飲料の香りに対する疎水性香気成分の影響を調べた。
[0092]
まず、原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、水、並びに、レモンエキス(エタノール濃度:38.0容量%)、乳化剤(レシチン)、レモンパルプ、レモン香料(エタノール濃度:51.4容量%)、レモン果汁I、レモン果汁IIを表1~3に記載の量となるように混合して、ベース液体を調製した。調製されたベース液体に、さらにレモンオイルI、レモンオイルII、レモンオイルIII、レモンオイルIVを表1~3に記載の量となるように混合して、実施例1~10、比較例1~7の各飲料を得た。
[0093]
なお、各飲料は炭酸ガスを圧入してガスボリュームを3.0GV(容量/容量)とした。これらは、アルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶に封入して、容器詰飲料とした。」
(4B-3)「[0098]
レモン果汁Iは、生のレモン果実の果肉のみから搾汁したものであり、レモン果汁IIは、果肉と果皮から搾汁したものであった。
[0099]
実施例1~10の飲料では、飲料表面に小さな油滴のようなものが浮いているのが観察された。一方で、比較例1及び2では、乳化剤の作用によりレモンオイルは分散しており、油滴は確認されなかった。また、比較例3の飲料では、レモンオイルはパルプに吸着して分離しておらず、油滴は確認されなかった。レモン果汁IIには、果皮に由来するテルペン類も含まれていたが、比較例7の飲料では、油滴は確認されなかった。比較例7の飲料では、テルペン類は、アルコールに溶解しているほか、飲料中のパルプに吸着しているためと推察された。
[0100]
これらの容器詰飲料について、「開封時の香りの強さ(オルソネーザルアロマ)」、「飲用時の香りの強さ(レトロネーザルアロマ)」、「香味の自然さ」、「炭酸感」、「アルコール感」、及び「香りの持続時間」について官能評価を行った。官能評価は、訓練されたパネリスト3名で行い、全パネリストによる合意値を、評価対象の評価点とした。
[0101]
「開封時の香りの強さ(オルソネーザルアロマ)」、「飲用時の香りの強さ(レトロネーザルアロマ)」、「炭酸感」、及び「アルコール感」は、強度をいずれも5段階(評点1:弱い、評点2:やや弱い、評点3:普通、評点4:やや強い、評点5:強い)で評価した。
「香味の自然さ」は、5段階(評点1:不自然である、評点2:やや不自然である、評点3:普通、評点4:自然である、評点5:とても自然である)で評価した。
「香りの持続時間」は、飲用した時点からレモンの香りが消失したと認識した時点までの経過時間(秒)を調べた。」
(4B-4)「[0104]
[表3]
[図:0001420310000005.jpg]
」
(4B-5)「[0108]
一方で、レモンオイルの油滴が液面に観察されず、添加したレモンオイルが飲料全体(ベース液体全体)から分離しなかった比較例1~3の飲料は、飲料全体に含まれるテルペノイドの含有量は実施例4の飲料と同じであるにもかかわらず、オルソネーザルアロマとレトロネーザルアロマの両方とも弱かった。飲料にレモン香料を均一に分散させた比較例4及び5の飲料では、濃度依存的にレトロネーザルアロマは強くなったが、オルソネーザルアロマの強化は観察されなかった。レモン果汁を添加した比較例6及び7の飲料も同様にレモンの香りは強化されなかった。」
(2)甲4Bに記載された発明
甲4Bの[0091]~[0093](摘記4B-2)には、「発泡性アルコール飲料に、レモンの果皮から抽出された疎水性香気成分を各種方法で含有させた容器詰飲料を製造し、飲料の香りに対する疎水性香気成分の影響を調べた」ことが記載されており、「まず、原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、水、並びに、レモンエキス(エタノール濃度:38.0容量%)、乳化剤(レシチン)、レモンパルプ、レモン香料(エタノール濃度:51.4容量%)、レモン果汁I、レモン果汁IIを表1~3に記載の量となるように混合して、ベース液体を調製した」こと、及び「各飲料は炭酸ガスを圧入してガスボリュームを3.0GV(容量/容量)とした。これらは、アルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶に封入して、容器詰飲料とした」ことが記載されている。また、[0104]の[表3](摘記4B-4)には、比較例6及び7は、いずれもレモンエキス、乳化剤、レモンパルプ及びレモン香料を混合しておらず、比較例6はレモン果汁Iを10.00g/L、比較例7はレモン果汁IIを10.00g/Lとなるように混合したものであることが記載されており、[0098](摘記4B-3)には、「レモン果汁Iは、生のレモン果実の果肉のみから搾汁したものであり、レモン果汁IIは、果肉と果皮から搾汁したものであった」ことが記載されている。さらに、[0100]~[0101](摘記4B-3)には、「容器詰飲料について、「開封時の香りの強さ(オルソネーザルアロマ)」、「飲用時の香りの強さ(レトロネーザルアロマ)」、「香味の自然さ」、「炭酸感」、「アルコール感」、及び「香りの持続時間」について官能評価を行った」ことが記載され、上記[表3]には、比較例6及び7についての官能評価の評点が、オルソネーザルアロマ及びレトロネーザルアロマは1(弱い)又は3(普通)であり、香味の自然さは3(普通)又は5(とても自然である)であったことが記載されており、[0108](摘記4B-5)には、「レモン果汁を添加した比較例6及び7の飲料も同様にレモンの香りは強化されなかった」ことが記載されている。
そうすると、甲4Bには、比較例6及び比較例7並びにその官能評価結果に基づいて以下の発明が記載されている。
「原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、水、並びに、生のレモン果実の果肉のみから搾汁したレモン果汁I又は果肉と果皮から搾汁したレモン果汁IIを10.00g/Lとなるように混合してベース液体を調製し、炭酸ガスを圧入してガスボリュームを3.0GV(容量/容量)とし、アルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶に封入した、レモンの香りを有する容器詰飲料。」(以下、「甲4B発明」という。)
「原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、水、並びに、生のレモン果実の果肉のみから搾汁したレモン果汁I又は果肉と果皮から搾汁したレモン果汁IIを10.00g/Lとなるように混合してベース液体を調製する工程、炭酸ガスを圧入してガスボリュームを3.0GV(容量/容量)とする工程、及びアルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶に封入する工程を含む、レモンの香りを有する容器詰飲料の製造方法。」(以下、「甲4B製法発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4B発明との対比
本件発明1と甲4B発明とを対比すると、甲4B発明における「原料用アルコール」及び「レモンの香りを有する容器詰飲料」は、本件発明1における「アルコール」及び「柑橘風味飲料」に相当し、甲4B発明における「原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%」は、比重を1として概算すると、エタノール濃度6.1×0.953=5.81質量%となるから、本件発明1における「アルコール濃度が0.4~10体積/体積%」と一致する。
そうすると、両者は「アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料。」の点で一致し、
相違点1B:本件発明1は「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み」と特定するのに対し、甲4B発明はそのように特定されていない点
相違点2B:本件発明1は「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」と特定するのに対し、甲4B発明はそのように特定されていない点
相違点3B:本件発明1は「柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲4B発明はそのように特定されていない点
相違点4B:本件発明1は「エキス分が0.5~10質量/体積%であり、」と特定するのに対し、甲4B発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点2Bについて検討する。
イ 相違点2Bについて
甲4B発明のうち、生のレモン果実の果肉のみから搾汁したレモン果汁Iを用いる場合(比較例6)について、リモニン、ノミリン及び酢酸ネリルの各成分の含有量を計算する。
(ア)甲4B発明に含まれるレモン果汁Iの量
甲4B発明には、生のレモン果実の果肉のみから搾汁したレモン果汁Iが10.00g/Lの濃度になるように混合されている([表3](摘記4B-4))。
(イ)レモン果汁I由来のリモニン量
甲2Aの表5(摘記2A-3)には、レモン果汁の2倍濃縮物におけるリモニンの含有量が22.4ppmであったことが記載されている。したがって、レモン果汁(濃縮なし)におけるリモニン含有量は、22.4÷2=11.2ppm(11.2mg/1000g)と計算される。
甲4B発明1L中にはレモン果汁Iが10.00g含まれているから、甲4B発明1L中に含まれるレモン果汁I由来のリモニンの量は、11.2×10.00/1000=0.112mgとなる。
(ウ)レモン果汁I由来のノミリン量
甲2Aの表5(摘記2A-3)には、レモン果汁の2倍濃縮物におけるノミリンの含有量が検出限界以下(trace)であったことが記載されている。したがって、レモン果汁(濃縮なし)におけるノミリン含有量は実質的にゼロとみなせる。
よって、甲4B発明1L中に含まれるレモン果汁由来のノミリンの量は実質的にゼロとみなせる。
(エ)レモン果汁I由来の酢酸ネリル量
甲3Aの表1(摘記3A-2)には、レモン果汁における酢酸ネリル含有量が、0.011~0.284mg/L(約0.011~0.284mg/1000g)であったことが記載されている。
甲4B発明1L中にはレモン果汁Iが10.00g含まれているから、甲4B発明1L中に含まれるレモン果汁由来の酢酸ネリルの量は、(0.011~0.284)×10/1000=0.00011~0.00284mgとなる。
(オ)甲4B発明に含まれる各成分の濃度の計算
上記(イ)~(エ)の計算をppb単位又はppm単位の濃度に換算すると、以下のとおりとなる。
・リモニン含有量:112ppb
・ノミリン含有量:0ppb
・酢酸ネリル含有量:0.00011~0.00284ppm
(カ)相違点2Bについての判断
上記(オ)に基づいて相違点2Bに係る「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕」を計算すると、をクエン酸酸度(飲料100ml当たりの濃度)に換算すると、(0.00011~0.00284)/112=0.0000009~0.0000253であるから、相違点2Bは実質的な相違点である。
また、甲4Bには「酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕」という比の値に着目する記載はない。さらに、甲4Bには、甲4Bに記載された発明の課題が「容器の開封時や喫飲時に感じる疎水性香気成分による香りが増強された容器詰飲料」を提供すること(甲4Bの[0006](摘記4B-1))にあることが記載されているが、甲4B及び他の証拠の記載を参照しても、当業者が当該課題と上記比の値を0.000005~1.5とすることとを結びつける動機はなく、まして、甲4B発明は甲4Bにおいて比較例と位置づけられている発明であるから、甲4B発明において相違点2Bに相当する発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、本件発明1が発揮する「良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供できる」という効果は、甲4B及び他の証拠の記載から当業者が予測することができない顕著な効果である。
よって、相違点2Bは当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年9月11日に提出した意見書において、相違点2Bに関し「訂正前の請求項3の構成であるが、これは甲4B発明を回避するために追加されたものであり、甲1A発明に対して進歩性を主張できるものではない」と主張しているが、上記イ(カ)に記載した相違点2Bについての判断を覆す具体的な主張はしていないから、判断は覆らない。
エ 相違点2Bについてのまとめ
以上まとめると、相違点2Bは実質的な相違点であり、かつ、甲4B発明及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1B、相違点3B及び相違点4Bについて検討するまでもなく、本件発明1は甲4B発明ではなく、かつ、甲4B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2、6、9及び11~15について
独立形式で記載された本件発明2、9又は13と甲4B発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点2B’:本件発明2、9又は13は「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」と特定するのに対し、甲4B発明はそのように特定されていない点
そして、相違点2B’は、実質的に相違点2Bと同じ内容の相違点であるから、相違点2Bと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、9及び13は、いずれも甲4B発明ではなく、かつ、甲4B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明6、11、12、14及び15は、いずれも請求項1又は2を直接又は間接的に引用し、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1又は2と同様の理由により、本件発明6、11、12、14及び15は、いずれも甲4B発明ではなく、かつ、甲4B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明16及び17について
上記(3)アを踏まえて本件発明16又は17と甲4B製法発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点2B”:本件発明2、9又は13は「前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、」と特定するのに対し、甲4B製法発明はそのように特定されていない点
そして、相違点2B”は、実質的に相違点2Bと同じ内容の相違点であるから、相違点2Bと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16及び17は、いずれも甲4B製法発明ではなく、かつ、甲4B製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)取消理由1-2(甲4Bに基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲4Bに基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1、2、6、9及び11~17は、いずれも甲4Bに記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1、2、6、9及び11~17は、いずれも甲4Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由1-2(甲4Bに基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲4Bに基づく進歩性欠如)により本件発明1、2、6、9及び11~17についての特許を取り消すことはできない。
3.取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載したいずれの取消理由によっても、本件発明1、2及び4~17についての特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
当審は、申立人A及びBが申し立てた特許異議申立理由は、いずれも理由がないものと判断する。理由は以下のとおり。
1.取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由は、上記第4の1.(3)に記載した申立理由3A(サポート要件違反)、上記第4の2.(1)に記載した申立理由1B(実施可能要件違反)及び同(2)に記載した申立理由2B(サポート要件違反)である。以下、検討する。
2.申立理由3A(サポート要件違反)及び申立理由2B(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0006]~[0007]等の記載から見て、本件発明1、2及び4~15の課題は「リモニンおよびノミリンの少なくとも一方を含み、良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制する、アルコールを含有する柑橘風味飲料を提供すること」にあり、本件発明16及び17の課題は「リモニンおよびノミリンの少なくとも一方を含み、良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制する、アルコールを含有する柑橘風味飲料の製造方法を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
本件明細書の[0012]には、「本実施形態のアルコール含有柑橘風味飲料(以下、単に「飲料」とも称して説明する)は、リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含む飲料である。これにより、柑橘らしい風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できる。すなわち、本実施形態の飲料においては、リモニンおよび/またはノミリンにより柑橘風味を得つつ、酢酸ネリルをさらに含有することで、リモニンおよび/またはノミリン含有量が低くてもアルコールと組み合わさることにより酸味や雑味が強くなることを抑制できる。かかるメカニズムの詳細は不明だが、酢酸ネリルがリモニンおよび/またはノミリンによる酸味や雑味を適度にマスキングしていると推測される。」と記載され、[0017]~[0018]にはリモニンの作用効果及びその含有量の下限値及び上限値が記載され、[0019]~[0020]にはノミリンの作用効果及びその含有量の下限値及び上限値が記載され、[0022]~[0023]には酢酸ネリルの作用効果及びその含有量の下限値及び上限値が記載され、[0024]~[0025]には酢酸ネリル含有量(ppm)/〔リモニン含有量(ppb)+ノミリン含有量(ppb)〕の比率の好ましい範囲が記載され、[0032]~[0037]には果汁及びその好ましい含有量について記載され、[0038]には香料について記載され、[0045]~[0047]にはクエン酸酸度の好ましい範囲が記載され、[0050]にはエキス分の好ましい範囲が記載され、[0051]には炭酸ガスについて記載され、[0052]~[0053]にはアルコール濃度の好ましい範囲が記載され、[0057]には飲料の製造方法について記載されている。
また、[0061]~[0091]には実施例及び比較例の飲料の製造方法、成分含有量、物性及び官能評価結果が記載されている。
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の[0068]~[0077]には実験2~実験4として、リモニンと酢酸ネリルとを併用しクエン酸酸度を0.35~0.85%の間で変動させたときの評価結果が記載され、実験2においてはリモニンと酢酸ネリルの濃度、比率を変動させ、実験3においてはアルコール濃度を変動させ、実験4においては果汁濃度を変動させたことが記載されている。また、[0080]~[0088]には実験6~実験8として、ノミリンと酢酸ネリルとを併用しクエン酸酸度を0.35~0.85%の間で変動させたときの評価結果が記載され、実験6においてはノミリンと酢酸ネリルの濃度、比率を変動させ、実験7においてはアルコール濃度を変動させ、実験8においては果汁濃度を変動させたことが記載されている。さらに、[0090]には実験9としてリモニン、ノミリン及び酢酸ネリルを併用しクエン酸酸度を0.35~0.85%の間で変動させたときの評価結果が記載され、[0066]及び[0078]にはそれぞれ実験1又は実験5としてリモニンのみ又はノミリンのみを用いた比較実験の評価結果が記載されている。
これらの官能評価結果の記載と一般記載における成分の含有量及び作用効果についての記載等を参酌すると、当業者は、果汁含有量が0~20%のアルコールを含有する柑橘風味飲料において、酢酸ネリル含有量(ppm)/〔リモニン含有量(ppb)+ノミリン含有量(ppb)〕の比率が一般記載において好ましいとされている0.000005~1.5であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積%であるとの特定事項を満たすことで、「爽やかな柑橘感」及び「ボディを感じる果実感」が良好な柑橘風味を得つつ、「尖った酸味」及び「後を引くえぐみ・雑味」が強くなることが抑制され、発明の課題を解決できるものと認識することができる。また、同様に、当業者は、クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであるアルコールを含有する柑橘風味飲料において、酢酸ネリル含有量(ppm)/〔リモニン含有量(ppb)+ノミリン含有量(ppb)〕の比率が一般記載において好ましいとされている0.000005~1.5であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含むとの特定事項を満たすことで、「爽やかな柑橘感」及び「ボディを感じる果実感」が良好な柑橘風味を得つつ、「尖った酸味」及び「後を引くえぐみ・雑味」が強くなることが抑制され、発明の課題を解決できるものと認識することができる。
そして、本件発明1及び2は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、本件発明1及び2は、いずれも発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1又は2と同様の発明特定事項を備える本件発明9、13、16及び17、並びに請求項1又は2の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明4~8、10~12、14及び15も、本件発明1又は2と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人A及びBの主張について
申立人A及びBは、それぞれ上記第4の1.(3)及び同2.の(2)ア~エのように主張している。また、申立人Aは、令和6年9月11日に提出した意見書において、本件発明9及び16は、本件明細書に記載された実験4及び実験8の実験条件の範囲よりも広く、課題を解決できない発明を包含している可能性が高いこと、及び本件明細書に記載された実施例ではエキス分が4.5質量/体積%のデータしか示されておらず、甲8A(特許権者が令和5年4月20に提出した意見書)に記載された比較例(0.3質量/体積%又は12質量/体積%)によっても、エキス分が0.5~10質量/体積%の範囲で所望の作用効果が得られるとの結論を導くことはできないと主張する。
しかし、上記(4)に記載したとおり、本件明細書に記載された実施例及び比較例の評価結果及び一般記載の説明に接した当業者は、実施例で採用された各成分の含有量及び比率を中心とした一般記載において好ましいとされる範囲であれば、概ね実施例と同様に良好な柑橘風味を得つつ、酸味及び雑味が強くなることを抑制することができ、発明の課題を解決できるものと認識することができる。また、申立人A及びBの主張は、実施例以外では本件発明の課題が解決できないことを証明する具体的な証拠や理論的な根拠に基づくものではないから、上記判断を覆すに足るものではない。
よって、申立人A及びBの主張はいずれも採用することができない。
(6)申立理由3A(サポート要件違反)及び申立理由2B(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1、2及び4~17は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由3A(サポート要件違反)及び申立理由2B(サポート要件違反)により本件発明1、2及び4~17についての特許を取り消すことはできない。
3.申立理由1B(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記2.(3)に記載した事項が記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
当業者は、本件明細書におけるアルコールを含有する柑橘風味飲料の原料とその好ましい含有量及び飲料の製造方法の記載並びに実施例及び比較例の記載等に基づいて、「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料。」及び「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料。」を製造することができ、また、製造されたものをアルコールを含有する柑橘風味飲料として飲食に使用することができることを理解することができる。
そうすると、本件明細書には本件発明1及び2の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1及び2を生産し、かつ、本件発明1及び2を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。請求項1又は2と同様の発明特定事項を備える本件発明9及び13並びに請求項1又は2の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明4~8、10~12、14及び15についても同様の記載があるといえる。
また、同様に、当業者は本件明細書の記載に基づいて、「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を添加して飲料を調製する工程」を含む、「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、柑橘果汁の含有量が0~2.0質量%であり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、アルコールを含有する柑橘風味飲料」の製造方法及び「リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含み、前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であり、クエン酸酸度が0.30~0.85g/100mlであり、エキス分が0.5~10質量/体積%であり、炭酸ガスを含む、アルコールを含有する柑橘風味飲料」の製造方法を使用することができ、また、製造されたものをアルコールを含有する柑橘風味飲料として飲食に使用することができることを理解することができる。
そうすると、本件明細書には本件発明16及び17の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明16及び17の製造方法を使用することができ、かつ、その方法により製造された物を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。
(4)申立人Bの主張について
申立人Bは、上記第4の2.(2)ア~エのように主張しているが、申立人Bの主張は、本件発明1、2及び4~17に実施できない範囲があることを証明する具体的な証拠や理論的な根拠に基づくものではないから、上記判断を覆すに足るものではない。
よって、申立人Bの主張は採用することができない。
(5)申立理由1B(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2及び4~17を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由1B(実施可能要件違反)により本件発明1、2及び4~17についての特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1、2及び4~17についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3、18及び19は本件訂正により削除され、これにより、本件発明3、18及び19についての特許に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700043