特許異議申立
2022-700229
非水電解質二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池
- 審判番号
- 2022-700229
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-151340
- 登録番号
- 6936909
- 請求日
- 2022年03月18日
- 審決日
- 2022年12月15日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社
- 【権利者代理人】井関 勝守
- 【権利者代理人】金子 修平
- 【異議申立人】竹下 瑞恵
- 審判長/審判官
- 審判長 酒井 朋広
- 審判官 山本 章裕
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.832-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6936909号発明「非水電解質二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6936909号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6936909号の請求項1、2に係る特許を維持する。
特許第6936909号の請求項3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6936909号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和2年8月7日を出願日とする特願2020-135158号の一部を令和2年9月9日に新たに特許出願したものであって、令和3年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月22日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 3月18日 特許異議申立人 竹下瑞恵(以下、「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 4年 6月30日付け 取消理由通知
令和 4年 8月31日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 4年10月24日 特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和4年8月31日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の趣旨は、特許第6936909号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
(訂正事項1-1)
特許請求の範囲の請求項1に「リチウムとニッケルと任意にリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって」と記載されているものを、「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって」に訂正する。
(訂正事項1-2)
特許請求の範囲の請求項1に「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径であり、」との記載を追加する。
(訂正事項1-3)
特許請求の範囲の請求項1に「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)で表される組成を有する」と記載する。
(2)訂正事項2
(訂正事項2-1)
特許請求の範囲の請求項2に「リチウムとニッケルと任意にリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって」と記載されているものを、「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって」に訂正する。
(訂正事項2-2)
特許請求の範囲の請求項2に「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径であり、」との記載を追加する。
(訂正事項2-3)
特許請求の範囲の請求項2に「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)で表される組成を有する」と記載する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1
(訂正事項1-1)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正の目的について
本件訂正前の請求項1に係る発明では、正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物が「リチウム及びニッケル以外の他の元素を含有する」ことは任意の構成であった。これに対して、本件訂正後の請求項1に係る発明では、「任意に」を削除することで、当該リチウムニッケル複合酸化物が、リチウム及びニッケルと共に、リチウム及びニッケル以外の他の元素も必須の構成として含有することを限定するものである。
したがって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無について
段落【0057】には「正極活物質を構成する前記他の元素には、特に限定がないが、例えば、前記式(I)中の、Li、Ni、及びO以外の元素Mとして例示した、Co、Al、Mn、Ti、Mg、Zn、Nb、W、Mo、Sb、V、Cr、Ca、Fe、Ga、Sr、Y、Ru、In、Sn、Ta、Bi、Zr、B等が含まれる。」との記載があり、段落【0068】には「目的とする正極活物質が、例えば、下記式(I):
LiaNibM1-bO2(I)(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.2<b<1である)で表される組成を有する場合、Niの量と各種他の元素の量との割合、すなわち、前記式(I)中のbは、0.2<b<1、さらには0.3<b<1、またさらには0.4<b<1、よりさらには0.5<b<1、特には0.8<b<1であることが好ましい。」と記載されていることから、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記「(ア)訂正の目的について」から明らかなように、訂正事項1-1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
イ 独立特許要件について
訂正事項1-1は、上記「ア(ア)」で示したとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1、3、4に係る訂正事項1-1に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(訂正事項1-2)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子のサイズについて、単に「一次粒子サイズ」としており、どのような方法で求められたサイズであるかを明確にしておらず、当該一次粒子サイズはどのようなサイズを意味するのかが不明瞭であった。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径であり、」として、一次粒子が、どのような方法で求められたサイズを有するものであるかを明確にし、一次粒子サイズの意味を明瞭にするものである。
したがって、訂正事項1-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無について
段落【0037】には、「本明細書において、各粒子径は、走査型電子顕微鏡SEM-EDS[電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7100F:(株)日本電子製]を用い、加速電圧を10kVとし、一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の一次粒子又は二次粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)に基づいて得られた値である。この際、電子顕微鏡写真中に表示されたスケールを基準スケールとしている。なお、一次粒子を50個~200個程度観察できるように、二次粒子は10個以上を観察した。また、二次粒子のサイズは、レーザ回折式粒子径分布測定装置[マイクロトラックHRA:日機装(株)製]により得られた体積基準による粒度分布における頻度10%~頻度90%の粒子から選択した。」と記載されており、段落【0038】には「前記SEM写真について、画像解析ソフト(例えば、ImageJやその他プログラミング言語のソフト)を用いて、画像解析する粒子をマークし、それらの一次粒子を二値化することで、一次粒子の面積を計算した。前記面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれの直径を求めた。」との記載がなされている。
したがって、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記「(ア)訂正の目的について」から明らかなように、訂正事項1-2は、明瞭でない記載の不明瞭さを正すものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(訂正事項1-3)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正の目的について
訂正事項1-3は、リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質について、リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素が、「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)で表される組成を有する」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無について
段落【0042】に「本発明に係る正極活物質は、リチウムとニッケルと任意にリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなるものであればよく、その組成には特に限定がないが、例えば、下記式(I):
LiaNibM1-bO2(I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.2<b<1である)で表される組成を有することが好ましい。」との記載がなされており、さらに段落【0045】には、「前記式(I)で表される組成を有する正極活物質において、Niの量b、すなわち、Niの量とNi及び元素Mの合計量との割合(Ni/(Ni+M))は、0.2<b<1、さらには0.3<b<1、またさらには0.4<b<1、よりさらには0.5<b<1、特には0.8<b<1であることが好ましい。」(下線は当審で付した。)との記載がなされている。
したがって、訂正事項1-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記「(ア)訂正の目的について」から明らかなように、訂正事項1-3は、発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
イ 独立特許要件について
訂正事項1-3は、上記「ア(ア)」で示したとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1、3、4に係る訂正事項1-3に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2
(訂正事項2-1)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正の目的について
本件訂正前の請求項2に係る発明では、正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物が「リチウム及びニッケル以外の他の元素を含有する」ことは任意の構成であった。これに対して、本件訂正後の請求項2に係る発明では、「任意に」を削除することで、当該リチウムニッケル複合酸化物が、リチウム及びニッケルと共に、リチウム及びニッケル以外の他の元素も必須の構成として含有することを限定するものである。
したがって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無について
段落【0057】には「正極活物質を構成する前記他の元素には、特に限定がないが、例えば、前記式(I)中の、Li、Ni、及びO以外の元素Mとして例示した、Co、Al、Mn、Ti、Mg、Zn、Nb、W、Mo、Sb、V、Cr、Ca、Fe、Ga、Sr、Y、Ru、In、Sn、Ta、Bi、Zr、B等が含まれる。」との記載があり、段落【0068】には「目的とする正極活物質が、例えば、下記式(I):
LiaNibM1-bO2(I)(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.2<b<1である)で表される組成を有する場合、Niの量と各種他の元素の量との割合、すなわち、前記式(I)中のbは、0.2<b<1、さらには0.3<b<1、またさらには0.4<b<1、よりさらには0.5<b<1、特には0.8<b<1であることが好ましい。」と記載されていることから、訂正事項2-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記「(ア)訂正の目的について」から明らかなように、訂正事項2-1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
イ 独立特許要件について
訂正事項2-1は、上記「ア(ア)」で示したとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項2、3、4に係る訂正事項2-1に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(訂正事項2-2)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項2に係る発明では、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子のサイズについて、単に「一次粒子サイズ」としており、どのような方法で求められたサイズであるかを明確にしておらず、当該一次粒子サイズはどのようなサイズを意味するのかが不明瞭であった。
これに対して、訂正後の請求項2に係る発明では、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径であり、」として、一次粒子が、どのような方法で求められたサイズを有するものであるかを明確にし、一次粒子サイズの意味を明瞭にするものである。
したがって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無について
段落【0037】には、「本明細書において、各粒子径は、走査型電子顕微鏡SEM-EDS[電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7100F:(株)日本電子製]を用い、加速電圧を10kVとし、一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の一次粒子又は二次粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)に基づいて得られた値である。この際、電子顕微鏡写真中に表示されたスケールを基準スケールとしている。なお、一次粒子を50個~200個程度観察できるように、二次粒子は10個以上を観察した。また、二次粒子のサイズは、レーザ回折式粒子径分布測定装置[マイクロトラックHRA:日機装(株)製]により得られた体積基準による粒度分布における頻度10%~頻度90%の粒子から選択した。」と記載されており、段落【0038】には「前記SEM写真について、画像解析ソフト(例えば、ImageJやその他プログラミング言語のソフト)を用いて、画像解析する粒子をマークし、それらの一次粒子を二値化することで、一次粒子の面積を計算した。前記面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれの直径を求めた。」との記載がなされている。
したがって、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記「(ア)訂正の目的について」から明らかなように、訂正事項2-2は、明瞭でない記載の不明瞭さを正すものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(訂正事項2-3)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正の目的について
訂正事項2-3は、リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質について、リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素が、「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)で表される組成を有する」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項2-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無について
段落【0042】に「本発明に係る正極活物質は、リチウムとニッケルと任意にリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなるものであればよく、その組成には特に限定がないが、例えば、下記式(I):
LiaNibM1-bO2(I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.2<b<1である)で表される組成を有することが好ましい。」との記載がなされており、さらに段落【0045】には、「前記式(I)で表される組成を有する正極活物質において、Niの量b、すなわち、Niの量とNi及び元素Mの合計量との割合(Ni/(Ni+M))は、0.2<b<1、さらには0.3<b<1、またさらには0.4<b<1、よりさらには0.5<b<1、特には0.8<b<1であることが好ましい。」(下線は当審で付した。)との記載がなされている。
したがって、訂正事項2-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記「(ア)訂正の目的について」から明らかなように、訂正事項2-3は、発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
イ 独立特許要件について
訂正事項2-3は、上記「ア(ア)」で示したとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項2、3、4に係る訂正事項2-3に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1、3及び4について、請求項3及び4は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1、3及び4に対応する訂正後の請求項1、3及び4は、一群の請求項である。
また、訂正前の請求項2、3及び4について、請求項3及び4は、請求項2を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項2、3及び4に対応する訂正後の請求項2、3及び4は、一群の請求項である。
そして、請求項1、3及び4からなる一群の請求項と、請求項2、3及び4からなる一群の請求項とは、共通する請求項3及び4を有するので、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、本件訂正後の請求項1と2について「別の訂正単位とする求め」はなされていない。
よって、本件訂正は、訂正後の請求項1ないし4に係る一群の請求項が訂正単位である。
(6)訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。)
「【請求項1】
リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下であり、
前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径であり、
下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)
で表される組成を有することを特徴とする、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下であり、
前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径であり、
下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)
で表される組成を有することを特徴とする、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が令和4年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)(新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件特許の下記の請求項に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許の下記の請求項に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(3)(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1、3、4の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件特許の請求項1、3、4に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(4)(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許の請求項1ないし4に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
記
ア 甲第1号証を主引例とする取消理由
・請求項2ないし4について
・適用条文: 特許法第29条第1項第3号(新規性)、及び、同条第2項(進歩性)
・引用文献: 甲第1号証
イ 甲第3号証を主引例とする取消理由
・請求項1ないし3について
・適用条文: 特許法第29条第1項第3号(新規性)、及び、同条第2項(進歩性)
・引用文献: 甲第3号証
・請求項4について
・適用条文: 特許法第29条第2項(進歩性)
・引用文献: 甲第3号証、甲第5号証
ウ 甲第4号証を主引例とする取消理由
・請求項1ないし3について
・適用条文: 特許法第29条第1項第3号(新規性)、及び、同条第2項(進歩性)
・引用文献: 甲第4号証
・請求項4について
・適用条文: 特許法第29条第2項(進歩性)
・引用文献: 甲第4号証、甲第5号証
<<引用文献等一覧>>
甲第1号証 特許第5505565号公報
甲第3号証 特開2018-63853号公報
甲第4号証 国際公開第2013/073633号
甲第5号証 特開2020-009756号公報
甲第6号証 特開2017-157548号公報
2.甲各号証の記載事項、引用発明
(1)甲第1号証の記載事項、甲1発明
取消理由通知において引用した甲第1号証(特許第5505565号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
「【0102】
(組成)
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の組成は、一般式:Li1+uNi1-x-yCoxMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表されることが好ましい。
【0103】(略)
【0104】
(標準偏差)
前記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径の標準偏差は、好ましくは10%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは8.6%以下である。標準偏差をこのような範囲に制御することで、該二次粒子間でのリチウム挿入・脱離反応を均一化することができるため、クーロン効率を向上させることができる。
【0105】
ここで、前記一次粒子の平均粒径とは、ある特定の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径であり、該二次粒子に含まれる10個以上の一次粒子の粒径を測定し、この測定値を個数平均することによって求められる値である。なお、一次粒子の粒径は、二次粒子の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、一次粒子の最大径を計測することにより求めることができる。また、標準偏差とは、10個以上の二次粒子のそれぞれについて一次粒子の平均粒径を求め、それらの標準偏差を算出することによって得られる値である。」
甲第1号証の上記記載事項により、以下の事項がいえる。
・段落【0102】によれば、甲第1号証には「非水系電解質二次電池用正極活物質」について記載されており、その組成は「一般式:Li1+uNi1-x-yCoxMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)」で表される。
・段落【0104】によれば、二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径の標準偏差は、好ましくは10%以下である。
・段落【0105】によれば、一次粒子の粒径は、二次粒子の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、一次粒子の最大径を計測することにより求める。
よって、甲第1号証には「非水系電解質二次電池用正極活物質」に関して、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
当該正極活物質の組成は、一般式:Li1+uNi1-x-yCoxMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表され、
二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径の標準偏差は10%以下であり、
前記一次粒子の平均粒径とは、ある特定の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径であり、該二次粒子に含まれる10個以上の一次粒子の粒径を測定し、この測定値を個数平均することによって求められる値であり、
一次粒子の粒径は、二次粒子の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、一次粒子の最大径を計測することにより求める、
非水系電解質二次電池用正極活物質。」
(2)甲第3号証の記載事項、甲3発明
甲第3号証には、実施例4に関連して以下の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
「【実施例】
【0081】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
本実施例においては焼成原料及びリチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)の評価を次のようにして行った。
・・・・・・
【0085】
(実施例1)
[混合工程]
炭酸リチウム(Li2CO3)とニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH)2)とを、Li:Ni:Co:Mnのモル比が1.05:0.55:0.21:0.24となるよう秤量し、これらを乾式混合して混合物を得た。尚、該混合物中に含まれる炭酸リチウム含有量は混合比から29.7質量%である。
・・・・・・
【0088】
(実施例4)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を60体積%含むガスを炉内容積1m3あたり107.2Nm3/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。」
・段落【0081】によれば、実施例4はリチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)に関するものである。
・段落【0088】によれば、実施例4の混合工程は実施例1と同様であるから、段落【0085】をみると、[混合工程]では炭酸リチウム(Li2CO3)とニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH)2)を、Li:Ni:Co:Mnのモル比が1.05:0.55:0.21:0.24となるよう秤量し、乾式混合して混合物を得ている。
したがって、甲第3号証には「リチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)」に関して、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「 以下の製造工程によって製造されるリチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)。
[混合工程]
炭酸リチウム(Li2CO3)とニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH)2)を、Li:Ni:Co:Mnのモル比が1.05:0.55:0.21:0.24となるように秤量し、乾式混合して混合物を得た。
[予備焼成工程]
前記混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を60体積%含むガスを炉内容積1m3あたり107.2Nm3/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム含有複合金属酸化物を得た。」
(3)甲第4号証の記載事項、甲4発明
甲第4号証には以下の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
「[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池正極材料用のリチウム含有複合酸化物の製造方法に関する。
・・・・・・
[0014] 本発明においては、リチウム化合物と遷移金属化合物とを含む原料混合物の粉末を、外部から加熱された回転する筒状金属容器内で転動させながら焼成する第一焼成工程と、得られた焼成物を第一焼成工程より高い温度で焼成する第二焼成工程を経て、リチウム含有複合酸化物を製造する。
・・・・・・
[0019] 原料混合物は、外部から加熱された回転する筒状金属容器内で焼成されるが、その具体的な量産装置としては、本発明で規定する材質の筒状金属容器を備えた連続式またはバッチ式のロータリーキルンが好ましく、なかでも量産性の観点から連続式のロータリーキルンがより好ましい。
[0020] 第一焼成工程では、原料混合物の粉末を焼成することによって、二酸化炭素および水蒸気などのガス発生を伴う合成反応をできるだけ完結させて、リチウム化合物と遷移金属化合物ができる限り残存しない焼成物を得ることが好ましい。したがって、この合成反応を十分に進行させるため、少なくとも450℃程度の温度で焼成する必要がある。しかし、650℃以上で焼成すると、短時間で合成反応を進行させられるが、強度を維持できず、筒状金属容器の形状が変形するおそれがあるため、630℃以下で焼成することが必要である。かくして、第一焼成工程の焼成温度は450~630℃であり、なかでも450~600℃が好ましく、500~600℃がより好ましく、合成反応の促進という観点から530~580℃が特に好ましい。
第一焼成工程の焼成雰囲気としては、特に限定されないが、酸素濃度としては10~60体積%が好ましく、15~40体積%がより好ましい。焼成時間は特に限定されないが、1~36時間が好ましく、1~18時間がより好ましい。
・・・・・・
[0023] 第一焼成工程で得られた焼成物は、さらに第一焼成工程の焼成温度より高い温度にて、再び焼成される第二焼成工程を経て、本発明のリチウム含有複合酸化物を製造することができる。第二焼成工程を経ることによって、結晶成長と電池性能の発現に必要な結晶構造の形成が図られる。そのため、第二焼成工程での焼成温度の範囲は700~1100℃であり、なかでも800~1100℃が好ましく、焼成時間の短縮と炉材の耐久性の点においては850~1050℃の範囲がより好ましい。通常、第二焼成工程では大気雰囲気の酸素濃度にて焼成されるが、遷移金属の種類によっては、酸素ガスを焼成工程雰囲気中に導入し、酸素濃度を高めることで、より好ましい物性の結晶を形成させて、より優れた電池性能を発現させることもできる。焼成雰囲気としては、特に限定されないが、酸素濃度としては、10~60体積%が好ましく、15~40体積%がより好ましい。焼成時間は特に限定されないが、1~48時間が好ましく、3~36時間がより好ましい。
[0024] 第二焼成工程においては、焼成温度以外は特に限定されないが、第一焼成工程で得られる焼成物を焼成容器に充填し、静置状態で焼成するのが好ましい。静置状態の焼成としては、シャトルキルン、ローラーハースキルン、プッシャーキルンまたは電気炉を用いた焼成などが例示される。量産用としては、なかでも、シャトルキルン、ローラーハースキルン、またはプッシャーキルンが好ましい。」
「[0031] 本発明によって製造されるリチウム含有複合酸化物としては、リチウムイオンの吸蔵放出を伴う可逆的な電気化学的酸化還元反応によって二次電池用の正極として機能し得るリチウム含有複合酸化物であれば、組成は特に限定されない。なかでも実用性の観点から、具体的には、一般式LipNxMyOzFa(但し、Nは、Co、MnおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Co、MnおよびNi以外の遷移金属元素、Al、Snならびに第2族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.9≦p≦2.0、0.9≦x≦2.0、0≦y≦0.1、1.9≦z≦4.2、0≦a≦0.05)で表されるリチウム含有複合酸化物が好ましい。具体的な組成としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiNi0.8Co0.2O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.12Ni0.145Co0.1Mn0.55O2、Li1.1(Ni0.15Co0.1Mn0.55)O1.95、Li(Li1/5Ni1/5Mn3/5)O2などが例示される。」
上記記載によれば、甲第4号証には「リチウムイオン二次電池正極材料用のリチウム含有複合酸化物」に関して、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下の製造工程によって製造される、組成がLiNi0.8Co0.2O2であるリチウムイオン二次電池正極材料用のリチウム含有複合酸化物。
リチウム化合物と遷移金属化合物とを含む原料混合物の粉末を焼成する第一焼成工程と、得られた焼成物を第一焼成工程より高い温度で焼成する第二焼成工程を有する、
前記第一焼成工程はロータリーキルンにより焼成温度は450~630℃、焼成時間は1~36時間で行う、
前記第二焼成工程はローラーハースキルンにより焼成温度の範囲は700~1100℃、焼成時間は1~48時間で行う。」
(4)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、リチウムイオン二次電池用正極活物質に関して以下の記載がある。
「【0025】
(1)正極活物質(全体)の組成
正極活物質100は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mを含み、これらの元素の物質量(モル)比が、Li:Ni:Co:M=d1:(1-a-b):a:b:c(ただし、0≦a<0.40、0≦b<0.35、a+b<0.40、0.95≦d1≦1.5、Mは、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr、La、及び、Taから選択される少なくとも1種の元素)で表される。なお、後述するように、正極活物質100は、第1の粒子20に由来するニオブも含む。
【0026】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。上記モル比において、Niの含有量を示す(1-a-b)の値は、好ましくは0.6を超え、より好ましくは0.65以上0.99以下、さらに好ましくは0.8以上0.95以下である。(1-a-b)の値が0.6を超える場合、高い電池容量を有することができる。」
上記記載より、甲第5号証には以下の技術事項(以下、「甲5の技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池用正極活物質について、遷移金属元素中のNiの含有量を、モル比において0.8以上0.95以下とすることで、高い電池容量を得られること。」
3.取消理由についての当審の判断
(1)甲第1号証を主引例とする取消理由について
ア 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
a.甲1発明と本件発明2とは「非水系電解質二次電池用正極活物質」である点で一致する。
b.甲1発明では、正極活物質の組成は、「一般式:Li1+uNi1-x-yCoxMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)」で表される。したがって、甲1発明の「Co」と「Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素」が、本件発明2の「リチウム及びニッケル以外の他の元素」に相当し、本件発明2と甲1発明とは「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」である点で一致する。
c.甲1発明と本件発明2とはリチウムニッケル複合酸化物の「二次粒子」が「一次粒子」で構成されている点で一致する。しかしながら、甲1発明では「一次粒子の平均粒径の標準偏差は10%以下」「ここで、前記一次粒子の平均粒径とは、ある特定の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径であり、該二次粒子に含まれる10個以上の一次粒子の粒径を測定し、この測定値を個数平均することによって求められる値」であるのに対して、本件発明2では「一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」である点で両者は相違している。
d.甲1発明では、「一次粒子の粒径は、二次粒子の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、一次粒子の最大径を計測することにより求める」のに対して、本件発明2では「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」である。そうしてみると、甲1発明と本件発明2とは一次粒子の粒径を求める上で走査型電子顕微鏡を用いる点では共通しているものの、甲1発明は「前記一次粒子サイズ」が「加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるか明らかでない点で相違する。
e.甲1発明では、正極活物質の組成が「一般式:Li1+uNi1-x-yCoxMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)」
で表されるのに対して、本件発明2では「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)」で表される点で相違する。
したがって、上記a.ないしe.によれば、本件発明2と甲1発明とは次の一致点ないし相違点を有する。
(一致点)
「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子は一次粒子により構成され、
前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用いて求められる、
非水電解質二次電池用正極活物質。」
(相違点1)本件発明2では「一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲1発明では「一次粒子の平均粒径の標準偏差は10%以下であり、前記一次粒子の平均粒径とは、ある特定の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径であり、該二次粒子に含まれる10個以上の一次粒子の粒径を測定し、この測定値を個数平均することによって求められる値」である点。
(相違点2)本件発明2では「前記一次粒子サイズは」「加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるのに対して、甲1発明では当該事項が明らかでない点。
(相違点3)本件発明2では、正極活物質の組成が「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)」で表されるのに対して、
甲1発明では、「一般式:Li1+uNi1-x-yCoxMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)」で表される点。
(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明の「一次粒子の平均粒径」は、「ある特定の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径であり、該二次粒子に含まれる10個以上の一次粒子の粒径を測定し、この測定値を個数平均することによって求め」られるから、単なる個数平均(算術平均)によって求められる平均粒子径である。したがって、甲1発明は二次粒子を構成する一次粒子の個数平均(算術平均)によって求められる平均粒径の標準偏差が、10%以下であることを規定している。
これに対して、本件発明2の正極活物質において、二次粒子を構成する一次粒子のD50は、個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)であって、甲1発明の「個数平均(算術平均)によって求められる粒子径」とは異なる。そしてD50と個数平均(算術平均)によって求められる粒子径は必ずしも同一にならないことは技術常識といえ、これらの分布を表す標準偏差や変動係数についても、一致するものではないと理解される。
そうしてみると、甲1発明のように「一次粒子の平均粒径の標準偏差が10%以下」であるからといって、本件発明2のようにD50(平均粒子径)の変動係数が19%以下となる蓋然性は必ずしも高いと言うことはできない。また「一次粒子の平均粒径の標準偏差」により「10%以下」と規定していたものをD50(平均粒子径)を用いてスパンの変動係数により規定するように変更することについても動機付けがなく、当業者であっても容易に想到できる事項とはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明と同一ではなく、また甲1発明から当業者が容易に想到できたものではない。
(ウ)特許異議申立人の主張について
令和4年10月24日に提出された意見書において、特許異議申立人は以下のように述べている。
「ここで、個数平均粒子径では、粒度分布の中心からの差が大きい一次粒子、すなわち微細な一次粒子や粗大な一次粒子が存在すると、その粒子径が平均粒子径の算出に含まれるため、二次粒子間で平均粒子径の変動が大きくなり、標準偏差も大きくなる。
一方、D50では、積算値が50%に相当する粒子径を平均粒子径とするだけのため、粒度分布の中心から離れた微細な一次粒子や粗大な一次粒子は、個数としてカウントされるのみである。すなわち、積算値が50%に相当する粒子径が同じであれば、微細な一次粒子や粗大な一次粒子の影響を受けず、平均粒子径も同じとなる。
よって、D50と個数平均粒子径とを比較すると、個数平均粒子径の標準偏差の方が大きくなり、その変動係数も大きくなると考えられる(D50の標準偏差<個数平均粒子径の標準偏差、D50の変動係数<個数平均粒子径の変動係数)。したがって、甲第1号証における個数平均粒子径の標準偏差により特定された一次粒子は、D50において同等以下の変動係数の範囲に含まれる可能性がきわめて高いと考える方が論理的である。したがって、甲第1号証に係る正極活物質において変動係数が19%以下である蓋然性は高いということができる。」(2ページ12ないし28行)
しかしながら、個々の粒度分布がどのような分布となるか特定されていない場合においては、D50の変動係数と個数平均粒子径の変動係数との間の明確な相関関係は特定できないから、甲第1号証に係る正極活物質において変動係数が19%以下であるということもできない。したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(2)甲第3号証を主引例とする取消理由について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
・甲3発明の「リチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)」は、「Li:Ni:Co:Mnのモル比が1.05:0.55:0.21:0.24となるように原料を秤量し」て生成しているから、Li1.05Ni0.55Co0.21Mn0.24を成分として含むリチウム含有複合金属酸化物である。よって、本件発明1の「リチウム及びニッケル以外の他の元素」は甲3発明の「Co」「Mn」に相当し、本件発明1とは「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」である点で一致する。
また、本件発明1はLiaNibM1-bO2(Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1)で表される組成を有するが、甲3発明はニッケルの組成比が0.55であり、本件発明1の0.8より大きく1より小さいという範囲に含まれず、また甲3発明の「Co」と「Mn」を合わせた組成比が0.45であるのに対して、これに対応する本件発明1の「M」の組成比である0よりも大きく0.2よりも小さいという範囲に含まれないから、上記本件発明1の組成を甲3発明は有していない点で相違する。
・本件発明1では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して、甲3発明ではスパンの変動係数が明らかではない点で相違する。また、本件発明1では「一次粒子」について、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると特定されているのに対して、甲3発明は該当する構成を有しているか明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」
(相違点1)
本件発明1では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して、甲3発明ではスパンの変動係数が明らかではない点。
(相違点2)
本件発明1では「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると特定されているのに対して、甲3発明には一次粒子サイズがどのように求められるサイズなのかが明らかではない点。
(相違点3)
本件発明1は、LiaNibM1-bO2(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1)で表される組成を有するが、甲3発明は上記の本件発明1の組成を有していない点。
(イ)判断
相違点1について検討する。
甲3発明には相違点1に係る構成を有することは明示されていない、しかしながら、甲3発明を製造する工程と、本件発明1の製造工程が同じであれば、生成される正極活物質も同一となる蓋然性が高いことから、両者の製造工程について検討する。
本件特許明細書の段落【0053】ないし【0100】に、工程(1)ないし工程(3)からなる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。工程(1)として前駆体複合化合物とリチウム化合物を混合して混合物を調整する工程を有し、段落【0080】では「前記バラツキA及び前記バラツキB双方が充分に抑制され得るように、・・・まず本工程(2)において以下の所定の条件にて予備焼成した後、さらに後述する工程(3)において所定の条件にて本焼成する方法を採用すること」が記載されている。工程(2)の予備焼成では静置炉やローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルンを用いることができ(段落【0082】)、予備焼成される混合物の最高温度は、500℃~650℃、そのためロータリーキルンのレトルト表面温度を、例えば、530℃~800℃に設定し(段落【0088】)、予備焼成の時間は、例えば1時間~10時間(段落【0093】)であることが記載されている。
さらに、工程(3)の本焼成では、静置炉、ローラーハースキルン、及びロータリーキルンを用いることができ(段落【0094】)、混合物の最高温度は700℃~880℃(段落【0096】)、焼成時間は例えば、1時間~15時間であること(段落【0097】)が記載されている。
これらの予備焼成及び本焼成における温度条件と焼成時間については、甲3発明の温度と焼成時間がほぼ含まれるものである。しかしながら、本件特許明細書によれば、例えば予備焼成についてみても、上記の条件以外にも混合物の充填率(段落【0084】)、レトルト周速度(段落【0085】)、炉内風速及び露点(段落【0086】)、昇温速度(段落【0087】)、リチウム化合物の粒度(段落【0091】)などの条件を調整して正極活物質を製造しており、これらの条件について本件特許明細書と同様の条件を設定する特定がない甲3発明の製造方法によって本件発明1の非水電解質二次電池用正極活物質が生成される蓋然性は高いとはいえない。
そうしてみると、相違点1に関して本件発明1と甲3発明とは実質的に同一であるというということはできない。また、甲3発明を本件発明1のように構成を変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明と同一ではなく、また甲3発明から当業者が容易に想到できたものとはいえない。
イ.本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲3発明とを対比する。
・甲3発明のリチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)は、Li:Ni:Co:Mnのモル比が1.05:0.55:0.21:0.24となるように原材料を秤量して生成しているから、Li1.05Ni0.55Co0.21Mn0.24を成分として含むリチウム含有複合金属酸化物である。よって、本件発明2の「リチウム及びニッケル以外の他の元素」は甲3発明の「Co」「Mn」に相当し、本件発明2とは「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」である点で一致する。
また、本件発明2はLiaNibM1-bO2(Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1)で表される組成を有するが、甲3発明はニッケルの組成比が0.55であり、本件発明2の0.8より大きく1より小さいという範囲に含まれず、また甲3発明の「Co」と「Mn」を合わせた組成比が0.45であるのに対して、これに対応する本件発明2の「M」の組成比である0よりも大きく0.2よりも小さいという範囲に含まれないから、上記本件発明2の組成を甲3発明は有していない点で相違する。
・本件発明2では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲3発明ではD50の変動係数が明らかではない点で相違する。
・本件発明2では「一次粒子サイズ」について、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると特定されているのに対して、甲3発明には当該事項について明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明2と甲3発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」
(相違点1)
本件発明2では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲3発明には当該事項について明らかではない点。
(相違点2)
本件発明2では「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると特定されているのに対して、甲3発明には当該事項について明らかではない点。
(相違点3)
本件発明2は、LiaNibM1-bO2(Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1)で表される組成を有するが、甲3発明は上記の本件発明2の組成を有していない点。
(イ)判断
相違点1について検討する。
甲3発明には相違点1に係る構成を有することは明示されていない。しかしながら、甲3発明を製造する工程と、本件発明2の製造工程が同じであれば、生成される正極活物質も同一となる蓋然性が高いことから、両者の製造工程について検討する。
本件特許明細書の段落【0053】ないし【0100】に、工程(1)ないし工程(3)からなる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。工程(1)として前駆体複合化合物とリチウム化合物を混合して混合物を調整する工程を有し、段落【0080】では「前記バラツキA及び前記バラツキB双方が充分に抑制され得るように、・・・まず本工程(2)において以下の所定の条件にて予備焼成した後、さらに後述する工程(3)において所定の条件にて本焼成する方法を採用すること」が記載されている。工程(2)の予備焼成では静置炉やローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルンを用いることができ(段落【0082】)、予備焼成される混合物の最高温度は、500℃~650℃、そのためロータリーキルンのレトルト表面温度を、例えば、530℃~800℃に設定し(段落【0088】)、予備焼成の時間は、例えば1時間~10時間(段落【0093】)であることが記載されている。
さらに、工程(3)の本焼成では、静置炉、ローラーハースキルン、及びロータリーキルンを用いることができ(段落【0094】)、混合物の最高温度は700℃~880℃(段落【0096】)、焼成時間は例えば、1時間~15時間であること(段落【0097】)が記載されている。
これらの予備焼成及び本焼成における温度条件と焼成時間については、甲3発明の温度と焼成時間がほぼ含まれるものである。しかしながら、本件特許明細書によれば、例えば予備焼成についてみても、混合物の充填率(段落【0084】)、レトルト周速度(段落【0085】)、炉内風速及び露点(段落【0086】)、昇温速度(段落【0087】)、リチウム化合物の粒度(段落【0091】)などの条件を調整して正極活物質を製造しており、これらの条件について本件発明2の製法と同様の製造条件を設定する特定がない甲3発明の製造方法によって、本件発明2の非水電解質二次電池用正極活物質が形成される蓋然性は高いとはいえない。
そうしてみると、相違点1が実質的な相違点ではないということはできない。また甲3発明を本件発明2のように構成を変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明と同一ではなく、また甲3発明から当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(3)甲第4号証を主引例とする取消理由について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
・甲4発明のリチウムイオン二次電池正極材料用のリチウム含有複合酸化物の組成はLiNi0.8Co0.2O2であり、本件発明1の「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」に相当する。
・甲4発明のリチウム含有複合酸化物はLiNi0.8Co0.2O2の組成を有しているところ、本件発明1のリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質の組成は「LiaNibM1-bO2(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1)」であるから、甲4発明の「Co」が本件発明1の「M」に対応する。ただし、本件発明1では「0.8<b<1」であるからMの組成比(1-b)は0.2を含まず、甲4発明のCoの構成比0.2と相違する。また、Niの構成比も本件発明1では0.8を含まないから、甲4発明のNiの構成比0.8と相違する。したがって、甲4発明と本件発明1の正極活物質は組成が相違する。
・本件発明1では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して甲4発明ではスパンの変動係数が明らかではない点で相違する。また、本件発明1では「一次粒子」について、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると規定されているのに対して、甲4発明では当該事項について明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」
(相違点1)
本件発明1では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して、甲4発明ではスパンの変動係数について明らかではない点。
(相違点2)
本件発明1では「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると規定されているのに対して、甲4発明では当該事項について明らかではない点。
(相違点3)
本件発明1では正極活物質は「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)で表される組成を有する」のに対して、甲4発明の組成比は異なる点。
(イ)判断
相違点1について検討する。
甲4発明には相違点1に係る構成を有していない。しかしながら、甲4発明を製造する工程と、本件発明1の製造工程が同じであれば、生成される物質も同一となる蓋然性が高いことから、両者の製造工程について検討する。
本件特許明細書の段落【0053】ないし【0100】に、工程(1)ないし工程(3)からなる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。工程(1)として前駆体複合化合物とリチウム化合物を混合して混合物を調整する工程を有し、段落【0080】では「前記バラツキA及び前記バラツキB双方が充分に抑制され得るように、・・・まず本工程(2)において以下の所定の条件にて予備焼成した後、さらに後述する工程(3)において所定の条件にて本焼成する方法を採用すること」が記載されている。工程(2)の予備焼成では静置炉やローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルンを用いることができ(段落【0082】)、予備焼成される混合物の最高温度は、500℃~650℃、そのためロータリーキルンのレトルト表面温度を、例えば、530℃~800℃に設定し(段落【0088】)、予備焼成の時間は、例えば1時間~10時間(段落【0093】)であることが記載されている。
さらに、工程(3)の本焼成では、静置炉、ローラーハースキルン、及びロータリーキルンを用いることができ(段落【0094】)、混合物の最高温度は700℃~880℃(段落【0096】)、焼成時間は例えば、1時間~15時間であること(段落【0097】)が記載されている。
これらの予備焼成の時間や温度、及び本焼成での温度、焼成時間については甲4発明の条件と重なりを有する。しかしながら、本件特許明細書によれば、例えば予備焼成についてみても、上記の条件以外にも、混合物の充填率(段落【0084】)、レトルト周速度(段落【0085】)、炉内風速及び露点(段落【0086】)、昇温速度(段落【0087】)、リチウム化合物の粒度(段落【0091】)などの条件を調整して正極活物質を製造しており、これらの条件の全てについて本件特許明細書と同様の製造条件を設定する特定がない甲4発明の製造方法によって本件発明1の非水電解質二次電池用正極活物質が形成される蓋然性は高いとはいえない。
そうしてみると、本件発明1は甲4発明と同一であるということはできない。また、甲4発明を本件発明1のように構成を変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明と同一ではなく、また甲4発明から当業者が容易に想到できたものとはいえない。
イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲4発明とを対比する。
・甲4発明のリチウムイオン二次電池正極材料用のリチウム含有複合酸化物の組成はLiNi0.8Co0.2O2であり、本件発明1の「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」に相当する。
・甲4発明のリチウム含有複合酸化物はLiNi0.8Co0.2O2の組成を有しているところ、本件発明1のリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質の組成は「LiaNibM1-bO2(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1)」であるから、甲4発明の「Co」が本件発明1の「M」に対応する。ただし、本件発明2では「0.8<b<1」であるからMの組成比(1-b)は0.2を含まず、甲4発明のCoの構成比0.2と相違する。また、Niの構成比も本件発明2では0.8を含まないから、甲4発明のNiの構成比0.8と相違する。したがって、甲4発明と本件発明1の正極活物質とは組成が相違する。
・本件発明2では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲4発明ではD50(個数基準)の変動係数が明らかではない点で相違する。
また、本件発明2では「一次粒子」について、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると規定されているのに対して、甲4発明では当該事項について明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明2と甲4発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」
(相違点1)
本件発明2では「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲4発明ではD50(個数基準)の変動係数について明らかではない点。
(相違点2)
本件発明2では「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であると規定されているのに対して、甲4発明では当該事項について明らかではない点。
(相違点3)
本件発明2では正極活物質は「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)で表される組成を有する」のに対して、甲4発明の組成比は異なる点。
(イ)判断
相違点1について検討する。
甲4発明には相違点1に係る構成を有していない。しかしながら、甲4発明を製造する工程と、本件発明2の製造工程が同じであれば、生成される物質も同一となる蓋然性が高いことから、両者の製造工程について検討する。
本件特許明細書の段落【0053】ないし【0100】に、工程(1)ないし工程(3)からなる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。工程(1)として前駆体複合化合物とリチウム化合物を混合して混合物を調整する工程を有し、段落【0080】では「前記バラツキA及び前記バラツキB双方が充分に抑制され得るように、・・・まず本工程(2)において以下の所定の条件にて予備焼成した後、さらに後述する工程(3)において所定の条件にて本焼成する方法を採用すること」が記載されている。工程(2)の予備焼成では静置炉やローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルンを用いることができ(段落【0082】)、予備焼成される混合物の最高温度は、500℃~650℃、そのためロータリーキルンのレトルト表面温度を、例えば、530℃~800℃に設定し(段落【0088】)、予備焼成の時間は、例えば1時間~10時間(段落【0093】)であることが記載されている。
さらに、工程(3)の本焼成では、静置炉、ローラーハースキルン、及びロータリーキルンを用いることができ(段落【0094】)、混合物の最高温度は700℃~880℃(段落【0096】)、焼成時間は例えば、1時間~15時間であること(段落【0097】)が記載されている。
これらの予備焼成の時間や温度、及び本焼成での温度、焼成時間については甲4発明の条件と重なりを有する。しかしながら、本件特許明細書によれば、例えば予備焼成についてみても上記の条件以外にも、混合物の充填率(段落【0084】)、レトルト周速度(段落【0085】)、炉内風速及び露点(段落【0086】)、昇温速度(段落【0087】)、リチウム化合物の粒度(段落【0091】)などの条件を調整して正極活物質を製造しており、これらの条件の全てについて本件特許明細書に開示された製法と同様の製造条件を設定する特定がない甲4発明の製造方法によって本件発明2の非水電解質二次電池用正極活物質が形成される蓋然性は高いとはいえない。
そうしてみると、本件発明2は甲4発明と同一であるということはできない。また、甲4発明を本件発明2のように構成を変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲4発明と同一ではなく、また甲4発明から当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は令和4年10月24日付け意見書において、甲3発明および甲4発明に基づく新規性・進歩性について、略以下のような主張をしているので、これについて検討する。
本明細書の段落0084~0090に記載されたロータリーキルン条件として具体的な数値が記載されているものは、充填率、レトルト周速度、最高温度のみであり、レトルト周速度に関しては甲第2号証では2.3m/min程度であるから、本明細書の段落0087に記載の「1m/min~6m/min」は、通常に実施される範囲であり、本明細書に開示されている予備焼成の各条件は、甲第3号証や甲第4号証に開示されている程度である。よって本件特許発明1、2は甲第3号証や甲第4号証のリチウム複合金属酸化物と同一である蓋然性が高く、容易に発明できるものであると主張をしている(3~4ページ)。
しかしながら、レトルト周速度をみても甲3号証や甲4号証がどのような値をとるのか明確ではなく、また、その他の詳細なパラメータも全てが本件と同一であるともいえないことから本件発明1,2の製法と、甲3発明や甲4発明の製法が同一であると言うことはできない。したがって特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(5)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る取消理由について
ア 取消理由について
取消理由通知により通知した取消理由は、次のとおりである。
『明細書の記載によれば、本件発明は「長期の充放電サイクルに供した際にも、その二次粒子内の(一次粒子表層部である)粒界部からの割れが発生せず、優れたサイクル特性を付与する」(段落【0018】)という効果を奏するものであるところ、当該効果を奏するため、段落【0024】によれば、各二次粒子中に存在する一次粒子サイズの分布をシャープにし(すなわちスパンを小さくし)、各二次粒子を構成する一次粒子の粒子成長や結晶成長のバラツキ(バラツキA)を抑制し、粒界部からの割れの開始点を極めて少なくすることが必要とされている。
これに対して、本件請求項1では2次粒子を構成する1次粒子の「スパン」そのものを小さくすることを規定したものではなく、スパンの変動係数を17%以下に限定したものであるから、「スパン」そのものが大きいものも含まれ、上述した効果を奏するものとはいえない。
そうしてみると、請求項1は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる。したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
請求項1を引用する請求項3、4に係る発明についても同様である。』
イ 当審の判断
本件特許明細書には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「【0027】
本発明に係る正極活物質Aでは、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、前記スパンの変動係数を規定している。該スパンの変動係数の大小は、個々の二次粒子におけるリチウム化反応及び結晶成長が同等に進行したか否かを示す尺度になる。N個の二次粒子における各スパンが同等であれば、個々の二次粒子で同等のリチウム化反応及び結晶成長が行われたと解釈することができ、スパンの変動係数は0%に漸近する。
【0028】
すなわち、該スパンの変動係数は、小さいほど好ましく、大き過ぎる場合は、不均一なリチウム化や異常粒子成長、結晶成長等における焼成ムラが発生したことを示しており、N個の二次粒子において、一次粒子径のバラツキは抑制されていない。なお、前記N個は、例えば後述する10個以上である。
【0029】
該スパンの変動係数を、17%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下とすると、N個の二次粒子において、一次粒子サイズ分布のバラツキが抑制されており、このような二次粒子を含むリチウムニッケル複合酸化物からなる本発明の正極活物質は、長期の充放電サイクルに供した際にも、その二次粒子内の粒界部から割れが発生せず、非水電解質二次電池に優れたサイクル特性を付与することができる。」
上記記載によれば、スパンの変動係数の大小は、個々の二次粒子におけるリチウム化反応及び結晶成長が同等に進行したか否かを示す尺度になり、二次粒子における各スパンが同等であれば、個々の二次粒子で同等のリチウム化反応及び結晶成長が行われたと解釈でき、スパンの変動係数は0%に漸近する。すなわち、該スパンの変動係数は、小さいほど好ましく、17%以下とすると、一次粒子サイズ分布のバラツキが抑制され、正極活物質として長期の充放電サイクルに供した際にも、その二次粒子内の粒界部から割れが発生せず、非水電解質二次電池に優れたサイクル特性を付与するという効果が生じることが記載されている。
そうしてみると、請求項1のスパンの変動係数が17%以下という構成は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されたものであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は令和4年10月24日提出の意見書において、『段落0024に記載されているように、「各二次粒子中に存在する一次粒子サイズの分布がシャープなリチウム複合酸化物は、粒界部の組成や結合状態のバラツキが小さい、すなわち、粒界部の欠陥が小さいことが考えられ、その結果、このようなリチウム複合酸化物では、粒界部からの割れの開始点が極めて少なくなることが考えられる」が、当該課題を達成するためには、「一次粒子サイズの分布をシャープ」にする必要があり、二次粒子間における均一性を高めるだけでは、「一次粒子サイズの分布をシャープ」することは困難であるといえる。』(6ページ2ないし9行)と主張している。
しかしながら、上記「イ」において検討したように、本件特許明細書の段落【0029】には、スパンの変動係数を17%以下とすると、N個の二次粒子において、一次粒子サイズ分布のバラツキが抑制され、このような二次粒子を含むリチウムニッケル複合酸化物からなる本発明の正極活物質は、長期の充放電サイクルに供した際にも、その二次粒子内の粒界部から割れが発生せず、非水電解質二次電池に優れたサイクル特性を付与すると記載されているから、本件請求項1の記載は発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されたものであり、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(6)特許法第36条第6項第2号(明確性)に係る取消理由について
ア 取消理由について
取消理由通知により通知した取消理由は、次のとおりである。
『請求項1、2に記載された「一次粒子サイズ」に関して、本件特許明細書段落【0037】には「走査型電子顕微鏡SEM-EDS[電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7100F:(株)日本電子製]を用い、加速電圧を10kVとし、一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の一次粒子又は二次粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)に基づいて得られた値である」ことが記載されている。電子顕微鏡を用いた「一次粒子サイズ」の測定方法には、二次粒子の断面観察による方法(例えば、甲第1号証段落【0105】【0173】を参照。)と二次粒子の表面観察による方法(例えば、甲第6号証段落【0042】を参照。)が存在し、当該2種類の方法間で測定値に差が生じると考えられるところ、請求項1、2に記載された「一次粒子サイズ」はどのような方法で測定されたサイズであるのか明確ではない。したがって、請求項1、2に記載された「一次粒子サイズ」はどのようなサイズを意味するのか明確ではなく、請求項1、2に係る発明は明確ではない。
請求項1、2を引用する請求項3、4に係る発明についても同様である。』
イ 当審の判断
「一次粒子サイズ」に関して、本件訂正により「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるとされ、走査型電子顕微鏡を用い画像解析ソフトにより求めた値であることが特定された。
そして、「一次粒子サイズ」を求める上では、二次粒子の断面観察による方法では、二次粒子を切断する際、一次粒子の中央のみを切断することはないため、粒度分布が真の分布よりも小粒径側にずれることに鑑みれば、二次粒子の表面観察による方法が適切であると考えられ、当業者であれば当然考慮される事項である。
また、請求項1、2に記載された「一次粒子サイズ」の文言が一次粒子の直径を表していること自体は明確であって不明瞭とはいえない。
したがって、請求項1、2に記載された「一次粒子サイズ」はどのようなサイズを意味するのか明確ではないとはいえず、本件発明1、2は明確である。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は令和4年10月24日提出の意見書において、『「二次粒子のごく中央部分の電子顕微鏡写真の画像を抽出」したこと、「輪郭が見える一次粒子のみを解析対象」としたこと、「多くの解析対象から中央値を採用する」ことのいずれに関しても、訂正請求に係る請求項1および2において何ら規定がなく、かつ、本明細書の段落0037、0038、および0123を含む詳細な説明においても何らの記載がない。また、「粒子の輪郭が見える一次粒子」であっても、輪郭が他の粒子と重なってできているものか判別できないことは、断面観察の場合と同様であり、「表面観察による方法」を採用した理由とはならない。』と主張している。(7ページ2ないし9行)
しかしながら、上記「イ」で検討したように、「一次粒子サイズ」を求める際には、二次粒子の断面観察による方法では、粒度分布が真の分布よりも小粒径側にずれることに鑑みれば、二次粒子の表面観察による方法が適切であり、当業者であれば当然考慮される事項である。そして、請求項1、2に記載された「一次粒子サイズ」が一次粒子の直径を表していること自体は明確であって不明瞭とはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1.甲第1号証に基づく、本件発明1に対する申立て理由について
(1)対比
本件発明1と甲1発明(上記「第4 2.(1)」参照)とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点では一致している。
(相違点1)
本件発明1では、
「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して、
甲1発明では「一次粒子の平均粒径の標準偏差は10%以下であり、前記一次粒子の平均粒径とは、ある特定の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径であり、該二次粒子に含まれる10個以上の一次粒子の粒径を測定し、この測定値を個数平均することによって求められる値」である点。
(相違点2)本件発明2では「前記一次粒子サイズは」「加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるのに対して、甲1発明では当該事項が明らかでない点。
(相違点3)本件発明2では、正極活物質の組成が「下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)」で表されるのに対して、
甲1発明では、「一般式:Li1+uNi1-x-yCoxyMyO2(ただし、-0.05≦u≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、Mは、Mn、V、Mg、Al、Ti、Mo、Nb、ZrおよびWから選ばれる少なくとも1種の添加元素)」で表される点。
(2)判断
相違点1について検討する。
甲1発明は一次粒子の平均粒径の標準偏差は10%以下であるのに対して、本件発明1は(D90-D10)/D50で表されるスパンの変動係数が17%以下であることを要件とするものである。粒径がそろっているといった条件では、標準偏差もスパンの変動係数も小さな値となると理解でき、相関を有していると言うことはできる。しかしながら、平均粒径の標準偏差とスパンの変動係数では求め方は異なっており、粒径の分布が標準的な分布に従わないような場合には、例えば標準偏差は10%以下であればスパンの変動係数が必ず17%以下であると言うこともできない。そうしてみると、相違点1とした構成は実質的に同一といえる構成ではないから本件発明1は甲1発明と同一であると言うことはできない。また、甲1発明を本件発明1のように構成を変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明と同一ではなく、また甲1発明から当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、以下のように主張している。
『甲第1号証は、「二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径の標準偏差は、好ましくは10%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは8.6%以下である。標準偏差をこのような範囲に制御することで、該二次粒子間でのリチウム挿入・脱離反応を均一化することができるため、クーロン効率を向上させることができる。」ことを開示している(段落0104)
すなわち、甲第1号証に記載された発明は、一次粒子の平均粒径の標準偏差が10%以下であり、複数の二次粒子間における一次粒子の粒子成長や結晶成長の度合いのバラツキが小さく、一次粒子径のバラツキが極めて小さいものであるため、発明特定事項Bを満たす蓋然性が高いと考えられる。
さらに、発明特定事項Bは、複数の二次粒子間における、一次粒子の粒子成長や結晶成長の度合いのバラツキが小さいことは示しているが、個々の二次粒子における一次粒子サイズのバラツキ自体が小さいことは示していない。これに対し、一次粒子の平均粒径の標準偏差が所定値以下であって、複数の二次粒子間における一次粒子の粒径のバラツキが小さい甲第1号証の正極活物質は、特定事項Bが規定している複数の二次粒子間における粒子成長や結晶成長の度合いのバラツキが小さいことを示すものであることから、発明特定事項Bを備える可能性は高いと考えられる。』(特許異議申立書22ページしたから4行ないし23ページ13行)
しかしながら、上記(2)で検討したように、平均粒径の標準偏差とスパンの変動係数では求め方は異なっており、粒径の分布が標準的な分布に従わないような場合には平均粒径の標準偏差が10%以下であってもスパンの変動係数が必ず17%以下とはいえない。したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
2.甲第2号証に基づく申立て理由について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第2号証に記載された発明の正極活物質は、その製造法が本件訂正前の請求項1と同一である以上、スパンの変動係数が17%以下であるという構成(発明特定事項B)を具備する蓋然性が高い旨主張している(24ページ14行ないし25ページ15行)。
(2)甲第2号証の記載事項、甲2発明
甲第2号証(特開平11-111290号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法に関し、特に焼成後に短時間の熱処理を施すことによって、電池の放電性能を向上させたリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法に関する。」
「【0027】
【実施例】以下、実施例等に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0028】〔実施例1-2〕Ni0.85Co0.15(OH)2とLiOH(水和物)をLi:Ni+Co=1.02:1であるようなモル比で秤量した。LiOHを予め粉砕した後、Ni0.85Co0.15(OH)2を加え、さらに適当量のガラスビーズを用いてペイントシェーカーで10分間混合した。
【0029】焼成には高純度アルミナ製の内径6cm、長さ100cmの炉芯管を付けた均熱帯長さが約40cmのロータリーキルンを使用した。炉芯管には、約1.4°の傾斜を付け回転数は12rpmとした。予め650℃(実施例1)又は750℃(実施例2)に設定した炉芯管の上部より原料を投入し、下方の端より反応生成物を回収した。原料投入後、下方端より反応生成物が排出されるまでの平均滞留時間が約8分であったので、昇降温時間は約330℃/分と考えられる。
【0030】これをさらにアルミナボードに入れ、通常の静置炉で酸素気流中で0.5-20時間、750℃で熱処理を行った。焼成条件を表1にまとめて示す。
【0031】得られた化合物のX線回折パターンを図1(実施例1)及び図2(実施例2)に示す。これらのピークの位置と強度比より目的のR-3m構造をもったリチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)であることが確認された。」
・上記段落【0001】【0031】によれば、リチウム二次電池用正極材料はリチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)より構成される。
・段落【0027】ないし【0030】によれば、実施例1はNi0.85Co0.15(OH)2とLiOH(水和物)を混合し、ロータリーキルンを使用して650℃約8分焼成し、さらにアルミナボードに入れ、通常の静置炉で酸素気流中で0.5~20時間、750℃で熱処理することにより製造される。
したがって、上記記載によれば、甲第2号証には「リチウム二次電池用正極材料」に関して、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下の製造工程によって製造されるリチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)よりなるリチウム二次電池用正極材料。
Ni0.85Co0.15(OH)2とLiOH(水和物)を混合し、
ロータリーキルンを使用して650℃で約8分焼成し、
アルミナボードに入れ、通常の静置炉で酸素気流中で0.5~20時間、750℃で熱処理する。」
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
・甲2発明の「Co」(コバルト)と「O」(酸素)は本件発明1の「リチウム及びニッケル以外の他の元素」に相当し、甲2発明の「リチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)よりなるリチウム二次電池用正極材料」は本件発明1の「リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」に相当する。
・本件発明1は、「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して、甲2発明では当該事項が明らかではない点で相違している。
・本件発明1は、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるのに対して、甲2発明では一次粒子のサイズがどのように特定されるか明らかではない点で相違する。
・甲2発明の「リチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)」は、本件発明1の「LiaNibM1-bO2 (I)(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)」に含まれる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは次の一致点ないし相違点を有する。
(一致点)
「 リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、
下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)
で表される組成を有することを特徴とする、非水電解質二次電池用正極活物質。」
(相違点1)
本件発明2は、「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、下記式(α):
(D90-D10)/D50 (α)
(式中、
D10:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が10%に相当する粒子径
D50:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径)
D90:個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が90%に相当する粒子径
である)
で表されるスパンの変動係数が17%以下」であるのに対して、甲2発明では当該事項について明らかではない点。
(相違点2)
本件発明2では、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるのに対して、甲2発明では当該事項について明らかではない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲2発明は相違点1に係る構成を有してはいない。しかしながら、甲2発明を製造する工程と、本件発明1の製造工程が同じであれば、生成される物質も同一となる蓋然性が高いことから、両者の製造工程について検討する。
本件特許明細書の段落【0053】ないし【0100】に工程(1)ないし工程(3)からなる本件非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法が記載されており、工程(1)として前駆体複合化合物とリチウム化合物を混合して混合物を調整する工程が記載されている。そして、段落【0080】では「前記バラツキA及び前記バラツキB双方が充分に抑制され得るように、・・・まず本工程(2)において以下の所定の条件にて予備焼成した後、さらに後述する工程(3)において所定の条件にて本焼成する方法を採用すること」が記載され、工程(2)の予備焼成では静置炉やローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルンを用いることができ(段落【0082】)、予備焼成される混合物の最高温度は、500℃~650℃、そのためロータリーキルンのレトルト表面温度を、例えば、530℃~800℃に設定し(段落【0088】)、予備焼成の時間は、例えば1時間~10時間、好ましくは2時間~8時間(段落【0093】)であることが記載されている。
さらに、工程(3)の本焼成では、静置炉、ローラーハースキルン、及びロータリーキルンを用いることができ(段落【0094】)、混合物の最高温度は700℃~880℃(段落【0096】)、焼成時間は例えば、1時間~15時間であること(段落【0097】)が記載されている。
ここで、本件特許明細書に記載された「予備焼成」が甲2発明の「焼成」に相当するところ、本件の「予備焼成」は最高温度が500℃~650℃で、「例えば1時間~10時間、好ましくは2時間~8時間」行われるのに対し、甲2発明の「焼成」は650℃で約8分間行われる。そうしてみると、本件に例示された焼成時間に比較して甲2発明の焼成時間は非常に短くなっており、製造される正極活物質が略同一となる蓋然性は高いとはいえない。なお、甲第2号証段落【0017】に「焼成時間は・・・一般的には数分~数十分である」と記載されているが、当該記載を参照したとしても本件発明が想定する焼成時間よりも短い。
そうしてみると、相違点1が実質的な相違点ではないとはいえないし、また甲2発明を本件発明1に係る構成に変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明と同一ではなく、また甲2発明から当業者が容易に想到できたものではない。
(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
・甲2発明の「Co」(コバルト)と「O」(酸素)は本件発明2の「リチウム及びニッケル以外の他の元素」に相当し、甲2発明の「リチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)よりなるリチウム二次電池用正極材料」は、本件発明2の「リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質」に相当する。
・本件発明2は、「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲2発明では当該事項が明らかではない点で相違している。
・本件発明2は、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるのに対して、甲2発明では一次粒子のサイズについての特定がない点で相違する。
・甲2発明の「リチウム複合酸化物(LiNi0.85Co0.15O2)」は、本件発明1の「LiaNibM1-bO2 (I)(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)」に含まれる。
したがって、本件発明2と甲2発明とは次の一致点ないし相違点を有する。
(一致点)
「 リチウムとニッケルとリチウム及びニッケル以外の他の元素とを含有するリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、
下記式(I):
LiaNibM1-bO2 (I)
(式中、Mは、Li、Ni、及びO以外の元素、0.95≦a≦1.40、0.8<b<1である)
で表される組成を有することを特徴とする、非水電解質二次電池用正極活物質。」
(相違点1)
本件発明2では、「前記リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子について、D50(個数基準の一次粒子サイズの粒子径分布の積算値が50%に相当する粒子径(平均粒子径))の変動係数が19%以下」であるのに対して、甲2発明では当該事項について明らかではない点。
(相違点2)
本件発明2は、「前記一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧10kVにて、前記一次粒子の粒界が確認できるように撮影した正極活物質の50個~200個の一次粒子の電子顕微鏡写真に基づいて得られた値であって、該電子顕微鏡写真について、画像解析ソフトを用い、画像解析する粒子をマークして、それらの一次粒子を二値化することで一次粒子の面積を計算し、該面積から、真円形近似を用いて一次粒子それぞれについて求めた直径」であるのに対して、甲2発明では当該事項について明らかではない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲2発明は相違点1に係る構成を有してはいない。しかしながら、甲2発明を製造する工程と、本件発明2の製造工程が同じであれば、生成される物質も同一となる蓋然性が高いことから、両者の製造工程について検討する。
上記「(2)イ 判断」の項で検討したように、本件特許明細書に記載された製造方法は、甲2発明に係る製造方法とは同一であるといえず、製造される正極活物質が略同一となる蓋然性は高いとはいえない。そうしてみると、相違点1が実質的な相違点ではないとはいえないし、また甲2発明を本件発明2に係る構成に変更する動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明と同一ではなく、また甲2発明から当業者が容易に想到できたものではない。
3.記載不備(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)
(1)申立理由の概要
特許異議申立書において実施可能要件に関する特許異議申立ての概要は、以下のようなものである。
「本件特許明細書に明示された条件以外にも、特定のロータリーキルンを用いて、たとえば、特定のレトルトを用いたりする、追加の特殊な条件を設定することで、レトルト表面温度(設定温度)と混合物の最高温度を近接させ、前者を700℃未満とし、後者を650℃未満とする必要があるといえる。
しかしながら、本件特許明細書には、それらの追加の特殊な条件については、何らの記載もない。逆に、本件特許明細書に記載された条件だけでは、当業者は必要以上の追試などの試行錯誤を経ない限り、本件特許明細書の正極活物質を製造できないと言うことができる。」(特許異議申立書46ページ17ないし25行)
(2)当審の判断
発明の詳細な説明は、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載すれば足り、細部にわたる実施条件についてまで記載することが求められているものではないから、本件請求項1、2に係る発明について発明の詳細な説明に実施可能に記載されていないとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1、2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3、4に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による請求項3、4に対する特許異議の申立ては対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700229