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特許異議申立

2020-700925

金属端子用接着性フィルム、接着性フィルム付き金属端子、及び電池

審判番号
2020-700925
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-571089外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6706014
請求日
2020年11月30日
審決日
2021年10月25日
公報発行日
2022年02月25日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6706014号発明「金属端子用接着性フィルム、接着性フィルム付き金属端子、及び電池」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6706014号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり,訂正後の請求項〔1,2,5-16〕について訂正することを認める。
特許第6706014号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 36項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6706014号(請求項の数16。以下「本件特許」という。)についての出願は,令和 1年 6月20日(優先権主張平成30年 6月20日)を国際出願日とする特許出願であって,令和 2年 5月19日にその特許権の設定の登録がされ,同年 6月 3日に特許掲載公報が発行された。

その後,令和 2年11月30日に,特許異議申立人 土田裕介(以下「申立人土田」という。)により,請求項1,2,5~16に係る特許に対して特許異議の申立てがされ,同年12月 1日に,特許異議申立人 赤松智信(以下「申立人赤松」という。)により,請求項1~16に係る特許に対して特許異議の申立てがされ,翌2日に,特許異議申立人 山川隆久(以下「申立人山川」という。)により,請求項1~16に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

本件特許に係る特許掲載公報の発行以降の経過は次のとおりである。

令和 2年 6月 3日 本件特許に係る特許掲載公報の発行

同年11月30日付 特許異議申立書(申立人土田)

同年12月 1日付 特許異議申立書(申立人赤松)

同年 同月 2日付 特許異議申立書(申立人山川)

令和 3年 3月15日付 取消理由通知書

同年 5月17日付 訂正請求書及び意見書(特許権者)

同年 7月 7日付 意見書(申立人山川)

同年 同月 8日付 意見書(申立人土田)

同年 同月 9日付 意見書(申立人赤松)

第2 訂正請求について

1 訂正請求の趣旨

令和 3年 5月17日付訂正請求書による請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1,2,5~16について訂正することを求める,というものであり,その内容は次の(1)~(4)のとおりである。

(1)訂正事項1

訂正前の請求項1に「観察される、金属端子用接着性フィルム。」とあるのを,「観察され、前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である、金属端子用接着性フィルム。」に訂正する。

請求項1を直接又は間接的に引用する請求項5,7~16も同様に訂正する。

(2)訂正事項2

訂正前の請求項2に「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である、請求項1に記載の金属端子用接着性フィルム。」とあるのを,請求項1を引用する形式に代えて独立形式に改め,さらに,「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」ものに減縮する。

請求項2を直接又は間接的に引用する請求項5,7~16も同様に訂正する。

(3)訂正事項3

訂正前の請求項6に「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる、請求項1,2,4,5のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」とあるのを,請求項1を引用する形式に代えて独立形式に改める。

訂正請求書に明示はないが,請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7~9,11~16も同様に訂正するものと解される。

(4)訂正事項4

訂正前の請求項10に「請求項1~9のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。」とあるのを,「請求項1または2に記載の金属端子用接着性フィルム。」に訂正する。

訂正請求書に明示はないが,請求項10を直接又は間接的に引用する請求項11~16も同様に訂正するものと解される。

2 訂正請求についての判断

(1)訂正の目的,新規事項の追加の有無,及び,実質拡張・変更の有無

ア 訂正事項1は,請求項1の特定事項を,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」事項によりさらに減縮しているから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また,訂正事項1は,訂正前の請求項1,2,及び,願書に添付した明細書の段落【0057】に記載されたものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

さらに,訂正事項1は,酸変性ポリプロピレン層の海島構造における島の部分の面積の割合を限定するものであり,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものでないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

イ 訂正事項2は,請求項2の特定事項を,請求項1を引用する形式に代えて独立形式に改め,かつ,「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」ものに減縮するものであるから,請求項の記載を他の請求項の記載を引用しないものとすること,及び,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また,訂正事項2は,訂正前の請求項1,2,6,及び,願書に添付した明細書の段落【0048】に記載されたものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

さらに,訂正事項2は,ポリプロピレン層に含まれる樹脂を限定するものであり,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものでないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

ウ 訂正事項3は,請求項6の特定事項を,請求項1を引用する形式に代えて独立形式に改めるものであるから,請求項の記載を他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

また,訂正事項3は,訂正前の請求項1,6に記載されたものであることから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

さらに,訂正事項3は,引用形式の請求項6を,請求項1の記載事項を加えて独立形式に改めるものであり,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものでないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

エ 訂正事項4は,請求項10の引用請求項のうち請求項3~9を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。

(2)一群の請求項について

ア 訂正事項1に係る訂正前の請求項1について,請求項2,5~16は請求項1を引用しており,このうち,請求項5,7~16は,訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

イ 訂正事項2に係る訂正前の請求項2について,請求項5~16は請求項2を引用しており,このうち,請求項5,7~16は,訂正事項2によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。

ウ 訂正事項3に係る訂正前の請求項6について,請求項7~16は請求項6を引用しており,このうち,請求項7~9,11~16は,訂正事項3によって訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。

エ 訂正事項4に係る訂正前の請求項10について,請求項11~16は請求項10を引用しており,請求項11~16は,訂正事項4によって訂正される請求項10に連動して訂正されるものである。

オ 上記ア~エによれば,訂正事項1~4は請求項11~16において共通するので,請求項1,2,5~16は,組み合わされて特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を形成している。また,本件訂正請求においては,当該一群の請求項のうちの一部を別の訂正単位とする求めもない。

(3)独立特許要件について

本件においては,訂正前の全ての請求項1~16について特許異議の申立てがされているので,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。

3 訂正請求についてのまとめ

以上のとおり,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号を目的とするものであり,同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するので,訂正を認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり,本件訂正請求による訂正を認めるので,本件特許の請求項1~16に係る発明は,訂正特許請求の範囲により特定される,次のとおりのものである(以下,各々「本件発明1~16」という。)。

「【請求項1】
電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
続きを表示(全73行)
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察され、
前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である、金属端子用接着性フィルム。
【請求項2】
電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察され、
前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において、島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下であり、
前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる、金属端子用接着性フィルム。
【請求項3】
電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層と、液晶ポリマー製不織布とを備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記液晶ポリマー製不織布の目付が5g/m2以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。
【請求項4】
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、ポリプロピレン層を含んでいる、請求項3に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項5】
前記ポリプロピレン層は、ブロックポリプロピレンを含んでいる、請求項1,2,4のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項6】
電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察され、
前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる、金属端子用接着性フィルム。
【請求項7】
前記ポリプロピレン層は、未延伸ポリプロピレンを含んでいる、請求項1,2,4~6のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項8】
前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンにより構成された層と、ブロックポリプロピレンにより構成された層と、ランダムポリプロピレンにより構成された層とがこの順に積層された積層構成を有している、請求項1,2,4~7のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項9】
以下の測定方法で測定される、前記金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率が、40%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルム。
厚さ100μmのアルミニウム板と、前記金属端子用接着性フィルムを用意する。
前記金属端子用接着性フィルムの厚さA(μm)を測定する。
前記アルミニウム板及び前記金属端子用接着性フィルムの長さ方向及び幅方向が一致するようにして、前記アルミニウム板の中心部分に前記金属端子用接着性フィルムを重ねる。さらに、前記金属端子用接着性フィルムの上に厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを配置する。
前記アルミニウム板の長さより長く、幅7mmの金属板を2枚用意し、前記金属端子用接着性フィルムの全面を覆うようにして,前記アルミニウム板と前記金属端子用接着性フィルムの上下から、温度190℃、面圧1.27MPa、時間3秒間の条件で、前記金属板で加熱及び加圧を行い、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムを金属接着性フィルムから剥し前記アルミニウム板と前記金属端子用接着性フィルムの積層体を得る。
当該積層体の加熱及び加圧が行われた部分の厚さB(μm)を測定する。
以下の式によって、前記金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率を算出する。
金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率(%)=(厚さB-100)/厚さA×100
【請求項10】
前記金属端子用接着性フィルムの流れ方向の熱収縮率が、40%以上95%以下である、請求項1または2に記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項11】
前記金属端子用接着性フィルムを赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される、請求項1~10のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項12】
前記酸変性ポリプロピレン層は、ランダムベースの酸変性ポリプロピレンを含んでいる、請求項1~11のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項13】
前記金属端子用接着性フィルムの一方側の表面粗さが0.5μm以上である、請求項1~12のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項14】
前記包装材料が、少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層シートから構成されており、
前記熱融着性樹脂層と前記金属端子との間に前記金属端子用接着性フィルムが介在される、請求項1~13のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム。
【請求項15】
少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子と、当該電池素子を封止する包装材料と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記包装材料の外側に突出した金属端子とを備える電池であって、
前記金属端子と前記包装材料との間に、請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。
【請求項16】
金属端子と、前記金属端子の一部を被覆している請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」

第4 異議理由及び取消理由の概要

1 申立人土田は,本件特許に対する異議理由として下記(1),(2)を主張し,下記(3)のとおり,証拠方法として甲第1~7号証を,意見書に添付して甲第8号証を提示した。なお,便宜上,下記甲第1号証を「甲A」,甲第7号証を「甲B」,甲第8号証を「甲C」とする。

(1)異議理由1-1(甲Aによる新規性・進歩性)

ア 本件特許の訂正前の請求項1,5,9~12,14~16に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

イ 本件特許の訂正前の請求項1,2,5~16に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明並びに甲第2~6号証の記載及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(2)異議理由1-2(甲Bによる新規性・進歩性)

ア 本件特許の訂正前の請求項1,5,9~12,14~16に係る発明は,下記甲第7号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

イ 本件特許の訂正前の請求項1,2,5~16に係る発明は,下記甲第7号証に記載された発明並びに甲第1~6号証の記載及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(3)証拠方法等

甲第1号証(甲A) 特開2015-232945号公報

甲第2号証 特開2016-207564号公報

甲第3号証 特開2017-69151号公報

甲第4号証 特開2017-120790号公報

甲第5号証 特開2017-137063号公報

甲第6号証 特開2010-272348号公報

甲第7号証(甲B) 特開2016-91939号公報

甲第8号証(甲C) 特開2015-170428号公報

2 申立人赤松は,本件特許に対する異議理由として下記(1),(2)を主張し,下記(3)のとおり,証拠方法として甲第1~3号証を提示した。なお,下記甲第1号証は,上記1(3)よりみて甲Aである。

(1)異議理由2-1(甲Aによる新規性・進歩性)

ア 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

イ 本件特許の訂正前の請求項1~16に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証の記載に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(2)異議理由2-2(明確性)

本件特許についての出願は,特許請求の範囲の記載が「酸変性ポリプロピレン層の厚さ」及び「ポリプロピレン層の厚さ」の上限値を特定していない点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,訂正前の請求項1~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する。

(3)証拠方法

甲第1号証(甲A) 特開2015-232945号公報

甲第2号証 特開2013-62252号公報

甲第3号証 特開2008-277238号公報

3 申立人山川は,本件特許に対する異議理由として下記(1)~(6)を主張し,下記(7)のとおり,証拠方法として甲第1~5号証を,意見書に添付して参考資料1を提示した。なお,便宜上,下記甲第2号証を「甲D」とする。また,下記甲第1号証,甲第3号証及び甲第4号証は,上記1(3)よりみて,各々,甲C,甲A及び甲Bである。

(1)異議理由3-1(甲Cによる新規性・進歩性)

ア 本件特許の訂正前の請求項1,2,6,7,9~11,14~16に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

イ 本件特許の訂正前の請求項1,2,5~7,9~16に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証の記載に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(2)異議理由3-2(甲Dによる進歩性)

本件特許の訂正前の請求項1~7,9~16に係る発明は,下記甲第2号証に記載された発明及び甲第1,3~5号証の記載に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(3)異議理由3-3(甲Aによる新規性・進歩性)

ア 本件特許の訂正前の請求項1,5,7,9~16に係る発明は,下記甲第3号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

イ 本件特許の訂正前の請求項1~16に係る発明は,下記甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証の記載に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(4)異議理由3-4(甲Bによる進歩性)

本件特許の訂正前の請求項3,4に係る発明は,下記甲第4号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当する。

(5)異議理由3-5(実施可能要件・明確性)

ア 本件特許についての出願は,発明の詳細な説明の記載が「酸変性ポリプロピレン層」の「海島構造」について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないし,特許を受けようとする発明が明確でない点で,特許法第36条第4項第1号,第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,訂正前の請求項1,2,5~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する。

イ 本件特許についての出願は,発明の詳細な説明の記載が「厚さ残存率」及び「熱収縮率」について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,訂正前の請求項9~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する(当審注:申立人山川の特許異議申立書第81頁(イ)に「本件請求項8及び9では…」とあるのは,「本件請求項9及び10では…」の誤記と解される。)。

(6)異議理由3-6(サポート要件)

ア 本件特許についての出願は,特許請求の範囲に記載された「酸変性ポリプロピレン層」,「ポリプロピレン層」,「厚さ残存率」及び「表面粗さ」の上限がどのような値であっても発明の課題を解決できるとはいえず,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,訂正前の請求項1~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する。

イ 本件特許についての出願は,特許請求の範囲に記載された「酸変性ポリプロピレン層」が金属端子側に位置するように用いられることが特定されておらず,発明の課題を解決できない態様を含んでいる点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,訂正前の請求項1~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する。

(7)証拠方法等

甲第1号証(甲C) 特開2015-170428号公報

甲第2号証(甲D) 国際公開第2015/008826号

甲第3号証(甲A) 特開2015-232945号公報

甲第4号証(甲B) 特開2016-91939号公報

甲第5号証 国際公開第2012/077706号

参考資料1 特開2009-224218号公報

4 当審は,検討の結果,上記1~3のうち,甲Aによる新規性・進歩性(申立人土田の異議理由1-1,申立人赤松の異議理由2-1,申立人山川の異議理由3-3),訂正前の請求項10に係る発明の実施可能要件(申立人山川の異議理由3-5イ)を採用し,下記取消理由1~3を通知した。

(1)取消理由1(甲Aによる新規性)

本件特許の訂正前の請求項1,5,7,9~16に係る発明は,その優先前日本国内又は外国において頒布された甲Aに記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,請求項1,5,7,9~16に係る特許は,同法第113条第2号に該当する。

(2)取消理由2(甲Aによる進歩性)

本件特許の訂正前の請求項1,5,7~16に係る発明は,その優先前日本国内又は外国において頒布された甲Aに記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,請求項1,5,7~16に係る特許は,同法第113条第2号に該当する。

(3)取消理由3(実施可能要件)

本件特許の訂正前の請求項10~16に係る特許についての出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,訂正前の請求項10~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する。

第5 当審の判断

当審は,本件訂正請求を認めることにより,当審による取消理由はいずれも解消し,また,申立人土田,申立人赤松及び申立人山川による異議理由のいずれによっても,本件特許を取り消すことはできないと判断する。

判断の詳細は次の1~7のとおりであり,以下,新規性・進歩性(1:甲Aによるもの,2:甲Bによるもの,3:甲Cによるもの,4:甲Dによるもの),記載要件(5:実施可能要件・明確性,6:明確性,7:サポート要件)について,順次説明する。

1 甲Aによる新規性・進歩性(取消理由1・2,申立人土田の異議理由1-1,申立人赤松の異議理由2-1,申立人山川の異議理由3-3)について

(1)甲Aに記載された発明

甲Aの記載(請求項1,段落【0001】,【0007】,【0008】,【0022】~【0079】,【0107】~【0141】,図1~3),特に,段落【0071】,【0111】~【0113】及び【0122】(実施例5),【0114】(正極用タブ),【0116】~【0118】(電池パック)よりみて,甲Aには,次の各発明が記載されていると認められる。

<甲A発明>

「蓄電デバイス用端子フィルムの作製に当たり,
第1の最外層の母材に、融点134℃のランダム系酸変性ポリプロピレンと、融点155℃のブロック系酸変性ポリプロピレン(ホモポリプロピレン(PP)中にエチレン-プロピレンゴム(EPR)及びポリエチレン(PE)が島状に分散したもの)とを50:50(質量比)で混合したものを用い、
中間層の母材に、融点153℃のブロック系ポリプロピレン(ホモポリプロピレン(PP)中にエチレン-プロピレンゴム(EPR)及びポリエチレン(PE)が島状に分散したもの)を用い、
第2の最外層の母材に、融点162℃のホモ系ポリプロピレンと、融点153℃のブロック系ポリプロピレン(ホモポリプロピレン(PP)中にエチレン-プロピレンゴム(EPR)及びポリエチレン(PE)が島状に分散したもの)とを50:50(質量比)で混合したものを用い、
また、中間層には、中間層の母材となるブロック系ポリプロピレンに対して0.1質量%の濃度となるように、顔料として平均粒径が50nmのカーボンブラックを添加し、
次いで、インフレーション式フィルム押出製造装置により、上記3つの母材を押し出すことで積層フィルムを作製し、このとき、上記積層フィルムは、第1の最外層の厚さが30μm、中間層の厚さが40μm、第2の最外層の厚さが30μmとなるように形成し、
更に、第2の最外層側の冷却ロールを、格子型、線数#300、深度20μmのエンボスロールとし、第2の最外層の表面にエンボス形状の転写を行い、
次いで、上記積層フィルムを切断することで、幅が9mmで、長さが5mmとされた、蓄電デバイス用端子フィルム。」

<甲Aタブ発明>

「2枚の甲A発明の蓄電デバイス用端子フィルム間に、正極用金属端子を挟み込み、正極用金属端子と2枚の蓄電デバイス用端子フィルムとを熱融着させることで作製された、正極用金属端子及び2枚の蓄電デバイス用端子フィルムよりなる正極用タブ。」

<甲A電池発明>

「包装材の長辺の中点で2つ折りし、長さ45mmの2つ折り部の一方に、甲Aタブ発明の正極用タブ及び負極用タブを挟んで、ヒートシールすることで、包装材と正極用タブ及び負極用タブとを融着させ、その後、包装材内に、ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合液に6フッ化リン酸リチウムを添加した電解液を2mL充填させ、次いで、包装材の残りの辺をヒートシール処理して得た、タブ評価可能な電池パック。」

(2)検討

ア 本件発明1,5,7~14について

(ア)本件発明1と,甲A発明とを対比する。

a 甲A発明の「蓄電デバイス用端子フィルム」は,これに正極用金属端子ないし負極用金属端子を挟み込み、熱融着させて正極用タブないし負極用タブを作製したうえで,包装材と融着させて用いるものであるから,正極用端子ないし負極用端子と包装材との間に介在されることは明らかであって,本件発明1の「金属端子用接着フィルム」に相当する。

b また,甲A発明の蓄電デバイス用端子フィルムは,ブロック系酸変性ポリプロピレンを含む「第1の最外層」,ブロック系ポリプロピレンからなる「中間層」,ホモ系ポリプロピレン及びブロック系ポリプロピレンを含む「第2の最外層」を積層形成して「積層フィルム」としたものであるから,上記「第1の最外層」は本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に,上記「中間層」及び「第2の最外層」は本件発明1の「ポリプロピレン層」に,上記「積層フィルム」は本件発明1の「少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層」に,各々相当する。そして,甲A発明の「第1の最外層」が,「フィルムの少なくとも一方側の表層」を構成していることは明らかである。

c さらに,甲A発明の積層フィルムは,「第1の最外層の厚さが30μm」,「中間層の厚さが40μm、第2の最外層の厚さが30μm」であり,それぞれ,本件発明1の「酸変性ポリプロピレンの厚さは、16μm以上」,「ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上」に適合する。

d さらに,甲A発明の第1の最外層に含まれるブロック系酸変性ポリプロピレンは,「ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散した」ものであり,甲A段落【0071】の「ブロックポリプロピレンの場合、例えば、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。」との記載も踏まえると,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当する。

e そして,甲A発明の積層フィルムは,第1の最外層に融点134℃と155℃の酸変性ポリプロピレンを混合したものを,中間層に融点153℃のブロック系ポリプロピレンを,第2の最外層に融点162℃のホモ系ポリプロピレンと融点153℃のブロック系ポリプロピレンを混合したものを各々用いているところ,甲C段落【0003】(「融点」の語は,JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に規定された方法で示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で測定された融解ピーク温度を意味する)の記載も踏まえると,示唆走査熱量計を用いて融解ピークを測定したときに,少なくとも,134℃,155℃,153℃の近傍に融解ピークが測定されるものと推定され,これは,本件発明1の「120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」ことに相当する。

f よって,本件発明1と,甲A発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点A-1>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点A-1>

「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造」において,本件発明1は「島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」のに対し,甲A発明は,島の部分の面積の割合は明らかでない点。

(イ)上記相違点A-1について検討する。

a 上記(ア)dのとおり,甲Aには海島構造を有する旨の記載はあるものの,島の部分の面積の割合は何ら記載がなく,かつ,技術常識よりみて明らかであるともいえないから,上記相違点A-1は実質的な相違点である。よって,本件発明1は,甲A発明ではない。

b また,上記相違点A-1の容易想到性について検討すると,その余の甲号証の各記載をみても,酸変性ポリプロピレン層の海島構造における島の部分の面積の割合を特定することは何ら記載も示唆もされておらず,甲A発明において,島の部分の面積の割合を特定することの動機付けは見いだせない。よって,本件発明1は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明1を引用する本件発明5,7~14は,本件発明1の特定事項を全て有するものであるから,甲A発明との対比において,少なくとも上記(ア)fの相違点A-1を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明1を引用する本件発明5,7~14は,甲A発明ではなく,また,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)訂正後の本件発明1に対する申立人の主張は,次のa~cのとおり,いずれも採用できない。

a(a)申立人土田は,甲A実施例5において,海島構造における島の割合を調整し,10~50%の範囲と重複するものを製造することは,当業者の通常の創作能力の範囲であり,当該構成により,甲Aから予測できない効果が奏されるともいえない旨主張する(意見書第5~7頁:検討(1))。

しかしながら,上記(イ)のとおり,甲Aには島の部分の面積の割合は何ら記載がなく,かつ,その余の甲号証の各記載をみても,酸変性ポリプロピレン層の海島構造における島の部分の面積の割合を特定することは何ら記載も示唆もされていない(なお,申立人土田は,最外層にエラストマーを添加する公知技術に関して,酸変性ポリプロピレン(又は第1樹脂成分)中で熱可塑性エラストマーが約0.3μm~約15μmの大きさの独立した球状分散相を形成する旨の記載(甲C段落【0030】)を引用するが,甲Cには,相分離構造において熱可塑性エラストマー相が略板状に相分離している旨の記載(段落【0038】)もあり,また,実施例の記載(段落【0064】~【0088】)をみても,海島構造も,島の部分の面積の割合も,何ら示されていないものである。)。

(b)申立人土田は,本件特許の実施例1,2及び比較例1のPPa層(酸変性ポリプロピレン層)に用いられている「ブロックベースの無水マレイン酸変性ポリプロピレン」と,甲A発明の「ブロック系酸変性ポリプロピレン」とは大きな差がないから,甲A発明における島の部分の面積の割合を測定した場合,本件特許の実施例1,2及び比較例1のPPa層と同程度となる蓋然性が高い旨も主張する(意見書第7~12頁:検討(2))。

しかしながら,甲A発明の「ブロック系酸変性ポリプロピレン」が本件特許の実施例1,2及び比較例1のPPa層に用いられているものと同一の条件で製造されているかどうかは不明であるから,海島構造における島の部分の面積の割合が同程度であるとは断言できない(なお,申立人土田は,上記蓋然性が否定される場合,発明の詳細な説明の記載は当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない旨も主張するが,上記蓋然性の当否にかかわらず,本件特許の実施例1,2,及び比較例1の記載は,当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。)。

b 申立人赤松は,申立人土田の甲第2号証を引用して,海島構造における島の部分の面積の割合は,島の部分を形成するマクロ相分離熱可塑性エラストマー成分の含有量によって決まるものであり,島の部分の面積の割合が10%以上50%以下であるというのは,当然そのようになっている数値範囲というべきものである旨主張する(意見書第2~3頁:(1))。

しかしながら,甲Aにおいては,島の部分の面積の割合はもちろん,エラストマー成分の含有量との関係も示されておらず,甲A発明において,島の部分の面積の割合が10%以上50%以下であることが当然の数値範囲であると断言することはできないし,また,そのようにする動機付けも見いだせない。

c 申立人山川は,申立人土田の甲第2号証を引用して,非相溶系エラストマーの含有量が5~20質量%であるのだから,島部の面積の割合が5~20%程度になると考えるのが妥当であり,10%以上20%以下程度の範囲で,本件発明1,2と重複すると考えるのが妥当である旨主張する(意見書第6~10頁:(3))。

しかしながら,上記bと同様,甲A発明において,島の部分の面積の割合が10%以上20%以下程度の範囲で重複していると断言することはできないし,また,そのようにする動機付けも見いだせない。

イ 本件発明2,5,7~14について

(ア)本件発明2は,本件発明1の特定事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」との特定事項を有するものである。

よって,本件発明2と,甲A発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点A-2>

上記ア(ア)fの一致点A-1と同じ。

<相違点A-2>

a 上記ア(ア)fの相違点A-1と同じ。

b 本件発明2は「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」のに対し,甲A発明は,中間層がブロック系ポリプロピレンであり,第2の最外層は,ホモ系ポリプロピレンと,ブロック系ポリプロピレンを混合したものである点。

(イ)上記相違点A-2について検討する。

aについて検討すると,これは,上記ア(イ)と同じである。

bについて検討すると,甲A段落【0011】に「ブロックコポリマーは、ホモポリマーとランダムコポリマーの中間的な融点を有しているため、ランダムコポリマーを含む第1の最外層とホモポリマーを含む第2の最外層の間の中間層にブロックコポリマーを用いると、融点がホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーの順に低くなり、傾斜構造となるため、上記耐熱性、低温融着性を両立することが可能となる。このような特定の重合状態のポリオレフィンを、第1の最外層、第2の最外層及び中間層のそれぞれで選択的に用いることにより、本発明の効果を奏することができる。」と記載されるとおり,甲A発明の中間層はブロックコポリマーを用い,第2の最外層にホモポリマーを用いる技術的事情が存在する。そうすると,甲A発明において,中間層及び第2の最外層にランダムコポリマーを用いることの積極的な動機付けがあるということはできない。その余の甲号証の各記載をみても,甲A発明において,中間層にランダムコポリマーを用いることの動機付けは見いだせない。

よって,本件発明2は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明2を引用する本件発明5,7~14は,本件発明2の特定事項を全て有するものであるから,甲A発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点A-2a,bを有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明2を引用する本件発明5,7~14は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)訂正後の本件発明2に対する申立人の主張は,次のa~cのとおり,いずれも採用できない。

a 申立人土田は,上記ア(エ)aの外,甲A段落【0011】,【0045】,【0056】,【0077】,甲C段落【0065】,【0081】,【0082】の各記載を引用して,甲A発明の中間層又は第2の最外層にランダムポリプロピレンを含有させることは当業者が容易になしえる旨主張する(意見書第12~15頁)。

しかしながら,上記(イ)のとおり,甲A発明において,中間層及び第2の最外層にランダムコポリマーを用いることの積極的な動機付けがあるということはできない。また,甲Cには,実施例10の外側樹脂層としてランダムポリプロピレン樹脂である樹脂Hを用いることが記載されるに止まり,このことをもって,甲A発明の中間層にランダムコポリマーを用いることが容易に想到できたとはいえない。

b 申立人赤松は,甲第3号証段落【0081】,甲B段落【0065】を引用して,ポリプロピレン層にランダムポリプロピレンが含まれることは,当業者が容易になし得ることであるか,周知ともいえる事項である旨主張する(意見書第3頁:(2))。

しかしながら,上記(イ)のとおり,甲A発明において,中間層及び第2の最外層にランダムコポリマーを用いることの積極的な動機付けがあるということはできず,これは,甲A発明とは技術的事情が異なる,甲第3号証及び甲Bの記載により変わるものでもない。

c 申立人山川は,上記ア(エ)cの外,参考資料1を引用して,甲Aに記載された発明における第2の最外層や中間層にランダムポリプロピレンを用いることは当業者が容易になしえたことである旨主張する(意見書6~10頁:(3))。

しかしながら,上記(イ)のとおり,甲A発明において,中間層及び第2の最外層にランダムコポリマーを用いることの積極的な動機付けがあるということはできず,これは,甲A発明とは技術的事情が異なる参考資料1の記載により変わるものでもない。

ウ 本件発明3~5,7~9,11~14について

(ア)本件発明3は,本件発明1の特定事項のうち,「金属端子用接着性フィルム」が「ポリプロピレン層を含」む点,「前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であ」る点,及び,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに,「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布の目付が5g/m2以上であ」るというものである。

よって,本件発明3と,甲A発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点A-3>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点A-3>

本件発明3は,「金属端子用接着性フィルム」が「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布の目付が5g/m2以上であ」るのに対し,甲A発明は,液晶ポリマー不織布を備えていない点。

(イ)上記相違点A-3について検討すると,甲Bの段落【0066】,【0067】には,中間層が「フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む層(強化層)」であってもよい旨の記載はあるが,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備える旨は何ら記載も示唆もされていない。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲A発明において,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備えることの動機付けはみいだせない。

よって,本件発明3は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明3を引用する本件発明4,5,7~9,11~14は,本件発明3の特定事項を全て有するものであるから,甲A発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点A-3を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明3を引用する本件発明4,5,7~9,11~14は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明6~9,11~14について

(ア)本件発明6は,本件発明1の特定事項のうち,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」というものである。

よって,本件発明6と,甲A発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点A-6>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記酸変性ポリプロピレン層は、断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点A-6>

本件発明6は「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」のに対し,甲A発明は,中間層がブロックポリプロピレンである点。

(イ)上記相違点A-6について検討すると,上記イ(イ)と同様に,甲A段落【0011】に「ブロックコポリマーは、ホモポリマーとランダムコポリマーの中間的な融点を有しているため、ランダムコポリマーを含む第1の最外層とホモポリマーを含む第2の最外層の間の中間層にブロックコポリマーを用いると、融点がホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーの順に低くなり、傾斜構造となるため、上記耐熱性、低温融着性を両立することが可能となる。このような特定の重合状態のポリオレフィンを、第1の最外層、第2の最外層及び中間層のそれぞれで選択的に用いることにより、本発明の効果を奏することができる。」と記載されるとおり,甲A発明の中間層はブロックコポリマーを用い,第2の最外層にホモポリマーを用いる技術的事情が存在する。そうすると,甲A発明において,中間層及び第2の最外層にランダムコポリマーを用いることの積極的な動機付けがあるということはできない。その余の甲号証の各記載をみても,甲A発明において,中間層にランダムコポリマーを用いることの動機付けは見いだせない。

よって,本件発明6は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明6を引用する本件発明7~9,11~14は,本件発明6の特定事項を全て有するものであるから,甲A発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点A-6を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明6を引用する本件発明7~9,11~14は,甲A発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)訂正後の本件発明6に対し,申立人土田は,甲A段落【0011】,【0045】,【0056】,【0077】,甲C段落【0065】,【0081】,【0082】の各記載を引用して,甲A発明の中間層又は第2の最外層にランダムポリプロピレンを含有させることは当業者が容易になしえる旨主張する(意見書第12~15頁)。

しかしながら,上記(イ)のとおり,甲A発明において,中間層及び第2の最外層にランダムコポリマーを用いることの積極的な動機付けがあるということはできない。また,甲Cには,実施例10の外側樹脂層としてランダムポリプロピレン樹脂である樹脂Hを用いることが記載されるに止まり,このことをもって,甲A発明の中間層にランダムコポリマーを用いることが容易に想到できたとはいえない。

オ 本件発明15について

(ア)本件発明15と,甲A電池発明とを対比する。

甲A電池発明の「タブ評価可能な電池パック」は,「包装材」に「正極タブ及び負極タブ」を融着させ,その後、「電解液」を充填させるものであるから,本件発明15の「電池素子」に相当する(なお,甲A段落【0118】に「蓄電デバイス本体11が封入されていない」とあるが,これは,タブ評価のための便宜であって,電池が正極及び負極(蓄電デバイス本体)を備えることは当然であるから,この点は相違点を構成しない。)。

よって,本件発明15と,甲A電池発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点A-15>

「少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子と、当該電池素子を封止する包装材料と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記包装材料の外側に突出した金属端子とを備える電池であって、
前記金属端子と前記包装材料との間に、金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。」

<相違点A-15>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明15は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲A電池発明は「2枚の甲A発明の蓄電デバイス用端子フィルム」である点。

(イ)上記相違点A-15は,実質的に,上記ア(ア)の相違点A-1,イ(ア)の相違点A-2,ウ(ア)の相違点A-3,又は,エ(ア)の相違点A-6に該当するから,上記相違点A-15は実質的な相違点である。

よって,本件発明15は,甲A電池発明ではない。

(ウ)また,上記相違点A-15の容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明15は,甲A電池発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明16について

(ア)本件発明16と,甲Aタブ発明とを対比する。

甲Aタブ発明の「正極用金属端子」は,本件発明16の「金属端子」に相当する。そして,甲Aタブ発明の「正極用タブ」は,2枚の蓄電デバイス用端子フィルムの間に,正極用金属端子を挟み込み,熱融着させることで作製されるから,本件発明16の「接着性フィルム付き金属端子」に相当する。

なお,甲A段落【0115】の記載によれば,負極用タブも同様に作製されるものであるといえる。

よって,本件発明16と,甲Aタブ発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点A-16>

「金属端子と、前記金属端子の一部を被覆している金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」

<相違点A-16>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明16は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲Aタブ発明は「2枚の甲A発明の蓄電デバイス用端子フィルム」である点。

(イ)上記相違点A-16は,実質的に,上記ア(ア)の相違点A-1,イ(ア)の相違点A-2,ウ(ア)の相違点A-3,又は,エ(ア)の相違点A-6に該当するから,上記相違点A-16は実質的な相違点である。

よって,本件発明16は,甲Aタブ発明ではない。

(ウ)また,上記相違点A-16の容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明16は,甲Aタブ発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲Aによる新規性・進歩性についてのまとめ

以上のとおり,本件発明1,5,7,9~16はいずれも,甲Aに記載された発明ではなく,また,本件発明1~16はいずれも,甲Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲Bによる新規性・進歩性(申立人土田の異議理由1-2,申立人山川の異議理由3-4)について

(1)甲Bに記載された発明

甲Bの記載(請求項1,段落【0027】,【0028】,【0030】,【0031】,【0040】,【0050】,【0051】,【0054】,【0055】,【0059】,【0065】,【0073】,【0074】,【0109】~【0114】,【0135】,【0140】~【0143】,図1~3),特に段落【0027】(蓄電デバイス),【0109】~【0114】(実施例1),【0140】,【0141】(電池パック)よりみて,甲Bには,次の各発明が記載されていると認められる。

<甲B発明>

「蓄電デバイス本体と、包装材と、一対の金属端子と、端子用樹脂フィルムと、を有する蓄電デバイスに用いられる端子用樹脂フィルムであって、
第1の最外層に融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン、中間層に融点162℃のブロック系ポリプロピレン、第2の最外層に第1の最外層と同一の融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用い、
第1の最外層の厚さが33μm、
中間層の厚さが34μm、第2の最外層の厚さが33μmとなるように形成した、
端子用樹脂フィルム。」

<甲Bタブ発明>

「2枚の甲B発明の端子用樹脂フィルム間に、金属端子を挟み込み、金属端子と2枚の端子用樹脂フィルムとを熱融着させることで作製された、金属端子及び2枚の端子用樹脂フィルムよりなるタブ。」

<甲B電池発明>

「包装材の長辺の中点で2つ折りし、2つ折り部の一方に、甲Bタブ発明のタブを挟んで、ヒートシールすることで、包装材とタブとを融着させ、その後、包装材内に、ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合液に6フッ化リン酸リチウムを添加した電解液を充填させ、次いで、包装材の残りの辺をヒートシール処理して作製した、タブ評価可能な電池パック。」

(2)検討

ア 本件発明1,5,7~14について

(ア)本件発明1と,甲B発明とを対比する。

a 甲B発明の「端子用樹脂フィルム」は,これに一対の金属端子を適用してタブを作製し,包装材と融着させて用いるものであり,正極用端子ないし負極用端子と包装材との間に介在されることは明らかであって,本件発明1の「金属端子用接着フィルム」に相当する。

b また,甲B発明の端子用樹脂フィルムは,ランダム系酸変性ポリプロピレンからなる「第1の最外層」,ブロック系ポリプロピレンからなる「中間層」,ランダム系酸変性ポリプロピレンからなる「第2の最外層」を用いて形成したものであるから,上記「第1の最外層」及び「第2の最外層」は本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に,上記「中間層」は本件発明1の「ポリプロピレン層」に,上記各層を総合したものは本件発明1の「少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層」に,各々相当する。そして,甲B発明が,フィルムの少なくとも一方側の表層が酸変性ポリプロピレン層によって構成されていることは明らかである。

c さらに,甲B発明の「端子用樹脂フィルム」は,いずれも「第1の最外層の厚さが33μm、」「第2の最外層の厚さが33μm」かつ「中間層の厚さが34μm」であり,これは,本件発明1の「酸変性ポリプロピレンの厚さは、16μm以上」かつ「ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上」に適合する。

d なお,甲B発明の第1の最外層を構成するランダム系酸変性ポリプロピレンが,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでない。

e そして,甲B発明の積層フィルムは,第1の最外層及び第2の最外層に融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用いているところ,甲C段落【0003】(「融点」の語は,JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に規定された方法で示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で測定された融解ピーク温度を意味する)の記載も踏まえると,これは,本件発明1の「120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」ことに相当する。

f よって,本件発明1と,甲B発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点B-1>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点B-1>

「前記酸変性ポリプロピレン層」が,本件発明1は「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、」かつ「島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」のに対し,甲B発明は,海島構造が観察されるかどうか明らかでない点。

(イ)上記相違点B-1について検討する。

a 上記(ア)dのとおり,甲B発明の第1の最外層を構成するランダム系酸変性ポリプロピレンが,「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」るかどうかは明らかでなく,したがって,島の部分の面積の割合も不明であり,かつ,これらの事項が技術常識よりみて明らかであるともいえないから,上記相違点B-1は実質的な相違点である。よって,本件発明1は,甲B発明ではない。

b また,上記相違点B-1の容易想到性について検討すると,甲Bには「ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。」(段落【0059】)との記載があるところ,ランダム系酸変性ポリプロピレンの場合にも同様な海島構造が観察されるかどうかは不明である。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲B発明の酸変性ポリプロピレン層が「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」るものであるということはできず,甲B発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも,島の部分の面積の割合を特定することの動機付けも見いだせない。

よって,本件発明1は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明1を引用する本件発明5,7~14は,本件発明1の特定事項を全て有するものであるから,甲B発明との対比において,少なくとも上記(ア)fの相違点B-1を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明1を引用する本件発明5,9~12は,甲B発明ではなく,また,本件発明1を引用する本件発明5,7~14は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2,5,7~14について

(ア)本件発明2は,本件発明1の特定事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」との特定事項を有するものである。

よって,本件発明2と,甲B発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点B-2>

上記ア(ア)fの一致点B-1と同じ。

<相違点B-2>

a 上記ア(ア)fの相違点B-1と同じ。

b 本件発明2は「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」のに対し,甲B発明は,中間層がブロック系ポリプロピレンである点。

(イ)上記相違点B-2のうちaについての検討は,上記ア(イ)と同じである。

よって,bについて検討するまでもなく,本件発明2は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明2を引用する本件発明5,7~14は,本件発明2の特定事項を全て有するものであるから,甲B発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点B-2a,bを有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明2を引用する本件発明5,7~14は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3~5,7~9,11~14について

(ア)本件発明3は,本件発明1の特定事項のうち,「金属端子用接着性フィルム」が「ポリプロピレン層を含」む点,「前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であ」る点,及び,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに,「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布の目付が5g/m2以上であ」るというものである。

よって,本件発明3と,甲B発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点B-3>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点B-3>

本件発明3は,「金属端子用接着性フィルム」が「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布」の目付が5g/m2以上であ」るのに対し,甲B発明は,液晶ポリマー不織布を備えていない点。

(イ)上記相違点B-3について検討すると,甲Bの段落【0066】,【0067】には,中間層が「フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む層(強化層)」であってもよい旨の記載はあるが,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備える旨は何ら記載も示唆もされていない。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲B発明において,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備えることの動機付けはみいだせない。

よって,本件発明3は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明3を引用する本件発明4,5,7~9,11~14は,本件発明3の特定事項を全て有するものであるから,甲B発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点B-3を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明3を引用する本件発明4,5,7~9,11~14は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)申立人山川は,融点が200℃以上のポリエステル樹脂(耐熱樹脂)としては,芳香族ポリエステル樹脂(液晶ポリマー)が挙げられることは当業者の技術常識であり,不織布の目付を5g/m2以上とすることは当業者が適宜なし得たことである旨主張する(意見書第10~11頁:(4),特許異議申立書第79~80頁:(エ))。

しかしながら,申立人山川も認めるとおり,甲Bには特定目付値の液晶ポリマー不織布を備える旨は何ら記載も示唆もない。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲B発明において,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備えることの動機付けが見いだせないことは,上記(イ)のとおりである。

エ 本件発明6~9,11~14について

(ア)本件発明6は,本件発明1の特定事項のうち,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」というものである。

よって,本件発明6と,甲B発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点B-6>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点B-6>

a 前記酸変性ポリプロピレン層が,本件発明6は「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るのに対し,甲B発明は,海島構造が観察されるかどうか明らかでない点。

b 本件発明6は「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」のに対し,甲B発明は,中間層がブロックポリプロピレンである点。

(イ)上記相違点B-6のうちaについて検討すると,上記ア(ア)dのとおり,甲B発明の第1の最外層を構成するランダム系酸変性ポリプロピレンが,本件発明6の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでない。また,甲Bには「ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。」(段落【0059】)との記載があるところ,ランダム系酸変性ポリプロピレンの場合にも同様な海島構造が観察されるかどうかは不明である。その余の甲号証の記載をみても,甲B発明の酸変性ポリプロピレン層が「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」るものであるということはできず,また,甲B発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも見いだせない。

よって,bについて検討するまでもなく,本件発明6は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明6を引用する本件発明7~9,11~14は,本件発明6の特定事項を全て有するものであるから,甲B発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点B-6a,bを有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明6を引用する本件発明7~9,11~14は,甲B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明15について

(ア)本件発明15と,甲B電池発明とを対比する。

甲B電池発明の「タブ評価可能な電池パック」は,「包装材」に「タブ」を融着させ,その後、「電解液」を充填させるものであるから,本件発明15の「電池素子」に相当する(なお,甲B段落【0141】に「蓄電デバイス本体11が封入されていない」とあるが,これは,タブ評価のための便宜であって,電池が正極及び負極(蓄電デバイス本体)を備えることは当然であるから,この点は相違点を構成しない。)。

よって,本件発明15と,甲B電池発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点B-15>

「少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子と、当該電池素子を封止する包装材料と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記包装材料の外側に突出した金属端子とを備える電池であって、
前記金属端子と前記包装材料との間に、金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。」

<相違点B-15>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明15は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲B電池発明は「一対の甲B発明の端子用樹脂フィルム」である点。

(イ)上記相違点B-15は,実質的に,上記ア(ア)の相違点B-1,イ(ア)の相違点B-2,ウ(ア)の相違点B-3,又は,エ(ア)の相違点B-6に該当するから,上記相違点B-15は実質的な相違点である。

よって,本件発明15は,甲B電池発明ではない。

(ウ)また,上記相違点B-15の容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明15は,甲B電池発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明16について

(ア)本件発明16と,甲Bタブ発明とを対比する。

甲Bタブ発明の「金属端子」は,本件発明16の「金属端子」に相当する。そして,甲Bタブ発明の「タブ」は,2枚の端子用樹脂フィルムの間に,金属端子を挟み込み,熱融着させることで作製されるから,本件発明16の「接着性フィルム付き金属端子」に相当する。

よって,本件発明16と,甲Bタブ発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点B-16>

「金属端子と、前記金属端子の一部を被覆している金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」

<相違点B-16>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明16は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲Bタブ発明は「2枚の甲B発明の蓄電デバイス用端子フィルム」である点。

(イ)上記相違点B-16は,実質的に,上記ア(ア)の相違点B-1,イ(ア)の相違点B-2,ウ(ア)の相違点B-3,又は,エ(ア)の相違点B-6に該当するから,上記相違点B-16は実質的な相違点である。

よって,本件発明16は,甲Bタブ発明ではない。

(ウ)また,上記相違点B-16の容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明16は,甲Bタブ発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲Bによる新規性・進歩性についてのまとめ

以上のとおり,本件発明1,5,9~12,14~16はいずれも,甲Bに記載された発明ではなく,また,本件発明1~16はいずれも,甲Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 甲Cによる新規性・進歩性(申立人山川の異議理由3-1)について

(1)甲Cに記載された発明

甲Cの記載(請求項1,3,4,11,段落【0001】,【0003】,【0009】,【0029】,【0037】,【0038】,【0043】,【0052】,【0055】,【0059】,【0061】,【0065】,【0081】,【0084】,【0090】,図1~3),特に実施例10の記載よりみて,甲Cには,次の各発明が記載されていると認められる。

<甲C発明>

「樹脂組成物Bからなる厚さ40μmのベース樹脂層の一方の面に樹脂Hからなる厚さ30μmの外側樹脂層が積層されると共に前記ベース樹脂層の他方の面に樹脂Gからなる厚さ30μmの内側樹脂層が積層された構成を備えたタブ封止用絶縁フィルムであって、
樹脂組成物Bが、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂85質量部、エチレン-プロピレンラバー(EPR)15質量部を溶融混練して得られた樹脂組成物であり、融点が168℃であり、
樹脂Hが、ランダムポリプロピレン樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体)であり、融点が140℃であり、
樹脂Gが、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であり、融点が134℃である、タブ封止用絶縁フィルム。」

<甲Cタブ発明>

「甲C発明のタブ封止用絶縁フィルムの内側樹脂層の表面を、タブリード材の表面に重ね合わせた、タブ。」

<甲C電池発明>

「外装材と、
前記外装材に収容されている電気化学素子と、
内端部が前記電気化学素子に接続されると共に、外端部が前記外装材の外部に配置される甲Cタブ発明のタブと、を備え、
前記外装材のシール部によって前記タブの両面を甲C発明のタブ封止用絶縁フィルムを介して挟み込んだ状態で、前記外装材のシール部が前記タブの両面に接合されている、電気化学デバイス。」

(2)検討

ア 本件発明1,5,7,9~14について

(ア)本件発明1と,甲C発明とを対比する。

a 甲C発明の「タブ封止用絶縁フィルム」は,タブリード材の表面に重ね合わせ,これを介して外装材のシール部に接合させるものであり,正極用端子ないし負極用端子と外装材との間に介在されることは明らかであって,本件発明1の「金属端子用接着フィルム」に相当する。

b また,甲C発明のタブ封止用絶縁フィルムは,「ベース樹脂層」として「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂85質量部、エチレン-プロピレンラバー(EPR)15質量部を溶融混練して得られた」「樹脂組成物B」,「外側樹脂層」として「ランダムポリプロピレン樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体)」からなる「樹脂H」,「内側樹脂層」として「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」からなる「樹脂G」を備えており,上記「ベース樹脂層」及び「内側樹脂層」は本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に,上記「外側樹脂層」は本件発明1の「ポリプロピレン層」に,上記各層を総合したものは本件発明1の「少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層」に,各々相当する。そして,甲C発明が,フィルムの少なくとも一方側の表層が酸変性ポリプロピレン層によって構成されていることは明らかである。

c さらに,甲C発明のタブ封止用絶縁フィルムは,「厚さ40μmのベース樹脂層」,「厚さ30μmの外側樹脂層」及び「厚さ30μmの内側樹脂層」を備えており,これは,本件発明1の「酸変性ポリプロピレンの厚さは、16μm以上であり、」かつ「ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、」に適合する。

d なお,甲C発明の「内側樹脂層」すなわち「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」からなる「樹脂G」が,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでない。

e そして,甲C発明のタブ封止用絶縁フィルムは,「樹脂H」の「融点が140℃」であり,「樹脂G」の「融点が134℃」であるところ,甲C段落【0003】(「融点」の語は,JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に規定された方法で示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で測定された融解ピーク温度を意味する)の記載も踏まえると,これは,本件発明1の「120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」ことに相当する。

f よって,本件発明1と,甲C発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点C-1>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点C-1>

「前記酸変性ポリプロピレン層」が,本件発明1は「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、」かつ「島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」のに対し,甲C発明は,海島構造が観察されるかどうか明らかでない点。

(イ)上記相違点C-1について検討する。

a 上記(ア)dのとおり,甲C発明の「内側樹脂層」すなわち「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」からなる「樹脂G」が,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでなく,したがって,島の部分の面積の割合も不明であり,かつ,これらの事項が技術常識よりみて明らかであるともいえないから,上記相違点C-1は実質的な相違点である。よって,本件発明1は,甲C発明ではない。

b また,上記相違点C-1の容易想到性について検討すると,甲Cには,酸変性ポリプロピレン(又は第1樹脂成分)中で熱可塑性エラストマーが約0.3μm~約15μmの大きさの独立した球状分散相を形成する旨の記載(段落【0030】)があるが,一方で,相分離構造において熱可塑性エラストマー相が略板状に相分離している旨の記載(段落【0038】)もあり,また,実施例の記載(段落【0064】~【0088】)をみても,海島構造も,島の部分の面積の割合も,何ら示されていないものである。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲C発明の酸変性ポリプロピレン層が「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」るものであるということはできず,甲C発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも,島の部分の面積の割合を特定することの動機付けもみいだせない。

よって,本件発明1は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明1を引用する本件発明5,7,9~14は,本件発明1の特定事項を全て有するものであるから,甲C発明との対比において,少なくとも上記(ア)fの相違点C-1を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明1を引用する本件発明5,7,9~11は,甲C発明ではなく,また,本件発明1を引用する本件発明5,7,9,11~14は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)申立人山川は,甲C段落【0037】及び【0038】を引用して,甲Cにおけるベース樹脂層は,熱可塑性エラストマーが酸変性ポリプロピレン中で相分離構造(海島構造)を形成していると考えるのが妥当である旨主張するが(意見書第1~5頁:(1)),甲C発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも,島の部分の面積の割合を特定することの動機付けもみいだせないことは,上記(イ)bのとおりである。

イ 本件発明2,5,7,9~14について

(ア)本件発明2は,本件発明1の特定事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」との特定事項を有するものである。

よって,本件発明2と,甲C発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点C-2>

上記ア(ア)fの一致点C-1と同じ。

<相違点C-2>

上記ア(ア)fの相違点C-1と同じ。

(イ)上記相違点C-2についての検討は,上記ア(イ)と同じである。

よって,本件発明2は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明2を引用する本件発明5,7,9~14は,本件発明2の特定事項を全て有するものであるから,甲C発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点C-2を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明2を引用する本件発明5,7,9~14は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3~5,7,9,11~14について

(ア)訂正前の請求項3に係る発明は異議理由の対象となっていないが,職権により検討する。

本件発明3は,本件発明1の特定事項のうち,「金属端子用接着性フィルム」が「ポリプロピレン層を含」む点,「前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であ」る点,及び,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに,「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布の目付が5g/m2以上であ」るというものである。

よって,本件発明3と,甲C発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点C-3>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点C-3>

本件発明3は,「金属端子用接着性フィルム」が「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布」の目付が5g/m2以上であ」るのに対し,甲C発明は,液晶ポリマー不織布を備えていない点。

(イ)上記相違点C-3について検討すると,甲Bの段落【0066】,【0067】には,中間層が「フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む層(強化層)」であってもよい旨の記載はあるが,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備える旨は何ら記載も示唆もされていない。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲C発明において,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備えることの動機付けは見いだせない。

よって,本件発明3は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明3を引用する本件発明4,5,7,9,11~14は,本件発明3の特定事項を全て有するものであるから,甲C発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点C-3を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明3を引用する本件発明4,5,7,9,11~14は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明6,7,9,11~14について

(ア)本件発明6は,本件発明1の特定事項のうち,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」というものである。

よって,本件発明6と,甲C発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点C-6>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察され、
前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる、金属端子用接着性フィルム。」

<相違点C-6>

前記酸変性ポリプロピレン層が,本件発明6は「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るのに対し,甲C発明は,海島構造が観察されるかどうか明らかでない点。

(イ)上記相違点C-6について検討すると,上記ア(ア)dのとおり,甲C発明の「内側樹脂層」すなわち「無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」からなる「樹脂G」が,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでない。また,甲Cには,ベース樹脂層に関して,熱可塑性エラストマーが酸変性ポリプロピレン中で層分離構造を形成している旨が記載されているが(段落【0037】),当該記載はベース樹脂層に関するものであって内側樹脂層ではなく,内側樹脂層の酸変性ポリプロピレン樹脂を熱可塑性エラストマーを含む相分離構造とする動機付けは認められない。仮に甲C発明において,内側樹脂層として酸変性ポリプロピレンに熱可塑性エラストマーを含むものを採用し得たとしても,その相分離構造は「前記相分離構造において熱可塑性エラストマー層が略板状に相分離しているもの」(段落【0038】)であり,これは海島構造には相当しない。また,甲Bは「ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレン中にEPR及びポリエチレンが島状に分散した構成(海島構造)を有している。」(段落【0059】)との記載があるところ,ランダム系酸変性ポリプロピレンの場合にも同様な海島構造が観察されるかどうかは不明である。その余の甲号証の記載をみても,甲C発明の酸変性ポリプロピレン層が「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」るものであるということはできず,また,甲C発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも見いだせない。

よって,本件発明6は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明6を引用する本件発明7,9,11~14は,本件発明6の特定事項を全て有するものであるから,甲C発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点C-6を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明6を引用する本件発明7,9,11~14は,甲C発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明15について

(ア)本件発明15と,甲C電池発明とを対比する。

甲C電池発明の「電気化学デバイス」は,外装材のシール部によってタブの両面を甲C発明のタブ封止用絶縁フィルムを介して挟み込んだ状態で,前記外装材のシール部が前記タブの両面に接合されており,その後,「電解液」を充填させることは明らかであるから,本件発明15の「電池素子」に相当する。

よって,本件発明15と,甲C電池発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点C-15>

「少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子と、当該電池素子を封止する包装材料と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記包装材料の外側に突出した金属端子とを備える電池であって、
前記金属端子と前記包装材料との間に、金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。」

<相違点C-15>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明15は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲C電池発明は「甲C発明のタブ封止用絶縁フィルム」である点。

(イ)上記相違点C-15は,実質的に,上記ア(ア)の相違点C-1,イ(ア)の相違点C-2,ウ(ア)の相違点C-3,又は,エ(ア)の相違点C-6に該当するから,上記相違点C-15は実質的な相違点である。

よって,本件発明15は,甲C電池発明ではない。

(ウ)また,上記相違点C-15の容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明15は,甲C電池発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明16について

(ア)本件発明16と,甲Cタブ発明とを対比する。

甲Cタブ発明の「タブリード材」は,本件発明16の「金属端子」に相当する。そして,甲Cタブ発明の「タブ」は,タブ封止用絶縁フィルムの表面を,タブリード材の表面に重ね合わせたものであるから,本件発明16の「接着性フィルム付き金属端子」に相当する。

よって,本件発明16と,甲Cタブ発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点C-16>

「金属端子と、前記金属端子の一部を被覆している金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」

<相違点C-16>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明16は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲Cタブ発明は「甲C発明のタブ封止用絶縁フィルム」である点。

(イ)上記相違点C-16は,実質的に,上記ア(ア)の相違点C-1,イ(ア)の相違点C-2,ウ(ア)の相違点C-3,又は,エ(ア)の相違点C-6に該当するから,上記相違点C-16は実質的な相違点である。

よって,本件発明16は,甲Cタブ発明ではない。

(ウ)また,相違点C-16の容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明16は,甲Cタブ発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲Cによる新規性・進歩性についてのまとめ

以上のとおり,本件発明1,2,6,7,9~11,14~16はいずれも,甲Cに記載された発明ではなく,また,本件発明1,2,5~7,9~16はいずれも,甲Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 甲Dによる進歩性(申立人山川の異議理由3-2)について

甲Dの記載(段落[0001],[0010],[0016],[0017],[0019]~[0024],[0026]~[0031],[0037],[0038],[0051],請求項1,2,図1~4),特に段落[0038](実施例1),[0037](タブ)及び[0017](電池パック)よりみて,甲Dには,次の各発明が記載されていると認められる。

<甲D発明>

「最内層に融点が145℃のPPa(酸変性ポリプロピレン)を用い、中間層に融点が160℃のPP(ポリプロピレン)を用い、最外層に融点が153℃であり本体包装材の内層と同一組成のPPを用い、各層の材料樹脂を、三種三層のインフレーション法で積層し、各層の膜厚が30μmであり、三層合計の厚さ(総厚)が90μmとなるように作成した、タブシーラント。」

<甲Dタブ発明>

「最内層どうしを対向させた2枚の甲D発明のタブシーラントの間にリードを配置し、熱融着を行って作成した、タブ。」

<甲D電池発明>

「二次電池に用いられる公知の各種の発電要素が本体包装材で包まれた電池本体と、電池本体に取り付けられて電極端子として機能する甲Dタブ発明のタブとを備えている、電池パック。」

(2)検討

ア 本件発明1,5,7,9~14について

(ア)本件発明1と,甲D発明とを対比する。

a 甲D発明の「タブシーラント」は,2枚のタブシーラントの間にリードを配置し,熱融着を行ってタブを作成し,電極端子として用いるものであり,リードと本体包装材との間に介在されることは明らかであって,本件発明1の「金属端子用接着フィルム」に相当する。

b また,甲D発明のタブシーラントは,「最内層」として「PPa(酸変性ポリプロピレン)」,「中間層」として「PP(ポリプロピレン)」,「最外層」として「本体包装材の内層と同一組成のPP」を用いており,上記「最内層」は本件発明1の「酸変性ポリプロピレン層」に,上記「中間層」及び「最外層」は本件発明1の「ポリプロピレン層」に,上記各層を総合したものは本件発明1の「少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層」に,各々相当する。そして,甲D発明が,フィルムの少なくとも一方側の表層が酸変性ポリプロピレン層によって構成されていることは明らかである。

c さらに,甲D発明のタブシーラントは,「各層の膜厚が30μmであり、三層合計の厚さ(総厚)が90μmとなるように作成した」ものであり,これは,本件発明1の「酸変性ポリプロピレンの厚さは、16μm以上であり、」かつ「ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、」に適合する。

d なお,甲D発明の「最内層」である「PPa(酸変性ポリプロピレン)」が,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでない。

e そして,甲D発明のタブシーラントは,「最内層」の「融点が145℃」であり,「最外層」の「融点が153℃」であるところ,甲C段落【0003】(「融点」の語は,JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に規定された方法で示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で測定された融解ピーク温度を意味する)の記載も踏まえると,これは,本件発明1の「120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される」ことに相当する。

f よって,本件発明1と,甲D発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点D-1>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点D-1>

「前記酸変性ポリプロピレン層」が,本件発明1は「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され、」かつ「島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」のに対し,甲D発明は,海島構造が観察されるかどうか明らかでない点。

(イ)上記相違点D-1について検討すると,甲D段落[0024]には,最内層の材料として酸変性させたポリオレフィン樹脂を用いることができ,ポリオレフィン樹脂としてホモ,ブロック,またはポリプロピレンが挙げられることが記載されているが,最内層の樹脂断面の構造については何ら記載も示唆もされておらず,上記(ア)dのとおり,甲D発明の「最内層」である「PPa(酸変性ポリプロピレン)」が,本件発明1の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでなく,したがって,島の部分の面積の割合も不明である。

また,甲A段落【0071】や甲B段落【0059】には,ブロックポリプロピレンが海島構造を有することが記載されているが,甲D発明において,酸変性ポリプロピレンをブロックポリプロピレンに特定する積極的な動機付けは認められないし,仮にブロックポリプロピレンに特定したとしても,その樹脂断面が当然に海島構造であり,島の部分の面積の割合を特定できるものとまでいうことはできない。その余の甲号証の各記載をみても,甲D発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも,島の部分の面積の割合を特定することの動機付けも見いだせない。

よって,本件発明1は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明1を引用する本件発明5,7,9~14は,本件発明1の特定事項を全て有するものであるから,甲D発明との対比において,少なくとも上記(ア)fの相違点D-1を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明1を引用する本件発明5,7,9~14は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)申立人山川は,甲D段落[0024],甲A段落【0071】及び甲B段落【0059】を引用して,概要,本件発明1は,甲Dの記載に基いて当業者が容易に想到し得たものである旨主張するが(意見書第5~6頁:(2),特許異議申立書第64~66頁:(イ)a.),当該主張が採用できないことは,上記(イ)のとおりである。

イ 本件発明2,5,7,9~14について

(ア)本件発明2は,本件発明1の特定事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」との特定事項を有するものである。

よって,本件発明2と,甲D発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点D-2>

上記ア(ア)fの一致点D-1と同じ。

<相違点D-2>

a 上記ア(ア)fの相違点D-1と同じ。

b 本件発明2は「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」のに対し,甲D発明は,PPがランダムポリプロピレンを含んでいるかどうか不明である点。

(イ)上記相違点D-2のうちaについての検討は,上記ア(イ)と同じである。

よって,bについて検討するまでもなく,本件発明2は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明2を引用する本件発明5,7,9~14は,本件発明2の特定事項を全て有するものであるから,甲D発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点D-2a,bを有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明2を引用する本件発明5,7,9~14は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3,5,7,9~14について

(ア)本件発明3は,本件発明1の特定事項のうち,「金属端子用接着性フィルム」が「ポリプロピレン層を含」む点,「前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であ」る点,及び,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに,「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布の目付が5g/m2以上であ」るというものである。

よって,本件発明3と,甲D発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点D-3>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、
金属端子用接着性フィルム。」

<相違点D-3>

本件発明3は,「金属端子用接着性フィルム」が「液晶ポリマー不織布」を備えており,「前記液晶ポリマー不織布」の目付が5g/m2以上であ」るのに対し,甲D発明は,液晶ポリマー不織布を備えていない点。

(イ)上記相違点D-3について検討すると,甲Bの段落【0066】,【0067】には,中間層が「フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む層(強化層)」であってもよい旨の記載はあるが,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備える旨は何ら記載も示唆もされていない。また,その余の甲号証の各記載をみても,甲D発明において,特定目付値の液晶ポリマー不織布を備えることの動機付けはみいだせない。

よって,本件発明3は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明3を引用する本件発明4,5,7,9,11~14は,本件発明3の特定事項を全て有するものであるから,甲D発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点D-3を有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明3を引用する本件発明4,5,7,9,11~14は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明6,7,9~14について

(ア)本件発明6は,本件発明1の特定事項のうち,「前記酸変性ポリプロピレン層の海島構造において,島の部分の面積の割合は、10%以上50%以下である」点以外の事項を全て有し,さらに「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」というものである。

よって,本件発明6と,甲D発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点D-6>

「電池素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記電池素子を封止する包装材料との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、少なくとも1層のポリオレフィン骨格を有する樹脂層を備えており、
前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層を含んでおり、
前記金属端子用接着性フィルムの少なくとも一方側の表層は、前記酸変性ポリプロピレン層によって構成されており、
前記酸変性ポリプロピレン層の厚さは、16μm以上であり、
前記ポリプロピレン層の厚さは、30μm以上であり、
前記金属端子用接着性フィルムを示差走査熱量計で測定した場合に、前記ポリオレフィン骨格を有する樹脂層は、120℃以上156℃以下の範囲に融解ピークが観察される、金属端子用接着性フィルム。」

<相違点D-6>

a 前記酸変性ポリプロピレン層が,本件発明6は「断面を電子顕微鏡で観察した際に海島構造が観察され」るのに対し,甲D発明は,海島構造が観察されるかどうか明らかでない点。

b 本件発明6は「前記ポリプロピレン層は、ランダムポリプロピレンを含んでいる」のに対し,甲D発明は,PPがランダムポリプロピレンを含んでいるかどうか不明である点。

(イ)上記相違点D-6のうちaについて検討すると,甲D段落[0024]には,最内層の材料として酸変性させたポリオレフィン樹脂を用いることができ,ポリオレフィン樹脂としてホモ,ブロック,またはポリプロピレンが挙げられることが記載されているが,最内層の樹脂断面の構造については何ら記載も示唆もされておらず,上記(ア)dのとおり,甲D発明の「最内層」である「PPa(酸変性ポリプロピレン)」が,本件発明6の「断面を顕微鏡観察した際に海島構造が観察され」ることに相当するかどうかは明らかでなく,したがって,島の部分の面積の割合も不明である。

また,甲A段落【0071】や甲B段落【0059】には,ブロックポリプロピレンが海島構造を有することが記載されているが,甲D発明において,酸変性ポリプロピレンをブロックポリプロピレンに特定する積極的な動機付けは認められないし,仮にブロックポリプロピレンに特定したとしても,その樹脂断面が当然に海島構造であり,島の部分の面積の割合を特定できるものとまでいうことはできない。その余の甲号証の各記載をみても,甲D発明の酸変性ポリプロピレン層を,海島構造を有するものに特定する動機付けも,島の部分の面積の割合を特定することの動機付けもみいだせない。

よって,bについて検討するまでもなく,本件発明6は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明6を引用する本件発明7,9,11~14は,本件発明6の特定事項を全て有するものであるから,甲D発明との対比において,少なくとも上記(ア)の相違点D-6a,bを有する。

そして,上記(イ)と同様の理由により,本件発明6を引用する本件発明7,9,11~14は,甲D発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明15について

(ア)本件発明15と,甲D電池発明とを対比する。

甲D電池発明の「電池パック」は,二次電池に用いられる公知の各種の「発電要素」が「本体包装材」で包まれた電池本体と,電池本体に取り付けられて電極端子として機能する「タブ」とを備えるものである。そして,上記「発電要素」は本件発明15の「正極、負極、及び電解液を備えた電池素子」に,上記「本体包装材」は本件発明15の「包装材」に,上記「タブ」は本件発明15の「金属端子」に,各々相当する。

よって,本件発明15と,甲D電池発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点D-15>

「少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた電池素子と、当該電池素子を封止する包装材料と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記包装材料の外側に突出した金属端子とを備える電池であって、
前記金属端子と前記包装材料との間に、金属端子用接着性フィルムが介在される、電池。」

<相違点D-15>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明15は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲D電池発明は「甲D発明のタブシーラント」である点。

(イ)上記相違点D-15は,実質的に,上記ア(ア)の相違点D-1,イ(ア)の相違点D-2,ウ(ア)の相違点D-3,又は,エ(ア)の相違点D-6に該当し,その容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明15は,甲D電池発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明16について

(ア)本件発明16と,甲Dタブ発明とを対比する。

甲Dタブ発明の「リード」は,本件発明16の「金属端子」に相当する。そして,甲Dタブ発明のタブは,2枚のタブシーラントの間にリードを配置し,熱融着を行って作成したものであるから,本件発明16の「接着性フィルム付き金属端子」に相当する。

よって,本件発明16と,甲Dタブ発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点D-16>

「金属端子と、前記金属端子の一部を被覆している金属端子用接着性フィルムとを備える、接着性フィルム付き金属端子。」

<相違点D-16>

「金属端子用接着性フィルム」が,本件発明16は「請求項1~14のいずれかに記載の金属端子用接着性フィルム」であるのに対し,甲Dタブ発明は「2枚の甲D発明のタブシーラント」である点。

(イ)上記相違点D-16は,実質的に,上記ア(ア)の相違点D-1,イ(ア)の相違点D-2,ウ(ア)の相違点D-3,又は,エ(ア)の相違点D-6に該当し,その容易想到性について検討すると,上記ア(イ),イ(イ),ウ(イ),又は,エ(イ)と同様の理由が該当する。

よって,本件発明16は,甲Dタブ発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲Dによる進歩性についてのまとめ

以上のとおり,本件発明1,5,7,9~16はいずれも,甲Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 実施可能要件・明確性(取消理由3,申立人山川の異議理由3-5)について

(1)「海島構造」について

ア 申立人山川の異議理由3-5アは,本件特許についての出願は,発明の詳細な説明の記載が「酸変性ポリプロピレン層」の「海島構造」について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないし,特許を受けようとする発明が明確でない点で,特許法第36条第4項第1号,第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,請求項1,2,5~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する,というものである。

イ 上記アについて検討すると,発明の詳細な説明の段落【0048】には,ポリプロピレン層が特定の海島構造となる組成として,ブロックポリプロピレンが挙げられるとともに,実施例1,2及び比較例8には,酸変性ポリプロピレンとしてブロックベースの無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いた場合に特定の海島構造となることも示されている(段落【0130】表2)。

ウ よって,発明の詳細な説明は,「酸変性ポリプロピレン層」の「海島構造」について,当業者が請求項1,2,5~16に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるし,また,特許を受けようとする発明が明確であるといえる。

(2)「厚さ残存率」及び「熱収縮率」について

ア 取消理由3,申立人山川の異議理由3-5イは,本件特許についての出願は,発明の詳細な説明の記載が「厚さ残存率」及び「熱収縮率」について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,請求項9~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する(当審注:申立人山川の特許異議申立書第81頁(イ)に「本件請求項8及び9では…」とあるのは,「本件請求項9及び10では…」の誤記と解される。),というものである。

イ(ア)本件特許の請求項9は,「金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率が、40%以上である」ことを特定するものである。

これに対し,発明の詳細な説明には,金属端子用接着性フィルムの厚さ残存率は,ポリオレフィン骨格を有する樹脂層の積層構成,組成,融点,メルトマスフローレート(MFR),厚み,軟化点や,樹脂層を形成する際の加熱温度,加熱速度,冷却温度,冷却速度,加工速度などによって調整することができることが記載されるとともに,具体的実施例も示されている(段落【0032】,【0116】,【0129】表1)。

(イ)本件特許の請求項10は,「金属端子用接着性フィルムの流れ方向の熱収縮率が、40%以上95%以下である」ことを特定するものである。

ここで,訂正前の請求項10は,請求項3を引用する場合を含み,発明の詳細な説明の「ただし、本発明の金属端子用接着性フィルム1が、後述の支持部材として繊維質シートなどを含む場合には、熱収縮率は、通常、これらの値よりも小さくなる。」(段落【0034】),実施例3(液晶ポリマー不織布を用いた例)の熱収縮率「0.9%」(段落【0129】表1)の記載によれば,当業者は,どのようにすれば液晶ポリマー製不織布を含む金属端子用接着性フィルムの熱収縮率を請求項10に記載された特定の範囲にすることができるのか,理解することができないものとなっていた。

これに対し,本件訂正により,請求項10は請求項3を引用しないものとなったから,上記事情は解消した。

ウ よって,発明の詳細な説明は,「厚さ残存率」及び「熱収縮率」について,当業者が請求項9~16に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

(3)実施可能要件・明確性についてのまとめ

以上のとおり,本件特許の請求項1,2,5~16に係る特許についての出願は,発明の詳細な説明の記載が,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているし,特許を受けようとする発明も明確であるから,特許法第36条第4項第1号,第6項第2号に規定する要件を満たしているものである。

6 明確性(申立人赤松の異議理由2-2)について

(1)「酸変性ポリプロピレン層の厚さ」及び「ポリプロピレン層の厚さ」の上限について

申立人赤松の異議理由2-2は,本件特許についての出願は,特許請求の範囲の記載が「酸変性ポリプロピレン層の厚さ」及び「ポリプロピレン層の厚さ」の上限値を特定していない点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,請求項1~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する,というものである。

(2)検討

ア 上記(1)について検討すると,酸変性ポリプロピレン及びポリプロピレン層の層厚の上限がなくとも,特許を受けようとする発明は明確に理解できる。

そして,本件発明1~16は,多様な形状が要求されると共に,薄型化や軽量化も求められる電池包装材料について,金属端子との密着性を高めることなどを目的として配される「接着性フィルム」に関し,「電解液に接触した場合の金属端子との密着性に優れた金属端子用接着性フィルムを提供すること」という課題(段落【0008】)を解決する構成として特定されたものであるから,当該課題を解決する手段についても,上記の多様な形状,薄型化や軽量化を前提としていることは当然であって,単に数値範囲の上限値を特定しないことのみをもって発明が不明確であるということはできない。

イ 申立人赤松は,意見書において,概要,上記(1)と同旨の主張を再掲しているが(意見書第4頁(3)),当該主張が採用できないことは,上記アのとおりである。

(3)明確性についてのまとめ

以上のとおり,本件特許の請求項1~16に係る特許についての出願は,特許請求の範囲の記載が明確であるから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものである。

7 サポート要件(申立人山川の異議理由3-6)について

(1)「酸変性ポリプロピレン層」,「ポリプロピレン層」,「厚さ残存率」及び「表面粗さ」の上限について

ア 申立人山川の異議理由3-6アは,本件特許についての出願は,特許請求の範囲に記載された「酸変性ポリプロピレン層」,「ポリプロピレン層」,「厚さ残存率」及び「表面粗さ」の上限がどのような値であっても発明の課題を解決できるとはいえず,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,請求項1~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する,というものである。

イ 上記アについて検討すると,発明の詳細な説明には,本件特許に係る背景技術が,多様な形状が要求されると共に,薄型化や軽量化も求められる電池包装材料について,金属端子との密着性を高めることなどを目的として配される「接着性フィルム」(段落【0002】~【0005】)に関するものであり,そのうえで,発明が解決しようとする課題は「電解液に接触した場合の金属端子との密着性に優れた金属端子用接着性フィルムを提供すること」(段落【0008】)にあるとされている。そうすると,当該課題を解決する手段における「酸変性ポリプロピレン」,「ポリプロピレン層」,「厚さ残存率」及び「表面粗さ」はいずれも,上記の背景技術における多様な形状,薄型化や軽量化を前提としていることは当然であるといえるから,単に数値範囲の上限を特定しないことのみをもって,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するということはできない。

(2)「酸変性ポリプロピレン層」の位置について

ア 申立人山川の異議理由3-6イは,本件特許についての出願は,特許請求の範囲に記載された「酸変性ポリプロピレン層」が金属端子側に位置するように用いられることが特定されておらず,発明の課題を解決できない態様を含んでいる点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,請求項1~16に係る特許は,同法第113条第4号に該当する,というものである。

イ 上記アについて検討すると,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題として「電解液に接触した場合の金属端子との密着性に優れた金属端子用接着性フィルムを提供すること」(段落【0008】)が記載され,また,酸変性ポリプロピレン層は,金属材料に対する密着性に優れていること(段落【0021】)が記載されている。そうすると,上記課題を解決する手段として,「酸変性ポリプロピレン層」が金属端子側に位置するように用いられることは,技術的に当然であるといえるから,当該事項が特定されていないことのみをもって,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するということはできない。

(3)サポート要件についてのまとめ

以上のとおり,本件特許の請求項1~16に係る特許についての出願は,特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載されたものであるから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものである。

第6 むすび

以上のとおり,当審による取消理由及び3人の特許異議申立人が主張する異議理由によっては,本件の請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。

また,外に本件の請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。

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2020-700925

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