特許異議申立
2025-700124
アルカリ金属二次電池とその用途
- 審判番号
- 2025-700124
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-575233
- 登録番号
- 7524232
- 請求日
- 2025年01月28日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー.
- 【権利者代理人】斉藤 達也
- 【権利者】テヒニッシェ・ウニヴェルジテート・ドレスデン
- 【権利者代理人】斉藤 達也
- 【異議申立人】夏目 由美
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 岩間 直純
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7524232号発明「アルカリ金属二次電池とその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7524232号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、請求後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
特許第7524232号の請求項1、6、9、11、13、14、15及び16に係る特許を維持する。
特許第7524232号の請求項2、3、4、5、7、8、10、及び12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7524232号の請求項1~16に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)6月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2019年(令和1年)6月18日 ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、令和6年7月19日にその特許権の設定登録がされ、令和6年7月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~16に対して、令和7年1月28日に特許異議申立人 夏目 由美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和7年 6月 5日付け:取消理由通知
令和7年 9月 3日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
令和7年11月18日 :意見書の提出(申立人)
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 請求の趣旨
令和7年9月3日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7524232号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求める。」というものである。
2 本件訂正の内容
本件訂正請求書に記載された訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質と、を含み、」と記載されているのを、「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である前記電解質と、を含み、」に訂正し、「前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、」と記載されているのを、「前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ、」に訂正し、「前記炭素層は、第2のタイプの細孔及び/又は前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、」と記載されているのを、「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ、」に訂正し、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含み、」との記載を追加し、「前記第1のタイプの細孔は、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する、」と記載されているのを、「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する、」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正を行う。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正を行う。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正を行う。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正を行う。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する訂正を行う。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する訂正を行う。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1又は6に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10を削除する訂正を行う。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、及び9のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正する。
(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12を削除する訂正を行う。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1から12のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、及び11のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正する。
(14) 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1~13のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、11、及び13のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正する。
(15) 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項15に「請求項1~14のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、11、13、及び14のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正する。
(16) 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項16に「請求項1~15のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池の使用。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、11、13、14、及び15のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池の使用。」に訂正する。
3 訂正の適否
(1) 一群の請求項について
訂正事項1~16に係る訂正前の請求項1~16について、訂正前の請求項2~16はそれぞれ訂正の対象となる請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~16に対応する訂正後の請求項1、6、9、11、13~16は一群の請求項を構成する。
(2) 各訂正事項について
以下、各訂正事項について、訂正の適否を検討する。
ア 訂正事項1
(ア) 訂正の目的
まず、請求項1に、「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質と、を含み、」と記載されているのを、「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である前記電解質と、を含み、」に訂正する点は、「前記電解質」について限定を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、「前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、」と記載されているのを、「前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ、」に訂正する点は、「前記第1のタイプの細孔」について限定を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、「前記炭素層は、第2のタイプの細孔及び/又は前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、」と記載されているのを、「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ、」に訂正する点は、「第2のタイプの細孔及び/又は前記電解質にアクセス可能な空洞」との選択的な記載を、「前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞」と訂正することで、「第2のタイプの細孔」、「前記電解質にアクセス可能な空洞」について「及び/又は」との選択的な記載を「及び」と限定したうえで、さらに、「第2のタイプの細孔」について「電解質にアクセス可能な」との限定を付加するものである。よって、当該訂正点は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含み、」との記載を追加する点は、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞」について更に限定を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、「前記第1のタイプの細孔は、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する、」と記載されているのを、「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する、」に訂正する点は、「前記第1のタイプの細孔」について限定を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
以上から、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記(ア)で検討したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲が減縮されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
まず、訂正後の請求項1における「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である前記電解質」との事項は、願書に添付した明細書の【0022】、【0028】に対応する記載が認められる。ここで、【0022】には、「好ましい実施形態では、電解質は、硫化性固体電解質である。」、【0028】には「電解質は、少なくとも10-10S・cm-1、好ましくは少なくとも10-8S・cm-1、特に好ましくは少なくとも10-6S・cm-1、非常に好ましくは少なくとも10-4S・cm-1、特に少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有することができる。」とあり、その電解質についての条件が並列的に記載されていることから、両者は排他的な条件を記載しているとは認められず、電解質として「硫化性固体電解質」かつ「少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する」ものが願書に添付した明細書に記載されていると認められる。
次に、訂正後の請求項1における「前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ、」との事項は、願書に添付した明細書の【0015】に対応する記載が認められる。
次に、訂正後の請求項1における「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ、」との事項は、願書に添付した明細書の【0016】、【0018】に対応する記載が認められる。
次に、訂正後の請求項1における「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含み、」との事項は、願書に添付した明細書の【0022】【0028】に対応する記載が認められる。
次に、訂正後の請求項1における「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、」との事項は、願書に添付した明細書の【0025】に対応する記載が認められる。
以上から、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(エ) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1について特許異議申し立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ 訂正事項2~5
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであり、訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであり、訂正事項4は、訂正前の請求項4を削除するものであり、訂正事項5は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、訂正事項2~5は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項2~5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項2~5の削除に伴い、請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正し、削除された請求項2~5を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項6は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
エ 訂正事項7,8
訂正事項7は、訂正前の請求項7を削除するものであり、訂正事項8は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、訂正事項7,8は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項7,8はいずれも請求項を削除するものであるから、当該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
オ 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項2~5、7、8の削除に伴い、請求項9に「請求項1~8のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1又は6に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正し、削除された請求項2~5、7、8を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項9は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
カ 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項10を削除するものであるから、訂正事項10は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項10は請求項を削除するものであるから、当該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
キ 訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項2~5、7、8、10の削除に伴い、請求項11に「請求項1~10のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、及び9のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正し、削除された請求項2~5、7、8、10を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項11は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ク 訂正事項12
訂正事項12は、訂正前の請求項12を削除するものであるから、訂正事項12は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項12は請求項を削除するものであるから、当該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ケ 訂正事項13
訂正事項13は、訂正前の請求項2~5、7、8、10、12の削除に伴い、請求項13に「請求項1から12のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、及び11のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正し、削除された請求項2~5、7、8、10、12を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項13は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
コ 訂正事項14
訂正事項14は、訂正前の請求項2~5、7、8、10、12の削除に伴い、請求項14に「請求項1~13のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、11、及び13のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正し、削除された請求項2~5、7、8、10、12を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項14は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項14は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
サ 訂正事項15
訂正事項15は、訂正前の請求項2~5、7、8、10、12の削除に伴い、請求項15に「請求項1~14のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、11、13、及び14のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。」に訂正し、削除された請求項2~5、7、8、10を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項15は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
シ 訂正事項16
訂正事項16は、訂正前の請求項2~5、7、8、10、12の削除に伴い、請求項16に「請求項1~15のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池の使用。」と記載されているのを、「請求項1、6、9、11、13、14、及び15のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池の使用。」に訂正し、削除された請求項2~5、7、8、10、12を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項16は、上述のとおり、不明瞭な状態を解消するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。また、訂正事項16は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3) 小括
よって、本件訂正請求による訂正事項1~16は特許法第120条の5第2項第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ訂正事項1~16は同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1~16について訂正を認める。
第3 本件特許
上記第2のとおり、本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1~16に係る発明は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、以下、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~16に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明16」ということがある。
「【請求項1】
a)陰極と、
b)炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、前記炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極と、
c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である前記電解質と、を含み、
前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ、
前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ、
前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含み、
前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する、
アルカリ金属二次電池。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記炭素層は、
i)充電された状態では、アルカリ金属を含み、
ii)充電されていない状態では、アルカリ金属を含まないことを特徴とする、
請求項1に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記炭素層は、アルカリ金属イオンを炭素網状組織に沿って輸送するのに適した炭素網状組織を形成していることを特徴とする、請求項1又は6に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記炭素層が、炭素材料の質量に基づいて、800mAh/g以上の比容量を有するような量で、電気化学析出により生成された金属アルカリ金属を取り込むのに適していることを特徴とする、請求項1、6、及び9のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
前記電解質が、
i)箔として設計されており、及び/又は
ii)前記陽極から前記陰極の方向に向かって、1μmから100μmの範囲の最大伸長を有することを特徴とする、請求項1、6、9、及び11のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項14】
前記陰極が、
i)集電体を含み、
ii)さらに、アルカリ金属源を含まない、又はアルカリ金属源を含み、
iii)固体電解質を含み、
iv)導電性添加剤を含み、
v)少なくとも部分的に繊維状ポリテトラフルオロエチレンを含む、
請求項1、6、9、11、及び13のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項15】
前記アルカリ金属二次電池は、リチウム二次電池又はナトリウム二次電池であることを特徴とする、請求項1、6、9、11、13、及び14のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池。
【請求項16】
輸送手段、建物及び/又は電子機器に対する、請求項1、6、9、11、13、14、及び15のいずれか一項に記載のアルカリ金属二次電池の使用。」
第4 特許異議申立ての理由及び証拠
特許異議申立書の全主旨からして、申立人が主張する特許異議の申立ての理由(以下、「申立理由」という。)及び証拠は、以下の通りのものと認められる。
1 特許異議申立ての理由の概要
(1) 申立理由1(新規性要件違反)
本件の特許請求の範囲の請求項1~7,9~16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、同請求項1~16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1~16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(2) 申立理由2(進歩性要件違反)
本件の特許請求の範囲の請求項1~7,9~16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、請求項1~16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(3) 申立理由3(実施可能要件違反)
本件の特許請求の範囲の請求項1~16に係る発明、請求項8~16に係る発明、請求項10~16に係る発明、及び、請求項13に係る発明について、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないものであり、請求項1~16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
(4) 申立理由4(サポート要件違反)
本件の特許請求の範囲の請求項1~16に係る発明、請求項8~16に係る発明、請求項10~16に係る発明、及び、請求項13に係る発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、請求項1~16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証: 特開2017-50109号公報
甲第2号証: 特開2010-95390号公報
なお、以下において、上記甲第1号証及び甲2号証を、単に「甲1」及び「甲2」という場合がある。
第5 取消理由の概要
1 令和7年6月6日付けで当審が通知した取消理由
令和7年6月6日付けで当審が通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 新規性
請求項1、3、5、6、7、10、12に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された特開2010-095390号公報(甲2)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2) 進歩性
請求項11、13、14、15、16に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された特開2010-095390号公報(甲2)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3) 明確性
本件出願は、特許請求の範囲の請求項1~16の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(4) 実施可能要件
本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、請求項2、8に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(5) サポート要件
本件出願は、特許請求の範囲の請求項2、8の記載が不備のため、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 引用文献の記載
(1) 引用文献1(甲第2号証)について
ア 引用文献1の記載事項
令和7年6月6日付け取消理由通知で引用した引用文献1(甲第2号証)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
「【0013】 本発明によれば、更に、正極と、該正極に対向して配置された負極と、該正極と負極との間に配置された、電解質材料とを少なくとも含む二次電池であって;且つ、前記正極が、メソポーラス炭素と、該メソポーラス炭素のメソ孔内に配置された硫黄とから構成されるメソポーラス炭素複合材料を含むことを特徴とする二次電池が提供される。」
「【0030】
(メソポーラス炭素)
本発明に使用する「メソポーラス炭素」とは、いわゆるメソ孔(すなわち、細孔径が2~50nm程度の孔)を有する炭素材料を言う。本発明の効果をより高める意味で、本発明における炭素材料は、そのBET比表面積が大きいことが好ましい。好ましいBET比表面積が大きい炭素材料としては、メソポーラス炭素を挙げることができる。メソポーラス炭素は、均一なサイズの細孔を三次元的に有し、その細孔が規則的に配列した炭素材料である。炭素材料としてメソポーラス炭素を用いることにより、細孔内の炭素材料表面をも、硫黄で被覆することができる。炭素材料としてメソポーラス炭素を用いることにより得られる炭素複合材料を電極に用いた場合には、電極の高容量化、均一な電極反応が実現可能となる。」
「【0059】
(負極)
前記負極としては、リチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤を負極集電体に担持したもの、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができ、リチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料としては、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素材料が挙げられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソポーラスカーボンのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。本発明の炭素複合材料は、前記のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料として用いることができる。」
「【0064】
(電解液)
前記電解液において、電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LIBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2およびLiC(SO2CF3)3からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いる。」
「【0067】
(固体電解質)
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの高分子電解質を用いることができる。また、高分子に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-P2S5、Li2S-B2S3などの硫化物電解質、またはLi2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4などの硫化物を含む無機化合物電解質を用いると、安全性をより高めることができることがある。」
【0013】より、引用文献1には、「正極と、該正極に対向して配置された負極と、該正極と負極との間に配置された、電解質材料とを少なくとも含む二次電池」が記載されている。
【0059】より、引用文献1には、「メソポーラスカーボン等のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤を担持する負極集電体」が記載されている。
【0064】、【0067】より、引用文献1には、「前記電解質材料として、リチウム塩を電解質とする電解液」、あるいは、「ゲルタイプの高分子電解質やLi2S-SiSなどの硫化物電解質の固体電解質」が記載されている。
【0030】より、引用文献1には、「前記メソポーラスカーボンは細孔径が2~50nm程度のメソ孔を有」することが記載されている。
イ 引用発明
よって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「正極と、該正極に対向して配置された負極と、該正極と負極との間に配置された、電解質材料とを少なくとも含む二次電池であって、
メソポーラスカーボン等のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤を担持する負極集電体と、
前記電解質材料として、リチウム塩を電解質とする電解液、あるいは、ゲルタイプの高分子電解質やLi2S-SiSなどの硫化物電解質といった固体電解質を含み、
前記メソポーラスカーボンは細孔径が2~50nm程度のメソ孔を有する、
二次電池。」
3 取消理由についての判断
(1) 取消理由1及び2について
ア 本件特許発明1との対比・判断
本件特許発明1と引用発明を対比する。
本件特許発明1の「陽極」の「炭素層」は、「前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込む」ものであるから、充電プロセスにおいて還元反応が行われる極(カソード)、放電時には酸化反応が行われる極(アノード)であると認められる。したがって、引用発明の「負極」は、放電時には負となる極、すなわち、酸化反応が行われる極(アノード)と認められるから、本件特許発明1の「陽極」に対応する。
同様に、引用発明の「正極」は、本件特許発明1の「陰極」に相当する。
そして、引用発明では、「メソポーラスカーボン等のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤を負極集電体に担持」することから、負極合剤は負極集電体上に層をなして担持されるものと認められる。したがって、引用発明の「メソポーラスカーボン等のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤」、「負極集電体」は、それぞれ、本件特許発明1の「炭素層」、「導電性の基板」に相当し、引用発明の前記負極は、「炭素層を含む」「陽極であって」、「導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している」「陽極」ということができる。したがって、引用発明の「負極は」、本件特許発明1の「炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、前記炭素層が単独で、又は導電性の基盤と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極」に相当する。
引用発明の「該正極と負極との間に配置された、電解質材料」は、「前記電解質材料として、リチウム塩を電解質とする電解液、あるいは、ゲルタイプの高分子電解質やLi2S-SiSなどの硫化物電解質といった固体電解質を含」むものであるから、アルカリ金属を有し、負極合剤にイオン電導接触するものであることは明らかである。よって、前記電解質材料は、本件特許発明1の「前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質」に相当する。
引用発明の「負極集電体」の「メソポーラスカーボンは細孔径が2~50nm程度のメソ孔を有する」との事項と、本件特許発明1の「アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ」及び「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する」との事項とでは、「前記第1のタイプの細孔は、2~50nmの範囲の細孔径を有し」との事項で共通し、後記する相違点で相違する。
引用発明の「メソポーラスカーボン等のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤を担持する負極集電体」との事項と、本件特許発明の「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」、及び「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含み」との事項を対比すると、引用発明においても負極合剤中のメソポーラスカーボン間に空洞が存在すること、及び、前記空洞が電解質にアクセス可能であることは、メソポーラスカーボンのメソ孔にリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能であることから明らかである。また、引用発明の「前記電解質材料として、リチウム塩を電解質とする電解液、あるいは、ゲルタイプの高分子電解質やLi2S-SiSなどの硫化物電解質といった固体電解質を含み」との事項から、引用発明の電解質は硫化性固体電解質を含むものである。
よって、引用発明と本件特許発明1とは、「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み」、及び、「前記空洞は、硫化性固体電解質を含み」との点で共通し、後記する相違点で相違する。
引用発明において、メソポーラスカーボンがアルカリ金属イオンであるリチウムイオンをドープ・脱ドープすることから、引用発明の「二次電池」は、本件特許発明1の「アルカリ金属二次電池」に相当する。
イ 一致点及び相違点
したがって、本件特許発明1と引用発明とは、以下の点で一致及び相違する。
(ア) 【一致点】
「陰極と、
炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、前記炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極と、
前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質と、を含み、
前記炭素層が、第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、2~50nmの範囲の細孔径を有し、
前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、
前記空洞は、硫化性固体電解質を含む、
アルカリ金属二次電池」
(イ) 【相違点1】
本件特許発明1の「電解質」に関し、本件特許発明1では、「少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である」のに対し、引用発明ではそのような特定がない点。
(ウ) 【相違点2】
本件特許発明1の「第1のタイプの細孔」に関し、本件特許発明1では、「アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した」ものであり、「前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ」、「0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し」、「電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する」のに対し、引用発明ではそのような特定はない点。
(エ) 【相違点3】
本件特許発明1の「炭素層」に関し、本件特許発明1では、電解質にアクセス可能な空洞だけでなく、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔をさらに含み、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含」むものであるのに対し、引用発明は「第2のタイプの細孔」についての特定はなく、また、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」との点についても特定がなく、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞」が含む硫化性固体電解質が「少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する」点についても特定がない点。
ウ 相違点についての判断
(ア) 新規性について
前記相違点1~3は、何れも、実質的な相違点ではないとする技術常識及び証拠は認めらない。よって、何れの相違点も実質的な相違点と認められるから、本件特許発明1、は引用文献1に記載された発明でない。
(イ) 進歩性について
さらに、進歩性についても検討する。事案に鑑み、相違点3から検討する。
引用発明には第2のタイプの細孔は特定されておらず、特に、第2のタイプの細孔が「3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」る点については引用文献1には記載も示唆もなく、また、引用発明に前記のように特定される第2のタイプの細孔を設けることを示唆する証拠も認められない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件特許発明6、9、11,13,14,及び15について
本件特許発明6、9、11、13、14、及び15は、いずれも本件特許発明1を引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、何れも引用文献1に記載された発明ではなく、更に、引用文献1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 小括
以上から、取消理由1、2は解消した。
(2) 取消理由3(明確性)について
ア 請求項1について
請求項1に係る、令和7年6月6日付け取消理由通知の取消理由3は
「請求項1において「前記炭素層は、第2のタイプの細孔及び/又は前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み」との記載があるが、「第2のタイプの細孔」とはどのような細孔であるかが定義されておらず、特に第1のタイプの細孔との異同が不明である。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
また、請求項1を引用する請求項4及び請求項5には「第2のタイプの細孔」についての記載がある。(例えば、請求項4には「前記第2のタイプの細孔及び/又は前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することを特徴とする」との記載がある。)しかしながら、請求項4及び請求項5において「前記第2のタイプの細孔及び/又は前記空洞は」との記載を「又は」と解する場合は、「前記空洞」のみを「電解質にアクセス可能」なものであることに加えて、これら請求項4や請求項5に記載された事項でさらに特定し、第2のタイプの細孔については何ら特定しない場合を含むので、請求項1と同様に第2のタイプの細孔と第1のタイプの細孔との異同が不明である場合が含まれる。
以上から、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~16に係る発明は明確でない。」
というものである。
本件訂正請求による訂正により、本件特許発明1は「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み」という事項を含むものとなった。これより、「前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した」ものである「第1のタイプの細孔」と、前記「第2のタイプの細孔」との異同は明確であるといえる。
イ 請求項8、10について
前記取消理由3は請求項8、10に係る取消理由を含むものであったが、請求項8、10は削除されたため、請求項8に係る取消理由3はもはや存在しない。
ウ 請求項13、14について、
請求項13、14に係る前記取消理由3は請求項8を引用する請求項13、14に対するものであったが、請求項8が削除されたため、請求項13、14に係る取消理由3はもはや存在しない。
エ 小括
以上から、取消理由3は解消した。
(3) 取消理由4(実施可能要件)、取消理由5(サポート要件)について
取消理由4、5は請求項2、8に対するものであったが、請求項2,8が削除されたため、当該取消理由4、5は解消した。
(4) 中括
以上より、令和7年6月6日付け取消理由通知における取消理由はすべて解消した。
第6 取消理由として採用しなかった申立理由について
前記第4の1(1)、(2)に記載した申立理由1のうち、本件の特許請求の範囲の請求項1~7、9~16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1~7、9~16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである、との理由、及び、同申立理由2のうち、本件の特許請求の範囲の請求項1~7,9~16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~7、9~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである、との理由は、取消理由として採用しなかった。
また、申立理由3(実施可能要件)及び申立理由4(サポート要件)のうち、本件の特許請求の範囲の請求項1~16に係る理由、請求項8~16に係る理由の一部、請求項10~16に係る理由及び請求項13に係る理由も取消理由として採用しなかった。
よって、前記点を以下に検討する。
1 申立理由1(新規性欠如)、申立理由2(進歩性欠如)について
(1) 甲1号証について
ア 甲1号証の記載事項
甲1号証には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質粒子及び負極活物質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の負極活物質として炭素が使用されている。例えば、特許文献1には負極活物質として炭素材料を用いた全固体リチウム電池が開示されている。また、特許文献2には、硫黄含有材料とイオン液体と無機固体電解質とを含有する正極合剤を用いたリチウム電池が開示されており、負極に炭素を用いることができる旨が開示されている。さらに、特許文献3には負極活物質粒子間をイオン液体で満たしたリチウム電池が開示されており、負極活物質としてカーボングラファイト、メソポーラスカーボン等が例示されている。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素粒子には細孔が存在する。そのため、負極活物質として炭素粒子を用いた場合、当該細孔におけるイオンパスの確保が問題となる。特許文献1に開示されたような全固体リチウム電池においては、電解質として固体電解質が使用されるため、当該細孔中に電解質を入り込ませることが困難であり、当該細孔においてイオンパスを確保することができない。そのため、抵抗が増大し、放電容量が小さくなる虞がある。一方で、電極中のイオンパスを増加させるためには、特許文献2、3に開示されているように、活物質粒子間をイオン液体で満たすことが有効と考えられる。しかしながら、負極活物質粒子間をイオン液体で満たした場合、電池作成時のプレス成形性が悪化する。このように、負極活物質として炭素粒子を用いた場合においては、負極のイオン伝導性の向上(特に、細孔におけるイオンパスの確保)と成形性の確保とを両立することは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、イオン伝導性の向上と成形性の確保とを両立することが可能な、負極活物質粒子及び負極活物質粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採る。すなわち、第1の本発明は、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体に細孔を有する炭素粒子を接触させて、細孔の内部にイオン液体を流入させる、第1工程と、第1工程の後で、細孔の内部にイオン液体を残存させつつ炭素粒子を洗浄する、第2工程とを備える、負極活物質粒子の製造方法である。」
「【実施例】
【0069】
<実施例1>
1.負極活物質粒子の作製
天然黒鉛を球状化処理し、非晶質炭素で被覆して炭素粒子(粒子径10μm程度、比表面積2.75m2/g)を得た。SEMで観察したところ、当該炭素粒子の表面には多数の細孔が存在していた。当該炭素粒子6.0gに、イオン液体として、0.32mol/kgの濃度でLiTFSAを溶解させたN-メチル-N-プロピルピペリジニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(PP13TFSA)5.0gに混合して、炭素粒子をイオン液体に含浸させた。その後、圧力を10Paまで減圧し、減圧と常圧に戻すこととを繰り返して、炭素粒子の細孔の内部にイオン液体を流入させた。
【0070】
その後、炭素粒子とイオン液体との混合物を濾過し、濾物を得た。濾物においては、炭素粒子の細孔の外部に余分なイオン液体が残っていた。そこで、ジメチルカーボネート5mlで2回洗浄を行うことで、細孔の内部にイオン液体を残存させつつ炭素粒子を洗浄した。
【0071】
その後、減圧乾燥(圧力10Pa、温度110℃)を行うことで、溶媒を除去し、細孔の内部にイオン液体が配置された負極活物質粒子を得た
【0072】
2.負極の作製
得られた負極活物質粒子(1.2g)と硫化物固体電解質との混合物を、圧力40kNにてプレス成形することにより、負極(厚み50μm、面積1cm2)を作製した。負極活物質粒子は余分なイオン液体を除去されているため、粉体として適切にプレス成形することができた。
【0073】
3.リチウム電池の作製
LiとNi、Mn、Coとを含む層状酸化物からなる粉体(1.7g)と硫化物固体電解質(0.3g)との混合物を、圧力40kNにてプレス成形することにより、正極(厚み40μm、面積1cm2)を作製した。また、硫化物固体電解質としてLi2S-P2S5(0.1g)を、圧力40kNにてプレス成形することにより、無機固体電解質層(面積1cm2)を作製した。作成した負極と無機固体電解質層と正極とをこの順に配置したうえで一体化し、正極集電体、負極集電体を取り付けてリチウム電池を作製した。」
【0069】の「天然黒鉛を球状化処理し、非晶質炭素で被覆して炭素粒子(粒子径10μm程度、比表面積2.75m2/g)を得た。SEMで観察したところ、当該炭素粒子の表面には多数の細孔が存在していた。当該炭素粒子6.0gに、イオン液体として、0.32mol/kgの濃度でLiTFSAを溶解させたN-メチル-N-プロピルピペリジニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(PP13TFSA)5.0gに混合して、炭素粒子をイオン液体に含浸させた。その後、圧力を10Paまで減圧し、減圧と常圧に戻すこととを繰り返して、炭素粒子の細孔の内部にイオン液体を流入させた。」、【0071】の「その後、減圧乾燥(圧力10Pa、温度110℃)を行うことで、溶媒を除去し、細孔の内部にイオン液体が配置された負極活物質粒子を得た。」及び【0072】の「得られた負極活物質粒子(1.2g)と硫化物固体電解質との混合物を、圧力40kNにてプレス成形することにより、負極(厚み50μm、面積1cm2)を作製した。」との記載より、甲1には「天然黒鉛を球状化処理し、非晶質炭素で被覆した炭素粒子(粒子径10μm程度、比表面積2.75m2/g)であって、前記炭素粒子の表面には多数の細孔が存在し、前記細孔の内部にイオン液体が配置されたものである負極活物質粒子と硫化物固体電解質との混合物からなる負極」が記載されていると認められる。
【0073】の「LiとNi、Mn、Coとを含む層状酸化物からなる粉体(1.7g)と硫化物固体電解質(0.3g)との混合物を、圧力40kNにてプレス成形することにより、正極(厚み40μm、面積1cm2)を作製した。また、硫化物固体電解質としてLi2S-P2S5(0.1g)を、圧力40kNにてプレス成形することにより、無機固体電解質層(面積1cm2)を作製した。作成した負極と無機固体電解質層と正極とをこの順に配置したうえで一体化し、正極集電体、負極集電体を取り付けてリチウム電池を作製した。」との記載より、甲1には「正極と負極とLi2S-P2S5からなる無機固体電解質層とを備えたリチウム電池」が記載されていると認められる。」
イ 甲1発明
以上から甲1号証には
「正極と、
天然黒鉛を球状化処理し、非晶質炭素で被覆した炭素粒子(粒子径10μm程度、比表面積2.75m2/g)であって、前記炭素粒子の表面には多数の細孔が存在し、前記細孔の内部にイオン液体が配置されたものである負極活物質粒子と硫化物固体電解質との混合物からなる負極と、
Li2S-P2S5からなる無機固体電解質層とを備え、
負極と無機固体電解質層と正極とをこの順に配置したうえで一体化した、
リチウム電池」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(2) 一致点及び相違点
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「正極」、「負極」、「無機固体電解質」、及び、「アルカリ金属二次電池」は、それぞれ、本件特許発明1の「陰極」、「陽極」、「電解質」、及び、「リチウム電池」に対応する。
甲1発明の「Li2S-P2S5からなる無機固体電解質層」及び「負極と無機固体電解質層と正極とをこの順に配置したうえで一体化した」と、本件特許発明1の「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である前記電解質」とでは、「Li2S-P2S5からなる無機固体電解質層」が、アルカリ金属であるLiを有し、前記Liは負極の炭素層にイオン伝導接触することは明らかであるから、「c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、硫化性固体電解質である前記電解質」との点で共通し、後記する相違点で相違する。
甲1発明の「天然黒鉛を球状化処理し、非晶質炭素で被覆した炭素粒子(粒子径10μm程度、比表面積2.75m2/g)であって、前記炭素粒子の表面には多数の細孔が存在し、前記細孔の内部にイオン液体が配置されたものである負極活物質粒子と硫化物固体電解質との混合物からなる負極」と、本件特許発明1の「b)炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、前記炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極」を含み、「前記炭素層が、アルカリ金属二次電池の充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ」、「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」、「前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質を含み」、「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する」とでは、「炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極」と、「前記炭素層が細孔を有する」点で一致し、後記する相違点で相違する。
以上より、本件特許発明1と甲1発明とでは、以下の点で一致及び相違する。
イ 【一致点】
「a)陰極と、
b)炭素層を含む、又は炭素層から構成された陽極であって、炭素層が単独で、又は導電性の基板と組み合わせて、導電性の接触を形成している陽極と、
c)前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、硫化性固体電解質である前記電解質と、を含み、
前記炭素層が細孔を有する、
アルカリ金属二次電池。」
ウ 【相違点1】
電解質に関し、本件特許発明1は、「少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する」のに対し、甲1発明はそのような点を特定しない点。
エ 【相違点2】
炭素層が含む細孔に関し、本件特許発明1は、「充電プロセスにおいて、前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した第1のタイプの細孔を有し、前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ」、「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能」、「前記炭素層は、前記電解質にアクセス可能な第2のタイプの細孔及び前記電解質にアクセス可能な空洞をさらに含み、前記第2のタイプの細孔及び前記空洞は、3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」と特定されており、所定の二つのタイプの細孔を含むのに対し、甲1発明では、そのような二つのタイプの細孔を含むことは特定されていない点。
(3) 相違点についての判断
前記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。相違点2に係る事項、特に、前記のようにそれぞれ特定された二つのタイプの細孔が甲第1号証に記載されているに等しいといえる証拠や技術常識は認められない。よって、相違点2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲1発明に公知技術を適用することにより相違点2は当業者が容易に想到することができたといえる、公知技術(証拠)も認められない。
よって、相違点1を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1号証に記載された発明でなく、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
また、本件特許発明6、9、11、13、14、15及び16は、本件特許発明1を引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1号証に記載された発明でなく、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、取消理由として採用しなかった申立理由1、及び申立理由2には理由がない。
2 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 理由の概要
申立理由3は概略以下のとおりである。
ア 本件特許発明1~16
「本件特許発明1では、陽極を構成する炭素層が備える「第1のタイプの細孔」に関して、当該細孔の構成を特定することなく、その機能に関する構成要件1D及び構成要件1Fのみにより特定されている。
一方、本件特許発明1を引用する本件特許発明3の記載によれば、第1のタイプの細孔は、「i)0.5~100nmの範囲、又は、ii)2nmより大きいこと、又は、iii)2nm未満の細孔径を有し」と規定されており、ii)及びiii)では、上限及び下限は何ら規定されていない。従って、本件特許発明1では、第1のタイプの細孔は、いかなる細孔径のものも含み得る。
更に、本件特許発明1を引用する本件特許発明8では、電解質が液体電解質又はゲル電解質であることが記載されている。従って、本件特許発明1では、電解質として液体電解質又はゲル電解質を用いる場合についても、第1のタイプの細孔は電解質にアクセスできず、電解質で満たされないことを規定している。
しかしながら、本件の発明の詳細な説明には、液体電解質又はゲル電解質にアクセスできず電解質によって満たされることのない、あらゆる細孔径を有し得る第1のタイプの細孔について、何ら具体例が示されていない。またそのような第1のタイプの細孔は、当業者が容易に実施できるものでもない。
例えば、本件特許発明1において、第1のタイプの細孔は、100nm(本件特許発明3i)の上限値)又はそれ以上(本件特許発明3ii)は上限が限定されずマイクロメートルオーダーの細孔径を包含する)の細孔径を有する場合を包含するが、そのような大きな細孔径の第1のタイプの細孔には、液体電解質は容易にアクセスし前記細孔を満たし得る。また、電解質が、本件特許発明7に記載の硫化性固体電解質であったとしても、マイクロメートルオーダーの細孔径を有する第1のタイプの細孔には、硫化性固体電解質の粒子も容易に進入することができる。発明の詳細な説明には、電解質にアクセスできず電解質により満たされることのない第1のタイプの細孔を有する炭素層をどのように実現するのか当業者が理解できるように記載されていない。従って、発明の詳細な説明は、本件特許発明1で規定する第1のタイプの細孔を有する炭素層を当業者が実施できるように記載されているとは言えない。
また、本件の発明の詳細な説明には、段落0014において、第1のタイプの細孔は、「析出により生成した金属アルカリ金属を取り込み易い化学修飾が施されている」ことや、金属構造の形成を促進する「特定の細孔形状及び/又は細孔の特性を有する」ことが記載されている。しかしながら、発明の詳細な説明には、第1のタイプの細孔のこれらの特徴について何ら具体的に記載されていない。従って、発明の詳細な説明は、「電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した」「析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する」という本件特許発明1の第1のタイプの細孔を有する炭素層を当業者が実施できるように記載されているとは言えない。
以上の通りであるから、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2~16について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
イ 本件特許発明8~16
「本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明8及び本件特許発明8を引用する本件特許発明9~16について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
ウ 本件特許発明10~16
「本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明10及び本件特許発明10を引用する本件特許発明11~16について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
エ 本件特許発明13
「本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明13のうち本件特許発明8を引用する部分について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」
(2) 判断
ア 本件特許発明1~16について
本件訂正請求により、第1の細孔は「前記第1のタイプの細孔は、0.5~100nmの範囲の細孔径を有し、前記細孔径は、窒素物理吸着で決定することができ」、「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し、電解質で満たされておらず、析出した金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する」との点が、特定された。これより、申立人の指摘するマイクロメートルオーダーの細孔径の細孔は除外される。また、本件特許発明の詳細な説明の記載の特に【0015】及び発明の実施の形態の記載(【0041】~【0053】)から本件特許発明の「前記電解質にアクセスできず、電気化学的に析出したアルカリ金属を金属の形で取り込むのに適した」第1のタイプの細孔が得られるものと理解できる。
また、本件訂正により請求項8は削除された。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明6、9、11、13、14、15、及び16について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、とはいえない。
イ 本件特許発明8~16
本件訂正により請求項8は削除されたため、申立理由3のうち前記イはもはや理由がない。
ウ 本件特許発明10~16
本件訂正により請求項10は削除されたため、申立理由3のうち前記ウはもはや理由がない。
エ 本件特許発明13
本件訂正により請求項8は削除されたため、本件特許発明13のうち本件特許発明8を引用する部分に対するものである、申立理由4のうち前記エはもはや理由がない。
(3) 小括
よって、申立理由3には理由がない。
3 申立理由4(サポート要件)について
(1) 理由の概要
申立理由4は概略以下のとおりである。
ア 本件特許発明1~16
「本件特許の発明の詳細な説明の段落0 0 0 7から、本件特許発明が解決しようとする課題は、「高比容量、高出力密度、及び高サイクル安定性を特徴とするアルカリ金属二次電池であって、その作動中、二次電池の成分に作用する機械的応力が可能な限り低く、電池の長期安定性及び作動安全性が向上するアルカリ金属二次電池を提供すること」と解される。
本件特許発明1に係るアルカリ金属二次電池は、上記課題を解決するための手段として、陽極を構成する炭素層が備える「第1のタイプの細孔」に関して、当該細孔の構成を特定することなく、その機能に関する構成要件1D及び構成要件1Fのみにより特定されている。
しかしながら、上記(4-3-2)/(ア)で述べた通り、発明の詳細な説明は、炭素層の第1のタイプの細孔の、液体電解質であり得る電解質にアクセスできず電解質により満たされることのないという特徴、並びに、アルカリ金属を金属の形で取り込むのに適し金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能するという特徴を、どう実現するかを当業者が理解することができるように記載されていない。このため当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明1により本件特許発明の課題が解決できることを把握することができない。」
イ 本件特許発明8~16
「本件特許発明8に係るアルカリ金属二次電池は、上記(ア)で述べた課題を解決するための手段として、前記電解質が液体電解質又はゲル電解質であり、前記電解質の全ての成分が、炭素層の第1のタイプの細孔又は保護層の細孔に対して所定の大きさを有することを特徴とする。
しかしながら、上記(4-3-2)/(イ)で述べた通り、発明の詳細な説明は、所定の大きさの電解質の成分及び保護層の構成を、当業者が具体的に理解することができるように記載されていない。 このため当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明8により本件特許発明の課題が解決できることを把握することができない。
従って、本件特許発明8及び本件特許発明8を引用する本件特許発明9~166は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」
ウ 本件特許発明10~16
「本件特許発明10に係るアルカリ金属二次電池は、上記(ア)で述べた課題を解決するための手段として、炭素層が、IUPACに従って分類されたミクロ細孔、メソ細孔、及び/又はマクロ細孔を含むことを特徴とし、炭素層が、第1のタイプの細孔と、第2のタイプの細孔とが、 ともにミクロ細孔、メソ細孔、及び/又はマクロ細孔である場合をも包含する。
しかしながら、上記(4-3-2)/(ウ)で述べた通り、発明の詳細な説明には、第1のタイプの細孔と、第2のタイプの細孔とが、ともにミクロ細孔、メソ細孔、及び/又はマクロ細孔である場合に 前者は電解質にアクセスせず、後者が電解質にアクセスできることを可能にする方法又は特徴は何ら記載されていない。 このため当業者は、発の詳細な説明の記載から、本件特許発明10により本件特許発明の課題が解決できることを把握することができない。
従って、本件特許発明10及び本件特許発明10を引用する本件特許発明11~16は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」
エ 本件特許発明13
「本件特許発明13に係るアルカリ金属二次電池は、上記(ア)で述べた課題を解決するための手段として、電解質が所定の形状を有することを特徴とする。
上記(4-3-2)/(エ)で述べた通り、本件特許発明13が引用する本件特許発明8では、電解質が液体電解質又はゲル電解質であることが規定されているが、発明の詳細な説明には、液体電解質又はゲル電解質をどのように所定の形状とするかは記載されていない。 このため当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明13のうち本件特許発明8を引用する部分により本件特許発明の課題が解決できることを把握することができない。
従って、本件特許発明13は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」
(2) 判断
ア 本件特許発明1~16について
請求人の「発明の詳細な説明は、炭素層の第1のタイプの細孔の、液体電解質であり得る電解質にアクセスできず電解質により満たされることのないという特徴、並びに、アルカリ金属を金属の形で取り込むのに適し金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能するという特徴を、どう実現するかを当業者が理解することができるように記載されていない」との主張に関して、本件訂正請求により、本件特許発明1の電解質は「前記陰極と前記陽極の間に配置され、前記陰極及び前記陽極の前記炭素層にイオン伝導接触するアルカリ金属を有する電解質であって、少なくとも10-3S・cm-1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である前記電解質」と訂正され、硫化性固体電解質である前記電解質であることが特定された。これにより、申立人の主張の前提である本件特許発明1の「炭素層の第1のタイプの細孔の、液体電解質であり得る電解質にアクセスできず電解質により満たされることのないという特徴」は、請求項の記載に基づかないものである。
また、「アルカリ金属を金属の形で取り込むのに適し金属アルカリ金属を取り込む為の前記炭素層の深層部の自由空間としても機能する」との点に関しては、本件特許発明の詳細な説明の記載の特に【0015】及び発明の実施の形態の記載(【0041】、【0053】) から、前記のように機能する、第1のタイプの細孔が得られるものと理解できる。
よって、請求人の前記主張は採用することができない。
イ 本件特許発明8~16について
本件訂正により請求項8は削除されたため、申立理由4のうち前記イはもはや理由がない。
ウ 本件特許発明1 0 ~1 6について
本件訂正により請求項10は削除されたため、申立理由4のうち前記ウはもはや理由がない。
エ 本件特許発明13
本件訂正により請求項8は削除されたため、本件特許発明13のうち本件特許発明8を引用する部分に対するものである、申立理由4のうち前記エはもはや理由がない。
(3) 小括
よって、申立理由4には理由がない。
第7 異議申立人の意見書における主張について
1 主張の概要
申立人は、令和7年11月18日提出の意見書において、主に特許権者が令和7年9月3日提出の意見書に反論する形で、概略、以下の点を主張している。
(1) 甲第2号証はメソ孔内に硫黄を配置する点で訂正後の請求項1に係る発明と相違するとする特許権者の意見について
(2) 甲第2号証には少なくとも10-3s・cmー1のイオン伝導度を有する硫化性固体電解質は記載されていないとする特許権者の意見について
(3) 請求項1についてする訂正の訂正要件違反
(4)訂正後の請求項1の明確性要件違反について
2 主張についての判断
前記(1)、(2)は何れも、前記第5の3(1)での相違点3に係る検討における、「第2のタイプの細孔が「3つの空間方向全てにおいて、マイクロメートルの範囲の空間的広がりを有し、前記空間的広がりは、電子顕微鏡で決定することができ」る点に関して主張するものではないため、その判断に影響するものではない。
前記(3)については、前記第2、特に前記第2の3アに記載したとおりであり、特許請求の範囲の請求項1において「少なくとも10-3s・cmー1のイオン伝導度σを有する硫化性固体電解質である」ことを特定する訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
前記(4)については、「炭素の細孔容量」が一般的な技術用語ではないとしても、「メソポーラス炭素」等、細孔を有する炭素は周知であることから、「炭素の細孔容量」とは当該細孔を有する炭素の細孔の容量であると把握でき、「前記第1のタイプの細孔は、0.8cm3/g以上の炭素の細孔容積を有し」との記載は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。
以上から、申立人の前記主張は何れも採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本件請求項1、6、9、11、13、14、15及び16に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、6、9、11、13、14、15及び16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2、3、4、5、7、8、10、及び12は削除されたから、本件請求項2、3、4、5、7、8、10、及び12に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しなくなったので、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700124