特許異議申立
2026-700279
PFAS除去材、吸着フィルター、浄水器カートリッジ、浄水器および水浄化設備
- 審判番号
- 2026-700279
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-049330
- 登録番号
- 7748593
- 請求日
- 2026年03月31日
- 審決日
- 2026年07月17日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大阪ガスケミカル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人いくみ特許事務所
- 【異議申立人】山内 憲之
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 斎藤 克也
- 審判官 手島 理
- 分類
- P1651.113-Y (C01B) / P1651.121-Y (C01B) / P1651.536-Y (C01B) / P1651.537-Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7748593号発明「PFAS除去材、吸着フィルター、浄水器カートリッジ、浄水器および水浄化設備」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7748593号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7748593号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和7年3月25日の出願であって、同年9月24日に特許権の設定登録がされ、同年10月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、その全請求項に係る特許に対し、令和8年3月31日に特許異議申立人である山内 憲之(以下、「申立人」という。)により、甲第1~9号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年5月8日に、申立人より特許異議申立書の手続補正書が提出されたものである。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~10に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
-196℃におけるN2吸着等温線からCI法によって求められる細孔容積において、
細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径2~4nmの細孔容積(A)の割合((A)/(B))が、0.085以上0.410以下であり、
細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径9~25nmの細孔容積(C)の割合((C)/(B))が、0.04以上0.45以下である、炭素質材料
を含有する、PFAS除去材。
【請求項2】
-196℃におけるN2吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が、900m2/g以上1760m2/g以下であり、
細孔径2~4nmの細孔容積(A)が、0.030mL/g以上0.100mL/g以下であり、
細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)が、0.230mL/g以上0.350mL/g以下であり、
細孔径9~25nmの細孔容積(C)が、0.011mL/g以上0.140mL/g以下である、炭素質材料を含有する、PFAS除去材。
【請求項3】
前記炭素質材料のMS硬度が、80.0%以上である、請求項1または2に記載のPFAS除去材。
【請求項4】
前記炭素質材料の平均粒径が、0.15mm以上1.70mm以下である、請求項1または2に記載のPFAS除去材。
【請求項5】
前記炭素質材料のリアクティブブラック5価が、2.0g/L以上15.0g/L以下である、請求項1または2に記載のPFAS除去材。
【請求項6】
前記炭素質材料の充填密度が、0.350g/mL以上0.550g/mL以下である、請求項1または2に記載のPFAS除去材。
【請求項7】
請求項1または2に記載のPFAS除去材を含有する、吸着フィルター。
【請求項8】
請求項1または2に記載のPFAS除去材を含有する、浄水器カートリッジ。
【請求項9】
請求項1または2に記載のPFAS除去材を含有する、浄水器。
【請求項10】
請求項1または2に記載のPFAS除去材を含有する、水浄化設備。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)
(1)甲第1号証を主引例とした場合について
本件発明1~10は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~9号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。すなわち、本件発明1~10は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に反して特許を受けたものであるから、特許法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
(2)甲第2号証を主引例とした場合について
本件発明1~10は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~9号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。すなわち、本件発明1~10は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に反して特許を受けたものであるから、特許法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
甲第1号証又は甲第2号証の記載事項と周知技術に基づいて、本件発明1~10を容易に実施することができないとすれば、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1~10を当業者が実施し得るように記載していないことになる。すなわち、特許法第36条第4項第1号の実施可能要件違反に該当するので、特許法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件発明1~6はPFAS除去材、本件発明7~10は、PFAS除去材を含有する、吸着フィルター、浄水カートリッジ、浄水器、水浄化設備に関するものである。しかし、本件特許明細書の段落[0157]、[0158]に各種のPFASが列挙されているのに対し、実際に除去性能が試験されているのは、PFOAとPFOSのみである。
甲第3号証の記載に見るように、PFASには10000種以上の化学物質が含まれ、甲第8号証が指摘するように、PFASの除去効率はPFASの種類によって大きく変化するところ、仮に本件の、PFAS除去材が、一般的な活性炭や、甲第1号証、甲第2号証の記載する炭素質材料よりも優れたPFAS除去性能を有するものを意味するとしても、その性能は、PFOAとPFOSのみについてしか確認されていないので、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号のサポート要件違反に該当し、特許法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特許第7597901号公報
甲第2号証:特許第7453462号公報
甲第3号証:PFASハンドブック,環境省,2025年3月31日
甲第4号証:Espana et al.,Treatment technologies for aqueous perfluorooctanesulfonate(POFS) and perfluorooctanoate(PFOA):A critical review with an emphasis on field testing,Environmental Technologies & Innovation,4(2015),p.168-181
甲第5号証:JWPAS B(2023)浄水器の製品及び性能に関する規格基準,一般社団法人浄水器協会,2023年
甲第6号証:皮革用語辞典,一般社団法人 日本皮革産業連合会,[online],<https://dictionary.jlia.or.jp>,2026年3月11日取得
甲第7号証:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)のヒト健康影響と環境影響に関するリスク評価結果について,日本石鹸洗剤工業会,2011年
甲第8号証:伊藤禎彦,PFAS(ピーファス)とは何か?,月刊下水道,2025年3月15日,令和7年4月号(通巻695号 Vol.48 No.5),p.24-28
甲第9号証:特開2020-124710号公報
なお、甲第3号証は本件特許の出願後に公開されたものであり、甲第6号証の公知日は不明である。
(以下、甲第1号証などを略して、「甲1」などということがある。)
第4 当審の判断
1 特許第29条1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1)甲各号証に記載された事項等
ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下、同様。)。
a 「【請求項1】
窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法により算出した細孔径0.70nm以下の細孔容積が0.16cm3/g以上0.30cm3/g以下であり、
よう素吸着量が750mg/g以上1,340mg/g以下であり、
リアクティブブラック5価が6.0g/L以上30.0g/L以下であり、
-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が610m2/g以上1,400m2/g以下である、
炭素質材料。
・・・
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素質材料を含む、吸着フィルター。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素質材料を含む、浄水器カートリッジ。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素質材料を含む、浄水器。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素質材料を備える、水浄化設備。」
b 「【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等から、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等までの幅広い有害物質を同等の性能で除去することが可能な炭素質材料及びその製造方法、吸着フィルター、浄水器カートリッジ、浄水器、並びに水浄化設備を提供することを目的とする。」
c 「【0030】
炭素質材料において、窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法で算出した細孔径0.70nm以下の細孔容積(cm3/g)(以下、単に「細孔径0.70nm以下の細孔容積」とも称する)が、0.16cm3/g以上0.30cm3/g以下である。細孔径0.70nm以下の細孔容積が上記範囲にあることで、炭素質材料は、主として、クロロホルム等に対して高い除去性能を発揮する。炭素質材料は、細孔径0.70nm以下の細孔容積が0.16cm3/g以上であることで、ミクロ孔容積の中で分子サイズの比較的小さいクロロホルム等の除去に有効な小さな細孔容積が十分となり、クロロホルム等に対する吸着性能が著しく向上する。また、細孔径0.70nm以下の細孔容積が0.30cm3/g以下であることで、クロロホルム等の分子サイズよりも小さい物質に適する細孔容積の存在量が少なくなり、その分、クロロホルム等に適する細孔容積が多くなる。そのため、クロロホルム等に対する吸着性能が著しく向上する。」
d 「【0036】
クロロホルム等と陰イオン界面活性剤等に対してより高い除去性能を有することから、よう素吸着量は、好ましくは900mg/g以上1,330mg/g以下であり、より好ましくは1,000mg/g以上1,310mg/g以下である。」
e 「【0042】
炭素質材料において、窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法により算出した細孔径1.0nm以下の細孔容積(A)(以下、単に「細孔径1.00nm以下の細孔容積」とも称する)と、-196℃におけるN2の吸着等温線からBJH法によって求められるメソ孔容積(B)(以下、単に「メソ孔の細孔容積」とも称する)との比(A/B、以下、単に「メソ孔比」とも称する)は、好ましくは3.0以上8.0以下であり、より好ましくは3.5以上7.5以下であり、更に好ましくは4.0以上7.0以下である。
【0043】
細孔径1.00nm以下の細孔容積は、主として、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等に対して有効な小さな細孔の指標となる。また、メソ孔の細孔容積は、主として、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等に対して有効な大きな細孔の指標となる。そのため、メソ孔比は、クロロホルム等と陰イオン界面活性剤等との除去性能における性能バランスを示す指標となる。
【0044】
メソ孔比が上記範囲にあると、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等から、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等までの幅広い有害物質を同等の性能でより除去することが可能となる。メソ孔比が3.0以上であることで、陰イオン界面活性剤等の除去性能に有効な大きな細孔の割合が十分となり、陰イオン界面活性剤等に対して、高い吸着性能を発揮する傾向にある。メソ孔比が8.0以下であることで、クロロホルム等の除去性能に有効な小さな細孔の割合が十分となり、クロロホルム等に対して、高い吸着性能を発揮する傾向にある。メソ孔比の具体的な測定及び算出方法は、実施例を参照すればよい。
【0045】
炭素質材料において、-196℃におけるN2の吸着等温線からBJH法によって求められるメソ孔の細孔容積(メソ孔の細孔容積)は、好ましくは0.030cm3/g以上0.140cm3/g以下であり、より好ましくは0.035cm3/g以上0.100cm3/g以下であり、更に好ましくは0.040cm3/g以上0.090cm3/g以下である。
【0046】
メソ孔の細孔容積が0.030cm3/g以上であることで、炭素質材料は、陰イオン界面活性剤等に対して有効である比較的大きな細孔を多く保有することができる。メソ孔の細孔容積が0.140cm3/g以下であることで、炭素質材料の細孔が大きくなりすぎず、炭素質材料は、クロロホルム等の吸着に対して有効な細孔も多く保有することができる。そのため、メソ孔の細孔容積が上記範囲にあると、クロロホルム等の除去性能と、陰イオン界面活性剤等の除去性能とをより高い水準で実現できる傾向にある。メソ孔の細孔容積の具体的な測定及び算出方法は、実施例を参照すればよい。」
f 「【0047】
炭素質材料において、-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積(以下、単に「BET比表面積」とも称する)は、好ましくは610m2/g以上1,400m2/g以下であり、より好ましくは800m2/g以上1,300m2/g以下であり、更に好ましくは900m2/g以上1,300m2/g以下である。」
g 「【0049】
炭素質材料において、タッピング法により測定される充填密度(以下、単に「充填密度」とも称する)は、好ましくは0.36g/mL以上0.60g/mL以下であり、より好ましくは0.40g/mL以上0.58g/mL以下であり、更に好ましくは0.44g/mL以上0.55g/mL以下である。・・・」
h 「【0055】
[炭素質材料の製造方法]
本実施形態の炭素質材料は、公知の製造方法によって得ることができる。
・・・
【0058】
(炭化工程)
炭素質材料の製造方法は、原料を炭化して炭化物を得る炭化工程を含む。
原料としては、所望の炭素質材料を得ることができる材料であれば特に限定されない。原料としては、例えば、木材、木粉、ヤシ殻などの果実殻、パーム核、梅、及び桃等の種子、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜、石炭(泥炭、亜炭、褐炭、及び瀝青炭など)、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、及びコールタールなどの植物系原料又は化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、及びポリアミド樹脂などの各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、及びポリクロロプレンなどの合成ゴム;その他合成木材;合成パルプなどが挙げられる。これらの原料は、単独で用いることもでき、要求仕様に応じて、2種以上を任意の比率で混合して使用することもできる。
【0059】
原料は、天然物であることが好ましく、ヤシ殻であることがより好ましい。そのような原料を用いることで、窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法により算出した細孔径0.70nm以下の細孔容積が0.16cm3/g以上0.30cm3/g以下であり、よう素吸着量が750mg/g以上1,340mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が6.0g/L以上67.0g/L以下である炭素質材料を更に容易に製造できる傾向にある。
【0060】
原料は、必要に応じて、添加剤等を含んでもよい。また、添加物等は、必要に応じて、炭化物に加えてもよい。
・・・
【0063】
原料の炭化方法は、特に限定されず、例えば、無酸素の条件で300℃以上900℃以下、好ましくは400℃以上800℃以下まで加熱する方法が挙げられる。
【0064】
炭化時間は、原料、及び炭化を行う設備によって適宜設定できる。炭化時間としては、例えば、15分以上20時間以下であり、好ましくは30分以上10時間以下であり、より好ましくは60分以上5時間以下である。炭化処理は、例えば、ロータリーキルンなどの公知の製造設備を用いて行うことができる。また、炭化処理は、空気を排除して減圧下で行ってもよく、窒素雰囲気下で行ってもよい。
・・・
【0070】
(賦活工程)
炭素質材料の製造方法は、炭化物を賦活処理して賦活物を得る賦活工程を含む。
・・・
【0073】
賦活処理は、ロータリーキルンを用いて行うことが好ましい。ロータリーキルンを用いることにより、炭化物の賦活の進行に伴って質量が軽くなった賦活物は、炉外へと飛散せず、キルン炉内にて留まることが可能となる。そのため、炭化物をより十分に賦活することができるため、ミクロ孔とメソ孔とが十分発達し、それらの孔の割合が好適の範囲に制御された賦活物を得ることできる傾向にある。
・・・
【0076】
賦活処理の方法としては、例えば、水蒸気ガス、酸素ガス、及び二酸化炭素ガスなどの活性ガスを用いて炭化物をガス化させるガス賦活法、並びに塩化亜鉛及びリン酸などの薬剤を用いて炭化物を賦活する薬品賦活法が挙げられる。賦活処理の方法としては、ガス賦活法が好ましい。ガス賦活法として活性ガスを用いることで、より十分な反応速度を有し、生産効率をより低下させずに反応速度を制御できる傾向にある。そのため、ミクロ孔及びメソ孔が発達した炭素質材料をより容易に得ることができる傾向にある。その結果、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等から、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等までの幅広い有害物質に対する吸着性能をより高いレベルで有する炭素質材料を好適に製造できる傾向にある。なお、活性ガスと共に窒素などの不活性ガスを併用してもよい。
・・・
【0078】
活性ガスとしては、水蒸気ガス及び酸素ガスからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましく、水蒸気ガスと酸素ガスの両方を用いることがより好ましい。
・・・
【0083】
賦活処理の時間は、原料、賦活温度、及び製造設備などの条件によって適宜設定できる。賦活時間としては、例えば、10分間以上36時間以下であり、好ましくは30分間以上24時間以下であり、より好ましくは60分間以上12時間以下であり、更に好ましく100分間以上360分間以下であり、更により好ましく120分間以上300分間以下である。賦活時間が上記範囲にあることにより、窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法により算出した細孔径0.70nm以下の細孔容積が0.16cm3/g以上0.30cm3/g以下であり、よう素吸着量が750mg/g以上1,340mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が6.0g/L以上67.0g/L以下である炭素質材料を更に容易に製造できる傾向にある。
【0084】
賦活処理の温度は、特に限定されないが、好ましくは800℃以上1,250℃以下であり、より好ましくは850℃以上1,150℃以下である。そのような温度で賦活処理することにより、窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法により算出した細孔径0.70nm以下の細孔容積が0.16cm3/g以上0.30cm3/g以下であり、よう素吸着量が750mg/g以上1,340mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が6.0g/L以上67.0g/L以下である炭素質材料を更に容易に製造できる傾向にある。
【0085】
賦活処理を行うための賦活装置としては、例えば、図1及び2で示すようなロータリーキルンが挙げられる。図1は、ロータリーキルンの断面図I及び側面図IIである。図2は、ロータリーキルンを説明するための模式断面図である。
・・・
【0088】
図1及び2では、攪拌羽の数は6枚であるが、原料である炭化物5の装入量に応じて、適宜調整できる。攪拌羽の数は、通常1枚以上20枚以下であり、好ましくは3枚以上12枚以下であり、より好ましくは5枚以上10枚以下である。また、攪拌羽は、管体1の中心軸周りに等間隔で設置することが好ましい。例えば、攪拌羽の数が6枚であれば、管体1の中心軸周りに60°毎に設置することになる。
【0089】
攪拌羽の高さ(管体1の壁から中心に向かう方向における高さ)は、管体1の大きさ及び炭化物5の装入量に応じて適宜設定できるが、攪拌羽が、管体1に装入される炭化物5により覆われず視認できる程度の高さであることが好ましい。具体的には、攪拌羽の高さは、攪拌羽が管体1の最底面に位置(図2の右図における攪拌羽Bの位置)する場合、その攪拌羽が、炭化物5により最底面から1/2以上2/3以下覆われる高さであることが好ましい。攪拌羽の高さは、管体1の内半径に対して、10%以上30%以下であることがより好ましい。
【0090】
攪拌羽の厚さ(管体1の回転方向3の厚さ)は、管体1の大きさ及び炭化物5の装入量に応じて適宜設定できるが、攪拌羽が、管体1に装入される炭化物5により破損しない程度の強度を有する厚さであることが好ましい。具体的には、攪拌羽の厚さは、管体1の壁厚さに対して、通常1%以上100%以下であり、20%以上90%以下であることが好ましく、30%以上95%以下であることがより好ましい。
・・・
【0106】
炭素質材料は、その粒度(体積基準の累積分布の50%粒子径、D50)が20μm以上500μm以下になるように粒度を調整することが好ましい。炭素質材料の粒度が上記範囲にあることにより、炭素質材料は、例えば、下記に例示するような用途に好適に用いることができる。」
i 「【0110】
〔吸着フィルター〕
本実施形態の吸着フィルターは、本実施形態の炭素質材料を含む。また、吸着フィルターは、浄水器用であることが好ましい。
・・・
【0123】
〔浄水器カートリッジ〕
本実施形態の浄水器カートリッジは、本実施形態の炭素質材料を含む。浄水器カートリッジは、本実施形態の炭素質材料を含む以外、公知の浄水器カートリッジと同様の構成を有してもよい。浄水器カートリッジは、炭素質材料を含むことにより、水中に含まれるクロロホルム等と陰イオン界面活性剤等とを効率よく除去することが可能である。そのため、例えば、浄水器カートリッジを、家庭用浄水器に設置することで、JIS S3201:2019における「家庭用浄水器試験法」に記載の多種類の有害物質、特に、クロロホルム等と陰イオン界面活性剤等を効率よく除去することが可能である。」
・・・
【0131】
〔浄水器〕
本実施形態の浄水器は、本実施形態の炭素質材料を含む。
・・・
【0135】
〔水浄化設備〕
本実施形態の水浄化設備は、本実施形態の炭素質材料を備える。水浄化設備は、炭素質材料を備えることにより、遊離残留塩素と陰イオン界面活性剤等との除去性能を高いレベルで両立することが可能となる。」
j 「【0163】
〔実施例1〕
(炭化工程)
温度600℃及び約2時間にて、フィリピン産のヤシ殻の炭化を行うことで炭化物を得た。
【0164】
(賦活処理)
得られた炭化物を、図1及び2に示すような、900℃に加熱した炉内に攪拌羽が搭載されているロータリーキルン中に、ロータリーキルンの容積1m3に対して約0.06倍にて投入した。その後、回転数3.0rpmでキルンを回転させながら、ガス(水蒸気40.0容量%、酸素5.0容量%、及び窒素55.0容量%)をキルン内に導入し、130分間賦活処理を行うことで賦活物を得た。
【0165】
なお、用いたロータリーキルンにおいて、攪拌羽は、管体の中心軸周りに60°毎に、6枚設置されていた。また、攪拌羽の高さは、管体の内半径に対して15%以上25%以下であり、攪拌羽の厚さは、管体の厚さに対して40%以上80%以下とした。
【0166】
(洗浄工程及び乾燥工程等)
得られた賦活物を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するために水で十分に洗浄及び乾燥させ、乾燥物を得た。その後、得られた乾燥物を粉砕し、JIS Z8801-1:2019で規定する標準篩用金網にて、140メッシュの篩(目開き寸法:106μm、東京スクリーン(株))上60メッシュの篩(目開き寸法:233μm、東京スクリーン(株))下とを用いて、粒度(体積基準の累積分布の50%粒子径、D50)が210μmになるように調整を行うことで、活性炭である粉砕状の炭素質材料1を得た。
【0167】
〔実施例2〕
賦活工程において、200分間賦活処理を行うこと以外は、実施例1と同様にして、活性炭である粉砕状の炭素質材料2を得た。
【0168】
〔実施例3〕
賦活工程において、250分間賦活処理を行うこと以外は、実施例1と同様にして、活性炭である粉砕状の炭素質材料3を得た。
【0169】
〔実施例4〕
賦活工程において、280分間賦活処理を行うこと以外は、実施例1と同様にして、活性炭である粉砕状の炭素質材料4を得た。」
k 「【表1】
[図:0001438316000001.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)aによれば、甲1には、「炭素質材料」であって、「-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が610m2/g以上1,400m2/g以下である」ものが記載されている。
したがって、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が610m2/g以上1,400m2/g以下である、炭素質材料。」
イ 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
(ア)甲2には、以下の記載がある。
a 「【請求項1】
よう素吸着量が1,300mg/g以上1,800mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が1.0g/L以上6.0g/L以下であり、-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が1,100m2/g以上1,700m2/g以下である、炭素質材料。
・・・
【請求項4】
-196℃におけるN2の吸着等温線からBJH法によって求められるメソ孔の細孔容積が0.06cm3/g以上0.30cm3/g以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
・・・
【請求項6】
タッピング法により測定される充填密度が0.30g/mL以上0.50g/mL以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
・・・
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素質材料を含む、吸着フィルター。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素質材料を含む、浄水器カートリッジ。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素質材料を含む、浄水器。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素質材料を備える、水浄化設備。」
b 「【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、炭素質材料表面で分解可能な遊離残留塩素と、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等との除去性能を高いレベルで両立することが可能な炭素質材料及びその製造方法、吸着フィルター、浄水器カートリッジ、浄水器、並びに水浄化設備を提供することを目的とする。」
c 「【0033】
よう素吸着量は、好ましくは1,310mg/g以上1,700mg/g以下であり、より好ましくは1,330mg/g以上1,650mg/g以下である。よう素吸着量が上記範囲にあると、遊離残留塩素に対する除去性能を維持しつつ、特に、陰イオン界面活性剤等に対してより高い吸着性能を有する炭素質材料が得られる傾向にある。」
d 「【0038】
リアクティブブラック5価は、好ましくは1.5g/L以上5.5g/L以下であり、より好ましくは1.7g/L以上4.5g/L以下であり、更に好ましくは2.0g/L以上4.0g/L以下である。リアクティブブラック5価が上記範囲にあると、遊離残留塩素に対する除去性能を維持しつつ、特に、陰イオン界面活性剤等に対してより高い吸着性能を有する炭素質材料が得られる傾向にある。」
e 「【0041】
炭素質材料において、窒素吸着等温線から炭素質材料1g当たりのQSDFT法により算出した細孔径1.0nm以下の細孔容積(A)(以下、単に「細孔径1.00nm以下の細孔容積」とも称する)と、-196℃におけるN2の吸着等温線からBJH法によって求められるメソ孔容積(B)(以下、単に「メソ孔の細孔容積」とも称する)との比(A/B、以下、単に「メソ孔比」とも称する)は、好ましくは1.0以上4.0以下であり、より好ましくは1.3以上3.5以下であり、更に好ましくは1.5以上3.0以下である。メソ孔比が上記範囲にあると、陰イオン界面活性剤等に対する吸着性能を維持しつつ、特に、遊離残留塩素に対してより高い除去性能を有する炭素質材料が得られる傾向にある。」
・・・
【0047】
炭素質材料において、-196℃におけるN2の吸着等温線からBJH法によって求められるメソ孔の細孔容積(以下、単に「メソ孔の細孔容積」とも称する)は、好ましくは0.06cm3/g以上0.30cm3/g以下であり、より好ましくは0.10cm3/g以上0.25cm3/g以下であり、更に好ましくは0.12cm3/g以上0.22cm3/g以下である。メソ孔の細孔容積が上記範囲にあると、遊離残留塩素に対する除去性能を維持しつつ、特に、陰イオン界面活性剤等に対してより高い吸着性能を有する炭素質材料が得られる傾向にある。
・・・
【0049】
炭素質材料において、-196℃におけるN2の吸着等温線からBJH法によって求められる全細孔容積(以下、単に「全細孔容積」とも称する)は、好ましくは0.25cm3/g以上1.00cm3/g以下であり、より好ましくは0.35cm3/g以上0.90cm3/g以下であり、更に好ましくは0.45cm3/g以上0.85cm3/g以下である。全細孔容積が上記範囲にあると、遊離残留塩素に対する除去性能を維持しつつ、特に、陰イオン界面活性剤等に対してより高い吸着性能を有する炭素質材料が得られる傾向にある。なお、全細孔容積は、細孔径が1.2nm以上97.4nm以下の範囲における累積細孔容積として算出する。」
f 「【0051】
炭素質材料において、タッピング法により測定される充填密度(以下、単に「充填密度」とも称する)は、好ましくは0.30g/mL以上0.50g/mL以下であり、より好ましくは0.31g/mL以上0.45g/mL以下であり、更に好ましくは0.33g/mL以上0.43g/mL以下である。・・・」
g 「【0060】
(炭化工程)
炭素質材料の製造方法は、原料を炭化して炭化物を得る炭化工程を含む。
原料としては、所望の炭素質材料を得ることができる材料であれば特に限定されない。原料としては、例えば、木材、木粉、ヤシ殻などの果実殻、パーム核、梅、及び桃等の種子、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜、石炭(泥炭、亜炭、褐炭、及び瀝青炭など)、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、及びコールタールなどの植物系原料又は化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、及びポリアミド樹脂などの各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、及びポリクロロプレンなどの合成ゴム;その他合成木材;合成パルプなどが挙げられる。これらの原料は、単独で用いることもでき、要求仕様に応じて、2種以上を任意の比率で混合して使用することもできる。
【0061】
原料は、天然物であることが好ましく、ヤシ殻であることがより好ましい。そのような原料を用いることで、よう素吸着量が1,300mg/g以上1,800mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が1.0g/L以上6.0g/L以下であり、-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が1,100m2/g以上1,700m2/g以下である炭素質材料を更に容易に製造できる傾向にある。
【0062】
原料は、必要に応じて、添加剤等を含んでもよい。また、添加物等は、必要に応じて、炭化物に加えてもよい。
・・・
【0065】
原料の炭化方法は、特に限定されず、例えば、無酸素の条件で300℃以上900℃以下、好ましくは400℃以上800℃以下まで加熱する方法が挙げられる。
【0066】
炭化時間は、原料、及び炭化を行う設備によって適宜設定できる。炭化時間としては、例えば、15分以上20時間以下であり、好ましくは30分以上10時間以下であり、より好ましくは60分以上5時間以下である。炭化処理は、例えば、ロータリーキルンなどの公知の製造設備を用いて行うことができる。また、炭化処理は、空気を排除して減圧下で行ってもよく、窒素雰囲気下で行ってもよい。
・・・
【0072】
(賦活工程)
炭素質材料の製造方法は、炭化物を賦活処理して賦活物を得る賦活工程を含む。
・・・
【0075】
賦活処理は、ロータリーキルンを用いて行うことが好ましい。ロータリーキルンを用いることにより、炭化物の賦活の進行に伴って質量が軽くなった賦活物は、炉外へと飛散せず、キルン炉内にて留まることが可能となる。そのため、炭化物をより十分に賦活することができるため、ミクロ孔とメソ孔とが十分発達し、それらの孔の割合が好適の範囲に制御された賦活物を得ることができる傾向にある。
・・・
【0078】
賦活処理の方法としては、例えば、水蒸気ガス、酸素ガス、及び二酸化炭素ガスなどの活性ガスを用いて炭化物をガス化させるガス賦活法、並びに塩化亜鉛及びリン酸などの薬剤を用いて炭化物を賦活する薬品賦活法が挙げられる。賦活処理の方法としては、ガス賦活法が好ましい。ガス賦活法として活性ガスを用いることで、より十分な反応速度を有し、生産効率をより低下させずに反応速度を制御できる傾向にある。そのため、ミクロ孔及びメソ孔が発達した炭素質材料をより容易に得ることができる傾向にある。その結果、遊離残留塩素及び陰イオン界面活性剤等に対してより高い処理性能を有する炭素質材料を好適に製造できる傾向にある。なお、活性ガスと共に窒素などの不活性ガスを併用してもよい。
・・・
【0080】
活性ガスとしては、水蒸気ガス及び酸素ガスからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましく、水蒸気ガスと酸素ガスの両方を用いることがより好ましい。
・・・
【0085】
賦活処理の時間は、原料、賦活温度、及び製造設備などの条件によって適宜設定できる。賦活時間としては、例えば、20分間以上48時間以下であり、好ましくは50分間以上36時間以下であり、より好ましくは100分間以上24時間以下であり、更に好ましく150分間以上600分間以下であり、更により好ましく240分間以上480分間以下である。賦活時間が上記範囲にあることにより、よう素吸着量が1,300mg/g以上1,800mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が1.0g/L以上6.0g/L以下であり、-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が1,100m2/g以上1,700m2/g以下である炭素質材料を更に容易に製造できる傾向にある。
【0086】
賦活処理の温度は、特に限定されないが、好ましくは800℃以上1,250℃以下であり、より好ましくは850℃以上1,150℃以下である。そのような温度で賦活処理することにより、よう素吸着量が1,300mg/g以上1,800mg/g以下であり、リアクティブブラック5価が1.0g/L以上6.0g/L以下であり、-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が1,100m2/g以上1,700m2/g以下である炭素質材料を更に容易に製造できる傾向にある。
・・・
【0090】
図1及び2では、攪拌羽の数は6枚であるが、原料である炭化物5の装入量に応じて、適宜調整できる。攪拌羽の数は、通常1枚以上20枚以下であり、好ましくは3枚以上12枚以下であり、より好ましくは5枚以上10枚以下である。また、攪拌羽は、管体1の中心軸周りに等間隔で設置することが好ましい。例えば、攪拌羽の数が6枚であれば、管体1の中心軸周りに60°毎に設置することになる。
【0091】
攪拌羽の高さ(管体1の壁から中心に向かう方向における高さ)は、管体1の大きさ及び炭化物5の装入量に応じて適宜設定できるが、攪拌羽が、管体1に装入される炭化物5により覆われず視認できる程度の高さであることが好ましい。具体的には、攪拌羽の高さは、攪拌羽が管体1の最底面に位置(図2の右図における攪拌羽Bの位置)する場合、その攪拌羽が、炭化物5により最底面から1/2以上2/3以下覆われる高さであることが好ましい。攪拌羽の高さは、管体1の内半径に対して、10%以上30%以下であることがより好ましい。
【0092】
攪拌羽の厚さ(管体1の回転方向3の厚さ)は、管体1の大きさ及び炭化物5の装入量に応じて適宜設定できるが、攪拌羽が、管体1に装入される炭化物5により破損しない程度の強度を有する厚さであることが好ましい。具体的には、攪拌羽の厚さは、管体1の壁厚さに対して、通常1%以上100%以下であり、20%以上90%以下であることが好ましく、30%以上95%以下であることがより好ましい。
・・・
【0107】
炭素質材料は、その粒度(体積基準の累積分布の50%粒子径、D50)が20μm以上500μm以下になるように粒度を調整することが好ましい。炭素質材料の粒度が上記範囲にあることにより、炭素質材料は、例えば、下記に例示するような用途に好適に用いることができる。」
h 「【0110】
・・・
〔吸着フィルター〕
本実施形態の吸着フィルターは、本実施形態の炭素質材料を含む。また、吸着フィルターは、浄水器用であることが好ましい。
・・・
【0121】
〔浄水器カートリッジ〕
本実施形態の浄水器カートリッジは、本実施形態の炭素質材料を含む。浄水器カートリッジは、本実施形態の炭素質材料を含む以外、公知の浄水器カートリッジと同様の構成を有してもよい。浄水器カートリッジは、炭素質材料を含むことにより、水中に含まれる遊離残留塩素と陰イオン界面活性剤等とを効率よく除去することが可能である。そのため、例えば、浄水器カートリッジを、家庭用浄水器に設置することで、JIS S3201:2019における「家庭用浄水器試験法」に記載の多種類の有害物質、特に、遊離残留塩素と陰イオン界面活性剤等を効率よく除去することが可能である。
・・・
【0129】
〔浄水器〕
本実施形態の浄水器は、本実施形態の炭素質材料を含む。
・・・
【0133】
〔水浄化設備〕
本実施形態の水浄化設備は、本実施形態の炭素質材料を備える。水浄化設備は、炭素質材料を備えることにより、遊離残留塩素と陰イオン界面活性剤等との除去性能を高いレベルで両立することが可能となる。」
i 「【0163】
〔実施例1〕
(炭化工程)
温度600℃及び約2時間にて、フィリピン産のヤシ殻の炭化を行うことで炭化物を得た。
【0164】
(賦活処理)
得られた炭化物を、図1及び2に示すような、900℃に加熱した炉内に攪拌羽が搭載されているロータリーキルン中に、ロータリーキルンの容積1m3に対して約0.06倍にて投入した。その後、回転数3.0rpmでキルンを回転させながら、ガス(水蒸気30.0容量%、酸素2.5容量%、及び窒素67.5容量%)をキルン内に導入し、260分間賦活処理を行うことで賦活物を得た。
【0165】
なお、用いたロータリーキルンにおいて、攪拌羽は、管体の中心軸周りに60°毎に、6枚設置されていた。また、攪拌羽の高さは、管体の内半径に対して15%以上25%以下であり、攪拌羽の厚さは、管体の厚さに対して40%以上80%以下とした。
【0166】
(洗浄工程及び乾燥工程等)
得られた賦活物を水で十分に洗浄して、乾燥させることで乾燥物を得た。その後、得られた乾燥物を粉砕し、JIS Z8801-1:2019で規定する標準篩用金網にて、140メッシュの篩(目開き寸法:106μm、東京スクリーン(株))上60メッシュの篩(目開き寸法:233μm、東京スクリーン(株))下を用いて、粒度(体積基準の累積分布の50%粒子径、D50)が210μmになるように調整を行うことで、活性炭である粉砕状の炭素質材料1を得た。
【0167】
〔実施例2〕
賦活工程において、390分間賦活処理を行うこと以外は、実施例1と同様にして、活性炭である粉砕状の炭素質材料2を得た。
【0168】
〔実施例3〕
賦活工程において、420分間賦活処理を行うこと以外は、実施例1と同様にして、活性炭である粉砕状の炭素質材料3を得た。」
j 「【表1】
[図:0001438316000002.jpg]
」
(イ)甲2に記載された発明
上記(ア)aによれば、甲2には、「炭素質材料」であって、「-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が1,100m2/g以上1,700m2/g以下であ」るものが記載されている。
したがって、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)。
「-196℃におけるN2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が1,100m2/g以上1,700m2/g以下である、炭素質材料。」
ウ 甲3の記載事項
(ア)「
[図:0001438316000003.jpg]
」(p.4)
(イ)「
[図:0001438316000004.jpg]
」(p.13)
(ウ)「
[図:0001438316000005.jpg]
」(p.42)
(エ)「
[図:0001438316000006.jpg]
」(p.47)
エ 甲4の記載事項
「
[図:0001438316000007.jpg]
」
(当審訳:
「水中のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)およびペルフルオロオクタン酸(PFOA)の処理技術:批判的総説と野外試験に関する議論
・・・
ハイライト
・・・
活性炭は、PFOS /PFOAの除去に最も広く用いられている吸着材である。
・・・
要約
・・・
文献に挙げられた各種浄化技術のうち、活性炭による除去が、成功した野外試験に関する数件の報告を含む、最も広く使われている技術であると結論される。」(p.168)
オ 甲5の記載事項
「
[図:0001438316000008.jpg]
[図:0001438316000009.jpg]
」(B-31~B-32)
カ 甲6の記載事項
「
[図:0001438316000010.jpg]
」(「アニオン性界面活性剤、陰イオン系界面活性剤」のページ)
キ 甲7の記載事項
「
[図:0001438316000011.jpg]
」(p.2)
ク 甲8の記載事項
(ア)「
[図:0001438316000012.jpg]
」(p.25)
(イ)「
[図:0001438316000013.jpg]
」(p.27)
(ウ)「
[図:0001438316000014.jpg]
」(p.28)
ケ 甲9の記載事項
(ア)「【0026】
本開示の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化するが、ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本開示の固形化された多孔質炭素材料にあっては、固形化された植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104-1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。炭素化温度に至るまでの昇温速度として、限定するものではないが、係る雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。また、炭素化時間の上限として、10時間、好ましくは7時間、より好ましくは5時間を挙げることができるが、これに限定するものではない。炭素化時間の下限は、植物由来の材料が確実に炭素化される時間とすればよい。最終的に得られた多孔質炭素材料に殺菌処理を施してもよい。炭素化のために使用する炉の形式、構成、構造に制限はなく、連続炉とすることもできるし、回分炉(バッチ炉)とすることもできる。」
(イ)「【0062】
実施例1N、実施例1P、実施例1Q、実施例1R、実施例1Sの製造にあっても、植物由来の材料として、籾殻を使用した。そして、植物由来の材料である籾殻を、ペレットマシーンを使用して固形化し、具体的には、平均的な直径が6mm、平均的な長さが30mmの略円筒形のペレット状の固形化された植物由来の材料を得た。尚、固形化する際にはバインダーを使用していない。固形化された植物由来の材料の嵩密度は、0.2グラム/cm3乃至1.4グラム/cm3、具体的には、0.67グラム/cm3であった。次いで、固形化した状態で、400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した。具体的には、ロータリーキルンを用いて、窒素ガス雰囲気下、600゜C、0.5時間の条件で炭素化した。得られた、固形化した状態で炭素化された材料(多孔質炭素材料前駆体)の嵩密度は、0.2グラム/cm3乃至0.8グラム/cm3、具体的には、0.55グラム/cm3であった。また、固形化した状態で炭素化された材料の強熱残分は40%であり、強熱残分嵩密度は、0.1グラム/cm3以上、具体的には、0.55グラム/cm3×0.40=0.22グラム/cm3であった。」
(2)特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)についての判断
ア 甲1を主引例とした場合について
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「炭素質材料」は本件発明1の「炭素質材料」に相当する。
b したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「多孔質炭素系材料」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「-196℃におけるN2吸着等温線からCI法によって求められる細孔容積において、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径2~4nmの細孔容積(A)の割合((A)/(B))が、0.085以上0.410以下であり、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径9~25nmの細孔容積(C)の割合((C)/(B))が、0.04以上0.45以下である」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点2>
本件発明1は、炭素質材料を含む「PFAS除去材」であるのに対し、甲1発明は、そのような用途に用いることについて特定がない点。
c 相違点1について検討すると、甲1発明の炭素材料が上記相違点1のような細孔容積比を有していることについて、甲1には、記載も示唆もない。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点である。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。
d 次に、相違点1の容易想到性について検討する。本件発明1は、炭素質材料において、「細孔容積比(A)/(B)」及び「細孔容積比(C)/(B)」が特定範囲であることで、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備えることができるものである(本件特許明細書【0042】~【0053】、特に【0051】)。一方で、上記(1)ア(ア)bのように、甲1発明の課題は、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等から、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等までの幅広い有害物質を同等の性能で除去することが可能な炭素質材料等を提供することである。そして、甲1には、(1)ア(ア)c、eのように、「細孔径0.70nm以下の細孔容積」を特定範囲とすることで、炭素質材料が、クロロホルム等に対して高い除去性能を発揮すること、「メソ孔比」を特定範囲とすることで、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等から、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等までの幅広い有害物質を同等の性能でより除去することが可能となること、「メソ孔の細孔容積」が特定範囲であることで、クロロホルム等の除去性能と、陰イオン界面活性剤等の除去性能とをより高い水準で実現できることが記載されているものの、甲1発明において、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点1のように細孔容積比を調整することは当業者が容易になし得ることとはいえない。
また、甲3~9を参照しても、優れたPFAS吸着性能と優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点1のように細孔容積比を調整することについて、記載も示唆もされていない。なお、甲3、甲6は、本件特許の出願前に公知であったとはいえないものであるが、当該甲号証に上記の事項が記載も示唆もされていないことに変わりはない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明することができたものではない。
(イ)本件発明2について
a 本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「炭素質材料」は本件発明2の「炭素質材料」に相当する。また、甲1発明の「-196℃におけるN2吸着等温線からBET法によって求められる比表面積」は「610m2/g以上1,400m2/g以下」であり、本件発明2の「900m2/g以上1760m2/g以下」と900m2/g以上1400m2/g以下の範囲において重複している。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、「-196℃におけるN2吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が900m2/g以上1400m2/g以下である、多孔質炭素系材料」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明2は「細孔径2~4nmの細孔容積(A)が、0.030mL/g以上0.100mL/g以下であり、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)が、0.230mL/g以上0.350mL/g以下であり、細孔径9~25nmの細孔容積(C)が、0.011mL/g以上0.140mL/g以下である」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点4>
本件発明2は、炭素質材料を含む「PFAS除去材」であるのに対し、甲1発明は、そのような用途に用いることについて特定がない点。
b 相違点3について検討すると、甲1発明の炭素材料が上記相違点3のような細孔容積を有していることについて、甲1には、記載も示唆もない。
そうすると、相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明ではない。
c 次に、相違点3の容易想到性について検討する。
本件発明2は、炭素質材料において、比表面積と「細孔容積(A)~(C)」が特定範囲であることで、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備えることができるものであり(本件特許明細書【0021】~【0041】、特に【0040】)、上記(ア)dで検討したのと同様、甲1発明において、相違点3のように細孔容積を調整することは当業者が容易になし得ることとはいえない。
また、甲3~9を参照しても、甲3、甲6が本件特許の出願前に公知か否かに関わらず、優れたPFAS吸着性能と優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点3のように細孔容積を調整することについて、記載も示唆もされていない。
d したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明から当業者が容易に発明することができたものではない。
(ウ)本件発明3~10について
本件発明3~10は、いずれも、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、前記(ア)及び(イ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
甲1を主引例とした場合の申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
(a)甲1には、本件発明1の細孔容積比に関する発明特定事項は直接記載されてはいないが、甲1に記載された発明は、本件の発明の詳細な説明で、発明を実施し得る条件として記載された条件に従って作製された炭素質材料であることから、本件発明1の細孔容積に関する発明特定事項も充足する蓋然性が高い。また、甲1実施例の炭素質材料は、よう素吸着量、リアクティブブラック5価の含有量、BET比表面積、充填密度などの対比可能なパラメータがいずれも本件発明の数値範囲に入ることから、本件発明1に記載された炭素質材料と実質的に同じ物と認められる。本件発明2の細孔容積についても同様である。(異議申立書27~28頁、31頁)
(b)本件発明の「PFAS除去材」は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたものではないから、いわゆる用途発明に該当しない。(異議申立書28~31頁)
(c)甲5が示すように、浄水器におけるPFAS除去性能の試験方法は、本件の出願日以前より規格化されており、甲1の記載する範囲で製造条件を変えながら、PFOA、PFOSの除去性能試験を行い、最適な条件を特定した場合、本件発明の細孔径分布を有する炭素質材料が得られる蓋然性が高い。本件実施例では炭化を所定の昇温速度で行っている点は、甲1の記載と異なるが、炭化時に所定の昇温速度で炭化温度まで昇温することは、甲9に見られるように、周知技術である。(異議申立書36頁)
b 申立人の主張についての判断
(a)上記a(a)の主張について検討する。
まず、本件特許明細書【0090】~【0155】に記載された炭素質材料の製造方法について、当該記載は、「炭素質材料を製造する方法は、特に制限されない」(【0090】)とされる製造方法のうちの、細孔容積等を調整するための好ましい条件が広く記載されたものであり、当業者は、当該記載の中から種々の条件を調整することによって特定の細孔容積を有する炭素質材料を得られると認識するから、仮に甲1発明の製造条件が、本件発明を実施し得る条件として本件特許明細書に広く記載された条件に大まかに当てはまるとしても、具体的に製造された炭素質材料が本件発明1、2における細孔容積の規定を必ずしも満足するとは限らないというべきである。
次に、炭素質材料の具体的な製造条件について検討する。上記(1)ア(ア)jのとおり、甲1には、炭素質材料の具体的な製造条件が記載されている。
一方で、本件特許明細書には、例えば、実施例1の製造方法として、以下の記載がある(【0194】~【0202】)。
「【0194】
1.炭素質材料
[実施例1]
(準備工程)
炭素原料としてのヤシ殻を準備した。
【0195】
(炭化工程)
撹拌羽を有するロータリーキルン(図1および図2参照)を使用して、上記の原料成分を窒素雰囲気下で熱処理することにより、炭化物を得た。
【0196】
・ロータリーキルンの設計
撹拌羽の枚数:6枚(管体の周方向60°毎に1枚)
撹拌羽の角度:15°以上45°以下
撹拌羽の長さ:管体の内半径に対して15%以上25%以下
撹拌羽の厚さ:管体の厚さに対して40%以上80%以下
【0197】
・熱処理条件
初期温度:150℃
昇温速度:5℃/min
熱処理時間:90分
回転数:3.0rpm
【0198】
(賦活工程)
上記ロータリーキルンに炭化物を投入し、上記ロータリーキルンを回転させるとともに、水蒸気をキルン内に導入することにより、炭化物を賦活処理し、賦活物を得た。炭化物の量は、ロータリーキルンの容積に対して約0.06倍であった。賦活条件を下記する。
【0199】
・賦活条件
賦活温度:900℃
賦活時間:390分
回転数:3.0rpm
【0200】
(洗浄工程)
賦活物を希塩酸で洗浄し、次いで、水で洗浄することにより、塩酸を除去した。
【0201】
(乾燥工程)
洗浄された賦活物を乾燥させ、乾燥物を得た。その後、乾燥物を粉砕し、炭素質材料を得た。」
両者を比較すると、炭素原料であるヤシ殻に対し、炭化工程、賦活工程、洗浄工程、乾燥工程を行う点で両者は共通する部分がある。しかしながら、炭化工程について、甲1には「温度600℃及び約2時間にて、フィリピン産のヤシ殻の炭化を行うことで炭化物を得た。」(【0163】、上記(1)ア(ア)j参照。)と記載されている。一方、上記のように、本件特許明細書【0195】には「撹拌羽を有するロータリーキルン(図1および図2参照)を使用して、上記の原料成分を窒素雰囲気下で熱処理することにより、炭化物を得た。」と記載され、熱処理条件については「・熱処理条件
初期温度:150℃
昇温速度:5℃/min
熱処理時間:90分
回転数:3.0rpm」(【0197】)と記載されている。
すなわち、本件発明では、炭化工程において、撹拌羽を有するロータリーキルンを用い、初期温度150℃、昇温速度5℃/min、熱処理時間90分の条件で熱処理をしているのに対し、甲1では、炭化工程において撹拌羽を有するロータリーキルンを使用しているかどうかが不明であり、また、熱処理条件は600℃、約2時間であるが昇温工程を有しているかどうかが不明であるから、両者は少なくともこれらの点で条件が異なっている。そして、細孔を有する「炭素質材料」の製造においては、炭化工程で使用する装置や、昇温速度も含めた温度条件等によって細孔径、細孔容積等に影響が起こり得ることは出願時の技術常識といえるから、甲1で具体的に製造された炭素質材料が、本件発明1、2における細孔容積の規定を満足することが合理的に推認できるとはいえない。
また、よう素吸着量、リアクティブブラック5価の含有量、BET比表面積、充填密度などの対比可能なパラメータがいずれも本件発明の数値範囲に入るとしても、例えばそれらの特性と特定範囲の細孔径の細孔容積との間に直接的な相関関係がある等の技術常識が知られているなど、甲1発明の細孔容積についても本件発明1、2に特定された範囲であると合理的に推認できるだけの根拠がない。
(b)上記a(b)の主張について検討する。
申立人は、本件発明1、2と甲1発明の「炭素質材料」が一致することを前提に、両者の用途が異なる旨を主張しているものの、(a)で検討したとおり、両者は「炭素質材料」という物自体が実質的に相違しているから、申立人の主張は、その前提において誤っている。
(c)上記a(c)について検討する。
上記(ア)dで検討したとおり、甲1発明の課題は、分子サイズの比較的小さいクロロホルム等から、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等までの幅広い有害物質を同等の性能で除去することが可能な炭素質材料等を提供することであるから、特にPFASの除去性能に着目して甲1の記載する範囲で製造条件を変えることは、甲1に記載も示唆もないし、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点1又は3のように細孔容積を調整することは当業者が容易になし得ることとはいえない。
また、甲9から、炭化を所定の昇温温度で行うことが本願出願時に周知技術であったとしても、昇温温度を調整することによって、本件発明のような特定の細孔容積の炭素質材料が得られることが周知であったとはいえず、甲9の記載事項に基づいて、相違点1又は3に係る本件発明1又は2の構成とすることが容易になし得るとはいえない。
(d)以上から、申立人の主張(a)~(c)は採用できない。
(オ)小括
したがって、本件発明1~10は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第3の1(1)の特許異議申立理由は理由がない。
イ 甲2を主引例とした場合について
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「炭素質材料」は本件発明2の「炭素質材料」に相当する。
b したがって、本件発明1と甲2発明とは、
「多孔質炭素系材料」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
本件発明1は「-196℃におけるN2吸着等温線からCI法によって求められる細孔容積において、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径2~4nmの細孔容積(A)の割合((A)/(B))が、0.085以上0.410以下であり、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径9~25nmの細孔容積(C)の割合((C)/(B))が、0.04以上0.45以下である」のに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2’>
本件発明1は、炭素質材料を含む「PFAS除去材」であるのに対し、甲2発明は、そのような用途に用いることについて特定がない点。
c 相違点1’について検討すると、甲2発明の炭素材料が上記相違点1’のような細孔容積比を有していることについて、甲2には、記載も示唆もない。
そうすると、相違点1’は、実質的な相違点である。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではない。
d 次に、相違点1’の容易想到性について検討する。本件発明1は、炭素質材料において、「細孔容積比(A)/(B)」及び「細孔容積比(C)/(B)」が特定範囲であることで、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備えることができるものである(本件特許明細書【0042】~【0053】、特に【0051】)。
一方で、上記(1)イ(ア)bのように、甲2発明の課題は、炭素質材料表面で分解可能な遊離残留塩素と、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等との除去性能を高いレベルで両立することが可能な炭素質材料等を提供することである。そして、甲2には、上記(1)イ(ア)eのように、「メソ孔比」が特定範囲であると、陰イオン界面活性剤等に対する吸着性能を維持しつつ、特に、遊離残留塩素に対してより高い除去性能を有する炭素質材料が得られること、「メソ孔の細孔容積」が特定範囲であることで、遊離残留塩素に対する除去性能を維持しつつ、特に、陰イオン界面活性剤等に対してより高い吸着性能を有する炭素質材料が得られること、「全細孔容積」が特定範囲にあると、遊離残留塩素に対する除去性能を維持しつつ、特に、陰イオン界面活性剤等に対してより高い吸着性能を有する炭素質材料が得られることが記載されているものの、甲2発明において、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点1’のように細孔容積比を調整することは当業者が容易になし得ることとはいえない。
また、甲3~9を参照しても、甲3、甲6が本件特許の出願前に公知か否かに関わらず、優れたPFAS吸着性能と優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点1’のように細孔容積比を調整することについて、記載も示唆もされていない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明から当業者が容易に発明することができたものではない。
(イ)本件発明2について
a 本件発明2と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「炭素質材料」は本件発明2の「炭素質材料」に相当する。また、甲2発明の「-196℃におけるN2吸着等温線からBET法によって求められる比表面積」は「1,100m2/g以上1,700m2/g以下」であり、本件発明2の「900m2/g以上1760m2/g以下」に含まれる。
そうすると、本件発明2と甲2発明とは、「-196℃におけるN2吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が、900m2/g以上1760m2/g以下である、多孔質炭素系材料」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3’>
本件発明2は「細孔径2~4nmの細孔容積(A)が、0.030mL/g以上0.100mL/g以下であり、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)が、0.230mL/g以上0.350mL/g以下であり、細孔径9~25nmの細孔容積(C)が、0.011mL/g以上0.140mL/g以下である」のに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点4’>
本件発明2は、炭素質材料を含む「PFAS除去材」であるのに対し、甲2発明は、そのような用途に用いることについて特定がない点。
b 相違点3’について検討すると、甲2発明の炭素材料が上記相違点3’のような細孔容積を有していることについて、甲2には、記載も示唆もない。
そうすると、相違点3’は、実質的な相違点である。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明ではない。
c 次に、相違点3’の容易想到性について検討する。
本件発明2は、炭素質材料において、比表面積と「細孔容積(A)~(C)」が特定範囲であることで、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備えることができるものであり(本件特許明細書【0021】~【0041】、特に【0040】)、上記(ア)dで検討したのと同様、甲2発明において、相違点3’のように細孔容積を調整することは当業者が容易になし得ることとはいえない。
また、甲3~9を参照しても、甲3、甲6が本件特許の出願前に公知か否かに関わらず、優れたPFAS吸着性能と優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点3’のように細孔容積を調整することについて、記載も示唆もされていない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明から当業者が容易に発明することができたものではない。
(ウ)本件発明3~10について
本件発明3~10は、いずれも、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、前記(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、甲2発明ではないし、甲2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
甲2を主引例とした場合の申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
(a)甲2には、本件発明1の細孔容積比に関する発明特定事項は直接記載されてはいないが、甲2に記載された発明は、本件の発明の詳細な説明で、発明を実施し得る条件として記載された条件に従って作製された炭素質材料であり、かつ、よう素吸着量、リアクティブブラック5価の含有量、BET比表面積、充填密度などの対比可能なパラメータがいずれも本件発明の数値範囲に入ることから、本件発明1の細孔容積に関する発明特定事項も充足する蓋然性が高い。また、本件発明2の細孔容積についても同様である。(異議申立書32~35頁)
(b)本件発明の「PFAS除去材」は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたものではないから、いわゆる用途発明に該当しない。(異議申立書34~35頁)
(c)甲5が示すように、浄水器におけるPFAS除去性能の試験方法は、本件の出願日以前より規格化されており、甲2の記載する範囲で製造条件を変えながら、PFOA、PFOSの除去性能試験を行い、最適な条件を特定した場合、本件発明の細孔径分布を有する炭素質材料が得られる蓋然性が高い。本件実施例では炭化を所定の昇温速度で行っている点は、甲2の記載と異なるが、炭化時に所定の昇温速度で炭化温度まで昇温することは、甲9に見られるように、周知技術である。(異議申立書32~37頁)。
b 申立人の主張についての判断
(a)上記a(a)の主張について検討する。
上記ア(エ)b(a)での検討と同様、甲2発明の製造条件が、本件発明を実施し得る条件として本件特許明細書に広く記載された条件に当てはまるとしても、製造された炭素質材料が本件発明1、2における細孔容積の規定を必ずしも満足するとは限らない。
また、具体的な製造条件について検討すると、上記(1)イ(ア)iのとおり、甲2には、炭素質材料の具体的な製造条件が記載されている。また、上記ア(エ)b(a)のとおり、本件特許明細書には、例えば、実施例1の製造方法として、具体的な製造条件が記載されている(【0194】~【0202】)。
そして、両者を比較すると、炭素原料であるヤシ殻に対し、炭化工程、賦活工程、洗浄工程、乾燥工程を行う点で両者は共通する部分がある。しかしながら、甲2には、炭化工程について「温度600℃及び約2時間にて、フィリピン産のヤシ殻の炭化を行うことで炭化物を得た。」(【0163】)と記載されている。一方、上記ア(エ)b(a)のように、本件特許明細書【0195】には「撹拌羽を有するロータリーキルン(図1および図2参照)を使用して、上記の原料成分を窒素雰囲気下で熱処理することにより、炭化物を得た。」と記載され、熱処理条件については「・熱処理条件
初期温度:150℃
昇温速度:5℃/min
熱処理時間:90分
回転数:3.0rpm」(【0197】)と記載されている。
すなわち、本件明細書に記載された具体的条件と甲2に記載された具体的条件とは、炭化工程の装置や熱処理条件等において異なっており、上記ア(エ)b(a)での検討と同様、甲2で具体的に製造された炭素質材料が、本件発明1、2における細孔容積の規定を満足することが合理的に推認できるとはいえない。
(b)上記a(b)の主張について検討する。
上記ア(エ)b(b)での検討と同様、本件発明1,2と甲2発明の両者は「炭素質材料」という物自体が実質的に相違しているから、申立人の主張は、その前提において誤っている。
(c)上記a(c)の主張について検討する。
上記ア(エ)b(c)での検討と同様に、(1)イ(ア)bにも記載したとおり、甲2発明の課題は、炭素質材料表面で分解可能な遊離残留塩素と、分子サイズの比較的大きい陰イオン界面活性剤等との除去性能を高いレベルで両立することが可能な炭素質材料等を提供することであるから、特にPFASの除去性能に着目して甲2の記載する範囲で製造条件を変えることは、甲2に記載も示唆もないし、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備える炭素質材料を得るために、相違点1’又は3’のように細孔容積を調整することは当業者が容易になし得ることとはいえない。
また、上記ア(エ)b(c)での検討と同様、甲9から、炭化を所定の昇温温度で行うことが本願出願時に周知技術であったとしても、甲9の記載事項に基づいて、相違点1’又は3’に係る本件発明1又は2の構成とすることが容易になし得るとはいえない。。
(d)以上から、申立人の主張(a)~(c)は採用できない。
(オ)小括
したがって、本件発明1~10は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第3の1(2)の特許異議申立理由は理由がない。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するから、以下、この観点に立って検討する。
(2)実施可能要件の判断
ア 本件発明に係る「炭素質材料」の製造方法について、本件特許明細書の記載をみると、段落【0090】~【0155】には、本件発明の「炭素質材料」を製造する方法は特に制限されず、比表面積および細孔容積を調整する観点、および、細孔容積比を調整する観点から、好ましくは、賦活法が挙げられること、賦活法により上記の炭素質材料を製造する方法について、例えば、炭化工程において、比表面積および細孔容積を調整する観点、および、細孔容積比を調整する観点から、炭化方法として、好ましくは、熱分解炭化法が挙げられること、この工程では、ロータリーキルンを使用することにより、原料化合物を流動させるとともに熱処理できるため、炭化物の均一性を向上させることができること、そのため、炭素質材料の比表面積、細孔容積および細孔容積比を、効率よく調整でき、その結果、優れた吸着性能を得ることができること、熱処理温度は、例えば、一定であってもよく、また、例えば、熱処理中に、連続的または段階的に昇温されてもよいこと、比表面積および細孔容積を調整する観点、および、細孔容積比を調整する観点から、連続的または段階的に昇温されること、熱処理温度が、熱処理中に昇温されることにより、とりわけ良好に、炭素質材料の比表面積、細孔容積および細孔容積比を調整することができること、より具体的には、原料化合物(炭化可能な未炭化物)が熱処理されると、原料化合物に含まれる有機物が気化し、空隙が形成されること、このとき、熱処理温度が段階的に昇温されると、気化が徐々に進行するため、形成される空隙が収縮し、密度が増加すること、また、熱処理工程では、有機物の一部が気化せずに残留し、後述する賦活工程で気化し、空隙を生じさせること、そのため、賦活が促進され、メソ孔の発達を促進できること、とりわけ、熱処理開始温度が特定の温度以下であれば、有機物が一気に気化することを抑制できるため、より効率よく空隙を収縮でき、メソ孔の発達を促進できること、原料成分を熱処理および賦活処理し、必要により、洗浄および/または乾燥させることにより、炭素質材料が製造されること、等が記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0193】~【0336】には、実施例として、上記の観点において具体的な製造条件を設定して炭素質材料を製造し、実際に本件発明の特定事項を満足する炭素質材料を得た具体例が複数記載され、それらの炭素質材料が、本件発明の特定事項を満足しないものと比較して優れたPFAS吸着特性を有することを確認したことも記載されている。
イ 上記アによれば、当業者は、本件発明の「炭素質材料」を、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、製造し、使用することができるといえる。
ウ そして、このことを上記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
(3)申立人の主張について
申立人は、概略、甲1又は甲2の記載事項と周知技術に基づいて、本件発明1~10を容易に実施することができないとすれば、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1~10を当業者が実施し得るように記載していないことになると主張している(異議申立書37頁)。
しかしながら、進歩性と実施可能要件はそれぞれの判断手法において判断されるべきものである。そして、上記(2)のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。なお、進歩性の判断については、上記1(2)で検討したとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するので、上記第3の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載された要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2)本件発明の課題
本件特許明細書の段落【0002】~【0006】の記載によれば、本件発明は、優れた耐久性およびPFAS除去性能を有する炭素質材料、PFAS除去材等を提供することを課題としたものといえる。
(3)発明の詳細な説明に記載された課題解決手段
本件特許明細書の段落【0021】~【0041】によれば、炭素質材料について、第1実施形態として、BET比表面積は、吸着面積を確保する観点から、900m2/g以上であり、また、炭素質材料の細孔のサイズを制御する観点から、1760m2/g以下であること、細孔径2~4nmの細孔容積(A)は、PFAS(とりわけ、PFOA)吸着性能と、炭素質材料の耐久性との両立を図る観点から、0.030mL/g以上0.100mL/g以下に調整されること、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)は、PFAS(とりわけ、PFOAおよびPFOS)吸着性能と、炭素質材料の耐久性との両立を図る観点から、0.230mL/g以上0.350mL/g以下に調整されること、細孔径9~25nmの細孔容積(C)は、PFAS(とりわけ、PFOS)吸着性能と、炭素質材料の耐久性との両立を図る観点から、0.011mL/g以上0.140mL/g以下に調整されること、炭素質材料が、上記の比表面積と、上記の細孔容積(A)~(C)とを有していれば、炭素質材料は、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備えることができること、が記載されているといえる。
また、本件特許明細書の段落【0042】~【0053】によれば、炭素質材料の第2実施形態として、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径2~4nmの細孔容積(A)の割合((A)/(B))は、とりわけ、PFOA吸着性能と、炭素質材料の耐久性との両立を図る観点から、0.085以上0.410以下に調整されること、細孔径1.2nm以下の細孔容積(B)に対する、細孔径9~25nmの細孔容積(C)の割合(細孔容積比(C)/(B))は、とりわけ、PFOS吸着性能と、炭素質材料の耐久性との両立を図る観点から、0.04以上0.45以下に調整されること、上記の炭素質材料は、優れた耐久性および優れたPFAS除去性能を有すること、炭素質材料において、細孔容積比(A)/(B)及び細孔容積比(C)/(B)が、上記範囲であれば、炭素質材料は、優れたPFAS吸着性能と、優れた耐久性とを兼ね備えることができることが読み取れる。
また、段落【0193】~【0336】には、実施例として、上記第1実施形態のBET比表面積及び細孔容積、又は、上記第2実施形態の細孔容積比を満たす炭素質材料を製造したところ、PFAS(PFOS、PFOA)の吸着量及びMS硬度に優れていたことが読み取れる。
これらのことからみれば、上記細孔容積比((A)/(B)及び(C)/(B))(以下「特徴1」という)と、上記比表面積及び細孔容積(A)~(C)(以下「特徴2」という)のいずれかを満足することが、上記(2)に記載した本件発明の課題を解決するために肝要であることが理解できる。
(4)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討
本件特許請求の範囲の請求項1では、炭素質材料について細孔容積比「(A)/(B)」が0.085以上0.410以下」、細孔容積比「(C)/(B)」が「0.04以上0.45以下」であるという、上記「特徴1」が特定されている。また、本件特許請求の範囲の請求項2では、炭素質材料についてBET比表面積が「900m2/g以上1760m2/g以下」、細孔容積(A)が「0.030mL/g以上0.100mL/g以下」、細孔容積(B)が「0.230mL/g以上0.350mL/g以下」、細孔容積(C)が「0.011mL/g以上0.140mL/g以下」であるという、上記「特徴2」が特定されている。
すなわち、本件発明1及び2は、上記(3)で理解した、発明の詳細な説明に記載された本件発明の課題を解決できる態様が特定されている。
したがって、本件発明1及び2は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、前記(1)の判断手法に照らせば、本件特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は明細書のサポート要件に適合する。
本件発明1又は2を引用する本件発明3~10についても事情は同じである。
(5)申立人の主張について
ア 申立人は、概略、甲3の記載にみるように、PFASには10000種以上の化学物質が含まれ、甲8が指摘するように、PFASの除去効率はPFASの種類によって大きく変化するところ、本件のPFAS除去材が優れたPFAS除去性能を有するとしても、その性能は、PFOAとPFOSのみについてしか確認されていないので、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されたものでないと主張している(異議申立書37頁)。
イ 上記主張について検討すると、PFASはペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称であって(上記1(1)ウ(ア))、共通の部分構造をもち、その吸着材に対する吸着性等はある程度類似すると推測されるから、本件特許明細書の実施例で使用されたPFOS、PFOA以外に、本件発明の炭素質材料を様々な「PFAS」の除去材として使用した場合にも、程度の差はあっても一定の除去性能を発揮できることを当業者が理解できるといえる。
よって、上記主張は採用できない。
(6)小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するので、前記第3の3の特許異議の申立て理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~10に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700279