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特許異議申立

2020-700814

潤滑性向上剤

審判番号
2020-700814
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-178227外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6686091
請求日
2020年10月21日
審決日
2021年11月04日
公報発行日
2022年04月28日
結論
請求成立(取消)
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.536-ZAA(C10M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6686091号発明「潤滑性向上剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6686091号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。
特許第6686091号の請求項1~2に係る特許を取り消す。
特許第6686091号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6686091号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年9月25日〔優先権主張:平成29年10月31日(JP)日本)〕に特願2018-178227号として特許出願されたものであって、令和2年4月3日に特許権の設定登録がされ、同年4月22日にその特許掲載公報が発行され、その請求項1~3に係る発明の特許に対し、同年10月21日に原道樹(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。

令和2年12月15日付け 取消理由通知

令和3年 2月 8日受付 意見書・訂正請求書(特許権者)

同年 2月17日付け 訂正請求があった旨の通知

同年 3月22日 意見書(特許異議申立人)

同年 4月13日付け 取消理由通知(決定の予告)

同年 8月 4日受付 手続補正書(特許権者)

なお、令和3年4月13日付けの取消理由通知(決定の予告)に対して、指定した期間内に特許権者からの意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否

1.訂正請求の趣旨及び内容

令和3年8月4日受付の手続補正書により補正された同年2月5日付けの訂正請求は、請求項ごとに請求されたものであって、その訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6686091号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1のとおりである。

(1)訂正事項1

訂正前の請求項3を削除する。

2.訂正事項1の適否

(1)訂正の目的

訂正事項1は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(2)拡張又は変更の存否

訂正事項1は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)新規事項の有無

訂正事項1は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.訂正の適否のまとめ

以上総括するに、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正を認める。

第3 本件発明

本件訂正により訂正前の請求項3が削除されたところ、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本1発明」及び「本2発明」ともいう。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】アミン(a)と、ジイソシアネート(b)とを構成単量体として含む(ポリ)ウレア(U)を含有する粒子状潤滑性向上剤の製造方法であって、前記粒子状潤滑性向上剤の体積平均粒子径が0.01~50μmであり、前記粒子状潤滑性向上剤の平均円形度が0.40~0.95であり、前記粒子状潤滑性向上剤のアミン価が0.1KOHmg/g以下であり、アミン(a)と、ジイソシアネート(b)とを、アミン(a)とジイソシアネート(b)の仕込みの反応当量比[アミン/イソシアネート]が50.05/49.95~66.72/33.28で反応した後、反応物を有機溶剤(S)で洗浄する工程を有する粒子状潤滑性向上剤(X)の製造方法。
【請求項2】前記アミン(a)がモノアミン(a1)である請求項1に記載の粒子状潤滑性向上剤の製造方法。」

第4 取消理由の概要

本1及び本2発明に対して、令和3年4月13日付けの取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

〔理由2〕本件特許の請求項1及び2に係る発明に係る特許は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備(委任省令要件)のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

『(い)甲第4~6号証を見るに、グリースの製造過程で粒子状潤滑性向上剤の「大きさ」と「二次元形状」は変化するのであるから、本件特許の請求項1及びその従属項に係る発明で規定する「体積平均粒子径の範囲」及び「平均円形度の範囲」は、何ら技術的な意味をもたず、本件特許の請求項1及びその従属項に係る発明の「体積平均粒子径」及び「平均円形度」の構成要件の技術的意義が不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、委任省令要件を満たしていない。』

よって、本件特許の請求項1及び2に係る発明に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断

1.理由2(委任省令要件)について

(1)委任省令要件の規定について

特許法36条4項は、「発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と定め、同条同項1号において、「一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。そして、上記の「経済産業省令」にあたる特許法施行規則24条の2は「特許法三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定めている。

(2)本件特許明細書の記載

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

摘記A:体積平均粒子径と平均円形度の技術上の意義
「【0018】
粒子状潤滑性向上剤(X)の体積平均粒子径は、潤滑性の観点から、好ましくは0.01~30μm、さらに好ましくは0.1~10μmである。該体積平均粒子径が0.01μm未満では工業的に困難で潤滑性が不十分となる可能性があり、一方、50μmを超えると、安定性が悪くなる。
なお、実施例における該体積平均粒子径は、光散乱理論を応用したレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置[商品名「LA-700」、(株)堀場製作所製]を用いて測定した値である(単位:μm)。
【0019】
粒子状潤滑性向上剤(X)の平均円形度は0.40~0.95であり、安定性及び保油性の観点から、好ましくは0.65~0.95である。該平均円形度が0.4未満では工業的に困難で安定性が不十分となる可能性があり、一方0.95を超えると保油性が悪くなる。
なお、実施例における該平均円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置[商品名「FPIA-3000」、Malvern Panalytical社製]を用いて測定した値である。」
摘記B:粒子状潤滑性向上剤(X)の製造方法
「【0032】
<実施例1>
撹拌、温度調節装置、滴下装置を備えた反応容器に、酢酸エチル(S-1)300部を仕込んだ。
別途、容器に4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(b-1)125.1部と酢酸エチル(S-1)100部とを混合したものを[イソシアネート成分]とした。
続きを表示(全15行)
別途、容器にn-オクチルアミン(a-1)130部と酢酸エチル(S-1)100部とを混合したものを[アミン成分]とした。
反応容器内の温度を25℃に温度調節しながら、撹拌下、[イソシアネート成分]の全量を仕込んだ。次に、反応容器を25℃に温度調節しながら、撹拌下、4時間かけて[アミン成分]を滴下した。さらに、同温度で1時間反応を継続した後、撹拌を停止した。反応容器内に、(ポリ)ウレア(U1-1)が沈降した内容物を得た。
内容物を全量ろ過した後、さらに酢酸エチル(S-1)200部で洗浄した。
次に、洗浄後、ろ過物をトレーに移して、80℃減圧下で溶剤を留去して(ポリ)ウレア(U2-1)を得た。
得られた(ポリ)ウレア(U2-1)を、ジェットミルで粉砕後、エルボージェット分級機を用いて体積平均粒子径が22μmである(ポリ)ウレア(U-1)を含有してなる粒子状潤滑性向上剤(X-1)を得た。得られた粒子状潤滑性向上剤(X-1)の平均円形度は0.88であり、アミン価は0.02mgKOH/gあった。
【0033】
<実施例2>
実施例1において、(ポリ)ウレア(U1-1)が沈降した内容物を全量ろ過した後、酢酸エチル(S-1)200部で3回洗浄したこと以外は実施例1と同様にして、体積平均粒子径が4μmである(ポリ)ウレア(U-2)を含有してなる粒子状潤滑性向上剤(X-2)を得た。…
【0035】
<実施例4、7、8>
実施例2において、表1の反応組成(部)にしたがった以外は実施例2と同様にして、体積平均粒子径が表1に記載のものである(ポリ)ウレア(U-4)、(U-7)、(U-8)を含有してなる粒子状潤滑性向上剤(X-4)、(X-7)、(X-8)を得た。」
摘記C:潤滑油組成物(安定性)の製造方法
「【0041】
<1>安定性の評価(基油:鉱油)
鉱油[合成炭化水素、CAS68037-01-4、40℃での動粘度14.9mm2/s]90部と、粒子状潤滑剤向上剤(X)10部とを、10分間、混練して潤滑油組成物(Y)を得た。
得られた潤滑油組成物(Y)について、JIS K2220 11:2013に準じて<110℃×24時間>、離油度を求めて、以下の基準で評価した。
続きを表示(全13行)
<評価基準>
A:離油度0.5%未満
B:離油度0.5%以上、1%未満
C:離油度1%以上、2%未満
D:離油度2%以上、3%未満
E:離油度3%以上…
【0044】
<4>安定性の評価(基油:ポリエーテル)
ポリエーテル[ニューポール LB-1800X(三洋化成工業)、40℃での動粘度350mm2/s]90部と、粒子状潤滑剤向上剤(X)10部とを、10分間、混練して潤滑油組成物(Y)を得た。」
摘記D:潤滑油組成物(保油性)の製造方法
「【0043】
<3>保油性の評価(基油:鉱油)
鉱油[合成炭化水素、CAS68037-01-4、40℃での動粘度14.9mm2/s]90部と、潤滑剤向上剤(X)10部とを、30分間130℃で混練して潤滑油組成物を得た。
得られた潤滑油組成物について、JIS K2220 8:2013に準拠して、滴点を求めて、以下の基準で評価した。
<評価基準>
A:滴点280℃以上
B:滴点250℃以上、280℃未満
C:滴点220℃以上、250℃未満
E:滴点220℃以下」…

【0046】

<6>保油性の評価(基油:ポリエーテル)

ポリエーテル[ニューポール LB-1800X(三洋化成工業)、40℃での動粘度350mm2/s]90部と、潤滑剤向上剤(X)10部とを、30分間130℃で混練して潤滑油組成物を得た。

摘記E:評価結果
「【0047】【表1】
[図:0001383251000001.jpg]
【0048】【表2】
[図:0001383251000002.jpg]
続きを表示(全11行)
【0049】
なお、表1~2中の各原料は以下のとおりである。
(a-1):n-オクチルアミン…
(b-1):4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート…
(S-1):酢酸エチル
【0050】
表1~2の結果から、本発明の粒子状潤滑性向上剤(X)は、比較のものと比べて、潤滑油組成物(Y)に優れた安定性、潤滑性及び保油性を付与することがわかる。」

(3)判断

ア.体積平均粒子径に関して、本件特許明細書の段落0041(摘記C)及び同段落0047(摘記E)には、鉱油90部と、粒子状潤滑性向上剤(X)10部とを、10分間、混練して潤滑油組成物(Y)を調製し、その安定性(離油度)を評価した場合に、本1発明の「体積平均粒子径が0.01~50μm」であるという要件を満たす粒状潤滑性向上剤(X-1:粒子径=22μm)を用いた実施例1(鉱油)の評価結果が「C:離油度1%以上、2%未満」であり、当該要件を満たさない粒状潤滑性向上剤(比X-1:粒子径=560μm)を用いた比較例1(鉱油)の評価結果が「E:離油度3%以上」であることが示され、

同段落0018(摘記A)には「該体積平均粒子径が0.01μm未満では工業的に困難で潤滑性が不十分となる可能性があり、一方、50μmを超えると、安定性が悪くなる。」との記載なされている。

イ.また、平均円形度に関して、同段落0043(摘記D)及び同段落0047(摘記E)には、鉱油90部と、粒子状潤滑性向上剤(X)10部とを、30分間130℃で混練して潤滑油組成物を調製し、その保油性(滴点)を評価した場合に、本1発明の「平均円形度が0.40~0.95」であるという要件を満たす粒状潤滑性向上剤(X-1:円形度=0.88)を用いた実施例1(鉱油)の評価結果が「A:滴点280℃以上」であり、当該要件を満たさない粒状潤滑性向上剤(比X-3:円形度=0.98)を用いた比較例3(鉱油)の評価結果が「E:滴点220℃以下」であることが示され、

同段落0019(摘記A)には「該平均円形度が0.4未満では工業的に困難で安定性が不十分となる可能性があり、一方0.95を超えると保油性が悪くなる。」との記載なされている。

ウ.してみると、本件明細書には、潤滑油組成物の製造に際して、「体積平均粒子径」が「0.01~50μm」の範囲にあり、「平均円形度が0.40~0.95」の粒子状潤滑性向上剤を用いることによって、上記ア、イに示される「安定性」や「保油性」等の性能で有用になることが記載されており、このことが当業者にとって明らかであるとか、実施例等によって立証されているのであれば、「体積平均粒子径の範囲」及び「平均円形度の範囲」について「技術上の意義」があるものと一応は認めることができるものの、このような「技術上の意義」が認められるためには、そもそも本件特許明細書の段落0047~0048(摘記E)の表1及び表2に示される比較実験データが、正しく得られていることが必要不可欠な前提条件になるものと認められる。

エ.しかしながら、令和2年12月15日付けの取消理由通知書の第2頁第9及び30~31行の「本件特許明細書の段落0043の実施例のように、室温において『10分間、混練』するだけでグリースが得られるか、疑問である。」との指摘に対して、令和3年2月5日付けの意見書(特許権者)の第2頁では「特許権者は、理由1の対象の請求項3を削除しました。よって、取消理由1は、解消しています。」との釈明がなされているのみで、実施例、比較例のグリースが実際に得られたものかどうか明らかではない。その上に、令和3年4月13日付けの取消理由通知書の第10頁の《備考》の「実施例2、7、及び8のものが…同一の条件下で…体積平均粒子径が…異なる値となることを含めて、本件特許明細書の比較実験データが正しく得られたものであるといえる根拠があれば説明されたい。」との指摘に対しては、何らの釈明もなされていない。このため、本件特許明細書の表1及び表2に示される比較実験データが「正しく得られたもの」であると直ちに認めることができない。

オ.また、当該意見書(特許権者)の第2頁の「潤滑油組成物の製造過程で、粒子状潤滑性向上剤の大きさや二次元形状がある程度変化するとしても、元々の体積平均粒子径&平均円形度由来の性能が潤滑油組成物発揮されると推察されます。」との主張からみて、本1~本2発明の「技術上の意義」は「推察される」という単なる想像でしかないものと解さざるを得ないので、このような主張によっては、上記理由2(委任省令要件)の記載不備の問題が解消し得ると認めるに至らない。

カ.さらに、当該意見書(特許権者)の第2頁の「公知文献1」の「粘性移行応力」に関する記載を根拠とした主張については、公知文献1の「粘性移行応力」が、本1~本2発明の「安定性」や「潤滑性」や「保油性」の性能と関係するとしても、本件発明における「体積平均粒子径の範囲」及び「平均円形度の範囲」の粒子状潤滑性向上剤によって、「安定性」や「保油性」等の性能で有用になることは理解することができず、このような主張によっては、上記理由2(委任省令要件)の記載不備の問題が解消し得ると認めるに至らない。

キ.したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載」するものと直ちに認められないことから、特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)の規定を満たしているとはいえない。

第6 まとめ

以上総括するに、本1~本2発明の特許は、特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)の規定を満たさない特許出願に対してされたことに該当するから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

また、訂正前の請求項3は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項3に係る発明についての特許異議の申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700814

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