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特許異議申立

2025-700509

蒸した芋様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料

審判番号
2025-700509
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-550273
登録番号
7581571
請求日
2025年05月12日
審決日
2025年09月05日
公報発行日
2025年10月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】麒麟麦酒株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
  • 【異議申立人】清水 将博
審判長/審判官
  • 審判長 柴田 昌弘
  • 審判官 松本 陶子
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
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特許第7581571号発明「蒸した芋様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7581571号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7581571号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2023年(令和5年)10月18日を国際出願日とする出願であって、令和6年11月1日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年5月12日に特許異議申立人 清水 将博(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされ、同年7月18日に特許異議申立人より手続補正書(方式)が提出された(以下、手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書のことを、単に「特許異議申立書」という。)ものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合がある。また、本件特許発明1ないし本件特許発明13を総称し、「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 2,5-ジメチルピラジンの含有量が0.1~3.5ppbであり、かつ、EBC色度が8.5EBC以下である、非アルコールビールテイスト飲料。 【請求項2】 アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、請求項1に記載の非アルコールビールテイスト飲料。 【請求項3】 酢酸エチルの含有量が3.5~60ppmである、請求項1または2に記載の非アルコールビールテイスト飲料。 【請求項4】 酢酸イソアミルの含有量が1~10ppmである、請求項1または2に記載の非アルコールビールテイスト飲料。 【請求項5】 酢酸エチルの含有量が3.5~60ppmであり、酢酸イソアミルの含有量が1~10ppmである、請求項1または2に記載の非アルコールビールテイスト飲料。 【請求項6】 非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、当該方法は、前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、方法。 【請求項7】 前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、請求項6に記載の方法。 【請求項8】 非アルコールビールテイスト飲料における煮出した麦茶様の異臭を低減する方法であって、当該方法は、前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、方法。 【請求項9】 非アルコールビールテイスト飲料における蒸した芋様の異臭を低減する方法であって、当該方法は、前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、方法。 【請求項10】 非アルコールビールテイスト飲料における後味の酸味を低減する方法であって、当該方法は、前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、方法。 【請求項11】 非アルコールビールテイスト飲料における後味の刺激感を低減する方法であって、当該方法は、前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、方法。 【請求項12】 非アルコールビールテイスト飲料における味の厚みを増強する方法であって、当該方法は、前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、方法。 【請求項13】 前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。」 第3 特許異議申立理由の要旨 特許異議申立人が特許異議申立書において申し立てた請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1、2及び6ないし13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由3の具体的理由は、次のとおりである。 (1) 本件特許発明の課題と発明特定事項 本件特許の明細書の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、蒸した芋様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料、その製造方法を提供することであるといえる。 このような課題に対して、本件特許発明は、非アルコールビールテイスト飲料において、2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに特定し、EBC色度を8.5EBC以下に特定している。また、本件特許の明細書の「本発明において「非アルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール(エタノール)濃度が1%(v/v)未満のビールテイスト飲料を意味する。」(【0012】)との記載によれば、本件特許発明は、実質的に、アルコール(エタノール)濃度を1%(v/v)未満に特定しているといえる。 (2) 申立理由3-1(EBC色度について) しかしながら、本件特許の明細書において具体的に開示された非アルコールビールテイスト飲料、すなわち、実施例1で製造された飲料サンプルのEBC色度は、本件特許の明細書に記載されていない。つまり、EBC色度について、本件特許発明を裏付ける実施例が存在しない。また、本件特許の明細書において、上記課題に対してEBC色度がどのような影響を及ぼすのかも説明されていない。 したがって、当業者は本件特許発明において特定されているEBC色度の全範囲において、上記の課題を解決できることを認識できない。 (3) 申立理由3-2(アルコール濃度等) また、当業者は、アルコール(エタノール)濃度が0.001v/v%を超え、1v/v%未満である場合に、上記課題を解決できることを認識できない。実施例1では、麦芽及びホップを使用した麦汁発酵液(発酵麦芽飲料)に対してアルコール除去処理を行うことによって得られた1種類の脱アルコール麦汁発酵液をベース飲料サンプルとして使用し、このベース飲料サンプルに対して、2,5-ジメチルピラジン等の化合物を添加することによって飲料サンプルを製造し、その官能評価を行っている(【0043】~【0053】)。ここで、唯一のベース飲料サンプルのアルコール濃度は、0.001v/v%であるため、ベース飲料サンプルから得られた飲料サンプルのアルコール濃度は0.001v/v%程度であると考えられる。香味の問題が低いアルコール濃度に起因すること(【0002】、【0012】)を考慮すると、実施例1のようにアルコール濃度が0.001v/v%程度であれば、上記課題に関連する香味(例えば、後味の酸味、後味の刺激感、味の厚み、煮出した麦茶様の異臭、蒸した芋様の異臭)の問題が考えられる。しかしながら、このような香味の問題が、アルコール濃度が0.001v/v%を超え、1v/v%未満である場合にも生じるのかは明らかではなく、このようなアルコール濃度の場合に、2,5-ジメチルピラジン等の化合物を添加することによって実施例1と同様の効果を得ることができるかも明らかではない。 アルコール(エタノール)濃度に限らず、飲料サンプルに含まれる成分は、飲料サンプルの香味を大きく左右し、その成分は、ベース飲料サンプル(脱アルコール麦汁発酵液)に添加される2,5-ジメチルピラジン等の化合物だけでなく、ベース飲料サンプルに由来の成分によって変わることは、当業者であれば容易に認識し得る。ベース飲料サンプルは、発酵等の様々な工程を経て製造されているため、多種多様な成分を当然に含んでおり、ベース飲料サンプルの製造過程で、麦汁発酵液からアルコール及び揮発成分を除去しても、少なくとも不揮発性成分(いわゆる、エキス)は残存し、最終的に飲料サンプルに含まれ得る。このため、実施例1では、特定の手順で得られた1種類のベース飲料サンプルに対して2,5-ジメチルピラジン等の化合物を添加して効果を確認しているが、この効果は、その唯一のベース飲料サンプルに由来の成分の存在を前提としたものであり、ベース飲料サンプルに由来の成分が変われば効果も変わると言える。しかしながら、表2において、2,5-ジメチルピラジン、酢酸エチル及び酢酸イソアミルの含有量は示されているものの、他の化合物の含有量は示されておらず、本件特許明細書において、他の化合物の含有量が上記の課題の解決に何ら影響しないことも記載されていない。対照的に、不揮発成分がビールテイスト飲料の香味に影響を及ぼすことは技術常識であり、例えば不揮発成分の代表例である有機酸等の酸味成分が酸味に影響を及ぼすこと(甲1の[0039])、真正エキス濃度が香味に影響を及ぼすこと(甲7の【0034】、【0035】)が知られている。したがって、実施例1の結果から、本件特許発明に包含されるあらゆる非アルコールビールテイスト飲料について上記の課題を解決できることを当業者は認識できない。 4 証拠方法 ・甲第1号証:国際公開第2022/163522号 ・甲第2号証:「第XIII章 着色物質(メラノイジン)」、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、p.245-249 ・甲第3号証:特開2021-145609号公報 ・甲第4号証:「第XII章 エステル」、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、p.210-213 ・甲第5号証:「11.2. 色度」、石井努 編、ビール醸造技術、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日初版発行、p.356-357 ・甲第6号証:ニュースリリース「アルコール分0.00%のビールテイスト飲料『アサヒゼロ』 10月24日から近畿エリア先行発売 脱アルコール製法でビールらしい“革新的なうまさ”をアルコール分0.00%で実現」、アサヒビール株式会社、2023年9月29日、〔online〕、出力日:2025年5月8日、URL: https://www.asahibeer.co.jp/news/2023/0929_5.html ・甲第7号証:特開2023-110821号公報 ・甲第8号証:国際公開第2022/210104号 ・甲第9号証:国際公開第2022/210105号 なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載に従った。 第4 当審の判断 当審は、以下に検討するとおり、申立理由1ないし3のいずれの理由によっても、本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。 1 申立理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1) 甲第1号証の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「低アルコールビールテイスト飲料」に関し、次の記載がある。 「[0001] 本発明は低アルコールビールテイスト飲料に関する。「低アルコールビールテイスト飲料」とはアルコール含有量が1%(V/V)未満であるビールテイスト飲料をいう。「低アルコールビールテイスト飲料」の意味には、実質的にアルコールを含有しない、ノンアルコールビールテイスト飲料も含まれる。また、「アルコール」という文言はエタノールを意味する。」 「[0012] 本発明の目的は、酸味及び渋味が抑制され、アルコール感及び醸造由来の複雑味が増強された低アルコールビールテイスト飲料を提供することにある。」 「課題を解決するための手段 [0013] 本発明は、0.49ppm以上の酢酸エチルと、 0.83ppm以上のイソブタノールと、 0.065ppm以上の酢酸イソアミルと、 4.35ppm以上のイソアミルアルコールとを含む香気組成物を含む、低アルコールビールテイスト飲料を提供する。」 「[0021] また、本発明は、麦汁発酵液の炭酸ガス圧を0.05~0.25MPaに調整する工程; 麦汁発酵液を減圧下で噴霧することで麦汁発酵液から炭酸ガス及び香気成分を気化させる工程; 気化した香気成分を凝結させて香気組成物を得る工程; 得られた香気組成物を低アルコールビールテイスト飲料に添加する工程; を包含する、低アルコールビールテイスト飲料の製造方法を提供する。 [0022] また、本発明は、麦汁発酵液の炭酸ガス圧を0.05~0.25MPaに調整する工程; 麦汁発酵液を減圧下で噴霧することで麦汁発酵液から炭酸ガス及び香気成分を気化させる工程; 気化した香気成分を凝結させて香気組成物を得る工程; 得られた香気組成物を低アルコールビールテイスト飲料に添加する工程; を包含する、低アルコールビールテイスト飲料の酸味及び渋みを抑制し、アルコール感及び醸造由来の複雑味を増強する方法を提供する。 [0023] ある一形態においては、香気組成物が添加される前記低アルコールビールテイスト飲料が、麦汁発酵液を脱アルコール処理して得られたものである。」 「発明の効果 [0026] 本発明によれば、特定の香気成分を含有することで、酸味及び渋味が抑制され、アルコール感及び醸造由来の複雑味が増強された低アルコールビールテイスト飲料が提供される。」 「[0027]<香気組成物> 本発明において、香気組成物とは、ビールの香気成分である、酢酸エチルと、イソブタノールと、酢酸イソアミルと、イソアミルアルコールとをそれぞれ特定量で含む組成物をいう。香気組成物に含まれる香気成分の量は、低アルコールビールテイスト飲料に含有された状態における濃度として表示する。 [0028] 香気組成物の各香気成分は、ある特定量以上の含有量で組み合わされることで、前記低アルコールビールテイスト飲料の渋味及び酸味が抑制又はマスキングされ、飲用者は、ビールらしい香味を感じることができる。従って、各香気成分の含有量は、前記渋味又は酸味が抑制又はマスキングされる効果が得られる範囲に調節すれば良く、発明の課題を解決するためにその上限を規定する必要はない。 [0029] 香気成分は、人工的に化学合成したものであっても、天然物に由来するもの、例えば酵母による発酵代謝物として得られるものであってもよい。各香気成分の含有量の比率を最適化する観点から、特に酵母による発酵代謝物として得られる麦汁発酵液に由来する香気成分であることが好ましい。 [0030] 酢酸エチルは、式CH3COOC2H5で示されるエステルであり、果実臭を有する香気成分である。本発明の低アルコールビールテイスト飲料において、酢酸エチルの濃度は、低アルコールビールテイスト飲料の酸味を抑制する観点から、0.49ppm以上、好ましくは0.98ppm以上、より好ましくは1.46ppm以上である。また、酢酸エチルの濃度の上限は、例えば26ppm以下、好ましくは19ppm以下、より好ましくは14.3ppm以下である。本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。 [0031] ある一形態において、酢酸エチルの低アルコールビールテイスト飲料における濃度は、好ましくは0.49~26ppm、より好ましくは0.98~19ppm、更に好ましくは1.46~14.3ppmである。 [0032] イソブタノールは、式(CH3)2CHCH2OHで示されるアルコールであり、イソブチルアルコールとも呼ばれ、刺激的な発酵した臭いを有する香気成分である。本発明の低アルコールビールテイスト飲料において、イソブタノールの濃度は、低アルコールビールテイスト飲料の酸味を抑制する観点から、0.83ppm以上、好ましくは1.66ppm以上、より好ましくは2.48ppm以上である。また、イソブタノールの濃度の上限は、例えば120ppm以下、好ましくは90ppm以下、より好ましくは17.9ppm以下である。 [0033] ある一形態において、イソブタノールの低アルコールビールテイスト飲料における濃度は、好ましくは0.83~120ppm、より好ましくは1.66~90ppm、更に好ましくは2.48~17.9ppmである。 [0034] 酢酸イソアミルは、式CH3COO(CH2)2CH(CH3)2で示されるエステルであり、バナナ様の果実臭を有する香気成分である。本発明の低アルコールビールテイスト飲料において、酢酸イソアミルの濃度は、低アルコールビールテイスト飲料の酸味を抑制する観点から、0.065ppm以上、好ましくは0.13ppm以上、より好ましくは0.2ppm以上である。また、酢酸イソアミルの濃度の上限は、例えば1.4ppm以下、好ましくは1.0ppm以下、より好ましくは0.5ppm以下である。 [0035] ある一形態において、酢酸イソアミルの低アルコールビールテイスト飲料における濃度は、好ましくは0.065~1.4ppm、より好ましくは0.13~1.0ppm、更に好ましくは0.2~0.5ppmである。 [0036] イソアミルアルコールは、式(CH3)2CHCH2CH2OHで示されるアルコールであり、ビールの香味を甘く、重くする傾向がある。本発明の低アルコールビールテイスト飲料において、イソアミルアルコールの濃度は、低アルコールビールテイスト飲料の酸味を抑制する観点から、4.35ppm以上、好ましくは8.7ppm以上、より好ましくは13.1ppm以上である。また、イソアミルアルコールの濃度の上限は、例えば90.3ppm以下、好ましくは80ppm以下、より好ましくは60ppm以下である。 [0037] ある一形態において、イソアミルアルコールの低アルコールビールテイスト飲料における濃度は、好ましくは4.35~90.3ppm、より好ましくは8.7~80ppm、更に好ましくは13.1~60ppmである。 [0038] 尚、上記の香気成分の官能閾値は、それぞれ、酢酸エチルが21ppm又は30ppm、イソブタノールが100ppm~200ppm、酢酸イソアミルが0.6ppm又は1.2ppm及びイソアミルアルコールが70ppmである(日本醸造協会編集発行:醸造物の成分(平成11年))。ここで官能閾値とは、人間が香りを感じる最小濃度をいう。本発明で使用する香気組成物は、官能閾値以下の量で上記香気成分を含む場合においても、それらを組み合わせることによって、効果を発揮するものである。」 「[0039]<酸味成分> 酸味成分とは、低アルコールビールテイスト飲料に酸味を付与している成分である。酸味成分は、酸味が強くなり過ぎない観点から、酵母による発酵代謝物として得られるものであることが好ましい。酸味成分の具体例としては、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、DL-リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、氷酢酸、ピログルタミン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明の低アルコールビールテイスト飲料に含まれる酸味成分は、これらを組み合わせたものであっても良い。」 「[0064] <香気組成物の製造> 本発明で使用する香気組成物は、例えば、各香気成分を所定量配合することで製造することができる。また、好ましい一形態において、香気組成物は、前記麦汁発酵液から香気成分を気化させ、これを回収して、製造することができる。 [0065] 麦汁発酵液から香気成分を気化させる方法としては、例えば、麦汁発酵液の炭酸ガス圧を0.05~0.25MPaに調整し、この麦汁発酵液を減圧下で噴霧する方法が挙げられる。麦汁発酵液の噴霧前の炭酸ガス圧を前記範囲に調整することで、各香気成分の含有量の比率が最適化される。前記炭酸ガス圧は、好ましくは0.05~0.2MPaに、より好ましくは0.15~0.2MPaに調整する。 [0066] 麦汁発酵液を噴霧する際の周囲圧力は、好ましくは50~200mbar、より好ましくは70~150mbar、さらに好ましくは80~100mbarである。前記周囲圧力を前記範囲に調整することで、香気成分の気化効率が向上する。麦汁発酵液の噴霧は、例えば、内部圧力を前記範囲に調整したタンク内等で行うことができる。 [0067] 噴霧する際の麦汁発酵液の温度は、40~70℃、好ましくは47~68℃、より好ましくは55~65℃である。噴霧する際の麦汁発酵液の温度を前記範囲に調整することで、各香気成分を効率良く気化させることができる。 [0068] 気化した香気成分を回収する方法としては、常法に従って冷却することで、香気成分のガスを凝結させる方法が挙げられる。凝結した液は前記特定の香気成分を特定の量で含有する香気組成物である。得られた香気組成物は、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、及び酢酸β-フェネチルなどの通常のビールに含まれる香気成分を含有してもよい。」 「[0069]<低アルコールビールテイスト飲料の製造> 本発明の低アルコールビールテイスト飲料は、前記香気組成物を低アルコールビールテイスト飲料に所定量配合することで、製造することができる。香気組成物が配合される低アルコールビールテイスト飲料は、発酵過程を経て製造された発酵低アルコールビールテイスト飲料であっても、発酵過程を経ないで製造された非発酵低アルコールビールテイスト飲料であってもよい。 [0070] 好ましい一形態において、アルコール感、醸造由来の複雑味を増強する観点から、香気組成物が配合される低アルコールビールテイスト飲料は、発酵低アルコールビールテイスト飲料である。中でも、麦汁発酵液からアルコール分を蒸留除去して得られた発酵低アルコールビールテイスト飲料が好ましい。 [0071] 香味バランスを最適化する観点から、更に好ましくは、香気組成物が配合される低アルコールビールテイスト飲料は、当該香気組成物を揮発させた麦汁発酵液を脱アルコール処理して得られた、低アルコールビールテイスト飲料、すなわち脱アルコール麦汁発酵液である。」 「実施例 [0073]<実施例> [麦汁発酵液の製造] 仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行った。次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得た。この麦汁に下面発酵ビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液を得た。 [0074] [香気成分の測定] 得られた麦汁発酵液の香気成分のうち、酢酸エチル、イソブタノール、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル及び酢酸β-フェネチルを測定した。測定には、ヘッドスペースGC法を用いた。ガスクロマトグラフはGC-2010(島津製作所製)、カラムはStabilwax 30m×0.32mmID(1μmFT)を使用した。分析結果を表2に示す。 [0075] [表2] [図:0001428007000001.jpg] [0076] [酸味成分の測定] 得られた麦汁発酵液のリン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸及びピログルタミン酸は、島津有機酸分析システム(SCL-10A_VP)により、測定した。具体的には、カラムにShim-pack SCR-102H(8.0mmΦ×300mm)(2本直列接続)を用いたイオン排除クロマトグラフィーにより分離し、ポストカラムpH緩衝化電気伝導度法(CCD-10A_VP)により検出した。分析結果を表3に示す。 [0077][表3] [図:0001428007000002.jpg] [0078] [香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料の製造] 上記で得られた麦汁発酵液(液温0℃)のガス圧を0.20MPaに調整した後に、液温を熱交換器にて55~65℃に調整し、90mbar付近の減圧下で脱ガスタンク内にスプレーして、炭酸ガス及び香気成分を気化させた。気化した香気成分は、約20℃に冷却することで凝結させて、香気組成物を得た。 [0079] 香気成分を気化させた麦汁発酵液を、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を取り除いた。その後、前記香気組成物を、脱アルコールされた麦汁発酵液に戻して、香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を製造した。得られた香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を試料1とした。試料1のアルコール度数は1%未満であった。 [0080] 試料1の香気成分の分析結果を表4に、酸味成分の分析結果を表5に、それぞれ示した。表5における酸味度は、表1の値を用いて計算した。 [0081][表4] [図:0001428007000003.jpg] [0082] [表5] [図:0001428007000004.jpg] 」 「[0091]<参考例> [香気成分濃度及び種類の変更] 試料1及び試料3を、比率を変えて混合することで、香気成分の濃度が異なる低アルコールビールテイスト飲料を1L製造し、それぞれ試料4~9とした。試料4~9の酸味度は、すべて1564.4ppmであった。 [0092]<ノンアルコールビールテイスト飲料の官能評価> 前記のようにして製造したノンアルコールビールテイスト飲料を官能評価に供した。評価者は、訓練されたパネリスト6名とした。評価項目は、酸味感、渋味感、アルコール感、醸造由来の複雑味とした。 [0093] 評価方法は、試料を約4℃の液温に調温し、飲用し、その際に感じられた前記項目の官能の強さを5段階で採点した。評点は、試料1の評点を3として、やや強く感じられる場合は4、強く感じられる場合は5、やや弱く感じられる場合は2、弱く感じられる場合は1とし、最後に6名の評点の平均を算出した。ビールらしい香味の評価基準は次の通りとした。 [0094] 良「A」:酸味感、渋味感の評点の平均が2.0以下で、かつアルコール感、醸造由来の複雑味の評点の平均が4.0以上 可「B」:酸味感、渋味感の評点の平均が2.0超2.5以下で、かつアルコール感、醸造由来の複雑味の評点の平均が3.5以上4.0未満 不可「C」:酸味感、渋味感の評点の平均が2.5を超えている [0095] 試料4~9の香気成分濃度及び評価結果を表10に示した。 [0096][表10] [図:0001428007000005.jpg] [0097] 表10の官能評価結果より、最低限、試料6の香気成分濃度(酢酸エチル濃度が0.49ppm、イソブタノール濃度が0.83ppm、酢酸イソアミル濃度が0.065ppm、イソアミルアルコール濃度が4.35ppm)において、低アルコールビールテイスト飲料の酸味が抑制されることが示された。また、試料6の香気成分濃度によって、渋味が抑制され、アルコール感が増強されることが示された。」 イ 甲第1号証に記載された発明 上記アの記載、特に、参考例の試料9に着目して整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。 「仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行い、次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行い、この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸し、煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得、この麦汁に下面発酵ビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去し、タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させ、その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液を得、 上記で得られた麦汁発酵液(液温0℃)のガス圧を0.20MPaに調整した後に、液温を熱交換器にて55~65℃に調整し、90mbar付近の減圧下で脱ガスタンク内にスプレーして、炭酸ガス及び香気成分を気化させ、気化した香気成分は、約20℃に冷却することで凝結させて、香気組成物を得、 香気成分を気化させた麦汁発酵液を、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を取り除き、その後、前記香気組成物を、脱アルコールされた麦汁発酵液に戻して、香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を得、 上記香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料の割合を100%として得られた、酢酸エチル濃度が1.95ppm、酢酸イソアミル濃度が0.26ppm、アルコール度数が1%未満の低アルコールビールテイスト飲料。」(以下、「甲1飲料発明」という。) 「仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行い、次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行い、この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸し、煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得、この麦汁に下面発酵ビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去し、タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させ、その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液を得、 上記で得られた麦汁発酵液(液温0℃)のガス圧を0.20MPaに調整した後に、液温を熱交換器にて55~65℃に調整し、90mbar付近の減圧下で脱ガスタンク内にスプレーして、炭酸ガス及び香気成分を気化させ、気化した香気成分は、約20℃に冷却することで凝結させて、香気組成物を得、 香気成分を気化させた麦汁発酵液を、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を取り除き、その後、前記香気組成物を、脱アルコールされた麦汁発酵液に戻して、香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を得、 上記香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料の割合を100%として製造される、酢酸エチル濃度が1.95ppm、酢酸イソアミル濃度が0.26ppm、アルコール度数が1%未満の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。) 「仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行い、次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行い、この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸し、煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得、この麦汁に下面発酵ビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去し、タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させ、その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液を得、 上記で得られた麦汁発酵液(液温0℃)のガス圧を0.20MPaに調整した後に、液温を熱交換器にて55~65℃に調整し、90mbar付近の減圧下で脱ガスタンク内にスプレーして、炭酸ガス及び香気成分を気化させ、気化した香気成分は、約20℃に冷却することで凝結させて、香気組成物を得、 香気成分を気化させた麦汁発酵液を、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を取り除き、その後、前記香気組成物を、脱アルコールされた麦汁発酵液に戻して、香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を得、 上記香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料の割合を100%として調製する、酢酸エチル濃度が1.95ppm、酢酸イソアミル濃度が0.26ppm、アルコール度数が1%未満の低アルコールビールテイスト飲料の酸味感及び渋味感を抑制し、アルコール感、醸造由来の複雑味、ビールらしい香味を増強する方法。」(以下、「甲1方法発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1飲料発明とを対比する。 甲1飲料発明の「低アルコールビールテイスト飲料」はアルコール度数が1%未満であるところ、本件特許発明1における「非アルコールビールテイスト飲料」とは、「アルコール(エタノール)濃度が1%(v/v)未満のビールテイスト飲料を意味する」(【0012】)から、甲1飲料発明の「低アルコールビールテイスト飲料」は、本件特許発明1の「非アルコールビールテイスト飲料」に相当する。 してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「非アルコールビールテイスト飲料。」 (相違点) ・相違点1 本件特許発明1は「2,5-ジメチルピラジンの含有量が0.1~3.5ppbであり、」と特定するのに対し、甲1飲料発明にはそのような特定がない点。 ・相違点2 本件特許発明1は「EBC色度が8.5EBC以下である、」と特定するのに対し、甲1飲料発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1飲料発明における色度が「EBC色度が8.5EBC以下」であることを伺わせる記載はないから、相違点2は実質的にも相違点である。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1飲料発明ではない。 また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1飲料発明において、色度に着目し、EBC色度を8.5EBC以下と小さくする動機付けもない。 よって、甲1飲料発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) 特許異議申立人は、特許異議申立書において、EBC色度を8.5以下に調整することは周知技術であり、日本でも一般的な淡色ピルスナービールのように5.3~7.5EBCのEBC色度を有するビールが知られている(甲第3号証、甲第5号証)とし、甲第1号証に記載された低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、甲第5号証に記載されているようなEBC色度を大きくするための特別な処理を行ったものでもないことからすると、甲第1号証に記載された発明におけるEBC色度は、8.5EBC以下である蓋然性が高いものであり、そうではないとしても、8.5EBC以下に調整することは当業者が容易になし得ることである旨主張する(特許異議申立書第30頁ないし第31頁)。 しかしながら、ビールテイスト飲料における色度は、色度を大きくするための特別な処理の有無以外にも、甲第5号証(第356頁)に「麦芽の品質、溶け、アプダルによる」と記載されているように、原料や他の条件にも影響されるものである。してみると、甲第3号証のピルスナータイプの市販のビールや甲第5号証のドイツの淡色ピルスナービールのEBC色度が5.3~7.5であったとしても、甲1飲料発明の「低アルコールビールテイスト飲料」の色度がこれらのピルスナービールのEBC色度と同程度であると推認する理由はなく、甲1飲料発明におけるEBC色度が、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高いということはできない。 また、甲1飲料発明において、EBC色度に着目し調整する動機付けがないことは上記検討のとおりであるから、特許異議申立人の当該主張は採用することができない。 イ 本件特許発明2ないし5について 本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1飲料発明ではなく、甲1飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2は、甲1飲料発明ではなく、また、本件特許発明2ないし5は、甲1飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 本件特許発明6について 本件特許発明6と甲1製法発明とを対比する。 本件特許発明6における「2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程」は、「製造時の各種条件(例えば、仕込み工程、糖化工程、発酵工程などにおける条件)を調整することにより行ってもよい」(【0017】)ものである。 この点を踏まえると、本件特許発明6と甲1製法発明は、上記アと同様の相当関係がいえるので、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法。」 (相違点) ・相違点3 本件特許発明6は「前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。 ・相違点4 本件特許発明6は「前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点4について検討する。 相違点4は、上記相違点2と同旨であり、上記アのとおり判断される。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件特許発明7について 本件特許発明7は、本件特許発明6の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記ウのとおり、本件特許発明6は、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明7もまた、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件特許発明8ないし12について (ア) 本件特許発明8について 本件特許発明8と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明の「酸味感及び渋味感を抑制し、アルコール感、醸造由来の複雑味、ビールらしい香味を増強する方法」は、本件特許発明8の「煮出した麦茶様の異臭を低減する方法」と、「香味を改善する方法」であるとの限りにおいて一致するものといえる。また、その余の点は、上記アと同様の相当関係がいえるから、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「非アルコールビールテイスト飲料における香味を改善する方法。」 (相違点) ・相違点5 本件特許発明8は「蒸した芋様の異臭を低減する方法」と特定するのに対し、甲1方法発明は「酸味感及び渋味感を抑制し、アルコール感、醸造由来の複雑味、ビールらしい香味を増強する方法」である点。 ・相違点6 本件特許発明8は「前記非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量を0.1~3.5ppbに調整する工程を含んでなり、」と特定するのに対し、甲1方法発明にはそのような特定がない点。 ・相違点7 本件特許発明8は「前記非アルコールビールテイスト飲料のEBC色度が8.5EBC以下である、」と特定するのに対し、甲1方法発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点7について検討する。 相違点7は、上記相違点2と同旨であり、上記アのとおり判断される。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ) 本件特許発明9ないし12について 本件特許発明9ないし12についても、上記(ア)と同様に判断される。 したがって、本件特許発明9ないし12は、いずれも、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 本件特許発明13について 本件特許発明13は、本件特許発明8ないし12のそれぞれの発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記オのとおり、本件特許発明8ないし12はいずれも、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明13もまた、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3) 申立理由1及び2についてのまとめ 上記(2)のとおりであるから、申立理由1及び2では、本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由3(サポート要件)について (1) サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2) 特許請求の範囲の記載 上記第2のとおりである。 (3) サポート要件についての判断 本件特許発明1ないし7、9及び13が解決しようとする課題は、「蒸した芋様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料およびその製造方法を提供する」(【0007】)であり、本件特許発明8及び13が解決しようとする課題は、非アルコールビールテイスト飲料において「煮出した麦茶様の異臭の低減効果」を得ること(【0009】)、本件特許発明10及び13が解決しようとする課題は、非アルコールビールテイスト飲料において「後味の酸味の低減効果」を得ること(【0009】)、本件特許発明11及び13が解決しようとする課題は、非アルコールビールテイスト飲料において「後味の刺激感の低減効果」を得ること(【0009】)、本件特許発明12及び13が解決しようとする課題は、非アルコールビールテイスト飲料において「味の厚みの増強効果」を得ること(【0009】)である(以上の課題を総称して、以下、「発明の課題」という。) そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、上記の問題について検討したところ、2,5-ジメチルピラジンの濃度を調整することにより、非アルコールビールテイスト飲料における蒸した芋様の異臭を低減できることを見出した」(【0006】)との記載、「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における蒸した芋様の異臭を低減することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料において、煮出した麦茶様の異臭の低減効果、後味の酸味の低減効果、後味の刺激感の低減効果、味の厚みの増強効果、および味のバランスの改善効果を得ることも可能である」(【0009】)との記載、「本発明の非アルコールビールテイスト飲料における2,5-ジメチルピラジンの含有量の下限値は0.1ppbとされ」(【0018】)るとの記載があり、具体的な実施例を通じて、2,5-ジメチルピラジンの添加割合と、「煮出した麦茶様の異臭」、「蒸した芋様の異臭」、「後味の酸味」、「後味の刺激感」、「味の厚み」への影響を具体的に検討したことも記載されている。 これらの記載に接した当業者であれば、非アルコールビールテイスト飲料において、「2,5-ジメチルピラジンを0.1ppb以上」含有させるとの特定事項を満たすことで、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし13はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。 (4) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において上記第3の3(2)及び(3)の理由を主張するので、以下、検討する。 ア 申立理由3-1(EBC色度について) 特許異議申立人は、発明の課題に対してEBC色度がどのような影響を及ぼすのかも説明されておらず、当業者は本件特許発明において特定されているEBC色度の全範囲において、発明の課題を解決できることを認識できない旨主張する。 しかしながら、上記(3)の検討のとおり、発明の課題は、非アルコールビールテイスト飲料において「2,5-ジメチルピラジンを0.1ppb以上」含有させることにより解決できると認識できるものであり、EBC色度は発明の課題における解決手段とは関係がない。 よって、特許異議申立人の当該主張は採用しない。 イ 申立理由3-2(アルコール濃度等) 特許異議申立人は、要するに、実施例で具体的に検討されているのは、特定のアルコール濃度、特定の成分組成を有する非アルコールビールテイスト飲料における、2,5-ジメチルピラジン添加の効果であって、当該実施例とは異なる条件・成分組成を有する非アルコールビールテイスト飲料全体にまで、その効果を拡張・一般化できないというものである。 しかしながら、上記(3)の検討のとおり、非アルコールビールテイスト飲料において、2,5-ジメチルピラジンを添加することによる効果が確認されているものであり、同じ条件であれば、2,5-ジメチルピラジンを添加すれば、添加されていないものに比して、定性的な効果の発現が予想されるものといえる。 そして、特許異議申立人は、本件特許発明1ないし13に係る発明において、具体的に発明の課題を解決できないことを示す証拠を提出し主張するものでもないから、特許異議申立人の当該主張も採用することができない。 (5) 申立理由3についてのまとめ 上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由3では、本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 第5 結語 以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700509

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    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2024-700938異議申立 / 2026-05-08 / 訂正認容果汁含有飲料
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2025-700697異議申立 / 2026-04-06 / 訂正認容調味組成物
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2022-701125異議申立 / 2026-03-23 / 訂正認容果皮エキスおよびその製造方法
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L

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