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特許異議申立

2023-701391

食品用包装フィルムおよび食品用包装体

審判番号
2023-701391
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-129156
登録番号
7301504
請求日
2023年12月27日
審決日
2024年05月10日
公報発行日
2024年06月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】三井化学東セロ株式会社
  • 【権利者代理人】速水 進治
  • 【異議申立人】平居 博美
審判長/審判官
  • 審判長 植前 充司
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.4 -Y (C08J) / P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第39条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7301504号発明「食品用包装フィルムおよび食品用包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7301504号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7301504号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成30年7月6日を出願日とする出願であって、令和5年6月23日にその特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同年7月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月27日に特許異議申立人 平居 博美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし16)がされ、令和6年2月19日付けで取消理由が通知され、同年同月22日に特許異議申立人から上申書が提出され、同年4月19日に特許権者 三井化学東セロ株式会社から意見書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 食品を包装するためのフィルムであって、 プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、 前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、 昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、 昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、 を続けて行ったとき、 前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、 前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である食品用包装フィルム。 【請求項2】 請求項1に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、150℃以上165℃以下の範囲に吸熱ピークBおよび165℃超え180℃以下の範囲に吸熱ピークCがそれぞれ観察される食品用包装フィルム。 【請求項3】 請求項2に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記吸熱ピークBのピーク高さBに対する前記吸熱ピークCのピーク高さCの比(C/B)が1.0以上3.0以下である食品用包装フィルム。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記一回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線1において、100℃以上130℃以下の範囲に発熱ピークDが観察される食品用包装フィルム。 【請求項5】 請求項4に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記発熱ピークDの半値幅が2.0℃以上6.0℃以下である食品用包装フィルム。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値(T1+T2)が5000MPa以上10000MPa以下である食品用包装フィルム。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記二軸延伸フィルム層の少なくとも一方の面上にヒートシール層をさらに備える食品用包装フィルム。 【請求項8】 請求項7に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記ヒートシール層は前記二軸延伸フィルム層の前記一方の面に直接接するように設けられている食品用包装フィルム。 【請求項9】 請求項7または8に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記ヒートシール層がホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。 【請求項10】 請求項1乃至9のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記二軸延伸フィルム層の一方の面上に表面層をさらに備える食品用包装フィルム。 【請求項11】 請求項10に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記表面層はアンチブロッキング剤を含む食品用包装フィルム。 【請求項12】 請求項10または11に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記表面層はホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。 【請求項13】 請求項1乃至12のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 前記二軸延伸フィルム層に含まれる粘着付与剤の含有量が、前記二軸延伸フィルム層の全体を100質量%としたとき、10質量%以下である食品用包装フィルム。 【請求項14】 請求項1乃至13のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 下記の方法で測定される水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)以下である食品用包装フィルム。 (測定方法) 前記食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にする。その後、内容物として塩化カルシウムを入れる。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製する。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管する。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出する。 【請求項15】 請求項1乃至14のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、 外装包装袋に用いられる食品用包装フィルム。 【請求項16】 請求項1乃至15のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムを用いた食品用包装体。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等 令和5年12月27日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし6及び14は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明14は、下記の方法で測定される水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)以下であることを規定する。 (測定方法) 前記食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にする。その後、内容物として塩化カルシウムを入れる。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製する。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管する。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出する。 加えて、本件特許発明明細書の段落0081では、以下のことが記載されている。 (7)水蒸気バリア性 食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした。その後、内容物として塩化カルシウムを入れた。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製した。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管した。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))をそれぞれ算出した。 ここで、実施例および比較例で得られた二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの一方の面上にヒートシール層を形成した。 次いで、以下の基準により食品用包装フィルムの水蒸気バリア性を評価した。 ◎◎:水蒸気透過度が5.0g/(m2・24h)以下 ◎:水蒸気透過度が5.0g/(m2・24h)超過5.5g/(m2・24h)以下 〇:水蒸気透過度が5.5g/(m2・24h)超過6.0g/(m2・24h)以下 ×:水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)超過 上記より、二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの厚さは実施例で記載されておらず、如何なる厚さを有するフィルムについて水蒸気透過度を評価したのか記載されていない。 また、二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの一方の面上にヒートシール層を形成しているものの、如何なる組成のヒートシール層を形成したのか記載しておらず、ヒートシール層の厚さも記載されていない。 水蒸気透過度は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さやヒートシール層の厚さに応じて変動することが知られており、当業者は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さやヒートシール層の厚さが記載されていない本件特許発明明細書を参照しても、過度の試行錯誤を必要とするため、実施可能要件違反に該当する。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層(請求項1~16) 本件特許発明1は、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えるところ、プロピレン系重合体は他の要件を有しておらず、あらゆる種類のプロピレンを包含する。 本件特許発明明細書の実施例では、PP1(第2プロピレン):プロピレン単独重合体(MFR3g/10min、融点167℃、メソペンタッド分率98.5%、含有率:10~70%)と、PP2(第1プロピレン):プロピレン単独重合体(MFR3g/10min、融点161℃、メソペンタッド分率92%、含有率:30~90%)が使用されているだけである。 本件特許発明は、「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供する」ことを課題とするところ(段落0008)、150℃以上180℃以下の範囲に観察される吸熱ピークAの熱量95~120J/gを解決手段とする(段落0009)。本件特許発明明細書の実施例では、融点162℃超及びメソペンタッド分率96.0%以上を有する第2プロピレンと融点162℃以下を有する第1プロピレンとを所定割合で混合したものが熱量95~120J/gの吸熱ピークAとなることのみが確認されているが、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層が、全ての場合において、熱量95~120J/gの吸熱ピークAとなることが示されておらず、本件特許発明1はサポート要件を満たさない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16も同様にサポート要件を満たしていない。 (2)150℃以上180℃以下の吸熱ピークA及び吸熱ピークAの熱量95J/g以上120J/g以下(請求項1~16) 本件特許発明1は、昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下であることを規定する。 本件特許発明明細書の実施例1~7と比較例1~3における吸熱ピークAの熱量と水蒸気バリア性(水蒸気透過度)の関係は以下の通りである。 吸熱ピークAの熱量 水蒸気バリア性 (J/g) 比較例1 94 × 実施例1 95 ○ 実施例2 106 ○ 実施例3 112 ○ 実施例4 111 ◎ 実施例5 115 ◎◎ 実施例6 115 ◎ 実施例7 107 ◎ 比較例2 121 ◎◎ 比較例3 123 ◎◎ [0081] ◎◎:水蒸気透過度が5.0g/(m2・24h)以下 ◎:水蒸気透過度が5.0g/(m2・24h)超過5.5g/(m2・24h)以下 〇:水蒸気透過度が5.5g/(m2・24h)超過6.0g/(m2・24h)以下 ×:水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)超過 これに対し、甲第6号証には、二軸延伸ポリプロピレンフィルムとポリオレフィンフィルムの積層フィルムが水蒸気透過率0.2g・mm/m2・d以下を有すること(請求項1)、水蒸気透過度が小さくて防湿性に優れ、食品等の包装用として好適であることが記載されている(段落0052)。 加えて、甲第7号証の表1には、2軸延伸ポリプロピレンは水蒸気透過度4g/m2・24hを有すること(厚さ25μmに換算)が記載されており、一般的なポリプロピレンフィルムの水蒸気透過度が示されている。 そうすると、本件特許発明1は、吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下を満たすとしても、一般的なプロピレンフィルムと同等レベルの水蒸気透過度を有し、寧ろ水蒸気透過度がより高いフィルムであって、水蒸気バリア性といえる様な水蒸気透過度0.2g・mm/m2・d以下のフィルムではないため、本件特許発明1は、課題である水蒸気バリア性を解決しているとはいえず、サポート要件を満たさない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16も同様にサポート要件を満たしていない。 3 証拠方法 甲第1号証:特開2009-235228号公報 甲第2号証:国際公開第2008/139727号 甲第3号証:特開2019-85541号公報 甲第4号証:特開2016-50222号公報 甲第5号証:特開2015-199228号公報 甲第6号証:特開平8-230123号公報 甲第7号証:ガスバリア包装材料の技術動向 成形加工 第21巻 第5号 2009年 第234頁~第240頁 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 取消理由の概要 令和6年2月19日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 取消理由(同日出願) 本件特許発明1は、本件特許に係る出願と同日に出願された特許出願(特願2023-101440号(特開2023-121783号公報、本件特許に係る出願の分割出願)に係る発明と同一であり、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 取消理由(同日出願)について 1 本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-101440号(特開2023-121783号公報、本件特許の分割出願)に係る発明 本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-101440号(特開2023-121783号公報、本件特許の分割出願)の請求項1に係る発明(以下、「同日出願発明」という。)は、特願2023-101440号の令和6年4月19日に提出された手続補正書の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 食品を包装するためのフィルムであって、 プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、 前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、 昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、 昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、 を続けて行ったとき、 前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、 前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下であって、 前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下である食品用包装フィルム。」 2 対比・判断 本件特許発明1と同日出願発明を対比する。 同日出願発明は、「前記二軸延伸フィルム層はプロピレン系重合体組成物により構成され、前記プロピレン系重合体組成物に含まれる前記プロピレン系重合体の含有量は、前記プロピレン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下である」という発明特定事項を有する点で、本件特許発明1と相違する。 そして、上記発明特定事項は、課題解決のための具体化手段における微差、発明特定事項を上位概念として表現したことによる差異及び単なるカテゴリー表現上の差異のいずれでもない。 したがって、本件特許発明1は同日出願発明と同一であるとはいえない。 3 取消理由についてのむすび したがって、本件特許発明1は、同日出願発明、すなわち本件特許に係る出願と同日に出願された特願2023-101440号(特開2023-121783号公報、本件特許の分割出願)に係る発明と同一であるとはいえず、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由によっては取り消すことはできない。 第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)、申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)である。 以下、順に検討する。 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「ポリプロピレン製延伸フィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものと予め付されたものである。 ・「【請求項1】 ペンタッド分率の値が92%以上のポリプロピレンから選ばれる2成分のポリプロピレンを含み、両者のポリプロピレン成分のペンタッド分率の値の差が1%~5%であるポリプロピレン組成物からなることを特徴とする少なくとも一方向に延伸されたフィルム。」 ・「【請求項4】 引張弾性率がタテ方向2.5~6GPaであり、ヨコ方向4.8~7GPaであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸フィルム。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、特定のポリプロピレン組成物からなる二軸延伸フィルム等のポリプロピレン製延伸フィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 二軸延伸ポリプロピレンフィルム等の延伸フィルムは、その優れた透明性、機械的強度、防湿性、剛性等を活かして包装材料をはじめ種々の用途に広く用いられている。また、ポリプロピレン二軸延伸フィルムの強度、透明度をさらに改良して更に広い用途への利用が期待される。」 ・「【0006】 ポリプロピレン 少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムのポリプロピレンは、特定の2成分を含むことを特徴としている。 これらのポリプロピレンの成分は、従来公知のポリプロピレンから選択して用いることができる。また、並列あるは直列の多段重合によってこれらの成分を調製しポリプロピレン組成物を調製することも行われる。 これらポリプロピレンの成分は、一般にポリプロピレンの名称で製造・販売されているプロピレンを主体とする重合体であり、通常、密度が0.890~0.930g/cm3、MFR(ASTM D1238荷重2160g、温度230℃)が0.001~60g/10分、好ましくは0.5~10g/10分、更に好ましくは1~5g/10分のプロピレンの単独重合体若しくはプロピレンと他の少量例えば、1質量%以下のα-オレフィン、例えばエチレン、ブテン、ヘキセン-1等との共重合体、あるいは単独重合体と共重合体との組成物である。 本発明の延伸フィルムは、ペンタッド分率の値が92%以上のポリプロピレンから選ばれる2成分のポリプロピレンを含み、それら両者のポリプロピレン成分のペンタッド分率の値の差は1%~5%、中でも好ましくは1%~4%、更に好ましくは2%~4%のものが用いられる。 【0007】 ・・・(略)・・・ これらの特定の2成分を含むポリプロピレンとしては、ペンタッド分率の値が92%から98.5%のポリプロピレン成分(a)とペンタッド分率の値が93%から99.5%のポリプロピレン成分(b)を含み、ポリプロピレン成分(a)とポリプロピレン成分(b)のペンタッド分率の差が1%~5%、中でも好ましくは1%~4%、更に好ましくは2%~4%であるポリプロピレン組成物が好適である。 ・・・(略)・・・ さらに本発明の延伸フィルムにおけるポリプロピレン成分(a)は30~70質量%、中でも40から60質量%、およびポリプロピレン成分(b)が70~30質量%、中でも60~40質量%((a)と(b)の合計で100質量%とする。)であることが好適である。 ・・・(略)・・・ 【0008】 ・・・(略)・・・ また、ポリプロピレン組成物には、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、ベンジリデンソルビトール等の核剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機または有機の充填剤等の通常、ポリオレフィンに用いる各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加しておいてもよい。 【0009】 少なくとも一方向に延伸されたフィルム 本発明に用いられる少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムには、タテ方向に一軸延伸された延伸フィルム、ヨコ方向に一軸延伸された延伸フィルム、逐次二軸延伸された延伸フィルム、同時二軸延伸フィルム等がある。 ・・・(略)・・・ また、逐次二軸延伸する成形方法には従来から知られている方法を採用することができる。一般にはタテ方向(MD方向)の延伸倍率は2~7倍、ヨコ方向(TD方向)の延伸倍率は3~13倍である。」 ・「【0015】 実施例6ないし8 逐次二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造 プライムポリマー社製F300SV[密度:910Kg/m3、MFR:3.0g/10分(230℃)、ペンタッド分率98%]50質量%及びプライムポリマー社製F113G[密度:910Kg/m3、MFR:3g/10分(230℃)、ペンタッド分率92%]50質量%を用い、スクリュー押出機で溶融押出し、逐次二軸延伸フィルム成形装置を用い、テンター(予熱温度:188℃、延伸温度:166℃及び熱セット温度:170℃並びに緩和率;タテ方向:4%及びヨコ方向:4%)を用い、タテ方向(MD)及びヨコ方向に表3に示す倍率で延伸して、厚さ30ミクロン(μm)の逐次二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。 結果を表3に示す。」 ・「【0017】 [図:0001411353000001.jpg] 」 ・「【0018】 本発明によれば、延伸性に優れたポリプロピレン組成物により機械的物性に優れ、耐熱性に優れた延伸フィルムを得ることができ、包装材料としてばかりでなく、離型フィルム等の種々の産業材用途への利用が可能である。」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に実施例6ないし8に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「プライムポリマー社製F300SV[密度:910Kg/m3、MFR:3.0g/10分(230℃)、ペンタッド分率98%]50質量%及びプライムポリマー社製F113G[密度:910Kg/m3、MFR:3g/10分(230℃)、ペンタッド分率92%]50質量%を用い、スクリュー押出機で溶融押出し、逐次二軸延伸フィルム成形装置を用い、テンター(予熱温度:188℃、延伸温度:166℃及び熱セット温度:170℃並びに緩和率;タテ方向:4%及びヨコ方向:4%)を用い、タテ方向(MD)及びヨコ方向に表3の実施例6ないし8に示す倍率で延伸して、得た厚さ30ミクロン(μm)の逐次二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」(当審注:「表3」については上記ア参照。) (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「逐次二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は本件特許発明1における「フィルム」及び「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えたフィルム」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「フィルムであって、 プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えたフィルム。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1> 「フィルム」の用途に関して、本件特許発明1においては「食品を包装するための」と特定されているのに対し、甲1発明においては用途が特定されていない点。 <相違点2> 本件特許発明1においては「前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、 昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、 昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、 を続けて行ったとき、 前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、 前記吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲1には、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項に関する記載は何らないことから、相違点2は実質的な相違点である。 また、甲1には、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0012】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ 特許異議申立人の主張について (ア)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次のとおり主張をする。なお、摘記に際し、空白行等は適宜省略した。 「要件(C)、(C-1)、(C-2) ・・・(略)・・・ これに対し、甲1発明(特に実施例6~8で具現化される甲1発明)では、ポリプロピレンとして、プライムポリマー社製F300SV(融点163℃(甲第2号証[0106])50質量%と、プライムポリマー社製F113G(融点157℃(甲第3号証[0051]))50質量%が用いられている。 そうすると、プライムポリマー社製F300SV(融点163℃(甲第2号証[0106])は、融点162℃超えの第2プロピレン系重合体に対応し、プライムポリマー社製F113G(融点157℃(甲第3号証[0051]))は、融点162℃以下の第1プロピレン系重合体に対応しており、これらの使用量(50質量%)は、第1プロピレン系重合体量10~70質量%、第2プロピレン系重合体量30~90質量%の範囲内であることから、甲1発明明細書には、本件特許発明明細書に記載の異なるポリプロピレン系重合体の融点及び含有量が記載されている。 ・・・(略)・・・ これに対し、甲1発明明細書の段落0007は、ペンタッド分率の値が92%から98.5%のポリプロピレン成分(a)とペンタッド分率の値が93%から99.5%のポリプロピレン成分(b)を含むことを記載するところ、実施例6~8で具現化される甲1発明では、プライムポリマー社製F300SV(メソペンタッド分率98%)が用いられている。そうすると、プライムポリマー社製F300SVは、第2プロピレン系重合体に対応し、第2プロピレン系重合体のアイソタクチックメソペンタッド分率(mmmm)96.0%以上を満たしていることから、甲1発明明細書は、本件特許発明明細書に記載の第2ポリプロピレン系重合体のメソペンタッド分率を開示する。 ・・・(略)・・・ これに対し、甲1発明は、実施例6~8において、プライムポリマー社製F300SV(MFR3.0g/10分)と、プライムポリマー社製F113G(MFR3g/10分)を用いており、第2プロピレン系重合体に対応するプライムポリマー社製F300SVのメルトフローレートと、第1プロピレン系重合体に対応するプライムポリマー社製F113Gのメルトフローレートは、本件特許発明明細書に記載のメルトフローレート(MFR)0.5g/10分以上20g/10分以下の範囲内にあることから、甲1発明明細書は、本件特許発明明細書に記載のポリプロピレン系重合体のメルトフローレートを開示する。 ・・・(略)・・・ これに対し、甲1発明では、従来から知られている方法を採用する旨が段落0009に記載され、実施例6~8で具現化される甲1発明では、縦延伸温度:166℃、縦延伸倍率:5倍(実施例6)、6倍(実施例7)、7倍(実施例8)、横延伸温度:166℃、横延伸倍率:11倍の条件が採用されている。 なお、甲1発明明細書の縦延伸温度が本件特許発明明細書の縦延伸温度を超えている点について、甲1発明明細書の段落0009が従来公知の方法を採用することを記載すること、本件特許発明明細書の段落0069が公知のOPPフィルムの製造条件を採用することを記載すること、引張弾性率が本件特許発明(本件特許発明6参照)と甲1発明で実質的に同じであることに鑑みると、実質的に同等の条件として見なすことができる。 以上より、甲1発明明細書は、本件特許発明明細書に記載の二軸延伸の条件を記載している。 この様に、甲1発明明細書は、本件特許発明明細書と同一のプロピレン系重合体や延伸の条件を記載しており、得られるプロピレンフィルムは、本件特許発明のプロピレンフィルムと同一であって、実施例6~8で具現化される甲1発明は、本件特許発明1の吸熱ピークA及び吸熱ピークAの熱量95J/g以上120J/g以下を内在的に包含している。 また、甲第4号証の段落0059には、ポリプロピレン樹脂「F133A」(株式会社プライムポリマー製);融点(Tm-D):168℃、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g、[mmmm]:97モル%が記載され、高融点、高メソペンタッドのプロピレンは、吸熱ピークA熱量95J/g~120J/gと同等の融解吸熱量を有することが分かるから、高融点(162℃超の融点)、高メソペンタッド(96.0%以上)のポリプロピレンを開示する甲第1号証も同様の吸熱ピークA熱量を有している蓋然性が高い。 ・・・(略)・・・ 仮に、甲1発明が、要件(A)の点で本件特許発明1と相違するとしても、当業者であれば、技術常識に基づいて二軸延伸プロピレンフィルムを食品包装の用途に使用することに想到できる。また、要件(C)~(C-2)のいずれかの点で相違するとしても、当業者にとって、食品包装用フィルムにおいて、高融点、高メソペンタッド分率のポリプロピレンの使用量を適宜調節する動機付けがあり、結果として、DSC曲線で観察される吸熱ピークAの熱量が所定範囲であることに容易に想到できる。」(特許異議申立書第39ないし43ページ) (イ)検討 そこで、上記主張について検討する。 甲1発明の認定の根拠となった実施例6ないし8(以下、「甲1の実施例」という。)で採用されたポリプロピレン樹脂は、「プライムポリマー社製F300SV[密度:910Kg/m3、MFR:3.0g/10分(230℃)、ペンタッド分率98%]」及び「プライムポリマー社製F113G[密度:910Kg/m3、MFR:3g/10分(230℃)、ペンタッド分率92%]」であるところ、甲2及び3によると、「プライムポリマー社製F300SV」の結晶融解ピーク温度は163℃であり、「プライムポリマー社製F113G」の融点は157℃である。 他方、発明の詳細な説明の【0073】ないし【0084】に記載された実施例(以下、「本件特許の実施例」という。)で採用されたプロピレン系重合体は、「PP1:高立体規則性プロピレン単独重合体(MFR:3g/10分、融点:167℃、アイソタクチックメソペンタッド分率(mmmm):98.5%)」及び「PP2:プロピレン単独重合体(MFR:3g/10分、融点:161℃、アイソタクチックメソペンタッド分率(mmmm):92%、)」である。 そうすると、甲1の実施例で採用されたポリプロピレン樹脂と本件特許の実施例で採用されたプロピレン系重合体は、物性値は多少近い値ではあるとしても、異なるものである。 また、甲1の実施例で採用された延伸温度は166℃であり、延伸倍率は、(タテ、ヨコ)が、(5倍、11倍)、(6倍、11倍)又は(7倍、11倍)であり、得られたフィルムの弾性率(GPa)は、(タテ、ヨコ)が(2.7、5.3)、(2.7、5.3)、(3.3、6.3)である。 他方、本件特許の実施例で採用された延伸温度は、縦延伸温度が115~130℃であり、横延伸温度が140~175℃であり、延伸倍率は、縦延伸倍率が5倍であり、横延伸倍率が10倍であり、得られたフィルムの弾性率(MPa)はT1(MD方向)が2066~2199(GPaに換算すると、2.066~2.199)、T2(TD方向)が4736~5310(GPaに換算すると、4.736~5.310)である。 そうすると、甲1の実施例で採用された延伸温度及び延伸倍率等の二軸延伸条件は本件特許の実施例で採用された延伸温度及び延伸倍率等の二軸延伸条件と異なるものであり、得られたフィルムの弾性率も異なるものである。 したがって、採用する原料及び二軸延伸条件が異なり、弾性率も異なるフィルムの他の物性値が同じになるとは当業者には考えられないことから、甲1の実施例における「吸熱ピークAの熱量」が95J/g以上120J/g以下である蓋然性が高いとはいえない。 さらに、甲4に記載された「ポリプロピレン樹脂「F133A」(株式会社プライムポリマー製)」が「融点(Tm-D):168℃、融解吸熱量(ΔH-D):97J/g、[mmmm]:97モル%」であったとしても、甲1の実施例で採用されたプロピレン系重合体とは異なるものであるから、甲1の実施例における「吸熱ピークAの熱量」が95J/g以上120J/g以下である蓋然性が高いことにはならない。 すなわち、「実施例6~8で具現化される甲1発明は、本件特許発明1の吸熱ピークA及び吸熱ピークAの熱量95J/g以上120J/g以下を内在的に包含している。」とはいえない。 また、「吸熱ピークAの熱量」に着目し、その値を所定範囲の値に調整する記載が甲1を含めいずれの証拠にもない以上、「当業者にとって、食品包装用フィルムにおいて、高融点、高メソペンタッド分率のポリプロピレンの使用量を適宜調節する動機付けがあり、結果として、DSC曲線で観察される吸熱ピークAの熱量が所定範囲であることに容易に想到できる。」ともいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ まとめ したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2ないし6及び14について 本件特許発明2ないし6及び14は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明7ないし13及び15について 本件特許発明7ないし13及び15は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件特許発明16について 本件特許発明16は、請求項1ないし15を引用するものであり、本件特許発明1ないし15を用いた「食品包装体」の発明であるから、本件特許発明1ないし15が甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件特許発明16も甲1に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし6及び14は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし16は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由2(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第2のとおり、本件特許発明14は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 発明の詳細な説明の【0025】には、本件特許発明14の発明特定事項である「水蒸気透過度」について、その調整方法を含め具体的に記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0026】には、「二軸延伸ポリプロピレン系フィルム」の厚さについて具体的に記載され、同【0042】ないし【0055】には、「ヒートシール層」の組成や厚さについて具体的に記載されている。 さらに、発明の詳細な説明の【0081】ないし【0084】には、本件特許発明14の実施例について、具体的に記載されている。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明14を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明14に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 2における主張について検討するに、次のとおり、該主張は採用できない。 「水蒸気透過度」の測定方法は、本件特許の請求項14に記載されているとおりであり、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明の【0025】には、本件特許発明14の「水蒸気透過度」の測定方法及び「水蒸気透過度」の調整方法が記載されている。 また、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明の【0026】には、「二軸延伸ポリプロピレン系フィルム」の厚さについて具体的に記載され、同【0042】ないし【0055】には、「ヒートシール層」の組成や厚さについて具体的に記載されている。 したがって、本件特許の実施例において、「二軸延伸ポリプロピレン系フィルム」の厚さ並びに「ヒートシール層」の組成及び厚さが明らかにされていないとしても、当業者であれば、発明の詳細な説明の実施例に関する記載及びそれ以外の記載、特に【0025】、【0026】及び【0042】ないし【0055】の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明14を生産し、使用をすることができるといえる。 (4)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし15の解決しようとする課題は「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルム」を提供することであり、本件特許発明16の解決しようとする課題は「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを用いた食品用包装体」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。 他方、発明の詳細な説明の【0011】には、本件特許発明1ないし16に対応する記載がある。 また、発明の詳細な説明の【0018】には、本件特許発明1ないし16の発明特定事項である「吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」ことの技術的意義が記載されている。 さらに、発明の詳細な説明の【0073】ないし【0084】において、「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え」た「食品用包装フィルム」であって「吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」という条件を満たす実施例1ないし7は、そうでない比較例1ないし3と比べて、厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上していることを確認している。 そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えた吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である食品用包装フィルム」は、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1は、発明の課題を解決できると認識できる上記「食品用包装フィルム」であり、本件特許発明2ないし15は、発明の課題を解決できると認識できる上記「食品用包装フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明16は、発明の課題を解決できると認識できる上記「食品用包装体」であるか、それをさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし16は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし16に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 3における主張について検討するに、次のとおり、いずれの主張も採用できない。 ア 上記第3 3(1)における主張について 上記(2)のとおり、発明の詳細な説明の【0018】には、本件特許発明1ないし16の発明特定事項である「吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」ことの技術的意義が記載されており、該記載及び本件特許の実施例に関する記載から、「吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」という条件を満たすプロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えた食品用包装フィルムであれば、程度の差はあれ、当業者は発明の課題を解決できると認識できる。 また、上記条件を満たすプロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えた食品用包装フィルムであっても、課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。 イ 上記第3 3(2)における主張について 仮に、甲6又は7に記載されたものと比べて、発明の詳細な説明に記載された「水蒸気透過度」が高かったとしても、本件特許発明1で特定された条件を満たさない比較例と比べれば、本件特許発明1で特定された条件を満たす実施例は、「厚みムラ抑制」及び「水蒸気バリア性向上」の両方をバランス良く向上させていることから、「吸熱ピークAの熱量が95J/g以上120J/g以下である」という条件を満たすプロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えた食品用包装フィルムであれば、当業者は発明の課題を解決できると認識できる。 そもそも、サポート要件に適合するかどうかの判断は、上記(1)の判断基準に基づいて行うものであり、甲6又は7等の他の証拠に記載されたものと比べて優れた効果を奏するかどうかで行うものではない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 第7 結語 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701391

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    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J
  • 2025-700195異議申立 / 2025-12-17 / 訂正認容樹脂粒子及びその用途
    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J

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