特許異議申立
2026-700263
炭素材料分散体の製造方法および炭素材料分散体並びにこれに用いる装置
- 審判番号
- 2026-700263
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-107806
- 登録番号
- 7746471
- 請求日
- 2026年03月27日
- 審決日
- 2026年07月07日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】リファインホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】中島 雄樹
- 【異議申立人】岡田 直子
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 手島 理
- 分類
- P1651.121-Y (C01B) / P1651.537-Y (C01B) / P1651.55 -Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7746471号発明「炭素材料分散体の製造方法および炭素材料分散体並びにこれに用いる装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7746471号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7746471号の請求項1~2に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」ともいう。)についての出願は、令和2年6月12日に出願された特願2020-102342号(以下、「原出願」という。)の一部を、令和6年7月3日に新たな出願としたものであって、令和7年9月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和8年3月27日に特許異議申立人岡田直子(以下、「申立人」という。)により本件特許1~2に対する特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許の請求項1~2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とするリチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。
【請求項2】
炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で5×10-8以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する特許異議の申立ての理由は、概略、次のとおりである。
なお、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面を「本件明細書」などといい、まとめて、「本件明細書等」という。また、本件特許の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面を「本件当初明細書」などといい、まとめて、「本件当初明細書等」という。
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~2は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許1~2は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~2は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許1~2は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~2は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第4号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許1~2は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 申立理由4(明確性要件違反)
本件発明1の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」との規定や、本件発明2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で5×10-8以下」との規定が不明確である。
すなわち、本件発明の課題は、炭素材料分散体の金属成分を除去することと解されるところ、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下」との規定における「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」とは、鉄のみではなく、ステンレス鋼の成分であるCr、Ni、Mo、Mnなども含まれると解するのが相当であるから、これら金属成分の合計が炭素材料に対して質量分率でそれぞれ「1×10-7以下」及び「5×10-8以下」と規定しているとも解されるが、「Fe合計量として」とはいかなる意味か不明である。
また、鉄とステンレス鋼に含まれる鉄とを合計したものを意味するのかもしれないが、それではステンレス鋼の成分であるCr、Ni、Mo、Mnなども含まれる金属成分との記載と整合せず、本件発明の課題が解決される規定とならない。
さらに、本件明細書の【0097】、【0103】及び【0105】には、アセチレンブラック分散体中におけるFe濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定したことが記載されているが、ステンレス鋼の成分であるCr、Ni、Mo、Mnなどの含有量を測定したとは記載されていないし、Fe濃度を測定すればこれらの含有量が測定できるとの記載もない。
以上のとおり、本件発明1の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」との規定や、本件発明2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で5×10-8以下」との規定は、その技術的範囲は明らかでなく、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
したがって、本件特許1~2は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。
(5) 申立理由5(サポート要件違反)
本件発明の課題は、炭素材料中における金属成分を効率良くかつ確実に除去し、リチウムイオン二次電池製造用とした場合、製品品質が極めて高く、安定した電気的特性を発揮し得る炭素材料分散体を提供することと解される。
ところで、前記(4)のとおり、本件発明1及び2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下」との規定は不明確であるから、この規定を二通りに解釈して検討する。
まず、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分の質量分率で・・・以下」と解釈した場合、本件明細書の【0020】に「上記課題を解決する本発明はまた、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体により達成される。」と記載されているが、課題を解決できる理由は記載されていない。そして、前記課題の「金属成分」には、「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」以外を含むので、鉄及びステンレス鋼の「金属成分」を規定するだけで課題を解決できるのか不明である。また、本件明細書の実施例には、最終的に得られたアセチレンブラック分散液中に含まれるFe濃度が記載されているものの、比較例に対して、何らかの作用効果が奏されたことが記載されていないし、何らかの課題が解決されたことも記載されていない。そもそも、実施例で測定したFe濃度が「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」としての鉄であったとも記載されていない。
次に、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分のうちFe合計量が質量分率で・・・以下」と解釈した場合、本件発明の課題の「金属成分」には、「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」だけでなく、種々の金属成分を含むものであるから、「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分のうちFe合計量」の含有率のみを規定するだけで課題が解決できるのか不明である。また、本件明細書の実施例には、最終的に得られたアセチレンブラック分散液中に含まれるFe濃度が記載されているものの、比較例に対して、何らかの作用効果が奏されたことが記載されていないし、何らかの課題が解決されたことも記載されていない。そもそも、実施例で測定したFe濃度が「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」に含まれる鉄であったとも記載されていない。
以上のとおり、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下」との規定をいずれに解釈しても、本件発明1及び2は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるように明細書に記載されていない。
したがって、本件特許1~2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。
(6) 申立理由6(新規事項の追加)
令和7年7月22日付けの手続補正は、請求項1の「磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で・・・であり」との構成を、「炭素材料に対して鉄およびステンス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・であり」と補正し、かつ、請求項2に「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・である」との構成を追加している(下線は、申立人が追加した。)。
しかしながら、本件当初明細書の【0041】には、「炭素材料Cの粉粒中に混入していた鉄、ステンレス鋼等の磁性金属成分」という記載があるが、鉄とステンレス鋼は磁性金属成分の単なる例示であって、「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」との記載も、「金属成分がFe合計量として」との記載もない。また、【0097】及び【0109】には、実施例におけるFe濃度の測定法が記載されているが、測定したFe量が「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として」と特定されるものであるとの記載はない。さらに、【0103】及び【0105】には、実施例において測定したFe濃度の値が記載されているが、それが「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として」と特定されるFe濃度であることは記載されていないし、そのように当業者が認識することもできない。その他、本件当初明細書等のいずれを参照しても、上記補正の根拠となり得る記載は見当たらない。
以上のとおり、令和7年7月22日付けの手続補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができない。
したがって、本件特許1~2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項に該当し、取り消されるべきものである。
(7) 証拠方法一覧
甲第1号証 国際公開第2014/042266号
甲第2号証 特開2010-86955号公報
甲第3号証 特開2010-49872号公報
甲第4号証 特開2002-370047号公報
甲第5号証 特開2003-123742号公報
甲第6号証 特開2018-8838号公報
甲第7号証 特開2002-105355号公報
2 各甲号証の記載について
(1) 甲第1号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第1号証には、「アセチレンブラック分散スラリー及びリチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当審が付した(以下同様)。
ア 「請求の範囲
[請求項1] 少なくともアセチレンブラック及び分散媒を含有するスラリーであって、スラリー中のアセチレンブラック含有量が10質量%以上30質量%以下、かつB形粘度計で測定する粘度が100 mPa・s以上5000mPa・s以下であることを特徴とするアセチレンブラック分散スラリー。
・・・
[請求項4] 分散媒としてN-メチル-2-ピロリドンを含有する、請求項1~3のいずれかに記載のアセチレンブラック含有スラリー。
・・・
[請求項10] 請求項1~9のいずれかに記載のアセチレンブラック含有スラリーを、少なくとも電極活物質及びバインダーと混合し、電極基板に塗布、乾燥することを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
[請求項11] 請求項10記載の製造方法により得られたリチウムイオン二次電池の正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
イ 「技術分野
[0001] 本発明は、炭素材料分散スラリーに関するものであり、さらに詳しくは、リチウムイオン二次電池正極板用電極スラリー用の非水系炭素材料スラリー及びそれを使ったリチウムイオン二次電池に関する。」
ウ 「背景技術
[0002] 携帯電話やノート型パソコン等の普及に伴って、リチウムイオン二次電池が注目されており、需要が高まっている。現在のリチウムイオン二次電池では、電極面積を大きくすることにより電池反応の効率を上げる目的から、電極活物質とバインダー、導電材等を混合した塗料を帯状の金属箔上に塗布した正負両極が用いられ、これらがセパレータと共に巻き回された後、電池缶に収納されている(特許文献1等)。
[0003] このうち、正極は、電極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物等を用いる。このような電極活物質単独では電子伝導性、即ち導電性に乏しいため、導電性を付与するために高度にストラクチャーが発達した導電性カーボンブラックや、結晶が著しい異方性を示すグラファイト等の炭素材料を導電材として添加し、バインダー(結着材)と共にN-メチル-2-ピロリドン等の非水系溶媒に分散させて、スラリーを作製し(特許文献2)、このスラリーを金属箔上に塗布・乾燥して正極を形成する。」
エ 「実施例1
[0031] 〔アセチレンブラック分散スラリーの製造1〕 N-メチル-2-ピロリドン79質量%に、分散性付与剤としてメチルセルロースポリマー1質量%を溶解させた。得られた溶液に、アセチレンブラックとして「デンカブラック粒状」(電気化学工業(株)製)20質量%を混合し、ビーズミルを用いて、凝集しているアセチレンブラックを解砕しながら分散した。サンプルを取り出し、粘度の極小値となるせん断速度を測定したところ、170 s-1であり、100s-1を超えていることを確認し、分散工程を終了した。得られたアセチレンブラック分散スラリーを「スラリー1」とする。 スラリー1は、最大粒子径は17.5 μm、粘度が150 mPa・sであり、最大粒子径が20μm以下、および粘度が100mPa・s以上、印加周波数1000Hzにおけるアドミッタンスの濃度依存性が1.0 μS/質量%以下、かつ位相差が5度以上の範囲に入っている。」
(2) 甲第2号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第2号証には、「電池電極用複合材料」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の炭素材料と、前記炭素材料の分散剤としての、酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の誘導体とによって、電極用活物質表面を被覆することを特徴とする電池電極用複合材料の製造方法。
【請求項2】
少なくとも一種の炭素材料を分散剤を用いて溶剤中に分散させた分散体と、電極用活物質とを混合した後、溶剤を除去することを特徴とする請求項1記載の電池電極用複合材料の製造方法。
・・・
【請求項7】
請求項1~5いずれかに記載の製造方法で製造されてなる電池電極用複合材料。
・・・
【請求項11】
集電体上に、請求項7または8記載の電池電極用複合材料、または、請求項9または10記載の電極用合材ペーストを使用して電極合材層が形成されてなることを特徴とする電池用電極。
【請求項12】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項11記載の電池用電極であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
イ 「【背景技術】
・・・
【0003】
そのような要求に応えるため、リチウムイオン二次電池の開発が活発に行われている。リチウムイオン二次電池の電極としては、リチウムイオンを含む正極活物質と導電助剤と有機バインダー等からなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた正極、及び、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質と導電助剤と有機バインダー等からなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた負極が使用されている。
・・・
【0007】
これら電極活物質の中で炭素質系活物質を除く、酸化物系等の正・負極活物質は、それ自身の電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られないため、これらの活物質を炭素材料(例えば、アセチレンブラック)やグラファイト(黒鉛)等の導電助剤と結着剤であるバインダーとを混合し、ペースト化したもの(電極合材ペースト)を集電体たる金属箔の表面に塗布乾燥することで、金属箔表面に活物質層を形成することによりその導電性を確保し、電極の内部抵抗を低減することが試みられている。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明における電池電極用複合材料は、電極用活物質と、分散剤として「酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる1種以上の誘導体」を用いた導電性炭素材料の分散体とを混合した後、該混合物を乾燥することによって溶剤を除去して活物質表面を炭素材料で被覆することを特徴とするが、以下にその詳細について説明する。
・・・
【0128】
<溶剤>
本発明に使用される溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明における溶剤は、電池電極用複合材料を作製するために使用されるものと、電極用合材ペーストを作製するために使用されるものとがあるが、両者が同じ溶剤であってもかまわないし、異なる溶剤であってもよい。また、二種類以上の溶剤の混合物であってもよい。
・・・
【0132】
炭素材料の分散体は、例えば、酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる1種以上の分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散することにより、製造することができる。
【0133】
上記製造方法は、本発明で使用する分散剤を、溶剤中に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加、混合することで、これら分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させつつ、溶剤に分散するのが好ましい。このときの分散体中における炭素材料の濃度は、使用する炭素材料の比表面積や表面官能基量などの炭素材料固有の特性値等にもよるが、1重量%以上、50重量%以下が好ましく、更に好ましくは5重量%以上、35重量%以下である。炭素材料の濃度が低すぎると生産効率が悪くなり、炭素材料の濃度が高すぎると分散体の粘度が著しく高くなり、分散効率や、分散体のハンドリング性が低下する場合がある。
・・・
【0139】
また、炭素材料粒子分散時に金属異物等のコンタミを除く工程を入れることが好ましい。カーボンブラック、グラファイトおよび、炭素繊維等の炭素材料には、それらの製造工程由来(ラインコンタミや触媒として)の金属異物が含まれている場合が多く、これら金属異物を除去することは、電池の短絡を防ぐために非常に重要となる。本発明では、極性官能基を有する分散剤の効果により、炭素材料粒子の凝集がよくほぐれること、および分散体の粘度が低くなるため、分散剤が未添加の場合に比して、分散体中の炭素材料粒子濃度が高い場合でも、効率良く金属異物を取り除くことができる。金属異物を除く方法としては、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる。
・・・
【0156】
・・・
<導電助剤>
本発明の電池電極用複合材料に含まれる炭素材料の量が、電極用合材ペーストの導電助剤成分の量として不十分である場合には、さらに導電助剤を添加することが好ましい。例えば、炭素材料、リチウムと合金化し難い金属、導電性高分子材料等が挙げられるが、本発明に使用される分散剤との相互作用を考慮すると、炭素材料が好ましい。炭素材料としては特に限定されず、本発明の炭素材料分散体に使用した炭素材料と同じであってもよいし、異なるものを使用してもよい。」
(3) 甲第3号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第3号証には、「電池用組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性官能基の平均置換基数が0.4~2.9である分散剤としてのジオキサジン誘導体と、導電助剤としての炭素材料とを含有すること特徴とする電池用組成物。
・・・
【請求項5】
更に、溶剤を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか記載の電池用組成物。
・・・
【請求項9】
溶剤が、N-メチルピロリドンであることを特徴とする請求項5ないし請求項8いずれか記載の電池用組成物。
・・・
【請求項11】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウム二次電池であって、前記正極合材層または前記負極合材層が、請求項9記載の電池用組成物を使用して形成されていることを特徴とするリチウム二次電池。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらは電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られない。そこで、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)やグラファイト(黒鉛)等の炭素材料を導電助剤として添加することで導電性を改善し、電極の内部抵抗を低減することが試みられている。
・・・
【0015】
またリチウム二次電池においては、上述の問題の他に、金属成分の負極上での還元・析出による電池性能劣化の問題や、短絡の発生による過剰発熱や発火といった安全性にかかわる問題もある。金属成分による性能劣化や短絡の要因としては、(1)製造工程における、銅や鉄といった金属不純物の混入や、(2)正極、集電体、電池容器等に含まれる金属イオンが電解液中へ溶出した後に、負極上で還元・析出することや、また、(3)正極の劣化により、正極活物質から金属イオンが溶出し、負極上で還元・析出すること等が考えられる。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0066】
<本発明の組成物の製造方法>
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物は、例えば、酸性官能基を有するジオキサジン誘導体を含む分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散し、該分散体に、必要に応じて正極活物質、負極活物質、またはバインダー成分を混合することにより、製造することができる。各成分の添加順序などについては、これに限定されるわけではない。また、必要に応じて更に溶剤を追加しても良い。
【0067】
上記製造方法は、酸性官能基を有するジオキサジン誘導体を含む分散剤を、溶剤中に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加、混合することで、これら分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させつつ、溶剤に分散するものである。このときの分散体中における炭素材料の濃度は、使用する炭素材料の比表面積や表面官能基量などの炭素材料固有の特性値等にもよるが、1重量%以上、50重量%以下が好ましく、更に好ましくは5重量%以上、35重量%以下である。炭素材料の濃度が低すぎると生産効率が悪くなり、炭素材料の濃度が高すぎると分散体の粘度が著しく高くなり、分散効率や、後述するコンタミ除去工程の効率および、分散体のハンドリング性が低下する場合がある。とりわけ、コンタミを除く工程を入れる場合は、このときの分散体の粘度を好ましくは10,000mPa・s以下、より好ましくは5,000mPa・s以下、更に好ましくは3,000mPa・s以下とする。
・・・
【0072】
また、炭素材料分散時に金属異物等のコンタミを除く工程を入れることが好ましい。カーボンブラック、グラファイトおよび、炭素繊維等の炭素材料には、それらの製造工程由来(ラインコンタミや触媒として)の金属異物が含まれている場合が多く、これら異物を除去することは、電池の短絡を防ぐために非常に重要となる。本発明では、酸性官能基を有するジオキサジン誘導体を含む分散剤の効果により、炭素材料の凝集がよくほぐれること、および分散体の粘度が低くなるため、分散剤が未添加の場合に比して、分散体中の炭素材料濃度が高い場合でも、効率良く異物を取り除くことができる。異物を除く方法としては、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる。」
エ 「【0104】
〔実施例〕
・・・
【0115】
<導電助剤用カーボン分散体の調製>
[カーボン分散体1-7、10-21]
表3および表4にに示す組成に従い、ガラス瓶に各種溶剤89.5部および、分散剤B~K、M~O、Q~Sのいずれか0.5部を仕込み、攪拌・混合して分散剤を完全ないしは一部溶解させた。次に、導電助剤となる各種カーボン10部を添加し、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェカーで分散した。
【0116】
得られた分散液を磁石つきの攪拌翼でよく攪拌したのち、更に目開き20μmのフィルターを通し、各種カーボン分散体を得た。
カーボンとしては、市販のアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m2/g、電気化学工業社製)、もしくはファーネスブラック(Super-P Li、一次粒径40nm、比表面積62m2/g、TIMCAL社製)のいずれかを使用した。」
(4) 甲第4号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第4号証には、「磁力選別装置及び磁力選別方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、粉体等の非磁性原材料に混入された磁性不純物を磁力によって吸着除去して選別する磁力選別装置及び磁力選別方法に関し、さらに詳しくは鉄等の磁性不純物を高精度に除去することが必要な非水系二次電池の正極材の製造工程等に適用して好適な磁力選別装置及び磁力選別方法に関する。」
イ 「【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】かかるリチウムイオン二次電池は、フィルム状の集電体に電極活物質が塗布されて電極材を形成し、この電極材をフィルタを介して巻回或いは折り畳んで積層して非水電解質とともに電池缶に封装してなる。ところで、リチウムイオン二次電池は、例えば正極活物質中に鉄等の金属不純物が混入していた場合に、この金属不純物が充電中にイオンとして析出してセパレータ中をブリッジして負極との間で内部ショートを生じるといった問題がある。」
ウ 「【0022】
【発明の実施の形態】・・・
・・・
【0024】正極材2は、フィルム状のアルミニウム箔等からなる正極集電体の両面或いは片面に正極活物質が塗布されるとともに、正極集電体の一端部に蓋体6に接続される正極リード7を取り付けてなる。正極活物質には、例えばLixMO2(M:一種類以上の遷移金属、x:電池の放電状態により異にし、通常0.05以上1.10以下)に示す高電圧の発生或いはエネルギー密度に優れた特性を有するリチウム複合酸化物やその他の金属酸化物、金属硫化物が用いられる。
【0025】正極活物質は、ポリフッ化ビニリデン等の結合剤が混合されるとともに導電剤として炭素粉末等が添加され、n-メチルピロリドン等の有機溶媒に分散されてスラリー状の正極材塗料を生成する。正極材2は、ドクターブレード法等によって正極材塗料を正極集電体に均一に塗布した後に高温乾燥処理を施して有機溶媒を飛ばし、さらにロールプレスによる加圧処理を施して正極活物質層を正極集電体上に高密度化して成膜形成してなる。
・・・
【0029】ところで、正極活物質は、例えば粉砕機、焼成ホッパ、スクリューフィーダ、粉砕機、パルスエアー捕集器、粉砕ホッパー、計量器、プラネタリーミキサ等の装置を有する製造工程によって製造される。製造工程は、上述した各装置間を空気搬送管によって連結し、閉鎖型ラインを構成して正極活物質の製造を行う。製造工程においては、正極活物質の原材料9に含まれ、或いは工程中で混入する鉄等の磁性不純物を高精度に除去するために、磁力選別装置10が設置される。
・・・
【0037】各磁石装置15は、複数個の単磁石を組み合わせて組磁石を構成し、この組磁石の磁力が磁力選別空間部14に対して垂直方向に作用されるようにして選別筒体11に取り付けられる。磁力選別装置10は、図2に示すように各磁石装置15を選別筒体11の外周部に軸方向にならんでそれぞれ取り付けることにより、所定の長さを有する磁力選別空間部14を構成するとともに、原材料9として粉体ばかりでなく懸濁液であってもその磁力選別を行い得るようにする。したがって、磁力選別装置10は、製造工程中において、原材料9ばかりでなく正極材塗料についても混入した磁性不純物の磁力選別を行うことが可能である。」
エ 「【0050】
【実施例】・・・
【0051】(実施例1)上述した磁力選別装置10によって磁力選別を行った正極活物質10Kgを用いて、以下の仕様の実施例1のリチウムイオン二次電池を製作した。
LiCoO2(平均粒径15μm) 100重量部
ポリフッ化ビニリデン(平均分子量30万) 5重量部
カーボンブラック(平均粒径15μm) 10重量部
n-メチル-2-ピロリドン 100重量部
以上の組成の懸濁液をディスパーにて4時間混合して正極材塗料を製作し、この正極材塗料を厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥後にロールプレス機にて圧縮した後にスリッタにて裁断して正極原反を作成した。
・・・
【0055】(実施例2)磁力選別工程を経ない正極活物質10Kgを用いて正極材塗料を調製するとともに、この正極材塗料を上述した磁力選別装置10によって磁力選別を行った後に上述した実施例1と同様の工程を経てリチウムイオン二次電池を製作した。
【0056】(実施例3)上述した磁力選別装置10によって磁力選別を行った正極活物質10Kgを用いて正極材塗料を調製するとともに、この正極材塗料についてさらに磁力選別装置10によって磁力選別を行った後に上述した実施例1と同様の工程を経てリチウムイオン二次電池を製作した。
・・・
【0063】実施例1乃至実施例3のリチウムイオン二次電池及び比較例1乃至比較例3のリチウムイオン二次電池についての評価結果は、表1に示す通りであった。
【0064】
【表1】
[図:0001438314000001.jpg]
」
(5) 甲第5号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第5号証には、「非水電解液二次電池用電極板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 極活物質、導電剤及び結着剤とを溶媒下混合してスラリーを調製し、これを集電体上に塗布・乾燥する非水電解液二次電池用電極板の製造方法において、該スラリーを集電体上に塗布する工程の前に、磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程を有することを特徴とする非水電解液二次電池用電極板の製造方法。
【請求項2】 磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程が、スラリーに対して行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】 磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程が、溶媒と混合する前の極活物質、導電剤及び/又は結着剤に対して行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】 磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程が、スラリー又はスラリーの原料を100ガウス以上、極活物質が吸引される磁束密度未満の磁場を通過させることにより行われる請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】 極活物質が、リチウム遷移金属複合酸化物である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】 極活物質が、炭素質材料である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。」
イ 「【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】一方、非水電解液二次電池の正極活物質としては、LiCoO2やLiNiO2、LiMn2O4等のリチウム遷移金属複合酸化物が実用段階に入っている。電池は一般に、上記のような電池材料を集電体に塗布して極板を製造し、それらを組み立てて電池とする。しかしながら、電池材料の製造工程で原料由来の鉄や、製造工程において鉄粉が混入する場合があり、電池材料に鉄が混入している場合はこの鉄によりマイクロショートが発生すると考えられ、電池が電池としての機能を失ってしまう。また、場合によっては製造工程においてSUS粉が混入する場合があり、その際にも電池材料中のSUS粉によりマイクロショートが発生すると考えられ、電池が電池としての機能を失ってしまう。」
ウ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで、非水電解液二次電池用電極板への鉄の混入を防止する方法が求められていた。更には、非水電解液二次電池用電極板へのSUS粉の混入を防止する方法が求められていた。」
エ 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、非水電解液二次電池用電極板を製造する際に、磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程を設けることにより異物としての金属を除去できることを見出し、本発明を解決するに至った。」
オ 「【0010】
【発明の実施の形態】・・・
・・・
【0059】非水電解液二次電池用電極板が、非水電解液二次電池用正極版である場合、正極板は、通常上記正極材料と結着剤と導電剤とを含有する活物質層を集電体上に形成してなる。本発明において正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物である。活物質層は、通常、上記構成成分を含有するスラリーを調製し、これを集電体上に塗布・乾燥することで得ることができる。
【0060】活物質層中の本発明の正極材料の割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。正極材料が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。正極に使用される導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等を挙げることができる。活物質層中の導電剤の割合は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。導電剤が多すぎると容量の面で不十分となることがあり、少なすぎると電気導電性が不十分になることがある。」
カ 「【0071】
【実施例】・・・
【0077】実施例8
下記表2の全ての原料について、混練機により2時間混練し正極用スラリーとした。得られた正極用スラリー40mlと粒径100μm程度の鉄粉1gを50mlビーカーに入れ攪拌した後、50mm×10mm×10mmで磁束密度が2200ガウスのアルニコ磁石で5分間攪拌した。その結果、鉄粉1gが磁石により回収された。この操作を繰り返し、鉄粉を回収した後のスラリー1リットルを作成し、正極塗料を20μm厚のアルミニウム集電体基材上にエクストルージョン型のダイコーティングによって塗布、乾燥し、活物質がバインダーによって集電体上に結着された多孔質膜を作成した。ついで、ロールプレス(カレンダー)をもちいて、線圧を100~400kgf/cmの範囲で条件を変えながら圧密し電極を作製した。この正極の正極材層の厚みは61μmであった。
【0078】
【表2】
[図:0001438314000002.jpg]
」
(6) 甲第6号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第6号証には、「カーボンナノチューブを含有する分散液から金属イオンを除去する方法、カーボンナノチューブ分散液、およびカーボンナノチューブ含有膜」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含有する分散液から金属イオンを除去する方法、およびこれを用いて形成された金属イオン含有の少ないカーボンナノチューブを含有する分散液、およびこれを用いて形成された金属イオン含有の少ないカーボンナノチューブ含有膜に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CNT分散液中に不純物として金属原子を含有すると、電池等をはじめとした各種電子デバイス用にCNT分散液を用いて形成された膜や電極を形成する際に、電子デバイスの性能や信頼性や耐久性に悪影響があるので好ましくない。一方、CNTは一般的に鉄(Fe)やコバルト(Co)やニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)等を含む触媒を用いるのでこれら金属や金属酸化物等を不純物として含有する形で製造される。また、触媒の担体や作業環境から混入する、ナトリウム(Na)やカリウム(K)やカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等の金属や金属酸化物等も不純物として含有する形で製造される。それら金属の除去には硝酸・塩酸・硫酸・フッ酸等を用いる酸処理によるイオン化溶解処理と、各種ろ過膜によるCNTの回収等が組み合わせて利用されることがある。しかしこれらによっても、電子デバイスが要求する残留金属イオン濃度がPPMレベル以下に金属イオン成分を除去することは困難である。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0020】
CNT分散液の濃度は簡便には、OD値(波長550nmでの光路長1cmでの光線透過率の対数値)で評価できる。光線透過率1%は、OD値2となり、これはCNTの重量濃度0.006%に相当する。精製CNTを用いた塗膜が有用な膜厚を形成するためには黒色で高濃度の原料となるCNT分散液が好ましく、そのOD値が2以上あることが好ましい。」
エ 「【0057】
3.実施例
・・・
【0062】
3.1.3 CNT分散液のカラム精製
上記3.1.1で作製したOD=4.0のCNT分散液から10Lをポリ瓶に移し、上記3.1.2で作成したCNT精製用カラムの上から注ぎながら、開けた流出口から液を排出した。CNT分散液は基本的にカラムの上端から50mmの範囲となるように導入薬液量を調整しつつ、ニードルバルブにて排出される液体量を10mL/分に調整した。
【0063】
流出口から出てくるCNT分散液を回収した。回収されたCNT分散液は、十分な濃度(OD=3.9)を維持し、pHがCNTの貯蔵安定性がよい6.8で、鉄イオン濃度が半導体デバイスへの悪影響がない0.1ppm以下で硝酸イオン濃度も10ppm以下の精製された良好なCNT分散液であった。」
(7) 甲第7号証の記載
原出願の出願前に公開された甲第7号証には、「高純度カーボンブラック」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、不純物、特に金属不純物による汚染を嫌う半導体関連分野、例えばIC、LSIなどの半導体デバイス製造工程中のフォトレジストプロセスにおける反射防止膜の形成などに好適に用いることのできる高純度カーボンブラックに関する。」
イ 「【0002】
【従来の技術】カーボンブラックは、ゴム補強材を中心とするゴム用途分野をはじめ、黒色顔料として樹脂着色剤、印刷インキ、塗料などの用途や導電性付与剤などの用途に広く使用されており、カーボンブラックの種類としてはファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックが古くから知られている。」
ウ 「【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して詳細に説明する。
【0017】実施例1、2
・・・
【0022】次に、実施例1、2のカーボンブラック試料中に含まれる金属元素含有量を測定し、その結果を表2に示した。なお、測定はAlはJIS R7223に準じてCa添加灰化し、酸溶解後、誘導結合プラズマ原子発光分析法にて測定し、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Niは800~950℃で高温灰化し、酸溶解後、誘導結合プラズマ原子発光分析法にて測定し、K、Naは800~950℃で高温灰化し、酸溶解後、原子吸光法にて測定した。
【0023】
【表2】
[図:0001438314000003.jpg]
」
3 本件当初明細書、及び本件明細書の記載について
本件当初明細書には、次の記載がある。
また、本件明細書は、手続補正がされていないため、本件明細書にも、本件当初明細書のとおりの次の記載がある。
(1) 「【背景技術】
【0002】
従来、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、及びフラ一レン等の炭素材料は、・・・半導体分野等における電極形成材料、導電層形成材料等の幅広い分野で使用されている。
【0003】
上記した炭素材料のうちカーボンブラックを例にとると、カーボンブラックには、(a)油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させてカーボンブラックを得るファーネス法により得られるファーネスブラック、(b)天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めて得るチャンネル法により得られるチャンネルブラック、(c)アセチレンガスを熱分解してカーボンブラックを得るアセチレン法によるアセチレンブラック、(d)蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返してカーボンブラックを製造するサーマル法によるサーマルブラックなどが知られている。これらのカーボンブラックの原料にはFe、Cuなどの金属成分が含まれている。これらの金属成分はカーボンブラックの製造工程で濃縮され、さらに冷却水や製造設備などからの金属成分の混入もあるため、カーボンブラックは種々の金属成分を含有するものとなる。
【0004】
そのため、例えば電池分野、半導体分野の如く金属成分の混入を極端に嫌う用途では、それらの金属成分を除去し炭素材料を高純度とすることが求められる。
【0005】
ところで、近年、高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質が開発されている。固体電解質を用いたリチウム二次電池では、有機電解液を用いたリチウム二次電池と比較して、固体電解質と金属リチウムの電荷移動抵抗が非常に小さいため、電池の内部抵抗を小さくすることができる。このような全固体電解質リチウム二次電池を製造する上で、炭素材料は、例えば、電極形成用の導電助剤として分散媒に分散させた炭素材料分散体の形態にて用いられる。全固体電解質リチウム二次電池用途においては、特に、金属成分の存在が電池特性に大きな影響を及ぼすため、できる限り金属成分を除去することが望まれる。
【0006】
なお、このような全固体電解質リチウムイオン二次電池に限られず、リチウムイオン二次電池の電極形成用の導電助剤である炭素材料中における金属異物の存在は、デンドライト状態のリチウム金属析出の発生要因であり、内部短絡の原因となるため、その除去はリチウムイオン二次電池全般に望まれることである。
【0007】
炭素材料分散体からの金属成分の除去方法としては、従来、例えば、特許文献1に示されるようにカーボンブラックの水性分散液を各種水溶性キレート剤と接触させ、カーボンブラックに含まれる金属成分を溶出させると共にキレート剤に捕捉して液相へ移行させた後、固液分離する方法(特許文献1)、カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を設ける方法(特許文献2)が提案されている。また、炭素物質を対象とするものではないが、非導電性粒子を含むスラリー中より磁性物質を除去する上で、当該スラリーの流束中にマグネットフィルター等の磁石を配して磁性物質を除去する方法(特許文献3)が提案されており、さらに、所定粒度のカーボン粒子、粒子状結着剤及び分散媒を含む二次電池用スラリー組成物の粘度を分散処理によって所定粘度とする分散工程、および前記分散工程により分散処理が行われた前記二次電池用スラリー組成物中の、Fe、NiおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む粒子状金属成分を、ビッカース硬度が10GPa以上25GPa未満のマグネットカバーを有するマグネットにより除去する方法(特許文献4)が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1~4に示されるような従来知られる金属成分の除去方法では、いずれも十分な効果が得られるところまでには至っていない。
【0009】
さらに、特許文献1に示されるようにキレート剤を用いる化学的除去法では、添加したキレート剤をカーボンブラックから分離するような処理工程がさらに必要となって、処理が煩雑となり、製造コストがかかるものであった。また、キレート剤を添加できる分散系としては実質的に水系のみに限られ、水分の存在を嫌うような固体電解質リチウム二次電池用途の非水系分散体の処理としては不適であった。
【0010】
また特許文献2に示されるようなイオン交換樹脂を用いる場合でも、添加したイオン交換樹脂とカーボンブラックから分離するような処理工程がさらに必要となって、処理が煩雑となり、またイオン交換樹脂が粒子形状であるためその除去の際これに同伴して系外へ取り除かれてしまうカーボンブラックの量が多くなり、歩留まりが悪いものとなる虞れがあった。
【0011】
また特許文献3および4に示されるような方法では、所定粘度の炭素材料スラリーを調製の後、その流路に、格子状、スリット状等に配された磁石で構成されるマグネットフィルターを配してスラリーを通過させるなどして、金属成分を除去することが提案されているが、炭素材料を含有するスラリー中に含まれる金属成分(磁性体)は、磁界に置かれてもスラリーの流れに抗して磁石に近接できず付着できなかったり、あるいは磁石に付着したとしても後からくるスラリー中の炭素材料の粒子との衝突によって磁石より再び離れてしまったりするため、効率的に金属成分を除去することが困難であった。炭素材料中に混入する金属成分としては、炭素材料の粉粒子とは独立した金属粒子として存在するものもあるが、炭素材料の粉粒子中に含まれているものも多くある。特に後者の炭素材料の粉粒子中に含まれている金属成分は、当該金属成分を含む炭素材料の粉粒子自体の分散媒中での動きが制限されることによって、このように湿式条件下で磁気吸引を行っても、磁石に捕捉されずにスラリー中に残留するものが生じ、高効率で金属成分を除去し得ない虞れが残るものであった。」
(2) 「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明は、炭素材料中における金属成分を効率良くかつ確実に除去し、製品品質が極めて高く、安定した電気的特性を発揮し得る炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。本発明はまた、複雑な工程や廃液処理などを必要とせずに低コストで炭素材料中から金属成分を効率良く分離し、高品質な炭素材料分散体を得ることのできる炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。本発明はさらに、リチウムイオン二次電池製造用の導電助剤分散液として好適な炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。」
(3) 「【課題を解決するための手段】
・・・
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有することを特徴とする炭素材料分散体の製造方法である。
・・・
【0020】
上記課題を解決する本発明はまた、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体により達成される。
【0021】
本発明に係る炭素材料分散体は、前記した第1磁気選別工程および前記第2磁気選別工程を経て得られたものであるものが示される。」
(4) 「【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
<炭素材料分散体の製造方法>
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法は、炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体とを配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有することを特徴とする。
・・・
【0039】
(第1磁気選別工程)
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法においては、まず第1磁気選別工程として、炭素材料Cが粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料Cの粉粒体を回転する磁気ロール表面130上に適用する。
・・・
【0041】
炭素材料Cが粉粒状の乾式状態において、回転する磁気ロール130表面上に適用されると、炭素材料の粉粒群は、少なくとも一時的に面状ないし薄層状で磁気ロールの表面上ないしその近傍空間を通過するため、炭素材料Cの粉粒中に混入していた鉄、ステンレス鋼等の磁性金属成分の粉粒ないしはこのような磁性金属成分を内包する炭素材料の粉粒は、非常に効率よく磁気ロール表面に磁力により吸引捕捉され、一方、炭素材料の粒粉(金属成分を含まないもの)は、反磁性を示すものであるため磁気ロールより離反した軌跡をもって落下することで選別される。また回転する磁気ロールを用いるため、第1磁気選別工程は連続処理とすることができる。
・・・
【0053】
(分散体調製工程)
本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において、上記のように第1磁気選別工程において金属成分を除去して選別された炭素材料は、次いで、分散媒中へ分散され、炭素材料分散体が調製される。この炭素材料分散体の調製工程は、前記した第1磁気選別工程で得られる選別された炭素材料および添加する分散媒体を順次供給して連続的な処理工程としても良いが、第1磁気選別工程で得られる選別された炭素材料が所定量となったところで分散媒体と混合する回分式の処理工程としても良い。
・・・
【0057】
例えば、本発明の製造方法によって得られる炭素材料分散体をリチウムイオン二次電池用途に用いる場合においては、有機溶媒を用いることが望ましい。
・・・
【0063】
(第2磁気選別工程)
本発明に係る炭素材料分散体の製造方法においては、上記したような分散体調製工程の後に、得られた炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有する。
・・・
【0070】
<炭素材料分散体>
本発明の第2の観点に係る炭素材料分散体は、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体である。
【0071】
上記したように本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法を実施することで、金属成分の含有量の非常に少ない高品質の炭素材料分散体を製造することができる。分散体中の炭素材料含有率を10~25質量%程度とすると、金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下、より好ましくは5×10-8以下、さらに好ましくは3×10-8以下とした炭素材料分散体を製造可能である。なお、本発明の第2の観点に係る炭素材料分散体において、「炭素材料」とは、上記した本発明の第1の観点に係る炭素材料分散体の製造方法において規定したものと同様のものである。また、「有機溶媒」としても特に限定されず、上述したものと同様のものが例示できる。さらに、炭素材料分散体中は、例えば、炭素材料の粉粒体の上記分散媒体中での分散性を向上させるための分散剤、バインダー成分、その他の添加剤を含み得る。」
(5) 「【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0094】
実施例1
図1に示すような構成を有する炭素材料の精製システムを用いて炭素材料分散体の製造を行った。
まず、被処理物となる炭素材料として、アセチレンブラック(デンカブラック(商標名) 粒状品、デンカ株式会社製)10kgを、図1のシステムの乾式精製装置100において、ホッパー110より供給し、ベルトコンベア120にて搬送し、約100kg/時間の供給量で、40rpmの周速にて回転する幅300mm×直径300mmの磁気ロール130に対して、幅方向に均一に薄層状で供給した。なお磁気ロール130は内部に径方向着磁された半円状(180度の円弧)の8000ガウスの永久磁石134を配したものとした。
【0095】
磁気ロールによって乾式選別され回収されたアセチレンブラックを次いで、分散媒体としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、アセチレンブラック分散体を調製した。なお、この分散体の総質量に対してアセチレンブラックの含有量は20質量%であり、分散体の粘度は25℃にて200mPa・sであった。
【0096】
このようにして調製されたアセチレンブラック分散体を、図1のシステムの湿式精製装置300の流路320に、約10L/分の供給量で供給し、円筒状の流路内に円柱状の18000ガウスの永久磁石320を配して円環スリット状の通液路を形成したマグネットフィルター(スリット幅1.3cm)の間を通過させて、湿式選別処理を行った。
【0097】
最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を調べるため、まず、アセチレンブラック分散液を秤量し、分散媒であるNMPを蒸発乾固した後、硝酸を加え加熱分解した。次いで、アセチレンブラックと酸分解液を濾紙で分離し、分離した酸分解液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)(装置名:SPECTRO ACROS MV130 FHM22、スペクトロ社製)により測定した。その結果、得られたアセチレンブラック分散体中におけるFe濃度は、炭素材料に対して質量分率で4×10-8であり、非常に金属成分含有量が低減された精製度の高いアセチレンブラック分散体が得られた。また、得られたアセチレンブラック分散体におけるアセチレンブラックの収率は99.3%であり、精製処理におけるアセチレンブラックの減失量も小さいことが判った。
【0098】
比較例1
実施例1において用いた被処理物となるアセチレンブラックを、そのまま分散媒体としてのNMPに対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、20質量%のアセチレンブラック分散体を調製した。このアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率で8.3×10-7であった。
【0099】
比較例2
実施例1において、乾式磁気選別工程を省略した以外は実施例1と同様にしてアセチレンブラック分散体を得た。すなわち、市販のアセチレンブラックをそのまま分散媒体としてのNMPに対し添加して、ビーズミルにて分散処理を行い、20質量%濃度のアセチレンブラック分散体を調製し、これを図1のシステムの湿式精製装置300の流路320に、約10L/分の供給量で供給し、18000ガウスの永久磁石134より構成されるマグネットフィルター(スリット幅1.3cm)の間を通過させて、湿式選別処理を行った。このアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率で2.5×10-7であった。
・・・
【0102】
実施例2~5
実施例1において、乾式精製装置100における磁気ロール130の8000ガウスの永久磁石134に代えて、それぞれ3000、5000、10000、15000ガウスの永久磁石134を用いた以外は、実施例1と同様にして処理を行った。
【0103】
最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率でそれぞれ1×10-7、8×10-8、3×10-8、2×10-8であり、いずれも金属成分含有量が低減されたアセチレンブラック分散体が得られた。特に、実施例4および5については、実施例1と同等以上に精製度が良好なアセチレンブラック分散体が得られた。また、得られたアセチレンブラック分散体におけるアセチレンブラックの収率はそれぞれ99.8%、99.5%、99.2%、99.1%であり、精製処理におけるアセチレンブラックの減失量も小さいことが判った。
【0104】
実施例6~9
実施例1において、湿式精製装置300における18000ガウスの永久磁石134からなるマグネットフィルターに代えて、それぞれ5000、10000、13000ガウスの永久磁石134からなるマグネットフィルターを用いた以外は、実施例1と同様にして処理を行った。
【0105】
最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率でそれぞれ9×10-8、6×10-8、5×10-8であり、いずれも金属成分含有量が低減された精製度の高いアセチレンブラック分散体が得られた。また、得られたアセチレンブラック分散体におけるアセチレンブラックの収率はそれぞれ99.4%、99.4%、99.3%であり、精製処理におけるアセチレンブラックの減失量も小さいことが判った。」
4 当審の判断
事案に鑑み、申立理由6(新規事項の追加)、申立理由4(明確性要件違反)、申立理由5(サポート要件違反)、申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)、申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)、申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)の順に検討する。
(1) 申立理由6(新規事項の追加)について
ア 新規事項の判断手法
特許法第17条の2第3項は、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定する。
そして、ここでいう「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる。
以下、この観点に立って検討する。
イ 令和7年7月22日付けの手続補正について
標記手続補正は、特許請求の範囲の
「【請求項1】
炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体。
【請求項2】
炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程を有する炭素材料分散体の製造方法により得られたものである請求項1に記載の炭素材料分散体。」との記載を
「【請求項1】
炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とするリチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。
【請求項2】
炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で5×10-8以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。」に変更するものである。
ウ 申立人が主張する新規事項の追加について
(ア) 申立人は、前記1(6)に示したとおり、請求項1の「磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で・・・であり」との構成を、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下であり」とする補正、及び、請求項2に「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下である」との構成を追加する補正が新規事項の追加である旨を主張している。
(イ) 前記(ア)の補正について検討する。
a 「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」について
本件当初明細書の【0013】(前記3(2)参照)には、「従って本発明は、炭素材料中における金属成分を効率良くかつ確実に除去し、製品品質が極めて高く、安定した電気的特性を発揮し得る炭素材料分散体の製造方法、およびこれにより得られる炭素材料分散体並びにこれに用いる装置を提供することを課題とする。」と記載され、炭素材料中に混入した金属成分を除去することが記載されている。
また、本件当初明細書の【0041】(前記3(4)参照)には、「炭素材料Cの粉粒中に混入していた鉄、ステンレス鋼等の磁性金属成分の粉粒ないしはこのような磁性金属成分を内包する炭素材料の粉粒は、非常に効率よく磁気ロール表面に磁力により吸引捕捉され、一方、炭素材料の粒粉(金属成分を含まないもの)は、反磁性を示すものであるため磁気ロールより離反した軌跡をもって落下することで選別される。」と記載され、炭素材料の粉粒中に混入又は内包する、鉄、ステンレス鋼等の磁性金属成分を選別することが記載されている。
これらの記載を踏まえると、本件当初明細書には、炭素材料に混入する磁性金属成分を除去することに加え、磁性金属成分である鉄やステンレス鋼からなる金属成分も除去することが記載されているといえる。
b 「炭素材料」に対する「Fe合計量」の「質量分率」について
本件当初明細書の【0020】(前記3(3)参照)には、「上記課題を解決する本発明はまた、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体により達成される。」と記載され、炭素材料分散体中の磁性金属成分の炭素材料に対する質量分率が記載されている。
また、本件当初明細書の【0097】(前記3(5)参照)には、「最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を調べるため、まず、アセチレンブラック分散液を秤量し、分散媒であるNMPを蒸発乾固した後、硝酸を加え加熱分解した。次いで、アセチレンブラックと酸分解液を濾紙で分離し、分離した酸分解液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)(装置名:SPECTRO ACROS MV130 FHM22、スペクトロ社製)により測定した。その結果、得られたアセチレンブラック分散体中におけるFe濃度は、炭素材料に対して質量分率で4×10-8であり、非常に金属成分含有量が低減された精製度の高いアセチレンブラック分散体が得られた。」と記載され、アセチレンブラック分散体中に含まれる金属成分量を、炭素材料に対するFe合計量の質量分率で評価することが記載されているといえる。
これらの記載を踏まえると、本件当初明細書には、炭素材料分散体中の磁性金属成分量を、炭素材料に対するFe合計量の質量分率として評価することが記載されているといえる。
c 前記a、bで検討したとおり、本件当初明細書には、炭素材料に混入する磁性金属成分である鉄やステンレス鋼からなる金属成分も除去すること、及び、炭素材料分散体中の磁性金属成分量を、炭素材料に対するFe合計量の質量分率として評価することが記載されていることを踏まえると、炭素材料に混入する磁性金属成分である鉄やステンレス鋼からなる金属成分量を、炭素材料に対するFe合計量の質量分率として評価すること、すなわち、本件発明1及び2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下である」との構成は、本件当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項である。
d そうしてみると、前記(ア)の補正は、前記技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、当該補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。
エ その余の補正について
(ア) 請求項1及び2において、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率」の数値範囲を「1×10-7以下」又は「5×10-8以下」とする補正については、本件当初明細書の【0020】(前記3(3)参照)に「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体により達成される。」と記載され、【0071】(前記3(4)参照)に「分散体中の炭素材料含有率を10~25質量%程度とすると、金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下、より好ましくは5×10-8以下、さらに好ましくは3×10-8以下とした炭素材料分散体を製造可能である。」と記載され、さらに、【実施例】(前記3(5)参照)に「得られたアセチレンブラック分散体中におけるFe濃度は、炭素材料に対して質量分率で4×10-8」(【0097】)、「最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率でそれぞれ1×10-7、8×10-8、3×10-8、2×10-8」(【0103】)、「最終的に得られたアセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度を実施例1と同様にして測定したところ、炭素材料に対して質量分率でそれぞれ9×10-8、6×10-8、5×10-8」(【0105】)と記載されていることや、前記ウ(イ)の検討を踏まえると、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率」を「1×10-7以下」又は「5×10-8以下」とすることは、本件当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるといえるため、当該補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
(イ) また、請求項1及び2において、「炭素材料分散体」を「リチウム二次電池製造用の炭素材料分散体」とする補正については、本件当初明細書の【0013】(前記3(2)参照)に「本発明はさらに、リチウムイオン二次電池製造用の導電助剤分散液として好適な・・・炭素材料分散体・・・を提供することを課題とする。」と記載されているから、当該補正も、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
オ 申立理由6(新規事項の追加)についての結論
以上のとおりであるから、前記アの判断手法を本件に当てはめると、令和7年7月22日付けの手続補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件に適合する。
したがって、申立理由6に理由はない。
(2) 申立理由4(明確性要件違反)について
ア 明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、この観点に立って検討する。
イ 明確性要件の判断
(ア) 本件特許請求の範囲の請求項1の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」との記載は、文言どおり解釈すれば、「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」を、「炭素材料」に対する「Fe合計量として」、その「質量分率」が「1×10-7以下」であることを意味していることを当業者が理解できるから、前記記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえない。
また、本件特許請求の範囲の請求項2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で5×10-8以下」との記載についても、同様に、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえない。
(イ) そして、本件特許請求の範囲のその余の記載をみても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な記載は見当たらない。
ウ 申立人の主張について
前記1(4)の主張は、要するに、本件特許請求の範囲の請求項1及び2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下」との記載は、炭素材料分散体の金属成分を除去するとの課題を解決する手段として解釈すると、「Fe合計量として」とはいかなる意味か不明であること、及び、前記請求項1及び2の記載をそのまま解釈すると、前記課題を解決できないことから、本件特許請求の範囲の記載が不明確であるというものである。
しかしながら、明確性要件の判断は、前記アのとおり、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものであり、本件発明の課題との関係で判断されるものでない。
そして、前記請求項1及び2の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で・・・以下」との記載は、前記イ(ア)で検討したとおり、文言どおりの意味であると解釈すべき記載であるし、当該記載における「Fe合計量として」は、前記(1)ウ(イ)bで検討したとおり、鉄及びステンレス鋼からなる金属成分量をFe合計量として評価することを意味していることは明らかである。
したがって、申立人の前記1(4)の主張は採用できない。
エ 申立理由4(明確性要件違反)についての結論
以上のとおりであるから、前記アの判断手法を本件に当てはめると、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合する。
したがって、申立理由4に理由はない。
(3) 申立理由5(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件発明の課題について
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件発明の詳細な説明」という。)の【0003】~【0006】(前記3(1)参照)には、「炭素材料のうちカーボンブラックを例にとると・・・これらのカーボンブラックの原料にはFe、Cuなどの金属成分が含まれている。これらの金属成分はカーボンブラックの製造工程で濃縮され、さらに冷却水や製造設備などからの金属成分の混入もあるため、カーボンブラックは種々の金属成分を含有するものとなる。」(【0003】)、「全固体電解質リチウム二次電池用途においては、特に、金属成分の存在が電池特性に大きな影響を及ぼすため、できる限り金属成分を除去することが望まれる。」(【0005】)、及び「リチウムイオン二次電池の電極形成用の導電助剤である炭素材料中における金属異物の存在は、デンドライト状態のリチウム金属析出の発生要因であり、内部短絡の原因となるため、その除去はリチウムイオン二次電池全般に望まれることである。」(【0006】)と記載されており、リチウムイオン電池用途の炭素材料において、製造過程で混入する金属成分の除去が望まれていることが記載されている。
(イ) また、本件発明の詳細な説明の【0007】~【0011】(前記3(1)参照)には、「カーボンブラックの水性分散液を各種水溶性キレート剤と接触させ、カーボンブラックに含まれる金属成分を溶出させると共にキレート剤に捕捉して液相へ移行させた後、固液分離する方法」(【0007】)は、「水分の存在を嫌うような固体電解質リチウム二次電池用途の非水系分散体の処理としては不適であった。」(【0009】)、「カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を設ける方法」(【0007】)は、「イオン交換樹脂が粒子形状であるためその除去の際これに同伴して系外へ取り除かれてしまうカーボンブラックの量が多くなり、歩留まりが悪いものとなる虞れがあった。」(【0010】)、及び「分散処理が行われた前記二次電池用スラリー組成物中の、Fe、NiおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む粒子状金属成分を、ビッカース硬度が10GPa以上25GPa未満のマグネットカバーを有するマグネットにより除去する方法」(【0007】)は、「高効率で金属成分を除去し得ない虞れが残るものであった。」(【0011】)と記載されており、従来の金属成分の除去方法は、リチウムイオン電池用途の炭素材料中の金属成分を十分に除去できないことが記載されている。
(ウ) そして、本件発明の詳細な説明の【0013】(前記3(2)参照)には、「本発明はさらに、リチウムイオン二次電池製造用の導電助剤分散液として好適な・・・炭素材料分散体・・・を提供することを課題とする。」と記載されている。
(エ) これらの記載を踏まえると、本件発明の課題は、従来の金属成分の除去方法で除去した場合よりも、製造過程で混入する金属成分を少なくしたリチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体を提供することといえる。
ウ 本件発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段について
(ア) 本件発明の詳細な説明の【実施例】(前記3(5)参照)には、実施例1(【0094】~【0097】)として、「炭素材料として、アセチレンブラック」を「8000ガウスの永久磁石134を配した」「磁気ロールによって乾式選別」して、「回収されたアセチレンブラックを次いで、分散媒体としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対し添加して」、「アセチレンブラックの含有量」が「20質量%」の「アセチレンブラック分散体を調製し」、「調製されたアセチレンブラック分散体を」「18000ガウスの永久磁石320を配して円環スリット状の通液路を形成したマグネットフィルター(スリット幅1.3cm)の間を通過させて、湿式選別処理を行った」こと、及び「得られたアセチレンブラック分散体中におけるFe濃度は、炭素材料に対して質量分率で4×10-8」であったことが記載されている。
また、実施例1の乾式選別における「8000ガウスの永久磁石134に代えて、それぞれ3000、5000、10000、15000ガウスの永久磁石134を用いた」実施例2~5では、「アセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度」が「炭素材料に対して質量分率でそれぞれ1×10-7、8×10-8、3×10-8、2×10-8」であること(【0102】~【0103】)、実施例1の湿式選別処理における「18000ガウスの永久磁石320マグネットフィルターに代えて、それぞれ5000、10000、13000ガウスの永久磁石134からなるマグネットフィルターを用いた」実施例6~9では、「アセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度」が「炭素材料に対して質量分率でそれぞれ9×10-8、6×10-8、5×10-8」であること(【0104】~【0105】)が記載されている。
さらに、実施例1の乾式選別を省略し、湿式選別処理のみを行った比較例2では、「20質量%濃度のアセチレンブラック分散体」に含まれる「Fe濃度」が「炭素材料に対して質量分率でそれぞれ2.5×10-7」であること(【0099】)が記載されている。
(イ) 前記(ア)によれば、実施例1~9、及び比較例2の「アセチレンブラック分散体」は、いずれも、アセチレンブラック含有量が20質量%であり、分散媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。そして、実施例1~9の「アセチレンブラック分散体」は、比較例2の「アセチレンブラック分散体」と比べて、炭素材料に対する質量分率で示されるFe濃度が少なくなっている。
ここで、比較例2の「アセチレンブラック分散体」は、湿式選別処理のみを行ったものであり、従来の金属成分の除去方法で得られた「アセチレンブラック分散体」といえることから、実施例1~9の「アセチレンブラック分散体」は、従来の金属成分の除去方法で得られたものよりも、炭素材料に対する質量分率で示されるFe濃度が少ない「アセチレンブラック分散体」といえる。
(ウ) また、本件発明の詳細な説明の【0020】(前記3(3)参照)に「上記課題を解決する本発明はまた、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体により達成される。」と記載され、さらに、【0057】(前記3(4)参照)に「本発明の製造方法によって得られる炭素材料分散体をリチウムイオン二次電池用途に用いる場合においては、有機溶媒を用いることが望ましい。」と記載されている。
ここで、実施例及び比較例の「アセチレンブラック分散体」は、「炭素材料分散体」の一態様であることを理解できるし、さらに、実施例及び比較例の炭素材料に対する質量分率で示されるFe濃度は、炭素材料分散体中の磁性金属成分量をFe濃度で評価していることも理解できるから、本件発明の詳細な説明には、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、炭素材料に対して磁性金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒である、リチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体が記載されているといえ、このリチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体は、実施例1~9と同様に、従来の金属成分の除去方法で得られたものよりも磁性金属成分量が少ないリチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体であるといえる。
(エ) 加えて、本件発明の詳細な説明の【0041】(前記3(4)参照)に「炭素材料Cの粉粒中に混入していた鉄、ステンレス鋼等の磁性金属成分の粉粒」と記載されているように、磁性金属成分には、鉄及びステンレス鋼の金属成分を含むことが記載され、さらに、製造設備等に鉄やステンレス鋼が使用されていることが技術常識であることを踏まえると、本件発明の詳細な説明には、炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、炭素材料に対して鉄及びステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒である、リチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体も記載されているといえ、このリチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体は、前記(ウ)での検討と同様に、従来の金属成分の除去方法で得られたものよりも鉄及びステンレス鋼からなる金属成分、すなわち、製造過程で混入する金属成分量が少ないリチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体であるといえ、本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。
エ 本件特許請求の範囲の記載と本件発明の詳細な説明の記載との対比
本件発明1~2は、前記第2のとおりであって、本件発明1の「リチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体」は、前記ウ(エ)で検討した「リチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体」と実質的に同じものであるから、前記ウ(エ)で検討したとおり、当業者において、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
また、本件発明2についても同様に本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
オ 申立人の主張について
前記1(5)の主張は、要するに、本件発明の課題を「炭素材料中における金属成分を効率良くかつ確実に除去し、リチウムイオン二次電池製造用とした場合、製品品質が極めて高く、安定した電気的特性を発揮し得る炭素材料分散体を提供する」こととした上で、本件発明1、2は、発明の詳細な説明の記載や技術常識に照らしても、前記課題を解決できると認識できる範囲のものでないというものである。
しかしながら、前記イで検討したとおり、本件発明の課題は、従来の金属成分の除去方法で除去した場合よりも、製造過程で混入する金属成分を少なくしたリチウムイオン二次電池製造用炭素材料分散体を提供することであり、申立人が主張する課題といえないから、申立人の前記1(5)の主張は採用できない。
カ 申立理由5(サポート要件違反)についての結論
以上のとおりであるから、前記アの判断手法を本件に当てはめると、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合する。
したがって、申立理由5に理由はない。
(4) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、前記2(1)イによれば、「リチウムイオン二次電池正極板用電極スラリー用の非水系炭素材料スラリー」が記載され、前記2(1)エによれば、その具体例として、「N-メチル-2-ピロリドン79質量%に、分散性付与剤としてメチルセルロースポリマー1質量%を溶解させ」、「得られた溶液に、アセチレンブラックとして「デンカブラック粒状」(電気化学工業(株)製)20質量%を混合し、ビーズミルを用いて、凝集しているアセチレンブラックを解砕しながら分散」して「得られたアセチレンブラック分散スラリー」が記載されている。
これらの記載を「アセチレンブラック分散スラリー」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
<甲1発明>
「N-メチル-2-ピロリドン79質量%に、分散性付与剤としてメチルセルロースポリマー1質量%を溶解させた溶液に、アセチレンブラック20質量%を混合し、ビーズミルを用いて、凝集しているアセチレンブラックを解砕しながら分散して得られた、リチウムイオン二次電池正極板用電極スラリー用のアセチレンブラック分散スラリー。」
イ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明と甲1発明を対比する。
甲1発明の「アセチレンブラック」、「N-メチル-2-ピロリドン」は、それぞれ、本件発明1の「炭素材料」、「有機溶媒である」「分散媒」に相当する。
また、甲1発明の「リチウムイオン二次電池正極板用電極スラリー用のアセチレンブラック分散スラリー」は、「N-メチル-2-ピロリドン」に「アセチレンブラック」を「分散して得られた」ものであるから、本件発明1の「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体」である「リチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体」に相当する。
さらに、甲1発明の「アセチレンブラック分散スラリー」は、「アセチレンブラック20質量%を混合」していることから、本件発明1の「分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%」であることを満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、また、分散媒が有機溶媒である、リチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1は、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」であるのに対して、甲1発明では、そのような特定がない点。
(イ) 判断
a 本件明細書には、前記3(3)の【0015】、【0020】及び【0021】によれば、「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%であり、かつ磁性金属成分が炭素材料に対して質量分率で1×10-7以下であり、また、分散媒が有機溶媒であることを特徴とする炭素材料分散体」は、「炭素材料が粉粒状の乾式状態において、当該炭素材料の粉粒体を回転する磁気ロール表面上に適用し炭素材料より金属成分を除去する第1磁気選別工程と、さらに当該第1磁気選別工程において金属成分を除去した炭素材料を分散媒中へ分散させた炭素材料分散体を調製後に、当該炭素材料分散体中に磁石体を配して当該炭素材料分散体中より金属成分を除去する第2磁気選別工程」を経て得られたものであることが記載されている。
そして、本件明細書の【実施例】(前記3(5)参照)において、第1磁気選別工程と第2磁気選別工程を経て得られた実施例1~9の「アセチレンブラック分散体」は、「アセチレンブラック分散体中に含まれるFe濃度」が「炭素材料に対して質量分率」で2×10-8~1×10-7であり、前記第2磁気選別工程のみを経て得られた比較例2の「アセチレンブラック分散体」のFe濃度よりも小さくなっていることが示されている。
これらの記載を併せ考えれば、本件発明1の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」であることについても、第1磁気選別工程と第2磁気選別工程を経ることで得られたものといえる。
b 他方、甲第2号証には、前記2(2)ウの【0132】及び【0139】によれば、「炭素材料の分散体」の製造に関して、「炭素材料粒子分散時に金属異物等のコンタミを除く工程を入れることが好ましい」こと、「カーボンブラック、グラファイトおよび、炭素繊維等の炭素材料には、それらの製造工程由来(ラインコンタミや触媒として)の金属異物が含まれている場合が多く、これら金属異物を除去することは、電池の短絡を防ぐために非常に重要となる」こと、及び「金属異物を除く方法としては、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる」ことが記載されている。また、甲第3号証の【0072】(前記2(3)ウ参照)にも、同様な事項が記載されている。
これらの記載によれば、電池用炭素材料分散体において、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法により、金属異物等のコンタミを除く工程を行うことは、周知技術といえる。
しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証のいずれにも、金属異物等を除去した後の濃度は示されていないし、また、前記aで検討した第1磁気選別工程と第2磁気選別工程の両方により、金属異物等を除去することは記載されていない。
c 甲第4号証には、前記2(4)アによれば、「鉄等の磁性不純物を高精度に除去することが必要な非水系二次電池の正極材の製造工程等に適用して好適な磁力選別装置及び磁力選別方法」であり、「粉体等の非磁性原材料に混入された磁性不純物を磁力によって吸着除去して選別する磁力選別装置及び磁力選別方法」が記載され、非水系二次電池の正極材に対して、乾式状態で磁力による磁性不純物除去を行うことが記載されている。
また、甲第5号証には、前記2(5)アによれば、「極活物質、導電剤及び結着剤とを溶媒下混合してスラリーを調製し、これを集電体上に塗布・乾燥する非水電解液二次電池用電極板の製造方法において、該スラリーを集電体上に塗布する工程の前に、磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程を有することを特徴とする非水電解液二次電池用電極板の製造方法」であって、「磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程が、スラリーに対して行われる」こと、あるいは、「磁力により鉄粉及び/又はSUS粉を除去する工程が、溶媒と混合する前の極活物質、導電剤及び/又は結着剤に対して行われる」ことが記載され、非水電解液二次電池用の極活物質、導電剤及び結着剤に対して、湿式状態又は乾式状態で磁力による鉄粉やSUS粉の除去を行うことが記載されている。
しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証のいずれにも、磁性不純物、あるいは、鉄粉やSUS粉を除去した後の濃度は示されていないし、また、前記aで検討した第1磁気選別工程と第2磁気選別工程の両方により、磁性不純物等を除去することは記載されていない。
d 甲第6号証には、前記2(6)エによれば、「OD=4.0のCNT分散液」を「CNT精製用カラムの上から注ぎながら、開けた流出口から液を排出」させ、「回収されたCNT分散液は、十分な濃度(OD=3.9)を維持し」、「鉄イオン濃度」が「0.1ppm以下」であったことが記載されている。
しかしながら、甲第6号証には、CNT分散液がリチウム二次電池製造用の炭素材料分散体であることは記載されていないし、また、前記2(6)ウの「光線透過率1%は、OD値2となり、これはCNTの重量濃度0.006%に相当する。」との記載を踏まえると、「OD=4.0のCNT分散液」のCNT濃度は、甲1発明の「アセチレンブラック20質量%」と比較して、著しく希薄なものであるから、甲第6号証に記載された精製手法が、甲1発明の「リチウムイオン二次電池正極板用電極スラリー用のアセチレンブラック分散スラリー」の精製に使用できるともいえない。
e 甲第7号証には、前記2(7)アによれば、「高純度カーボンブラック」に関して記載され、前記2(7)ウによれば、Fe元素含有量が「70ppb」又は「60ppb」であることが記載されている。
しかしながら、甲第7号証には、リチウム二次電池製造用の炭素材料分散体や、リチウム二次電池製造用の炭素材料分散体中の鉄及びステンレス鋼からなる金属成分量については記載されていない。
f 以上を踏まえると、甲第2号証及び甲第3号証の記載に基づき、甲1発明の「アセチレンブラック分散スラリー」の磁性不純物を除去することは、当業者であれば容易に想起することである。
しかしながら、甲第2号証~甲第7号証のいずれにも、「リチウム二次電池製造用の炭素材料分散体」の「鉄およびステンレス鋼からなる金属成分」の含有量を「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」とすること、あるいは、前記aで検討した第1磁気選別工程と第2磁気選別工程の両方で磁性不純物を除去することが記載されていないことを踏まえると、甲1発明において、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことといえない。
g したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、「相違点1の数値限定に臨界的意義はないから、相違点1は当業者が任意に設定できる設計的事項にすぎない。」(第33ページ第11~12行)と主張している。
しかしながら、前記(イ)aで検討したとおり、本件発明1の「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」であることは、第1磁気選別工程と第2磁気選別工程を経ることで到達できたものである。そして、甲第2号証~甲第7号証には、当該選別工程が記載されていないことから、本件発明1の数値限定は当業者が任意に設定できる設計的事項であるということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであるから、前記イの本件発明1についての検討と同様の理由により、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
エ 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(5) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、前記2(2)アの【請求項1】及び【請求項2】によれば、「少なくとも一種の炭素材料を分散剤を用いて溶剤中に分散させた分散体と、電極用活物質とを混合した後、溶剤を除去すること」で、「少なくとも一種の炭素材料と、前記炭素材料の分散剤としての、酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の誘導体とによって、電極用活物質表面を被覆する」「電池電極用複合材料の製造方法」が記載され、【請求項11】及び【請求項12】によれば、「電池電極用複合材料」を使用して、「リチウム二次電池用電極」の「電極合材層」を形成することが記載されている。
また、甲第2号証には、前記2(2)ウの【0038】によれば、「分散剤として「酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる1種以上の誘導体」を用いた導電性炭素材料の分散体」が記載されている。
さらに、甲第2号証には、前記2(2)ウの【0132】及び【0133】によれば、「炭素材料の分散体は、例えば、酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる1種以上の分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散することにより、製造することができる」こと、及び「このときの分散体中における炭素材料の濃度は」「更に好ましくは5重量%以上、35重量%以下である」ことが記載されている。
これらの記載を「導電性炭素材料の分散体」に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
<甲2発明>
「酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、及び、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体からなる群から選ばれる1種以上の分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散することにより製造した導電性炭素材料の分散体であって、
炭素材料の濃度が、5重量%以上、35重量%以下である、リチウム二次電池電極用複合材料を製造するための導電性炭素材料の分散体。」
イ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明と甲2発明を対比する。
甲2発明の「溶剤」は、「炭素材料」を分散するものであるから、本件発明1の「分散媒」に相当する。
また、甲2発明の「炭素材料を溶剤に分散することにより製造した導電性炭素材料の分散体」、「リチウム二次電池電極用複合材料を製造するための導電性炭素材料の分散体」は、それぞれ、本件発明1の「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体」、「リチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、リチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2>
本件発明1は、「分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%」であるのに対して、甲2発明は、「炭素材料の濃度が、5重量%以上、35重量%以下」である点。
<相違点3>
本件発明1は、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」であるのに対して、甲2発明では、そのような特定がない点。
<相違点4>
本件発明1は、分散媒が「有機溶媒」であるのに対して、甲2発明では、その点が明らかでない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、相違点3から検討すると、前記(4)イ(イ)で検討したのと同様に、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることでない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであるから、前記イの本件発明1についての検討と同様の理由により、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
エ 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(6) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、前記2(3)アの【請求項1】、【請求項5】、【請求項9】によれば、「酸性官能基の平均置換基数が0.4~2.9である分散剤としてのジオキサジン誘導体と、導電助剤としての炭素材料と」、「N-メチルピロリドンである」「溶媒」を含有する「電池用組成物」が記載され、【請求項11】によれば、「電池用組成物」を使用して「リチウム二次電池」を形成することが記載されている。
また、甲第3号証には、前記2(3)ウの【0066】及び【0067】によれば、「本発明の組成物は、例えば、酸性官能基を有するジオキサジン誘導体を含む分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散し、該分散体に、必要に応じて正極活物質、負極活物質、またはバインダー成分を混合することにより、製造することができる」こと、及び、「このときの分散体中における炭素材料の濃度は」「更に好ましくは5重量%以上、35重量%以下である」ことが記載されている。
これらの記載を「炭素材料の分散体」に注目して整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
<甲3発明>
「酸性官能基を有するジオキサジン誘導体を含む分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料をN-メチルピロリドンである溶剤に分散した分散体であって、
炭素材料の濃度が、5重量%以上、35重量%以下である、リチウム二次電池を形成するための炭素材料の分散体。」
イ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明と甲3発明を対比する。
甲3発明の「N-メチルピロリドンである溶剤」は、「炭素材料」を分散するものであるから、本件発明1の「有機溶媒である」「分散媒」に相当する。
また、甲3発明の「導電助剤としての炭素材料をN-メチルピロリドンである溶剤に分散した分散体」、「リチウム二次電池電極を形成するための炭素材料の分散体」は、それぞれ、本件発明1の「炭素材料を溶剤に分散することにより製造した炭素材料分散体」、「リチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、「炭素材料を分散媒中に分散させた炭素材料分散体であって、分散媒が有機溶媒である、リチウムイオン二次電池製造用の炭素材料分散体。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点5>
本件発明1は、「分散体中の炭素材料含有率が10~25質量%」であるのに対して、甲3発明は、「炭素材料の濃度が、5重量%以上、35重量%以下」である点。
<相違点6>
本件発明1は、「炭素材料に対して鉄およびステンレス鋼からなる金属成分がFe合計量として質量分率で1×10-7以下」であるのに対して、甲3発明では、そのような特定がない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、相違点6から検討すると、前記(4)イ(イ)で検討したのと同様に、甲3発明において、相違点6に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることでない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第4号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであるから、前記イの本件発明1についての検討と同様の理由により、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第4号証~甲第7号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
エ 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1~2を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~2を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700263