特許異議申立
2021-700280
シリカ粒子とその製造方法、シリカゾル、研磨組成物、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法
- 審判番号
- 2021-700280
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-533047外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6756423
- 請求日
- 2021年03月16日
- 審決日
- 2021年10月26日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人栄光特許事務所
- 【異議申立人】寺内 敦子
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6756423号発明「シリカ粒子とその製造方法、シリカゾル、研磨組成物、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6756423号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第6756423号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6756423号の請求項1~15に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)2月19日(優先権主張 平成31年2月21日 日本国)を国際出願日とする出願であり、令和2年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和3年3月16日に特許異議申立人寺内敦子(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年6月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月6日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年9月17日に異議申立人より意見書の提出がなされたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和3年8月6日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下である、シリカ粒子。」とあるのを、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下であり、cv値が、26.7%以下である、シリカ粒子。」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項3~15についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記表面に存在するシラノール基の割合が、10%以下である、請求項1に記載のシリカ粒子。」とあるのを、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、10%以下であり、会合比が、1.8以下である、シリカ粒子。」に訂正する。
(請求項2を直接または間接的に引用する請求項3~15についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「DLS法により測定した平均2次粒子径が、20nm~100nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリカ粒子。」とあるのを、「DLS法により測定した平均2次粒子径が、61.0nm~63.1nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリカ粒子。」に訂正する。
(請求項5を直接または間接的に引用する請求項6~15についても同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、「cv値が、26.7%以下である」との限定を、シリカ粒子に対し、さらに付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1の「シリカ粒子に」に「cv値が、26.7%以下である」との限定を付加する訂正は、本件明細書の【0032】の「シリカ粒子のcv値は、15以上が好ましく、20以上がより好ましく、25以上が更に好ましく、また、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、35以下が更に好ましい。」との記載、及び、同【0097】【表1】に実施例1~3におけるシリカ粒子のcv値[%]が記載されているところ、実施例1は、26.7、実施例2は、26.0、実施例3は、26.7であり、実施例のシリカ粒子におけるcv値の最大が26.7であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項1は、シリカ粒子に対する限定をさらに付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2の記載を書き下すと共に、「会合比が、1.8以下である」との限定を、シリカ粒子に対し、さらに付加するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1の、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2の記載を書き下す訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。また、「シリカ粒子に」に「会合比が、1.8以下である」との限定を付加する訂正は、本件明細書の【0034】の「シリカ粒子の会合比は、1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、また、4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましい。」との記載、及び、同【0097】【表1】に実施例1~3におけるシリカ粒子の会合比が記載されているところ、実施例1は、1.6、実施例2は、1.8、実施例3は、1.6であり、実施例のシリカ粒子における会合比の最大が1.8であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2の記載を書き下すものであると共に、シリカ粒子に対する限定をさらに付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、DLS法により測定したシリカ粒子の平均2次粒子径の範囲を、「20nm~100nm」から「61.0nm~63.1nm」に狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項3の、DLS法により測定したシリカ粒子の平均2次粒子径の範囲を、「61.0nm~63.1nm」とする訂正は、本件明細書の【0029】の「シリカ粒子の平均2次粒子径は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、また、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。」との記載、及び、同【0097】【表1】に実施例1~3におけるDLS法により測定したシリカ粒子の平均2次粒子径[nm]が記載されているところ、実施例1は、61.0、実施例2は、61.0、実施例3は、63.1であり、DLS法により測定したシリカ粒子の平均2次粒子径の最小が61.0及び最大が63.1であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項3は、DLS法により測定したシリカ粒子の平均2次粒子径の範囲をさらに狭めて限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし15〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1~3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし15〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし15に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下であり、cv値が、26.7%以下である、シリカ粒子。
【請求項2】
シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、10%以下であり、会合比が、1.8以下である、シリカ粒子。
【請求項3】
前記表面に存在するシラノール基の割合が、1%以上である、請求項1又は2に記載のシリカ粒子。
【請求項4】
BET法により測定した平均1次粒子径が、10nm~60nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項5】
DLS法により測定した平均2次粒子径が、61.0nm~63.1nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項6】
金属不純物含有率が、5ppm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項7】
テトラアルコキシシラン縮合物を主成分とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項8】
前記テトラアルコキシシラン縮合物が、テトラメトキシシラン縮合物を含む、請求項7に記載のシリカ粒子。
【請求項9】
シリカ粒子を加圧加熱処理して、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカ粒子を得る、シリカ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカ粒子を含む、シリカゾル。
【請求項11】
シリカ粒子の含有率が、シリカゾル全量中、3質量%~50質量%である、請求項10に記載のシリカゾル。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のシリカゾルを含む、研磨組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の研磨組成物を用いて研磨する、研磨方法。
【請求項14】
請求項12に記載の研磨組成物を用いて研磨する工程を含む、半導体ウェハの製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載の研磨組成物を用いて研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。」
第4 令和3年6月1日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和3年6月1日付けで通知した取消理由の概要
特許法第29条第1項3号所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「取消理由」という。)
本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、下記2(1)に記載の甲第1~3、5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」という。)
本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、下記甲第1~3、5号証に記載された発明及び周知事項(甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2010-28082号公報
甲第2号証:特開2010-34498号公報
甲第3号証:国際公開2009/104465号
甲第4号証:JETI 第61巻、3号、P58~61、(2013) 「シリカ技術の最新展望 高純度コロイダルシリカの技術と特性」
甲第5号証:特開2018-107293号公報
(以下、甲各号証を単に「甲1」などという。)
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」という。)
ア 表面に存在するシラノール基の割合について
本件発明では、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により得られるシリカゾル中のシリカ粒子では、縮合度が低い場合、員環サイズが小さく、機械的強度に劣り、かつ、シラノール基が多く残存し、保存安定性が悪化することを課題にあげ、研磨特性、保存安定性に優れたシリカ粒子を得ることを目的としている。
しかしながら、実施例1~3を鑑みても、保存安定性の評価結果しか示されておらず、表面に存在するシラノール基の割合が15.0%以下であることで、従来よりも機械的強度に優れたシリカ粒子を製造し得ることが、実施例より裏付けられていると認識することは、本件出願時の技術常識を参酌しても、できないというべきである。
このため、本件明細書には、特許請求の範囲に記載されたシリカ粒子の数値範囲を満たすことによって、課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは、本件出願時の技術常識を参酌して、数式が示す範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとはいえず、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。
イ 平均一次粒子径について
(ア)本件発明1では、シリカ粒子の平均一次粒子径の範囲が規定されていないのに対して、発明の詳細な説明の実施例1~3では、平均一次粒子径が34.4~39.3nmの範囲のシリカ粒子についての保存安定性に関する評価結果しか記載されていない。
本件明細書の段落【0026】には、保存安定性や、シリカ粒子の沈降を抑制する観点等から所定の値の範囲の平均一次粒子径であることが好ましいことが記載されており、上記範囲を外れる範囲においても、良好な保存安定性が得られるのかについては示されていない。また、上述の通り、機械的強度についての評価結果も示されていない。
(イ)製法が同一であれば、単位面積当たりのシラノール基数は同一と考えられるため、仮に粒子径が2倍になった場合、表面シラノール基数は粒子径の2乗に比例し4倍となり、バルクシラノール基数は粒子径の3乗に比例し、8倍となり、シラノール基の割合は1/2倍になるといえる。
このため、例えば、本件明細書の比較例4では、表面シラノール基割合が17.1%であり、一次粒径が36.1nmであることが示されているが、同様の製造条件で得られる粒径が2倍の大きなシリカ粒子があった場合、加圧加熱処理の有無にかかわらず、シラノール基の割合は17.1%の半分の値となり、粒径を変えるだけで、容易に表面シラノール基の割合が15%以下になり、本件発明1の要件を満たすことになる。しかしながら、所定の加圧加熱処理がなされていないと考えられるシリカ粒子においては、粒径を変えただけでは、員環形成が促進されず、本願発明の効果が得られないと考えられる。そうすると、本件発明1の効果はあくまで平均一次粒子径が34.4~39.3nmの範囲でのみ認められるべきと考える。
(ウ)以上のことから、本件発明1について平均一次粒子径が34.4~39.3nmを超える範囲のシリカ粒子において効果を奏することが示されておらず、本件発明1は、発明の詳細な説明において開示されている内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。よって、本件特許請求の範囲の請求項1の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。
第5 当審の判断
1 取消理由(特許法第29条第1項第3号(新規性欠如))及び申立理由1(特許法第29条第2項(進歩性欠如))について
上記取消理由及び申立理由1は、同一の主たる証拠に対する新規性欠如及び進歩性欠如の理由であるため併せて判断する。
(1)甲1~甲5に記載の事項
ア 甲1(特開2010-28082号公報)に記載の事項
(ア)「【請求項1】
(A)シリカ粒子と、
(B)有機酸と、
(C)非イオン性界面活性剤と、
を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、
前記(A)シリカ粒子は、下記の化学的性質を有する、化学機械研磨用水系分散体。
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」
(イ)「【0001】
本発明は、化学機械研磨用水系分散体およびその製造方法、ならびに化学機械研磨方法に関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低誘電率絶縁膜に対する研磨速度を低減すると共に、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する高研磨速度と高平坦化特性を両立させ、かつ、ディッシング、エロージョン、スクラッチないしファング等の表面欠陥の発生を抑制できる化学機械研磨用水系分散体、およびそれを用いた化学機械研磨方法を提供する。
【0008】
前記「ファング」とは、本願発明が解決しようとする新たな課題である。以下、「ファング」について詳細に説明する。
【0009】
本明細書において「ファング」とは、特に金属膜が銅または銅合金からなる場合において顕著に発生する現象であって、銅または銅合金の微細配線を含む領域と、銅または銅合金の微細配線を含まない領域(フィールド部分)との界面において、化学機械研磨により局所的にディッシングないしエロージョンが発生する研磨欠陥をいう。」
(エ)「【0036】
1.化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)シリカ粒子と、(B)有機酸と、(C)非イオン性界面活性剤と、を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、前記(A)シリカ粒子は、「29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」という化学的性質を有する。まず、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について説明する。
【0037】
1.1 (A)シリカ粒子
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定しない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
【0038】
本実施形態における「シラノール基数」とは、シリカ粒子全体における単位質量当たりのシラノール基数であり、シリカ粒子の縮合度を表す指標である。シリカ粒子の縮合度はシリカ粒子の硬度と密接に関連するため、シラノール基数からシリカ粒子の硬度を推測することができる。シラノール基数は、29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出することができる。
【0039】
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は、化学機械研磨用水系分散体中に含まれる種々の添加剤や水と接することのできるシリカ粒子表面に存在するシラノール基数と、接することのできないシリカ粒子内部に存在するシラノール基数と、を総合的に表すことのできる指標である。・・・
【0041】
本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子の29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は2.0~3.0×1021個/gであり、好ましくは2.1~2.9×1021個/gである。
【0042】
シラノール基数が前記範囲内であると、シリカ粒子全体のシラノール基が緻密であるためにシリカ粒子の機械的強度が向上し、十分な研磨速度が得られる。さらに、シリカ粒子表面に存在するシラノール基により発現する電気的特性または化学的特性は、シリカ粒子表面近傍に存在する有機酸や水溶性高分子を誘引あるいは排斥させる。その結果、化学機械研磨用水系分散体中で添加剤成分がシリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせ、良好な研磨特性を実現するために最適な化学機械研磨用水系分散体を形成することができるものと考えられる。これにより、上述した新たな課題である「ファング」の発生を抑制することもできる。さらに、シラノール基数が前記範囲内であると、化学機械研磨用水系分散体中においてシリカ粒子と他の添加剤との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子の分散安定性を確保でき、研磨の際に欠陥の原因となる凝集が発生しない。
【0043】
シラノール基数が3.0×1021個/gを超えると、前記のようなバランスの取れた分散状態が得られないために不十分な研磨速度比や平坦化特性となるため好ましくないばかりでなく、バリアメタル膜に対する研磨速度が大きくなる傾向があり、エロージョンの発生を促進するため好ましくない。一方、シラノール基数が2.0×1021個/g未満であると、シリカ粒子の分散安定性に劣り、シリカ粒子が凝集し保存安定性が悪化するために好ましくない。また、機械的強度が大きすぎるためにディッシングの発生を促進したり、スクラッチ等の研磨欠陥の原因となる場合があり好ましくない。」
(オ)「【0055】
シリカ粒子のBET法を用いて測定した比表面積から算出される平均粒径は、好ましくは10~100nmであり、より好ましくは10~90nmであり、特に好ましくは10~80nmである。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性に優れ、欠陥のない平滑な研磨面を得ることができる。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲未満であると、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する研磨速度が小さくなりすぎるため実用的ではない。一方、シリカ粒子の平均粒径が前記範囲を超えると、シリカ粒子の保存安定性に劣るため好ましくない。」
(カ)「【0128】
シリカ粒子分散体Eは、下記の方法により作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5であるシリカ粒子分散体Eを得た。得られたシリカ粒子分散体Eをブルカー社製「固体測定用核磁気共鳴分光計 AVANCE300」を用いてDD-MAS法で29Si-NMRスペクトル測定を行い、ピーク分離ソフトWinFitを用いてピーク分離し、Q1、Q2、Q3、Q4状態のシリコンのシグナル面積比を求めて、上記一般式(2)にしたがってシラノール基数を算出したところ、2.9×1021個/gであった。」
イ 甲2(特開2010-34498号公報)に記載の事項
(ア)「【請求項1】
(A)シリカ粒子と、
(B)有機酸と、
(C)アニオン性界面活性剤と、
を含有する銅膜を研磨するための化学機械研磨用水系分散体であって、
前記(A)シリカ粒子は、下記の化学的性質を有する、化学機械研磨用水系分散体。
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」
(イ)「【0001】
本発明は、化学機械研磨用水系分散体およびその製造方法、ならびに化学機械研磨方法に関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常の圧力条件下においても銅膜および低誘電率絶縁膜に欠陥を引き起こすことなく、銅膜に対する高研磨速度および高研磨選択性を有し、かつ、ウエハの金属汚染の少ない化学機械研磨用水系分散体、ならびにこれを用いた化学機械研磨方法を提供する。」
(エ)「【0028】
1.化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)シリカ粒子と、(B)有機酸と、(C)アニオン性界面活性剤と、を含有する銅膜を研磨するための化学機械研磨用水系分散体であって、前記(A)シリカ粒子は、「29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」という化学的性質を有する。まず、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について説明する。
【0029】
1.1 (A)シリカ粒子
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定しない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
【0030】
本実施形態における「シラノール基数」とは、シリカ粒子全体における単位質量当たりのシラノール基数であり、シリカ粒子の縮合度を表す指標である。シリカ粒子の縮合度はシリカ粒子の硬度と密接に関連するため、シラノール基数からシリカ粒子の硬度を推測することができる。シラノール基数は、29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出することができる。
【0031】
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は、化学機械研磨用水系分散体中に含まれる種々の添加剤や水と接することのできるシリカ粒子表面に存在するシラノール基数と、接することのできないシリカ粒子内部に存在するシラノール基数と、を総合的に表すことのできる指標である。・・・
【0033】
本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子の29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は2.0~3.0×1021個/gであり、好ましくは2.1~2.9×1021個/gである。
【0034】
シラノール基数が前記範囲内であると、シリカ粒子全体のシラノール基が緻密であるためにシリカ粒子の機械的強度が向上し、十分な研磨速度が得られる。さらに、シリカ粒子表面に存在するシラノール基により発現する電気的特性または化学的特性は、シリカ粒子表面近傍に存在する有機酸や水溶性高分子を誘引あるいは排斥させる。その結果、化学機械研磨用水系分散体中で添加剤成分がシリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせ、良好な研磨特性を実現するために最適な化学機械研磨用水系分散体を形成することができるものと考えられる。さらに、シラノール基数が前記範囲内であると、化学機械研磨用水系分散体中においてシリカ粒子と他の添加剤との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子の分散安定性を確保でき、研磨の際に欠陥の原因となる凝集が発生しない。
【0035】
シラノール基数が3.0×1021個/gを超えると、前記のようなバランスの取れた分散状態が得られないために不十分な研磨速度比や平坦化特性となるため好ましくないばかりでなく、バリアメタル膜に対する研磨速度が大きくなる傾向があり、エロージョンの発生を促進するため好ましくない。一方、シラノール基数が2.0×1021個/g未満であると、シリカ粒子の分散安定性に劣り、シリカ粒子が凝集し保存安定性が悪化するために好ましくない。また、機械的強度が大きすぎるためにディッシングの発生を促進したり、スクラッチ等の研磨欠陥の原因となる場合があり好ましくない。」
(オ)「【0047】
シリカ粒子のBET法を用いて測定した比表面積から算出される平均粒径は、好ましくは10~100nmであり、より好ましくは10~90nmであり、特に好ましくは10~80nmである。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性に優れ、欠陥のない平滑な研磨面を得ることができる。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲未満であると、銅膜に対する研磨速度が小さくなりすぎるため実用的ではない。一方、シリカ粒子の平均粒径が前記範囲を超えると、シリカ粒子の保存安定性に劣るため好ましくない。」
(カ)「【0112】
シリカ粒子分散体Fは、以下のように作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均二次粒子径66nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、平均二次粒子径62nm、pH7.5のシリカ粒子分散体Fを得た。得られたシリカ粒子分散体Aを、ブルカー社製「固体測定用核磁気共鳴分光計 AVANCE300」を用いてDD?MAS法により29Si-NMRスペクトル測定を行い、ピーク分離ソフトWinFitを用いてピーク分離し、Q1、Q2、Q3、Q4状態のシリコンのシグナル面積比を求めて、前記式(2)にしたがってシラノール基数を算出したところ、2.9×1021個/gであった。」
ウ 甲3(国際公開2009/104465号)に記載の事項
(ア)「請求の範囲
[1] (A)シリカ粒子と、
(B1)有機酸と、
を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、
前記(A)シリカ粒子は、下記の化学的性質を有する、化学機械研磨用水系分散体。
BET法を用いて測定される比表面積および滴定により測定されるシラノール基量から算出されるシラノール基密度は、1.0~3.0個/nm2である。」
(イ)「[0001] 本発明は、化学機械研磨用水系分散体および化学機械研磨方法に関する。」
(ウ)「[0010] 本発明の目的は、金属膜や低誘電率絶縁膜に欠陥を引き起こすことなく、低誘電率絶縁膜に対する研磨速度を低減し、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する高研磨速度および高平坦化特性を有し、かつ、ウエハの金属汚染が少なく、ディッシング、エロージョン、スクラッチないしファング等の表面欠陥を抑制できる化学機械研磨用水系分散体、およびこれを用いた化学機械研磨方法を提供する。
[0011] 本発明のもう一つの目的は、通常の圧力条件下においても金属膜や低誘電率絶縁膜に欠陥を引き起こすことなく、銅膜に対する高研磨速度および高研磨選択性を有し、かつ、ウエハの金属汚染の少ない化学機械研磨用水系分散体、およびこれを用いた化学機械研磨方法を提供する。
[0012] 前記「ファング」とは、本願発明が解決しようとする新たな課題である。以下、「ファング」について詳細に説明する。
[0013] 本明細書において「ファング」とは、特に金属膜が銅または銅合金からなる場合において顕著に発生する現象であって、銅または銅合金の微細配線を含む領域と、銅または銅合金の微細配線を含まない領域(フィールド部分)との界面において、化学機械研磨により局所的にディッシングないしエロージョンが発生する研磨欠陥をいう。」
(エ)「[0064] 1.第1の化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る第1の化学機械研磨用水系分散体は、(A)シリカ粒子と、(B1)有機酸と、を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、前記(A)シリカ粒子は、「BET法を用いて測定される比表面積および滴定により測定されるシラノール基量から算出されるシラノール基密度は、1.0~3.0個/nm2である。」という化学的性質を有する。まず、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について説明する。
[0065] 1.1 (A)シリカ粒子
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子の表面のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定されない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
[0066] 本実施形態における「シラノール基密度」とは、シリカ粒子表面における単位面積当たりのシラノール基数であり、シリカ粒子表面の電気的特性または化学的特性を表す指標となる。シラノール基は、化学機械研磨用水系分散体中ではSiOHのH+がとれてSiO-の状態で安定して存在しているため、通常マイナスにチャージしている。これにより、シリカ粒子の電気的特性または化学的特性が発現する。シラノール基密度の単位は、個/nm2で表される。
[0067] 本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子のシラノール基密度は、BET法を用いて測定されたシリカ粒子の表面積および滴定により測定されたシラノール基量から算出したものである。シリカ粒子のシラノール基量は、一般的に知られている電位差滴定や、2005年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集p847~848に記載されているようなシリカ粒子の水分散体、あるいはシリカ粒子が分散した化学機械研磨用水系分散体を水酸化ナトリウムのような公知の塩基で滴定することにより測定することが可能である。
[0068] 本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子は、シラノール基密度が1.0~3.0個/nm2であり、より好ましくは1.1~2.8個/nm2であり、特に好ましくは1.2~2.6個/nm2である。シラノール基密度が前記範囲内であると、シリカ粒子表面の電気的特性または化学的特性により化学機械研磨用水系分散体中に含まれる有機酸や水溶性高分子等の添加剤成分を誘引または排斥する。その結果、化学機械研磨用水系分散体中で添加剤成分がシリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせ、良好な研磨特性を実現するために最適な化学機械研磨用水系分散体を形成することができるものと考えられる。
[0069] また、銅または銅合金の微細配線を含む領域と銅または銅合金の微細配線を含まない領域(フィールド部分)との界面において、化学機械研磨用水系分散体に含まれる成分が界面近傍に局在化し過度に研磨されることによりファングが発生すると考えられるが、シラノール基密度が前記範囲内であると、(A)シリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせるため、ファングの発生を抑制することもできる。
[0070] また、シラノール基密度が前記範囲内であると、化学機械研磨用水系分散体中においてシリカ粒子と他の添加剤との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子が化学機械研磨用水系分散体中で安定的に分散することが可能となり、研磨の際に欠陥の原因となる凝集が発生しない。シラノール基密度が3.0個/nm2を超えると、このようなバランスの取れた分散状態が得られないために、不十分な研磨速度比や不十分な平坦化特性となるため好ましくない。一方、シラノール基密度が1.0個/nm2未満である場合、化学機械研磨用水系分散体中におけるシリカ粒子の分散安定性に劣り、シリカ粒子が凝集し、保存安定性が悪化するために好ましくない。」
(オ)「[0076] シリカ粒子のBET法を用いて測定した比表面積から算出される平均粒径は、好ましくは10~100nmであり、より好ましくは10~90nmであり、特に好ましくは10~80nmである。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性に優れ、欠陥のない平滑な研磨面を得ることができる。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲未満であると、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する研磨速度が小さくなりすぎるため実用的ではない。一方、シリカ粒子の平均粒径が前記範囲を超えると、シリカ粒子の保存安定性に劣るため好ましくない。」
(カ)「[0195] シリカ粒子分散体Eは、以下のように作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均二次粒子径66nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、平均二次粒子径62nm、pH7.5のシリカ粒子分散体Eを得た。得られたシリカ粒子分散体Eを0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4~9の範囲で滴定し、その滴定値とBET比表面積の値からシラノール基密度を算出したところ、1.5個/nm2であった。」
エ 甲4(JETI 第61巻、3号、P58~61、(2013) 「シリカ技術の最新展望 高純度コロイダルシリカの技術と特性」)に記載の事項
(ア)「1.高純度コロイダルシリカの製造方法
・・・
原料の珪酸アルコキシドの代表的製造方法は,金属珪素を触媒下でアルコールと直接反応させて合成する。合成した珪酸アルコキシドは蒸留精製により容易に高純度化される。
Si+4ROH → Si(OR)4+2H2
この珪酸アルコキシドをアルカリ領域で加水分解,縮重合することにより,コロイダルシリカが得られる。」(58頁左欄下から4行~右欄10行)
(イ)「2.高純度コロイダルシリカの特性
コロイダルシリカの粒子径は電子顕微鏡による観察,比表面積から算出する方法,レーザー散乱を利用した動的光散乱法等で測定されている。
比表面積から算出する方法は,コロイダルシリカが真球状で密度が2.2と仮定して,次の関係式から算出される。
粒子径(nm)=
6×103÷2.2÷比表面積(m2/g)」(58頁右欄16~24行)
(ウ)「粒子形状については,一次粒子径は比表面積法(d1),二次粒子径は動的光散乱法(d2)で評価され,その比率(d2/d1)は粒子形状(会合度)の目安とされている。単分散な真球状,まゆ型,会合型など様々な粒径,形状のものが合成され,用途により選別使用されている(第1表、第1図)。」(58頁下から3行~60頁左欄3行)
(エ)「
[図:0001382382000001.jpg]
」
オ 甲5(特開2018-107293号公報)に記載の事項
(ア)「【請求項1】
シリカ粒子と、過酸化物とを含有する化学機械研磨用組成物であって、
前記シリカ粒子のシラノール基密度が3~6個/nm2であり、
前記シリカ粒子の含有量をMa(質量部)、前記過酸化物の含有量をMb(質量部)としたときに、Ma/Mbの値が200以上700以下である、化学機械研磨用組成物。」
(イ)「【0001】
本発明は、化学機械研磨用組成物およびそれを用いた化学機械研磨方法に関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の酸性金属膜研磨用の化学機械研磨用組成物を用いて化学機械研磨によりコバルトのような金属膜を研磨する場合、コバルト膜が容易に溶解してしまい、コバルト配線の異常酸化や腐食、断線、消失を招くという問題があった。また、従来のアルカリ性金属研磨用の化学機械研磨用組成物では、コバルト膜が化学的に安定であり硬度が高いことから、効率的に研磨することが容易ではないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記課題の少なくとも一部を解決することで、コバルト膜の腐食を抑制しながら良好な研磨特性を実現できる、半導体装置の製造に有用な化学機械研磨用組成物、およびそれを用いた化学機械研磨方法を提供するものである。」
(エ)「【0020】
1.化学機械研磨用組成物
本発明の一実施形態に係る化学機械研磨用組成物は、シリカ粒子と、過酸化物とを含有し、前記シリカ粒子のシラノール基密度が3~6個/nm2であり、前記シリカ粒子の含有量をMa(質量部)、前記過酸化物の含有量をMb(質量部)としたときに、Ma/Mbの値が200以上700以下であることを特徴とする。以下、本実施形態に係る化学機械研磨用組成物について詳細に説明する。
【0021】
1.1.シリカ粒子 本実施形態に係る化学機械研磨用組成物は、シラノール基密度が3~6個/nm2のシリカ粒子を含有する。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等のシリカ粒子が挙げられるが、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば特開2003?109921号公報等に記載されている方法で製造されたものを使用することができる。・・・
【0024】
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子の表面のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定されない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
【0025】
本実施形態における「シラノール基密度」とは、シリカ粒子表面における単位面積当たりのシラノール基数のことであり、シリカ粒子表面の電気的特性または化学的特性を表す指標となる。シラノール基は、化学機械研磨用組成物中ではSiOHのH+がとれてSiO-の状態で安定して存在しているため、通常マイナスにチャージしている。これにより、シリカ粒子の電気的特性または化学的特性が発現する。シラノール基密度の単位は、個/nm2で表される。
【0026】
シリカ粒子のシラノール基密度は、シアーズ法により求めることができる。・・・
【0027】
ここで、シリカ粒子のBET比表面積は、例えば、流動式比表面積自動測定装置「micrometrics FlowSorb II 2300(株式会社島津製作所製)」により、BET法を用いて測定した比表面積から算出される。
【0028】
本実施形態に用いられるシリカ粒子のシラノール基密度は、3~6個/nm2であり、好ましくは3.1個~6個/nm2であり、より好ましくは4~6個/nm2であり、特に好ましくは5~6個/nm2である。シラノール基密度が前記範囲内であると、コバルトとシリカ粒子表面に存在するシラノール基との化学反応が促進され、コバルト膜表面が改質されると推測される。具体的反応機構は明らかではないが、研磨工程中に過酸化物の作用により生じたコバルト表面に生じたCo-O部位と、シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH)が相互作用することにより、研磨されやすい改質層が生成すると考えられる。その結果、特に機械的な研磨作用によって、コバルト膜が円滑に除去されるので、良好な研磨特性が実現される。
【0029】
また、シリカ粒子のシラノール基密度が前記範囲内であると、化学機械研磨用組成物中のシリカ粒子表面の負電荷が大きくなるので、静電反発力(ゼータ電位)によってシリカ粒子が化学機械研磨用組成物中で安定に分散することが可能となり、CMPの際に欠陥の原因となるシリカ粒子同士の凝集を防止することができる。
【0030】
シリカ粒子のシラノール基密度が3個/nm2未満である場合、コバルトとシリカ粒子表面に存在するシラノール基との化学反応が起こりにくく、コバルト膜表面が改質され難いため、コバルト膜の研磨速度が小さくなる。また、化学機械研磨用組成物中のシリカ粒子表面の負電荷が小さくなるので、化学機械研磨用組成物中でのシリカ粒子の分散安定性が悪化しやすく、凝集したシリカ粒子によってスクラッチが発生するなど良好な研磨特性が実現できない。
【0031】
一方、シリカ粒子のシラノール基密度が6個/nm2を超えると、コバルトとシリカ粒子表面に存在するシラノール基との化学反応が過剰となり、コバルト膜の腐食が発生しやすい。
【0032】
シリカ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置で測定することにより求めることができる。シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは15nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上80nm以下であり、特に好ましくは30nm以上70nm以下である。シリカ粒子の平均粒子径が前記範囲であると、コバルト膜に対する実用的な研磨速度を達成できると共に、シリカ粒子の沈降・分離が発生しにくい貯蔵安定性に優れた化学機械研磨用組成物を得ることができる。動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置としては、ベックマン・コールター社製のナノ粒子アナライザー「DelsaNano S」;Malvern社製の「Zetasizer nano zs」;株式会社堀場製作所製の「LB550」等が挙げられる。なお、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は、一次粒子が複数個凝集して形成された二次粒子の平均粒子径を表している。」
(オ)「【0066】
<シリカ粒子分散体B>
シリカ粒子分散体Bは、以下のようにして作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-3;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均粒子径75nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で0.5時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ含有量(固形分濃度)20質量%、平均粒子径74nm、pH7.5のシリカ粒子分散体Bを得た。得られたシリカ粒子分散体Bを0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4~9の範囲で滴定し、その滴定値とBET比表面積の値からシラノール基密度を算出したところ、4.5個/nm2であった。長径の平均値(Rmax)および短径の平均値(Rmin)から、その比(Rmax/Rmin)を算出したところ1.2であった。」
(2)甲1~甲3、甲5に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(カ)の記載によれば、シリカ粒子分散体Eに含まれるシリカ粒子として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5、29Si-NMRスペクトル測定から算出されるシラノール基数が、2.9×1021個/gであるシリカ粒子分散体に含まれるシリカ粒子。」
イ 甲2に記載された発明
甲2の上記(1)イ(カ)は、甲1の上記(1)ア(カ)とほぼ同じ記載であるから、甲2には、甲1発明と同じ以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5、29Si-NMRスペクトル測定から算出されるシラノール基数が、2.9×1021個/gであるシリカ粒子分散体に含まれるシリカ粒子。」
ウ 甲3に記載された発明
甲3の上記(1)ウ(カ)の記載によれば、シリカ粒子分散体Eに含まれるシリカ粒子として、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5、シリカ粒子分散体を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4~9の範囲で滴定し、その滴定値とBET比表面積の値から算出されるシラノール基密度が、1.5個/nm2であるシリカ粒子分散体に含まれるシリカ粒子。」
エ 甲5に記載された発明
甲5の上記(1)オ(オ)の記載によれば、シリカ粒子分散体Bに含まれるシリカ粒子として、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-3;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均粒子径75nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で0.5時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ含有量(固形分濃度)20質量%、平均粒子径74nm、pH7.5、シリカ粒子分散体を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4~9の範囲で滴定し、その滴定値とBET比表面積の値から算出されるシラノール基密度が、1.5個/nm2であるシリカ粒子分散体に含まれ、長径の平均値(Rmax)および短径の平均値(Rmin)から算出される比(Rmax/Rmin)が1.2であるシリカ粒子。」
(3)本件発明1について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は「シリカ粒子」である点で一致するものの、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1のシリカ粒子は、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下であ」るのに対し、甲1発明のシリカ粒子は、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合の値が明らかでない点。
<相違点2>
本件発明1のシリカ粒子は、「cv値が、26.7%以下である」のに対し、甲1発明のシリカ粒子は、cv値が明らかでない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
a 相違点2が実質的な相違点であるか否かについて
シリカ粒子のcv値とは、本件明細書の【0033】の記載によれば、「動的光散乱粒子径測定装置を用いてシリカ粒子の平均2次粒子径を測定し、下記式(5)を用いて算出される値であり、均一な粒子径の指標となる値である。
cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (5)」ところ、甲1には、甲1発明のシリカ粒子のcv値に関する直接的な記載や、また、cv値を示唆する記載もないことから、上記のとおり、甲1発明のシリカ粒子は、cv値が明らかでない。
そこで、取消理由では、上記相違点1における検討の中ではあるが、本件発明1のシリカ粒子における製造方法と甲1発明のシリカ粒子における製造方法について考察し、両者の異同の観点から、相違点1に係る本件発明1のシリカ粒子の性状を甲1発明のシリカ粒子も有するものであるか否かを検討したので、ここでも上記相違点2に関して同様の検討を行うこととする。
しかしながら、この点から検討しても、上記相違点2は実施的な相違点である。その理由は以下のとおりである。
(a)本件発明1のシリカ粒子の製造方法
本件明細書には、表面に存在するシラノール基の割合が特定の範囲にあるシリカ粒子を製造する方法として、【0045】等には、テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により製造されるシリカ粒子を用いること、【0050】には、シリカ粒子の縮合度を高めるため、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応終了後、得られたシリカ粒子に対して加圧加熱処理を行うこと、そして、シリカ粒子に対する加圧加熱処理を行う際の条件として、【0051】には、圧力は、0.10MPa以上2.3MPa以下が好ましく、【0052】には、温度は、100℃以上220℃以下が好ましく、【0053】には、時間は、0.25時間以上6時間以下が好ましく、【0056】には、加圧加熱処理を水分散液中で行う際のpHは、6.0以上8.0以下が好ましいことが示されている。
ここで、上記の概略的な製造条件は、本件発明1で特定される性状を有するシリカ粒子を得るための目安となるものではあるが、これらの概略的な製造条件の範囲を満たしさえすれば本件発明1で特定される性状を有するシリカ粒子が得られると考えるべきではなく、これらの概略的な製造条件の範囲の中で、本件明細書の【0094】~【0098】に記載される実施例1~3、及び比較例2、3における一連の実験条件を参考にしながら、適宜各製造条件を調整することにより、本件発明1で特定される性状を有するシリカ粒子が製造されると考えるべきである。そして、特に、本件明細書の【0045】等に記載される本件発明1のシリカ粒子の原料となるシリカ粒子に関しては、「テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により製造されるシリカ粒子」と概略的な記載がなされる一方、実施例においては、同【0094】に「テトラメトキシシランとメタノールとを3:1(体積比)で混合し、原料溶液を調製した。温度計、攪拌機、供給管、留出ラインを備えた反応槽に、予めメタノール、純水、アンモニアを混合した反応溶媒を仕込んだ。反応溶媒中の水の濃度は15質量%、反応溶媒中のアンモニアの濃度は1質量%であった。反応溶媒の温度を20℃に保持しながら、反応溶媒と原料溶液とを9.2:1(体積比)とし、原料溶液を25分間、均等速度で反応槽へ滴下し、シリカゾルを得た。得られたシリカゾルを、シリカ粒子の含有率が約20質量%になるように、液量を純水追加で調整しながら、温度を上げてメタノールとアンモニアの除去を行い、シリカ粒子の含有率が約20質量%のシリカゾルを得た。」と詳細な記載がなされていることからすると、原料となるシリカ粒子については、「テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により製造されるシリカ粒子」であれば良いと言うことはなく、他の製造条件との関係も含め、一連の条件が示されている、実施例等を参考にしながら、テトラアルコキシシランの選択や、原料となるシリカ粒子の製造条件がさらに調整されると考えるのが合理的である。
(b)甲1発明のシリカ粒子の製造方法
甲1の上記(1)ア(カ)には、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均二次粒子径66nm)を、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理することが示されている。
そして、甲1の扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2)については、甲4の上記(1)エ(ア)等によれば、珪酸アルコキシドを加水分解、縮重合することにより得られるコロイダルシリカであることが分かる。
(c)本件発明1と甲1発明のシリカ粒子における製造方法の異同
上記(a)、(b)を踏まえると、本件発明1のシリカ粒子と甲1発明のシリカ粒子における製造方法は、特に、加圧加熱処理が行われるシリカ粒子についてみると、両者がどの様なテトラアルコキシシランを用いているのかは不明であり、また、原料となるシリカ粒子を得るまでの製造条件も一致しているとはいえない。
(d)そうすると、甲1発明のシリカ粒子の製造方法は、本件発明1のシリカ粒子の製造方法と一致するものではないから、両者のシリカ粒子の製造方法における異同の観点からみて、甲1発明のシリカ粒子が、本件発明1のシリカ粒子と同じ性状を有しているということはできない。
(e)さらに、特許権者より提出された令和3年8月6日付け意見書に添付された実験成績証明書には、甲1~3、5発明のシリカ粒子を実際に製造し、そのcv値、会合比を測定し、それらの値が、本件発明1及び2の範囲外であることが示されている(甲1~甲3発明のシリカ粒子のcv値:41.5%、会合比:2.10、甲5発明のシリカ粒子のcv値:29.3%、会合比:1.83)が、これらの結果は、上記(a)~(d)の判断と符号する。
b 相違点2に係る本件発明1の事項が容易想到であるか否かについて
上述のように、甲1には、甲1発明のシリカ粒子のcv値に関する直接的な記載や同cv値を示唆する記載がないことから、甲1発明は、シリカ粒子のcv値に着目したものではないことは明らかであり、同cv値を、上記相違点2の範囲とする動機付けが内在するとは到底いえない。
しかも、提出されている他の証拠、甲2~甲5をみても、シリカ粒子のcv値に関する記載はない。
そうすると、上記相違点2に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点2は実質的な相違点であるし、また、上記相違点2に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明、甲1~3、5に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 甲2、3及び5発明との対比・判断
(ア)対比
甲2発明は、甲1発明と同じ発明であり、甲3発明及び甲5発明で、甲1発明と異なる点は、本件発明1との関係では一致点となるものではないから、本件発明1と、甲2、3及び5発明とを、それぞれ対比すると、甲1発明と同様に、両者は「シリカ粒子」である点で一致するものの、以下の点で相違している。
<相違点3>
本件発明1のシリカ粒子は、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下である」のに対し、甲2、3及び5発明のシリカ粒子は、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合の値が明らかでない点。
<相違点4>
本件発明1のシリカ粒子は、「cv値が、26.7%以下である」のに対し、甲2、3及び5発明のシリカ粒子は、cv値が明らかでない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
a 相違点4が実質的な相違点であるか否かについて
甲2、3及び5には、それぞれ、甲2、3及び5発明のシリカ粒子のcv値に関する直接的な記載や、また、cv値を示唆する記載もないことから、甲2、3及び5発明のシリカ粒子のcv値は、明らかでなく、上記相違点4は、実質的な相違点である。
なお、本件発明1のシリカ粒子における製造方法と甲2、3及び5発明のシリカ粒子におけるそれぞれの製造方法の異同の観点から、上記相違点4に係る本件発明1のシリカ粒子の性状を甲2、3及び5発明のシリカ粒子も有するか否かについては、上記ア(イ)aで述べたのと同様に理由により、本件発明1と甲2、3及び5発明のシリカ粒子におけるそれぞれの製造方法は、一致するものではないから、甲2、3及び5発明のシリカ粒子は、それぞれ本件発明1のシリカ粒子と同じ性状を有しているということはできない。さらに、特許権者より提出された令和3年8月6日付け意見書に添付された実験成績証明書に、甲2、3及び5発明のシリカ粒子のcv値が、本件発明1の範囲外であることが示されていることは、上記ア(イ)a(e)で述べたとおりである。
b 相違点4に係る本件発明1の事項が容易想到であるか否かについて
上述のように、甲2、3及び5には、それぞれ、甲2、3及び5発明のシリカ粒子のcv値に関する直接的な記載や同cv値を示唆する記載もないことから、甲2、3及び5発明において同cv値を、上記相違点4の範囲とする動機付けがないことは明らかである。
この点は、甲4をみても変わりはないから、上記相違点4に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点4は実質的な相違点であるし、また、上記相違点4に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2、3及び5発明のいずれでもないし、甲2、3及び5発明のいずれの発明を主たる発明としても、甲1~3、5に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明2について
ア 甲1~3及び5発明との対比・判断
甲2発明は、甲1発明と同じ発明であり、甲3発明及び甲5発明で、甲1発明と異なる点は、本件発明2との関係では一致点となるものではないから、本件発明2と、甲1~3及び5発明とを、それぞれ対比すると、両者は「シリカ粒子」である点で一致するものの、以下の点で相違している。
<相違点5>
本件発明2のシリカ粒子は、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下である」のに対し、甲1~3及び5発明のシリカ粒子は、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合の値が明らかでない点。
<相違点6>
本件発明2のシリカ粒子は、「会合比が、1.8%以下である」のに対し、甲1~3及び5発明のシリカ粒子は、会合比が明らかでない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点6について検討する。
(ア)相違点6が実質的な相違点であるか否かについて
会合比とは、本件明細書【0035】の記載によれば、平均1次粒子径と平均2次粒子径とから、平均2次粒子径/平均1次粒子径で算出されるものであるところ、甲1~3及び5には、それぞれ、甲1~3及び5発明のシリカ粒子の会合比に関する直接的な記載やこれを示唆する記載もないことから、甲1~3及び5発明のシリカ粒子の会合比が明らかでないことは上述のとおりであり、上記相違点6を両者の製造方法の異同の観点からみても、この点は、実質的な相違点であるといわざるを得ない。
すなわち、本件発明2のシリカ粒子における製造方法と甲1~3及び5発明のシリカ粒子におけるそれぞれの製造方法の異同については、上記(3)ア(イ)aで述べたとおり、両者は一致するものではないから、甲1~3及び5発明のシリカ粒子はそれぞれ、本件発明2のシリカ粒子と同じ性状を有しているということはできない。さらに、特許権者より提出された令和3年8月6日付け意見書に添付された実験成績証明書に、甲1~3及び5発明のシリカ粒子の会合比が、本件発明2の範囲外であることが示されていることは、上記(3)ア(イ)a(e)で述べたとおりである。
(イ)相違点6に係る本件発明2の事項が容易想到であるか否かについて
上述のように、甲1~3及び5には、甲1~3及び5発明のシリカ粒子の会合比に関する直接的な記載ないし示唆は認められず、甲1~3及び5発明に、シリカ粒子の会合比を上記相違点6の範囲とする動機付けが存するものとはいえない。
さらに甲4をみても、シリカ粒子の会合比に関する記載は見当たらない。
そうすると、上記相違点6に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点6は実質的な相違点であるし、また、上記相違点6に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明2は、甲1~3及び5発明ではないし、甲1~3及び5発明、甲1~3、5に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件発明3~15について
本件発明3~8は、「シリカ粒子」に係る発明であり、本件発明9は、「シリカ粒子の製造方法」に係る発明であり、本件発明10~11は、「シリカゾル」に係る発明であり、本件発明12は、「研磨組成物」に係る発明であり、本件発明13は、「研磨方法」に係る発明であり、本件発明14は、「半導体ウェハの製造方法」に係る発明であり、本件発明15は、「半導体デバイスの製造方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は2の「シリカ粒子」に係る事項を含むため、本件発明1又2が、それぞれ甲1~3及び5発明ではないし、甲1~3及び5発明、甲1~3、5に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件発明3~15も、甲1~3及び5に記載された発明ではないし、甲1~3及び5に記載された発明、甲1~3、5に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)異議申立人の令和3年9月17日付け意見書について
異議申立人は、特許権者が提出した令和3年8月6日付の意見書に添付した実験成績証明書での実験が、引用文献1(甲1)の【0128】に開示された条件に対し、高純度コロイダルシリカとイオン交換水のスケールを変えていることに関し、実験のスケールにより粒子の形状や性状は変わってしまうことは当業者にとって技術常識であり、当該実験は、引用文献1~4(甲1~3、5)に開示された方法と同じ実験条件により製造されたものでないと主張している。
また、実験成績証明書では、オートクレーブの装置名や、オートクレーブの容量、cv値の測定方法等の記載がなく、具体的な実験条件が不明であり、このような実験により求められたcv値、会合比、平均2次粒子径の結果を根拠とするのは妥当ではないとし、本件発明1~15が引用発明1~4(甲1~3、5発明)と同一でないことは明らかではない旨主張している。
しかしながら、本件発明1~15が甲1~3及び5発明と同一であるとするには、異議申立人がそれを立証する必要があるところ、異議申立人の上記意見書での主張は、甲1~3及び5発明のシリカ粒子のcv値又は会合比が、本件発明1又は2の範囲にあることを示すものではない。
また、上記意見書での主張を検討しても、高純度コロイダルシリカとイオン交換水のスケールについて、例えば甲1発明では、コロイダルシリカ35kg、イオン交換水140kgであるのに対し、実験成績証明書における実験では、それぞれ105g、420gであるが、甲1発明に対しスケールが極端に小さいということはなく、再現実験としては妥当なスケールであるといえる。
また、オートクレーブの装置名等については、オートクレーブが特に使用頻度が少ないという装置ではないから、一般的に知られている装置を使用すれば良いと理解できるし、cv値の測定方法等も一般的な方法に従って行えばよいことも理解できる。
以上のとおりであるから、異議申立人の意見書での主張は、採用できない。
(7)取消理由及び申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1~15は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、取消理由及び申立理由1には理由がない。
2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反))について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件に関する判断
ア 本件発明の課題について
本件明細書の記載によれば、一般的に、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により得られるシリカゾル中のシリカ粒子は、縮合度が十分に高いとは言えず、縮合度が低いシリカ粒子は、SiO4四面体が連結してできる員環の形成が不十分で、員環サイズが小さく、歪が大きく、機械的強度に劣り、そのような縮合度が低いシリカ粒子を研磨に用いると、研磨中にシリカ粒子が破壊され、破壊されたシリカ粒子が被研磨体に付着する等、研磨において悪影響を及ぼすと共に、縮合度が低いシリカ粒子は、シラノール基が多く残存しているため、保存中に残存しているシラノール基が反応活性点となり、保存安定性を悪化させるという問題があったが(【0007】)、従来の、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応によりシリカゾルを製造する方法では、得られたシリカゾルに対して加圧加熱処理を行う等のシリカ粒子の縮合度を高める処理を行っておらず、依然として得られたシリカ粒子は、員環の形成が不十分で歪が大きく、機械的強度に劣り、保存安定性に劣るものであった(【0008】)。この様な従来の問題を受け、本件発明は、特に「研磨特性、保存安定性に優れたシリカ粒子」を提供すること(【0009】)を発明の課題としている。
イ 本件発明の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について
本件明細書の【0010】には、【課題を解決するための手段】として、「本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率と固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率とから算出される表面に存在するシラノール基の割合を最適化することで、シリカ粒子の研磨特性、保存安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、同【0014】には、表面に存在するシラノール基の割合について、「表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下である。表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下であると、SiO4四面体の酸素を共有しながら員環の形成が促進され員環サイズが大きくなって歪が小さくなり、シリカ粒子が弾性変形しづらくなり、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れる。」と記載され、同【0025】には、表面に存在するシラノール基の割合を所望の範囲にするには、「シリカ粒子の表面シラノール基の含有率とシリカ粒子のバルクシラノール基の含有率とを制御が容易で、シリカ粒子の表面に存在するシラノール基の割合を精密に制御することが可能であることから、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応で得られたシリカゾルを加圧加熱処理する方法が好ましい。」と記載されていることから、上記アの発明の課題を解決する手段に関し、以下の点を理解することができる。
・表面に存在するシラノール基の割合を最適化することで、シリカ粒子の研磨特性、保存安定性が向上すること。
・具体的には、表面に存在するシラノール基の割合を、15%以下とすること。
・表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下であると、SiO4四面体の酸素を共有しながら員環の形成が促進され員環サイズが大きくなって歪が小さくなり、シリカ粒子が弾性変形しづらくなり、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることになること。
・表面に存在するシラノール基の割合は、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応で得られたシリカゾルを加圧加熱処理する方法により、精密に制御することが可能であること。
そして、同【0094】~【0098】に記載され【表1】にまとめられている実施例及び比較例の記載によれば、表面シラノール基割合が15%以下(本件発明の範囲内)の実施例1(8.5%)、実施例2(5.6%)、実施例3(5.0%)は、例えば、表面シラノール基割合が15%を超える(本件発明の範囲外の)比較例4(17.1%)に対して、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値及び会合比の値についてそれほど差がないにもかかわらず、保存安定性が優れている結果が得られている。さらに、この実施例及び比較例の実験結果に対し、同【0098】には、「表1から分かるように、加圧加熱処理を行わなかった比較例1や加圧加熱処理を行ったか不明な比較例4に対し、加圧加熱処理を行った実施例1~3で得られたシリカゾル中のシリカ粒子は、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比の変化がほぼなく、表面に存在するシラノール基の割合が低減した。平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比の変化がほぼない状況での表面に存在するシラノール基の割合の低減は、大きな員環の形成を表し、SiO4四面体の酸素を共有することによる員環の形成が促進されてシリカ粒子の欠陥が少ないことを意味する。これは4員環が少ないことを意味するので歪が少なく弾性変形し難いことからシリカ粒子の機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることが期待される。また、加圧加熱処理を行っているので、アルコキシ基やシラノール基の含有量が低減していると考えられ、反応活性なサイトが少なく、シリカゾルの保存安定性にも優れることが期待される。また、表面シラノール基割合が小さいことで、沈降しにくい安定なシリカ粒子となっていることが期待される。・・・加圧加熱処理を行なわなかった比較例1では、今回の評価で沈降したシリカ粒子が肉眼で確認されなかったが、実施例1~3よりもアルコキシ基やシラノール基の含有量が多いと考えられ、反応活性なサイトが多く、更なる長期保存をした場合には、シリカ粒子の沈降が発生すると考えられる。更に、比較例1及び比較例4では、表面シラノール基割合が大きかった。表面シラノール基割合が大きいことで、大きな員環の形成が行われず、SiO4四面体の酸素を共有することによる員環の形成が促進されず、シリカ粒子の欠陥が多いと考えられる。これは4員環が多いことを意味するので歪が多く弾性変形しやすいことからシリカ粒子の機械的強度に劣り、研磨組成物の研磨特性に劣ることが予想される。」との評価がなされ、上記アの発明の課題の「保存安定性に優れた」との点については、実施例の実験による評価で裏付けがなされていると共に、「研磨特性に優れた」との点についても同様に、同【0098】の記載等により、裏付けがなされているといえる。
そうすると、本件明細書の記載によれば、上記アの発明の課題を解決するには、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下」であれば良いと理解するのが合理的である。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明の対比
上記イで述べたように、「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下」であれば、上記アの本件発明の課題を解決することができることが理解できる。
一方、本件発明(本件発明1、2及び本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3~15)は、上記アの発明の課題を解決するのに必要な手段である「シアーズ法により測定した表面シラノール基の含有率をx質量%、固体29Si-DD/MAS-NMRにより測定したバルクシラノール基の含有率をy質量%としたとき、(x/y)×100%で表される表面に存在するシラノール基の割合が、15%以下」であることを特定事項として含んでいる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものということができる。
したがって、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)に係る申立理由2には、理由がない。
(3)異議申立人の主張に対する判断
ア 異議申立人の異議申立書での主張について
異議申立人は、異議申立書において、次の3点について主張する。
(i)表面に存在するシラノール基の割合について、実施例1~3では、保存安定性の評価結果しか示されておらず、表面に存在するシラノール基の割合が15.0%以下であることで、発明の課題である機械的強度に優れたシリカ粒子を製造し得ることが、実施例より裏付けられていると認識することができないから、本件発明がサポート要件に適合するということはできないこと。
(ii)平均一次粒子径について、本件発明1又は2では、シリカ粒子の平均一次粒子径の範囲が規定されていないのに対して、実施例1~3では、平均一次粒子径が34.4~39.3nmの範囲のシリカ粒子についての保存安定性に関する評価結果しか記載されていないこと。
(iii)製法が同一であれば、シリカ粒子の単位面積当たりのシラノール基数は同一と考えられ、仮に粒子径が2倍になった場合、表面シラノール基数は粒子径の2乗に比例し4倍となり、バルクシラノール基数は粒子径の3乗に比例し、8倍となり、シラノール基の割合は1/2倍になる。例えば、比較例4は、表面シラノール基割合が17.1%であり、一次粒径が36.1nmであるが、同様の製造条件で得られる粒径が2倍のシリカ粒子を想定した場合、加圧加熱処理の有無にかかわらず、シラノール基の割合は17.1%の半分の値となり、粒径を変えるだけで、容易に表面シラノール基の割合が15%以下になり本件発明の要件を満たすことになるが、所定の加圧加熱処理がなされていないと考えられるシリカ粒子においては、粒径を変えただけでは、員環形成が促進されず、本願発明の効果が得られないと考えられるため、本件発明の効果はあくまで平均一次粒子径が34.4~39.3nmの範囲でのみ奏され、この範囲が特定されていない本件発明1はサポート要件に適合するということはできないこと。
しかしながら、本件発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することは、上記(2)で述べたとおりである。
念のため異議申立人の個別の主張を検討すると、表面に存在するシラノール基の割合について、実施例1~3で、保存安定性の評価結果しか示されていないとしても、上記実施例1~3により製造されるシリカ粒子が、機械的強度に優れたものであることが理解できることは、上記(2)イで述べたとおりである。
また、平均一次粒子径について、本件明細書の【0026】には、5nm以上が好ましく100nm以下が保存安定性等の観点から好ましい旨の記載はあるが、本件明細書には、平均一次粒子径が34.4~39.3nmの範囲でしか、本件発明の課題を解決できない旨の記載はない。
さらに、製法を同一とし、製造される粒子の粒子径を2倍にした場合、シリカ粒子の単位面積当たりのシラノール基数が、粒子径を2倍とする前と同一なるのか明らかでないし、仮に、粒子径を2倍にし、表面シラノール基数は粒子径の2乗に比例し4倍となり、バルクシラノール基数は粒子径の3乗に比例し、8倍となったとしても、本件発明の表面シラノール基の含有率(x質量%)とバルクシラノール基の含有率(y質量%)との関係が明らかでなく、実際に、シリカ粒子の粒子径が2倍になった場合、x/y×100で表される表面に存在するシラノール基の割合が1/2になるのかが立証されていないから、比較例4のシリカ粒子を、同様の製造条件で粒径が2倍のシリカ粒子を製造した場合、表面シラノール基の割合が15%以下になるとの主張は、採用することができない。
したがって、異議申立人の異議申立書での主張は採用できない。
イ 異議申立人の意見書での主張について
異議申立人は、意見書で、「本件明細書等の段落【0098】には、『表1から分かるように、加圧加熱処理を行わなかった比較例1や加圧加熱処理を行ったか不明な比較例4に対し、加圧加熱処理を行った実施例1~3で得られたシリカゾル中のシリカ粒子は、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比の変化がほぼなく、表面に存在するシラノール基の割合が低減した。平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比の変化がほぼない状況での表面に存在するシラノール基の割合の低減は、大きな員環の形成を表し、SiO4四面体の酸素を共有することによる員環の形成が促進されてシリカ粒子の欠陥が少ないことを意味する。・・・』と記載されていることから、実施例1~3のシリカ粒子は、cv値、会合比、平均1次粒子径がほぼ変化しない状況でのシラノール基の割合の低減により、機械的強度及び保存安定性に優れるものであり、cv値、会合比、平均1次粒子径は、実施例1~3に示されるcv値、会合比、平均1次粒子径の範囲でのみ本願発明の課題が解決されるものある」と主張している。
しかしながら、本件発明が、表面に存在するシラノール基の割合が15%以下であることで、本件発明の課題を解決できることは、上記(2)で述べたとおりである。
そして、実施例1~3が、加圧加熱処理を行わなかった比較例1や加圧加熱処理を行ったか不明な比較例4に対し、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比の変化がほぼない状況のもと、表面に存在するシラノール基の割合の大小によって、機械的強度及び保存安定性の違いを示すことは、むしろ、表面に存在するシラノール基の割合の大小が、本件発明の課題の解決に直結するものであることを示すものであるといえる。
そうすると、異議申立人の意見書での主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明について記載した特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、申立理由2には理由がない。
3 異議申立人が主張する、本件訂正に起因する新たな申立理由(特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反))について
異議申立人は、意見書で、実施可能要件違反として、以下の理由を主張している。
(1)本件発明1について、本件明細書の【0033】には、「シリカ粒子のcv値は、動的光散乱粒子径測定装置を用いてシリカ粒子の平均2次粒子径を測定し、下記式(5)を用いて算出される値であり、均一な粒子径の指標となる値である。
cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm)×100・・・(5))」との記載がある。しかしながら、動的光散乱粒子径測定装置では、「標準偏差」が測定されないため、どのようにしてcv値が算出されたのか不明であり、cv値を規定した本件発明1は、当業者が実施することができる程度に記載されたものではない。
(2)本件発明1について、本件明細書の【0097】の表1では、実施例1~3において、cv値が、26.0%~26.7%の範囲が示されているが、26.0%よりcv値が低い範囲の結果について示されていない。
ここで、cv値は、粒子の単分散性を示す値であり、cv値が低いほど粒子径が揃っており、単分散性が高いことを意味する。通常、よりcv値が低く、単分散性が高いシリカ粒子を得るには、反応器内の分散状態を高度に制御する必要があり、その製造は困難であるところ、本件明細書にはcv値を制御する方法が開示されていない。このため、本件明細書の記載から、26.0%より低い値のcv値のシリカ粒子を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするといえる。したがって、本件発明1は、当業者が実施することができる程度に記載されたものではない。
(3)本件発明2について、本件明細書の【0097】の表1では、実施例1~3において、会合比が、1.6~1.8の範囲が示されているが、会合比が1.6より低い範囲について示されていない。
ここで、会合比とは、「平均2次粒子径/平均1次粒子径」で表され、会合する分子の割合(会合度)を意味する。
通常、会合比が低く、粒子同士が凝集しないような高い分散性を有するシリカ粒子得るには、反応器内の分散状態を高度に制御する必要があり、その製造は困難であるところ、本件明細書には会合比を制御する具体的な方法が開示されていない。このため、本件明細書の記載から、1.6未満の会合比のシリカ粒子を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするといえる。このため、本件発明1は、当業者が実施することができる程度に記載されたものではない。
そこで検討するに、上記(1)についていうと、動的光散乱粒子径測定装置では、粒子の粒子径や粒子径の分布を測定することができるのであるから、シリカ粒子の「標準偏差」を求めることができないということはなく、cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm)×100の式によって、cv値を算出することができるといえる。また上記(2)についていうと、cv値は、低いほど粒径が揃っており、単分散性が高いことを意味するものであるが、粒子径を揃え単分散性を高めるのに適した製造条件は知られているといえ、cv値を小さくすることを指向した場合には、適宜、26.0%以下のcv値を有するシリカ粒子を製造することができるといえる。また、本件発明1でのcv値の特定が26.0%以下であるとしても、本件明細書の【0032】には、研磨レート等との関係で15以上が好ましいことが記載されているし、cv値において実現が困難であるような極端な値までをその範囲とするものではないと解するのが合理的である。さらに上記(3)についてみても、会合比は、低いほど粒子同士が凝集しておらず、分散性が高いことを意味するものであるが、粒子同士が凝集しないものとし、分散性を高めるのに適した製造条件は知られているといえ、会合度を小さくすることを指向した場合には、適宜、1.6%以下の会合度を有するシリカ粒子を製造することができるといえる。また、本件発明2での会合度の特定が1.6%以下であるとしても、本件明細書の【0034】には、研磨レート等との関係で1.0以上が好ましいことが記載されているし、会合度において実現が困難であるような極端な値までをその範囲とするものではないと解するのが合理的である。
そうすると、異議申立人の上記(1)~(3)の主張は採用することができないから、本件発明の実施に際し、特に過度の試行錯誤が必要であるということはできず、本件発明が実施可能要件に違反しているとすることはできない。
以上のとおり、本件訂正に起因する新たな申立理由は、理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~15は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由、上記申立理由1、2及び本件訂正に起因して新たに申立てられた申立理由では、本件特許1~15を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~15を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700280