特許異議申立
2023-700591
アルコール飲料の製造方法
- 審判番号
- 2023-700591
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-124842
- 登録番号
- 7184551
- 請求日
- 2023年06月06日
- 審決日
- 2024年07月11日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】山尾 憲人
- 【権利者代理人】西下 正石
- 【異議申立人】下河 あい
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-ZE (C12G) / P1651.121-ZE (C12G) / P1651.537-ZE (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7184551号発明「アルコール飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7184551号の請求項1~4及び7に係る特許を取り消す。
特許第7184551号の請求項5、6及び8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7184551号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成30年6月29日に出願され、令和4年11月28日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年12月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和5年6月6日に特許異議申立人下河あい(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:請求項1~8)がされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 8月 4日付け:取消理由通知
同年 9月22日 :意見書、訂正請求書の提出(特許権者)
同年10月26日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年11月29日 :意見書の提出(申立人)
同年12月25日付け:訂正拒絶理由通知
令和6年 2月 8日 :手続補正書、意見書の提出(特許権者)
同年 3月 8日付け:取消理由通知(決定の予告)
なお、令和6年3月8日付け取消理由通知(決定の予告)に対し、特許権者からは何ら応答がなかった。
以下、令和5年9月22日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7184551号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「炭素源」とあるのを「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項3及び5~8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。請求項3の記載を引用する請求項4~8も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「炭素源」とあるのを「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種」に訂正する。請求項4の記載を引用する請求項5~8も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1又は3」に訂正する。請求項4の記載を引用する請求項5~8も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、3又は4」に訂正する。請求項5の記載を引用する請求項6~8も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、3~5のいずれか一項」に訂正する。請求項6の記載を引用する請求項7及び8も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、3~6のいずれか一項」に訂正する。請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、3~7のいずれか一項」に訂正する。
なお、訂正事項1~9に係る訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項1、3~8は訂正事項1、3~9によって直接又は連動して訂正され、訂正後の請求項2は訂正事項2によって削除される。よって、本件訂正は一群の請求項1~8について請求されたものである。
2.補正の内容
令和6年2月8日に提出された手続補正書(以下、「本件手続補正書」という。)による補正(以下、「本件補正」という。)は、本件訂正請求書の全文を補正するものであり、具体的には次の内容の補正を含むものである。
(1)訂正事項1の補正
本件訂正請求書における「7.請求の理由」(2)の「ア 訂正事項1」を以下のとおりに補正する。
「ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「炭素源」の前に「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種である」を挿入する(請求項1の記載を引用する請求項3及び5~8も同様に訂正する)。」
(2)訂正事項4の補正
本件訂正請求書における「7.請求の理由」(2)の「エ 訂正事項4」を以下のとおりに補正する。
「エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「炭素源」の前に「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種である」を挿入する(請求項4の記載を引用する請求項3及び5~8も同様に訂正する)。」
(3)訂正事項1の訂正の理由の「a」の補正
本件訂正請求書における「7.請求の理由」(3)イの「(ア)訂正事項1」の「a」を以下のとおりに補正する。
「a 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、発酵前液の成分の一つを「炭素源」という特定で規定していた。かかる規定では、発酵前液がいかなる化合物を含むかについて特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵前液の成分が「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種である炭素源」と化合物名でも特定されている。
訂正事項1は、このように、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。」
(4)訂正事項4の訂正の理由の「a」の補正
本件訂正請求書における「7.請求の理由」(3)イの「(エ)訂正事項4」の「a」を以下のとおりに補正する。
「a 訂正の目的について
訂正前の請求項4は、請求項1の「炭素源」の含有量を特定していたが、訂正事項1に連動させて、「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種である炭素源」の含有量を特定するように訂正した。
訂正事項4は、訂正事項1と同様に特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。」
3.本件補正の適否
(1)要旨変更の有無について
特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項は、「請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。ただし、当該補正が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。」と規定し、同項第1号には、「特許無効審判以外の審判を請求する場合における前条第一項第三号に掲げる請求の理由についてされるとき。」と規定されているから、訂正請求書の「請求の趣旨」の補正については、要旨の変更が認められていないといえる。そして、「請求の趣旨」の要旨を変更する補正とは、「請求の趣旨」に記載され特定された「請求を申し立てている事項」の同一性に実質的な変更を加えるような補正一般を指すというべきであり、補正の前後で訂正請求の審理範囲が実質的に変更される場合は、訂正請求書の要旨の変更に該当すると解すべきである。
この点を踏まえて、本件補正について検討する。
(2)訂正事項1の補正(2.(1))について
上記1.(1)「訂正事項1」に記載した内容と、上記2.(1)「訂正事項1の補正」に記載した内容とを合わせると、訂正事項1の補正は、具体的には以下の内容を含むものである。
補正の内容:本件訂正請求書の「7.請求の理由」(2)の「ア 訂正事項1」において、「「炭素源」とあるのを「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種」に訂正する」と記載されているのを、「「炭素源」の前に「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種である」を挿入する」と補正する。
かかる補正は、補正の前後で発酵前液の成分組成を変更するものであり、訂正請求の審理範囲が実質的に変更されるから、訂正請求書の要旨を変更するものである。
(3)訂正事項4の補正(2.(2))について
上記1.(4)「訂正事項4」に記載した内容と、上記2.(2)「訂正事項4の補正」に記載した内容とを合わせると、訂正事項4の補正は、具体的には以下の内容を含むものである。
補正の内容:本件訂正請求書の「7.請求の理由」(2)の「エ 訂正事項4」において、「「炭素源」とあるのを「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種」に訂正する」と記載されているのを、「「炭素源」の前に「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種である」を挿入する」と補正する。
かかる補正は、補正の前後で発酵前液の成分組成を変更するものであり、訂正請求の審理範囲が実質的に変更されるから、訂正請求書の要旨を変更するものである。
(4)訂正の理由の補正(2.(3)及び(4))について
これらの補正は、上記訂正事項1及び4の補正に伴い、対応する訂正事項1及び4の訂正の理由の記載をそれぞれ整合させるための補正であるから、訂正事項1及び4と同じ理由により、訂正請求書の要旨を変更するものである。
(5)本件補正の適否についてのまとめ
したがって、本件補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合しないから、認められない。
4.訂正の適否
上記3.のとおり、本件補正は認められないから、上記1.(1)~(9)に記載した本件訂正の適否について検討する。
(1)訂正事項4について
事案に鑑みて、訂正事項4について検討する。
ア 訂正の目的について
訂正事項4の訂正により、本件訂正前の請求項4の、「発酵前液は2~20%(w/v)の炭素源を含有する」という発明特定事項が、「発酵前液は2~20%(w/v)のフルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種を含有する」に訂正される。ここで、本件訂正前においては発酵前液に含まれる炭素源の総量が2~20%(w/v)であったものが、本件訂正後においてはフルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種の含有量が2~20%(w/v)であり、さらに別の炭素源も含み得ると解されるから、炭素源の総量が20%(w/v)を超える場合を包含することになるものと認められる。そうすると、訂正事項4の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、上記の訂正が、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正、同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明及び同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることのいずれを目的とするものでもないことも明らかである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項の規定に適合するものではない。
イ 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更について
上記アに記載したとおり、訂正事項4の訂正は、訂正前の請求項4における炭素源の含有割合についての発明特定事項を、炭素源のうちの「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種」の含有割合を特定する発明特定事項に置き換え、炭素源の総量としての含有割合の特定を削除するものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更する訂正といえる。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではない。
ウ 特許権者の主張について
特許権者は、本件訂正請求書第5~6頁において、訂正事項4の訂正の目的及び特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について、「訂正事項1に連動させて「フルクトース及びスクロースから成る群から選択される少なくとも一種」の含有量を特定するように訂正した」こと、及び「発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない」ことを主張しているが、上記ア及びイのとおり、訂正事項4の訂正は、炭素源をフルクトース及び/又はスクロースに限定するものではないため、訂正後の請求項4における炭素源の含有量は訂正前より多くなり得るものと解され、この点において特許請求の範囲は拡張されているといえる。
また、特許権者は、令和6年2月8日に提出した意見書において、本件補正が認められることを前提として、訂正拒絶理由が解消した旨を主張しているが、上記3.に記載したとおり本件補正は認められないものである。
よって、特許権者の主張はいずれも採用することができない。
エ 訂正事項4についてのまとめ
以上まとめると、訂正事項4の訂正は、特許法第120条の5第2項の規定に適合しないものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合しないものであるから、他の要件について検討するまでもなく、訂正の要件を満たしていない。
(2)訂正の適否についてのまとめ
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項及び同条第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合しない訂正事項4を含むものであるから、訂正事項4により訂正される請求項4~8と一群の請求項をなす本件訂正前の請求項1~8についての訂正、すなわち、訂正事項1~9に係る本件訂正は、いずれも認められない。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。
「[請求項1]
1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。
[請求項2]
前記炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース及びマルトースから成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
[請求項3]
前記発酵前液は、小麦、麦芽、トウモロシ、馬鈴薯、米、大豆、酵母エキス、タンパク質の酵素分解物に含まれるアミノ酸を含有する、請求項1又は2に記載のアルコール飲料の製造方法。
[請求項4]
発酵前液は2~20%(w/v)の炭素源を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
[請求項5]
色素を含有させる工程を包含しない、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
[請求項6]
前記アルコール飲料は3.0EBC以下の色度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
[請求項7]
前記アルコール飲料は4~6%(v/v)のアルコール濃度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
[請求項8]
請求項1~7のいずれか一項に記載のアルコール飲料と蒸留酒とを混合する工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、令和5年6月6日に特許異議申立書(以下、「申立書」という。)及び証拠方法として下記5.に示す甲第1号証~甲第6号証を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
また、申立人は令和5年11月29日に意見書及び証拠方法として下記5.に示す甲第7号証を提出し、特許異議申立理由の主張を補充している。
1.申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~4及び7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2.申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~4及び7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3.申立理由3-1(サポート要件)
本件特許の請求項1~8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・アミノ態窒素の濃度が1.0mg/100ml以下である範囲の全体にわたって、「醸造由来の深い味わいや飲み応えを有し、発酵香気が抑制され、発酵不純臭を有しないアルコール飲料の製造方法を提供する」という課題を解決できることを当業者が認識できない。
4.申立理由3-2(サポート要件)
本件特許の請求項4~8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・実施例における発酵前液の炭素源の濃度が不明であり、発酵前液における炭素源の測定方法が記載されていない。また、エキス濃度が記載されていることは炭素源の濃度のサポートにはならない。
5.証拠方法
甲第1号証:特開2007-125045号公報
甲第2号証:国際公開第2004/000990号
甲第3号証:国際公開第2007/139181号
甲第4号証:特開2001-211872号公報
甲第5号証:特開2011-206047号公報
甲第6号証:特願2018-124842号(本件特許出願)の令和4年5月
30日付け拒絶理由通知書
甲第7号証:北岡正三郎,鈴木喜六,「カラメルの研究 第2報 ショ糖の熱分解による少糖類の生成」,島根農科大学研究報告,第15号,A-3,農芸化学,1967,p.19-24
証拠の表記は、特許異議申立書及び令和5年11月29日提出の意見書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審が令和6年3月8日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1.取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1~4及び7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~4及び7は、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4及び7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2.取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1~4及び7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~4及び7は、甲2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4及び7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断
本件特許発明1~4及び7は、上記第3に記載したとおり、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~4及び7に記載された事項により特定されるとおりのものである。これに対して、令和6年3月8日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何ら応答がなかった。そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件特許の請求項1~4及び7に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
第7 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由は、上記第4に記載した申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)のうち、本件特許の請求項5、6及び8についての進歩性の申立理由と、申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)のうち、本件特許の請求項5、6及び8についての進歩性の申立理由と、申立理由3-1(サポート要件)と、申立理由3-2(サポート要件)である。以下、検討する。
1.主な証拠に記載された事項等
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、発泡アルコール飲料及びその製造方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「[0017]
以下には本発明をより詳細に説明するために実施例を示す。
[実施例]
以下、本発明の製法に従って実施した具体例について述べる。
[0018]
ここでは、適当な窒素源と泡特性を改善する原材料とを組み併せて、あるいは何れ一方を使用する場合に適用して実施した試験醸造を説明する。なお、本実施例は、400Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。計21種類のビール様発泡アルコール飲料及び2種類の発泡酒を製造し、これらについて泡持ち、発酵性香味の官能比較試験を行った。実施例1乃至7は何れも原材料以外の工程条件は同じとし、最終的にアルコール5.0容量%に調整した。同様に、実施例8も何れの原材料以外の工程条件は同じとし、最終的に5.5容量%に調整した。
[0019]
なお、エンドウ豆(豌豆:Pisum Sativum L)には黄色、グリーン、赤の3種類が有るが、以下の実施例に使用したエンドウ豆は黄色エンドウであり、この当該黄色エンドウ豆より抽出したエンドウタンパクを使用する。
(実施例1)
実施例1は、麦芽、窒素源を使用することなく、炭素源を含有するシロップ、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク(オルガノローディアフード社製:エンドウタンパク、以下同じ)、大豆タンパク(昭和産業社製:昭和フレッシュ、以下同じ)を使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
[0020]
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、商業的に入手可能 注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。そして泡特性を改善する原材料を使用しない(#1-1)エンドウタンパク2000g(#1-2)、大豆タンパク2000g(#1-3)として、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
[0021]
すなわち、カラメル色素240g(池田糖化工業社製:コクヨカラメル、以下同じ),ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
[0022]
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、-1℃で貯酒を行った。
[0023]
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
・・・(略)・・・
[0027]
[表2]
[図:0001414167000001.jpg]
評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表2の官能評価は#1-1の香味を基準としている。
[0028]
なお、本実施例ではいずれのサンプルとも「後味」の評価は良好とは言えなかった。これは、各サンプルの製造過程で窒素源を添加していないため、発酵が途中で止まり、所定より残存エキス分が所定よりも多いことに起因し、この残存エキス分によって、より甘味が感じられることとなり、後味に影響が現われた。しかしながら、そのような状況においても、エンドウタンパクを使用したサンプル#1-2が、他のサンプル#1-1、#1-3と比べてより硫化物臭が低減されて、エステル香や切れも明らかに上回っていた。
[0029]
[表3]
[図:0001414167000002.jpg]
表3は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでを目指したが、本実施例では、仮性エキスで4.00%まで下がらなかった。仮性エキスは発酵によって当該発酵前液中の糖から生じたアルコールと発酵されていない糖との比重から求められたエキスであり、より具体的には発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、本実施例では、発酵液中に酵母が資化可能な糖があるにも関わらず、仮性エキスが4.00%で発酵は止まった。
[0030]
[表4]
[図:0001414167000003.jpg]
表4は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。好ましい発酵が出来なかったために、更に窒素源を補給することが望ましい。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を実施例1の#1-1ないし#1-3に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1-1発明>
「カラメル色素240g、ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップ69kg(固形分75%、DE50)を加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸し、その後、ホップ粕などを除去して冷却し、遊離アミノ態窒素が5mg/Lの発酵前液を得、この発酵前液にビール酵母を添加して発酵させた後、最終的にアルコール5.0容量%に調整する、発泡アルコール飲料の製造方法。」
<甲1-2発明>
「カラメル色素240g、ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップ69kg(固形分75%、DE50)及びエンドウタンパク2000gを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸し、その後、ホップ粕などを除去して冷却し、遊離アミノ態窒素が8mg/Lの発酵前液を得、この発酵前液にビール酵母を添加して発酵させた後、最終的にアルコール5.0容量%に調整する、発泡アルコール飲料の製造方法。」
<甲1-3発明>
「カラメル色素240g、ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップ69kg(固形分75%、DE50)及び大豆タンパク2000gを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸し、その後、ホップ粕などを除去して冷却し、遊離アミノ態窒素が9mg/Lの発酵前液を得、この発酵前液にビール酵母を添加して発酵させた後、最終的にアルコール5.0容量%に調整する、発泡アルコール飲料の製造方法。」
(2)甲2の記載事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、ビール様アルコール飲料及びその製造方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「したがって、本発明は、大麦、小麦、麦芽を一切使用することなく、また、従来のビールや発泡酒の製造において必要とされる穀物などのデンプン質の液化・糖化工程を必要とせず、しかも、香味や泡立ち・泡持ちも通常のビールと遜色のないビール様アルコール飲料及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
発明の開示
上記課題は以下の本発明の手段により解決することができる。
本発明者らは、上記課題を達成するため、種々検討した結果、発酵前の液を炭素源を含有するシロップ、アミノ酸含有材料などの窒素源、水、ホップ、色素、起泡・泡持ち向上物質と必要に応じて香料を添加して造り、外観や香味、さらに泡持ちの優れたビール様のアルコール飲料の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。前記材料により造った発酵前液に通常のビールの製造工程と同様にビール酵母を添加し発酵させることによりビール様のアルコール飲料を得ることができる。」(第2頁第20行-第3頁第5行)
・「[シロップについて]
先ず、本発明のアルコール飲料の原材料となる炭素源含有のシロップについて説明する。
本発明で使用するシロップはトウモロシ、馬鈴薯又は米等の澱粉質含有原料の澱粉質を糖化させて製造される糖液である。シロップは以下の点を考慮しての選定される。
シロップの成分のうち、発酵後に残存する主に四糖類以上の組成は最終製品のボディ及び爽快さに非常に重要である。また、ビール等の製造における通常の麦汁において、ビール酵母によって摂取される発酵性糖分は、グルコース、マルトース及びマルトトリオースが中心である。このため、少なくとも固形成分換算中で発酵性糖分は、ビールのボディ感を最低失わせない程度の割合で含有していることが必要であり、炭素源を単独のシロップから得るには多くとも95%以下にする必要がる。」(第3頁第22行-第4頁第5行)
・「[窒素源]
次に、本発明に使用する原料の一つであるアミノ酸含有材料などの窒素源について説明する。
ここで本発明で使用する窒素源とは、グルタミン酸、グルタミン酸のようなアミノ酸やリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムのような無機塩又は窒素源に酵素を働かせ得るものなど酵母の栄養源となる窒素源であれば特に限定されない(但し、大麦、小麦、麦芽由来のものは除く)。
また、「アミノ酸含有材科」とは、トウモロコシ、馬鈴薯又は米などのから澱粉成分を取り出した後、さらに分解工程を経て、窒素成分の一部がアミノ酸レベルまで分解されたものをいう。アミノ酸は酵母の栄養源となるもので、酵母の発酵に必須のものである。通常のトウモロコシ、馬鈴薯又は米であれば、特別な原料を使用せずにアミノ酸まで分解すれば、酵母の発酵に必須のアミノ酸を得ることが可能である。
アルコール飲料を製造するための発酵前の液に酵母の発酵に最低限必要なアミノ酸含量を提供する必要があり、具体的には発酵前の液で遊離アミノ酸含量として10mg/L以上必要である。また、必要に応じて窒素源としてリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどの無機塩を添加することも可能である。」(第4頁第14行-第5頁第1行)
・「発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の製法に従って実施した具体例について述べる。
本実施例は、400Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。
シロップ50kg(水分含量75%、DE50の製品で商業的に入手可能である),アミノ酸粉末400g(アミノ酸含有量0.2%、商業的に入手可能)、カラメル色素140g,ホップペレット400g及び気泡物質として植物抽出キラヤサポニン70mlを加え、これに300-350Lのお湯を加え、60-90分間煮沸する。その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。
この発酵前液にビール酵母を添加し、6-15℃で5日-15日間発酵させる。その後、-1℃で貯酒を行った。発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、アルコール5%程度のビールと同様の酒類Aを製造した。」(第6頁第22行-第7頁第5行)
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を酒類Aに関して整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
<甲2発明>
「シロップ50kg(水分含量75%、DE50の製品)、アミノ酸粉末400g(アミノ酸含有量0.2%)、カラメル色素140g、ホップペレット400g及び気泡物質として植物抽出キラヤサポニン70mlを加え、これに300-350Lのお湯を加え、60-90分間煮沸し、その後、ホップ粕などを除去して冷却し、発酵前液を得、この発酵前液にビール酵母を添加し、6-15℃で5日-15日間発酵させる、アルコール5%程度のビールと同様の酒類Aの製造方法。」
2.申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1-1発明との対比・判断
ア 本件特許発明5について
(ア)本件特許発明5と甲1-1発明との対比
本件特許発明5は、請求項1~4のいずれか一項を引用する発明であるところ、請求項1を引用する場合の発明を具体的に書き下すと、以下のようになる。
「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法であって、色素を含有させる工程を包含しない、アルコール飲料の製造方法。」
本件特許発明5と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「遊離アミノ態窒素が5mg/Lの発酵前液」は、本件特許発明5の「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有」する「発酵前液」との特定事項を満たす。
甲1-1発明の「発酵前液」は、「シロップ69kg(固形分75%、DE50)」を含むから、甲1-1発明は本件特許発明5の「炭素源を含有する発酵前液」との特定事項を満たす。
甲1-1発明は「発酵前液にビール酵母を添加して発酵させ」る工程を含み、「ビール酵母を添加して発酵させ」る工程がアルコール発酵であることは明らかであるから、甲1-1発明は本件特許発明5の「ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する」との特定事項を満たす。
甲1-1発明の「発泡アルコール飲料の製造方法」は、本件特許発明5の「アルコール飲料の製造方法」に相当する。
そうすると、両者は、
「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点1-1:本件特許発明5は「色素を含有させる工程を包含しない」と特定するのに対し、甲1-1発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、相違点1-1について検討する。
(イ)相違点1-1について
本件明細書の[0041]には、「本発明のアルコール飲料には、色度が低い外観に影響を与えない目的から、色素は使用しないことが好ましい」と記載されているところ、甲1にはそのような目的で色素を使用しないことを動機付ける記載は存在しないから、甲1の実施例1から認定された甲1-1発明において、カラメル色素を含有させる工程を包含しない方法に変更する動機付けはない。また、甲2~甲5を参照しても、甲1-1発明をカラメル色素を含有させる工程を包含しない方法に変更する動機は見いだせない。
よって、甲1-1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)本件特許発明5についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明5は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明6について
(ア)本件特許発明6と甲1-1発明との対比
本件特許発明5と同様に、甲1-1発明と、請求項1を引用する場合の本件特許発明6とを対比すると、両者は、
「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点2-1:本件特許発明6は「前記アルコール飲料は3.0EBC以下の色度を有する」と特定するのに対し、甲1-1発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、相違点2-1について検討する。
(イ)相違点2-1について
本件明細書の[0041]には、「本発明のアルコール飲料には、色度が低い外観に影響を与えない目的から、色素は使用しないことが好ましい」と記載されているところ、甲1にはそのような目的で色素を使用しないことを動機付ける記載は存在しないから、甲1-1発明において、3.0EBC以下の色度を有する発泡アルコール飲料の製造方法とする動機付けはない。また、甲2~甲5を参照しても、甲1-1発明を3.0EBC以下の色度を有する発泡アルコール飲料の製造方法とする動機は見いだせない。
よって、甲1-1発明において、相違点2-1に係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)本件特許発明6についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明6は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明8について
(ア)本件特許発明8と甲1-1発明との対比
本件特許発明5と同様に、甲1-1発明と、請求項1を引用する場合の本件特許発明8とを対比すると、両者は、
「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点3-1:本件特許発明8は「アルコール飲料と蒸留酒とを混合する工程を包含する」と特定するのに対し、甲1-1発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、相違点3-1について検討する。
(イ)相違点3-1について
本件明細書の[0046]には、「本発明のアルコール飲料は、蒸留酒と混合することで、醸造由来の飲み応えを有しながらも後半の味感が軽く、飲みやすく、これまでの酒類に存在しなかった香味を実現することができる」と記載されているところ、甲1にはそのような目的で蒸留酒と混合することを動機付ける記載は存在しないから、甲1-1発明において、蒸留酒と混合する工程を包含する方法に変更する動機付けはない。また、甲2~甲5を参照しても、甲1-1発明を蒸留酒と混合する工程を包含する製造方法とする動機は見いだせない。
よって、甲1-1発明において、相違点3-1に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)本件特許発明8についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明8は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲1-2発明及び甲1-3発明との対比・判断
本件特許発明5、6及び8と甲1-2発明及び甲1-3発明とをそれぞれ対比すると、それらの一致点及び相違点は、上記(1)に記載した本件特許発明5、6及び8と甲1-1発明とを対比したときの一致点及び相違点と同じである。
そして、各相違点についての判断も、上記(1)に記載した判断と同様である。
よって、本件特許発明5、6及び8は、甲1-2発明及び甲1-3発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1(甲1に基づく進歩性)についてのまとめ
以上まとめると、本件特許発明5、6及び8は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由1(甲1に基づく進歩性)により、本件特許の請求項5、6及び8に係る特許を取り消すことはできない。
3.申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と甲2発明との対比
本件特許発明5は、請求項1~4のいずれか一項を引用する発明であるところ、請求項1を引用する場合の発明を具体的に書き下すと、以下のようになる。
「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法であって、色素を含有させる工程を包含しない、アルコール飲料の製造方法。」
本件特許発明5と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「発酵前液」は、「シロップ50kg(水分含量75%、DE50の製品)」を含むから、甲2発明は本件特許発明5の「炭素源を含有する発酵前液」との特定事項を満たす。
甲2発明は「発酵前液にビール酵母を添加し、6-15℃で5日-15日間発酵させる」工程を含み、「ビール酵母を添加し、6-15℃で5日-15日間発酵させる」工程がアルコール発酵であることは明らかであるから、甲2発明は本件特許発明5の「ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する」との特定事項を満たす。
甲2発明の「アルコール5%程度のビールと同様の酒類Aの製造方法」は、本件特許発明5の「アルコール飲料の製造方法」に相当する。
そうすると、両者は、
「炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点1-2:発酵前液に関し、本件特許発明5では「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し」と特定するのに対し、甲2発明では「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有」するのかが不明である点
相違点2-2:本件特許発明5は「色素を含有させる工程を包含しない」と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
イ 相違点2-2について
本件明細書の[0041]には、「本発明のアルコール飲料には、色度が低い外観に影響を与えない目的から、色素は使用しないことが好ましい」と記載されているところ、甲2にはそのような目的で色素を使用しないことを動機付ける記載は存在しないから、甲2の実施例から認定された甲2発明において、カラメル色素を含有させる工程を包含しない方法に変更する動機付けはない。また、甲1及び甲3~甲5を参照しても、甲2発明をカラメル色素を含有させる工程を包含しない方法に変更する動機は見いだせない。
よって、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
ウ 本件特許発明5についてのまとめ
以上のことから、相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件特許発明6について
ア 本件特許発明6と甲2発明との対比
本件特許発明5と同様に、甲2発明と、請求項1を引用する場合の本件特許発明6とを対比すると、両者は、
「炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点3-2:発酵前液に関し、本件特許発明6では「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し」と特定するのに対し、甲2発明では「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有」するのかが不明である点
相違点4-2:本件特許発明6は「前記アルコール飲料は3.0EBC以下の色度を有する」と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点4-2について検討する。
イ 相違点4-2について
本件明細書の[0041]には、「本発明のアルコール飲料には、色度が低い外観に影響を与えない目的から、色素は使用しないことが好ましい」と記載されているところ、甲2にはそのような目的で色素を使用しないことを動機付ける記載は存在しないから、甲2発明において3.0EBC以下の色度を有する発泡アルコール飲料の製造方法とする動機付けはない。また、甲1及び甲3~甲5を参照しても、甲2発明を3.0EBC以下の色度を有する発泡アルコール飲料の製造方法とする動機は見いだせない。
よって、甲2発明において、相違点4-2に係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
ウ 本件特許発明6についてのまとめ
以上のことから、相違点3-2について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明8について
ア 本件特許発明8と甲2発明との対比
本件特許発明5と同様に、甲2発明と、請求項1を引用する場合の本件特許発明8とを対比すると、両者は、
「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点5-2:発酵前液に関し、本件特許発明8では「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し」と特定するのに対し、甲2発明では「1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有」するのかが不明である点
相違点6-2:本件特許発明8は「アルコール飲料と蒸留酒とを混合する工程を包含する」と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点6-2について検討する。
イ 相違点6-2について
本件明細書の[0046]には、「本発明のアルコール飲料は、蒸留酒と混合することで、醸造由来の飲み応えを有しながらも後半の味感が軽く、飲みやすく、これまでの酒類に存在しなかった香味を実現することができる」と記載されているところ、甲2にはそのような目的で蒸留酒と混合することを動機付ける記載は存在しないから、甲2発明において、蒸留酒と混合する工程を包含する方法に変更する動機付けはない。また、甲1及び甲3~甲5を参照しても、甲2発明を蒸留酒と混合する工程を包含する製造方法とする動機は見いだせない。
よって、甲2発明において、相違点6-2に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
ウ 本件特許発明8についてのまとめ
以上のことから、相違点5-2について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由2(甲2に基づく進歩性)についてのまとめ
以上まとめると、本件特許発明5、6及び8は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由2(甲2に基づく進歩性)により、本件特許の請求項5、6及び8に係る特許を取り消すことはできない。
4.申立理由3-1(サポート要件)及び申立理由3-2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許発明の課題について
本件明細書の[0015]等の記載から見て、本件特許発明5、6及び8の課題は「醸造由来の深い味わいや飲み応えを有し、発酵香気が抑制され、発酵不純臭を有しないアルコール飲料の製造方法を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載事項、課題を解決可能な範囲
本件明細書の発明の詳細な説明の[0005]には、ビールの中でも香気が少ないものに対する需要が増大する傾向にあることが記載されているところ、従来技術に関し、[0006]~[0009]には「発酵工程で酵母が資化するアミノ酸量を増大させたり、発酵時に一定時間通気を行う」と、ビール酵母による発酵が促進され、ビール様の風味が増進されること、[0010]には「麦汁中のアミノ酸量が減少した場合、そのまま発酵を行うと、麦芽に由来する旨味、コク感が損なわれ、しかも発酵が充分に進行せず、発酵不純臭が発生する」ことが記載されている。
これに対し、本件明細書の発明の詳細な説明の[0025]には、「本発明の方法で使用する発酵前液は炭素源を含有する。本明細書において炭素源とは、アルコール発酵を行う際に、酵母が摂取してその栄養にする炭水化物をいう。」と記載され、[0028]には、「本発明の方法で使用する発酵前液は、アミノ態窒素の濃度が3.0mg/100ml以下に制限される。窒素源がほぼ存在しない状態にて発酵させることで、硫黄臭等の不快な香気が抑制され、軽く爽やかな香気になる。」と記載されていることから、当業者は、アミノ態窒素の濃度を制限することによるビール様風味の抑制と、炭素源を含有させることによる発酵不純臭の発生防止とを組み合わせることにより、発明の課題を解決できると理解することができる。また、[0049]~[0059]には、発酵前液中のアミノ態窒素濃度を0.1mg/100mlから15.5mg/100mlまで変化させた具体例の官能評価結果(硫黄臭の強さ及び香気の具体的な官能)が記載されているから、上記アミノ態窒素及び炭素源の機能についての記載と併せることにより、当業者は、「3.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法」により、上記発明の課題を解決できると認識することができる。
(4)本件特許発明についての判断
本件特許発明5は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる上記(3)に記載した製造方法をさらに限定したものであるから、当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。また、請求項5を直接又は間接的に引用する本件特許発明6及び8についても同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、概略、上記第4 3.及び4.のように主張するが、上記(3)に記載したとおり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明における一般記載及び具体例の官能評価結果を参酌することにより、発酵前液中のアミノ態窒素の濃度が3.0mg/100ml以下であればビール様の発酵香気が抑制され、さらにビール酵母が栄養とする炭素源を含有することにより発酵不純臭の発生が抑制され、上記発明の課題を解決できると認識することができる。そうすると、当業者は、「アミノ態窒素の濃度が1.0mg/100ml以下である範囲の全体にわたって」発明の課題を解決できることを認識することができるから、上記第4 3.の主張は採用できない。
また、本件特許発明4における炭素源の単位%(w/v)が、[0049]の実施例に記載された炭素源の単位%(w/w)と異なっていても、発酵前液にビール酵母が栄養とする炭素源が含まれることに変わりはないから、当業者は発明の詳細な説明の記載により本件特許発明4が発明の課題を解決できると認識することができ、請求項4を直接又は間接的に引用する本件発明5~8についても同様に発明の課題を解決できると認識することができる。よって、上記第4 4.の主張も採用できない。
(6)申立理由3-1(サポート要件)及び申立理由3-2(サポート要件)についてのまとめ
以上まとめると、本件特許発明5、6及び8は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、本件特許の請求項5、6及び8に係る特許は、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由3-1(サポート要件)及び申立理由3-2(サポート要件)により本件特許の請求項5、6及び8に係る特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~4及び7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によって取り消すべきものである。
本件特許の請求項5、6及び8に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項5、6及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700591