特許異議申立
2025-700481
多結晶シリコン棒、多結晶シリコンロッドおよびその製造方法
- 審判番号
- 2025-700481
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-130487
- 登録番号
- 7611193
- 請求日
- 2025年04月28日
- 審決日
- 2025年09月29日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】大野 聖二
- 【権利者代理人】大野 浩之
- 【異議申立人】星 正美
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.113-Y (C01B) / P1651.121-Y (C01B) / P1651.536-Y (C01B) / P1651.537-Y (C01B) / P1651.55 -Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7611193号発明「多結晶シリコン棒、多結晶シリコンロッドおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7611193号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7611193号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成31年1月18日に出願された特願2019-6931号の一部を令和4年8月18日に新たな特許出願としたものであって、令和6年12月25日にその特許権の設定登録がされ、令和7年1月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~8に係る特許に対して、令和7年4月28日に、特許異議申立人星正美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~8に係る発明は、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
シリコン芯線上に形成された多結晶シリコン棒であって、前記多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間していることを特徴とする、多結晶シリコン棒。
【請求項2】
前記中心軸間の距離が5mm以上である、請求項1に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項3】
前記中心軸間の距離が10mm以上である、請求項1に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項4】
前記中心軸間の距離が20mm以上である、請求項1に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項5】
シリコン芯線上に形成された多結晶シリコンロッドであって、前記多結晶シリコンロッドの中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間していることを特徴とする、多結晶シリコンロッド。
【請求項6】
前記中心軸間の距離が5mm以上である、請求項5に記載の多結晶シリコンロッド。
【請求項7】
前記中心軸間の距離が10mm以上である、請求項5に記載の多結晶シリコンロッド。
【請求項8】
前記中心軸間の距離が20mm以上である、請求項5に記載の多結晶シリコンロッド。」
第3 特許異議の申立ての理由について
申立人が主張する特許異議の申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2015-57371号公報
甲第2号証:特開2011-63471号公報
甲第3号証:特表2017-503747号公報
甲第4号証:特開2009-107886号公報
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。
1 申立理由1(新規事項の追加)
令和6年4月30日にした手続補正は、下記第4の1(1)の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないため、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
2 申立理由2(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第4の2(1)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 申立理由3(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性欠如)
本件発明1~8は、甲1に記載された発明である、又は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
4 申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記4の4(1)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1 申立理由1(新規事項の追加)について
(1)申立理由1の具体的内容
当初明細書等には、多結晶シリコン棒の中心軸又は多結晶シリコンロッドの中心軸が、シリコン芯線の中心軸と「全長にわたり」離間しているとの記載はないため、令和6年4月30日にした手続補正は、新規事項を追加するものである。(特許異議申立書10~11頁)
(2)当審の判断
当初明細書等の【図2】及び【図3】には、多結晶シリコン棒及び結晶シリコンロッドの中心軸が、シリコン芯線の中心軸と全長にわたり離間していることを示す図が記載されている。【図2】及び【図3】は、写実的な図ではなく、概念図であるが、多結晶シリコン棒及び多結晶シリコンロッドの中心軸とシリコン芯線の関係性を示しており、多結晶シリコン棒及び結晶シリコンロッドの中心軸が、シリコン芯線の中心軸と全長にわたり離間しているという、技術思想が記載されているといえる。
また、当初明細書等の【0006】には、「特許文献1(特開2008-285403号公報)には、多結晶シリコンロッドの中心部分に針状結晶が多く存在すると、FZ法による単結晶シリコンの製造工程で、未溶融の針状結晶またはその残部が溶融帯域を通過し、これが欠陥の発生を誘発して単結晶化が阻害される(有転位化する)可能性があることが開示されている。」と記載されているところ、従来、多結晶シリコンロッドの中心部分、すなわち、シリコン芯線近傍に針状結晶が多く存在するため、その中心部分の針状結晶に起因して、単結晶化が阻害される可能性が生じるという問題点が知られていたことが記載されているといえる。
ここで、当初明細書等には、「多結晶シリコン棒若しくは多結晶シリコンロッドの中心軸がシリコン芯線の中心軸と2mm以上離間している」(【0012】)と記載されており、このことによって、上記「多結晶シリコンロッドの中心部分に針状結晶が多く存在する」ことを回避し、「単結晶化が阻害される(有転位化する)可能性」を回避するものであるといえる。そうすると、シリコンロッドの中心部分にシリコン芯線近傍で生じた針状結晶が位置した状態で、その部分が溶融帯域を通過すると、その位置以降で欠陥の発生を誘発して単結晶化が阻害される(有転移化する)可能性があるのであるから、シリコン芯線の中心軸と、多結晶シリコンロッド及び多結晶シリコン棒の中心軸が一致する位置があってはならず、それらは「全長にわたり」離間している必要があることが記載されているといえる。
してみれば、当初明細書等には、多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と「全長にわたり」離間していることが記載されているといえる。
したがって、多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と「全長にわたり」離間しているとの記載を追加する補正は、新規事項を追加するものではない。
以上のとおりであるから、申立理由1は、理由がない。
2 申立理由2(明確性要件違反)について
(1)申立理由2の具体的内容
ア 本件発明1~4は、多結晶シリコン「棒」に関し、本件発明5~8は、多結晶シリコン「ロッド」に関する。しかし、棒とロッドは字義としては同じであり、両者の相違は不明確である。
特許権者は、令和6年4月30日提出の意見書(以下、「意見書1」という。)で、「本願明細書では、育成状態のものを「多結晶シリコン棒」として述べ、切削などの加工後のものを多結晶シリコンロッドとして述べており、両者を区別して用いております」と主張するが、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には「切削等」との記載も、「多結晶シリコン棒」が育成状態のものであり、「多結晶シリコンロッド」を切削などの加工後のものとする旨の記載もないため、この主張には根拠がない。
したがって、多結晶シリコン棒と多結晶シリコンロッドの差が不明であり、これらの意味するところが不明である。(特許異議申立書15~17頁)
イ 特許権者は、意見書1において、多結晶シリコン棒とは「育成状態のもの」であって切削等が施されていないものであり、多結晶シリコンロッドとは「切削などの加工後のもの」であると主張している。
しかし、甲4にも記載されるとおり、育成状態の多結晶シリコン棒の電極部近傍では、多結晶シリコン棒の中心軸とシリコン芯線の中心軸とほぼ一致し、2mm以上離間することはない。
してみれば、多結晶シリコン棒の中心軸とシリコン芯線の中心軸が一致する位置が存在することとなり、「前記多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間」することはあり得ないため、請求項1~4の「前記多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間」の、「全長」の意味するところが不明である。(特許異議申立書11~12頁)
(2)当審の判断
ア 上記(1)アの主張について
本件明細書には、以下の記載がある。
(ア)「本発明に係る多結晶シリコンロッドの製造方法は、シーメンス法により育成された多結晶シリコン棒を円筒研削する工程を備え」(【0014】)
(イ)「図1に示したように、シーメンス法で得られた多結晶シリコン棒からFZ法による単結晶シリコン製造用の多結晶シリコンロッドを作製するに際しては、析出後の多結晶シリコン棒1(直径D1)を円筒状に成形するための外周研削加工が施される。」(【0021】
これらの記載からは、「多結晶シリコン棒」を「円筒状に成形するための外周研削加工」である「円筒研削」をすることで「多結晶シリコンロッド」が成形されることが理解される。そして、そのような円筒研削は、通常、ロッド両端の不要部分は切り離した後に行われるものである。
よって、円筒研削されていないものが「多結晶シリコン棒」、円筒研削されたものが「多結晶シリコンロッド」であることが理解できる。
したがって、「多結晶シリコン棒」及び「多結晶シリコンロッド」の意味するところ及び両者の差異は明確である。
申立人は、意見書1における、特許権者の「本願明細書では、育成状態のものを「多結晶シリコン棒」として述べ、切削等の加工後のものを多結晶シリコンロッドとして述べており、両者を区別して用いております」との主張には、根拠がないと主張している。しかし、本件明細書の記載からは、「切削等」は「円筒研削」を意味することが理解されるし、円筒研削前の側面は育成状態のものであるから、上記記載は本件明細書の記載に沿ったものである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 上記(1)イの主張について
シーメンス法では、U字型の多結晶シリコンを形成し、その上下端を切断し、円筒研削することで多結晶シリコンロッドが製造されるが、上記アで検討したとおり、多結晶シリコン棒を円筒研削することによって多結晶シリコンロッドとなるのであるから、U字形の多結晶シリコン、及び、その上下端を切断した多結晶シリコンは、ともに、「多結晶シリコン棒」となる。
そして、U字形の多結晶シリコン棒の電極付近では、シリコン芯線の中心軸と多結晶シリコン棒の中心軸は常に一致するから、「多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間」することはない。他方で、上下端を切断した多結晶シリコン棒では、育成条件及び上下端切断位置を調整することによって、「多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間」したものとすることができる。
したがって、「多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間」した多結晶シリコン棒とは、U字型の多結晶シリコンを形成し、その上下端を切断した結果、多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間した多結晶シリコン棒のことを意味していることが理解できる。
したがって、「前記多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」との記載に、なんら不明確なところはなく、その「全長」の意味するところも明確である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2は、理由がない。
3 申立理由3(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性欠如)について
(1)各甲号証について
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下、同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は多結晶シリコンの製造技術に関し、より詳細には、シーメンス法により多結晶シリコンを製造するための反応炉の原料ガス供給用ノズルとシリコン芯線の固定用電極の底板上での配置に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0012】
つまり、ガス供給ノズルから噴出される原料ガスは、炉内の循環反応ガスよりも、流速は高く、温度は低く、クロロシラン濃度は高い。生産性を高めるには、原料ガスの供給量を多くする必要があるが、このような原料ガスを大量に炉内に供給すると、炉内を循環する反応ガスの流れの状態が乱れ易く、多結晶シリコン棒表面の環境を均一で安定な状態に維持することが困難になる。このような条件下では、多結晶シリコン棒はソリが大きくなり易く、断面真円度も低いものとなり易い。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ソリが少なく横断面形状の真円度も高い良好な形状を有する多結晶シリコン棒を、生産効率を落とすことなく得ることを可能とする技術を提供することにある。」
(ウ)「【実施例】
【0035】
実施例1として、図3に図示した態様(ガス供給ノズル数=1)の配置であって、仮想同心円Bの半径が20cmの態様で多結晶シリコン棒の育成を行った。
【0036】
また、実施例2として、図2に図示した態様(ガス供給ノズル数=4)の配置であって、仮想同心円AおよびBの半径がそれぞれa=20cmおよびb=45cmの態様(b-a=25cm)で多結晶シリコン棒の育成を行った。
【0037】
さらに、比較例1として、図5に図示した態様(ガス供給ノズル数=4)の配置であって、仮想同心円AおよびBの半径がそれぞれa=45cmおよびb=55cmの態様(b-a=10cm)で多結晶シリコン棒の育成を行った。
【0038】
なお、これらの多結晶シリコン棒の育成は、ガス供給ノズルと電極対の配置関係以外の条件は全て同じとした。表1および表2に、多結晶シリコン棒の育成条件および得られた多結晶シリコン棒の形状等の評価結果を纏めた。なお、表2に示した値は、各配置関係につき、反応中に割れや崩れが発生して有効長さ(1.8m)を確保できなかったものを除き全ての多結晶シリコン棒を測定した結果の中から最も形状の悪いものについて得られた値である。
【0039】
【表1】
[図:0001428004000001.jpg]
【0040】
【表2】
[図:0001428004000002.jpg]
【0041】
実施例1および2のものは何れも、比較例1のものに比べてソリが小さく、断面真円度も良好である。仮想同心円AとBの半径差が20~50cmの範囲内にある実施例2のものと当該範囲にない比較例1のものとの比較から、上記半径差が多結晶シリコン棒の形状に影響することが確認できる。これは、当該半径差が上記範囲にない場合には、ガス供給ノズルから噴出される原料ガスが直接多結晶シリコン棒表面に当たるため、当該部分の反応温度が低下して多結晶シリコンの成長が抑制され、その結果として多結晶シリコン棒の形状が悪化していることによる。
【0042】
なお、図6~8は、上述したソリ(Δ)、真円度(f/e)、テーパ(g/h)を説明するための概念図である。」
(エ)「【図6】
[図:0001428004000003.jpg]
」
イ 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項7】
一方端が第1の電極に接続され他方端が第2の電極に接続された芯線上にシリコンを析出させて多結晶シリコン棒を成長する気相成長工程と、前記多結晶シリコン棒を反応炉外に取り出す刈取工程と、前記多結晶シリコン棒を多結晶シリコン塊とする破砕工程とを備え、
前記破砕工程に先立ち、前記反応炉外に取り出した多結晶シリコン棒の電極側端から少なくとも70mmまでの多結晶シリコン部分を除去する足切工程を備えている、多結晶シリコン塊の製造方法。」
「【0058】
そこで、破砕工程に先立ち、反応炉外に取り出した多結晶シリコン棒100の電極側端から所定の範囲の多結晶シリコン部分を除去することが不純物濃度低減に有効である。」
ウ 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
a) 電流を直接流すことによって、支持体に多結晶シリコンが堆積される温度まで加熱される少なくとも1つのU字型支持体上に、CVDにより多結晶シリコンを堆積させ、少なくとも1つのU字型の対の多結晶シリコン棒を形成させ、支持体の各自由端は黒鉛電極に接続され、このように電力が供給されること、
b) 反応器から少なくとも1対の多結晶シリコン棒を取り外すこと、
c) 少なくとも1対の多結晶シリコン棒の少なくとも2つの多結晶シリコン棒の電極端から黒鉛残留物を除去すること、
d) 少なくとも2つの多結晶シリコン棒を粉砕して、棒片を得る、またはチャンクを得ること、
を含み、
黒鉛残留物が、少なくとも1回の機械的衝撃によって、少なくとも2つの多結晶シリコン棒の各々の電極端からはらい落されることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」
「【0009】
続いて、得られたポリシリコンのU字型の棒の対は、典型的には電極およびブリッジ端部で所定の長さに切断され、チャンクに粉砕される。粉砕は、粉砕機、例えば、ジョークラッシャーによって行われる。このような粉砕機は、例えば、EP338682A2号に記載されている。場合により、これに先立ってハンマーによる前粉砕が行われる。」
「【0026】
好ましくは、機械的衝撃は、シリコン棒の電極端から50mm以下の距離で行われる。特に好ましいのは、20mm以下の距離であり、非常に特に好ましくは10mm以下である。距離は少なくとも5mmであるべきである。」
エ 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0029】
本実施形態では、図1に示すように、高性能太陽電池パネル、シリコン単結晶等の製造に使用される高純度の多結晶シリコンがシーメンス法により製造される。その製造に使用される反応炉10は、円盤状の炉底部11に釣り鐘状をしたジャケット構造の炉本体12を被せたベルジャー炉である。炉底部11には、2本を1組とする多数本の電極14が分散して設置されている。各電極14は垂直な導電性ロッドであり、その上にシリコン芯棒13を垂直に固定し、電気的に接続するようになっている(図2参照)。」
「【0034】
炉底部各所の原料ガス供給ノズル15から噴出される原料ガスは、炉本体12の天井面に衝突し、その天井面に沿って周囲へ下降して、炉底部11の最外周部に設けられたガス排出孔15から排出される。この過程で、原料ガスは、高温のシリコン芯棒13と接触し、シリコン芯棒13の表面でシランが加熱分解することにより、その表面に多結晶シリコンを析出させ、シリコン芯棒13を成長させることにより、電極14上にシリコンロッド20を形成する。」
「【図2】
[図:0001428004000004.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1には、上記(1)ア(ア)によれば、シーメンス法によって多結晶シリコン棒を製造することが記載されており、同(ウ)によれば、多結晶シリコン棒の育成を行ったこと、実施例1では、ソリが3mmの多結晶シリコン棒が得られたことが記載されている。そして、同(エ)によれば、多結晶シリコン棒とは、シーメンス法によって多結晶シリコンを製造し、上下端を切断したものを意味していることが看取される。
そうすると、実施例1に着目すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「シーメンス法によって育成された後、上下端を切断したもののソリが3mmの多結晶シリコン棒。」
(3)本件発明5について
ア 本件発明5と甲1発明の対比
本件発明5と甲1発明を対比すると、シーメンス法は、シリコン芯線上にシリコンを育成する方法であるから、甲1発明の「シーメンス法によって育成された多結晶シリコン」は、本件発明5の「シリコン芯線上に形成された多結晶シリコン」に相当する。
また、甲1発明の多結晶シリコン棒は、上下端を切断したのち、円筒研削などを行ったとの記載はないため、本件発明でいう多結晶シリコン棒に相当する。
そうすると、本件発明5と甲1発明とは、「シリコン芯線上に形成された多結晶シリコン」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明5は、「中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」「シリコンロッド」であるのに対し、甲1発明は、「シーメンス法によって育成された後、上下端を切断したもののソリが3mmであるシリコン棒」である点。
イ 相違点の検討
相違点1について検討する。
甲1の図6に記載されたシリコン棒は、上下端を切断されているものなので、切断前の電極側の形状を再現した概念図(図6に当審で記載を追加したもの。長さの比率などは正確ではない)を以下に示す。
左側が成形時の下部(電極側)、右側が上部(U字型側)であり、左側に書き加えられた部分が切断前の形状である。また、左側の断面中央から右側の断面中央までの各断面の中央を通るように書き加えられた湾曲した点線は、多結晶シリコン棒の中心軸であり、左側(電極側)先端部から右側に直線的に伸びるように書き加えられた一点鎖線は、シリコン芯線の中央軸である。
下記図から理解されるように、甲1発明の多結晶シリコン棒において、左側の断面の位置では、既に、シリコン芯線の中央軸と多結晶シリコン棒の中央位置がずれている(点線と一点鎖線の位置が一致していない)ので、ソリが最大となる位置(下図の中央付近)では、多結晶シリコン棒の中心軸とシリコン芯線の中央軸との離間距離は、上記ずれによって、ソリの量(3mm)以上となることが見て取れる。
しかし、ソリが最大となる位置以外では、離間距離は不明であり、甲1発明において、「中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」ことが示されているとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。
(切断前の概念図)
[図:0001428004000005.jpg]
次に、相違点1の容易想到性について検討する。
上記(1)ア(イ)(【0013】)によれば、甲1発明は、ソリが少ない多結晶シリコン棒を作成することを目的とするものである。
ソリが少なくなると、シリコン芯線の中心軸とシリコン棒の中心軸の距離は近くなるから、甲1発明においては、シリコン芯線の中心軸とシリコン棒の中心軸の離間距離を小さくする方向を目指すものである。
してみれば、甲1発明において、シリコン芯線の中心軸と多結晶シリコン棒の中心軸の離間距離を大きくすることは避けるべきことであるため、「多結晶シリコン棒の中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」ようにする動機付けはないし、多結晶シリコン棒を円筒研削した「多結晶シリコンロッド」において、その「中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」ようにする動機付けもない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明5の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
また、甲2、3にも「多結晶シリコンロッドの中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」ようにすることは何ら記載されていないため、甲2、3の記載事項を検討しても、依然として、甲1発明において、相違点1に係る本件発明5の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書(12~15頁)において、以下の主張をしている。
特許権者は、甲1の図6に示される多結晶シリコン棒は両端部が切り離されたものではなく、上端及び下端においては、「シリコン芯線の中心軸」から離間がないと主張しているが、上端及び下端の中心軸の離間がない部分は切り離されているのであるから、得られる多結晶シリコンロッドにおいては、多結晶シリコンロッドの中心軸とシリコン芯線の中心軸は全長にわたって離間している。してみれば、甲1には「全長にわたり中心軸が離間している多結晶シリコンロッド」が記載されているため、本件発明5は、甲1に記載されたものである。
(イ)申立人の上記主張について検討する。
申立人は甲1に「全長にわたり中心軸が離間している多結晶シリコンロッド」が記載されていることは主張しているが、そのことから、なぜ「全長にわたり中心軸が『2mm以上』離間している多結晶シリコンロッド」が記載されているといえるのかは述べていない。そうすると、上記主張から、甲1に本件発明5が記載されているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 上記ア~ウでは、実施例1に着目した甲1発明を主たる引用発明として対比判断を行ったが、仮に、甲1の実施例2、比較例1に着目して甲1に記載された発明を認定しても、本件発明5とは、少なくとも上記相違点1で相違し、上記ア~ウに記載されたのと同様の理由で、本件発明5がそれらの発明から容易に想到し得るものであるとはいえない。
オ 小括
したがって、本件発明5は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明し得たともいえない。
(4)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
上記(3)アの検討を踏まえて、本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1と甲1発明とは、「シリコン芯線上に形成された多結晶シリコン棒」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点2)
本件発明1は「中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」のに対し、甲1発明は「シーメンス法によって育成された後、上下端を切断したもののソリが3mm」である点。
イ 相違点の検討
相違点2について検討する。
上記(3)イの検討を踏まえると、相違点2は実質的な相違点であるし、甲1発明において、「中心軸が前記シリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間している」ようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書(17~21頁)において、以下の主張をしている。
甲1の【0012】には、ガス供給ノズルから噴出される原料ガスは、流速は高く、温度は低く、クロロシラン濃度は高く、大量に炉内に供給すると、多結晶シリコン棒表面での環境を均一で安定な状態に維持することが困難になる。このような条件下では、多結晶シリコンはソリが大きくなり易く、断面真円度も低いものとなり易い、と記載され、【0041】には、ガス供給ノズルから噴出される原料ガスが直接多結晶シリコン棒表面に当たるため、当該部分の反応速度が低下して多結晶シリコンの成長が抑制されるとの記載がある。つまり、原料ガスの流速、濃度、温度によって多結晶シリコンの成長速度が変化することが読み取れ、甲1においても、周方向の多結晶シリコンの析出速度は変化しており、この点において、本件明細書の多結晶シリコン棒の製造方法と何ら異ならない。そうすると、甲1では、本件発明と異ならない製造方法で作成されているのであるから、甲1の多結晶シリコン棒も本件発明と同様に多結晶シリコン棒の中心軸がシリコン芯線の中心軸と全長にわたり2mm以上離間しているものとなるはずである。
(イ)申立人の上記主張について検討する。
甲1記載の方法は、その製造条件によって「周方向の多結晶シリコンの析出速度は変化」するという点で、本件発明1~4の多結晶シリコン棒の製造方法と共通する点があるにしても、原料ガスの流速、濃度、温度、その他を含めて、具体的な製造条件が本件発明と同一であることは示されていないため、甲1記載の方法が本件発明1の多結晶シリコン棒を製造する方法と同一であるということはできない。したがって、甲1に、本件発明1を製造する方法と同一の方法で多結晶シリコン棒を製造する方法が記載されているとはいえないため、申立人の上記主張は採用できない。
エ 上記ア~ウでは、実施例1に着目した甲1発明を主たる引用発明として対比判断を行ったが、仮に、甲1の実施例2、比較例1に基づいて甲1に記載された発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも上記相違点2で相違し、上記ア~ウに記載されたのと同様の理由で、本件発明1がそれらの発明から容易に想到し得るものであるとはいえない。
オ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明し得たともいえない。
(5)本件発明2~4、6~8について
本件発明2~4は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記(4)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明であるといえないし、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
本件発明6~8は、本件発明5の全ての特定事項を含むものであるから、前記(3)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明であるといえないし、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
(6)申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
4 申立理由4(実施可能要件違反)について
(1)申立理由4の具体的内容
ア 本件発明1~4の多結晶シリコン棒では、表面研削加工などを施すことなく、多結晶シリコン棒の中心軸はシリコン芯線の中心軸と全長にわたり離間している必要がある。
しかし、本件明細書には、シリコン芯線に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させること、析出速度の調整が反応ガス濃度や反応温度によること、前記反応ガス濃度、温度がガス供給ノズル位置により変更されること、前記反応温度の差をつけるためには、反応炉内に設置されている他ロッドからの輻射を遮蔽/調整すること、反応炉内でのロッド配置の調整、反応炉壁とは別の遮蔽物などを別途設置してもよい旨の記載が存在するが、具体的に何をどの程度に制御することにより、2mm以上離間させた育成状態の多結晶シリコン棒が得られるのか何ら説明されていない。また、実際にそのような多結晶シリコン棒を作成した実施例もないし、本件特許出願時の技術常識に基づいて具体的な製造条件を当業者が設定できると認めるに足る特段の事情もない。
したがって、本件発明の詳細な説明は、本件発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。(特許異議申立書17~21頁)
イ 本件明細書には原料ガスの濃度、反応温度などを調整することによって本件発明1~4の多結晶シリコンロッドを製造することが記載されるのみで、具体的な製造条件等は記載されていない。
他方で、甲1にも、原料ガスの流速、濃度、温度によって多結晶シリコンの成長速度が変化することが記載されている。
そうすると、両者の製造方法は同一であるため甲1によって本件発明1~4の多結晶シリコン棒が作成されるはずであるし、仮に、甲1の多結晶シリコン棒の製造方法では本件特許の育成状態の多結晶シリコン棒が得られないのであれば、本件明細書には本件発明1~4の育成状態の多結晶シリコンの製造方法が記載されていないことになる。(特許異議申立書17~20頁)
(2)当審の判断
ア 上記(1)アの主張について
本件発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0024】
そのために、図2(A)に示したように、析出後の多結晶シリコン棒10の中心軸CRがシリコン芯線20の中心軸C0と2mm以上離間することとなるような、シーメンス法による多結晶シリコンの析出条件を検討した。本発明者らは、そのためには、シリコン芯線20に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させればよいと考えた。気相成長反応において、析出速度を調整するための要素としては、反応ガス濃度や反応温度が挙げられる。
【0025】
例えば、シリコン芯線20に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させるために反応ガス濃度に差をつけるためには、ガス供給ノズル位置を変更することが考えられる。なお、ガス供給ノズル位置を変更することにより、供給ガスの温度は炉内のガス温度よりも低くなることが通常であるため、この効果により反応温度を下げることも可能となる。
【0026】
シリコン芯線20に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させるために反応温度に差をつけるためには、反応炉内に設置されている他ロッドからの輻射を遮蔽したり、調整することが簡便な手法である。反応炉内でのロッド配置を調整したり、反応炉壁とは別の遮蔽物等を別途設置してもよい。」
してみれば、本件明細書には、多結晶シリコン棒10の中心軸がシリコン芯線の中心軸と2mm以上離間したものとするためには、シリコン芯線に対して周方向の多結晶シリコンの析出速度を変化させればよいこと、析出速度を調整するためには、反応ガス濃度や反応温度を調整すればよいこと、反応ガス濃度に差をつけるためには、ガス供給ノズル位置を変更することが考えられること、このことによって反応温度を下げることも可能となること、反応温度に差をつけるためには、反応炉内に設置されている他ロッドからの輻射を遮蔽したり、調整すること、反応炉内でのロッド配置を調整したり、反応炉壁とは別の遮蔽物等を別途設置することが記載されている。
そうすると、ガス供給ノズル位置を変更することで、反応ガス濃度及び温度が調整されること、反応炉内に設置されている他ロッドからの輻射を遮蔽したり、調整すること、反応炉内でのロッド配置を調整したり、反応炉壁とは別の遮蔽物等を別途設置することで、反応温度が調整されることは記載されているのであるから、「具体的に何をどの程度に制御する」べきかが記載されていなくとも、上記の製造条件のいずれか又は複数を調整すればよいことが理解される。そして、多結晶シリコン棒の中心軸が、シリコン芯線の中心軸から全体にわたって2mm以上離間させた育成状態の多結晶シリコン棒を製造することとは、多結晶シリコンが均一に育成されない、すなわち、不均一に育成される条件を調整することである。均一な育成には様々な条件が精緻に調整される必要があるとしても、不均一な育成には、精緻な調整が必要であるとはいえず、そのような育成のために、過度な試行錯誤が必要であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 上記(1)イの主張について
上記3(4)ウで検討したとおり、甲1には、本件発明と同一の製造方法は記載されているとはいえない。
そうすると、「甲1の多結晶シリコン棒の製造方法では本件特許の育成状態の多結晶シリコン棒が得られない」ことと、「本件明細書には本件発明1~4の育成状態の多結晶シリコンの製造方法が記載されてい」ることは、直接関係するものではなく、「甲1の多結晶シリコン棒の製造方法では本件特許の育成状態の多結晶シリコン棒が得られない」が、「本件明細書には本件発明1~4の育成状態の多結晶シリコンの製造方法が記載されてい」ることに何ら矛盾はない。
したがって、甲1に記載された多結晶シリコン棒の製造方法では本件特許1~4の育成状態の多結晶シリコン棒は得られないし、本件明細書には本件発明1~4の育成状態の多結晶シリコン棒の製造方法が記載されているといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4は、理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1~8に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700481