2021-700481
樹脂組成物
- 審判番号
- 2021-700481
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-051777外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6789511
- 請求日
- 2021年05月20日
- 審決日
- 2022年04月04日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社豊田中央研究所
- 【権利者代理人】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
- 【異議申立人】小林 瞳
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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特許第6789511号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、平成29年3月16日を出願日とする出願(特願2017-51777号)に係るものであって、令和2年11月6日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年11月25日である。)。
その後、令和3年5月20日に、本件特許の請求項1~6に係る特許に対して、特許異議申立人である小林瞳(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 5月20日 特許異議申立書
同年 9月27日付け 取消理由通知書
同年11月26日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月 6日付け 通知書(申立人あて)
令和4年 1月 6日 意見書(申立人)
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証 特開2010-1362号公報
・甲第2号証 特開昭50-116541号公報
・甲第3号証 特開2016-204520号公報
・甲第4号証 特開2016-783号公報
以下、「甲第1号証」~「甲第4号証」を「甲1」~「甲4」という。
第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、令和3年11月26日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1~6について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記イソソルビド系ポリカーボネートが、下記式(1):【化1】[図:0001386116000001.jpg](式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R1とR2、及び/又は、R3とR4は、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位と、下記式(2)【化2】[図:0001386116000002.jpg](式(2)中、Xは、芳香環又は脂環構造を含んでいてもよい炭素数6~30の2価の炭化水素基を表し、*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位と、を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。」とあるのを、
「下記式(1):【化1】[図:0001386116000003.jpg](式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R1とR2、及び/又は、R3とR4は、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位と、下記式(2)【化2】[図:0001386116000004.jpg](式(2)中、Xは、芳香環又は脂環構造を含んでいてもよい炭素数6~30の2価の炭化水素基を表し、*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位と、を含有し、全繰返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰返し単位の含有率が80~98mol%であり、前記式(2)で表される繰返し単位の含有率が2~20mol%であるイソソルビド系ポリカーボネートと、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを、質量比(イソソルビド系ポリカーボネート/ポリアミド)が1/9~9/1の範囲内で含有することを特徴とする樹脂組成物。」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「請求項2~4のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。」とあるのを、
「請求項2又は3に記載の樹脂組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。」とあるのを、
「請求項2、3、5のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。」に訂正する。
(6)一群の請求項
請求項2~6はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。
2 判断
(1)訂正事項1及び3について
ア 訂正の目的、新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1及び3による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び4を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加ではなく、また実質上の特許請求の範囲の拡張・変更でないことは明らかである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を請求項1の記載を引用しないものとする訂正と、イソソルビド系ポリカーボネートが、全繰返し単位100mol%に対して、式(1)で表される繰返し単位の含有率を80~98mol%と限定し、式(2)で表される繰返し単位の含有率を2~20mol%であると限定する訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正と、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件明細書等の【0035】には、本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートにおいて、式(1)で表される繰返し単位の含有率は、80~98mol%が特に好ましいことが記載され、同【0049】には、本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートにおいて、前記式(2)で表される繰返し単位の含有率は、2~20mol%が特に好ましいことが記載されているから、訂正事項2による訂正は本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(3)訂正事項4及び5について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、引用する請求項が「2~4」であったものを「2又は3」とする訂正であり、また、訂正事項5による訂正は、引用する請求項が「1~5のうちのいずれか一項」であったものを「2、3、5のうちのいずれか一項」とする訂正であり、いずれも引用する請求項を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項4及び5による訂正は、新規事項の追加ではなく、また実質上の特許請求の範囲の拡張・変更でないことは明らかである。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1~5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6789511号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1~6に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)
「【請求項1】(削除)【請求項2】下記式(1):続きを表示(全24行)【化1】[図:0001386116000005.jpg](式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R1とR2、及び/又は、R3とR4は、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位と、下記式(2)【化2】[図:0001386116000006.jpg](式(2)中、Xは、芳香環又は脂環構造を含んでいてもよい炭素数6~30の2価の炭化水素基を表し、*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位と、を含有し、全繰返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰返し単位の含有率が80~98mol%であり、前記式(2)で表される繰返し単位の含有率が2~20mol%であるイソソルビド系ポリカーボネートと、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを、質量比(イソソルビド系ポリカーボネート/ポリアミド)が1/9~9/1の範囲内で含有することを特徴とする樹脂組成物。【請求項3】前記式(2)で表される繰返し単位が、下記式(3):【化3】[図:0001386116000007.jpg](式(3)中、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R5とR6は互いに結合して環を形成してもよい。R7及びR8は、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、m及びnはそれぞれ独立に0~4の整数であり、*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。【請求項4】(削除)【請求項5】前記式(1)で表される繰返し単位と前記式(2)で表される繰返し単位とがランダムに配置していることを特徴とする請求項2又は3に記載の樹脂組成物。【請求項6】前記ポリアミドがポリアミド11及びポリアミド12からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2、3、5のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
本件特許は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載が、概略、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
記
本件発明が解決しようとする課題は、「成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れた、ポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物を提供すること」であると認められる。
本件訂正前の請求項1に係る発明の樹脂組成物に含有される「イソソルビド系ポリカーボネート」は、イソソルビド骨格を有する繰返し単位を含有するものであれば特に制限されず、また、例えば、ポリカーボネート中のイソソルビド骨格を有する繰り返し単位が微量である態様やポリカーボネートの半分近くをイソソルビド骨格以外の繰り返し単位が占める態様を包含している。
一方、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、イソソルビド骨格を有する繰返し単位が存在する場合でも、その含有量が一定程度高くなければ、成形性、耐発泡性、耐分解性、剛性が劣ることは否定できないので、上記態様を包含する本件訂正前の請求項1に係る発明が、上記課題を解決できることは推認することができない。
2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書でした申立理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
記
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には、イソソルビド系ポリカーボネートに含まれる繰返し単位の種類を本件訂正前の請求項1~2に係る発明で特定する範囲まで拡張ないし一般化できるように記載されていない。
具体的には、本件訂正前の請求項1に係る発明は、イソソルビド系ポリカーボネートが具体的にどのような繰り返し単位を含む樹脂かは特定されておらず、本件訂正前の請求項2に係る発明の式(2)は広範な骨格構造が包含されるものである。一方、本件明細書には、イソソルビド系ポリカーボネートは、イソソルビド骨格を有する繰返し単位のみからなるポリカーボネート樹脂や、本件明細書の実施例の段落【0060】に記載された特定のイソソルビド系ポリカーボネート以外のポリカーボネート樹脂においても、本件発明の上記課題を解決できる旨の具体的な記載はない。
ここで、高分子材料の物性は、高分子材料を構成する繰返し単位の種類及びその比率に大きく依存することが技術常識であるとすれば、実施例の記載に基づいて、本件訂正前の請求項1~2の記載で特定されるイソソルビド系ポリカーボネートにおいても、本件発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、イソソルビド系ポリカーボネート中の各繰返し単位の含有量を本件訂正前の請求項1~6に係る発明で特定する範囲まで拡張ないし一般化できるように記載されていない。
この内容の概要は、上記した取消理由1と同旨である。
第5 当審の判断
当審は、請求項1及び4に係る特許については、特許異議申立を却下することとし、また、当審は、当審が通知した取消理由1及び申立人がした申立理由1~3によっては、いずれも、本件発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、取消理由1並びに申立理由3のア及びイは、サポート要件に関する理由であるから、以下の「2」において併せて検討する。
1 申立の却下
上記第2及び第3で示したとおり、請求項1及び4は、本件訂正により削除されているので、本件発明1及び4に係る特許についての申立てを却下する。
2 取消理由1及び申立理由3について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。
(2)本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(本1)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物においては、溶融混練時や成形時にポリカーボネートのカーボネート結合とポリアミドのアミド基とが反応して、分子量が低下したり、ガスが発生したり(佐藤ら、高分子論文集、1990年4月、第17巻、第4号、第287~295頁参照)、さらには、ゲル化が起こるため、得られる成形体の成形性及び機械特性は必ずしも十分なものではなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れた、ポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物において、ポリカーボネートとしてイソソルビド系ポリカーボネートを使用し、ポリアミドとしてポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610のうちの少なくとも1種を使用することによって、分子量の低下やガスの発生、ゲル化が抑制され、成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れた樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(本2)「【0019】
なお、本発明の樹脂組成物が成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の樹脂組成物に含まれるイソソルビド系ポリカーボネートは、従来の樹脂組成物に含まれるビスフェノール系ポリカーボネートと分子構造が異なるため、ポリアミドとの反応性、特に、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610との反応性が低く、ポリカーボネートとポリアミドとの反応が抑制されると推察される。その結果、分子量の低下やガスの発生、ゲル化が抑制され、優れた成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性が得られると推察される。」
(本3)「【0023】
(ポリカーボネート)
本発明に用いられるポリカーボネートはイソソルビド系ポリカーボネートである。このイソソルビド系ポリカーボネートと、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを組み合わせて使用することによって、成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0024】
一方、イソソルビド系ポリカーボネート以外のポリカーボネート(例えば、ビスフェノール系ポリカーボネート)と前記ポリアミドとを組み合わせて使用した場合には、得られる樹脂組成物は成形性、耐発泡性及び耐分解性に劣ったものとなる。
【0025】
本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートとしては、イソソルビド骨格を有する繰返し単位を含有するものであれば特に制限はないが、下記式(1):
【0026】
【化4】(略)
【0027】
で表される繰返し単位と、下記式(2)
【0028】
【化5】(略)
【0029】
で表される繰返し単位と、を含有するものが好ましい。
【0030】
前記式(1)で表される繰返し単位において、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表す。前記アルキル基の炭素数は通常1~18であり、好ましくは1~6である。前記シクロアルキル基の炭素数は通常3~8であり、好ましくは3~6である。前記アルケニル基の炭素数は通常2~12であり、好ましくは2~6である。前記アリール基の炭素数は通常6~18であり、好ましくは6~12である。なお、前記式(1)中の*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。
・・・
【0035】
本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートにおいて、前記式(1)・・・で表される繰返し単位の含有率としては、全繰返し単位100mol%に対して、55~98mol%が好ましく、70~98mol%がより好ましく、80~98mol%が特に好ましい。前記式(1)又は(1a)で表される繰返し単位の含有率が前記下限未満になると、ガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。他方、前記式(1)又は(1a)で表される繰返し単位の含有率が前記上限を超えると、十分に靭性が発現しない傾向にある。
【0036】
前記式(2)で表される繰返し単位において、Xは、芳香環又は脂環構造を含んでいてもよい炭素数6~30の2価の炭化水素基を表す。このような2価の炭化水素基としては、例えば、2価の芳香環とアルキレン基とを含有する炭素数13~30(好ましくは13~28、より好ましくは13~20)の2価の炭化水素基、2価の脂環構造とアルキレン基とを含有する炭素数8~30(好ましくは8~28、より好ましくは8~20)の2価の炭化水素基、炭素数10~30(好ましくは10~25、より好ましくは13~20)のアルキレン基、炭素数6~30(好ましくは6~28、より好ましくは6~20)のシクロアルキレン基が挙げられる。なお、前記式(2)中の*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。
・・・
【0049】
本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートにおいて、前記式(2)・・・で表される繰返し単位の含有率としては、全繰返し単位100mol%に対して、2~45mol%が好ましく、2~30mol%がより好ましく、2~20mol%が特に好ましい。前記式(2)、(3)、(3a)又は(3b)で表される繰返し単位の含有率が前記下限未満になると、イソソルビド系ポリカーボネートの熱分解温度が上昇せずに耐熱性が向上しない傾向にあり、また、十分に靭性が付与されない傾向にある。他方、前記式(2)・・・で表される繰返し単位の含有率が前記上限を超えると、ガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。」
(本4)「【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたイソソルビド系ポリカーボネートの合成方法を以下に示す。
【0060】
(合成例)
減圧装置と攪拌装置とを備えるガラス容器に、イソソルビド(Aldrich社製)60.0g(410.57mmol)、ビスフェノールA(和光純薬工業(株)製)4.69g(20.53mmol)及び炭酸ジフェニル(東京化成工業(株)製)92.54g(432.0mmol)を仕込んだ。これに、触媒として4-ジメチルアミノピリジン(融点:108~110℃。以下、「DMAP」と略す。)7.0mgを添加した。
【0061】
窒素ガスを20ml/分でガラス容器内に供給し、攪拌しながらオイルバスを用いてガラス容器内の温度を120℃まで上昇させた後、5分間保持した。その後、ガラス容器内の温度を160℃まで上昇させた後、5分間保持した。さらに、ガラス容器内の温度を180℃まで上昇させたところ、フェノールが発生したため、ガラス容器内を0.1Torrまで減圧して前記フェノールを溜去しながら、この状態を30分間保持した。次いで、ガラス容器内の温度を200℃まで上昇させ、窒素ガスの供給を停止した後、20分間保持した。その後、ガラス容器内の温度を230℃まで徐々に上昇させた後、230℃~240℃で5時間保持して溶融重合を実施し、ポリカーボネートを合成した。反応終了後、ガラス容器内を室温まで冷却した。
【0062】
次に、得られた粗ポリカーボネートをクロロホルムに溶解し、この溶液にメタノールを添加してポリカーボネートを沈殿させた。この溶解・沈殿処理を合計2回繰返してポリカーボネートを精製した。精製したポリカーボネートを110℃で12時間真空乾燥し、イソソルビド骨格含有繰返し単位の含有率が95mol%であり、ビスフェノールA骨格含有繰返し単位の含有率が5mol%であるイソソルビド系ポリカーボネート(isPC)を得た。
・・・
【0067】
(実施例1)
循環混合が可能な混練機(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製「マイクロレオロジーコンパウンダー HAAKE-MiniLab」)を用いて、前記合成例で得たイソソルビド系ポリカーボネート(isPC)とポリアミド11(PA11、アルケマ株式会社製「リルサンBMNO」)とを、質量比:isPC/PA11=30/70、スクリュー回転数:200rpm、混練温度:250℃、混練時間:10分間の条件で加熱溶融混練し、樹脂組成物を得た。
【0068】
この樹脂組成物を、小型真空加熱プレス機(株式会社井元製作所製「IMC-1824型」)を用い、設定温度250℃で1分間真空プレス成形して樹脂シートを作製した。得られた樹脂シートを、トリミングカッター(WISTA社製「C-4」)を用いて切出し、物性測定用試験片を作製した。
【0069】
(実施例2)
イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド11との質量比をisPC/PA11=50/50に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0070】
(実施例3)
イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド11との質量比をisPC/PA11=70/30に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0071】
(実施例4)
ポリアミド11の代わりにポリアミド12(PA12、宇部興産株式会社製「UBESTA3024」)を用い、混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0072】
(実施例5)
ポリアミド11の代わりにポリアミド610(PA610、ダイセル・エボニック株式会社製「Vestamid Terra HS16」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0073】
(比較例1)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS-2000」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
・・・
【0081】
(比較例9)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS-2000」)を用い、ポリアミド11の代わりにポリアミド12(PA12、宇部興産株式会社製「UBESTA3024」)を用い、混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0082】
(比較例10)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS-2000」)を用い、ポリアミド11の代わりにポリアミド610(PA610、ダイセル・エボニック株式会社製「VestamidTerraHS16」)を用い、混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
・・・
【0084】
<成形性(流動性)>
実施例及び比較例において、樹脂シートを成形する際、樹脂組成物が溶融して高流動状態となり、成形しやすかったものと、流動せずに成形しにくかったものとがあった。これは、樹脂組成物を調製する際の溶融混練時に、ポリカーボネートとポリアミドとの間で架橋反応が発生したため、流動性が低下したと考えられる。
【0085】
実施例及び比較例で使用したポリカーボネート及びポリアミドは全て1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP、和光純薬工業株式会社製)に溶解するため、樹脂組成物がHFIPに完全に溶解すれば、架橋反応は発生しておらず、成形性(流動性)は良好と判断でき、樹脂組成物がHFIPに溶解しない場合には、架橋反応が発生しており、成形性(流動性)は不良と判断できる。そこで、実施例及び比較例で得られた樹脂組成物をHFIPに溶解し、溶解性を下記基準で判定して成形性(流動性)を評価した。その結果を表1に示す。
A:100質量部のHFIPに対して10質量部の樹脂組成物が完全に溶解する(成形性は極めて良好)。
B:100質量部のHFIPに対して5質量部の樹脂組成物は完全に溶解するが、10質量部では溶解しない(成形性は良好)。
C:100質量部のHFIPに対して1質量部の樹脂組成物は完全に溶解するが、5質量部では溶解しない(成形性は不良)。
D:100質量部のHFIPに対して1質量部の樹脂組成物が溶解しない(成形性は極めて不良)。
【0086】
<耐発泡性>
実施例及び比較例で作製した樹脂シートを目視により観察し、樹脂シート中の気泡の状態を下記基準で判定して耐発泡性を評価した。その結果を表1に示す。
A:目視で確認できる1mm未満の気泡が存在しない。
B:目視で確認できる1mm未満の気泡が樹脂シート全体の2%未満である。
C:目視で確認できる2mm未満の気泡が樹脂シート全体の2%未満である。
D:目視で確認できる1mm以上の気泡が樹脂シート全体の2%以上である。
【0087】
<耐分解性>
実施例及び比較例で作製した物性測定用試験片について、JIS K7244-4に準拠して、粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製「DVA-220」)を用いて、周波数:10Hz、昇温速度:5℃/分、測定温度範囲:0~250℃の条件で引張損失係数tanδを測定してポリカーボネートのガラス転移温度を求め、加熱プレス成形によるポリカーボネートのガラス転移温度の低下を下記基準で判定し、耐分解性を評価した。
A:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が1℃未満である。
B:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が1℃以上3℃未満である。
C:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が3℃以上5℃未満である。
D:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が5℃以上である。
【0088】
<剛性>
実施例及び比較例で作製した物性測定用試験片について、JIS K7244-4に準拠して、粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製「DVA-220」)を用いて、周波数:10Hz、昇温速度:5℃/分、測定温度範囲:0~250℃の条件で引張貯蔵弾性率を測定し、100℃における樹脂組成物の引張貯蔵弾性率を求めて下記基準で判定し、剛性を評価した。
A:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の1.5倍以上である。
B:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の1.0倍以上1.5倍未満である。
C:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の0.9倍以上1.0倍未満である。
D:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の0.9倍未満である。
【0089】
【表1】
[図:0001386116000008.jpg]
【0090】
表1に示した結果から明らかなように、イソソルビド系ポリカーボネートと、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを所定の質量比で含有する本発明の樹脂組成物(実施例1~5)は、成形性(流動性)、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れたものであることが確認された。
【0091】
一方、ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド11又はポリアミド12とを含有する樹脂組成物(比較例1及び9)は、成形性(流動性)、耐分解性及び剛性に劣るものであり、・・・ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド610とを含有する樹脂組成物(比較例10)は、成形性(流動性)及び耐分解性に劣るものであり、・・・」
(3)本件発明の課題について
本件明細書の【0005】には、「従来のポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物においては、溶融混練時や成形時にポリカーボネートのカーボネート結合とポリアミドのアミド基とが反応して、分子量が低下したり、ガスが発生したり・・・、さらには、ゲル化が起こるため、得られる成形体の成形性及び機械特性は必ずしも十分なものではなかった」と記載され、この従来技術に対して、本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0006】、及び、本件明細書全体からみて、「成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れた、ポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物を提供すること」であると認められる。
(4)判断
本件発明2は、上記「第3」示した請求項2の記載により特定される発明となり、樹脂組成物中に含有されるイソソルビド系ポリカーボネートは、下記式(1):
【化1】
[図:0001386116000009.jpg]
(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R1とR2、及び/又は、R3とR4は、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰返し単位と、下記式(2)
【化2】
[図:0001386116000010.jpg]
(式(2)中、Xは、芳香環又は脂環構造を含んでいてもよい炭素数6~30の2価の炭化水素基を表し、*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰返し単位と、を含有し、全繰返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰返し単位の含有率が80~98mol%であり、前記式(2)で表される繰返し単位の含有率が2~20mol%であることが特定された。
このように特定されるイソソルビド系ポリカーボネートを含有する樹脂組成物について、発明の詳細な説明には、その段落【0019】に、「本発明の樹脂組成物に含まれるイソソルビド系ポリカーボネートは、従来の樹脂組成物に含まれるビスフェノール系ポリカーボネートと分子構造が異なるため、ポリアミドとの反応性、特に、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610との反応性が低く、ポリカーボネートとポリアミドとの反応が抑制されると推察される。その結果、分子量の低下やガスの発生、ゲル化が抑制され、優れた成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性が得られると推察される」と記載され(摘記(本2))、同【0035】には、本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートの式(1)で表される繰返し単位の含有率は、全繰返し単位100mol%に対して、80~98mol%が特に好ましいこと、式(1)で表される繰返し単位の含有率が前記下限未満になると、ガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。他方、式(1)で表される繰返し単位の含有率が前記上限を超えると、十分に靭性が発現しない傾向にあることが記載されている(摘記(本3))。また、同【0049】には、本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートの式(2)で表される繰返し単位の含有率は、全繰返し単位100mol%に対して、2~20mol%が特に好ましいこと、前記式(2)で表される繰返し単位の含有率が前記下限未満になると、イソソルビド系ポリカーボネートの熱分解温度が上昇せずに耐熱性が向上しない傾向にあり、また、十分に靭性が付与されない傾向にある。他方、前記式(2)で表される繰返し単位の含有率が前記上限を超えると、ガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にあることが記載されている(摘記(本3))。
そして、実施例1~5では、「イソソルビド骨格含有繰返し単位の含有率が95mol%であり、ビスフェノールA骨格含有繰返し単位の含有率が5mol%であるイソソルビド系ポリカーボネート(isPC)」ポリカーボネートと、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610を用いると、本件発明の課題である成形性、耐発泡性、耐分解性、剛性に優れることが具体的なデータと共に記載されている(摘記(本4))。一方、比較例1、9及び10では、「ビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS-2000」)」を用いると、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610と組み合わせても、上記課題を解決できないことが具体的に記載されている(摘記(本4))。
上記した実施例における具体的なデータをみた上で発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件発明2のように、繰返し単位の化学構造が式(1)と式(2)と特定され、また、これらの繰返し単位の含有率が80~98mol%、2~20mol%と特定されたイソソルビド系ポリカーボネートを含有した樹脂組成物であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるということができる。
(5)取消理由1及び申立理由3のイについて
上記(4)で述べたとおり、特許請求の範囲にイソソルビド系ポリカーボネート中のイソソルビド骨格を有する繰返し単位の含有量が一定程度高いことが記載されていない点に関する取消理由1及び申立理由3のイは解消したといえる。
(6)申立理由のアについて
申立理由のアに関し、申立人が提出した令和4年1月6日の意見書においても同趣旨の主張がされているといえる。以下では、上記意見書での主張も併せて検討する。
上記(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明の段落【0019】には、「本発明の樹脂組成物に含まれるイソソルビド系ポリカーボネートは、従来の樹脂組成物に含まれるビスフェノール系ポリカーボネートと分子構造が異なるため、ポリアミドとの反応性、特に、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610との反応性が低く、ポリカーボネートとポリアミドとの反応が抑制されると推察される。その結果、分子量の低下やガスの発生、ゲル化が抑制され、優れた成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性が得られると推察される」と記載され、そして、実施例1~5では本件発明の課題を解決できたことが具体的なデータと共に記載されていることからみれば、イソソルビド系ポリカーボネートのうち、イソソルビド骨格を有する繰返し単位以外の繰返し単位は、実施例で使用された具体的な化学構造によらずとも、本件発明2で特定される化学構造であれば本件発明の課題を解決できると認識できるということができる。
一方、申立人は、具体的な証拠を挙げて本件発明の課題を解決できると認識できないことを主張するものでもない。
よって、申立理由のアは採用できない。
(7)まとめ
以上のとおりであるので、本件発明2は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
また、本件発明2を引用する本件発明3、5及び6も発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
よって、取消理由1及び申立理由3によっては、本件発明2、3、5及び6の特許を取り消すことはできない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人がした申立理由について
(1)申立理由1及び2について
ア 各甲号証の記載事項について
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(ア)甲1
甲1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A-1成分)を少なくとも50重量%含有する樹脂成分(A成分)100重量部に対して、(B)下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)1~100重量部を含有する難燃性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001386116000011.jpg]
【化2】
(化2の記載は省略する。)
・・・
【請求項3】
式(A-1)で表されるカーボネート構成単位がイソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来のカーボネート構成単位である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。」
(1b)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な難燃性、および良好な物性を有する植物由来原料を用いた難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品に関する。さらに詳しくは特定の有機リン化合物を含有しかつ実質的にハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の第1の目的は、高度な難燃性、および良好な物性を有する植物由来原料を用いた難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品を提供することにある。
本発明の第2の目的は、特定の有機リン化合物を含有しかつ実質的にハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品を提供することにある。」
(1c)「【0017】
本発明においてポリカーボネート樹脂(A-1成分)は、下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂であり、全カーボネート構成単位中、下記式(A-1)で表わされる構成単位は50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が特に好ましく、90モル%以上がもっとも好ましい。
【0018】
【化8】
[図:0001386116000012.jpg]
」
(1d)「【0019】
また、本発明において樹脂成分は、上記ポリカーボネート樹脂(A-1成分)が構成樹脂成分(A成分)中主たる成分を占めればよく、ポリカーボネート樹脂(A-1成分)が少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらに好ましくは少なくとも80重量%、特に好ましくは少なくとも90重量%であればよい。A成分中50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下が他の樹脂(A-2成分)であってもよい。この他の樹脂については後で詳しく説明する。」
(1e)「【0028】
また本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A-1成分)は、その特性を損なわない範囲で脂肪族ジオール類または芳香族ビスフェノール類との共重合としても良い。かかる脂肪族ジオールとしては、炭素数3~12の直鎖脂肪族ジオール、炭素数6~20の脂環式ジオール、が好ましく用いられる。具体的には1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの直鎖状ジオール類や、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルキレン類などが挙げられ、中でも1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、およびシクロヘキサンジメタノールが好ましい。また本発明は植物などの再生可能資源から得られる原料上記式(a)を主成分として持つ事から、植物由来のジオール類も好ましく用いられる。具体的にはテルペン成分を含むジオール類が挙げられる。
【0029】
芳香族ビスフェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称“ビスフェノールA”)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン等が挙げられる。これら脂肪族ジオール類、芳香族ビスフェノール類は単独または組み合わせて用いることができる。」
(1f)「【0044】
本発明の構成樹脂(A成分)は、前記ポリカーボネート樹脂(A-1成分)の他に他の熱可塑性樹脂(A-2成分)を含有していてもよい。前述したように他の樹脂(A-2成分)はA成分中50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0045】
このA-2成分としての熱可塑性樹脂としてはポリエステル樹脂(PEst)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリオレフィン樹脂(PO)、スチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)およびポリエーテルイミド樹脂(PEI)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらA-2成分のうち、好ましいのはポリエステル樹脂(PEst)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリオレフィン樹脂(PO)およびスチレン系樹脂である。
・・・
【0066】
A-2成分としてのポリアミド樹脂(PA)としては、例えば、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミドおよびポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)などの脂肪族-芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体や混合物を挙げることができる。本発明に使用できるポリアミドとしては特に限定されるものではない。
・・・
【0079】
前述した種々のA-2成分のうち、ポリエステル樹脂(PEst)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)またはスチレン系樹脂が好ましい。」
(1g)「【実施例】
【0124】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。・・・
【0140】
調製例8
ポリカーボネート樹脂(PC-1)の調製
イソソルビド7307重量部(50モル)とジフェニルカーボネート10709重量部(50モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを4.8重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10-4モル)、および水酸化ナトリウムを5.0×10-3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10-6モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
【0141】
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10-3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10-3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し、30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
【0142】
次いで、徐々に減圧し、2.67×10-3MPaで10分間、1.33×10-3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10-5MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に260℃、6.66×10-5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.33のペレットを得た。このペレットのガラス転移温度は165℃、5%重量減少温度は355℃であった。
【0143】
調製例9
ポリカーボネート樹脂(PC-2)の調製
最終的に255℃、6.66×10-5MPaで30分反応せしめた以外は参考例8と同様にして、比粘度が0.23のペレットを得た。このペレットのガラス転移温度は158℃、5%重量減少温度は353℃であった。
【0144】
調製例10
ポリカーボネート樹脂(PC-3)の調製
イソソルビド6722重量部(46モル)とジフェニルカーボネート10709重量部(50モル)と1,3-プロパンジオール304重量部(4モル)とした以外は参考例8と同様にして比粘度が0.28のペレットを得た。このペレットのガラス転移温度は146℃、5%重量減少温度は342℃であった。
【0145】
実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いた。
(I)ポリカーボネート樹脂(A成分)
(i)調製例8で合成したポリカーボネート樹脂(以下PC-1と称する)
(ii)調製例9で合成したポリカーボネート樹脂(以下PC-2と称する)
(iii)調製例10で合成したポリカーボネート樹脂(以下PC-3と称する)
・・・
【0146】
[実施例1~21および比較例1~9]
表1~3記載の各成分を表1~3記載の量(重量部)でタンブラーにて配合し、15mmφ二軸押出機(テクノベル製、KZW15)にてペレット化した。得られたペレットを130℃の熱風乾燥機にて4時間乾燥を行った。乾燥したペレットを射出成形機((株)日本製鋼所製 J75EIII)にて成形した。成形板を用いて評価した結果を表1~3に示した。
【0147】
【表1】
[図:0001386116000013.jpg]
【0148】
【表2】
[図:0001386116000014.jpg]
【0149】
【表3】
[図:0001386116000015.jpg]
」
(イ)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「特許請求の範囲
80重量%を超え、95重量%以下のポリカーボネートと5重量%以上、20重量%未満の12ナイロンとからなる熱可塑性樹脂組成物。」(第1頁左下欄第4~8行)
(2b)「本発明者等は耐アーク性のみならず、高電圧アーク発火性および耐トラツキング性の改良されたポリカーボネート樹脂組成物を得るため種々検討した結果、本発明を完成させるに至つた。」(第1頁右下欄第19行~第2頁左上欄第2行)
(2c)「しかしポリカーボネートに12ナイロンを5重量%以上、20重量%未満の量をブレンドした場合に、得られた樹脂組成物は成形時の熱安定性もよく、外観も十分満足できるものであり、高電圧アーク発火時間がポリカーボネートに比較して4倍以上に改良されたものであつた。」(第2頁左上欄第18行~右上欄第3行)
(2d)「本発明においてポリカーボネートとはポリカーボネートおよび/またはコポリカーボネートを意味する。即ちハイドロキノン、レゾルシノール、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフエニル)プロパン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフエニル)ペンタン、2,2-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフエニル)プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフエニル)プロパン、2,4’-ジヒドロキシジフエニルメタン、ビス-(2-ヒドロキシフエニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシフエニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-5-ニトロフエニル)メタン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシジフエニル)エタン、3,3-ビス-(4-ヒドロキシフエニル)ペンタン、2,2’-ジヒドロキシジフエニル、2,6-シヒドロキシナフタレン、5′-クロロ-2,4-ジヒドロキシジフエニルスルフオン、2,4’-ジヒドロキシジフエニルスルフオン、ビス-(4-ヒドロキシフエニル)スルフオン、ビス-(4-ヒドロキシフエニル)ジフエニルジスルフオン、2,2’-ジヒドロキシフエニルスルフオン、4,4’-ジヒドロキシジフエニルエーテル、4,4′-ヒドロキシ-3,3′-ジクロロジフエニルエーテルおよび4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジエトキシジフエニルエーテル等とホスゲンまたはジフエニルカーボネートとを公知の方法で反応させて得られるものである。また米国特許第3,334,154号明細書に記載されている様な方法で例えば2,2-ビス-(4-ヒドロキシフエニル)プロパンと2,2-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフエニル)プロパンとを共重合させたコポリカーボネートあるいは2,2-ビス-(4-ヒドロキシフエニル)プロパンと2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフエニル)プロパンとを共重合させたコポリカーボネートである。」(第2頁左下欄第2行~右下欄第17行)
ウ 甲1に記載された発明
甲1の段落【0001】及び【0011】によれば、甲1の特許請求の範囲に記載された発明の課題は、高度な難燃性、および良好な物性を有する植物由来原料を用いた難燃性樹脂組成物を提供することであるといえるところ、甲1の特許請求の範囲の請求項1には、「(A)下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A-1成分)を少なくとも50重量%含有する樹脂成分(A成分)100重量部に対して、(B)下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)1~100重量部を含有する難燃性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001386116000016.jpg]
(化2の記載は省略する。)」が記載され、同請求項3には、式(A-1)で表されるカーボネート構成単位がイソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来のカーボネート構成単位であることが記載されている。
そうすると、甲1の特許請求の範囲の記載に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)イソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来の下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A-1成分)を少なくとも50重量%含有する樹脂成分(A成分)100重量部に対して、(B)下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)1~100重量部を含有する難燃性樹脂組成物。【化1】[図:0001386116000017.jpg](化2の記載は省略する。)」(以下「甲1発明」という。)
エ 本件発明と甲1発明との対比・判断
(ア)本件発明2について
a 対比
甲1発明の「ポリカーボネート樹脂(A-1成分)」に含有される「(A)イソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来の下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位」は、
[図:0001386116000018.jpg]
本件発明2の式(1)中の「R1」~「R4」が水素原子で表される繰り返し単位に相当するから、甲1発明の「(A)イソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来の下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A-1成分)を少なくとも50重量%含有する樹脂成分(A成分)」は、本件発明2の「イソソルビド系ポリカーボネート」に関して「下記式(1):
【化1】
[図:0001386116000019.jpg]
(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R1とR2、及び/又は、R3とR4は、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰返し単位を含有する」限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、
「下記式(1):【化1】[図:0001386116000020.jpg](式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、R1とR2、及び/又は、R3とR4は、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位を含有するイソソルビド系ポリカーボネートを含有することを特徴とする樹脂組成物。」で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)イソソルビド系ポリカーボネートが、本件発明2では、下記式(2)
【化2】
[図:0001386116000021.jpg]
(式(2)中、Xは、芳香環又は脂環構造を含んでいてもよい炭素数6~30の2価の炭化水素基を表し、*は隣接する繰返し単位との結合部位を表す。)で表される繰返し単位を含有し、全繰返し単位100mol%に対して、式(1)で表される繰返し単位の含有率が80~98mol%であり、式(2)で表される繰返し単位の含有率が2~20mol%であるのに対して、甲1発明では、式(2)で表される繰返し単位を含有することが明らかでなく、また、全繰返し単位100mol%に対して、式(1)で表される繰返し単位の含有率が80~98mol%であり、式(2)で表される繰返し単位の含有率が2~20mol%であることが明らかでない点
(相違点2)樹脂組成物が、本件発明2では、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを含有し、質量比(イソソルビド系ポリカーボネート/ポリアミド)が1/9~9/1の範囲内で含有するのに対し、甲1発明では、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを含有していない点
b 判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
相違点2は、樹脂組成物中の成分の相違であるから実質的な相違点である。
そこで、相違点2の容易想到性について検討する。
本件発明2は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】及び【0006】によれば、成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れた、ポリカーボネートとポリアミドとを含有する樹脂組成物を提供することを課題とし、同【0019】には、イソソルビド系ポリカーボネートは、ビスフェノール系ポリカーボネートと分子構造が異なるため、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610との反応性が低く、ポリカーボネートとポリアミドとの反応が抑制されると推察され、その結果、分子量の低下やガスの発生、ゲル化が抑制され、優れた成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性が得られると推察されることが記載されている。
この上で、本件発明2は、概略、イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを質量比(イソソルビド系ポリカーボネート/ポリアミド)が1/9~9/1の範囲内で含有する樹脂組成物の発明である。
そして、同【0059】以降の実施例においては、本件発明2の特定を満足するイソソルビド系ポリカーボネートと、本件発明2で特定されるポリアミドではないポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド10Tとの樹脂組成物である比較例5~8、11並びに本件発明2の特定を満足しないビスフェノール系ポリカーボネートと本件発明2で特定されるポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610との樹脂組成物である比較例1、9及び10に比べて、本件発明2の具体例である実施例1~5は、成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性のすべての観点において、一定以上の効果を奏することが、具体的なデータと共に記載されている。
一方、甲1には、その段落【0011】に、特定のハロゲンフリーである有機リン化合物を含有した難燃性および良好な物性を有する植物由来原料を用いた難燃性樹脂組成物を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1及び3に、概略、イソソルビド系ポリカーボネートと特定の化学構造を有する有機リン化合物を含有する難燃性樹脂組成物が記載され、同【0044】には、他の熱可塑性樹脂(A-2)を含有してもよい旨の記載がされ、同【0045】には、具体的な熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂(PEst)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリオレフィン樹脂(PO)、スチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)およびポリエーテルイミド樹脂(PEI)が記載され、同【0066】には、ポリアミド樹脂(PA)として、具体的にナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミドおよびポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)が記載されている。
しかしながら、上記した甲1の記載は、あくまで甲1の請求項に記載された難燃性樹脂組成物に対して他の樹脂を配合しても良いこと、他の樹脂の具体例として、多種の例示の中に、本件発明2で使用されるポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610が記載されていることを示すにとどまるものである。そして、(A)イソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来の下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A-1成分)と上記した3種類のポリアミドを配合した具体例は記載されていない。
ましてや、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610を配合することにより、成形性、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れるとの記載もない。
また、甲2には、高電圧アーク発火性および耐トラツキング性の改良されたポリカーボネート樹脂組成物を提供することを課題とし(摘記(2b))、その特許請求の範囲に「80重量%を超え、95重量%以下のポリカーボネートと5重量%以上、20重量%未満の12ナイロンとからなる熱可塑性樹脂組成物。」が記載されているが(摘記(2a))、具体的なポリカーボネート樹脂として、イソソルビド系ポリカーボネートは記載されていない。
そうすると、いくら当業者といえども、甲1及び甲2の記載から甲1発明においてポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610を配合すること、そして、その配合割合を本件発明2で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明2は当業者が容易に想到できたものとはいえない。
よって、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(b)本件発明3、5及び6について
本件発明3、5及び6は、本件発明2を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明3、5及び6は、上記「(a)」で示した理由と同じ理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 申立人の主張についての検討
申立人は、甲1には、以下の発明が記載されていると認定することができると主張する。
「a1.イソソルビド由来のカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、a2.ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミドとを、a3.質量比(ポリカーボネート樹脂/脂肪族ポリアミド)が50/50以上の範囲内で含有する樹脂成分(A成分)100質量部と、a4.式 (1)(記載省略)で表される難燃剤としての有機リン化合物(B成分)1~100質量部とを含有する、a5.樹脂組成物。」(特許異議申立書第13頁第4行~第14頁第2行)
この申立人の主張について検討すると、上記エ(ア)bで述べたように、甲1には、その段落【0011】に、特定のハロゲンフリーである有機リン化合物を含有した難燃性および良好な物性を有する植物由来原料を用いた難燃性樹脂組成物を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1及び3に、概略、イソソルビド系ポリカーボネートと特定の化学構造を有する有機リン化合物を含有する難燃性樹脂組成物が記載され、同【0044】には、他の熱可塑性樹脂(A-2)を含有してもよい旨の記載がされ、同【0045】には、具体的な熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂(PEst)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリオレフィン樹脂(PO)、スチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)およびポリエーテルイミド樹脂(PEI)が記載され、同【0066】には、ポリアミド樹脂(PA)として、具体的にナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミドおよびポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)が記載されているということはできる。
しかしながら、この甲1の記載は、あくまで甲1に記載された発明の課題を解決するという限りにおいて、甲1の請求項に記載された難燃性樹脂組成物に対して他の樹脂を配合しても良いこと、他の樹脂の具体例として、多種の例示の中に、本件発明2で使用されるポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610が記載されていることを示すにとどまるものであって、イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610とを具体的に組み合わせることが発明として記載されているとまではいえない。そして、(A)イソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来の下記式(A-1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A-1成分)」と上記した3種類のポリアミドを配合した具体例は記載されていない。
そうすると、甲1には、申立人が主張するように、イソソルビド由来のカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂に対して、具体的的な例として、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12が配合する発明が記載されていたとまでいうことはできない。
よって、甲1に上記した発明が記載されていることを前提とする申立人の主張は採用できない。
カ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1及び2によっては、本件発明2、3、5及び6の特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
特許第6789511号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
本件発明1及び4に係る特許に対する申立は、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。
当審が通知した取消理由1及び特許異議申立人がした申立理由1~3によっては、本件発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700481