特許異議申立
2025-700642
炭素材料およびそれを用いてなる導電性組成物、導電膜
- 審判番号
- 2025-700642
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-201217
- 登録番号
- 7604861
- 請求日
- 2025年06月19日
- 審決日
- 2026年03月31日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】artience株式会社
- 【権利者代理人】家入 健
- 【異議申立人】関 誠之
- 【異議申立人】山内 憲之
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.161-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7604861号発明「炭素材料およびそれを用いてなる導電性組成物、導電膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7604861号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕について訂正することを認める。
特許第7604861号の請求項4~16に係る特許を維持する。
特許第7604861号の請求項1~3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7604861号の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和2年12月3日に出願したものであって、令和6年12月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、概略、次のとおりである。
令和7年 6月19日 :特許異議申立人関誠之(以下「申立人関」という。)による請求項1~7に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 6月24日 :特許異議申立人山内憲之(以下「申立人山内」という。)による請求項1~7に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 7月25日 :申立人山内による特許異議申立書に対する手続補正書(方式)の提出
同年 8月 6日 :申立人関による特許異議申立書に対する手続補正書(方式)の提出
同年10月 9日付け:取消理由通知書
同年12月12日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 同月19日付け:訂正請求があった旨の通知
令和8年 1月21日 :申立人山内による意見書の提出
なお、訂正請求があった旨を通知して意見を求めたが、申立人関からは意見書の提出はなかった。
申立人関が提出した手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書を以下「関申立書」といい、申立人山内が提出した手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書を以下「山内申立書」という。また、本件訂正請求書による訂正を以下「本件訂正」又は単に「訂正」という。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
ア 訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項4に「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2) が、0.01~100m2/gであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の炭素材料。」と記載されているのを、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5、6、7も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項4に「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2) が、0.01~100m2/gであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の炭素材料。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」と記載し、新たに請求項8とする。
ウ 訂正事項4-3
特許請求の範囲の請求項4に「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2) が、0.01~100m2/gであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の炭素材料。」とあるうち、請求項1を引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」と記載し、新たに請求項9とする。
エ 訂正事項4-4
特許請求の範囲の請求項4に「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2) が、0.01~100m2/gであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の炭素材料。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」と記載し、新たに請求項10とする。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4いずれか記載の炭素材料。」と記載されているのを、「請求項4記載の炭素材料。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6、7も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
ア 訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5いずれかに記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。」と記載されているのを、「請求項4または5に記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項6-2
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5いずれかに記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項4を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物。」と記載し、新たに請求項11とする。
ウ 訂正事項6-3
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5いずれかに記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。」とあるうち、請求項1を引用する請求項3をさらに引用する請求項4を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物。」と記載し、新たに請求項12とする。
エ 訂正事項6-4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5いずれかに記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3をさらに引用する請求項4を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN 2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物。」と記載し、新たに請求項13とする。
(7)訂正事項7
ア 訂正事項7-1
特許請求の範囲の請求項7に「請求項6記載の導電性組成物を用いて得られる導電膜。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4をさらに引用する請求項6を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物を用いて得られる導電膜。」と記載し、新たに請求項14とする。
イ 訂正事項7-2
特許請求の範囲の請求項7に「請求項6記載の導電性組成物を用いて得られる導電膜。」とあるうち、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4をさらに引用する請求項6を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物を用いて得られる導電膜。」と記載し、新たに請求項15とする。
ウ 訂正事項7-3
特許請求の範囲の請求項7に「請求項6記載の導電性組成物を用いて得られる導電膜。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4をさらに引用する請求項6を引用するものについて、独立形式に改め、
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物を用いて得られる導電膜。」と記載し、新たに請求項16とする。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1~3について 訂正事項1~3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。なお、本件特許出願には図面はない。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項4-1について
訂正事項4-1は、請求項1~3を引用する請求項4のうち、請求項1を引用する請求項4について書き下し、独立形式にしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とすると同時に、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
このように、他の請求項を引用する請求項の記載について、書き下して独立形式にすることは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項4-2~4-4について
訂正事項4-2~4-4は、請求項1~3を引用する請求項4のうち、順に、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4について書き下して独立形式にしたもの、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4について書き下して独立形式にしたもの、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4について書き下して独立形式にしたものであるから、上記訂正事項4-1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とすると同時に「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)訂正事項5及び6-1について
訂正事項5及び6-1は、訂正事項1~3により請求項1~3が削除されたことに伴い、引用する請求項から請求項1~3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(5)訂正事項6-2~6-4について
訂正事項6-2~6-4は、請求項1~5を引用する請求項6のうち、順に、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項6について書き下して独立形式にしたもの、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6について書き下して独立形式にしたもの、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6について書き下して独立形式にしたものであるから、上記訂正事項4-1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とすると同時に「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(6)訂正事項7-1~7-3について
訂正事項7-1~7-3は、請求項1~5を引用する請求項6を引用する請求項7のうち、順に、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項6を引用する請求項7について書き下して独立形式にしたもの、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6を引用する請求項7について書き下して独立形式にしたもの、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6を引用する請求項7について書き下して独立形式にしたものであるから、上記訂正事項4-1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とすると同時に「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~7は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~7は一群の請求項であり、上記訂正事項1~7(枝番を含む)は、当該一群の請求項に請求されているものである。
なお、特許権者は、訂正請求書において「別の訂正単位とする求め」(すなわち、訂正が認められる場合には一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めること)について記載しておらず、「訂正後の請求項1~16は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。」(11頁下から2行~最下行)と記載していることから、訂正後の請求項1~16は一群の請求項である。
4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1~7(枝番を含む)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明及び本件明細書
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項4~16に係る発明(以下「本件発明4」~「本件発明16」といい、まとめて「本件発明」ともいう。なお、請求項1~3は、訂正により削除された。)は、訂正特許請求の範囲の請求項4~16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項4】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。
【請求項5】
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であることを特徴とする請求項4記載の炭素材料。
【請求項6】
請求項4または5に記載の炭素材料と、バインダーとを含む導電性組成物。
【請求項7】
請求項6記載の導電性組成物を用いて得られる導電膜。
【請求項8】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。
【請求項9】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。
【請求項10】
窒素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。
【請求項11】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物。
【請求項12】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物。
【請求項13】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物。
【請求項14】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物を用いて得られる導電膜。
【請求項15】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物を用いて得られる導電膜。
【請求項16】
窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol% 以下であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%であり、
窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)と、
バインダーと、を含む導電性組成物を用いて得られる導電膜。」
2 本件明細書
本件特許明細書に対する訂正はないことから、以下本件特許明細書を「本件明細書」といい、そして、本件明細書には、以下の事項が記載されている。
(本a)「【0003】
また、導電性のカーボン材料としては、グラファイトやカーボンナノチューブ等の高導電性カーボンも検討されてきた。これら高導電性カーボンの体積抵抗率は、10-2Ω・cm未満と優れた導電性を有しており、従来に比べ導電性の課題を改善できることが報告されている(特許文献1、2)。しかし、体積抵抗率10-4Ω・cm未満の非常に高い導電性を示す金属フィラーと比較すると大幅に体積抵抗率が高く、導電性の改善が大きな課題であった。」
「【0005】
したがって、炭素材料にホウ素元素や窒素元素等のヘテロ元素をドープすることで、電子またはホールの導入によるキャリア密度の向上が期待できる。これまでにホウ素ドープによる炭素材料の高導電化(特許文献3)が報告されているが、製造時に2000℃以上の高温を必要とするため、エネルギー消費量やコストの面で課題があった。一方、窒素ドープについては、触媒活性に関する報告(特許文献4)はあるものの、導電性に着目した研究は不足しており、炭素材料中の窒素の含有量や結合状態と導電性との関係性はいまだ明らかとなっていない。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑み、導電性に優れる炭素材料を提供することを目的とする。」
(本b)「【0018】
本発明の窒素ドープ炭素材料は、炭素材料中の炭素元素の含有量に対する窒素元素の含有量の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、好ましくは0.1~5mol%、より好ましくは0.1~2mol%、さらに好ましくは0.1~1mol%、特に好ましくは0.15~0.5mol%である。N/Cが0.01mol%以上であると、キャリア密度が向上するため、導電性が改善する。N/Cが20mol%以下であると、炭素材料の結晶性が高いため、キャリア移動度が良好である。窒素ドープ炭素材料中の炭素元素および窒素元素の含有量は、CHN元素分析などにより求めることができる。また、窒素ドープ炭素材料中の窒素の含有量は、表面および内部に含有される全窒素量を示すものであり、窒素化合物や炭素元素と置換するようにドープされている窒素を含む。
【0019】
本発明の窒素ドープ炭素材料は、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上である。N3型窒素原子とは、後述する、3つの炭素原子と結合している4級の窒素原子のことであり、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)は、X線光電子分光法(XPS)によって測定することができ、窒素のN1sスペクトル面積に対するN3型窒素原子のピーク面積の割合から求めることができる。」
「【0022】
本発明の窒素ドープ炭素材料において、材料表面の全窒素量に対するN3型窒素原子量の割合(表面N3)は、好ましくは20mol%以上、より好ましくは30~90mol%、さらに好ましくは50~80mol%である。N3型窒素原子は非共有電子対を炭素との結合に使用するため、炭素材料への電子供与により炭素材料のキャリア密度を向上することができる。一方、N1型窒素原子およびN2型窒素原子は非共有電子対を有しているため、炭素材料への電子供与効果は著しく小さい。また、N4型窒素原子は酸素等の異種元素と結合しているため、炭素材料への電子供与効果は小さい。したがって、N3型窒素原子量の割合(表面N3)が10mol%であると、その他の窒素原子による結晶性の低下や電子伝導の阻害を抑制できる。」
【0023】
また、XPSによって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合(表面末端窒素量)が1mol%以下であることで、炭素材料の結晶性や炭素六角網面におけるπ結合の連続性を維持し、キャリア移動度を高く保つことができる。なお、炭素材料表面における各元素の割合は、全元素のスペクトル面積に対する各元素のスペクトル面積の割合から算出できる。
【0024】
また、XPSによって測定した、炭素材料表面の炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.1~5.0mol%であることが好ましく、0.2~1.3mol%であることがより好ましい。炭素材料表面の炭素元素に対する窒素元素の割合が0.1mol%以上であるとキャリアドープ効果により導電性が改善し、5.0mol%以下であると、表面の炭素六角網面構造が維持されるため、粒子間の導電性が向上する。」
「【0026】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることが好ましく、より好ましくは0.1~20m2/g、さらに好ましくは1~10m2/gである。BETN2が100m2/g以下であると、重量および体積当たりの粒子数が少ないため、粒子間の接触抵抗が低減され、良好な導電性が得られる。BETN2が0.01m2/g以上であると、窒素ドープ反応が容易に進行する。」
「【0029】
上記ピークの半値幅(半値全幅)が8°以下である場合には、炭素材料の結晶性が高く、電子伝導性が高く、好ましい。また、上記ピークの半値幅が4°以下であることはより好ましく、1°以下であることは、さらに好ましい。なお、近傍のピークと重なっている場合には、フィッティングによりピークを分離し、半値幅を算出する。」
(本c)「【0031】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料の構造(形状)は、上述の条件を満たす炭素材料であれば、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック)、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノブラシ、活性炭、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン等に分類されるものであり、好ましくは黒鉛化カーボンブラック、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、さらに好ましくは、黒鉛、グラフェンナノプレートレット、グラフェン、カーボンナノチューブである。
【0032】
また、本発明の窒素ドープ炭素材料は、体積抵抗率が2.0×10-3Ω・cm以下であることが好ましい。」
(本d)「【実施例】
【0071】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、部は、特に断らない限り、質量部を表す。
【0072】
<窒素ドープ炭素材料>
[実施例1]
炭素源である球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製 CGB―50、平均粒径50μm)80部と、窒素源であるコバルトフタロシアニン(東京化成工業社製)20部とを自転公転ミキサーで乾式混合して混合物を得た。上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素雰囲気下、1000℃で1時間熱処理を行い、窒素ドープ炭素材料(1)を得た。
【0073】
[実施例2]
炭素源である球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製 CGB―50、平均粒径50μm)80部と、窒素源である鉄フタロシアニン(山陽色素社製)20部と、溶媒であるエタノール300部をビーズミルで湿式混合し、大気下70℃のオーブンで乾燥させて混合物を得た。上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素雰囲気下、1000℃で1時間熱処理を行い、窒素ドープ炭素材料(2)を得た。
【0074】
[実施例3~23、比較例1~10]
表1~4に示す原料、条件を用いて、原料を乾式混合した場合は実施例1と同様にして、原料を湿式混合した場合は実施例2と同様にして、窒素ドープ炭素材料(3)~(33)を作製した。
【0075】
【表1】~【表4】(略)
【0076】
実施例および比較例で得られた窒素ドープ炭素材料について、以下の測定を行った。その結果を表5~8に示す。
【0077】
<炭素材料中の窒素元素の含有量>
CHN元素分析装置(パーキンエルマー社製 2400型)を用いて、炭素材料中の炭素元素および窒素元素の含有量を測定し、炭素元素の含有量に対する窒素元素の含有量の割合(N/C)を算出した。
【0078】
<炭素材料表面の元素及び化学状態の分析>
X線光電子分光装置(XPS)(ThermoFisher scientific社製 K-Alpha)を用いて、全窒素量に対するN3型窒素原子量の割合(表面N3)、炭素量に対する窒素量の割合(表面N/C)、表面末端窒素量、および表面金属量を評価した。
【0079】
<炭素六角網面の基本骨格>
X線回折装置(リガク社製 Smartlab)を用いて、CuKα線をX線源として測定し、2θ=24.0~27.0°付近に現れる黒鉛骨格由来の(002)面のピーク半値幅を求めた。
【0080】
<比表面積>
ガス吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル社製 BELSORP-mini)を用いて、窒素吸着量測定を行い、BET法により比表面積を算出した。
【0081】
実施例および比較例で得られた炭素材料について、以下の評価を行った。その結果を表5~8に示す。
【0082】
<粉体抵抗>
粉体抵抗測定システム(日東精工アナリテック社製 MCP-PD51型)を用いて、炭素材料の体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は、測定セルの中に炭素材料を加えた後、20kNの荷重を加えた際の値を算出した。
【0083】
【表5】
[図:0001437382000001.jpg]
【表6】
[図:0001437382000002.jpg]
【表7】
[図:0001437382000003.jpg]
【表8】
[図:0001437382000004.jpg]
」
第4 取消理由の概要
1 令和7年10月9日付けで通知した取消理由は、以下のとおりである。
なお、ここで、請求項についての記載は、訂正前のものである。また、申立人関が提出した甲第○号証を以下「関甲○」といい、申立人山内が提出した甲第○号証を以下「山甲○」といい、<甲号証一覧>にまとめて記載する。
取消理由1(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由3(新規性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
取消理由4(進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 そして、上記取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
・請求項1~7
ア (N/C)について
一般に、CHN元素分析とは、試料を高温で完全に燃焼分解し、生成する二酸化炭素、水、窒素ガスを熱伝導度検出器で分離・検出することで、試料中の炭素、水素、窒素の含有量を定量する分析法であり、X線光電子分光法(XPS)とは、試料表面にX線を照射することによって放出される光電子の運動エネルギーを測定して、対象物の表面の元素分析や非破壊での化学結合状態を解析する表面分析法であり、XPSで分析できる深さは通常、表面から数ナノメートル(nm)程度と非常に浅いものとされている。
そうすると、測定する材料の厚さが数nmと薄い場合には、X線光電子分光法(XPS)によって測定した値から「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」を求めたものともいえ、その場合、CHN元素分析とX線光電子分光法(XPS)とはそれらの測定原理が全く異なるものであるから、X線光電子分光法(XPS)により測定した値から算出した(N/C)と、CHN元素分析により測定した値から算出した(N/C)とが一致するとはいえない。
したがって、測定手段が特定されていない請求項1に係る発明の「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」は一義的に定まるものとはいえないことから、請求項1に係る発明は不明確である。また、請求項1を引用する請求項2~7に係る発明についても事情は同じである。
イ 半値幅について
請求項5に係る発明では「CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であること」が特定されているが、本件明細書には半値幅を求めるためのX線回折図を得るX線に関する条件が開示されていない。そうすると、どのようなX線に関する条件のもと得られたX線回折図において求めた半値幅であるのか明確でないことから、請求項5に係る発明の「ピークの半値幅」の角度の数値が一義的に定まるものとはいえない。
よって、請求項5に係る発明は不明確であり、それを引用する請求項6及び7に係る発明についても事情は同じである。
(2)取消理由2(サポート要件)
・請求項1~7
本件明細書の(本a)で摘記した【発明が解決しようとする課題】である【0007】には「本発明は前記問題点に鑑み、導電性に優れる炭素材料を提供することを目的とする。」とのみ記載され、その具体的な数値については記載されていないが、【0032】に「また、本発明の窒素ドープ炭素材料は、体積抵抗率が2.0×10-3Ω・cm以下であることが好ましい。」と記載されていることから、本件発明の課題は、体積抵抗率が2.0×10-3Ω・cm以下である導電性に優れる炭素材料を得ることであるともといえる。
一方、実施例18~20、21、22及び23(順に炭素材料23~25、28、30及び32)の体積抵抗率は順に16×10-3Ω・cm、19×10-3Ω・cm、18×10-3Ω・cm、2.5×10-3Ω・cm、35×10-3Ω・cm及び4.8×10-3Ω・cmでいずれも2.0×10-3Ω・cmを超えるものであり、特に、実施例23(炭素材料32)は、請求項1~5に係る発明の発明特定事項全てを満たしているにもかかわらず、2.0×10-3Ω・cmを超えるものである。
そうすると、請求項1~5に係る発明の発明特定事項を満たしても、体積抵抗率が2.0×10-3Ω・cm以下である導電性に優れる炭素材料を得ることができるとはいえないことから、請求項1~5に係る発明は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものとはいえない。さらに、本件発明1~5の炭素材料とバインダーとを含む導電性組成物の発明である請求項6に係る発明、請求項6の導電性組成物を用いて得られる導電膜である請求項7に係るについても事情は同じである。
(3)取消理由3(新規性)・取消理由4(進歩性)
・請求項1~7
請求項1~3及び5に係る発明は、関甲1、関甲2、山甲3又は山甲8に記載された発明であり、
請求項4に係る発明は、関甲1、関甲2、山甲3又は山甲8に記載された発明、並びに関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項6及び7に係る発明は、関甲1、関甲2、山甲3又は山甲8に記載された発明、並びに関甲1、関甲12及び関甲13に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとし、
「まとめ」として、請求項1~7に係る発明は、関甲1、関甲2、山甲3又は山甲8に記載された発明であるか、関甲1、関甲2、山甲3又は山甲8に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとしている。
なお、下線を付記した請求項4に係る発明は「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/gであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の炭素材料。」であり、上記第2の1で記載した訂正によって、請求項1を引用する請求項4に係る発明の発明特定事項が、上記第3の1で記載した本件発明4~16において、必須の発明特定事項となっている。
<甲 号 証 一 覧>
関甲1:平成21年度成果報告書 09008052-0(契約管理番号)、「平成21年度エコイノベーション推進事業「レアメタル代替材料となる燃料電池用炭素触媒の探索研究」調査委託成果報告書(公開用)」、平成22年2月、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託先 国立大学法人信州大学
関甲2:白石壮志、他、「電気二重層キャパシタ用電極主材としての賦活ケッチェンブラックの容量特性」、炭素、2019[No.289]、2019年、pp.139-147
関甲4:白石壮志、他、「炭素化ポリアニリンの電気化学容量」、炭素、2008[No.232]、2008年、pp.61-66
関甲12:特開2019-216082号公報
関甲13:特開2020-98725号公報
関甲16:特開2018-170092号公報
関甲17:特開2020-9659号公報
山甲1:Kazunori Fujisawa,et al.「Enhanced electrical conductivities of N-doped carbon nanotubes by controlled heat treatment」,Nanoscale,2011,3, 2011年9月12日, pp.4359-4364
山甲3:Hideharu Niwa, et al.「X-ray photoemission spectroscopy analysis of N-containing carbon-based cathode catalysts for polymer electrolyte fuel cells」,Journal of Power Sources, 196(2011),2011年, pp.1006-1011
山甲5:国際公開2019/066013号
山甲6:特開2016-113364号公報
山甲8:特表2014-522076号公報
山甲9:特許第5233314号公報
第5 甲号証の記載
甲号証の記載を摘記するにあたっては、まず、上記第4で記載した取消理由3(新規性)・取消理由4(進歩性)において、主たる引用例となる関甲1、関甲2、山甲3、山甲8について摘記し、次に、比表面積についての周知技術を示す関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17、山甲9について摘記し、そして、取消理由において提示したその余の甲号証について摘記する。
その後、取消理由において提示しなかった甲号証について摘記することとするが、訂正された本件発明4~16について、申立人関においては意見がなく、そして、申立人山内においても、下記の第6の3(1)イ(エ)aで記載するとおり、周知技術として提示した山甲9が主引例となることを主張している以外に、取消理由において提示した甲号証以外の甲号証については、もはや特段の主張もしていないという事情を鑑みて、取消理由において提示しなかった甲号証については、開示されている技術事項が理解できる程度に摘記することとする。
なお、文章が外国語である甲号証の文章については、タイトル、図、表などを除き、訳文のみを記載することとする。
1 主たる引用例となる甲号証
(ア)関甲1について
a 記載事項
関甲1には、以下の事項が記載されている。
(関甲1a)「シルク活性炭の炭素ネットワーク中に取り込まれた窒素の酸化状態と酸素還元反応との関係については論文誌上で議論が分かれている。すなわち、窒素N1sのXPS(X線光電子分光法)スペクトルによると、低結合エネルギー側からピリジン型、ピロール型、グラファイト型、酸化型の4種が観察され、酸素還元活性との関係では、ピロール型窒素種が重要とする見解とグラファイト型窒素種が重要とする見解、さらにはこれら窒素種が抜けたサイトが活性部位になるとの考えもある。図3-9および表3-4に見られるように、本実験では水蒸気賦活温度が高くなるとグラファイト型及酸化型窒素種が残存し易い傾向がみられるが、賦活時間については3hと7hとの間に有意の差異は認められない。また、表3-4に掲げたXPSスペクトルで評価した表面層に残存する窒素と酸素の比、表3-5に掲げた、元素分析による窒素と酸素の比についても、賦活時間による大きな違いは認められなかつた。」(24頁下から11行~最下行)
(関甲1b)表3-4、表3-5、表3-6、図3-8として、以下の表及び図面が記載されている。
「
[図:0001437382000005.jpg]
[図:0001437382000006.jpg]
[図:0001437382000007.jpg]
[図:0001437382000008.jpg]
」
(関甲1c)種々の炭素材料のBET比表面積が以下の表3-3に示されている。
「
[図:0001437382000009.jpg]
」
(関甲1d)「4 シルク活性炭触媒をカソードに用いた燃料電池の高性能化
シルク活性炭触媒をカソードに用いた燃料電池は以下のように作製した。シルク活性炭触媒を酢酸ブチル中に投入し、超音波で分散させながらNafion 5wt%溶液を少量ずつ滴下しペーストを調製した。次にこのペーストを撥水処理されたカーボンペーパー上にスポイトを用いて、塗布と乾燥を繰り返して電極を作製した。また、製造後電極表面にメタノールとNafion 5 wt.%溶液の体積比1:1の混合溶液を噴霧した。アノードとしては、ElectrochemのPt/Cを用いて、同様の作製手順で行なった。アノードとカノードを既定の大きさに切断し、それぞれの電極を前処理したNafion膜(Nafion(R)117)の対面に並べ、ホットプレス器により熱圧着してMEAとした。熱圧着は130℃、180秒にて、圧力を0.70MPaで行なった。発電試験は、カソードに酸素をアノードに水素を供給して行った。両方のガスともに加湿器を用い、水蒸気を供給して行った。」(32頁1~11行)
b 記載事項の整理
上記(関甲1b)の表3-4、表3-5、表3-6及び図3-8、(関甲1c)の表3-3において、一例として、炭素材料CS1200-AC3に着目すると、以下のとおりである。
(a)表3-6は「元素分析法で評価した種々の炭素材料のC/N比」(モル比)を示したものであり、元素分析法はCHN元素分析法と同様に、炭素材料中のC及びNの含有量が測定できるものであるから、CS1200-AC3に着目してみると、Cが89.2でNが0.9でN/Cは0.01と計算され、これを(N/C)mol%に換算すると1mol%となる。そして、炭素材料中に窒素が含まれていることから、CS1200-AC3は窒素元素が含まれる炭素原料である。
したがって、炭素材料CS1200-AC3は、「窒素元素が含まれている炭素原料」であって「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が1mol%」である。
(b)表3-4は「X線光電子分光法(N1s)で評価した各種炭素材料の表面窒素種の分類」を示したものであり、「Pyridinic」、「Pyrollic」、「Quarternary」及び「Pyridinic N+ -O-」は、順に(関甲1a)に記載されている「ピリジン型」、「ピロール型」、「グラファイト型」及び「酸化型」の表面窒素種であり、いわゆるN1型窒素原子、N2型窒素原子、N3型窒素原子及びN4型窒素原子と呼称されるものである。
なお、本件明細書でも、【0020】に「XPS測定で得られる窒素のN1sスペクトルとは、窒素元素のN1s電子の結合エネルギー範囲(390~410eV付近)に現れ、下記構造式に示す4つの成分からなることが知られている。各成分の結合エネルギーの値(ピークトップ)は、ピリジン類似の構造をしているN1型窒素原子が398.5±0.5eV、ピロール類似の構造をしているN2型窒素原子が400±0.5eV、3つの炭素原子と結合している4級のN3型窒素原子が401±0.5eV、酸化された状態で酸素のような異種元素が結合しているN4型窒素原子が404.0±0.5eVに現れる。」と記載されている。
表3-4において、CS1200-AC3の「Pyridinic」、「Pyrollic」、「Quarternary」及び「Pyridinic N+ -O-」の合計は0.007(0.006+0.001)であり、「Quarternary」は0.006であるから、炭素材料表面における全窒素に対する「Quarternary」の割合は、0.006/0.007=0.86であり、これをmol%に換算すると86mol%となる。
したがって、炭素材料CS1200-AC3は、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が86mol%」である。
(c)表3-4において、CS1200-AC3の「Pyridinic」(N1)及び「Pyrollic」(N2)はともに0であるから、N1+N2は0となり、N×(N1+N2)÷100}は0と計算される。
したがって、炭素材料CS1200-AC3は、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が0mol%」である。
(d)表3-5は「X線光電子分光法で評価した各種炭素材料の表面の炭素、酸素、窒素残存量とその比率」を示したものであり、CS1200-AC3のN/Cは0.007であるから、これをmol%に換算すると0.7mol%となる。
したがって、炭素材料CS1200-AC3は、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.7mol%」である。
(e)表3-3において、炭素材料CS1200-AC3の比表面積は、277m2/gである。
(f)図3-8において、下から4番目のX線回折パターンが(d) CS1200-AC3に対応するものであり、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有していることが見て取れる。それを拡大して作図(申立人関提出の特許異議申立書(以下「関申立書」という。)の37頁下図には以下の図面が記載されている)によりピークの半値幅を求めると6.65°となる。そして、X線回折(XRD)のX線源としてCuKα線を用いることはごく通常のことであり、それ以外のX線源を使用することが記載されていない以上、図3-8のX線回折パターンを得るためのX線源はCuKα線であるといえる。
「
[図:0001437382000010.jpg]
」
したがって、炭素材料CS1200-AC3は、「CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が6.65°」である。
c 関甲1に記載されている発明
上記bを踏まえると、関甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。なお、他の「Sample」に着目しても同様である。
「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が1mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が86mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が0mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.7mol%であり、
比表面積は、277m2/gであり、
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が6.65°である、
窒素元素が含まれている炭素材料。」(以下「関甲1発明」という。)
(イ)関甲2について
a 記載事項
関甲2には、以下の事項が記載されている。
(関甲2a)「ケッチェンブラツク(Ketjenblack,KB)は一次粒子が中空シェル構造をもつカーボンブラックであり,メソ孔が発達したカーボンナノ粒子とみなすことができる1)-3)。電子伝導性に優れることから,KBは樹脂コンパウンド,電池・電気化学キャパシタの電極の導電補助材として広く使われている1)。」(139頁左欄1~6行)
(関甲2b)Table4として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000011.jpg]
」
b 記載事項の整理
Table4について整理すると以下のとおりである。
(a)Table4の「NK-KB600」は、NO処理したケッチェンブラックであるから、窒素元素が含まれている炭素材料である。
(b)「N/Ccom」の「com」は「combustion elemental analysis」(上記Table4の「combution」は「combustion」の誤記である)であり、燃焼法で元素分析したN/C(炭素)であるから、「N/Ccom」は炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)である。そして、その値0.009をmol%に換算すると0.9mol%となる。
(c)「N/Cxps」はX線光電子分光法(XPS)によって測定した炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)であり、その値0.008をmol%に換算すると0.8mol%となる。
(d)「N-6」はpylidine-likeであるからN1型窒素原子、「N-5」はpyrroleであるからN2型窒素原子、「N-Q」はquaternary-likeであるからN3型窒素原子であり、それぞれ原子濃度[%]であり、それらは分子として存在するものではないからmol%と同等である。
そして、それらはX線光電子分光法(XPS)によって測定したものであるから、「N-Q」が19ということは、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が19mol%である。
(e)同様に、「N-6」が52及び「N-5」が21ということは、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合N1は、52mol%と21mol%であり、その合計は73mol%である。また、(c)で述べたように炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合は0.8mol%であるから、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(N)は少なくとも0.8mol%より小さくなることから、{N×(N1+N2)÷100}は0.584mol%より小さい値である。
したがって、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合は0.584mol%より小さい値となる。
c 関甲2に記載されている発明
上記bを踏まえると、関甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.9mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が19mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が0.584mol%より小さい値であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.8mol%である、
窒素元素が含まれている炭素材料。」(以下「関甲2発明」という。)
(ウ)山甲3について
a 記載事項
山甲3には、以下の事項が記載されている。なお、山甲3は、英文の刊行物であることから、表以外の文章は訳文のみを記載する。
(山甲3a)「硬X線光電子分光分析で観察された高分子電解質燃料電池用の三つの異なるタイプの窒素含有炭素基正極触媒の電子構造について報告する。」(1006頁ABSTRACTの1~2行)
(山甲3b)「3.2 HXPES分析
3.2.1 CACsとCo2PのHXPESによる組成比
HXPESデータから計算されたCACsの組成比を表2に載せる。光イオン化断面積[23]とIMEP[22]も計算に入れてある。プローブ深度10nm(ナノシェルの全域をカバーするに十分な深さである)では、Co1000aw中のCo組成比は、0.03原子%にすぎない。」(1007頁右欄11~17行)
(山甲3c)「ナノシェルカーボン(Co1000およびCo1000aw)のような高活性のORR触媒は、4つの窒素成分中、NP3(グラフアイト型窒素)の相対量が最も大きいことがわかった。この結果は、先のXASによる研究結果[35]と整合的である。原子組成比(表2)と対比すると、ナノシェルカーボンは、A050、A090、N2などのORR活性が低い他の触媒よりも窒素の量が少なく、全窒素量は、必ずしもCACsのORR活性に関係しないことを示している。NP3の相対組成は、N1とN2の方がA050やA090より大きいが、N1とN2のORR活性は他のCACsより小さい。」(1009頁左欄15~25行)
(山甲3d)Table2(表2)、Table4(表4)として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000012.jpg]
[図:0001437382000013.jpg]
」
b 記載事項の整理
表2及び表4について整理すると以下のとおりである。
(a)表2及び表4に記載されているSampleは、窒素を含有するナノシェルカーボンであるから、窒素元素が含まれている炭素材料である。
(b)表2及び表4は、いずれも「HXPES」により測定したものであり、(山甲3b)の「3.2 HXPES分析」において「プローブ深度10nm(ナノシェルの全域をカバーするに十分な深さである)」と記載されているものである。一般に、「HXPES」(Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy)とは、硬X線を用いることで従来のXPSよりも深い位置の情報を非破壊で取得できる光電子分光法(XPS)のことであり、試料表面の浅い層だけでなく、数nm~数十nm程度のバルク(材料内部)の電子状態や化学結合状態を解析できるものである。
そうすると、例えば、Co1000に着目してみると、表2には、Cが96.33、Nが0.37であることが記載されているからN/Cは0.0038であり、これをmol%に換算すると0.38mol%となるところ、これは「XPS」の1種であるHXPESにより測定したものだから、本件発明3で特定される「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)」であると同時に、上述のとおり、「HXPES」により測定したものはナノシェルの全域をカバーするに十分な深さで求めたものであるから、本件発明1で特定される「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」であるともいえる。
(c)表4における「NP1」、「NP2」、「NP3」及び「NP4」は、結合エネルギーの値から、順にN1型窒素原子、N2型窒素原子、N3型窒素原子及びN4型窒素原子を示しており、表4のCo1000に着目してみると、「NP3」は41.5%と記載されており、窒素は原子として存在するから、その数値はそのまま41.5mol%となる。
そうすると、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)は41.5mol%である。
(d)同様に、表4のCo1000に着目してみると、「NP1」は21.2%及び「NP2」は26.7%と記載されているから、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合(mol%)は21.2mol%と26.7mol%である。そして、表2のCo1000のNは0.37at%であり、窒素は原子として存在するから、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合は0.37mol%となる。
そうすると、{N×(N1+N2)÷100}は0.18mol%と計算されるから、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が0.18mol%となる。
c 山甲3に記載されている発明
上記bを踏まえると、山甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。なお、他の「Sample」に着目しても同様である。
「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.38mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が41.5mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が0.18mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.38mol%である、 窒素元素が含まれている炭素材料。」(以下「山甲3発明」という。)
(エ)山甲8について
a 記載事項
山甲8には、以下の事項が記載されている。
(山甲8a)「【請求項1】
シルク由来の窒素を含有し、粉状に成型されたシルク由来活性炭よりなる炭素系電極触媒を多孔性導電性基体の表面に担持させたことを特徴とするアルカリ水溶液において使用するアルカリ型燃料電池用、金属空気電池用または食塩電解用の酸素ガス拡散電極。
【請求項2】
前記炭素系電極触媒中のN/C(アトミック比)が0.004~0.07であることを特徴とする請求項1に記載の酸素ガス拡散電極。」
(山甲8b)「【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面とともに、本発明に係る酸素ガス拡散電極の構成部材をより詳細に説明する。
[シルク由来活性炭よりなる炭素系電極触媒]
特許文献11に、シルクフィブロイン由来炭素系電極触媒の作製方法が開示されている。本発明のシルク由来活性炭よりなる炭素系電極触媒の製法もこれにほぼ準ずる。
(1)炭化処理
原料シルク材料を窒素などの不活性ガス雰囲気中で、500℃程度で数時間保持して焼成する。常温にまで冷却した後、ボールミル等を用いて粉状にする。粒度は特に限定されないが、10μm程度が好適である。焼成温度が500℃より低いと炭化が不十分であり好ましくない。
(2)加熱処理
次に、不活性ガス雰囲気中で、700~1500℃の焼成温度で数時間保持して焼成する。特には1200℃の温度で焼成を行うことが好適である。焼成温度が1500℃より高いと、粉状物に窒素成分が残存せず、触媒活性が不十分となる。
(3)賦活処理
次に、焼成した粉状物を賦活処理する。賦活処理は、不活性ガス雰囲気中で、例えば850℃まで昇温し、水蒸気を吹き込んで数時間保持して水蒸気賦活を行う。賦活処理は水蒸気賦活に限らず、炭酸ガス、アルカリ、アンモニアを含むガス中でも行うことができる。賦活処理温度は、700℃~1000℃程度が好適である。賦活処理により粉状物の表面積、特に触媒反応に有効なメソ孔体積が格段に増大し、触媒活性が増大する。
【0028】
上記のように、焼成を複数段階に分けて行うこと、また緩やかな昇温速度で昇温して焼成することによって、非結晶性構造と結晶性構造とが入り組んだタンパク質高次構造の急激な分解が避けられ、柔軟な焼成体が得られる。 700℃、900℃、1200℃の各温度で加熱処理を行い、850℃にて水蒸気賦活処理を行ったシルク活性炭のX線回折測定では、いずれもアモルファスカーボンであることが確認され、カーボンブラックに類似している。それぞれの抵抗率は順に3.2×10-2Ωm、1.4×10-3Ωm、5.1×10-4Ωmであった。また、成分分析の結果として、該活性炭は炭素以外に窒素、酸素を含むことが確認され、加熱処理温度を上げるとN/C比(アトミック比)が減少する。水蒸気賦活処理によりBET比表面積は2桁程度増大し、また、加熱処理温度が高く水蒸気賦活処理が長いほどメソ孔体積が増加する。
図1は、シルク由来活性炭のXPS(X線光電子分光)スペクトルと対応する炭素窒素グラファイト構造例を示したものであり、(a)700℃加熱処理、(b)900℃加熱処理、(c)1200℃加熱処理、(d)活性炭(RP-20)および(e)ファーネスブラック(VulcanXC-72)を示したものである。図1は、本発明にかかわるXPSスペクトルを比較している。縦軸はスペクトル強度、横軸が結合エネルギー値を示しており、右図の炭素窒素構造において存在する窒素原子の結合エネルギーにより異なったスペクトルが得られる。図1よりN1sの存在を確認したところ、1200℃の加熱においてピリジン型窒素種(398.6eV)、ピロール型窒素種(400.5eV)、酸化型窒素種(402~405eV)が、900℃加熱処理では残存しているが、1200℃加熱処理で消滅したのに対して、グラファイト型窒素種(401.3eV)の安定性が確認された。
残存する窒素成分量は特に限定されるものではないが、N/C比が0.004~0.07の場合で十分な触媒活性を有することが確認されている。」
(山甲8c)図1として、以下の図面が記載されている。
「
[図:0001437382000014.jpg]
」
b 記載事項の整理
上記aの記載事項を整理すると以下のとおりである。
(a)(山甲8a)の「シルク由来の窒素を含有し、粉状に成型されたシルク由来活性炭」は、窒素元素が含まれている炭素材料である。
(b)(山甲8a)の「炭素系電極触媒中のN/C(アトミック比)が0.004~0.07」であるということは、「炭素系電極触媒」は上記(a)で述べた炭素材料であり、そして、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.004~0.07ということであるから、mol%に換算すると0.4~7.0mol%ということになる。
(c)(山甲8b)によれば、炭素系電極触媒となる1200℃で加熱処理したシルク由来活性炭に対して「XPS(X線光電子分光)スペクトル」を求めたところ、「ピリジン型窒素種(398.6eV)、ピロール型窒素種(400.5eV)、酸化型窒素種(402~405eV)が」「1200℃加熱処理で消滅したのに対して、グラファイト型窒素種(401.3eV)の安定性が確認された」ことが記載されており、ここで、「ピリジン型窒素種」はN1型窒素原子、「ピロール型窒素種」はN2型窒素原子、「酸化型窒素種」はN4型窒素原子、「グラファイト型窒素種」がN3型窒素原子であるから、1200℃で加熱処理したシルク由来活性炭すなわち窒素元素が含まれている炭素材料において、N1型窒素原子、N2型窒素原子及びN4型窒素原子は消滅し、N3型窒素原子のみが安定的に存在していることが記載されていることになる。
そうすると、N1型窒素原子、N2型窒素原子及びN4型窒素原子は消滅し、N3型窒素原子のみが安定的に存在しているのだから、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)は100mol%ということであり、N1型窒素原子及びN2型窒素原子はともに0mol%で(N1+N2)=0であるから、{N×(N1+N2)÷100}は0と計算される。 (d)上記(b)によれば、炭素材料の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.4~7.0mol%であるところ、(山甲8b)に「加熱処理温度を上げるとN/C比(アトミック比)が減少する」と記載されており、加熱温度を上げて窒素が減少する(抜け出る)という現象においては、材料の内部に存在する窒素よりも材料の表面にある窒素より抜け出る(減少する)ものであるから、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.4~7.0mol%より小さい範囲にあるといえる。
c 山甲8に記載されている発明
上記bを踏まえると、山甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.4~7.0mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が100mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全元素に対する窒素元素の割合(mol%)をNとし、炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が0mol%であり、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.4~7.0mol%より小さい範囲である、
窒素元素が含まれている炭素材料。」(以下「山甲8発明」という。)
2 周知技術(比表面積)を示す甲号証
(1)関甲4について
関甲4には、以下の事項が記載されている。
(関甲4a)「その容量は電極表面積とおおまかな比例関係にあるため,高表面積の活性炭が電極材に用いられる。電気二重層キャパシタは高寿命・高出力密度を有するがエネルギー密度が小さいため,さらなる高容量化が求められている。しかし,活性炭の細孔構造最適化や高表面積化による高容量化はすでに限界に近づきつつある。最近,窒素を含む炭素がその比表面積から予想される以上の高容量を示すことが報告された5)-9)。特にメラミンの炭素化物は,窒素ガス吸着法によるBET比表面積が約100m2・g-1程度であるにもかかわらず,希硫酸電解波中において約200F・g-1の容量を示す5)。これは,約2000m2・g-1のBET比表面積を有する一般的な活性炭が同条件にて示す容量に匹敵しており,大変興味深い結果である。」(61頁左欄6~17行)
(関甲4b)Table1、Table3、Fig.9として以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000015.jpg]
[図:0001437382000016.jpg]
[図:0001437382000017.jpg]
」
(関甲4c)「Fig.9にN1sXPSスペクトルの波形分離から算出した各化学状態の窒素の濃度,ならびに容量とPANIの熱処理温度との相関を示す。800℃以上の熱処理により,四級型窒素の量が増加する一方,ピリジン型およびピロール型窒素の量は減少し,それに伴い容量も著しく減少した。」(65頁左欄5~9行)
(2)関甲12(山甲11)について
山甲11は関甲12と同じ文献であることから、以下、山甲11及び関甲12を「関甲12」と記載することとする。そして、その関甲12には、以下の事項が記載されている。
(関甲12a)「【0006】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる酵素電池正極用炭素触媒であって、構成元素としてヘテロ元素を含み、ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされ、且つ酸素還元活性を有する酵素電池正極用炭素触媒に関する。」
「【0013】
又、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50~1200m2/gであることを特徴とする上記酵素電池正極用炭素触媒に関する。」
(関甲12b)
「【0029】
本発明における酵素電池正極用炭素触媒は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。酸素還元反応は触媒の表面で起こるため、比表面積が大きいほど、酸素とプロトン、電子との反応場が多くなり、触媒活性の向上に繋がるため好ましい。また、電子伝導性が高いほど、電極中における酸素還元反応に必要な電子を前記反応場に供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。また、触媒表面のヘテロ原子、特に窒素量が多いほど表面の活性点の数が多くなりやすいため好ましく、更にNが後述のN1型窒素原子を主とした末端窒素であるとより好ましい。」
「【0037】
本発明における酵素電池正極用炭素触媒は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50~1200m2/gであることが好ましい。BET比表面積が上記の範囲にあると、反応が起こる反応場を多くできるため好ましい。より好ましくは100~1000m2/gである。」
(3)関甲13について
関甲13には、以下の事項が記載されている。
(関甲13a)「【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる、還元性有機物を燃料とする燃料電池アノード用触媒インキ材料であって、前記炭素材料は、構成元素としてヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含み、前記ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされていることを特徴とする、還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ材料に関する。」
(関甲13b)「【0015】
本発明におけるバイオ燃料電池アノード用触媒インキ材料は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。アノードで起こる反応は材料表面で起こるため、比表面積が大きいほど、還元性有機物燃料、電子との反応場が多くなり、反応活性の向上に繋がるため好ましい。また、電子伝導性が高いほど、電極中における反応に必要な電子を前記反応場に供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。」
(関甲13c)「【0017】
本発明におけるバイオ燃料電池アノード用触媒インキ材料は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/gであることが好ましく、より好ましくは10~1000m2/gである。BET比表面積が上記の範囲にあると、反応が起こる反応場を多くできるため好ましい。」
(4)関甲16について
関甲16には、以下の事項が記載されている。
(関甲16a)「【0110】
(炭素触媒)
炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。一般的に、炭素触媒の活性点としては、炭素粒子表面に卑金属-N4構造(卑金属元素を中心に4個の窒素元素が平面上に並んだ構造)に含まれる卑金属元素や、炭素粒子表面のエッジ部に導入された窒素元素近傍の炭素元素などが挙げられる。そのため、炭素触媒が、上記活性点を構成する窒素元素や卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有する上で重要である。更に、炭素触媒は、BET比表面積が20~2000m2/gが好ましく、40~1000m2/gがより好ましく、60~600m2/gがさらに好ましい。」
(関甲16b)「【0112】
前記無機材料由来の炭素粒子としては、グラフェンナノプレートレット、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどを用いると、大きい比表面積と高い電子伝導性を有する炭素触媒を得られやすく好ましい。」
(5)関甲17について
関甲17には、以下の事項が記載されている。
(関甲17a)「【請求項2】
電極中に、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素がドープされた炭素材料を含むことを特徴とする請求項1記載の微生物燃料電池デバイス」。
(関甲17b)「【0034】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となるが、カーボンブラックの分散性が低くなるため、具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、10m2/g以上、3000m2/g以下、好ましくは20m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。」
(関甲17c)「【0042】
ヘテロ元素及び/又は卑金属元素がドープされた炭素材料は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/gであることが好ましく、より好ましくは10~1000m2/gである。」
(6)山甲9について
山甲9には、以下の事項が記載されている。
(山甲9a)「【請求項1】
細孔を有する炭素材であって、前記炭素材は、
イ)炭素を95~99wt%含み、且つ炭素以外の元素として、O、N、S、P及びBの少なくとも1つ以上の元素を1~5wt%含み、
ロ)0.25~0.45nmの細孔径を有する細孔の容積が、全細孔容積の30容積%以上、
ハ)比表面積が15m2/g以下、
であることを特徴とする、二次電池用炭素材。
(ただし、β-ナフトール樹脂からなる二次電池用炭素材を除く。)」
(山甲9b)「【0017】
本発明の二次電池用炭素材において、前記炭素以外の元素は、後述する炭素前駆体における、樹脂(モノマー)中の元素、樹脂反応や不融化処理時の触媒、硬化処理時の硬化剤や硬化促進剤、炭化処理時の炭化促進剤に含まれる元素により調整することができる。」
「【0021】
本発明の二次電池用炭素材の製造方法としては、前記炭素前駆体、場合によっては、これに硬化剤や硬化促進剤など加え(これを架橋処理しても良い。)、通常の黒鉛化処理温度(例えば、2800℃以上)よりも低い温度で焼成処理することにより製造できる。更に具体例として、フェノール樹脂を用いる例として、第一の熱処理として400~800℃で行い、第一の熱処理がなされた炭素前駆体を所定の粒子径まで粉砕する。その後、第二の熱処理として、上記で粉砕した炭素前駆体を800℃~1400℃で炭化処理することにより、炭素材を得ることができる。第一の熱処理及び第二の熱処理を行う時間としては特に限定されないが、通常、最終熱処理温度まで1~50時間かけて昇温し、必要に応じて最終熱処理温度で1~30時間保持する。
また、第一の熱処理及び第二の熱処理を行う雰囲気は、特に限定されず、大気中、不活性ガス雰囲気中、及び、真空中など、いずれの条件でも行うことができ、また、これらを2種以上組み合わせた熱処理条件でも良い。」
(山甲9c)「【0024】
また、本発明の二次電池用炭素材の比表面積は、15m2/g以下である。また、下限値としては1m2/gであることが好ましい。比表面積が15m2より大きいと、電解液との反応が大きくなり、不可逆な容量が多くなり充放電効率が低下する傾向となる。逆に比表面積が1m2/gより小さいと炭素材中の細孔容積が小さくなり、容量が低下する傾向となる。 上記比表面積の測定法としては、窒素ガス吸着法用い、BET3点法でもとめられる」。
(山甲9d)表1として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000018.jpg]
」
3 取消理由において提示したその余の甲号証
(1)山甲1について
山甲1には、以下の事項が記載されている。
(山甲1a)「窒素ドープされたマルチウォールカーボンナノチューブの側壁における窒素(N)の官能性の熱的安定性を1000℃から2000℃の間で調べた。ドープチューブの構造安定性とバルクおよび個々のチューブレベルにおける電気伝導性の関連を検討した。育成後未処理のチューブを1000℃で熱処理すると、個々のナノチューブの電気抵抗が、54Ωから0.5Ωへと劇的に低下することを観測した。これは窒素の低いドープレベル(例えば0.78原子%のN)に帰結される。」
(山甲1b)Fig.2(a)として、以下の図面が記載されている。
「
[図:0001437382000019.jpg]
」
(a)NドープMWNTsの密度1.23gcm-3における熱処理温度の関数としての体積抵抗率の変化。グラフ中の挿入図は、サンプルホルダーを示す。
(山甲1c)Table1として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000020.jpg]
」
(2)山甲5について
山甲5には、以下の事項が記載されている。
(山甲5a)「[請求項1] 制限視野電子回折において、直方晶系および六方晶系のいずれかに属し、単結晶の対称性を備えるスポットが観測され、
炭素(C)と、ヘテロ元素(X)として窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、イオウ(S)、ホウ素(B)、およびケイ素(Si)からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、を含むヘテロ元素含有グラフェン。」
(山甲5b)「[0079][XPS分析]
次に、図4Aに得られた窒素含有グラフェン粉末(a)~(d)のXPS分析のワイドスキャン分析の結果を示した。図4Aに示されるように、窒素含有グラフェン粉末(a)~(d)の全てのXPSスペクトルについて、結合エネルギーが285eV付近にC1sピークが、398eV付近にN1sピークが、531eV付近にO1sピークが観測されることが確認できた。窒素含有グラフェン粉末(a)~(d)はいずれも炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)を含む材料であることが確認できた。ただし、窒素含有グラフェン粉末(a)~(d)のC1sピークは鋭く大きいものの、N1sピークおよびO1sピークは窒素含有グラフェン粉末(a)~(d)の順に小さくなっていることがわかった。そこで、各粉末の炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)の総量を100原子%としたときの各元素の割合を下記の表1に示した。
[0080][表1]
[図:0001437382000021.jpg]
(3)山甲6について
山甲6には、以下の事項が記載されている。
(山甲6a)「【請求項1】
炭素原子からなる炭素骨格を備える炭素材料に、窒素原子が導入された窒素含有炭素材料であって、
前記炭素骨格中の炭素原子の一部が窒素原子で置換された窒素含有炭素材料。」
(山甲6b)「【0064】
また、実施例1~7に係る窒素含有単層カーボンナノチューブについて、XPS分析により炭素骨格中に導入された窒素原子の化学状態を確認した。結果を下記表2及び図3に示す。
【0065】
【表2】
[図:0001437382000022.jpg]
」
(山甲6c)「【0069】
(体積抵抗率)
処理前の単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、フッ素化処理後の単層カーボンナノチューブ(F-SWCNTs)及び実施例4~7に係る窒素含有単層カーボンナノチューブについて、それぞれの体積抵抗率を、抵抗率計(ロレスタGP MCPT600、(株)三菱アナリテック製)を用いて、4端子4探針法により測定した(温度25℃、湿度35%)。尚、測定するための試料は、直径16mm、厚さ100μmのサイズとした。測定の結果を下記表3に示す。
【0070】
【表3】
[図:0001437382000023.jpg]
」
4 取消理由において提示しなかった甲号証
(1)関甲3について
関甲3は、「Oi Lun Li et al.,「Synthesis of graphitic-N and amino-N in nitrogen-doped carbon via a solution plasma process and exploration of their synergic effect for advanced oxygen reduction reaction」(溶液プラズマプロセスを用いた窒素ドープカーボンにおけるグラファイト-Nとアミノ-Nの合成と酸化還元反応の進展に対する合成効果の研究),Journal of Materials Chemistry A,2017年,5, pp.2073-2082」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲3a)Table1及び3として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000024.jpg]
[図:0001437382000025.jpg]
」
(2)関甲5について
関甲5は、「岡山玲子、他、「活性炭表面上の窒素が銅(II)イオンの吸着に及ぼす影響」、炭素、2010年、[No.242]、pp.45-50」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲5a)Table2及び3として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000026.jpg]
[図:0001437382000027.jpg]
」
(3)関甲6について
関甲6は、「Leszek Wachowski et al.,「Speciation of functional groups formed on the surface of ammoxidised carbonaceous materials by XPS method」(XPSによるアンモ酸化された炭素質材料の表面に形成された官能基の化学種同定),Applied Surface Science 253,2007年, pp.4456-4461」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲6a)Table1及び2として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000028.jpg]
[図:0001437382000029.jpg]
」
(4)関甲7について
関甲7は、「Wei Xia et al.,「Surface characterization of oxygen-functionalized multi-walled carbon nanotubes by high-resolution X-ray photoelectron spectroscopy and temperature-programmed desorption」(高分析X線光電子分光法による酸素官能化された多層カーボンナノチューブの表面特性), Applied Surface Science 254, 2007年, pp.247-250」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲7a)Table1として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000030.jpg]
」
(5)関甲8について
関甲8は、「Xiaobai Wang et al.,「Magnetic N-Enriched Fe3C/Graphitic Carbon instead of Pt as an Electrocatalyst for the Oxygen Reduction Reaction」(酸化還元反応に対する電極触媒としてのPtに代わる磁気を帯びた窒素リッチFe3C/グラファイトカーボン), Chemistry: A European Journal 2016年, 22, pp.4863-4869 及びSupporting Information」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲8a)Supporting InformationのTable.S1として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000031.jpg]
」
(6)関甲9について
関甲9は、「Hisao Kiuchi et al.,「Characterization of nitrogen species incorporated into graphite using low energy nitrogen ion sputtering」(低エネルギー窒素イオンスパッタリングによる窒素導入グラファイトの特性), Physical Chemistry Chemical Physics,2016年,18,pp.458-465」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲9a)Fig.1として、以下の図面が記載されている。
「
[図:0001437382000032.jpg]
」
(7)関甲10について
関甲10は、「Hao Liu et al.,「Structural and morphological control of aligned nitrogen-doped carbon nanotubes」(整列した窒素ドープカーボンナノチューブの構造的及び形態的な制御),CARBON 48, 2010年, pp.1498-1507」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲10a)Table1として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000033.jpg]
」
(8)関甲11について
関甲11は、「R.Arrigo et al.,「Dynamic surface rearrangement and thermal stability of nitrogen functional groups on carbon nanotubes」(カーボンナノチューブにおける窒素官能基の動的表面の再配列と熱的安定性), Chemical Communications, 2008年, pp.4891-4893」であり、以下の事項が記載されている。
(関甲11a)Fig.3として、以下の図が記載されている。
「
[図:0001437382000034.jpg]
」
(9)関甲14について
関甲14は、特開2016-192399号公報であり、以下の事項が記載されている。
(関甲14a)「【0080】
[製造例1:非白金系炭素系触媒(X1)]
グラフェンナノプレートレット(XGscience社製、xGnP-C-750)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、非白金炭素系触媒(X1)を得た。親水度は1.8であった。」
「【0082】
[製造例3:非白金系炭素系触媒(X3)]
鉄フタロシアニン(山陽色素社製)とケッチェンブラック(ライオン社製、EC-600JD)を、質量比1/1で秤量し、乳鉢にて乾式混合を行い前駆体とした。上記前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し非白金系炭素系触媒(X3)を得た。親水度は3.7であった。」
(10)関甲15について
関甲15は、特開2017-188357号公報であり、以下の事項が記載されている。
(関甲15a)「【0118】
<非白金系炭素触媒>
[製造例1]
GnP-C-750と鉄フタロシアニンを、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、非白金系炭素触媒(CAC)を得た。」
(11)関甲18について
関甲18は、国際公開第2007/023964号であり、以下の事項が記載されている。
(関甲18a)「[0001] 本発明は、酸素を電極反応物質とする酸素還元用電極に関する。
[0002] 酸素還元用電極は、電気化学デバイスの酸素還元極 (空気極)に用いられる。電気化学デバイスとしては、例えば、亜鉛一空気電池、アルミニウム一空気電池、マグネ シゥム一空気電池、糖一空気電池等の空気電池;酸素水素燃料電池、ダイレクトメタノール燃料電池等の燃料電池;酵素センサー、酸素センサー等の電気化学センサ一が挙げられる。」
(12)関甲19について
関甲19は、国際公開第2015/151440号であり、以下の事項が記載されている。
(関甲19a)「[0003] キャパシタの電極は、活物質、結着剤及び導電助剤を含む電極合剤を集電体に塗工・乾燥することで得られる。
[0004] 例えば、活物質として活性炭を、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、導電助剤としてカーボンブラックを分散媒に分散させた電極合剤のスラリーをアルミ箔やステンレス集電体上に塗工・乾燥することで得られる(特許文献1、2)。」
(13)山甲2について
山甲2は、特開2004-330181号公報であり、以下の事項が記載されている。
(山甲2a)「【0063】
<炭化物表面の元素組成>
表1は、例1~5で得られた窒素含有活性炭化物及び例6~8で生成した炭化物の表面の元素組成を、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy:X線励起光電子分光法)測定によって定量した結果である。いずれの炭素材料においても、検出された元素は炭素、酸素及び窒素のみで、金属等の元素はいっさい含まれていなかった。なお、元素組成は、原子数百分率で表している。また、シェイクアップ炭素の比率は、炭素C1s電子のスペクトル全体に対する291.8±0.5eVにピークをもつスペクトルの割合として求めたもので、全炭素中でのシェイクアップ炭素の存在比率と見なせるものである(以下、同様。)。
【0064】
【表1】
[図:0001437382000035.jpg]
」
(山甲2b)「【0068】
<窒素の結合状態>
XPSスペクトルの解析から、表面近傍にある窒素原子にはN1s電子の結合エネルギーが異なる3種の窒素原子N1~N3が含まれていることがわかった。表2は、XPSスペクトルの解析から得られた、表面近傍におけるN1~N3の原子数百分率で表した存在率(mol%)である。
【0069】
【表2】
[図:0001437382000036.jpg]
」
(14)山甲4について
山甲4は、特開2017-222538号公報であり、以下の事項が記載されている。
(山甲4a)「【0034】
[実施例2]
表4に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表4に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、N-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図3及び図4に示す。図3左側は、アセトニトリルを溶媒として用いたNo.8サンプルについてのC1sスペクトルであり、図3右側は同じNo.8サンプルのN1sスペクトルである。図4左側はアンモニアを溶媒として用いたNo.9サンプルについてのC1sスペクトルであり、図4右側は同じNo.9サンプルについてのN1sスペクトルである。図3左側及び図4側のスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はC-N結合、破線はC=C結合を示す。図3右側及び図4右側のスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はC-N結合である。Nの結合様式は化1で示すとおりである。」
「【0037】
【表6】
[図:0001437382000037.jpg]
【0039】
【表7】
[図:0001437382000038.jpg]
」
(15)山甲7について
山甲7は、国際公開第2014/132853号であり、以下の事項が記載されている。
(山甲7a)「[0020] <炭素化工程>
次に、合成した塩(約2g)を、100mL/分のAr気流下のチューブ炉にて、10℃/分で昇温し、1000℃にて2時間保持することにより、炭素材料(実施例1~12、比較例1~7)を得た。」
「[0025](表1)
[図:0001437382000039.jpg]
」
(16)山甲10について
山甲10は、「Chenzhen Zhang,et al.,「Synthesis of amino-functionalized graphene as metal-free catalyst and exploration of the roles of various nitrogen states in oxygen reduction reaction」(無金属触媒としてのアミノ修飾グラフェンの合成と各種窒素状態の酸素還元反応における役割の探求)Nano Energy,2013年,2,pp.88-97及びSupplementary Information」であり、以下の事項が記載されている。
(山甲10a)Supplementary InformationのTable S1.及びTable S2.として、以下の表が記載されている。
「
[図:0001437382000040.jpg]
」
(17)山甲12について
山甲12は、下記の第7の1(2)で記載するように、いわゆる拡大先願としての特願2020-67221号の公開公報である特開2021-39935号公報であり、以下の事項が記載されている。
(山甲12a)「【図3】本発明の一実施形態によって製造されたNGF(nitrogen-doped graphite felt;窒素ドープされたグラファイトフェルト)の製造過程を簡略に示した図である。」
(山甲12b)「【0069】
図4の(b)に示されているように、ZIF-8粒子が炭化された後にも多面体形状を示し、平均粒子径は90nm未満であることが分かり、図4の(c)に示されているように、前記炭化されたZIF-8粒子に平均気孔径2nm以下のマイクロ気孔が形成されたことが分かる。」
図4として以下の図面が記載されている。
「【図4】
[図:0001437382000041.jpg]
」
(山甲12c)「【0078】
試験例2:XPS分析
前記実施例1~実施例5で製造されたNGFに対してXPS分析を行い、その結果を図6に図示した。
【0079】
図6に示されているように、炭化温度の増加に伴い、NGFの全窒素含量(原子%)は減少する傾向を示し、具体的には、全窒素含量のNGF-600~NGF-1000の順に、それぞれ16.7%、9.8%、7.1%、3.1%および2.3%を示したが、全窒素含量のうち、ピリジン系窒素(Pyridinic N)の原子%はNGF-700で50.14%と、最も高く示されたことが分かる。具体的には、炭化温度が600℃から700℃に増加するに伴い、ピロール系窒素(Pyrrolic N)がピリジン系窒素に転換されてピロール系窒素の含量が急激に減少し、ピリジン系窒素の含量が急激に増加した。しかし、炭化温度800℃以上ではピリジン系窒素が4価窒素(Quaternary N)に転換されて、ピリジン系窒素の含量がまた減少し、4価窒素の含量が増加し、酸化された窒素(Oxidized N)およびピロール系窒素の含量も増加したことが分かる。
【0080】
試験例3:BET分析
前記実施例1~実施例5で製造されたNGFに対してBET比表面積分析を行い、その結果を図7に図示した。」
(山甲12d)図6及び図7として、以下の図面が記載されている。
「【図6】
[図:0001437382000042.jpg]
【図7】
[図:0001437382000043.jpg]
」
(18)山甲13について
山甲13は、特開2010-30844号公報であり、以下の事項が記載されている。
(山甲13a)「【0091】
N1sスペクトルの強度から、MCN中の窒素原子の相当量が、炭素原子と結合していることが分かる。さらに、図16~図17から算出される窒素原子量が、CHN分析から得られる値に一致することを確認した。このことからも、窒素原子は、炭素原子と結合し、特に、MCNの外側のCN層中に均一に分散していることが示唆される。」
(19)山甲14について
山甲14は、「片岡泰弘、「X線回折法を使用した金属材料の硬さ評価について」、あいち産業科学技術総合センターニュース 2014年、No.144,p4」であり、以下の事項が記載されている。
「X線回折法では、多結晶金属材料にX線を照射することによって図1に示すようなX線回折スペクトルを得ることができます。図中のX2-X1は、X線回折ピークの半分の強度値における両端を結んだ幅を表し、これを半値幅(半価幅)と呼びます。」(4頁左欄17~22行)
(20)山甲15について
山甲15は、「「XRDによる炭素材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定[JIS R7651:2007]」島津アプリケーションニュース、No.X243A、2011年」であり、炭素材料のピークプロファイルとして以下のグラフが記載されている。
「
[図:0001437382000044.jpg]
」
(21)山甲16について
山甲16は、「大森雅志、「粉末X線回折法 基礎講座 第2回 質の高いデータを取得するための装置構成の選択」、リガクジャーナル51(2),2020年、pp.18-25」であり、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001437382000045.jpg]
」
第6 取消理由の判断
1 取消理由1(明確性)について
(1)(N/C)について
訂正により、本件発明4~16において、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」が「CHN元素分析装置を用いて測定した」ものに特定されたことから、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」は一義的に定まるものとなった。
(2)半値幅について
ア 特許権者は、令和7年12月12日提出の意見書(以下「特許権者意見書」という。)において、
「本件明細書の【0079】には、「<炭素六角網面の基本骨格>X線回折装置(リガク社製 Smartlab)を用いて、CuKα線をX線源として測定し、2θ=24.0~27.0°付近に現れる黒鉛骨格由来の(002)面のピーク半値幅を求めた。」と記載されている。上述のように、本件発明5では、X線回折装置としてリガク社製Smartlabを用いて半値幅を求めている。リガク社製Smartlabのマニュアルには標準的な測定条件が添付されており、当該標準的な測定条件には、X線発生電圧:40kV~50kV、サンプリング間隔:0.02°、走査速度:2~4°/minと記載されている。本件特許権者は、当該標準的な測定条件を考慮し、X線発生電圧:40kV、X線発生電流:30mA、サンプリング間隔:0.02°、走査速度:3°/minの条件で半値幅を求めている。このように、本件明細書の【0079】には、ピーク半値幅の測定に用いたX線回折装置が開示されており、また、当該X線回折装置のマニュアルには標準的な測定条件が添付されており、本件特許権者は、当該標準的な測定条件に基づいて半値幅の測定を行っていることから、本件発明5は明確であると思料する。」(3頁19行~4頁8行)と説明している。
特許権者が主張するように、本件明細書の【0079】には「(リガク社製 Smartlab)を用いて、CuKα線をX線源として測定」することが記載されており、「リガク社製Smartlab」の上記「標準的な測定条件」によってX線回折図を得たうえで、回折角(2θ)が24.0~27.0°に位置するピークの半値幅の角度を求めたものであるから、「ピークの半値幅」の角度の数値が一義的に定まるものといえる。
イ 申立人山内の主張について
(ア)申立人山内は、令和8年1月21日提出の意見書(以下「山内意見書」という。)で、「規定の最大出力より弱い出力により測定を行ったものと考えられますので、装置マニュアルを参照できたとしても、当業者が同じ出力条件で測定を行うのは不可能です。」、「特許権者は装置マニュアルに標準的な測定条件として走査速度:2~4°/minと記載されていると指摘しておりますが、そこから特許権者が使用した走査速度:3°/minを確定することはできません。」、「長手制限スリットに10mm、5mm、2mmがあることが記載されておりますが、特許権者の説明ではどのスリットを使用したのか確定することはできません。」、「X線回折装置の装置マニュアルは、通常、装置を購入した顧客のみに提供されるものであり、マニュアルの記載内容は、全ての当業者に対し公開された情報であるとはいえません。」等の主張(2頁4行~最下行)をしている。
(イ)申立人山内の主張に対する当審の判断
X線回折の測定において広く用いられている「リガク社製Smartlab」の上記「標準的な測定条件」によってX線回折図が得られている以上、測定を行うことが不可能ともいえず、また、「リガク社製Smartlab」の上記「標準的な測定条件」によって行ったことに対し、「リガク社製Smartlab」のX線装置に関与するあらゆる設定を開示しなければ「半値幅」の角度が定まらないとはいえず、そして、「リガク社製Smartlab」のマニュアルが守秘義務の対象となるものでもない。
よって、申立人山内の主張はいずれも当を得たものではない。
(3)まとめ
したがって、本件発明4~16に係る特許は、取消理由1(明確性)によって取り消すことはできない。
2 取消理由2(サポート要件)について
(1)課題について
上記(本a)で摘記した【発明が解決しようとする課題】である【0007】には「本発明は前記問題点に鑑み、導電性に優れる炭素材料を提供することを目的とする。」と記載されており、ここにおける「問題点」とは、同(本a)で摘記した【0005】に記載されている「一方、窒素ドープについては、触媒活性に関する報告(特許文献4)はあるものの、導電性に着目した研究は不足しており、炭素材料中の窒素の含有量や結合状態と導電性との関係性はいまだ明らかとなっていない。」ことであるから、窒素ドープした炭素材料において、窒素の含有量や結合状態と導電性との関係性を明らかにしたうえで、導電性に優れた窒素ドープした炭素材料を提供することを課題としているといえる。
また、同(本a)で摘記した【0003】には、「また、導電性のカーボン材料としては、グラファイトやカーボンナノチューブ等の高導電性カーボンも検討されてきた。これら高導電性カーボンの体積抵抗率は、10-2Ω・cm未満と優れた導電性を有しており、従来に比べ導電性の課題を改善できることが報告されている(特許文献1、2)。」との記載があること、(本c)で摘記した【0031】では窒素ドープするカーボンとして多数のカーボンが用いられていること、さらには、例えば、上記山甲1の(山甲1b)のFig.2に示される窒素ドープされたマルチウォールカーボンナノチューブの体積抵抗率の値と、山甲6の(山甲6c)の表3に示される窒素含有単層ナノチューブの体積抵抗率とを参照するに、両者は全く異なる値を示していること、等からも理解できるように、炭素材料の種類、構造によって炭素材料自体の導電性も異なり、窒素ドープした炭素材料における「導電性に優れる」とは、窒素ドープする種々の炭素材料自体の導電性に応じて判断されるものであるから、課題として「導電性に優れ」ていることを体積抵抗率の数値として一概に設定できるものではないといえる。
(2)本件発明の記載
上記第3の1で記載したとおり、本件発明5~16は、いずれも本件発明4で特定されている「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%(以下「事項1」という。)であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上(以下「事項2」という。)であり、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g(以下「事項3」という。)であることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」を必須の発明特定事項とするものである。
(3)本件明細書の記載
ア 機序について
上記事項1について、上記(本b)で摘記した【0018】に「N/Cが0.01mol%以上であると、キャリア密度が向上するため、導電性が改善する。N/Cが20mol%以下であると、炭素材料の結晶性が高いため、キャリア移動度が良好である。」と記載され、
また、上記事項2について、【0022】に「N3型窒素原子は非共有電子対を炭素との結合に使用するため、炭素材料への電子供与により炭素材料のキャリア密度を向上することができる。一方、N1型窒素原子およびN2型窒素原子は非共有電子対を有しているため、炭素材料への電子供与効果は著しく小さい。また、N4型窒素原子は酸素等の異種元素と結合しているため、炭素材料への電子供与効果は小さい。したがって、N3型窒素原子量の割合(表面N3)が10mol%であると、その他の窒素原子による結晶性の低下や電子伝導の阻害を抑制できる。」と記載され、
そして、上記事項3について、【0026】に「BETN2が100m2/g以下であると、重量および体積当たりの粒子数が少ないため、粒子間の接触抵抗が低減され、良好な導電性が得られる。BETN2が0.01m2/g以上であると、窒素ドープ反応が容易に進行する。」と記載されている。
イ 実施例について
(ア)事項1(N/C)及び事項2(表面N3)について
上記(本d)で摘記した表5~8に記載されている実施例1~17(順に表5における炭素材料1~17)、実施例18~20(順に表6における炭素材料23~25)、実施例21及び22(表7における炭素材料28及び30)、並びに実施例23(表8における炭素材料32)における、各表の「CHN N/C mol%」及び「XPS 表面N3 mol%」を参照すると、全て「0.01~20mol%」及び「10mol%以上」の範囲にあることから、実施例1~23は、上記事項1及び2を満たすものである。
(イ)事項3((BETN2)について
a 事項3について、各表の「ガス吸着 比表面積 m2/g」を参照すると、実施例1~17、28及び32については、「0.01 ~100m2/g」の範囲にあり、これらの「粉体抵抗 体積抵抗率 mΩ・cm」の値は1.2~4.8mΩ・cm(10-3Ω・cm)である。
b 一方、実施例23~25及び30については、「ガス吸着 比表面積 m2/g」の値は、順に220m2/g、260m2/g、280m2/g、及び400m2/gであり、「0.01 ~100m2/g」の範囲の上限を超えるものであり、これらの「粉体抵抗 体積抵抗率 mΩ・cm」の値は、順に16mΩ・cm、19mΩ・cm、18mΩ・cm、及び35mΩ・cmであることが記載されている。
c ここで、上記a及びbで記載した「粉体抵抗 体積抵抗率 mΩ・cm」の値は、上記(ア)によれば上記事項1及び2を満たしたうえでの値であり、そして、上記a及びbを踏まえると、「ガス吸着 比表面積 m2/g」の値が「0.01 ~100m2/g」の範囲にあると、低い体積抵抗率の値を示し、そして、「ガス吸着 比表面積 m2/g」が「100m2/g」の上限を超えて220m2/g、260m2/g、280m2/g、及び400m2/gと大きくなるに従い、体積抵抗率も16mΩ・cm、19mΩ・cm、18mΩ・cm、及び35mΩ・cmと大きくなる傾向があることからも、窒素ドープした上記事項1及び2を満たす炭素材料において、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」と特定することは、体積抵抗率の値が低いこと、すなわち「導電性に優れ」ていることを特定しているといえる。
そうすると、事項3の「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」であることは、窒素ドープした炭素材料が「導電性に優れる」ことにおいて重要なことであるといえる。
(ウ)事項1~3のまとめ
したがって、上記実施例からは、導電性に優れた窒素ドープした炭素材料を得るためには、事項1である「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び事項2である「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たしたうえで、事項3の「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」であることが肝要であるといえる。
(4)小括
以上のことから、本件発明の課題は、上記(1)で記載したとおり、導電性に優れた窒素ドープした炭素材料を得ることであり、そのための解決手段は、上記(3)アでの機序についての記載、及び同イでの実施例の記載から、「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たしたうえで、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」であることといえることから、上記(2)で記載した本件発明4で特定される炭素材料は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものといえる。
また、上記(2)で述べたとおり、本件発明5~16はいずれも、本件発明4で特定されている事項を必須の発明特定事項とするものであるから、本件発明4と同様に、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものといえる。
(5)申立人山内の主張について
ア 申立人山内は、山内意見書で、
「本件明細書の段落[0007]には、「本発明は前記問題点に鑑み、導電性に優れる炭素材料を提供することを目的とする。」、段落[0051]には、「本発明によれば、導電性に優れる窒素ドープ炭素材料を提供することができる。」と記載しています。ここで「導電性に優れる窒素ドープ炭素材料」を取消理由通知書の認定に従い、「体積抵抗率が2.0×10-3Ω・cm以下である導電性に優れる炭素材料」として判断しますと、実施例23の炭素材料32は、訂正前の本件発明1~5の発明特定事項を全て充足し、従って、訂正後の本件発明4、5、8~10の発明特定事項を全て充足するにもかかわらず、体積抵抗率は4.8×10-3Ω・cmと、「2.0×10-3Ω・cm以下」の条件を満たさず、窒素をドープされていない炭素材料である比較例1(炭素材料18) や比較例8(炭素材料29)の炭素材料より大きな体積抵抗率を示しています。」(3頁21~31行)との主張をしている。
イ 申立人山内の主張に対する当審の判断
上記(1)で述べたように、炭素材料の種類、構造によって炭素材料自体の導電性も異なるものであり、窒素ドープした炭素材料における「導電性に優れる」とは、窒素ドープする種々の炭素材料自体の導電性に応じて判断されるものであるから、課題として「導電性に優れ」ていることを体積抵抗率の数値として一概に設定できるものではないことは、特許権者意見書における「本件発明のような窒素がドープされた炭素材料の体積抵抗率は、一般的に炭素材料自体にも依存する。本件発明では、炭素材料に窒素をドープすることで炭素材料の導電性を改善することを目的として」いるとの主張と軌を一にするものであり、申立人山内は、特許権者の上記主張について別段の主張はしていないことから、申立人山内の上記アの主張は、上記(1)で述べたことを覆すには至らない。
(6)まとめ
よって、本件発明4~16は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものといえ、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明4~16に係る特許を、取消理由2によって取り消すことはできない。
3 取消理由3(新規性)・取消理由4(進歩性)について
(1)本件発明4について
ア 関甲1を主引例とした場合
(ア)対比
本件発明4と関甲1発明とを対比する。
a 関甲1発明は、窒素が含まれている、すなわち窒素がドープされている炭素材料であり、(関甲1a)には「炭素ネットワーク中に取り込まれた窒素」と記載され、また、炭素原子と窒素原子とは原子半径の大きさに格別の差異があるものではなく、窒素が炭素にドープされる際には炭素骨格内の炭素の位置に窒素が置換されるように入ることを踏まえると、関甲1発明の「窒素元素が含まれている炭素材料」は、本件発明4の「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料」に相当する。
b 関甲1発明の「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が1mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が86mol%であ」ることは、本件発明4で特定される「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たすものである。
c 関甲1発明の炭素材料は、例えば、(関甲1d)に燃料電池のカソードに用いることが記載されており、「バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの」又は「酵素電池正極用に用いられるもの」に限定されているものではないから、本件発明4において、これらの用途を除いたことが、甲1発明との相違点になるわけではない。
そうすると、関甲1発明の「炭素材料」は、本件発明1の「炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)」に相当する。
d a~cを踏まえると、本件発明4と関甲1発明とは、
(一致点)
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上である炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明4では、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/gである」のに対し、甲1発明では、比表面積が277m2/gであり、「窒素を吸着種とした」「(BETN2)」が「0.01 ~100m2/g」ではない点。
(イ)相違点1の判断
a 比表面積の求め方として、窒素を吸着種としてBET比表面積を求めるのが通常の方法である(以下「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)」を単に「比表面積」という場合がある。)ことを措くと、上記相違点は、甲1発明では、比表面積が277m2/gであり、本件発明4の「0.01 ~100m2/g」を満たしていないことといえる。
b 周知技術(比表面積)の検討
(a)関甲4について
関甲1発明の炭素材料は、例えば、導電性が必要とされる燃料電池のカソードに用いられるものであるから、炭素材料における周知技術を検討するに当たっては、例えば、導電性等の性質が共通するものであるかも考慮しなければならない。そして、(関甲4b)のTable1に「PANI」(ポリアニリン)BET比表面積が「0.01 ~100m2/g」を満たすものが記載されていたとしても、上記(関甲4a)の「その容量は電極表面積とおおまかな比例関係にあるため,高表面積の活性炭が電極材に用いられる。電気二重層キャパシタは高寿命・高出力密度を有するがエネルギー密度が小さいため,さらなる高容量化が求められている。しかし,活性炭の細孔構造最適化や高表面積化による高容量化はすでに限界に近づきつつある。最近,窒素を含む炭素がその比表面積から予想される以上の高容量を示すことが報告された5)-9)。特にメラミンの炭素化物は,窒素ガス吸着法によるBET比表面積が約100m2・g-1程度であるにもかかわらず,希硫酸電解波中において約200F・g-1の容量を示す5)。」との記載を踏まえると、電気化学容量を高めるためにはBET比表面積が約100m2・g-1を超えるような高表面積の炭素材料を用いることが前提であることを示しているから、関甲4は「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料」(以下「窒素ドープ炭素材料」という場合がある。)において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものではない。
(b)関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17について
関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている比表面積の範囲が、順に、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50~1200m2/g」「より好ましくは100~1000m2/g」、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/g」「より好ましくは10~1000m2/g」、「BET比表面積が20~2000m2/g」「60~600m2/gがさらに好ましい」、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/g」「より好ましくは10~1000m2/g」と記載され、それらの下限付近で、数字上は本件発明の「0.01 ~100m2/g」と一部重複することが示されている。
しかしながら、関甲12では、(関甲12b)に「本発明における酵素電池正極用炭素触媒は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。酸素還元反応は触媒の表面で起こるため、比表面積が大きいほど、酸素とプロトン、電子との反応場が多くなり、触媒活性の向上に繋がるため好ましい。」との記載、
関甲13では、(関甲13b)に「本発明におけるバイオ燃料電池アノード用触媒インキ材料は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。アノードで起こる反応は材料表面で起こるため、比表面積が大きいほど、還元性有機物燃料、電子との反応場が多くなり、反応活性の向上に繋がるため好ましい。」との記載、
関甲16では、(関甲16b)に「大きい比表面積と高い電子伝導性を有する炭素触媒を得られやすく好ましい。」との記載、
関甲17では、(関甲17b)に「用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる」との記載があり、
いずれにおいても、比表面積が大きい方が好ましいことの技術的意義が記載されていることから、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている上記比表面積の範囲において、当該技術的意義に反し、あえて範囲の下限付近を採用して、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものであると認定することはできない。
加えて、これら関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている炭素材料は、本件発明の「(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)」によって、除かれた用途に対応するものともいえる。
(c)山甲9について
山甲9は、そもそも、(山甲9a)に「炭素以外の元素として、O、N、S、P及びBの少なくとも1つ以上の元素」、(山甲9b)に「炭素以外の元素は、後述する炭素前駆体における、樹脂(モノマー)中の元素、樹脂反応や不融化処理時の触媒、硬化処理時の硬化剤や硬化促進剤、炭化処理時の炭化促進剤に含まれる元素により調整する」(山甲9d)の表1に「異元素含有率」と記載されていることからして、「窒素」をドープしたものを前提にしたものではない。
また、(山甲9c)に、「本発明の二次電池用炭素材の比表面積は、15m2/g以下である。また、下限値としては1m2/gであることが好ましい。比表面積が15m2より大きいと、電解液との反応が大きくなり、不可逆な容量が多くなり充放電効率が低下する傾向となる。逆に比表面積が1m2/gより小さいと炭素材中の細孔容積が小さくなり、容量が低下する傾向となる。」という記載はあるものの、当該記載についても、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものとはいえない。
(d)まとめ
したがって、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17、及び山甲9には、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものはなく、ましてや、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9の記載から、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることが周知技術と認定することはできない。
c 本件発明の技術的思想
(a)一方、本件発明4は、上記2(3)アでも記載したが、本件明細書の(本b)に記載されているとおり、「N/Cが0.01mol%以上であると、キャリア密度が向上するため、導電性が改善する。N/Cが20mol%以下であると、炭素材料の結晶性が高いため、キャリア移動度が良好である。」(【0018】)、「N3型窒素原子は非共有電子対を炭素との結合に使用するため、炭素材料への電子供与により炭素材料のキャリア密度を向上することができる。一方、N1型窒素原子およびN2型窒素原子は非共有電子対を有しているため、炭素材料への電子供与効果は著しく小さい。また、N4型窒素原子は酸素等の異種元素と結合しているため、炭素材料への電子供与効果は小さい。したがって、N3型窒素原子量の割合(表面N3)が10mol%であると、その他の窒素原子による結晶性の低下や電子伝導の阻害を抑制できる。」(【0022】)、「BETN2が100m2/g以下であると、重量および体積当たりの粒子数が少ないため、粒子間の接触抵抗が低減され、良好な導電性が得られる。BETN2が0.01m2/g以上であると、窒素ドープ反応が容易に進行する。」(【0026】)との技術的意義を有するものである。
そして、上記(本d)で摘記した表5~8に記載されている実施例1~23を参照するに、窒素ドープした炭素材料において、「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たしたうえで、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」とすることにより、導電性が向上することが裏付けられている。
すなわち、本件発明4は、(本a)の【0003】に記載されている「一方、窒素ドープについては、触媒活性に関する報告(特許文献4)はあるものの、導電性に着目した研究は不足しており、炭素材料中の窒素の含有量や結合状態と導電性との関係性はいまだ明らかとなっていない。」との状況において、窒素ドープした炭素材料の導電性が「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」及び「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)」に関与することを見いだし、これらの値を順に「0.01~20mol%」、「10mol%以上」及び「0.01 ~100m2/g」とすることにより優れた導電性を得られることを発明したものである。
(b)この点、申立人関が提示した甲号証、申立人山内の提示した甲号証には、窒素ドープした炭素材料の導電性が、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」、「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」及び「「BET比表面積(BETN2)」に関与することを示したものはなく、そもそも、窒素ドープした炭素材料の導電性に着目してその値(体積抵抗率)を示したものは上記山甲1及び山甲6しかなく、それらの体積抵抗率の値は、最低の値を参照しても、(山甲1b)のFig.2に示される1500℃で熱処理したものにおいて0.04Ω・cm(40mΩ・cm)程度で、(山甲6c)の表3の実施例6として1.9±0.6Ω・cm(1900±600mΩ・cm)であり、本件発明4に対応する実施例において最大である4.8mΩ・cm(実施例23(炭素材料32))よりもかなり大きいものである。
(c)そうすると、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17、及び山甲9以外の甲号証を鑑みても、窒素ドープした炭素材料において、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」、「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」及び「BET比表面積(BETN2)」を調整して導電性を向上させるという技術的思想を開示したものはないのであるから、窒素ドープした炭素材料において、「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たしたうえで、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」とすることもなく、それにより導電性を向上させるという効果も否定できるものではない。
d 小括
したがって、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9には、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものはないのであるから、上記相違点1に係る本件発明4の構成は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
加えて、そもそも、申立人関が提示した甲号証、申立人山内の提示した甲号証には、窒素ドープした炭素材料において、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」、「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」及び「BET比表面積(BETN2)」を調整して、導電性を向上させるという技術的思想を開示したものはないのであるから、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9以外の甲号証の記載を参照しても、窒素ドープ炭素材料において、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」及び「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」が本件発明4の値を満たしたうえで、導電性を向上させるために「BET比表面積(BETN2)」を調整して「0.01 ~100m2/g」とすることにはならない。
(ウ)申立人山内の主張
a 申立人山内は、意見書で、概略、以下の主張をしている。
「「関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17、山甲9を根拠とする周知技術の認定は不当である」との特許権者の主張は根拠を欠き、少なくとも関甲4及び山甲9は、電極を構成する炭素材料において、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/gである」ものとすることは周知技術であることを示しているものと思料します。」(6頁5~9行)
b 申立人山内の主張に対する当審の判断
上記(イ)b(a)及び(c)で述べたように、関甲4及び山甲9には、電極を構成する炭素材料において、数字上「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」を満たし得るものが記載されていたとしても、関甲4及び山甲9は、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものとはいえないことから、「導電性」を向上させるという動機を持たないものであり、仮に別の動機により、関甲1発明に「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」を組み合わせたとしても、本件発明の窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるという効果は否定できない。
(エ)総括
よって、本件発明4は、関甲1発明、並びに、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された事項、さらには、申立人関又は申立人山内が提出した甲号証を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 関甲2、山甲3、山甲8を主引例とした場合
(ア)対比
本件発明4と、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明とを対比する。
a 関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明は、いずれも「窒素元素が含まれている炭素材料」であるから、上記ア(ア)aで述べたとおり、本件発明4の「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料」に相当する。
b 関甲2発明の「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.9mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が19mol%であ」ること、山甲3発明の「「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.38mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が41.5mol%であ」ること、山甲8発明の「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.4~7.0mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が100mol%であ」ることは、いずれも各々の数値が本件発明4の(N/C)及び(表面N3)の数値範囲を満たすことから、本件発明4の「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であること」に相当する。
c 関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明の炭素材料は、いずれも、電極に用いられるものであるが、それらが「バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの」又は「酵素電池正極用に用いられるもの」に限定されているものではないから、本件発明4において、これらの用途を除いたことが、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明との相違点になるわけではない。
そうすると、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明の「炭素材料」は、本件発明1の「炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)」に相当する。
d a~cを踏まえると、本件発明4と、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明とは、
(一致点)
「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上である炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明4では、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/gである」のに対し、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明では、比表面積が不明である点。
(イ)相違点の判断
上記相違点2は、相違点1と同じである。そして、BET比表面積(BETN2)について上記ア(イ)c(a)で述べたような技術的意義を有するものであるところ、関甲2、山甲3及び山甲8は、いずれも、比表面積について着目するものではないし、ましてや、上記2(3)イ(イ)cで述べたように、「0.01 ~100m2/g」という比較的低い範囲の比表面積に着目するものではない。さらに、上記ア(イ)b及びdで述べたのと同様の観点で、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された事項を、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明に適用できるとはいえないから、関甲2発明、山甲3発明及び山甲8発明を上記相違点2に係る本件発明4の構成を有するものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
さらに、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9以外の甲号証の記載を参照しても、上記ア(イ)c(b)及び(c)並びにdで述べたように、上記相違点2に係る本件発明4の構成を有するものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、本件発明4は、関甲2発明、山甲3発明、又は山甲8発明、並びに、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された事項、さらには、申立人関又は申立人山内が提出した甲号証を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)申立人山内の主張
a 申立人山内は、意見書において、主引例として認定した関甲1発明、関甲2発明、山甲3発明、及び山甲8発明以外にも、「山甲9を主引例とする場合」についても主張しており、その主張はおおむね以下のとおりである。
「ここで、山甲9における炭素材料の製造方法を見ると、段落[0021]には、下記の製造方法が記載されています。
「本発明の二次電池用炭素材の製造方法としては、前記炭素前駆体、場合によっては、これに硬化剤や硬化促進剤など加え(これを架橋処理しても良い。)、通常の黒鉛化処理温度(例えば、2800℃以上)よりも低い温度で焼成処理することにより製造できる。更に具体例として、フェノール樹脂を用いる例として、第一の熱処理として400~800℃で行い、第一の熱処理がなされた炭素前駆体を所定の粒子径まで粉砕する。その後、第二の熱処理として、上記で粉砕した炭素前駆体を800℃~1400℃で炭化処理することにより、炭素材を得ることができる。第一の熱処理及び第二の熱処理を行う時間としては特に限定されないが、通常、最終熱処理温度まで1~50時間かけて昇温し、必要に応じて最終熱処理温度で1~30時間保持する。」
上記の製造条件において、炭素前駆体の炭化温度として1400℃近くの温度を選択した場合にはグラファイト化がすすみ、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3) が10mol%以上である」との条件を充足した蓋然性が高いものと思料されます。」(8頁25~9頁4行)
「以上より、訂正後の本件発明4は、山甲9に記載の発明に基づいて、あるいは、山甲9と、山甲8あるいは関甲1が示す周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると思料されます。」(9頁13~15行)
b 申立人山内の主張に対する当審の判断
まず、上記ア(イ)b(c)で記載したとおり、山甲9は、(山甲9a)に「炭素以外の元素として、O、N、S、P及びBの少なくとも1つ以上の元素」、(山甲9b)に「炭素以外の元素は、後述する炭素前駆体における、樹脂(モノマー)中の元素、樹脂反応や不融化処理時の触媒、硬化処理時の硬化剤や硬化促進剤、炭化処理時の炭化促進剤に含まれる元素により調整する」、(山甲9d)の表1に「異元素含有率」と記載されていることからして、特に「窒素」をドープしたものを前提にしたものではない。
また、上記山甲9の【0021】の熱処理の記載から、炭素材料にドープした窒素のうち、表面に存在するN1型、N2型、N3型、N4型の窒素において、N3型の窒素が増えることを示す根拠がない。仮に、上記製造方法によって、炭素材料にドープした窒素のうち、表面に存在するN1型、N2型、N3型、N4型の窒素において「N3型窒素原子の割合(表面N3) が10mol%以上」となるのであれば、X線光電子分光法(XPS)によって測定すれば明らかとなるところ、そのような測定も行っていないことから、上記「蓋然性が高い」との主張を採用することはできない。
そして、山甲8及び関甲1には、窒素をドープした炭素材料において、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上として導電性を向上させることが記載されていないのであるから、導電性の観点で山甲8及び関甲1に記載の事項を山甲9に適用することはできず、「山甲9と、山甲8あるいは関甲1が示す周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの」とすることはできない。
(2)本件発明5~16について
本発発明5~16は、いずれも本件発明4で特定されている「窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている炭素材料であって、CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%であり、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上であり、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/gであることを特徴とする炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)。」を必須の発明特定事項とするものであるから、本件発明4と同様に、関甲1発明、関甲2発明、山甲3発明、又は山甲8発明、並びに、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された事項、さらには、申立人関又は申立人山内が提出した甲号証を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)まとめ
本件発明4~16は、関甲1発明、関甲2発明、山甲3発明、又は山甲8発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、そして、関甲1発明、関甲2発明、山甲3発明、又は山甲8発明、並びに、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された事項、さらには、申立人関又は申立人山内が提出した甲号証を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明4~16に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではないから、取消理由3(新規性)及び取消理由(進歩性)によって取り消すことはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由について
1 上記第4で記載した取消理由通知で採用しなかった異議申立理由(以下「申立理由」という。)を整理すると、おおむね以下のとおりである。
(1)申立理由1(新規性・進歩性)
取消理由通知では、上記第4で記載したとおり、関甲1、関甲2、山甲3又は山甲8を主引用例とすると共に、申立人関又は申立人山内の提示した甲号証のうち、その技術的意義いかんに関わらず「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」を満たすであろう比表面積が記載されているものをすべて、窒素をドープした炭素材料のBET比表面積(BETN2)を「0.01~100m2/g」とすることは周知技術であることを示すものとして通知したものである。
一方、関申立書では、関甲1及び関甲2以外にも、関甲3~17を主引例として、山内申立書では、山甲3及び山甲8以外にも、山甲1、山甲2、山甲4~山甲7、山甲9、山甲10を主引用例として、訂正前の請求項1~7に係る発明に対して、新規性欠如又は進歩性欠如を主張している。
(2)申立理由2(拡大先願)
山内申立書では、山甲12として特願2020-67221号(出願日:令和2年4月3日、公開日:令和3年3月11日)の公開公報である特開2021-39935号公報を提示し、訂正前の請求項1及び4に係る発明は、該特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であることを主張している。
(3)申立理由3(明確性)
申立人関は、上記第4で記載した取消理由(明確性)以外の理由として、訂正前の請求項1~3の特定事項(パラメータ)を満たす炭素材料の体積抵抗が大きいことから、訂正前の請求項1~3の特定事項の技術的意義が明確でないことを主張している。
(4)申立理由4(サポート要件)
関申立書において主張しているサポート要件違反、山内申立書において主張しているサポート要件違反のうち、上記第4で記載した取消理由(サポート要件)の内容に含まれていないものとしては、以下の内容のものが挙げられる。
ア 訂正前の請求項1~5の特定事項を満たす実施例の炭素材料の体積抵抗が、比較例よりも高いものがあることから、訂正前の請求項1~5の特定事項を満たす炭素材料が導電性に優れるとはいえず、本件発明の課題を解決するものではない。
イ 実施例において記載されている(N/C)、ピークの半値幅の値に対して、訂正前の請求項1で特定される(N/C)の範囲、請求項5で特定されるピークの半値幅の範囲が広いことから、訂正前の請求項1及び5の全て範囲おいて、本件発明の課題を解決するものではない。
(5)申立理由5(実施可能要件)
申立人関は、炭素材料が訂正前の請求項1~5の特定事項を満たすとしても、導電性に優れる炭素材料が得られるとは限らないことから、本件明細書の発明の詳細な説明には、どのような製造条件を選択して、どのような物性を備える炭素材料を選択すれば、導電性に優れる炭素材料を製造できるのかについて記載されていないことを主張している。
2 申立理由に対する判断
(1)申立理由1(新規性・進歩性)について
ア 関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10を主引用例とした場合
(ア)関甲3~17、山甲1、山甲2、山甲4~山甲7、山甲9、及び山甲10のうち、取消理由で比表面積が記載されている点で提示した関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9以外の甲号証、すなわち関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10については、本件発明4~16の必須発明特定事項である「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」であることが記載されていないのであるから、本件発明4~16と、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10に記載された発明とを対比すると、少なくとも当該事項が実質的な相違点(以下「相違点3」という。)となる。
(イ)相違点3の判断
上記相違点3は、相違点1と同じである。そして、BET比表面積(BETN2)について上記第6の3(1)ア(イ)c(a)で述べたような技術的意義を有するものであるところ、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10は、いずれも、比表面積について着目するものではないし、ましてや、上記第6の2(3)イ(イ)cで述べたように、「0.01 ~100m2/g」という比較的低い範囲の比表面積に着目するものではない。さらに、上記第6の3(1)ア(イ)b及びdで述べたのと同様の観点で、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9に記載された事項を、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7又は山甲10に記載された発明に適用できるとはいえないから、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7又は山甲10に記載された発明を上記相違点3に係る本件発明4の構成を有するものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。さらに、関甲4、関甲12、関甲13、関甲16、関甲17及び山甲9以外の甲号証の記載を参照しても、上記第6の3(1)ア(イ)c(b)及び(c)並びにdで述べたように、上記相違点3に係る本件発明4の構成を有するものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、本件発明4は、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10に記載された発明ではなく、そして、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、本発発明5~16は、いずれも本件発明4で特定されている事項を必須の発明特定事項とするものであるから、本件発明4と同様に、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10に記載された発明ではなく、そして、関甲3、関甲5~関甲11、関甲14、関甲15、山甲4~山甲7及び山甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17を主引用例とした場合
(ア)関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17については、上記第6の3(1)ア(イ)b(b)で述べたように、順に、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50~1200m2/g」「より好ましくは100~1000m2/g」、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/g」「より好ましくは10~1000m2/g」、「BET比表面積が20~2000m2/g」「60~600m2/gがさらに好ましい」、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/g」「より好ましくは10~1000m2/g」と記載され、それらの下限付近で、数字上は本件発明の「0.01 ~100m2/g」と一部重複することが示されているものの、いずれにおいても、比表面積が大きい方が好ましいことの技術的意義が記載されていることから、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている上記比表面積の範囲において、当該技術的意義に反し、あえて範囲の下限付近を採用することはないから、窒素ドープ炭素材料において、導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを開示したものとはいえないものである。
さらに、これら関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている炭素材料は、本件発明の「(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)」によって、除かれた用途に対応するものともいえる。
(イ)a 一方、申立人関は、関申立書において、以下のとおり、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている製造方法を、本件明細書に記載されている本件発明の炭素材料を製造する方法とすることは当業者が容易になし得たことであるから、その容易になし得た製造方法によって製造された炭素材料は本件発明の炭素材料と同じであるとの理屈を展開している。
関甲12について、「例えば甲12発明の実施例1において、窒素源として鉄フタロシアニンに代えてコバルトフタロシアニンを用い、炭素源/窒素源質量比として100/50(1/0.5)に代えて100/43(70/30)を用いたうえで、加熱条件として800℃で2時間に代えて1000℃で1時間を用いれば、その製造方法は本件特許発明の実施例22と一致し、該製造方法で得られる炭素材料は、本件特許発明1の上記Cを備えるものとなる。よって、上記A12、B12およびD121に加えて上記Cを備えた以下の発明は、甲12発明及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得るものである。」(184頁12~19行)と、
関甲13について、「よって、所望の窒素ドープ量を得ること等を目的として、甲13発明の実施例A7の炭素源/窒素源質量比100/10に代えて100/11を用いることは当業者が容易になし得ることである。加熱条件については、甲第13号証の【0055】【0056】に、加熱温度は500~1100℃ が好ましく、700~1000℃がより好ましいことや、ある程度高温で熱処理することで、活性点の構造が安定化し、実用的な電池運転条件に耐え得る表面となることが多いこと、および、加熱時間は通常は1時間から5時間であることが好ましいと記載されている。よって、活性点の構造安化等の目的で、甲13発明の実施A7の加熱末条件800℃で2時間に代えて1000℃で1時間を用いることは当業者が容易になし得ることである。以上より、本件特許発明の実施例23の製造方法は、甲13発明の実施例A7の製造方法から当業者が容易になし得る範囲のものである。そして、甲13発明の実施例A7の製造方法から当業者が容易になし得る本件特許発明の実施例23の製造方法で得られる炭素材料32は、本件特許発明のA~DおよびF~Jを備えている。」(189頁14~29行)と、
関甲16及び17について、「(4)甲16発明の製造6の製造方法と、本件特許発明の実施18、19、20の製造方法との相違点は、以下の点のみである。・窒素源が前者は鉄フタロシアニンであるのに対して後者はコバルトフタロシアニンである点 ・炭素源/窒素源質量比が前者は1/0.5であるのに対して後者が80/20又は90/10である点 ・加熱条件が前者は800℃で2時間であるのに対して後者が1000℃ (実施例18)で1時間である点
(5)甲17発明の製造A1の製浩方法と本件特許発明の実施例22の製造方法との相違点は、以下の点のみである。・窒素源が前者は鉄フタロシアニンであるのに対して後者はコバルトフタロシアニンである点 ・炭素源/窒素源質量比が前者は1/0.5であるのに対して後者が70/30である点 ・加熱条件が前者は800℃で2時間であるのに対して後者が1000℃で1時間である点
(6)しかしながら、上記甲12発明及び甲13発明について検討したとおり、甲14発明~ 甲17発明の製造法と、本件特許発明の製造方法との上記相違点はいずれも、当業が容易になし得る範囲のものに過ぎない。よって、本件特許発明の製造方法は、甲14発明~甲17発明の製造方法から当業者が容易になし得る範囲のものである。そして、甲14発明~甲17発明の製造方法から当業者が容易になし得る本件特許発明の製造方法で得られる炭素材料は、本件特許発明のA~J」を備えている。」(191頁7~29行、(4)(5)(6)は丸囲いの数字である。)と主張している。
b しかしながら、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載されている製造方法を、何らの動機付けもないのに、本件明細書に記載されている本件発明の炭素材料を製造する方法とすることは、本件明細書を見てのいわゆる後知恵であり、また、仮に本件明細書に記載されている本件発明の炭素材料を製造する方法とすることが容易としても、その容易になし得た製造方法によって製造された炭素材料が、本件発明の特定事項を満たすことは、本件明細書を見なければ判断できないのであるから、そのような判断も本件明細書を見ての後知恵である。
したがって、申立人山内の主張を踏まえて、本件発明4~16は、関甲12、関甲13、関甲16又は関甲17に記載された発明とも、関甲12、関甲13、関甲16又は関甲17に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは判断することはできない。
(ウ)さらに、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17には、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」と一部重複する範囲が記載されているものの、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17には、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」の範囲とすることにより、窒素ドープされた炭素材料の導電性を向上させるという効果については何ら記載されていないことから、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」という範囲において、いわゆる選択発明としての進歩性があることも否定できない。
(エ)小括
よって、本件発明4~16は、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載された発明ではなく、そして、関甲12、関甲13、関甲16及び関甲17に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 関甲4を主引用例とした場合
(ア)関甲4は、タイトルが「炭素化ポリアニリンの電気化学容量」であり、炭素化ポリアニリンの「電気化学容量」についての論文である。そして、(関甲4b)のFig.9には、N1sXPSスペクトルの波形分離から算出した各化学状態の窒素の原子濃度及び電気化学容量と熱処理温度との関係を示すグラフが記載されており、窒素の化学状態として「Quaternary N」(N3型窒素原子)についても記載されている。
しかしながら、(関甲4c)には「Fig.9にN1sXPSスペクトルの波形分離から算出した各化学状態の窒素の濃度,ならびに容量とPANIの熱処理温度との相関を示す。800℃以上の熱処理により,四級型窒素の量が増加する一方,ピリジン型およびピロール型窒素の量は減少し,それに伴い容量も著しく減少した。」(「四級型窒素」はN3型窒素原子)と記載されており、容量を減少させることは関甲4に記載されている技術に反することであるから、関甲4に接した当業者は、N3型窒素原子の量を増加させる方向である「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」とすることを指向するとはいえない。
(イ)また、関甲4は、数字上「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」と一部重複する比表面積の値が記載されているといえるが、(関甲4a)の「その容量は電極表面積とおおまかな比例関係にあるため,高表面積の活性炭が電極材に用いられる。電気二重層キャパシタは高寿命・高出力密度を有するがエネルギー密度が小さいため,さらなる高容量化が求められている。しかし,活性炭の細孔構造最適化や高表面積化による高容量化はすでに限界に近づきつつある。最近,窒素を含む炭素がその比表面積から予想される以上の高容量を示すことが報告された5)-9)。特にメラミンの炭素化物は,窒素ガス吸着法によるBET比表面積が約100m2・g-1程度であるにもかかわらず,希硫酸電解波中において約200F・g-1の容量を示す5)。」との記載を踏まえると、電気化学容量の高容量化に着目したものであり、導電性については着目されていない。そうすると、上記第6の3(1)ア(イ)c(a)及び(b)で述べたとおり、本件発明のように導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを何ら開示したものとはいえない。
(ウ)そして、関甲4は、窒素ドープした炭素材料において、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」、「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」及び「BET比表面積(BETN2)」を調整して導電性を向上させるという技術的思想を開示したものはないから、窒素ドープした炭素材料において、「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たしたうえで、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」とすることもなく、それにより導電性を向上させるという効果も否定できるものではない。
(エ)小括
よって、本件発明4~16は、関甲4に記載された発明ではなく、そして、関甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 山甲9を主引用例とした場合
(ア)まず、上記第6の3(1)イ(エ)bで記載したように、申立人山内の意見書での主張によって、山甲9を主引用例とした場合について、本件発明4~16の新規性及び進歩性を否定できるものではない。
(イ)また、山甲9において、数字上「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01~100m2/g」と一部重複する比表面積の値が記載されているといえるが、(山甲9c)の「本発明の二次電池用炭素材の比表面積は、15m2/g以下である。また、下限値としては1m2/gであることが好ましい。比表面積が15m2より大きいと、電解液との反応が大きくなり、不可逆な容量が多くなり充放電効率が低下する傾向となる。逆に比表面積が1m2/gより小さいと炭素材中の細孔容積が小さくなり、容量が低下する傾向となる。」との記載を踏まえると、電気化学容量に着目したものであり、導電性について着目されていない。そうすると、上記第6の3(1)ア(イ)c(a)及び(b)で述べたとおり、本件発明のように導電性を向上させるために比表面積を「0.01 ~100m2/g」とすることを何ら開示したものとはいえない。
(ウ)そして、山甲9は、窒素ドープした炭素材料において、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」、「炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)」及び「BET比表面積(BETN2)」を調整して導電性を向上させるという技術的思想を開示したものはないから、窒素ドープした炭素材料において、「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」及び「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」を満たしたうえで、「窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、0.01 ~100m2/g」とすることもなく、それにより導電性を向上させるという効果も否定できるものではない。
(ウ)小括
よって、本件発明4~16は、関甲9に記載された発明ではなく、そして、関甲4及び関甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ まとめ
以上のとおり、本件発明4~16は、関甲3~17、山甲1、山甲2、山甲4~山甲7、山甲9及び山甲10に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、そして、関甲3~17、山甲1、山甲2、山甲4~山甲7、山甲9及び山甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明4~16に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではないから、取消理由3(新規性)及び取消理由(進歩性)によって取り消すことはできない。
(2)申立理由2(拡大先願)について
ア 山甲12においては、「NGF(nitrogen-doped graphite felt;窒素ドープされたグラファイトフェルト)」における窒素含有量を「XPS」のみで測定しており、XPSで分析できる深さは、通常、表面から数nm程度と非常に浅いものである。ここで、NGFの大きさの例として、(山甲12b)には「平均粒子径は90nm未満」と記載され、また、図4を参照すると、50nmのスケールバーが記載され、これを参照すると、粒子は200nmを超えるものともいえる。
そうすると、(山甲12c)に「NGFの全窒素含量(原子%)」、(山甲12d)の図6に「総窒素含量(at.%)」と記載されているものの、これらの値は、NGFの「表面」部分の窒素の量であり、NGF「中」の窒素の量を測定したものとはいえないから、本件発明の「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)」の値は不明であり、この数値が「0.01~20mol%」であることは実質的な相違点となる。
イ したがって、本件発明4~16と山甲12に記載された発明とは、少なくとも「CHN元素分析装置を用いて測定した、炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」の点で相違することから、本件発明4~16は、山甲12としての特願2020-67221号(出願日:令和2年4月3日、公開日:令和3年3月11日(特開2021-39935号公報)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一とはいえない。
よって、本件発明4~16に係る特許を、申立理由2(拡大先願)によって取り消すことはできない。
(3)申立理由3(明確性)について
ア 訂正前の請求項1~3は上記第2の1で述べたとおり削除されたが、訂正前の請求項1~3についての特定事項(パラメータ)である「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」、「炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol%以下」、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%」との事項は、本件発明4~16におけるいずれかの発明特定事項となっているものである。
イ(ア)そこで検討するに、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」については、訂正により「CHN元素分析装置を用いて測定した」ことが限定されたことから、上記パラメータはすべて数値的に一義的に解されるものであるから、不明確とはいえない。
また、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における全窒素に対するN3型窒素原子の割合(表面N3)が10mol%以上」、「炭素材料表面における全窒素に対するN1型窒素原子の割合とN2型窒素原子の割合との合計(mol%)を(N1+N2)としたときの、{N×(N1+N2)÷100}で示される表面末端窒素の割合が1mol%以下」、「X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素材料表面における炭素元素に対する窒素元素の割合(表面N/C)が0.2~1.3mol%」についても、数値的に一義的に解されるものであるから、不明確とはいえない。
(イ)さらに、技術的意義についても一応検討するに、上記特定事項の技術的意義については、本件明細書の(本b)に記載されているから、申立人関の主張は当を得たものではない。
ウ よって、本件発明4~16に係る特許を、申立理由3(明確性)によって取り消すことはできない。
(4)申立理由4(サポート要件)について
アの主張について
申立人は、実施例の炭素材料の体積抵抗が、比較例よりも高いものがあることから、本件発明の炭素材料が導電性に優れるとはいえず、本件発明の課題を解決するものではないことを主張しているが、本件発明は、上記本件明細書の(本a)に「窒素ドープについては、触媒活性に関する報告(特許文献4)はあるものの、導電性に着目した研究は不足しており、炭素材料中の窒素の含有量や結合状態と導電性との関係性はいまだ明らかとなっていない。」ことを受け、窒素ドープした炭素材料の導電性を上げることを課題としているものである。
そして、上記第6の2(1)で述べたよう、窒素ドープする対象の炭素材料の種類、構造によって体積抵抗率も変わるところ、それらの体積抵抗率の異なる炭素材料それぞれに対して体積抵抗率が小さくなれば、本件発明の課題を解決することになるのであるから、実施例の炭素材料の体積抵抗率が比較例よりも高いものがあることをもってして、即座に本件発明の課題を解決していないとの結論にはいたらない。例えば、比較例1(炭素材料18)は、体積抵抗率が2.1mΩ・cmと低い値を示しているが、これはそもそも窒素がドープされていない炭素材料であるから、本件発明の比較の対象とならないものである。
イの主張について
(N/C)の値、ピークの半値幅の値については、それぞれ、(本b)の【0018】の「N/Cが0.01mol%以上であると、キャリア密度が向上するため、導電性が改善する。N/Cが20mol%以下であると、炭素材料の結晶性が高いため、キャリア移動度が良好である。」、【0029】の「上記ピークの半値幅(半値全幅)が8°以下である場合には、炭素材料の結晶性が高く、電子伝導性が高く、好ましい。」との機序の記載をみると、「炭素材料中の炭素元素に対する窒素元素の割合(N/C)が0.01~20mol%」の範囲、「CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下」の範囲において導電性が優れているといえる。
ウ 小括
よって、申立人の主張はいずれも当を得たものではないから、本件発明4~16に係る特許を、申立理由3(サポート要件)によって取り消すことはできない。
(5)申立理由5(実施可能要件)について
本件発明の窒素ドープ炭素材料の製造方法については、(本d)で摘記した実施例に、
「【0072】
<窒素ドープ炭素材料>
[実施例1]
炭素源である球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製 CGB―50、平均粒径50μm)80部と、窒素源であるコバルトフタロシアニン(東京化成工業社製)20部とを自転公転ミキサーで乾式混合して混合物を得た。上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素雰囲気下、1000℃で1時間熱処理を行い、窒素ドープ炭素材料(1)を得た。
【0073】
[実施例2]
炭素源である球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製 CGB―50、平均粒径50μm)80部と、窒素源である鉄フタロシアニン(山陽色素社製)20部と、溶媒であるエタノール300部をビーズミルで湿式混合し、大気下70℃のオーブンで乾燥させて混合物を得た。上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、窒素雰囲気下、1000℃で1時間熱処理を行い、窒素ドープ炭素材料(2)を得た。
【0074】
[実施例3~23、比較例1~10]
表1~4に示す原料、条件を用いて、原料を乾式混合した場合は実施例1と同様にして、原料を湿式混合した場合は実施例2と同様にして、窒素ドープ炭素材料(3)~(33)を作製した。」
と記載されていることから、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の窒素ドープ炭素材料を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件発明4~16に係る特許を、申立理由4(実施可能要件)によって取り消すことはできない。
第8 申立人山内のその余の主張
1 申立人山内は、山内意見書において、山内申立書において主張していなかった新たな理由として、以下のとおり、新規事項の追加である旨の主張をしている。
「本件発明に記載された「(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)」との記載・・・上記の除くクレームは、本件の審査段階で、進歩性に係る拒絶理由を回避するために付け加えられたものです。・・・本件における除くクレームは、「請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正」には該当しません。」(11頁12~26行)
2 当審の判断
上記申立人山内の主張は、訂正によって生じたものとはいえないから、時期を逸した主張といえるものの一応検討する。
「除くクレーム」については、知財高裁大合議判決(平成18年(行ケ)第10563号の判事事項を踏まえて判断されるべきであり、「炭素材料(但し、バイオ燃料電池アノード用に用いられるもの、及び、酵素電池正極用に用いられるものを除く)」とは、「バイオ燃料電池アノード用に用いられる炭素材料」及び「酵素電池正極用に用いられる炭素材料」を本件発明の「炭素材料」から除外することを特定しているにすぎず、当該特定事項が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しているとはいえない。
第9 むすび
以上のとおり、本件発明4~16に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、並びに申立人関の特許異議申立書に記載された申立理由、及び申立人山内の特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明4~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1~3に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人関及び申立人山内による特許異議の申立てについて、請求項1~3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700642