2021-700289
金属端子用接着性フィルム、接着性フィルム付き金属端子、及び電池
- 審判番号
- 2021-700289
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-085368外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6760533
- 請求日
- 2021年03月18日
- 審決日
- 2022年06月13日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 29項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第6760533号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~16に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2019年(令和 1年) 6月20日(優先権主張平成30年 6月20日)を国際出願日とする特願2019-571089号の一部を令和 2年 5月14日に新たな特許出願としたものであって、令和 2年 9月 7日にその特許権の設定の登録がされ、同年 9月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和 3年 3月18日に、特許異議申立人 赤松智信(以下「申立人赤松」という。)により、請求項1~16(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、同年同月同日に、特許異議申立人 土田裕介(以下「申立人土田」という。)により、請求項1~16(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、同年 3月23日に、特許異議申立人 山川隆久(以下「申立人山川」という。)により、請求項1~16(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、同年 8月30日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により同年11月 8日に意見書と訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、当該請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出され、これに対して、申立人土田により令和 4年 3月 9日付けで意見書が提出され、申立人赤松により令和 4年 3月11日付けで意見書が提出されたものである。なお、申立人山川は意見書を提出しなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6760533号の特許請求の範囲を、令和 3年 11月 8日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~17について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正した箇所を表す。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1に、
「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上であり、」と記載されているのを
「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項6、8~10、12~16も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項1に、
「金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」と訂正する。
請求項1を引用する請求項6、8~10、12~16も同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項2に、
「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上であり、」と記載されているのを
「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」と訂正する。
請求項2を引用する請求項6~10、12~16も同様に訂正する。
エ 訂正事項4
請求項2に、
「金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」と訂正する。
請求項2を引用する請求項6~10、12~16も同様に訂正する。
オ 訂正事項5
請求項3に、
「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である、請求項1または2に記載の金属端子用接着性フィルム。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、請求項3が引用する請求項1に
「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上であり、」と記載されているのを
「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」と訂正する。
請求項3を引用する請求項6、12~16も同様に訂正する。
カ 訂正事項6
請求項4を削除する。
キ 訂正事項7
請求項5を削除する。
ク 訂正事項8
請求項6に、
「請求項1~5のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「請求項1~3のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と訂正する。
請求項6を引用する請求項12~16も同様に訂正する。
ケ 訂正事項9
請求項7に、
「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んでいる、請求項2に記載の金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んでおり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下である、請求項2に記載の金属端子用接着性フィルム。」と訂正する。
請求項7を引用する請求項8~10、12~16も同様に訂正する。
コ 訂正事項10
請求項11に、
「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有している、請求項1、7~10のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、請求項11が引用する請求項1に
「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上であり、」と記載されているのを
「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」と訂正する。
請求項11を引用する請求項13~16も同様に訂正する。
サ 訂正事項11
請求項12に、
「前記酸変性ポリプロピレン層は、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含んでいる、請求項1~10のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「前記酸変性ポリプロピレン層は、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含んでいる、請求項1~3,6~10のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と訂正する。
請求項12を引用する請求項13~16も同様に訂正する。
シ 訂正事項12
請求項13に、
「前記金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上である、請求項1~12のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「前記金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上50μm以下である、請求項1~3,6~12のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と訂正する。
請求項13を引用する請求項14~16も同様に訂正する。
ス 訂正事項13
請求項14に、
「請求項1~13のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを
「請求項1~3,6~13のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」と訂正する。
請求項14を引用する請求項15~16も同様に訂正する。
セ 訂正事項14
請求項15に、
「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。」と記載されているのを
「請求項1~3,6~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。」と訂正する。
なお、訂正請求書には、本訂正事項について、請求項15を引用する請求項16も同様に訂正する、と記載されているが、請求項16は請求項15を引用していないので、上記のとおり認定する。
ソ 訂正事項15
請求項16に、
「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」と記載されているのを
「請求項1~3,6~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」と訂正する。
タ 訂正事項16
請求項3に、
「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である、請求項1または2に記載の金属端子用接着性フィルム。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、請求項3が引用する請求項2に
「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上であり、」と記載されているのを
「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」と訂正して新たな請求項17とする。
チ なお、訂正請求書の第8頁の表では、請求項8~10は訂正なしと記載されているが、請求項8~10は、訂正された請求項2、7を引用することにより実質的に訂正されているので上記のように認定した。
2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「ポリプロピレン層の厚さ」について、「15μm以上」とされていたものを「15μm以上120μm以下」として上限を特定するとともに、訂正前の請求項1に記載されていた「金属端子用接着性フィルム」についてその厚さが「40μm以上200μm以下であ」ることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項1は、ポリプロピレン層の厚さの上限値を本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0052】の記載に基づいて限定するとともに、厚さについて限定がされていなかった金属端子用接着性フィルムの厚さを、同段落【0025】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1に「金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを「金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」と訂正するものであり、訂正前の請求項1に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項1に係る発明に包含される、令和 3年 8月30日付けの取消理由通知において特許法第29条第1項第3号に係る刊行物として引用された特開2015-232945号公報の請求項1に記載された発明をその請求項に記載した事項から除外することを明示するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載した事項から、特開2015-232945号公報の請求項1に記載された発明を除外するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正前の請求項2に記載された「金属端子用接着性フィルムの厚さ」について、「40μm以上」とされていたものを「40μm以上200μm以下」として上限を特定するとともに、訂正前の請求項2に記載されていた「酸変性ポリプロピレン層」についてその厚さが「10μm以上であ」ることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項3は、金属端子用接着性フィルムの厚さの上限値を本件明細書の段落【0025】の記載に基づいて限定するとともに、厚さについて限定がされていなかった酸変性ポリプロピレン層の厚さを同段落【0064】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4は、訂正前の請求項2に「金属端子用接着性フィルム。」と記載されているのを「金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」と訂正するものであり、訂正前の請求項2に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項2に係る発明に包含される、令和 3年 8月30日付けの取消理由通知において特許法第29条第1項第3号に係る刊行物として引用された特開2015-232945号公報の請求項1に記載された発明をその請求項に記載された事項から除外することを明示するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項4は、訂正前の請求項2に記載した事項から、特開2015-232945号公報の請求項1に記載された発明を除外するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
ア 訂正事項5のうち、請求項1または2を引用する訂正前の請求項3において、請求項1を引用するものについて独立形式に改める訂正事項(以下、「訂正事項5-1」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当している。
また、訂正事項5-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項5のうち、「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上であり、」と記載されているのを「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」とする訂正事項(以下、「訂正事項5-2」という。)は、訂正前の請求項3が引用する請求項1に記載された「ポリプロピレン層の厚さ」について、「15μm以上」とされていたものを「15μm以上120μm以下」として上限を特定するとともに、訂正前の請求項3が引用する請求項1に記載されていた「金属端子用接着性フィルム」についてその厚さが「40μm以上200μm以下であ」ることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項5-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項5-2は、ポリプロピレン層の厚さの上限値を本件明細書の段落【0052】の記載に基づいて限定するとともに、厚さについて限定がされていなかった金属端子用接着性フィルムの厚さを、同段落【0025】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項5-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
エ 上記イのとおり、訂正事項5-2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は、請求項4、5の削除に伴い、訂正前の請求項6における請求項4、5の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項6における請求項4、5の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(9)訂正事項9について
ア 訂正事項9は、訂正前の請求項7に記載された「ポリプロピレン層」についてその厚さが「15μm以上120μm以下であ」ることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項9は、厚さについて限定がされていなかったポリプロピレン層の厚さを本件明細書の段落【0052】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項9による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(10)訂正事項10について
ア 訂正事項10のうち、請求項1、7~10のいずれかを引用する訂正前の請求項11において、請求項1を引用するものについて独立形式に改める訂正事項(以下、「訂正事項10-1」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当している。
また、訂正事項10-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項10のうち、「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上であり、」と記載されているのを「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」とする訂正事項(以下、「訂正事項10-2」という。)は、訂正前の請求項11が引用する請求項1に記載されたポリプロピレン層の厚さについて、「15μm以上」とされていたものを「15μm以上120μm以下」として上限を特定するとともに、訂正前の請求項11が引用する請求項1に記載されていた「金属端子用接着性フィルム」についてその厚さが「40μm以上200μm以下であ」ることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項10-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項10-2は、ポリプロピレン層の厚さの上限値を本件明細書の段落【0052】の記載に基づいて限定するとともに、厚さについて限定がされていなかった金属端子用接着性フィルムの厚さを、同段落【0025】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項10-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
エ 上記イのとおり、訂正事項10-2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(11)訂正事項11について
訂正事項11は、請求項4、5の削除に伴い、訂正前の請求項12における請求項4、5の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項12における請求項4、5の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(12)訂正事項12について
ア 訂正事項12のうち、訂正前の請求項13に「前記金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上である」と記載されているのを「前記金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上50μm以下である」とする訂正事項(以下、「訂正事項12-1」という。)は、訂正前の請求項13に記載された金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さについて、「0.5μm以上」とされていたものを「0.5μm以上50μm以下」として上限を特定するものである。
したがって、訂正事項12-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項12-1は、金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さの上限値を本件明細書の段落【0038】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項12-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項12-1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項12のうち、「請求項1~12のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」を「請求項1~3,6~12のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」とする訂正事項(以下、「訂正事項12-2」という。)は、請求項4、5の削除に伴い、訂正前の請求項13における請求項4、5の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項13における請求項4、5の引用の削除が、願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、訂正事項12-2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(13)訂正事項13について
訂正事項13は、請求項4、5の削除に伴い、請求項1~13のいずれかを引用する訂正前の請求項14における請求項4、5の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項14における請求項4、5の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(14)訂正事項14について
訂正事項14は、請求項4、5の削除に伴い、請求項1~14のいずれかを引用する訂正前の請求項15における請求項4、5の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項15における請求項4、5の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(15)訂正事項15について
訂正事項15は、請求項4、5の削除に伴い、請求項1~14のいずれかを引用する訂正前の請求項16における請求項4、5の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項16における請求項4、5の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(16)訂正事項16について
ア 訂正事項16のうち、請求項1または2を引用する訂正前の請求項3において、請求項2を引用するものについて独立形式に改める訂正事項(以下、「訂正事項16-1」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当している。
また、訂正事項16-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項16のうち、請求項3が引用する請求項2に「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上であり、」と記載されているのを
「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項16-2」という。)は、訂正前の請求項3が引用する請求項2に記載された「金属端子用接着性フィルムの厚さ」について、「40μm以上」とされていたものを「40μm以上200μm以下」として上限を特定するとともに、訂正前の請求項3が引用する請求項2に記載されていた「酸変性ポリプロピレン層」についてその厚さが「10μm以上であ」ることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項16-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項16-2は、金属端子用接着性フィルムの厚さの上限値を本件明細書の段落【0025】の記載に基づいて限定するとともに、厚さについて限定がされていなかった酸変性ポリプロピレン層の厚さを同段落【0064】の記載に基づいて限定するものである。
したがって、訂正事項16-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
エ 上記イのとおり、訂正事項16-2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(17)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1~16)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。
(18)一群の請求項について
請求項1に係る訂正事項1,2によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項3~16が連動して訂正されるとともに、請求項2に係る訂正事項3,4によって、本件訂正前の請求項2を引用する請求項3~16が連動して訂正されるものであり、請求項3~16は請求項1と請求項2の両者を引用しているから、本件訂正前の請求項1~16は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とする訂正事項5、10、16を含むものであり、訂正後の請求項17については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがあるところ、上記(16)のとおり訂正後の請求項17についての訂正が認められるから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~16〕と〔17〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、令和 3年11月 8日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~16〕、〔17〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~17に係る発明は、次のとおりである(以下、各々「本件発明1~17」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本件訂正前の請求項1~16に係る発明を各々「訂正前発明1~16」といい、これらを総称して「訂正前発明」という。)。
「【請求項1】電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、続きを表示(全78行)前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。【請求項2】電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。【請求項3】電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。【請求項4】(削除)【請求項5】(削除)【請求項6】前記金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される、請求項1~3のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項7】前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んでおり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下である、請求項2に記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項8】前記ポリプロピレン層は、ブロックポリプロピレンを含んでいる、請求項1又は7に記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項9】前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる、請求項1、7又は8に記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項10】前記ポリプロピレン層は、未延伸ポリプロピレンにより構成されている、請求項1、7~9のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項11】電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。【請求項12】前記酸変性ポリプロピレン層は、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含んでいる、請求項1~3,6~10のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項13】前記金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上50μm以下である、請求項1~3,6~12のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項14】前記包装材料が、少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層シートから構成されており、前記熱融着性樹脂層と前記金属端子との間に前記金属端子用接着性フィルムが介在される、請求項1~3,6~13のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。【請求項15】少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子と、当該電池素子を封止する包装材料と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記包装材料の外側に突出した金属端子とを備える電池であって、前記金属端子と前記包装材料との間に、請求項1~3,6~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。【請求項16】金属端子と、前記金属端子の一部を被覆している請求項1~3,6~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。【請求項17】電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
折りたたみ中(クリックで表示)
1 申立人赤松は、本件特許に対する異議の申立ての理由として下記(1)~(3)を主張し、証拠方法として下記(4)の甲第1~3号証を提示している。
(1)新規性
訂正前発明1~2は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)進歩性
訂正前発明1~16は、下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証の記載に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(3)明確性
訂正前発明1は、「酸変性ポリプロピレン層の厚さ」及び「ポリプロピレン層の厚さ」の上限値を特定しておらず、訂正前発明2は、「金属端子用接着性フィルムの厚さ」の上限値を特定していないため、訂正前発明1、2及びこれらを引用する訂正前発明3~16は不明確であり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、訂正前発明1~16に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
(4)証拠方法
甲第1号証 特開2015-232945号公報(当審が証拠として採用。)
甲第2号証 特開2013-62252号公報
甲第3号証 特開2008-277238号公報
なお、申立人赤松による上記甲第1~3号証をそれぞれ甲A1~甲A3ということがある。
2 申立人土田は、本件特許に対する異議の申立ての理由として下記(1)~(4)を主張し、証拠方法として下記(5)の甲第1~7号証を提示している。
(1)甲第1号証を主たる引用例とする新規性
訂正前発明1、2、4~8、12、14~16は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)甲第1号証を主たる引用例とする進歩性
訂正前発明1~12、14~16は、甲第1号証に記載された発明(及び周知技術)に基いて業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明3は、甲第1号証及び甲第2号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明4は、甲第1号証及び甲第3号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明5は、甲第1号証及び甲第4号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明10は、甲第1号証及び甲第5号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明13は、甲第1号証及び甲第6号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(3)甲第7号証を主たる引用例とする新規性
訂正前発明1、2、4~8、12、14~16は、甲第7号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(4)甲第7号証を主たる引用例とする進歩性
訂正前発明1~12、14~16に係る発明は、甲第7号証に記載された発明(及び周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明1、2、7は、甲第7号証及び甲第1号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明3は、甲第7号証及び甲第2号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明4は、甲第7号証及び甲第3号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明5は、甲第7号証及び甲第4号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明10は、甲第7号証及び甲第5号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
訂正前発明13は、甲第7号証及び甲第6号証(並びに周知技術)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(5)証拠方法
甲第1号証 特開2015-232945号公報(申立人赤松の甲A1と同じ。)
甲第2号証 特開2016-207564号公報
甲第3号証 特開2017-120790号公報(当審が証拠として採用。)
甲第4号証 特開2017-137063号公報
甲第5号証 特開2017-69151号公報
甲第6号証 特開2010-272348号公報
甲第7号証 特開2016-91939号公報
なお、申立人土田による上記甲第1~7号証をそれぞれ甲T1~甲T7ということがある。
3 申立人山川は、本件特許に対する異議の申立ての理由として下記(1)~(5)を主張し、証拠方法として下記(6)の甲第1~7号証を提示している。
(1)甲第1号証を主たる引用例とする新規性・進歩性
ア 訂正前発明1~7、9、10、14~16は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
イ 訂正前発明1~10、12、14~16は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
ウ 訂正前発明13は、甲第1号証に記載された発明と、甲第3号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)甲第2号証を主たる引用例とする新規性・進歩性
ア 訂正前発明1、2、4~10、12、14~16は、甲第3号証及び甲第4号証の記載を参照すれば、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
イ 訂正前発明3は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証又は甲第3号証又は甲第5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
ウ 訂正前発明13は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(3)甲第3号証を主たる引用例とする新規性・進歩性
ア 訂正前発明1、2、4~8、10、12~16は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
イ 訂正前発明1~16は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(4)甲第6号証を主たる引用例とする新規性・進歩性
ア 訂正前発明2~6、14~16は、甲第6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
イ 訂正前発明2~6、14~16は、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
ウ 訂正前発明1、7~13は、甲第6号証に記載された発明と、甲第3号証、甲第7号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(5)記載要件
ア 訂正前発明1、2は、「酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであるところ、訂正前発明1、2を引用する訂正前発明12は、「酸変性ポリプロピレン層は、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含んでいる」から、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含んでいる酸変性ポリプロピレン層は海島構造が観察されるものであることが特定されている。そして、本件明細書には、実施例5、6として、ランダムベースの酸変性ポリプロピレン層を用いることが記載されているところ、当該実施例5、6のランダムベースの酸変性ポリプロピレン層は海島構造が観察される層になると考えられる。
しかしながら、一般に、ランダムポリプロピレンが海島構造を有することは知られておらず、むしろ、海島構造を有さないものであると考えられており、また、発明の詳細な説明には、酸変性ポリプロピレン層を海島構造とする手段、さらには、その島部分の面積の割合を特定の範囲にする手段については、記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、「ランダムベース」である「酸変性ポリプロピレン層」の「海島構造」について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前発明1、2は、「ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含」む「酸変性ポリプロピレン層」がなぜ「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであるか不明確である点で、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、訂正前発明1~2に係る特許と、訂正前発明1~2を引用する訂正前発明3~16に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、「厚さ残存率」及び「熱収縮率」を具体的にどのように調整するかについて、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前発明4~6、12~16に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
ウ 本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された「酸変性ポリプロピレン層」等の層の「厚さ」、「厚さ残存率」及び「金属端子用接着性フィルムの表面粗さ」について上限値が規定されていないが、これらの上限がどのような値であっても発明の課題を解決できるとはいえず、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前発明1~16に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
(6)証拠方法
甲第1号証 特開2015-170428号公報
甲第2号証 国際公開第2015/008826号
甲第3号証 特開2015-232945号公報(申立人赤松の甲A1と同じ。)
甲第4号証 特開2016-91939号公報
甲第5号証 国際公開第2012/077706号
甲第6号証 特開2009-259739号公報
甲第7号証 ZHANG Cheng-wu 外4名 “Blends of Polypropylene and Syndiotactic 1,2-Polybutadiene: Morphology, Crystallization Behaviors and Mechanical Properties”, CHEM. RES. CHINESE UNIVERSITIES, Vol24, No.5, 2008, p640-643
なお、申立人山川による上記甲第1~7号証をそれぞれ甲Y1~甲Y7ということがある。
第5 取消理由の概要
1 当審が通知した取消理由は、上記第4の申立理由に基づいて通知された、次の4つである。
・訂正前発明1、2、5~8、10、12~16は、甲A1に記載された発明である。また、訂正前発明1、2、4~10、12~16は、甲A1に記載された発明と甲T3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(申立人赤松による上記第4の1(1)、(2)、申立人土田による上記第4の2(1)、(2)、及び、申立人山川による上記第4の3(3)ア、イを採用。)
・本件明細書の発明の詳細な説明には、海島構造が観察される酸変性ポリプロピレン層について、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを用いる場合であっても海島構造が観察されるものが製造できることが明記されていないし、海島構造が観察されるランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含む層を形成するための具体的な製造方法、例えば、使用する原料の入手方法や、島部分の面積割合を一定の範囲にする具体的な手段については、記載も示唆もされていない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、訂正前発明1~16の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
・本件明細書の発明の詳細な説明には、「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率」と「金属端子用接着性フィルムの流れ方向の熱収縮率」について、どのようなパラメータをどのように調整すれば、特定の範囲にすることができるのかについて、記載されていない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、訂正前発明4、5、6、12~16の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(申立人山川による上記第4の3(5)ア、イを採用。)
・本件発明が解決しようとする課題は、電解液に接触した場合の金属端子との密着性に優れた金属端子用接着性フィルムを提供することであると認められる。
そこで、訂正前発明1、2、4、13に注目すると、「酸変性ポリプロピレン層の厚さ」、「ポリプロピレン層の厚さ」、「金属端子用接着性フィルムの厚さ」、「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率」、「金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さ」の範囲について、その下限値のみが特定されているが、上限値は特定されていないので、訂正前発明1、2、4、13は、上記課題を解決することができない発明を含んでいるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。
また、これら発明を引用する訂正前発明3、5~12、14~16についても同様である。
(申立人山川による上記第4の3(5)ウを採用。申立人赤松による上記第4の(3)を、適用条文を変えて実質的に採用。)
第6 当審の判断
1 甲A1に基づく新規性・進歩性(取消理由1、取消理由2、申立人赤松による申立理由(1)、(2)、申立人土田による申立理由(1)、(2)、申立人山川による申立理由(3))について
(1)甲A1に記載された事項と発明
ア 甲A1(甲T1、甲Y3は同じ文献)には、以下の事項が記載されている(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)。
A1ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、
一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、
前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、
前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、
前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルム。」
A1イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用端子フィルム及び蓄電デバイスに関し、特に、蓄電デバイス本体を包装する包装材と、蓄電デバイス本体と電気的に接続され、かつ包装材の外部に延在する金属端子と、の間に介在される蓄電デバイス用端子フィルム、及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
…
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蓄電デバイス用端子フィルムには、包装材の内側に充填された電解液の液漏れ等を防ぐために、包装材及び金属端子の両方に対して良好な密着性(ヒートシール性)を示すことが求められる。このような要求は、リチウムイオン二次電池が適用される製品の多様化によって益々高まっており、高温環境下に長期間保持された場合であっても液漏れ等が生じない蓄電デバイス用端子フィルムが望まれている。また、リチウムイオン二次電池の製造時に蓄電デバイス用端子フィルムは金属端子に加熱融着されるが、高温でのヒートシール性に優れることはもちろん、より低温でのヒートシール性に優れることも蓄電デバイス用端子フィルムの要求特性の一つである。すなわち、蓄電デバイス用端子フィルムには、金属端子に比較的高温で加熱融着した場合だけでなく、比較的低温で加熱融着した場合でも良好な密着性を示し、且つ、高温環境下に長期間保持しても液漏れ等が生じないことが求められる。しかしながら、上記特許文献1に記載されたような従来の蓄電デバイス用端子フィルムでは、上記の要求特性を全て満たすことが困難である。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、金属端子に高温で加熱融着した場合及び低温で加熱融着した場合のいずれも良好な密着性を示し、且つ、包装材及び金属端子の両方に対する密着性を高温環境下で長期間維持することが可能な蓄電デバイス用端子フィルム、及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、蓄電デバイス用端子フィルムの一方の最外層と他方の最外層とで重合状態の異なる特定のポリオレフィンを用い、中間層を介してそれらを積層させることにより、本発明の上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、上記第1の最外層と上記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、上記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、上記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、上記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを提供する。
…
【0011】
ここで、ホモポリマー、ブロックコポリマー及びランダムコポリマーのそれぞれは、以下のような特徴を有している。すなわち、ホモポリマーは結晶性が高く、耐熱性が高いため、蓄電デバイスの包装材側に配置される最外層に適している。第2の最外層がホモポリマーを含むことで、第2の最外層は包装材に対する密着性を高温環境下で長期間維持することができる。ランダムコポリマーは、融点が低いので低温融着が可能であり、金属端子側に配置される最外層に適している。第1の最外層がランダムコポリマーを含むことで、第1の最外層は金属端子に高温で加熱融着した場合及び低温で加熱融着した場合のいずれの場合でも良好な密着性を得ることができ、且つ、金属端子に対する密着性を高温環境下で長期間維持することができる。ブロックコポリマーは、耐寒衝撃性が高く、低温特性に優れている。ブロックコポリマーは、ホモポリマーとランダムコポリマーの中間的な融点を有しているため、ランダムコポリマーを含む第1の最外層とホモポリマーを含む第2の最外層の間の中間層にブロックコポリマーを用いると、融点がホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーの順に低くなり、傾斜構造となるため、上記耐熱性、低温融着性を両立することが可能となる。このような特定の重合状態のポリオレフィンを、第1の最外層、第2の最外層及び中間層のそれぞれで選択的に用いることにより、本発明の効果を奏することができる。」
A1ウ 「【0024】
図1に示した蓄電デバイス10は、リチウムイオン二次電池であり、蓄電デバイス本体11と、包装材13と、一対の金属端子14(「タブリード」と呼ばれることもある)と、蓄電デバイス用端子フィルム16(「タブシーラント」と呼ばれることもある)と、を有する。
【0025】
蓄電デバイス本体11は、充放電を行う電池本体である。包装材13は、蓄電デバイス本体11の表面を覆うと共に、蓄電デバイス用端子フィルム16の一部と接触するように配置されている。」
A1エ 「【図1】
[図:0001388348000001.jpg]
」
A1オ 「【0036】
図3は、図1に示す蓄電デバイス用端子フィルム及び金属端子のA-A線方向の断面図である。図3において、図1に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。
【0037】
図1及び図3に示すように、一対(図1の場合、2つ)の金属端子14は、金属端子本体14-1と、腐食防止層14-2と、を有する。一対の金属端子本体14-1のうち、一方の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11の正極と電気的に接続されており、他方の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11の負極と電気的に接続されている。一対の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11から離間する方向に延在しており、その一部が包装材13から露出されている。一対の金属端子本体14-1の形状は、例えば、平板形状とすることができる。
…
【0042】
図3に示すように、蓄電デバイス用端子フィルム16は、金属端子14の一部の外周面を覆うように配置されている。蓄電デバイス用端子フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成とされている。」
A1カ 「【図3】
[図:0001388348000002.jpg]
」
A1キ 「【0059】
第1の最外層31と第2の最外層32とは、測定角度60°での光沢度の差が10以上であることが好ましい。第1の最外層31と第2の最外層32との間で光沢度に差をつけることで、蓄電デバイス用端子フィルム16の表裏判定が容易となり、蓄電デバイス用端子フィルム16を金属端子14に融着する際に、表裏を間違えることなく確実に第1の最外層31側を金属端子14に融着することができる。蓄電デバイス用端子フィルム16の表裏判定をより容易にする観点から、光沢度の差は15以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましく、25以上であることが特に好ましい。
【0060】
第1の最外層31及び第2の最外層32の光沢度Gs(60°)は、JIS Z8741-1997 鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定することができる。
【0061】
第1の最外層31と第2の最外層32との間で光沢度に差をつける方法は特に限定されないが、例えば、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方の表面に、エンボス加工及び/又は粗面化加工を施す方法、或いは、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方に、フィラー及び/又はエラストマーを添加する方法が挙げられる。
【0062】
エンボス加工は、例えば、押出成形により蓄電デバイス用端子フィルム16を製造する場合に、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方側の冷却ロールをエンボスロールとし、エンボス形状を転写する方法等により行うことができる。エンボス形状としては、格子型、ピラミッド型、斜線型、亀甲型などが挙げられる。」
A1ク 「【0108】
(実施例1)
<正極用タブ及び負極用タブの作製>
図3を参照して、実施例1の正極用タブ、及び負極用タブ(言い換えれば、金属端子14(「タブリード」ともいう)及び一対の蓄電デバイス用端子フィルム16(「タブシーラント」ともいう)よりなる構造体)の作製方法について説明する。
…
【0111】
次に、蓄電デバイス用端子フィルム16を以下の通り作製した。蓄電デバイス用端子フィルム16の作製に当たり、第1の最外層に融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4.2質量%、重量平均分子量(Mw):21万、無水マレイン酸をグラフト変性)を用い、中間層に融点153℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.3質量%、重量平均分子量:23万)を用い、第2の最外層に融点162℃のホモ系ポリプロピレン(重量平均分子量:25万)を用いた。また、第2の最外層には、第2の最外層の母材となるホモ系ポリプロピレンに対して0.1質量%の濃度となるように、顔料として平均粒径が50nmのカーボンブラック(ファーネスブラック)、以下の実施例では単に「顔料」という)を添加した。
【0112】
次いで、住友重機モダン社製のインフレーション式フィルム押出製造装置(Co-OI型)に、第1の最外層の母材、中間層の母材、及び第2の最外層の母材をセットし、該フィルム押出製造装置により、上記3つの母材を押し出すことで積層フィルム(蓄電デバイス用端子フィルム16の母材となるフィルム)を作製した。このとき、上記積層フィルムは、第1の最外層の厚さが30μm、中間層の厚さが40μm、第2の最外層の厚さが30μmとなるように形成した。また、第1の最外層の母材、中間層の母材、及び第2の最外層の母材の溶融温度は210℃とし、ブロー比を2.2とした。更に、第2の最外層側の冷却ロールを、格子型、線数#300、深度20μmのエンボスロールとし、第2の最外層の表面にエンボス形状の転写を行った。
【0113】
次いで、上記積層フィルムを切断することで、幅が9mmで、長さが5mmとされた蓄電デバイス用端子フィルム16を作製した。」
A1ケ 「【0114】
その後、2枚の蓄電デバイス用端子フィルム16間に、正極用金属端子14Aを挟み込み、2枚の蓄電デバイス用端子フィルム16を加熱温度155℃又は175℃の条件で10秒間加熱し、正極用金属端子14Aと2枚の蓄電デバイス用端子フィルム16とを熱融着させることで、正極用金属端子14A及び2枚の蓄電デバイス用端子フィルム16よりなる正極用タブを作製した。正極用タブは、加熱温度155℃で作製した低温融着品と、加熱温度175℃で作製した高温融着品の2種類を作製した。
【0115】
また、同様な手法により、負極用金属端子14Bと負極用金属端子14Bを挟み込む2枚の蓄電デバイス用端子フィルム16とを熱融着させることで、負極用金属端子14B、及び蓄電デバイス用端子フィルム16よりなる負極用タブ(低温融着品及び高温融着品の2種類)を作製した。」
A1コ 「【0116】
<評価用電池パックの作製>
…
【0118】
その後、包装材13内に、ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合液に6フッ化リン酸リチウムを添加した電解液を2mL充填させた。次いで、包装材13の残りの辺をヒートシール処理した。このときのヒートシールの条件としては、加熱温度を190℃、処理時間を3秒とした。これにより、蓄電デバイス本体11が封入されていない、タブ評価可能な電池パックを作製した。電池パックは、正極用タブ及び負極用タブとして、低温融着品を用いた場合及び高温融着品を用いた場合の2種類を作製した。以下、電池パックについてもそれぞれ低温融着品、高温融着品と呼ぶ。」
A1サ 「【0121】
(実施例4)
実施例4では、第2の最外層と中間層との間に更に、融点160℃のホモ系ポリプロピレン(重量平均分子量:21万)を用いて膜厚30μmの層(第2の中間層)を形成し、4層構成とし、第2の最外層に平均粒径1μmのシリカフィラーを2質量%の濃度で添加し、第2の最外層へのエンボス加工を行わなかった以外は、実施例1と同様の手法により、実施例4の蓄電デバイス用端子フィルム16を作製した。その後、実施例1と同様の手法により、実施例4の評価用電池パックを作製した。
【0122】
(実施例5)
実施例5では、第1の最外層の母材を、実施例1で用いたランダム系酸変性ポリプロピレンと、融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.1質量%、重量平均分子量:23万、無水マレイン酸をグラフト変性)とを50:50(質量比)で混合したものに変更し、第2の最外層の母材を、実施例1の第2の最外層で用いたホモ系ポリプロピレンと、実施例1の中間層で用いたブロック系ポリプロピレンとを50:50(質量比)で混合したものに変更し、顔料を第2の最外層に代えて中間層に0.1質量%の濃度で添加した以外は、実施例1と同様の手法により、実施例5の蓄電デバイス用端子フィルム16を作製した。その後、実施例1と同様の手法により、実施例5の評価用電池パックを作製した。」
A1シ 「【0136】
【表1】
[図:0001388348000003.jpg]
」
イ 上記A1イによれば、甲A1には、蓄電デバイス本体を包装する包装材と、蓄電デバイス本体と電気的に接続されかつ包装材の外部に延在する金属端子との間に介在される蓄電デバイス用端子フィルムの発明が記載されている。
ウ 上記A1オの段落【0037】によれば、一対の金属端子14の一方は、蓄電デバイス本体の正極と電気的に接続されており、一対の金属端子14の他方は蓄電デバイス本体の負極と電気的に接続されている。
エ 上記A1オとA1カの図3によれば、蓄電デバイス用端子フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33が積層された構成とされている。
オ 上記A1キによれば、蓄電デバイス用端子フィルムは、その表裏を間違えることなく金属端子14に融着するために、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方の表面にエンボス加工等を施すことにより、光沢度に差をつけている。
カ 上記A1クによれば、実施例1の蓄電デバイス用端子フィルムは、次の特徴を備えているものである。
a 第1の最外層には、融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4.2質量%、重量平均分子量(Mw):21万、無水マレイン酸をグラフト変性)が用いられ、
b 中間層には、融点153℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.3質量%、重量平均分子量:23万)が用いられ、
c 第2の最外層には、融点162℃のホモ系ポリプロピレン(重量平均分子量:25万)が用いられている。
d 第2の最外層には、顔料としてカーボンブラックが添加されている(以上【0111】参照)。
e インフレーション式フィルム押出製造装置によって前記3つの層の母材を押し出すことで、積層フィルムが作製され、当該積層フィルムにおいて、第1の最外層と中間層と第2の最外層は、それぞれの厚さが、30μm、40μm、30μmとなるように積層されている。
f 第2の最外層は、格子型、線数#300、深度20μmのエンボスロールによって、その表面にエンボス形状の転写が行われている(以上【0112】参照)。
g 前記積層フィルムを切断することで、幅9mm、長さ5mmの蓄電デバイス用端子フィルム16が作製された(【0113】参照)。
キ 上記A1サによれば、実施例5の蓄電デバイス用端子フィルムは、以下のa~cの変更点以外は、実施例1と同様の手法により作製されたものである。
a 第1の最外層の母材を、実施例1で用いたランダム系酸変性ポリプロピレンと、融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.1質量%、重量平均分子量:23万、無水マレイン酸をグラフト変性)とを50:50(質量比)で混合したものに変更し、
b 第2の最外層の母材を、実施例1の第2の最外層で用いたホモ系ポリプロピレンと、実施例1の中間層で用いたブロック系ポリプロピレンとを50:50(質量比)で混合したものに変更し、
c 顔料を第2の最外層に代えて中間層に添加したこと。
ク したがって、実施例1を一部変更して作製された実施例5の蓄電デバイス用端子フィルムに注目すると、甲A1には、次の蓄電デバイス用端子フィルムの発明が記載されている(以下、「甲A1発明」という。)。
「蓄電デバイス本体11を包装する包装材13と、蓄電デバイス本体11の正極又は負極と電気的に接続されかつ包装材13の外部に延在する金属端子14との間に介在される蓄電デバイス用端子フィルム16であって、前記蓄電デバイス用端子フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成であり、前記第1の最外層31の母材は、融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4.2質量%、重量平均分子量(Mw):21万、無水マレイン酸をグラフト変性)と、融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.1質量%、重量平均分子量:23万、無水マレイン酸をグラフト変性)とを50:50(質量比)で混合したものであり、前記中間層33の母材は、融点153℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.3質量%、重量平均分子量:23万)であり、前記第2の最外層32の母材は、融点162℃のホモ系ポリプロピレン(重量平均分子量:25万)と、前記中間層の融点153℃のブロック系ポリプロピレンとを50:50(質量比)で混合したものであり、インフレーション式フィルム押出製造装置によって前記3つの母材を押し出すことで、積層フィルムが作製され、前記積層フィルムにおいて、前記第1の最外層31と中間層33と第2の最外層32は、それぞれの厚さが、30μm、40μm、30μmとなるように積層されており、前記第2の最外層32は、格子型、線数#300、深度20μmのエンボスロールによって、その表面にエンボス形状の転写が行われており、前記積層フィルムを切断することで、幅9mm、長さ5mmの大きさとされた、蓄電デバイス用端子フィルム。」
(2)検討
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲A1発明の対比
本件発明1は、本件訂正によっていわゆる除くクレームとして記載されたことに鑑み、以下の検討において、「(但し、・・・を除く。)」と記載された特定事項を「除く部分1」といい、「除く部分1」が除かれる元の特定事項を「本体部分1」という(以下同様。)。
a 上記(1)アのA1ウの段落【0024】に記載されているように、甲A1に記載された「蓄電デバイス本体11」はリチウムイオン二次電池を構成する素子であり、「蓄電デバイス本体11の正極又は負極」は、「金属端子14」と電気的に接続されているものであるから、甲A1発明の「蓄電デバイス本体11」、「正極又は負極」、「金属端子」は、それぞれ、本件発明1の「電池素子」、「電極」、「金属端子」に相当する。
b 上記a.の検討を踏まえると、甲A1発明の「蓄電デバイス本体11を包装する包装材13」は、本件発明1の「電池素子を封止する包装材料」に相当する。
c 甲A1発明の「蓄電デバイス用端子フィルム16」は、「蓄電デバイス本体11を包装する包装材13と、蓄電デバイス本体11の正極又は負極と電気的に接続されかつ包装材の外部に延在する金属端子14との間に介在される」ものであるから、上記aとbの検討を踏まえると、本件発明1の「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される」ものである「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
d 甲A1発明の「第1の最外層31」は、その「母材」が「融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレン」と「融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン」とを「50:50(質量比)で混合したもの」であり、「酸変性ポリプロピレン」の層であるといえるから、本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当する。
e 甲A1発明の「中間層33」は、その「母材」が「融点153℃のブロック系ポリプロピレン」であり、同「第2の最外層32」は、その「母材」が「融点162℃のホモ系ポリプロピレン」と「融点153℃のブロック系ポリプロピレン」とを「50:50(質量比)で混合」したものであり、これら2つの層はいずれも「ポリプロピレン」の層であるといえるから、本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当する。
f 甲A1発明において、「蓄電デバイス用端子フィルムは、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成」であることは、上記d及びeの検討内容並びにポリプロピレンがポリオレフィンであることが技術常識であることを踏まえると、本件発明1の「前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されて」いることに相当する。
g 甲A1発明において、「積層フィルムにおいて、前記第1の最外層31と中間層33と第2の最外層32は、それぞれの厚さが、30μm、40μm、30μmとなるように積層されて」いることは、上記dとeで検討したとおり、「第1の最外層31」が本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当し、「中間層33」と「第2の最外層32」はいずれも本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当することを踏まえると、本件発明1の「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、 前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下」であることに相当する。また、甲A1発明において、第1の最外層31と中間層33と第2の最外層32を合わせた厚さが30+40+30=100μmであることは、本件発明1において「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることに相当する。
h 甲A1の段落【0071】の「ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している」との記載を踏まえると、甲A1発明において、「融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン」が「ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの」であることは、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察」されるものであるといえるところ、甲A1発明において「融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレン」と「融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの…)」とを「50:50(質量比)で混合したもの」である「第1の最外層31」においても混合前の「海島構造」が維持されて、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察」されるものである蓋然性が高い。したがって、甲A1発明の「第1の最外層31」は、上記dの検討内容も踏まえると、本件発明1の「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」る「酸変性ポリプロピレン層」に相当する。
i 甲A1発明の「積層フィルム」は、「第1の最外層31の母材」に「融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレン」及び「融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン」を用い、「中間層33の母材」に「融点153℃のブロック系ポリプロピレン」を用い、「第2の最外層32の母材」に「融点162℃のホモ系ポリプロピレン」及び「融点153℃のブロック系ポリプロピレン」を用いていることから、「第1の最外層31」についてはその「融点」が「134℃以上155℃以下の範囲」である蓋然性が高く、「中間層33」についてはその「融点」が「153℃」であるといえる。
一方、本件発明1において、「ポリオレフィン骨格を有する樹脂層」は、「酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層」という複数の層を含むものであって、これら複数の層のそれぞれは個別に異なる融点を持ち得ることは明らかであるから、本件発明1は、「120℃以上156℃以下の範囲に」観察される「融解ピーク」が少なくとも1つあり、場合によっては複数個あることを許容するものと解される。
したがって、甲A1発明の「蓄電デバイス用端子フィルム」は、「示差走査熱量計で測定した場合」に、少なくとも「153℃」において融解ピークが観察されるものであり、さらに「134℃以上155℃以下の範囲」において別の融解ピークが観察される蓋然性が高いものであるといえるから、本件発明1の「示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
j 甲A1発明は、甲A1の請求項1に記載された発明(除く部分1)の実施例であるから、本件発明1は、甲A1発明の上位概念レベルで本体部分1から除く部分1を除かれている点で、甲A1発明と相違している。
k よって、本件発明1と甲A1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。」
<相違点1>
本件発明1が「蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く」とされているのに対して、甲A1発明は上記除くとされた発明の実施例に該当する発明である点。
(イ)相違点の検討
甲A1発明から、除く部分1が除かれている本体部分1を想到することが容易になし得ることであるかについて検討する。
a 甲A1の段落【0008】によれば、甲A1において解決しようとする課題は、金属端子に高温で加熱融着した場合及び低温で加熱融着した場合のいずれも良好な密着性を示し、且つ、包装材及び金属端子の両方に対する密着性を高温環境下で長期間維持することが可能な蓄電デバイス用端子フィルム、及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することである。
b また、甲A1の段落【0011】によれば、甲A1の請求項1に記載の発明(除く部分1)において、
・ホモポリマーは結晶性が高く、耐熱性が高いため、蓄電デバイスの包装材側に配置される最外層に適しており、
・ランダムコポリマーは、融点が低いので低温融着が可能であり、金属端子側に配置される最外層に適しており、
・ブロックコポリマーは、耐寒衝撃性が高く、低温特性に優れているため、ランダムコポリマーを含む第1の最外層とホモポリマーを含む第2の最外層の間の中間層にブロックコポリマーを用いると、融点がホモポリマー(包装材側)、ブロックコポリマー(中間層)、ランダムコポリマー(金属端子側)の順に低くなる傾斜構造となるため、上記耐熱性、低温融着性を両立することが可能となるので、上記a.の課題を解決することができると理解できる。
c つまり、甲A1の請求項1に記載の発明(除く部分1)は、「前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である」という重合状態の異なる3つの層を備えること(以下、「重合状態の異なる三層構造」という。)により、課題を解決しているものであり、重合状態の異なる三層構造を、金属端子側から、ランダム、ブロック、ホモの順番で構成することは、課題を解決するための手段の本質的部分といえるものであって、必須の構成である。
d また、甲A1発明は、甲A1の請求項1に記載の発明(除く部分1)の実施例に該当する発明であるから、甲A1発明の「第1の最外層」、「第2の最外層」及び「中間層」の三層構造は、上記重合状態の異なる三層構造の一例となっており、重合状態が、金属端子側からランダム、ブロック、ホモの順番とすることにより、融点がこの順に高くなる傾斜構造となっているので、上記aの課題を解決することができるものである。
e そこで、甲A1発明から除く部分1ではない発明とすることが容易になし得ることであるかを検討するに、除く部分1ではない発明とするということは、重合状態が、金属端子側からランダム、ブロック、ホモの順番で構成される傾斜構造とはしないということであり、そのような変更は、甲A1発明が課題を解決できなくなるような変更であるから、当業者といえどもそのような変更をなすことが容易になし得たことであるとはいえない。
f また、仮に、甲A1発明に基いて、除く部分1ではない発明とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとしても、本件発明1は、電解液に接触した場合の金属端子との密着性に優れた金属端子用接着性フィルムを提供することができるものである(本件明細書の【0011】)のに対して、甲A1発明は、金属端子に高温で加熱融着した場合及び低温で加熱融着した場合のいずれも良好な密着性を示し、且つ、包装材及び金属端子の両方に対する密着性を高温環境下で長期間維持することが可能な蓄電デバイス用端子フィルムを提供することができるものである(甲A1の【0008】)ことから、本件発明1の奏する効果は、甲A1発明が奏する発明とは異質なものであって、当業者が予測可能なものであるということはできない。
g したがって、本件発明1、すなわち本件部分1から除く部分1を除いた発明は、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲A1発明の対比
本件発明1の検討と同様に、「(但し、・・・を除く。)」と記載された部分を「除く部分2」といい、「除く部分2」によって除かれる元の部分を「本体部分2」という(以下同様。)。
本件発明2のうち本体部分2は、ポリプロピレン層を含まず、その厚さが特定されていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様の検討により、本体部分2と甲A1発明との間に相違点はないが、次の点で相違している。
<相違点2>
本件発明2が「蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く」とされているのに対して、甲A1発明は上記除くとされた発明の実施例に該当する発明である点。
(イ)相違点の検討
相違点2は相違点1と同様であるから、上記ア(イ)で検討したのと同様の理由で、本件発明2、すなわち本件部分2から除く部分2を除いた発明は、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲A1発明との対比
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(イ)と同様に検討すると、本件発明3と甲A1発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点3>
本件発明3では、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」と特定されているのに対して、甲A1発明では、「第1の最外層31」が、本件発明3の「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」る「酸変性ポリプロピレン層」に相当する層であるが、「第1の最外層31」において、島の部分の面積の割合がどの程度であるかは不明である点。
(イ)相違点3について
甲A1には、第1の最外層31に島の部分を設けることは記載されているものの、当該島の部分が甲A1発明においてどのような機能を有するものであるのか、また、それはどのような面積割合が好ましいのかについては一切記載されておらず不明である。
したがって、甲A1発明において、第1の最外層31における島の部分の割合が不明であることは、本件発明3と甲A1発明の実質的な相違点である。
また、甲A1には、第1の最外層31における島の部分の割合を「10%以上50%以下」とすることを動機付ける記載も示唆もない。さらに、第1の最外層31における島の部分の割合を「10%以上50%以下」とすることが技術常識であるともいえない。
したがって、甲A1発明において、相違点3に係る本件発明3の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(ウ)相違点3についての申立人の主張について
a 申立人赤松は相違点3について、異議申立書の25頁の(ウ)において、「海島構造において島の部分の面積割合は通常半分以下であ」ると主張しているが、この主張を裏付ける文献や実験結果等の根拠を欠いているから、上記主張を採用することができない。
b 申立人土田は相違点3について、異議申立書の45~47頁の(イ)において、甲A1の段落【0074】には、「ブロックポリプロピレンにおいて、エチレン含有量は0.1~10質量%であることが好ましく」との記載がなされているが、エチレン含有量を10質量%以下とすることは必須の要件ではなく、ブロック系酸変性ポリプロピレンのエチレン含有量を10質量%以上とすることによって島部分の面積の割合を10%程度またはそれ以上とすることは容易である旨の主張をしている。
しかしながら、甲A1の段落【0074】には、「エチレン含有量が10質量%以下であると、融点が下がりすぎることを抑制でき、蓄電デバイスを高温環境下で長期間保持した場合の液漏れ防止性が向上する傾向がある。」とも記載されており、エチレン含有量が10質量%を超えると、融点が下がりすぎるため、蓄電デバイスを高温環境下で長期間保持した場合の液漏れするおそれがある旨の否定的な見解が示唆されていることから、甲A1の記載に基いて、ブロック系酸変性ポリプロピレンのエチレン含有量を10質量%以上とすることが容易になし得ることであるということはできず、そのため、島部分の面積の割合を10%程度またはそれ以上とすることが容易であるともいえない。
c また、申立人土田は上記相違点3について、異議申立書の45~47頁の(イ)において、甲T2には、蓄電装置用外装材の接着性樹脂層を構成する接着性樹脂組成物が、「変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい」こと(【0080】)、「マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)は、変性ポリオレフィン樹脂(a)上で海島状に存在する」こと(【0093】)、「接着性樹脂層15において、接着性樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂(a)成分に対するマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分の含有量は、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分100質量部に対して、1~40質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。」(【0096】)が記載されており、甲T2に記載された島部分を構成する成分の含有量の範囲を甲T1(甲A1のこと)記載の発明に適用することは当業者が適宜なし得ることである旨の主張をしている。
この主張について検討するにあたり、甲T2の記載を確認する。甲T2には次の記載がある。
「【0023】[蓄電装置用外装材]図1は、本発明の蓄電装置用外装材の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示すように、本実施形態の外装材(蓄電装置用外装材)10は、基材層11と、該基材層11の一方の面上に形成された第一の接着剤層12と、該第一の接着剤層12の基材層11とは反対の面上に形成された金属箔層13と、該金属箔層13の第一の接着剤層12とは反対の面上に形成された腐食防止処理層14と、該腐食防止処理層14の金属箔層13とは反対の面上に形成された接着性樹脂層15と、該接着性樹脂層15の腐食防止処理層14とは反対の面上に形成されたシーラント層16と、が順次積層された積層体である。外装材10は、基材層11が最外層、シーラント層16が最内層である。すなわち、外装材10は、基材層11を蓄電装置の外部側、シーラント層16を蓄電装置の内部側に向けて使用される。」
「【図1】[図:0001388348000004.jpg]」
上記記載によれば、甲T2の接着性樹脂層15は、電解液に接することのない蓄電装置用外装材内部の樹脂層であるのに対して、甲A1発明の第1の最外層31は電解液に接することによる粘着力の低下を考慮しなければならない樹脂層であるから、両者は関連する技術分野のものであるといえたとしても、甲T2の接着性樹脂層15の技術を甲A1発明に適用するための動機付けがあるとまではいえない。また、仮に同一の技術分野の技術であるとの理由で上記適用するための動機付けがあるとしても、上記bで検討したように、甲A1発明においてブロック系酸変性ポリプロピレンのエチレン含有量を10質量%以上とすることには否定的な見解が示されているので、やはり、容易になし得ることであるとはいえない。
d 申立人山川は相違点3について、異議申立書の80頁のb.において、酸変性ポリプロピレンとオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む層は、オレフィン系熱可塑性エラストマーが酸変性ポリプロピレン中で相分離構造(島)を形成していると考えられ、該熱可塑性エラストマーを20質量%程度含む場合、該島部の面積の割合が10%以上50%以下になると考えられると主張しているが、この主張を裏付ける文献や実験結果等の根拠を欠いているから、上記主張を採用することができない。
(エ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明と甲T2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 本件発明4について
本件訂正によって、請求項4は削除され、甲A1に基づく新規性及び進歩性に係る取消理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該取消理由は解消した。
なお、甲A3、甲T3は、それぞれ、申立人赤松と申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項4の「厚さ残存率」に関して以下の記載を引用したものであるが、これら文献の検討は不要となった。
甲A3「【0056】
通常タブフィルム6はリチウムイオン電池1の周縁熱接着部においてタブ4と外装体5との間に介在し熱接着されるため、この熱接着時の熱(160℃~190℃)と圧力(1.0~2.0MPa)により溶融し押し潰されない耐熱性と電解液に対する耐性(耐電解液性)が必要とされる。」
甲T3「【0049】
上述した構成の本発明の接着性フィルムは、190℃、1MPa、3秒の条件で熱圧をかけたときの絶縁層3の厚み残存率が70%以上95%以下であることが好ましい。」
オ 本件発明5について
本件訂正によって、請求項5は削除され、甲A1に基づく新規性及び進歩性に係る取消理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該取消理由は解消した。
なお、甲A2、甲T4は、それぞれ、申立人赤松と申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項5の熱収縮率に関して以下の記載を引用したものであるが、これら文献の検討は不要となった。
甲A2「【0052】
(7)耐熱収縮性:上記で作製した包装体となる積層体および接着性シートを裁断して60mm角のテストサンプルを作製した。前記積層体のシーラントフィルム面同士を対向して前記積層体を配置すると共に、幅が4mm、長さが80mm、厚さが100μmのニッケル箔(金属端子)を2枚の接着性シートの間に挟持した状態で前記接着性シートが前記積層体から2mm突出するように前記積層体間に挿入し、この状態で前記ニッケル箔の長さ方向に直交する方向に7mm幅の熱板でシール(シール条件:190℃、1.0MPa、3秒)した。そして、前記接着性シートの突出させた部分の波打ちを目視で評価すると共に金属端子部の接着性シートのシール部側への収縮度合いを評価し、接着性シートの波打ちがなく1mm未満の熱収縮である場合を耐熱収縮性良好として○印で示し、接着性シートの波打ちがあり1mm以上の熱収縮である場合を耐熱収縮性不良として×印で示し、接着性シートの波打ちがあるものの1mm未満の収縮である場合を耐熱収縮性では使用可として△印で示した。」
甲T4「【0081】
熱収縮フィルムは、JIS Z1709に準拠して130℃,20秒の条件で熱収縮率を測定したときに、MD方向の熱収縮率が30%以上であることが好ましく、40~80%であることがより好ましい。」
カ 本件発明6~10について
本件発明6~10は、本件発明1~3のいずれかにおいて、さらに「金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される」ことや「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んで」いること等を特定するものであるが、上記ア~ウにおいて検討したように、本件発明1~3は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、本件発明1~3を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明6~10も同様の理由によって、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
なお、甲T5は、申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項10の未延伸ポリプロピレンに関して以下の記載を引用したものであるが、当該記載は包装材料に係る技術を示すものであり、蓄電デバイス用端子フィルムに係る甲A1発明とは技術分野の関連性が低く、甲A1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。仮に、甲A1発明に適用する動機付けがあるとしても、請求項10が引用する請求項1、7~9の進歩性を否定するために参照可能な記載は認められない。
甲T5「【0105】
<包装材料の製造>
フェノール樹脂、フッ化クロム(三価)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液で両面を化成処理(リン酸クロメート処理)したアルミニウム箔(厚み40μm)を用意した。次に、このアルミニウム箔の一方の面と、二軸延伸ナイロンフィルム(厚み25μm)とをウレタン系接着剤を介して積層した。次に、アルミニウム箔の他方の面と、未延伸ポリプロピレンフィルム(厚み30μm)とを酸変性ポリプロピレン樹脂(厚み15μm、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン)でサンドイッチラミネーションすると共に、熱風により酸変性ポリプロピレン樹脂の軟化点以上の温度に加熱して、二軸延伸ナイロンフィルム(25μm)/アルミニウム箔(厚み40μm)/酸変性ポリプロピレン樹脂(厚み15μm)/未延伸ポリプロピレンフィルム(15μm)が順に積層された包装材料を製造した。」
キ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲A1発明との対比
本件発明11は、「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(イ)と同様に検討すると、本件発明11と甲A1発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点4>
本件発明11は「ポリプロピレン層」が「ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」と特定されているのに対して、甲A1発明は、本件発明11の「ポリプロピレン層」に相当する「中間層33」と「第2の最外層32」の母材が、それぞれ、「融点153℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:2.3質量%、重量平均分子量:23万)」と「融点162℃のホモ系ポリプロピレン(重量平均分子量:25万)と、前記中間層の融点153℃のブロック系ポリプロピレンとを50:50(質量比)で混合したもの」である点。
(イ)相違点4について
a 甲A1の段落【0008】によれば、甲A1において解決しようとする課題は、金属端子に高温で加熱融着した場合及び低温で加熱融着した場合のいずれも良好な密着性を示し、且つ、包装材及び金属端子の両方に対する密着性を高温環境下で長期間維持することが可能な蓄電デバイス用端子フィルム、及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することである。
b また、甲A1の段落【0011】によれば、ホモポリマーは結晶性が高く、耐熱性が高いため、蓄電デバイスの包装材側に配置される最外層に適しており、ランダムコポリマーは、融点が低いので低温融着が可能であり、金属端子側に配置される最外層に適しており、ブロックコポリマーは、耐寒衝撃性が高く、低温特性に優れているため、ランダムコポリマーを含む第1の最外層とホモポリマーを含む第2の最外層の間の中間層にブロックコポリマーを用いると、融点がホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーの順に低くなり、傾斜構造となるため、上記耐熱性、低温融着性を両立することが可能となるので、上記aの課題を解決することができると理解できる。
c つまり、甲A1発明は、ホモポリマーを含む第2の最外層、ブロックコポリマーを含む中間層、ランダムコポリマーを含む第1の最外層をこの順番で積層することにより、融点がこの順に低くなる傾斜構造とすることによって、上記aの課題を解決しているものである。
d なお、このことは実施例によって確認できる。甲A1の段落【0136】の【表1】によれば、実施例1、2、3は第2の最外層側から順にホモ/ブロック/ランダムで構成されている。
実施例4はホモ/(ブロック/ホモ)/ランダムで構成されているところ、実施例4における複数の樹脂を積層した構成は、融点160℃のホモポリマーを第2の最外層と中間層の間に形成して第2の中間層としたものであり(段落【0121】)、実施例4では4層に積層されたポリマーの融点は、第2の最外層側から順に、162℃、160℃、153℃、134℃と傾斜構造となっていることが理解される。
実施例5は(ホモ+ブロック)/ブロック/(ランダム+ブロック)で構成されており、第2の最外層側から順に、162℃と153℃の樹脂を混合したもの、153℃、134℃と155℃の樹脂を混合したものであり、正確な融点は不明であるが、傾斜構造となっているものと推定される。
e そこで、甲A1発明において、ポリプロピレンから構成される「中間層33」と「第2の最外層32」の2層構造を、「ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成」とすることが容易であるかを検討するに、上記bに記載のとおり、ランダムコポリマーはブロックコポリマーよりも融点が低いものとなるから、上記の積層構造を採用した場合には、融点が順に低くなる傾斜構造にはならないので、甲A1の上記aの課題を解決し得るものであるとはいえない。
f したがって、甲A1発明において、相違点4に係る本件発明11の構成とすることは、阻害要因があるため、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明11は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ク 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明1~3、6~10のいずれかを引用してさらに追加の構成を特定するものであるが、上記ア~ウ、カにおいて検討したように、本件発明1~3、6~10は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、本件発明1~3、6~10を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明12~16も同様の理由によって、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲A1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
なお、甲T6は、申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項13の表面粗さに関して以下の記載を引用したものであるが、請求項13以外の請求項に係る発明の進歩性を否定するために参照可能な記載は認められない。
甲T6「【請求項1】
平形導体の両面に絶縁樹脂フィルムを貼り合わせてなるリード部材であって、前記絶縁樹脂フィルムの外面が、算術平均粗さRaで0.09μm以上の粗面で形成されていることを特徴とするリード部材。」
ケ 本件発明17について
本件発明17は、ポリプロピレン層を含まず当該ポリプロピレン層の厚さが特定されていない点以外は本件発明3と同じであるから、本件発明3についての上記ウと同様の検討により、本件発明17と甲A1発明とは上記相違点3の点で相違するが、甲A1発明において、相違点3に係る本件発明17の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(3)甲A1に基づく新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3、6~17は、甲A1(甲T1、甲Y3)に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明と甲A2、甲A3、甲T2~甲T6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
2 実施可能要件(取消理由3、申立人山川による申立理由(5)ア、イ)について
(1)海島構造が観察される酸変性ポリプロピレン層の形成について
ア 令和3年8月30日付けの取消理由通知において、実施可能要件に係る次の取消理由を通知した。
(ア)訂正前発明1~16において、海島構造が観察される酸変性ポリプロピレン層は、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含み得るものであるところ(訂正前の請求項12参照)、ランダムポリプロピレンのみからなる層は、海島構造を有さないものであることが技術常識であると考えられるし、本件明細書において海島構造が観察されることが示されたのは、ブロックベースの酸変性ポリプロピレンを用いた実施例1、2と比較例1のみであることから(段落【0119】~【0129】)、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含む層を用いる場合に、当該酸変性ポリプロピレンを含む層において海島構造が観察されるものを形成するための具体的な製造方法、例えば、使用する原料の入手方法や、島部分の面積割合を一定の範囲にする具体的な手段については、記載も示唆もされていない。
(イ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、訂正前発明1~16の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
イ これに対して、令和3年11月8日に提出した意見書において、特許権者は、「本件特許明細書の段落【0048】の記載から明らかなとおり、海島構造の形成にブロックベースの酸変性ポリプロピレンを用いることは必須ではなく、例えば、前記のポリプロピレンのランダムコポリマーを含有する組成や、ホモポリプロピレンとランダムポリプロピレンとポリエチレン成分を含む組成であっても、海島構造は形成され得る。ポリプロピレン層や酸変性ポリプロピレン層における海島構造は、ポリマーの相分離に起因している。例えば、本件特許明細書の段落【0048】に記載されたポリプロピレン11が前述の海島構造となる組成のうち、「ホモポリプロピレンとランダムポリプロピレンとポリエチレン成分を含む組成」であれば、ホモポリプロピレン及びランダムポリプロピレ(当審注:「ランダムポリプロピレン」の誤記と認められる。)と、ポリエチレン成分とは相分離することから、ブロックベースのポリプロピレンを用いなくても、ポリプロピレン層11には、海島構造が形成される。」と釈明している(第5頁11~22行)。
ウ 上記イによれば、海島構造を形成するために、ブロックベースの酸変性ポリプロピレン層を用いることは必須ではなく、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンが含まれるような場合であっても、例えば本件明細書の段落【0048】に記載された「ホモポリプロピレンとランダムポリプロピレンとポリエチレン成分を含む組成」をあげて、異なる成分が相分離することにより海島構造を形成することは可能であることが理解できる。
つまり、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含む層を海島構造が観察される酸変性ポリプロピレン層として形成するためには、ポリエチレン成分のような、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンと相分離する成分を含有させることにより形成することが可能であり、また、相分離する成分の含有量を調整することにより、島部分の面積割合を一定の範囲にすることも可能であることが合理的に理解できる。
エ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~16について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、上記アの取消理由は解消した。
(2)厚さ残存率及び熱収縮率について
ア 令和3年8月30日付けの取消理由通知において、実施可能要件に係る次の取消理由を通知した。
(ア)本件訂正前の請求項4には「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率」が、同請求項5には「金属端子用接着性フィルムの流れ方向の熱収縮率」が特定されており、本件明細書の発明の詳細な説明を参照すると、上記厚さ残存率と熱収縮率について、ポリオレフィン骨格を有する樹脂層の積層構成、組成、融点、メルトマスフローレート(MFR)、厚み、軟化点や、樹脂層を形成する際の加熱温度、加熱速度、冷却温度、冷却速度、加工速度など(以下、「パラメータ」という。)によって調整することができることが記載されている(【0032】、【0037】)ものの、上記パラメータを具体的にどのように調整すれば、上記厚さ残存率と熱収縮率を特定の範囲にすることができるのかについて、発明の詳細な説明には記載されていない。
(イ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、訂正前発明4、5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。また、訂正前発明4、5を引用する訂正前発明6、12~16についても同様である。
イ これに対して、本件訂正によって請求項4、5は削除されたので、実施可能要件に係る取消理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該取消理由は解消した。
3 サポート要件(取消理由4、申立人山川による申立理由(5)ウ。申立人赤松の申立理由(3)については適用条文を変更して採用。)について
(1)令和3年8月30日付けの取消理由通知において、サポート要件に係る次の取消理由を通知した。
ア 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0011】の記載によれば、電解液に接触した場合の金属端子との密着性に優れた金属端子用接着性フィルムを提供することであると認められる。
イ そこで、訂正前発明1、2、4、13に注目すると、「酸変性ポリプロピレン層の厚さ」、「ポリプロピレン層の厚さ」、「金属端子用接着性フィルムの厚さ」、「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率」、「金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さ」の範囲について、その下限値のみが特定されているが、上限値は特定されていない。
ウ しかしながら、本件訂正前の請求項1、2に記載された各層の上記厚さについて、本件明細書の【0052】には、「ポリプロピレン層11の厚さは、特に制限されないが、電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高める観点からは、…上限は、好ましくは約120μm以下…が挙げられ」、「酸変性ポリプロピレン層の厚さが大きすぎると、酸変性ポリプロピレン層の凝集破壊が生じやすく、金属端子用接着性フィルムの密着性が低下しやすくなる傾向にある」と記載されており、ポリプロピレン層の厚さ、酸変性ポリプロピレン層の厚さ、そして、これら厚さを足し合わせた金属端子用接着性フィルムの厚さの上限がどのような値であっても上記課題を解決できるとはいえない。
エ また、本件訂正前の請求項4に記載された、「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率」が「40%以上」であることには、同厚さ残存率が100%である場合を含むが、この場合には、金属端子用接着性フィルムは変形し難いものであるため、金属端子の段差の形状に追従することはできず、金属端子の端部を均一に覆うことができないので、金属端子との密着性が低いと考えられる。
オ さらに、本件訂正前の請求項13に記載された、「金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さ」が「0.5μm以上」には、面粗さが過度に粗い場合を含むが、そのような場合においても本件明細書の実施例と同様に金属端子との密着性に優れるものであるとはいえない。
カ したがって、訂正前発明1、2、4、13は、上記課題を解決することができない発明を含んでいるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。また、これら発明を引用する訂正前発明3、5~12、14~16についても同様である。
(2)これに対して、本件訂正後の請求項1、3、11においては、「前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることが特定され、酸変性ポリプロピレンの厚さの上限値については、金属端子用接着性フィルムの厚さ及びポリプロピレン層の厚さから定まることとなった。
また、本件訂正後の請求項2、17においては、「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることが特定され、ポリプロピレンの厚さの上限値については、金属端子用接着性フィルムの厚さの上限値及び酸変性ポリプロピレン層の厚さから定まることとなった。
したがって、ポリプロピレン層の厚さ、酸変性ポリプロピレン層の厚さ、そして、これら厚さを足し合わせた金属端子用接着性フィルムの厚さの上限値が特定されたので、上記(1)ウの取消理由は解消した。
(3)また、本件訂正によって請求項4は削除され、「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率」についてのサポート要件に係る取消理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、上記(1)エの取消理由は解消した。
(4)また、本件訂正後の請求項13においては、「金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上50μm以下であ」ることが特定されたので、上記(1)オの取消理由は解消した。
(5)以上から、本件訂正後の請求項1~3、11、13、17とこれら請求項を引用する請求項6~10、12、14~16に係る発明について、上記(1)ア~オの取消理由は全て解消した。
4 甲T7に基づく新規性・進歩性(申立人土田による申立理由(3)、(4)。取消理由として採用せず。)について
(1)甲T7に記載された事項と発明
ア 甲T7には、以下の事項が記載されている。
T7ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイスに関する。
…
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、端子用樹脂フィルムを金属端子に融着後、冷却するまでの間に、端子用樹脂フィルムのはみ出し部が変形することを抑制することができるとともに、巻き取り性も良好である端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイスを提供することを目的とする。」
T7イ 「【0027】
図1に示した蓄電デバイス10は、リチウムイオン二次電池であり、蓄電デバイス本体11と、包装材13と、一対の金属端子14(タブリード)と、端子用樹脂フィルム16(タブシーラント)と、を有する。
【0028】
蓄電デバイス本体11は、充放電を行う電池本体である。包装材13は、蓄電デバイス本体11の表面を覆うと共に、端子用樹脂フィルム16の一部と接触するように配置されている。
…
【0040】
図1及び図3に示すように、一対(図1の場合、2つ)の金属端子14は、金属端子本体14-1と、腐食防止層14-2と、を有する。一対の金属端子本体14-1のうち、一方の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11の正極と電気的に接続されており、他方の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11の負極と電気的に接続されている。一対の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11から離間する方向に延在しており、その一部が包装材13から露出されている。一対の金属端子本体14-1の形状は、例えば、平板形状とすることができる。」
T7ウ 「【0045】
図3に示すように、端子用樹脂フィルム16は、金属端子14の一部の外周面を覆うように配置されている。本実施形態において、端子用樹脂フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成とされている。なお、端子用樹脂フィルム16は、1層又は2層で構成されていてもよく、4層以上で構成されていてもよい。
【0046】
第1の最外層31は、金属端子14の外周面を覆うように配置されることで、金属端子14の周方向を封止すると共に、端子用樹脂フィルム16と金属端子14とを密着させる機能を有する。
【0047】
第1の最外層31の構成材料としては特に限定されないが、例えば、接着性に優れた樹脂を用いることが好ましい。第1の最外層31を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、又は、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。
【0048】
ここで、ポリオレフィン樹脂は、接着性の観点から、ポリオレフィンランダムコポリマーであることが好ましい。ポリオレフィンランダムコポリマーは、2種類以上のオレフィンモノマーがランダムに共重合したものである。オレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。
【0049】
ポリオレフィンランダムコポリマーとして具体的には、例えば、プロピレンとエチレンとの共重合体であるエチレン-プロピレンランダムコポリマー、プロピレンと1-ブテンとの共重合体である1-ブテン-プロピレンランダムコポリマー、プロピレンとエチレンと1-ブテンとの共重合体であるエチレン-ブテン-プロピレンランダムターポリマー等が挙げられる。これらの中でも、エチレン-プロピレンランダムコポリマーが好ましい。
【0050】
エチレン-プロピレンランダムコポリマー及びその酸変性物において、エチレン含有量は0.1~10質量%であることが好ましく、1~7質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることが更に好ましい。エチレン含有量が0.1質量%以上であると、エチレンを共重合させることによる融点低下効果が十分に得られ、端子用樹脂フィルムを金属端子に低温融着した場合の密着性が向上する傾向がある。エチレン含有量が10質量%以下であると、融点が下がりすぎることを抑制でき、蓄電デバイスを高温環境下で長期間保持した場合の液漏れ防止性が向上する傾向がある。なお、エチレン含有量は、重合時のモノマーの混合比率から算出することが出来る。
【0051】
ポリオレフィンランダムコポリマー及びその酸変性物の融点は、120~145℃であることが好ましく、125~140℃であることがより好ましい。融点が120℃以上であると、端子用樹脂フィルムの引張貯蔵弾性率を10MPa~1000MPaの範囲内に制御しやすくなるとともに、蓄電デバイスを高温環境下で長期間保持した場合の液漏れ防止性が向上する傾向がある。融点が145℃以下であると、端子用樹脂フィルムを金属端子に低温融着した場合の密着性が向上する傾向がある。なお、本明細書において、融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。
【0052】
…
【0054】
第1の最外層31は、上記ポリオレフィンランダムコポリマーとして酸変性ポリオレフィンランダムコポリマーを含むことが好ましい。第1の最外層31の構成材料として酸変性ポリオレフィンを用いることにより、金属端子14との密着性をより向上させることができる。酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、無水マレイン酸等をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィンを用いることができる。なお、第1の最外層31は、2種以上のポリオレフィンを含んでいてもよく、必要に応じてポリオレフィン以外の成分を更に含んでいてもよい。また、ポリオレフィンは、ポリオレフィンランダムコポリマー以外に、ポリオレフィンブロックコポリマー又はポリオレフィンホモポリマー等を含んでいてもよい。第1の最外層31に含有されるポリオレフィンのうち、ポリオレフィンランダムコポリマー及びその酸変性物の割合は、端子用樹脂フィルムを金属端子に融着した場合(特に低温融着した場合)の密着性向上の観点から、25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0055】
第1の最外層31の厚さは、10~100μmであることが好ましく、15~50μmであることがより好ましい。第1の最外層31の厚さが10μmよりも薄いと、金属端子14との密着性が低下する恐れがある。また、第1の最外層31の厚さが100μmよりも厚いと、端子用樹脂フィルム16のコスト増加の要因となるため、好ましくない。」
T7エ 「【0058】
中間層33の構成は特に限定されないが、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率を10MPa~1000MPaの範囲内に調整し得る構成を有していることが好ましい。特に、第1の最外層31及び第2の最外層32をポリオレフィンランダムコポリマー又はその酸変性物により形成した場合、上記引張貯蔵弾性率は低くなる傾向があるため、中間層33は上記引張貯蔵弾性率を高め得る構成を有していることが好ましい。そのため、中間層33は、ブロックポリプロピレン及びホモポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種を含む層であることが好ましい。
【0059】
本発明において、ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にポリエチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)等が分散した状態のものを意味する。ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。ブロックポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン中にポリエチレンが分散したブロックポリプロピレンが好ましい。」
T7オ 「【0109】
(実施例1)
<タブの作製>
図3を参照して、実施例1のタブ(言い換えれば、金属端子14(タブリード)及び一対の端子用樹脂フィルム16(タブシーラント)よりなる構造体)の作製方法について説明する。
【0110】
始めに、金属端子本体14-1として、幅が5mm、長さが20mm、厚さが100μmのアルミニウム製の薄板部材を準備した。次いで、該アルミニウム製の薄板部材の表面に対してノンクロム系表面処理を実施して、腐食防止層14-2(ノンクロム系表面処理層)を形成することで、アルミニウム製の薄板部材、及びノンクロム系表面処理層を含む金属端子14を作製した。
【0111】
次に、端子用樹脂フィルム16を以下の通り作製した。端子用樹脂フィルム16の作製に当たり、第1の最外層に融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)を用い、中間層に融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)を用い、第2の最外層に第1の最外層と同一の融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用いた。
【0112】
次いで、住友重機モダン社製のインフレーション式フィルム押出製造装置(Co-OI型)に、第1の最外層の母材、中間層の母材、及び第2の最外層の母材をセットし、該フィルム押出製造装置により、上記3つの母材を押し出すことで積層フィルム(端子用樹脂フィルム16の母材となるフィルム)を作製した。このとき、上記積層フィルムは、第1の最外層の厚さが33μm、中間層の厚さが34μm、第2の最外層の厚さが33μmとなるように形成した。また、第1の最外層の母材、中間層の母材、及び第2の最外層の母材の溶融温度は210℃とし、ブロー比を2.2とした。
【0113】
次いで、上記積層フィルムを切断することで、幅が11mmで、長さが5mmとされた端子用樹脂フィルム16を作製した。作製した端子用樹脂フィルム16について、25℃及び120℃での引張貯蔵弾性率、及び、溶融時の吸熱量を測定した。引張貯蔵弾性率は、JIS K7244-4に準拠し、端子用樹脂フィルム16を幅10mm、長さ30mmに切断した試験片(厚さは各実施例及び比較例の厚さ)をチャック間距離20mmで保持し、動的粘弾性装置(SII社製、商品名:DMS6100)を用いて、温度120℃、周波数1Hzの条件で測定した値である。溶融時の吸熱量は、示差走査熱量計(SII社製、商品名:DSC6220)により、走査速度10℃/min、測定温度領域80℃~170℃の範囲での吸熱ピークの面積から吸熱量を求め、試料(端子用樹脂フィルム16)の質量で除した値である。
【0114】
その後、2枚の端子用樹脂フィルム16間に、金属端子14を挟み込み、2枚の端子用樹脂フィルム16を200℃、0.3MPaで5秒間加熱加圧し、金属端子14と2枚の端子用樹脂フィルム16とを熱融着させることで、金属端子14及び2枚の端子用樹脂フィルム16よりなるタブ(端子用樹脂フィルム16のはみ出し部の幅L:3mm)を作製した。このとき、端子用樹脂フィルム16は、第1の最外層が金属端子14側となるように配置した。」
T7カ 「【図1】
[図:0001388348000005.jpg]
」
「【図3】[図:0001388348000006.jpg]」
イ 上記アの記載によれば、端子用樹脂フィルム16は、図1の蓄電デバイス本体11の正極又は負極と電気的に接続されている一対の金属端子14と包装材13の間に介在されているものであり(図1、【0040】)、実施例1の端子用樹脂フィルム16に注目すると(T7オ)、甲T7には、次の端子用樹脂フィルムの発明が記載されているものと認められる(以下、「甲T7発明」という。)。
「蓄電デバイス本体11を包装する包装材13と、蓄電デバイス本体11の正極又は負極と電気的に接続されかつ包装材13の外部に延在する一対の金属端子14との間に介在される端子用樹脂フィルム16であって、前記端子用樹脂フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成であり、第1の最外層31は、融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)を用いており、中間層33は、融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)を用いており、第2の最外層32は、第1の最外層と同一の融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用いており、インフレーション式フィルム押出製造装置によって前記3つの層の母材を押し出すことで作製された積層フィルムであり、前記積層フィルムにおいて、前記第1の最外層31と中間層33と第2の最外層32は、それぞれの厚さが、33μm、34μm、33μmとなるように積層された、端子用樹脂フィルム16。」
(2)検討
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲T7発明の対比
a 甲T7発明の「蓄電デバイス本体11」、「正極又は負極」、「一対の金属端子14」は、それぞれ、本件発明1の「電池素子」、「電極」、「金属端子」に相当する。
b 上記aの検討を踏まえると、甲T7発明の「蓄電デバイス本体11を包装する包装材13」は、本件発明1の「電池素子を封止する包装材料」に相当する。
c 甲T7発明の「端子用樹脂フィルム16」は、「蓄電デバイス本体11を包装する包装材13と、蓄電デバイス本体11の正極又は負極と電気的に接続されかつ包装材13の外部に延在する金属端子14との間に介在される」ものであるから、上記aとbの検討を踏まえると、本件発明1の「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される」ものである「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
d 甲T7発明の「第1の最外層31」又は「第2の最外層32」は、「融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン」を用いた層であるから、本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当する。
e 甲T7発明の「中間層33」は、「融点162℃のブロック系ポリプロピレン」であるから、本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当する。
f 甲T7発明において、「前記端子用樹脂フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成」であることは、上記d及びeの検討内容並びにポリプロピレンがポリオレフィンであることが技術常識であることを踏まえると、本件発明1の「前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されて」いることに相当する。
g 甲T7発明において、「前記積層フィルムにおいて、前記第1の最外層31と中間層33と第2の最外層32は、それぞれの厚さが、30μm、34μm、30μmとなるように積層され」ていることは、上記dとeで検討したとおり、「第1の最外層31」又は「第2の最外層32」が本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当し、「中間層33」が本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当することを踏まえると、本件発明1の「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下」であることに相当する。また、甲T7発明において、第1の最外層31と中間層33と第2の最外層32を合わせた厚さが30+34+30=94μmであることは、本件発明1において「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることに相当する。
h 甲T7発明の「積層フィルム」は、「第1の最外層31」と「第2の最外層32」に「融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン」を用い、「中間層33」に「融点162℃のブロック系ポリプロピレン」を用いている。
一方、本件発明1において、「ポリオレフィン骨格を有する樹脂層」は、「酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層」という複数の層を含むものであって、これら複数の層のそれぞれは個別に異なる融点を持ち得ることは明らかであるから、本件発明1は、「120℃以上156℃以下の範囲に」観察される「融解ピーク」が少なくとも1つあり、場合によっては複数個あることを許容するものと解される。
したがって、甲T7発明の「蓄電デバイス用端子フィルム」のうち「第1の最外層31」と「第2の最外層32」の融点が140℃であるということは、「示差走査熱量計で測定した場合」に、少なくとも「140℃」において融解ピークが観察されるものであるといえるから、本件発明1の「示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
i 本件発明1の除く部分1において、「端子フィルム」を構成する「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」は、それぞれ、甲T7発明の「端子用樹脂フィルム16」を構成する「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」に相当するところ、「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」からなる積層構造が、本件発明1の除く部分1では、「ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層」、「ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層」、「ポリオレフィンホモポリマーを含む層」からなるのに対して、甲T7発明では、それぞれ「ランダム系酸変性ポリプロピレン」、「ブロック系ポリプロピレン」、「ランダム系酸変性ポリプロピレン」からなり、積層構造内の各ポリマー層の重合状態の組み合わせが異なっており、そのため、甲T7発明は除く部分1によって除かれる範囲には含まれておらず、したがって、本件発明1が除く部分1を除かれていることは、甲T7発明との相違点とはならない。
j よって、本件発明1と甲T7発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」
<相違点5>
本件発明1は「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲T7発明は、「第1の最外層31」または「第2の最外層32」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点5について
a 甲T7発明の「第1の最外層31」または「第2の最外層32」は、モノマーとしてプロピレンと4質量%のエチレンをランダムに共重合したランダム系酸変性ポリプロピレンであるところ(上記T7ウの【0048】参照。)、上記2の実施可能要件において検討したように、ランダムポリプロピレンのみからなる層は、海島構造を有さないものであることが技術常識であるから、「第1の最外層31」または「第2の最外層32」は、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものではないことは明らかであるので、相違点5は実質的な相違点である。
b そこで、「第1の最外層31」について甲T7の記載を確認すると、「接着性の観点から、ポリオレフィンランダムコポリマーであることが好ましい」ものではあるが(【0048】)、ポリオレフィンランダムコポリマー以外に、ポリオレフィンブロックコポリマー等を含んでいてもよいとの記載もある(【0054】)。
c 上記bの記載によれば、「第1の最外層31」が、ポリオレフィンランダムコポリマー以外にポリオレフィンブロックコポリマーを含むことが示唆されているので、このような場合に第1の最外層31が「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとなっているかについて検討する。
d まず、ブロックコポリマーの部分が海島構造となるかについて検討する。本件明細書に「海島構造となる組成としては、例えば、ポリプロピレン層11がポリプロピレンのブロックコポリマーを含有する組成…などが挙げられる。」(【0048】)と記載されているように、ブロックコポリマーが海島構造となり得るものであることは認められるものの、ブロックコポリマーを構成する複数のモノマーの種類や含有割合、温度や時間などの重合条件によらずいかなるときにも必ず海島構造となるかは不明である。
e 次に、ランダムコポリマーの部分が海島構造となるかについて検討する。申立人赤松が令和4年3月11日に提出した意見書を参照するに、その第5頁において、参考資料1(ポリプロピレンハンドブック178頁)と参考資料2(〔追補版〕目で見る結晶性高分子入門)の記載を根拠として、ランダムポリプロピレンにおいて海島構造ができるのは特定の条件下であり、無条件に海島構造になるものではないと主張している。この主張によれば、上記bに記載された、ポリオレフィンランダムコポリマーとポリオレフィンブロックコポリマーを含む「第1の最外層31」のうち、ポリオレフィンランダムコポリマーがただちに「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであるということはできない。
また、甲T7の段落【0059】には、中間層33のブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有しているとも記載されているから、中間層33を海島構造を有するものとすることが好ましいとの記載はあるものの、第1の最外層31についても海島構造を有するものとすることが好ましいということまでの記載はない。
f したがって、甲T7発明において、「第1の最外層31」または「第2の最外層32」について、ポリオレフィンランダムコポリマーとポリオレフィンブロックコポリマーを含むものとすることまでは当業者が容易になし得ることであるといえたとしても、さらに、上記ポリオレフィンランダムコポリマーとポリオレフィンブロックコポリマーの少なくとも一方を、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとすることについての動機付けを見いだすことができない。
g なお、上記fの点について、申立人土田は甲T1(甲A1と同じ文献)を引用して、第1の最外層31は、ランダム系酸変性ポリプロピレンと、ブロック系酸変性ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、)とを混合したものとすることが記載してあることを根拠として、甲T7発明において第1の最外層を「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとすることは容易であると主張している。
しかしながら、甲T1に記載の蓄電デバイス用端子フィルムについての発明は、ランダムコポリマーを含む第1の最外層とホモポリマーを含む第2の最外層の間の中間層にブロックコポリマーを用いることによって、融点がホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーの順に低くなる傾斜構造をとることが前提の発明となっており(【0011】参照)、このような傾斜構造となっていない甲T7発明において、前記前提となる構成を備えていない点を無視して、第1の最外層を海島構造とする点のみを独立して採用することが容易であるとはいえない。
h そして、本件発明1は、「酸変性ポリプロピレン層」を「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとすることで、「電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高める」(【0057】参照)ことができるという優れた効果を奏するものである。
i したがって、甲T7発明において、甲T1(甲A1)の記載を勘案したとしても、相違点5に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲T7に記載された発明ではないし、また、甲T7に記載された発明と甲T1の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲T7発明の対比
本件発明2は、ポリプロピレン層を含まない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様の検討により、本件発明2と甲T7発明を対比すると、上記相違点5で相違する。
そして、上記ア(イ)で検討したと同様の理由により、甲T7発明において、相違点5に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(イ)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲T7に記載された発明ではないし、また、甲T7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲T7発明との対比
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様に検討すると、本件発明3と甲T7発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点6>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」と特定されているのに対して、甲T7発明は、「第1の最外層31」または「第2の最外層32」についてそのような特定がされていない点。
<相違点7>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」と特定されているのに対して、甲T7発明は、「第1の最外層31」または「第2の最外層32」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点6について
相違点6は、相違点5と同じであるから、上記ア(イ)aと同様の理由によって、本件発明3と甲T7発明との実質的な相違点である。
そして、上記ア(イ)b~hと同様の理由によって、甲T7発明において、相違点6に係る本件発明3の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点7について検討するまでもなく、本件発明3は甲T7に記載した発明でもなく、甲T7に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。(なお、相違点7は相違点3と同じであり、上記ウ(ウ)において検討している。)
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲T7に記載された発明ではないし、また、甲T7に記載された発明と甲T2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明4について
本件訂正によって、請求項4は削除され、甲T7に基づく進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
なお、甲T3は、申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項4の「厚さ残存率」に関して引用したものであるが、この文献の検討は不要となった。
オ 本件発明5について
本件訂正によって、請求項5は削除され、甲T7に基づく進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
なお、甲T4は、申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項5の「熱収縮率」に関して引用したものであるが、この文献の検討は不要となった。
カ 本件発明6~10について
本件発明6~10は、本件発明1~3のいずれかにおいて、さらに「金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される」ことや「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んで」いること等を特定するものであるが、上記ア~ウにおいて検討したように、本件発明1~3は、甲T7に記載された発明であるとはいえないし、また、甲T7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、本件発明1~3を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明6~10も同様の理由によって、甲T7に記載された発明であるとはいえないし、また、甲T7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
なお、甲T5は、申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項10の未延伸ポリプロピレンに関して引用したものであるが、当該記載は包装材料に係る技術を示すものであり、端子用樹脂フィルムに係る甲T7発明とは技術分野の関連性が高いとはいえないから、甲T7発明に適用する動機付けがあるとはいえない。仮に、甲T7発明に適用する動機付けがあり上記適用が容易になし得るとことであるとしても、請求項10が引用する請求項1、7~9の進歩性が否定できないので、請求項10の進歩性も否定することはできない。
キ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲T7発明との対比
本件発明11は、「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(イ)と同様に検討すると、本件発明3と甲T7発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点8>
本件発明11は、「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」と特定されているのに対して、甲T7発明は、「第1の最外層31」または「第2の最外層32」についてそのような特定がされていない点。
<相違点9>
本件発明11は「ポリプロピレン層」が「ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」と特定されているのに対して、甲T7発明は、本件発明11の「ポリプロピレン層」に相当する「中間層33」の母材が、「融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)」を用いている点。
(イ)相違点8について
相違点8は、相違点5と同じであるから、上記ア(イ)aと同様の理由によって、本件発明11と甲T7発明との実質的な相違点である。
そして、上記ア(イ)b~hと同様の理由によって、甲T7発明において、相違点8に係る本件発明11の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点9について検討するまでもなく、本件発明11は甲T7に記載した発明でもなく、甲T7に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明11は、甲T7に記載された発明ではないし、また、甲T7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ク 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明1~3、6~10のいずれかを引用してさらに追加の構成を特定するものであるが、上記ア~ウ、カにおいて検討したように、本件発明1~3、6~10は、甲T7に記載された発明ではないし、また、甲T7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3、6~10を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明12~16も同様の理由によって、甲T7に記載された発明ではないし、また、甲T7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、甲T6は、申立人土田が異議申立書において、本件訂正前の請求項13の表面粗さに関して引用したものであるが、請求項13が引用する請求項に係る発明の進歩性を否定するために参照可能な記載は認められない。
ケ 本件発明17について
本件発明17は、ポリプロピレン層を含まず当該ポリプロピレン層の厚さが特定されていない点以外は本件発明3と同じであるから、本件発明3についての上記ウと同様の検討により、本件発明17と甲T7発明とは上記相違点6、7の点で相違しているが、甲T7発明において、相違点6に係る本件発明17の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点7について検討するまでもなく、本件発明17は甲T7に記載した発明ではなく、甲T7に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)甲T7に基づく新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3、6~17は、甲T7に記載された発明であるとはいえず、また、甲T7に記載された発明と、甲T1~甲T6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
5 甲Y1に基づく新規性・進歩性(申立人山川による申立理由(1)。取消理由として採用せず。)について
(1)甲Y1に記載された事項と発明
ア 甲Y1には、以下の事項が記載されている。
Y1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに使用されるタブ封止用絶縁フィルム及び該絶縁フィルムを用いて構成された電気化学デバイスに関する。
…
【0003】
また、本明細書において、「融点」の語は、JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に規定された方法で示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で測定された融解ピーク温度(融点)を意味する。」
Y1イ 「【0009】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、内圧が上昇した場合においても封止用絶縁フィルムを介しての封止状態を十分に維持できるタブ封止用絶縁フィルム及び電気化学デバイスを提供することを目的とする。」
Y1ウ 「【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係るタブ封止用絶縁フィルム1は、酸変性ポリプロピレン70質量%~99質量%と、熱可塑性エラストマー1質量%~30質量%と、を含有してなる樹脂組成物からなるベース樹脂層2を少なくとも含み、前記樹脂組成物の融点が155℃以上であり、前記樹脂組成物のMFRが10g/10分以下であることを特徴とするものである。
…
【0037】
また、本発明では、通常は、熱可塑性エラストマーが酸変性ポリプロピレン中で相分離構造を形成しており、又は熱可塑性エラストマーが前記第1樹脂成分中で相分離構造を形成しており、前記分散した熱可塑性エラストマー成分に応力が集中した際に、該応力が前記相分離構造の熱可塑性エラストマー相を順に伝播することを極力抑えることができることにより、ベース樹脂層2内部での凝集破壊の発生をより十分に防止できて、安定した封止強度を備えた封止用絶縁フィルム1を提供できる。
【0038】
なお、前記相分離構造において熱可塑性エラストマー相が略板状に相分離しているものが存在し、このような近接した略板状の熱可塑性エラストマー相間で応力が順に伝播することを抑えることができることにより、凝集破壊の発生を防止できるものと推定される。前記略板状の熱可塑性エラストマー相は、封止用絶縁フィルム1の表面に略平行状に拡がっているものと考えられる。」
Y1エ 「【0042】
本発明に係るタブ封止用絶縁フィルム1は、上記特定構成のベース樹脂層2を少なくとも含む構成であり、前記特定構成のベース樹脂層2のみからなる構成(ベース樹脂層2の単層)であってもよいし、前記特定構成のベース樹脂層2の少なくともいずれか一方の面に樹脂層が積層された積層構成であってもよい。
【0043】
後者の積層構成としては、図1、3に示すように、前記ベース樹脂層2における外装材23側の面に外側樹脂層3が積層されると共に、前記ベース樹脂層2におけるタブ21(22)側の面に内側樹脂層4が積層された構成であって、前記外側樹脂層3が、「酸変性ポリプロピレン」又は/及び「酸で変性されていないポリプロピレン」を含有し、前記内側樹脂層4が酸変性ポリプロピレンを含有する構成を採用するのが好ましい。」
Y1オ 「【0059】
本発明のタブ封止用絶縁フィルム1を用いて構成された電気化学デバイス20の一実施形態を図3に示す。この電気化学デバイス20は、電気化学素子と、電極タブ21、22と、タブ封止用絶縁フィルム1と、外装材23と、を備える。
…
【0061】
また、図2に示すように、正極タブ21におけるシール部23dに対応する部分にタブ封止用絶縁フィルム1、1を両面から挟み込んだ状態で溶着すると共に、負極タブ22におけるシール部23dに対応する部分にタブ封止用絶縁フィルム1、1を両面から挟み込んだ状態で溶着する。これらタブ21、22を電気化学素子に溶接によって接合固定する。…
【0062】
次に、前記袋状物内に、タブ21、22が接続された電気化学素子を収容する。次いで、袋状物のシール部23d、23dによって、タブ21、22をタブ封止用絶縁フィルム1、1を介して挟み込んだ状態で、シール部23d、23dの全域を互いに熱溶着する(図2、3参照)。これにより、電気化学素子が、外装材(外装フィルム)23、23内に密閉状態で収容された電気化学デバイス(電池等)20が作製される。この電気化学デバイス20において、正極タブ21の先端部21b及び負極タブ22の先端部22bは、外装材23の外部に導出されている(図2参照)。」
Y1カ 「【0065】
<原材料>
…
(樹脂組成物B)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マレイン酸グラフト量0.2質量%)85質量部、エチレン-プロピレンラバー(EPR)15質量部を2軸押出機で230℃の樹脂温度で溶融混練して得られた樹脂組成物。この樹脂組成物BのMFRは、6g/10分であり、樹脂組成物Bの融点は168℃である。
…
(樹脂G)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マレイン酸グラフト量0.2質量%)。この樹脂GのMFRは、3.5g/10分であり、樹脂Gの融点は134℃である。
(樹脂H)
ランダムポリプロピレン樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体;プロピレン含有率4質量%)。この樹脂HのMFRは、3g/10分であり、樹脂Hの融点は140℃である。」
Y1キ 「【0081】
<実施例10>
樹脂組成物Bからなる厚さ40μmのベース樹脂層2の一方の面に樹脂Hからなる厚さ30μmの外側樹脂層3が積層されると共に前記ベース樹脂層2の他方の面に樹脂Gからなる厚さ30μmの内側樹脂層4が積層された構成を備えた図1に示すタブ封止用絶縁フィルム1を共押出インフレーション成形法により得た。
【0082】
【表3】
[図:0001388348000007.jpg]
(当審注:表3は一部抜粋)」
Y1ク 「【図1】
[図:0001388348000008.jpg]
【図2】
[図:0001388348000009.jpg]
」
イ 上記アの記載によれば、タブ封止用絶縁フィルム1、1は、電気化学素子に接合固定されたタブ21、22の両面から挟み込んだ状態で溶着すると共に、外装材23によって、タブ封止用絶縁フィルム1を介してタブ21、22を挟み込んで収容しており(図2、【0061】、【0062】)、タブ封止用絶縁フィルムとして実施例10のタブ封止用絶縁フィルムを採用したもの(【0065】、【0081】)に注目すると、甲Y1には次のタブ封止用絶縁フィルムの発明が記載されているものと認められる(以下、「甲Y1発明」という。)。
「電気化学素子を収容する外装材23と、電気化学素子と接合固定されかつ外装材23の外部に延在するタブ21、22との間に介在されるタブ封止用絶縁フィルム1であって、前記タブ封止用絶縁フィルム1は、ベース樹脂層2と、ベース樹脂層2のタブ21、22側に積層される内側樹脂層4と、ベース樹脂層2の外装材23側に積層される外側樹脂層3が積層された積層構成であり、内側樹脂層4は、厚さ30μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マレイン酸グラフト量0.2質量%、融点134℃の樹脂G)からなり、ベース樹脂層2は、厚さ40μmの、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マレイン酸グラフト量0.2質量%)85質量部、エチレン-プロピレンラバー(EPR)15質量部を2軸押出機で230℃の樹脂温度で溶融混練して得られた、融点168℃の樹脂組成物Bからなり、外側樹脂層3は、厚さ30μmのランダムポリプロピレン樹脂(プロピレン含有率4質量%のエチレン-プロピレンランダム共重合体であり、融点140℃の樹脂H)からなり、共押出インフレーション成形法により得られたものである、タブ封止用絶縁フィルム1。」
(2)検討
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲Y1発明の対比
a 甲Y1発明の「電気化学素子」、「タブ21、22」は、それぞれ、本件発明1の「電池素子」、「「金属端子」に相当する。また、甲Y1発明の「電気化学素子」とはリチウムイオン二次電池を含むものであるから(【0001】)、当該電気化学素子には明示されていない正極と負極を有するものであることは自明である。
b 上記aの検討を踏まえると、甲Y1発明の「電気化学素子を収容する外装材23」は、本件発明1の「電池素子を封止する包装材料」に相当する。
c 甲Y1発明の「金属端子用接着性フィルム」は、「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される」ものであるから、上記aとbの検討を踏まえると、本件発明1の「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される」ものである「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
d 甲Y1発明の「内側樹脂層4」は「厚さ30μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マレイン酸グラフト量0.2質量%、MFR3.5g/10分、融点134℃の樹脂G)」からなる層であり、「ベース樹脂層2」は「厚さ40μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マレイン酸グラフト量0.2質量%を85質量部、エチレン-プロピレンラバー(EPR)15質量部を2軸押出機で230℃の樹脂温度で溶融混練して得られた、融点168℃の樹脂組成物B)」からなるから、「内側樹脂層4」と「ベース樹脂層2」は、本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当する。
e 甲Y1発明の「外側樹脂層3」は、「ランダムポリプロピレン樹脂(プロピレン含有率4質量%のエチレン-プロピレンランダム共重合体であり、融点140℃の樹脂H)」であるから、本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当する。
f 甲Y1発明において、「前記タブ封止用絶縁フィルム1は、ベース樹脂層2と、ベース樹脂層2のタブ21、22側に積層される内側樹脂層4と、ベース樹脂層2の外装材23側に積層される外側樹脂層3が積層された積層構成」であることは、上記d及びeの検討内容並びにポリプロピレンがポリオレフィンであることが技術常識であることを踏まえると、本件発明1の「前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されて」いることに相当する。
g 甲Y1発明において、「内側樹脂層4は、厚さ30μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂…からなり、ベース樹脂層2は、厚さ40μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂…からなり、外側樹脂層3は、厚さ30μmのランダムポリプロピレン樹脂…からな」ることは、上記dとeで検討したとおり、「内側樹脂層4」と「ベース樹脂層2」が本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当し、「中間層33」が本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当することを踏まえると、本件発明1の「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下」であることに相当する。また、甲Y1発明において、内側樹脂層4、ベース樹脂層2、外側樹脂層3を合わせた厚さが30+40+30=100μmであることは、本件発明1において「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることに相当する。
h 甲Y1発明の「タブ封止用絶縁フィルム1」のうち「内側樹脂層4」は融点134℃であり、「外側樹脂層3」は融点140℃であるということは、「示差走査熱量計で測定した場合」に、少なくとも「134℃」と「140℃」において融解ピークが観察されるものであるといえるから、本件発明1の「示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
i 本件発明1の除く部分1において、「端子フィルム」を構成する「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」は、それぞれ、甲Y1発明の「タブ封止用絶縁フィルム1」を構成する「内側樹脂層4」、「ベース樹脂層2」、「外側樹脂層3」に相当するところ、「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」からなる積層構造が、本件発明1の除く部分1では、「ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層」、「ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層」、「ポリオレフィンホモポリマーを含む層」からなるのに対して、甲Y1発明では、「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」、「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」と「エチレン-プロピレンラバー(EPR)」を溶融混練した樹脂、「ランダムポリプロピレン樹脂」からなり、積層構造内の各ポリマー層の重合状態の組み合わせが異なっており、そのため、甲Y1発明は除く部分1によって除かれる範囲には含まれておらず、したがって、本件発明1が除く部分1を除かれていることは、甲Y1発明との相違点とはならない。
j.よって、本件発明1と甲Y1発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」
<相違点10>
本件発明1は「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲Y1発明は、「内側樹脂層4」または「ベース樹脂層2」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点10について
a 甲Y1には、「ベース樹脂層2」について、「酸変性ポリプロピレン70質量%~99質量%と、熱可塑性エラストマー1質量%~30質量%と、を含有してなる樹脂組成物からなる」ものであり(【0034】)、「通常は、熱可塑性エラストマーが酸変性ポリプロピレン中で相分離構造を形成しており」(【0037】)、「前記相分離構造において熱可塑性エラストマー相が略板状に相分離しているものが存在」すること(【0038】)が記載されている。
b 甲Y1発明の「ベース樹脂層2」は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を85質量部と、エチレン-プロピレンラバー(EPR)15質量部とを溶融混練して得られた樹脂層であり、上記EPRは熱可塑性エラストマーであるから、上記aの記載によれば、「ベース樹脂層2」は、略板状の相分離構造を有しているものと認められる。
c 上記略板状の相分離構造は、二つの相が分離しているものではあるが、本件発明1のような「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものと同一の構造であるとはいえないから、相違点10は実質的な相違点である。
d そして、甲Y1には、甲Y1発明の上記略板状の相分離構造を、海島構造とするための動機付けを見いだすことはできず、板状の相分離構造に代えて海島構造の相分離構造にするための具体的な方法についても記載されていない。
e また、本件発明1は、「酸変性ポリプロピレン層」を「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとすることで、「電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高める」(【0057】参照)ことができるという優れた効果を奏するものである。
f したがって、甲Y1発明において、相違点10に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲Y1発明の対比
本件発明2は、ポリプロピレン層を含まない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様の検討により、本件発明2と甲Y1発明を対比すると、上記相違点10で相違する。
そして、上記ア(イ)で検討したと同様の理由により、甲Y1発明において、相違点10に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(イ)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲Y1発明との対比
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様に検討すると、本件発明3と甲Y1発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点11>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」と特定されているのに対して、甲Y1発明は、「内側樹脂層4」または「ベース樹脂層2」についてそのような特定がされていない点。
<相違点12>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」と特定されているのに対して、甲Y1発明は、「内側樹脂層4」または「ベース樹脂層2」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点11について
相違点11は、相違点10と同じであるから、上記ア(イ)a~cと同様の理由によって、本件発明3と甲Y1発明との実質的な相違点である。
そして、上記ア(イ)d~fと同様の理由によって、甲Y1発明において、相違点11に係る本件発明3の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点12について検討するまでもなく、本件発明3は甲Y1に記載した発明でもなく、甲Y1に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明4について
本件訂正によって、請求項4は削除され、甲Y1に基づく新規性・進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
オ 本件発明5について
本件訂正によって、請求項5は削除され、甲Y1に基づく新規性・進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
カ 本件発明6~10について
本件発明6~10は、本件発明1~3のいずれかにおいて、さらに「金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される」ことや「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んで」いること等を特定するものであるが、上記ア~ウにおいて検討したように、本件発明1~3は、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明6~10も同様の理由によって、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
キ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲Y1発明との対比
本件発明11は、「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(イ)と同様に検討すると、本件発明11と甲Y1発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点13>
本件発明11は、「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」と特定されているのに対して、甲Y1発明は、「内側樹脂層4」または「ベース樹脂層2」についてそのような特定がされていない点。
<相違点14>
本件発明11は「ポリプロピレン層」が「ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」と特定されているのに対して、甲Y1発明は、本件発明11の「ポリプロピレン層」に相当する「外側樹脂層3」が「ランダムポリプロピレン樹脂(プロピレン含有率4質量%のエチレン-プロピレンランダム共重合体であり、融点140℃の樹脂H)」からなる点。
(イ)相違点13について
相違点13は、相違点10と同じであるから、上記ア(イ)a~cと同様の理由によって、本件発明11と甲Y1発明との実質的な相違点である。
そして、上記ア(イ)d~fと同様の理由によって、甲Y1発明において、相違点13に係る本件発明11の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点14について検討するまでもなく、本件発明11は甲Y1に記載した発明でもなく、甲Y1に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明11は、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ク 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明1~3、6~10のいずれかを引用してさらに追加の構成を特定するものであるが、上記ア~ウ、カにおいて検討したように、本件発明1~3、6~10は、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3、6~10を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明12~16も同様の理由によって、甲Y1に記載された発明ではないし、また、甲Y1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、甲Y3は、申立人山川が異議申立書において、本件訂正前の請求項13の表面粗さに関して以下の記載を引用したものであり、甲Y3の記載に基づいて請求項13の特定事項とすることが容易になし得ることであるとしても、請求項13が引用する請求項1~3、6~12に係る発明の進歩性が否定できないので、請求項13に係る発明の進歩性も否定することはできない。
甲Y3「【0059】
第1の最外層31と第2の最外層32とは、測定角度60°での光沢度の差が10以上であることが好ましい。第1の最外層31と第2の最外層32との間で光沢度に差をつけることで、蓄電デバイス用端子フィルム16の表裏判定が容易となり、蓄電デバイス用端子フィルム16を金属端子14に融着する際に、表裏を間違えることなく確実に第1の最外層31側を金属端子14に融着することができる。…
【0061】
第1の最外層31と第2の最外層32との間で光沢度に差をつける方法は特に限定されないが、例えば、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方の表面に、エンボス加工及び/又は粗面化加工を施す方法、或いは、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方に、フィラー及び/又はエラストマーを添加する方法が挙げられる。」
ケ 本件発明17について
本件発明17は、ポリプロピレン層を含まず当該ポリプロピレン層の厚さが特定されていない点以外は本件発明3と同じであるから、本件発明3についての上記ウと同様の検討により、本件発明17と甲Y1発明とは上記相違点11、12の点で相違しているが、甲Y1発明において、相違点11に係る本件発明17の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点12について検討するまでもなく、本件発明17は甲T7に記載した発明ではなく、甲T7に記載した発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)甲Y1に基づく新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3、6~17は、甲Y1に記載された発明ではなく、また、甲Y1に記載された発明と甲Y3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
6 甲Y2に基づく進歩性(申立人山川による申立理由(2)。取消理由として採用せず。)について
(1)甲Y2に記載された事項と発明
ア 甲Y2には、以下の事項が記載されている。
Y2ア 「[0001] 本発明は、二次電池用端子被覆樹脂フィルム、より詳しくは、金属端子への密着性が良好かつ安定した二次電池用端子被覆樹脂フィルム、およびこの樹脂フィルムを用いた二次電池用タブ部材ならびに二次電池に関する。」
Y2イ 「[0010] 上記事情を踏まえ、本発明は、リード周囲の封止性およびリードへの密着性にすぐれ、かつ安定した絶縁性を確保することができる、二次電池用端子被覆樹脂フィルムを提供することを目的とする。…」
Y2ウ 「[0016] 本発明の一実施形態について、図1から図5を参照して説明する。図1は、本実施形態の二次電池である電池パック1を示す斜視図である。…
[0017] 電池パック1は、充放電を行う発電要素11が本体包装材12で包まれた電池本体10と、電池本体に取り付けられて電極端子として機能するタブ20とを備えている。発電要素11としては、二次電池に用いられる公知の各種の発電要素を、適宜選択して用いることができる。」
Y2エ 「[0022] 図2は、タブ20を示す斜視図である。タブ20は、導電性を有するリード(端子)21と、リード21の外周面の一部を覆うように配置されるタブシーラント40とを備えている。リード21の材質としては金属が一般的であるが、具体的材質は、発電要素11の材質や構造等を考慮して決められるのが好ましい。例えばリチウムイオン電池では、発電要素11として、通常正極の集電体にアルミニウムが用いられ、負極の集電体には銅が用いられる。」
Y2オ 「[0023] 図4は、タブ20のうちタブシーラント40に被覆された部位を示す拡大断面図である。タブシーラント40は、リード21の外面に接触して配置される最内層41と、最内層41と反対側の表面を形成する(最内層41と反対の位置に形成された)最外層42と、最内層41と最外層42との間に設けられる中間層43とを備えている。
[0024] 最内層41は、リードの外面を周方向にわたって封止し、タブシーラント40とリード21とを密着させる機能を有する。このため、最内層41は、リード21および最内層41が接触する層(本実施形態においては中間層43)の双方との接着性に優れた樹脂で形成されている。例えば本実施形態では、中間層43の材質を考慮し、最内層41の材料として、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂などを用いることができる。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、および高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン-αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中間層43と相溶性のよい同系統のポリオレフィン樹脂を用いることで、中間層43との密着性を向上させることが可能となる為、好適である。」
Y2カ 「[0037]
…
(2)評価用電池パックの作製
本体包装材として、外層:ナイロン(厚さ25μm)、外側接着剤層:ポリエステルポリオール系接着剤(厚さ5μm)、バリア層:アルミニウム箔(厚さ40μm、A8079-O材)、内側接着剤層:酸変性ポリプロピレン(以下PPa、厚さ30μm)、および内層:ポリプロピレン(以下PP、厚さ40μm)の構成の包装材を用いた。アルミニウム箔の両面にはノンクロム系表面処理を行い、腐食防止処理層を形成した。PPとしては、ブロック系で融点が153℃のPPを用いた。…
[0038](実施例1)
最内層にMFRが6.0g/10min、融点が145℃のPPaを用い、中間層にMFRが1.8g/10min、融点が160℃のPPを用い、最外層にMFRが8.0g/10min、融点が153℃であり本体包装材の内層と同一組成(以下、「組成A」と称する。)のPPを用いた。各層の材料樹脂を、三種三層のインフレーション押し出し(以下インフレ法)で積層し、実施例1のタブシーラントを作製した。インフレ法の条件は、溶融温度を210℃およびブロー比を2.2と設定し、各層の膜厚が30μmであり、三層合計の厚さ(総厚)が90μmとなるようにタブシーラントを作成した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。」
Y2キ 「[図1]
[図:0001388348000010.jpg]
[図2]
[図:0001388348000011.jpg]
[図4]
[図:0001388348000012.jpg]
」
イ 上記アの記載によれば、電池パック1において、発電要素11が本体包装材12で包まれており(図1、[0017])、発電要素11と接続されたリード21の外周面の一部を覆うようにタブシーラント40が配置されており(図2、[0022])、タブシーラント40は、リード21の外面に接触して配置される最内層41と、最内層41と反対側の表面を形成す最外層42と、最内層41と最外層42との間に設けられる中間層43とを備えている(図4、[0023])。そして、タブシーラント40として実施例1のタブシーラントを採用したもの([0038])に注目すると、甲Y2には次のタブシーラントの発明が記載されているものと認められる(以下、「甲Y2発明」という。)。なお、以下において、PPaは酸変性ポリプロピレンを表し、PPはポリプロピレンを表す([0037]参照。)。
「本体包装材12に包まれた発電要素11と接続されたリード21の外周面の一部を覆うように配置されたタブシーラント40であって、タブシーラント40は、リード21の外面に接触して配置される最内層41と、最内層41と反対側の表面を形成する最外層42と、最内層41と最外層42との間に設けられる中間層43とを備えており、最内層41には融点が145℃のPPaが用いられ、中間層43には融点が160℃のPPが用いられ、最外層42には融点が153℃であり本体包装材の内層と同一組成のPPが用いられており、各層の材料樹脂は、三種三層のインフレーション押し出し法で積層されており、各層の膜厚が30μmであり、三層合計の厚さが90μmである、タブシーラント40。」
(2)検討
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲Y2発明の対比
a 甲Y2発明の「発電要素11」、「リード21」は、それぞれ、本件発明1の「電池素子」、「金属端子」に相当する。また、甲Y2発明の「発電要素11」としてリチウムイオン電池が例示されているから([0022])、上記発電要素11には明示されていない正極と負極を有するものであることは自明である。
b 上記aの検討を踏まえると、甲Y2発明の「発電要素11」を包む「本体包装材12」は、本件発明1の「電池素子を封止する包装材料」に相当する。
c 甲Y2発明の「タブシーラント40」は、「本体包装材12に包まれた発電要素11と接続されたリード21の外周面の一部を覆うように配置された」ものであって、図1を参照し、上記aとbの検討を踏まえると、本件発明1の「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される」ものである「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
d 甲Y2発明の「最内層41」は「融点が145℃のPPa」からなる層であるから、「最内層41」は本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当する。
e 甲Y2発明の「中間層43」は「融点が160℃のPP」からなり、
「最外層42」は「融点が153℃であ」る「PP」からなるから、これら「中間層43」と「最外層42」は本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当する。
f 甲Y2発明において、「タブシーラント40は、リード21の外面に接触して配置される最内層41と、最内層41と反対側の表面を形成する最外層42と、最内層41と最外層42との間に設けられる中間層43とを備えて」であることは、上記d及びeの検討内容並びにポリプロピレンがポリオレフィンであることが技術常識であることを踏まえると、本件発明1の「前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されて」いることに相当する。
g 甲Y2発明において、「各層の膜厚が30μmであり、三層合計の厚さが90μmである」ることは、上記dとeで検討したとおり、「最内層41」が本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当し、「中間層43」と「最外層42」が本件発明1の「ポリプロピレン層」に相当することを踏まえると、本件発明1の「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下」であり、「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることに相当する。
h 甲Y2発明の「タブシーラント40」のうち「最内層41」の融点が145℃であり、「最外層42」の融点が153℃であるということは、「示差走査熱量計で測定した場合」に、少なくとも「145℃」と「153℃」において融解ピークが観察されるものであるといえるから、本件発明1の「示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
i 本件発明1の除く部分1において、「端子フィルム」を構成する「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」は、それぞれ、甲Y2発明の「タブシーラント40」を構成する「最内層41」、「中間層43」、「最外層42」に相当するところ、「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」からなる積層構造が、本件発明1の除く部分1では、「ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層」、「ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層」、「ポリオレフィンホモポリマーを含む層」からなるのに対して、甲Y2発明では、「PPa(酸変性ポリプロピレン)」、「PP(ポリプロピレン)」、「PP(ポリプロピレン)」からなりいずれもどのような重合状態であるか特定されておらず不明であるところ、積層構造内の各ポリマー層の重合状態の組み合わせが同一ということはできないため、甲Y2発明は除く部分1によって除かれる範囲には含まれておらず、したがって、本件発明1が除く部分1を除かれていることは、甲Y2発明との相違点とはならない。
j.よって、本件発明1と甲Y2発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム(但し、蓄電デバイスを構成する蓄電デバイス本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面を覆うように配置される、3以上の層を備える蓄電デバイス用端子フィルムであって、一方の表面に配置された第1の最外層と、該第1の最外層とは反対側の表面に配置された第2の最外層と、前記第1の最外層と前記第2の最外層との間に配置された中間層と、を備え、前記第1の最外層は、ポリオレフィンランダムコポリマーを含む層であり、前記第2の最外層は、ポリオレフィンホモポリマーを含む層であり、前記中間層は、ポリオレフィンブロックコポリマーを含む層である、蓄電デバイス用端子フィルムを除く。)。」
<相違点15>
本件発明1は「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲Y2発明は、「PPa(酸変性ポリプロピレン)」が用いられる「最内層41」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点15について
a 甲Y2発明において、「最内層41」は「融点が145℃のPPa」が用いられることが特定されているだけであり、PPaすなわち酸変性ポリプロピレン層において、どのようなモノマーがどのような割合で含まれるかについて、また、これらモノマーがどのような共重合状態(ブロックやホモなど)にあるかが特定されておらず、海島構造が観察されるものであるとはいえないから、相違点15は実質的な相違点である。
b 甲Y2には、「最内層41の材料」について、「ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂などを用いることができ」、「ポリオレフィン樹脂としては、…ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン…などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい」と記載されているから([0024]参照。)、最内層41の材料としてブロックポリプロピレンを採用できることが示唆されている。
c ブロックポリプロピレンは、本件明細書において、「海島構造となる組成としては、例えば、ポリプロピレン層11がポリプロピレンのブロックコポリマーを含有する組成…などが挙げられる。」(【0048】)と記載しているように、海島構造となり得るものであることは認められるものの、ブロックポリプロピレンに含有されるモノマーの種類や含有割合、温度や時間などの重合条件によらずいかなるときも必ず海島構造となるかは不明であるし、甲Y2には最内層41を海島構造が観察されるものとすることが好ましいことについて記載も示唆もされていない。
なお、次に示す、甲Y3の【0071】、甲Y4の【0059】の記載を参照しても、ブロックポリプロピレンが必ず海島構造となることが示されているとまではいうことができない。
甲Y3「【0071】
本発明において、ポリオレフィンブロックコポリマーは、2種類以上のホモポリオレフィン連鎖がブロック状に結合した一般的なブロックコポリマーのほか、ブロックポリプロピレンのようにホモポリプロピレン中にポリエチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)等が分散した状態のものも含意する。ブロックポリプロピレンの場合、例えば、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。」
甲Y4「【0059】
本発明において、ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にポリエチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)等が分散した状態のものを意味する。ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。ブロックポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン中にポリエチレンが分散したブロックポリプロピレンが好ましい。」
d そして、本件発明1は、「酸変性ポリプロピレン層」を「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとすることで、「電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高める」(【0057】参照)ことができるという優れた効果を奏するものである。
e したがって、上記bの甲Y2の記載に基いて、最内層41の材料としてブロック酸変性ポリプロピレンを採用することまでは当業者が容易になし得ることであるといえるとしても、当該ブロック酸変性ポリプロピレンをさらに海島構造が観察されるものとすることについては動機付けがないし、仮に海島構造とする動機付けがあるとしても、電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高めるという優れた効果を奏することについて予測可能であったということはできない。
f したがって、甲Y2発明において、相違点15に係る本件発明1の特定事項とすることは、甲Y3、甲Y4の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲Y2に記載された発明と甲Y3、甲Y4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲Y2発明の対比
本件発明2は、ポリプロピレン層を含まない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様の検討により、本件発明2と甲Y2発明を対比すると、上記相違点15で相違する。
そして、上記ア(イ)で検討した理由と同様の理由により、甲Y2発明において、相違点15に係る本件発明2の特定事項とすることは、甲Y3、甲Y4の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(イ)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲Y2に記載された発明と甲Y3、甲Y4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲Y2発明との対比
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様に検討すると、本件発明3と甲Y2発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点16>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲Y2発明は、「最内層41」についてそのような特定がされていない点。
<相違点17>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」と特定されているのに対して、甲Y2発明は、「最内層41」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点16について
相違点16は、相違点15と同じであるから、上記ア(イ)aと同様の理由によって、本件発明3と甲Y2発明との実質的な相違点である。
そして、上記ア(イ)b~fと同様の理由によって、甲Y2発明において、相違点16に係る本件発明3の特定事項とすることは、甲Y3、甲Y4の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
また、相違点16の海島構造に関する証拠として提示された、甲Y1、甲Y3、甲Y5には、以下に引用するとおり、酸変性ポリプロピレンに熱可塑性エラストマーを含有させることが記載されているものの、当該含有させた層が板状の相分離構造となる可能性を示すにとどまり(甲Y1の【0038】)、海島構造となることが示されているとはいえない。
甲Y1「【0029】
[6]と[7]の発明では、ベース樹脂層の外装材側の面に積層された外側樹脂層が、酸変性ポリプロピレン70質量%~99質量%と、熱可塑性エラストマー1質量%~30質量%と、を含有してなる融点が155℃未満の樹脂組成物からなる組成であるので、該外側樹脂層が外装材に対して十分にシール接合することができるし、ベース樹脂層のタブ側の面に積層された内側樹脂層が、酸変性ポリプロピレン70質量%~99質量%と、熱可塑性エラストマー1質量%~30質量%と、を含有してなる融点が155℃未満の樹脂組成物からなる組成であるので、該内側樹脂層が金属タブに対して十分に熱接着できる。更に、ベース樹脂層、外側樹脂層及び内側樹脂層の全てが熱可塑性エラストマーを1質量%~30質量%含有するので、タブ封止用絶縁フィルム全体に柔軟性が付与されて、折り曲げた時の白化を低減することができる。」
甲Y3「【0059】
第1の最外層31と第2の最外層32とは、測定角度60°での光沢度の差が10以上であることが好ましい。第1の最外層31と第2の最外層32との間で光沢度に差をつけることで、蓄電デバイス用端子フィルム16の表裏判定が容易となり、蓄電デバイス用端子フィルム16を金属端子14に融着する際に、表裏を間違えることなく確実に第1の最外層31側を金属端子14に融着することができる。蓄電デバイス用端子フィルム16の表裏判定をより容易にする観点から、光沢度の差は15以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましく、25以上であることが特に好ましい。
…
【0061】
第1の最外層31と第2の最外層32との間で光沢度に差をつける方法は特に限定されないが、例えば、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方の表面に、エンボス加工及び/又は粗面化加工を施す方法、或いは、第1の最外層31及び第2の最外層32のいずれか一方に、フィラー及び/又はエラストマーを添加する方法が挙げられる。
…
【0066】
エラストマーを添加する場合、添加するエラストマーとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
…
【0069】
エラストマーの添加量は、例えば、0.1~20質量%の範囲内で適宜設定することができる。」
甲Y5「[0069] 積層体
本発明の変性ポリプロピレン組成物は、それ単独で使用することも可能であるが、基材に積層した積層体の構成で、積層体の接着層としても好適に使用し得る。
[0070] 本発明の積層体を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂フィルム、スチレン系樹脂のフィルム、少なくとも極性基を有するモノマーを含む重合体であるポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ナイロン6やナイロン6,6のようなポリアミドフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムまたはこれらの延伸フィルム、変性プロピレン重合体フィルムとポリアミドフィルムやエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムのようなガスバリア性のあるフィルムとの積層体(フィルム)などの樹脂層からなるフィルム、樹脂層からなるフィルムにアルミニウムやシリカ等を蒸着させた蒸着フィルム、あるいはアルミニウム等の金属箔、紙等が、包装材の使用目的に応じて適宜選択使用される。この基材は、1種類のみならず、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
…
[0082] (3)エチレン・α-オレフィン共重合体(B)
(i)エチレン・プロピレン共重合体(B-1)
三井化学株式会社製エチレン・プロピレンランダム共重合体(商品名:タフマーP-0680):MFR=7.0g/10分、密度=0.870g/cm3(当審注:申立人によればB-1はエチレン-プロピレンラバー(EPR)である。)
…
[0089] 〔実施例1〕
(1)変性ポリプロピレン組成物(S-3)の製造
プロピレン系重合体(A-2-1)33重量%、プロピレン系重合体(A-1-1)35重量%、エチレン・プロピレン共重合体(B-1)25重量%、変性プロピレン単独重合体(C-1)7重量%を予備混合し、単軸押出機(ダイ径65mmφ、L/D=28)を用いて220℃の温度で溶融混練した後ストランド状に押出し、切断してペレットを製造し、変性ポリプロピレン組成物(S-3)を得た。」
したがって、相違点17について検討するまでもなく、本件発明3は甲Y2に記載した発明でもなく、甲Y2に記載した発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲Y2に記載された発明ではないし、また、甲Y2に記載された発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明4について
本件訂正によって、請求項4は削除され、甲Y2に基づく新規性・進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
オ 本件発明5について
本件訂正によって、請求項5は削除され、甲Y2に基づく新規性・進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
カ 本件発明6~10について
本件発明6~10は、本件発明1~3のいずれかにおいて、さらに「金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される」ことや「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んで」いること等を特定するものであるが、上記ア~ウにおいて検討したように、本件発明1~3は、甲Y2に記載された発明ではないし、また、甲Y2に記載された発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明6~10も同様の理由によって、甲Y2に記載された発明ではないし、また、甲Y2に記載された発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
キ 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明1~3、6~10のいずれかを引用してさらに追加の構成を特定するものであるが、上記ア~ウ、カにおいて検討したように、本件発明1~3、6~10は、甲Y2に記載された発明ではないし、また、甲Y2に記載された発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3、6~10を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明12~16も同様の理由によって、甲Y2に記載された発明ではないし、また、甲Y2に記載された発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、甲Y3は、申立人山川が異議申立書において、本件訂正前の請求項13の表面粗さに関して引用したものであり、甲Y3の記載に基づいて請求項13の特定事項とすることが容易になし得ることであるとしても、請求項13が引用する請求項1~3、6~12に係る発明の進歩性が否定できないので、請求項13に係る発明の進歩性も否定することはできない。
ク 本件発明17について
本件発明17は、ポリプロピレン層を含まず当該ポリプロピレン層の厚さが特定されていない点以外は本件発明3と同じであるから、本件発明3についての上記ウと同様の検討により、本件発明17と甲Y2発明とは上記相違点16、17の点で相違しているが、甲Y2発明において、相違点16に係る本件発明17の特定事項とすることは、甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点17について検討するまでもなく、本件発明3は甲Y2に記載した発明でもなく、甲Y2に記載した発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)甲Y2に基づく新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3、6~17は、甲Y2に記載された発明ではなく、また、甲Y2に記載された発明と甲Y1、甲Y3、甲Y4、甲Y5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
7 甲Y6に基づく新規性・進歩性(申立人山川による申立理由(4)。取消理由として採用せず。)について
(1)甲Y6に記載された事項と発明
ア 甲Y6には、以下の事項が記載されている。
Y6ア 「【0004】
封入容器の内部には非水電解質、正極板、負極板、及び正負の極板間のセパレータ等を封入し、一端は開口部とする。さらに正極板、負極板にその一端が接続されたリード導体を封入容器の内部から外部へ延びるように配置して、最後に開口部をヒートシール(熱融着)することで封入容器の開口部を閉じると共に、封入容器とリード導体とを熱融着して開口部を封止する(この、最後に接着される部分をシール部と呼ぶ)。」
Y6イ 「【0008】
本発明はこのような問題に鑑み、十分な機械的強度、接着性、密封性を保ちつつ、シール部分の柔軟性を上げ、折り曲げ時に必要な力を減らすことのできる絶縁樹脂材料とその使用形態を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属層を有する封入容器と、前記封入容器の内部から外部に延びるリード導体とを有し、前記封入容器と前記リード導体とがシール部で熱融着されている電気部品であって、前記シール部の少なくとも一部において、前記金属層と前記リード導体との間に、引張弾性率が350MPa以下である絶縁樹脂層を有することを特徴とする、電気部品である(請求項1)。」
Y6ウ 「【0022】
本発明の絶縁樹脂層の材料として用いるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、変性ポリオレフィン等が例示され、金属との接着性の点から接着性ポリオレフィン樹脂が好ましく使用される。なお、接着性ポリオレフィン樹脂とは、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸や、エポキシ等で変性されて接着性の官能基を持つポリオレフィン樹脂をいう。特に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂は金属との接着性、シール性に優れているので好ましい。これらのポリオレフィン系樹脂は熱可塑性樹脂であり、ヒートシール時に加熱により溶融して封入容器の金属層とリード導体とを接着させる。
【0023】
本発明の絶縁樹脂層の材料として用いるエラストマーとしては、ポリブタジエン、EPDM、EPM、アクリルゴム、熱可塑性エラストマー等が例示され、水添スチレン・ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエン等が好ましく使用できる。エラストマーの種類を適宜選択することで絶縁樹脂層の弾性率をコントロールできる。
…
【0027】
次に本発明の電気部品の構造について図を用いて説明する。図1はリチウム電池などの非水電解質電池の一実施形態を模式的に表す正面図であり、図2は図1のA-A’部における部分断面図である。この非水電解質電池1は、略長方形の封入容器2と、封入容器2の内部から外部に延びるリード導体3を有している。
…
【0029】
封入容器2は、図2に示されるように、金属層5と、金属層5を被覆する樹脂層6,7とからなる3層のラミネートフィルム8からなる。…
【0030】
シール部9において、リード導体3は、絶縁樹脂層4を介して封入容器(ラミネートフィルム8)と接着(熱融着)される。樹脂層7として、ポリオレフィン系樹脂と、エラストマーと90:10~10:90の割合で含有する絶縁樹脂層を用いた場合には絶縁樹脂層4を省略しても良い。
【0031】
絶縁樹脂層4は、予めリード導体3のシール部に対応する部分を被覆するように設けても良い。このような構造のものをリード線と定義する。図3はリード線の概略断面図である。リード線には絶縁樹脂層4以外の熱可塑性樹脂層をさらに設けても良い。
…
【0034】
非水電解質電池の内部には、更に、リード導体の端部に接続された正極または負極集電体10、11、及び非水電解質(図示せず)、並びにセパレータ12、正極または負極活物質13、14が封入される。」
Y6エ 「【実施例】
【0038】
(実施例1~5、比較例1、2)
(絶縁樹脂層の弾性率評価)
表1に示す配合で変性ポリオレフィン樹脂とエラストマーとを混合し、厚さ100μmの絶縁樹脂層を作製した。得られた絶縁樹脂層から幅10mm、長さ200mmのサンプルを作製し、標線間距離100mm、引っ張り速度1mm/分で引張試験を行い、引張弾性率を測定した。なお試験温度は25℃である。結果を表1に示す。
…
【0041】
【表1】
[図:0001388348000013.jpg]
【0042】
(脚注)
(*1)無水マレイン酸変性ポリプロピレン(密度0.89g/cm3、MFR2.82g/10min、融点140℃)
(*2)シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、RB830)
(*3)水添スチレンブタジエンラバー(JSR(株)製、DYNARON(登録商標)1320P)
…
Y6オ 「【図1】
[図:0001388348000014.jpg]
【図2】
[図:0001388348000015.jpg]
(当審注:明細書中では、正極集電体10、正極活物質13、セパレータ12、負極活物質14、負極集電体11と記載されているので、図2における13と14はそれぞれ14と13の誤記と認められる。)
【図3】
[図:0001388348000016.jpg]
」
イ 上記アの記載によれば、非水電解質電池1は、封入容器2と、封入容器2の内部から外部に延びるリード導体3を有しており(【0027】、図1)、シール部9において、リード導体3は、絶縁樹脂層4を介して封入容器2(ラミネートフィルム8)と接着されており、リード導体の端部は正極または負極集電体10、11に接続されている。また、封入容器2内には、正極集電体10、負極集電体11、セパレータ12、正極活物質13、負極活物質14(以下、これらを「電池要素」という。)が封入されている(【0034】、図2)。
そして、絶縁樹脂層4として実施例1(【表1】、【0042】)に注目すると、甲Y6には次の絶縁樹脂層の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲Y6発明」という。)。
「正極集電体10、正極活物質13、セパレータ12、負極活物質14、負極集電体11からなる電池要素の正極集電体10または負極集電体11と接続されたリード導体3と、封入容器2とを接着させる絶縁樹脂層4であって、封入容器2は電池要素を封入し、絶縁樹脂層4は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(密度0.89g/cm3、MFR2.82g/10min、融点140℃)90%と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、RB830)10%を混合して作製され、厚さが100μmである、絶縁樹脂層4。」
(2)検討
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲Y6発明の対比
a 甲Y6発明の「正極集電体10、正極活物質13、セパレータ12、負極活物質14、負極集電体11からなる電池要素」、「正極集電体10または負極集電体11」、「リード導体3」は、それぞれ、本件発明1の「電池素子」、「電極」、「金属端子」に相当する。
b 上記aの検討を踏まえると、甲Y6発明の「電池要素」を封入する「封入容器2」は、本件発明1の「電池素子を封止する包装材料」に相当する。
c 甲Y6発明の「絶縁樹脂層4」は、「リード導体3と、封入容器2とを接着させる」ものであるから、図2を参照し、上記aとbの検討を踏まえると、本件発明1の「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルム」に相当する。
d 甲Y6発明の「絶縁樹脂層4」は、「無水マレイン酸変性ポリプロピレン(密度0.89g/cm3、MFR2.82g/10min、融点140℃)90%と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、RB830)10%を混合して作製され」た層であるから、本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に相当する。
e 甲Y6発明において、「絶縁樹脂層4」が「電池要素の正極集電体10または負極集電体11と接続されたリード導体3と、封入容器2とを接着させる」ことは、上記dの検討内容並びに酸変性ポリプロピレンがポリオレフィンであることが技術常識であることを踏まえると、本件発明1の「前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層」「を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されて」いることに相当する。
f 甲Y6発明において、「絶縁樹脂層4は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(…)90%と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(…)10%を混合して作製され、厚さが100μmである」ることは、上記c、dで検討したとおり、「絶縁樹脂層4」が本件発明1の「金属端子用接着性フィルム」及び「酸変性ポリプロピレン層」に相当することを踏まえると、本件発明1の「前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり」、「前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であ」ることに相当する。
g 甲Y6発明の「絶縁樹脂層4」が「融点140℃」の「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」を90%含むことは、「示差走査熱量計で測定した場合」に、「140℃」近傍において融解ピークが観察されるものであるといえるから、本件発明1の「示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」「金属端子用接着性フィルム」に相当する。
h 本件発明1の除く部分1において、「端子フィルム」は「第1の最外層」、「中間層」、「第2の最外層」が積層されているのに対して、甲Y6発明は「絶縁樹脂層」が1層あるのみであり、少なくともこの点で相違しているから、甲Y6発明は除く部分1によって除かれる範囲には含まれておらず、したがって、本件発明1が除く部分1を除かれていることは、甲Y6発明との相違点とはならない。
i.よって、本件発明1と甲Y6発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。」の点。
<相違点18>
「金属端子用接着性フィルム」について、本件発明1では、「酸変性ポリプロピレン層」以外に「ポリプロピレン層」を含み、その厚さが「15μm以上120μm以下」であることが特定されているのに対して、甲Y6発明では、「酸変性ポリプロピレン層」は含むが「ポリプロピレン層」を含むものではなく、その厚さも特定されていない点。
<相違点19>
「前記酸変性ポリプロピレン層」について、本件発明1では、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲Y6発明では、「絶縁樹脂層4」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点18について
a 甲Y6には、「絶縁樹脂層4は、予めリード導体3のシール部に対応する部分を被覆するように設けても良い。このような構造のものをリード線と定義する。図3はリード線の概略断面図である。リード線には絶縁樹脂層4以外の熱可塑性樹脂層をさらに設けても良い。」(【0031】)と記載されているから、リード導体3(リード線)には、絶縁樹脂層4以外に熱可塑性樹脂層を設けることが示唆されてはいるが、どのような大きさ・形状の熱可塑性樹脂を、リード導体3及び絶縁樹脂層4に対してどのような位置関係で、どのような材料を用いて設けるかという具体的な構成は記載されておらず不明である。
b 熱可塑性樹脂層の材料に関しては、甲Y6に、「本発明の絶縁樹脂層の材料として用いるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、変性ポリオレフィン等が例示され、金属との接着性の点から接着性ポリオレフィン樹脂が好ましく使用される。…これらのポリオレフィン系樹脂は熱可塑性樹脂であり、ヒートシール時に加熱により溶融して封入容器の金属層とリード導体とを接着させる。」(【0022】)と記載されているから、酸変性ポリオレフィンからなる絶縁樹脂層4以外の熱可塑性樹脂層として、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂のいずれかを採用し得るとはいえるものの、甲Y6の上記記載からは、それらのうちポリプロピレンの層を採用した上で、当該ポリプロピレンの層を絶縁樹脂層4に積層して形成することが容易になし得ることであるとまではいうことができない。
c また、甲Y3(甲A1と同じ文献)には、上記1(1)で甲A1の実施例5に基いて認定した甲A1発明が記載されており、甲A1発明は、酸変性ポリプロピレンからなる厚さ30μmの第1の最外層/ポリプロピレンからなる厚さ40μmの中間層/ポリプロピレンからなる厚さ30μmの第2の最外層からなる多層構造を備えた蓄電デバイス用端子フィルムであるところ、甲Y6発明において、甲A1発明の多層構造を参照することによって、第1の最外層に相当する「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」の層の上に、合計の厚さが70μmであるポリプロピレンからなる中間層及び第2の最外層を積層すること、すなわち、相違点18に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるといえるとしても、本件発明1は、本体部分1から甲A1の請求項1に係る発明を「除く部分1」として除外したものであり、当該「除く部分1」は、上記1(2)ア(ア)jで検討したように、甲A1発明の上位概念となっていて、甲A1発明よりも広い範囲を本体部分1から除去しているので、甲Y6発明と甲Y3(甲A1)の記載に基いて、「除く部分1」を除いた本件発明1とすることが容易になし得ることであるということはできない。
(ウ)相違点19について
a 甲Y7には、以下に摘記するように、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(JSR(株)から購入したRB830。150℃/2.16kgにおけるMFRが3.0g/10min。略称「s-1,2PB」)とポリプロピレン(ペトロチャイナ社謹呈のT30S。230℃/2.16kgにおけるMFRが2.8g/10min。略称「PP」)とをブレンドしたもののSEM画像が示されており、SEM像(図1(A))によれば、PPとs-1,2PBを質量比80/20でブレンドした場合には、PPマトリックス中にドメインサイズが約0.5μmのs-1,2PBが均一に分散していることを見て取ることができ、SEM像(図2(B))によれば、PPとs-1,2PBを質量比90/10でブレンドした場合には、PPマトリックス中にドメインサイズが0.1~0.5μmのs-1,2PBが分散していることを見て取ることができる。つまり、PPとs-1,2PBを質量比80/20~90/10でブレンドしたものは、電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察されることが理解される。
Y7ア 「
[図:0001388348000017.jpg]
[図:0001388348000018.jpg]
」
(640頁右欄下から4行~641頁左欄8行)
(当審訳:2.1 材料
ポリプロピレン粉末(PP)は、230℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が2.8g/10minであり、平均粒径が0.01~0.5mmであり、ペトロチャイナ社によって提供された「T30S」である。酸化防止剤である「1076」は市販製品を購入した。シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(s-1,2PB)は、150℃/2.16kgにおけるルトマスフローレイト(MFR)が3.0g/10minであり、日本のJSR(株)から購入した「RB830」である。…)
Y7イ 「
[図:0001388348000019.jpg]
」
(641頁右欄11~17行)
(当審訳:3.1 形態の観察
図1は、PPとs-1,2PBを質量比80/20でブレンドしたSEM像を、PPとEPRを質量比80/20でブレンドしたものと対比して示している。図1(A)には、s-1,2PBがドメインサイズが略0.5μmであり、PPマトリックス中に均一に分散した様子が明確に見て取れる。…)
Y7ウ 「
[図:0001388348000020.jpg]
」
(641頁中央)
(当審訳:図1 PPとs-1,2PBを質量比80/20でブレンドしたもの(A)と、PPとEPRを質量比80/20でブレンドしたもの(B)のSEM像)
Y7エ 「
[図:0001388348000021.jpg]
」
(641頁左欄下から14~11行)
(当審訳:図2は、s-1,2PBを種々の含有量とした、PPとs-1,2PBを質量比80/20でブレンドしたものの相構造を示す。s-1,2PBが5%から20%(質量割合)に増加するに従って、予測のとおり、ドメインサイズは0.1μmから0.5μmに徐々に増加した。…)
Y7オ 「
[図:0001388348000022.jpg]
」
(642頁上部)
(当審訳:図2 PPとs-1,2PBを質量比80/20でブレンドしたもののSEM像。PPの質量/s-1,2PBの質量:(A)95:5;(B)90:10;(C)80:20;(D)70:30;(E)60:40)
b そこで、甲Y6発明の絶縁樹脂層4が海島構造となっているかについて検討するに、甲Y6発明の「シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、RB830)」は甲Y7のs-1,2PBそのものであるが、甲Y6発明の「無水マレイン酸変性ポリプロピレン(密度0.89g/cm3、MFR2.82g/10min、融点140℃)」は、甲Y7のPPとは、無水マレイン酸で変性したものである点、MFRの数値はほぼ同一であるがその測定条件が同じであるか不明であるためMFRが同じであるとまではいうことができない点、融点の異同が不明な点で相違しているため、甲Y7を根拠として、直ちに、甲Y6発明の絶縁樹脂層4が海島構造であるということはできないから、相違点19は実質的な相違点である。
c そして、甲Y6と甲Y7には、甲Y6発明において、「無水マレイン酸変性ポリプロピレン(密度0.89g/cm3、MFR2.82g/10min、融点140℃)90%と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、RB830)10%を混合して作製され」た「絶縁樹脂層4」を海島構造とすることを動機付ける記載を見いだすことができない。
d 一方、本件発明1は、「酸変性ポリプロピレン層」を「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものとすることで、「電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高める」(【0057】参照)ことができるという優れた効果を奏するものである。
e したがって、甲Y6発明において、「絶縁樹脂層4」を海島構造とする動機付けが存在するとはいえないし、仮にそのような動機付けが存在するとしても、「絶縁樹脂層4」を海島構造とすることによって、電解液に接触した場合の金属端子との密着性を高めるという優れた効果を奏することについて予測可能であったということはできない。
(オ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲Y6発明の対比
本件発明2は、ポリプロピレン層を含まず、その厚さが特定されていない点以外は本件発明1と同じであるから、本件発明2と甲Y6発明を対比すると、上記ア(ア)と同様の検討により、上記相違点19で相違する。
そして、上記ア(ウ)で検討した理由と同様の理由により、甲Y6発明において、相違点19に係る本件発明2の特定事項とすることは、甲Y3、甲Y7の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
(イ)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲Y6に記載された発明ではないし、また、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲Y6発明との対比
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(イ)と同様に検討すると、本件発明3と甲Y2発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。」の点。
<相違点20>
「金属端子用接着性フィルム」について、本件発明3では、「酸変性ポリプロピレン層」以外に「ポリプロピレン層」を含み、その厚さが「15μm以上120μm以下」であることが特定されているのに対して、甲Y6発明では、「酸変性ポリプロピレン層」は含むが「ポリプロピレン層」を含むものではなく、その厚さの特定もされていないい点。
<相違点21>
「前記酸変性ポリプロピレン層」について、本件発明3では、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲Y6発明では、「絶縁樹脂層4」についてそのような特定がされていない点。
<相違点22>
本件発明3は、「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり」と特定されているのに対して、甲Y2発明は、「絶縁樹脂層4」についてそのような特定がされていない点。
(イ)相違点21について
相違点21は、相違点19と同じであるから、上記ア(ウ)と同様の理由によって、本件発明3と甲Y6発明との実質的な相違点であり、また、甲Y6と甲Y7の記載を参照しても、甲Y6発明において相違点21に係る本件発明3の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点20、22について検討するまでもなく、本件発明3は甲Y6に記載した発明でもなく、甲Y6に記載した発明と甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲Y6に記載された発明ではないし、また、甲Y6に記載された発明と甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明4について
本件訂正によって、請求項4は削除され、甲Y6に基づく新規性・進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
オ 本件発明5について
本件訂正によって、請求項5は削除され、甲Y6に基づく新規性・進歩性に係る申立理由の対象となる請求項は存在しないものとなったので、当該申立理由は解消した。
カ 本件発明6~10について
本件発明6~10は、本件発明1~3のいずれかにおいて、さらに「金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される」ことや「前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んで」いること等を特定するものであるが、上記ア~ウにおいて検討したように、本件発明1~3は、甲Y6に記載された発明ではないし、また、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明6~10も同様の理由によって、甲Y6に記載された発明ではないし、また、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
キ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲Y6発明との対比
本件発明11は、「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」との特定事項を備えている点と、除く部分1で除かれていない点以外は本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)と同様に検討すると、本件発明11と甲Y6発明とは次の点で一致し、また、相違する。
<一致点>
「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、10μm以上であり、前記ポリプロピレン層の厚さは、15μm以上120μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムの厚さは、40μm以上200μm以下であり、前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム」の点。
<相違点23>
「金属端子用接着性フィルム」について、本件発明11では、「酸変性ポリプロピレン層」以外に「ポリプロピレン層」を含み、その厚さが「15μm以上120μm以下」であることが特定されているのに対して、甲Y6発明では、「酸変性ポリプロピレン層」は含むが「ポリプロピレン層」を含むものではなく、その厚さの特定もされていない点。
<相違点24>
「前記酸変性ポリプロピレン層」について、本件発明11では、「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るものであることが特定されているのに対して、甲Y6発明では、「絶縁樹脂層4」についてそのような特定がされていない点。
<相違点25>
本件発明11は「ポリプロピレン層」が「ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有しており」と特定されているのに対して、甲Y6発明は「ポリプロピレン層」を含むものではなく、上記の特定がされていない点。
(イ)相違点24について
相違点24は、相違点19と同じであるから、上記ア(ウ)と同様の理由によって、本件発明11と甲Y6発明との実質的な相違点であり、また、甲Y6と甲Y7の記載を参照しても、甲Y6発明において相違点24に係る本件発明11の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点23、25について検討するまでもなく、本件発明11は甲Y6に記載した発明でもなく、甲Y6に記載した発明と甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明11は、甲Y6に記載された発明と甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ク 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明1~3、6~10のいずれかを引用してさらに追加の構成を特定するものであるが、上記ア~ウ、カにおいて検討したように、本件発明1~3、6~10は、甲Y6に記載された発明ではないし、また、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~3、6~10を引用することによってこれら発明の特定事項を有する本件発明12~16も同様の理由によって、甲Y6に記載された発明ではないし、また、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y6、甲Y7記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ケ 本件発明17について
本件発明17は、ポリプロピレン層を含まず当該ポリプロピレン層の厚さが特定されていない点以外は本件発明3と同じであるから、本件発明3についての上記ウと同様の検討により、本件発明17と甲Y6発明とは上記相違点21、22の点で相違しているが、甲Y6発明において、相違点21に係る本件発明17の特定事項とすることは、甲Y6、甲Y7の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点22について検討するまでもなく、本件発明17は甲Y6に記載した発明でもなく、甲Y6に記載した発明と甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)甲Y6に基づく新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明2、3、6、14~17は、甲Y6に記載された発明ではなく、また、本件発明1、2、3、6~17は、甲Y6に記載された発明と甲Y3、甲Y6、甲Y7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第7 まとめ
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由、申立人赤松、申立人土田及び申立人山川が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~3、6~17に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~3、6~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4~5に係る発明は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項4~5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-700289