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特許異議申立

2024-700057

生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法

審判番号
2024-700057
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-518351
登録番号
7314931
請求日
2024年01月25日
審決日
2024年10月31日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】東洋紡株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
  • 【異議申立人】井上 憲介
審判長/審判官
  • 審判長 福井 悟
  • 審判官 高堀 栄二
  • 審判官 中根 知大
分類
P1651.113-ZC (C12Q) / P1651.121-ZC (C12Q) / P1651.536-ZC (C12Q) / P1651.537-ZC (C12Q)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7314931号発明「生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7314931号の請求項1、3、5~10に係る特許を取り消す。 特許第7314931号の請求項2、4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7314931号の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和1年5月10日(優先権主張 平成30年5月10日)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月18日にその特許権の設定登録がされ、同年7月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~10に係る特許について、令和6年1月25日に特許異議申立人 井上 憲介により特許異議の申立てがされたものである。 当審は、令和6年5月30日付けで、請求項1、3、5~10に係る特許について取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からの応答はなかった。 第2 本件発明 特許第7314931号の請求項1~10の特許に係る発明(以下、「本件発明1~10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤であって、銅塩、銅タンパク質、及び銅イオンを含む顔料からなる群より選択される少なくとも一種の銅含有物質を含有することを特徴とし、 前記生体成分測定法は以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法であり、(d)の要件を満たす試薬中に前記銅含有物質が0.00001~1mM濃度となるように添加されて3日間以上共存させるようにして用いられる、生体成分の測定感度低下抑制剤: (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。 【請求項2】 4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。 【請求項3】 以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法における測定感度低下の抑制方法であって、(d)の要件を満たす試薬中に 銅塩、銅タンパク質、及び銅イオンを含む顔料からなる群より選択される少なくとも一種の銅含有物質を 0.00001~1mM濃度で添加 して3日間以上共存させることを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法: (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。 【請求項4】 4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、請求項3に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。 【請求項5】 前記生体成分が、クレアチニン又は糖化ヘモグロビンのいずれかであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。 【請求項6】 以下の(a)~(e)の要件を満たす生体成分測定試薬キットであって、(d)及び(e)要件を満たす試薬については2つの要件を同時に満たす一つの試薬としてなり、該一つの試薬は(e)の銅含有物質を0.00001~1mM濃度で含有し、3日間以上保管後に使用されることを特徴とする、生体成分測定試薬キット。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。 (e)銅塩、銅タンパク質、及び銅イオンを含む顔料からなる群より選択される少なくとも一種の銅含有物質を含む。 【請求項7】 前記(d)及び(e)の2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、製造後少なくとも1か月間を経過していることを特徴とする、請求項6に記載の生体成分測定試薬キット。 【請求項8】 請求項6又は7に記載の生体成分測定キットを用いることを特徴とする生体成分測定方法。 【請求項9】 以下の(a)~(e)の要件を満たす、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下が抑制された生体成分測定試薬キットの製造方法であって、(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬として製造 し、該一つの試薬は(e)の銅含有物質を0.00001~1mM濃度で含有し、3日間以上保管されることを特徴とする、生体成分測定試薬キットの製造方法。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。 (e) 銅塩、銅タンパク質、及び銅イオンを含む顔料からなる群より選択される少なくとも一種の銅含有物質を含む。 【請求項10】 前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、生体成分測定試薬キットの製造プロセスでの中間試薬であることを特徴とする、請求項9に記載の生体成分測定試薬キットの製造方法。」 第3 特許異議申立理由の概要及び証拠方法 特許異議申立人が、本件の請求項1~10に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。 1 特許異議申立理由の概要 (1)理由1:特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項(甲第1号証を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如) 本件発明1~10は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり、また、本件発明1~10は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)理由2:特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反) ア.理由2-1:第36条第6項第1号 本件発明1、3、5~8には、アミノアンチピリン系化合物に4-ヒドロキシアンチピリンが含まれること及び生体成分の測定感度の低下が4-ヒドロキシアンチピリンに起因することについての限定がないので、本件発明1、3、5~8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1、3、5~8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 イ.理由2-2:第36条第6項第1号 本件発明1~6、8~10には、アミノアンチピリン化合物と銅含有物質の保存条件について「3日間以上共存」以外の限定がなく、本件発明7にも「製造後少なくとも1か月間を経過している」以外の限定がないので、本件発明1~10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ウ.理由2-3:第36条第6項第1号 本件発明1~10には、4-ヒドロキシアンチピリンの濃度についての限定がされていないので、本件発明1~10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (3)理由3:特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反) ア.理由3-1:第36条第4項第1号 本件明細書には4-ヒドロキシアンチピリンが含まれない酸化還元発色試薬を用いた生体成分測定法において銅含有物質を含有することにより測定感度低下の抑制を確認した記載がないので、本件発明1、3、5~8について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1、3、5~8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 イ.理由3-2:第36条第4項第1号 本件明細書には銅含有物質と4-ヒドロキシアンチピリンを含む試薬について冷蔵(6℃)又は35℃の温度条件で3日間保存した以外の保存条件について、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度の低下抑制を確認した記載がないので、本件発明1~10について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ウ.理由3-3:第36条第4項第1号 本件明細書には4-ヒドロキシアンチピリンの濃度について0.0016mg/ml~0.1mg/ml以外において、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度の低下抑制を確認した記載がないので、本件発明1~10について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2 証拠方法 (1)甲第1号証:特開昭60-262599号公報 (2)甲第2号証:特開2019-195300号公報 (3)甲第3号証:特開2019-196993号公報 第4 甲号証の記載 甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。 1 甲第1号証:特開昭60-262599号公報 (甲1-1)「3.発明の詳細な説明 本発明は、アスコルビン酸の新規な分解方法に関する。 アスコルビン酸は、ビタミンCとして良く知られた還元性物質であり、これが被検試料例えば体液成分中に共存する場合は、酸化還元反応を利用するそれら被検試料中の目的成分の定量の際、その還元性に起因して、正又は負の誤差を与える原因となることが良く知られている。 これらアスコルビン酸の分解方法としては、アスコルビン酸オキシダーゼを用いる方法(特公昭56-39198)、ヨウ素酸若しくはその塩を用いる方法、又は過ヨウ素酸類若しくはこれらの塩を用いる方法(特開昭56-109595、特開昭56-151358、特開昭56-107161)などが、臨床化学、製薬化学、生化学、食品化学のような分野の課題を解決する技術として、開示されている。」(第2頁左上欄第8行~右上欄第5行) (甲1-2)「本発明者らは、このような現状に鑑み、銅イオンの存在下のアスコルビン酸の分解反応に付き鋭意研究の途上、アスコルビン酸が銅イオンの存在下に酸化されてデヒドロアスコルビン酸及びH2Oを生成する反応が存在すること、及びそのような分解反応には銅イオンの他にペルオキシダーゼ及び、(1)4-アミノアンチピリン、(2)3-メチルベンゾチアゾリノンヒドラゾン、(3)2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)、(4)トリフェニルメタン系ロイコ色素、(5)フェノール系化合物、(6)アニリン系化合物、(7)ナフトール系化合物から成る群より選ばれた一種又は二種以上の化合物の存在が必要であること、更に、この方法が基質に酸化酵素を作用させてH2O2を生成させ、これを測定することにより被検試料中の目的成分を定量する、体液成分の定量方法に適用し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。 即ち、本発明は、一価又は二価の銅イオン、ペルオキシダーゼ、及び下記(1)~(7)から成る群より選ばれた一種又は二種以上の化合物を共存させることを特徴とする、アスコルビン酸の分解方法である。 (1)4-アミノアンチピリン(4-AAP) (2)3-メチルベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH) (3)2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS) (4)トリフェニルメタン系ロイコ色素 (5)フェノール系化合物 (6)アニリン系化合物 (7)ナフトール系化合物」(第3頁左上欄第2行~右上欄第13行) (甲1-3)「また、本発明の方法を実施するに用いる1価又は2価の銅イオン、ペルオキシダーゼ、及び(1)4-アミノアンチピリン、(2)3-メチルベンゾチアゾリノンヒドラゾン、(3)2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)、(4)トリフェニルメタン系ロイコ色素、(5)フェノール系化合物、(6)アニリン系化合物、(7)ナフトール系化合物から成る群より選ばれた一種又は二種以上から成る新規なアスコルビン酸分解用試薬組成物は、アスコルビン酸と同じ還元性物質であるビリルビンにも作用して、その還元性を失わせる効果をも併せて有する。従って、本発明の方法をH2O2のような酸化性物質を測定することにより目的成分を定量するような反応即ち、酸化還元反応(レドックス反応)により目的成分を定量する反応に、これを適用すると、そのような反応系に存在するアスコルビン酸やビリルビンのような還元性物質の妨害を効果的に回避することができるので、目的成分を、そのような妨害による悪影響なしに、正確に定量することができる。」(第3頁左下欄第18行~右下欄第17行) (甲1-4)「本発明に於て、H2O2の生成なしにアスコルビン酸を分解させる目的で、1価又は2価の銅イオン及びペルオキシダーゼと共に用いられる、4-アミノアンチピリン、3-メチルベンゾチアゾリノンヒドラゾン、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)、トリフェニルメタン系ロイコ色素、フェノール系化合物、アニリン系化合物、ナフトール系化合物に於て、トリフェニルメタン系ロイコ色素の具体例としては、従来から公知のロイコマラカイトグリーン、ロイコクリスタルヴァイオレット等の他、最近開発された、ビス(p-ジエチルアミノフェニル)2-スルホフェニルメタン、ビス(p-ジエチルアミノフェニル)4-スルホプロポキシフェニルメタンナトリウム塩、ビス(p-ジエチルアミノフェニル)3,4-ジスルホプロポキシフェニルメタンジナトリウム塩(以下BS dipro PMと略称する。)等が挙げられる。 また、フェノール誘導体の具体例としては、フェノール、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノールなどが挙げられ、アニリン誘導体としては、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジエチル-m-トルイジン、3-メチル-N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン、3,5-ジメチル-N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、3,5-ジメトキシ-N-エチル-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリンなどが挙げられる。 更に、ナフトール誘導体としては1-ナフトール、1-ナフトール-2-スルホン酸、1-ナフトール-2-カルボン酸、1-ナフトール-8-スルホン酸、1-ナフトール-3-スルホン酸、1-ナフトール-5-スルホン酸などが挙げられる。」(第4頁左上欄第4行~左下欄第1行) (甲1-5)「本発明の、還元性物質の分解反応は、通常は、溶液中で実施される。 そのような溶液中のCu+又はCu2+イオン濃度としては、通常、0.001~1mmol/lであり、pHは、例えば、6.0~8.5が選ばれ、そのようなpHに溶液を維持するための緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩緩衝液、グッド緩衝液など、汎用されているものが使用されるが、その好ましい一例を挙げると、0.001~2Mリン酸緩衝液が挙げられる。 そのような溶液中に於て、Cu+又はCu2+イオンを与える化合物としては、例えば、硫酸銅、塩化第二銅、塩化第一銅、硝酸銅、臭化第二銅、臭化第一銅、リン酸第二銅などの水溶性無機銅塩、酒石酸銅、クエン酸銅、酢酸銅などの水溶性有機銅塩、などの水溶性銅化合物、が挙げられる。 本発明に用いるペルオキシダーゼの濃度は、通常20~5000U/dlであり、好ましくは、50~2000U/dlである。 また、4-アミノアンチピリン(4-AAP)の濃度は、通常、0.001~0.05%であり、好ましくは、0.003~0.03%である。」(第4頁左下欄第2行~右下欄第4行) (甲1-6)「本発明の還元性物質の分解方法を適用して特に効果的な測定方法は、被検試料が体液であり、定量の目的成分が体液成分であるような測定方法であるが、そのような、目的成分を定量する反応として代表的なものに、定量の目的成分が基質又は酵素であって且つその酵素が基質に作用してH2O2を生成するような酸化酵素である酵素反応があり、このような反応の例としては、基質がグルコース、コレステロール、グリセロール、グリセロールリン酸エステル、コリン、アシルCoA、ピルビン酸、尿酸、キサンチン又は乳酸であり、それらの基質に作用する酸化酵素が、各々グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、グリセロールリン酸エステルオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アシルCoAオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、ウリカーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は乳酸オキシダーゼである系等が挙げられる。 このような反応で生成したH2O2を定量することにより目的成分を定量する場合は、それら生成したH2O2によって、ペルオキシダーゼの存在下に酸化されて呈色する被酸化性呈色試薬を用い、その呈色を測定することによって目的成分を定量するのが、一般的である。」(第5頁左上欄第6行~右上欄第9行) (甲1-7)「かかる目的に用いられる被酸化性呈色試薬としては、4-アミノアンチピリン(4-AAP)とフェノール系化合物との組合せ試薬、4-アミノアンチピリン(4-AAP)とアニリン系化合物との組合せ試薬、4-アミノアンチピリン(4-AAP)とナフトール系化合物との組合せ試薬、3-メチルベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)とアニリン系化合物との組合せ試薬、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、トリフェニルメタン系ロイコ色素等、先に述べた、本発明に於て、H2O2の生成なしにアスコルビン酸を分解させるに必要な試薬と同じものが、単独で、若しくは組合せ試薬として挙げられる。また、ここで使用するトリフェニルメタン系ロイコ色素、フェノール系化合物、アニリン系化合物、ナフトール系化合物等の具体例も、先に述べた、本発明で用いられるトリフェニルメタン系ロイコ色素、フェノール系化合物、アニリン系化合物、ナフトール系化合物の具体例と同じものが挙げられる。」(第5頁右上欄第10行~左下欄第9行) (甲1-8)「従って、かかる測定系に本発明のアスコルビン酸の分解方法を適用した場合には、H2O2の生成を伴わずにアスコルビン酸を分解させる目的で、銅イオン、ペルオキシダーゼと共に用いる上記(1)~(7)の化合物が、そのまま被酸化性呈色試薬として、又は被酸化性呈色試薬のカプラー若しくはデベロッパーとして使用し得るので、新たに他の被酸化性呈色試薬を加える必要はない。即ち、前記目的で、銅イオン、ペルオキシダーゼと共にカプラーを用いた場合にはデベロッパーを、デベロッパーを用いた場合にはカプラーを後から加えれば良いし、それ自体被酸化性呈色試薬であるABTSやトリフェニルメタン系ロイコ色素を用いた場合、及び4-AAPとフェノール系化合物、アニリン系化合物、ナフトール系化合物の組合せ試薬を用いた場合、並びにMBTHとアニリン系化合物の組合せ試薬を用いた場合などは、当然のことながら、そのままそれらが被酸化性呈色試薬となり得るので、更に他の被酸化性呈色試薬を加える必要は全くない。」(第5頁左下欄第10行~右下欄第9行) (甲1-9)「本発明の方法を適用できる、基質に酸化酵素を作用させてH2O2を生成させ、これを測定することにより被検試料中の目的成分を定量する体液成分の定量方法に於ける定量試薬の例を挙げると、次のとおりである。 (1)基質測定用の系がグルコースを測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、フェノール又はN,N-ジエチルキシリジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (2)基質測定用の系が尿酸を測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、ウリカーゼ、N-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジン、4-アミノアンチピリンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (3)基質測定用の系がコレステロールを測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、コレステロールエステルヒドロラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、フェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (4)基質測定用の系がトリグリセライドを測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、リポプロテインリパーゼ、グリセロキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、p-クロロフェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (5)基質測定用の系がリン脂質を測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、ホスホリパーゼD、コリンオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、フェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (6)基質測定用の系がアシルCoAを測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、アシルCoAオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、p-クロロフェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (7)基質測定用の系がピルビン酸を測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、フラビンアデニンジヌクレオチド、チアミンピロホスフェート、4-アミノアンチピリン、p-クロロフェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (8)基質測定用の系がグリセロールを測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、p-クロロフェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (9)基質測定用の系がコリンを測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、フェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (10)基質測定用の系がグリセロール-3-リン酸を測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、p-クロロフェノール又はN-エチル-N-ヒドロキシエチル-m-トルイジンおよび緩衝剤を含有する試薬。 (11)基質測定用の系が尿酸を測定するために用いられ、ペルオキシダーゼ、ウリカーゼ、2,2’-アジノ-ビス-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)及び緩衝剤を含有する試薬。」(第5頁右下欄第10行~第6頁左下欄第15行) (甲1-10)「以上のような定量用試薬を用いて被検試料中の体液成分を定量する方法に、本発明に係るアスコルビン酸の分解方法及び分解用試薬を適用する場合は、酸化還元反応(レドックス反応)を利用する被検試料中の目的成分の定量の際、最も要求される、1液中、1ステップで及び所要の試薬が全て一液中に存在する一液型の試薬を用いて反応させた場合に於ても、それら酸化性物質や還元性物質を測定することにより目的成分を定量する反応系に共存するアスコルビン酸やビリルビンのような還元性物質の妨害を効果的に回避することができるので、目的成分を、そのような妨害による悪影響なしに、正確に定量することができる。 例えば、血清中の遊離コレステロールを定量するには、CuSO4・5H2O 0.001~1mmol/l、4-AAP 0.003~0.03%、フェノール系化合物、アニリン系化合物又はナフトール系化合物 0.03~0.3%、ペルオキシダーゼ 50~2000U/dlコレステロールオキシダーゼ5~100U/dl、界面活性剤0.05~0.2%の濃度になるよう、これらを溶解した緩衝液を測定試薬として用いると、血清中に存在するアスコルビン酸やビリルビンのような還元性物質の妨害を効果的に回避し、より正確な遊離コレステロール値を測定することができる。」(第6頁左下欄第16行~第6頁右下欄第20行) (甲1-11)「以上述べたように、本発明は、本発明者ら独自の着想により、従来全く適用困難と考えられていた、一価又は二価の銅イオンの存在下にアスコルビン酸が酸化されて分解する反応を、酸化還元反応(レドックス反応)を利用する被検試料中の目的成分の定量に適用することができる方法及び試薬を提供するものであり、斯界に貢献するところ極めて大なるものである。」(第7頁左上欄第1行~第8行) (甲1-12)「実施例1. 血清総コレステロールの測定 〔測定試薬〕 各々、硫酸銅0.12mmol/l、フェノール0.1%、4-アミノアンチピリン0.01%、ペルオキシダーゼ(POD)600U/dl、コレステロールエステルヒドロラーゼ30U/dl、コレステロールオキシダーゼ15U/dl、ロッシエル塩0.5%、トリトンX-100 0.1%の濃度になるように、これらを0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5)に溶解する。 〔測定方法〕 試料溶液として、血清100mlに、アスコルビン酸を各々0,5,10,20,30,60,80,100mg/dl添加したものを用いる。 試料溶液を20μlとり、測定試薬3mlを加えて、37℃恒温槽中10分間加温した後、試薬盲検を対照として波長505nmに於ける吸光度を測定する。 別に作成した検量線(第1図)から試料中の総コレステロール濃度を算出する。測定結果を表7に示す。」(第11頁左上欄第11行~右上欄第11行) 第5 当審の判断 1 令和6年5月30日付け取消理由通知に記載した取消理由について (1)特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項(本件発明1、3、5~10についての甲第1号証を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如) ア.本件発明6~8について 上記記載事項(甲1-3)、(甲1-2)、(甲1-5)、(甲1-8)、等から、甲第1号証には、「H2O2を発生させることができる酸化酵素、ペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼの存在下でH2O2と反応して呈色する被酸化性呈色試薬、被酸化性呈色試薬のカプラーとして4-アミノアンチピリンを含む、体液成分測定試薬組成物であって、ペルオキシダーゼ、4-アミノアンチピリンを含む試薬中に銅塩を0.001~1mM濃度で含有する、体液成分測定試薬組成物。」の発明(以下、「甲1A発明」という。)が記載されていると認められる。 甲1A発明の「被酸化性呈色試薬」は、本件発明6の「酸化還元発色試薬」に相当し、甲1A発明の「体液成分」は、本件発明6の「生体成分」に相当し、甲1A発明の「4-アミノアンチピリン」は、本件発明6の「アミノアンチピリン系化合物」に相当し、甲1A発明の「試薬組成物」は、本件発明6の「試薬キット」に相当する。 そうすると、本件発明6と甲1A発明とを対比すると、両者は、「以下の(a)~(e)の要件を満たす生体成分測定試薬キットであって、(d)及び(e)要件を満たす試薬については2つの要件を同時に満たす一つの試薬としてなり、該一つの試薬は(e)の銅含有物質を0.001~1mM濃度で含有することを特徴とする、生体成分測定試薬キット。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。 (e)銅塩である銅含有物質を含む。」に係る発明である点で一致し、両者は以下の点で相違する。 相違点1:本件発明6は、アミノアンチピリン系化合物と銅含有物質を含む試薬は、3日間以上保管後に使用されるのに対し、甲1A発明は、そのような特定は記載されていない点。 以下、上記相違点1について検討する。 本件明細書には、「なお、通常、かかる測定キットは製造後、在庫・流通のプロセスを経て使用されるまでには1カ月乃至は数カ月を要すると考えられ、その間に抑制反応は進行し本発明の効果は奏されることとなる。」(段落【0035】)、「上記において、一般的な生体成分測定キットの製品ライフサイクルにおいては、生産工程において試薬配合され、品質試験、出荷、流通、保管、使用されるまでに約数週間乃至は1カ月以上を要する」(段落【0045】)と記載されているから、甲1A発明の試薬組成物についても、アミノアンチピリン系化合物と銅含有物質を含む試薬が3日間以上保管後に使用されることは、通常行われることであると認められるので、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。 よって、本件発明6は、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 また、本件発明7~8も、本件発明6と同様に、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 イ.本件発明9~10について 本件発明9は、「4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下が抑制された生体成分測定試薬キットの製造方法」に係る発明であり、「生体成分測定試薬キット」が「4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下が抑制された」という表現で特定されているが、そのような特定がされた「生体成分測定試薬キット」は、甲1A発明の試薬組成物と物として区別できるとはいえない。 よって、本件発明9は、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 また、本件発明10も、本件発明9と同様に、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 ウ.本件発明1について 上記記載事項(甲1-2)、(甲1-3)、(甲1-5)、(甲1-8)、等から、甲第1号証には、「H2O2を発生させることができる酸化酵素、ペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼの存在下でH2O2と反応して呈色する被酸化性呈色試薬、被酸化性呈色試薬のカプラーとして4-アミノアンチピリンを含む試薬組成物を使用する体液成分の測定方法において、ペルオキシダーゼ、4-アミノアンチピリンを含む試薬中に銅塩を0.001~1mM濃度で共存させる、方法。」の発明(以下、「甲1B発明」という。)が記載されていると認められる。 甲1B発明の「被酸化性呈色試薬」は、本件発明1の「酸化還元発色試薬」に相当し、甲1B発明の「体液成分」は、本件発明1の「生体成分」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1B発明とを対比すると、両者は、「酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される剤であって、銅塩である銅含有物質を含有することを特徴とし、 前記生体成分測定法は以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法であり、(d)の要件を満たす試薬中に前記銅含有物質が0.001~1mM濃度となるように添加される、生体成分の測定法に適用される剤: (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。」に係る発明である点で一致し、両者は以下の点で相違する。 相違点2:本件発明1は、アミノアンチピリン系化合物を含む試薬中に銅含有物質が3日間以上共存させるようにして用いられるのに対し、甲1B発明は、そのような特定は記載されていない点。 相違点3:本件発明1は、生体成分の測定感度低下抑制剤であるのに対し、甲1B発明は、そのような特定は記載されていない点。 以下、上記相違点について検討する。 相違点2について 本件明細書には、「なお、通常、かかる測定キットは製造後、在庫・流通のプロセスを経て使用されるまでには1カ月乃至は数カ月を要すると考えられ、その間に抑制反応は進行し本発明の効果は奏されることとなる。」(段落【0035】)、「上記において、一般的な生体成分測定キットの製品ライフサイクルにおいては、生産工程において試薬配合され、品質試験、出荷、流通、保管、使用されるまでに約数週間乃至は1カ月以上を要する」(段落【0045】)と記載されているから、甲1B発明についても、アミノアンチピリン系化合物を含む試薬中に銅含有物質が3日間以上共存させるようにして用いられることは、通常行われることであると認められるので、上記相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。 相違点3について 甲第1号証には、「そのような反応系に存在するアスコルビン酸やビリルビンのような還元性物質の妨害を効果的に回避することができるので、目的成分を、そのような妨害による悪影響なしに、正確に定量することができる。」(上記記載事項(甲1-3))、「それら酸化性物質や還元性物質を測定することにより目的成分を定量する反応系に共存するアスコルビン酸やビリルビンのような還元性物質の妨害を効果的に回避することができるので、目的成分を、そのような妨害による悪影響なしに、正確に定量することができる。」(上記記載事項(甲1-10))と記載されているから、甲1B発明においても、4-アミノアンチピリンを含む試薬中に銅塩を0.001~1mM濃度で共存させることにより、生体成分の測定感度が低下するのを抑制しているものといえる。 よって、上記相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 エ.本件発明3、5について 本件発明3は、「生体成分測定法における測定感度低下の抑制方法」に係る発明であるが、本件発明1の「生体成分の測定感度低下抑制剤」という物の発明を方法の発明に変更しただけであるから、本件発明3は、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 また、本件発明5も、本件発明3と同様に、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 オ.まとめ 以上のとおり、本件発明1、3、5~10は、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲第1号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反) ア.本件明細書に記載された事項 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。 (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物および水素供与体を用いた酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験した。 【0006】 測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬組成物のロットによりばらつきがあったため、本発明者らは、測定キットの試薬組成について種々検討した。その結果、意外なことに、4-アミノアンチピリン中に極微量の4-ヒドロキシアンチピリン(以下、4HAとも表記する。)という物質が存在することを見出した。理論に束縛されることは望まないが、4-ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、構造上4-ヒドロキシアンチピリンは水素供与体とカップリング反応しないが、過酸化水素存在下、4-ヒドロキシアンチピリンとペルオキシダーゼが反応し、過酸化水素が消費されると考えられるため、その結果、検体中の測定対象物質に酵素を反応させて発生した過酸化水素が4-ヒドロキシアンチピリンに消費されることとなり、本来の4-アミノアンチピリン-水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられた。 【0007】 そこで、本発明は、これまでに知られていなかった上記課題を解決するために、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、予想外のことに、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、銅イオンを発生する成分等の銅含有物質を用いることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。」(【0005】~【0008】) (イ)「【0015】 本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤において、銅含有物質(例えば、銅イオンを発生する成分等)を前記(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることが好ましい。 前記(d)の要件を満たす試薬中に含まれるアミノアンチピリン系の化合物は、その製造中の副産物として極微量の4-ヒドロキシアンチピリンが混入することがあり、本発明において、本発明者らはかかる4-ヒドロキシアンチピリンが生体成分の測定感度低下を生じることを見出した。さらに、本発明者らは4-ヒドロキシアンチピリンに銅含有物質を共存させることによりかかる感度低下を抑制することが可能であること見出し本発明を完成した。 つまり、本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤は、前記(d)の要件を満たす試薬中に銅含有物質を添加して用いることが好ましく、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを目的とするものである。」(【0015】) (ウ)「【0024】 本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が、銅含有物質(例えば、銅イオンを発生する成分等)を添加する前の濃度で、0.1~50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。 前記銅含有物質を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.1μg/ml未満の場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下が1%以下であり、銅含有物質を共存させることにより測定感度低下を抑制する必要性が少ない。 前記銅含有物質を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度の銅含有物質を必要とし、そのため銅含有物質による副反応により発色が大きくなり測定誤差を生じやすい傾向がある。 本発明者らの検討により、一般的なアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)原薬には、0.005~0.30w/w%程度の4-ヒドロキシアンチピリンが混入していることが判明している。従って、本発明は、一例として0.01~100g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、好ましくは0.01~10g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、より好ましくは0.01~5g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬に用いられるのが効果的である。 なお、4-ヒドロキシアンチピリンの混入量が多い場合には、後述する4-ヒドロキシアンチピリンの除去方法などによって、予めアミノアンチピリン系化合物から4-ヒドロキシアンチピリンを除去してから生体成分測定に供することが好ましい。」(【0024】) (エ)「【0044】 本発明に用いる銅含有物質は、アミノアンチピリン系化合物と共に配合した後に、アミノアンチピリン系化合物の不純物として含有される4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、配合した後に一定時間の経過させることが好ましい。 本発明に用いる銅含有物質が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃~10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃~25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃~40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃~60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃~80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。 なお、経過時間の上限を超えても、生体成分測定キットに用いる試薬品質の劣化を生じない限り、本発明に用いる銅含有物質が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果は維持される。」(【0044】) (オ)「【0084】 本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物(特に、4-アミノアンチピリン)の原薬中に極微量に含まれる4-ヒドロキシアンチピリンが、この酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の反応を阻害し、感度低下を招くことを初めて見出した。4-ヒドロキシアンチピリンが上記反応を阻害するメカニズムは必ずしも明らかではないが、その構造から、ペルオキシダーゼの作用により過酸化水素存在下、酸化還元発色試薬と4-ヒドロキシアンチピリンが縮合反応を起こし、過酸化水素を消費してしまうことが推察される。そして、本発明者らは、このような4-ヒドロキシアンチピリンに起因する反応阻害が、予め4-ヒドロキシアンチピリンに銅含有物質を共存させて反応させることにより抑えられ、感度低下を抑制できることを見出した。銅含有物質が4-ヒドロキシアンチピリンによる感度低下を抑制するメカニズムも明らかではないが、銅含有物質(例えば、これから発生し得る銅イオン)により4-ヒドロキシアンチピリンが何らかの構造変化を生じ、ペルオキシダーゼと反応しにくくなり過酸化水素を消費しなくなることが推察される。」(【0084】) (カ)「【0097】 (実施例3)クレアチニン測定感度に及ぼす4HAの混入濃度依存性 生体成分としてクレアチニンを用いて、試薬中に混入した4HAに起因する測定感度低下に関して、4HAの混入量依存性を評価した。 下記のクレアチニン測定試薬の第二試薬に、4HAを試薬中終濃度で0.13~8.75μg/mlとなるように添加し各々の測定試薬を調製した。生体成分試料として、5mg/dLクレアチニン水溶液を用いた。 【0098】 [試薬の調製] 下記組成からなるクレアチニン測定試薬をそれぞれ調製した。ここで、4-アミノアンチピリンは、市販の4-アミノアンチピリン原体を精製し、4-ヒドロキシアンチピリンを含まない4-アミノアンチピリンを製造し、用いた。 第一試薬 PIPES-NaOH 50mM pH7.4 アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡製ASO-311) 3U/mL ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡製SAO-351) 10U/mL クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製CRH-229) 40U/mL カタラーゼ(東洋紡製CAO-509) 130U/mL N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン 0.14g/L 第二試薬 PIPES-NaOH 50mM pH7.4 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製CNH-311) 400U/mL ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO-302) 10U/mL 4-アミノアンチピリン 0.6g/L 【0099】 [測定法] 日立7180形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試薬 120μL添加し37℃にて5分間インキュベーションし第一反応とした。その後第二試薬を40μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とした。第一反応および第二反応の吸光度を液量補正した各吸光度の差をとる2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度(主波長)および800nmにおける吸光度(副波長)を測定した。主波長から副波長を引いた吸光度を算出して求めた。 なお、本測定条件での4HAの反応中の濃度は0.03~2.14μg/mlとなる。 【0100】 【表1】 [図:0001425726000001.jpg] 【0101】 結果を表1および図3に示す。第2試薬中の4HA濃度が高くなるにしたがって、試料測定感度が低下することを確認した。」(【0097】~【0101】) (キ)「【0102】 (実施例4)銅塩による感度低下抑制効果 銅塩について、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。 実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。 各種銅塩を所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるように添加した後、それぞれの冷蔵条件(6℃)及び加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。 結果を表2に示す。 【表2】 [図:0001425726000002.jpg] 【0103】 この結果から、各種銅塩を共存させることにより、4HAに起因する感度低下を効果的に抑制できることを確認した。 つまり、4HAを10μg/mlとなるように添加した対照(b)の測定感度が冷蔵3日間で32%、35℃3日間で45%であるのに対して、各種銅塩を用いた結果では、測定感度が冷蔵3日間で75%~100%、35℃3日間で71%~100%であった。この結果から、全体的な傾向として、冷蔵条件で保管するよりも35℃で保管した方が安定して高い感度低下抑制効果が得られ易いことが分かる。35℃での評価は、冷蔵保存条件の加速試験に相当することから、より長期間にわたって各種銅塩を反応させることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を一層効果的に抑制できる傾向があることが推定された。 なお、実験No3の塩化銅(II)0.1mMを添加した例では、塩化銅(II)に依存すると推測される発色が認められ、高濃度の銅塩(II)を用いる場合には測定上の注意を要すると考えられた。」(【0102】~【0103】) (ク)「【0104】 (実施例5)銅タンパク/銅塩を含む混合物による感度低下抑制効果 銅タンパク質としてASO-311(アスコルビン酸オシキダーゼ)及び銅塩を含む混合物としてプロクリン200を用いて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。 実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。 ASO―311とプロクリン200を所定の第二試薬中終濃度となるように、クレアチニン測定試薬の第二試薬に添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。 結果を表3に示す。 【表3】 [図:0001425726000003.jpg] 【0105】 この結果から、これらの成分を用いた場合であっても、4HAに起因する感度低下を抑制できることが確認された。ここで、ASO-311(アスコルビン酸オキシダーゼ)は銅イオンを含む銅タンパク質であることが知られている。そしてプロクリン200は、主成分である5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに加えて安定化剤として銅塩を含むことが知られている。従って、このような銅タンパク質や銅塩を含む混合物を用いた場合でも、本発明の効果を奏することが確認できた。 つまり、4HAを10μg/mlとなるように添加した対照(b)の測定感度が35℃3日間で41%であるのに対して、ASO-311を用いた結果では、測定感度が35℃3日間で90%~100%であり、プロクリン200を用いた結果では、測定感度が35℃3日間で96%~98%であった。」(【0104】~【0105】) (ケ)「【0106】 (実施例6)感度低下抑制効果に及ぼす銅塩/4HAの濃度依存性 銅塩を用いて4HAに起因する感度低下の抑制効果に関して、銅塩と4HAの濃度依存性について確認した。 実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4AAを第二試薬中終濃度として、600μg/ml、300μg/ml、100μg/mlとし、4HAを第二試薬中終濃度として10μg/ml、5μg/ml、1.6μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。 各種銅塩を所定の第二試薬中終濃度となるように、クレアチニン測定試薬の第二試薬に添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない各4AA濃度の対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。 結果を表4~6に示す。 【表4】 [図:0001425726000004.jpg] 【表5】 [図:0001425726000005.jpg] 【表6】 [図:0001425726000006.jpg] 【0107】 この結果から、銅塩を共存させることによる4HAに起因する感度低下の抑制効果は、銅イオン濃度及び4HA濃度依存性があるが、広い銅イオン濃度範囲において、4HAに起因する感度低下に対して効果的に抑制できることを確認した。 つまり、塩化銅(I)及び(II)共に、0.00001mM~0.01mMの濃度範囲で4HAに起因する感度低下の抑制効果が認められた。但し、4HA濃度が高い場合においては4HAに起因する感度低下の抑制効果がやや弱いことが認められた。 なお、塩化銅(I)と塩化銅(II)は4HAに起因する感度低下の抑制効果において同様の傾向を示し、銅イオンの価数による大きな差は認められなかった。」(【0106】~【0107】) イ.サポート要件違反、実施可能要件違反についての判断 本件発明1には、酸化還元発色試薬のカップラーとしてのアミノアンチピリン系化合物が4-ヒドロキシアンチピリンを含有することについて何ら特定して記載されておらず、また、銅塩、銅タンパク質、及び銅イオンを含む顔料からなる群より選択される少なくとも一種の銅含有物質が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することについて何ら特定して記載されていない。 一方、本件発明の詳細な説明の【0006】~【0007】の記載(上記記載事項(ア))から、発明が解決しようとする課題は、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することにあると認められる。 しかしながら、本件発明の詳細な説明には、酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法において、塩化銅(II)、塩化銅(I)、硫酸銅、硝酸銅、ASO-311、プロクリン200、等の銅含有物質を用いて、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することは、実施例等により具体的に記載されているが、4-ヒドロキシアンチピリンを含有しないアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法において、銅含有物質が、4-ヒドロキシアンチピリンに起因しない生体成分の測定感度の低下を抑制することができることについては何ら具体的に記載されていない。 そして、酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法において、銅含有物質が、生体成分の測定感度の低下を必ず抑制することができるとの技術常識があったとはいえないから、4-ヒドロキシアンチピリンを含有することについて特定されておらず、また、銅含有物質が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することについて特定されていない本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。本件発明3、5~8は、本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明3、5~8についても、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 また、上記のような発明の詳細な説明の記載、及び、出願時の技術常識を考慮すると、4-ヒドロキシアンチピリンを含有しないアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法において、銅含有物質を用いて、4-ヒドロキシアンチピリンに起因しない生体成分の測定感度の低下を抑制するには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められる。 したがって、本件発明1について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。本件発明3、5~8は、本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明3、5~8についても、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 2 取消理由通知書で採用しなかった申立理由について (1)特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項(本件発明2、4についての甲第1号証を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如;特許異議申立理由の理由1) 本件発明2、4は、「4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制すること」という事項を有しており、当該事項は甲第1号証に記載されておらず、当業者が容易に想到できるものではない。 したがって、本件発明2、4は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反;特許異議申立理由の理由2-2、2-3)、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反;特許異議申立理由の理由3-2、3-3) 本件発明の詳細な説明には、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、銅イオンを発生する成分等の銅含有物質を用いることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったことが記載されている(上記記載事項(ア))。また、本件発明の詳細な説明の実施例4~6には、酸化還元発色試薬のカップラーとして4-ヒドロキシアンチピリンを用いる生体成分測定法において、塩化銅(II)、塩化銅(I)、硫酸銅、硝酸銅、ASO-311、プロクリン200、等の銅含有物質を用いて、特定の濃度の4-ヒドロキシアンチピリンについて4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することができたことが記載されている(上記記載事項(キ)~(ケ))。 そして、本件発明の詳細な説明には、「本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が、銅含有物質(例えば、銅イオンを発生する成分等)を添加する前の濃度で、0.1~50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。・・・・・・前記銅含有物質を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度の銅含有物質を必要とし」と記載され(上記記載事項(ウ))、「本発明に用いる銅含有物質が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃~10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃~25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃~40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃~60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃~80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。」と記載されている(上記記載事項(エ))から、本件発明の詳細な説明の実施例で実際に用いられている4-ヒドロキシアンチピリンの濃度条件、4-ヒドロキシアンチピリンと銅含有物質の保存条件以外の条件であっても、多少の効果上の差異を伴うものの本件発明の詳細な説明の実施例で実際に用いられている濃度条件、保存条件の実験結果から同様の効果が得られることを当業者が容易に理解することができるといえる。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~10についても、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 また、本件発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識を考慮すると、本件発明1について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~10についても、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 第6 むすび 以上のとおり、本件発明1、3、5~10は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1、3、5~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり、また、本件発明1、3、5~10は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、3、5~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 また、本件発明1、3、5~8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1、3、5~8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであり、また、本件発明1、3、5~8について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1、3、5~8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 そして、本件発明2、4については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明2、4に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700057

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