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特許異議申立

2015-700169

未発酵のビール風味麦芽飲料の風味の改善

審判番号
2015-700169
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2010-545762外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2015年11月11日
審決日
2017年01月10日
公報発行日
2017年04月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5715825号発明「未発酵のビール風味麦芽飲料の風味の改善」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5715825号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について、訂正することを認める。 特許第5715825号の請求項1~6及び8に係る特許を維持する。 特許第5715825号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 本件特許第5715825号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成27年3月20日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人有限会社アモニータより特許異議の申立てがなされ、平成28年1月22日付けで取消理由が通知され、平成28年4月22日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成28年6月7日に特許異議申立人から意見書の提出、さらに、平成28年7月6日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成28年9月5日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。 なお、平成28年4月22日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、平成28年9月5日になされた訂正請求について、特許異議申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは何らの応答もなかった。 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 ア 請求項〔1~6〕、8に係る訂正 ・訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1及び8において、 「150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150[上記式中、Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ、Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味する]」との記載を [上記式中、Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ、Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味し、但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない]」と訂正する。 ・訂正事項b 特許請求の範囲の請求項1において、 「を満足するように、リナロール濃度とアセトアルデヒド濃度とを調節することを含んでなる」との記載を 「を満足し、かつ、得られる麦芽飲料中におけるリナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lとなるように、リナロール濃度とアセトアルデヒド濃度とを調節することを含んでなる」と、 また、特許請求の範囲の請求項8において、 「を満たすことを特徴とする」との記載を 「を満たし、かつ、リナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lの範囲内であることを特徴とする」と訂正する。 ・訂正事項c 明細書の段落【0023】において、 「150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150・・・(A) [上記式中、 Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味する]」との記載を、 [上記式中、 Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味し、 但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない]」と訂正する。 ・訂正事項d 明細書の段落【0023】において、 「を満足するように、リナロールとアセトアルデヒドとを、風味改善しようとする麦芽飲料に加えることを含んでなる」との記載を、 「を満足し、かつ、得られる麦芽飲料中におけるリナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lとなるように、リナロールとアセトアルデヒドとを、風味改善しようとする麦芽飲料に加えることを含んでなる」と訂正する。 ・訂正事項e 明細書の段落【0067】において、 「なお、これら関係式の前者は、後述する実施例のリナロール濃度60μm/Lでかつアセトアルデヒド濃度1mg/Lの場合と、リナロール濃度0μm/Lでかつアセトアルデヒド濃度10mg/Lの場合に基づいて算出したものであり、後者の式は、後述する実施例のリナロール濃度120μm/Lでかつアセトアルデヒド濃度12mg/Lの場合と、リナロール濃度0μm/Lでかつアセトアルデヒド濃度60mg/Lの場合に基づいて算出したものである。後者の式は、好ましくは、1000Ln<-3A+150であることができる。」との記載を、 「なお、これら関係式の前者は、後述する実施例のリナロール濃度60μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度1mg/Lの場合(飲料中の実測濃度では、リナロール濃度59.7μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度1.6mg/L)と、リナロール濃度0μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度10mg/Lの場合(飲料中の実測濃度では、リナロール濃度0.6μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度10.3mg/L)に基づいて算出したものであり、後者の式は、後述する実施例のリナロール濃度120μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度10mg/Lの場合(飲料中の実測濃度では、リナロール濃度121.3μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度10.3mg/L)と、リナロール濃度0μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度50mg/Lの場合(飲料中の実測濃度では、リナロール濃度0.6μg/Lでかつアセトアルデヒド濃度47.7mg/L)に基づいて算出したものである。」と訂正する。 ・訂正事項f 明細書の段落【0074】において、 「リナロール濃度:0、1.2、12、120 μm/L;」との記載を、 「リナロール濃度:0、1.2、12、60、120 μg/L;」と訂正する。 イ 請求項7に係る訂正 ・訂正事項g 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 請求項〔1~6〕、8に係る訂正について ・訂正事項e及びfについて 訂正事項eにおいて、訂正前のリナノール濃度の単位として「μm/L」は、明らかな誤記であるから、これを「μg/L」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 訂正事項eにおいて、アセトアルデヒド濃度として「12mg/L」及び「60mg/L」は、「後述する実施例」(段落【0074】の実施例2、段落【0077】の【表1】)にはなく、明らかな誤記であるから、それらを「後述する実施例」どおりの「10mg/L」及び「50mg/L」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 訂正事項eにおいて、各リナロール濃度及びアセトアルデヒド濃度の後に括弧書きで飲料中の実測濃度を追加する訂正は、下記の訂正事項aの特許請求の範囲の訂正に伴い、実施例3(段落【0086】の【表2】及び【0087】の【表3】)を根拠とし、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項eにおいて、「後者の式は、好ましくは、1000Ln<-3A+150であることができる。」との記載を削除する訂正は、下記の訂正事項aの特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項fにおいて、段落【0074】の「リナロール濃度:0、1.2、12、120 μm(μg)/L」との記載は、段落【0077】の【表1】の記載と対応しておらず、明らかな誤記であるから、リナロール濃度に「60μg/L」を追加する訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 また、訂正事項e及びfは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ・訂正事項aについて 請求項1及び8に記載されている「リナロールおよびアセトアルデヒドのそれぞれの濃度」は「得られる麦芽飲料中における」濃度であることから、リナロールおよびアセトアルデヒドの濃度が満たす関係式は、最終的に得られた麦芽飲料中のリナロールおよびアセトアルデヒドの濃度に基づいて算出されるものであるところ、訂正前の請求項1及び8に記載されていた関係式:「150Ln≧-A十10、および、1000Ln≦-3A+150」は、麦芽飲料に添加されたリナロールおよびアセトアルデヒドの量(実施例2)に基づいて算出されたものであり(段落【0067】参照)、明瞭でないことは明らかである。 かかる明瞭でない記載を訂正するため、リナロールおよびアセトアルデヒドの濃度が満たす関係式を、最終的に得られた麦芽飲料中のリナロールおよびアセトアルデヒドの実測濃度が示された実施例3(段落【0086】及び【0087】の【表2】及び【表3】)に基づいて算出された下記関係式: とする訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正後の上記関係式は、段落【0067】及び実施例3(段落【0086】の【表2】及び【0087】の【表3】)に基づいて算出されることから、新規事項の追加に該当しない。 さらに、訂正後の請求項1及び8は、「但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない」との記載を追加し、訂正前の請求項1及び8を超える範囲を除いていることから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ・訂正事項bについて 訂正事項bは、請求項1及び8に記載されている「麦芽飲料中のリナロールおよびアセトアルデヒドのそれぞれの濃度」の範囲をさらに「0.0006~0.12mg/L」および「1.6~10mg/L」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、この訂正は、明細書の段落【0064】、【0065】および【0087】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 ・訂正事項c及びdについて 訂正事項c及びdは、上記の訂正事項a及びbの特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 請求項7に係る訂正について 訂正事項gは、特許請求の範囲の請求項7を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項gは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび したがって、上記各訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号または第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正を認める。 3.本件特許発明 上記のとおり訂正が認められることから、本件特許の請求項1~6、8に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6、8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 風味改善しようとする麦芽飲料中のリナロールの濃度とアセトアルデヒドの濃度とを調整することによって、飲料に発酵風味を付与または増強することを特徴とする、未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法であって、得られる麦芽飲料中におけるリナロールおよびアセトアルデヒドのそれぞれの濃度が、下記関係式: [上記式中、Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ、Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味し、但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない] を満足し、かつ、得られる麦芽飲料中におけるリナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lとなるように、リナロール濃度とアセトアルデヒド濃度とを調節することを含んでなる、製造方法。 【請求項2】 リナロールとアセトアルデヒドとを、風味改善しようとする麦芽飲料に加えることによって、飲料に発酵風味を付与または増強する、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 得られる麦芽飲料中におけるリナロールおよびアセトアルデヒドの濃度が、それぞれ風味改善に有効な濃度となるように、リナロールとアセトアルデヒドとを、風味改善しようとする麦芽飲料に加えることを含んでなる、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 得られる麦芽飲料中におけるリナロールの濃度が11~13μg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が9~11mg/Lとなるように、リナロールとアセトアルデヒドとを調節することを含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 麦芽飲料に用いられる麦汁の調製過程において、麦汁へのホップの添加量および添加時期を調節することによってホップ由来のリナロール量を調節した後、さらに必要によりリナロールを麦芽飲料に加えることによって、風味改善しようとする麦芽飲料のリナロール濃度を調節することを含む、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 風味改善しようとする麦芽飲料が、未発酵の麦汁から麦汁フレーバーを低減させることによって得られたものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 リナロール濃度およびアセトアルデヒの濃度が、下記関係式を満たし、かつ、リナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lの範囲内であることを特徴とする、発酵風味が付与または増強された未発酵のビール風味麦芽飲料: [上記式中、Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ、Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味し、但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない]」 3.取消理由の概要 訂正前の請求項1~8に係る特許に対して平成28年1月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 <理由1> 本件特許の請求項1、5~8に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 甲1:特許第2791343号公報 甲2:岸本徹、「ビールに特徴的な香りを付与するホップ由来香気成分」、2008年7月23日、京都大学 博士論文 甲3:S.Hanke、外4名、”Hop Volatile Compounds(PartII):Transfer Rates of Hop Compounds from Hop Pellets to Wort and Beer”、BrewingScience、2008年、p.140-147 甲4:Von V.Arkima、外1名、”Die gaschromatographische Bestimmung der fluchtigen Carbonylverbindungen in Gerste und Malz”、MONATSSCHRIFT FUR BRAUEREI、1971年、p.161-163 甲5:Von G.Barwald、外2名、”Untersuchungen fluchtiger Aromastoffe in Gerste und Malz”、MONATSSCHRIFT FUR BRAUEREI、1969年、p.114-117 甲6:財団法人日本醸造協会編、「醸造物の成分」、平成11年12月10日、p.250-265 <理由2> 本件特許発明1~8は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 <理由3> 発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認めらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 <理由4> 本件特許発明7は、「未発酵のビール風味麦芽飲料」という物の発明であるが、請求項7には、その物の製造方法が記載されているといえ、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 4.取消理由についての判断 4-1.理由1について ア 刊行物の記載 [甲1] (1a)「【請求項1】麦芽汁乾燥粉末から水を用いて還元した非発酵麦芽汁と二酸化炭素を含み、前記麦芽汁乾燥粉末は噴霧乾燥した麦芽汁であることを特徴とするノンアルコールビール。 【請求項2】上記還元非発酵麦芽汁は、重量分率で2.5~6%の乾燥内容物を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のビール。 【請求項3】重量分率で0.01~5%の添加剤を含むことを特徴とする特許請求の範囲第1項または第2項記載のビール。 【請求項4】上記添加剤は、香味料、着色料、pH調整剤、および泡沫安定剤から選択されることを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のビール。 【請求項5】ホツプ油を含むことを特徴とする特許請求の範囲第3項または第4項記載のビール。」(【特許請求の範囲】) (1b)「本発明は、在来の醸造ビールと同等の風味を有するノンアルコール飲料に関し、ここにいう飲料とは特許請求の範囲におけるノンアルコールビールを指す。術語「ノンアルコール」は、発酵によるアルコール製造およびアルコールの添加が行われていないことを示すのに使われる。」(第1頁右欄4~9行) (1c)「本発明の目的は、1つには典型的な豊かなビール香味を有するノンアルコールビールを提供することであり、他方では開始物質である麦芽汁から発生する好ましくない香味が実質的に無いノンアルコールビールを提供することである。」(第2頁左欄17~21行) (1d)「本発明は、ホツプ油を含むことを特徴とする前記ビールである。」(第2頁左欄35~36行) (1e)「本発明の製品に対する本質的な条件は、噴霧乾燥した麦芽汁乾燥粉末から水を用いて還元した非発酵麦芽汁によつてノンアルコールビールの主成分が作られることである。これにより驚くべきことにこの製品は、おそらくはホツプ油などのような香味と共に用いられ、麦芽汁乾燥粉末の調製の前にも、あるいは麦芽汁への還元の後にも麦芽汁の発酵は行われないにもかかわらず、麦芽汁のような特有の好ましくない香味を有しない良好なビール香味が得られる。」(第2頁左欄41~49行) (1f)「本発明に従うビールの調製は、最終製品中で所望の含有量になるまで各成分を混合するという簡単な方法によつて達成される。この目的のためには、最終製品中における麦芽汁が、重量分率で2.5~6%の乾燥内容物を含んでいることが好ましい。麦芽汁乾燥粉末を水で溶解したときに溶液中に濁りが生じた場合には、前記溶液を■過してもよい。 ・・・ 第1~第3実施例 第1表~第3表中に記載された成分は相互に混合され、■過され、炭酸ガスで飽和された。」(第2頁右欄17~29行、「■」は「濾(ろ)」を意味することは明らかである。) (1g)「第3実施例 好ましくない香味がないホツプ風味を有するピルゼン産タイプのノンアルコールビールが得られ、それは重量分率で4.0%の抽出内容物、7.0EBCの色、および20.0EBEの苦味を有する。」(第3頁左欄5行~同右欄3行) 以上の記載において、特に、第3実施例を参照すると、甲1には、 「麦芽汁乾燥粉末、乳酸溶液、天然アロマホップ(Natural hop aroma)及び水を成分とし、それらは相互に混合され、ろ過され、炭酸ガスで飽和する、好ましくない香味がないホップ風味を有するノンアルコールビールの製造方法。」の発明(以下「甲1発明」という)及び 「麦芽汁乾燥粉末、乳酸溶液、天然アロマホップ(Natural hop aroma)及び水を成分とし、炭酸ガスで飽和された好ましくない香味がないホップ風味を有するノンアルコールビール。」の発明(以下「甲1’発明」という)が記載されているものと認められる。 [甲2](以下訳文のみ) (2a)「2-2-2. 醸造工程 醸造工程には、ザーツァー(5.6%α酸ペレット;チェコ共和国)、カスケード(5.5 % α酸ペレット;アメリカ合衆国)及びヘルスブルッカー(3.8%α酸ペレット:ドイツ)を使用した。異なる品種のホップを添加したビールと、ホップを添加しないビールをそれぞれ独立に20L容量スケールで醸造した。必要に応じて、30gのホップを煮沸工程の最初に添加し、煮沸工程終了後に更に60gのホップを添加した。」(第30頁1~5行) (2b) 「 」(第39頁表2-3) [甲3] (3a)「麦汁は60Lのビール醸造試験設備で調製した。・・・麦汁は、ホップを添加せずに60分間煮沸した。そして、ワールプールで凝集物を除去した。ホップは、麦汁を煮沸釜からワールプールヘと移す間に添加した。」(第140頁右欄18~24行) (3b)「ホップサンプルの分析結果を表1に示し、種々のホップ品種の添加量を表2に示す。」(第140頁右欄29~31行) (3c)「 」(第144頁 表2) (3d)「 」(第144頁 表3(抜粋)) [甲4] (4a)「1.2 分析方法 麦芽を粉砕し、冷たい水道水と共に薄いスラリーとした。粉砕工程の間、麦芽粉砕物と水の流速は可能な限り一定とした。各粉砕バッチから得られたスラリーの乾物含量を決定したところ、大麦粉砕物に対して15~16%及び麦芽粉砕物に対して26~30%であった。撹拌のためのマグネチックスターラーバーが入った140mLの容器に100mLの水性スラリーを計量した。容器をシリコンゴムシール及びアルミニウムキャップで閉じ、次いで40℃の温浴に置いた。容器内が平衡に達するまで15分撹拌した後、ゴムメンブレンを介してインジェクションシリンジで2mLのサンプルをヘッドスペースから採取し、ガスクロマトグラフ装置に注入した。凝縮を避けるため、シリンジは予め40℃に温めておいた。試験溶液は、純粋な試薬(Fluka AG, Buchs SG,スイス)を大麦粉末スラリーに添加することにより調製した。得られた結果は、麦芽サンプル中の種々の化合物の量を計算するのに使用した(試験溶液の比較プロットを図1に示す)。」(第161頁左欄40行~同右欄11行) (4b)「 」(第162頁右欄図2) (4c)「 」(第162頁右欄図3) [甲5] (5a)「I I .方法 我々の調査の出発物質は、大麦/キルンドモルトであった。先行調査の結果、大麦にも予想外の量の揮発性物質が示されたため、同じバッチ-オリジナルの洗浄された状態、及び2%過酸化水素溶液で1時間洗浄後、並びに以前の水分量まで乾燥させた-を採用した。大麦は、水分量12%で提供された。湿ったサンプルは、最初濾紙上に広げ、引き続き30℃での真空乾燥キャビネット中で乾燥させた。麦芽は、水分量4.5%で使用された。大麦/麦芽は粉砕された。いずれの場合も、1kgの粉砕された物質-乾燥重量ベース-を抽出に使用した。粉砕された物質は抽出力ラムに詰め、60℃で200mL/分の窒素で24時間抽出した。」(第114頁右欄22~38行) (5b)「 」(第115頁右欄図1) [甲6] (6a)「2 ホップアロマ成分 ホップは,主にビールに苦味質を付与するために使用されるが,さらに,ホップ由来のアロマ香(味)あるいはホップキャラクターと称される香(味)を付加するためにも使用される。前項で記述したように,ホップ苦味質の香味化学はほぼ明確になってきたが,一方,ホップアロマ香については単一化合物で説明できるものはなく,今後の研究を待たねばならない。しかしながら,ホップキャラクターは,ホップ精油に由来することは大方の認めるところである。」(第259頁右欄第34~42行) イ 対比・判断 ・本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、 甲1発明の「ノンアルコールビール」は、発酵されていないことより、本件特許発明1の「未発酵のビール風味麦芽飲料」に相当する。 よって、両者は、 「未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点:本件特許発明1では、風味改善しようとする麦芽飲料中のリナロールの濃度とアセトアルデヒドの濃度とを調整することによって、飲料に発酵風味を付与または増強し、得られる麦芽飲料中におけるリナロールおよびアセトアルデヒドのそれぞれの濃度が、下記関係式: [上記式中、Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ、Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味し、但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない] を満足し、かつ、得られる麦芽飲料中におけるリナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lとなるように、リナロール濃度とアセトアルデヒド濃度とを調節しているのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。 上記相違点について検討すると、 甲1発明の「天然アロマホップ(Natural hop aroma)」は、甲1の請求項5及び記載事項(1e)等を参酌すると、「ホップ油」に相当し、甲6に記載されているように、ホップ由来のアロマ香(味)は、当該「ホップ油(ホップ精油)」に由来するものと認められる。 また、ホップの香気成分としてリナロールが含まれ、ホップの品種によりその量に差があることは、甲2及び甲3に記載されているように技術常識であり、そして、使用するホップまたはホップ油の品種及びその添加量は、求められるホップ風味等を考慮して、適宜に調整されるものであり、また、その添加量に比例して、リナロールの量も増加するものと認められる。 そうすると、甲1発明において、「天然アロマホップ(Natural hop aroma)」に使用するホップの品種及びその添加量を適宜に調整することにより、リナロールの濃度を調整し得るものと認められる。 しかし、本件特許明細書の段落【0086】の表2にあるように、アセトアルデヒドの添加量が0mg/L、すなわち麦汁自体に含まれるアセトアルデヒド濃度は、0.5mg/Lであることが通常であるとしても、上記相違点に係る本件特許発明1における麦芽飲料中のアセトアルデヒドの濃度の下限値は1.6mg/Lであることからすると、甲1発明においてアセトアルデヒドの濃度を当該下限値以上とするためには、「アセトアルデヒド」自体を麦芽飲料に添加すること等が必要になるところ、引用された刊行物のいずれにも、「アセトアルデヒド」自体を麦芽飲料に添加すること等の記載または示唆はないことより、甲1発明においてアセトアルデヒドの濃度を1.6~10mg/Lとなるように調節することは、当業者が容易になし得たとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ・本件特許発明5及び6について 本件特許発明5及び6と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点において相違し、上記「本件特許発明1について」において検討したのと同様に、当業者が容易になし得たとはいえない。 したがって、本件特許発明5及び6は、甲1発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ・本件特許発明8について 本件特許発明8と甲1’発明とを対比すると、 甲1’発明の「ノンアルコールビール」は、発酵されていないことより、本件特許発明1の「未発酵のビール風味麦芽飲料」に相当する。 よって、両者は、 「未発酵のビール風味麦芽飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点:本件特許発明8では、リナロール濃度およびアセトアルデヒの濃度が、下記関係式を満たし、かつ、リナロールの濃度が0.0006~0.12mg/L、およびアセトアルデヒドの濃度が1.6~10mg/Lの範囲内であり、 [上記式中、Lnは麦芽飲料中におけるリナロール濃度(mg/L)(Ln>0)を意味し、かつ、Aは麦芽飲料中におけるアセトアルデヒド濃度(mg/L)(A>0)を意味し、但し、上記式を満足する範囲は150Ln≧-A+10、および、1000Ln≦-3A+150を満足する範囲を超えない] 発酵風味が付与または増強されているのに対し、甲1’発明では、そのような特定がない点。 上記相違点について検討すると、上記「本件特許発明1について」において検討したのと同様に、甲1’発明において、上記相違点の本件特許発明8のようになすことは、当業者が容易になし得たとはいえない。 したがって、本件特許発明8は、甲1’発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ まとめ 本件特許発明1、5、6及び8は、甲1に記載された発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4-2.理由2~4について 前記2.のとおり、明細書及び特許請求の範囲が訂正されたことにより、理由2~4は解消された。 4-3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1~8に係る各発明は、甲第1号証(甲1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない旨、及び請求項2~4に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。 しかし、訂正後の本件特許発明1~6及び8は、甲第1号証に記載された発明と少なくとも上記「4-1.理由1について」の「イ 対比・判断」における上記相違点において相違し、また、当該相違点を容易になし得たといえないことから、かかる主張は理由がない。 また、特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1~8に係る各発明は、下記の甲第7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない旨、及び甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。 しかし、訂正後の本件特許発明1~6及び8は、甲第7号証に記載された発明と少なくとも上記「4-1.理由1について」の「イ 対比・判断」における上記相違点と同様に相違し、また、当該相違点を容易になし得たといえないことから、かかる主張は理由がない。 甲第7号証:Non-and low-alcohol beers:how they are made,BREWING&DISTILLINGINTERNATIONAL DECEMBER,1986年,p.16-18 5.請求項7についての特許異議の申立てについて 前記2.のとおり、本件訂正が認められ、請求項7は削除されたことにより、請求項7についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなる。 したがって、請求項7についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものである。 6.むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~6及び8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1~6及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項7についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2015-700169

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