2020-700861
球状窒化アルミニウム粉末
- 審判番号
- 2020-700861
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-142755外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年11月11日
- 審決日
- 2021年07月20日
- 公報発行日
- 2021年10月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社MARUWA
- 【権利者代理人】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
- 【異議申立人】星 正美
- 分類
- P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 16項目
第1 手続の経緯
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本件特許第6700460号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和1年8月2日に出願され、令和2年5月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1~6について、令和2年11月11日に特許異議申立人 星 正美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年1月26日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年4月1日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)に対して、申立人は、令和3年5月11日に意見書を提出した。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
前記訂正の請求は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の訂正であって、一群の請求項を構成する本件訂正前の請求項1~6を訂正の単位とするものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項及び同法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(7)のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
ア 訂正事項3-1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「粒子全体の95%以上の粒子が、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「平均粒子径が2~30μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する(請求項3を引用する請求項4~6も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項3-2
新たに下記請求項7を追加する。
「平均粒子径が2.8~7.7μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。」
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項3に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する(請求項4を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「AlN100重量%に対して酸化物換算で1~10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「AlN100重量%に対して酸化物換算で1~10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3又は4に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「比表面積が1.6m2/g以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「比表面積が1.6m2/g以下であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する。
(7)訂正事項7
ア 本件訂正前の明細書の【0018】に
「【図1】本発明の一実施形態(実施例1)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図2】本発明の一実施形態(実施例11)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図3】従来例(特許文献2)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図4】本発明の比較例1の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図5】本発明の比較例2の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図6】本発明の比較例6の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図7】本発明の比較例10の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。【図8】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示すグラフであって、(a)が実施例1を示し、(b)が実施例11を示す。」
と記載されているのを、
「【図1】本発明の一実施形態(実施例1)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図2】本発明の一実施形態(実施例11)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図3】従来例(特許文献2)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図4】本発明の比較例1の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図5】本発明の比較例2の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図6】本発明の比較例6の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図7】本発明の比較例10の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。【図8】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示すグラフであって、(a)が実施例1を示し、(b)が実施例11を示す。」
と訂正する。
イ 本件訂正前の明細書の【0053】に
「D.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、分析用のSEM写真を取得して粒子形状の分析を行った。具体的には、エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製エポトートYH-300)、硬化剤(日立化成株式会社製HN-2200)、及び、作製した球状窒化アルミニウム粉末を混合したものをシリコン型に入れて熱硬化させて成形体を得た。次に、成形体を研磨し、その研磨面を走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S-3400N)で倍率2000倍で撮影した。取得したSEM画像に対して、画像処理ソフト「ImageJ」を使用して任意の100個以上の粒子の画像解析を実行した。ここでは、平均球形度、球形度比率、平均アスペクト比、及び、SEM写真の観察結果によってサンプルを評価した。平均球形度は、上述した数式によって任意の100個以上の粒子の全ての球形度を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。球形度比率は、解析した任意の100個以上の全粒子中、所定の値(0.85、0.8、0.7)以上の球形度を有する粒子の数の割合である。平均アスペクト比は、任意の100個以上の粒子の全てのアスペクト比を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。各粒子のアスペクト比は、SEM写真画像から画像処理ソフト「ImageJ」を用いて粒子を楕円近似し、その楕円の短径(DS)と長径(DL)を求め、DS/DLで計算される。SEM写真の観察結果については、取得したSEM写真(例えば図1、2、4、5、6、7)において、粒子外周の角部、凹凸部の有無を目視で確認し、少なくとも70%以上の粒子が外周に角部、凹凸部を有していないサンプルを「○」と評価し、そうでないサンプルを「×」と評価した。なお、角部は、SEM写真において円弧状に連続しない箇所(不連続点)である。また、凹凸部は、SEM写真において球面から明らかに凹んだ箇所又は隆起した箇所である。」
と記載されていたのを、
「D.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、分析用のSEM写真を取得して粒子形状の分析を行った。具体的には、エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製エポトートYH-300)、硬化剤(日立化成株式会社製HN-2200)、及び、作製した球状窒化アルミニウム粉末を混合したものをシリコン型に入れて熱硬化させて成形体を得た。次に、成形体を研磨し、その研磨面を走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S-3400N)で倍率2000倍で撮影した。取得したSEM画像に対して、画像処理ソフト「ImageJ」を使用して任意の100個以上の粒子の画像解析を実行した。ここでは、平均球形度、球形度比率、平均アスペクト比、及び、SEM写真の観察結果によってサンプルを評価した。平均球形度は、上述した数式によって任意の100個以上の粒子の全ての球形度を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。球形度比率は、解析した任意の100個以上の全粒子中、所定の値(0.85、0.8、0.7)以上の球形度を有する粒子の数の割合である。平均アスペクト比は、任意の100個以上の粒子の全てのアスペクト比を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。各粒子のアスペクト比は、SEM写真画像から画像処理ソフト「ImageJ」を用いて粒子を楕円近似し、その楕円の短径(DS)と長径(DL)を求め、DS/DLで計算される。SEM写真の観察結果については、倍率10000倍で取得したSEM写真(例えば図1、2、4、5、6、7)において、粒子外周の角部、凹凸部の有無を目視で確認し、少なくとも70%以上の粒子が外周に角部、凹凸部を有していないサンプルを「○」と評価し、そうでないサンプルを「×」と評価した。なお、角部は、SEM写真において円弧状に連続しない箇所(不連続点)である。また、凹凸部は、SEM写真において球面から明らかに凹んだ箇所又は隆起した箇所である。」
と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2による訂正は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項3について
訂正事項3(訂正事項3-1、訂正事項3-2)による訂正は、訂正前の請求項3について、請求項1又は2を引用していた部分をそれぞれ書き下して、新たに請求項3及び請求項7とするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当するとともに、引用請求項であった訂正前の請求項1における、
(a3)「各粒子の平面投影形状」の取得方法
(a4)接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法
(a5)「漸次的に変化する曲線を描くように」との点
がそれぞれ明瞭でなかったところ、これらを、
(a3)「倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状」と訂正して、「各粒子の平面投影形状」の取得方法を明瞭にし、
(a4)「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず」と訂正して、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法を明瞭にし、
(a5)「周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状」と訂正して、「漸次的に変化する曲線を描く」との記載を明瞭にするためのものであるから、
特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある((a3)~(a5)の記号は、訂正請求書の7(3)イ(ウ)に対応する。)。
そして、訂正事項3による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項4~6について
訂正事項4~6による訂正は、本件訂正前の請求項4~6において、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、本件訂正前の明細書の【0018】、【0053】の「SEM写真」の倍率が明瞭でなかったところ、「SEM写真」の倍率が「倍率10000倍」であることを明記し、記載を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項7による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は適法にされたものであり認容できるから、本件特許の請求項3~7に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項3~7に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明3」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
なお、本件訂正により請求項1、2は削除された。また、本件発明7は、本件訂正前の請求項3に係る発明から派生したものであるから、これも本件特許異議の申立ての対象とする。
「【請求項3】平均粒子径が2~30μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。【請求項4】続きを表示(全12行)粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項3に記載の球状窒化アルミニウム粉末。【請求項5】AlN100重量%に対して酸化物換算で1~10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3又は4に記載の球状窒化アルミニウム粉末。【請求項6】比表面積が1.6m2/g以下であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。【請求項7】平均粒子径が2.8~7.7μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和3年1月26日付けで特許権者に通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1~6に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たしていない特許出願に対してされたものであり取り消されるべきものである、というものであり、特に、「各粒子の平面投影形状」の取得方法について(取消理由通知の第2の1(1))、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法について(取消理由通知の第2の1(2))、及び、「漸次的に変化する曲線を描くように」との点について((取消理由通知の第2の1(3)))、それぞれ指摘したものである。
2 取消理由(明確性要件違反)についての当審の判断
(1)「各粒子の平面投影形状」の取得方法について
「各粒子の平面投影形状」の取得方法についての指摘は、要するに、各粒子の平面投影形状を取得する方法について、SEM写真の倍率が2000倍なのか10000倍なのか不明であり、また、成形体の研磨面を撮影するのか粒子自体を撮影するのか不明であるというものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3~7の「各粒子の平面投影形状」において、外周形状の評価に際しては倍率10000倍で粒子自体を撮影したものであること、球形度の測定に際しては倍率2000倍で成形体の研磨面を撮影したものであることが、それぞれ明示された。したがって、「各粒子の平面投影形状」の取得方法について、本件発明3~7は明確であるといえる。
(2)接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法について
接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法についての指摘は、要するに、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を明確に判別することができないというものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3~7において、「接線の傾きが不連続的に変化する不連続点」とは「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在」によるものであることが明らかになった。そして、この「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在」は、倍率10000倍のSEM写真を観察することで当業者が判別することができるものといえるから、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法について、本件発明3~7は明確であるといえる。
(3)「漸次的に変化する曲線を描くように」との点について
「漸次的に変化する曲線を描くように」との点についての指摘は、要するに、「漸次的」かどうかの判断基準が不明確であるというものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3~7において、「漸次的に変化する曲線を描く」とは、「周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れない」ことにより判別できることが明らかになった。そして、この「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在」は、倍率10000倍のSEM写真を観察することで当業者が判別することができるものであるといえるから、「漸次的に変化する曲線を描くように」との点について、本件発明3~7は明確であるといえる。
3 小括
以上のとおりであるから、前記取消理由に理由はない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立理由として、明確性要件違反及び進歩性欠如を主張するところ、前者については、前記第4において既に検討をしているから、ここでは、後者について検討をする。
後者の申立理由(進歩性欠如)は、要するに、次のとおりである。
本件訂正前の請求項1~4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1、3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(証拠方法)
2 甲各号証とその記載内容
(1)甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下ア~エの記載がある(当審注:「・・・」は当審による省略を表す。下線は当審による。以下、同様である。)。
ア「【請求項1】
窒化アルミニウム粉末をフラックス処理して球状窒化アルミニウムフィラーを製造する方法であって、窒化アルミニウム粉末を、フラックス中で球状化処理するにあたり、窒化ホウ素質、窒化アルミニウム質又は窒化ケイ素質の処理容器を用いて不活性ガス中1650~1900℃で処理することを特徴とする球状窒化アルミニウムフィラーの製造方法。」
イ「【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明では、窒化アルミニウム粉末をフラックス中で熱処理することにより、粒子を球状化する。処理される窒化アルミニウム粉末の製造方法は、特に限定されず、その平均粒子径は、通常、0.5~50μmであれば良い。フラックス原料としては、例えば、アルカリ土類金属化合物や希土類金属化合物が好適に用いられ、具体的には、カルシウム、マグネシウム、イットリウム及びリチウムの酸化物、乃至は加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体、例えば、それらの炭酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、ハロゲン化物及びアルコキシド等が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、アルミニウムの酸化物や窒化物と反応して反応温度において溶融する複合化合物を形成するものであれば適宜のものを用いることができる。混合及び反応性を向上させるために、フラックス原料の平均粒子径は10μm以下が好適である。フラックス原料の添加量は、窒化アルミニウム粉末の粒子径にもよるが、通常、窒化アルミニウム粉末が1重量部に対して、フラックス原料が金属総量換算で0.05~1重量部が好適である。フラックス原料の添加量が0.05重量部より少ないと窒化アルミニウムの球状化が十分に進行しない。また、フラックス原料の添加量が1重量部を超えると、フラックスの除去に時間が掛かり、球状窒化アルミニウムフィラーの収率が落ちるので好ましくない。」
ウ「【0015】
(2)球状窒化アルミニウムフィラーの作製
直接窒化法により合成された窒化アルミニウム粉末とフラックス原料の炭酸カルシウム粉末を混合した後、窒化ホウ素質容器に充填し、窒素ガス雰囲気中1750℃で5時間熱処理を行い、窒化アルミニウムフィラーとフラックスの凝集体を得た。合成条件を表1に示す。後述のフラックス分離処理と脱炭処理を経た窒化アルミニウムフィラーを走査型電子顕微鏡で観察した結果、全て球状であることを確認した。尚、図1に、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。」
エ「【図1】
」
(2)甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、以下アの記載がある。
ア「【0011】実施例3
アルミナ還元窒化法により合成された窒化アルミニウム微粉末(平均一次粒径0.5ミクロン)を炭酸カルシウム及び酸化イットリウム(Y2O3)と80:10:10、80:20:10、及び80:0:20のモル比で混合した後、窒素雰囲気中、1800℃で6時間熱処理し、球状窒化アルミニウムフィラーの作製を行った。80:10:10及び80:20:10の組成比においては、炭酸カルシウムのみをフラックスとして用いた場合と同様に(1+1)塩酸溶液中で攪拌しながらフラックス部分を溶かし、球状化した窒化アルミニウムを単離することが可能であった。しかし、酸化イットリウムのみを使用した場合、Y2O3やY4Al2O9等が残留し易い。フラックス中に析出したこれらの結晶相は、窒化アルミニウムに比べて粒径が非常に小さいので、酸処理後に分級処理をすることにより球状窒化アルミニウムを単離することができる。」
(3)甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、以下ア、イの記載がある。
ア「[0009] 本発明の硬化性放熱組成物は、優れた厚さ方向の放熱性を有することから、パワー半導体、光半導体を含む半導体素子、半導体装置、回路用金属板、前記金属板からなる回路、回路基板、混成集積回路分野等の電気部品を固定する接着剤やシートとして使用することができる。」
イ「[0022] 圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の例としては、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの金属酸化物の凝集粒、水酸化ニッケル、水酸化イットリウムなどの金属水酸化物の凝集粒、タンタルなどの金属の凝集粒、炭酸カルシウム、マンガン酸リチウムなどの塩の凝集粒、六方晶窒化ホウ素(hBN)凝集粒を挙げることができる。これらの中でも、優れた放熱性を得ることができるという観点からhBN凝集粒が好ましい。」
(4)甲第5号証の記載内容
甲第5号証には、以下アの記載がある。
ア「[0015] 本発明の樹脂組成物の硬化体である高熱伝導性樹脂成型体に特に高い耐水性が要求される場合、樹脂との混合前に予め窒化アルミニウム粒子を耐水処理し、耐水性窒化アルミニウム粒子として用いることも好ましい。この様な耐水処理に用いる処理剤(以下、耐水化処理剤ともいう)としては、リン酸、リン酸アルミニウム等の金属リン酸塩、酸性リン酸エステル、ホスホン酸化合物、シランカップリング剤、有機酸などがあるが、中でもリン酸、リン酸アルミニウム等の金属リン酸塩、酸性リン酸エステルのいずれか、或いはこれらを組み合わせて用いる事が好適である。上記リン酸は特に限定されず公知のものを使用することが出来る。それらを例示すると、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸などがある。また、金属リン酸塩の例としてはリン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、リン酸バリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ガリウム、リン酸ランタンなどの酸性水溶液を挙げることが出来る。・・・」
(5)甲第6号証の記載内容
甲第6号証には、以下ア~ウの記載がある。
ア「【請求項1】
平均粒子径3~30μm、真球度0.75以上、酸素濃度1重量%以下であり、前記平均粒子径をd(μm)としたときに、比表面積S(m2/g)が下記式(1)を満足することを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。
(1.84/d)≦S≦(1.84/d+0.5) (1)」
イ「【表1】
」
ウ「【図1】
」
3 申立理由(進歩性欠如)についての当審の判断
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、前記2(1)アの請求項1に記載のとおり、球状窒化アルミニウムフィラーの製造方法について記載され、当然のことながら、前記2(1)エの図1にみられるように、当該製造方法により製造された該フィラー自体についても記載されているといえるから、甲第1号証には、次の発明(以下、後者の物の発明を「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
・「窒化アルミニウム粉末をフラックス処理して球状窒化アルミニウムフィラーを製造する方法であって、窒化アルミニウム粉末を、フラックス中で球状化処理するにあたり、窒化ホウ素質、窒化アルミニウム質又は窒化ケイ素質の処理容器を用いて不活性ガス中1650~1900℃で処理する球状窒化アルミニウムフィラーの製造方法。」
・「上記の製造方法により製造された球状窒化アルミニウムフィラー。」
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
イ 相違点1についての検討
以下、前記アの相違点1について検討する。
前記2(1)ア~エによれば、確かに、甲第1号証には、窒化アルミニウム粉末をフラックス中で熱処理することにより、粒子を球状化することが記載されており、また、作製された球状窒化アルミニウムフィラーの走査型電子顕微鏡による観察結果が、図1に示されている。
しかしながら、甲第1号証には、相違点1に係る「粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有している」ものとする点については、何ら記載も示唆もされていない。他の証拠をみても同様である。
そうである以上、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1、3~6号証に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るとはいえない。
(3)本件発明4、6、7について
本件発明4、6は、本件発明3を引用するものであって、本件発明3の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記(2)イに示した理由と同様の理由により、甲1発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明7は、本件発明3の「平均粒子径」の範囲をさらに限定したものであるから、前記(2)イに示した理由と同様の理由により、甲1発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 令和3年5月11日付けの意見書における申立人の主張について
申立人は、令和3年5月11日付けの意見書にて、不連続点の判定方法(意見書(4.1)を参照。)、漸次的変化の判別方法(意見書(4.2)を参照。)、及び「各粒子の平面投影形状」の取得方法(意見書(4.3)を参照。)、について、接線の傾きの連続性/不連続性や円弧状の連続性/不連続性等がSEM写真から客観的に判定できない旨主張している。
そこで検討するに、本件明細書の【0053】には、具体的な走査電子顕微鏡や、画像処理ソフトを用いたSEM写真の観察方法が記載され、また、図1、2、4~7には、実際に撮影されたSEM写真が倍率等の撮影情報とともに示されているのであるから、これらの明細書の記載と観察に使用された走査電子顕微鏡等の観察環境に関する技術常識とを合わせみれば、当業者であれば、SEM写真の解像度や分解能がどの程度のものであるのかを理解することができ、さらに、本件発明における、接線の傾きの連続性/不連続性や円弧状の連続性/不連続性等を、当該SEM写真から相応に把握できると考えるのが合理的である。
よって、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1、2は訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700861