2024-701202
食品用包装フィルムおよび食品用包装体
- 審判番号
- 2024-701202
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-101440外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7502830
- 請求日
- 2024年12月16日
- 審決日
- 2025年03月03日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アールエム東セロ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【権利者代理人】天城 聡
- 【権利者代理人】萩原 京平
- 【異議申立人】平居 博美
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 手続の経緯
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特許第7502830号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成30年7月6日に出願された特願2018-129156号の一部を令和5年6月21日に新たな特許出願(特願2023-101440号)としたものであって、令和6年6月11日にその特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月16日に特許異議申立人 平居 博美(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし16)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】食品を包装するためのフィルムであって、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、続きを表示(全56行)昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、を続けて行ったとき、前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下であって、前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下である食品用包装フィルム。【請求項2】請求項1に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、150℃以上165℃以下の範囲に吸熱ピークBおよび165℃超え180℃以下の範囲に吸熱ピークCがそれぞれ観察される食品用包装フィルム。【請求項3】請求項2に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記吸熱ピークBのピーク高さBに対する前記吸熱ピークCのピーク高さCの比(C/B)が1.0以上3.0以下である食品用包装フィルム。【請求項4】請求項1乃至3のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、100℃以上130℃以下の範囲に発熱ピークDが観察される食品用包装フィルム。【請求項5】請求項4に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記発熱ピークDの半値幅が2.0℃以上6.0℃以下である食品用包装フィルム。【請求項6】請求項1乃至5のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値(T1+T2)が5000MPa以上10000MPa以下である食品用包装フィルム。【請求項7】請求項1乃至6のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記二軸延伸フィルム層の少なくとも一方の面上にヒートシール層をさらに備える食品用包装フィルム。【請求項8】請求項7に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記ヒートシール層は前記二軸延伸フィルム層の前記一方の面に直接接するように設けられている食品用包装フィルム。【請求項9】請求項7または8に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記ヒートシール層がホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。【請求項10】請求項1乃至9のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記二軸延伸フィルム層の一方の面上に表面層をさらに備える食品用包装フィルム。【請求項11】請求項10に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記表面層はアンチブロッキング剤を含む食品用包装フィルム。【請求項12】請求項10または11に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記表面層はホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。【請求項13】請求項1乃至12のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、前記二軸延伸フィルム層に含まれる粘着付与剤の含有量が、前記二軸延伸フィルム層の全体を100質量%としたとき、10質量%以下である食品用包装フィルム。【請求項14】請求項1乃至13のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、下記の方法で測定される水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)以下である食品用包装フィルム。(測定方法)前記食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にする。その後、内容物として塩化カルシウムを入れる。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製する。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管する。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出する。【請求項15】請求項1乃至14のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、外装包装袋に用いられる食品用包装フィルム。【請求項16】請求項1乃至15のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムを用いた食品用包装体。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
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令和6年12月16日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1及び6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし16は、甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1は、「前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、
昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、
昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、
を続けて行ったとき、
前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、
前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下であ」ることを特定するものである。
本願実施例1~7は、本件特許明細書表1に示される様に、吸熱ピークA161~164℃、吸熱ピークA熱量95J/g~115J/gを示し、本件特許発明1の吸熱ピークA150℃以上180℃以下、吸熱ピークA熱量95J/g以上120J/g以下を満たす。
そうすると、本願実施例1~7は本件特許発明1の要件を満たしているが、本願実施例1~7以外の全てについて、サポートされていることは記載されておらず、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許発明1は、サポート要件を満たしていない。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16も同様にサポート要件を満たしていない。
3 証拠方法
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「ポリオレフィン組成物およびポリオレフィン延伸フィルムとその製法」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。
・「背景技術
[0002] ポリプロピレン延伸フィルムは、安価で透明性や表面光沢、耐熱性、機械物性(たとえば、剛性(いわゆるフィルムの“腰”)、強度、耐衝撃性)に優れているため食品用途や工業用途などの各種の包装向け材料やコンデンサーやキャパシターなどの電気材料等に用いられており、その需要は急速に高まっている。このようなポリプロピレン延伸フィルムの一般的な製法は、チューブラー方式による同時二軸延伸法や、加熱ロールとテンターを用いる逐次二軸延伸法(テンター方式)などである。更に、テンター方式では、フィルムの機械方向(MD:Machine Direction、「流れ方向」ともいう)と機械方向に対して垂直方向(TD:Transverse Direction、「横方向」ともいう)の延伸倍率が、通常5~12倍で行われている。また、このときの延伸速度は、通常200~525m/minで行われるのが一般的である。」
・「発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は上記事情に鑑みなされたもので、従来のポリプロピレン原料に比べ、延伸可能温度幅がより低温領域に拡大し、かつ、延伸後の力学特性及び光学特性が優れる、ポリプロピレン樹脂組成物およびポリプロピレン延伸フィルムとその製法を提供することを目的とするものである。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン組成物中に、融解吸熱量が相対的に低い特定の構造を有するオレフィン系重合体(A)を少量配合することで、上記目的が達成されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。」
・「発明の効果
[0009] 本発明によれば、従来のポリプロピレン原料に比べ、延伸可能温度幅がより低温領域に拡大し、かつ、延伸後の力学特性及び光学特性が優れるポリプロピレン樹脂組成物が提供される。また、このポリプロピレン樹脂組成物を延伸して得られるポリプロピレン延伸フィルム及びその製造方法は、従来よりも低温領域で延伸した場合であっても、従来に比べ、フィルムの力学特性(特に、弾性率、耐破断)及び光学特性(特に、透明性、光沢)に優れる。」
・「[0040] また、本発明の延伸フィルム用ポリオレフィン組成物は、延伸フィルムの製造方法の他に、延伸過程を有する成形方法、特に一旦固化した後に再加熱されて延伸されるいずれの成形方法(押出し加工ブロー成形や射出ブロー成形を含むブロー成形、熱成形等)のいずれにも有益な効果を発現することが推測される。例えば、ボトルを成形する際に用いられるブロー成形で、本発明の延伸フィルム用ポリオレフィン組成物を用いた場合、優れた延伸性によってボトル肉厚のムラ(ばらつき)が少なく、均一であることから、ボトル強度等の品質ムラの低下も抑制し、透明性も向上するため、ポリエチレンテレフタラート(PET)ボトルに代わる、ポリプロピレン系射出延伸ブローボトルへの適用も可能である。」
・「[0044] 本発明のポリオレフィン延伸フィルムは、特に限定されるものではないが、例えば食品用途や工業用途などの包装材料、コンデンサーやキャパシターなどの電気材料、繊維、文具、プラスチック部品、種々の再利用可能な容器、実験器具、スピーカーコーン、自動車部品、紙幣など幅広い用途に使用することができる。」
・「[0048] 製造例1と製造例2で得られた、プロピレン系重合体(A’-1)、(A’-2)について、以下の測定を行った。測定結果を表1に示す。
[0049]〔DSC測定〕
示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから得られる融解吸熱量を、融解吸熱量ΔH-Dとして求めた。また、得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップから融点(Tm-D)を求めた。
図1にDSC測定から観測される融解吸熱量と温度のグラフの例を示す。
融解吸熱量ΔH-Dは、図1に示されているように熱量変化の無い低温側の点と熱量変化の無い高温側の点を結んだ線をベースラインとして、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用いた、DSC測定により得られた融解吸熱カーブのピークを含むライン部分と当該ベースラインとで囲まれる面積を求めることで算出される。」
・「[0057]実施例1
製造例1のプロピレン系重合体(A’-1)3質量%とプロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)97質量%とからなる樹脂組成物のドライブレンド物をサーモ・プラスティックス工業製50φmmシート成形機によって250℃で押出しながら、1000μm厚の単層フィルムを作製した。このとき、冷却ロールの温度は50℃であった。得られた単層フィルムのシートを岩本製作所製ロール延伸機により、延伸温度:152℃及び縦延伸倍率:5倍の条件で機械方向に延伸(MD、縦延伸)し、次いで、岩本製作所製のテーブルテンターにより、延伸温度:164、165、166、167、168、169℃で、それぞれ機械方向に対して垂直方向(TD、横延伸)に延伸してフィルムを作製することとし、かつ、それぞれの横延伸時の、予熱時間:68秒、延伸速度:6500%/分、延伸倍率:9.5倍の条件で横延伸温度の異なる、厚さ21μmの二軸延伸フィルムを作製した。フィルムの延伸性の評価は、同一条件で3回以上の延伸を行い、破断および延伸ムラのみられなかった場合を成功として、全延伸回数の内の成功回数の割合で評価した。評価基準は、Aが延伸成功確率75%以上、Bが延伸成功確率75%未満で25%以上、Cが延伸成功確率25%未満又は延伸不可を意味する。また、延伸不可は、破断ないし外観での厚みムラや引き残しが確認された場合が該当する。結果を表2に示す。
なお、フィルムの厚みは、厚み分布計(Marl社製、「MillimarC1216」)で測定した。測定範囲は、フィルムのMD方向に5cm間隔で2点、TD方向に5cm間隔で4点を測定した。得られた測定値から平均値を算出した値をフィルム厚みとした。」
・「[0066]比較例1
プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物を、実施例1と同様の方法で延伸フィルムを成形し、フィルムの延伸性を評価した。結果を表2に示す。
[0067]比較例2
プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物を、縦延伸温度を147℃とした以外は実施例1と同様の方法で延伸フィルムを成形し、フィルムの延伸性を評価した。結果を表2に示す。
[0068]比較例3
プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物を、縦延伸倍率を5.5倍とした以外は実施例1と同様の方法で延伸フィルムを成形し、フィルムの延伸性を評価した。結果を表2に示す。
[0069]比較例4
プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物を、縦延伸倍率を6倍とした以外は実施例1と同様の方法で延伸フィルムを成形し、フィルムの延伸性を評価した。結果を表2に示す。」
・「[0070][表2]
[図:0001421399000001.jpg]
」
・「[0085]比較例5
比較例1の横延伸温度が168℃で成形したフィルムサンプルについて、延伸性の指標として降伏応力を、フィルム物性値として弾性率、破断強度、破断伸度、ヘイズ、グロスを評価した。結果を表3に示す。
[0086]比較例6
比較例1の横延伸温度が166℃で成形したフィルムサンプルについて、延伸性の指標として降伏応力を、フィルム物性値として弾性率、破断強度、破断伸度、ヘイズ、グロスを評価した。結果を表3に示す。
[0087]比較例7
比較例5の樹脂の替わりにプライムポリマー(株)製のF-300SP(融点:163℃、引張弾性率:1700MPa、立体規則性[mmmm]:90%、融解吸熱量(ΔH-D):86J/g)のみを用いた以外は実施例1と同様の方法で延伸フィルムを成形し、横延伸温度が165℃で成形したフィルムサンプルについて、延伸性の指標として降伏応力を、フィルム物性値として弾性率、破断強度、破断伸度、ヘイズ、グロスを評価した。結果を表3に示す。」
・「[0094]
[表3]
[図:0001421399000002.jpg]
」
・「産業上の利用可能性
[0106] 本発明の延伸フィルム用ポリオレフィン組成物は、より低温領域における延伸が可能であり、かつ、延伸後の力学特性及び光学特性に優れることから、食品用途や工業用途などの包装材料、コンデンサーやキャパシターなどの電気材料、繊維、文具、プラスチック部品、種々の再利用可能な容器、実験器具、スピーカーコーン、自動車部品、紙幣など幅広い用途に使用することができる。」
・「
[図:0001421399000003.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に比較例1ないし6(なお、比較例5及び6は比較例1に含まれる。)に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1比較例1発明」のようにいう。)が記載されていると認める。
<甲1比較例1発明>
「プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物をサーモ・プラスティックス工業製50φmmシート成形機によって250℃で押出しながら、1000μm厚の単層フィルムを作製し、このとき、冷却ロールの温度は50℃であり、得られた単層フィルムのシートを岩本製作所製ロール延伸機により、延伸温度:152℃及び縦延伸倍率:5倍の条件で機械方向に延伸(MD、縦延伸)し、次いで、岩本製作所製のテーブルテンターにより、延伸温度:164、165、166、167、168又は169℃で、それぞれ機械方向に対して垂直方向(TD、横延伸)に延伸してフィルムを作製することとし、かつ、それぞれの横延伸時の、予熱時間:68秒、延伸速度:6500%/分、延伸倍率:9.5倍の条件で作成した横延伸温度の異なる、厚さ21μmの二軸延伸フィルム。」
<甲1比較例2発明>
「プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物をサーモ・プラスティックス工業製50φmmシート成形機によって250℃で押出しながら、1000μm厚の単層フィルムを作製し、このとき、冷却ロールの温度は50℃であり、得られた単層フィルムのシートを岩本製作所製ロール延伸機により、延伸温度:147℃及び縦延伸倍率:5倍の条件で機械方向に延伸(MD、縦延伸)し、次いで、岩本製作所製のテーブルテンターにより、延伸温度:164、165、166、167、168又は169℃で、それぞれ機械方向に対して垂直方向(TD、横延伸)に延伸してフィルムを作製することとし、かつ、それぞれの横延伸時の、予熱時間:68秒、延伸速度:6500%/分、延伸倍率:9.5倍の条件で作成した横延伸温度の異なる、厚さ21μmの二軸延伸フィルム。」
<甲1比較例3発明>
「プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物をサーモ・プラスティックス工業製50φmmシート成形機によって250℃で押出しながら、1000μm厚の単層フィルムを作製し、このとき、冷却ロールの温度は50℃であり、得られた単層フィルムのシートを岩本製作所製ロール延伸機により、延伸温度:152℃及び縦延伸倍率:5.5倍の条件で機械方向に延伸(MD、縦延伸)し、次いで、岩本製作所製のテーブルテンターにより、延伸温度:164、165、166、167、168又は169℃で、それぞれ機械方向に対して垂直方向(TD、横延伸)に延伸してフィルムを作製することとし、かつ、それぞれの横延伸時の、予熱時間:68秒、延伸速度:6500%/分、延伸倍率:9.5倍の条件で作成した横延伸温度の異なる、厚さ21μmの二軸延伸フィルム。」
<甲1比較例4発明>
「プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物をサーモ・プラスティックス工業製50φmmシート成形機によって250℃で押出しながら、1000μm厚の単層フィルムを作製し、このとき、冷却ロールの温度は50℃であり、得られた単層フィルムのシートを岩本製作所製ロール延伸機により、延伸温度:152℃及び縦延伸倍率:6倍の条件で機械方向に延伸(MD、縦延伸)し、次いで、岩本製作所製のテーブルテンターにより、延伸温度:164、165、166、167、168又は169℃で、それぞれ機械方向に対して垂直方向(TD、横延伸)に延伸してフィルムを作製することとし、かつ、それぞれの横延伸時の、予熱時間:68秒、延伸速度:6500%/分、延伸倍率:9.5倍の条件で作成した横延伸温度の異なる、厚さ21μmの二軸延伸フィルム。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1比較例1発明を対比する。
甲1比較例1発明における「二軸延伸フィルム」は本件特許発明1における「食品を包装するためのフィルム」及び「食品用包装フィルム」と、「フィルム」という限りにおいて一致する。
甲1比較例1発明における「二軸延伸フィルム」は「プロピレン系重合体(B’)(PP、プライムポリマー(株)製、F133A、融点:168℃、引張弾性率:2000MPa、立体規則性[mmmm]:97%、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g)のみからなる樹脂組成物」から作製した「単層フィルム」を「二軸延伸」したものであるから、甲1比較例1発明は本件特許発明1における「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、
前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下である」という発明特定事項を有する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下であるフィルム。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
「フィルム」に関して、本件特許発明1においては「食品を包装するためのフィルムであって」「食品用包装フィルム」と特定されているのに対し、甲1比較例1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1においては「前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、
昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、
昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、
を続けて行ったとき、
前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、
前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下であって」と特定されているのに対し、甲1比較例1発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1には、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項に関する記載は何らなく、また、甲1比較例1発明が相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有している蓋然性が高いともいえないことから、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1比較例1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1比較例1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0012】)という効果は、甲1比較例1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次の主張(以下、順に「主張1」のようにいう。)をしている。なお、摘記に際し、空白行等は適宜省略した。
(ア)主張1
「これらの記載事項(特に比較例1~6の記載事項)を整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。<甲1発明>「(A)食品を包装するためのフィルムであって、(B)プロピレン系重合体続きを表示(全11行)(C)を含む二軸延伸フィルム層を備え、(D’)試料に対して、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で60℃から200℃まで昇温する過程を有する一回目の示差走査熱量測定(lstRun)を行ったとき、(D1’)前記一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、168℃に吸熱ピークが観察され、(D2’)前記吸熱ピークの熱量が97J/gであって、(C-a)前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、(E)前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、100質量%である(A)食品用包装フィルム。」」(特許異議申立書第27ページ)
(イ)主張2
「したがって、甲1発明と本件特許発明1は以下の点で一致する。「(A)食品を包装するためのフィルムであって、(B)プロピレン系重合体(C)を含む二軸延伸フィルム層を備え、続きを表示(全14行)(C-a)前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、(E)前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、100質量%である(A)食品用包装フィルム」これに対し、甲1発明と本件特許発明1は、以下の要件(D)、(D1)、及び(D2)の点で外見上相違する。要件(D)は、要件(D1)の吸熱ピーク及び要件(D2)の吸熱ピークの熱量を示差走査熱量計で測定するための条件である。相違点1:本件特許発明1は、「二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、を続けて行」なうものであるが(要件(D))、甲1発明は、一回目の示差走査熱量測定を行うものの、二回目の示差走査熱量測定を行っていない点(要件(D’))。相違点2:本件特許発明1は、「二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され」るものであるのに対し(要件(D1))、甲1発明は、一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、168℃に吸熱ピークが観察される点(要件(D1’))。ここで、甲第1号証段落0049の融解吸熱カーブのピークは、本件特許明細書の吸熱ピークに相当する。相違点3:本件特許発明1は、二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、「前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下であ」るのに対し(要件(D2))、甲1発明は、一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、前記吸熱ピークの熱量が97J/gである点(要件(D2’))。ここで、甲第1号証段落0049の融解吸熱量は、本件特許明細書の吸熱ピークの熱量に相当する。」(特許異議申立書第37及び38ページ)
(ウ)主張3
「これらの相違点1~3について検討すると、本件特許明細書表1に記載される、示差走査熱量測定の1回目(1st-heating)の吸熱ピーク及び融解熱量と、示差走査熱量測定の2回目(2nd-heating)の吸熱ピーク及び融解熱量とに基づいて、これらの間で一定の関係性が読み取れることから、この関係性に甲1発明の融点(吸熱ピーク)及び融解吸熱量を当てはめると、甲1発明は、本件特許発明1の示差走査熱量測定の2回目の吸熱ピーク(要件(D1))及び吸熱ピークの熱量(要件(D2))を記載しているといえる。以下、この点について説明する。・・・(略)・・・従って、甲1発明は、要件(A)、(B)、(C)、(C’)、(D1)、(D2)、(E)の点で本件特許発明1と一致しており、要件(D)の示差走査熱量測定条件で相違するとしても物(フィルム)として同一であることから、甲1発明は、本件特許発明1を記載しているといえる。仮に本件特許発明1が甲1発明と相違するとしても、当業者は、甲1発明、甲第1号証の記載及び出願時の技術常識に基づいて、示差走査熱量の測定において、試料の種類、1st-heating、1St-Cooling、2nd-heating等を適宜選択できることから、また、フィルムの物性を好適化するために、プロピレン系重合体の吸熱ピーク、融解熱量、種類等を調節できることから、本件特許発明1に想到することは容易である。」(特許異議申立書第38ないし41ページ)
(エ)主張4
「効果に関して、本件特許発明1は、厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供することができるという効果を奏するところ(段落0012)、甲1発明は、延伸後の力学特性及び光学特性が優れるポリプロピレン樹脂組成物を提供するという効果を奏するものであり、甲第1号証の段落0040には、延伸フィルム用ポリオレフィン組成物を用いた場合、ボトル肉厚のムラ(ばらつき)が少なく、均一になることが記載されている。そうすると、当業者は、甲1発明及び甲第1号証の記載から、厚みムラが小さいという効果を予測できる。水蒸気バリア性についても、当業者は、延伸後の力学特性及び光学特性に優れる食品用包装フィルムを適宜調製する結果として、水蒸気バリア性の効果を予測できる。以上より、本件特許発明1の効果は、甲1発明、甲第1号証等から予測し得る範囲内のものであり、格別な作用効果を奏するものではない。」(特許異議申立書第41及び42ページ)
イ 判断
そこで、主張1ないし4について検討するに、次のとおり、いずれの主張も採用できない。
(ア)主張1について
甲1の[0044]及び[0106]に、甲1に記載されたフィルムが食品用途の包装材料に使用できることが記載されているとしても、同箇所には他の用途に使用できることも記載されていることからみて、甲1に記載されたフィルムは食品用途の包装材料に限定されるものではないし、同[0057]、[0066]ないし[0070]、[0085]ないし[0087]及び[0094]には、比較例1ないし6として記載されたフィルムが、「食品を包装するためのフィルム」であるとは記載されていない。
したがって、特許異議申立人が主張する甲1発明を直ちには認定することはできない。
(イ)主張2について
甲1の[0048]及び[0049]によると、甲1比較例1発明において、「示唆走査型熱量計」を用いた「融解吸熱量」及び「融点」の測定は、「プロピレン系重合体」に対して行っているものであって、「二軸延伸フィルム層」に対して行っているものではない。
したがって、相違点1ないし3いずれの認定も誤りである。
(ウ)主張3について
発明の詳細な説明の【0018】の「ここで、二軸延伸フィルム層101の吸熱ピークAの熱量は、例えば、二軸延伸フィルム層101に含まれるプロピレン系重合体の含有割合や延伸処理時の諸条件を調整すること等により達成できる。より具体的には、二軸延伸フィルム層101を構成するプロピレン系重合体として、融点や結晶化度、立体規則性等が異なる2種類以上のプロピレン系重合体を併用し、これらの割合を調整することや、延伸処理時の延伸倍率、延伸時の温度、熱処理の温度や時間等を適宜調整することにより調整することが可能である。」という記載によると、本件特許発明1における「吸熱ピークAの熱量」は二軸延伸フィルム層を構成するプロピレン系重合体として、融点や結晶化度、立体規則性等が異なる2種類以上のプロピレン系重合体を併用し、これらの割合を調整することや、延伸処理時の延伸倍率、延伸時の温度、熱処理の温度や時間等を適宜調整することにより調整するものであるから、仮に、特許異議申立人が主張するように「本件特許明細書表1に記載される、示差走査熱量測定の1回目(1st-heating)の吸熱ピーク及び融解熱量と、示差走査熱量測定の2回目(2nd-heating)の吸熱ピーク及び融解熱量とに基づいて、これらの間で一定の関係性が読み取れる」としても、該「一定の関係性」は、「本件特許明細書の表1」で採用されたポリプロピレン(PP1及びPP2)を、表1に示された組成で、かつ同【0082】に記載された条件で作製したフィルムにおいて成り立つものであって、そのようなものではない甲1比較例1発明において成り立つものとはいえない。
したがって、「この関係性に甲1発明の融点(吸熱ピーク)及び融解吸熱量を当てはめる」ことはできず、その結果として、「甲1発明は、本件特許発明1の示差走査熱量測定の2回目の吸熱ピーク(要件(D1))及び吸熱ピークの熱量(要件(D2))を記載している」とはいえない。
また、甲1を含めいずれの証拠にも、甲1比較例1発明において、「吸熱ピークAの熱量」に着目し、その量を調整する動機付けとなる記載はないから、「当業者は、甲1発明、甲第1号証の記載及び出願時の技術常識に基づいて、示差走査熱量の測定において、試料の種類、1st-heating、1St-Cooling、2nd-heating等を適宜選択できることから、また、フィルムの物性を好適化するために、プロピレン系重合体の吸熱ピーク、融解熱量、種類等を調節できることから、本件特許発明1に想到することは容易である。」ともいえない。
(エ)主張4について
甲1の[0040]に記載された「ボトル肉厚のムラ(ばらつき)が少なく、均一である」は、ボトルを成形した際の効果であって、延伸フィルムを成形した際の効果ではない。
また、本件特許発明1の発明特定事項を有することで、「食品用包装用フィルム」の「厚みムラ」を小さくした上で、その効果とトレードオフの関係にある「水蒸気バリア性」の向上という効果を奏することが当業者に予測できることの具体的な根拠は何ら示されていない。
したがって、「本件特許発明1の効果は、甲1発明、甲第1号証等から予測し得る範囲内のものであり、格別な作用効果を奏するものではない。」とはいえない。
(4)まとめ
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1比較例1発明であるとはいえないし、甲1比較例1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明1と甲1比較例2発明ないし甲1比較例4発明のいずれかとの対比・判断についても、同様に判断される。すなわち、本件特許発明1は甲1比較例2発明ないし甲1比較例4発明のいずれかであるとはいえないし、甲1比較例2発明ないし甲1比較例4発明のいずれか並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
以下、甲1比較例1発明ないし甲1比較例4発明を総称して「甲1発明」という。
3 本件特許発明2ないし5及び7ないし15について
本件特許発明2ないし5及び7ないし15のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 本件特許発明16について
本件特許発明16は、請求項1ないし15のいずれかを引用して特定するものであり、本件特許発明1ないし15のいずれかを用いた「食品包装体」の発明であるから、本件特許発明1ないし15のいずれも甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件特許発明16も甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
6 申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし16は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。
第5 申立理由2(サポート要件)について
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
2 サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし15の解決しようとする課題は「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルム」を提供することであり、本件特許発明16の解決しようとする課題は「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを用いた食品用包装体」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
他方、発明の詳細な説明の【0011】及び【0031】には、本件特許発明1ないし16に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0009】には「本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、示差走査熱量測定の2ndRunにおけるDSC曲線において、150℃以上180℃以下の範囲に観察される吸熱ピークAの熱量という尺度が、水蒸気バリア性向上と厚みムラ抑制のバランスを向上させるための設計指針として有効であるという知見を得た。
本発明者らは上記知見をもとにさらに鋭意検討した結果、150℃以上180℃以下の範囲に観察される吸熱ピークAの熱量が特定の範囲にある二軸延伸フィルム層を用いることによって、厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムが得られることを見出し、本発明に至った。」と記載されている。
さらに、発明の詳細な説明の【0018】には、本件特許発明1ないし16いずれもの発明特定事項である「前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、を続けて行ったとき、前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に観察される」「吸熱ピークA」(以下、「吸熱ピークA」という。)の「熱量が95J/g以上120J/g以下である」ことの技術的意義が記載されている。
さらにまた、発明の詳細な説明の【0073】ないし【0084】において、「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え」た「食品用包装フィルム」であって「吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」という条件を満たす実施例1ないし7は、そうでない比較例1ないし3と比べて、厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上していることを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えた吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である食品用包装フィルム」及び該「食品用包装フィルム」を用いた「食品用包装体」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし15は、発明の課題を解決できると認識できる上記「食品用包装フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明16は、発明の課題を解決できると認識できる上記「食品用包装体」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし16は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし16に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。
3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 2の主張について検討する。
上記主張は、本件特許発明1において特定される発明特定事項を満たしているだけでは、発明の課題を解決できないことについて、理論的な説明や具体的な証拠を伴うものではない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
4 申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第6 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701202