審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2025-700567

ゴム変性スチレン系樹脂組成物、シート、照明用カバーおよび成形品

審判番号
2025-700567
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-003425
登録番号
7622264
請求日
2025年05月28日
審決日
2026年07月01日
公報発行日
2026年09月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】PSジャパン株式会社
  • 【権利者代理人】杉村 憲司
  • 【権利者代理人】杉村 光嗣
  • 【権利者代理人】塚中 哲雄
  • 【権利者代理人】齋藤 恭一
  • 【権利者代理人】貴志 浩充
  • 【権利者代理人】吉田 憲悟
  • 【異議申立人】西郷 新
審判長/審判官
  • 審判長 藤原 浩子
  • 審判官 岩田 行剛
  • 審判官 加藤 幹
分類
P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F) / P1651.536-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7622264号発明「ゴム変性スチレン系樹脂組成物、シート、照明用カバーおよび成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7622264号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第7622264号の請求項3~6に係る特許を維持する。 特許第7622264号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7622264号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許は、平成31年2月27日に出願された特願2019-34785号に係る出願の一部を新たな出願とした特願2024-3425号に係るものであって、令和7年1月17日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許に対し、同年5月28日に特許異議申立人 西郷 新(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 以降の主な手続の経緯は、以下のとおりである。 令和7年 6月24日付け 手続補正指令(方式) 同年 7月 4日 手続補正書(方式)の提出 同年 9月25日付け 取消理由通知 同年11月28日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者) 令和8年 1月29日付け 手続補正指令書(方式) 同年 2月27日 手続補正書(方式)の提出(特許権者) 同年 3月 5日付け 訂正請求があった旨の通知 同年 4月 7日 意見書の提出(申立人) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれかをさらに含有する、請求項1又は2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。」とあるうち、請求項2を引用する請求項3について、独立形式に改め、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれかと、を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であり、前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」に訂正する(なお、令和8年2月27日に提出された手続補正書(方式)による補正後の訂正請求書の7(2)アにおける「膨澗指数」は訂正前の請求項1の記載や「訂正請求の範囲」を参照すれば、「膨潤指数」の誤記と認められる。同様に、「前記ゴム変性スチレン系樹脂維成物」は「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物」の誤記と認められる。)。 併せて請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~6についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の請求項3に「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量」とあるのを、 「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物にメチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量」に訂正する。 併せて請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~6についても同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1または2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を押出成形してなるシート。」と記載されているのを、 「請求項3に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を押出成形してなるシート。」に訂正する。 併せて請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、6についても同様に訂正する。 なお、本件訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~6について請求するものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項3に「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれかをさらに含有する、請求項1又は2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものを削除するとともに、請求項2を引用する請求項3について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分」における溶媒が、メチルエチルケトン以外にどのような溶媒を用いた場合の不溶ゲル分であるのか明瞭ではなかったところ、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)」と明瞭にするものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 また、訂正事項2により訂正された本件訂正後の「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物にメチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量」は、本件特許明細書【0042】に「(3)メチルエチルケトン不溶分(ゲル分) ゴム変性スチレン系樹脂組成物1gを精秤し(W1)、メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)20mlを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)日立製作所製himac(商品名)CR-20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離した。上澄み液をデカンテーションして除き、不溶分を得た。引き続き、160℃。20mmHg以下の条件で 60分間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、不溶分の質量を精秤した( W2)。下記式により、メチルエチルケトン不溶分(ゲル分)を求めた。 メチルエチルケトン不溶分(質量%)=(W2/W1)×100」として記載された事項であるので、新規事項の追加でない。 (3)訂正事項3、4 訂正事項3、4は、請求項1、2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項5 訂正事項5は、訂正前の「請求項1または2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物」を訂正前の請求項2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の減縮するとともに、訂正前の請求項3に記載の事項を追加して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 本件訂正後の独立特許要件について 特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~6に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、3号又は4号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれかと、を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、 N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物にメチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。 【請求項4】 請求項3に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を押出成形してなるシート。 【請求項5】 請求項4に記載のシートを熱成形してなる成形品。 【請求項6】 請求項4に記載のシートを熱成形してなる照明用カバー。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要、証拠方法及び取消理由の概要 1 特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要 (1)申立理由1-1(甲第1号証を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、3係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1、3~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由1-2(甲第2号証を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由1-3(甲第3号証を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由1-4(甲第4号証を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)申立理由1-5(甲第5号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (6)申立理由1-6(甲第6号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (7)申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (8)申立理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 2 申立人が提出した証拠方法 (1)申立書に添付された証拠方法 ・甲第1号証:特開2013-100436号公報 ・甲第2号証:特開2000- 53791号公報 ・甲第3号証:特開2003-305812号公報 ・甲第4号証:特開2005-200572号公報 ・甲第5号証:国際公開第2007/088844号 ・甲第6号証:特開2016-222751号公報 ・甲第7号証:特願2024-3425号の令和6年3月27日提出の上申書 ・甲第8号証:特開昭62-18261号公報 ・甲第9号証:特開2000-44746号公報 (2)令和8年4月7日提出の意見書に添付された証拠方法 ・甲第10号証:「LED照明用カバー」、製造業向け情報検索サイト『イプロスものづくり』、最終更新日:2018年12月10日、<https://mono.ipros.com/product/detail/2000416989/> 以下「甲第1号証」~「甲第10号証」を「甲1」~「甲10」という。 3 取消理由通知書に記載した取消理由の概要 当審において令和7年9月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由1-1(甲1を主引用文献とする新規性) 本件特許の請求項1、3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)取消理由1-2(甲3を主引用文献とする新規性) 本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)取消理由1-3、2(甲4を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1、3~6に係る発明は、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)取消理由3(明確性) 本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 上記第2に示したように本件訂正により請求項1、2は削除されたので、削除された請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものである。 また、以下に述べるように、本件特許の請求項3~6に係る特許は、当審において通知した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 1 取消理由1-1(甲1を主引用文献とする新規性)及び申立理由1-1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性) 取消理由1-1及び申立理由1-1は、甲1を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。 (1)甲1に記載された発明 甲1には、比較例1のスチレン系樹脂組成物PS-4に着目し、【0070】、【0072】【表1】の製造例についての記載、【0074】、【0075】【表2】のスチレン系樹脂組成物の特性についての記載、【0051】のゴム分についての記載、【0049】のゲル分についての記載、【0053】の膨潤比についての記載とあわせて整理すると、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「完全混合型撹拌槽である第1反応器と攪拌翼付塔型プラグフロー型反応器である第2反応器及び第3反応器、スタティックミキサー式プラグフロー型反応器である第4反応器を直列に接続して重合工程を構成し、スチレン81.8質量%、エチルベンゼン14.4質量%、ポリブタジエン3.8質量%にて、原料溶液を作成し、第1反応器に原料溶液を連続的に供給し、第4反応器より連続的に取り出した重合体を含む溶液に、重合体に対してホワイトオイルを添加/混合し、ペレット化してなる、スチレン系樹脂組成物であって、以下のようにして求めたゴム分が4.9、以下のようにして求めたゲル分が13.8、以下のようにして求めた膨潤比が11.0、ゴム粒子径が2.7であるスチレン系樹脂組成物。 ・ゴム分の求め方 ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム分は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物をクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え、暗所に約1時間放置後、ヨウ化カリウム溶液を加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から求めることができる。 ・ゲル分の求め方 ゲル分は、1gのゴム変性スチレン系樹脂組成物を精秤し(質量W)、50%メチルエチルケトン/50%アセトン混合溶液35ミリリットルを加えて溶解し、その溶液を遠心分離機(コクサン社製H-2000B(ローター:H))にて、14000rpmで30分間遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得て、セーフティーオーブンにて90℃で2時間予備乾燥し、更に真空乾燥機にて120℃で1時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量Gを測定して、次のように求めることができる。 ゲル分(質量%)=(G/W)×100 ・膨潤比の求め方 膨潤比SRは、1gのゴム変性スチレン系樹脂組成物を精秤し、トルエン30ミリリットルを加え溶解し、その溶液を遠心分離機(コクサン社製H-2000B(ローター:H))にて、14000rpmで30分間遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去してトルエンで膨潤した不溶分の質量Sを測定し、続いてトルエンで膨潤した不溶分をセーフティーオーブンにて90℃で2時間予備乾燥した後、更に真空乾燥機にて120℃で1時間真空乾燥し、20分間デシケータ中で冷却した後、不溶分の乾燥質量Dを測定して、次のように求めることができる。 膨潤比SR=S/D」 (2)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明は、ポリブタジエンの存在下でスチレンを重合させているところ、本件明細書の【0021】において、「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」と記載されていることを考慮すると、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 (イ)甲1発明は、「ゴム分が4.9」であるところ、本件特許の出願時の技術常識を参酌すると、その単位は「質量%」で表される(必要であれば、甲3の実施例、甲4の請求項5を参照されたい。)と解するのが相当であるため、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、」「前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%」を含むといえる。 (ウ)甲1発明におけるスチレン系重合体の割合を計算すると、95.1質量%(=100-4.9)であるから、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%」を含むといえる。 (エ)甲1発明における「ポリブタジエン」は、甲1の【0018】に「ゴム状重合体としては、常温でゴム的性質を示すものであればよく、例えば、ポリブタジエン・・・等である。」と記載されていることから、本件発明3における「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム」であることに相当する。 (オ)甲1発明は、単量体としてスチレンのみが用いられているから、本件発明3と同じく、「前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」るといえる。 (カ)甲1発明は、「ゴム粒子径が2.7」であるところ、甲1の【0054】において、「本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム状分散粒子の粒子径は、1.0~5.0μmであることが好ましく、1.5~3.5μmであることがより好ましい。」と記載されていることから、その単位は「μm」であると解されるので、本件発明3と同じく、「前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであ」るといえる。 (キ)甲1発明は、「膨潤比が11.0」であるところ、その求め方からトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤比であるので、本件発明3と同じく、「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であ」るといえる。 (ク)甲1発明の「スチレン系樹脂組成物」は、ポリブタジエンの存在下でスチレンを重合させて得られ、ゴム分を有するから、本件発明3の「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲1発明とは、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1:本件発明3では、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲1発明は「ホワイトオイル」を含む点 相違点1-2:不溶ゲル分の含有量が、本件発明3では、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた」ものであって、含有量が「2.0~13.0質量%」であることが特定されているのに対し、甲1発明では、「50%メチルエチルケトン/50%アセトン混合溶液」を加えて求めたものであって、含有量が「13.8」である点 イ 検討 (ア)相違点の検討 事案に鑑み、相違点1-2から検討する。 甲1の【0048】には、「ゲル分はゴム変性スチレン系樹脂組成物の分散相を構成するゴム状分散粒子の含有量を表」すことが記載されている。そして、本件明細書【0019】を参照すると、不溶ゲル分とは分散相のことであるから、両発明で不溶ゲル分の含有量を測定するために用いる溶媒は異なるものの、計測対象は同一であると認められる。そして、本件発明3では、不溶ゲル分の含有量が「2.0~13.0質量%」に特定される一方、甲1発明では、「13.8」であり、甲1の【0048】を参照すると13.8質量%を意味すると認められるから、当該相違点1-2は実質的な相違点である。 そして、甲1の【0048】には、「本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物のゲル分は10~20質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。」ことが一応記載されている。しかしながら、甲1発明は、比較例1として開示された発明であって、これは、溶融張力値が低く、耐ドローダウン性や肉厚の均一性が劣る態様である。そして、このような態様において、甲1中の上記記載を参照し、ゲル分を10~13質量%に調整したとしても、これらの欠点が克服されるとは解されないから、甲1発明を基点とし、ゲル分を調整することで相違点1に係る事項に想到することは、当業者といえども容易とはいえない。 (イ)本件発明3の効果について 本件明細書【0009】によれば、本件発明3の効果は「照明カバーに好適に使用される拡散光透過率及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物」の提供であるところ、甲1発明の効果は、「ブロー成形時の耐ドローダウン性を改善するため、溶融張力と溶融延伸性のバランスに優れた、ゲル状物がなく、高分岐型超高分子量体を含有するブロー成形用ゴム変性スチレン系樹脂組成物」の提供であり、求める効果が異なっているから、甲1発明に比した本件発明3の効果は、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、甲1発明に基づく本件発明3の進歩性について、意見書で特段意見を述べていない。 ウ 小括 上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明4~6について 本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明3は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでもない。 そうであるならば、本件発明4~6も、甲1発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 2 取消理由1-2(甲3を主引用文献とする新規性)及び申立理由1-3(甲3を主引用文献とする新規性・進歩性) 取消理由1-2及び申立理由1-3は、甲3を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。 (1)甲3に記載された発明 甲3には、比較例3に着目し、【0039】、【0040】、【0043】【表3】の記載を考慮すると、ゴム変性スチレン系樹脂(A-6)とスチレン系樹脂(B-1)とを所定の配合量で含むゴム変性スチレン系樹脂組成物を認識することができ、【0026】のゴム変性スチレン系樹脂(A-1)についての記載、【0031】、【0041】【表1】のゴム変性スチレン系樹脂(A-6)についての記載、【0037】のスチレン系樹脂(B-1)についての記載、【0011】の膨潤度SIについての記載、【0012】のグラフト率、ゴム分及びゲル分についての記載とあわせて整理すると、次のとおりの発明(以下「甲3比較例3発明」という。)が記載されていると認める。 「スチレン95質量部とエチルベンゼン20質量部に1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.02質量部とターシャリードデシルメルカプタン0.02質量部と共役ジエン系ゴム状重合体として旭化成社製ポリブタジエン「ジエン35AE」を5質量部溶解して原料溶液とし、重合して得られたゴム変性スチレン系樹脂(A-6)60質量%と、スチレン95質量部とエチルベンゼン20質量部に1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.02質量部とターシャリードデシルメルカプタン0.02質量部を溶解して原料溶液とし、重合して得られたスチレン系樹脂(B-1)40質量%とを含むゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、ゴム変性スチレン系樹脂(A-6)は、中位径が2.0μm、以下のようにして求めたゴム分が6.2質量%、以下のようにして求めたグラフト率が2.4、以下のようにして求めた膨潤度SIが11.0であり、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム分は3.7質量%である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。 ・グラフト率の求め方 ゴム変性スチレン系樹脂のゴム状重合体粒子のグラフト率は、ゴム変性スチレン系樹脂中のゲル分(質量%)とゴム変性スチレン系樹脂中のゴム分(質量%)から次のように求めることができる。 グラフト率=(ゲル分-ゴム分)/ゴム分 ・ゴム分の求め方 ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム分はゴム変性スチレン系樹脂をクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え暗所に約1時間放置後、ヨウ化カリウム溶液を加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から求めることができる。 ・ゲル分の求め方 ゴム変性スチレン系樹脂中のゲル分は、質量Wのゴム変性スチレン系樹脂をメチルエチルケトンに5%の割合で溶解し、その溶液を遠心分離して不溶分を沈降せしめ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得、70℃で15時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量Gを測定して次のように求めることができる。 ゲル分(質量%)=(G/W)×100 ・膨潤度SIの求め方 ゴム状重合体粒子の膨潤度SIは、樹脂組成物をトルエンに溶解し、その溶液を遠心分離して不溶分を沈降せしめ、デカンテーションにより上澄み液を除去してトルエンで膨潤した不溶分の質量Sを測定する。次いでトルエンで膨潤した不溶分を70℃で15時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、不溶分の乾燥質量Dを測定して次のように求めることができる。 膨潤度SI=S/D」 また、甲3には、実施例6に着目すると、次のとおりの発明(以下「甲3実施例6発明」という。)が記載されていると認める。 「スチレン95質量部とエチルベンゼン20質量部に1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.02質量部とターシャリードデシルメルカプタン0.02質量部と共役ジエン系ゴム状重合体として旭化成社製ポリブタジエン「ジエン35AE」を5質量部溶解して原料溶液とし、重合して得られたゴム変性スチレン系樹脂(A-5)60質量%と、スチレン95質量部とエチルベンゼン20質量部に1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.02質量部とターシャリードデシルメルカプタン0.02質量部を溶解して原料溶液とし、重合して得られたスチレン系樹脂(B-1)40質量%とを含むゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、ゴム変性スチレン系樹脂(A-5)は、中位径が1.1μm、以下のようにして求めたゴム分が6.2質量%、以下のようにして求めたグラフト率が3.0、以下のようにして求めた膨潤度SIが8.5であり、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム分は3.7質量%である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。 下記点は、甲3比較例3発明と同様。 ・グラフト率の求め方 ・ゴム分の求め方 ・ゲル分の求め方 ・膨潤度SIの求め方」 (2)本件発明3について ア 甲3比較例3発明を主発明とした場合 (ア)対比 本件発明3と甲3比較例3発明とを対比する。 a 甲3比較例3発明は、ポリブタジエンの存在下でスチレンを重合させているところ、本件明細書の【0021】において、「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」と記載されていることを考慮すると、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 b 甲3比較例3発明において、「ゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム分は3.7質量%である」から、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、」「前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%」を含むといえる。 c 甲3比較例3発明におけるスチレン系重合体の割合を計算すると、96.3質量%(=100-3.7)であるから、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%」を含むといえる。 d 甲3比較例3発明における「共役ジエン系ゴム状重合体として」の「旭化成社製ポリブタジエン「ジエン35AE」」は、本件発明3における「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム」であることに相当する。 e 甲3比較例3発明は、単量体としてスチレンのみが用いられているから、本件発明3と同じく、「前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」るといえる。 f 甲3比較例3発明における「中位径」は、甲3の【0010】によれば「体積基準の粒径分布曲線の中位粒子径」であり、本件明細書の【0041】に記載されたゴム状重合体粒子の粒子径である「体積基準のメジアン径」と同じものと認められるから、本件発明3の「粒子径」に相当する。そして、甲3比較例3発明は、「中位径が2.0μm」であるから、本件発明3と同じく、「前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであ」るといえる。 g 甲3比較例3発明は、「膨潤度SIが11.0」であるところ、その求め方からトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤比であるので、本件発明3と同じく、「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であ」るといえる。 h 甲3比較例3発明の「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」は、本件発明3の「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲3比較例3発明とは、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3-1:本件発明3は、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲3比較例3発明ではそのような特定がない点 相違点3-2:本件発明3は、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%である」のに対し、甲3比較例3発明は、そのような特定がない点 (イ)検討 a 相違点の検討 甲3比較例3発明は、【0003】によれば、「スチレン2量体及びスチレン3量体の溶出量が極めて少なく、かつ強度に優れた多層シート及び容器を得ることを目的」としたものであり、【0045】によれば、「食品容器等に最適」なものであるところ、【表3】によれば「スチレン2量体及びスチレン3量体の含有量に対するスチレン2量体及びスチレン3量体のn-ヘプタンへの溶出量の比率」が0.120と高くなっており、当該値は各実施例の結果と比較して一桁大きい値である。 そうであるならば、甲3の【0017】には、必要に応じて酸化防止剤等の公知の添加剤を添加し得ることが記載されているとしても、甲3に接した当業者にとって、上記のとおり明らかに劣る甲3比較例3発明に着目し、これに公知の添加剤を添加して物性の改良を図ろうとする動機が見当たらない。 したがって、甲3比較例3発明を出発点として、相違点3-1に係る事項を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。 b 本件発明3の効果について 甲3に記載された発明の効果は、「スチレン2量体及びスチレン3量体の溶出量が極めて少なく、かつ強度に優れた食品容器等に最適な多層シート及び容器」の提供であり、求める効果が異なっているから、甲3発明に比した本件発明3の効果(【0009】)は、当業者が容易に想到し得るものでない。 c 申立人の主張について 申立人は意見書で「甲3において比較例3・4が比較例(不適)とされている理由は、食品衛生上の観点(スチレン2量体・3量体の溶出量)にある(段落0001~0005、0043~0044、表3)。甲5が示すような照明器具用途においては、食品衛生上の観点は技術的課題とならない。したがって、当業者が甲5の教示に従い照明用途への転用を検討する際に、食品容器特有の問題は採用を妨げる理由(阻害要因)にはならない。」旨主張する。 しかしながら、甲3には、【請求項1】で多層シートの発明が記載されており、明細書全体を見渡しても、食品容器等の容器への適用しか記載も示唆もされていない。そうであるならば、食品容器等の容器以外の用途に用いる「ゴム変性スチレン系樹脂組成物を主体としてなる層を少なくとも1層有する多層シート」を所望する当業者が甲3に着目する動機がなく、したがって、甲3比較例3発明に着目して、照明用途等の食品容器以外の用途への適用を検討することが当業者といえども容易であるとはいえない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (ウ)小括 上記相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3比較例3発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 なお、この点は、甲3の比較例4より発明を認定した場合も同様である。 イ 甲3実施例6発明を主発明とした場合 (ア)対比 本件発明3と甲3実施例6発明とを対比する。 a 甲3実施例6発明と甲3比較例3発明と共通性からして、甲3実施例6発明と本件発明3とは、上記ア(ア)a~e、hの検討結果がそのまま当てはまる。 そうすると、本件発明3と甲3実施例6発明とは、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3-3:本件発明3では、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲3実施例6発明ではそのような特定がない点 相違点3-4:本件発明3では、「ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであ」ることが特定されているのに対し、甲3実施例6発明では、「中位径が1.1μm」である点 相違点3-5:本件発明3では、「ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であ」ることが特定されているのに対し、甲3実施例6発明では、「膨潤度SIが8.5」である点 相違点3-6:本件発明3は、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%である」のに対し、甲3実施例6発明は、そのような特定がない点 (イ)検討 a 相違点の検討 事案に鑑み、相違点3-4から検討する。 甲3実施例6発明における「中位径」は、甲3の【0010】によれば「体積基準の粒径分布曲線の中位粒子径」であり、本件明細書の【0041】に記載されたゴム状重合体粒子の粒子径である「体積基準のメジアン径」と同じものと認められるから、本件発明3の「粒子径」に相当する。そして、甲3実施例6発明は、「中位径が1.1μm」であるから、本件発明3の「2.0~5.5μm」から外れている。 この点に関し、甲3の【0010】には、「ゴム変性スチレン系樹脂(A)中のゴム状重合体粒子の中位径(dv)は0.3~1.8μmであり、好ましくは0.4~1.5μm、さらに好ましくは0.6~1.3μmである。」と記載されており、1.8μmを上限値として好適化の検討を行うことが記載されているから、甲3実施例6発明において、中位径を1.8μmを超えて2.0~5.5μmの範囲に調整する動機がない。 b 申立人の主張について 申立書14頁には、「甲3の実施例8(当審合議体注:前後の記載より、「実施例6」の誤記と解される。)、比較例3,4(ゴム変性スチレン系樹脂(A-6))」との記載があるが、甲3の【表2】を参照すると、実施例6で用いられているゴム変性スチレン系樹脂は「A-5」と解される。そうすると、ゴム変性スチレン系樹脂が「A-6」であることを前提とした申立書における主張は採用できない。 (ウ)小括 上記相違点3-3、3-5、3-6について検討するまでもなく、本件発明3は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3実施例6発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明4~6について 本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明3は、甲3に記載された発明(甲3比較例3発明又は甲3実施例6発明)ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 そうであるならば、本件発明4~6も、甲3に記載された発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 3 取消理由1-3、2(甲4を主引用文献とする新規性・進歩性)及び申立理由1-4(甲4を主引用文献とする新規性・進歩性) 取消理由1-3、2及び申立理由1-4は、甲4を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。 (1)甲4に記載された発明 甲4には、実施例3に着目し、【0102】、【0106】【表1】の記載、【0064】のH450についての記載、【0075】の膨潤度についての記載、【0084】~【0086】のゲル分率、グラフト率についての記載とあわせて整理すると、次のとおりの発明(以下「甲4実施例3発明」という。)が記載されていると認める。なお、【0106】【表1】について、組成割合は、甲4の請求項9に倣い、重量比で表記し、また、ゴム含量は、甲4の請求項5に倣い、重量%で表記し、さらに、「シートのゴム含量」と記載されているが、甲4の請求項5から、シートを構成する樹脂組成物中のゴム含量であると解される。 「スチレン系グラフト共重合体(HIPS)としてのH450:東洋スチレン(株)製,「東洋スチロールHI H450」と、汎用ポリスチレン(GPPS)と、を重量比70/30の割合で含むペレット状の樹脂組成物であって、ゴム含量が3.8重量%、以下のようにして求めた膨潤度が11.5、以下のようにして求めたグラフト率(g)2.74、ゴム粒子径が2.2μmである、樹脂組成物。 ・膨潤度の求め方 精秤したHIPS 3gに、トルエン125gを加えて溶解させ、溶液とした。この溶液を暗所にて24時間放置後、冷却延伸分離器(Beckman Instruments Inc.製、Avanti HP-30I)で、温度-4℃、回転数1500rpmで23分間遠心分離した。上澄み液を除いて沈殿分を取り出し、その重量(AI)を測定した(膨潤ゲル重量)。次に、前記沈殿分を、160℃、常圧、窒素雰囲気下で45分間、さらに、160℃、真空中で1時間乾燥し、乾燥後の重量(BI)を測定した(乾燥ゲル重量)。ゴム成分の膨潤度(SI)を、膨潤ゲル重量(AI)と乾燥ゲル重量(BI)との割合(AI/BI)より求めた。 ・グラフト率の求め方 HIPSサンプル1gを精秤し、これにメチルエチルケトンとアセトンとの割合(体積%)=1/1の混合溶媒35mlを加え、振とう器を用いて、1.5時間溶解させ、溶液とした。この溶液を冷却遠心分離器(Beckman Instruments,Inc.製、Avanti HP-30I)を用いて、温度-4℃、回転数10000rpmの条件で、30分間遠心分離した。上澄み液を除いて沈殿分を取り出し、前記沈殿分を80℃、真空で3時間乾燥させ、乾燥後の重量(乾燥ゲル重量)を測定した。乾燥ゲル重量から、ゲル分率(G)を下記式により算出した。 G(%)=[(乾燥ゲル重量)/(サンプル重量)]×100 グラフト率(g)は、ゲル分率G(%)とゴム含有量RC(%)を用いて、下記式で算出した。 g=(G-RC)/RC」 また、甲4には、比較例5に着目し、【0102】、【0107】【表2】の記載、【0072】~【0073】のHI-4についての記載、【0075】の膨潤度についての記載、【0084】~【0086】のゲル分率、グラフト率についての記載とあわせて整理すると、次のとおりの発明(以下「甲4比較例5発明」という。)が記載されていると認める。なお、【0107】【表2】について、組成割合は、甲4の請求項9に倣い、重量比で表記し、また、ゴム含量は、甲4の請求項5に倣い、重量%で表記し、さらに、「シートのゴム含量」と記載されているが、甲4の請求項5から、シートを構成する樹脂組成物中のゴム含量であると解される。 「2kgのポリブタジエン(旭化成(株)製、ジエン55)、16kgのスチレンモノマーを反応器に仕込み、重合反応を行って得られたペレット状のHIPSであるHI-4と、汎用ポリスチレン(GPPS)と、を重量比32/68の割合で含むペレット状の樹脂組成物であって、ゴム含量が3.0重量%、以下のようにして求めた膨潤度が11.6、以下のようにして求めたグラフト率(g)2.55、ゴム粒子径が3.6μmである、樹脂組成物。 下記点は、甲4実施例3発明と同様。 ・膨潤度の求め方 ・グラフト率の求め方」 (2)本件発明3について ア 甲4実施例3発明を主発明とした場合 (ア)対比 本件発明3と甲4実施例3発明とを対比する。 a 甲4実施例3発明における「スチレン系グラフト共重合体(HIPS)」は、甲4の【0022】に「スチレン系グラフト共重合体は、ゴム成分の存在下、少なくともスチレン系単量体をグラフト重合することにより得ることができる。」と記載されているところ、本件明細書の【0021】において、「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」と記載されていることを考慮すると、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 b 甲4実施例3発明において、「ゴム含量が3.8重量%」であるから、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、」「前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%」を含むといえる。 c 甲4実施例3発明におけるスチレン系重合体の割合を計算すると、96.2重量%(=100-3.8)であるから、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%」を含むといえる。 d 甲4実施例3発明における「スチレン系グラフト共重合体(HIPS)」は、甲4の【0026】に「代表的なスチレン系グラフト共重合体としては、ジエン系ゴムにスチレン系単量体がグラフト重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が挙げられる。」と記載されていることから、本件発明3における「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム」であることと、ジエン系ゴムである限りにおいて一致する。 e 甲4実施例3発明における「スチレン系グラフト共重合体(HIPS)」は、甲4の【0026】に「代表的なスチレン系グラフト共重合体としては、ジエン系ゴムにスチレン系単量体がグラフト重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が挙げられる。」と記載されており、スチレン系単量体以外の単量体について言及がないから、スチレン系単量体のみをグラフト重合したものと認められるし、たとえそうでないとしても【0025】には「共重合性単量体の使用量は・・・さらに好ましくは0~25モル程度の範囲から選択できる。」と記載されており、HIPSが「代表的なスチレン系グラフト共重合体」であることを考慮とすると、共重合性単量体の使用量はスチレン系単量体100モルに対して0~25モル程度の範囲であると考えられ、また、甲4実施例3発明における「汎用ポリスチレン(GPPS)」は、甲4の【0034】に「汎用ポリスチレン(GPPS)などのポリスチレン」と記載されているようにスチレンのみからなるといえるから、本件発明3と同じく、「前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」る蓋然性が高い。 f 甲4実施例3発明は、「ゴム粒子径が2.2μm」であるから、本件発明3と同じく、「前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであ」るといえる。 g 甲4実施例3発明は、「膨潤度が11.5」であるところ、その求め方からトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤比であるので、本件発明3と同じく、「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であ」るといえる。 h 甲4実施例3発明の「樹脂組成物」は、スチレン系グラフト共重合体(HIPS)と汎用ポリスチレン(GPPS)とを用いて得られ、ゴムを含むから、本件発明1の「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲4実施例3発明とは、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ジエン系ゴムであり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-1:本件発明3では、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲4実施例3発明ではそのような特定がない点 相違点4-2:ゴム状重合体について、本件発明3は、「ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体」であるのに対し、甲4実施例3発明は、ジエン系ゴムであり、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であるか不明な点 相違点4-3:不溶ゲル分の含有量が、本件発明3では、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた」ものであって、含有量が「2.0~13.0質量%」であることが特定されているのに対し、甲4実施例3発明は、そのような特定がない点 (イ)検討 a 相違点の検討 事案に鑑み、相違点4-3から検討する。 まず、甲4実施例3発明は、ゲル分率を「メチルエチルケトンとアセトンとの割合(体積%)=1/1の混合溶媒」を用いて求めており、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)」を用いている本件発明3とは、不溶ゲル分の抽出に用いる溶媒の点で相違する点について検討する。本件明細書の【0019】には、「一般的には、溶剤としてトルエンが用いられている。しかし分散している粒子の径が小さい、又はゴム状重合体の架橋度が低いゴム変性スチレン系樹脂組成物では、トルエンを使用すると、トルエンとゲル分の親和性が良いために、測定時のデカンテーション時にゲル分が流出し、分散相の含有量が真の値よりも低い値となってしまう場合がある。そこで本発明では、溶媒としてメチルエチルケトンを使用する。メチルエチルケトンを使用することにより、デカンテーション時のゲル分の流出がなく、分散相の含有量を測定することができる。」と記載されている。ここで、アセトンとメチルエチルケトンはともにケトン類であり、炭素数が1違うのみであるから、アセトンはトルエンよりはメチルエチルケトンに性質が近く、ゲル分との親和性の度合いが近いと考えられるので、メチルエチルケトンとアセトンの混合溶媒を用いた場合には、本件明細書の【0019】に記載されているゲル分の流出の問題は生じにくいものと推測される。 さらに、アセトンとメタノールはともに芳香環を有さず、1つの酸素原子を有するものであるから、スチレン等に由来するゲル分との親和性について、アセトンはメタノールとさほど変わらないか少し親和性が高い程度であると推認される。 これらのことを考慮すると、「50%メチルエチルケトン/50%アセトン混合溶液」により測定したゲル分は、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)」により測定したゲル分とさほど変わらない蓋然性が高い。 次に、両発明のゲル分率について検討する。甲4実施例3発明は、g=(G-RC)/RC(グラフト率(g)、ゲル分率(G)、ゴム含有量(RC))という式から求めたグラフト率が2.74であり、ゴム含量が3.8重量%であることから、ゲル分率を計算すると、上記式は、ゲル分率=(グラフト率×ゴム含有量)+ゴム含有量とすることができるので、約14.2重量%(=(2.74×3.8)+3.8)となる。そうすると、甲4実施例3発明の不溶ゲル分の含有量は、本件発明3で規定される「2.0~13.0質量%」の範囲から外れると認められる。 この点について、甲4の【0031】には、「ゲル分率(G)は10~72%、好ましくは11~72%、さらに好ましくは12~70%(例えば、14~66%)程度である。」ことが記載されている。しかしながら、【0030】の「グラフト率(g)は、ゴム成分に対するグラフト成分の割合を示す指標として用いられ、この値が大きいほど、ゴム成分は延伸により扁平化しやすい。」との記載、【0015】の「本発明の二軸延伸シートは、収縮応力を大きくしなくても、ゴム成分が扁平化しやすく、高い耐衝撃性や透明性を維持できる。」との記載を参照すると、甲4実施例3発明において、「ゴム成分の扁平化」に反するグラフト率の著しい低下は、当業者が容易に選択し得るものとはいえ、ゴム含有量RCが一定なら、グラフト率とゲル分率とは正の相関を有するから、「ゲル分率(G)は・・・さらに好ましくは12~70%(例えば、14~66%)程度」との記載も踏まえれば、ゲル分率(G)を敢えて14%以下である「2.0~13.0質量%」とすることに積極的な動機は認められない。 b 本件発明3の効果について 甲4実施例3発明の効果は、甲4の【0020】によれば、「耐衝撃性と透明性とを高いレベルで両立できる。また、高い成形性を有すると共に、シートを薄肉軽量化しても、高い剛性、耐衝撃性および耐油性を実現できる。さらに、二軸延伸スチレン系樹脂シートは減容性にも優れている。」というものであるから、求める効果が異なっているから、甲4実施例3発明に比した本件発明3の効果(【0009】)は、当業者が容易に想到し得るものでない。 c 申立人の主張について 申立人は、意見書において、以下の点を主張した。 (a)甲4の段落0028には、グラフト率について「さらに好ましくは1.5~5(例えば、1.8~4.5)程度」との具体的な好ましい範囲が例示とともに明記されている。グラフト率について当業者が、この例示された好ましい範囲に含まれる2.74から、同じく当該範囲に含まれる2.40に設定することは一般的な設計事項である。 実施例3においてグラフト率を2.40とした場合、ゲル分は(2.40×3.8)+3.8=12.92質量%となり、訂正後の範囲を充足する。 (b)甲4では扁平化と関連する指標として「ゴム成分の膨潤度(SI)とグラフト率(g)との積(SI×g)の値」が挙げられ(段落0027など)、「ゴム成分を含んでいても、耐衝撃性と透明性とを高いレベルで両立できる二軸延伸スチレン系樹脂シート及びその製造方法、並びに前記樹脂シートを調製するのに有用なスチレン系樹脂組成物を提供」との課題を解決するための要件として請求項1で「積(SI×g)の値」の範囲として20~80が規定されている。実施例3においてグラフト率を2.40とした場合でも、11.5×2.40=27.6であり、多少の誤差があったとしても必須要件として定められている当該積の範囲を充足する。 上記(a)、(b)についてまとめて検討すると、上記aで検討したとおり、甲4に記載された発明における最も好ましいゲル分率は「12~70%(例えば、14~66%)程度」といえ、その下限値に近い値である甲4実施例3発明の「約14.2重量%」というゲル分率を低下させる方向に変更する動機は弱いと言わざるを得ない。 また、グラフト率や膨潤度を許容される範囲内で適宜変更することでゲル分率を2.0~13.0質量%の範囲とすることは理論上は可能であるとして、甲4に記載された発明において、グラフト率は、上記のとおり扁平化に寄与する物性値であり、そして、扁平化は「高い耐衝撃性や透明性を維持」という解決課題に直結する技術事項(【0009】)であることからして、これをわざわざ低下させる方向への改変に動機は乏しいと言わざるを得ない。 (ウ)小括 相違点4-1、4-2について検討するまでも、本件発明3は、甲4に記載された発明ではなく、また、甲4実施例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 甲4比較例5発明を主発明とした場合 (ア)対比 本件発明3と甲4比較例5発明とを対比する。 a 甲4比較例5発明における「HI-4」は、ポリブタジエンの存在下でスチレンを重合させているところ、本件明細書の【0021】において、「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」と記載されていることを考慮すると、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 b 甲4比較例5発明において、「ゴム含量が3.0重量%」であるから、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、」「前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%」を含むといえる。 c 甲4比較例5発明におけるスチレン系重合体の割合を計算すると、97.0質量%(=100-3.0)であるから、本件発明3と同じく、「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%」を含むといえる。 d 甲4比較例5発明における「HI-4」は、ポリブタジエンを用いて得られたものであり、甲4の【0073】には、ゴム成分を含有する旨も記載されているから、本件発明3と同じく、「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム」であるといえる。 e 甲4比較例5発明における「HI-4」は、単量体としてスチレンのみが用いられており、また、甲4比較例5発明における「汎用ポリスチレン(GPPS)」は、甲4の【0034】に「汎用ポリスチレン(GPPS)などのポリスチレン」と記載されているようにスチレンのみからなるといえるから、本件発明3と同じく、「前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」るといえる。 f 甲4比較例5発明は、「ゴム粒子径が3.6μm」であるから、本件発明3と同じく、「前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであ」るといえる。 g 甲4比較例5発明は、「膨潤度が11.6」であるところ、その求め方からトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤比であるので、本件発明3と同じく、「前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲であ」るといえる。 h 甲4比較例5発明の「樹脂組成物」は、HIPSであるHI-4と汎用ポリスチレン(GPPS)とを用いて得られ、ゴムを含むから、本件発明3の「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲4比較例5発明とは、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-4:本件発明3では、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲4比較例5発明はそのような特定がない点 相違点4-5:本件発明3では、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%」であることが特定されているのに対し、甲4比較例5発明では、そのような特定がない点 (イ)検討 a 相違点の検討 甲4比較例5発明は、【0009】によれば、「耐衝撃性と透明性とを高いレベルで両立できる二軸延伸スチレン系樹脂シート」の提供を目的とするのであり、また、【0010】によれば、「高い成形性を有すると共に、シートを白肉軽量化しても、高い剛性、耐衝撃性および耐油性を備えた二軸延伸スチレン系樹脂シート」の提供を目的とするものであるところ、【表2】によれば「透明性」が×であり、「成形性」が△であって、目的を達しないことが確認されている。 そうであるならば、甲4の【0043】には、必要に応じて種々の添加剤を添加し得ることが記載されているとしても、甲4に接した当業者にとって、目的を達成しない甲4比較例5発明に着目し、これに公知の添加剤を添加して物性の改良を図ろうとする動機が見当たらない。 したがって、甲4比較例5発明を出発点として、相違点4-4に係る事項を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。 b 申立人の主張について 申立人は、意見書において、「甲4比較例5が比較例(不適)とされている理由は「透明性」の評価が×であること、すなわちヘイズ(ヘーズ)が15%以上であることにある(表2、段落0091)。 ここで、照明用カバーの用途においては本件特許の表2の実施例が75~92%のヘイズを有しているように、光を拡散させるために高いヘイズ値がむしろ好まれる。 したがって、照明器具用途を教示する甲5(その他周知技術:後述の3-4を参照)の存在を前提とすれば、当業者が「高いヘイズ(低透明性)」である甲4の比較例5の構成を、光拡散性に優れた照明用材料として採用することは当然であり、阻害要因とはならず、むしろ採用する動機づけとなる。」ことを主張する。 しかしながら、甲4の【0009】、【0010】、【0020】を参照すれば、甲4には、耐衝撃性と透明性に優れ、成形性が良好な二軸延伸スチレン系樹脂シートが記載されているから、照明用カバー等の光拡散性に優れた樹脂組成物を所望する当業者が、甲4に触れ、その比較例に敢えて着目する動機が乏しい。しかも、透明性が劣る樹脂組成物を所望する当業者であれば、仮に甲4に着目したとして、成形性が良好な比較例3の選択を優先すると解するのが自然であるから、この点でも、「甲4の比較例5の構成を、光拡散性に優れた照明用材料として採用することは当然」であるとはいえない。 (ウ)小括 相違点4-5について検討するまでもなく、本件発明3は甲4に記載された発明ではなく、また、甲4比較例5に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明4~6について 本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明3は、甲4に記載された発明(甲4実施例3発明又は甲4比較例5発明)ではなく、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 そうであるならば、本件発明4~6も、甲4に記載された発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 4 取消理由3(明確性) 取消理由3は、以下の点が本件訂正前の請求項1の記載が不明確であるというものである。 ア 請求項1に記載の「メチルエチルケトン不溶ゲル分」として、本件明細書【0042】の記載から、メチルエチルケトンとそれ以外の溶媒を含む混合溶媒を用いて求めたものであっても良いと解される。 イ 同【0019】を参照しても、それ以外の溶媒として、どのような溶媒をどの程度含んで良いのか不明である。 しかしながら、本件訂正により、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量」であることが特定されたため、当該取消理由は解消した。 5 申立理由1-2(甲2を主引用文献とする新規性・進歩性) (1)甲2に記載された発明 甲2には、実施例4に着目すると、次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。」)が記載されていると認められる。 「スチレンモノマー100重量部に対して、ブタジエン重合体10重量部とターシャリーブチルパーオキシベンゾエート0.03重量部、エチルベンゼン12重量部を混合溶解して、スチレンモノマーの重合を行って得たゴム変性スチレン系樹脂及び市販のポリスチレン系樹脂(電気化学工業社製ポリスチレン樹脂、商品名:デンカスチロール)の合計を100重量部とし、これに気泡核剤としてタルクを1重量部、分散助剤としてステアリン酸亜鉛0.2重量部を加えミキサーで良く攪拌して得た、ゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 ゴム変性スチレン系樹脂のグラフト率が130%、膨潤度が11、ゴム粒子径が5μm、ブタジエン重合体含有量が10重量%、 全スチレン樹脂に対するブタジエン重合体含有量が5重量である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。 ・グラフト率の求め方 グラフト率(%)とは、次式(1)で定義される値である。 [グラフト率]=100×([ゲル含有量]-[ジエン系重合体ゴム含有量])/[ジエン系重合体ゴム含有量]・・・(1) ここで、上記ゲル含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物1gにメチルエチルケトン30mlを加え、25℃で24時間浸漬後、5時間振動し、5℃、18000rpmで1時間遠心分離し、上澄みをデカンテーションして除いた後、新たにトルエンを30ml加え、25℃で1時間振とうし、5℃、18000rpmで2時間遠心分離して上澄み液を除き重量を秤量する(25℃トルエン中で膨潤したゲルの重量)。更に、その後、60℃、8時間で真空乾燥した残留物の重量を秤量し(乾燥ゲルの重量)、ゴム変性スチレン系樹脂に対する重量%を求めた値である。 ・膨潤度の求め方 ジエン系重合体ゴムのゲル分の膨潤度とは、次式(2)で定義される値である。 [膨潤度]=[25℃トルエン中で膨潤したゲルの重量]/[乾燥ゲルの重量]・・・(2)」 (2)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明は、「スチレンモノマー100重量部に対して、ブタジエン重合体10重量部とターシャリーブチルパーオキシベンゾエート0.03重量部、エチルベンゼン12重量部を混合溶解して、スチレンモノマーの重合を行って得た」ものであるところ、本件明細書の【0021】において、「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」と記載されていることを考慮すると、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 (イ)甲2発明は、「全スチレン樹脂に対するブタジエン重合体含有量が5重量である」ので、全スチレン樹脂100重量部とブタジエン重合体5重量部の合計量105重量部に対するブタジエン重合体の割合が5÷105×100=4.8重量%であり、スチレン樹脂の割合100-4.8=95.2重量%であるから、これは、本件発明3の「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み」に相当する。 (ウ)甲2発明の「ブタジエン重合体」は本件発明3の「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体」に相当する。 (エ)甲2発明の「ゴム粒子径が5μm」は本件発明3の「ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μm」に相当する。 (オ)甲2発明の「ゴム変性スチレン系樹脂の・・・膨潤度が11」は、ゴム変性スチレン系樹脂のメチルエチルケトン不溶分の「25℃トルエン中で膨潤したゲルの重量」であって、「ジエン系重合体ゴムのゲル分の膨潤度」であるから、本件発明3の「ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲2発明とは、 「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmであり、 前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-1:本件発明3は、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲2発明は「泡核剤としてタルク」、「分散助剤としてステアリン酸亜鉛」を含む点 相違点2-2:本件発明3では、「スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」ることが特定されているのに対し、甲2発明に含まれるスチレン系重合体が、ゴム変性スチレン系樹脂を構成する「スチレン」の重合体と「市販のポリスチレン系樹脂(電気化学工業社製ポリスチレン樹脂、商品名:デンカスチロール)」である点 相違点2-3:本件発明3は、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%である」のに対し、甲2発明は、そのような特定がない点 イ 検討 (ア)相違点の検討 事案に鑑み、相違点2-3について検討する。 甲2におけるグラフト率は、「[グラフト率]=100×([ゲル含有量]-[ジエン系重合体ゴム含有量])/[ジエン系重合体ゴム含有量]」から求められるものであるから、当該式を変形すると、[ゲル含有量]=[グラフト率]×[ジエン系重合体ゴム含有量]÷100+[ジエン系重合体ゴム含有量]となる。 そして、甲2発明のゴム変性スチレン系樹脂のグラフト率が130%で、ジエン系重合体ゴム含有量が10重量%であるから、ゴム変性スチレン系樹脂のゲル含有量は130×10÷100+10=23重量%である。さらに、甲2発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム変性スチレン系樹脂中のブタジエン重合体の割合が10重量%であって、ゴム変性スチレン系樹脂組成物全体のブタジエン重合体の割合は、全ポリスチレン樹脂に対して5重量部である。そうすると、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、 ・ゴム変性スチレン系樹脂100重量部 ・市販のポリスチレン系樹脂(電気化学工業社製ポリスチレン樹脂、商品名:デンカスチロール)110重量部 ・タルクとステアリン酸亜鉛の合計1.32重量部 というものであり、この中に23重量%のゲルを含有することになるから、ゴム変性スチレン系樹脂組成物全体に対するゲル含有量は、23÷(100+110+1.32)=10.9重量%となる。 しかしながら、甲2の【0026】によれば、甲2発明の「ゲル含有量」は、「ゴム変性スチレン系樹脂組成物1gにメチルエチルケトン30mlを加え,25℃で24時間浸漬後,5時間振動し,5℃,18000rpmで1時間遠心分離し,上澄みをデカンテーションして除いた後,新たにトルエンを30ml加え,25℃で1時間振とうし,5℃,18000rpmで2時間遠心分離して上澄み液を除き重量を秤量する(25℃トルエン中で膨潤したゲルの重量)」ことにより測定されるものであって、溶媒にトルエンを用いている。そして、本件明細書【0019】に「ゴム変性スチレン系樹脂組成物の・・・不溶ゲル分の含有量測定は、・・・一般的には、溶剤としてトルエンが用いられている。しかし分散している粒子の径が小さい、又はゴム状重合体の架橋度が低いゴム変性スチレン系樹脂組成物では、トルエンを使用すると、トルエンとゲル分の親和性が良いために、測定時のデカンテーション時にゲル分が流出し、分散相の含有量が真の値よりも低い値となってしまう場合がある。そこで本発明では、溶媒としてメチルエチルケトンを使用する。メチルエチルケトンを使用することにより、デカンテーション時のゲル分の流出がなく、分散相の含有量を測定することができる。」と記載されているように、トルエンはメチルエチルケトンよりもゲル分との親和性が高いことから、トルエンを用いた場合の不溶ゲル分はメチルエチルケトン/メタノール混合溶媒を用いた場合の不溶ゲル分よりも少ない値となることが窺える。そうであるならば、甲2発明における不溶ゲル分の含有量は、メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒を用いて測定した場合には、10.9質量%を超えることまでは分かるものの、13.0質量%以下となるかは不明であるから、この点は実質的な相違点といえる。 そして、甲2の【0023】、【0024】には、「ジエン系重合体ゴムへのスチレン系樹脂のグラフト率は,70%以上,140%以下」であって「グラフト率は,80%以上,120%以下であることが好ましい」とあることから、甲2発明において、グラフト率を130%から80~120%程度に調整することは容易であるといえるものの、グラフト率を下げる方向に調整する手法は、上記式(1)からして、ゲル含有量の減少の他、ブタジエン重合体含有量の増加によっても可能であり、特に、グラフト率を低下させつつ、柔軟性、緩衝性を維持・向上するためには、ゴム成分であるブタジエン重合体の含有量を増加させることが重要であると解されることからして、ゲル分含有量を減少させる方向に調整する動機が乏しく、メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒で測定した場合のゲル分含有量が13.0質量%以下とすることが容易であるとはいえない。 (イ)本件発明3の効果について 甲2発明の効果は、「コストの高い特殊なスチレン系樹脂を用いることなしに,独立気泡率が高く真空成形等の2次成形性が良好であり,得られた押出成形品の柔軟性,緩衝性に優れ,低コストであり,リサイクル性にも有利な桃や梨等の果実包装容器にも適するゴム変性スチレン系樹脂押出発泡シート」の提供であり、求める効果が異なっているから、甲2発明に比した本件発明3の効果(【0009】)は、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ)申立人の主張について 申立書12頁で、甲2発明のゲル含有量を11.5重量%と算出し、また、甲2【0026】、本件明細書【0019】から、「このような溶媒の差によってどの程度分散相の含有量に差が生じる(低い値となる)かは定かでないが、仮に、メチルエチルケトン(メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10))を用いた場合よりも、1質量%低く出ていたとしてもメチルエチルケトンの場合には12.5質量%ということになり、1.5質量%低く出ていたとしてもメチルエチルケトンの場合には13.0質量%ということになる。」(申立書13頁7~11行)と述べるものの、トルエンとメチルエチルケトン(メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10))とでゲル分含有量にどの程度の差が出るか客観的な証拠は示されておらず、「1質量%」や「1.5質量%」という数値にも技術的根拠が見当たらないことから、当該主張を採用し、本件発明3と甲2発明が相違点2-3に係る事項で相違しないとも容易想到であるとも認められない。 (エ)小括 相違点2-1、2-2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明3~5について 本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明3は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 そうであるならば、本件発明4~6も、甲2発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 6 申立理由1-5(甲5を主引用文献とする進歩性) (1)甲5に記載された発明 甲5の実施例3に着目すると、甲5には、次のとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 「以下の組成の重合溶液(a)と以下の組成の重合溶液(b)を混合攪拌機内に導入して重合し、得られた重合溶液を2段ベント付き脱揮押出機に連続的に供給して得たゴム変性スチレン系樹脂H3であって、ゴム状重合体含有量が5.4重量%、分散粒子径が2.0μm、メチルケトン不溶分13.5重量%、トルエンに対する膨潤度7.3である、ゴム変性スチレン系樹脂 重合溶液(a) ゴム状重合体(25℃の5重量%スチレン溶液粘度が95センチボイズのローシスポリブタジエンゴム) 10.1重量部 スチレン 74.9重量部 エチルベンゼン 15.0重量部 α-メチルスチレンダイマー 0.325重量部 1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロへキサン 0.05重量部 ジ-t-ブチルパーオキサイド 0.025重量部 重合溶液(b) スチレン 95.0重量部 エチルベンゼン 5.0重量部 1,1-ビス(t-ブチルパーォキシ)シクロへキサン 0.01重量部」 (2)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲5発明とを比較する、 (ア)甲5発明は、「以下の組成の重合溶液(a)と以下の組成の重合溶液(b)を混合攪拌機内に導入して重合」したものであって、重合溶液(a)、(b)は「重合溶液(a) ゴム状重合体(25℃の5重量%スチレン溶液粘度が95センチボイズのローシスポリブタジエンゴム) 10.1重量部 スチレン 74.9重量部 エチルベンゼン 15.0重量部 α-メチルスチレンダイマー 0.325重量部 1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロへキサン 0.05重量部 ジ-t-ブチルパーオキサイド 0.025重量部 重合溶液(b) スチレン 95.0重量部 エチルベンゼン 5.0重量部 1,1-ビス(t-ブチルパーォキシ)シクロへキサン 0.01重量部」であるところ、本件明細書の【0021】において、「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」と記載されていることを考慮すると、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 (イ)甲5発明は「ゴム状重合体含有量が5.4重量%」であり、スチレン系重合体は100-5.4=94.6重量%であるから、本件発明3の「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み」に相当する。 (ウ)甲5発明の「25℃の5重量%スチレン溶液粘度が95センチボイズのローシスポリブタジエンゴム」は本件発明3の「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体」に相当する。 (エ)甲5発明は、単量体としてスチレンのみが用いられているから、本件発明3と同じく、「前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」るといえる。 (オ)甲5発明の「分散粒子径が2.0μm」は本件発明3の「ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μm」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲5発明とは、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmである、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点5-1:本件発明3は、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲5発明ではそのような特定がない点 相違点5-2:本件発明3は、「トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲」であるのに対し、甲5発明は、「トルエンに対する膨潤指数が7.3」である点 相違点5-3:本件発明3は、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%である」のに対し、甲5発明は、「メチルエチルケトン不溶分が13.5重量%」である点 イ 検討 (ア)相違点の検討 事案に鑑み、相違点5-2から検討する。 甲5の[0017]に、「ゴム変性スチレン系樹脂のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は、5.0~10.0の範囲が好ましく、より好ましくは、6.0~9.0である。更に好ましくは6.0~8.0である。」と記載されているように、甲5における好適な膨潤指数は、10.0以下であるから、甲5発明において、「トルエンに対する膨潤指数が7.3」を調整しようとした場合であっても、その上限値は、10.0までと解するのが妥当であり、「トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲」に調整することに動機がない。 (イ)申立人の主張について 申立書21頁12~20行において、「甲5には、膨潤指数を10.6とした実施例5が記載されており、甲5では膨潤指数について段落0017で「数値が小さいほど架橋密度が高く、数値が大きいほど架橋密度が低い。膨潤指数が小さくなるにつれてゴム変性スチレン系樹脂の強度が低下する傾向にある。一方、膨潤指数が大きくなるにつれて成形加工時の配向によって分散粒子が変形を生じ易くなり、拡散性が低下する傾向にある」と記載がある。一方、甲2、甲3、甲4、甲6において膨潤指数11~14とした例も知られている。以上のことから、甲5の実施例3においてゴム変性スチレン系樹脂の強度を高めようとして膨潤指数を7.3から11~14の範囲とすることは、数値範囲の最適化又は好適化あるいは設計的事項に過ぎない。」と述べる。 しかしながら、甲5には、「トルエンに対する膨潤指数は、5.0~10.0の範囲が好まし」いことが記載されており、実施例で11を超えるものは開示されていない。また、「膨潤指数が大きくなるにつれて成形加工時の配向によって分散粒子が変形を生じ易くなり、拡散性が低下する傾向にある」との記載によれば、好ましいとされる範囲を超えて膨潤指数を大きくすることに動機がない。 また、甲2等に記載の発明は、甲5発明とは異なる課題を有するものであるから、膨潤指数の好ましい範囲も異なるのが自然である。そうであるならば、甲2等では膨潤指数として11~14のものが開示されているからといって、甲5発明において、膨潤指数を11~14とすることの動機とはならない。 (ウ)小括 相違点5-1、5-3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明4~6について 本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明3は、甲5発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 そうであるならば、本件発明4~6も、甲5発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 7 申立理由1-6(甲6を主引用文献とする進歩性) (1)甲6に記載された発明 甲6には、実施例1に着目すれば、次のとおりの発明(以下「甲6発明」)が記載されていると認められる。 「スチレン系樹脂(a)である樹脂A60質量%と、ゴム変性ポリスチレン(b)である樹脂E40質量%をヘンシェルミキサーで混合し、180~220℃に設定した二軸押出機(神戸製鋼所製、KTX30α)にて溶融コンパウンドして得たゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 ゴム変性ポリスチレン(b)におけるゴム成分が9.0質量%、ゴム粒子径が2.9μmであり、ゲル分が28.6質量%であり、膨潤度が10.5であって、 ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゲル分が11.4質量%であり、ゴム粒子径が2.9μmである、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。 <溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体A(架橋剤A)の製造> ジビニルベンゼン3.1モル(399.4g)、エチルビニルベンゼン0.7モル(95.1g)、スチレン0.3モル(31.6g)、2-フェノキシエチルメタクリレート2.3モル(463.5g)、トルエン974.3gを3.0Lの反応器内に投入し、50℃で42.6gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、6.5時間反応させた。重合反応を炭酸水素ナトリウム溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多官能ビニル芳香族共重合体A(架橋剤A)372.5gを得た。 <樹脂Aの製造> 完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器及び静的混合器付プラグフロー型反応器である第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。各反応器の容量は、第1反応器を39リットル、第2反応器を39リットル、第3反応器を16リットルとした。スチレン単量体90質量部、エチルベンゼン10質量部、2,2-ジ(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン0.020質量部、架橋剤A0.030質量部からなる原料溶液を、14L/hrの供給速度にて第1反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を118℃、第2反応器の温度を125℃、第3反応器の温度は120~135℃で重合を行った。得られた重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレットとした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は185℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は67kPaとし、2段目の脱揮層内の樹脂温度は240℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.4kPaとした。 <樹脂Eの製造> 容積25Lの攪拌翼付完全混合型反応器を第1反応器とし、容積第40Lの攪拌翼付プラグフロー型反応器を第2反応器とし、容積50Lの攪拌翼付プラグフロー型反応器を第3反応器とし、容積50Lのスタティックミキサー式プラグフロー反応器を第4反応器とし、それぞれを直列に接続して重合工程を構成した。スチレン単量体78.4質量%、エチルベンゼン13.8質量%、ゴム状重合体として旭化成ケミカルズ社製ポリブタジエン「ジエン55AE」7.8質量%からなる原料溶液を、20L/hrの供給速度で反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を125℃、第2反応器の温度を128~130℃で重合を行った後、第2反応器の出口からの重合液に対し、t-ブチルクミルパーオキサイドを0.020質量%、t-ドデシルメルカプタン0.015質量部添加し、第3反応器の温度を128~128℃、第4反応器の温度を135~160℃で重合を行った。得られた重合液に、重合体に対して2.0質量%の濃度となるようにホワイトオイルを添加/混合し、直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレットとした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は190℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は60kPaとし、2段目の脱揮層内の樹脂温度は230℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.4kPaとした。」 (2)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲6発明とを対比する。 (ア)甲6発明の<樹脂Aの製造>、<樹脂Eの製造>を参照し、本件明細書の【0021】の「典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。」との記載を考慮すると、甲6発明は、本件発明3と同じく、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子と」「を含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有する」といえる。 (イ)甲6発明は「ゴム変性ポリスチレン(b)におけるゴム成分が9.0質量%」であり、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中におけるゴム変性ポリスチレン(b)の割合が40質量%であることから、ゴム変性スチレン系樹脂組成物におけるゴム成分の含有量は、9.0×0.4=3.6質量%であり、スチレン系樹脂成分の割合は100-3.6=96.4質量%であるから、本件発明3の「前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み」に相当する。 (ウ)甲5発明の「旭化成ケミカルズ社製ポリブタジエン「ジエン55AE」」は本件発明3の「前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体」に相当する。 (エ)甲5発明は、単量体としてスチレンのみが用いられているから、本件発明3と同じく、「前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であ」るといえる。 (オ)甲5発明の「ゴム粒子径が2.9μm」は本件発明3の「ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μm」に相当する。 そうすると、本件発明3と甲6発明とは、「マトリックスを形成するスチレン系重合体と、該マトリックス中に島状に分散しているゴム状重合体粒子とを含み、該ゴム状重合体粒子は、該スチレン系重合体粒子を内包し海島構造を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 前記スチレン系重合体および前記ゴム状重合体粒子を形成しているゴム状重合体の合計100質量%に対して、前記スチレン系重合体99.0~94.0質量%と、前記ゴム状重合体1.0~6.0質量%と、を含み、 前記ゴム状重合体が、ポリブタジエンゴム及び/又はスチレン-ブタジエン共重合体であり、 前記スチレン系重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-t-ブチルスチレンからなる群から選択されるスチレン系単量体と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるその他の単量体とを重合原料の単量体とし、かつ前記その他の単量体の量は、前記マトリックスを構成する単量体の総量に対して、25質量%以下であり、 前記ゴム状重合体粒子の粒子径が2.0~5.5μmである、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点6-1:本件発明3は、「紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、蛍光増白剤、光拡散剤又は選択波長吸収剤のいずれか」を含むことが特定されているのに対し、甲6発明はそのような特定がない点 相違点6-2: 本件発明3は、「トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数が11~14の範囲」であるのに対し、甲6発明は、「膨潤度が10.5」である点 相違点6-3:本件発明3は、「メチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)を加えて求められた前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量が2.0~13.0質量%である」のに対し、甲6発明はそのような特定がない点 イ 検討 (ア)相違点の検討 事案に鑑み、相違点6-2から検討する。 甲6の【0032】を参照すると、膨潤度は「トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数」である。また、甲6の【0072】によると、樹脂C、Dは架橋剤を用いずに重合を行ったものであるから、樹脂C、D由来のゲル分はないものとして扱えるところ、樹脂Aを30質量%用いた実施例3と樹脂C、Dを30質量%用いた比較例1、2でゲル分は「19.6質量%」と「20.5質量%」とほとんど変わらないことから、樹脂A由来でゴム変性スチレン系樹脂組成物に混合されるゲル分はほとんどないことが理解される。そうであるならば、甲6発明において、ゴム変性ポリスチレン(b)である樹脂Eの10.5という膨潤度は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム状重合体粒子の膨潤度でもあるといえる。 ここで、甲6の【0031】には、「本発形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム状重合体粒子の膨潤度SIは8.0~20.0であることが好ましい。膨潤度SIが8.0未満であると強度が低下し、膨潤度SIが20.0を超えると強度と剛性が低下する。」ことが記載されており、実施例5で用いられている樹脂Gは膨潤度15.6であるから、膨潤度10.5をその間に位置する11~14の範囲に調整することは記載ないし示唆があるといえる。 しかしながら、甲6の【表2】における樹脂Eと樹脂Gを参照すると、膨潤度を増加させると、例えば、ゴム分の増加やグラフト率の低下といった他の物性の変化が伴うことが理解される。そして、甲6の【0031】によれば、膨潤度は、高すぎても低すぎても強度の低下を招く物性であることから、適度であることが重要と理解される一方で、グラフト率の低下は、甲6の【0026】によれば、衝撃性の低下を招く恐れがあることを考慮すれば、甲6発明において、他の物性の変化を伴ってまで、膨潤度を10.5から11~14の範囲に増加させる積極的な動機が見当たらない。 また、甲6発明において、膨潤度を10.5から「11~14」に変更する場合に他の技術的事項の変更を伴うところ、上記アで一致点と判断した事項も含めて全ての事項が本件発明3で特定される事項を満たすように変更することが容易であるといえる技術的根拠も不明である。 (イ)本件発明3の効果について 甲6発明の効果は、甲6の【0009】によれば、「剛性と耐衝撃性のバランスに優れ、且つ成形による偏肉が少なく、容器の複雑形状化や軽量化による座屈強度や落下強度の低下が少ないゴム変性スチレン系樹脂組成物」というものであるから、求める効果が異なっており、甲6発明に比した本件発明3の効果(【0009】)は、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ) 申立人の主張について 申立人は、申立書26頁下から17~3行で、「甲6の段落0031において「本発形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム状重合体粒子の膨潤度SIは8.0~20.0であることが好ましい。膨潤度SIが8.0未満であると強度が低下し、膨潤度SIが20.0を超えると強度と剛性が低下する。・・・」と記載されており、又は甲2、甲3、甲4において膨潤指数11~14bの範囲について記載されている。 上述のように、本件特許明細書の段落0020の膨潤指数に関する記載と、甲5の段落0017の膨潤指数に関する記載はほぼ同一である。甲6の段落0031においても効果について同趣旨のことが記載されている。従って、甲5や甲6に開示されている内容から、本件特許発明の膨潤指数に関する効果(甲5,甲6に記載の効果)を得るために、甲2、甲3、甲4、甲6に開示されている膨潤指数の数値を採用することは当業者にとって動機付けがあるか、数値範囲の最適化又は好適化あるいは設計的事項に過ぎないため、容易である。」と主張する。 しかしながら、甲5の[0017]には、本件明細書【0020】と同趣旨の記載があるが、膨潤指数の好ましい範囲は、甲5では5.0~10.0であり、本件明細書では10~14(より好ましくは11~13)であるように、好ましい膨潤指数は実態(用途等)に合わせて変動するものである。また、甲6の【0031】には、膨潤指数の好ましい範囲が記載されているが本件明細書と同趣旨の記載とはいえない。そうであるならば、甲6発明において、膨潤指数を11~14に調整することが、甲2~5の記載を参照しても、当業者に容易であったとは認められない。 (エ) 小括 相違点6-1、6-3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明4~6について 本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明3は、甲6発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 そうであるならば、本件発明4~6も、甲6発明に基づいて当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。 8 申立理由2(サポート要件) (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)検討 本件発明が解決しようとする技術課題は、【0008】を参照すれば、「全光線透過率、拡散光透過率、及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、当該樹脂組成物を含むシート、及び当該シートより得られる照明用カバー等の成形品を提供すること」であると認められる。 そして、本件発明1では、 ・スチレン系重合体とゴム状重合体の比率 ・ゴム状重合体の分散粒子の粒子径 ・ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメチルエチルケトン不溶ゲル分の含有量 ・ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数 を特定することと、その技術的意味についての記載があり(【0016】~【0018】、【0020】)、実施例では、これらを同時に満たすゴム変性スチレン系樹脂組成物が上記技術課題を解決し得ることが記載されている。 特に、膨潤指数に関し、【0020】には、「膨潤指数は、ゴム状重合体の架橋密度を表しており、数値が小さいほど架橋密度が高く、数値が大きいほど架橋密度は低い。膨潤指数が小さくなるにつれてゴム変性スチレン系樹脂組成物の強度が低下する傾向にある。一方、膨潤指数が大きくなるにつれて成形加工時の配向によって分散粒子が変形を生じ易くなり、配向方向に直行する方向の強度が低下し、拡散性が低下する傾向にある。」という理由とともに、「ゴム変性スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は、10~14であり、好ましくは10~13、より好ましくは11~13である。」ことが記載されている。 そして、実施例では膨潤指数が12に調整されるとともに、比較例では9.0(比較例6)、15(比較例7)に調整されたものを用意した結果、下限値以下の比較例6では衝撃強度が低く(【0056】)、上限値以上の比較例7では拡散光透過率が低くなっており(【0057】)、膨潤指数を特定の範囲に調整する作用効果が確認されている。 そうであるならば、本件明細書を参照すれば、本件発明3で規定される技術事項を満たせば上記技術課題を解決し得ることが理解されるので、本件発明3は、上記技術課題を解決し得るものとして、本件明細書に記載されたものである。 (3)申立人の主張について 申立人の申立書における主張は概略以下のとおりである。 ア 本件発明は、「ゴム変性スチレン系樹脂組成物に分散している補強ゴム粒子を最適化することにより、全光線透過率、拡散光透過率、及び耐白化性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物」を提供することを目的とする。 イ 本件明細書の実施例における樹脂組成物が膨潤指数が12の例だけである。 ウ 甲第5号証によれば、膨潤指数が大きくなると、光拡散率及び黄色度が悪化する。 エ 本件明細書の実施例よりも2大きい14の膨潤指数(本件発明における膨潤指数の上限値)では、拡散光透過率に影響があるといえるから、本件発明は、課題を解決しない範囲を含んでいる。 しかしながら、本件明細書【0020】及び実施例の結果を参照すると、本件発明において、膨潤指数は12を含む一定の範囲に収めれば良好な結果が得られることが理解される。そして、その範囲として11~14という数値に著しく広いと認めるに足る根拠が見いだせない。 また、申立人は、申立書において、「甲7(上申書)では甲5の発明で膨潤指数と、光拡散率及び黄色どの関係について言及されている。膨潤指数の値が大きくなると、光拡散率及び黄色度(Y.I)が悪化すると言うことから、膨潤指数を10.6から11へ変更すること当業者にとって困難であるというのである。この主張内容に基づけば、膨潤指数が10.6と11との差(0.4)のみで、黄色度や光拡散性に大きな影響を与えることになる。そのような影響があるならば、同様の技術である本件特許発明においても同様に影響があると考えられる。すなわち、本件特許発明の各実施例では膨潤指数12であるが、構成1Gの「膨潤指数が11~14の範囲」の範囲における1小さい11の膨潤指数や、1~2大きい13や14などの膨潤指数では課題を解決できているか疑問である。」とも主張する。 しかしながら、膨潤指数が1~2程度ずれた場合に上記技術課題を解決し得ないほどの影響が出ることまで申立人は主張・立証しておらず、また、そのような影響を及ぼすと推察すべき技術的根拠は見当たらない。 (4)小括 本件発明は、上記技術課題を解決し得るものとして本件明細書に記載されたものである。 9 申立理由3(実施可能要件) (1)実施可能要件の判断基準 物の発明の場合に実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)検討 本件明細書【0021】~【0022】には、本件発明に用いるゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の指針が記載されており、また、【0031」~【0038】において、9つのゴム変性スチレン系樹脂を作製し、その性状が確認されており、これらを参照すれば、本件明細書には、本件発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造に用い得るゴム変性スチレン系樹脂の製造条件が開示されているといえる。 そして、当該開示内容を踏まえれば、本件発明を実施することは、当業者であれば容易であると認められる。 (3)申立人の主張について 申立人の申立書における主張は概略以下のとおりである。 ア 本件明細書【0022】には、「トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は回収系の押出機の温度により制御が可能」と記載されている。 イ そして、本件明細書の実施例において、組成物の膨潤指数は、押出機の温度によって調整しており(表1)、230℃のとき膨潤指数は12.0である。 ウ 一方で、甲5では、ゴム変性スチレン系樹脂H1~H8の製造において、押出機の温度を210~240℃の範囲に調整しているが、膨潤指数は11~14を満たさない。 エ また、甲1,3では、押出機の温度を230℃としたときの膨潤指数が11である。 オ そうすると、本件明細書には、スチレン系重合体の含有量、ゴム状重合体の含有量、ゲル分をそれぞれの範囲において満たしつつ、膨潤指数を11~14の範囲で変化させて満たす方法が記載されているとは認められない。 しかしながら、特に膨潤指数に関し、【0022】には、「トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は回収系の押出機の温度により制御が可能」との記載がされており、樹脂1、樹脂3、樹脂4の作製条件を比較すれば、回収系の押出機の温度を制御することで、膨潤指数を調整可能であることが見て取れる。 また、膨潤指数は【0020】によれば、「膨潤指数は、ゴム状重合体の架橋密度を表し」たものであるところ架橋密度と温度との関係は、ゴムの種類や組成等にもよるので、その最適な製造条件は各系毎に異なるものと認められる。そうであるならば、本件発明と、甲1、甲3、甲5で同じ温度で行っても異なる膨潤指数となったことをもって、本件発明を実施することが当業者であっても困難であるということはできない。 (4)小括 本件発明は、当業者であれば本件明細書の記載に基づいて容易に実施し得るものと認められる。 第6 むすび 上記第5のとおり、本件特許の請求項3~6に係る特許は、当審において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、訂正により削除された請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下すべきである。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700567

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存