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特許異議申立

2021-700279

シリカ粒子とその製造方法、シリカゾル、研磨組成物、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法

審判番号
2021-700279
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-533046外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6756422
請求日
2021年03月16日
審決日
2022年01月18日
公報発行日
2022年02月25日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (C01B) / P1651.121-Y (C01B) / P1651.537-Y (C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号
データ出所
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事件の表示

特許第6756422号発明「シリカ粒子とその製造方法、シリカゾル、研磨組成物、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6756422号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6756422号の請求項1~15に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)2月19日(優先権主張 平成31年2月21日 日本国)を国際出願日とする出願であり、令和2年8月31日にその特許権の設定登録がされ、同年9月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和3年3月16日に特許異議申立人寺内敦子(以下、「異議申立人」という。)により、全請求項(請求項1~15)に係る特許について、特許異議の申立てがなされ、同年6月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月6日に特許権者より意見書が提出され、同年9月21日付けで異議申立人に対し審尋がされ、その指定期間内である同年10月22日に異議申立人より回答書が提出されたものである。

第2 本件発明

請求項1~15に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、下記式(1)を満たす、シリカ粒子
y≧4.2 (1)
【請求項2】
続きを表示(全34行)
シアーズ法により測定した表面シラノール基密度をx個/nm2としたとき、前記d値と前記表面シラノール基密度が下記式(2)を満たす、請求項1に記載のシリカ粒子。
y≧-0.2x+5.4 (2)
【請求項3】
前記d値とシアーズ法により測定した表面シラノール基密度をx個/nm2としたときの表面シラノール基密度が、更に、下記式(3)及び下記式(4)を満たす、請求項1又は2に記載のシリカ粒子。
y≦6.0 (3)
y≦-0.2x+7.0 (4)
【請求項4】
BET法により測定した平均1次粒子径が、10nm~60nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項5】
DLS法により測定した平均2次粒子径が、20nm~100nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項6】
金属不純物含有率が、5ppm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項7】
テトラアルコキシシラン縮合物を主成分とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリカ粒子。
【請求項8】
前記テトラアルコキシシラン縮合物が、テトラメトキシシラン縮合物を含む、請求項7に記載のシリカ粒子。
【請求項9】
シリカ粒子を加圧加熱処理して、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカ粒子を得る、シリカ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカ粒子を含む、シリカゾル。
【請求項11】
シリカ粒子の含有率が、シリカゾル全量中、3質量%~50質量%である、請求項10に記載のシリカゾル。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のシリカゾルを含む、研磨組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の研磨組成物を用いて研磨する、研磨方法。
【請求項14】
請求項12に記載の研磨組成物を用いて研磨する工程を含む、半導体ウェハの製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載の研磨組成物を用いて研磨する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。」

第3 令和3年6月1日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要

1 令和3年6月1日付けで通知した取消理由の概要

・特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「取消理由」という。)

本件発明1~15は、下記2(1)に記載の甲第1~3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要

(1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」という。)

本件発明1~15は、下記甲第1~3号証に記載された発明及び周知事項(甲第4号証にみられる周知の技術的事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

記

甲第1号証:特開2010-28082号公報
甲第2号証:特開2010-34498号公報
甲第3号証:国際公開2009/104465号
甲第4号証:杉田真一、「シリカ技術の最新展望 高純度コロイダルシリカの技術と特性」、JETI 第61巻、3号、P58~61、2013年

(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」という。)

ア d値について

本件発明では、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により得られるシリカゾル中のシリカ粒子では、縮合度が低い場合、員環サイズが小さく、機械的強度に劣り、かつ、シラノール基が多く残存し、保存安定性が悪化することを課題にあげ、研磨特性、保存安定性に優れたシリカ粒子を得ることを目的としている。

そして、本件発明1では、広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、「y≧4.2 (1)」を満たすことを特徴としている。

ここで、一般に非晶質(アモルファス)シリカの単位骨格はSiO4四面体構造からなり、頂点部分に酸素、四面体中心にシリコンが位置しており、この四面体が頂点を共有する形でN個つながってリングを形成した場合、これをN員環と呼ぶ(下記甲第5号証:918頁の図1参照)。

このようなアモルファスシリカの「d値」は、本件明細書の段落【0013】にも記載の通り、SiO4構造の員環サイズ径を意味しており、下記甲第6号証49頁の図3の点線間距離を意味していると考えられる。

実際に、本件明細書の【0015】、【0016】には、d値が大きいほど員環サイズが大きく、小さければ員環サイズが小さいことが記載されており、シリカ粒子のd値が4.2Å以上であることで、員環サイズが大きく、機械的強度に優れたシリカ粒子が得られることが記載されている。

そして、本件明細書の【0099】を参照すると、加圧加熱処理を行わなかった、比較例4のシリカ粒子では、d値が4.10であり、大きな員環の形成が行われず、4員環が多く含まれることで機械的強度に劣ることが考察されている。

しかしながら、一般的な技術常識に基づきN員環ごとのd値を検証すると、下記甲第7号証(3~4頁参照)によれば、四面体配位している酸化ケイ素のSi-Si間距離は0.305nm(3.05Å)であることから、各N員環サイズは、各形状から4員環で3.68Å、5員環で4.70Å、6員環で5.69Å程度であることがわかる。詳細には、4員環、5員環、6員環は、それぞれ一辺が3.05Åの正四角形、正五角形、正六角形であり、各員環サイズ(d値の概算値)は、これらの(1)内接円、(2)外接円の直径の平均値として算出できる。

これらの員環サイズを鑑みると、d値が4.1Åである場合と、4.2Åである場合とにおいて、4員環が含まれる量において大差はないと考えられる。

本件明細書の実施例1~7を鑑みても、d値は4.74~5.74の範囲のみであり、5員環、6員環が多く含まれていると思われる例でしか検証されておらず、d値が4.2以上であることで、従来よりも機械的強度に優れたシリカ粒子を製造し得ることが、実施例より裏付けられていると認識することは、本件出願時の技術常識を参酌しても、できないというべきである。

このため、本件明細書には、特許請求の範囲に記載されたシリカ粒子の数値範囲を満たすことによって、課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がない。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは、本件出願時の技術常識を参酌して、数式が示す範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとはいえず、本件明細書の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。

イ 平均一次粒子径について

本件発明1では、シリカ粒子の平均一次粒子径の範囲が規定されていないのに対して、本件明細書の実施例1~7では、平均1次粒子径が35.8~39.6nmの範囲のシリカ粒子についての保存安定性に関する評価結果しか提示されていない。

本件明細書の段落【0027】には、保存安定性や、シリカ粒子の沈降を抑制する観点等から所定の値の範囲の平均一次粒子径であることが好ましいことが記載されており、上記範囲を外れる範囲においても、良好な保存安定性が得られるのか示されていない。また、上述の通り、機械的強度についての評価結果も示されていない。

したがって、本件発明1について、平均一次粒子径が35.8~39.6nmを超える範囲のシリカ粒子において効果を奏することが示されておらず、本件発明1まで、本件明細書の発明の詳細な説明において開示されている内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。よって、本件明細書の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。

記

甲第5号証:粟津浩一、「非晶質シリカの中距離構造」、応用物理、第74巻、第7号、917~923頁、2005年
甲第6号証:千葉文野、竹中幹人、「構造不規則系の中距離秩序:空隙と圧力依存性」、日本結晶学会誌、第58巻、第1号、48~53頁、2016年
甲第7号証:「炭化ケイ素半導体の酸化膜界面欠陥構造への計算科学的解析に関する研究」、科学研究費補助金研究成果報告書、平成21年6月1日

(科学研究費助成事業データベース「KAKEN 2008年度研究成果報告書」2010年6月9日(公開日)

https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-19560329/19560329seika/)

(以下、甲各号証を単に「甲1」などという。)

第4 当審の判断

1 取消理由(特許法第29条第1項(新規性欠如))及び申立理由1(特許法第29条第2項(進歩性欠如))について

上記取消理由及び申立理由1は、同一の主たる証拠に対する新規性欠如及び進歩性欠如の理由であるため併せて判断する。

(1)甲1~甲4に記載の事項

ア 甲1(特開2010-28082号公報)に記載の事項

(ア)「【請求項1】
(A)シリカ粒子と、
(B)有機酸と、
(C)非イオン性界面活性剤と、
を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、
前記(A)シリカ粒子は、下記の化学的性質を有する、化学機械研磨用水系分散体。
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」
(イ)「【0001】
本発明は、化学機械研磨用水系分散体およびその製造方法、ならびに化学機械研磨方法に関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低誘電率絶縁膜に対する研磨速度を低減すると共に、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する高研磨速度と高平坦化特性を両立させ、かつ、ディッシング、エロージョン、スクラッチないしファング等の表面欠陥の発生を抑制できる化学機械研磨用水系分散体、およびそれを用いた化学機械研磨方法を提供する。
【0008】
前記「ファング」とは、本願発明が解決しようとする新たな課題である。以下、「ファング」について詳細に説明する。
【0009】
本明細書において「ファング」とは、特に金属膜が銅または銅合金からなる場合において顕著に発生する現象であって、銅または銅合金の微細配線を含む領域と、銅または銅合金の微細配線を含まない領域(フィールド部分)との界面において、化学機械研磨により局所的にディッシングないしエロージョンが発生する研磨欠陥をいう。」
(エ)「【0036】
1.化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)シリカ粒子と、(B)有機酸と、(C)非イオン性界面活性剤と、を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、前記(A)シリカ粒子は、「29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」という化学的性質を有する。まず、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について説明する。
【0037】
続きを表示(全16行)
1.1 (A)シリカ粒子
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定しない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
【0038】
本実施形態における「シラノール基数」とは、シリカ粒子全体における単位質量当たりのシラノール基数であり、シリカ粒子の縮合度を表す指標である。シリカ粒子の縮合度はシリカ粒子の硬度と密接に関連するため、シラノール基数からシリカ粒子の硬度を推測することができる。シラノール基数は、29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出することができる。
【0039】
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は、化学機械研磨用水系分散体中に含まれる種々の添加剤や水と接することのできるシリカ粒子表面に存在するシラノール基数と、接することのできないシリカ粒子内部に存在するシラノール基数と、を総合的に表すことのできる指標である。・・・
【0041】
本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子の29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は2.0~3.0×1021個/gであり、好ましくは2.1~2.9×1021個/gである。
【0042】
シラノール基数が前記範囲内であると、シリカ粒子全体のシラノール基が緻密であるためにシリカ粒子の機械的強度が向上し、十分な研磨速度が得られる。さらに、シリカ粒子表面に存在するシラノール基により発現する電気的特性または化学的特性は、シリカ粒子表面近傍に存在する有機酸や水溶性高分子を誘引あるいは排斥させる。その結果、化学機械研磨用水系分散体中で添加剤成分がシリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせ、良好な研磨特性を実現するために最適な化学機械研磨用水系分散体を形成することができるものと考えられる。これにより、上述した新たな課題である「ファング」の発生を抑制することもできる。さらに、シラノール基数が前記範囲内であると、化学機械研磨用水系分散体中においてシリカ粒子と他の添加剤との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子の分散安定性を確保でき、研磨の際に欠陥の原因となる凝集が発生しない。
【0043】
シラノール基数が3.0×1021個/gを超えると、前記のようなバランスの取れた分散状態が得られないために不十分な研磨速度比や平坦化特性となるため好ましくないばかりでなく、バリアメタル膜に対する研磨速度が大きくなる傾向があり、エロージョンの発生を促進するため好ましくない。一方、シラノール基数が2.0×1021個/g未満であると、シリカ粒子の分散安定性に劣り、シリカ粒子が凝集し保存安定性が悪化するために好ましくない。また、機械的強度が大きすぎるためにディッシングの発生を促進したり、スクラッチ等の研磨欠陥の原因となる場合があり好ましくない。」
(オ)「【0055】
シリカ粒子のBET法を用いて測定した比表面積から算出される平均粒径は、好ましくは10~100nmであり、より好ましくは10~90nmであり、特に好ましくは10~80nmである。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性に優れ、欠陥のない平滑な研磨面を得ることができる。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲未満であると、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する研磨速度が小さくなりすぎるため実用的ではない。一方、シリカ粒子の平均粒径が前記範囲を超えると、シリカ粒子の保存安定性に劣るため好ましくない。」
(カ)「【0128】
シリカ粒子分散体Eは、下記の方法により作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5であるシリカ粒子分散体Eを得た。得られたシリカ粒子分散体Eをブルカー社製「固体測定用核磁気共鳴分光計 AVANCE300」を用いてDD-MAS法で29Si-NMRスペクトル測定を行い、ピーク分離ソフトWinFitを用いてピーク分離し、Q1、Q2、Q3、Q4状態のシリコンのシグナル面積比を求めて、上記一般式(2)にしたがってシラノール基数を算出したところ、2.9×1021個/gであった。」

イ 甲2(特開2010-34498号公報)に記載の事項

(ア)「【請求項1】
(A)シリカ粒子と、
(B)有機酸と、
(C)アニオン性界面活性剤と、
を含有する銅膜を研磨するための化学機械研磨用水系分散体であって、
前記(A)シリカ粒子は、下記の化学的性質を有する、化学機械研磨用水系分散体。
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」
(イ)「【0001】
本発明は、化学機械研磨用水系分散体およびその製造方法、ならびに化学機械研磨方法に関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常の圧力条件下においても銅膜および低誘電率絶縁膜に欠陥を引き起こすことなく、銅膜に対する高研磨速度および高研磨選択性を有し、かつ、ウエハの金属汚染の少ない化学機械研磨用水系分散体、ならびにこれを用いた化学機械研磨方法を提供する。」
(エ)「【0028】
1.化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)シリカ粒子と、(B)有機酸と、(C)アニオン性界面活性剤と、を含有する銅膜を研磨するための化学機械研磨用水系分散体であって、前記(A)シリカ粒子は、「29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数が、2.0~3.0×1021個/gである。」という化学的性質を有する。まず、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について説明する。
【0029】
続きを表示(全16行)
1.1 (A)シリカ粒子
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定しない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
【0030】
本実施形態における「シラノール基数」とは、シリカ粒子全体における単位質量当たりのシラノール基数であり、シリカ粒子の縮合度を表す指標である。シリカ粒子の縮合度はシリカ粒子の硬度と密接に関連するため、シラノール基数からシリカ粒子の硬度を推測することができる。シラノール基数は、29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出することができる。
【0031】
29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は、化学機械研磨用水系分散体中に含まれる種々の添加剤や水と接することのできるシリカ粒子表面に存在するシラノール基数と、接することのできないシリカ粒子内部に存在するシラノール基数と、を総合的に表すことのできる指標である。・・・
【0033】
本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子の29Si-NMRスペクトルのシグナル面積から算出されるシラノール基数は2.0~3.0×1021個/gであり、好ましくは2.1~2.9×1021個/gである。
【0034】
シラノール基数が前記範囲内であると、シリカ粒子全体のシラノール基が緻密であるためにシリカ粒子の機械的強度が向上し、十分な研磨速度が得られる。さらに、シリカ粒子表面に存在するシラノール基により発現する電気的特性または化学的特性は、シリカ粒子表面近傍に存在する有機酸や水溶性高分子を誘引あるいは排斥させる。その結果、化学機械研磨用水系分散体中で添加剤成分がシリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせ、良好な研磨特性を実現するために最適な化学機械研磨用水系分散体を形成することができるものと考えられる。さらに、シラノール基数が前記範囲内であると、化学機械研磨用水系分散体中においてシリカ粒子と他の添加剤との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子の分散安定性を確保でき、研磨の際に欠陥の原因となる凝集が発生しない。
【0035】
シラノール基数が3.0×1021個/gを超えると、前記のようなバランスの取れた分散状態が得られないために不十分な研磨速度比や平坦化特性となるため好ましくないばかりでなく、バリアメタル膜に対する研磨速度が大きくなる傾向があり、エロージョンの発生を促進するため好ましくない。一方、シラノール基数が2.0×1021個/g未満であると、シリカ粒子の分散安定性に劣り、シリカ粒子が凝集し保存安定性が悪化するために好ましくない。また、機械的強度が大きすぎるためにディッシングの発生を促進したり、スクラッチ等の研磨欠陥の原因となる場合があり好ましくない。」
(オ)「【0047】
シリカ粒子のBET法を用いて測定した比表面積から算出される平均粒径は、好ましくは10~100nmであり、より好ましくは10~90nmであり、特に好ましくは10~80nmである。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性に優れ、欠陥のない平滑な研磨面を得ることができる。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲未満であると、銅膜に対する研磨速度が小さくなりすぎるため実用的ではない。一方、シリカ粒子の平均粒径が前記範囲を超えると、シリカ粒子の保存安定性に劣るため好ましくない。」
(カ)「【0112】
シリカ粒子分散体Fは、以下のように作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均二次粒子径66nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、平均二次粒子径62nm、pH7.5のシリカ粒子分散体Fを得た。得られたシリカ粒子分散体Aを、ブルカー社製「固体測定用核磁気共鳴分光計 AVANCE300」を用いてDD-MAS法により29Si-NMRスペクトル測定を行い、ピーク分離ソフトWinFitを用いてピーク分離し、Q1、Q2、Q3、Q4状態のシリコンのシグナル面積比を求めて、前記式(2)にしたがってシラノール基数を算出したところ、2.9×1021個/gであった。」

ウ 甲3(国際公開2009/104465号)に記載の事項

(ア)「請求の範囲
[1] (A)シリカ粒子と、
(B1)有機酸と、
を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、
前記(A)シリカ粒子は、下記の化学的性質を有する、化学機械研磨用水系分散体。
BET法を用いて測定される比表面積および滴定により測定されるシラノール基量から算出されるシラノール基密度は、1.0~3.0個/nm2である。」

(イ)「[0001] 本発明は、化学機械研磨用水系分散体および化学機械研磨方法に関する。」

(ウ)「[0010] 本発明の目的は、金属膜や低誘電率絶縁膜に欠陥を引き起こすことなく、低誘電率絶縁膜に対する研磨速度を低減し、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する高研磨速度および高平坦化特性を有し、かつ、ウエハの金属汚染が少なく、ディッシング、エロージョン、スクラッチないしファング等の表面欠陥を抑制できる化学機械研磨用水系分散体、およびこれを用いた化学機械研磨方法を提供する。
[0011] 本発明のもう一つの目的は、通常の圧力条件下においても金属膜や低誘電率絶縁膜に欠陥を引き起こすことなく、銅膜に対する高研磨速度および高研磨選択性を有し、かつ、ウエハの金属汚染の少ない化学機械研磨用水系分散体、およびこれを用いた化学機械研磨方法を提供する。
[0012] 前記「ファング」とは、本願発明が解決しようとする新たな課題である。以下、「ファング」について詳細に説明する。
[0013] 本明細書において「ファング」とは、特に金属膜が銅または銅合金からなる場合において顕著に発生する現象であって、銅または銅合金の微細配線を含む領域と、銅または銅合金の微細配線を含まない領域(フィールド部分)との界面において、化学機械研磨により局所的にディッシングないしエロージョンが発生する研磨欠陥をいう。」
(エ)「[0064] 1.第1の化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る第1の化学機械研磨用水系分散体は、(A)シリカ粒子と、(B1)有機酸と、を含有する化学機械研磨用水系分散体であって、前記(A)シリカ粒子は、「BET法を用いて測定される比表面積および滴定により測定されるシラノール基量から算出されるシラノール基密度は、1.0~3.0個/nm2である。」という化学的性質を有する。まず、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について説明する。
[0065] 1.1 (A)シリカ粒子
本実施形態におけるシリカ粒子の「シラノール基」とは、シリカ粒子の表面のケイ素原子に直接結合したヒドロキシル基をいい、立体配置または立体配位については特に限定されない。また、シラノール基の生成条件等も問わない。
[0066] 本実施形態における「シラノール基密度」とは、シリカ粒子表面における単位面積当たりのシラノール基数であり、シリカ粒子表面の電気的特性または化学的特性を表す指標となる。シラノール基は、化学機械研磨用水系分散体中ではSiOHのH+がとれてSiO-の状態で安定して存在しているため、通常マイナスにチャージしている。これにより、シリカ粒子の電気的特性または化学的特性が発現する。シラノール基密度の単位は、個/nm2で表される。
[0067] 本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子のシラノール基密度は、BET法を用いて測定されたシリカ粒子の表面積および滴定により測定されたシラノール基量から算出したものである。シリカ粒子のシラノール基量は、一般的に知られている電位差滴定や、2005年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集p847~848に記載されているようなシリカ粒子の水分散体、あるいはシリカ粒子が分散した化学機械研磨用水系分散体を水酸化ナトリウムのような公知の塩基で滴定することにより測定することが可能である。
[0068] 本実施形態に用いられる(A)シリカ粒子は、シラノール基密度が1.0~3.0個/nm2であり、より好ましくは1.1~2.8個/nm2であり、特に好ましくは1.2~2.6個/nm2である。シラノール基密度が前記範囲内であると、シリカ粒子表面の電気的特性または化学的特性により化学機械研磨用水系分散体中に含まれる有機酸や水溶性高分子等の添加剤成分を誘引または排斥する。その結果、化学機械研磨用水系分散体中で添加剤成分がシリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせ、良好な研磨特性を実現するために最適な化学機械研磨用水系分散体を形成することができるものと考えられる。
[0069] また、銅または銅合金の微細配線を含む領域と銅または銅合金の微細配線を含まない領域(フィールド部分)との界面において、化学機械研磨用水系分散体に含まれる成分が界面近傍に局在化し過度に研磨されることによりファングが発生すると考えられるが、シラノール基密度が前記範囲内であると、(A)シリカ粒子の周囲で微小な濃度勾配を生じさせるため、ファングの発生を抑制することもできる。
[0070] また、シラノール基密度が前記範囲内であると、化学機械研磨用水系分散体中においてシリカ粒子と他の添加剤との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子が化学機械研磨用水系分散体中で安定的に分散することが可能となり、研磨の際に欠陥の原因となる凝集が発生しない。シラノール基密度が3.0個/nm2を超えると、このようなバランスの取れた分散状態が得られないために、不十分な研磨速度比や不十分な平坦化特性となるため好ましくない。一方、シラノール基密度が1.0個/nm2未満である場合、化学機械研磨用水系分散体中におけるシリカ粒子の分散安定性に劣り、シリカ粒子が凝集し、保存安定性が悪化するために好ましくない。」

(オ)「[0076] シリカ粒子のBET法を用いて測定した比表面積から算出される平均粒径は、好ましくは10~100nmであり、より好ましくは10~90nmであり、特に好ましくは10~80nmである。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲内にあると、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性に優れ、欠陥のない平滑な研磨面を得ることができる。シリカ粒子の平均粒径が前記範囲未満であると、TEOS膜等の層間絶縁膜(キャップ層)に対する研磨速度が小さくなりすぎるため実用的ではない。一方、シリカ粒子の平均粒径が前記範囲を超えると、シリカ粒子の保存安定性に劣るため好ましくない。」

(カ)「[0195] シリカ粒子分散体Eは、以下のように作製した。まず、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均二次粒子径66nm)35kgとイオン交換水140kgを40Lオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行った。次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を沸点78℃で減圧濃縮し、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、平均二次粒子径62nm、pH7.5のシリカ粒子分散体Eを得た。得られたシリカ粒子分散体Eを0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4~9の範囲で滴定し、その滴定値とBET比表面積の値からシラノール基密度を算出したところ、1.5個/nm2であった。」

エ 甲4(杉田真一、「シリカ技術の最新展望 高純度コロイダルシリカの技術と特性」、JETI 第61巻、3号、P58~61、2013年)に記載の事項

(ア)「1.高純度コロイダルシリカの製造方法
・・・
原料の珪酸アルコキシドの代表的製造方法は,金属珪素を触媒下でアルコールと直接反応させて合成する。合成した珪酸アルコキシドは蒸留精製により容易に高純度化される。
Si+4ROH → Si(OR)4+2H2
この珪酸アルコキシドをアルカリ領域で加水分解,縮重合することにより,コロイダルシリカが得られる。」(58頁左欄下から4行~右欄10行)
(イ)「2.高純度コロイダルシリカの特性
コロイダルシリカの粒子径は電子顕微鏡による観察,比表面積から算出する方法,レーザー散乱を利用した動的光散乱法等で測定されている。
比表面積から算出する方法は,コロイダルシリカが真球状で密度が2.2と仮定して,次の関係式から算出される。
粒子径(nm)=
6×103÷2.2÷比表面積(m2/g)」(58頁右欄16~24行)

(ウ)「粒子形状については,一次粒子径は比表面積法(d1),二次粒子径は動的光散乱法(d2)で評価され,その比率(d2/d1)は粒子形状(会合度)の目安とされている。単分散な真球状,まゆ型,会合型など様々な粒径,形状のものが合成され,用途により選別使用されている(第1表、第1図)。」(58頁右欄下から3行~60頁左欄3行)

(エ)「
[図:0001381676000001.jpg]
」(59頁)

(2)甲1~甲3に記載された発明

ア 甲1に記載された発明

甲1の上記(1)ア(カ)の記載によれば、シリカ粒子分散体Eに含まれるシリカ粒子として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5、29Si-NMRスペクトル測定から算出されるシラノール基数が、2.9×1021個/gであるシリカ粒子分散体に含まれるシリカ粒子。」

イ 甲2に記載された発明

甲2の上記(1)イ(カ)は、甲1の上記(1)ア(カ)とほぼ同じ記載であるから、甲2には、甲1発明と同じ以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5、29Si-NMRスペクトル測定から算出されるシラノール基数が、2.9×1021個/gであるシリカ粒子分散体に含まれるシリカ粒子。」

ウ 甲3に記載された発明

甲3の上記(1)ウ(カ)の記載によれば、シリカ粒子分散体Eに含まれるシリカ粒子として、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、二次粒子径66nm)とイオン交換水をオートクレーブに投入し、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理を行い、沸点78℃で減圧濃縮して得られる、シリカ濃度が固形分濃度20質量%、二次粒子径62nm、pHが7.5、シリカ粒子分散体を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4~9の範囲で滴定し、その滴定値とBET比表面積の値から算出されるシラノール基密度が、1.5個/nm2であるシリカ粒子分散体に含まれるシリカ粒子。」

(3)本件発明1について

ア 甲1発明との対比・判断

(ア)対比

本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は「シリカ粒子」である点で一致するものの、以下の点で相違している。

<相違点1>

本件発明1のシリカ粒子は、広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、y≧4.2を満たすのに対し、甲1発明のシリカ粒子は、上記d値の値が明らかでない点。

(イ)判断

a 相違点1が実質的な相違点であるか否かについて

シリカ粒子のd値とは、本件明細書の【0014】の記載によれば、次のとおりのものである。

「銅のKα線(Kα1線の波長λ=1.5405Å)を用いて広角X線散乱により測定したFirst Sharp Diffraction Peak(FSDP)より算出」するもので、「即ち、観測されたハローパターンの最大強度を示す散乱角度2θから散乱ベクトルq(q=4π・sinθ/λ)を算出し、散乱ベクトルqを用いてブラッグ式(λ=2d・sinθ)を表した下記式(5)を用いて算出される値であ」り、「このd値は、アモルファスシリカの場合、空隙越しに揃った面の間隔を表す。
d=2π/q ・・・(5)」

これに対し、甲1には、甲1発明のシリカ粒子の上記d値に関する直接的な記載や、上記d値を示唆する記載もないことから、甲1の記載から直ちに甲1発明のシリカ粒子の上記d値をうかがい知ることはできない。

そこでさらに、本件発明1のシリカ粒子における製造方法と甲1発明のシリカ粒子における製造方法について考察し、両者の異同の観点から、上記相違点1に係る本件発明1のシリカ粒子の性状を甲1発明のシリカ粒子も有するものであるか否かについて、改めて検討してみても、上記相違点1は実質的な相違点であるというべきである。その理由は以下のとおりである。

(a)本件発明1のシリカ粒子の製造方法

本件明細書には、上記d値が特定の範囲にあるシリカ粒子を製造する方法として、【0046】等には、テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により製造されるシリカ粒子を用いること、【0051】には、シリカ粒子の縮合度を高めるため、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応終了後、得られたシリカ粒子に対して加圧加熱処理を行うこと、そして、シリカ粒子に対する加圧加熱処理を行う際の条件として、【0052】には、圧力は、0.10MPa以上2.3MPa以下が好ましく、【0053】には、温度は、100℃以上220℃以下が好ましく、【0054】には、時間は、0.25時間以上6時間以下が好ましく、【0057】には、加圧加熱処理を水分散液中で行う際のpHは、6.0以上8.0以下が好ましいことが示されている。

ここで、上記の概略的な製造条件の範囲は、あくまで本件発明1で特定される性状を有するシリカ粒子を得るための目安と解すべきであり、これらの概略的な製造条件の範囲を満たしさえすれば必ず本件発明1で特定される性状を有するシリカ粒子が得られると考えるのは適切でない。実際に本件発明1で特定される性状を有するシリカ粒子を製造するにあたっては、これらの概略的な製造条件の範囲の中で、本件明細書の【0095】~【0099】に記載される実施例1~7及び比較例2、3における一連の実験条件を参考にしながら、適宜各製造条件を調整する必要があると理解するのが合理的である。特に、本件発明1のシリカ粒子の原料となるシリカ粒子に関していうと、本件明細書の【0046】等には、「テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により製造されるシリカ粒子」と概略的な記載がなされる一方、実施例においては、同【0095】に「テトラメトキシシランとメタノールとを3:1(体積比)で混合し、原料溶液を調製した。温度計、攪拌機、供給管、留出ラインを備えた反応槽に、予めメタノール、純水、アンモニアを混合した反応溶媒を仕込んだ。反応溶媒中の水の濃度は15質量%、反応溶媒中のアンモニアの濃度は1質量%であった。反応溶媒の温度を20℃に保持しながら、反応溶媒と原料溶液とを9.2:1(体積比)とし、原料溶液を25分間、均等速度で反応槽へ滴下し、シリカゾルを得た。得られたシリカゾルを、シリカ粒子の含有率が約20質量%になるように、液量を純水追加で調整しながら、温度を上げてメタノールとアンモニアの除去を行い、シリカ粒子の含有率が約20質量%のシリカゾルを得た。」と詳細な記載がなされていることからすると、原料となるシリカ粒子については、「テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により製造されるシリカ粒子」であれば良いと言うことではなく、他の製造条件との関係も含め、一連の条件が示されている、実施例等を参考にしながら、テトラアルコキシシランの選択や、原料となるシリカ粒子の製造条件がさらに調整されるものと考えるべきである。

(b)甲1発明のシリカ粒子の製造方法

甲1の上記(1)ア(カ)には、扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2;固形分濃度20質量%、pH7.4、平均二次粒子径66nm)を、160℃で3時間、0.5MPaの加圧下で水熱処理することが示されている。

そして、甲1の扶桑化学工業社製の高純度コロイダルシリカ(品番:PL-2)については、甲4の上記(1)エ(ア)等によれば、珪酸アルコキシドを加水分解、縮重合することにより得られるコロイダルシリカであることが分かる。

(c)本件発明1と甲1発明のシリカ粒子における製造方法の異同

上記(a)、(b)を踏まえると、本件発明1のシリカ粒子と甲1発明のシリカ粒子における製造方法は、特に、加圧加熱処理が行われるシリカ粒子についてみると、両者がどのようなテトラアルコキシシランを用いているのかは不明であり、また、原料となるシリカ粒子を得るまでの製造条件も一致しているとはいえない。

(d)そうすると、甲1発明のシリカ粒子の製造方法は、本件発明1のシリカ粒子の製造方法と一致するものではないから、両者のシリカ粒子の製造方法における異同の観点からみても、甲1発明のシリカ粒子が、本件発明1のシリカ粒子と同じ性状を有しているということはできない。

(e)さらに、特許権者より提出された令和3年8月6日付け意見書に添付された実験成績証明書には、甲1~3発明のシリカ粒子を実際に製造し、そのd値を測定し、それらの値が、本件発明1の範囲外(4.13Å)であることが示されており、この結果は、上記(a)~(d)の判断と符号する。

b 相違点1に係る本件発明1の事項が容易想到であるか否かについて

上述のように、甲1には、甲1発明のシリカ粒子のd値に関する直接的な記載や上記d値を示唆する記載がないことから、甲1発明は、シリカ粒子のd値に着目したものではないことは明らかであり、上記d値を、上記相違点1の範囲とする動機付けが内在するとは到底いえない。

しかも、提出されている他の証拠、甲2~甲4をみても、シリカ粒子のd値に関する記載はない。

そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ)小括

以上のとおり、上記相違点1は実質的な相違点であるし、また、上記相違点1に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明、甲1~3に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲2、3発明との対比・判断

(ア)対比

甲2発明は、甲1発明と同じ発明であり、甲3発明で、甲1発明と異なる点は、本件発明1との関係では一致点となるものではないから、本件発明1と、甲2、3発明とを、それぞれ対比すると、甲1発明と同様に、両者は「シリカ粒子」である点で一致するものの、以下の点で相違している。

<相違点2>

本件発明1のシリカ粒子は、広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、y≧4.2を満たすのに対し、甲2、3発明のシリカ粒子は、上記d値の値が明らかでない点。

(イ)判断

a 相違点2が実質的な相違点であるか否かについて

甲2、3には、それぞれ、甲2、3発明のシリカ粒子のd値に関する直接的な記載や上記d値を示唆する記載もないことから、甲2、3発明のシリカ粒子のd値は、明らかでなく、上記相違点2は、実質的な相違点である。

なお、本件発明1のシリカ粒子における製造方法と甲2、3発明のシリカ粒子におけるそれぞれの製造方法の異同の観点から、上記相違点2に係る本件発明1のシリカ粒子の性状を甲2、3発明のシリカ粒子も有するか否かについては、上記ア(イ)aで述べたのと同様の理由により、本件発明1と甲2、3発明のシリカ粒子におけるそれぞれの製造方法は、一致するものではないから、甲2、3発明のシリカ粒子は、それぞれ本件発明1のシリカ粒子と同じ性状を有しているということはできない。さらに、特許権者より提出された令和3年8月6日付け意見書に添付された実験成績証明書に、甲2、3発明のシリカ粒子のd値が、本件発明1の範囲外であることが示されていることは、上記ア(イ)a(e)で述べたとおりである。

b 相違点2に係る本件発明1の事項が容易想到であるか否かについて

上述のように、甲2、3には、それぞれ、甲2、3発明のシリカ粒子のd値に関する直接的な記載や上記d値を示唆する記載もないことから、甲2、3発明において上記d値を、上記相違点2の範囲とする動機付けがないことは明らかである。

この点は、甲4をみても変わりはないから、上記相違点2に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ)小括

以上のとおり、上記相違点2は実質的な相違点であるし、また、上記相違点2に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲2、3発明のいずれでもないし、甲2、3発明のいずれの発明を主たる発明としても、甲1~3に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2~15について

本件発明2~8は、「シリカ粒子」に係る発明であり、本件発明9は、「シリカ粒子の製造方法」に係る発明であり、本件発明10~11は、「シリカゾル」に係る発明であり、本件発明12は、「研磨組成物」に係る発明であり、本件発明13は、「研磨方法」に係る発明であり、本件発明14は、「半導体ウェハの製造方法」に係る発明であり、本件発明15は、「半導体デバイスの製造方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1の「シリカ粒子」に係る事項を含むため、本件発明1が、甲1~3発明ではないし、甲1~3発明、甲1~3に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件発明2~15も、甲1~3に記載された発明ではないし、甲1~3に記載された発明、甲1~3に記載の事項及び甲4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)異議申立人の令和3年10月22日付け回答書について

ア 異議申立人の主張

異議申立人は、上記回答書で、特許権者が提出した令和3年8月6日付け意見書に添付された実験成績証明書での実験等について、以下の主張をし、本件発明1は引用発明1~3(甲1~3発明)に対して、新規性を有さないとしている。

(ア)引用文献1(甲1)等の【0128】に開示された条件に対し、高純度コロイダルシリカとイオン交換水のスケールを変えていることに関し、実験のスケールにより粒子の形状や性状は変わってしまうことは当業者にとって技術常識であり、当該実験は、引用文献1~3(甲1~3)に開示された方法と同じ実験条件により製造されたものでなく、また、実験成績証明書では、オートクレーブの装置名や、オートクレーブの容量等の記載がなく、具体的な実験条件が不明であり、このような実験により求められたd値の結果を根拠とするのは妥当ではない。

(イ)仮に引用文献1~3のシリカ粒子のd値が4.13Åであったとしても、d値が4.13Åと4.2Åとの場合で、技術的意義において実質的に差異があるとする根拠は、本件特許の明細書及び実験成績証明書に示されていないため、その違いに実質上意味はなく、引用発明1~3と本件特許発明は、実質同一の構成を有する。

イ 異議申立人の主張に対する判断

上記ア(ア)の主張についてみると、本件発明1が甲1~3発明に対して新規性を有しないとするには、異議申立人がそれを立証する必要があるところ、異議申立人の上記回答書での主張は、甲1~3発明のシリカ粒子のd値が、本件発明1の範囲にあることを示すものではない。

また、上記回答書での主張を検討しても、高純度コロイダルシリカとイオン交換水のスケールについて、例えば甲1発明では、コロイダルシリカ35kg、イオン交換水140kgであるのに対し、実験成績証明書における実験では、それぞれ105g、420gであるが、甲1発明に対しスケールが極端に小さいということはなく、再現実験としては妥当なスケールであるといえる。

また、オートクレーブの装置名等については、オートクレーブが特に使用頻度が少ないという装置ではないから、一般的に知られている装置を使用すれば良いと理解できる。

上記ア(イ)の主張についてみると、本件明細書の【0014】の「d値は、アモルファスシリカの場合、空隙越しに揃った面の間隔を表す。」の記載によれば、d値は、シリカ粒子の構造を表す数値であると理解でき、d値が4.13Åと4.2Åとの場合では、空隙越しに揃った面の間隔が異なるシリカ粒子が特定されることになり、それぞれのシリカ粒子が、実質的に異なるものであることは明らかである。そして、d値が4.13Åと4.2Åとの場合で、技術的意義において差異があるか否かの点は、相互のシリカ粒子の異同の判断を左右するものではない。

以上のとおりであるから、異議申立人の回答書での主張は、採用できない。

(6)取消理由及び申立理由1に関するまとめ

以上のとおり、本件発明1~15は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものではない。

したがって、取消理由及び申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反))について

(1)サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)サポート要件に関する判断

ア 本件発明の課題について

本件明細書の記載によれば、一般的に、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により得られるシリカゾル中のシリカ粒子は、縮合度が十分に高いとは言えず、縮合度が低いシリカ粒子は、SiO4四面体が連結してできる員環の形成が不十分で、員環サイズが小さく、歪が大きく、機械的強度に劣り、そのような縮合度が低いシリカ粒子を研磨に用いると、研磨中にシリカ粒子が破壊され、破壊されたシリカ粒子が被研磨体に付着する等、研磨において悪影響を及ぼすと共に、縮合度が低いシリカ粒子は、シラノール基が多く残存しているため、保存中に残存しているシラノール基が反応活性点となり、保存安定性を悪化させるという問題があったが(【0006】)、従来の、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応によりシリカゾルを製造する方法では、得られたシリカゾルに対して加圧加熱処理を行う等のシリカ粒子の縮合度を高める処理を行っておらず、依然として得られたシリカ粒子は、員環の形成が不十分で歪が大きく、機械的強度に劣り、保存安定性に劣るものであった(【0007】)。このような従来の問題を受け、本件発明は、特に「研磨特性、保存安定性に優れたシリカ粒子」を提供すること(【0008】)を発明の課題としている。

イ 本件発明の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について

本件明細書の【0009】には、【課題を解決するための手段】として、「本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、広角X線散乱により測定したd値を最適化することで、シリカ粒子の研磨特性、保存安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、同【0013】には、シリカ粒子のd値について、「広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき下記式(1)を満たす。

y≧4.2 (1)

シリカ粒子のd値が4.2Å以上であると、SiO4四面体の酸素を共有しながら員環の形成が促進されて、員環サイズが大きくなって歪が小さくなり、シリカ粒子が弾性変形しづらく、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れる。」と記載され、同【0014】には、「このd値は、アモルファスシリカの場合、空隙越しに揃った面の間隔を表す。」と記載され、同【0015】には、「シリカ粒子のd値は、員環サイズが大きく、欠陥が少なく、シリカ粒子の機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることから、下記式(1)を満たし、下記式(1’)を満たすことが好ましく、下記式(1’’)を満たすことがより好ましく、下記式(1’’’)を満たすことが更に好ましい。

y≧4.2 (1)

y≧4.5 (1’)

y≧4.7 (1’’)

y≧4.8 (1’’’)」と記載され、同【0022】には、シリカ粒子のd値を所望の範囲にするのに、「d値及び表面シラノール基密度を精密に制御することが可能であることから、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応で得られたシリカゾルを加圧加熱処理する方法が好ましい。」と記載されていることから、上記アの発明の課題を解決する手段に関し、以下の点を理解することができる。

・シリカ粒子のd値を最適化することで、シリカ粒子の研磨特性、保存安定性が向上すること。

・具体的には、シリカ粒子のd値を、4.2Å以上とすること。

・シリカ粒子において、空隙越しに揃った面の間隔を表すd値が、4.2Å以上であると、SiO4四面体の酸素を共有しながら員環の形成が促進されて、員環サイズが大きくなって歪が小さくなり、シリカ粒子が弾性変形しづらく、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることになること。また、員環の形成が促進されて、員環サイズが大きくなるに従い、d値が大きくなっていくこと。

・シリカ粒子のd値は、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応で得られたシリカゾルを加圧加熱処理する方法により、精密に制御することが可能であること。

そして、同【0095】~【0099】に記載され【表1】にまとめられている実施例及び比較例の記載によれば、シリカ粒子のd値が4.2Å以上(本件発明の範囲内)の実施例1~7(d値:4.61Å(実施例2)~5.47Å(実施例7)は、例えば、d値が4.2Å未満の(本件発明の範囲外の)比較例4(4.10Å)に対して、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値及び会合比の値についてそれほど差がないにもかかわらず、保存安定性が優れている結果が得られている。さらに、この実施例及び比較例の実験結果に対し、同【0099】には、「表1から分かるように、加圧加熱処理を行わなかった比較例1や加圧加熱処理を行ったか不明な比較例4に対し、加圧加熱処理を行った実施例1~7で得られたシリカゾル中のシリカ粒子は、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比の変化がほぼなく、d値が向上し、式(1)が成立した。式(1)の成立は、比較例4のような市販のシリカ粒子よりも大きな員環の形成を表し、SiO4四面体の酸素を共有することによる員環の形成が促進されてシリカ粒子の欠陥が少ないことを意味する。これは4員環が少ないことを意味するので歪が少なく弾性変形し難いことからシリカ粒子の機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることが期待される。また、加圧加熱処理を行っているので、アルコキシ基やシラノール基の含有量が低減していると考えられ、反応活性なサイトが少なく、シリカゾルの保存安定性にも優れることが期待される。またd値が大きくなるほど一般にシリカ鉱物としての真比重は小さくなると考えられるため、沈降しにくい安定なシリカ粒子となっていることが期待される。・・・加圧加熱処理を行なわなかった比較例1では、今回の評価で沈降したシリカ粒子が肉眼で確認されなかったが、実施例1~7よりもアルコキシ基やシラノール基の含有量が多いと考えられ、反応活性なサイトが多く、更なる長期保存をした場合には、シリカ粒子の沈降が発生すると考えられる。更に、比較例1及び比較例4では、d値が低く、式(1)が成立しなかった。式(1)の不成立は、大きな員環の形成が行われず、SiO4四面体の酸素を共有することによる員環の形成が促進されず、シリカ粒子の欠陥が多いと考えられる。これは4員環が多いことを意味するので歪が多く弾性変形しやすいことからシリカ粒子の機械的強度に劣り、研磨組成物の研磨特性に劣ることが予想される。」との評価がなされ、上記アの発明の課題の「保存安定性に優れた」との点については、実施例の実験による評価で裏付けがなされているということができる。同様に、「研磨特性に優れた」との点についても、同【0099】の記載等により、裏付けがなされているといえる。

そうすると、本件明細書の記載によれば、上記アの発明の課題を解決するには、シリカ粒子のd値が、4.2Å以上、すなわち、「広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、下記式(1)を満たす、シリカ粒子

y≧4.2 (1)」であれば良いと理解するのが合理的である。

ウ 本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明の対比

上記イで述べたように、「広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、下記式(1)を満たす、シリカ粒子

y≧4.2 (1)」であれば、上記アの本件発明の課題を解決することができることが理解できる。

一方、本件発明(本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~15)は、上記アの発明の課題を解決するのに必要な手段である「広角X線散乱により測定したd値をyÅとしたとき、下記式(1)を満たす、シリカ粒子

y≧4.2 (1)」であることを特定事項として含んでいる。

そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものということができる。

したがって、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)に係る申立理由2には、理由がない。

(3)異議申立人の主張に対する判断

ア 異議申立人の特許異議申立書での主張について

異議申立人は、特許異議申立書において、要するに次の2点について主張する。

(ア)d値について

甲7(3~4頁参照)によれば、四面体配位している酸化ケイ素のSi-Si間距離は0.305nm(3.05Å)であることから、各N員環サイズは、各形状から4員環で3.68Å、5員環で4.70Å、6員環で5.69Å程度であることがわかるところ、これらの員環サイズを鑑みると、d値が4.1Åである場合と、4.2Åである場合とにおいて、4員環が含まれる量において大差はないと考えられる。実施例1~7を鑑みても、d値は4.74~5.74の範囲のみであり、5員環、6員環が多く含まれていると思われる例でしか検証されておらず、d値が4.2以上であることで、従来よりも機械的強度に優れたシリカ粒子を製造し得ることが、実施例より裏付けられていると認識することは、本件出願時の技術常識を参酌しても、できないというべきである。

(イ)平均一次粒子径について

本件対象特許1では、シリカ粒子の平均一次粒子径の範囲が規定されていないのに対して、発明の詳細な説明の実施例1~7では、平均1次粒子径が35.8~39.6nmの範囲のシリカ粒子についての保存安定性に関する評価結果しか提示されていない。

本件対象特許の段落[0027]には、保存安定性や、シリカ粒子の沈降を抑制する観点等から所定の値の範囲の平均一次粒子径であることが好ましいことが記載されており、上記範囲を外れる範囲においても、良好な保存安定性が得られるのか示されていない。また、上述の通り、機械的強度についての評価結果も示されていない。

イ 異議申立人の特許異議申立書での主張に対する判断

異議申立人は上記ア(ア)及び(イ)の主張をするものの、本件発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することは、上記(2)で述べたとおりである。

念のため異議申立人の個別の主張を検討すると、(ア)についてみると、上記(2)で述べたように、「SiO4四面体の酸素を共有しながら員環の形成が促進されて、員環サイズが大きくなって歪が小さくなり、シリカ粒子が弾性変形しづらく、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることになること。また、員環の形成が促進されて、員環サイズが大きくなるに従い、d値が大きくなっていくこと。」を考慮すると、d値が4.1Åである場合に比べ、4.2Åであるシリカ粒子の方が、その差に応じて、大きい員環サイズの割合が多少なりとも多くなることにより、歪が小さくなり、弾性変形しづらく、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れるものであることが理解できる。仮に、d値が4.1Åである場合に比べ、4.2Åである場合に臨界的な効果の向上がないとしても、d値が4.1Åである場合に比べ、4.2Åであるシリカ粒子の方が、機械的強度に優れ、研磨組成物の研磨特性に優れることが理解できるのであれば、従来(d値が4.1Åである場合)よりも機械的強度に優れたシリカ粒子を製造し得ることが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により裏付けられているといえる。

また、(イ)についてみると、シリカ粒子のd値について、実施例1~7で、保存安定性の評価結果しか示されていないとしても、上記実施例1~7により製造されるシリカ粒子が、機械的強度に優れたものであることが理解できることは、上記(2)イで述べたとおりである。

また、上記(2)イで述べたように、d値を本件発明1のように特定することにより、「SiO4四面体の酸素を共有しながら員環の形成が促進されて、員環サイズが大きくなって歪が小さくなり、シリカ粒子が弾性変形しづらく」なり、「研磨特性、保存安定性に優れたシリカ粒子」を提供するという本件発明の課題を解決することができるのであるから、平均一次粒子径が、実施例1~7の範囲、すなわち34.4~39.3nmの範囲でしか、本件発明の課題を解決できないということはないし、本件明細書には、シリカ粒子の平均一次粒子径が34.4~39.3nmの範囲でしか、本件発明の課題を解決できない旨の記載もない。

したがって、異議申立人の特許異議申立書での主張は採用できない。

(4)小括

以上のとおり、本件発明について記載した特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、申立理由2には理由がない。

第5 むすび

上記第4で検討したとおり、本件特許1~15は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1、2では、本件特許1~15を取り消すことはできない。

また、他に本件特許1~15を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2021-700279

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