特許異議申立
2024-700114
球状アルミナ粒子混合物及びその製造方法、並びに当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体
- 審判番号
- 2024-700114
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-572396
- 登録番号
- 7325670
- 請求日
- 2024年02月08日
- 審決日
- 2025年07月08日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】福地 律生
- 【権利者代理人】齋藤 学
- 【権利者代理人】木村 健治
- 【権利者代理人】堂垣 泰雄
- 【異議申立人】山田 彰彦
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1652.537-YAA(C01F) / P1652.113-YAA(C01F) / P1652.121-YAA(C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7325670号発明「球状アルミナ粒子混合物及びその製造方法、並びに当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7325670号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7325670号の請求項1、5、6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7325670号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和4年3月30日(優先権主張 令和3年3月31日)に出願され、令和5年8月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1、5、6に係る特許に対して、令和6年2月8日に特許異議申立人山田彰彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年4月30日付けで取消理由が通知され、同年7月8日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年9月4日に申立人により意見書の提出がされ、同年12月11日付けで訂正拒絶理由が通知され、令和7年2月19日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年4月25日に、特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
なお、令和7年4月25日に特許権者により訂正の請求がされたので、令和6年7月8日にされた訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容及び一群の請求項について
令和7年4月25日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第4項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~7〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の、訂正事項1~8からなるものである(当審注:下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
α化率が45%以上であること、
比表面積が0.3~1.0m2/gであること、及び、
円形度が0.85以上であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」と記載されているのを、
「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、
α化率が47.53%以上であること、
比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること、及び、
円形度が0.88超であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
明細書の【0012】に
「(1)湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
α化率が45%以上であること、
比表面積が0.3~1.0m 2/gであること、及び、
円形度が0.85以上であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」と記載されているのを、
「(1)湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、
α化率が47.53%以上であること、
比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること、及び、
円形度が0.88超であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【0087】に
「(実施例1~実施例12)」と記載されているのを、
「(実施例1、3、および9)」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0090】に
「なお実施例6は最大フィラー充填量が91%であったため、実施例6に記載の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物」と記載されているのを、
「なお参考例6は最大フィラー充填量が91%であったため、参考例6に記載の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の【0094】に
「表1、表2にあるように、本発明の球状アルミナ粒子混合物は破砕粒子を使用するよりも粘度、熱伝導率、最大フィラー充填量において優位であることが分かる。例えば、実施例4と比較例3を比較すると、最大フィラー充填量は実施例の方が高く、最大充填時の熱伝導率も高い。さらに粘度も実施例4の方が低いため、実施例4の方が優位であるといえる。加えて、実施例2と比較例2、実施例3と比較例1をそれぞれ比較すると、最大フィラー充填量はほぼ同等であるが、粘度はいずれの場合も、比較例2よりも実施例2が低く、比較例1よりも実施例3の方が低いので、どちらの場合も実施例が優位であるといえる。比較例4は、破砕粒子(2)を含んでおり、実施例(7)と比較すると最大フィラー充填量はほぼ同等であるが、円形度が低く、粘度が高くなるため実施例(7)が優位であった。・・・また、比較例5と実施例4を比較すると実施例4の方が熱伝導率が高く、粘度も低いことから実施例の方が優位である。」と記載されているのを、
「表1、表2にあるように、本発明の球状アルミナ粒子混合物は破砕粒子を使用するよりも粘度、熱伝導率、最大フィラー充填量において優位であることが分かる。例えば、参考例4と比較例3を比較すると、最大フィラー充填量は参考例の方が高く、最大充填時の熱伝導率も高い。さらに粘度も参考例4の方が低いため、参考例4の方が優位であるといえる。加えて、参考例2と比較例2、実施例3と比較例1をそれぞれ比較すると、最大フィラー充填量はほぼ同等であるが、粘度はいずれの場合も、比較例2よりも参考例2が低く、比較例1よりも実施例3の方が低いので、どちらの場合も参考例2または実施例3が優位であるといえる。比較例4は、破砕粒子(2)を含んでおり、参考例(7)と比較すると最大フィラー充填量はほぼ同等であるが、円形度が低く、粘度が高くなるため参考例(7)が優位であった。・・・また、比較例5と参考例4を比較すると参考例4の方が熱伝導率が高く、粘度も低いことから参考例の方が優位である。」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の【0094】に
「・・・が優位であった。であった。また・・・」と記載されているのを、
「・・・が優位であった。また・・・」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の【0094】に
「比較例4では、超微粒子(2)を含み、比表面積が大きくなってしまったことによると考えられる。」と記載されているのを、
「比較例5では、超微粒子(2)を含み、比表面積が大きくなってしまったことによると考えられる。」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の【0096】(【表2】)に
「実施例(2)」、「実施例(4)」、「実施例(5)」、「実施例(6)」、「実施例(7)」、「実施例(8)」、「実施例(10)」、「実施例(11)」、「実施例(12)」と記載されているのを、
「参考例(2)」、「参考例(4)」、「参考例(5)」、「参考例(6)」、「参考例(7)」、「参考例(8)」、「参考例(10)」、「参考例(11)、「参考例(12)」に訂正する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付した明細書の【0096】【表2】の記載に基づき、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「α化率」、「比表面積」及び「円形度」の各数値範囲を限定し、【0106】【表7】及び【0108】【表8】の記載に基づき、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「平均粒径」の数値範囲を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2~5、8について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を、「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、α化率が47.53%以上であること、比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること、及び、円形度が0.88超であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」と訂正したことに明細書の記載を合わせるものであり、訂正事項3~5、8は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を、「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、α化率が47.53%以上であること、比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること、及び、円形度が0.88超であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」と訂正したことにより、実施例2、4、5、6、7、8、10、11、12が本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項を満たさなくなったことに記載を合わせるものである。
したがって、訂正事項2~5、8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項6について
訂正事項6は、不要な文言が挿入されていることに対する、誤記の訂正を行うものであるから、「誤記の訂正」を目的とするものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項7について
訂正事項7は、「超微粒子(2)」を含む例である「比較例5」を、「実施例4」と記載していた誤記を訂正するものであるから、「誤記の訂正」を目的とするものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)独立特許要件について
請求項1~7についての訂正(訂正事項1)は、上記(1)のとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるところ、本件訂正前の請求項1、5、6に係る発明についての特許に対しては、特許異議の申立てがされているので、前記請求項1、5、6に対応する本件訂正後の請求項1、5、6に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は適用されない。
一方、本件訂正前の請求項2~4及び7に係る発明についての特許に対しては、特許異議の申立てがされていないことから、前記請求項2~4及び7に対応する本件訂正後の請求項2~4及び7に係る発明については、さらに、独立特許要件について判断する必要がある。
下記第7で述べるように、訂正された請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項及び第2項の規定により特許を受けることができないものではないし、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものではないから、訂正された請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4及び7に係る発明についても、同様に特許法第29条第1項、第2項、及び同法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものではない。
また、他に特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとする理由もない。
よって、本件訂正後の請求項2~4及び7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
(6)訂正についてのまとめ
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定、並びに特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
よって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、5及び6に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明5」及び「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、5及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、
α化率が47.53%以上であること、
比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること、及び、
円形度が0.88超であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」
「【請求項5】
樹脂中に、請求項1~4のいずれか1項に記載された球状アルミナ粒子混合物を含有することを特徴とする、樹脂複合組成物。
【請求項6】
請求項5に記載された樹脂複合組成物を硬化してなることを特徴とする、樹脂複合体。」
第4 取消理由の概要
令和7年2月19日付け取消理由通知書(決定の予告)は、次の取消理由を通知したものである。
取消理由(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1、5、6の記載は、下記の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
【0096】の表2の実施例7、【0100】の表4-1の大粒子が45%含まれる例(以下、「実施例4-1(45%)」という。)は、設定登録時の請求項1の特定を満たすものであるが、非球状粒子を用いた、表2の比較例1~3と比較して、熱伝導率が向上しており、粘度が抑えられているとはいえない。
【0100】の表4-1の大粒子が50%含まれる例(以下、「実施例4-1(50%)」という。)は、設定登録時の請求項1の特定を満たすものであるが、非球状粒子を用いた表2の比較例2、3と比較して、熱伝導率が向上しており、粘度が抑えられているとはいえない。
【0096】の表2の実施例10、【0104】の表4-3の大粒子が52%含まれる例(以下、「実施例4-3(52%)」という。)、【0106】の表4-4の大粒子が56%含まれる例(以下、「実施例4-4(56%)」という。)は、設定登録時の請求項1の特定を満たすものであるが、非球状粒子を用いた表2の比較例1、2と比較して、熱伝導率が向上しており、粘度が抑えられているとはいえない。
そうすると、これらの実施例において、「樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる球状アルミナ粒子混合物とその製造方法、並びに当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体の提供」であって、その「熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる」とは、非球状粒子を用いた場合と比較した際に、「熱伝導率」が「向上」しており、「粘性」を「抑えることができ」ていること、という本件発明の課題が解決されているとはいえない。
してみれば、これらの実施例を包含する設定登録時の請求項1に係る発明では、本件発明の課題が解決されているとはいえないから、設定登録時の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。同様に、設定登録時の請求項5、6に係る発明も、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
したがって、設定登録時の請求項1、5、6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下の(1)~(3)のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2005-306718号公報
甲第2号証:特開2011-236118号公報
甲第3号証:特表2013-519612号公報
甲第4号証:特開平11-49515号公報
甲第5号証:伊串達夫、「粒子径分布測定-各種測定法と最適測定実現のために-」、J. Jpn. Soc. Colour Mater.、2006年、79[9]、p.410~418
甲第6号証:ナノマテリアル情報提供シート、材料名 非晶質コロイダルシリカ、事業者名 日産化学株式会社、令和元年、経済産業省
甲第7号証:酸化アルミニウム 安全データシート、2006年、厚生労働省
(以下、甲第1号証等を「甲1」等という。)
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性欠如)
設定登録時の請求項1、5、6に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、5、6に係る発明は、甲1に記載された発明にも基づいて、又は甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1、5、6の記載は、下記第7の1(5)ア(ア)a及びbの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第6 各証拠について
1 甲1について
甲1には、以下のことが記載されている(下線は当審で付した。以下、同様。)。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では、樹脂材料中に放熱性能を向上させ得るほどに高充填でき、かつ、高耐電圧特性を有する薄膜状絶縁性樹脂組成物(以下、薄膜樹脂シートと称する)の成膜を可能にする熱伝導性無機質粉体を提供し、電気絶縁性と放熱性能が要求される回路基板等の放熱部材として用いることが可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述の状況を鑑みて鋭意研究した結果、ある特定の粒度分布を有し、さらに好ましくは予め表面疎水化処理が施された、熱伝導性無機質粉体を用いることにより、樹脂コンパウンド粘度が高くなるような低球形度の粉体であるにもかかわらず樹脂材料に高充填でき、高熱伝導性を発現し、かつ、薄膜樹脂シート成膜時において高い絶縁破壊強度が得られることを見出し本発明に至った。」
(2)「【0032】
なお、上記以外の球形度の測定方法としては、粒子像分析装置、例えば「FPIA-2100」(シスメックス(株)社製)などにて定量的に自動計測された個々の粒子の円形度から、以下の式により換算して球形度を求めることもできる。
球形度=(円形度)2」
(3)「【0069】
【表1】
[図:0001427917000001.jpg]
」
2 甲2について
甲2には、以下のことが記載されている。
(1)「【0036】
本発明の球状アルミナ粉末の窒素吸着法により測定される比表面積は、1m2/g以下であり、好ましくは0.8m2/g以下である。比表面積が1m2/g以下であると、樹脂材料に配合したとき、樹脂材料の機械物性低下を抑制できる。」
(2)「【0059】
得られた球状アルミナ粉末は、比表面積0.6m2/g、D50:7.7μm、D50/Dbet:2.7、D90/D10:2.8、溶解性Na量:139ppm、ウラン含有量:7ppbの物性を有していた。」
3 甲3について
甲3には、以下のことが記載されている。
「【0022】
さらに、これらの球形αアルミナ粒子1は、1m2/g以下の比表面積を有する。この比表面積は、公知の様式で、液体窒素を使用したBET法で測定することができる。」
4 甲4について
甲4には、以下のことが記載されている。
「【0026】実施例1
バイヤー法により得られた水酸化アルミニウムC-12(中心粒径50μm、Na2O 0.2%、F 20ppm、住友化学工業株式会社製)6950g、平均粒径50μm、上記式1に於ける値が0.4のアルミナ(商品名:アルミナA-26,住友化学工業株式会社製)455g、弗化アルミニウム(和光純薬製)1.1gを添加混合した後、アルミナセラミックス製回転式小型焼成炉(内径7cm、長さ140cm、1300℃均一温度ゾーン60cm、傾斜角45゜、回転数2rpm、焼成炉上部にアルミナの回収用にガラスファイバー製フィルターを設置し、回収したアルミナは振動機によりフィルターから除去した後、キルン内に戻した)に供給速度100g/hで連続的に供給した。焼成炉内のアルミナの滞留時間は、6時間であった。焼成後に得られたαアルミナのBET比表面積は0.9m2/g、弗素含有量は170ppmであった。」
5 甲5について
甲5には、以下のことが記載されている。
「4.2.4 湿式法および乾式法による結果の考察
湿式,乾式,両手法で得られた結果を見ると,分布範囲の狭い試料JIS No.1,No.2,No.6は,No.2の乾式トリガー測定を除いてはほぼ一致した結果が得られた。」(42ページ右欄下から5~2行)
6 甲6について
甲6には、以下のことが記載されている。
「
[図:0001427917000002.jpg]
」(参考資料6)
7 甲7について
甲7には、以下のことが記載されている。
「比重(密度):3.97 4) 4.0 (20/4) 2)」(9.物理的及び化学的性質)
第7 当審の判断
取消理由と申立理由を、以下、あわせて検討する。
1 取消理由及び申立理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
(2)本件発明の課題について
本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件の発明の詳細な説明」という。)には、「そこで本発明は、樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる球状アルミナ粒子混合物・・・の提供を課題とする。」(【0011】)と記載されている。
そうすると、本件発明の課題は、「樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる球状アルミナ粒子混合物」「の提供」であるといえる。
(3)本件の発明の詳細な説明の記載について
ア 本件の発明の詳細な説明には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0016】
発明者らは、熱伝導性が高く、且つ、流動性に優れたアルミナ粒子混合物(より詳しくは、樹脂と混合した場合に、当該樹脂混合物の熱伝導率が高く、且つ、粘度の低い、アルミナ粒子混合物)を得るために、鋭意検討を行なった。その中で、球状アルミナ粒子混合物の比表面積と熱伝導率との間に相関関係があること、球状アルミナ粒子混合物の比表面積と流動性との間に相関関係があること、及び、球状アルミナ粒子混合物のα化率と熱伝導率との間に相関関係があること、を発明者らは知見した。その知見に基づいて、本発明者らは、本発明を完成させた。より具体的には、球状アルミナ粒子混合物において、α化率、及び比表面積を所定の範囲に制御することによって、所望する、熱伝導性が高く、且つ、流動性に優れた球状アルミナ粒子混合物、及びその製造方法、当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体を、本発明者らが完成させた。」
「【0018】
(湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること。) 本一実施態様による、球状アルミナ粒子は、概して、樹脂と混合されて、半導体封止材としても用いられることがある。封止される半導体素子は多くのワイヤーが高密度に配線されていることがあり、その配線どうしの間隔は狭隘なことがある。球状アルミナ粒子が、粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%超である場合、配線どうしの狭隘な間隔に、回り込めないおそれがある。なお、ここでの重量割合は、球状アルミナ粒子の全体を基準、すなわち100重量%、とするものである。
【0019】
同様に、球状アルミナ粒子は、概して、樹脂と混合されて、放熱シートや放熱接着剤などの放熱部材に用いられることがある。こうした放熱部材は圧力などで圧縮されることによって、熱を別の部材へ伝わりやすくするように使用されることがある。球状アルミナ粒子が、粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%超である場合、圧縮した際に180μm以上の粗大粒子によって圧縮が阻害される恐れがある。
【0020】
したがって、本一実施態様による、球状アルミナ粒子混合物は、配線どうしの狭隘な間隔にも廻り込むことができるように、あるいは、放熱部材が十分に圧縮できるように、180μm以上の粒子が0.04重量%以下である。または、実質的に、180μm以上に分布を持たない。」
「【0022】
(α化率が45%以上であること)
・・・
【0024】
本発明者らは、後段で詳述するように、球状アルミナ粒子混合物のバルクでの比表面積を特定の範囲に制御することにより、高い熱伝導性と優れた流動性を得ることができること、加えてそのときの球状アルミナ粒子混合物のバルクでのα化率が45%以上であれば、十分に高い熱伝導性が得られることを見出した。」
「【0027】
(比表面積が0.3~1.0m2/gであること)
・・・
【0039】
上記に基づいて、球状アルミナ粒子混合物のバルクでの比表面積は、0.3~1.0m2/gであり、より好ましくは0.35~1.0m2/gであり、さらに好ましくは0.4~1.0m2/gである。この範囲の比表面積であることにより、高い熱伝導率と流動性が得られる。」
「【0041】
(球状アルミナ粒子混合物)
本実施態様における球状アルミナ粒子混合物は、複数の粒径の球状アルミナ粒子を混合することによって得られる。球状とは、球状アルミナ粒子混合物としての円形度が0.85以上であることを意味する。好ましくは0.9以上である。この球状アルミナ粒子混合物を構成する、それぞれの球状アルミナ粒子はいずれの粒径の粒子も円形度が0.85以上であるアルミナ粒子であることが好ましく、0.9以上であるアルミナ粒子であることがより好ましい。アルミナ粒子混合物の円形度が0.85未満であると、当該アルミナ粒子混合物と樹脂とを混錬してできた成型体の硬度や液状混錬物の粘度が大きく悪化してしまうことがあるためである。」
「【0096】
【表2】
[図:0001427917000003.jpg]
・・・
【0100】
【表4】
[図:0001427917000004.jpg]
・・・
【0102】
【表5】
[図:0001427917000005.jpg]
・・・
【0104】
【表6】
[図:0001427917000006.jpg]
・・・
【0106】
【表7】
[図:0001427917000007.jpg]
・・・
【0108】
【表8】
[図:0001427917000008.jpg]
」
イ 上記ア【0016】によれば、球状アルミナ混合物の、α化率、及び比表面積を所定の範囲に制御することによって、所望する、熱伝導性が高く、且つ、流動性に優れた球状アルミナ粒子混合物が得られることが、【0018】~【0020】によれば、球状アルミナ混合物の、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であれば、樹脂と混合されて放熱部材として用いられたときに、放熱部材が十分に圧縮でき、熱を別の部材に伝わりやすくできることが、【0022】~【0024】によれば、球状アルミナ粒子混合物のα化率が45%以上であれば十分に高い熱伝導性が得られることが、【0027】~【0039】によれば、球状アルミナ混合物の、比表面積が0.3~1.0m2/gであれば高い熱伝導率と流動性が得られることが、【0041】によれば、球状アルミナ混合物の、円形度が0.85以上であれば、樹脂と混合した際の液状練混物の粘度が悪化しないことが記載されている。そうすると、球状アルミナ粒子混合物が、「180μm以上の粒子が0.04重量%以下」、「α化率が45%以上」、「比表面積が0.3~1.0m2/g」、「円形度が0.85以上」であることで、熱伝導性が高く、且つ、流動性に優れたものとなることが記載されているといえる。
そして上記ア【0096】【表2】、【0100】【表4】、【0102】【表5】、【0104】【表6】、【0106】【表7】、【0108】【表8】には、「180μm以上の粒子が0.04重量%以下」、「α化率が45%以上」、「比表面積が0.3~1.0m2/g」、「円形度が0.85以上」である球状アルミナ粒子混合物のうち、湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下、平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満、α化率が47.53%以上、比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満、円形度が0.88超である球状アルミナ粒子混合物について、比較例とされる例よりも熱伝導性が向上し、粘性が抑えられている実施例が多数記載されている。
そうすると、湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下、平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満、α化率が47.53%以上、比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満、円形度が0.88超である球状アルミナ粒子混合物は、「樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる球状アルミナ粒子混合物」「の提供」をするという、本件発明の課題を解決しているといえる。
(4)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討
本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第3に示したとおりであるところ、本件発明1は、「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、α化率が47.53%以上であること、比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること、及び、円形度が0.88超であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。」であるものであるから、そのようなものは、上記(3)イで述べたとおり、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明1は、本件発明の課題を解決するものである。
そして、本件発明1を引用する本件発明5、6についても、本件発明1と同様に、本件発明の課題を解決できるものであるといえる。
したがって、本件特許の請求項1、5、6の記載は、サポート要件を満たしている。
(5)申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
(ア)特許異議申立書における主張の概要
a 設定登録時の請求項1の範囲に属する、設定登録時の明細書の実施例(7)、実施例(10)のアルミナ粒子混合物は、比較例1~3のものよりも熱伝導率が低く、かつ粘度が高い結果となっているため、設定登録時の請求項1に係る発明は、熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えるという本件発明の課題を解決しない。
実施例4-1(45%)のアルミナ粒子混合物は、【0100】の表4-1に記載される、大粒子1’の割合が80%の例であって、設定登録時の請求項1の範囲外の比表面積を有する例であるアルミナ粒子混合物よりも、熱伝導率が低く、かつ粘度が高い結果となっているため、設定登録時の請求項1に係る発明は、熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えるという本件発明の課題を解決しない。
b 本件図面の図1、図2において、比表面積が設定登録時の請求項1の範囲内(0.3~1.0m2/g)であるもののうち、例えば比表面積が「0.3m2/g」である場合、熱伝導率及び粘性は、比表面積が上記数値範囲を超える場合と同等であるから、熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えるという本件発明の課題を解決しない。
(イ)令和6年9月4日に提出された意見書の意見の概要
a 令和6年7月8日に提出された訂正特許請求の範囲に記載された請求項1の範囲に属する、実施例4-3(52%)では、比較例1~3よりも熱伝導率が低く、比較例1、2よりも粘度が高いため、上記請求項1に係る発明は、熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えるという本件発明の課題を解決しない。
b 実施例4-1(45%)のアルミナ粒子混合物のα化率は45.35%であり、令和6年7月8日に提出された訂正特許請求の範囲に記載された請求項1の範囲を満たさないものであるが、そのα化率をわずかに上げて、上記請求項1の範囲を満たすように変更しても、その粘度及び熱伝導率は大きく変わらないことが容易に推測され、そのようなアルミナ粒子混合物が、本件発明の課題を解決するとは理解できない。そうすると、上記請求項1に記載の発明は、本件発明の課題を解決しない範囲を包含するものである。
イ 申立人の主張について
(ア)上記ア(ア)a及び上記ア(イ)aについて
本件訂正により、実施例7及び実施例10、実施例4-1(45%)、実施例4-1(50%)、実施例4-3(52%)、実施例4-4(56%)は、いずれも、本件発明1を満たす実施例ではなくなった。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(イ)上記ア(ア)bについて
本件発明1は「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること」、「平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること」、「α化率が47.53%以上であること」、「比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満であること」及び「円形度が0.88超であること」によって、本件発明の課題を解決するものであるところ、「比表面積」が特定の値であることによって本件発明の課題を解決するものではない。湿式粒度試験法によって測定された粒度分布における180μm以上の粒子の含有量、平均粒径、α化率、円形度等について何ら特定のない粒子について、比表面積が0.3m2/gである場合の熱伝導率及び粘性が、比表面積が1.0m2/gを超える場合の熱伝導率及び粘性と同等であるからといって、本件発明1が本件発明の課題を解決しないとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)上記ア(イ)bについて
本件訂正によって、本件発明1は「α化率が47.53%以上である」ものとなったため、α化率が45.35%のアルミナ粒子混合物のα化率をわずかに上げても「α化率が47.53%以上」とはならない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
3 申立理由1、2について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、上記第6の1(3)の【0069】【表1】の実施例5として、最大粒子径31.1μm、平均粒子径が9.6μm、αアルミナ結晶分率が59%、球形度が0.87であるアルミナ粉体が記載されている。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「最大粒子径が31.1μmであり、
平均粒子径が9.6μmであり、
αアルミナ結晶分率が59.1%であり、
球形度が0.87である、アルミナ粉体。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「最大粒子径が31.1μmであり」は、本件発明1の「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること」に相当する。
甲1発明の「平均粒子径が9.6μmであり」は、本件発明1の「平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること」に相当する。
甲1発明の「αアルミナ結晶分率が59.1%であり」は、本件発明1の「α化率が47.53%以上であること」に相当する。
上記第6の1(2)によれば、甲1には、球形度=(円形度)2であることが記載されている。0.87=(0.9327・・・)2であるため、球形度0.87のアルミナ粉体の円形度は0.93となる。そして、甲1発明において「円形度が0.93である」ことは、本件発明1の「円形度が0.88超である」ことに相当する。
甲1発明の「アルミナ粉体」は、本件発明1の「アルミナ粒子混合物」に相当し、甲1発明の「球形度が0.87である」「アルミナ粉体」は、本件発明1の「球状アルミナ粒子混合物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は
「湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
平均粒径が9.0μm超、77.1μm未満であること、
α化率が47.53%以上であること、及び、
円形度が0.88超である、球状アルミナ粒子混合物。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明1では、「比表面積が0.5m2/g超、0.87m2/g未満である」のに対し、甲1発明では比表面積が不明である点。
イ 相違点について
甲1には、比表面積に関連し得る物性として、最大粒子径、平均粒子径、円形度の他に、8μm以上の粒子及び2μm未満の粒子の割合、球形度、球状化率、2μm未満の領域での最頻径、2~8μmの粒子の割合、等が記載されている。しかし、これらの物性値から比表面積を換算することはできないため、甲1発明の比表面積は不明である。
したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
次に上記相違点の容易想到性について検討する。
甲1発明は、上記第6の1(1)によれば、「樹脂材料中に放熱性能を向上させ得るほどに高充填でき、かつ、高耐電圧特性を有する薄膜状絶縁性樹脂組成物(以下、薄膜樹脂シートと称する)の成膜を可能にする熱伝導性無機質粉体を提供し、電気絶縁性と放熱性能が要求される回路基板等の放熱部材として用いることが可能な樹脂組成物を提供すること」を課題とし、「ある特定の粒度分布を有し、さらに好ましくは予め表面疎水化処理が施された、熱伝導性無機質粉体を用いること」によってこの課題を解決するものである。そうすると、甲1発明は、比表面積になんら着目する発明ではないから、その比表面積を調整する動機付けはなく、したがって、甲2~甲7の記載にかかわらず、甲1発明において、相違点に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、甲6の記載によれば、比表面積は、密度と平均粒子径に基づいて、以下の式1から算出することができ、式1から甲1発明の粒子の比表面積を算出すると、0.76m2/g又は0.56m2/gとなるため、甲1発明の比表面積は設定登録時の請求項1の「比表面積が0.3~1.0m2/g」を満たす蓋然性が高いし、仮にそうでないとしても、甲1に記載された他の実施例について式1から算出される比表面積は0.3~1.0m2/gを満たすため、甲1発明において「比表面積が0.3~1.0m2/g」とすることは単なる周知技術の付加である旨、主張している(特許異議申立書17~19頁)。
[図:0001427917000009.jpg]
・・式1
(式中、dは粒子径、Sは比表面積、ρはαアルミナの密度を示す)
しかし、甲6には「微粒子を、真球状で細孔の無い粒子と仮定すれば、以下の式が成り立つ」との記載があり、式1は、微粒子が「真球状で細孔の無い粒子」であるという前提において、成り立つものであることが理解される。そして、甲1発明の粒子は「真球状」ではないし、その細孔の有無は不明である。そうすると、甲1発明の粒子は、式1により比表面積を計算し得る粒子であるとはいえないし、甲1の他の実施例の比表面積も算出することはできない。
したがって、甲6の記載事項から甲1発明の粒子の比表面積を算出することができ、甲1発明は「比表面積が0.3~1.0m2/g」を満たす、又は、甲1発明において「比表面積が0.3~1.0m2/g」とすることは、単なる周知技術の付加であるという申立人の上記主張は、採用することができない。
(イ)申立人は、甲2には、「本発明の課題は、・・・半導体封止材などの樹脂組成物に対して高い熱伝導率を付与することができる、球状アルミナ粉末を得るための製造方法を提供することである」と記載されており、甲1発明とその課題が共通しており、甲2には、比表面積を1m2/g以下とすることで、樹脂材料に配合したとき、樹脂材料の機械物性低下を抑制できることが記載されており、甲3には球状アルミナ粒子の比表面積を1m2/g以下にすることが記載されており、甲4には比表面積が0.9m2/gのαアルミナが記載されているから、甲1発明において、アルミナ粉体の比表面積を1.0m2/g以下とすることは当業者が容易に想到しうることであるし、比表面積の下限値を0.3m2/gとすることは、適宜なしうる数値範囲の最適化にすぎない旨主張している(特許異議申立書19~20頁)。
しかし、上記イで述べたとおり、甲1発明は比表面積に何ら着目する発明ではないから、その比表面積を調整する動機付けはないし、仮に比表面積を調整してみるとしても、その調整によって「最大粒子径が31.1μm、平均粒子径が9.6μm、αアルミナ結晶分率が59.1%、円形度が0.93」という物性を変化させない方法は不明である。してみれば、甲1発明において、相違点に係る本件発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得るものではなく、申立人の上記主張は採用することができない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
(3)本件発明5、6について
本件発明5、6は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明5、6は、甲1発明であるといえないし、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
(4)申立理由1、2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1、2は理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、5、6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700114