特許異議申立
2026-700031
長尺材料の溶射装置及び溶射方法
- 審判番号
- 2026-700031
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-114541
- 登録番号
- 7709231
- 請求日
- 2026年01月08日
- 審決日
- 2026年05月22日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】NJT銅管株式会社
- 【権利者代理人】中島 三千雄
- 【権利者代理人】中島 正博
- 【異議申立人】小林 瞳
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 石川 雄太郎
- 分類
- P1651.121-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7709231号発明「長尺材料の溶射装置及び溶射方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7709231号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7709231号(請求項の数14。以下、「本件特許」という。)は、令和6年7月18日を出願日とする特許出願(特願2024-114541号)に係るものであって、令和7年7月8日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和7年7月16日である。)。
その後、令和8年1月8日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人である小林瞳(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
溶射ゾーンに配設された複数の溶射ガンを用いて、該溶射ゾーンにおいて軸方向に移動せしめられる長尺材料の外表面に、所定の溶射皮膜を形成する溶射装置にして、
前記複数の溶射ガンを、前記溶射ゾーンにおいて、該長尺材料の周りに且つ軸方向の異なる位置にそれぞれ配置して、それぞれの溶射ガンから該長尺材料に向かって所定の溶射材料を吹き付けて、前記溶射皮膜が形成されるように構成すると共に、
前記溶射ゾーンにおける前記長尺材料の進入部の外側に位置する部位と、該溶射ゾーンにおける該長尺材料の退出部の外側に位置する部位に、それぞれ、かかる長尺材料を支持して、該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段を配設して、それら溶射ゾーン両側の規制手段にて該長尺材料の動きが規制された状態において、該長尺材料に対する溶射操作が進行せしめられるようにしたことを特徴とする長尺材料の溶射装置。
【請求項2】
前記長尺材料が、前記溶射ゾーンにおいて、その軸方向で、水平方向に走行せしめられることを特徴とする請求項1に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項3】
前記複数の溶射ガンのうち、前記溶射材料を下方から前記長尺材料に向かって吹き付ける溶射ガンが、前記溶射ゾーンにおいて、その長尺材料の退出部に最も近く配置された溶射ガンよりも、溶射ゾーン内方に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項4】
前記複数の溶射ガンのうち、前記溶射材料を下方から前記長尺材料に向かって吹き付ける溶射ガンが、前記溶射ゾーンにおいて、その長尺材料の進入部に最も近く配置された溶射ガンよりも、溶射ゾーン内方に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項5】
前記複数の溶射ガンが、前記長尺材料の周方向に等角度において配置されていることを特徴とする請求項1に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項6】
前記規制手段が、前記長尺材料を支持するように配設した少なくとも一つのローラにて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項7】
前記規制手段が、前記長尺材料を支持する第一のガイドローラと、該長尺材料の両側に配置した二つの第二のガイドローラとを、少なくとも含んで構成されていることを特徴とする請求項6に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項8】
前記溶射ゾーンが、外部から区画された溶射ハウジングにて構成され、該溶射ハウジングに対して、前記長尺材料の進入部及び退出部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項9】
前記溶射ハウジングの内部が、前記複数の溶射ガンに対応して、複数の溶射室に仕切られており、前記長尺材料が、その軸方向に移動せしめられつつ、それら複数の溶射室において、対応する溶射ガンから前記溶射材料がそれぞれ吹き付けられるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項10】
前記溶射ハウジングに対して、前記溶射ガンを挿入、配置せしめるためのガン挿入口が設けられている一方、該溶射ハウジング内の雰囲気を吸引するための排気口が、前記長尺材料を間にして、該ガン挿入口に挿入せしめられた該溶射ガンに対向するように、該溶射ハウジングに設けられて、該溶射ガンから吹き付けられる溶射材料のうちの前記長尺材料に未溶着のオーバースプレー粒子が、前記排気口に吸引されるようにしたことを特徴とする請求項8に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項11】
前記複数の溶射室にそれぞれ対応する前記溶射ハウジングの壁部に対して、それぞれ、前記溶射ガンを挿入、配置せしめるためのガン挿入口が設けられている一方、それら溶射室内の雰囲気を吸引するための排気口が、前記長尺材料を間にして、該ガン挿入口に挿入せしめられた該溶射ガンに対向するように、それぞれの溶射ハウジングの壁部に設けられて、該溶射ガンから吹き付けられる溶射材料のうちの前記長尺材料に未溶着のオーバースプレー粒子が、前記排気口に吸引されるようにしたことを特徴とする請求項9に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項12】
前記溶射ゾーンにおける前記長尺材料の退出部の外側に配設された規制手段と該退出部との間の距離が、前記溶射ゾーンにおける前記長尺材料の進入部の外側に配設された規制手段と該進入部との間の距離よりも、該長尺材料の軸方向において長くなるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の長尺材料の溶射装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の溶射装置を用いて、長尺材料を溶射する方法にして、
かかる長尺材料をその軸方向に移動せしめつつ、その外表面に対して、前記複数の溶射ガンから所定の溶射材料を溶射して、該長尺材料の全周面を覆う溶射皮膜を、該長尺材料の軸方向に連続して形成することを特徴とする長尺材料の溶射方法。
【請求項14】
溶射ゾーンにおいて、溶射されるべき長尺材料に対して、その軸方向における異なる位置で且つその周方向における異なる位置に配置された複数の溶射ガンから、それぞれ、所定の溶射材料を吹き付けて、該長尺材料の外表面に、目的とする溶射皮膜を形成するに際して、
該長尺材料を、支持して、その軸直角方向への移動を規制しつつ、その軸方向に移動させて、前記溶射ゾーンに進入せしめる一方、前記溶射ゾーンにおいて前記溶射皮膜が形成された長尺材料を、該溶射ゾーンからの退出側において、支持して、その軸直角方向への移動を規制しつつ、軸方向に移動させて、該溶射ゾーンから取り出すようにしたことを特徴とする長尺材料の溶射方法。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1~14に係る特許は、下記1のとおり、特許法113条2号に該当する(証拠方法は下記2を参照。以下、甲第1号証等を単に「甲1」等という。)。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~14は、甲1に記載された発明及び周知慣用技術(甲2~甲4)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法113条2号に該当する。
2 証拠方法
・甲1 実願昭59-23073号(実開昭60-136355号)のマイクロフィルム
・甲2 特開昭63-216956号公報
・甲3 特開平8-215886号公報
・甲4 特開平10-279031号公報
第4 当審における判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(実用新案登録請求の範囲、考案の詳細な説明、第1~4図)によれば、特に、第3、4図に示された長尺物への金属溶射装置(実用新案登録請求の範囲、4頁14行~5頁16行、6頁14~19行)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「長尺物への金属溶射装置であって、
押出成型機1の直ぐ後方の部分に設けられたケーシング4であって、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を挿通できる通孔7がそれぞれ開設された前壁5と後壁6を有する上記ケーシング4の内側が、それぞれ中央に上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を挿通できるだけの大きさの通孔8を穿設した第一の隔壁9、第二の隔壁10により、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13に分割され、
各溶射室には、それぞれ、第一の溶射ノズル3a、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3cと、第一の集塵機14a、第二の集塵機14b、第三の集塵機14cとが互いに対向させて設けられており、
第一の溶射ノズル3aは、上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の上方に下向きに設けられ、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3cは、同下方に上向きに設けられており、
上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を順に通過させ、各溶射室内で上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の表面に亜鉛を溶射して、亜鉛の溶射被膜を形成する、
長尺物への金属溶射装置。」(以下、「甲1発明1」という。)
「長尺物への金属溶射方法であって、
押出成型機1の直ぐ後方の部分に設けられたケーシング4であって、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を挿通できる通孔7がそれぞれ開設された前壁5と後壁6を有する上記ケーシング4の内側が、それぞれ中央に上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を挿通できるだけの大きさの通孔8を穿設した第一の隔壁9、第二の隔壁10により、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13に分割され、
各溶射室には、それぞれ、第一の溶射ノズル3a、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3cと、第一の集塵機14a、第二の集塵機14b、第三の集塵機14cとが互いに対向させて設けられており、
第一の溶射ノズル3aは、上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の上方に下向きに設けられ、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3cは、同下方に上向きに設けられた、長尺物への金属溶射装置により、
上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を順に通過させ、各溶射室内で上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の表面に亜鉛を溶射して、亜鉛の溶射被膜を形成する、
長尺物への金属溶射方法。」(以下、「甲1発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1における「ケーシング4の内側が」「第一の隔壁9、第二の隔壁10により」「分割され」た「第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13」は、本件発明1における「溶射ゾーン」に相当する。
(イ)甲1発明1における「第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13」の「各溶射室に」「それぞれ」「設けられて」いる「第一の溶射ノズル3a、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3c」は、上記(ア)を踏まえると、本件発明1における「溶射ゾーンに配設された複数の溶射ガン」に相当する。
(ウ)甲1発明1における「長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2」は、本件発明1における「長尺材料」に相当する。
そして、甲1発明1において、「上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を順に通過させ、各溶射室内で上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の表面に亜鉛を溶射して、亜鉛の溶射被膜を形成する」ことは、溶射の際に、各溶射室に設けられている各溶射ノズルを用いて溶射していることが明らかであるから、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1において、「溶射ゾーンに配設された複数の溶射ガンを用いて、該溶射ゾーンにおいて軸方向に移動せしめられる長尺材料の外表面に、所定の溶射皮膜を形成する」ことに相当する。
(エ)a(a)甲1発明1においては、「第一の溶射ノズル3a、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3c」は、「第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13」の「各溶射室に」「それぞれ」「設けられて」いることから、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の軸方向の異なる位置にそれぞれ設けられていることが明らかである。
(b)また、甲1発明1においては、「第一の溶射ノズル3aは、上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の上方に下向きに設けられ、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3cは、同下方に上向きに設けられて」いることから、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の周りにそれぞれ設けられていることが明らかである。
(c)そうすると、甲1発明1において、「第一の溶射ノズル3a、第二の溶射ノズル3b、第三の溶射ノズル3c」が、「第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13」の「各溶射室に」おいて、上記のように、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の周りに且つ軸方向の異なる位置にそれぞれ「設けられて」いることは、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1において、「前記複数の溶射ガンを、前記溶射ゾーンにおいて、該長尺材料の周りに且つ軸方向の異なる位置にそれぞれ配置して」いることに相当する。
b また、甲1発明1において、「上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を順に通過させ、各溶射室内で上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の表面に亜鉛を溶射して、亜鉛の溶射被膜を形成する」ことは、溶射の際に、各溶射室に設けられている各溶射ノズルを用いて溶射していることが明らかであるから、上記(ウ)も踏まえると、本件発明1において、「それぞれの溶射ガンから該長尺材料に向かって所定の溶射材料を吹き付けて、前記溶射皮膜が形成される」ことに相当する。
(オ)甲1発明1における「長尺物への金属溶射装置」は、本件発明1における「長尺材料の溶射装置」に相当する。
(カ)以上によれば、本件発明1と甲1発明1とは、
「溶射ゾーンに配設された複数の溶射ガンを用いて、該溶射ゾーンにおいて軸方向に移動せしめられる長尺材料の外表面に、所定の溶射皮膜を形成する溶射装置にして、
前記複数の溶射ガンを、前記溶射ゾーンにおいて、該長尺材料の周りに且つ軸方向の異なる位置にそれぞれ配置して、それぞれの溶射ガンから該長尺材料に向かって所定の溶射材料を吹き付けて、前記溶射皮膜が形成されるように構成した、長尺材料の溶射装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は、「前記溶射ゾーンにおける前記長尺材料の進入部の外側に位置する部位と、該溶射ゾーンにおける該長尺材料の退出部の外側に位置する部位に、それぞれ、かかる長尺材料を支持して、該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段を配設して、それら溶射ゾーン両側の規制手段にて該長尺材料の動きが規制された状態において、該長尺材料に対する溶射操作が進行せしめられるようにした」ものであるのに対して、甲1発明1は、上記のようなものではない点。
イ 相違点1の検討
(ア)まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a(a)本件発明1における「長尺材料を支持して、該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段」とは、本件明細書の記載(【0005】、【0022】、【0034】、図3(【0030】、【0031】)、図5(【0047】))も考慮すれば、「長尺材料を軸方向に移動させながら所定の溶射皮膜を形成できるように、長尺材料を支持して、長尺材料の軸方向への移動は許容するものの、複数の溶射ガンによる複数方向からの溶射材料の噴射の勢いによっても、長尺材料の軸芯位置が変化するようなことがなく、各溶射ガンからの溶射距離を一定に保つことができるように、長尺材料の軸方向に対して直角をなす全ての方向への移動は実質的に規制する手段」であると認められる。
(b)一方、甲1には、上記(a)のような「規制手段」を含む相違点1に係る発明特定事項については、何ら記載されていない。
すなわち、甲1には、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を備えたケーシング4の前壁5に開設された通孔7の外側に位置する部位と、同ケーシング4の後壁6に開設された通孔7の外側に位置する部位に、それぞれ、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を支持して、当該長尺物の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段を設け、これら2つの規制手段によって当該長尺物の動きが規制された状態で、当該長尺物に対して溶射することについては、何ら記載されていない。
また、このようなことが技術常識であるともいえない。
b この点、申立人は、甲1における、内側が溶射室11、12、13に分割されたケーシング4のすぐ上流側に配設されている押出成型機1は、金型から長尺物であるアルミニウム管2を押出成形して導出する装置であり、その長尺物の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する機能を有していることは技術常識であるから、上記のような押出成型機1は、本件発明1における「前記溶射ゾーンにおける前記長尺材料の進入部の外側に位置する部位」に「配設」された、「長尺材料を支持して、該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段」に相当すると主張する(申立書26頁12~25行)。
しかしながら、押出成型機1の金型から押出成形され導出されるまでは長尺物とはいえず、押出成型機1の金型から押出成形され導出されて初めて長尺物となると解されるところ、そのようにして得られた長尺物は、もはや押出成型機1の金型には接触していないから、押出成型機1は、「長尺材料を支持」するものとはいえず、また、「該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する」ものともいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
c 以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点1の容易想到性について検討する。
a 甲1のほか、甲2~甲4のいずれにも、複数の溶射ガンによる複数方向からの溶射材料の噴射の勢いによって、長尺材料の軸芯位置が変化し、各溶射ガンからの溶射距離を一定に保つことが困難となり、その結果、長尺材料に対する溶射材料の衝突時の溶射粒子の温度や速度が変化し、溶射材料の表面に形成される溶射皮膜の特性や表面性状等の品質のばらつきを招くこと(本件明細書【0005】)については記載されておらず、また、上記(ア)a(a)のような「規制手段」を含む相違点1に係る発明特定事項についても何ら記載されていないから、甲1発明1において、相違点1に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえない。
すなわち、甲1発明1において、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を備えたケーシング4の前壁5に開設された通孔7の外側に位置する部位と、同ケーシング4の後壁6に開設された通孔7の外側に位置する部位に、それぞれ、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を支持して、当該長尺物の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段を設け、これら2つの規制手段によって当該長尺物の動きが規制された状態で、当該長尺物に対して溶射することが動機付けられるとはいえない。
b この点、申立人は、以下の(a)~(c)について指摘し、すなわち、
(a)技術常識に照らして、甲1の第3図において、溶射室11、12、13を備えたケーシング4を抜け出たアルミニウム管2が、これ以降の下流において「支持又は保持」されないことは考えられず、また、第3図において、アルミニウム管2が、自重で垂れ下がることなく水平方向に進行しているように描かれていることから、アルミニウム管2を「支持又は保持する手段」がケーシング4の下流側に存在することを暗に示していること(申立書26頁下から2行~27頁9行)、
(b)甲1において、溶射室11、12、13を備えたケーシング4内の隔壁9、10の通孔8は、この中を通過するアルミニウム管2と接触しない程度のクリアランスは設けられているものの、そのクリアランスは、溶射ノズル3a、3b、3cから噴射された亜鉛が他の溶射室に進入することを抑制できる程度に小さいものであるところ、技術常識に照らして、当然に、アルミニウム管2が通孔8内において隔壁9、10と接触しない姿勢を維持するように、アルミニウム管2を「支持又は保持する手段」が存在することは明らかであり、また、甲1に記載された発明の目的が、「長尺物の表面に常に安定して良質の溶射被膜を形成することができる長尺物への金属溶射装置を提供する事」であるため、長尺物の表面に形成された溶射被膜が隔壁9、10に接触して剥がれるなどの不具合が生じないよう、長尺物の走行姿勢を安定させることは当然の前提であること(申立書27頁10行~28頁17行)、
(c)溶射ゾーンに相当する処理ゾーンを有する生産ラインにおいて、処理される長尺材料を「支持又は保持する手段」を処理ゾーンの前後に備えることは、技術常識であり、周知慣用技術でもあり(甲2、3)、また、長尺材料の処理を安定して行うために、「該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段」を処理ゾーンの前後に組み入れることは、当業者において技術常識であること(申立書28頁18行~29頁13行)、
について指摘し、これらを参酌すると、甲1発明1において、相違点1に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することであると主張する(申立書29頁14~18行)。
c しかしながら、上記b(a)~(c)の指摘を前提とした申立人の上記bの主張は、以下の(a)~(c)に述べるとおり、採用できない。
(a)上記b(a)の指摘については、甲1には、申立人が指摘するような「支持又は保持する手段」については何ら記載されておらず、ましてや、上記(ア)a(a)のような「規制手段」については何ら記載されていない。
(b)上記b(b)の指摘については、アルミニウム管2が通孔8内において隔壁9、10と接触しないようにするためには、それが可能となる程度に、隔壁9、10の通孔8のクリアランスを確保すれば足りるから、申立人が指摘するように、当然に、アルミニウム管2が通孔8内において隔壁9、10と接触しない姿勢を維持し安定させるように、アルミニウム管2を「支持又は保持する手段」(さらには、上記(ア)a(a)のような「規制手段」)が存在するとはいえない。
(c)上記b(c)の指摘については、甲2には、伝導管1をチャンバー4内でプラズマ溶射する装置において、伝導管1が、チャンバー4の前後にある管保持具3によって保持されることが示されており(実施例1、2、第1、2図)、また、甲3には、アルミニウム合金製の長尺物1にろう粉末を塗布する装置において、長尺物1が、ろう粉末を塗布するための下流側の2個のスプレーガン8、8を備えたブース35の前後にあるガイドローラ5、5によって搬送されることが示されている(【0019】、【0020】、【0025】、図1)。
しかしながら、甲2の管保持具3や、甲3のガイドローラ5、5は、その具体的な構造が明らかではなく、いずれも、単なる「支持又は保持する手段」と解する余地はあるとしても、特に、「長尺材料の軸方向に対して直角をなす全ての方向への移動は実質的に規制する」との点で、上記(ア)a(a)のような「規制手段」といえるかどうかは、不明というほかない。そして、そうである以上、申立人が指摘するように、甲2や甲3を根拠として、溶射ゾーンに相当する処理ゾーンを有する生産ラインにおいて、長尺材料の処理を安定して行うために、「該長尺材料の軸方向への移動は許容するが、軸直角方向への移動は規制する規制手段」を処理ゾーンの前後に組み入れることは、当業者において技術常識であるということはできない。
(d)以上のとおりであるから、いずれにしろ、上記b(a)~(c)の指摘を前提とした申立人の上記bの主張は採用できない。
d 以上によれば、甲1発明1において、相違点1に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び周知慣用技術(甲2~甲4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~13について
本件発明2~13は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明及び周知慣用技術(甲2~甲4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~13についても同様に、甲1に記載された発明及び周知慣用技術(甲2~甲4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明14について
ア 対比
本件発明14と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2は、「上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を順に通過させ、各溶射室内で上記長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2の表面に亜鉛を溶射して、亜鉛の溶射被膜を形成する」ものであるところ、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2は、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を備えたケーシング4の前壁5に開設された通孔7を通過して、同ケーシング4に進入すること、また、亜鉛の溶射被膜が形成された長尺物であるアルミニウム管2は、同ケーシング4の後壁6に開設された通孔7を通過して、同ケーシング4から取り出されることが明らかである。
そうすると、その余の点については上記(2)アと同様であるから、本件発明14と甲1発明2とは、
「溶射ゾーンにおいて、溶射されるべき長尺材料に対して、その軸方向における異なる位置で且つその周方向における異なる位置に配置された複数の溶射ガンから、それぞれ、所定の溶射材料を吹き付けて、該長尺材料の外表面に、目的とする溶射皮膜を形成するに際して、
該長尺材料を、その軸方向に移動させて、前記溶射ゾーンに進入せしめる一方、前記溶射ゾーンにおいて前記溶射皮膜が形成された長尺材料を、該溶射ゾーンからの退出側において、軸方向に移動させて、該溶射ゾーンから取り出すようにした、長尺材料の溶射方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2
長尺材料を、その軸方向に移動させて、溶射ゾーンに進入せしめる際に、本件発明14は、長尺材料を、「支持して、その軸直角方向への移動を規制しつつ、」その軸方向に移動させて、溶射ゾーンに進入せしめるものであるのに対して、甲1発明2は、そのようにするものではない点。
・相違点3
溶射ゾーンにおいて溶射皮膜が形成された長尺材料を、溶射ゾーンからの退出側において、軸方向に移動させて、溶射ゾーンから取り出す際に、本件発明14は、溶射ゾーンにおいて溶射皮膜が形成された長尺材料を、溶射ゾーンからの退出側において、「支持して、その軸直角方向への移動を規制しつつ、」軸方向に移動させて、溶射ゾーンから取り出すものであるのに対して、甲1発明2では、そのようにするものではない点。
イ 相違点2、3の検討
事案に鑑み、相違点2、3をまとめて検討する。
(ア)まず、相違点2、3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a(a)本件発明14において、長尺材料を「支持して、その軸直角方向への移動を規制」するとは、本件明細書の記載(【0005】、【0022】、【0034】、図3(【0030】、【0031】)、図5(【0047】))も考慮すれば、「複数の溶射ガンによる複数方向からの溶射材料の噴射の勢いによっても、長尺材料の軸芯位置が変化するようなことがなく、各溶射ガンからの溶射距離を一定に保つことができるように、長尺材料を支持して、その軸方向に対して直角をなす全ての方向への移動を実質的に規制する」ことを意味するものと認められる。
(b)一方、甲1には、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を備えたケーシング4の前壁5に開設された通孔7を通過させて、同ケーシング4に進入させる際に、上記(a)のように、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を、「支持して、その軸直角方向への移動を規制」することについては、何ら記載されていない。
また、甲1には、亜鉛の溶射被膜が形成された長尺物であるアルミニウム管2を、同ケーシング4の後壁6に開設された通孔7を通過させて、同ケーシング4から取り出す際に、上記(a)のように、亜鉛の溶射被膜が形成された長尺物であるアルミニウム管2を、「支持して、その軸直角方向への移動を規制」することについては、何ら記載されていない。
また、上記のようなことが技術常識であるともいえない。
b 以上によれば、相違点2、3はいずれも実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点2、3の容易想到性について検討する。
a 甲1のほか、甲2~甲4のいずれにも、複数の溶射ガンによる複数方向からの溶射材料の噴射の勢いによって、長尺材料の軸芯位置が変化し、各溶射ガンからの溶射距離を一定に保つことが困難となり、その結果、長尺材料に対する溶射材料の衝突時の溶射粒子の温度や速度が変化し、溶射材料の表面に形成される溶射皮膜の特性や表面性状等の品質のばらつきを招くこと(本件明細書【0005】)については記載されておらず、また、上記(ア)a(a)のように、長尺材料を「支持して、その軸直角方向への移動を規制」することを含む相違点2、3に係る発明特定事項についても何ら記載されていないから、甲1発明2において、相違点2、3に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえない。
すなわち、甲1発明2において、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を、第一の溶射室11、第二の溶射室12、第三の溶射室13を備えたケーシング4の前壁5に開設された通孔7を通過させて、同ケーシング4に進入させる際に、長尺物である押出成型直後のアルミニウム管2を、支持して、その軸直角方向への移動を規制することが動機付けられるとはいえない。
また、甲1発明2において、亜鉛の溶射被膜が形成された長尺物であるアルミニウム管2を、同ケーシング4の後壁6に開設された通孔7を通過させて、同ケーシング4から取り出す際に、亜鉛の溶射被膜が形成された長尺物であるアルミニウム管2を、支持して、その軸直角方向への移動を規制することが動機付けられるとはいえない。
b 以上によれば、甲1発明2において、相違点2、3に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明14は、甲1に記載された発明及び周知慣用技術(甲2~甲4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1~14は、甲1に記載された発明及び周知慣用技術(甲2~甲4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700031