審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700725

樹脂潤滑用グリース組成物

審判番号
2024-700725
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-051409
登録番号
7429138
請求日
2024年07月31日
審決日
2025年04月24日
公報発行日
2025年07月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】協同油脂株式会社
  • 【権利者代理人】田中 伸一郎
  • 【権利者代理人】須田 洋之
  • 【権利者代理人】山崎 一夫
  • 【権利者代理人】服部 博信
  • 【権利者代理人】松田 七重
  • 【異議申立人】鈴木 憲治
審判長/審判官
  • 審判長 光本 美奈子
  • 審判官 瀬下 浩一
  • 審判官 安藤 倫世
分類
P1651.113-YAA(C10M) / P1651.121-YAA(C10M) / P1651.536-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7429138号発明「樹脂潤滑用グリース組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7429138号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、7、8について訂正することを認める。 特許第7429138号の請求項1、2、4-8に係る特許を維持する。 特許第7429138号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、令和2年3月23日の出願であって、令和6年1月30日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年2月7日に特許掲載公報が発行され、その後、同年7月31日に鈴木 憲治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、当審は、同年10月17日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年12月20日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、当審は、特許権者から訂正請求があったことを、令和7年1月21日付けで異議申立人に通知し、申立人は、同年2月20日に意見書を提出したものである。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 訂正の趣旨 本件訂正請求は、請求の趣旨を「特許第7429138号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。 2 本件訂正の内容 本件訂正は、以下の訂正事項1~8からなる。訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物を含有し」と記載されているのを、「基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記増ちょう剤が、リチウム石けん系増ちょう剤のみからなり、」との記載を追加する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「基油が、合成炭化水素油及び鉱油からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する請求項1~3のいずれか1項記載のグリース組成物。」と記載されているのを、「樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 前記基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60質量%であり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「潤滑対象の樹脂製以外の素材製部材が金属製部材である請求項1~4のいずれか1項記載のグリース組成物。」と記載されているのを、「潤滑対象の樹脂製以外の素材製部材が金属製部材である請求項1、2、及び4のいずれか1項記載のグリース組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項記載のグリース組成物を充填した電動パワーステアリングの減速機。」と記載されているのを、「請求項1、2、4、及び5のいずれか1項記載のグリース組成物を充填した電動パワーステアリングの減速機。」に訂正する。 (7)訂正事項7 下記の請求項7を追加する。 「樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、1~5質量%の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 前記基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60質量%であり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。」 (8)訂正事項8 下記の請求項8を追加する。 「樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、1~5質量%の固体有機モリブデン化合物を含有し、 前記基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60質量%であり、 前記増ちょう剤が、リチウム石けん系増ちょう剤のみからなり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。」 本件訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用するから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。 特許権者は、本件訂正後の請求項7及び8について、本件訂正が認められる場合には、本件訂正前の一群の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。なお、特許権者は、本件訂正後の請求項4についても、本件訂正が認められる場合には、本件訂正前の一群の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めているが、訂正後の請求項5及び6は、請求項1及び2と、請求項4の双方を引用するものであるから、請求項1及び2と請求項4は一群の請求項であると認められる。 異議申立ての対象である訂正前の請求項1~6に対応する請求項1、2及び4~8について、独立特許要件は課されない。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び2について 訂正事項1及び2による請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載された「グリース組成物」が「リチウム石けん系増ちょう剤のみからな」る「増ちょう剤」を含むことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではない。 当該訂正は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3の「増ちょう剤が、リチウム石けん系増ちょう剤である」等の記載に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~6についても同様である。 (2)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (3)訂正事項4、7及び8について 訂正事項4、7及び8は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれか1項を引用していたところ、引用関係を解消し、訂正前の請求項4について、請求項1、請求項2、及び請求項1の引用形式で記載される請求項2の記載事項に基づいて、独立請求項である請求項4、7及び8に訂正したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであるといえる。 訂正事項4及び7は、訂正前の請求項4のグリース組成物について、基油と、増ちょう剤とを含有し、基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60質量%であるものに、また、訂正事項8は、訂正前の請求項4のグリース組成物について、基油と、リチウム石けん系増ちょう剤のみからなる増ちょう剤とを含有し、基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60質量%であるものに限定するものでもあるから、いずれも特許請求の範囲の減縮も目的とするものでもある。 訂正事項4、7及び8は、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書の段落【0008】の「本発明のグリース組成物に用いる基油は特に制限されない。例えば、鉱油、...、ポリαオレフィン(「PAO」)や...に代表される合成炭化水素油、...などが使用可能である。2種以上を併用してもよい。」及び「基油中の鉱油の割合は、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%(例えば、20~40質量%)であ」るとの記載、同段落【0020】【表1】の、PAO(ポリαオレフィン、合成炭化水素油)40質量%:鉱油60質量%の混合比の基油を用いた実施例6の記載、並びに、特許請求の範囲の請求項3の「増ちょう剤が、リチウム石けん系統増ちょう剤である」等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正においてなされたものである。 (4)訂正事項5及び6について 訂正事項5及び6は、請求項3が削除されたことに伴い、「請求項1~3のいずれか」及び「請求項1~4のいずれか」に従属してた請求項5及び6の従属先を、それぞれ、「請求項1、2、及び4」及び「請求項1、2、4、及び5」に訂正するものであるから、訂正事項5及び6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 4 訂正についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、7、8について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 前記第3で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~8に係る発明は、令和6年12月20日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」等、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。 「【請求項1】 樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 前記増ちょう剤が、リチウム石けん系増ちょう剤のみからなり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。 【請求項2】 前記固体有機モリブデン化合物の含有量が、1~5質量%である請求項1記載のグリース組成物。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 前記基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60量%であり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。 【請求項5】 潤滑対象の樹脂製以外の素材製部材が金属製部材である請求項1、2、及び4のいずれか1項記載のグリース組成物。 【請求項6】 請求項1、2、4、及び5のいずれか1項記載のグリース組成物を充填した電動パワーステアリングの減速機。 【請求項7】 樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、1~5質量%の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 前記基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60量%であり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。 【請求項8】 樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、1~5質量%の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 前記基油が、合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60量%であり、 前記増ちょう剤が、リチウム石けん系増ちょう剤のみからなり、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 令和6年10月17日付けで通知した取消理由の概要は、次の理由1~3である。 理由1(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件特許の請求項3~6に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。 請求項3には、「前記増ちょう剤が」なる記載があるが、請求項3が引用する請求項1および2のいずれも「増ちよう剤」なる記載はない。 したがって、前記記載は、本件特許発明3を不明りょうにする記載である。 上記記載を引用する本件特許発明4~6においても同様である。 理由2(新規性)本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由3(進歩性)本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:国際公開第2016/104812号 甲第5号証:「MOLYVAN(R)A」テクニカルデータシート(当審注:「(R)」は○の中にR。以下同様) 甲第6号証:「MOLYVAN(R)A」製品仕様説明書 第5 前記第4における理由1(明確性要件)について 本件訂正により本件特許発明3は削除されたので、本件特許発明3が不明確であるという取消理由は解消した。 第6 前記第4における理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について 1 甲号証について 甲第1号証、甲第5号証、甲第6号証は前記第4の理由2及び理由3のものと同じ。 甲第2号証:特開2005-247971号公報 甲第3号証:特開2017-19987号公報 甲第4号証:特開2001-64665号公報 甲第7号証:「潤滑油剤 潤滑油添加剤 製品一覧」、株式会社ADEKA 甲第8号証:特開2008-63491号公報 甲第9号証:特開2008-101122号公報 甲第10号証:特開2006-123820号公報 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「[請求項1] 基油と、増ちょう剤として下記式(I)で表されるジウレア化合物と、鎖状の炭化水素系ポリマーとを含有し、前記鎖状の炭化水素系ポリマーの重量平均分子量が20,000~300,000である樹脂潤滑用グリース組成物。 R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I) (式(I)中、R2は炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R1及びR3は、それぞれ独立して炭素数8~22の直鎖又は分岐アルキル基を示す。) [請求項2] 前記炭化水素系ポリマーの含有量が、組成物の全質量を基準として0.1~30質量%である請求項1記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 [請求項3] 前記基油がポリ-α-オレフィンを含む請求項1又は2記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 [請求項4] 更にポリオレフィンワックスとモンタンワックスとからなるワックスを含み、前記ポリオレフィンワックスの含有量が、組成物の全質量を基準として3質量%以上であり、前記モンタンワックスの含有量が、組成物の全質量を基準として2質量%以上であり、かつポリオレフィンワックスとモンタンワックスとの総量が、組成物の全質量を基準として10質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 [請求項5] 樹脂部材と金属部材との間の潤滑に使用されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 [請求項6] 樹脂部材と金属部材との間の潤滑が転がり滑り潤滑である請求項5記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 [請求項7] モータの出力を、減速ギヤ機構によって、シャフトをアシストする動力伝達機構であって、前記減速ギアはモータに連結された金属製駆動ギヤと樹脂製被駆動ギヤを具備し、前記樹脂製被駆動ギアの歯面粗さが算術平均粗さで0.5μm以上であり、前記金属製ギアと樹脂組成物製ギアが請求項6に記載のグリース組成物で潤滑されることを特徴とする減速ギヤ機構。 [請求項8] 金属製駆動ギヤと樹脂組成物製被駆動ギヤの回転伝達方向、及び、非回転伝達方向の両歯面が接触していることを特徴とする請求項7に記載の減速ギア機構。 [請求項9] 請求項8に記載の減速ギア機構を用いたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。」 1b「[0004] しかし、EPS非アシスト時の低速かつ低負荷の作動条件下における低摩擦性能を向上させたグリース組成物が依然として望まれている。 本発明は、EPS非アシスト時の低速かつ低負荷の作動条件下における低摩擦性能の問題点を解決することを課題とし、EPS非アシスト時における操舵トルクを低減させたグリース組成物を提供することを目的とする。 本発明はまた、EPS用減速ギヤの被駆動ギヤである樹脂製ウォームホイールの表面にグリース組成物を保持させる為に歯面粗さを大きくし、耐久性を向上させた減速ギヤ機構を提供することを目的とする。 本発明はまた、減速ギア機構を用いた電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。 ・・・ [0008] 本明細書において、特に記載しない限り、百分率(%)は質量%である。また、「a~b」によって表される区間の数値範囲は、限界値aおよびbを含む範囲を意味する。 〔基油〕 本発明のグリース組成物の基油は、特に限定されない。鉱油でもよく、合成油でもよい。基油は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。 鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、これらの混合物を使用することができる。 合成油としては、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリブテンに代表される合成炭化水素油;アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油;シリコーン油、フッ素化油など各種合成油が使用できる。 基油がポリ-α-オレフィンを含有するのが好ましい。基油がポリ-α-オレフィン以外の基油を含む場合、基油の全質量を基準にして、ポリ-α-オレフィンを50質量%以上含有するのが好ましく、80質量%以上含有するのがより好ましく、100質量%含有するのが最も好ましい。基油としてはまた、合成油が好ましく、合成炭化水素油がより好ましい。 本発明における基油の動粘度は特に限定されない。40℃における動粘度が10~300mm2/sであるのが好ましく、15~250mm2/sであるのがより好ましく、15~200mm2/sであるのがさらに好ましい。なお、本明細書において、基油の40℃における動粘度は、JIS K 2220 23.に従って測定することができる。 本発明のグリース組成物中の基油の含有量は、50~95質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。」 1c「[0012] 本発明のグリース組成物の増ちょう剤としては式(1)のジウレア化合物のみであることが最も好ましいが、増ちょう剤全体に対して、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下で他の増ちょう剤を含有しても良い。他の増ちょう剤としては、例えば、Li石けんやLiコンプレックス石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられる。このうち、石けん系増ちょう剤が好ましく、Li石けんがより好ましく、12ヒドロキシステアリン酸リチウムがさらに好ましい。 [0013] 本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の含有量は、増ちょう剤の構造により異なる。本発明のグリース組成物のちょう度は、200~400が好適であり、増ちょう剤の含有量はこのちょう度を得るのに必要な量となる。本発明のグリース組成物中、増ちょう剤の含有量は、式(1)のジウレア化合物のみの場合、通常3~30質量%、好ましくは5~25質量%である。他の増ちょう剤を含む場合、その含有量は、式(1)のジウレア化合物の含有量よりも少ない。 1d「[0015] <その他の添加剤> 本発明のグリース組成物は、グリースに通常使用される添加剤を必要に応じて含むことができる。これらの添加剤の含有量は、グリース組成物の全量を基準として、通常0.5~35質量%、好ましくは5~25質量%である。このような添加剤としては、例えば、ワックス、酸化防止剤、無機不働態化剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤があげられる。なかでも、ワックスを含むのが好ましい。酸化防止剤及び防錆剤を更に含むのがより好ましい。」 1e「[0049] 実施例及び比較例1~4 下記表に示した増ちょう剤、基油及び添加剤を用い、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。具体的には、ポリαオレフィン(PAO、40℃における動粘度:48mm2/s)中で、4',4-ジフェニルメタンジイソシアネート1モルとステアリルアミンおよびオクチルアミン計2モル(アミンのモル比は1:1)とを反応させ、昇温、冷却した後、添加剤を加え、3本ロールミルで混練し、実施例及び比較例1~4のグリース組成物を得た。なお、表に示した実施例1-7及び比較例3の動粘度は、基油とポリマーとの混合物の動粘度である。 [0050] 比較例5 下記表に示した基油中で、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを混合加熱溶解し、冷却してベースグリースとした。添加剤の所定量を基油と混合し、ベースグリースに加えてよく混ぜ、3本ロールミルで混練して、比較例5のグリース組成物を製造した。 なお、実施例及び比較例の増ちょう剤量は、グリース組成物の混和ちょう度(60回混和ちょう度、試験方法JIS K2220 7.)が310になるように調節した。また、グリース組成物の残部は基油である。 [0051] 上で調製したグリース組成物を、下記の試験方法により評価した。結果を下記表1及び2に併記する。 [0052] < 実機フリクション低減効果 > 電動パワーステアリング装置(EPS)の実機を用い、台上耐久試験を行った。減速ギアのウォームホイールは、ポリアミド樹脂からなる樹脂部にギア歯を形成したものであり、 ウォームは鋼製のものである。このギア歯に試験グリースを塗布し、 ウォームとウォームホイールを同一バックラッシ条件で噛合わせた状態で、 ウォームホイールから回転させたときの回転トルクを測定し、実機でのフリクションを評価した。 [0053] <トラクション係数の測定> トラクションの測定が可能な光干渉法超薄膜測定装置(PCS社製、EHL Ultra Thin Film Measurement System)を用いて、転がり接触部に形成されるグリースのトラクション係数を測定した。これにより、EPS非アシスト時における操舵トルクを評価した。 試験は、直径19.5mmmの鋼球を、荷重5N、25℃の下でポリカーボネートディスクと転がりすべり条件で接触させ、下記所定の速度の時のトラクションを測定することにより行った。 [0054] (試験条件) 温度:25℃ 試験片:鋼球(φ=19.5mm)、ポリカーボネートディスク 荷重:5N 速度:0.038 m/s(実機速度:0.1 m/s) すべり率:110% [0055] 滑り運動(ボール回転に対する滑り速度)の発生により、ボール軸方向のトラクションをロードセルで検出し、その最大値対荷重の比を最大トラクション係数とする。 [0056] <蒸発量> 高温薄膜試験により、実施例及び比較例のグリース組成物の蒸発量を測定し、各組成物の耐熱性を評価した。 実施例及び比較例のグリース組成物を、普通鋼板(SPCC-SD)(算術平均粗さRa=0.8~1.5μm)の表面に、25℃で厚さ1mmとなるように塗布したのち秤量し、次いで120℃の恒温槽中に入れて500時間静置し、放冷後に再度秤量してグリース組成物の蒸発量(質量%)を測定し、下記の基準で耐熱性を評価した。 基準 ○:蒸発量が5%未満であった。蒸発量小。 ×:蒸発量が5%以上であった。蒸発量大。 [0057] [表1] [図:0001424594000001.jpg] [0058] [表2] [図:0001424594000002.jpg] 」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「【請求項1】 樹脂と金属、あるいは樹脂と樹脂とが接触する部位に適用されるグリース組成物であって、ポリα-オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を基油全量の70質量%以上の割合で含む基油と、金属石けん、金属複合石けん及びウレア化合物の少なくとも一種を増ちょう剤全量の50質量%以上の割合で含む増ちょう剤と、非極性ワックス、極性ワックス、比表面積が3m2/g以上のフッ素樹脂粉末、平均粒径が2μm以下の無機微粒子及び固体潤滑剤の少なくとも一種とを含有することを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項2】 非極性ワックスが、モンタン酸ワックスを含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項3】 フッ素樹脂粉末の含有量がグリース全量の0.5~25質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項4】 ウレア化合物が一方の末端に脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基を有し、他方の末端に芳香族基を有し、かつ脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基と芳香族基とのモル比が6:4~2:8であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項5】 フッ素樹脂がパーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニルフルオライド及びポリフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項6】 無機微粒子の含有量がグリース全量の0.5~6質量%であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項7】 基油における硫黄含有量が0.06質量%以下であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項8】 基油の80質量%以上が鉱油であることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項9】 臨界界面張力が43mNm-1以下の固体潤滑剤をグリ-ス全量の2.5質量%以上含有し、かつワックスまたはポリマーをグリース全量の0.5質量%以上含有することを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項10】 固体潤滑剤がポリテトラフルオロエチレンまたはポリエチレンであることを特徴とする請求項9に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項11】 ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオリン酸モリブデン及びジチオリン酸亜鉛の少なくとも1種をグリース全量の0.5~6質量%含有することを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。 【請求項12】 金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなり、かつ請求項1~11の何れか1項に記載の樹脂潤滑用グリース組成物で潤滑されることを特徴とするギア装置。 【請求項13】 電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、前記減速歯車機構として、請求項12に記載のギア装置を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。」 2b「【0013】 (樹脂潤滑用グリース組成物) グリースの基油は、樹脂部材を膨潤させないように、極性の低いポリα-オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を基油全量の70質量%以上、好ましくは90質量%以上の割合で含む。ここで、高度精製鉱油とは、減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水酸化精製等を適宜組み合わせて精製した鉱油であり、鉱油の中でも精製度が高く、粘度指数が120を越え、硫黄含有率が0.06%以下のものを示す。一般的な鉱油は含窒素有機化合物や含硫黄有機化合物等の種々の不純物を含有する。電動パワーステアリング装置では各摺動部位で潤滑に使用されるグリース組成物と、センサや電子回路等の機器が比較的接近しているため、グリース組成物から揮発する含硫黄有機化合物または硫黄と機器のコネクタの金属メッキとが反応して金属硫化物を生成し、導通不良を起こすようになり、誤作動を誘発するおそれがある。そのため、鉱油を用いる場合は、硫黄含有量の少ない高度精製鉱油を用いることが好ましい。また、樹脂の中でもポリアミド樹脂は耐油性に優れるが、ABS樹脂やPC樹脂等は耐油性に劣る傾向にあり、本発明では汎用性を考慮してこれらの極性の低い潤滑油を主成分とする基油を用いる。更に、電動パワーステアリング装置では、減速ギア20のウォームホイール11の樹脂部3をABS樹脂やPC樹脂で作製することもあり、極性の低い潤滑油を用いることで樹脂部3の応力割れ等を防ぐことができる(図1参照)。これらの潤滑油の中でも、低温流動性が低いことから、ポリα-オレフィン油及び高度精製鉱油が好ましい。 ・・・ 【0025】 本発明の樹脂潤滑用グリース組成物は、上記の基油、増ちょう剤及び添加剤を必須成分として含有するが、更に、モリブデンもしくは亜鉛のジチオリン酸塩あるいはジチオカルバミン酸塩を添加することにより、潤滑性能を改善できる。添加量は0.5~7質量%が好ましい。より好ましくは0.5~6質量%であり、特に好ましくは1~6質量%である。好ましくはジアルキルジチオリン酸の塩、ジアルキルジチオカルバミン酸の塩を用いる。」 2c「【0038】 以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。尚、含有量はグリース全量に対する値である。 【0039】 <試験-1> (試験グリースの調製) 表1及び表2に示す配合にて試験グリースを調製した。尚、ウレア化合物は4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネートと、ステアリルアミン及びラウリルアミン(アミンのモル比は1:1)との反応物、リチウム石けんは12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムとの反応物、リチウム複合石けんは水酸化リチウムと12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸との反応物である。また、モンタン酸ワックスとして、滴点78~85℃、ケン化価130~140のモンタン酸エステルワックスを用いた。また、何れの試験グリースにも、酸化防止剤としてフェニル-1-ナフチルアミンを1質量%、防錆剤としてバリウムスルホネートを1質量%添加した。 【0040】 (往復摩耗試験) 各試験グリースについて、図4に示す摩擦試験機を用いて往復摩耗試験を行った。即ち、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66製の試験平板上に試験グリースを約0.55mmの厚さで塗布し、軸受鋼SUJ2製(HRC60~64)で直径10mmの試験球を押し付け、9.8kgfの垂直荷重を負荷しながらカムにより周波数10Hz、振幅2mmで30分間往復移動を行い、試験後の試験平板の摩耗痕の幅を求めた。結果を表1及び表2に併記する。 【0041】 (電動パワーステアリング(EPS)耐久試験) クロスローレット加工を施し、脱脂した外径45mm、幅13mmのS45C製の芯管をスプルー及びディスクゲートを装着した金型に配置し、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66(宇部興産(株)製「UBEナイロン2020GU6」、銅系添加剤含有)を射出成形して外径60mm、幅13のウォームホイールブランク材とし、次いで樹脂部の外周を切削してギア歯を形成し、図1に示すようなウォームホイールを作製した。同じく図1に示すような金属製のウォームを用い、更に各試験グリースを両ギア歯表面に満遍なく塗布して減速ギアとし、これを図2に示すような電動パワーステアリング装置に組み込み、雰囲気温度80℃に維持して操蛇を行い、操蛇1万回毎にギア歯の摩耗量を測定した。ギア歯の摩耗量が40μm以下が合格であり、40μm以上の摩耗量となった時点をEPS寿命とした。結果を表1及び表2に、実施例1のEPS寿命を1とする相対値で示す。 ・・・ 【0066】 <試験-6> (試験グリースの調製) 表6に示す配合にて試験グリースを調製した。尚、リチウム石けんは12-ヒドロキシステアリン酸リチウムであり、リチウム複合石けんは12-ヒドロキシステアリン酸リチウム:アゼライン酸リチウム(重量比)=3:1としたものである。また、何れの試験グリースにも、ポリエチレンワックスを3質量%添加してある。 【0067】 (EPS耐久試験) 試験-1のEPS耐久試験と同様の評価を行い、EPS寿命を測定した。結果を表6に、比較例1のEPS寿命を1とする相対値で示す。 【0068】 【表6】 [図:0001424594000003.jpg] 【0069】 表6に示すように、ジチオカルバミン酸塩またはジチオスルホン酸塩を更に添加することにより、EPS寿命が大きく改善している。また、実施例5と比較例1との比較から、増ちょう剤としてリチウム石けんよりもリチウム複合石けんを用いる方が好ましいといえる。 【0070】 (ジチオカルバミン酸モリブデンの添加量の検証) 実施例1の組成に従い、ジチオカルバミン酸モリブデンの添加量を変えて試験グリースを調製し、同様にしてEPS寿命を測定した。結果を図10にグラフ化して示すが、比較例1の試験グリースのEPS寿命を1とする相対値で示してある。 【0071】 図10より、ジチオカルバミン酸モリブデンの添加量0.5~6.5質量%の範囲でEPS寿命を2.5倍以上に高めることができ、好適であることがわかる。また、0.7~6質量%がより好ましく、1~5質量%が最も好ましいといえる。ジチオカルバミン酸モリブデンの添加量が6質量%を越えるとEPS寿命が低下する理由としては、ジチオカルバミン酸モリブデンの腐食性が顕在化し、摺動部が腐食摩耗を起こすためであると考えられる。」 (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「【0031】 脂肪酸金属塩を含有する場合のグリース組成物中の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.25質量%以上がより好ましい。脂肪酸金属塩の含有量が0.1質量%未満の場合は、期待される摩擦係数低減などの効果が見られない傾向がある。また、脂肪酸金属塩の含有量は、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。脂肪酸金属塩の含有量が50質量%を超える場合は、トルクの増大やグリースが硬化する傾向がある。」 (4)甲第4号証(以下、「甲4」という。) 4a「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明は、下記成分(a)~(f)を含む自動車ステアリング用グリース組成物である。 (a) 増ちょう剤、(b) 流動点が-40℃以下である基油、(c) 有機モリブデン化合物、(d) メラミンシアヌレート、(e) ポリテトラフルオロエチレン、及び(f) 二硫化モリブデン。 【0005】本発明において、基油として合成炭化水素油、エステル油、及び鉱油からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものが好ましい。また、全組成物中、増ちょう剤の含有量が1~25重量%、有機モリブデン化合物の含有量が0.1~10重量%、メラミンシアヌレートの含有量が0.1~10重量%、ポリテトラフルオロエチレンの含有量が0.1~10重量%、二硫化モリブデンの含有量が0.1~10重量%であるものが好ましい。さらに、増ちょう剤がリチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん及びウレア化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であるもの、特にリチウム石けん、リチウムコンプレックス石けんであるものが好ましい。本発明の特に好ましいグリース組成物は、リチウム石けん又はリチウムコンプレックス石けんを3~20重量%、モリブデンジチオカーバメート又はモリブデンジチオホスフェートを1~8重量%、メラミンシアヌレートを1~8重量%、ポリテトラフルオロエチレンを1~8重量%、二硫化モリブデンを1~8重量%含有し、残部が合成炭化水素油、エステル油、鉱油、又はこれらの混合物から選ばれる基油及び任意の他の添加剤からなるものである。」 4b「【0024】1)12ヒドロキシステアリン酸リチウム(商品名:S-7000H堺化学工業株式会社製) 2) 合成炭化水素油(商品名:MOBIL SHF61 モービル化学株式会社製) 3) 合成炭化水素油(商品名:MOBIL SHF401 モービル化学株式会社製) 4) エステル油(商品名:DOS 新日本理化株式会社製) 5) 鉱油(商品名:スタノールLP-40 エッソ石油株式会社製) 6) 鉱油(商品名:FUKKOL NT-200 富士興産株式会社製) 7) モリブデンジチオカーバメート(商品名:Molyvan A R.T.Vanderbilt社製) 8) メラミンシアヌレート(商品名:MCA 三菱化学株式会社製) 9) ポリテトラフルオロエチレン(商品名:ルブロンL-5F ダイキン工業株式会社製) 10) 二硫化モリブデン(テクニカルファイングレード)(商品名:Molysulfide CLIMAX MOLYBDENUM COMPANY社製) 11) ちょう度 60W 12) 高速4球耐荷重性能試験 13) 台上耐久試験 14) 台上低温試験」 (5)甲第5号証(以下、「甲5」という。) 摘記箇所の後に申立人の翻訳を掲載した。 5a「 [図:0001424594000004.jpg] ・・・ [図:0001424594000005.jpg] 」(第1ページ第1~6及び11行) [図:0001424594000006.jpg] ・・・ [図:0001424594000007.jpg] (6)甲第6号証(以下、「甲6」という。) 摘記箇所の後に申立人の翻訳を掲載した 6a「 [図:0001424594000008.jpg] ・・・ [図:0001424594000009.jpg] 」(第1ページ第1及び6行) [図:0001424594000010.jpg] ・・・ [図:0001424594000011.jpg] (7)甲第7号証(以下、「甲7」という。) 7a「 [図:0001424594000012.jpg] 」(第2ページ) (8)甲第8号証(以下、「甲8」という。) 8a「【0017】 以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。 以下に示す基グリース及び添加剤を、表1および表2~表3に示す配合割合によって、基グリースに各添加剤を加えた後、三本ロールミルによって混練処理し、均一に仕上げて実施例1~5及びこれと比較する比較例1~11の潤滑グリース組成物を得た。 【0018】 1.基グリース (1)ウレア基グリース 100℃の動粘度が約15mm2/sの精製鉱油(5400g)中で、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(295.2g)とオクチルアミン(304.8g)を反応させ、生成したジウレア化合物を均一に分散してグリースを得た。ウレア化合物の含有量は、10重量%である。このウレア基グリースは、JIS-K2220に規定するちょう度(25℃、60W)が283、滴点が263℃であった。 (2)リチウム石けん基グリース 100℃の動粘度が約15mm2/sの精製鉱油(6370g)中で、リチウム-12-ヒドロキシステアレート(630g)を溶解させた後、均一に分散してグリースを得た。リチウム石けんの含有量は9重量%である。このリチウム石けん基グリースは、JIS-K2220に規定するちょう度(25℃、60W)が268、滴点が198℃であった。 2.ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC): Vanderbilt社の商品名「モリバンA」を使用した。 3.2-メルカプトベンゾチアゾール 4.2-(4-モルホリニルジチオ)ベンゾチアゾール 5.カルシウムスルホネート:石油スルホン酸のカルシウム塩 6.ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTC): Lubrizol社の商品名「Lubrizol 1395」を使用した。 7.硫化オレフィン:Lubrizol社の商品名「Anglamol 33」を使用した。 8.カルシウムサリシレート:Infineum社の商品名「M7121」を使用した。」 (9)甲第9号証(以下、「甲9」という。) 9a「【請求項1】 合成炭化水素油、エステル系合成油およびエーテル系合成油の少くとも一種である基油、リチウム系石けん、リチウム系複合石けんおよび尿素系化合物の少くとも一種である増稠剤、数平均分子量Mnが20,000~100,000のポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末ならびに炭素数が3以上の直鎖状または分岐状アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有してなるグリース組成物。」 9b「【0011】 増稠剤としては、リチウム系石けん、リチウム系複合石けんおよび尿素系化合物の少くとも一種が用いられる。リチウム系石けんとしては、少くとも1個の水酸基を含有しあるいは含有しない炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸のLi塩が用いられる。リチウム系複合石けんとしては、リチウム系石けんのCa、Al等との複合塩あるいはリチウム系石けんと炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸(ジエステル)、炭素数7~24の芳香族モノカルボン酸(エステル)、リン酸エステル、ホウ酸エステル等との複合塩が用いられる。また、尿素系化合物としては、尿素または一般式 R1NHCONHR2NHCONHR1 R1:C6~C24の脂肪族炭化水素基、C6~C15の1個の芳香族炭化水素基 R2:C6~C15の2価の芳香族炭化水素基 で表わされるジウレア化合物等が用いられる。」 (10)甲第10号証(以下、「甲10」という。) 10a「【請求項1】 車両のステアリングシャフトに組込み、雄スプライン軸と雌スプライン軸を回転不能に且つ摺動自在に嵌合した車両ステアリング用伸縮軸において、前記雄スプライン軸と雌スプライン軸のいずれか一方又は双方の軸のスプライン嵌合部表面にナイロン樹脂の皮膜を形成し、且つ、少なくとも基油と増ちょう剤を含むグリースを前記雄スプライン軸と雌スプライン軸の間に介在させ、前記基油が合成炭化水素油と鉱油からなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素油を含むと共に40℃において20mm2/s以上の動粘度を有し、前記増ちょう剤が金属石けん又は金属複合石けんを含むことを特徴とする車両ステアリング用伸縮軸。」 10b「【0012】 本発明の増ちょう剤の金属石けん又は金属複合石けんは、図5に示すように、図5の下部に示すナイロン樹脂表面のアミド結合と上部に示す金属石けん又は金属複合石けんの極性基の極性とに由来する電気的な弱結合を形成し、ナイロン樹脂表面に金属石けん又は金属複合石けんのアルキル鎖、例えばCH3(CH2)16-、CH3(CH2)5CH(OH)(CH2)10-等を主体とする金属石けん又は金属複合石けんの皮膜を形成する。また金属表面にも増ちょう剤としての金属石けんが吸着し、同様にアルキル鎖を主体とする金属石けんの皮膜を形成する。これらのアルキル鎖を主体とする金属石けん又は金属複合石けんの皮膜は表面エネルギーが小さく低摩擦である。また、この皮膜形成の結果ナイロン樹脂に対する炭化水素油等の基油の濡れ性が改善し、油膜の形成が強固となる。以上説明したように、油膜の強度を増し、また、例え油膜が破断した場合においても、アルキル鎖長を主たる構成要素とする、低摩擦の金属石けん又は金属複合石けんの皮膜を介することによって、雄軸と雌軸の間の直接接触による摩擦の増大を回避する。 【0013】 本発明の金属石けん又は金属複合石けんの金属元素の種類は任意であるが、リチウム、亜鉛、カルシウム、バリウム、アルミニウム等が特に好ましい。金属石けん又は金属複合石けんの脂肪酸基、特に高級脂肪酸基の種類は任意であるが、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アゼライン酸が特に好ましい。」 3 甲1に記載された発明 (1)甲1の記載 甲1(摘記1e参照)には、比較例4のグリース組成物について、以下の発明が記載されているといえる。 (2)甲1発明1 基油としてポリαオレフィン(PAO、40℃における動粘度:48mm2/s)、増ちょう剤として4',4-ジフェニルメタンジイソシアネート1モルとステアリルアミンおよびオクチルアミン計2モル(アミンのモル比は1:1)とを反応させて得られた脂肪族ウレアを8質量%、ポリエチレンワックス(商品名:LICOWAX PE190 POWDER、メーカー:クラリアントジャパン)を3質量%、モンタンワックス(商品名:LICOWAX OP FLAKES、メーカー:クラリアントジャパン)を4質量%、有機モリブデン:MoDTC(商品名:MOLYVAN A、メーカー:R.T.VANDERBILT)を3質量%、酸化防止剤としてアルキルジフェニルアミン(商品名:IRGANOX L-57、メーカー:BASF)を2質量%、防錆剤としてカルシウムスルホネート(商品名:LUBRIZOL 1395、メーカー:The Lubrizol Corporation)を0.5質量%及びリチウム石けん:Li石けん:12ヒドロキシステアリン酸リチウム(商品名:Li-OHST、メーカー:勝田化工)を10質量%含むグリース組成物であって、ポリアミド樹脂からなる樹脂部にギア歯を形成した減速ギアのウォームホイールと、鋼製のウォームから構成される電動パワーステアリング装置(EPS)の実機において、ギア歯に塗布された際にフリクション低減効果が確認されたグリース組成物。 (3)甲1発明2 ポリアミド樹脂からなる樹脂部にギア歯を形成した減速ギアのウォームホイールと、鋼製のウォームから構成され、甲1発明1のグリース組成物がギア歯に塗布された、電動パワーステアリング装置(EPS)の実機。 4 対比・判断 (1)本件特許発明1 ア 甲1発明1との対比 本件特許発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1の「ポリアミド樹脂からなる樹脂部」及び「鋼製のウォーム」は、それぞれ、本件特許発明1の「樹脂製部材」及び「他の素材の部材」に相当する。 また、甲1発明1のグリース組成物は、「ポリアミド樹脂からなる樹脂部にギア歯を形成した減速ギアのウォームホイールと、鋼製のウォームから構成される電動パワーステアリング装置(EPS)の実機において、ギア歯に塗布された際にフリクション低減効果が確認された」ものであるから、本件特許発明1の「樹脂製部材と他の素材性部材との潤滑に使用するためのグリース組成物」及び「潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである」に相当する。 さらに、甲1発明1の「有機モリブデン:MoDTC(商品名:MOLYVAN A、メーカー:R.T.VANDERBILT)」は固体であり(摘記5a、6a参照)、グリース組成物の添加剤の質量%はグリース組成物全量基準と認められるから(摘記1c、1d参照)、甲1発明1の「有機モリブデン:MoDTC(商品名:MOLYVAN A、メーカー:R.T.VANDERBILT)を3質量%」は、本件特許発明1の「基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明1は、「樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-1> 増ちょう剤が、本件特許発明1はリチウム石けん系増ちょう剤のみからなるのに対し、甲1発明1は4',4-ジフェニルメタンジイソシアネート1モルとステアリルアミンおよびオクチルアミン計2モル(アミンのモル比は1:1)とを反応させて得られた脂肪族ウレアである点。 イ 検討 (ア) 前記相違点1-1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。 (イ) 前記3のとおり、甲1発明1は甲1の比較例4に基づき認定されたものであり、増ちょう剤として4',4-ジフェニルメタンジイソシアネート1モルとステアリルアミンおよびオクチルアミン計2モル(アミンのモル比は1:1)とを反応させて得られた脂肪族ウレアを含むものである。 甲1には、前記2(1)の【0012】のとおり、増ちょう剤としては式(1)のジウレア化合物のみであることが最も好ましいこと、及び、含有しても良い他の増ちょう剤として、Li石けんがより好ましいことが記載されているものの、当該記載をもって、甲1の記載に接した当業者が、前記のとおり比較例4に基づき認定された甲1発明1において、式(1)の構造を有する脂肪族ウレア増ちょう剤をLi石けんのみからなるものに置換することを動機づけられたとはいえない。 また、甲2~甲8も、甲1発明1の増ちょう剤をLi石けんのみからなるものに置換することを動機づけるものではない。 ウ 小括 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 (2)本件特許発明2、5、7、8 本件特許発明2、5、7又は8と甲1発明1は、<相違点1-1>と同じ相違点を有するものであるから、本件特許発明2、5、7及び8は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 (3)本件特許発明4 ア 甲1発明1との対比 本件特許発明4と甲1発明1を対比する。 甲1発明1の「ポリアミド樹脂からなる樹脂部」及び「鋼製のウォーム」は、それぞれ、本件特許発明4の「樹脂製部材」及び「他の素材の部材」に相当する。 また、甲1発明1のグリース組成物は、「ポリアミド樹脂からなる樹脂部にギア歯を形成した減速ギアのウォームホイールと、鋼製のウォームから構成される電動パワーステアリング装置(EPS)の実機において、ギア歯に塗布された際にフリクション低減効果が確認された」ものであるから、本件特許発明4の「樹脂製部材と他の素材性部材との潤滑に使用するためのグリース組成物」及び「潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである」に相当する。 さらに、甲1発明1の「有機モリブデン:MoDTC(商品名:MOLYVAN A、メーカー:R.T.VANDERBILT)」は固体であり(摘記5a、6a参照)、グリース組成物の添加剤の質量%はグリース組成物全量基準と認められるから(摘記1c、1d参照)、甲1発明1の「有機モリブデン:MoDTC(商品名:MOLYVAN A、メーカー:R.T.VANDERBILT)を3質量%」は、本件特許発明4の「基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し」に相当する。 そうすると、本件特許発明4と甲1発明1は、「樹脂製部材と樹脂製部材との潤滑又は樹脂製部材と他の素材製の部材との潤滑に使用するためのグリース組成物であって、 基油と、増ちょう剤と、組成物の全質量に対して、0.5質量%を超え、7.5質量%未満の固体有機モリブデン化合物とを含有し、 潤滑対象の樹脂製部材がポリアミドである、前記グリース組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-2> 基油が、本件特許発明4は合成炭化水素油及び鉱油を含有し、基油中の鉱油の割合が、20~60量%であるのに対し、甲1発明1はポリαオレフィン(PAO、40℃における動粘度:48mm2/s)である点。 イ 検討 (ア)相違点1-2は実質的な相違点であるから、本件特許発明4は、甲1に記載された発明ではない。 (イ)前記3のとおり、甲1発明1は甲1の比較例4に基づき認定されたものであり、基油として、合成炭化水素油であるポリαオレフィン(PAO、40℃における動粘度:48mm2/s)を含むものである。 甲1には、前記1(1)の【0008】のとおり、基油は、鉱油でもよく、合成油でもよいとの記載に続き、ポリ-α―オレフィンを含有するのが好ましいと記載されているものの、当該記載をもって、甲1の記載に接した当業者が、前記のとおり比較例4に基づき認定された基油の100%がポリαオレフィンである甲1発明1において、ポリαオレフィンの一部を鉱油に置換して基油中の鉱油の割合を20~60量%とすることを動機づけられたとはいえない。 また、甲2~甲8も、甲1発明1の基油中の鉱油の割合を20~60量%とすることを動機づけるものではない。 ウ 小括 したがって、本件特許発明4は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 (4)本件特許発明5、7、8 本件特許発明5、7又は8と甲1発明1は、前記<相違点1-2>と同じ点で相違するものであるから、本件特許発明5、7及び8は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 (5)本件特許発明6 本件特許発明6と甲1発明2を対比すると、両者は前記<相違点1-1>及び/または前記<相違点1-2>において相違するものであるから、前記(1)及び(3)で検討したとおり、本件特許発明6は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 5 申立人の主張について ア 申立人の主張 申立人は令和7年2月20日提出の意見書において以下のとおり主張する。 (ア)本件特許発明1、2、5、6及び8について 増ちょう剤としてリチウム石けん系増ちょう剤のみを採用したグリース組成物は本件特許の出願日前に周知であり、リチウム石けん系増ちょう剤とジウレア化合物のような尿素系化合物を選択的に使用することも知られているから(甲9及び甲10)、甲1発明1又は甲1発明2においてリチウム石けん系増ちょう剤のみを適用することは、適宜設計し得る事項に過ぎない。 また、本件特許発明1、2、5、6及び8は、基油の限定を含まないものであり、基油の種類が異なれば、固体有機モリブデン化合物の溶解性なども異なるのは、本件特許の出願時の技術常識であるところ、実施例で用いられる以外の基油を使用した場合においても、本件特許明細書中の実施例と同様の効果が得られることはなんら具体的な証拠をもって示されているものではないから、本件特許発明1、2、5、6及び8により顕著な効果が奏されたとはいえない。 (イ)本件特許発明4、7及び8について 基油として合成炭化水素油および鉱油を含むグリース組成物は、本件特許の出願日前に周知であり(甲10)、本件特許明細書の実施例4のように、基油中の鉱油の割合が20~60質量%でない場合も他のグリース組成物に性能が劣るものでないから、本件明細書には相違点に基づく顕著な効果が示されているわけでもない。 したがって、甲1発明1において、基油が合成炭化水素油および鉱油を含み、鉱油が20~60質量%である構成を適用することは、当業者が適宜設計し得る事項に過ぎない。 イ 検討 (ア) 甲1の比較例4に基づき認定された甲1発明1又は甲1発明2に、前記ア(ア)又は(イ)の周知技術を適用することが積極的に動機づけられたとはいえないから、申立人の主張をもって、本件特許発明1、2及び4~8は、甲1発明1又は甲1発明2から容易に想到し得たものということはできない。 (イ) 本件特許発明1、2及び4~7の特定事項である「固体有機モリブデン」について、本願明細書には「本発明は、固体有機モリブデン化合物を含ませたことを特徴とする」(【0005】)と記載されている。 前記2(1)の[表1]及び[表2]のとおり、甲1の実施例はいずれも有機モリブデンを含まず、甲1において有機モリブデンを含むことが具体的に記載されているのは比較例4のみである(なお、申立人も申立書において、甲1の比較例4に基づき引用発明を認定し本件訂正前の本件特許発明1~6の新規性欠如のみ主張している。)。このように、甲1の実施例はいずれも有機モリブデンを含むものでない以上、甲1に比較例4以外として記載された発明に前記ア(ア)又は(イ)の周知技術を適用することにより、本件特許発明1、2及び4~8を容易に想到し得たということもできない。 (ウ) 以上のとおりであるから、申立人の前記ア(ア)及び(イ)の主張は採用できない。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立書における申立人の主張 (1) 本件特許の訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明である。 (2) 本件特許の訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明及び甲第3、4及び8(さらに必要であれば甲第5~7号証)の記載に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 甲第2号証:特開2005-247971号公報 甲第3号証:特開2017-19987号公報 甲第4号証:特開2001-64665号公報 甲第5号証:「MOLYVAN(R)A」テクニカルデータシート 甲第6号証:「MOLYVAN(R)A」製品仕様説明書 甲第7号証:「潤滑油剤 潤滑油添加剤 製品一覧」、株式会社ADEKA 甲第8号証:特開2008-63491号公報 (3)本件特許の訂正前の請求項1、2、5及び6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 請求項1、2、5及び6には「基油」の限定がなく、あらゆる種類の基油を用いた場合に本件特許発明の課題が解決できることを当業者は認識できない。 請求項1、2、5及び6には「増ちょう剤」の限定がなく、あらゆる種類の増ちょう剤を用いた場合に本件特許発明の課題が解決できることを当業者は認識できない。 (4)本件特許の訂正前の請求項1、2、5及び6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1、2、5及び6には「基油」の限定がなく、本願の発明の詳細な説明は、実施例で記載されたPAOおよび鉱油以外の基油を用いた場合に、当業者が出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 請求項1、2、5及び6には「増ちょう剤」の限定がなく、本願の発明の詳細な説明は、実施例で記載されたステアリン酸リチウム、リチウムせっけんおよび複合リチウムせっけんからなるリチウムせっけん系増ちょう剤以外のあらゆる種類の増ちょう剤を用いた場合に、当業者が出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 2 検討 (1)前記1(1)及び(2)について ア 甲2に記載された発明 前記第6 2(2)のとおり、甲2には、表6の実施例1の試験グリースで試験-1のEPS耐久試験と同様の評価を行ったことが記載され、試験グリースの質量%はグリース全量に対する値であるから、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。 「増ちょう剤として12-ヒドロキシステアリン酸リチウム:アゼライン酸リチウム(重量比)=3:1としたリチウム複合石けん、基油として鉱油(基油動粘度70mm2/s@40℃)、極圧添加剤としてジチオカルバミン酸モリブデン:2質量%からなり、金属製のウォームとともに、ウォームホイールブランク材である樹脂部の外周を切削してギア歯を形成し、ウォームホイールを作製して、減速ギアとするためにギア歯に塗布して、電動パワーステアリング装置に組み込み、ギア歯の摩耗量を測定した、試験グリース。」(以下「甲2発明1」という。) 「金属製のウォームとともに、ウォームホイールブランク材である樹脂部の外周を切削して、形成したギア歯に、甲2発明1の試験グリースを塗布して、作製したウォームホイールを減速ギアとして、組み込んだ電動パワーステアリング装置。」(以下「甲2発明2」という。) イ 対比 本件特許発明1、2、4、5、7又は8と甲2発明1は、少なくとも、有機モリブデン化合物が、本件特許発明1、2、4、5、7又は8では固体であるのに対し、甲2発明1では固体であるか不明な点(以下<相違点2-1>という。)において相違するものである。 また、本件特許発明6と甲2発明2は、少なくとも、有機モリブデン化合物が、本件特許発明6では固体であるのに対し、甲2発明1では固体であるか不明な点(以下<相違点2-2>という。)において相違するものである。 ウ <相違点2-1>及び<相違点2-2>についての検討 甲2にはジチオカルバミン酸モリブデンが固体であることについて記載も示唆もない。 甲1、甲4及び甲8に記載されるように(摘記1e、4a、4b、8a参照)、グリース組成物に含まれる有機モリブデン化合物としてよく用いられるMOLYVAN Aは固体であり(摘記5a、6a)、甲3にはグリース組成物に含まれる有機モリブデン化合物は固体潤滑剤であることが記載され(摘記3a参照)、甲7にも極圧添加剤としての固体のジチオカルバミン酸モリブデンが記載されている(摘記7a参照)。しかしながら、一方で、甲7には極圧添加剤として液体のジチオカルバミン酸モリブデンも記載されていることから(摘記7a)、極圧添加剤、又は、極圧添加剤を含むグリース組成物では、固体又は液体のジチオカルバミン酸モリブデンが用いられると認められる。 そうすると、甲2発明1又は甲2発明2において、甲1~甲8等の記載及び本願出願時の技術常識から、ジチオカルバミン酸モリブデンとして、固体のものを用いることを積極的に動機付けられたとはいえない。 そして、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載からみて、有機モリブデン化合物が固体である本件特許発明1、2、4~8のグリース組成物及びグリース組成物を充填した電動パワーステアリングの減速機は、有機モリブデン化合物が液体のものと比較して、潤滑部の静止摩擦係数を大きくできるという効果を奏するものであり、そのような効果は、本件各特許発明の構成から当業者が予測できた範囲を超えるものとえいえる。 したがって、申立人のかかる主張は採用できない。 (2)前記1(3)について ア 申立人は、増ちょう剤又は基油のいずれか一方が具体的に特定された本件訂正前の請求項3及び4についてサポート要件違反との指摘はしていない。本件訂正後の請求項1、2及び5~8は、増ちょう剤と基油のいずれかまたは両方を具体的に特定するものであるから、訂正前の請求項3及び4と同様に、前記1(3)の理由によりサポート要件を満たさないとはいえない。 イ 本件特許発明は、潤滑部の静摩擦係数を高くし、かつ、高くした摩擦係数に引きずられて動摩擦係数が上昇することを抑制し、そのままある程度低くすることで、モーターによる非アシスト時に、減速機の潤滑部のすべりを抑制し、アシスト時に潤滑効率を維持できる樹脂潤滑用グリース組成物を提供することを解決しようとする課題とするものである(【0006】)。 発明の詳細な説明の実施例等の記載から、グリース組成物の技術分野において広く用いられる基油や増ちょう剤を含む組成物において、固体有機モリブデン化合物を組成物の全質量に対して0.5質量%を超え、7.5質量%末満の量を含むことで上記課題が解決できることを当業者は認識できると認められるから、本件特許発明1、2及び5~8がサポート要件を満たさないとはいえない。 (3)前記1(4)について ア 申立人は、増ちょう剤又は基油のいずれか一方が具体的に特定された本件訂正前の請求項3及び4について実施可能要件違反との指摘はしていない。本件訂正後の請求項1、2及び5~8は、増ちょう剤と基油のいずれかまたは両方を具体的に特定するものであるから、訂正前の請求項3及び4と同様に、前記1(4)の理由により実施可能要件を満たさないとはいえない。 イ 本件特許明細書の実施例の記載から、当業者は過度な実験を要することなく本件特許発明1、2及び5~8の特定事項を有するグリース組成物を製造し、かつ、使用できると認められる。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1、2及び5~8を当業者が実施しうる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 第8 むすび 以上のとおりであるから、令和6年10月17日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって、本件特許発明1、2、4~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1、2、4~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項3は、本件訂正により削除され、当該請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700725

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決49件(協同油脂株式会社、鈴木 憲治)
  • 2025-700170異議申立 / 2025-09-04 / 訂正認容ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物
    同じ当事者: 協同油脂株式会社、鈴木 憲治
  • 2023-700983異議申立 / 2024-07-30 / 訂正認容ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物
    同じ当事者: 協同油脂株式会社、鈴木 憲治
  • 2026-700276異議申立 / 2026-08-07 / 維持バイポーラプレート(BPP)のためのドープDLC
    同じ当事者: 鈴木 憲治
  • 2026-700277異議申立 / 2026-08-07 / 維持トライボロジー用途のためのドープDLC
    同じ当事者: 鈴木 憲治
  • 2023-700527異議申立 / 2026-03-23 / 請求成立(取消)デッキプレート構造
    同じ当事者: 鈴木 憲治
同じ論点・分野の審決(審決分類)165件(113・C10M、121・C10M、536・C10M ほか)
  • 2025-700170異議申立 / 2025-09-04 / 訂正認容ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用グリース組成物
    共通の審決分類: 113・C10M、121・C10M、536・C10M、537・C10M
  • 2024-701156異議申立 / 2025-09-03 / 訂正認容潤滑油組成物
    共通の審決分類: 113・C10M、121・C10M、536・C10M、537・C10M
  • 2022-701221異議申立 / 2023-09-05 / 請求成立(取消)粘度指数向上剤及び潤滑油組成物
    共通の審決分類: 113・C10M、121・C10M、536・C10M、537・C10M
  • 2020-700950異議申立 / 2021-12-02 / 請求成立(取消)粘度指数向上剤組成物及び潤滑油組成物
    共通の審決分類: 113・C10M、121・C10M、536・C10M、537・C10M
  • 2018-700961異議申立 / 2019-03-26 / 維持潤滑油組成物及びその製造方法
    共通の審決分類: 113・C10M、121・C10M、536・C10M、537・C10M

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存