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特許異議申立

2024-700737

ポリプロピレンフィルムならびにこれを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ

審判番号
2024-700737
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-150260
登録番号
7434751
請求日
2024年08月05日
審決日
2024年10月17日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】東レ株式会社
  • 【異議申立人】小林 瞳
審判長/審判官
  • 審判長 植前 充司
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 柴田 昌弘
分類
P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7434751号発明「ポリプロピレンフィルムならびにこれを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7434751号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7434751号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、令和1年8月20日(優先権主張 平成30年8月23日、2件)の出願であって、令和6年2月13日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月5日に特許異議申立人 小林 瞳(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であり、フィルムの少なくとも一方の表面における突起形状の偏り度(Ssk)が-10を超えて100未満であるポリプロピレンフィルム。 <貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))の測定条件> 装置:EXSTAR DMS6100(セイコーインスツルメント(株)製) 試験モード :引張モード チャック間距離:20mm 周波 :1Hz 歪振幅 :10.0μm ゲイン :1.5 力振幅初期値 :400mN 温度範囲 :23~260℃ 昇温速度 :2℃/分 測定雰囲気 :窒素中 その他 :フィルム試長方向(長手方向または幅方向)を長辺方向として切り出したポリプロピレンフィルム(幅(短辺)10mm×長さ(長辺)50mm)を23℃雰囲気下で装置チャック部に取付けて測定を実施する。測定試験数はn=3で行い、その算術平均値をその方向での貯蔵弾性率とし、長手方向、幅方向それぞれの方向で測定を行う。 【請求項2】 キシレンでポリプロピレンを完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満である、請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項3】 フィルムの長手方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項4】 フィルムの幅方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項5】 フィルムの少なくとも一方の表面において、1252μm×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積が1~12000μm3である、請求項1~4のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項6】 フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均粗さSaが10~60nmであり、かつ最大高さSzが100~1000nmである、請求項1~5のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。 【請求項7】 請求項1~6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる金属膜積層フィルム。 【請求項8】 請求項7に記載の金属膜積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等 令和6年8月5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし3及び5ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)コンデンサ用途以外の用途まで拡張ないし一般化できない点 段落0009に記載されているように、本件特許発明1の課題は、高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供するというものである。段落0067には、コンデンサ用途以外の用途が一応記載されているが、コンデンサ用途以外の用途については、130℃での耐熱性が要求されることに言及されていない。また、本件特許発明1の構成A及びB(当審注:「構成A」とは「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上」のことであり、「構成B」とは「フィルムの少なくとも一方の表面における突起形状の偏り度(Ssk)が-10を超えて100未満である」のことである。)に関する記載によると、いずれも130℃での耐熱性が要求されるコンデンサ用途を想定しており、実施例および比較例の評価結果についても、130℃での耐熱性が要求されるコンデンサ用途を想定している。 また、本件特許発明1の構成Aは、110℃を超えるコンデンサ使用環境と共に、素子への加工時により高温(たとえば120~130℃)で熱処理される得ることを考慮して、130℃における貯蔵弾性率を1.6GPa以上に特定したことが明らかである一方、甲第1号証には125℃における貯蔵弾性率(E’125)を一定以上にすることが示唆されており、その実施例5は構成Aと実質的に一致しているといえる。 そうすると、本件特許発明の構成Aは、公知技術として存在したコンデンサ用のポリプロピレンフィルムに対して、より高温でのコンデンサ使用環境と、素子への加工時のより高温での熱処理とを想定した点に、技術的意義を有すると解される。 従って、本件特許の明細書には、高温で使用されるコンデンサに特有の課題と、当該課題に対する解決手段のみが記載されており、コンデンサ用途以外の用途については、130℃での耐熱性が要求されることに言及されておらず、コンデンサ用途以外の用途にまで、発明を拡張ないし一般化することができない。 (2)CXSが1.7質量%を超え又はメソペンタッド分率が0.970未満の場合まで、発明を拡張ないし一般化することができない点 本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許公報の発明の詳細な説明の記載からみて、その段落0009に記載された次のとおりのものであると認められる。 「そこで、本発明は、高湿環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供することを目的とし、また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することを目的とする。」 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、当業者において発明の課題を解決できると認識できる範囲は、メソペンタッド分率が0.970以上、かつ、冷キシレン可溶部(CXS)が1.7質量%以下であるポリプロピレン樹脂を原料とし、請求項1に規定される貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上を満たすフィルム、の範囲にとどまるというべきである。 本件特許請求の範囲の請求項1~8は、ポリプロピレンフィルムの原料についての特定は何ら有さないから、本件特許発明1~8は、上記フィルムの範囲を超えることは明らかである。 3 証拠方法 甲第1号証:再公表WO2015/146894号公報 証拠の表記はおおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、「甲1」という。 第4 申立理由について 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「二軸配向ポリプロピレンフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。 ・「【請求項1】 固体粘弾性測定においてフィルム幅方向の23℃における貯蔵弾性率(E’23)と125℃における貯蔵弾性率(E’125)の関係が次式を満たす二軸配向ポリプロピレンフィルム。 (E’125)/(E’23)>0.2 【請求項2】 幅方向における伸度5%時の応力(TD-F5値)が100MPa以上である、請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。」 ・「【請求項5】 請求項1~4のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる金属膜積層フィルム。 【請求項6】 請求項5に記載の金属膜積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。」 ・「【0014】 本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討の結果、本発明に至ったものである。本発明は、高電圧用コンデンサ用途においても優れた高温時の耐電圧性と信頼性を発揮でき、かかるコンデンサ用途等に好適な貯蔵弾性率の温度依存性が小さい二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供する。」 ・「【0023】 また本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、コンデンサ作製においてもプロセス条件が高温化する中で素子加工性およびコンデンサとしてのさらなる耐熱化を発揮する観点から、125℃15分加熱処理におけるフィルムの幅方向の熱収縮率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下である。熱収縮率が1%を超える場合は、コンデンサ製造工程および使用工程の熱によりフィルム自体の収縮が生じ、素子端部メタリコンとの接触不良により耐電圧性が低下する場合がある。下限は特に限定されないが、フィルムが膨張しすぎる場合はコンデンサ製造工程や使用工程の熱により素子の巻き状態が緩む場合があるので、好ましくは-1%である。」 ・「【0046】 なお、本発明のフィルムを得るために、特に重要な製造条件は以下の条件である。 ・1段目の熱処理温度が、115℃以上140℃以下であること。 ・1段目の熱処理温度が、幅方向の延伸温度未満の温度であること。 ・2段目の熱処理温度が、1段目の熱処理温度を超える温度であること。 ・2段目の熱処理温度が、幅方向の延伸温度より低い温度であること。 ・1段目の熱処理工程において、3~12%の弛緩処理が施されていること。 【0047】 加えて、以下の条件が満たされていることが、より好ましい。 ・面積倍率が40倍以上(特に好ましくは60倍以上)であること。」 ・「【0073】 以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。 【0074】 (実施例1) 直鎖状ポリプロピレンとしてメソペンタッド分率が0.985で、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂に、Basell社製分岐鎖状ポリプロピレン樹脂(高溶融張力ポリプロピレンProfax PF-814)を1.0質量%ブレンドし温度260℃の押出機に供給し、樹脂温度260℃でT型スリットダイよりシート状に溶融押出し、該溶融シートを90℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させ冷却固化し未延伸シートを得た。次いで、該シートを複数のロール群にて徐々に140℃に予熱し、引き続き143℃の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に5.7倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、160℃の温度で幅方向に10倍延伸し、次いで1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に弛緩率12%を与えながら130℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・min/m2の処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルム厚み2.3μmのフィルムをフィルムロールとして巻き取った。 【0075】 実施例1の二軸配向ポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで耐電圧および信頼性に優れた。」 ・「【0079】 (実施例5) 実施例1と同様にして未延伸シートを得た後、該シートを複数のロール群にて徐々に145℃に予熱し、引き続き145℃の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に6.0倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、165℃の温度で幅方向に12倍延伸し、次いで1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に弛緩率10%を与えながら130℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・min/m2の処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルム厚み2.3μmのフィルムをフィルムロールとして巻き取った。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表2に示す通りで耐電圧および信頼性に優れた。」 ・「【0080】 【表1】 [図:0001416529000001.jpg] 【0081】 【表2】 [図:0001416529000002.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に実施例5に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「直鎖状ポリプロピレンとしてメソペンタッド分率が0.985で、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂に、Basell社製分岐鎖状ポリプロピレン樹脂(高溶融張力ポリプロピレンProfax PF-814)を1.0質量%ブレンドし温度260℃の押出機に供給し、樹脂温度260℃でT型スリットダイよりシート状に溶融押出し、該溶融シートを90℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させ冷却固化し未延伸シートを得、次いで、該シートを複数のロール群にて徐々に145℃に予熱し、引き続き145℃の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に6.0倍に延伸し、引き続き該フィルムをテンターに導き、165℃の温度で幅方向に12倍延伸し、次いで1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に弛緩率10%を与えながら130℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で熱処理を行い、その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・min/m2の処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルムロールとして巻き取って得たフィルム厚み2.3μmであって、固体粘弾性測定においてフィルム幅方向の23℃における貯蔵弾性率(E’23)と125℃における貯蔵弾性率(E’125)の関係式(E’125)/(E’23)が0.38であり、幅方向における伸度5%時の応力(TD-F5値)が131MPaであるフィルム。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリプロピレンフィルム。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であり」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点(当審注:「下記測定条件」については上記第2の【請求項1】を参照。以下同様。)。 <相違点2> 本件特許発明1においては「フィルムの少なくとも一方の表面における突起形状の偏り度(Ssk)が-10を超えて100未満である」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。 イ 判断 (ア)相違点1について 相違点1について検討する。 甲1には、「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」に関する記載はなく、当然、「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」が「1.6GPa以上」であることは記載されていない。 また、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、その【0011】に「すなわち、特許文献1記載のポリプロピレンフィルムにおいて採用されている室温から125℃までの構造安定化に効果的な有効な熱処理は、125℃を超える温度に対しては十分な熱処理とはなっておらず、結晶性が不十分であり、改善余地があると考えた。」(当審注:「特許文献1」は甲1の国際公開公報である。)と記載された上で、同【0017】に「130℃における貯蔵弾性率を1.6GPa以上とする方法としては、例えば、製膜時の延伸工程で面積延伸倍率を高め、特に幅方向の延伸倍率を高めること、加えて、高メソペンタッド分率かつ冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を使用し、長手方向に一軸延伸後の幅方向への二軸延伸直前の予熱温度を、幅方向の延伸温度+5~+15℃高温にすること、二軸延伸後の熱固定処理および弛緩処理工程において、まず、幅方向の延伸温度より低温での熱処理(1段目)をしながら弛緩処理を行い、次いでフィルムを幅方向に緊張を保ったまま前記1段目の熱処理温度より低温で135℃以上の熱処理(2段目)、さらに80℃以上で前記2段目の熱処理温度未満の条件で熱処理(3段目)を施す多段方式の熱固定処理および弛緩処理をフィルムに適宜施すことにより得ることが可能である。」及び同【0057】に「なお、本発明のポリプロピレンフィルムを得るため、着眼される製造条件を具体的に挙げて見ると、例としては以下のとおりである。 ・ポリプロピレン樹脂のCXSが1.5質量%未満であること。 ・延伸の面積延伸倍率が60倍以上であること。 ・幅方向の延伸倍率が10.5倍以上であること。 ・幅方向の延伸前の予熱温度が幅方向の延伸温度+5~+15℃であること。 ・1段目の熱処理温度が、145℃以上165℃以下であり、かつ幅方向の延伸温度未満の温度であること。 ・2段目の熱処理温度が、135℃以上1段目の熱処理温度未満であること。 ・3段目の熱処理温度が、80℃以上2段目の熱処理温度未満であること。 ・1段目の熱処理工程において、幅方向に2~20%の弛緩処理が施されていること。」と、「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」を「1.6GPa以上」とするための製造方法及び製造条件が記載され、同【0089】ないし【0100】において、上記【0017】及び【0057】に記載された製造方法及び製造条件を満たす製造方法で製造された実施例1ないし7の「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」が「1.6GPa以上」となり、上記製造方法及び製造条件を満たさない製造方法で製造された比較例1ないし5の「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」が「1.6GPa以上」となっていないことを確認している。 そして、甲1発明は上記製造方法及び製造条件を満たす製造方法で製造されていないことから、甲1発明における「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」が「1.6GPa以上」である蓋然性が高いとはいえない。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 また、甲1には、「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」に着目し、それを調整する動機付けとなる記載はないから、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 さらに、本件特許発明1の奏する「高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムが提供される。」(発明の詳細な説明の【0013】)という効果は甲1発明及び甲1に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 (イ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、次のとおり主張する。 「しかし、相違点1については「イ 引用発明の説明」で詳述したように、甲1発明には、125℃における貯蔵弾性率(E’125)を一定以上にすることが示唆されており、面積倍率が60倍以上が特に好ましく、その実施例として、面積延伸倍率が72倍の実施例5が記載されている。 一方、本件特許公報には、甲第1号証の実施例1(面積延伸倍率が57倍)を再現した比較例1の貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.5GPaであることが記載され、甲第1号証の実施例5のTD-F5値は131、実施例1のTD-F5値は116のため、実施例5のE’23は実施例1のE’23より大きいと推定され、 (E’125)/(E’23)がそれぞれ0.38と0.32であるため、その比は0.38/0.32=1.19倍となる。130℃での測定結果は、125℃での測定結果に近いことから、甲第1号証の実施例5の貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))は、実施例1の値の1.19倍より大きいと推定される。このため、甲第1号証の実施例5については、貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である蓋然性が高い。 このことは、本件特許公報に記載された、貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD)) が1.6GPa末満の比較例1~5は、全て面積延伸倍率が67倍以下である一方で、延伸倍率が72倍以上の実施例1、4~7は何れも貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である点からも裏付けられる。 従って、甲第1号証の実施例5は面積延伸倍率が72倍であり、実施例1の15GPaの1.19倍より大きいと推定されるため、甲第1号証の実施例5では、貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である蓋然性が高く、相違点1は実質的な相違点とはいえない。」(特許異議申立書第17ページ) そこで、上記主張について検討する。 発明の詳細な説明の【0100】の【表1】によると、面積延伸倍率が57倍の比較例1の「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」は1.5であり、面積延伸倍率が67倍の比較例3の「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」は1.5であり、面積倍率が異なっていても「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」は同じ大きさであるから、甲1の実施例5が実施例1よりも面積延伸倍率が大きくなっているからといって、甲1の実施例5の「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」が実施例1の「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」よりも大きくなっているとは限らない。 また、本件特許発明1における「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」は「下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる」ものであるから、「固体粘弾性測定においてフィルム幅方向の23℃における粘弾性率(E’23)と125℃における粘弾性率(E’125)の関係」である「(E’125)/(E’23)」と同じ挙動を示すとは限らず、「貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))」の大きくなる率が、「(E’125)/(E’23)」の大きくなる率と同じとなるとは限らない。 したがって、「甲第1号証の実施例5の貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))は、実施例1の値の1.19倍より大きいと推定される。」とはいえないし、その結果として、「甲第1号証の実施例5では、貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である蓋然性が高く、相違点1は実質的な相違点とはいえない。」とはいえないので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2、3、5及び6について 本件特許発明2、3、5及び6は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明4について 本件特許発明4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件特許発明7について 本件特許発明7は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1を用いた金属膜積層フィルムの発明であるから、本件特許発明1が甲1発明であるとも、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明7は甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (6)本件特許発明8について 本件特許発明8は請求項7の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明7を用いたフィルムコンデンサの発明であるから、本件特許発明7が甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明8は甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (7)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし3及び5ないし8は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし8は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 ア 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 イ 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、特にコンデンサ用途に適して用いられる、ポリプロピレンフィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。 【0003】 この中でもコンデンサ用途においては、その優れた耐電圧性、低損失特性から直流、交流に限らず高電圧コンデンサの用途にポリプロピレンフィルムは特に好ましく用いられている。 【0004】 最近では、各種電気機器がインバーター化されつつあり、それに伴いコンデンサの小型化、大容量化の要求が一層強まってきている。そのような分野、特に自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)や太陽光発電、風力発電の用途からの要求を受け、ポリプロピレンフィルムとしても薄膜化と絶縁破壊電圧の向上、高温環境下で優れた耐電圧性能を有することが必須な状況となってきている。 【0005】 ポリプロピレンフィルムは、ポリオレフィン系フィルムの中では耐熱性および絶縁破壊電圧は高いとされている。一方で、前記の分野への適用に際しては使用環境温度での優れた寸法安定性と使用環境温度より10~20℃高い領域でも耐電性などの電気的性能として安定した性能を発揮することが重要である。ここで耐熱性という観点では、将来的に、シリコンカーバイト(SiC)を用いたパワー半導体用途を考えた場合、使用環境温度がより高温になるといわれている。コンデンサとしてさらなる高耐熱化と高い耐電圧性の要求から、110℃を超えた高温環境下でのフィルムの絶縁破壊電圧の向上が求められている。しかしながら、非特許文献1に記載のように、ポリプロピレンフィルムの使用温度上限は約110℃といわれており、このような温度環境下において絶縁破壊電圧を安定して維持することは極めて困難であった。 【0006】 これまでポリプロピレンフィルムを薄膜でかつ、コンデンサとしたときの高温環境下で優れた性能を得るための手法として、例えば室温での貯蔵弾性率に対し125℃の貯蔵弾性率の変化が小さくなるよう制御することで絶縁破壊電圧を向上させたフィルムの提案(例えば、特許文献1)、また室温での貯蔵弾性率に対し120℃の貯蔵弾性率の変化を制御でき剛性、耐熱性及び透明性を改良した二軸延伸ポリプロピレンフィルムに好適なプロピレン単独重合体を用いての提案がなされている(例えば、特許文献5)。さらには高温下での絶縁破壊電圧を高めるにはフィルムの弾性率を高めることが重要で、室温の引っ張り弾性率を高める方法として、例えば結晶性が低いポリプロピレン樹脂原料を用いるが同時二軸延伸で面積倍率を高めたフィルムの提案(例えば、特許文献2)、主要構成成分のポリプロピレン樹脂に低立体規則性度のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を混合させ微結晶の運動の転移点を制御したフィルムの提案(例えば、特許文献3)、結晶性を高めたポリプロピレン樹脂を用い逐次二軸延伸後に再縦延伸し長手方向の強度向上させたフィルムの提案もなされている(例えば、特許文献4)。さらには室温だけでなく高温での弾性率を高めるため製膜時に石油樹脂を混合し可塑化作用によって長手方向の延伸倍率を高くなるよう制御したフィルムの提案がなされている(例えば、特許文献6、7)。しかしながら、特許文献1から7に記載のポリプロピレンフィルムは、いずれも110℃を超える高温環境下での絶縁破壊電圧の向上が十分ではなく、さらにコンデンサとしたときの高温環境下での耐電圧についても、十分とは言い難いものであった。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】国際公開WO2015/146894号パンフレット 【特許文献2】特開2013-177645号公報 【特許文献3】特開2010-280795号公報 【特許文献4】特開平10-156940号公報 【特許文献5】特開平8-73529号公報 【特許文献6】特開2003-191324号公報 【特許文献7】特開2003-105102号公報 【非特許文献】 【0008】 【非特許文献1】河合基伸、「フィルムコンデンサ躍進、クルマからエネルギーへ」、日経エレクトロニクス、日経BP社、2012年9月17日号、p.57-62 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 そこで、本発明は、高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供することを目的とし、また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することを目的とする。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、上記特許文献1~7に記載のポリプロピレンフィルムが高温環境下において絶縁破壊電圧、並びにコンデンサとしたときの高温環境での耐電圧性能が十分でない理由について、以下のように考えた。 【0011】 すなわち、特許文献1記載のポリプロピレンフィルムにおいて採用されている室温から125℃までの構造安定化に効果的な有効な熱処理は、125℃を超える温度に対しては十分な熱処理とはなっておらず、結晶性が不十分であり、改善余地があると考えた。なお、本発明者らは高温での結晶性が十分であるかは高温での貯蔵弾性率から知ることが可能であることを見いだした。特許文献5記載のポリプロピレンフィルムは柔軟な包装用途に適したフィルムであるため立体規則性が低い原料が用いられ、また、幅方向の延伸倍率および面積延伸倍率が低いために、高温領域での構造安定性が不十分であると考えた。特許文献3記載のポリプロピレンフィルムは立体規則性が低い原料が用いられ、また、幅方向の延伸倍率および面積延伸倍率が低く、また、横延伸後の熱処理が施されていないため高温領域での構造安定性が不十分であると考えた。特許文献4、6および7記載のポリプロピレンフィルムは立体規則性が高いポリプロピレン樹脂を用いてはいるが、冷キシレン可溶部(CXS)が多いことから全体的に結晶化度が低く、また横延伸前の予熱温度が低く、横延伸後の熱処理温度で徐冷処理が施されていないことから、分子鎖配向構造の安定化が不足し、高温領域での構造安定性が不十分であると考えた。 【0012】 以上の考察を踏まえて、本発明者らはさらに検討を重ね、ポリプロピレンフィルムの長手方向と幅方向の130℃における貯蔵弾性率の和が一定以上の値であるフィルムとすることにより上記の課題を解決できることを見出した。したがって、本発明の要旨とするところは、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であるポリプロピレンフィルムである。」 ・「【0015】 本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である。E’130(MD+TD)の値は好ましくは1.7GPa以上、さらに好ましくは1.9GPa以上、最も好ましくは2.1GPa以上である。大きなE’130(MD+TD)であるものほど高温度でも高い絶縁破壊電圧を実現できる。 【0016】 高温度での使用環境、すなわち110℃を超えるコンデンサ使用環境では、素子への加工時にその温度より高い(たとえば120~130℃)熱処理が与えられることがあるため、120~130℃の温度において一次構造はもちろん、二次構造においても安定であることが必要となってくる。すなわち、フィルムとしては高い結晶性を有すると共にその結晶は係る温度においても安定であることが必要であるということが判った。 【0017】 本発明者らは、特に高温度でのフィルムの構造と絶縁破壊電圧との関係について鋭意検討することにより、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))と高温環境下における耐電圧性との間に高い相関性があり、使用環境温度以上の温度領域の貯蔵弾性率が高くなるようフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂の結晶性を制御することが重要であることを見出した。すなわち、130℃における貯蔵弾性率が上記した範囲を満たすポリプロピレンフィルムは、高温環境下でも高い剛性を有していると推察され、そうすると、高温環境でも分子鎖が動いたり緩んだりすることの抑制がされたフィルムといえる。すなわち、熱に対して非常に安定な構造をしたフィルムであるといえる。このように本発明においては、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))を1.6GPa以上とすることを本旨とするが、130℃における貯蔵弾性率を1.6GPa以上とする方法としては、例えば、製膜時の延伸工程で面積延伸倍率を高め、特に幅方向の延伸倍率を高めること、加えて、高メソペンタッド分率かつ冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を使用し、長手方向に一軸延伸後の幅方向への二軸延伸直前の予熱温度を、幅方向の延伸温度+5~+15℃高温にすること、二軸延伸後の熱固定処理および弛緩処理工程において、まず、幅方向の延伸温度より低温での熱処理(1段目)をしながら弛緩処理を行い、次いでフィルムを幅方向に緊張を保ったまま前記1段目の熱処理温度より低温で135℃以上の熱処理(2段目)、さらに80℃以上で前記2段目の熱処理温度未満の条件で熱処理(3段目)を施す多段方式の熱固定処理および弛緩処理をフィルムに適宜施すことにより得ることが可能である。 【0018】 一方、E’130(MD+TD)の値が1.6GPa未満の場合には、高温環境下で高電圧がかかるコンデンサとして用いられた場合、長い使用履歴の中でフィルムに含まれるポリプロピレンの結晶部の分子鎖の緩和が進行して耐電圧性を低下させ、コンデンサの容量減少やショートによる破壊などの問題を生じ、耐電圧・信頼性の劣ったコンデンサとなる。なお、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))の値について、上限は特に限定されないがフィルムの生産性の観点からは10.0GPa以下の程度である。例えば、E’130(MD+TD)を10.0GPaよりも大きくするには、結晶性をより一層高める必要があるが、そのためには、面積延伸倍率を高める必要があるところ、延伸工程で破れを生じる場合がある。」 ・「【0019】 また、本発明のポリプロピレンフィルムは好ましくはフィルムの長手方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下であり、また、好ましくはフィルムの幅方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である。」 ・「【0025】 本発明のポリプロピレンフィルムは、高温環境下でも高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現させるために、フィルムの少なくとも一方の表面における突起形状の偏り度(スキューネスとも呼ばれる。以下、Sskと表す)が-10を超えて100未満である。ここでSskとは、表面の凹凸の偏り度を示したパラメータである。このSskは二乗平均平方根高さSqの三乗によって無次元化した基準面において、Z(x,y)の三乗平均を表したもので、歪度(わいど)を意味し、平均面を中心とした山部と谷部の対称性を表す指標である。Ssk<0の場合は平均線に対して下側に偏っている、つまり山部よりも谷部が多く存在することを意味する。 【0026】 他方、Ssk>0の場合は平均線に対して上側に偏っている、つまり谷部よりも山部が多く存在することを意味する。そしてSsk=0の場合は、平均線に対して偏りの無い状態を意味する。Sskを上記の範囲とすることで、山部が適度に形成され、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間の滑り易さを発現し、さらに谷部が比較的に少ないことでフィルムが薄くなっている箇所を少なくすることができ、このこともあって該薄いカ所で絶縁破壊が生じる可能性を抑制でき、コンデンサとしたときの全体としての絶縁破壊電圧の底上げが可能となる。」 ・「【0028】 本発明のポリプロピレンフィルムは、表面の凹みが少ない一方で適度な易滑性を持つことで素子加工性の向上と耐電圧性の向上をはかることができることから、フィルムの少なくとも一方の表面において、1252×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積が1~12000μm3であることが好ましい。」 ・「【0029】 また本発明のポリプロピレンフィルムは表面を適度に粗面化しフィルムとフィルムとの間隙の均一性、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間のすべり易さ、コンデンサ素子作製時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を高める観点からフィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが10~60nmであることが好ましい。」 ・「【0030】 また本発明のポリプロピレンフィルムは、表面を適度に粗面化しフィルムとフィルムとの間隙の均一性、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間のすべり易さ、コンデンサ素子作製時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を高める観点から、フィルムの少なくとも一方の表面の最大高さSzが100~1000nmであることが好ましい。」 ・「【0033】 本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルムのメソペンタッド分率が0.970以上であることが好ましい。」 ・「【0035】 本発明のポリプロピレンフィルムはキシレンでポリプロピレンを完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS、冷キシレン可溶部とも言う)が、溶解させるポリプロピレンを100質量%としたとき、1.5質量%未満であることが好ましい。」 ・「【0058】 続いて、本発明のポリプロピレンフィルムを用いてなる金属膜積層フィルム、それを用いてなるフィルムコンデンサ、およびそれらの製造方法について説明する。 【0059】 本発明の金属膜積層フィルムは、本発明のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる。」 ・「【0063】 本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属膜積層フィルムを用いてなる。」 ・「【0067】 以上のようにして作製した巻回体から芯材を抜いてプレスし、両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。フィルムコンデンサの用途は、鉄道車輌用、自動車用(ハイブリットカー、電気自動車)、太陽光発電・風力発電用および一般家電用等、多岐に亘っており、本発明のフィルムコンデンサもこれら用途に好適に用いることができる。その他、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途でも用いることができる。」 ・「【実施例】 【0088】 以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。 【0089】 (実施例1) メソペンタッド分率が0.983、融点が168℃で、メルトフローレート(MFR)が2.3g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を温度255℃の押出機に供給し、溶融させ、濾過フィルターを通過後の、樹脂温度が220℃になるよう設定したT型スリットダイよりシート状に溶融押出し、該溶融シートを95℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させ冷却固化し未延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該未延伸ポリプロピレンフィルムを複数のロール群にて段階的に140℃まで予熱し、そのまま周速差を設けたロール間に通し、長手方向に6.0倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、フィルム幅手の両端部をクリップで把持したまま173℃の温度(TD延伸温度+10℃)で予熱し、次いで164℃の温度で幅方向に12.5倍延伸した。さらに1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に12%の弛緩を与えながら152℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま143℃で熱処理を行った。最後に3段目の熱処理として98℃の熱処理を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・分/m2の処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルム厚み2.3μmのフィルムをフィルムロールとして巻き取った。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧は良好で、コンデンサとしての素子加工性・耐電圧性の評価も優れたものであった。 【0090】 (実施例2、3、4、5) 溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、実施例2では厚み2.3μmのポリプロピレンフィルム、実施例3~4では厚み2.4μmのポリプロピレンフィルム、実施例5では厚み6.0μmのポリプロピレンフィルムを得た。 【0091】 各実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、実施例2のポリプロピレンフィルムの130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧は実施例1のポリプロピレンフィルムには劣るが使用可能であり、コンデンサとしての耐電圧性評価も問題ないレベルであり、素子加工性の評価において端面にわずかなズレがあるものの実使用上は問題ないレベルであった。実施例3のポリプロピレンフィルムも130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧、およびコンデンサの耐電圧性の評価は実施例1には劣るものの、素子加工性の評価において端面のフィルムのズレ、シワ、変形がなく優れたものであった。実施例4のポリプロピレンフィルムは130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧、およびコンデンサとしての耐電圧性評価が極めて良好であり、素子加工性の評価において端面にわずかなズレが認められるもののコンデンサとして実使用上問題ないレベルであった。実施例5のポリプロピレンフィルムは130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧、およびコンデンサの耐電圧性の評価は実施例1には劣るものの、素子加工性の評価において端面のフィルムのズレ、シワ、変形がなく加工性は優れたものであった。 【0092】 (実施例6) 1段目の熱処理および弛緩処理として、幅方向に3%の弛緩を与えながら152℃で熱処理を行なった以外は、実施例1と同様の方法で、ポリプロピレンフィルムを得た。なお、厚みは2.3μmであった。このフィルムの130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧は実施例1のポリプロピレンフィルムには劣るが使用可能であり、コンデンサとしての耐電圧性評価も問題ないレベルであり、素子加工性の評価において端面にわずかなズレがあるものの実使用上は問題ないレベルであった。 【0093】 (実施例7) メソペンタッド分率が0.975、融点が166℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.0g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.7質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を温度260℃の押出機に供給し溶融させ、濾過フィルターを通過後の樹脂温度が260℃になるよう設定したでT型スリットダイよりシート状に溶融押出し用い、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、実施例7ではでは厚み2.3μmのポリプロピレンフィルム得た。実施例6のポリプロピレンフィルムは130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が高く、コンデンサとして加工時が良好、耐電圧性の評価も高く、また、実使用上の信頼性に問題ないレベルであった。 【0094】 (比較例1) 比較例1は特許文献1(国際公開WO2015/146894号パンフレット)に記載の実施例1に記載の方法で製造したポリプロピレンフィルムである。比較例1のポリプロピレンフィルム特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、TD予熱温度とTD延伸温度が同一であり、横延伸後1段目の熱処理温度が低温であるため、延伸時の歪み除去が十分でないため加熱ロールの搬送工程でシワが発生することがあり、コンデンサとして素子加工性の評価でシワが認められることがあった。130℃におけるフィルムの絶縁破壊電圧も低く、また、コンデンサの耐電圧性の評価は実用上の性能に劣るレベルであった。 【0095】 (比較例2) 溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。比較例2のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、面積延伸倍率が低く、TD予熱温度とTD延伸温度がほぼ同一であり、TD延伸後の熱処理が施されていない。そのため130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分で、コンデンサの耐電圧性の評価も低く、コンデンサの素子加工性の評価でも形状が大きく変化しており、工業的な使用には適さないレベルであった。 【0096】 (比較例3) 溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とし、二軸延伸後にフィルムを140℃に予熱し、1.2倍の再縦延伸を行った以外は実施例1と同様にして 、厚み2.3μmのポリプロピレンフィルムを得た。比較例3のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、幅方向の延伸倍率が低いため、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分であり、130℃のフィルムの絶縁破壊電圧も低い。また、MD方向の歪み残っているためと推察されるが、高温環境下でMD方向の熱収縮によって素子が巻き締まり、コンデンサの耐電圧性の評価ではショート破壊が発生した。一方、素子の加工性の評価では問題のないレベルであったが、再縦延伸時にフィルム破れが発生することがあった。 【0097】 (比較例4) メソペンタッド分率が0.968、融点が164℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.2g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.9質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を用い、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。 【0098】 このポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、ポリプロピレン原料の立体規則性が低く、CXSの量が多いため、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分で、130℃のフィルム絶縁破壊電圧も低く、また、コンデンサの信頼性は素子形状が大きく変化し破壊しており、耐電圧性の評価も不十分なため実使用できないレベルであった。 【0099】 (比較例5) 実施例1に記載の方法と同様の方法で、未延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムをオーブン中で140℃、3分間の加熱処理を施して未延伸フィルムを得た。フィルムの厚みは200μmであったこのポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、二軸延伸されていないため、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分で、130℃のフィルム絶縁破壊電圧も低く、厚膜のため絶縁破壊電圧の測定許容範囲外であり、また、コンデンサに加工することができなかった。 【0100】 【表1】 [図:0001416529000003.jpg] 」 ウ 判断 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0009】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題は「高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供すること」であり、本件特許発明7の解決しようとする課題は「それを用いた金属膜積層フィルムを提供すること」であり、本件特許発明8の解決しようとする課題は「それを用いたフィルムコンデンサを提供すること」(以下、総称して「発明の課題」という。)である。 発明の詳細な説明の【0012】には「以上の考察を踏まえて、本発明者らはさらに検討を重ね、ポリプロピレンフィルムの長手方向と幅方向の130℃における貯蔵弾性率の和が一定以上の値であるフィルムとすることにより上記の課題を解決できることを見出した。したがって、本発明の要旨とするところは、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であるポリプロピレンフィルムである。」と記載され、同【0015】ないし【0018】には、「フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である」ことの技術的意義が記載されている。 発明の詳細な説明の【0035】には「本発明のポリプロピレンフィルムはキシレンでポリプロピレンを完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS、冷キシレン可溶部とも言う)が、溶解させるポリプロピレンを100質量%としたとき、1.5質量%未満であることが好ましい。」と記載され、同【0019】には「本発明のポリプロピレンフィルムは好ましくはフィルムの長手方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下であり、また、好ましくはフィルムの幅方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である。」と記載され、同【0028】には「本発明のポリプロピレンフィルムは、表面の凹みが少ない一方で適度な易滑性を持つことで素子加工性の向上と耐電圧性の向上をはかることができることから、フィルムの少なくとも一方の表面において、1252×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積が1~12000μm3であることが好ましい。」と記載され、同【0029】には「また本発明のポリプロピレンフィルムは表面を適度に粗面化しフィルムとフィルムとの間隙の均一性、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間のすべり易さ、コンデンサ素子作製時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を高める観点からフィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが10~60nmであることが好ましい。」と記載され、同【0030】には「また本発明のポリプロピレンフィルムは、表面を適度に粗面化しフィルムとフィルムとの間隙の均一性、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間のすべり易さ、コンデンサ素子作製時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を高める観点から、フィルムの少なくとも一方の表面の最大高さSzが100~1000nmであることが好ましい。」と記載され、同【0059】には「本発明の金属膜積層フィルムは、本発明のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる。」と記載され、同【0063】には「本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属膜積層フィルムを用いてなる。」と記載されている。すなわち、発明の詳細な説明には本件特許発明1ないし8に対応する記載がある。 発明の詳細な説明の【0088】ないし【0100】において、「フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であるポリプロピレンフィルム」という条件を満たす実施例が該条件を満たさない比較例と比べて、130℃におけるフィルム絶縁破壊電圧が良好で、コンデンサとしての素子加工性・耐電圧性の評価も良好であることを確認している。 そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であるポリプロピレンフィルム」、「該ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる金属膜積層フィルム」及び「該金属膜積層フィルムを用いてなるコンデンサ」は発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし6は発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリプロピレンフィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明7は発明の課題を解決できると認識できる上記「金属膜積層フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明8は発明の課題を解決できると認識できる上記「コンデンサ」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 2(1)及び(2)における主張について検討するに、次のとおり、いずれも採用できない。 (ア)上記第3 2(1)における主張について 上記ウで示したとおり、本件特許発明1の解決しようとする課題は「高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供すること」であるが、該課題が、「コンデンサ」のみに限定された課題を意味するものでないことは明らかである。 また、発明の詳細な説明の【0067】には「その他、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途でも用いることができる。」と、本件特許発明1の用途は、コンデンサ用途に限定されないことが記載されている。 さらに、本件特許発明1をコンデンサ以外の用途に用いた場合に、発明の課題が解決できないとする当業者の技術常識はないし、また、発明の課題が解決できないことを示す具体的な証拠もない。 したがって、本件特許発明1において、用途がコンデンサ用途に限定されていないとしても、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないとはいえない。 (イ)上記第3 2(2)における主張について 発明の詳細な説明の【0035】には「本発明のポリプロピレンフィルムはキシレンでポリプロピレンを完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS、冷キシレン可溶部とも言う)が、溶解させるポリプロピレンを100質量%としたとき、1.5質量%未満であることが好ましい。」と記載されているが、「CXS」が1.7質量%超では発明の課題を解決できないとする記載ではない。 また、発明の詳細な説明の【0033】には「本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルムのメソペンタッド分率が0.970以上であることが好ましい。」と記載されているが、「メソペンタッド分率」が0.970未満では発明の課題を解決できないとする記載ではない。 さらに、本件特許発明1において、「CXS」が1.7質量%超又は「メソペンタッド分率」が0.970未満のポリプロピレンフィルムを用いた場合に、発明の課題が解決できないとする当業者の技術常識はないし、また、発明の課題が解決できないことを示す具体的な証拠もない。 したがって、本件特許発明1において、ポリプロピレンフィルムの「CXS」が1.7質量%以下又は「メソペンタッド分率」が0.970以上に限定されていないとしても、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないとはいえない。 (3)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 第5 結語 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700737

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