2024-701107
熱融着性積層フィルム
- 審判番号
- 2024-701107
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-165414外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7497803
- 請求日
- 2024年11月14日
- 審決日
- 2025年07月23日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アールエム東セロ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】平居 博美
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第7497803号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年9月30日に出願され、令和6年6月3日にその特許権の設定登録がされ、令和6年6月11日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~5に係る特許に対し、令和6年11月14日に特許異議申立人平居博美(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。それ以降の経緯は以下のとおりである。
令和7年 2月18日付け 取消理由通知書
令和7年 4月22日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
なお、令和7年5月2日付けで当審から申立人に対して訂正請求があった旨の通知を行い、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、当該期間内に申立人から応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)は、特許第7497803号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審において訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「(C)ラミネート層が、2質量%以上の、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレン、及び50質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有する」とあるのを、
「(C)ラミネート層が、2.2質量%以上10.0質量%以下の、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレン、及び50質量%以上97.8質量%以下の(a)プロピレン重合体を含有する」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項は、請求項1に記載のラミネート層が含有するバイオマス由来の低密度ポリエチレンの含有量の数値範囲及びプロピレン重合体の含有量の数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書の【0079】~【0080】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
4 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】(A)熱融着層、(B)中間層、および(C)ラミネート層を有する積層フィルムであって、(A)熱融着層が、40質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有し、(B)中間層が、50質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有し、続きを表示(全13行)(C)ラミネート層が、2.2質量%以上10.0質量%以下の、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレン、及び50質量%以上97.8質量%以下の(a)プロピレン重合体を含有する、上記積層フィルム。【請求項2】DSC測定より得られる融解曲線より算出した100℃~170℃の融解熱量ΔHが50~87.5J/gである、請求項1に記載の積層フィルム。【請求項3】(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレンの分子量分布Mw/Mnが、3.5以上である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。【請求項4】(C)ラミネート層の側に、更に(D)基材層を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層フィルム。【請求項5】請求項1から4のいずれか一項に記載の積層フィルムを含む蓋材とポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種を含む本体部からなる包装容器。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~5に対し、当審において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明1では、「(C)ラミネート層が、2質量%以上の、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレン、及び50質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有する」と特定されているものの、バイオマス由来の低密度ポリエチレンの含有量の上限値、及び、プロピレン重合体の含有量の上限値が特定されていないから、実施例1~6で効果が確認されている範囲を除いた本件発明1の範囲において、「プロピレン重合体等に起因する優れた特性を維持しながら、プラスチック容器用の蓋材等に好適な高い耐衝撃性を有する」という課題が解決できることを当業者が認識することができない。
よって、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献一覧](以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。)
2 引用文献の記載事項、発明
折りたたみ中(クリックで表示)
(1)甲1について
甲1の【0001】、【0080】~【0081】、【0085】、【0093】【表1】の記載を参照し、特に実施例4について着目すると、甲1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「ラミネート層(A)の原料樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に、プロピレン系樹脂250質量部を配合した混合樹脂を、中間層(B)の原料樹脂としてプロピレン重合体を、シール層(C)の原料樹脂としてプロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体をそれぞれ供給し、Tダイスより共押出し、ラミネート層(A)が5μm、中間層(B)が11μm、シール層(C)が4μmになるように調整して、合計の厚み20μmの多層フィルムを得た後、巻取機にて巻き取ることにより得た、ラミネート層(A)/中間層(B)/シール層(C)からなる、包装材用の多層シーラントフィルム1。」
(2)周知技術
ア 甲2には次の記載がある。なお下線は当審において付与したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。
「【0004】・・・特に、ポリエチレンは、フィルム、シート、ボトル等に成形され、包装材等の種々の用途に供されており、世界中での使用量が多い。そのため、従来の化石燃料由来のポリエチレンを用いることは環境負荷が大きい。【0005】そのため、ポリエチレンの製造にバイオマス由来の原料を用いて、化石燃料の使用量を削減することが望まれている。例えば、現在までに、ポリオレフィン樹脂の原料となるエチレンやブチレンを、再生可能な天然原料から製造することが研究されてきた・・・。」
「【0063】上記のポリオレフィンが、ポリエチレンであることが好ましい。バイオマス由来の原料であるエチレンを用いることで、理論上100%バイオマス由来の成分により製造することが可能となるからである。」
イ 甲3には次の記載がある。
「1.はじめに・・・当社は、南米・ブラジルのBraskem社と共同で、プラスチック類の中で最も多く生産されているポリエチレンを従来の石油由来から植物由来にするため、2006年より技術開発に着手した。次いで07年にパイロットプラントにて技術検証を行い、08年に商業化が決定した。10年にプラントが完成予定であり、11年初旬より年間20万トンのポリエチレンの生産が開始される予定である。ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、・・・地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」(63ページ左欄1行~末行)
「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性・・・(2)ポリエチレン試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同一条件でポリエチレン重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。・・・基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(63ページ右欄4行~末行)
ウ 甲4には次の記載がある。
「それでは以下にサトウキビポリエチレンについて詳しく紹介をしたい。3.生産スキーム2011年初旬より、Braskem社はトリウンフォ工場でHDPEとLLDPEを合せて年産20万トンの規模で生産する計画である。・・・エチレン品質が従来の石油系と同等であることが実証試験で確認されたこと、試験重合機を利用して重合の同等性が確認された・・・」(28ページ右欄10~26行)
エ 上記ア~ウの記載を踏まえると、次の事項は本件出願時における周知技術(以下「周知技術1」という。)であるといえる。
「環境負荷低減の観点からプラスチックの材料を従来の石油由来のものからバイオマス由来のものに置換する要請があり、バイオマス由来のポリエチレンが入手可能であり、バイオマス由来ポリエチレンは石油由来ポリエチレンと同等の物性であり置換可能なこと。」
3 当審における判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
本件明細書には、本件発明が解決しようとする課題として「熱融着層を有するポリオレフィン系積層フィルムであって、プロピレン重合体等に起因する優れた特性を維持しながら、プラスチック容器用の蓋材等に好適な高い耐衝撃性を有する、積層フィルムを提供すること」(【0004】)と記載されており、該課題を解決する手段として、「熱融着層、中間層、およびラミネート層を有する積層フィルムであって、該ラミネート層に所定量のバイオマス由来の低密度ポリエチレンを添加することで、フィルムの耐衝撃性が顕著に向上しこれにより上記課題を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った」(【0005】)ことを前提に、課題を解決する手段として「(A)熱融着層、(B)中間層、および(C)ラミネート層を有する積層フィルムであって、(C)ラミネート層が、2質量%以上の、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレンを含有する、上記積層フィルム」(【0005】)とすることが記載されている。
そして、本件明細書の【0080】【表1】には、熱融着層、中間層及びラミネート層を有する積層フィルムにおいて、ラミネート層が2.2~10.0質量%のバイオマス由来の低密度ポリエチレンを含有することにより耐衝撃性が向上していることが示されているところ、2.2~10.0質量%のバイオマス由来の低密度ポリエチレンを含有することは本件発明1において特定されているから、本件発明1が本件発明の課題を解決できることを当業者であれば認識できる。
よって、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
引用発明の「ラミネート層(A)」、「中間層(B)」、「シール層(C)」は、本件発明1の「(C)ラミネート層」、「(B)中間層」、「(A)熱融着層」にそれぞれ相当する。
引用発明の「ラミネート層(A)/中間層(B)/シール層(C)からなる、包装材用の多層シーラントフィルム1」は、本件発明1の「(A)熱融着層、(B)中間層、および(C)ラミネート層を有する積層フィルム」に相当する。
引用発明の「ラミネート層(A)の原料樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に、プロピレン系樹脂250質量部を配合した混合樹脂を」用いることは、プロピレン系樹脂の配合割合が約71質量%(=250/(100+250))、直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合が約29質量%(=100/(100+250))と計算できること、及び本件明細書の「本発明において用いられる、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレンは、バイオマス由来の原料を用いて製造したエチレンを重合して得られる密度910~930kg/m3の低密度ポリエチレンおよび線状低密度ポリエチレンの双方を指称する。」(【0015】)との記載を踏まえると、本件発明1の「(C)ラミネート層が、2.2質量%以上10.0質量%以下の、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレン、及び50質量%以上97.8質量%以下の(a)プロピレン重合体を含有する」ことと、「(C)ラミネート層が、(b)低密度ポリエチレン、及び50質量%以上97.8質量%以下の(a)プロピレン重合体を含有する」限りにおいて一致する。
引用発明の「中間層(B)の原料樹脂としてプロピレン重合体を」用いることは、本件発明1の「(B)中間層が、50質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有し」ていることに相当する。
引用発明の「シール層(C)の原料樹脂としてプロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体を」用いることは、本件発明1の「(A)熱融着層が、40質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有し」ていることに相当する。
以上を総合すると、本件発明1と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「(A)熱融着層、(B)中間層、および(C)ラミネート層を有する積層フィルムであって、(A)熱融着層が、40質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有し、(B)中間層が、50質量%以上の(a)プロピレン重合体を含有し、(C)ラミネート層が、(b)低密度ポリエチレン、及び50質量%以上97.8質量%以下の(a)プロピレン重合体を含有する、上記積層フィルム。」
[相違点]
「(C)ラミネート層が、(b)低密度ポリエチレン、及び50質量%以上97.8質量%以下の(a)プロピレン重合体を含有する」点について、本件発明1では、低密度ポリエチレンが「バイオマス由来」であって「2.2質量%以上10.0質量%以下」含有するのに対し、引用発明では、直鎖状低密度ポリエチレンがバイオマス由来か不明であり、さらに、配合割合が約29質量%である点。
(イ)判断
引用発明は、「包装時のヒートシール条件に関わらず、開封性の一定した包装形態を形成しうる多層シーラントフィルムを提供すること」(【0010】)を課題とするものであり、「ラミネート層(A)が、直鎖状低密度ポリエチレン(A1)100質量部と、融点が140~165℃のポリプロピレン系樹脂(A2)30~300質量部とを含」(【0013】)むことを、上記課題を解決する手段として含むものである。そして、当該課題解決手段において示されているラミネート層における直鎖状低密度ポリエチレンの含有量の範囲は、25%(=100/(300+100))~77%(=100/(30+100))である。
そうすると、引用発明において、ラミネート層の直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合を上記値よりも大幅に低い「2.2質量%以上10.0質量%以下」とすることには阻害要因がある。
また、相違点に係る本件発明1の構成については、取消理由で引用した甲2~甲4のほか、申立人が提出した他の証拠(甲5(国際公開第2018/163836号)、甲6(特開2013-136689号公報))にも記載も示唆もされておらず、その他の証拠もない。
そうすると、引用発明において、上記相違点のうち直鎖状低密度ポリエチレンをバイオマス由来のものにするか否かという点を検討するまでもなく、相違点に係る本件発明1の構成とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
よって、本件発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記ア(イ)と同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由2(サポート要件)
(1)熱融着層におけるプロピレン重合体の含有率の上限値について
ア 申立人の主張の概要
本件特許の請求項1に係る発明では、熱融着層におけるプロピレン重合体の含有率の上限値が特定されていないから、熱融着層がプロピレン重合体のみからなるものも含まれる。
しかしながら、本件明細書には、本発明の積層フィルムを構成する熱融着層について「高いシール強度が得られるように、低融点の樹脂を用いることが好ましい。」(【0044】)と記載されるとともに、本件明細書の表1の実施例1~6においては、熱融着層に低融点の樹脂であるHDPE、DBR及びEPR並びに59.2質量%(=34.2+25.0)のプロピレン重合体を含む積層フィルムが耐衝撃性に優れていることが開示されているに過ぎない。
そうすると、出願時の技術常識に照らしても、熱融着層がプロピレン重合体のみからなるものも含まれる本件特許の請求項1~5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 当審の判断
本件発明は、本件課題(耐衝撃性)を、ラミネート層に所定量のバイオマス由来の低密度ポリエチレンを含むことで解決するものである。一方、熱融着層におけるプロピレン重合体の含有率の上限は、熱融着層がその機能のために必要に応じて適宜含有する低融点の樹脂の含有率に伴い自ずと上限値が定まるものであるから、請求項1の記載において該上限値を特定することを必ずしも要しないものである。
したがって、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないものであるとすることはできない。
(2)積層フィルムの融解熱量ΔHについて
ア 申立人の主張の概要
(ア)主張1
本件特許の請求項2に係る発明では、「100℃~170℃の融解熱量ΔHが50~87.5J/gである」と特定されているところ、本件明細書の実施例1~6では融解熱量ΔHが81.1~86.7J/gの範囲のものしか開示されておらず、その他の範囲の実施例は開示されていない。
そうすると、出願時の技術常識に照らしても、融解熱量ΔHが81.1~86.7J/gの範囲以外のものも含む請求項2~5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(イ)主張2
本件特許の請求項1に係る発明及び請求項2を引用しない請求項3~5に係る発明では、融解熱量ΔHについて特定されていないところ、本件明細書の「100℃~170℃の融解熱量ΔHは、50~87.5J/gであること・・・で、耐衝撃強度を一層効果的に向上させることができる。」(【0063】)との記載を踏まえると、表1の実施例1~6はその融解熱量ΔHが上記【0063】の数値範囲を満たすことにより積層フィルムの耐衝撃強度が向上していることがわかる。
そうすると、出願時の技術常識に照らしても、融解熱量ΔHについて特定されていない請求項1に係る発明及び請求項2を引用しない請求項3~5に係る発明まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 当審の判断
上記主張1、2についてまとめて判断するに、本件発明は、本件課題(耐衝撃性)を、上記のとおり請求項1のラミネート層に所定量のバイオマス由来の低密度ポリエチレンを含むことで解決するものである。一方、融解熱量ΔHに関しては、「融解熱量ΔHが50~87.5J/gであることが好ましい」とし、これにより「耐衝撃強度を一層効果的に向上させることができる」(【0063】)とするものである。
そうすると、本件課題の解決において、融解熱量ΔHは必ずしも実施例の値に拘泥されるものではないことは当業者にとって明らかである。
したがって、請求項1~5に係る発明について、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないものであるとすることはできない。
2 申立理由3(実施可能要件)
(1)申立人の主張の概要
本件特許の請求項2に係る発明では、「100℃~170℃の融解熱量ΔHが50~87.5J/gである」と特定されているところ、本件明細書の実施例1~6では融解熱量ΔHが81.1~86.7J/gの範囲のものしか開示されておらず、その他の範囲の実施例は開示されておらず、融解熱量ΔHの調整については、【0063】に記載されているのみである。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件発明1~5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2)当審の判断
発明の詳細な説明の実施例1~6において、本件発明2の数値範囲内の融解熱量を有する積層フィルムを作製することが記載されているし、「100℃~170℃の融解熱量ΔHは、(b)バイオマス由来の低密度ポリエチレン、(c)バイオマス由来の線状低密度ポリエチレン、石油由来のポリエチレン等を添加する等してフィルムの結晶性を低下させることで減少させることができる。」(【0063】)との記載に基づいて、当業者であれば、融解熱量ΔHを本件発明2の数値範囲内に調整することができるものである。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1~5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2024-701107