特許異議申立
2023-701358
ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料の麦由来の雑味のキレを改善する方法
- 審判番号
- 2023-701358
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-093139
- 登録番号
- 7297402
- 請求日
- 2023年12月22日
- 審決日
- 2024年03月28日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【異議申立人】池田 抄太郎
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C12G) / P1651.121-Y (C12G) / P1651.536-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7297402号発明「ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料の麦由来の雑味のキレを改善する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7297402号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7297402号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年5月9日を出願日とする出願であって、令和5年6月16日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月22日に特許異議申立人 池田 抄太郎(以下「特許異議申立人A」という。)より特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年同月25日に特許異議申立人 山内 慶子(以下「特許異議申立人B」という。)より特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
原料中の麦芽の比率が50質量%以上であり、原料として糖類を含み、前記原料中の前記糖類の比率が30質量%以上であり、
ビールテイスト飲料の糖質含有量が0.5g/100ml以下であり、アルコール度数が3.5v/v%以上6v/v%以下であり、酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記原料中の前記糖類における、単糖類、二糖類及び三糖類の合計比率が50質量%以上である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
麦芽の比率が50質量%以上であり、かつ糖類を含む原料を用い、前記原料中の前記糖類の比率が30質量%以上であり、
ビールテイスト飲料の糖質含有量が0.5g/100ml以下、アルコール度数が3.5v/v%以上6v/v%以下、及び酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
原料として糖類を用いること、前記原料中の前記糖類の比率を30質量%以上とすること、並びに、糖質含有量が0.5g/100ml以下、アルコール度数が3.5v/v%以上6v/v%以下、及び酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下となるように調整することを含む、
原料中の麦芽の比率が50質量%以上であるビールテイスト飲料の、麦由来の雑味のキレを改善する方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 令和5年12月22日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明の課題は、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上でありながら、麦由来の雑味のキレが改善された糖質オフビールテイスト飲料を提供すること」であると認められる。しかし、本件明細書には、酢酸エチル濃度の下限値(10ppm)付近の実施例が開示されておらず、酢酸エチル濃度10ppmの範囲まで、上記課題を解決できることを当業者が認識することができない。したがって、本件特許発明1ないし4は、本件明細書の発明の詳細な説明において、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
(3)申立理由A3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、上記課題を解決できるようにビールテイスト飲料を製造できるように記載されておらず、また、麦由来の雑味のキレが改善できるように記載されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(4)証拠方法
甲第A1号証:特開昭60-237983号公報
甲第A2号証:「ビールの基本技術」、ビール酒造組合国際技術委員会 (BCOJ) 編、財団法人日本醸造協会、2010年4月20日、第46-47頁
甲第A3号証:「澱粉の酵素分解」、応用糖質科学、第1巻第1号、2011年、第17-22頁、日本応用糖質科学会
甲第A4号証:一般社団法人アルコール協会作成の「エタノール水溶液の容量%と比重及び重量%等との関係」、URL:https://www.alcohol.jp/expert/expert_table/09%20youryou%20jyuuryou.pdf
甲第A5号証:乾祐哉、「ビールろ過(1)」、日本醸造協会誌 第96巻第3号、2001年、第151-164頁
甲第A6号証:栗原欣也、「ビール醸造工場における分離・濾過技術」、食品と開発 Vol.36、No.11、2001年11月、第15-17頁
甲第A7号証:吉沢淑ら、「醸造・発酵食品の事典」(初版第2刷)、株式会社朝倉書店、2004年3月1日、第258-259頁
甲第A8号証:日本醸造協会誌、第71巻第7号、1976年、第505-510頁、吉田重厚
甲第A9号証:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、第350-351頁
甲第A10号証:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、第354頁
甲第A11号証:「醸造物の成分」、平成11年12月10日発行、財団法人日本醸造協会、第210-213頁
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。
2 令和5年12月25日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第B2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)証拠方法
甲第B1号証:米国特許3717471号
甲第B2号証:国際公開第2017/038437号
甲第B3号証:日本食品分析センターHP「よくあるご質問」、「栄養成分表示関連」、「炭水化物や糖質は計算とありますが、どのようにして求めるのですか。また、食物繊維との関係はどうなりますか。加えて、表示上の注意点がありますか?」[online]:https://www.jfrl.or.jp/question
甲第B4号証:英独和ビール用語辞典、吉田重厚著、財団法人 日本醸造協会、164-165頁
甲第B5号証:エタノール水溶液の容量%と重量%との換算表、一般社団法人アルコール協会[online]:http://www.alcohol.jp/expert/expert_table/10suiyouekikanzan.pdf
甲第B6号証:醸造物の成分(ビール編)、財団法人 日本醸造協会、210-213頁
甲第B7号証:ビールと発酵の化学~アルコール発酵と香り~、野場重都、化学と教育、第67巻、12号(2019年)、584-587頁、公益社団法人日本化学会
甲第B8号証:市場品データベース「MINTEL」に掲載された「Koff Lite」(記録番号(ID#):909283)、2008年5月掲載
甲第B9号証:市場品データベース「MINTEL」に掲載された「Bighead No Carb Beer」(記録番号(ID#):1167210)、2009年9月掲載
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。
第4 当審の判断
1 申立理由A1(甲第A1号証に基づく進歩性)について
(1)甲第A1号証に記載された事項等
ア 甲第A1号証に記載された事項
甲第A1号証には、「低カロリーアルコール飲料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、摘記にあたり、半角英数字を全角英数字にあらためて表記した。
・「(1) 澱粉加水分解物-この澱粉加水分解物は澱粉の部分的な酵素による加水分解により得られる生成物よりなる-を炭水化物および酵母と混合して該澱粉加水分解物を含有する発酵混合物をつくり、この澱粉加水分解物を含有する発酵混合物を糖化型酵素と接触させ、そして発酵が終了するとき低カロリー飲料を酵母および他の不溶性物から分離することよりなる、酵母による炭水化物の発酵により低カロリーアルコール飲料を製造する方法。」(特許請求の範囲(1))
・「本発明は低カロリーアルコール飲料を製造する改良方法に関する。」(第2頁右上欄第4-5行)
・「本発明にしたがって、酵母による炭水化物の発酵により低カロリーアルコール飲料を製造する方法が提供される。この方法は、澱粉加水分解物を炭水化物および酵母と混合して澱粉加水分解物を含有する発酵混合物をつくることよりなる。この方法に用いられる澱粉加水分解物は、澱粉の酵素による加水分解により得られる生成物からなる。この澱粉加水分解物を含有する発酵混合物は糖化型酵素と接触される。発酵が終了すると、低カロリー飲料は酵母および他の不溶性物から分離される。
さらに、本発明にしたがい、澱粉加水分解物-この澱粉加水分解物は澱粉の部分的な酵素による加水分解により得られる生成物からなる-を麦汁および酵母と混合することよりなる、酵母による麦汁の発酵により低カロリービールを製造する方法が提供される。この澱粉加水分解物を含有する麦汁は糖化型酵素と接触される。発酵が終了すると、低カロリービールは酵母および他の不溶性物から分離される。」(第2頁右下欄第15行-第3頁左上欄第14行)
・「本発明方法は、さらに澱粉加水分解物と糖化型酵素を含有する発酵混合物の処理を包含する。これは、発酵可能な糖をつくるための澱粉加水分解物の糖化およびこの糖のアルコールへの発酵を同時に生ずる。」(第4頁右上欄第9-13行)
「例1
コーンスターチの水性懸濁液を、コネチカット州ヴィルトン(Wilton)のノボ・ラボラトリース(Novo Laboratories)から手に入れることのできるバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)からのα-アミラーゼ酵素であるターマミル(TERMAMYL)とともに加熱することによって約10のD.E.をもつ液化し希薄化した澱粉が調製された。この方法は米国特許第3912590号明細書に記載の一般的方法に従った。液化した澱粉溶液は、さらにグルコアミラーゼ酵素で糖化された。糖化は、乾燥固体基準で炭水化物のgあたり0.15単位のグルコアミラーゼを使用してpH4.3、60℃で約1時間行なわれた。この使用したグルコアミラーゼはニューヨーク州ニューヨークのペン・プラザ(Penn Plaza)2のザ・エンザイム・ディベロプメント・カンパニィ(the Enzyme Development Company)からG-ZYMEとして手に入れることのできるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)により生産された市販のグルコアミラーゼであった。この混合物は20分間煮沸され、そして珪藻土濾過助剤の添加後に濾過された。この澱粉加水分解物は37.4のD.E.をもつことが分析で示された。
乾燥物質60gを含有する澱粉加水分解物の溶液に、80gの乾燥醸造用麦汁〔イリノイ州エルムールスト(Elmhurst)のワインメーカース(Winemakers)より手に入れることができる〕、1gのホップ、および全量を800mlとするのに十分な水が添加された。この混合物は沸騰している湯浴中で1時間攪拌され、ついで冷却され、そして殺菌蒸留水の添加により1000mlに調整された。この麦汁および澱粉加水分解物の混合物250mlに、7.5単位のG-ZYME(商標)というグルコアミラーゼ(加水分解物のgあたり0.5単位)および5gの蒸留酒製造業者用の活性乾燥酵母〔ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee)のユニバーサル・フード・コーポレーション(Universal Food Corp.)のレッド・スター・ディビジョン(Red Star Division)〕が添加された。この混合物は、500mlのフラスコ中で15~16℃で5日間低速電磁攪拌機により攪拌された。このフラスコは発生したガスを解放するための手段を備えていた。5日後に、この混合物は濾過され、そして高性能液体クロマトグラフィーにより分析された。
比較のために、グルコアミラーゼが添加されていない溶液を使用して上記の実験が繰返された。さらに比較のために、澱粉加水分解物が、澱粉の酸/酵素加水分解または酸加水分解により調製された市販のコーンシラップに置き換えられた。
第I表の結果は、本発明方法により得られたビールは、グルコアミラーゼを使用しないで得られたビールまたはグルコアミラーゼと市販のコーンシラップの混合物を使用して得られたビールよりも多いアルコールと少ない残留炭水化物を含有することを示す。」(第5頁左上欄第3行-第5頁左下欄末行)
・「
[図:0001409179000001.jpg]
」(第6頁第I表)
・「例2
乾燥麦汁の代りに、麦芽エキス〔オハイオ州クリーブランド(Cleveland)のドーバー・ヴィンヤーヅ・インコーポレーテッド(Dover Vineyards Inc.)により輸入され配布されているドイツのハンスベルグ・エッキスポート(Hansberg Export)の麦芽エキス〕を使用する以外は、例1に記載の方法が繰返された。これらの実験の結果は、第II表に示すとおりで、出発材料として乾燥麦汁を使用したときに観察された結果と同様である。」(第6頁左下欄第1行-末行)
・「
[図:0001409179000002.jpg]
」(第7頁第II表)
イ 甲第A1号証に記載された発明
甲第A1号証に記載された事項を、特に例1に関して整理すると、甲第A1号証には次の発明(以下、順に「甲A1発明」、「甲A1製法発明」という。)が記載されていると認める。なお、例2に関しても同様に整理される。
<甲A1発明>
「乾燥物質60gを含有し、37.4のD.E.をもつ澱粉加水分解物の溶液に、80gの乾燥醸造用麦汁〔イリノイ州エルムールスト(Elmhurst)のワインメーカース(Winemakers)より手に入れることができる〕、1gのホップ、および全量を800mlとするのに十分な水を添加し、沸騰している湯浴中で1時間攪拌され、ついで冷却され、そして殺菌蒸留水の添加により1000mlに調整され、この麦汁および澱粉加水分解物の混合物250mlに、7.5単位のG-ZYME(商標)というグルコアミラーゼ(加水分解物のgあたり0.5単位)および5gの蒸留酒製造業者用の活性乾燥酵母〔ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee)のユニバーサル・フード・コーポレーション(Universal Food Corp.)のレッド・スター・ディビジョン(Red Star Division)〕を添加する方法により得られた、最後の炭水化物が0.37g/100ml及びエタノールが6.36g/100mlであるビール。」
<甲A1製法発明>
「甲A1発明の製造方法。」
なお、甲第A1号証の記載から「麦由来の雑味のキレを改善する方法。」に対応する発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A1発明を対比する。
甲A1発明における「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1-1>
本件特許発明1は、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上」とあるのに対して、甲A1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-2>
本件特許発明1は、「原料として糖類を含み、前記原料中の前記糖類の比率が30質量%以上」とあるのに対して、甲A1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-3>
本件特許発明1は、「糖質含有量が0.5g/100ml以下」とあるのに対して、甲A1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-4>
本件特許発明1は、「アルコール度数が3.5v/v%以上6v/v%以下」とあるのに対して、甲A1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-5>
本件特許発明1は、「酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下」とあるのに対して、甲A1発明は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点A1-4について検討する。
甲A1発明は、「エタノールが6.36g/100mlであ」り、甲第A4号証より、アルコール度数は約8v/v%である。よって、相違点A1-4は実質的な相違点である。
また、甲第A1号証及び他の証拠には、甲A1発明において相違点A1-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲A1発明において、相違点A1-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「原料中の麦芽の比率が50質量%以上でありながら、麦由来の雑味のキレが改善された糖質オフビールテイスト飲料を提供することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0016】)という効果は、甲A1発明並びに甲第A1号証及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人Aは、「甲第1号証の記載に基づき、得られた低カロリービールの濃度を製品に適した範囲にまで希釈することは、当業者が通常行うことであり、当業者の設計事項である」と主張するが、甲第A1号証及び他の証拠には、甲A1発明において、アルコール度数を敢えて3.5v/v%以上6v/v%以下に希釈することの動機付けとなる記載はないし、そのようにした場合に、本件特許発明1の上記効果が得られることを予測させる記載もない。
したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1発明並びに甲第A1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1発明並びに甲第A1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A1製法発明を対比すると、上記(2)と同様のことがいえるから、本件特許発明3は、甲A1製法発明並びに甲第A1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
上記(1)イで述べたとおり、甲第A1号証の記載から「麦由来の雑味のキレを改善する方法。」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明4は、甲第A1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由A1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由A2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上でありながら、麦由来の雑味のキレが改善された糖質オフビールテイスト飲料を提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】には「本発明者らは、原料として糖類を使用することにより、原料中の麦芽比率が50質量%以上である糖質オフビールテイスト飲料の、麦由来の雑味のキレを改善できることを見出した。」と記載され、【0008】には、「すなわち本発明のビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が50質量%以上であり、原料として糖類を含み、ビールテイスト飲料の糖質含有量が1.0g/100ml以下である。上記ビールテイスト飲料は、麦由来の雑味のキレに優れる。」と記載され、【0014】には「本発明はまた、麦芽の比率が50質量%以上であり、かつ糖類を含む原料を用い、ビールテイスト飲料の糖質含有量が1.0g/100ml以下となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法を提供する。上記製造方法により、麦由来の雑味のキレに優れたビールテイスト飲料を製造することができる。」と記載され、【0015】には「本発明はまた、原料として糖類を用いること、及び糖質含有量が1.0g/100ml以下となるように調節することを含む、原料中の麦芽の比率が50質量%以上であるビールテイスト飲料の、麦由来の雑味のキレを改善する方法を提供する。」と記載され、【0022】には「ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の下限は、・・・(略)・・・3.5v/v%以上・・・(略)・・・であってよい。また、ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の上限は、・・・(略)・・・6v/v%以下・・・(略)・・・であってよい。 」と記載され、【0029】には「 本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の糖類における、単糖類、二糖類及び三糖類の合計比率が50質量%以上・・・(略)・・・であってもよい。」と記載され、【0033】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸エチルの濃度は、例えば100ppm以下であってよい。ビールテイスト飲料の酢酸エチルの濃度は、50ppm以下であることが好ましい。酢酸エチルの濃度が50ppm以下であると、ビールテイスト飲料の麦由来の雑味のキレを更に改善することができ、かつ香味の最大強度からの落差を更に大きくすることができる。酢酸エチルの濃度は、40ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましい。酢酸エチルの濃度を上記範囲に設定することにより、ビールテイスト飲料の麦由来の雑味のキレ、香味の最大強度からの落差、及び麦由来の味わいをより改善することができる。酢酸エチルの濃度は、例えば5ppm以上、10ppm以上又は15ppm以上であってよい。」と記載され、【0036】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、糖質含有量が1.0g/100ml以下であり、0.9g/100ml以下、0.8g/100ml以下、0.7g/100ml以下、0.6g/100ml以下、0.5g/100ml以下、0.5g/100ml未満、0.4g/100ml以下又は0.3g/100ml以下であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、糖質含有量が0.1g/100ml以上、0.2g/100ml以上、0.3g/100ml以上、0.4g/100ml以上又は0.5g/100ml以上であってもよい。ビールテイスト飲料の糖質含有量は、公知の方法によって調整することができ、例えば、製造工程における酵素(特に多糖分解酵素)の添加量、原料の種類及び使用量等を調整することによって所望の程度に低減することができる。」と記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0052】ないし【0067】には本件特許発明の実施形態について説明があり、【0016】には本件特許発明による発明の効果が記載されている。
そうすると、当業者は、ビールテイスト飲料及びその製造方法、ビールテイスト飲料の麦由来の雑味のキレを改善する方法において、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上」であり、原料として「糖類」を含み、「ビールテイスト飲料の糖質含有量が1.0g/100ml以下」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は上記発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、当然に発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
なお、特許異議申立人Aは、上記第3 1(2)のとおり主張するが、本件特許発明1ないし4がサポート要件を満たすのは上記検討のとおりであって、特許異議申立人Aの主張の当否はこのような判断を何ら左右しない。
(3)申立理由A2についてのむすび
本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由A3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1及び2は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明3は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明4は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし4の各発明特定事項について具体的に記載され、本件特許発明1ないし4の実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし2を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明3を使用し、本件特許発明3により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明4を使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
なお、特許異議申立人Aは、上記第3 1(3)のとおり主張するが、本件特許発明1ないし4が実施可能要件を満たすのは上記検討のとおりであって、特許異議申立人Aの主張の当否はこのような判断を何ら左右しない。
(3)申立理由A3についてのむすび
本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性)について
(1)甲第B1号証に記載された事項等
ア 甲第B1号証に記載された事項
甲第B1号証には、「PREPARATION OF A LOW CARBOHYDRATE BEER」(低炭水化物ビールの製造)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲第B1号証は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。
・「実施例2
実施例1の麦芽を大規模なビール製造に使用した。麦芽は、約80%が2mmのふるい目を有する10号米国ふるいシリーズスクリーン上に残るように粉砕された。
最初の麦芽3400ポンドを85バレルの水と5ポンドのタンパク質分解酵素(Mashase、ファイザー社製)と混合し、攪拌しながら38℃に1時間維持した。その後、マッシュを麦汁ろ過槽に入れ、15分間静置した。その後、麦汁ろ過を開始した。麦汁は10分間循環させた後、澱粉変換のために麦汁を約65℃に保つように加熱したケトルに集めた。ろ過中、麦汁には2900ポンドのグルコースと1ポンドの糖化酵素(HT-1000、Miles Laboratories社製)が加えられた。ロイター内の液面は約30分で穀物床まで下がり、その後38℃の醸造用水を加え、合計約140バレルの麦汁がケトル内に溜まるまで回収した。追加の醸造用水を直接ケトルに流し、165バレルにした。
麦汁を1時間30分煮沸し、その間に36ポンドのホップを加えた。そのうち12ポンドを煮沸30分後、24ポンドを煮沸1時間25分後に加えた。麦汁は約12℃まで冷却された。麦汁は8.9プラトーの冷却エキスと0.47%のタンパク質含量を有していた。
2回目の麦芽3400ポンドを1回目と同じ方法で糖化した。糖化後、最初の50バレルのエキスを回収した。2700ポンドのグルコースと0.75ポンドの糖化酵素(HT-1000)を麦汁に加え、澱粉変換のために約65℃に保った。
総麦汁量が約160バレルになるように水を加え、最初の麦汁と同様に煮沸とホップ添加を行った。第2麦汁の冷却エキスは7.4プラトーで、タンパク質含量は0.31%であった。
最初の麦汁と2番目の麦汁を合わせて、総容量は300バレルになった。この麦汁のタンパク質含有率は0.40%、冷却エキスは8.15 プラトーであった。この麦汁に5ポンドの糖化酵素(Brewers Fermex, Wallerstein Company社製)を添加し、麦汁にビール酵母を1バレル当たり1ポンドの割合で投入した。麦汁は9~11℃で9日間発酵させ、その後2日間放置した。その後、一部をろ過し、分析用に瓶詰めした。ビールの分析結果を表3に示す。
表3
リアルエキス、% 1.12
アルコール、% 3.49
色度、°Lov. 2.7
pH 4.00
タンパク質、% 0.21
還元糖、%マルトース 0.39
デキストリン、% 0.05
R.D.F.、% 85.2
泡、シグマ 81
灰分、% 0.10
炭水化物/タンパク質比 3.6/1
カロリー/12オンス 102.6
炭水化物カロリー/オンス 0.96」
イ 甲第B1号証に記載された発明
甲第B1号証に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲第B1号証には次の発明(以下、順に「甲B1発明」、「甲B1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B1発明>
「最初の麦芽3400ポンドを85バレルの水と5ポンドのタンパク質分解酵素(Mashase、ファイザー社製)と混合し、攪拌しながら38℃に1時間維持し、マッシュを麦汁ろ過槽に入れ、15分間静置し、麦汁ろ過を開始し、麦汁は10分間循環させた後、澱粉変換のために麦汁を約65℃に保つように加熱したケトルに集め、ろ過中、麦汁には2900ポンドのグルコースと1ポンドの糖化酵素(HT-1000、Miles Laboratories社製)が加えられ、その後38℃の醸造用水を加え、合計約140バレルの麦汁がケトル内に溜まるまで回収し、追加の醸造用水を直接ケトルに流し、165バレルにし、麦汁を1時間30分煮沸し、その間に36ポンドのホップを加え、そのうち12ポンドを煮沸30分後、24ポンドを煮沸1時間25分後に加え、麦汁は約12℃まで冷却され、2回目の麦芽3400ポンドを1回目と同じ方法で糖化し、糖化後、最初の50バレルのエキスを回収し、2700ポンドのグルコースと0.75ポンドの糖化酵素(HT-1000)を麦汁に加え、澱粉変換のために約65℃に保ち、総麦汁量が約160バレルになるように水を加え、最初の麦汁と同様に煮沸とホップ添加を行い、最初の麦汁と2番目の麦汁を合わせて、総容量は300バレルになった麦汁に5ポンドの糖化酵素(Brewers Fermex, Wallerstein Company社製)を添加し、麦汁にビール酵母を1バレル当たり1ポンドの割合で投入し、麦汁は9~11℃で9日間発酵させ、その後2日間放置し、その後、一部をろ過し、瓶詰めした、アルコールが3.49%、タンパク質が0.21%及び炭水化物/タンパク質比が3.6/1であるビール。」
<甲B1製法発明>
「甲B1発明の製造方法。」
なお、甲第B1号証の記載から「麦由来の雑味のキレを改善する方法。」に対応する発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B1発明を対比する。
甲B1発明における「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B1-1>
本件特許発明1は、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上」とあるのに対して、甲B1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-2>
本件特許発明1は、「原料として糖類を含み、前記原料中の前記糖類の比率が30質量%以上」とあるのに対して、甲B1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-3>
本件特許発明1は、「糖質含有量が0.5g/100ml以下」とあるのに対して、甲B1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-4>
本件特許発明1は、「アルコール度数が3.5v/v%以上6v/v%以下」とあるのに対して、甲B1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-5>
本件特許発明1は、「酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下」とあるのに対して、甲B1発明は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点B1-3について検討する。
甲B1発明は、「タンパク質が0.21%及び炭水化物/タンパク質比が3.6/1であ」り、炭水化物含有量は(0.21×3.6=)0.756g/100mlである。そして、甲第B3号証より、炭水化物は糖質及び食物繊維からなり、甲第B4号証より、標準的なビールに含まれる食物繊維の含有量は0.15~0.2g/100mlであるから、甲B1発明における糖質含有量は、0.556~0.606g/100mlである。よって、相違点B1-3は実質的な相違点である。
また、甲第B1号証及び他の証拠には、甲B1発明において相違点B1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲B1発明において、相違点B1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「原料中の麦芽の比率が50質量%以上でありながら、麦由来の雑味のキレが改善された糖質オフビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は、甲B1発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人Bは、「甲1の発明は低炭水化物ビール(甲1の発明の名称)であり、炭水化物の含有量をより低下させることに動機付けられるから、甲1飲料発明の糖質含有量を少しだけ減少させて0.50g/100ml以下に微調整することは当業者の設計事項である」と主張するが、甲第B1号証及び他の証拠には、甲B1発明において、糖質含有量を敢えて0.50g/100ml以下に調整することの動機付けとなる記載はないし、そのようにした場合に、本件特許発明1の上記効果が得られることを予測させる記載もない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B1発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B1発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B1製法発明を対比すると、上記(2)と同様のことがいえるから、本件特許発明3は、甲B1製法発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
上記(1)イで述べたとおり、甲第B1号証の記載から「麦由来の雑味のキレを改善する方法。」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明4は、甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由B1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B1によっては取り消すことはできない。
5 申立理由B2(甲第B2号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲第B2号証に記載された事項等
ア 甲第B2号証に記載された事項
甲第B2号証には、「ビール様発泡性飲料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「[0010] 本発明により、ビールらしさとコクに優れ、かつ低糖質であり、軽快感にも優れるビール様発泡性飲料を提供できる。」
・「[0064][実施例4]
原料として麦芽、水4000mL、グルコアミラーゼ(アマノエンザイム社、「グルクザイムNLP」)15g、及びプルラナーゼ(アマノエンザイム社、「アマノ3」)15gを混合した。グルコアミラーゼの添加量は、麦芽1gあたり63Uであり、プルラナーゼの添加量は、麦芽1gあたり45.0Uであった。得られた混合物を62℃で240分間、その後76℃で5分間加熱処理する仕込みダイアグラムで仕込を行い、マイシェ液を得た。得られたマイシェ液を濾過した後、ホップ1g、硫酸アンモニウム0.3w/v%、酵母エキス0.1w/v%、及びショ糖を添加して30分間煮沸し、麦汁を得た。得られた麦汁を発酵させて濾過し、ビール様発泡性飲料を得た。各飲料において、使用した麦芽とショ糖の使用量、及び麦芽使用比率(麦芽とショ糖の合計使用量に対する麦芽の使用量の比率)を表4に示す。
[0065] 得られた各ビール様発泡性飲料の糖質とプロリンの含有量を測定した。測定結果を表4に示す。
また、各ビール様発泡性飲料のビールらしさ、コク、軽快さ、及び総合評価について官能評価を行った。官能評価は、3名の専門パネリストが、各ビール様発泡性飲料をそれぞれブラインドで官能試飲を行い、下記に示す5段階で評価した。評価結果を表4に示す。」
・「[0070][表4]
[図:0001409179000003.jpg]
[0071] この結果、サンプル1~6の全て、糖質含有量は0.3g/100mLであった。また、プロリン含有量は、麦芽使用比率が高いほど多くなっていた。官能評価は、サンプル1~6のいずれも、軽快さの評価が高かったが、ビールらしさとコクの評価は、麦芽使用比率が高いほど高くなり、総合評価も麦芽使用比率が高いほど高くなった。」
イ 甲第B2号証に記載された発明
甲第B2号証に記載された事項を、特に実施例4のサンプル4に関して整理すると、甲第B2号証には次の発明(以下、順に「甲B2発明」「甲B2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B2発明>
「麦芽使用量が250g、ショ糖使用量が250g、麦芽使用比率が50%及び糖質が0.3g/100mlであるビール様発泡性飲料。」
<甲B2製法発明>
「甲B2発明の製造方法。」
なお、甲第B2号証の記載から「麦由来の雑味のキレを改善する方法。」に対応する発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B2発明を対比する。
甲B2発明は、「麦芽使用量が250g、ショ糖使用量が250g、麦芽使用比率が50%」であるから、本件特許発明1における「原料中の麦芽の比率が50質量%以上であり、原料として糖類を含み、前記原料中の前記糖類の比率が30質量%以上であり」との特定事項を満たす。
甲B2発明は、「糖質が0.3g/100ml」であるから、本件特許発明1における「糖質含有量が0.5g/100ml以下であり」との特定事項を満たす。
甲B2発明における「ビール様発泡性飲料」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「原料中の麦芽の比率が50質量%以上であり、原料として糖類を含み、前記原料中の前記糖類の比率が30質量%以上であり、
ビールテイスト飲料の糖質含有量が0.5g/100ml以下である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B2-1>
本件特許発明1は、「アルコール度数が3.5v/v%以上6v/v%以下」とあるのに対して、甲B2発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点B2-2>
本件特許発明1は、「酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下」とあるのに対して、甲B2発明は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点B2-2について検討する。
相違点B2-2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲B2発明ではない。
また、甲第B2号証及び他の証拠には、甲B2発明において相違点B2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲B2発明において、相違点B2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「原料中の麦芽の比率が50質量%以上でありながら、麦由来の雑味のキレが改善された糖質オフビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は、甲B2発明並びに甲第B2号証及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人Bは、「甲2飲料発明の酢酸エチル濃度も、10ppm以上30ppm以下の数値範囲に含まれている蓋然性が高い」と主張するが、上記したとおり、甲B2発明は、「酢酸エチル濃度が10ppm以上30ppm以下」との特定事項を満たさないものであるし、甲第B2号証及び他の証拠には、甲B2発明において、酸エチル濃度を10ppm以上30ppm以下に調整した場合に、本件特許発明1の上記効果が得られることを予測させる記載もない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B2発明であるとはいえないし、甲B2発明並びに甲第B2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B2発明であるとはいえないし、甲B2発明並びに甲第B2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B2製法発明を対比すると、上記(2)と同様のことがいえるから、本件特許発明3は、甲B2製法発明であるとはいえないし、甲B2製法発明並びに甲第B2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
上記(1)イで述べたとおり、甲第B2号証の記載から「麦由来の雑味のキレを改善する方法。」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明4は、甲第B2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第B2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由B2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B2によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701358