特許異議申立
2024-701040
ポリエステル離型フィルム
- 審判番号
- 2024-701040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-215403
- 登録番号
- 7488248
- 請求日
- 2024年10月22日
- 審決日
- 2025年09月24日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エスケーマイクロワークス株式会社
- 【権利者代理人】山下 託嗣
- 【権利者代理人】朴 沼泳
- 【権利者代理人】夫 世進
- 【異議申立人】石川 竜郎
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7488248号発明「ポリエステル離型フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7488248号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。
特許第7488248号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7488248号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和3年12月29日(パリ条約による優先権主張 2020年12月31日、2021年11月24日 いずれも韓国)を出願日とする出願であって、令和6年5月13日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月22日に特許異議申立人 石川 竜郎(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、令和7年1月23日付けで取消理由が通知され、同年4月25日に特許権者 エスケーマイクロワークス株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年5月26日付けで同年4月25日に提出された訂正請求書及び意見書について手続補正指令(方式)が通知され、同年6月12日に特許権者から上記訂正請求書及び上記意見書をそれぞれ補正する手続補正書(方式)が提出され、同年同月20日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月24日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年6月12日に提出された手続補正書(方式)により補正された同年4月25日に提出された訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)でされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の第7及び8行に「下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBを有し、」とあるところ、「下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBのみを有し、」に改める。
併せて、請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の第9行目の「下記式4を満たす、ポリエステル離型フィルム」を、「下記式4を満たし、前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である、ポリエステル離型フィルム」に改める。
併せて、請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の第12行目の「2≦A/B≦10 [式3]」について、「5≦A/B≦10 [式3]」に改める。
併せて、請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の第3行目の「前記ポリエステルフィルムのうちの少なくとも一方の表層が粒子を含み、」を、「前記ポリエステルフィルムは、コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらスキン層が粒子を含み、」に改める。
これに伴い、特許請求の範囲の請求項1の第1行目の「2層以上のポリエステルフィルムが積層され、」を、「3層以上の層が積層されて構成されるポリエステルフィルムであり、」に改める。
また、特許請求の範囲の請求項1の第6行目の「前記粒子を含むポリエステル層に含有する粒子の粒度分布を測定し、」を、「前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し、」に改める。
併せて、請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3について、「前記無機粒子は、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、カオリンおよび硫酸バリウムから選択される何れか1つまたは2つ以上の混合物である」との記載を、「前記粒子Aはシリカである」に改める。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4について、「前記無機粒子は、シリカまたは炭酸カルシウムである」との記載を、「前記粒子Bは炭酸カルシウムである」に改める。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5について、「前記無機粒子は、平均粒径が0.1~0.5μmのシリカ(A)と、平均粒径が0.6~1.0μmの炭酸カルシウム(B)であり、前記炭酸カルシウム(B)の平均粒径とシリカ(A)の平均粒径との差が0.5μm以下である」との記載を、「前記粒子Aはシリカであって、前記粒子Bは炭酸カルシウムであり、前記コア層と前記スキン層の厚さ比が60%:40%~80%:20%である」に改める。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前は「粒子AおよびB」以外の粒子を含むことを許容していたのを、「粒子AおよびB」以外の粒子を含まないことに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「スキン層の表面」の「中心線平均表面粗さRa」に関する事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項1についての訂正は、「式3」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による請求項1についての訂正は、「ポリエステルフィルム」を「3層以上の層が積層されて構成される」ものに限定した上で「コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらスキン層が粒子を含」むことに限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし4による請求項1についての訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1ないし4による請求項2についての訂正はいずれも、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし4による請求項2についての訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項1ないし4による請求項3についての訂正はいずれも、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5による請求項3についての訂正は、「無機粒子」を「粒子A」に限定した上でその材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし5による請求項3についての訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項4についての訂正について
訂正事項1ないし4による請求項4についての訂正はいずれも、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6による請求項4についての訂正は、無機粒子」を「粒子B」に限定した上でその材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし4及び6による請求項4についての訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)請求項5についての訂正について
訂正事項1ないし4による請求項5についての訂正はいずれも、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項7による請求項5についての訂正は、請求項1と重複する記載を削除した上で、「粒子A」及び「粒子B」の材質を限定し、さらに「コア層」と「スキン層」の「厚さ比」に関する事項を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし4及び7による請求項5についての訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし7による請求項1ないし5についての訂正はいずれも特許法120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし7による請求項1ないし5についての訂正はいずれも特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし5は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1ないし7による請求項1ないし5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
3層以上の層が積層されて構成されるポリエステルフィルムであり、
前記ポリエステルフィルムの表面にシリコーン離型層が形成され、
前記ポリエステルフィルムは、コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらスキン層が粒子を含み、
前記粒子は、無機粒子であり、
前記粒子の含量は、フィルムの全体重量に対して0.01~0.2重量%であり、
前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し、横に粒子直径、縦に粒子数をプロットした際、下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBのみを有し、前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし、前記粒子AおよびBの平均粒径は、下記式4を満たし、
前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である、ポリエステル離型フィルム:
0.1μm≦A≦0.5μm [式1]
0.6μm≦B≦1.0μm [式2]
5≦A/B≦10 [式3]
B-A≦0.5μm [式4]。
【請求項2】
前記離型フィルムは、総厚さが10~50μmである、請求項1に記載のポリエステル離型フィルム。
【請求項3】
前記粒子Aはシリカである、請求項1に記載のポリエステル離型フィルム。
【請求項4】
前記粒子Bは炭酸カルシウムである、請求項1に記載のポリエステル離型フィルム。
【請求項5】
前記粒子Aはシリカであって、前記粒子Bは炭酸カルシウムであり、
前記コア層と前記スキン層の厚さ比が60%:40%~80%:20%である、
請求項1に記載のポリエステル離型フィルム。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和6年10月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、判断の便宜上、当審において、新規性・進歩性については主引用文献ごとに特許異議申立ての理由を整理した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の解決しようとする課題は、明細書段落【0007】~【0008】の記載より、ロールに対する巻取性およびスリップ性に優れ、セラミックスラリーを塗布して薄膜のセラミックシートを製造する際、ピンホールの発生が少ないポリエステル離型フィルムを提供することであると認められる。
本件特許明細書中には、「本発明の発明者らは、粒径が異なる2種の無機粒子を混合して用い、これらの粒子の大きさおよび含量を特定の範囲で組み合わせて用いる場合、フィルムの表面が平坦でありながらも、後加工のハンドリングおよびフィルムの巻取性を向上させるための有効突起を含み、切削時に粉塵の発生が少ないフィルムを提供することができることを見出し、本発明を完成した。」(段落【0021】)と記載されている。
そして、実施例等において、「前記表2から分かるように、2種の粒子を用いるとしても、粒子種間の粒子の大きさの比およびバイモーダル粒度分布が本発明の範囲外である場合には、生産歩留まりが不良であることが分かった。・・・(以下、省略)」(段落【0068】)と記載される一方で、巻取り歩留まりがよく、セラミックシートを製造する際におけるピンホールの発生が少ないことが示されているのは、前記粒子Aとして平均粒径が0.3μmのシリカと前記粒子Bとして平均粒径が0.7μmの炭酸カルシウムをスキン層厚さ3.1μmの層に限られており、その他の粒子径およびスキン層厚さについて開示がなされていない。
そして、本願の課題である巻取・スリップ性やセラミックシートを製造する際のピンホールの発生特性は粒子の粒径・種類や密度(同じ粒子重量であっても粒子個数が変化しうる)やスキン層の厚み(厚みが薄い場合は粒子が過剰に飛び出して脱落しやすい、厚みが厚すぎる場合は粒子が表面に出づらい)、スキン層中における粒子量・粒径・種類(密度)にも依存するものであることが技術常識であるところ、本件特許の請求項1の各要件を満たしさえすれば、上述した本願の課題を解決できるとはいえず、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1ないし5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。よって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2003-191384号公報
甲第2号証:特開2017-217901号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和7年1月23日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由は申立理由1と同旨である。
第6 取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)についての当審の判断
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「離型フィルム用ポリエステルフィルム」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。
・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、セラミックスラリーを離型フィルム上に設置した際に、セラミックスラリー層のピンホールが高度に抑制され、かつ離型フィルム上にセラミック層を設置した際のセラミック層の厚みムラが低くなり、優れた離型性能を付与できるポリエステルフィルムを提供することにある。」
・「【0009】かかるポリエステルフィルムのRmax、SRa、単位面積あたりの突起数を前述の範囲とするには、不活性微粒子、例えばシリカ、炭酸カルシウム、カオリン、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ゼオライト等の無機粒子、またはシリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、アクリル樹脂等の有機粒子を単独または混合体でフィルム中に配合させることが好ましい。この場合、使用する粒子の平均粒径、添加量、さらに粒径分布は、本発明の要旨を逸脱しない限り、特に限定されるものではないが、平均粒径は通常0.1~4.0μm、添加量は通常0.01~3.0重量%、粒径分布はその分散が小さい方が好ましい。」
・「【0014】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の諸物性、特性は以下のように測定、または定義されたものである。実施例中、「%」は「重量%」を意味する。」
・「【0020】(6)スラリー塗工性の評価
A層の表面に、硬化型シリコーン樹脂(信越化学製「KS-779H」)100部、硬化剤(信越化学製「CAT-PL-8」)1部、メチルエチルケトン(MEK)/トルエン混合溶媒系2200部よりなる離型剤を塗工量が0.1g/mm2になるように塗布して離型フィルムを得た。その後、下記組成より成るセラミックスラリーを湿潤状態で5μmとなるように離型面上に塗布し、その際のスラリー塗工性を下記判定基準にて判定を行った。」
・「【0028】実施例 1
(ポリエステルチップの製造法)ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール70部、および酢酸カルシウム一水塩0.07部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノール留去させエステル交換反応を行い、反応開始後、約4時間半を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次に燐酸0.04部および三酸化アンチモン0.035部を添加し、常法に従って重合した。すなわち、反応温度を徐々に上げて、最終的に280℃とし、一方、圧力は徐々に減じて、最終的に0.05mmHgとした。4時間後、反応を終了し、常法に従い、チップ化してポリエステルAを得た。上記ポリエステルAを製造する際、平均粒径0.7μmの炭酸カルシウムを20000ppm添加し、ポリエステルBを得た。さらに、上記ポリエステルAを製造する際、平均粒径2.4μmの非晶質シリカを20000ppm添加し、ポリエステルCを得た。また、上記ポリエステルAを製造する際、平均粒径0.2μmの酸化アルミニウムを20000ppm添加し、ポリエステルDを得た。
【0029】(ポリエステルフィルムの製造)上記ポリエステルA、Bをそれぞれ65%、35%の割合で混合した混合原料1をA層及びC層の原料とし、ポリエステルAをB層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、A層及びC層を最外層(表層)、B層を中間層として、20℃に冷却したキャスティングドラム上に、2種3層の層構成で共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、90℃にて縦方向に3倍延伸した後、テンター内で予熱工程を経て100℃で4倍の横延伸、230℃で10秒間の熱処理を行い、このフィルムの巻き上げ直前のフィルム厚みを非接触式のオンライン厚さ計にて横方向にスキャンしながら厚みムラ実測し、測定した厚みパターンに応じて口金の間隔を調整し、厚みムラを制御した38μmのポリエステルフィルムを得た。尚、各層の厚さは下記表1に示すとおりであった。得られたポリエステルフィルムは、グリーンシートの厚みムラレベルが良く、スラリー塗工性、耐ブロッキング性、透明性にも優れ実用性の高いフィルムであった。」
・「【0031】実施例6~8
表2に示す原料配合にて各層の混合原料を作成し、3台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、A層及びC層を最外層(表層)、B層を中間層として、20℃に冷却したキャスティングドラム上に、3種3層の層構成で共押出し冷却固化させて無配向シートを得た以外、実施例1と同様な方法にて製造し、ポリエステルフィルムを得た。なお、ポリエステルフィルムの各層の厚さは表2に示すとおりであった。得られたポリエステルフィルムは、グリーンシートの厚みムラレベルが良く、スラリー塗工性、耐ブロッキング性、透明性にも優れ実用性の高いフィルムであった。」
・「【0034】
【表1】
[図:0001431128000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例6に関する記載及び【0020】に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「表1の実施例6に示す原料配合にて各層の混合原料を作成し、3台の押出機に各々を供給し、各々溶融した後、A層及びC層を最外層(表層)、B層を中間層として、冷却したキャスティングドラム上に、3種3層の層構成で共押出し冷却固化させて得たポリエステルフィルムの表面に硬化型シリコーン樹脂、硬化剤、メチルエチルケトン(MEK)/トルエン混合溶媒系よりなる離型剤を塗布して得た離型フィルム。」(当審注:「表1の実施例6」については、上記(1)参照。)
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「表1の実施例6に示す原料配合にて各層の混合原料を作成し、3台の押出機に各々を供給し、各々溶融した後、A層及びC層を最外層(表層)、B層を中間層として、冷却したキャスティングドラム上に、3種3層の層構成で共押出し冷却固化させて得たポリエステルフィルム」は本件特許発明1における「3層以上の層が積層されて構成されるポリエステルフィルム」に相当する。
甲1発明における「ポリエステルフィルムの表面に硬化型シリコーン樹脂、硬化剤、メチルエチルケトン(MEK)/トルエン混合溶媒系よりなる離型剤を塗布して得た離型フィルム」は本件特許発明1における「前記ポリエステルフィルムの表面にシリコーン離型層が形成され」た「ポリエステル離型フィルム」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「3層以上の層が積層されて構成されるポリエステルフィルムであり、
前記ポリエステルフィルムの表面にシリコーン離型層が形成された、ポリエステル離型フィルム。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点>
本件特許発明1においては「前記ポリエステルフィルムは、コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらスキン層が粒子を含み、
前記粒子は、無機粒子であり、
前記粒子の含量は、フィルムの全体重量に対して0.01~0.2重量%であり、
前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し、横に粒子直径、縦に粒子数をプロットした際、下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBのみを有し、前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし、前記粒子AおよびBの平均粒径は、下記式4を満たし、
前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である、ポリエステル離型フィルム:
0.1μm≦A≦0.5μm [式1]
0.6μm≦B≦1.0μm [式2]
5≦A/B≦10 [式3]
B-A≦0.5μm [式4]。」と特定されているのに対して、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点のうち、「前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である」という事項及び「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」(当審注:「式3」とは「5≦A/B≦10」のことである。以下、同様。)という事項について検討する。
甲1の【0034】の【表1】によると、甲1の実施例6におけるA層の「中心面平均粗さSRa(A)」は15nmであり、C層の「中心面平均粗さSRa(C)」は21nmであるから(なお、「中心面平均粗さSRa」は本件特許発明1における「中心線平均表面粗さ」に相当する。)、甲1発明は「前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である」という事項の条件を満たさない。
甲1の実施例6におけるC層は、ポリエステルA(無粒子)60%、ポリエステルB(平均粒径0.7μmの炭酸カルシウムを20000ppm含有)10%、ポリエステルD(平均粒径0.2μmの酸化アルミニウムを20000ppm含有)30%を含有するものであるから、粒子A及びBの重量比A/Bを原料における平均粒径や含有量、添加量から計算すると30/10=3となり、甲1発明は「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」という事項の条件を満たさない。
そうすると、「前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である」という事項及び「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」という事項は、実質的な相違点であるから、これらの事項を含む相違点も実質的な相違点である。
また、甲1には、「ポリエステルB」に含まれる「炭酸カルシウム」と「ポリエステルD」に含まれる「酸化アルミニウム」の重量比に着目し、それを所定の数値範囲(5以上10以下)とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「薄膜のフィルムでありながらも、ロールに対する巻取性およびスリップ性に優れ、セラミックスラリーを塗布して薄膜のセラミックシートを製造する際、ピンホールの発生が少ないポリエステル離型フィルムを提供することができる。また、フィルムの製造時に高速で搬送しても切り粉が少なく、フィルムの切削時に粉塵の発生が少ないポリエステル離型フィルムを提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0016】)という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和7年7月24日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
・「3-1.甲第1号証の実施例4の記載について
甲第1号証の実施例4と各請求項の対比は下記のとおりである。
[図:0001431128000002.jpg]
[図:0001431128000003.jpg]
すなわち、訂正請求項と甲第1号証の実施例4は、上記対比中、G要件、M要件、Q要件、R要件のみ異とし、他は同一である。」(上記意見書第2及び3ページ)
・「G構成・・・(略)・・・に関し、甲第1号証の0034、0028段の記載に基づいて粒子AおよびBの重量比を計算すると0.75((15×0.2)/(20×0.2))である。したがって、甲第1号証はG構成を開示していない。
・・・(略)・・・G構成に関し、粒子の重量比の調整は、フィルムの表面特性を制御するために当業者が通常行う設計事項にすぎない。
ゆえに、訂正請求項1は、甲第1号証に基づき進歩性を欠いている。」(上記意見書第10ページ)
イ 特許異議申立人の主張についての判断
そこで、検討する。
甲1の実施例4から、甲1に記載された発明(以下、「甲1実施例4発明」という。)の認定を行い、本件特許発明1との対比・判断を行ったとしても、本件特許発明1との一致点及び相違点は、上記(1)の一致点及び相違点と同じである。
相違点のうち「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」という事項について検討する。
甲1の実施例4におけるA及びC層はいずれも、ポリエステルA(無粒子)65%、ポリエステルB(平均粒径0.7μmの炭酸カルシウムを20000ppm含有)20%、ポリエステルD(平均粒径0.2μmの酸化アルミニウムを20000ppm含有)15%を含有するものであるから、粒子A及びBの重量比A/Bを原料における平均粒径や含有量、添加量から計算すると15/20=0.75(「5≦A/B≦10」の範囲外である。)となり、甲1実施例4発明は「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」という事項の条件を満たさない。
そうすると、「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」という事項は、実質的な相違点であるから、上記事項を含む相違点も実質的な相違点である。
そして、「前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし」という事項に関する判断は、上記(2)の判断と同じである。
なお、特許異議申立人は「粒子の重量比の調整は、フィルムの表面特性を制御するために当業者が通常行う設計事項にすぎない」と主張するが、甲1及び他の証拠に「ポリエステルB」に含まれる「炭酸カルシウム」と「ポリエステルD」に含まれる「酸化アルミニウム」の重量比に着目し、それを所定の数値範囲(5以上10以下)とする動機付けとなる記載がなく、他に具体的な証拠が示されている訳でもないから、甲1実施例4発明において「粒子の重量比の調整は、フィルムの表面特性を制御するために当業者が通常行う設計事項にすぎない」とはいえない。
したがって、本件特許発明1は甲1実施例4発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 本件特許発明5について
本件特許発明5は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし5は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は申立理由2(サポート要件)である。
以下、検討する。
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
3 サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「ロールに対する巻取性及びスリップ性に優れ、セラミックスラリーを塗布して薄膜のセラミックシートを製造する際、ピンホールの発生が少なく、フィルムの製造時に高速で搬送しても切り粉が少なく、フィルムの切削時に粉塵の発生が少ないポリエステル離型フィルム」を提供することである。
発明の詳細な説明の【0009】には「上記の課題を達成するために研究した結果、特定の物性を満たすバイモーダル形態の粒子を含んでフィルムを製造することで、上記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0010】ないし【0015】、【0043】及び【0066】の【表1】には本件特許発明1ないし5に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0021】には「本発明の発明者らは、粒径が異なる2種の無機粒子を混合して用い、これらの粒子の大きさおよび含量を特定の範囲で組み合わせて用いる場合、フィルムの表面が平坦でありながらも、後加工のハンドリングおよびフィルムの巻取性を向上させるための有効突起を含み、切削時に粉塵の発生が少ないフィルムを提供することができることを見出し、本発明を完成した。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0026】には「また、本発明のポリエステルフィルムは、表面粗さを下げて離型フィルムのベースフィルムとして適用する際、表面粗さの転写に起因して、離型層に塗布される層にピンホールや厚さムラなどが発生するのを防止するとともに、ロール走行性、巻取性などのハンドリング(Handling)性を改善することで生産性を大幅に向上させるべく、特定の2種の無機粒子を含むことが好ましい。」と記載され、同【0027】には「より具体的に、下記式1~3を同時に満たす粒子を含んでもよい。」、同【0028】には「0.1μm≦A≦0.5μm [式1]
0.6μm≦B≦1.2μm [式2]
2≦A/B [式3]」と記載され、同【0029】には「すなわち、前記式1および2は、粒子直径が0.1~0.5μm、0.6~1.2μmの範囲にそれぞれ1つ以上の平均粒径を有することを意味し、前記式3は、前記0.1~0.5μmの範囲の平均粒径を有する粒子Aと、0.6~1.2μmの範囲の平均粒径を有する粒子Bとの含量比(重量比)(A/B)が2以上、3以上、より具体的には2~10、2~11、3~10、3~11、3~11.5であってもよい。」と記載され、同【0030】には「前記式1~3を同時に満たす範囲にて、本願目的のように、フィルムの製造時に薄膜のフィルムでありながらも、ロールに対する巻取性およびスリップ性に優れ、平滑性に優れ、セラミックスラリーを塗布して薄膜のセラミックシートを製造する際、ピンホールの発生が少ないポリエステル離型フィルムを提供することができる。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0034】には「本発明の一態様において、前記粒子は、無機粒子および有機粒子の中から選択される何れか1つまたは2つ以上を混合した混合物であってもよい。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0035】には「好ましくは、前記粒子は、平均粒径が0.1~0.5μmの粒子Aと、平均粒径が0.6~1.2μmの粒子Bを混合して用いてもよい。また、前記粒子Bの平均粒径と粒子Aの平均粒径との差が0.5μm以下、より具体的には0.1~0.5μm、0.2~0.5μmまたは0.3~0.5μmであってもよい。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0037】には「本発明の一態様において、前記粒子の含量は、フィルムの全体重量に対して0.01~0.3重量%、好ましくは0.05~0.25重量%、より好ましくは0.1~0.2重量%であってもよい。上記の範囲にて、粒子の分散性に優れ、粒子の凝集を防止し、切り粉の発生が少ないフィルムを提供することができる。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0043】には「本発明の一態様に係るポリエステル離型フィルムは、接触式3次元表面粗さ計を用いて、0.08mmカット-オフ値を適用して測定した中心線平均表面粗さRaが、20nm以下、より好ましくは15nm以下であってもよい。具体的に、中心線平均表面粗さRaが1~20nm、より具体的には4~15nmであってもよい。上記の範囲にて、表面粗さが低くて平滑性に優れ、MLCCの離型フィルムとして適用する際にピンホールの発生がほぼないフィルムを提供することができるため好ましいが、これに制限されるものではない。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0056】ないし【0068】には、「3層以上の層が積層されて構成されるポリエステルフィルムであり、
前記ポリエステルフィルムの表面にシリコーン離型層が形成され、
前記ポリエステルフィルムは、コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらスキン層が粒子を含み、
前記粒子は、無機粒子であり、
前記粒子の含量は、フィルムの全体重量に対して0.01~0.2重量%であり、
前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し、横に粒子直径、縦に粒子数をプロットした際、下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBのみを有し、前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし、前記粒子AおよびBの平均粒径は、下記式4を満たし、
前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である、ポリエステル離型フィルム:
0.1μm≦A≦0.5μm [式1]
0.6μm≦B≦1.0μm [式2]
2≦A/B≦10 [式3]
B-A≦0.5μm [式4]。」という事項の条件を満たす実施例1ないし6が、上記条件を満たさない比較例1及び2と比べて、巻取り歩留まり、切り粉の発生程度及び生産歩留まりのいずれにおいても優れていることを確認する記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載により当業者は「3層以上の層が積層されて構成されるポリエステルフィルムであり、
前記ポリエステルフィルムの表面にシリコーン離型層が形成され、
前記ポリエステルフィルムは、コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらスキン層が粒子を含み、
前記粒子は、無機粒子であり、
前記粒子の含量は、フィルムの全体重量に対して0.01~0.2重量%であり、
前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し、横に粒子直径、縦に粒子数をプロットした際、下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBのみを有し、前記粒子AおよびBの重量比が下記式3を満たし、前記粒子AおよびBの平均粒径は、下記式4を満たし、
前記ポリエステルフィルムのスキン層の表面は、いずれも中心線平均表面粗さRaが15nm以下である、ポリエステル離型フィルム:
0.1μm≦A≦0.5μm [式1]
0.6μm≦B≦1.0μm [式2]
2≦A/B≦10 [式3]
B-A≦0.5μm [式4]。」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリエステル離型フィルム」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
4 特許異議申立人の主張について
(1)特許異議申立人の上記第4 2における主張について
特許異議申立人の上記第4 2における主張について検討する。
特許異議申立人が主張するように、巻取・スリップ性やセラミックシートを製造する際のピンホールの発生特性は粒子の粒径・種類や密度、スキン層の厚み、スキン層中における粒子量・粒径・種類(密度)の影響を多少は受けるかもしれないが、本件特許発明1ないし5において特定される事項を有する「ポリエステル離型フィルム」であれば、そうでないものよりは、多少は発明の課題を解決できると当業者は理解する。
また、本件特許発明1ないし5において特定される事項を有する「ポリエステル離型フィルム」であっても、発明の課題を解決できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記第4 2における主張は採用できない。
(2)特許異議申立人の令和7年7月24日に提出された意見書における主張について
ア 特許異議申立人の令和7年7月24日に提出された意見書における主張の概要
特許異議申立人は、令和7年7月24日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張(以下、「主張1」のようにいう。)する。なお、主張の摘記に際し、空白行は省略した。
(ア)主張1
「3-2.訂正事項について
訂正意見書の訂正事項A_1乃至9に基づき、下記のように記した。なお、アンダーラインは訂正にて追加された事項に付した。
「A_1 下記式1および2を満たす平均粒径を有する粒子AおよびBのみを有し、
・・・(略)・・・
A_3 5≦A/B≦10
A_4 前記ポリエステルフィルムは、コア層と、その両面に備えられるスキン層とを含み、これらのスキン層が粒子を含み
・・・(略)・・・
A_6 前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し、
・・・(略)・・・」 である。
以下、訂正事項A_1乃至9について見解を示す。
3-3.訂正事項A_1、4および6についての見解(関連条文:特許法第36条第6項第1号違反)
・・・(略)・・・と記載され、訂正事項A_1の訂正は、「バイモダール形態」による効果がある旨を主張している。
しかしながら、本件請求項1の式1乃至4の粒子規定は、訂正事項A_6の「スキン層に含有された粒子の粒度分布を測定」するものであり、特許権者が意見する、スキン層に含有される前の粒子の平均粒径の主張と大きく相違している。仮に、特許権者が意見するスキン層に含有される前の粒子の平均粒径の測定であったとしても、特許権者が、訂正事項A_6で「粒子の粒度分布を測定」するように、個々の粒子はそれぞれ粒度分布を有しており、・・・(略)・・・2つの粒子が混在されて測定すれば、それぞれの粒子頻度が重なり1つの平均粒径として観測される場合がある。特に、粒子Aが0.5μm、粒子Bが0.6μmといった小数点1桁単位で管理され、その差も0.1μmしかない平均粒径を混在させた場合には、0.5μmか0.6μmのいずれか1種の平均粒径として観測される蓋然性が極めて高く、そのような場合にまでバイモダール形態があるといえるのか到底理解できない。
・・・(略)・・・特に、粒子Aの平均粒径が0.5μm、粒子Bの平均粒径が0.6μmの★印となった場合のバイモダール形態の効果は実証されていない。よって、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内奥を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(上記意見書第3ないし5ページ)
(イ)主張2
「3-5.訂正事項A_3についての見解(関連条文:特許法第36条第6項第1号違反、特許法第29条第2項違反)
・・・(略)・・・
特許権者が、粒子Bの数が多いと、表面粗さが高く、表面が不均一であることも主張しているように、ただ単にA/Bの重量比を規定するA_3だけでは、発明を達成するための手段が十分に反映されていないことは明らかである。
・・・(略)・・・
以上から、訂正事項A_3は当業者の通常の創作能力の発揮である設計変更に過ぎず、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(上記意見書第6ないし8ページ)
イ 特許異議申立人の令和7年7月24日に提出された意見書における主張についての判断
そこで、検討する。
(ア)主張1について
本件特許発明1における「前記粒子を含むスキン層に含有された粒子の粒度分布を測定し」という事項は、発明の詳細な説明の【0056】ないし【0068】の記載からみて、スキン層を形性する前のポリエステルチップを製造する際に粒子の粒度分布の測定を行っていること及び異なる粒度分布を有する粒子を混在する状態で測定するものではないことは当業者に明らかである。
また、異なる粒度分布を有する2つの粒子が含有されている以上、「バイモダール形態」となっていることも当業者に明らかであるし、「バイモダール形態」とはならないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張1は採用できない。
(イ)主張2について
本件特許発明1ないし5は、「A/Bの重量比」に関する事項だけで特定されるものではない。
また、「A/Bの重量比」に関する事項が当業者の通常の創作能力の発揮である設計変更かどうかは、サポート要件の判断とは関係がない。なお、「A/Bの重量比」に関する事項が当業者の通常の創作能力の発揮である設計変更に過ぎないとはいえないことは、上記第6 2(2)のとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張2も採用できない。
5 むすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-701040