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特許異議申立

2020-700745

成形用樹脂組成物

審判番号
2020-700745
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-557433
登録番号
6674047
請求日
2020年09月30日
審決日
2023年03月31日
公報発行日
2023年08月25日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】積水化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】小林 均
  • 【権利者代理人】林 司
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【権利者】徳山積水工業株式会社
  • 【権利者代理人】小林 均
  • 【権利者代理人】林 司
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【異議申立人】湊 愛
審判長/審判官
  • 審判長 近野 光知
  • 審判官 橋本 栄和
  • 審判官 海老原 えい子
分類
P1651.537-ZAA(C08L) / P1651.536-ZAA(C08L) / P1651.113-ZAA(C08L) / P1651.121-ZAA(C08L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項2号特許法113条4号特許法120条の8特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の8、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6674047号発明「成形用樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 本件特許第6674047号につき令和4年8月8日付けでされた訂正請求による訂正を認める。 本件特許第6674047号の請求項1ないし3、5、6及び8ないし10に係る発明についての特許をいずれも取り消す。 本件特許第6674047号の請求項4及び7に係る特許に対する本件特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6674047号に係る出願(特願2018-557433号、以下「本願」ということがある。)は、平成30年9月26日(優先権主張:平成29年9月27日、特願2017-187166号)の国際出願日に出願人積水化学工業株式会社及び徳山積水工業株式会社(以下併せて「特許権者ら」ということがある。)によりされたものとみなされる特許出願であり、令和2年3月9日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、令和2年4月1日に特許掲載公報が発行されたものである。 2.本件特許異議の申立ての趣旨 本件特許につき、令和2年9月30日に特許異議申立人湊愛(以下「申立人」という。)により、「特許第6674047号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」という。) 3.審理すべき範囲 上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6674047号の特許請求の範囲の全請求項に係る発明についての特許を審理の対象とすべきものであって、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外となる請求項は存しない。 4.申立て以降の手続の経緯 その後の手続の経緯は、以下のとおりである。 令和3年 3月18日付け 取消理由通知 同年 5月18日付け 通知書(特許権者宛、期間延長) 同年 6月18日受理 意見書・訂正請求書 (通知書(申立人宛)を8月送付するも後に誤送取消) 同年 9月30日付け 却下理由通知(訂正請求書) 同年11月22日付け 手続却下の決定(訂正請求書) 同年12月16日 上申書 同日 手数料返還請求(訂正請求書) 令和4年 1月28日 手数料返還 同年 4月28日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 7月 7日付け 通知書(意見書提出期間延長許可) 同年 8月 8日 意見書・訂正請求書 同年 8月25日付け 通知書(申立人宛) 同年 9月28日 意見書(申立人) 同年11月28日付け 審尋(特許権者宛) 令和5年 1月10日付け 通知書(回答書提出期間延長許可) (審尋に対する延長された回答書提出期間が経過したが、回答書の提出はなく、特許権者の回答書提出に係る意思がないことを確認した。) 第2 取消理由 1.申立人が主張する取消理由 申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。 申立人は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第11号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(4)が存するとしている。 (1)本件の請求項1、3ないし7、9及び10に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1、3ないし7、9及び10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)本件の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載の発明に基づいて、また、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)本件特許の請求項1ないし10は、記載不備であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。 (4)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、記載不備であり、本件の各請求項に係る発明を当業者が実施することができるように記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件の各請求項に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(なお、申立書第5頁の下段表の「理由の要点」及び第23~24頁の「(4-4)理由3(特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)(実施可能要件違反)」の(3)における「特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない」旨の記載は、誤記であるものと認められる。) ●申立人提示の甲号証 ・申立て時に提示 甲第1号証:特開昭62-4740号公報 甲第2号証:特開平11-60860号公報 甲第3号証:特開平8-188691号公報 甲第4号証:三菱ケミカル株式会社のホームページ(URL:https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/metablen/product/1202133_7202.html)で製品情報として公開しているものと解される「アクリル系加工助剤メタブレンPタイプ」なる商品の情報及び「樹脂改質剤メタブレン品種一覧」情報(公開日不明) 甲第5号証:特開2001-182869号公報 甲第6号証:国際公開第2015/046454号 甲第7号証:特開昭51-139847号公報 甲第8号証:特開2005-97492号公報 甲第9号証:山梨県富士工業技術センター(現・山梨県産業技術センター)がそのホームページで公開している同センターが保有するものと解される「熱流動評価装置(フローテスタ)株式会社島津製作所製CFT-500D(PC)」の説明情報 甲第10号証:高分子化学、第19巻、第207号(1962年)第381~388頁 甲第11号証:申立人が行った追試実験に係るものと認められる実験結果書 (以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第11号証」を、それぞれ、「甲1」ないし「甲11」と略す。) ・令和4年9月28日付け意見書に添付して提示 参考資料1-1:特開平8-283512号公報 参考資料1-2:特開昭62-236847号公報 参考資料1-3:再公表2016/013638号公報 参考資料2:特許第4835435号公報 ●特許権者が提示した物件等 ・令和3年6月18日受理の意見書に添付して提示 参考資料1:株式会社島津製作所が発行したものと認められるフローテスタCFT-EXなる測定機器製品のカタログ(公知日不明) 参考資料2:徳山積水工業株式会社の従業員である谷口寛が令和3年6月8日に作成したものと認められる追試実験結果報告書 ・令和4年8月8日付け意見書に添付して提示 参考資料1:上記参考資料1と同一物 参考資料3:特開2016-184015号公報 参考資料4:特開2015-26090号公報 乙第1号証:徳山積水工業株式会社の従業員である谷口寛が令和4年8月1日に作成したものと認められる追試実験結果報告書 2.当審が通知した取消理由 (1)令和3年3月18日付け取消理由通知 当審が令和3年3月18日付で通知した取消理由は以下のとおりである。 ●本件特許の請求項1及び3ないし10に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1及び3ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ●本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明又は甲1及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ●本件特許の請求項1ないし10は、記載不備であり、各請求項に係る発明につき明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであって、各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ●本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明は、記載不備であり、本件の各請求項に係る発明につき当業者が実施できる程度に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであって、各請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (2)令和4年4月28日付け取消理由通知(決定の予告) 当審が令和4年4月28日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。 ●本件特許の請求項1及び3ないし10に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1及び3ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ●本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明又は甲1及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ●本件特許の請求項1ないし10は、下記のとおり記載不備であり、各請求項に係る発明につき明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであって、各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由A」という。) 記 本件請求項1の「アクリル系加工助剤」に係る「重量平均分子量が110万~240万、溶融温度が90~150℃のアクリル系樹脂」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみて、本願出願時の技術常識に照らしても、いかなるアクリル系樹脂をいうものか技術的に意味が不明であり、本件請求項1の記載では、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であって、同項記載の発明が明確でない。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件請求項2ないし10についても同様である。 ●本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明は、記載不備であり、本件の各請求項に係る発明につき当業者が実施できる程度に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであって、各請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ●本件特許の請求項1ないし10は、記載不備であり、各請求項に係る発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであって、各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第3 令和4年8月8日付け訂正請求について 1.訂正請求の内容 令和4年8月8日付け訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許に係る特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、すなわち、訂正前の請求項1ないし10(以下項番に従い「旧請求項1」などという。)を一群の請求項ごとに訂正することにより、訂正後の請求項1ないし10(以下項番に従い「新請求項1」などという。)にするものであり、以下の訂正事項1ないし10を含むものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「塩素化塩化ビニル系樹脂と、アクリル系加工助剤と、耐衝撃改良剤とを含有する成形用樹脂組成物であって」との記載を、「塩素化塩化ビニル系樹脂と、アクリル系加工助剤と、耐衝撃改良剤、熱安定剤とを含有する成形用樹脂組成物であって」と訂正する。 請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の「溶融温度が90~150℃のアクリル系樹脂からなり、前記耐衝撃改良剤は」との記載を、「溶融温度が90~150℃のアクリル系樹脂からなり、前記アクリル系樹脂は、メチル(メタ)アクリレートの重合体であり、前記耐衝撃改良剤は」と訂正する。 請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1の「前記アクリル系加工助剤とは異なるものであり、前記塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して」との記載を、「前記アクリル系加工助剤とは異なるものであり、前記熱安定剤は、230℃における加熱減量率が5質量%未満の有機スズ系安定剤であり、前記塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して」と訂正する。 請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 上記訂正事項2に伴い、訂正前の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 上記訂正事項1に伴い、訂正前の請求項7を削除する。 (6)訂正事項6 上記訂正事項4に伴い、特許請求の範囲の請求項5の 「請求項1、2、3又は4記載の成形用樹脂組成物。」との記載を、 「請求項1、2又は3記載の成形用樹脂組成物。」と訂正する。 (7)訂正事項7 上記訂正事項4に伴い、特許請求の範囲の請求項6の 「請求項1、2、3、4又は5記載の成形用樹脂組成物。」との記載を、 「請求項1、2、3又は5記載の成形用樹脂組成物。」と訂正する。 (8)訂正事項8 上記訂正事項4及び5に伴い、特許請求の範囲の請求項8の 「請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の成形用樹脂組成物。」との記載を、 「請求項1、2、3、5又は6記載の成形用樹脂組成物。」と訂正する。 (9)訂正事項9 上記訂正事項4及び5に伴い、特許請求の範囲の請求項9の 「請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の成形用樹脂組成物。」との記載を、 「請求項1、2、3、5、6又は8記載の成形用樹脂組成物。」と訂正する。 (10)訂正事項10 上記訂正事項4及び5に伴い、特許請求の範囲の請求項10の 「請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の成形用樹脂組成物」との記載を、 「請求項1、2、3、5、6、8又は9記載の成形用樹脂組成物」と訂正する。 2.各訂正事項に係る訂正の適否について なお、各訂正事項に係る訂正の適否につき検討するにあたり、本件申立ては、本件の旧請求項1ないし10、すなわち全請求項に係る発明についての特許に対してされたものであるから、申立てが行われていない請求項に係る特許は存するものでなく、独立特許要件につき検討すべき請求項は存するものではない。 (1)訂正事項1ないし3について ア.訂正の目的について 旧請求項1において、訂正事項1に係る訂正では、旧請求項7の記載に基づき、「熱安定剤を含有すること」を直列的に外的付加することにより、また、訂正事項2に係る訂正では、旧請求項4の記載に基づき、「アクリル系樹脂は、メチル(メタ)アクリレートの重合体であること」に限定することにより、さらに、訂正事項3に係る訂正では、本件特許明細書の【0045】及び【0058】の記載に基づき、「熱安定剤は、230℃における加熱減量率が5質量%未満の有機スズ系安定剤であ」ると限定することにより、その特許請求の範囲を減縮して新請求項1としたものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無 訂正事項1ないし3に係る訂正は、上記ア.で検討したとおり、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許に係る旧請求項1につき、本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されて新請求項1にしたことが明らかであって、また、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことも明らかである。 したがって、訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。 (2)訂正事項4及び5について ア.訂正の目的について 訂正事項4に係る訂正では、旧請求項4に記載された事項を全て削除し、また、訂正事項5に係る訂正では、旧請求項7に記載された事項を全て削除して、新請求項4又は7としているから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無 訂正事項4及び5に係る各訂正は、上記ア.で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許に係る旧請求項4又は7につき、記載事項を全て削除して新請求項4又は7としているものであるから、本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、また、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことも明らかである。 したがって、訂正事項4及び5に係る訂正は、いずれも特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。 (3)訂正事項6ないし10について ア.訂正の目的について 訂正事項6ないし10に係る各訂正では、それぞれ、旧請求項4又は7を引用して記載されていた旧請求項5、6、8、9及び10について、請求項の記載事項を全て削除する訂正事項4又は5に係る訂正に伴い、不明瞭になった引用関係を正して新請求項5、6、8、9及び10としているものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無 訂正事項6ないし10に係る各訂正は、上記ア.で検討したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、いずれも、本件特許に係る旧請求項5、6、8、9及び10について、単に引用関係を正して新請求項5、6、8、9及び10としているから、本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、また、本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことも明らかである。 したがって、訂正事項6ないし10に係る各訂正は、いずれも特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。 3.本件訂正に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正は、各訂正事項に係る訂正が、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は同第3号に掲げる目的要件を満たすものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件も満たすものであるから、本件訂正を認める。 第4 本件特許に係る請求項に記載された事項 上記第3で示したとおり、令和4年8月9日付け訂正請求は、適法なものであるから、訂正後の本件特許に係る請求項1ないし10には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 塩素化塩化ビニル系樹脂と、アクリル系加工助剤と、耐衝撃改良剤、熱安定剤とを含有する成形用樹脂組成物であって、 前記アクリル系加工助剤は、重量平均分子量が110万~240万、溶融温度が90~150℃のアクリル系樹脂からなり、 前記アクリル系樹脂は、メチル(メタ)アクリレートの重合体であり、 前記耐衝撃改良剤は、前記アクリル系加工助剤とは異なるものであり、 前記熱安定剤は、230℃における加熱減最率が5質量%未満の有機スズ系安定剤であり、前記塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、前記アクリル系加工助剤を0.2~10質量部、前記耐衝撃改良剤を0.5~8.0質量部含有する ことを特徴とする成形用樹脂組成物。 【請求項2】 塩素化塩化ビニル系樹脂は、下記式(a)~(c)に示す構成単位(a)~(c)を有し、前記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(a)の割合が17.5モル%以下、構成単位(b)の割合が46.0モル%以上、構成単位(c)の割合が37.0モル%以下であることを特徴とする請求項1記載の成形用樹脂組成物。 【化1】 [図:0001400402000001.jpg] 【請求項3】 塩素化塩化ビニル系樹脂中の塩素含有量は、63~72質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の成形用樹脂組成物。 【請求項4】削除 【請求項5】 耐衝撃改良剤は、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体である請求項1、2又は3記載の成形用樹脂組成物。 【請求項6】 耐衝撃改良剤とアクリル系加工助剤との比(耐衝撃改良剤/アクリル系加工助剤)が、7.0以下である請求項1、2、3又は5記載の成形用樹脂組成物。 【請求項7】削除 【請求項8】 β-ジケトンを含まないことを特徴とする請求項1、2、3、5又は6記載の成形用樹脂組成物。 【請求項9】 塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、熱安定剤を0.4~10質量部含有することを特徴とする請求項1、2、3、5、6又は8記載の成形用樹脂組成物。 【請求項10】 請求項1、2、3、5、6、8又は9記載の成形用樹脂組成物から成形されてなることを特徴とする成形体。」 第5 当審の判断 当審は、 上記本件の請求項4及び7に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、本件訂正により、請求項4及び7に記載された事項が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠き不適法であって、その治癒ができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきもの、 また、 本件の請求項1ないし3、5、6及び8ないし10に係る発明についての特許は、上記第2の2.(2)に示した取消理由A(明確性)につき理由があるから、いずれも取り消すべきものである、と判断する。 以下、検討・詳述する。 本件の特許請求の範囲及び明細書に記載された事項 (1)特許請求の範囲に記載された事項 第4で述べたとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 塩素化塩化ビニル系樹脂と、アクリル系加工助剤と、耐衝撃改良剤、熱安定剤とを含有する成形用樹脂組成物であって、 前記アクリル系加工助剤は、重量平均分子量が110万~240万、溶融温度が90~150℃のアクリル系樹脂からなり、 前記アクリル系樹脂は、メチル(メタ)アクリレートの重合体であり、 前記耐衝撃改良剤は、前記アクリル系加工助剤とは異なるものであり、 前記熱安定剤は、230℃における加熱減最率が5質量%未満の有機スズ系安定剤であり、前記塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、前記アクリル系加工助剤を0.2~10質量部、前記耐衝撃改良剤を0.5~8.0質量部含有する ことを特徴とする成形用樹脂組成物。」 (2)本件明細書に記載された事項 本件明細書には、次の記載がある。 「【0029】 本発明の成形用樹脂組成物は、重量平均分子量が50万~500万のアクリル系樹脂からなるアクリル系加工助剤を含有する。 上記アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、又は、これらを含む(メタ)アクリル共重合体が挙げられる。 上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート等がある。ただし上記の(メタ)アクリル酸とはアクリル酸もしくはメタクリル酸を示す。本発明では、上記アクリル系樹脂として、メチル(メタ)アクリレート(MMA)の重合体を用いることが好ましい。 【0030】 上記(メタ)アクリル共重合体において、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル共に共重合される他の共単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等を挙げることができる。これらの共単量体は、アクリル系樹脂中に、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体の形で存在することができる。 【0031】 上記アクリル系樹脂は、重量平均分子量が50万~500万である。 上記重量平均分子量を上記範囲内とすることで、表面平滑性の優れた成形品を得ることができる。 上記重量平均分子量の好ましい下限は75万、好ましい上限は350万である。 上記重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によりポリスチレン換算分子量として測定される。 【0032】 上記アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が80~120℃であることが好ましい。 これにより、CPVCの耐熱性を損なうことなく表面性に優れた成形体を得ることができる。 【0033】 上記アクリル系樹脂は、溶融温度が90~150℃であることが好ましい。 これにより、CPVCの耐熱性を損なうことなく表面性に優れた成形体を得ることができる。 上記溶融温度は、例えば、フローテスター等の機器を用いて、JIS K 7210Aに準拠した方法(80℃から5℃/minで昇温を開始し、流動開始温度を測定)により測定することができる。 【0034】 本発明の成形用樹脂組成物において、上記アクリル系加工助剤の含有量は、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.2~10質量部である。この範囲でアクリル系加工助剤を含むことにより、得られる成形体表面の平滑性をより向上させることができ、特に、ろ波うねりが小さいものとすることができる。 上記アクリル系加工助剤の含有量の好ましい下限は0.8質量部、より好ましい下限は1.0質量部、好ましい上限は7.5質量部、より好ましい上限は5質量部である。 また、上記アクリル系加工助剤の含有量は、熱安定剤100質量部に対して、150~650質量部であることが好ましい。 更に、本発明の成形用樹脂組成物全体に対する上記アクリル系加工助剤の含有量は、0.4~7.0質量%であることが好ましい。」 「【0094】 (塩素化塩化ビニル系樹脂組成物の作製) 得られた塩素化塩化ビニル系樹脂(重合度:1000)100質量部に対して、アクリル系加工助剤としてポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製、重量平均分子量:80万、ガラス転移温度75℃、溶融温度136℃)1.5質量部、耐衝撃改質剤5.5質量部を添加した。更に、熱安定剤1.5質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イルガノックス1010、BASF社製、200℃の加熱減量率1.0質量%)0.5質量部を添加し混合した。なお、耐衝撃改質剤としては、MBS-1(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート成分含有量25質量%、ジエン成分量55質量%、平均粒子径0.3μm)樹脂(LG化学社製、ブタジエン単体のガラス転移温度-93℃)を用いた。また、熱安定剤(有機スズ安定剤)としては、ジメチルスズ ビス(2-エチルへキシルチオグリコレート)を用いた。 更に、ポリエチレン系滑剤(三井化学社製、Hiwax220MP)2.0質量部、脂肪酸エステル系滑剤(エメリーオレオケミカルズジャパン社製、LOXIOL G-32)0.3質量部、二酸化チタン(石原産業社製、TIPAQUE CR-90)6.0質量部を添加した。その後、スーパーミキサーで均一に混合して、塩素化塩化ビニル系樹脂組成物を得た。 ・・・ 【0096】 [実施例2~14、比較例1~6] 表1に記載した重量平均分子量(Mw)、溶融温度を有するポリメチルメタクリレート、耐衝撃改質剤を、表1に記載の添加量で使用した以外は、実施例1と同様に塩素化塩化ビニル系樹脂組成物及び押出成形体を作製した。なお、実施例11では、耐衝撃改質剤として、ABS(Galata Chemicals社製 Blendex338、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂を用いた。 また、実施例12、13では、ジメチルスズ ビス(2-エチルへキシルチオグリコレート)に代えて、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛を用いた。 更に、実施例14では、MBS-1に代えて、MBS-2(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート成分含有量25質量%、ジエン成分量40質量%、平均粒子径0.3μm)を用いた。 なお、押出成形時の条件については、表1に示すものに変更した。 【0097】 [実施例15] 表1に記載したゲル化時間を有する塩素化塩化ビニル系樹脂を使用した以外は、実施例1と同様に塩素化塩化ビニル系樹脂組成物及び押出成形体を作製した。」 「【0104】 【表1】(表は省略)」 このように、本件明細書には、アクリル系加工樹脂の溶融温度について、「上記溶融温度は、例えば、フローテスター等の機器を用いて、JIS K 7210Aに準拠した方法(80℃から5℃/minで昇温を開始し、流動開始温度を測定)により測定することができる。」(【0033】)と記載され、実施例において、アクリル系加工助剤として「ポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製、重量平均分子量:80万、ガラス転移温度75℃、溶融温度136℃)」を用いたことが記載されているのみであり、アクリル系加工助剤の溶融温度をどのような方法で測定したかは記載されていない。 2 申立人が提出した証拠に記載された事項 (1)甲第9号証 「 [図:0001400402000002.jpg] 」 (2)甲第11号証 「 [図:0001400402000003.jpg] 」 3 特許権者が提出した証拠に記載された事項 (1)参考資料1(令和3年6月18日受理の意見書及び令和4年8月8日付け意見書) [図:0001400402000004.jpg] 」 (2)参考資料3(令和4年8月8日付け意見書) 「【0031】 トナー37A,37Bの各熱物性である軟化温度Ts、流出開始温度Tf、溶融温度Tmは、流動特性評価装置(株式会社島津製作所製、CFT-500D、トナー量1.0〔g〕、ダイ径1.0〔mm〕、ダイ長さ1.0〔mm〕、荷重10〔kg〕、開始温度50〔℃〕、予熱時間300〔sec〕、昇温速度3〔℃/min〕、昇温法)によって測定される。測定で得られた昇温法流動曲線において、トナー37A,37Bの軟化温度Tsは、内部空隙が消失し1つの相となる温度であり、トナー37A,37Bの流出開始温度Tfは、トナーが流動状態に変化する温度であり、溶融温度Tmは1/2法によって算出される温度である。」 (3)参考資料4(令和4年8月8日付け意見書) 「【0031】 トナーの各熱物性である軟化温度Ts、流出開始温度Tf、溶融温度Tmは、流動特性評価装置(株式会社島津製作所製、CFT-500D、トナー量1.0〔g〕、ダイ径1.0〔mm〕、ダイ長さ1.0〔mm〕、荷重10〔kg〕、開始温度50〔℃〕、予熱時間300〔sec〕、昇温速度3〔℃/min〕、昇温法)にて測定できる。トナーの各物性は、測定で得られた昇温法流動曲線において、軟化温度Tsは、内部空隙が消失し1つの相となる温度、流出開始温度Tfは、トナーが流動状態に変化する温度、溶融温度Tmは1/2法によって算出される温度である。」 5 当審の判断 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)の判断手法 特許法36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関して、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、これを防止することにあるものと解される。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書及び図面とを考慮し、本件出願時の技術常識にも照らして、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。以下、この観点に立って判断する。 (2)本件発明1の「溶融温度」の測定方法について 本件明細書には、上記1(2)で述べたとおり、「上記溶融温度は、例えば、フローテスター等の機器を用いて、JIS K 7210Aに準拠した方法(80℃から5℃/minで昇温を開始し、流動開始温度を測定)により測定することができる。」(【0033】)と記載されている。 (3)「JIS K7210」は、「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方」に係るものであり、溶融温度や流動開始温度を求め方について規定するものではない。(JIS K7210AのAは、A法の意味か、附属書Aの意味かは不明である。) もっとも、定温試験により樹脂の流動特性を測定可能なフローテスタを用いて、昇温試験を行い、樹脂の軟化温度や流動開始温度を測定することは、本件優先日時点の技術常識であったと認められる(甲9)から、本件明細書に記載された、「フローテスター等の機器を用いて、JIS K7210Aに準拠した方法」は、機器として、「JIS K7210A」に規定されたフローテスターを用いることを意味するものと理解することができる。 (4)そこで、「JIS K 7210」をみると、確かに、当該規格で使用する装置については記載がある。 ところで、「JIS K7210」には、MFR及びMVR測定に関するものではあるものの、試験報告書には、「試験の温度及び荷重」を記載することとされ(「12.試験報告書」の「e)」欄)、試験条件として、附属書Aには、試験温度と荷重条件の組み合わせが記載されているから、測定時の荷重によっても測定結果は異なると理解することができ、このことは、甲11の○4及び○5の結果とも合致している。(「○4」は丸数字を表す。) そのため、本件明細書の【0033】の記載に従って、「JIS K7210」で規定された測定機器を用いて「溶融温度」(流動開始温度)を測定するとしても、その際には、測定時の荷重についても規定する必要があると解され、実際、甲9や参考資料1でも、荷重条件を特定している。 (5)しかしながら、本件明細書は、「JIS K7210Aに準拠した方法」と記載するにとどまり、測定時の荷重については何ら記載がない。 したがって、本件発明1の「溶融温度」は、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識を参酌しても、明確であると解することはできない。 なお、上記(3)のとおり、「JIS K7210A」が、「JIS K7210」のA法を意味するのか、附属書Aを意味するのかは判然としないが、何れを意味するとしても、これらは、定温試験でMFR及びMVRを測定する方法に関する記載であり、昇温試験に関する記載ではないので、上記判断を左右しない。 (4)特許権者の主張 特許権者は、令和3年6月16日提出の意見書において、以下の主張をする。 ア 「「樹脂の溶融温度」の測定方法として、樹脂が有する「溶融温度」という物性を一般に行われている測定方法を用いればよく、発明の詳細な説明において測定方法が詳細かつ具体的に示されなければ、発明が明確でない、当業者が実施できないという程度のものではありません。例えば、特許6771313号、特許第4797718号、特許第4835435号、特許第3687299号のように、特許請求の範囲に「溶融温度」について規定されているものの、発明の詳細な説明にはその測定方法は何ら説明されていない特許が数多く存在しています。」 イ 「本件明細書の【0033】には、「樹脂の溶融温度」の測定方法としてJIS K 7210Aに準拠した方法が例示されていますが、一般的な物性である樹脂の「溶融温度」を測定する一般的な測定方法としては、甲9、参考資料1に示されているとおり、「島津製作所製フローテスターを用いて、ダイ直径:1mm、ダイ長さ:1mm、試験圧力:0.98MPa(10kg/cm2)等の条件で行い、1/2法における溶融温度を求めることが一般的に行われています。」 また、特許権者、令和4年8月8日提出の意見書においても、令和3年6月16日提出の意見書と同趣旨の主張をし、本件明細書の【0033】に示したJIS K 7210Aに準拠した方法は、あくまでも「樹脂の溶融温度」の測定における昇温のやり方を例示的に示したものにすぎないこと、及び、上記1/2法における溶融温度を求める周知例として、参考文献3及び4を例示する。 (5)主張の検討 上記主張について検討する。 ア 主張アについて 樹脂の「溶融温度」なる物性は、融点やガラス転移温度とは異なり、その定義及び測定方法が当業者に広く知られているとは解されない。 そして、本件発明1では、「アクリル系加工助剤」を定義するための条件として「溶融温度が90~150℃」と特定しているが、本件明細書の実施例及び比較例で使用される「アクリル系加工助剤(PMMA)」は、「溶融温度(℃)」と「Mw」との間に一定の対応関係があるとは認められず、本件発明1において「重量平均分子量が110万~240万、溶融温度が90~150℃のアクリル樹脂からなり」と特定される「アクリル系加工助剤」の「メチル(メタ)アクリレートの重合体」は、上記「重量平均分子量」と「溶融温度」のいずれかのみでは自ずと定まらないものであると解される。 また、上記4件の特許公報はいずれも、以下に述べるように、樹脂の「溶融温度」という物性が、その測定方法を発明の詳細な説明に記載しなくても、一般に行われている測定方法を用いて測定できることを裏付ける証拠にはならない。 特許6771313号は、樹脂製チューブを製造する押出成形装置に係る発明であって、第一樹脂層を形成する第一樹脂及び第二樹脂層を形成する第二樹脂の溶融温度以上熱分解温度以下の温度であり、第一樹脂の温度よりも第二樹脂の温度が高くなるように、上記樹脂の温度を調整することを特定しているにすぎず、「溶融温度」によって樹脂自体を特定する発明ではない。 特許第4797718号は、熱可塑性樹脂から成る第1の部材と熱可塑性エラストマーから成る第2の部材を界面で接合し、一体化した栓の製造方法に係る発明であって、射出成形によって一体化する際の温度条件が、熱可塑性エラストマーの溶融温度180℃以上260℃以下と特定するものであり、上記「180℃以上260℃」を「熱可塑性エラストマーの溶融温度」と呼んでいるにすぎないものであって、「溶融温度」によって樹脂自体を特定する発明ではない。 特許4835435号は、金属超微粒子および/または金属酸化物超微粒子が熱可塑性樹脂中に分散した組成物を製造する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に係る発明であって、加熱温度を熱可塑性樹脂の溶融温度以上とするものであるが、【0041】には「熱可塑性樹脂の溶融温度は、樹脂をA法フロー測定装置に入れ、9.8MPaの荷重をかけて定速昇温させ、1mmφ×1cmのノズルから樹脂が流出し始める温度にて、測定することができる」と記載され、上記溶融温度の測定方法が説明されている。 特許3687299号は、合成樹脂バインダーに磁性粉を配合した樹脂磁石材料を溶融してマグネットロールを成形するマグネットロールの成形金型に係る発明であって、成形金型を構成する部材が上記樹脂磁石材料の溶融温度以上の加熱に耐えることを特定するものであり、「溶融温度」によって樹脂自体を特定する発明ではない。 そして、本件明細書の【0033】の記載に従って、「溶融温度」(流動開始温度)を測定しても、測定の際の荷重が特定されなければ、「溶融温度」(流動開始温度を特定できないことは、上記(3)のとおりである。 そうすると、溶融温度について、発明の詳細な説明において、樹脂の測定方法が詳細かつ具体的に示されなければ、発明が明確でないというものではない、という特許権者の上記主張を採用することはできない。 イ 主張イについて 本件明細書には、「溶融温度」の測定方法について【0033】以外に何ら記載も示唆もされていないところ、参考資料1や甲9に記載された方法が一般的な方法であるとしても、そのような方法のみが一般的な方法であるとまではいえず、本件明細書において、「溶融温度」を測定するにあたり、参考資料1や甲9に記載された条件で行っていると理解することはできない。 また、以下のとおり、参考資料1、甲9、参考資料3及び4は、いずれも、流出開始温度と、溶融温度とを別のものとして扱っているから、これらの証拠における溶融温度については、1/2法で測定することが一般的であったとしても、「流動開始温度」を測定して「溶融温度」とする本件発明において、「溶融温度を1/2法で測定していると理解することはできない。 さらに、特許権者が提示した参考資料1、甲9、参考資料3及び4はいずれも、以下に述べるように、本件発明1の「溶融温度」が、1/2法の温度であることを裏付ける証拠にはならない。 参考資料1には、「島津フローテスタ」を用いた代表的な汎用樹脂4種の温度特性評価について記載されているが、「流出開始温度」と「1/2法温度」が併記されており、いずれが溶融温度とすべきかが判然としないし、本件明細書の【0033】には「流動開始温度を測定」と記載されているから、むしろ参考資料1の「流出開始温度」を本件発明1の「溶融温度」であると解する方が自然である。 甲9には、熱流動評価装置(フローテスタ)を用いた定温試験及び昇温試験について記載されており、上記装置を用いて樹脂の軟化温度や流出開始温度を測定できること、上記昇温試験では、ポリスチレンの測定例において、所定の試験条件で「流出開始温度」と「溶融温度(1/2オフセット)」を測定したことが記載されている。 参考資料3及び4は、同じ出願人による、プリンタ等における画像形成装置で用いられるトナーの熱物性である軟化温度、流出開始温度、溶融温度について記載されており、上記溶融温度が1/2法によって算出される温度であることが記載されている。しかしながら、参考資料3及び4は、樹脂組成物であるトナーの溶融温度の測定方法が記載されるにすぎず、本件発明における「メチル(メタ)アクリレートの重合体」であるアクリル系樹脂の測定方法に関するものではない。 そうすると、「溶融温度」が1/2法の温度であることが記載されているのは甲9のみであり、これを根拠に、「溶融温度」が1/2法の温度であることが、本願出願時点の技術常識であると解することはできず、特許権者の上記主張イを採用することができない。 なお、当審は、令和4年11月28日付けで審尋を行い、(a)本件請求項1における「溶融温度」につき、測定方法及び条件により有意な変化が起きないことに係る論証を求め、(b)本件請求項1における「溶融温度」と明細書【0033】における「流動開始温度」、参考資料1における「流出開始温度」及び「1/2法温度」又は参考資料3又は4における「流出開始温度Tf」及び「溶融温度Tm」との異同を含めた対応関係に関する説明を求めたが、特許権者らからの回答書の提出はなかった。 4.取消理由Aに係る検討のまとめ 以上のとおり、本件請求項1の「アクリル系加工助剤」に係る「重量平均分子量が110万~240万、溶融温度が90~150℃のアクリル系樹脂」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみて、本願出願時の技術常識に照らしても、いかなるアクリル系樹脂をいうものか技術的に意味が不明であり、本件請求項1の記載では、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であって、 同項記載の発明が明確でない。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件請求項2、3、5、6及び8ないし10についても同様である。 したがって、本件の請求項1ないし3、5、6及び8ないし10の記載では、同各項に記載された事項で特定される発明が明確でない。 よって、本件の請求項1ないし3、5、6及び8ないし10の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1ないし3、5、6及び8ないし10に係る特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第5 結語 以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし3、5、6及び8ないし10に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものである。 また、本件の請求項4及び7に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700745

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  • 2025-700738異議申立 / 2026-03-12 / 訂正認容ペースト状シリコーン組成物、その製造方法及び化粧料
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、536・C08L、537・C08L
  • 2025-700135異議申立 / 2025-12-05 / 訂正認容新規樹脂組成物およびその製造方法
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、536・C08L、537・C08L
  • 2025-700281異議申立 / 2025-12-01 / 訂正認容樹脂組成物
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、536・C08L、537・C08L
  • 2025-700329異議申立 / 2025-11-21 / 維持熱伝導性樹脂組成物、放熱構造体及び熱伝導性樹脂組成物の製造方法
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、536・C08L、537・C08L

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