特許異議申立
2024-701168
封止用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法
- 審判番号
- 2024-701168
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-203652
- 登録番号
- 7509192
- 請求日
- 2024年12月04日
- 審決日
- 2026年03月13日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】松本 文彦
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 浅野 裕之
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7509192号発明「封止用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7509192号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第7509192号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7509192号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成30年4月13日を国際出願日とする特願2020-513047号の一部を令和4年12月20日に新たに出願したものであって、令和6年6月24日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年7月2日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年12月4日に松本 文彦(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~12)がされたものである。
その後の手続は以下のとおりである。
令和7年 4月10日付け 取消理由通知
同年 6月16日 訂正請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 同月19日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月11日 意見書の提出(申立人)
同年 9月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月 1日 訂正請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 同月11日付け 訂正請求があった旨の通知
令和8年 1月 8日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年12月1日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、当審により付した。)。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、10質量%~30質量%であり、
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の体積累積50%径と、前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の体積累積50%径との比(C1/C2)が、10~50であり、
25℃における粘度が、0.1Pa・s~50.0Pa・sであり、
前記(C)無機充填材の含有率が、40質量%~60質量%である封止用樹脂組成物。」とあるのを、
「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含み、
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、10質量%~13.3質量%であり、
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の体積累積50%径と、前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の体積累積50%径との比(C1/C2)が、10~50であり、
25℃における粘度が、0.1Pa・s~50.0Pa・sであり、
前記(C)無機充填材の含有率が、46質量%~60質量%である封止用樹脂組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~12も同様に訂正する)。
なお、訂正前の請求項1~12について、請求項2~12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による請求項1についての訂正は、
「前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤」を、「ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含」むもの(以下「訂正事項1-1」という。)とし、「前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合」を「10質量%~30質量%」から「10質量%~13.3質量%」の範囲(以下「訂正事項1-2」という。)とし、また「前記(C)無機充填材の含有率」を「40質量%~60質量%」から「46質量%~60質量%」の範囲(以下「訂正事項1-3」という。)とするものである。
訂正事項1-1は、「前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤」の種類を、「ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含」むものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該硬化剤について、本件特許明細書の段落【0054】に記載されていることから、訂正事項1-1による請求項1についての訂正は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とすることからみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1-2は、「前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合」の数値範囲の上限を「30質量%」から「13.3質量%」に狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該数値については、本件特許明細書の段落【0060】の【表1】の実施例9に記載されていることから、訂正事項1-2による請求項1についての訂正は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とすることからみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項1-3は、「前記(C)無機充填材の含有率」の数値範囲の下限を「40質量%」から「46質量%」とし、含有量の範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該数値については、本件特許明細書の段落【0024】に記載されていることから、訂正事項1-3による請求項1についての訂正は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の減縮を目的とすることからみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~12も同様である。
3 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~12に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 むすび
以上のとおり、請求項1~12についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1~12に係る発明(以下順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1~12を総称して「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含み、
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、10質量%~13.3質量%であり、
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の体積累積50%径と、前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の体積累積50%径との比(C1/C2)が、10~50であり、
25℃における粘度が、0.1Pa・s~50.0Pa・sであり、
前記(C)無機充填材の含有率が、46質量%~60質量%である封止用樹脂組成物。
【請求項2】
110℃での粘度が、0.20Pa・s以下である請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)無機充填材に占める前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の割合が、70質量%以上である請求項1又は請求項2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材が、シリカを含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材が、シリカを含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の比表面積が、1m2/g~30m2/gである請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の比表面積が、20m2/g~500m2/gである請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
25℃における揺変指数が、0.5~1.5である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項9】
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、芳香族アミンを含む請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項10】
前記芳香族アミンが、芳香環に直接アミノ基が結合しており、前記芳香環が1分子中に1個又は2個含まれるものである請求項9に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項11】
回路層を有する基板と、
前記基板上に配置され、前記回路層と電気的に接続された電子部品と、
前記基板と前記電子部品との間隙に配置された請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物と、
を備える電子部品装置。
【請求項12】
回路層を有する基板と、前記基板上に配置され、前記回路層と電気的に接続された電子部品とを、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物を用いて封止する工程を有する電子部品装置の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要、証拠方法及び取消理由の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第2号証の1に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証の1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2-1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明並びに技術常識及び周知技術(甲第2号証の1~甲第5号証)に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由2-2(甲第2号証の1を主引用文献とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証の1に記載された発明並びに技術常識及び周知技術(甲第1号証、甲第2号証の2~甲第5号証)に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由3(サポ-ト要件違反)
本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
申立人は、申立書に添付して、以下の証拠を提出している。
甲第1号証: “Admatechs Technical Overview”、2016年12月06日、Admatechs Co., Ltd.、インターネット<URL:https://www.dreytek.com/wp-content/uploads/2016/09/20160701-Admatechs-Technical-Overview.pdf>
甲第2号証の1:特開2012-149111号公報
甲第2号証の2:特開2015-105304号公報
甲第2号証の3:特開2015-189848号公報
甲第2号証の4:特開2015-218229号公報
甲第3号証:特開2016-113525号公報
甲第4号証の1:“用途別製品紹介 ナノコンポジット用途 封止剤/接着剤ほか”、INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE、[online]、2016年4月14日、日産化学工業株式会社ホームページ、[2024年1月25日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20160414181844/http://www.nissanchem.co.jp:80/products/materials/inorganic/function/05/>
甲第4号証の2:“高純度ナノシリカ分散液~CTE低減/ワニスの流動性改善~”、INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE、[online]、2015年8月7日、日産化学工業株式会社ホームページ、[2024年1月25日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20150807102042/https://www.nissanchem.co.jp/products/materials/silicasol.pdf>
甲第5号証:特開2010-192525号公報
甲第6号証(本件特許公報):特許第7509192号公報
以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。
3 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審において令和7年9月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1(甲1を主引用文献とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるとおり、本件特許の請求項1~12に係る特許は、当審において通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
1 取消理由1(甲1を主引用文献とする進歩性欠如)及び申立理由2-1(甲1を主引用文献とする進歩性欠如)について
取消理由1及び申立理由2-1は、ともに甲1を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1の第27ページに記載された「アドマナノシリカマスターバッチ」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「樹脂:ビスFエポキシ樹脂混合物、
硬化剤:芳香族ジアミン、
マイクロシリカ:0.5μmのエポキシ処理されたシリカ 30質量%。
アドマナノ:50nmのエポキシ処理されたシリカ 10質量%、を含む
アドマナノシリカマスターバッチ。」(以下「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ビスFエポキシ樹脂」は、本件特許出願時の技術常識を参酌すると、本件特許発明1の「ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂」に相当し、甲1発明の「ビスFエポキシ樹脂混合物」は、本件特許発明1の「エポキシ樹脂」に相当し、また、甲1発明の「アドマナノシリカマスターバッチ」は当該樹脂を含んだものであるから、本件特許発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲1発明の「硬化剤:芳香族ジアミン」は、「ジアミン」の用語より1分子中に2つのアミノ基を有すると解されることから、本件特許発明1の「(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤」に相当する。
甲1発明における「マイクロシリカ:0.5μmのエポキシ処理されたシリカ」、「アドマナノ:50nmのエポキシ処理されたシリカ」は、本件特許発明1の「無機充填材」に相当する。
そして、本件特許発明1の無機充填剤は、その粒径が「体積累積50%径」で規定されるところ、甲1発明のシリカの粒径も甲1の11ページの例えば10nmのものが、累積50%において10nmとなっていることから、「体積累積50%径」で規定されるものと解するのが相当である。そうすると、甲1発明の「マイクロシリカ:0.5μmのエポキシ処理されたシリカ」、「アドマナノ:50nmのエポキシ処理されたシリカ」は、それぞれ本件特許発明1の「(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材」、「(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材」に相当する。
さらに、甲1発明の「マイクロシリカ:0.5μmのエポキシ処理されたシリカ」と「アドマナノ:50nmのエポキシ処理されたシリカ」との平均粒径の比は、10(=500÷50)であるから、本件特許発明1の「前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の体積累積50%径と、前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の体積累積50%径との比(C1/C2)が、10~50」の範囲と重複一致する。
また、甲1発明の「マイクロシリカ:0.5μmのエポキシ処理されたシリカ」及び「アドマナノ:50nmのエポキシ処理されたシリカ」の合計に占める「アドマナノ:50nmのエポキシ処理されたシリカ」の割合は、25質量%(=10÷40×100)となっている。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の体積累積50%径と、前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の体積累積50%径との比(C1/C2)が、10~50である樹脂組成物。」
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上」であると特定されているのに対し、甲1発明は、対応する事項が特定されていない点
<相違点1-2>
樹脂組成物の用途が、本件特許発明1は、「封止用」であるのに対し、甲1発明は、当該用途の特定がされていない点
<相違点1-3>
エポキシ樹脂が、本件特許発明1は、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂に加え、「グリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含」むものであるのに対し、甲1発明は、ビスFエポキシ樹脂混合物である点
<相違点1-4>
25℃における粘度が、本件特許発明1は、「0.1Pa・s~50.0Pa・s」であるのに対し、甲1発明は、不明である点
<相違点1-5>
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、本件発明1は、「10質量%~13.3重量%」であるのに対し、甲1発明は、「25質量%」である点
<相違点1-6>
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、本件発明1は、「ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含」むものであるのに対し、甲1発明は「芳香族ジアミン」である点
<相違点1-7>
前記(C)無機充填材の含有率が、本件発明1は、「46質量%~60質量%」であるのに対し、甲1発明は、「40質量%」である点
(イ)判断
a 相違点の検討
(a)<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項は、無機充填材に関するもので、<相違点1-7>に係る事項は、<相違点1-1>及び<相違点1-5>に係る事項に連動して変化するため、これらの相違点は併せて検討するのが妥当である。そこで、これらの相違点を併せて検討する。
(b)まず、甲1には、甲1発明について、ブリード抑制等の観点から無機充填材に係る上記3つの相違点に係る数値範囲や、当該相違点に係る数値を変更する旨の記載はされていない。
そして、甲1発明において、<相違点1-7>に係る事項を満たすような変更、例えば、マイクロシリカを組成物全体量の30質量%のまま、アドマナノを組成物全体量の10質量%から16質量%に変更し、無機充填材の合計割合を40質量%から46質量%にして<相違点1-7>に係る事項を満たすようにしても、無機充填材に占めるアドマナノの割合は34.8質量%しかならないし、アドマナノを組成物全体量の10質量%のまま、マイクロシリカを組成物全体量の30質量%から36質量%に変更し、無機充填材の合計割合を40質量から46質量%にしても、無機充填材に占めるアドマナノの割合は21.7質量%にしかならず、<相違点1-5>に係る事項を満たさない。また、例えば、無機充填材の合計割合を40質量%から46質量%に変更し、アドマナノを組成物全体量の10質量%から2質量%に変更し、マイクロシリカを組成物全体量の30質量%から44質量%とした場合、無機充填材に占めるアドマナノの割合は4.3質量%(=2/46×100)しかならず、<相違点1-5>に係る事項を満たさないし、「前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」も、3.8m2/g(=60×0.02+6.0×0.44)となり、<相違点1-1>に係る事項を満たさない。
すなわち、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満足しない場合が多々存在する。そうすると、何らの動機付けもなく、甲1発明において、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たすように設定することは当業者が容易に想到し得るものではない。
(c)次いで、申立人が技術常識及び周知技術として示した他の証拠についても見てみる。
甲2の1には、「(A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤:(A)成分中の全エポキシ基に対する(B)成分中の全アミノ基のモル比が0.7~1.2となる量、及び
(C)平均粒径が0.1~3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5~70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが下記式(1)及び/又は(2)で表されるカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3~20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2~10質量%である無機充填剤:(A)~(C)成分からなる組成物全体に対する含有率が50~80質量%となる量
【化1】
[図:0001436151000001.jpg]
(式中、nは1~5の整数、mは1又は2である。)
を含有することを特徴とする半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。」(【請求項1】)に関する技術が記載されているところ、その具体例である実施例を参酌するに、例えば実施例1(【表1】【表2】)は、平均粒径2μmの無機充填剤Aと平均粒径50nmの無機充填剤Bをそれぞれ237.6質量部、2.4質量部使用したもので、無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が1.0質量%(=2.4/(237.6+2.4)×100)、無機充填剤の組成物全体に対する含有率が70質量%となっており、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>を同時に満たしていない。また、他の実施例を見ても、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>を同時に満たす例はない。
甲2の2には、「(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)0.1~10質量%の、平均粒径10~100nmのシリカフィラーと、
(D)40~75質量%の、平均粒径0.3μm~5μmのシリカフィラーと
を有し、
前記(C)成分および前記(D)成分を、合計で40.1~77質量%含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。」(【請求項1】)に関する技術が記載されているところ、その具体例である実施例を参酌するに、例えば実施例1(【0036】【0037】【表1】)は、(C)成分として、株式会社アドマテックス製のYA010C(平均粒径:10nm)、 (D)成分として、株式会社アドマテックス製のSE-2300(平均粒径:0.6μm)を、それぞれ0.1質量部、56.9質量部使用したもので、(C)成分の無機充填材全体に対する含有率が0.2質量%(=0.1/(0.1+56.9)×100)、無機充填材の組成物全体に対する含有率が57.0質量%となっており、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たしていない。また、他の実施例を見ても、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たす例はない。
甲2の3には、「【請求項1】(A)樹脂と(B)無機充填材と(C)レーザー回折法で100nm以下のピークを有する無機充填材とを含み、前記(B)無機充填材と前記(C)無機充填材を合わせた無機充填材の含有量が前記電子部品用液状樹脂組成物全体の67~77質量%である、電子部品用液状樹脂組成物。
【請求項2】前記(C)無機充填材がレーザー回折法で50nm以下のピークを有する無機充填材である、請求項1に記載の電子部品用液状樹脂組成物。
【請求項3】前記(B)無機充填材として、レーザー回折法でのピークが0.3~10μmである無機充填材を含有する、請求項1又は2に記載の電子部品用液状樹脂組成物。」に関する技術が記載されているところ、その具体例である実施例を参酌するに、例えば実施例8(【0059】【表1】)は、(C)成分として、レーザー回折法でのピーク10nmの球状シリカ、(B)成分としてレーザー回折法でのピーク3μmの球状シリカを、それぞれ47質量部、282質量部使用したもので、(C)成分の無機充填剤全体に対する含有率が14.3質量%(=47/(47+282)×100)、無機充填剤の組成物全体に対する含有率が70質量%となっており、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たしていない。また、他の実施例を見ても、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たす例はない。
また、甲2の4には、「(A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランで表面処理された平均粒径7~50nmのシリカフィラー、および、(D)平均粒径0.2~5μmのシリカフィラーを含み、
液状封止材の全成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分のシリカフィラー、および、前記(D)成分のシリカフィラーの合計含有量が、45~77質量部であり、
前記(C)成分のシリカフィラーと、前記(D)成分のシリカフィラーと、の配合割合(質量比)が1:10.2~1:559であることを特徴とする液状封止材。」(【請求項1】)に関する技術が記載されているところ、その具体例である実施例を参酌するに、例えば実施例14(【0052】【0053】【表1】)は、(C)成分として、シリカフィラーC-2:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー(平均粒径:10nm)、製品名YA010A-JGP、株式会社アドマテックス製、(D)成分として、シリカフィラーD-2:シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)表面処理シリカフィラー(平均粒径:0.25μm)、製品名SE1053-SEO、株式会社アドマテックス製と、シリカフィラーD-4:シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)表面処理シリカフィラー(平均粒径:1.5μm)、製品名SE5050-SEJ、株式会社アドマテックス製を、それぞれ1質量部、15.2質量部、60.8質量部使用したもので、(C)成分の無機充填剤全体に対する含有率が1.3質量%(=1/(1+15.2+60.8)×100)、無機充填剤の組成物全体に対する含有率が77質量%となっており、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たしていない。また、他の実施例を見ても、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たす例はない。
甲3には、「(A)アミノフェノール型エポキシ樹脂を含む液状エポキシ樹脂、(B)アミン系硬化剤、(C)シリカフィラーおよび(D)シランカップリング剤を含有し、
(A)成分100質量部に対して、アミノフェノール型エポキシ樹脂を10.0~70質量部を含み、
(B)成分が、(A)成分:1当量に対して、0.7~1.2当量の比率であり、
硬化後のガラス転移温度が、110~200℃であることを特徴とする、液状エポキシ樹脂組成物。」(【請求項1】)に関する技術が記載され、段落【0034】には、「市販品としては、アドマテックス製高純度合成球状シリカ(品名:SE2200SEE、平均粒径:0.6μm;品名:SE1053SEO、平均粒径:0.3μm;品名:SE5200SEE、平均粒径:2.0μm;品名:SO-E5、平均粒径:2μm;品名:SE-2300、平均粒径:0.6μm)等が挙げられる。なお、(C)成分は、ブリードの観点から、平均粒径が10~100nmのナノシリカを含むと、より好ましい。」と記載されているものの、いずれの実施例においても、平均粒径が10~100nmのナノシリカを併用しておらず、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たす例は示されていない。
甲4の1には、半導体用の封止剤などの流動性向上、CTE低減目的で使用される日産化学工業株式会社のシリカゾルの使用例として、
「エポキシ樹脂:ビスフェノールFジグリシジルエーテル
フィラー充填量;68wt%
サブミクロンシリカの粒子径;0.5μm
ナノシリカの粒子径:50-60nm
サブミクロンシリカ/ナノシリカ=90/10(重量比)」が記載されているものの、当該例は、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たしてはいない。また、甲4の2も同様に、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たす例は記載されていない。
甲5には、「【請求項1】有機材料製の基板上に設けられた電極部と半導体素子のバンプ電極とを電気的に接続しつつ該基板上に該半導体素子を配置する工程、該基板表面をプラズマ処理する工程、および、該基板と半導体素子との間のギャップにアンダーフィルを充填した後、該アンダーフィルを加熱硬化させることにより該ギャップを封止する工程をこの順に実施することを含むフリップチップ型の半導体装置の製造方法であって、
前記プラズマ処理後の前記基板において、前記半導体素子の外縁からの距離が少なくとも2.5mm以内の領域の表面凹凸の山頂部平均間隔をSmとする時、前記アンダーフィルが、平均粒径が前記Sm値の10%以下の絶縁性粒子を1~40wt%含有することを特徴とするフリップチップ型の半導体装置の製造方法。
【請求項2】前記絶縁性粒子が、平均粒径が1~100nmの非晶質球状シリカである請求項1に記載のフリップチップ型の半導体装置の製造方法。」に関する技術が記載されているところ、その具体例である実施例のアンダーフィルを参酌するに、例えば実施例8(【0052】【0053】【表2】)は、10nmのシリカ粒子を2.5質量部、600nmのシリカ粒子を53.5質量部使用したもので、10nmのシリカ粒子の無機充填材全体に対する含有率が4.5質量%(=2.5/(2.5+53.5)×100)、無機充填材の組成物全体に対する含有率が78質量%となっており、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たしていない。また、他の実施例を見ても、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満たす例はない。
すなわち、甲2の1~甲5には、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満足する例はないのであるから、甲1発明において、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
(d)したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明並びに技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
b 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0010】に、ブリードを抑制するという効果を奏することが記載されている。そして、本件特許明細書の実施例と比較例を対比すると、本件特許発明1のすべての発明特定事項を満たす実施例9は、ブリードが133μmと最も短くなっている。
すなわち、本件特許発明1は、本件特許発明1の発明特定事項を有することで、当該発明特定事項を有していないものに比して、よりブリードを抑制するという効果を奏するものである。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2~12について
本件特許発明2~12は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記アで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2~12は、甲1に記載された発明並びに技術常識及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和8年1月8日付けの意見書において、以下の主張を行っている。
・相違点1(上記(2)ア(ア)の<相違点1-1>に相当)に関して、甲1発明では、第2の無機充填材の割合が25質量%であり、本件訂正発明1の10質量%~13.3質量%の範囲外である点で相違するが、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮である。
・相違点2(上記(2)ア(ア)の<相違点1-5>に相当)に関しても、(C)無機充填材の含有率を適宜調整して、「46質量%~60質量%」の範囲内とすることは通常、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。なお、甲1の23ページには80質量%とした例も記載されている。
そこで、上記主張について検討するに、上記(2)ア(イ)で説示したとおり、甲1発明において、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満足しない場合が多々存在するし、甲2の1~甲5には、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項を同時に満足する例はないのであるから、甲1発明において、<相違点1-1>並びに<相違点1-5>及び<相違点1-7>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、申立人の上記主張を首肯することができない。
(4)取消理由1(甲1を主引用文献とする進歩性欠如)及び申立理由2-1(甲1を主引用文献とする進歩性欠如)のまとめ
本件特許発明1~12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、取消理由1及び申立理由2-1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由1(甲2の1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-2(甲2の1を主引用文献とする進歩性欠如)について
申立理由1及び申立理由2-2は、いずれも甲2の1を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。
(1)甲2の1に記載された発明
甲2の1の比較例5の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「(A)液状エポキシ樹脂として、
ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF8170(東都化成(株)製)33質量部
下記式(7)で表されるエポキシ樹脂:jER630LSD(三菱化学(株)製)33質量部
【化8】
[図:0001436151000002.jpg]
(B)アミン系硬化剤として、
4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン:カヤハードAA(日本化薬(株)製)34質量部
無機充填剤Aとして、
平均粒径2μmの球状シリカを球状シリカ100質量部に対しカップリング剤(KBM403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製))1質量部で表面処理したもの 213.6質量部
無機充填剤Bとして、
平均粒径50nmの球状シリカをカップリング剤(KBM103:フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製))を球状シリカ100質量部に対し5質量部で表面処理したもの 26.4質量部
カップリング剤として、
KBM403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)1質量部
触媒として、DBU(サンアプロ化成(株)製)0.3質量部
溶剤として、EDGAC(ダイセル化学(株)製)2質量部
を含有し、
無機充填剤含有率が70質量%であり、
粘度(Pa・s/25℃)がペーストである、
半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。」(以下「甲2の1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2の1発明とを対比する。
本件特許明細書の段落【0053】に、「エポキシ樹脂として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1;新日鉄住金化学株式会社製、商品名「YDF-8170C」、エポキシ当量:160g/eq)、及び3官能のエポキシ基を有するアミン型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2;三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER630」、エポキシ当量:95g/eq)を用意した。」と記載されていることから、甲2の1発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF8170(東都化成(株)製)」及び「下記式(7)で表されるエポキシ樹脂:jER630LSD(三菱化学(株)製)」は、それぞれ本件特許発明1の「ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂」及び「グリシジルアミン型エポキシ樹脂」に相当する。
甲2の1発明の「(B)アミン系硬化剤」である「4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン:カヤハードAA(日本化薬(株)製)」は、本件特許発明1の「ジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤」に相当する。
甲2の1発明の「無機充填剤A」及び「無機充填剤B」は、本件特許発明1の「(C)無機充填材」に相当する。
甲2の1発明の「半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物」は、本件特許発明1の「封止用樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2の1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含み、
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、ジアミノトルエン型アミン硬化剤を含む、
封止用樹脂組成物。」
<相違点2-1>
(C)無機充填材が、本件特許発明1は「(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、10質量%~13.3質量%であり、
前記(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材の体積累積50%径と、前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の体積累積50%径との比(C1/C2)が、10~50であり、
前記(C)無機充填材の含有率が、46質量%~60質量%である」のに対し、甲2の1発明は「平均粒径2μmの球状シリカをカップリング剤(KBM403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製))を球状シリカ100質量部に対し1質量部で表面処理したもの 213.6質量部
平均粒径50nmの球状シリカをカップリング剤(KBM103:フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製))を球状シリカ100質量部に対し5質量部で表面処理したもの 26.4質量部」からなるものである点
<相違点2-2>
(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、本件特許発明1は「ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含」むものであるのに対し、甲2の1発明はジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤のみからなるものである点
<相違点2-3>
25℃における粘度が、本件特許発明1は「0.1Pa・s~50.0Pa・s」であるのに対し、甲2の1発明は「ペースト」と記載されているものの、具体的数値は不明である点
(イ)判断
a 相違点の検討
<相違点2-1>について
・新規性について
甲2の1発明の無機充填剤含有率は「70質量%」と、本件特許発明1の「前記(C)無機充填材の含有率が、46質量%~60質量%」の点で相違するので、当該点は実質的に相違するものである。
そうすると、本件特許発明1は、甲2の1発明ではなく、甲2の1に記載されたものではない。
・進歩性について
甲2の1発明は、比較例であるため、甲2の1発明から出発して、無機充填材の含有率を「46質量%~60質量%」とするような動機付けがあるとはいえない。
仮に、無機充填材の含有率を変更することが設計的事項であるとして、以下検討する。
甲2の1発明の平均粒径が「体積累積50%径」で規定されるものであるか不明であるところ、「体積累積50%径」と仮定して、「(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」を計算すると(シリカの比表面積は、甲1の38、41ページから、平均粒径2.0μmの場合は2.0m2/g程度、平均粒径50nmの場合は60m2/g程度とする。)、「5.9m2/g」(=(2.0×213.6+60×26.4)/(213.6+26.4)×70%)となり、4.0m2/g以上である本件特許発明1の要件を満たしている。しかしながら、甲2の1には、甲2の1発明と同じ無機充填剤Aと無機充填剤Bを使用した実施例1があるが、「(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」を計算すると、「1.8m2/g」(=(2.0×237.6+60×2.4)/(237.6+2.4)×70%)となり、4.0m2/g以上である本件特許発明1の要件を満たさないものである。また、甲2の1発明と同じ無機充填剤Aと無機充填剤Bを使用して、無機充填剤含有率を40質量%とした比較例1も、「(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」を計算すると、「1.0m2/g」(=(2.0×69.3+60×0.7)/(69.3+0.7)×40%)となり、4.0m2/g以上である本件特許発明1の要件を満たさないものである。
すなわち、各無機充填剤の量を変更すると、「(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」が変更することとなる。
そうすると、甲2の1発明において、「(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」を維持したまま、前記(C)無機充填材の含有率を「46質量%~60質量%」とするような動機付けがあるとはいえない。
そして、1(2)ア(イ)a(c)でも説示したように、申立人が提出した他の証拠(甲2~甲5)にも、「(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、かつ前記(C)無機充填材の含有率が、46質量%~60質量%」とした例は記載されていない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲2の1発明並びに技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
b 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、本件特許発明1の発明特定事項を有することで、当該発明特定事項を有していないものに比して、よりブリードを抑制するという効果を奏するものである。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲2の1発明並びに技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2~12について
本件特許発明2~12は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記アで示した本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2~12は、甲2の1に記載された発明ではないし、甲2の1発明並びに技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の主張を行っている。
「◎相違点1 :成分(D1)の値及び相違点2: 構成(C6)無機充填剤の含有量について
構成(D1)「25℃における粘度が、0.1Pa・s~50.0Pa・s」であることについて、甲2の1発明ではペーストであるが、甲第2号証の1の【0037】には、「このような(C)成分である無機充填剤の含有率は、上記(A)~(C)成分からなる組成物全体の50~80質量%であり、より好ましくは60~75質量%である。含有率が50質量%未満では、膨張係数が大きく冷熱テストにおいてクラックの発生を誘発させ、80質量%を超える場合では、粘度が高くなり、薄膜侵入性の低下をもたらす。」ことが記載されており、(C)成分である無機充填材の含有率を調整することで粘度が高くなり過ぎないようにすることが記載されているし、無機充填材の含有率を低くすると樹脂組成物が低粘度となることは技術常識であった。実際に、甲第2号証の1の【表2】に示されているように、実施例1~4よりも実施例5~8の方が低粘度であり、比較例1は更に低粘度である)。
そうすると、構成(D1)25℃における粘度及び構成(C6)無機充填材の含有率の値は、甲第2号証の1に記載されているか、少なくとも本件特許の出願時における技術常識を参酌すれば記載されているに等しい事項である。」(第67~68ページ)
上記相違点について検討するに、上記(2)ア(イ)で説示したとおり、当該相違点は実質的な相違点である。また、甲2の1発明は、比較例であるため、当該比較例から出発して、「(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値」を維持したまま、前記(C)無機充填材の含有率を「46質量%~60質量%」とするような動機付けがあるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張を首肯することができない。
(4)申立理由1(甲2の1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-2(甲2の1を主引用文献とする進歩性欠如)まとめ
したがって、本件特許発明1~12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、申立理由1及び申立理由2-2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポ-ト要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)検討
ア 本件特許発明は、本件特許明細書の段落【0008】等から、「ブリードを抑制することができる封止用樹脂組成物並びにそれを用いた電子部品装置及びその製造方法を提供すること」を課題とするものである。
イ そこで、まず本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的記載について見てみる。
本件特許明細書の段落【0009】には、「前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)平均粒径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)平均粒径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上である封止用樹脂組成物。」と記載され、同段落【0025】には、「(C1)成分の第1の無機充填材は、封止用樹脂組成物の硬化物に耐ヒートサイクル性、耐湿性、絶縁性等を付与し、封止用樹脂組成物の硬化の際の応力を低減する。」、同段落【0031】には、「(C2)成分の第2の無機充填材を用いることで、ブリードの抑制効果が向上する。第2の無機充填材の平均粒径は、10nm~80nmであり、10nm~70nmであることが好ましく、10nm~60nmであることがより好ましい。第2の無機充填材の平均粒径が10nm以上であれば、封止用樹脂組成物の粘度が増大しにくく、流動性の悪化が生じにくい傾向にある。」、同段落【0033】には、「 無機充填材に占める第2の無機充填材の割合は、0.3質量%以上であることが好ましい。また、無機充填材に占める第2の無機充填材の割合は、30質量%以下であることが好ましい。無機充填材に占める第2の無機充填材の割合は、0.3質量%~30質量%であることがより好ましく、0.5質量%~25質量%であることがさらに好ましい。無機充填材に占める第2の無機充填材の割合が上記範囲であれば、ブリードの低減効果を発現でき、且つ流動性に優れる封止用樹脂組成物が得られる。
ある態様では、無機充填材に占める第2の無機充填材の割合は、10質量%~30質量%であることが好ましく、12質量%~27質量%であることがより好ましく、15質量%~25質量%であることがさらに好ましい。」、同段落【0037】には、「無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める無機充填材の質量の割合を乗じた値は、4m2/g以上であり、4m2/g~30m2/gであることが好ましく、5m2/g~26m2/gであることがより好ましく、6m2/g~24m2/gであることがさらに好ましい。無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める無機充填材の質量の割合を乗じた値が上記範囲であれば、ブリードの低減効果を発現でき、且つ流動性に優れる樹脂組成物が得られる。」と記載されている。
すなわち、上記記載から、「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、0.3質量%~30質量%である、封止用樹脂組成物。」(技術的事項ア)により、ブリードの低減効果が奏することが記載されているといえる。
ウ 次いで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記一般的記載を除く、【実施例】について見てみる。
無機充填材として、(C1)平均粒径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材のみを使用した比較例のブリードの距離が一番短いもので、「358μm」となっている。一方、(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂を、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤を使用した上で、上記技術的事項アを満たすいずれの実施例(133μm(実施例9)~311μm(実施例4))も、比較例1よりもブリードの距離が短くなっている。
エ そうすると、技術的事項アを更に特定し、ブリードが最も短い実施例である実施例9に対応する「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及びC)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含み、
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、0.3質量%~30質量%である、封止用樹脂組成物。」(技術的事項イ)により、本件特許発明の課題が解決されることが認識できる。
そして、本件特許発明1、及び本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2~12は、前記技術的事項イを備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できるものといえる。
オ したがって、本件特許発明1~12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書及び意見書において、以下の主張を行っている。
・主張ア:「ここで、甲第5号証の【0022】、【0023】に記載されているように、硬化剤として用いる物質が変われば発生するブリード現象の程度が変わることが技術常識である。
してみると、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤を用いたとしても、当該技術常識を参酌すれば、硬化剤として、ジアミノトルエン型アミン硬化剤を26.4質量部、及びジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤を18.9質量部の割合で組み合わせて用いた例のみが示されているに過ぎない本件特許明細書の実施例に基づいて、硬化剤について、特定硬化剤以外の種類の硬化剤や含有量が特定されていない場合にまで、本件特許発明の課題(ブリードの抑制)を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない。そのため、本件特許発明(請求項1)のように、硬化剤の種類や含有量を特定しない範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を一般化できるとはいえない。」(申立書の第75~76ページ)
「(A)各成分の含有量について
特許権者は、令和7年12月1日付の意見書の4頁3~18行において、液状成分の滲み出しやすさは、液状成分の種類によって異なると考えられること、本件発明では、無機充填材を特定の組み合わせ及び配合量とすることにより、これら特定のエポキシ樹脂及び硬化剤の組み合わせに対してブリード抑制の効果が示されていることを主張している。
この特許権者の主張によれば、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材の種類のみならず各成分(特に、エホキシ樹脂及び硬化剤)の含有量を発明特定事項とすべきであるし、各成分を「含み」とするオープンクレームではなく、「からなる」とするクローズドクレームにすべきである。
具体的には、液状成分の滲み出しやすさは、液状成分の種類によって異なるものではなく、液状成分の含有量によってはブリードが発生しない場合も当業者は想定し得るし、硬化剤の含有量によっても樹脂組成物の硬化度合いも異なるため、滲み出す液状成分の量も変化する。」(意見書の第4ページ)
・主張イ:「(B)無機充填材の含有量及び比表面積と質量を乗じた値について
本件特許明細書の実施例は、(C)無機充填材の含有率が60質量%のみであるが、特許権者の主張も踏まえれば、(C)無機充填材の含有率が60質量%ではない場合においてもブリード抑制の効果が奏されるか不明であるし、本件訂正発明1のように、第2の無機充填材について封止用樹脂組成物に対する含有量を特定しない範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を一般化できるとはいえない。
(C)無機充填材の含有率に関連して、本件訂正発明1の「前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、」についても、本件特許明細書の実施例8及び9では、8.5m2/g及び14.0m2/gであり、4.0m2/g以上の広範な範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を一般化できるとはいえない。」(意見書の第4ページ)
そこで、上記主張ア及びイについて併せて検討する。
上記(2)でも説示したように、「(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及びC)無機充填材を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを含み、
前記(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤が、ジアミノトルエン型アミン硬化剤とジアミノジフェニルメタン型アミン硬化剤とを含み、
前記(C)無機充填材が、(C1)体積累積50%径が0.1μm~20μmの第1の無機充填材及び(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材を含み、
前記(C)無機充填材の比表面積に、固形分質量に占める前記(C)無機充填材の質量の割合を乗じた値が、4.0m2/g以上であり、
前記(C)無機充填材に占める前記(C2)体積累積50%径が10nm~80nmの第2の無機充填材の割合が、0.3質量%~30質量%である」特定事項を備える技術的事項イにより、本件特許発明の課題が解決されることが理解できる。
そして、本件特許発明1は、(A)エポキシ樹脂、(B)1分子中にアミノ基を少なくとも1つ有する硬化剤及び(C)無機充填材の各含有量が特定されていないものの、(A)、(B)及び(C)の各含有量は、封止用樹脂組成物として用を成す範囲に自ずと定まるものである。
そうすると、エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填材の含有量が特定されていない場合、さらに比表面積と質量を乗じた値が4.0m2/g以上の範囲においても、本件特許発明の課題が解決し得るものといえる。
また、申立人は、一般論を述べるだけで、実験成績証明書等の具体的な証拠を示して、本件特許発明1の実施例以外の範囲において、本件特許発明の課題が解決し得ないことを立証していない。
したがって、申立人の上記主張ア及びイを首肯することができない。
(4)申立理由3(サポ-ト要件違反)のまとめ
したがって、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
(2)検討
申立人は、「本件特許明細書の実施例の【0062】では、エポキシ樹脂やアミン硬化剤も固形分として扱われて固形分質量が計算されている。しかし、揮発性成分について、有機溶剤以外の成分が何であるか本件特許明細書には何ら記載されておらず、液状成分であれば少なからず揮発性を有していることは当業者にとって技術常識であるにもかかわらず、本件特許明細書の【0062】では液状のエポキシ樹脂やアミン硬化剤が固形分として扱われており、いかなる成分が本件特許発明の請求項1に記載の「固形分」に該当するのか、当業者が理解できるように記載されておらず、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。」(申立書の第76~77ページ)と主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0037】には、「固形分質量」とは封止用樹脂組成物に含まれる固形分の質量をいい、封止用樹脂組成物から有機溶剤等の揮発性成分を除いた残りの成分を意味する。」と記載されているところ、揮発性成分は、当業者であれば「有機溶剤」のようなものを意味すると理解するものであり、「液状成分であれば少なからず揮発性を有している」ことが当業者にとって技術常識であっても、主成分である、エポキシ樹脂やアミン硬化剤を揮発成分として取り扱わず、固形分として取り扱うことは当業者に明らかである。
そうすると、本件特許発明1、及び本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2~12は、本件特許明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1~12は、明確である。
(3)申立理由4(明確性要件違反)のまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由4によっては、取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1~12に係る特許は、当審において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701168