特許異議申立
2023-701114
発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法
- 審判番号
- 2023-701114
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-120628
- 登録番号
- 7260259
- 請求日
- 2023年10月18日
- 審決日
- 2024年06月04日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 相澤 啓祐
- 分類
- P1651.113-YAA(C12G) / P1651.121-YAA(C12G) / P1651.536-YAA(C12G) / P1651.537-YAA(C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7260259号発明「発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7260259号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを認める。
特許第7260259号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7260259号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年 6月26日の出願(特願2018-120628号。以下、「本願」という。)であって、令和 5年 4月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月18日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 5年10月18日に、請求項1~3(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である田中 眞喜子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年10月18日 :特許異議の申立て
12月28日付け:取消理由通知
令和 6年 2月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提
出
3月15日付け:訂正請求があった旨の通知
4月17日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和 6年 2月28日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第7260259号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「カルシウムの含有量が15mg/L以下」と記載されているのを、
「カルシウムの含有量が14mg/L以下」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「発酵ビールテイスト飲料」と記載されているのを、
「発酵ビールテイスト飲料(麦芽比率100%のものを除く)」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする」と記載されているのを、
「前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、Xを15以下とし、X/Yを0.10~0.14とする」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする」と記載されているのを、
「前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、Xを15以下とし、X/Yを0.10~0.14とする」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0008】に、
「前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)カルシウムの含有量が15mg/L以下であり、カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料。
(2)発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、仕込み工程と、発酵工程と、を含み、前記仕込み工程において、仕込み水として脱イオン処理水を用い、前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
(3)発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する香味向上方法であって、仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行った後に発酵を行い、前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法。」と記載されているのを、
「前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)カルシウムの含有量が14mg/L以下であり、カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料(麦芽比率100%のものを除く)。
(2)発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、仕込み工程と、発酵工程と、を含み、前記仕込み工程において、仕込み水として脱イオン処理水を用い、前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、Xを15以下とし、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
(3)発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する香味向上方法であって、仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行った後に発酵を行い、前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、Xを15以下とし、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法。」に訂正する。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1において、発酵ビールテイスト飲料に含まれるカルシウムの含有量の範囲を「15mg/L以下」から「14mg/L以下」に限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件訂正前の明細書の段落【0013】には、「本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量は、15mg/L以下が好ましく、14mg/L以下、13mg/L以下、12.8mg/L以下がより好ましい。カルシウムの含有量が所定値以下であることによって、発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。」との記載があるから、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る訂正は、請求項1において、「発酵ビールテイスト飲料」から、「麦芽比率100%のもの」を除くことにより、「発酵ビールテイスト飲料」を限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載した事項である「発酵ビールテイスト飲料」との記載表現を残したままで、令和 5年12月28日付けの取消理由通知において特許法第29条第1項第3号に掲げる発明として引用した「甲2発明」及び「甲3発明」の「麦芽比率100%のもの」のみを除外することを明示した請求項とする訂正であり、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3、4に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3、4に係る訂正は、請求項2、3において、発酵ビールテイスト飲料に含まれるカルシウムの含有量を示す「X」(mg/L)の範囲を「15以下」に限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件訂正前の明細書の段落【0013】には、「本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量は、15mg/L以下が好ましく、14mg/L以下、13mg/L以下、12.8mg/L以下がより好ましい。カルシウムの含有量が所定値以下であることによって、発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。」との記載があるから、訂正事項3、4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項3、4に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項5に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項5に係る訂正は、訂正事項1~4に係る訂正に伴い訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
上記(1)~(3)の訂正事項1~4に係る訂正について検討したのと同様に、訂正事項5に係る訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項5に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~3について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4に係る訂正後の請求項1~3に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 明細書又は図面の訂正と関係する請求項について
訂正事項5に係る訂正は、明細書の段落【0008】を訂正するものであるが、請求項1~3に関係する訂正である。
そして、本件訂正請求は、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行われているから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。
5 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~3に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」といい、総称して「本件発明」ともいう。)。
【請求項1】
カルシウムの含有量が14mg/L以下であり、
カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料(麦芽比率100%のものを除く)。
【請求項2】
発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
仕込み工程と、発酵工程と、を含み、
前記仕込み工程において、仕込み水として脱イオン処理水を用い、
前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、Xを15以下とし、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する香味向上方法であって、
仕込み水として脱イオン処理水を用いて仕込みを行った後に発酵を行い、
前記発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、Xを15以下とし、X/Yを0.10~0.14とする発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の申立理由1~4により、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性、進歩性)(取消理由に一部採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(新規性、進歩性)(取消理由に一部採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性、進歩性)(取消理由に一部採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(サポート要件)(取消理由に一部採用、適用条文を変更して実施可能要件の取消理由として一部採用)
本件訂正前の明細書の段落【0007】の記載によれば、本件訂正前の請求項1~3に係る発明が解決しようとする課題は、「味のボリュームを維持しつつ(大きく低減させることなく)、雑味が低減するとともに後味のスッキリさが増強した発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供すること」であると認められる。
一方、本件訂正前の明細書の段落【0047】~【0058】の実施例1には、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」の場合に、上記課題が解決し得ることが示されているものの、カルシウムの含有量が15mg/Lを超える場合において、上記課題を解決できたことは示されていない。
そうすると、本件訂正前の請求項2、3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項2、3に係る発明について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)証拠方法
・甲第1号証:BRAUINDUSTRIE, VERLAG W. SACHON, 1985年, Vol.70-16, pp.1474-1485、及びその抄訳
・甲第2号証:BRAUINDUSTRIE, VERLAG W. SACHON, 1990年, Vol.75-10, pp.1084-1095、及びその抄訳
・甲第3号証:BRAUINDUSTRIE, VERLAG W. SACHON, 1984年, Vol.69-7, pp.484-485、及びその抄訳
・甲第4号証:松山茂助著、「麦酒醸造学」、東洋経済新報社、昭和45年 5月 1日、pp.58、62~64
・甲第5号証:「醸造物の成分」、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日、pp.226~227
2 令和 5年12月28日付けで通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(明確性要件)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明において、「発酵ビールテイスト飲料」が、「ビール」を包含するものであるのか否かが判然としない。
そうすると、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1~3に係る発明について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由1は、職権により通知したものである。
(2)取消理由2~4(新規性、進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1~3号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1~3号証のいずれかに記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由5(サポート要件)
本件訂正前の明細書の段落【0007】の記載によれば、本件訂正前の請求項1~3に係る発明が解決しようとする課題は、「味のボリュームを維持しつつ(大きく低減させることなく)、雑味が低減するとともに後味のスッキリさが増強した発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供すること」であると認められる。
一方、本件訂正前の明細書の段落【0047】~【0058】の実施例1には、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」の場合に、上記課題が解決し得ることが示されているものの、カルシウムの含有量が15mg/Lを超える場合において、上記課題を解決できたことは示されていない。
そうすると、本件訂正前の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、当該発明について、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)取消理由6(実施可能要件)
本件訂正前の明細書の段落【0047】~【0058】の実施例1には、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」の場合に、「発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する」ことが示されているものの、カルシウムの含有量が15mg/Lを超える場合において、「発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する」ことは示されていない。
また、「脱イオン処理」との特定により、除去される元素やその残留量が特定されるわけではないから、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」たからといって、直ちに発酵ビールテイスト飲料の「カルシウムの含有量が15mg/L以下」となるとはいえない。
そうすると、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の記載は、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」であることが特定されていない本件訂正前の請求項3に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(明確性要件)
(1)本件発明1~3について
ア 取消理由通知において、「本件訂正前の請求項1~3に係る発明において、「発酵ビールテイスト飲料」が、「ビール」を包含するものであるのか否かが判然としない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0022】の原料における麦芽比率に関する説明、段落【0047】~【0057】の実施例には、明らかに「ビール」に包含される飲料について、「発酵ビールテイスト飲料」と記載されている。
よって、これらの記載から、本件発明の「発酵ビールテイスト飲料」に、麦芽比率100%の「ビール」が包含されることは明らかである。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1~3について、特許を受けようとする発明が明確である。
ウ 以上のとおりであるから、取消理由1は解消した。
(2)取消理由1(明確性要件)についてのまとめ
したがって、取消理由1(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(新規性、進歩性)、取消理由2(新規性、進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第1号証には、「東ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド、ブルガリアのラガービール」(表41)に関する記載があり、特に、表41における「Zywiec Brewery」社の「Krakus Light Beer」に含まれるカルシウムの含有量と総ポリフェノールの含有量に着目すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
カルシウムの含有量が15mg/lであり、総ポリフェノールの含有量が127mg/lである、ビール。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明において、「カルシウムの含有量」と「総ポリフェノールの含有量」の比は、15/127=0.118であるから、甲1発明は、本件発明1における、「カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である」との条件を満たすものである。
(イ)ビールは通常「発酵」を経て得られるものであるから、甲1発明における、「ビール」は、本件発明1における、「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
(ウ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
「カルシウムの含有量」について、本件発明1は、「14mg/L以下」であるのに対し、甲1発明は、「15mg/l」である点。
<相違点1-2>
本件発明1は、「麦芽比率100%の」「発酵ビールテイスト飲料」「を除く」のに対し、甲1発明は、「ビール」の「麦芽比率」が不明であり、「麦芽比率100%」であるのか否かが不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1-1について
a 相違点1-1が実質的な相違点であるかについて
(a)本件発明1と甲1発明におけるカルシウムの含有量は、明らかに異なるので、相違点1は、実質的な相違点である。
(b)申立人は、令和 6年 4月17日提出の意見書に参考文献1を添付し、「改訂BCOJビール分析法」(2013年増補改訂)によれば、カルシウム含量測定の室間再現精度についての標準偏差が3.42であることから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明である旨を主張する。
しかしながら、甲第1号証には、甲1発明のビールにおいて、カルシウムの含有量を、参考文献1に記載の原子吸光分析により測定したとの記載は見当たらないため、甲1発明のビールにおける、カルシウムの含有量が上記の標準偏差(測定誤差)を含むとはいえない。仮に、原子吸光分析により測定したとすると、測定値に上記の標準偏差(測定誤差)を含む以上、甲1発明のビールにおける実際のカルシウム含有量は不明と言わざるを得ない。
そうすると、どちらの場合であっても、相違点1-1は実質的な相違点であるから、申立人の上記主張は採用できない。
b 相違点1-1の容易想到性について
(a)甲第1号証は、「東ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド、ブルガリアのラガービール」であって、特定の商品に含まれる成分を列記したものであるから、これらのビールに含まれる特定成分の含有量を変更しようとする動機付けがあるとはいえない。この点、甲第4号証に記載される、醸造用水の改良に関する技術常識、甲第5号証に記載される、ビール中の総ポリフェノール量に関する技術常識を考慮しても同様である。
(b)申立人は、令和 6年 4月17日提出の意見書において、「実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮」であり、本件発明1の効果も容易に予測できた程度のことであるから、甲1発明において、相違点1-1に係る特定事項を備えたものとすることは、当業者が適宜なし得たことである旨主張する。
しかしながら、甲1発明のビールは、「Zywiec Brewery」社の「Krakus Light Beer」という特定の商品であるから、含有成分それぞれについて、既に最適化又は好適化が行われていると解するのが自然である。また、甲第1~5号証には、カルシウムの含有量に関し、最適化又は好適化に係る指標が何ら記載されていないから、甲1発明のビールにおいて、カルシウムの含有量を、「14mg/L以下」とすることが、当業者の通常の創作能力の発揮であるとはいえない。さらに、甲第1~5号証には、「味のボリュームが維持されつつ、雑味が低減しているとともに後味のスッキリさが増強している」という、本件発明1が奏する効果についても何ら記載されていないから、この効果が、当業者が容易に予測できた程度のことであるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(c)したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 以上のとおり、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、本件発明1は、甲1発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
甲第1号証には、ビールの製造方法やビールの香味向上方法が記載されていないため、甲1発明と対比することとする。
ア 対比
本件発明2、3と甲1発明とを対比すると両者は、少なくとも、以下の相違点1-3において相違する。
<相違点1-3>
本件発明2、3は、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ているのに対し、甲1発明は、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ているのか不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1-3について
a 相違点1-3が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第1号証には、甲1発明のビールをどのように製造したかについて、何ら記載されていなから、仕込み水として脱イオン処理水を用いたかどうかは不明である。また、甲第4号証に記載される、醸造用水の改良に関する技術常識を考慮しても、甲1発明のビールを製造する際に、仕込み水として脱イオン処理水を用いたかどうかは不明である。
(b)申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の段落【0014】に、「仕込み水として一般的な醸造用水(カルシウムの含有量が意図的に低減されていない水)を使用した場合、発酵ビールテイスト飲料のカルシウムの含有量は、通常25mg/L以上となってしまう。」との記載から、カルシウムの含有量が15mg/lである、甲1発明のビールが、仕込み水として脱イオン処理水を用いているとみるのが相当である旨主張する。
しかしながら、甲第4号証には、脱イオン処理以外の手段によっても、水の硬度を低下させることができることが記載されているから(甲第4号証の第58ページ「醸造用水の改良」)、仕込み水のカルシウム量が少ないからといって、その仕込み水が直ちに脱イオン処理水であるとはいえない。この点、甲第5号証に記載される技術常識を考慮しても同様である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(c)以上によれば、相違点1-3は実質的な相違点である。
b 相違点1-3の容易想到性について
(a)上記a(b)で述べたとおり、甲第4号証には、脱イオン処理以外の手段によっても、水の硬度を低下させることができることが記載されており、並列に記載される6つの選択肢の中から、「イオン交換樹脂による塩類除去」を選択する動機付けがあるとはいえない。
(b)申立人は、特許異議申立書において、「仕込み水として脱イオン処理水を用いることは、技術常識であり(甲第4号証)、当業者が適宜なし得たことである」と主張し、また、令和 6年 4月17日提出の意見書において、「ビール醸造においてイオン交換樹脂を用いたカルシウムの除去は周知技術」であるから、本件発明2、3は、進歩性を有しない旨主張する。
しかしながら、上記(a)で述べたとおり、水の硬度を低下させる手段が複数ある以上、単に、技術常識である、周知技術であると主張するだけでは、他の選択肢を排除することにはならない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(c)したがって、甲1発明において、相違点1-3に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 以上のとおり、本件発明2、3は、甲1発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲1発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由1(新規性、進歩性)、取消理由2(新規性、進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由1(新規性、進歩性)、取消理由2(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(新規性、進歩性)、取消理由3(新規性、進歩性)
(1)甲第2号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第2号証には、「ドイツのピルスナーラガービール」(表78)に関する記載があり、特に、表78における「Eichbaum Brauereien AG」社の「Eichbaum Ureich Pils」に含まれるカルシウムの含有量と総ポリフェノールの含有量に着目すると、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
カルシウムの含有量が11mg/lであり、総ポリフェノールの含有量が90mg/lである、ビール。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における、「カルシウムの含有量が11mg/l」であることは、本件発明1における、「カルシウムの含有量が14mg/L以下」であることに相当する。
(イ)甲2発明において、「カルシウムの含有量」と「総ポリフェノールの含有量」の比は、11/90=0.122であるから、甲2発明は、本件発明1における、「カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である」との条件を満たすものである。
(ウ)ビールは通常「発酵」を経て得られるものであるから、甲2発明における、「ビール」は、本件発明1における、「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「カルシウムの含有量が14mg/L以下であり、
カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1は、「麦芽比率100%の」「発酵ビールテイスト飲料」「を除く」のに対し、甲2発明は、「ビール」の「麦芽比率」が不明であり、本件発明1で除かれる「麦芽比率100%」であるのか否かが不明である点。
イ 判断
(ア)相違点2-1が実質的な相違点であるかについて
a 特許権者が、令和 6年 2月28日に提出した意見書に添付した乙第1号証(Unser Reinheitsgebot - weltbekannt und in aller Munde <URL:https://brauer-bund.de/reinheitsgebot/fragen-und-antworten/>)には、以下の事項が記載されている。
(a)「ビール純粋令は当初バイエルン公国にのみ適用されたが、1516年4月23日に公布された後、より多くの国が採用し、1906年以降はドイツ全土で適用されている。
ビール純粋令では、ビールの製造に使用できるのは、水、麦芽、ホップ、酵母のみと定められている。」(1/6ページ上段)
(b)「EU規制実施の一環として、1993年1月1日、従来のビール税法は廃止された。その理由は、EU法の施行により、税法と食品法の規制が厳格に分離されることになったからである。そのため、ビール製造に関する食品法の規制は、連邦政府によって旧ビール税法から削除され、いわゆる「暫定ビール法」に移され、現在に至っている。暫定ビール法は2005年、食品法再編成法による食品法標準化の一環として正式に廃止されたが、純粋令に従ってビールの製造を規制する暫定ビール法の規定、特に暫定ビール法第9条、第11条、第18条は引き続き適用される。」(2/6ページ下から2つ目の項目)
(c)「海外に輸出するためにバイエルン州外で生産されたビールは、必ずしも純粋令に従う必要はありません。バイエルン州以外の15の連邦州では、純粋令を逸脱したいわゆる「特別なビール」を製造することが一般的に可能です。さらに、上面発酵ビールには特定の種類の砂糖の使用が許可されていますが、これは一部の特殊ビールにのみ使用されるオプションです。」(3/6ページ下から2つ目の項目)
(d)「はい、法律(暫定ビール法第9条第7項)には、いわゆる「特別なビール」に対する例外があります。この規制はバイエルン州を除くすべての連邦州に適用されます。これにより、醸造業者はアニス、シナモン、クローブなどのスパイスや、オレンジやチェリーなどの果物を使用して製造されたビールを製造できるようになります。厳格な純粋令から常に逸脱してきた有名なビールスタイルには、ベルリナー・ヴァイセやライプツィガー・ゴーゼなどがあります。現行法によれば、ビールに特別な特徴や味を与える追加の材料のみを使用することが認められています。「特別なビール」では、麦芽やホップの代替品も許可されません。さらに、輸出用のビールについては純粋令を逸脱することが認められています。「特別なビール」および純粋令から逸脱したビールの輸出には、関連する州当局の承認が必要です。家庭で年間200リットルを超えるビールを醸造しない場合は、純粋令を遵守する必要もありません。」(4/6ページ3つ目の項目)
(e)上記(b)~(d)の摘記によれば、乙第1号証には、「1993年1月1日、従来のビール税法は廃止され、ビール製造に関する食品法の規制は、いわゆる「暫定ビール法」に移され、現在に至っており、「暫定ビール法」には、いわゆる「特別なビール」に対する例外規定があり、バイエルン州を除くすべての連邦州では、スパイスや果物を使用してビールを製造でき、州当局の承認が得られれば、輸出用のビールについては純粋令を逸脱することが認められている」こと、「上面発酵ビールには特定の種類の砂糖の使用が許可されている」ことが記載されているといえる。
b そこで、甲2発明のビールの麦芽比率について検討すると、
(a)ビール製造に関する食品法の規制が「暫定ビール法」に移されたのは、「1993年1月1日」であるが、甲第2号証の発行年は1990年であるから、それ以前の、甲2発明のビールが製造された時点では、「暫定ビール法」は制定されておらず、いわゆる「特別なビール」に対する例外規定も存在しなかったと認められる。
したがって、甲2発明のビールの原料は、水、麦芽、ホップ、酵母のみであり、甲2発明のビールの麦芽比率は、100%であるといえる。
(b)仮に、バーデン=ヴュルテンベルク州(マンハイム)のビールである甲2発明のビールが、「暫定ビール法」の適用対象であるとしても、甲2発明のビールの製造に当たり、スパイスや果物が使用されたとする証拠、甲2発明のビールが輸出用のビールであるとする証拠は見当たらず、また、甲2発明のビールは、下面発酵ビール(ピルスナー)であり、特定の種類の砂糖の使用が許可されているとはいえないから、甲2発明のビールが、「暫定ビール法」の「例外」である「特別なビール」であるとはいえない。
したがって、この点からも、甲2発明のビールの原料は、水、麦芽、ホップ、酵母のみであり、甲2発明のビールの麦芽比率は、100%であるといえる。
c 以上によれば、相違点2-1は実質的な相違点である。
(イ)相違点2-1の容易想到性について
a 甲第2号証は、「ドイツのピルスナーラガービール」であって、特定の商品に含まれる成分を列記したものであるから、これらのビールの麦芽比率を変更しようとする動機付けがあるとはいえない。この点、甲第4号証に記載される、醸造用水の改良に関する技術常識、甲第5号証に記載される、ビール中の総ポリフェノール量に関する技術常識を考慮しても同様である。
b 申立人は、令和 6年 4月17日提出の意見書において、「麦芽比率については当業者が適宜設定する事項であるから、甲2発明、甲3発明の麦芽比率を100%未満に変更することも、当業者が適宜なし得たことである。」、「日本において甲2発明、甲3発明の開示に基づいて麦芽比率100%未満のビールを製造することは容易であ」ると主張する。
しかしながら、甲2発明のビールは、「Eichbaum Brauereien AG」社の「Eichbaum Ureich Pils」という特定の商品であって、麦芽比率については、上記のとおり、100%に設定されているから、麦芽比率を100%未満に変更する特段の理由があるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
c したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)以上のとおり、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲2発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
甲第2号証には、ビールの製造方法やビールの香味向上方法が記載されていないため、甲2発明と対比することとする。
ア 対比
本件発明2、3と甲2発明とを対比すると両者は、少なくとも、以下の相違点2-2において相違する。
<相違点2-2>
本件発明2、3は、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ているのに対し、甲2発明は、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ているのか不明である点。
イ 判断
上記2(3)イで述べたのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲2発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲2発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明2、3は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由2(新規性、進歩性)、取消理由3(新規性、進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由2(新規性、進歩性)、取消理由3(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(新規性、進歩性)、取消理由4(新規性、進歩性)
(1)甲第3号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第3号証には、「ドイツ酵母入り全粒小麦ビール」(表24)に関する記載があり、特に、表24における「Erdinger Weissbraeu F. Brombach」社(当審注:ssはエスツェット、aeはaウムラウト)の「Erdinger Weissbier」に含まれるカルシウムの含有量と総ポリフェノールの含有量に着目すると、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
カルシウムの含有量が15mg/lであり、総ポリフェノールの含有量が112mg/lである、ビール。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明において、「カルシウムの含有量」と「総ポリフェノールの含有量」の比は、15/112=0.134であるから、甲3発明は、本件発明1における、「カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である」との条件を満たすものである。
(イ)ビールは通常「発酵」を経て得られるものであるから、甲3発明における、「ビール」は、本件発明1における、「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
(ウ)以上によれば、本件発明1と甲3発明とは、
「カルシウムの含有量をXmg/Lとし、総ポリフェノールの含有量をYmg/Lとした場合、X/Yが0.10~0.14である発酵ビールテイスト飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
「カルシウムの含有量」について、本件発明1は、「14mg/L以下」であるのに対し、甲3発明は、「15mg/l」である点。
<相違点3-2>
本件発明1は、「麦芽比率100%の」「発酵ビールテイスト飲料」「を除く」のに対し、甲3発明は、「ビール」の「麦芽比率」が不明であり、「麦芽比率100%」であるのか否かが不明である点。
イ 判断
(ア)相違点3-2が実質的な相違点であるかについて
a 乙第1号証の記載事項は、上記3(2)イ(ア)aに摘記したとおりである。
b そこで、甲3発明のビールの麦芽比率について検討すると、
(a)ビール製造に関する食品法の規制が「暫定ビール法」に移されたのは、「1993年1月1日」であるが、甲第3号証の発行年は1984年であるから、それ以前の、甲3発明のビールが製造された時点では、「暫定ビール法」は制定されておらず、いわゆる「特別なビール」に対する例外規定も存在しなかったと認められる。
したがって、甲3発明のビールの原料は、水、麦芽、ホップ、酵母のみであり、甲3発明のビールの麦芽比率は、100%であるといえる。
(b)そもそも、甲3発明のビールは、バイエルン州(エルディング)のビールであるから、「暫定ビール法」は適用されず、甲3発明のビールが、いわゆる「特別なビール」であるとはいえない。
c 以上によれば、相違点3-2は実質的な相違点である。
(イ)相違点3-2の容易想到性について
上記3(2)イ(イ)で述べたのと同様の理由により、甲3発明において、相違点3-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)以上のとおり、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲3発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
甲第3号証には、ビールの製造方法やビールの香味向上方法が記載されていないため、甲3発明と対比することとする。
ア 対比
本件発明2、3と甲3発明とを対比すると両者は、少なくとも、以下の相違点3-2において相違する。
<相違点3-2>
本件発明2、3は、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ているのに対し、甲3発明は、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ているのか不明である点。
イ 判断
上記2(3)イで述べたのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲3発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲3発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明2、3は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由3(新規性、進歩性)、取消理由4(新規性、進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由3(新規性、進歩性)、取消理由4(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4(サポート要件)、取消理由5(サポート要件)
(1)本件発明2について
ア 取消理由通知において、「本件訂正前の明細書の段落【0007】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「味のボリュームを維持しつつ(大きく低減させることなく)、雑味が低減するとともに後味のスッキリさが増強した発酵ビールテイスト飲料、発酵ビールテイスト飲料の製造方法、及び、発酵ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供すること」であると認められる。
一方、本件訂正前の明細書の段落【0012】には、「発酵ビールテイスト飲料中のカルシウムの含有量を所定値以下とすることによって、味のボリューム(飲んだ際に感じるトップのボリューム)を維持しながらも、雑味を低減し、後味のスッキリさを増強することができる。」ことが記載されている。また、段落【0020】には、「カルシウムの含有量/総ポリフェノールの含有量」が、発酵ビールテイスト飲料の硫化物臭を低減しつつ、本発明の効果の発揮をより確実なものとするために設定されたものであることが記載されている。
そして、本件訂正前の明細書の段落【0047】~【0058】の実施例1には、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」の場合に、上記課題が解決し得ることが示されているものの、カルシウムの含有量が15mg/Lを超える場合において、上記課題を解決できたことは示されていない。
また、「脱イオン処理」との特定により、除去される元素やその残留量が特定されるわけではないから、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」たからといって、直ちに発酵ビールテイスト飲料の「カルシウムの含有量が15mg/L以下」となるとはいえない。
そうすると、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」ることや「カルシウムの含有量/総ポリフェノールの含有量」(X/Y)を「0.10~0.14」とすることは特定されているものの、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」であることが特定されていない本件訂正前の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。」と指摘した。
イ 以下、検討する。
本件訂正により、本件発明2は、「カルシウムの含有量をXmg/Lとし」「た場合、」「Xを15以下」とすることが特定された。すなわち、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」であることが特定された。
そうすると、本件発明2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載は、本件発明2について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
ウ 以上のとおりであるから、取消理由5は解消した。
(2)本件発明3について
本件訂正により、本件発明3は、「カルシウムの含有量をXmg/Lとし」「た場合、」「Xを15以下」とすることが特定された。すなわち、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」であることが特定された。
そうすると、本件発明3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項3の記載は、本件発明3について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
(3)申立理由4(サポート要件)、取消理由5(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由4(サポート要件)、取消理由5(サポート要件)によっては、本件特許の請求項2、3に係る特許を取り消すことはできない。
6 取消理由6(実施可能要件)
(1)本件発明3について
ア 取消理由通知において、「本件訂正前の明細書の段落【0047】~【0058】の実施例1には、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」の場合に、「発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する」ことが示されているものの、カルシウムの含有量が15mg/Lを超える場合において、「発酵ビールテイスト飲料の味のボリュームを維持しつつ雑味を低減し後味のスッキリさを増強する」ことは示されていない。
また、「脱イオン処理」との特定により、除去される元素やその残留量が特定されるわけではないから、「仕込み水として脱イオン処理水を用い」たからといって、直ちに発酵ビールテイスト飲料の「カルシウムの含有量が15mg/L以下」となるとはいえない。
そうすると、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の記載は、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」であることが特定されていない本件訂正前の請求項3に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
本件訂正により、本件発明3は、「カルシウムの含有量をXmg/Lとし」「た場合、」「Xを15以下」とすることが特定された。すなわち、「カルシウムの含有量が15mg/L以下」であることが特定された。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
ウ 以上のとおりであるから、取消理由6は解消した。
(2)取消理由6(実施可能要件)についてのまとめ
したがって、取消理由6(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701114