特許異議申立
2025-700608
高アルコールビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2025-700608
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-057627
- 登録番号
- 7598199
- 請求日
- 2025年06月09日
- 審決日
- 2025年12月01日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 柴田 昌弘
- 分類
- P1651.113-Y (C12G) / P1651.121-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7598199号発明「高アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7598199号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7598199号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和2年3月27日を出願日とする出願であって、令和6年12月3日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年6月9日に特許異議申立人 山崎 浩一郎(当審注:「崎」の字は、右上が「立」)(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年同月11日に特許異議申立人 山内 慶子(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年7月16日付けで特許異議申立人Aに対して手続補正指令(方式)がなされ、同年8月1日に特許異議申立人Aから手続補正書(方式)が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
コハク酸及びカプリル酸エチルを含有し、
コハク酸濃度をX(mg/L)及びカプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに、X及びYが下記式(1)~(3)の関係を満たし、
アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)。
(1)60≦X≦450
(2)0.15≦Y≦7
(3)Y≧(-1/50)X+2
【請求項2】
X及びYが更に下記式(4)及び(5)の関係を満たす、請求項1に記載の高アルコールビールテイスト飲料。
(4)X≦300
(5)Y≧(-67/2400)X+207/40
【請求項3】
X及びYが更に下記式(6)及び(7)の関係を満たす、請求項2に記載の高アルコールビールテイスト飲料。
(6)X≧180
(7)Y≧1
【請求項4】
高アルコールビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)の製造方法であって、
前記高アルコールビールテイスト飲料中のコハク酸濃度をX(mg/L)及びカプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに、X及びYが下記式(1)~(3)の関係を満たすようにコハク酸濃度及びカプリル酸エチル濃度を調整する工程を含み、
前記高アルコールビールテイスト飲料のアルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、製造方法。
(1)60≦X≦450
(2)0.15≦Y≦7
(3)Y≧(-1/50)X+2
【請求項5】
コハク酸及びカプリル酸エチルを含有し、
コハク酸濃度をX(mg/L)及びカプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに、X及びYが下記式(1)~(3)の関係を満たし、
アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料。
(1)60≦X≦450
(2)0.15≦Y≦3.5
(3)Y≧(-1/50)X+2
【請求項6】
X及びYが更に下記式(4)及び(5)の関係を満たす、請求項5に記載の高アルコールビールテイスト飲料。
(4)X≦300
(5)Y≧(-67/2400)X+207/40
【請求項7】
X及びYが更に下記式(6)及び(7)の関係を満たす、請求項6に記載の高アルコールビールテイスト飲料。
(6)X≧180
(7)Y≧1」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
1 特許異議申立人Aによる特許異議の申立ての理由の概要等
令和7年6月9日に特許異議申立人Aが提出し、同年8月1日付け手続補正書(方式)で補正した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 拒絶査定の理由2について
拒絶査定の理由2で指摘されたコハク酸及びカプリル酸エチル以外の成分の影響について、甲A13号証には、単独では香味に寄与しない50種以上の成分の相乗的な寄与が、ビールの香りの‘構造’を完成させていることが記載されており、カプリル酸エチルのビール香気に与える影響は、他の有機酸やエステル等の他の香気成分とのバランスによって決まることから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件特許の発明の詳細な説明」という。)の実施例で示された官能評価の結果は、当該実施例で用いた特定の市販のビールテイスト飲料をベースとして用いた場合についてのみいえるものであり、本件特許発明1ないし7の全ての範囲にまで拡張ないし一般化することはできない。
イ アルコール度数の範囲について
本件特許の発明の詳細な説明の試験例2及び試験例3では、アルコールを2倍濃度にしたことにより増強したアルコール感を和らげることができていないので、アルコール感が一層強く感じられると想定される20v/v%にアルコール量を増やしたときに所望の効果を期待できるとは到底いえないから、本件特許の明細書に示されるアルコール度数10v/v%の実施例による結果を、20v/v%の範囲まで拡張することができるとはいえない。
ウ 課題を解決できない範囲を含むことについて
本件特許発明1ないし3は、総合評価がB~Dであり、個別の官能評価項目についてネガティブな評点(3未満)がある試験例を含んでおり、課題を解決していないビールテイスト飲料を含んでいるから、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
(3)証拠方法
甲第A1号証:S. R. Johnson et al., Beverages, 2017, 3, 21 (doi:10.3390/beverages3020021), p.1-10
甲第A2号証:D. E. Briggs et al., Brewing Science and Practice, Woodhead Publishing Limited and CRC Press, LLC, 2004 Sep.28
甲第A3号証:M. C. Meilgaard, J. Agric. Food Chem., 1982, 30(6), p.1009-1017
甲第A4号証:IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, No.44, Alcohol Drinking, 1988, International Agency for Research on Cancer, p.1/20-5/20
甲第A5号証:Lumex Instrumentsホームページ、Determination of Organic Acids in Beverages, URL:www.lumexinstruments.com
甲第A6号証:T. Tyrell, Journal of the American Society of Brewing Chemists, 2014, 72(4), URL:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1094/ASBCJ-2014-1010-01
甲第A7号証:T. Tyrell et al., Brewing Science, 2013, 66(7), p.75-84
甲第A8号証:I. M. Ferreira et al., Fermentation, 2018, 4, 23, (doi:10.3390/fermentation4020023)
甲第A9号証:K. T. Witrick et al., beverages, 2017, 3, 51, (doi:10.3390/beverages3040051)
甲第A10号証:特許第6567396号公報
甲第A11号証:特許第6567134号公報
甲第A12号証:N. Segebarth et al., Analysis and Characterisation of Alcoholic Products (ACAP) / FISCALIS Project Group ― Final Report, European Commission, Joint Research Centre (JRC), Institute for Health and Consumer Protection, 2008, p.4/31-5/31
甲第A13号証:岸本徹、ビールの香り:その‘構造 ’を解き明かす 76成分によるビール香気の再構築、化学と生物、Vol.56, No. 10、(2018)、p.659-664
なお、証拠の表記については、特許異議申立書Aの記載に概ね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bによる特許異議の申立ての理由の概要等
令和7年6月11日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1、4ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、4ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 市販の発泡酒にスピリッツを添加した試験例しかないことについて
本件特許の発明の詳細な説明に記載された試験例1~10は、市販の発泡酒にスピリッツ等を加えた高アルコールビールテイスト飲料であり、発泡酒及びスピリッツの原材料、製造方法、成分組成が不明であり、原材料や製造方法、成分組成によってビールテイスト飲料の風味が異なることは明らかであるから、実施例で示された特定の高アルコールビールテイスト飲料の試験結果を、本件特許発明の範囲まで、拡張ないし一般化することはできない。
イ 高アルコール度数について
本件特許発明1~4は、清酒酵母により発酵されたものが除かれているが、本件特許の発明の詳細な説明には、清酒酵母以外のどのような酵母をどのように発酵させてアルコール度数10v/v%以上を実現するのか全く記載されていないので、どのような原材料を配合し、どのような酵母を選択し、どのような発酵条件で発酵させれば課題を解決できるのか不明である。
ウ 除くクレームについて
本件特許の発明の詳細な説明に記載された試験例1~10で用いられた発泡酒やスピリッツが清酒酵母を発酵させて製造された可能性もあり、その場合、清酒酵母により発酵されたものが除かれた本件特許発明1~4が試験例1~10と同様に課題を解決できるかどうか不明である。
(4)申立理由B4(明確性)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
請求項1および4に記載された「清酒酵母により発酵されたもの」が、具体的にどのようなものまで含むのか、「清酒酵母」の範囲や清酒酵母だけを用いて発酵されたもののみであるのか、が明確でない。さらに、「但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。」という記載は、どのような態様のものを意味するのか説明されていないから、本件特許発明1ないし4は明確でない。
(5)証拠方法
甲第B1号証:国際公開第2002/055652号
甲第B2号証:財団法人日本醸造協会編、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、p.210-211
甲第B3号証:特開2012-16301号公報
甲第B4号証: ビール酒造組合国際技術委員会[分析委員会]編、改訂BCOJビール分析法、8.5エキス関係計算法、2013年増補改訂版、公益財団法人日本醸造協会
甲第B5-1号証:特開2019-205424号公報
甲第B5-2号証:特許第6458184号公報
甲第B5-3号証:国際公開第2020/031376号
甲第B5-4号証:国際公開第2020/031375号
甲第B5-5号証:国際公開第2019/193676号
甲第B5-6号証:国際公開第2019/193675号
甲第B6号証:Stefano Buiatti, 20 Beer Composition: An Overview, Beer in Health and Disease Prevention, Elsevier, 2009, p.213-225
なお、証拠の表記については、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は、申立理由A1及びA2並びに申立理由B1ないしB4には、以下のとおり理由がないと判断する。
1 申立理由A1(甲A1を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、ビール試料の分析のための相補的な手法としての核磁気共鳴法及び上部空間の固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフィーについて、次の記載がある。なお、甲A1は外国語で記載された書面であるから、本文については訳文にて記す。
・「2.実験
9つのビール試料を地ビール醸造所から入手し、分析までHDPEボトルに入れて4℃で保存した。各試料の特徴を表1に示す。」(2頁下から3行から末行)
・「
[図:0001430029000001.jpg]
」(3頁Table 1)
・「
[図:0001430029000002.jpg]
」(5頁Table 3)
・「
[図:0001430029000003.jpg]
」(6頁Table 5)
イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に、試料1のベルギーエールについて整理すると、甲A1には次の発明(以下、順に「甲A1飲料発明」及び「甲A1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A1飲料発明>
「コハク酸及びカプリル酸エチルを含有し、コハク酸濃度が299mg/Lであり、カプリル酸エチル濃度が1.6mg/Lであり、エタノール濃度が6.6v/v%である、試料1のベルギーエール。」(当審注:試料1については、上記アを参照。)
<甲A1製法発明>
「甲A1飲料発明の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲A1飲料発明の「ベルギーエール」は、本件特許発明1の「高アルコールビールテイスト飲料」と、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。そして、甲A1飲料発明のコハク酸濃度が299mg/Lであるから、本件特許の請求項1に記載された式(1)(以下、「式(1)」という。)の関係を満たすといえ、甲A1飲料発明のカプリル酸エチル濃度が1.6mg/Lであるから、本件特許の請求項1に記載された式(2)(以下、「式(2)」という。)の関係を満たすといえる。さらに、甲A1飲料発明について、本件特許の請求項1に記載された式(3)(以下、「式(3)」という。)の右辺を計算すると、-3.98(-1/50*299+2=-3.98)となり、甲A1飲料発明のカプリル酸エチル濃度(1.6mg/L)以下であることは明らかであるから、甲A1飲料発明は、式(3)の関係を満たすといえる。また、甲A1飲料発明はベルギーエールであるから、ビール酵母で発酵されたものであり、本件特許発明1の「飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)」という発明特定事項を満たすことは明らかである。
そうすると、本件特許発明1と甲A1飲料発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「コハク酸及びカプリル酸エチルを含有し、コハク酸濃度をX(mg/L)及びカプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに、X及びYが下記式(1)~(3)の関係を満たす、ビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)。
(1)60≦X≦450
(2)0.15≦Y≦7
(3)Y≧(-1/50)X+2」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A1-1>
本件特許発明1は「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である」のに対し、甲A1飲料発明は「エタノール濃度が6.6v/v%である」点。
<相違点A1-2>
本件特許発明1は「高アルコールビールテイスト飲料」であるのに対し、甲A1飲料発明はそのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点A1-1について検討する。
甲A1及び他の証拠をみても、地ビール醸造所から入手された甲A1飲料発明のビールテイスト飲料においてアルコール度数を10v/v%以上20v/v%以下に変更する動機はない。そして、アルコール感が低減されると共に好ましい甘味が感じられ、飲料としての飲みやすさに優れる高アルコールビールテイスト飲料を提供できるという本件特許発明の効果は、本件特許発明1の構成から当業者が予期し得る範囲を超えた顕著なものである。
よって、甲A1飲料発明において、相違点A1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人Aの主張について
(ア)特許異議申立人Aの主張
特許異議申立人Aは特許異議申立書A(26-28頁)において、上記相違点A1-1について以下の主張をしている。
甲A10(【0002】及び【0004】)には、様々な個性や嗜好性の高さに応じるため高アルコール度数の発酵麦芽飲料が提供されることが記載され、甲A11(【0005】)には「アルコール度数の高い飲料」に対するニーズが存在すること及びアルコール度数を8~20v/v%とするとビールテイスト飲料の爽快感が増強することが記載されているから、甲A1飲料発明において、爽快感を増強させること等を目的としてアルコール度数を10~20v/v%とすることに何ら困難性はない。
また、高アルコール度数のビールテイスト飲料においては、アルコール由来の辛みや飲みにくさの課題が存在するところ(甲A10)、過剰なコハク酸はビールの飲みやすさを損なったり(甲A6)、胃酸分泌を促進して胸焼けなどを催す原因となり得るため(甲A7)、ビール中のコハク酸量には適切な上限や範囲があることが知られており、甲A8によれば、ビールに含まれるカプリル酸エチルはリンゴの香りを付与する成分として知られていたので、アルコール度数を高めたときに、より飲みやすく香味に優れたものを得るために、コハク酸及びカプリル酸エチルに着目し、その含有量を適切な範囲に調整することは当業者が容易になしえたことである。
(イ)当審の判断
甲A10及び甲A11に記載された「アルコール度数の高い飲料」に対するニーズが一般に存在するとしても、地ビール醸造所で入手された特定のベルギーエールである甲A1飲料発明において、アルコール度数を10~20v/v%とする動機付けがあるとはいえない。また、アルコール度数を高くした際に、アルコール由来の辛みや飲みにくさの課題が存在することが当業者に知られていたとしても、多くの有機酸や香気成分の中から特にコハク酸とカプリル酸エチルに着目し、式(1)~(3)の関係を満たす範囲の濃度にする動機付けがあるとはいえないし、これによる効果も当業者が予期し得る範囲を超えたものである。
よって、特許異議申立人Aの主張は採用できない。
エ 本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲A1飲料発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本件特許発明2及び3は、甲A1飲料発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明4と甲A1製法発明とを対比すると、上記(2)アと同様の相当関係があるといえるから、甲A1製法発明は「ビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)の製造方法」であるといえ、甲A1製法発明は、ビールテイスト飲料中のコハク酸濃度及びカプリル酸エチル濃度が請求項4記載の式(1)~(3)の関係を満たすように調整する工程を含むといえる。
そうすると、本件特許発明4と甲A1製法発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)の製造方法であって、ビールテイスト飲料中のコハク酸濃度をX(mg/L)及びカプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに、X及びYが下記式(1)~(3)の関係を満たすようにコハク酸濃度及びカプリル酸エチル濃度を調整する工程を含む、製造方法。
(1)60≦X≦450
(2)0.15≦Y≦7
(3)Y≧(-1/50)X+2」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A4-1>
本件特許発明4は「ビールテイスト飲料のアルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である」のに対し、甲A1製法発明は「ビールテイスト飲料のエタノール濃度が6.6v/v%である」点。
<相違点A4-2>
本件特許発明4は、「高アルコールビールテイスト飲料の製造方法」であるのに対し、甲A1製法発明はそのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点A4-1について検討する。上記相違点A4-1は、上記相違点A1-1と同旨であるから、同様に判断される。
よって、甲A1製法発明において、相違点A4-1に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明4についてのまとめ
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲A1製法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲A1飲料発明とを対比すると、上記(2)アと同様の相当関係があるといえる。そして、甲A1飲料発明のカプリル酸エチル濃度が1.6mg/Lであるから、本件特許発明5の式(2)を満たすといえる。
そうすると、本件特許発明5と甲A1飲料発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「コハク酸及びカプリル酸エチルを含有し、コハク酸濃度をX(mg/L)及びカプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに、X及びYが下記式(1)~(3)の関係を満たす、ビールテイスト飲料。
(1)60≦X≦450
(2)0.15≦Y≦3.5
(3)Y≧(-1/50)X+2」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A5-1>
本件特許発明5は、「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である」のに対し、甲A1飲料発明は、「エタノール濃度が6.6v/v%である」点。
<相違点A5-2>
本件特許発明5は、「高アルコールビールテイスト飲料」であるのに対し、甲A1飲料発明はそのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点A5-1について検討する。上記相違点A5-1は、上記相違点A1-1と同旨であるから、同様に判断される 。
よって、甲A1飲料発明において、相違点A5-1に係る本件特許発明5の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明5についてのまとめ
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲A1飲料発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明6及び7について
本件特許発明6及び7は、請求項5の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本件特許発明6及び7は、甲A1飲料発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由A1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由A1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由A2(サポート要件)及び申立理由B3(サポート要件)について
申立理由A2と申立理由B3は、どちらもサポート要件に関するものなので、併せて検討する。
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】の記載からみて、本件特許発明1ないし7が解決しようとする課題は、アルコール感が低減されると共に好ましい甘味が感じられ、飲料としての飲みやすさに優れる高アルコールビールテイスト飲料を提供することであると認められる(以下、「本発明の課題」という。)。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】、【0008】、【0010】、【0012】には、本件特許発明1ないし4に対応する記載があり、同【0029】には本件特許発明5に対応する記載があり、これらの記載を総合すると、本件特許発明6及び7についても本件特許の発明の詳細な説明に対応する記載があるといえる。
そして、同【0032】にはコハク酸濃度の好ましい範囲が記載され、同【0034】にはカプリル酸エチル濃度の好ましい範囲が記載され、同【0007】、【0009】、【0011】、【0024】、【0027】、【0030】には、コハク酸濃度とカプリル酸エチル濃度が特定の関係にあることにより、アルコール度数の高さに起因するアルコール感が低減されると共に好ましい甘味が感じられ、飲料としての飲みやすさに優れていることが記載され、同【0058】~【0067】に記載された実施例において、アルコール濃度が10v/v%であり、コハク酸濃度(X)が60mg/L、180mg/L又は300mg/Lであり、カプリル酸エチル濃度(Y)が0.15~7.0mg/Lであり、請求項1に記載された式(3)の関係を満たす、試験例2ないし9のビールテイスト飲料が、アルコール濃度が10v/v%であり、Xが60mg/Lであり、Yが3.5mg/Lであり、上記式(3)の関係を満たさない試験例1のビールテイスト飲料と比して、「アルコール感」、「甘味」及び「飲みやすさ」がすべて向上していたことが示されており、アルコール濃度が10v/v%であり、Xが500mg/Lであり、Yが3.5mg/Lであり、上記式(3)の関係を満たす試験例10のビールテイスト飲料は、上記試験例1のビールテイスト飲料と比して、アルコール感は低減されているものの、甘味が弱く、飲みにくいことが示されている。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、コハク酸濃度(X)が60~450mg/Lであり、カプリル酸エチル濃度(Y)が0.15~7.0mg/Lであり、請求項1に記載された式(3)の関係を満たし、アルコール濃度が10v/v%以上である、ビールテイスト飲料であれば、本発明の課題を解決できると当業者は認識する。
そして、本件特許発明1、4及び5は、上記発明特定事項をすべて満たし、さらに限定するものであるから、発明の詳細な説明の記載から当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の上記記載並びに出願時の技術常識を踏まえれば、当業者であれば本件特許発明1、4及び5の構成を満たせば本発明の課題が解決できるものと理解する。本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである本件特許発明2及び3、本件特許発明5の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである本件特許発明6及び7についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし7に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足する。
(5)特許異議申立人の主張についての当審の判断
ア 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは特許異議申立書A(33-39頁)において、上記第3 1(2)の主張をしているので、検討する。
(ア)上記第3 1(2)アの主張について
甲A13は、ビールに含まれる76種類の香気成分を用いて、ビール香気の再構築の度合いを、「麦芽/穀物」、「香気の総量」、「エステル」及び「フーゼルアルコール」の4つの特徴で評価したものであり(図1)、「アルコール感」、「甘味」及び「飲みやすさ」を評価したものではないので、甲A13の記載は、コハク酸濃度及びカプリル酸エチル濃度が式(1)~(3)の関係を満たす場合に、高アルコールビールテイスト飲料の「アルコール感」、「甘味」及び「飲みやすさ」が向上することを否定するものではない。そして、コハク酸濃度及びカプリル酸エチル濃度が式(1)~(3)の関係を満たす場合に本発明の課題を解決できることは、上記(4)に記載したとおりである。
よって、特許異議申立人Aの主張は、採用することができない。
(イ)上記第3 1(2)イの主張について
特許異議申立人Aが指摘する試験例2及び試験例3は、アルコール感の官能評価の評点が3点未満であるものの、式(3)の関係を満たさない試験例1と比較すると、アルコール感が低減しているのであるから、アルコール度数が20v/v%の高アルコールビールテイスト飲料についても同様に、式(1)~(3)の関係を満たす高アルコールビールテイスト飲料は、式(1)~(3)の関係を満たさないものと比して、アルコール感が低減するといえる。そして、特許異議申立人Aは、アルコール度数が20v/v%の高アルコールビールテイスト飲料では本発明の課題を解決できないことを示す具体的な根拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人Aの主張は、採用することができない。
(ウ)上記第3 1(2)ウの主張について
本件特許発明が解決しようとする課題は、上記(3)に記載したとおり、アルコール感が低減されると共に好ましい甘味が感じられ、飲料としての飲みやすさに優れる高アルコールビールテイスト飲料を提供することであり、特許異議申立人Aが指摘する評価Dの高アルコールビールテイスト飲料は、個別の官能評価の評点がすべて3未満であるものの、いずれの評価項目も評点が2超であるから、全ての評価項目において試験例1の高アルコールビールテイスト飲料を上回っており、アルコール感、甘味及び飲みやすさが向上しているといえる。
よって、特許異議申立人Aの主張は、採用することができない。
イ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは特許異議申立書B(63-73頁)において、上記第3 2(3)の主張をしているので、検討する。
(ア)上記第3 2(3)アの主張について
本件特許の発明の詳細な説明の記載から、原材料や製造方法が同じ高アルコールビールテイスト飲料について、式(1)~(3)の関係を満たすものとそうでないものを比較すれば、前者の方がアルコール感、甘味及び飲みやすさが向上するといえ、当業者は、コハク酸とカプリル酸の2成分に着目し、含有量を調整すれば、課題を解決できると理解する。そして、特許異議申立人Bは、原材料や製造方法の違いによって高アルコールビールテイスト飲料の風味が変わった結果、式(1)~(3)の関係を満たす高アルコールビールテイスト飲料であっても、同じ原材料や製造方法の高アルコールビールテイスト飲料であって式(1)~(3)の関係を満たさないものと比して、アルコール感、甘味及び飲みやすさが向上しないことを示す具体的な証拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人Bの主張は、採用することができない。
(イ)上記第3 2(3)イの主張について
本件特許の発明の詳細な説明の【0022】には、アルコールの添加によりアルコール度数を調整してもよいことが記載されており、同【0043】~【0046】には、原料を混合して高アルコールビールテイスト飲料を製造する方法が記載されている。そして、本件特許発明1ないし7は、酵母による発酵を必須の構成とするものではないので、特許異議申立人Bの主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
(ウ)上記第3 2(3)ウの主張について
本件特許の発明の詳細な説明に記載された試験例1~10で用いられた発泡酒やスピリッツが清酒酵母を発酵させて製造されたものであると解する根拠を特許異議申立人Bは提示していないし、そのように解すべき理由も見いだすことができない。
よって、特許異議申立人Bの主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
(6)申立理由A2及び申立理由B3についてのまとめ
上記(4)及び(5)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A2及び申立理由B3によって取り消すことはできない。
3 申立理由B1(甲B1を主たる証拠とする新規性)及び申立理由B2(甲B1を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲B1に記載された事項等
ア 甲B1に記載された事項
・「発明の開示
以上のように、従来においては、通常のアルコール度数を有する発酵麦芽飲料の製造においてコク味やボディ感を増強させる有効な方法がなかった。即ち、上記のイソマルトオリゴ糖を添加する製造方法では、副原料としてイソマルトオリゴ糖を用いることが必要となるため、100%麦芽ビール(副原料を使用しないビ一ル)の製造には応用できず、また、米、スターチ等の副原料を使用する場合には、副原料の種類や添加量が制限されるといった問題があった。また、上記のα―グルコシダーゼを添加する製造方法は、低アルコールビールに関するものであって、通常のアルコール度数の発酵麦芽飲料に適用できるものではない。そこで、本発明の第1の局面は上記事情に鑑みなされたものであり、コク味やボディ感が増強された発酵麦芽飲料の製造方法を提供することを目的とする。特に、コク味やボディ感が増強された、通常のアルコール度数を有する発酵麦芽飲料及び100%麦芽ビールの製造方法を提供することを課題とする。」(4頁5-17行)
・「図面の簡単な説明
・・・
図3は、実施例2において製造されたビールの成分分析の結果を示す表である。α-GLUはα-グルコシダーゼを表す。
・・・
図10は、清酒酵母を用いて製造したビールの成分分析値を示す表である。」(7頁20行から9頁2行)
・「また、発酵工程でα-グルコシダーゼを作用させることにより発酵性糖としてグルコースが生成するため、発酵に使用する酵母はビール酵母に限定されず、清酒酵母、ワイン酵母あるいは焼酎酵母など醸造用に使用できるあらゆる酵母を任意に選択して使用でき、ビール酵母では得られない香味などを呈する新規な品質のビールの製造が可能となる。酵母はビール酵母を単独で使用してもあるいは他の醸造用酵母と併用してもよい。また、ビール酵母以外の醸造用酵母同士を併用してもよい。ビール酵母を含むいずれの酵母も入手可能なすべての酵母を好適に使用でき、例えば清酒酵母ならば財団法人日本醸造協会のK-9号、K-14号、K-86号等を挙げることができる。」(13頁13-21行)
・「[実施例2] α-グルコシダーゼを使用した100%麦芽ビールの製造
副原料を用いない麦芽100%ビールの製造を試みた。麦芽重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させビールを製造した。発酵前後の糖組成を図2に示す。
α-グルコシダーゼの添加により生成したイソマルトース、パノースといったイソマルトオリゴ糖はビール製品中に残存していた。また、対照区と比べG4以上のイソマルトオリゴ糖も増加した。
製造したビールの成分分析値を図3の表に示す。
α-グルコシダーゼの添加によりイソマルトオリゴ糖が生成し発酵性糖量が減少するためアルコール濃度が低くなった。また発酵後もイソマルトオリゴ糖がビール内に残存するため外観エキスが高くなった。pH、酸度、アミノ酸、炭酸ガス、苦味価などにα-グルコシダーゼの添加は影響を及ぼさなかった。」(15頁5-17行)
・「[実施例6]
粉砕麦芽28kgを温水84Lに加え、インフユ一ジョン法により原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁を調製した。インフュージョン法における温度経過は図7に示す通りである。
得られた麦汁1Lに対しビール酵母(NCYC1245、National Collection of Yeast Cultures、以降の実施例においても同様)を2.5gの割合で添加し、かつ α-グルコシダーゼ(α-グルコシダーゼ「アマノ」天野エンザイム社製、以降の実施例においても同様) を麦汁に対し50、100、200、400ppmの割合で添加し、15℃で21日間発酵させた。なお、α-グルコシダーゼを添加することなく前記と同様に発酵させて対照とした。
浸透圧の低減に寄与すると考えられるオリゴ糖のうちグルコースの重合度が3であり、かつ酵母の資化できない分岐オリゴ糖であるパノース、イソマルトトリオースの発酵中の挙動を図8に示した。図8から、α-グルコシダーゼの添加によりパノースやイソマルトトリオースが生成し、発酵の進行と共にこれらのオリゴ糖が分解されていることが明らかになった。このようにα-グルコシダーゼの作用により一旦分岐オリゴ糖を生成させることで、発酵初期の麦汁の糖濃度を抑制し急激なグルコースの増加による浸透圧の上昇を防ぐことができるので、酵母のアセトアルデヒドデヒドロゲナ一ゼ遺伝子の発現の誘導が抑制され、アセトアルデヒドから酢酸が生成されるのを低減させることができるものと推測される。図9には、ビール中の酢酸生成量とα-グルコシダーゼ添加量との関係を示したが、α-グルコシダ一ゼの添加で酢酸生成量が著しく低減した。なお、50ppmと400ppmの各添加量で酢酸生成量が増加傾向にあった。
[実施例7]
実施例6に記載の方法と同様に原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁を調製し、100Lパイロットプラントにてビールを製造した。酵母はビール酵母、清酒酵母(K-14、(財)日本醸造協会、以後の実施例においても同様)を各々使用し、ビール酵母を使用する場合は酵素を無添加とし、清酒酵母を使用する場合はα-グルコシダーゼ400ppmを添加した例とグルコアミラーゼ(グルコアミラーゼ「アマノ」SD、天野エンザイム社製)200ppmを添加した例につき試験を行った。なお、清酒酵母を使用する場合には、前記いずれの酵素も添加することなく発酵させて対照とした。
製造したビールの成分分析値を図10の表に示した。α-グルコシダーゼを添加した場合は、グルコアミラーゼを添加した場合に比べ酢酸生成量が抑制された。グルコアミラ一ゼの添加により酢酸生成量が増加するのは、急激なグルコースの生成による浸透圧の上昇が原因と推測される。また、図10の表からビールの製造に清酒酵母を使用することにより例えば香味成分であるリンゴ酸、コハク酸、カプロン酸エチル等の生成量がビール酵母の使用の場合より増加し、ビール酵母によりビールを製造するのとは異なる新規な品質のビールが製造できた。また、図11で清酒酵母を使用したビール中の酢酸生成量とα-グルコシダーゼ添加量との関係を示したが、清酒酵母を使用してもα-グルコシダーゼの添加で酢酸生成量が著しく低減した。
[実施例8]
粉砕麦芽28kgを温水84Lに加え、インフユ一ジョン法により原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁を調製した。インフュージョン法における温度経過は図7に従った。
得られた麦汁1Lに対しビール酵母を2.5gの割合で添加し、かつα-グルコシダーゼを麦汁に対し50、100、200、400ppmの割合で添加し、5℃で21日間発酵させた。なお、α-グルコシダーゼを添加することなく前記と同様に発酵させて対照とした。
発酵後の真性発酵度とα-グルコシダーゼの関係を図12に示した。α-グルコシダーゼの添加により真性発酵度は顕著に増加し、ビール酵母を使用して残糖量の少ない低力口リービールの製造が可能となった。
また、発酵中の糖の消長を重合度別にまとめたグラフを図13に示した。α-グルコシダーゼ無添加では、マルトテトラオース(表中G4)、マルトペンタオース(表中G5)、マルトへキサオース(表中G6)、マルトへプタオース以上(表中G7≦) が残存するのに対し、α-グルコシダーゼ添加では(400ppm)では発酵の進行に伴いこれらのオリゴ糖が減少していた。」(16頁19行から19頁1行)
・「
[図:0001430029000004.jpg]
」(Fig.3)
・「
[図:0001430029000005.jpg]
」(Fig.7)
・「
[図:0001430029000006.jpg]
」(Fig.10)
・「
[図:0001430029000007.jpg]
」(Fig.12)
イ 甲B1に記載された発明
甲B1に記載された事項を、特に実施例8及び実施例7について整理すると、甲B1には以下の発明(以下、順に「甲B1実施例8飲料発明」、「甲B1実施例8製法発明」、「甲B1実施例7飲料発明」及び「甲B1実施例7製法発明」という。)が記載されていると認める。また、以下において、甲B1実施例8飲料発明と甲B1実施例8製法発明をまとめて「甲B1実施例8発明」といい、甲B1実施例7飲料発明と甲B1実施例7製法発明をまとめて「甲B1実施例7発明」という場合がある。
<甲B1実施例8飲料発明>
「原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁に対して、ビール酵母2.5g/L及びα-グルコシダーゼ400ppmを添加して、15℃で21日間発酵させた、実施例8のビール。」(当審注:実施例8については上記アを参照。)
<甲B1実施例8製法発明>
「原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁に対して、ビール酵母2.5g/L及びα-グルコシダーゼ400ppmを添加して、15℃で21日間発酵させる、甲B1実施例8飲料発明のビールの製造方法。」
<甲B1実施例7飲料発明>
「原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁に対して、清酒酵母(K-14)及びα-グルコシダーゼ400ppmを添加して製造したビールであって、コハク酸及びカプロン酸エチルを含有し、コハク酸濃度が285ppmであり、カプロン酸エチル濃度が1.85ppmであり、アルコール分が11.0v/v%である、実施例7のビール。」(当審注:実施例7については上記アを参照。)
<甲B1実施例7製法発明>
「原麦汁エキス濃度20重量%の麦汁に対して、清酒酵母(K-14)及びα-グルコシダーゼ400ppmを添加する工程を含む、コハク酸及びカプロン酸エチルを含有し、コハク酸濃度が285ppmであり、カプロン酸エチル濃度が1.85ppmであり、アルコール分が11.0v/v%である、甲B1実施例7飲料発明のビールの製造方法。」
(2)甲B1実施例8発明についての対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
甲B1実施例8飲料発明の「ビール」は、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて、本件特許発明1の「高アルコールビールテイスト飲料」と一致する。そして、甲B1実施例8飲料発明は、ビール酵母により発酵されたものであるから、本件特許発明1の「飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)」という発明特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲B1実施例8飲料発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B8-1-1>
本件特許発明1は、「コハク酸」を含有し、「コハク酸濃度」が「式(1)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はコハク酸濃度が、コハク酸を含有するか否かも含め、不明である点。
<相違点B8-1-2>
本件特許発明1は、「カプリル酸エチル」を含有し、「カプリル酸エチル濃度」が「式(2)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はカプリル酸エチル濃度が、カプリル酸エチルを含有するか否かも含め、不明である点。
<相違点B8-1-3>
本件特許発明1は、「コハク酸濃度」及び「カプリル酸エチル濃度」が「式(3)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はそのように特定されていない点。
<相違点B8-1-4>
本件特許発明1は、「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である」のに対し、甲B1実施例8飲料発明は、アルコール度数が不明である点。
<相違点B8-1-5>
本件特許発明1は、「高アルコールビールテイスト飲料」であるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はそのように特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点B8-1-2について検討する。
甲B1には、甲B1実施例8飲料発明がカプリル酸エチルを含有し、その濃度が式(2)の関係を満たすことは記載されていないし、甲B1及び他の証拠をみても、甲B1実施例8飲料発明のカプリル酸エチル濃度が式(2)の関係を満たす蓋然性が高いと判断する理由もない。
したがって、上記相違点B8-1-2は実質的な相違点である。
そして、甲B1及び他の証拠をみても、甲B1実施例8飲料発明において、カプリル酸エチル濃度が式(2)の関係を満たすようにする動機付けがない。
よって、甲B1実施例8飲料発明において、相違点B8-1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)特許異議申立人Bの主張について
a 特許異議申立人Bの主張
特許異議申立人Bは特許異議申立書B(23-31頁)において、上記相違点B8-1-2について以下の主張をしている。
甲B1の実施例2には、麦芽100%を原材料とするビールの製造において、α-グルコシダーゼを加えることによって、カプロン酸エチル濃度が0.31ppmから0.18ppmに減少する(甲B1の図3)、すなわち42%減少することが記載されているので、甲B1実施例8飲料発明のカプロン酸エチル濃度は、甲B1の実施例7に記載された、ビール酵母を使用して酵素を添加していないビールのカプロン酸エチルの濃度(図10の記載から0.34ppmである。)から42%減少した0.20ppm(0.34×(1-0.42)=0.20)であると算出される。
そして、甲B2の第1表の記載から、ビール中にはカプリル酸エチルがカプロン酸エチルの1~2倍生成されていること並びに、甲B3の図2及び図3の記載から、ビール酵母(IB505)を用いて得られたビールのカプロン酸エチル濃度は0.30ppmであり、カプリル酸エチル濃度は0.55ppmであり、カプリル酸エチル濃度はカプロン酸エチル濃度の約1.8倍と推定できることから、甲B1実施例8飲料発明のカプリル酸エチル濃度は、カプロン酸エチル濃度(0.20ppm)の1.8倍の0.36ppm(0.20×1.8=0.36)であり、式(2)の関係を満たす。
b 当審の判断
甲B1実施例8飲料発明と甲B1の実施例2とでは、発酵条件の詳細が不明であり、厳密な比較ができない(少なくとも、α-グルコシダーゼの添加量について、甲B1実施例8飲料発明は400ppmであるのに対し、実施例2は麦芽重量に対して1/1000量添加しており、添加量が異なっている。)ので、甲B1実施例8飲料発明における、α-グルコシダーゼを加えることによるカプロン酸エチル濃度の減少割合が、実施例2における減少割合と同じであるということはできないから、甲B1実施例8飲料発明のカプロン酸エチル濃度が0.20ppmであるとはいえない。
また、甲B2には、ビール中のエステルの含有量は、麦汁組成(原麦汁濃度や不飽和脂肪酸含量)、麦汁通気法及び発酵条件によって大きく変化することが記載されているので(211頁右欄5-7行)、甲B1実施例8飲料発明のカプロン酸エチル濃度及びカプリル酸エチル濃度が甲B2の第1表に記載された範囲であるとはいえないし、甲B3は、特定の酵母を用いて特定の発酵条件でビールを製造した際のビール中のカプロン酸エチル濃度及びカプリル酸エチル濃度を示しているに過ぎないので、甲B3に記載されたものとは全く別のビールテイスト飲料である、甲B1実施例8飲料発明におけるカプロン酸エチル濃度に対するカプリル酸エチル濃度の比率が、甲B3に記載された比率と同じであるということもできない。従って、仮に、甲B1実施例8飲料発明のカプロン酸エチル濃度が0.20ppmであるとしても、甲2及び甲3の記載から、甲B1実施例8飲料発明のカプリル酸エチル濃度を算出することはできず、甲B1実施例8飲料発明のカプリル酸エチル濃度が、本件特許発明1の式(2)の関係を満たすとはいえない。
よって、特許異議申立人Bの主張は採用することができない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本件特許発明2及び3は、甲B1実施例8飲料発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲B1実施例8製法発明とを対比すると、上記ア(ア)と同様の相当関係があるといえるから、甲B1実施例8製法発明は「ビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)の製造方法」であるといえる。
そうすると、本件特許発明4と甲B1実施例8製法発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料(但し、清酒酵母により発酵されたものを除く。)の製造方法。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B8-4-1>
本件特許発明4は、ビールテイスト飲料中の「コハク酸濃度をX(mg/L)」としたときに、Xが「式(1)の関係を満たすように」調整する工程を含むのに対し、甲B1実施例8製法発明はそのように特定されていない点。
<相違点B8-4-2>
本件特許発明4は、ビールテイスト飲料中の「カプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに」「Yが式(2)の関係を満たすようにカプリル酸エチル濃度を調整する工程を含む」のに対し、甲B1実施例8製法発明はそのように特定されていない点。
<相違点B8-4-3>
本件特許発明4は、ビールテイスト飲料中の「コハク酸濃度」及び「カプリル酸エチル濃度」を「式(3)の関係を満たすように」調整する工程を含むものであるのに対し、甲B1実施例8製法発明はそのように特定されていない点。
<相違点B8-4-4>
本件特許発明4は、ビールテイスト飲料の「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である」のに対し、甲B1実施例8製法発明は、ビールテイスト飲料のアルコール度数が不明である点。
<相違点B8-4-5>
本件特許発明4は、「高アルコールビールテイスト飲料の製造方法」であるのに対し、甲B1実施例8製法発明はそのように特定されていない点。
(イ)判断
上記相違点B8-4-2について検討する。上記相違点B8-4-2は、上記相違点B8-1-2と実質的に同じ内容の相違点であるから、同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲B1実施例8製法発明ではなく、甲B1実施例8製法発明並びに甲B1及び他の証拠の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明5について
(ア)対比
本件特許発明5と甲B1実施例8飲料発明とを対比すると、上記ア(ア)と同様の相当関係があるといえるから、本件特許発明5と甲B1実施例8飲料発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B8-5-1>
本件特許発明5は、「コハク酸」を含有し、「コハク酸濃度」が「式(1)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はコハク酸濃度が、コハク酸を含有するか否かも含め、不明である点。
<相違点B8-5-2>
本件特許発明5は、「カプリル酸エチル」を含有し、「カプリル酸エチル濃度」が請求項5に記載された「式(2)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はカプリル酸エチル濃度が、カプリル酸エチルを含有するか否かも含め、不明である点。
<相違点B8-5-3>
本件特許発明5は、「コハク酸濃度」及び「カプリル酸エチル濃度」が「式(3)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はそのように特定されていない点。
<相違点B8-5-4>
本件特許発明5は、「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である」のに対し、甲B1実施例8飲料発明は、アルコール度数が不明である点。
<相違点B8-5-5>
本件特許発明5は、「高アルコールビールテイスト飲料」であるのに対し、甲B1実施例8飲料発明はそのように特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点B8-5-2について検討する。本件特許の請求項5に記載された式(2)は、同請求項1に記載された式(2)と同じくビールテイスト飲料中のカプリル酸エチル濃度を規定するものであり、数値範囲が請求項1の式(2)よりも狭いので、上記相違点B8-5-2は、上記相違点B8-1-2と同様に判断される 。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲B1実施例8飲料発明ではなく、甲B1実施例8飲料発明並びに甲B1及び他の証拠の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲B1実施例7発明についての対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
甲B1実施例7飲料発明は、コハク酸濃度が285ppmであるから、本件特許発明1のコハク酸濃度が式(1)の関係を満たすという発明特定事項を満たし、甲B1実施例7飲料発明のビールは、アルコール分が11.0v/v%であるから、本件特許の発明の詳細な説明の【0018】の記載からみて、本件特許発明1の「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料」という発明特定事項を満たすといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲B1実施例7飲料発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「コハク酸を含有し、コハク酸濃度をX(mg/L)としたときに、Xが下記式(1)の関係を満たし、
アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料。
(1)60≦X≦450」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B7-1-1>
本件特許発明1は、「カプリル酸エチル」を含有し、「カプリル酸エチル濃度」が「式(2)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例7飲料発明はカプリル酸エチル濃度が、カプリル酸エチルを含有するか否かも含め、不明である点。
<相違点B7-1-2>
本件特許発明1は、「コハク酸濃度」及び「カプリル酸エチル濃度」が「式(3)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例7飲料発明はそのように特定されていない点。
<相違点B7-1-3>
本件特許発明1は、高アルコールビールテイスト飲料について「清酒酵母により発酵されたもの」を除くことが特定されるのに対し、甲B1実施例7飲料発明にはそのような特定がない点。
(イ)判断
上記相違点B7-1-1について検討する。
甲B1及び他の証拠をみても、甲B1実施例7飲料発明においてのカプリル酸エチル濃度が式(2)の関係を満たすようにする動機付けがない。
よって、甲B1実施例8飲料発明において、相違点B7-1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)特許異議申立人Bの主張について
a 特許異議申立人Bの主張
特許異議申立人Bは特許異議申立書B(43-46頁)において、上記相違点B7-1-1について以下の主張をしている。
甲B3の図2及び図3に記載された、ビール酵母(IB505)及び清酒酵母とビール酵母との交雑体(IB1405~IB1408)を用いて得られたビール中のカプロン酸エチル濃度及びカプリル酸エチル濃度から、カプロン酸エチル濃度に対するカプリル酸エチルの濃度の比率(以下、「濃度比」という。)が、ビール酵母を用いた場合には約1.8倍であり、清酒酵母とビール酵母との交雑体を用いた場合には約1.3倍であり、清酒酵母を用いた場合のカプロン酸エチル濃度に対するカプリル酸エチルの濃度は、交雑体のカプリル酸エチルを産生する能力が、ビール酵母の能力と清酒酵母の能力のほぼ平均と考えられることから、約0.8倍である(1.3×2-1.8=0.8)。
したがって、甲B1実施例7飲料発明のカプリル酸エチル濃度は、カプロン酸エチル濃度(図10から1.85ppm)の約0.8倍であるといえるから、約1.48ppm(1.85×0.8=1.48)であり、式(2)の関係を満たす。
b 当審の判断
酵母がカプリル酸エチルを産生する能力は、酵母の種類によって異なるものであり、同じ酵母を用いても原材料や発酵条件によってカプリル酸エチル濃度は変化するものと解される(例えば、本件特許の発明の詳細な説明の【0035】を参照。)。
甲B3には、特定のビール酵母(IB505)及び特定の清酒酵母とビール酵母の交雑体(IB1405~IB1408)をそれぞれ用いて、特定の原材料や発酵条件のもとで発酵させた場合のカプロン酸エチル濃度及びカプリル酸エチル濃度が記載されており、特許異議申立人Bは、甲B3に記載された上記2つの化合物の濃度から算出された濃度比が、甲B1実施例7飲料発明における濃度比と同じであることを前提にして、甲B1実施例7飲料発明のカプリル酸エチル濃度を計算している。
しかし、甲B3に記載されたビールと甲B1実施例7飲料発明とでは、製造過程で使用する酵母が異なり、原材料や発酵条件等も異なるので、甲B3に記載された濃度比が、甲B1実施例7飲料発明における濃度比と同じであると解することはできない。
よって、特許異議申立人Bの主張は、甲B1実施例7飲料発明のカプリル酸エチル濃度を計算する際の前提に誤りがあるから採用することはできず、上記(イ)の判断に影響するものではない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本件特許発明2及び3は、甲B1実施例7飲料発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲B1実施例7製法発明とを対比すると、上記ア(ア)と同様の相当関係があるといえるから、本件特許発明4と甲B1実施例7製法発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「高アルコールビールテイスト飲料の製造方法であって、前記高アルコールビールテイスト飲料中のコハク酸濃度をX(mg/L)としたときに、Xが下記式(1)の関係を満たすようにコハク酸濃度を調整する工程を含み、前記高アルコールビールテイスト飲料のアルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、製造方法。
(1)60≦X≦450」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B7-4-1>
本件特許発明4は、「カプリル酸エチル濃度をY(mg/L)としたときに」「Yが式(2)の関係を満たすようにカプリル酸エチル濃度を調整する工程を含む」ものであるのに対し、甲B1実施例7製法発明は、そのように特定されていない点。
<相違点B7-4-2>
本件特許発明4は、「コハク酸濃度」及び「カプリル酸エチル濃度」が「式(3)の関係を満たすように」調整する工程を含むものであるのに対し、甲B1実施例7製法発明はそのように特定されていない点。
<相違点B7-4-3>
本件特許発明4は、高アルコールビールテイスト飲料について「清酒酵母により発酵されたもの」を除くことが特定されるのに対し、甲B1実施例7製法発明にはそのような特定がない点。
(イ)判断
上記相違点B7-4-1について検討する。上記相違点B7-4-1は、上記相違点B7-1-1と実質的に同じ内容の相違点であるから、同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲B1実施例7製法発明並びに甲B1及び他の証拠の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明5について
(ア)対比
本件特許発明5と甲B1実施例7飲料発明とを対比すると、上記ア(ア)と同様の相当関係があるといえるから、本件特許発明5と甲B1実施例7飲料発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「コハク酸を含有し、コハク酸濃度をX(mg/L)としたときに、Xが下記式(1)の関係を満たし、アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料。
(1)60≦X≦450」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点B7-5-1>
本件特許発明5は、「カプリル酸エチル」を含有し、「カプリル酸エチル濃度」が請求項5に記載された「式(2)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例7飲料発明はカプリル酸エチル濃度が、カプリル酸エチルを含有するか否かも含め、不明である点。
<相違点B7-5-2>
本件特許発明5は、「コハク酸濃度」及び「カプリル酸エチル濃度」が「式(3)の関係を満たす」ものであるのに対し、甲B1実施例7飲料発明はそのように特定されていない点。
(イ)判断
上記相違点B7-5-1について検討する。本件特許の請求項5に記載された式(2)は、同請求項1に記載された式(2)と同じくビールテイスト飲料中のカプリル酸エチル濃度を規定するものであり、数値範囲が請求項1の式(2)よりも狭いので、上記相違点B7-5-1は、上記相違点B7-1-1と同様に判断される 。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲B1実施例7飲料発明ではなく、甲B1実施例7飲料発明並びに甲B1及び他の証拠の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明6及び7について
本件特許発明6及び7は、請求項5の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本件特許発明6及び7は、甲B1実施例7飲料発明ではなく、甲B1実施例7飲料発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)申立理由B1及び申立理由B2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1、4ないし7は特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえず、本件特許発明1ないし7は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由B1及び申立理由B2によっては取り消すことはできない。
5 申立理由B4(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件の判断
特許異議申立人Bは特許異議申立書B(73-74頁)において、上記第3 2(4)の主張をしているので、検討する。
請求項1及び4には、「但し、清酒酵母により発酵されたものを除く」と記載されている。そして、「清酒酵母」という用語は、当業者に広く使用されている一般的な技術用語であるから、本願出願時の技術常識を参酌すれば、その意味するところは当業者に明らかであるといえる。また、請求項1及び4の記載自体は明確であり、「清酒酵母を用いて発酵されたもの」が、清酒酵母を用いて発酵されたものをすべて含むことは明らかであるから、2つの異なる意味に解されることはなく、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはえいない。
請求項1を直接または間接的に引用する請求項2及び3についても同様に判断される。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書A及び特許異議申立書Bに記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700608